平成26(ネ)10126 職務発明対価請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成27年7月30日 知的財産高等裁判所 2部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 平成25(ワ)6158
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判決文本文13,070 文字)

平成27年7月30日判決言渡 平成26年(ネ)第10126号職務発明対価請求控訴事件(原審東京地方裁判所平成25年(ワ)第6158号) 口頭弁論終結日平成27年5月12日判決 控訴人(一審原告) X訴訟代理人弁護士北村行夫 大井法子 杉浦尚子 雪丸真吾 芹澤繁 亀井弘泰 名畑淳 井上乾介 山本夕子 吉田朋 杉田禎浩 近藤美智子 被控訴人(一審被告) 野村證券株式会社 訴訟代理人弁護士根本浩 松山智恵 江頭あがさ 補佐人弁理士伊藤健太郎 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第 藤健太郎 - 2 - 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,2億円及びこれに対する平成22年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従い,原判決で付された略称に「原告」とあるのを「控訴人」に,「被告」とあるのを「被控訴人」と,適宜読み替える。 1 事案の要旨(1) 本件請求の要旨本件は,被控訴人の従業者であった控訴人が,被控訴人に対し,職務発明である証券取引所コンピュータに対する電子注文の際の伝送レイテンシ(遅延時間)を縮小する方法等に関する発明(本件発明)について特許を受ける権利を被控訴人に承継させたことにつき,平成16年法律第79号による改正後の現行特許法(特許法)35条3項(5項適用)に基づき,相当対価286億9190万5621円の内金2億円及びこれに対する本件発明に係る米国特許商標庁に対する特許出願の日(平成22年8月23日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 - 3 -(2) 原審の判断原判決は,①本件発明について,被控訴人発明規程の定めにより対価を支払うことが不合理と認められるとして,特許法35条3項及び5項による相当対価の請求の可否を検討することとしたが,②本件発明(米国特許商標庁審査官から新規性欠如の拒絶理由を通知され,出願が放棄されている。)に基づく独占的利益は生じて て,特許法35条3項及び5項による相当対価の請求の可否を検討することとしたが,②本件発明(米国特許商標庁審査官から新規性欠如の拒絶理由を通知され,出願が放棄されている。)に基づく独占的利益は生じていないから,相当対価の支払を請求することはできないとして,原告の請求を棄却した。 2 前提となる事実本件の前提となる事実は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2,1(前提事実)に記載のとおりである。 原判決6頁18行目の「平成22年8月頃から」を「平成22年11月ころ(甲18,19,乙14)から」に改める。 3 争点本件の争点は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2,2(争点)に記載のとおりである。 原判決10頁16行目の「((1)が肯定された場合)」及び同22行目を削る。 第3 争点についての当事者の主張争点についての当事者の主張は,下記1に原判決の補正をし,同2に当事者の主張の補充をそれぞれ加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2,3(争点に関する当事者の主張)に記載のとおりである。 1 原判決の補正① 原判決11頁22行目の「構成要件3」を「構成要件3・4」に改める。 ② 原判決12頁26行目の「その利益の額は,」の次に「平成22年から平成3 - 4 -7年までの16年間の」を加える。 2 当事者の主張の補充(1) 控訴人(争点(2)イ〔独占的利益の有無〕について)① 相当対価算定における使用者の独占的利益は,特許に基づく法的独占的利益に限られるものではなく,事実上の独占的利益も含まれる。被控訴人は,本件発明に係る特許を受ける権利を親会社である野村ホールディングス株式会社(野村ホールディングス)に譲渡し,同社はグル 的独占的利益に限られるものではなく,事実上の独占的利益も含まれる。被控訴人は,本件発明に係る特許を受ける権利を親会社である野村ホールディングス株式会社(野村ホールディングス)に譲渡し,同社はグループ会社に対し,本件発明を実施した本件システムを世界の主要な証券取引所において顧客に提供して巨額の利益を得ている。 本件システムは,超高頻度取引の分野において,そのサービス開始後,現在においても,競業他社のサービスと比較して市場における優位性を維持しており(甲9,18,47,48~53),被控訴人及びそのグループ会社は,本件発明をノウハウとして非公開とすることで,他社に先駆けた先行者利益としての事実上の独占的利益を得ている。 ② また,被控訴人が受けるべき利益は,被控訴人が本件発明に係る特許を受ける権利を野村ホールディングスに譲渡した対価そのものとして算定することもできる。被控訴人は,野村ホールディングスに対して本件発明に係る特許を受ける権利を譲渡することにより,関連会社に本件発明を実施した本件システムを運用させ,その利益を関連会社内部の利益配分により,野村ホールディングスから獲得することができ,これが,被控訴人が野村ホールディングスから得るべき対価の実質である。この場合,被控訴人から野村ホールディングスに対する譲渡の対価が無償であったとしても,本来,被控訴人が得られるはずであった譲渡対価を算定すべきである。なぜなら,従業者等の直接の使用者等に利益がないとして相当対価の支払を免れることは,法の趣旨を潜脱するからである。 (2) 被控訴人(争点(1)〔被控訴人発明規程の定めにより相当の対価を支払うことの不合理性〕について) - 5 -特許法35条4項は,相当対価の定めにより相当対価を支払うことの不合理性の判断基準として①対価決 1)〔被控訴人発明規程の定めにより相当の対価を支払うことの不合理性〕について) - 5 -特許法35条4項は,相当対価の定めにより相当対価を支払うことの不合理性の判断基準として①対価決定のための基準の策定に際しての従業者との協議の状況,②基準の開示の状況,③対価の額の算定についての従業者等からの意見聴取の状況,④その他の事情を考慮すべきとしているが,上記①~③の要素は例示にすぎないのであって必須の要素ではないし,上記④の要素も①~③と同等の重みを有する考慮要素である。 ア協議の状況控訴人は,被控訴人発明規程が策定された後に入社した社員であるところ,特定社員へ転換する際の書面(甲2)には,「その他の福利厚生・各種人事取扱い」に関し,「これらの規則・規程等はイントラネットサイト(野村Web センター)に掲載されていますので,内容をご確認下さい。」と記載され,控訴人に対し,被控訴人の規程・制度等を確認することを求めている。控訴人は,上記書面に署名して特定社員になっているから,被控訴人発明規程を含む被控訴人の規程・制度等を理解した上で,これらが適用されることを承認していた。 イ基準の開示の状況被控訴人発明規程1は,野村Webセンター及びNGIという被控訴人の2つのイントラネット上に開示され(乙8,9),いつでも閲覧できるようにされていた。そして,被控訴人発明規程1には,職務発明について報奨金が支払われる場合が開示されており,その報奨金の額については別に定められていることが明記されているから(5条3項),被控訴人発明規程1を見た者は,被控訴人発明規程2の存在を知ることができる。このように,報奨金が支払われる場合が示され,具体的報奨金額について確認したい者は確認できる程度に開示されていれば,開示の状況として 発明規程1を見た者は,被控訴人発明規程2の存在を知ることができる。このように,報奨金が支払われる場合が示され,具体的報奨金額について確認したい者は確認できる程度に開示されていれば,開示の状況として十分である。 ウ意見聴取の状況控訴人は,被控訴人から,本件発明に係る一切の権利を被控訴人へ譲渡する旨の譲渡証(甲14,本件譲渡証)の提出を再三求められたものの,これを拒むなどし - 6 -て,被控訴人とのコミュニケーションを拒んでおり,発明の承継自体を拒んでいたのであるから,控訴人に対し,対価に関する意見を求めようがなかった。 エその他の事情(ア) 控訴人の地位控訴人は,平成20年5月,月額基本給を250万円として特別選任職として被控訴人に入社し(甲1),その後,平成21年6月,特定社員へ転換し,年収は3000万円となっていた(甲2)。したがって,控訴人は,自身の職務に対し十分な見返りを得ていたものであり,仮に手続的な不備があったとしても,これを補って余りある金銭を得ていた。 (イ) 本件発明の価値個々の職務発明に対して最終的に支払われる対価額が,その発明の価値に照らして十分に高額であれば,不合理性は否定されるところ,本件発明は特許性を欠くものであり,このような特許性のない発明に対して支払われる額として,被控訴人発明規程により支払われる出願時報奨金3万円は,十分に高額である。 第4 当裁判所の判断当裁判所も,控訴人の請求は,理由がないものと判断する。 その理由は,次のとおりである。 なお,事案にかんがみて,まず,本件発明の実施の有無(争点(2)アと同旨)を検討する。 1 本件発明の実施の有無について本判決別紙のとおり。 2 争点(1)(被控訴人発明規程 なお,事案にかんがみて,まず,本件発明の実施の有無(争点(2)アと同旨)を検討する。 1 本件発明の実施の有無について本判決別紙のとおり。 2 争点(1)(被控訴人発明規程の定めにより相当の対価を支払うことの不合理性)について(1) 被控訴人発明規程の適用について - 7 -控訴人は,平成20年5月12日に被控訴人に雇用され,遅くとも平成22年8月23日までに単独又は共同で本件発明をしたから(本件発明が控訴人の単独発明であるか否かについては,当事者間に争いがある。),本件発明は,平成20年5月12日以降に発明されたものである。 引用に係る原判決の「事実及び理由」欄の第2,1の前提事実に認定のとおり,被控訴人発明規程1は,職務発明について,①出願を行ったとき,②特許権を取得したとき,及び③発明の実施により被控訴人が金銭的利益を得たときに,報奨金を支払うものと定め,さらに,被控訴人発明規程2は,①出願時,②権利取得時,及び③特許権を取得した発明を実施したことにより被控訴人が金銭的利益を得た場合について,それぞれ報奨金の額を定め,それ以外の場合については何ら言及がみられない(なお,被控訴人発明規程1は,控訴人が被控訴人に雇用されてから,2度の改正がされているが,平成24年4月1日改正後の規程が適用されることは,当事者間に争いがない。)。 被控訴人発明規程の上記内容を合理的に解釈すると,被控訴人発明規程は,特許権を取得できなかった発明については,当該発明の実施の有無や被控訴人の金銭的利益の取得の有無にかかわらず,実施時報奨金を支払わない定めもしているものと認められる。 そうすると,本件発明についても,被控訴人発明規程の定めが適用される場合と認められ,本件訴訟における被控訴人の主張にかんがみると わらず,実施時報奨金を支払わない定めもしているものと認められる。 そうすると,本件発明についても,被控訴人発明規程の定めが適用される場合と認められ,本件訴訟における被控訴人の主張にかんがみると,被控訴人は,被控訴人発明規程に従い,本件発明の承継の対価として,出願時報奨金3万円のみを支払い,権利取得時報奨金及び実施時補償金を支払わないことを決したものと認められる。 (2) 不合理性の有無についてア協議の状況特許法35条4項は,対価支払の不合理性の考慮要素として,第1に「対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等の間で行われる協議の状況」 - 8 -を定める。 被控訴人発明規程1は,平成13年10月1日に,被控訴人発明規程2は,平成18年4月1日にそれぞれ策定されたものであるから(甲4,5),いずれも,控訴人が被控訴人に入社する前に策定されており,控訴人と被控訴人との間には,被控訴人発明規程(平成20年4月1日までの被控訴人発明規程1の改正を含む。)の策定に際しての協議はない。 もっとも,相当対価の定めが策定された後に使用者等に雇用された者との間では,既に策定されている相当対価の定めを前提にして個別に協議をすれば,「協議の状況」としては,同等の考慮要素になると解される。しかしながら,控訴人が被控訴人に入社した際又はその後に,被控訴人が,被控訴人発明規程に関して,控訴人と個別に協議を行ったり,その存在や内容を控訴人に説明の上,了承等を得たことがあったとは認められない。また,平成20年4月1日後の被控訴人発明規程1の改正に際して,被控訴人が,控訴人を含む被控訴人の従業者らと協議を行ったことがあったとも認められない。 被控訴人は,控訴人を特定社員へ転換する際の書面(甲2)に,被控訴人の規程・ 訴人発明規程1の改正に際して,被控訴人が,控訴人を含む被控訴人の従業者らと協議を行ったことがあったとも認められない。 被控訴人は,控訴人を特定社員へ転換する際の書面(甲2)に,被控訴人の規程・制度等を確認することを求める記載があり,控訴人がこれに署名して特定社員になっているから,協議はあった旨を主張する。 しかしながら,単に,被控訴人発明規程を確認することを求めただけでは,「協議」があったとはいえない。 被控訴人の上記主張は,採用することができない。 イ開示の状況特許法35条4項は,対価支払の不合理性の考慮要素として,第2に「策定された当該基準の開示の状況」を定める。 被控訴人発明規程1は,被控訴人社内のイントラネットを通じて被控訴人の従業者らに開示されており,控訴人もその内容を確認することができた(甲2,4,乙8,9)。一方,被控訴人発明規程2が従業者らに開示されていたとは認められず, - 9 -控訴人が本件発明に係る特許を受ける権利を被控訴人に承継させる前に,控訴人に個別に開示されたことがあったとも認められない。 被控訴人は,被控訴人発明規程1の5条3項に報奨金が支払われる場合が開示され,その額については別に定められていることが明記されているから,控訴人は被控訴人発明規程2の存在を知ることができた旨を主張する。 しかしながら,被控訴人発明規程1の5条3項は,「報奨金の額,支払方法等については,別途定める手続きにより決定するものとする。」と定めているのであるから(甲4),この条項から,被控訴人発明規程2が別途存在するとは直ちに推知し得ない。また,被控訴人は,「特許出願について」と題する書面(乙6)を開示していたことが認められるが(乙8),同書面も,報奨金の額,支払方法等について具体的に記載する が別途存在するとは直ちに推知し得ない。また,被控訴人は,「特許出願について」と題する書面(乙6)を開示していたことが認められるが(乙8),同書面も,報奨金の額,支払方法等について具体的に記載するものではなく,また,別な規程があることをうかがわせる記載もない。 被控訴人の上記主張は,採用することができない。 ウ意見の聴取の状況特許法35条4項は,対価支払の不合理性の考慮要素として,第3に「策定された当該基準の開示の状況」を定める。 被控訴人が,本件発明の対価の額の算定について,控訴人から意見を聴取したことは認められない。 被控訴人は,控訴人が,被控訴人に対する本件発明について特許を受ける権利の譲渡を拒んでいたので,意見を求めようがなかった旨を主張する。 当初,控訴人が,被控訴人に対する本件発明について特許を受ける権利の譲渡を拒んでいたことは,控訴人自身が自認しているところであるが(訴状7頁,平成25年5月29日付け控訴人第3準備書面2頁参照),「意見の聴取」は,従業者等に対し意見を陳述する機会を付与すれば足りるところ,被控訴人発明規程は,意見聴取,不服申立て等の手続は定めておらず,また,被控訴人が個別に控訴人に対して意見陳述の機会を付与したことは認められない。 被控訴人の上記主張は,採用することができない。 - 10 -エその他の要素本件発明が実施されていないことは,前記1に認定のとおりであり,また,本件発明は,特許を受けることができないことが確定しているところ,少なくとも,これらの事情は,不合理性の有無の中で考慮し得る要素といえる。 被控訴人は,控訴人は給与により十分な見返りを受けている旨を主張する。しかしながら,控訴人は,主に顧客拡大という営業目的で被控訴人に雇用されたものである 理性の有無の中で考慮し得る要素といえる。 被控訴人は,控訴人は給与により十分な見返りを受けている旨を主張する。しかしながら,控訴人は,主に顧客拡大という営業目的で被控訴人に雇用されたものであるから(甲25,57),上記給与は,専らそのことに対する労務の対価であるにすぎないし,本件発明がされた後に,控訴人が被控訴人から本件発明をしたことに基づく特別の待遇を受けたことも認められないから,控訴人の給与額は,考慮すべき要素とはいえない。 なお,独立行政法人労働政策研究・研修機構の平成18年7月7日付け調査(乙7)によれば,アンケート回答企業のうち,自社実施又は他社への実施許諾等があった場合に,いわゆる実績補償を行う企業は76.8%であるとした結果が報告されているが,どのような要件の下において実績補償を支払うとしているのかなど,それら企業の発明規程の内容は不明であり,本件においては,上記調査結果を,直ちに考慮要素とすることはできない。 オ検討以上イからエまでにおいて,考慮すべき要素として認められるものを総合して,被控訴人発明規程に基づいて本件発明に対して相当対価を支払わないとしたことが,不合理であるか否かについて判断する。 まず,平成16年法律第79号による特許法35条の改正の趣旨は,同改正前の旧35条4項に基づく相当対価の算定が,個別の使用者等と従業者等間の事情が反映されにくい,相当対価の額の予測可能性が低い,従業者等が職務発明規程の策定や相当対価の算定に関与できていないとの問題があるという認識を前提に,相当対価の算定に当たっては,支払に至る手続面を重視し,そこに問題がない限りは,使用者等と従業者等であらかじめ定めた自主的な取決めを尊重すべきであるというと - 11 -ころにある。 そこで,検討するに,上記イ ては,支払に至る手続面を重視し,そこに問題がない限りは,使用者等と従業者等であらかじめ定めた自主的な取決めを尊重すべきであるというと - 11 -ころにある。 そこで,検討するに,上記イからエまでの認定によれば,被控訴人発明規程は,控訴人を含む被控訴人の従業者らの意見が反映されて策定された形跡はなく,対価の額等について具体的な定めがある被控訴人発明規程2に至っては,控訴人を含む従業者らは事前にこれを知らず,相当対価の算定に当たって,控訴人の意見を斟酌する機会もなかったといえる。そうであれば,被控訴人発明規程に従って本件発明の承継の対価を算定することは,何ら自らの実質的関与のないままに相当対価の算定がされることに帰するのであるから,特許法35条4項の趣旨を大きく逸脱するものである。そうすると,算定の結果の当否を問うまでもなく,被控訴人発明規程に基づいて本件発明に対して相当対価を支払わないとしたことは,不合理であると認められる。 カ被控訴人の主張について被控訴人は,特許法35条4項に定める「協議の状況」「基準の開示の状況」「意見の聴取の状況」は,不合理性を判断するための必須の要素ではない,その他の要素も上記3要素と同等の重みがある旨を主張する。 確かに,上記「協議の状況」「基準の開示の状況」「意見の聴取の状況」は,不合理性の認定のための考慮要素にすぎず,「協議」「基準の開示」「意見の聴取」が合理性の認定のための要件となるものではないから,「協議」「基準の開示」「意見の聴取」の存否それ自体を問題とすべきものではない。その限度においては,被控訴人の上記主張は正当である。 しかしながら,「協議」「基準の開示」「意見の聴取」は,一般的に,適正な手続のための基本的要素であるところ,被控訴人発明規程は,そのいずれに その限度においては,被控訴人の上記主張は正当である。 しかしながら,「協議」「基準の開示」「意見の聴取」は,一般的に,適正な手続のための基本的要素であるところ,被控訴人発明規程は,そのいずれについても不十分であると認められ,また,その余の手続面について考慮すべき事情は,本件証拠上,何らうかがうことができない。そうであれば,その他の要素を考慮するまでもなく,被控訴人発明規程に従って本件発明の対価を算定することは,不合理と認められる。 - 12 -被控訴人の上記主張は,採用することができない。 (3) 小括以上のとおりであり,被控訴人発明規程に従って本件発明の対価を算定することは,不合理である。 3 争点(2)イ(独占的利益の有無)について上記1のとおり,被控訴人発明規程に従って本件発明の対価を算定することは不合理であると認められるので,次に,特許法35条5項に基づき,相当対価の算定をする(争点(2)ア〔本件システムの本件発明の構成要件充足性〕については,前記1と同旨である。)。 (1) 被控訴人が受けるべき利益の対象について引用に係る原判決の「事実及び理由」欄の第2,1の前提事実と証拠(甲8,11,14,乙12)及び弁論の全趣旨を総合すると,①証券会社等が米国の証券取引所でブローカーとして取引を行うためには,証券取引所の会員となる必要があるところ,被控訴人は,米国の証券取引所の会員ではなく,ノムラ・セキュリティーズ及びインスティネットがその会員であることから,本件システムは両社により運用されていたこと,②被控訴人グループ会社の親会社である野村ホールディングスにおいて,本件発明に係る権利を他の権利と一括して管理していること,③控訴人以外の共同発明者とされている者は,本件米国出願に係る発明につ こと,②被控訴人グループ会社の親会社である野村ホールディングスにおいて,本件発明に係る権利を他の権利と一括して管理していること,③控訴人以外の共同発明者とされている者は,本件米国出願に係る発明についての特許を受ける権利を野村ホールディングスに譲渡しており,被控訴人も,控訴人から承継した本件発明に係る特許を受ける権利を野村ホールディングスに譲渡していることが認められる。 野村ホールディングスが本件米国出願に係る発明についての特許を受ける権利を取得した際に,被控訴人に対価を支払ったことを認めるに足りる証拠はないから,上記認定事実にかんがみると,野村ホールディングスは,その有する知的財産権を一括して管理し,その権利を子会社に実施させ,それにより得た利益をグループ会 - 13 -社間の決算関係を通じて被控訴人グループ内で調整しているものと考えられる。そうすると,本件システムの運用から得られた利益は,被控訴人グループ全体に帰属していると評価できる。したがって,相当対価の算定に当たって考慮すべき使用者等が受けるべき利益としては,被控訴人の下で生じた利益だけではなく,被控訴人グループ全体に生じた利益を考慮することができる。 一方,控訴人は,被控訴人が野村ホールディングスから本来受けるべき譲渡対価に基づき相当対価を算定する方法を主張するところ,相当対価の算定方法は,裁判所が裁量により決する事柄であり,当裁判所は,上記のとおり,自社実施方式を準用した相当対価の算定方式を採用するものである。 なお,控訴人が主張するような野村ホールディングスから被控訴人に対して支払われるべき譲渡対価に基づいて相当対価を算定するとしても,野村ホールディングスから被控訴人に実際に対価が支払われたことを認めるに足りる証拠はないのであるから,相当な譲渡対価は,仮に 訴人に対して支払われるべき譲渡対価に基づいて相当対価を算定するとしても,野村ホールディングスから被控訴人に実際に対価が支払われたことを認めるに足りる証拠はないのであるから,相当な譲渡対価は,仮に,本件発明を野村ホールディングスに実施許諾した場合に,被控訴人が得られる想定実施料収入を基礎にして算定するほかなく,そして,この想定実施料収入は,野村ホールディングスが被控訴人グループに対して本件発明を実施させることにより被控訴人グループ全体に生じた利益を基礎に算定することとなる。そうすると,手順の相違はあっても,上記当裁判所の採る算定方法と控訴人の主張する算定方法とは,同様のものである。したがって,上記当裁判所の採る算定方法を採用した場合には,改めて,別途,被控訴人が取得すべき譲渡対価を算定する必要はないことになる(仮に,野村ホールディングスから被控訴人に実際の対価の支払があれば,上記当裁判所の採る算定方法により被控訴人が受けるべき利益として算出された額から,当該支払額が差し引かれるにすぎず,被控訴人が受けるべき利益の総額に変更はない。)。 したがって,上記控訴人の主張は,採用することができない。 (2) 独占的利益の有無について使用者等は,職務発明について無償の法定通常実施権を有するから(特許法35 - 14 -条1項),相当対価の算定の基礎となる使用者等が受けるべき利益の額は,特許権を受ける権利を承継したことにより,他者を排除し,使用者等のみが当該特許権に係る発明を実施できるという利益,すなわち,独占的利益の額である。この独占的利益は,法律上のものに限らず,事実上のものも含まれるから,発明が特許権として成立しておらず,営業秘密又はノウハウとして保持されている場合であっても,生じ得る。 しかしながら,前記1のとおり, 利益は,法律上のものに限らず,事実上のものも含まれるから,発明が特許権として成立しておらず,営業秘密又はノウハウとして保持されている場合であっても,生じ得る。 しかしながら,前記1のとおり,本件発明は,本件システムにおいて実施されておらず,しかも,本件システムそれ自体が,既に本件発明の代替技術といえる。のみならず,証拠(乙26,28,30,32)及び弁論の全趣旨によれば,本件米国出願がされた平成22年8月の前後から,①FPGAを実装することで既存の純粋なソフトウェアでは不可能なほど加速された低レイテンシの市場データ配信処理が可能になるとの論文(乙32)の公表(平成21年10月),②リスクアナライザ等をFPGA等の再構成可能なハードウェアとして実装する構成を開示した米国特許出願公報(乙26)の公開(平成22年4月),③再構成可能なハードウェアであるFPGA上に高頻度・低レイテンシのアルゴリズム取引のために効率的なイベント処理プラットフォームを構築することで,レイテンシを2桁近く削減することができたとの研究成果(乙28)の公表(平成22年9月)等が相次いでおり,また,④本件審査期間中にも,業界では高頻度取引における柔軟性又は低レイテンシを損なうことなくカスタム・ハードウェアのパフォーマンスを提供する方法としてFPGAを実装する方法が検討されており,そのアプローチによると,リスク管理等で1000倍ものパフォーマンスの高速化が可能になるとの研究成果(乙30)が公表されていること(平成24年8月)が認められ,本件米国出願の前後から本件審査期間を通じて,FPGAを実装することで格段に加速された低レイテンシの取引を実現できることを示唆又は開示する研究成果の公表等が相次いでいるといえ,本件発明には,本件システム以外に多数の代替技術が存する(これ じて,FPGAを実装することで格段に加速された低レイテンシの取引を実現できることを示唆又は開示する研究成果の公表等が相次いでいるといえ,本件発明には,本件システム以外に多数の代替技術が存する(これら代替技術が既に実際の取引に応用されているのかは,本件証拠上不明であるが,本件発明も,現時 - 15 -点で実施されていない点でこれら代替技術と同様である。)。そうすると,本件発明が営業秘密として保持されていることによる独占的利益は,およそ観念し難い。 以上によれば,本件発明に基づく独占的利益は生じておらず,かつ,将来的にも生ずる見込みはないというほかない。 (3) 控訴人の主張について① 控訴人は,本件システムを利用したサービスが市場において優位性を保っている,本件発明をノウハウとして非公開にすることで被控訴人は事実上の独占的利益を得ている旨を主張する。 しかしながら,本件システムに係る方法には本件発明は実施されていないから,本件システムを利用したサービスが市場で優位を保っていることは,本件発明の承継についての相当対価を算定する上で,何ら関係のない事項である。また,本件発明を営業秘密として保持しても事実上の独占的利益が生じないことは,上記(2)にて認定判断のとおりである。被控訴人が,本件米国出願に係る発明を本件システムに取り入れたかのような発表をしていたとしても,本件米国出願に係る発明は,本件発明以外の発明をも含むのであるから,本件発明を本件システムに係る方法に用いていないことと,何ら矛盾しない。 控訴人の上記主張は,採用することができない。 ② 控訴人は,被控訴人は米国特許商標庁のオフィスアクション(我が国の拒絶理由通知に相当)に対して十分な対応をせず,本件発明が特許される可能性を自ら放棄したに等しい旨を主張す ることができない。 ② 控訴人は,被控訴人は米国特許商標庁のオフィスアクション(我が国の拒絶理由通知に相当)に対して十分な対応をせず,本件発明が特許される可能性を自ら放棄したに等しい旨を主張する。 しかしながら,引用に係る原判決の「事実及び理由」欄の第2,1の前提事実(4)や上記(2)に認定事実に加え,被控訴人が専門家から米国特許出願に係る発明の特許性について意見を求め,特許性につき否定的な見解を得ていたこと(甲48)に照らせば,本件米国出願を拒絶した米国特許商標庁の審査官の審査に対する被控訴人の対応が,不誠実なものであったとはいえない。 控訴人の上記主張は,採用することができない。 - 16 -(4) 小括以上からすれば,その余の点について判断するまでもなく,本件発明について被控訴人に特許を受ける権利を承継させたことによる相当対価は,認められない。 第5 結論以上のとおりであり,控訴人の本件請求は理由がない。 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官清水節 裁判官中村恭 裁判官中武由紀 - 17 - (平成26年(ネ)第10126号事件判決別紙)●(省略)● 中武由紀 (平成26年(ネ)第10126号事件判決別紙)●(省略)●

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