- 1 -主文 平成20年(受)第494号上告人の上告を棄却する。 平成20年(受)第495号上告人の上告に基づき,原判決中,主文第1項を次のとおり変更する。 平成20年(受)第495号被上告人の控訴に基づき,第1審判決を次のとおり変更する。 (1)平成20年(受)第495号上告人は,同号被上告人に対し,4226万9811円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)平成20年(受)第495号被上告人のその余の請求を棄却する。 訴訟の総費用は,これを3分し,その2を平成20年(受)第494号上告人・同第495号被上告人の負担とし,その余を同第494号被上告人・同第495号上告人の負担とする。 理由 平成20年(受)第494号上告代理人二宮仁の上告受理申立て理由及び同第495号上告代理人豊田正彦の上告受理申立て理由(ただし,いずれも排除されたものを除く。)について 本件は,交通事故によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った平成20- 2 -年(受)第494号上告人・同第495号被上告人(以下「第1審原告」という。)が,加害車両の運転者であり,保有者である平成20年(受)第494号被上告人・同第495号上告人(以下「第1審被告」という。)に対し,民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠償を求める事案である。 第1審原告が支給を受けた労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく各種保険給付,国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金との間で行う損益相殺的な調整につき,第1審原告は,これらが損害金の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは,これらをまず各てん補の日までに生じている遅延損害 く障害厚生年金との間で行う損益相殺的な調整につき,第1審原告は,これらが損害金の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは,これらをまず各てん補の日までに生じている遅延損害金に充当し,次いで元本に充当すべきであるなどと主張しており,これに対し,第1審被告は,上記の各給付は損害金の元本との間で損益相殺的な調整をすべきであり,これによって消滅した損害金の元本に対する遅延損害金は発生しないと解すべきであると主張して,第1審原告の請求を争っている。 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)第1審原告は,平成14年3月6日,通勤途上,その運転する自動車が脱輪したため同車から降りて路側帯に立っていたところ,第1審被告が運転し,保有する普通乗用自動車に衝突される交通事故(以下「本件事故」という。)により,右大腿骨開放性骨折等の傷害を受け,その後に右大腿切断後及び左膝複合靱帯損傷の後遺障害が残った。本件事故により第1審原告に生じた損害は,別紙のとおりである。 (2)第1審原告は,第1審判決別表第4記載のとおり,自動車損害賠償責任保険契約に基づく損害賠償額と第1審被告が締結していた自家用自動車保険契約に基- 3 -づく保険金(以下「任意保険金」という。)の各支払を受け,また,労災保険法に基づく療養給付及び休業給付(以下「本件各保険給付」という。)の各支給を受けた。なお,第1審原告と第1審被告とは,任意保険金の各支払に当たり,支払を受けた保険金を本件事故による損害金の元本に充当し,これによって消滅する損害金の元本に対する遅延損害金の支払債務を免除する旨の黙示の合意をした。 (3)さらに,第1審原告は,原審口頭弁論終結の日である平成19年9月20日までに,原判決別紙年金支払表の「労災年金」欄記載のとお の元本に対する遅延損害金の支払債務を免除する旨の黙示の合意をした。 (3)さらに,第1審原告は,原審口頭弁論終結の日である平成19年9月20日までに,原判決別紙年金支払表の「労災年金」欄記載のとおり,労災保険法に基づく障害年金の各支給を受けるとともに,同表の「厚生年金」欄記載のとおり,国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金の各支給を受け,又はその支給を受けることが確定していた(以下,原審口頭弁論終結の日までに支給がされ,又は支給を受けることが確定していた上記の障害年金,障害基礎年金及び障害厚生年金を,併せて「本件各年金給付」という。)。 原審は,上記事実関係の下において,本件各保険給付及び本件各年金給付についての損益相殺的な調整につき,次のとおり判断して,第1審原告の請求を,4601万5288円及びうち2337万3760円に対する平成17年4月1日から,うち2264万1528円に対する平成19年9月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。 (1)本件各保険給付は,支払原因が生ずる都度,治療費を病院に支払い,休業期間に対応する給付金を第1審原告に支払うなどしてされたものであり,上記各支払により治療費等の療養に要する費用又は休業損害金の元本がてん補されたことは明らかであって,遅滞による損害が実質的には生じていなかったことからすると,上記てん補に係る損害に対する本件事故の発生の日から各てん補の日までの遅延損- 4 -害金が生ずると解することは,損害の公平な分担という観点からして相当でない。 (2)本件各年金給付は,いずれも第1審原告の後遺障害による逸失利益をてん補するものであり,既に支給を受けた年金等及び口頭弁論終結日までに支給を受けることが確定した年金等の額の限度で, 当でない。 (2)本件各年金給付は,いずれも第1審原告の後遺障害による逸失利益をてん補するものであり,既に支給を受けた年金等及び口頭弁論終結日までに支給を受けることが確定した年金等の額の限度で,上記逸失利益との間で損益相殺的な調整を行うことができるところ,本件各年金給付が支給される時点における逸失利益の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは,これをまず各てん補の日(ただし,支給を受けることが確定した年金等については口頭弁論終結日)までに生じている遅延損害金に,次いで元本に充当すべきである。 原審の上記3(1)の判断は正当として是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。 (1)被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)。そして,被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付を受けたときは,これらの社会保険給付は,それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するために支給されるものであるから,同給付については,てん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。 これを本件各保険給付についてみると,労働者が通勤(労災保険法7条1項2号- 5 -の通勤をいう。)に 相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。 これを本件各保険給付についてみると,労働者が通勤(労災保険法7条1項2号- 5 -の通勤をいう。)により負傷し,疾病にかかった場合において,療養給付は,治療費等の療養に要する費用をてん補するために,休業給付は,負傷又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金をてん補するために,それぞれ支給されるものである。このような本件各保険給付の趣旨目的に照らせば,本件各保険給付については,これによるてん補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある治療費等の療養に要する費用又は休業損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり,これらに対する遅延損害金が発生しているとしてそれとの間で上記の調整を行うことは相当でない。 また,本件各年金給付は,労働者ないし被保険者が,負傷し,又は疾病にかかり,なおったときに障害が残った場合に,労働能力を喪失し,又はこれが制限されることによる逸失利益をてん補するために支給されるものである。このような本件各年金給付の趣旨目的に照らせば,本件各年金給付については,これによるてん補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある後遺障害による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり,これに対する遅延損害金が発生しているとしてそれとの間で上記の調整を行うことは相当でない。 (2)そして,不法行為による損害賠償債務は,不法行為の時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく遅滞に陥るものと解されるが(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),被害者が不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場 ることなく遅滞に陥るものと解されるが(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),被害者が不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合においては,不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害につき,不確実,不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に,不法行為の時に- 6 -おけるその額を算定せざるを得ない。その額の算定に当たっては,一般に,不法行為の時から損害が現実化する時までの間の中間利息が必ずしも厳密に控除されるわけではないこと,上記の場合に支給される労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付は,それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するために,てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,これらが支給され,又は支給されることが確定することにより,そのてん補の対象となる損害は不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが,公平の見地からみて相当というべきである。 前記事実関係によれば,本件各保険給付及び本件各年金給付は,その制度の予定するところに従って,てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給され,又は支給されることが確定したものということができるから,そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当である。 (3)以上によれば,原審の上記3(1)の判断は正当として是認することができ,第1審原告の論旨は採用することがで 件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当である。 (3)以上によれば,原審の上記3(1)の判断は正当として是認することができ,第1審原告の論旨は採用することができない。他方,原審の上記3(2)の判断には,法令の解釈を誤った違法があり,この違法は,判決に影響を及ぼすことが明らかであるから,第1審被告の論旨は理由がある。最高裁平成16年(受)第525号同年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号987頁は,事案を異にし,本件に適切でない。 以上のとおりであるから,第1審原告の上告を棄却することとし,また,前- 7 -記認定事実並びに上記4(1)及び(2)に説示したところによれば,第1審原告の請求は,4226万9811円及びこれに対する自動車損害賠償責任保険契約に基づく損害賠償額の支払の日の翌日である平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容すべきであり,その余は理由がないから棄却すべきであって,原判決中,第1審被告敗訴部分のうち上記金額を超える部分は破棄を免れず,第1審被告の上告に基づき,これを主文第2項のとおり変更する。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官白木勇裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官横田尤孝)(別紙) 治療関係費2132万6578円 付添看護関係費74万2900円 装具等購入費196万6363円 家屋改造費325万0800円 火葬場使用料5000円 休業損害862万6819円 入通院慰謝料350万円 逸失利益3581万3146円 後遺障害慰謝料2000万円- 8 - 弁護士費用350万円(合 使用料5000円 休業損害862万6819円 入通院慰謝料350万円 逸失利益3581万3146円 後遺障害慰謝料2000万円 弁護士費用350万円(合計9873万1606円)
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