主文 原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人辰田昌弘の上告受理申立て理由1ないし3について 1 本件は,第1審判決別紙物件目録記載一ないし四の土地(以下「本件土地」という。)及び同物件目録記載五の建物(以下,本件土地と併せて「本件土地建物」という。)を所有している上告人が,被上告人らに対し,本件土地建物の所有権に基づき,本件土地建物についての被上告人らの所有権移転登記の各抹消登記手続を求めている事案である。 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 上告人は,平成11年2月28日(以下,月日のみを記載する。),訴外株式会社D(以下「D」という。)との間で,5月31日を期限として,上告人所有の本件土地建物の所有権移転及び所有権移転登記手続と売買代金8200万円の支払とを引換えとするとの約定で,本件土地建物の売買契約を締結した。 その際,Dの代表者であるEが,本件土地の地目を田から宅地に変更し,道路の範囲の明示や測量をし,近隣者から承諾を得るために委任状が必要であるというので,上告人は,委任事項が白紙の委任状2通(以下「本件各委任状」という。)を作成して,これをEに交付した。この際,Eは,上告人に対し,司法書士の手間,費用,時間などを考えると,5月31日の所有権移転登記に間に合わせるために本件土地の地目の田から宅地への変更,道路の範囲の明示,測量等の所有権移転の事前準備の必要があるので,登記済証を預かりたいといって,「事前に所有権移転しますので,本日,土地,建物の権利書を預かります」との記載がされた預り証(以下「本件預り証」という。)を交付した。上告人は,その記載を見たものの,深く- 1 -考えず,Eに言われるままに,本件 しますので,本日,土地,建物の権利書を預かります」との記載がされた預り証(以下「本件預り証」という。)を交付した。上告人は,その記載を見たものの,深く- 1 -考えず,Eに言われるままに,本件土地建物の登記済証を預けた。 (2) 上告人は,3月4日,道路の範囲の明示に必要であるという説明に従い,Eに対し,更に委任事項が白紙の委任状を作成して交付したほか,同日から同月9日にかけて,自己の印鑑登録証明書を交付した。上告人の妻は,4月2日に上告人の意を受けて,Eの求めに応じ,上告人名義の委任事項が白紙の委任状を作成して交付した。 (3) 3月9日,上告人は,Eから本件各委任状の写しの交付を受けたところ,それらには,「事前に所有権移転をしてもらってけっこうです」,又は「上記の物件の土地,建物の売買いに関して一切の権限を委任します」との記載が書き加えられていることに気付いた。 (4) Eは,上告人に対し,5月31日に売買代金の決済と同時にDに本件土地建物の所有名義を移転すると述べていたことから,上告人は,これを信じており,同日よりも前にDに対して所有権を移転させる意思はなかった。 (5) EないしD関係者は,上告人又はその妻から交付を受けた上記各書類を悪用して,上告人に対して本件土地建物の売買代金を支払うことなく,本件土地建物につき,4月5日受付で,上告人からDへの第1審判決別紙登記目録一記載の所有権移転登記(以下「本件第1登記」という。)をした。 (6) Dは,4月15日,被上告人株式会社B1総合企画(以下「被上告人B1総合企画」という。)との間で,本件土地建物を代金6500万円で売り渡す旨の契約を締結し,これに基づき,同月16日,Dから被上告人B1総合企画への第1審判決別紙登記目録二記載の所有権一部移転登記及び持分全部移転登記(以下 の間で,本件土地建物を代金6500万円で売り渡す旨の契約を締結し,これに基づき,同月16日,Dから被上告人B1総合企画への第1審判決別紙登記目録二記載の所有権一部移転登記及び持分全部移転登記(以下,これらの各登記を併せて「本件第2登記」という。)がされた。同被上告人は,Dに本件土地建物の所有権が移転していないことにつき善意,無過失であった。 (7) 被上告人B1総合企画は,4月28日,被上告人有限会社B2(以下「被- 2 -上告人B2」という。)との間で,本件土地建物を代金6500万円で売り渡す旨の契約を締結し,これに基づき,同日,被上告人B1総合企画から被上告人B2への第1審判決別紙登記目録三記載の所有権一部移転登記及び持分全部移転登記(以下,これらの各登記を併せて「本件第3登記」という。)がされた。同被上告人は,Dに本件土地建物の所有権が移転していないことにつき善意,無過失であった。 2 原審は,上記事実関係に基づき,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。 (1) 上告人は,不動産取引,不動産登記手続において重要な登記済証,白紙委任状及び印鑑登録証明書等を安易にEに交付していること,本件第1登記がされる前の2月28日には,上記1の(1)のとおりの本件預り証の記載を見ており,また,3月9日には,Eから,上記1の(3)のとおりに書き加えられた本件各委任状の写しの交付を受けており,事前にDに対して本件土地建物の所有権移転登記がされる危険性があることを予測することができるとともに,Eに対してこれを問いただすことが十分にでき,そうすることによって,上告人からDへの不実の登記がされることを防止することは十分に可能であったこと,以上によれば,上告人において落ち度があったものであり,その後に取引を行った者との関係では,上告人 そうすることによって,上告人からDへの不実の登記がされることを防止することは十分に可能であったこと,以上によれば,上告人において落ち度があったものであり,その後に取引を行った者との関係では,上告人に帰責事由があったものと評価せざるを得ない。 (2) したがって,上告人は,民法94条2項,110条の類推適用により,Dに本件土地建物の所有権が移転していないことにつき善意,無過失でDから本件土地建物を買い受けた被上告人B1総合企画に対して,Dに本件土地建物の所有権が移転していないことを対抗することができず,本件第2登記の抹消登記手続を求めることができない。また,被上告人B2は,上記の保護を受ける被上告人B1総合企画から本件土地建物を買い受けたものであり,かつ,Dに本件土地建物の所有権が移転していないことにつき善意,無過失であったから,上告人は被上告人B2に- 3 -対し,Dに本件土地建物の所有権が移転していないことを対抗することができず,本件第3登記の抹消登記手続を求めることができない。 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 前記原審の認定の事実によれば,上告人は,地目変更などのために利用するにすぎないものと信じ,Eに白紙委任状,本件土地建物の登記済証,印鑑登録証明書等を交付したものであって,もとより本件第1登記がされることを承諾していなかったところ,上告人がEに印鑑登録証明書を交付した3月9日の27日後の4月5日に本件第1登記がされ,その10日後の同月15日に本件第2登記が,その13日後の同月28日に本件第3登記がされるというように,接着した時期に本件第1ないし第3登記がされている。 (2) また,記録によれば,上告人は,工業高校を卒業し,技術職として会社に勤務しており, 3日後の同月28日に本件第3登記がされるというように,接着した時期に本件第1ないし第3登記がされている。 (2) また,記録によれば,上告人は,工業高校を卒業し,技術職として会社に勤務しており,これまで不動産取引の経験のない者であり,不動産売買等を業とするDの代表者であるEからの言葉巧みな申入れを信じて,同人に上記(1)の趣旨で白紙委任状,本件土地建物の登記済証,印鑑登録証明書等を交付したものであって,上告人には,本件土地建物につき虚偽の権利の帰属を示すような外観を作出する意図は全くなかったこと,上告人が本件第1登記がされている事実を知ったのは5月26日ころであり,被上告人らが本件土地建物の各売買契約を行った時点において,上告人が本件第1登記を承認していたものでないことはもちろん,同登記の存在を知りながらこれを放置していたものでもないこと,Eは,白紙委任状や登記済証等を交付したことなどから不安を抱いた上告人やその妻からの度重なる問い合わせに対し,言葉巧みな説明をして言い逃れをしていたもので,上告人がDに対して本件土地建物の所有権移転登記がされる危険性についてEに対して問いただし,そのような登記がされることを防止するのは困難な状況であったことなどの事情をう- 4 -かがうことができる。 (3) 【要旨】仮に上記(2)の事実等が認められる場合には,これと上記(1)の事情とを総合して考察するときは,上告人は,本件土地建物の虚偽の権利の帰属を示す外観の作出につき何ら積極的な関与をしておらず,本件第1登記を放置していたとみることもできないのであって,民法94条2項,110条の法意に照らしても,Dに本件土地建物の所有権が移転していないことを被上告人らに対抗し得ないとする事情はないというべきである。そうすると,上記の点について十分に審理をする ,民法94条2項,110条の法意に照らしても,Dに本件土地建物の所有権が移転していないことを被上告人らに対抗し得ないとする事情はないというべきである。そうすると,上記の点について十分に審理をすることなく,上記各条の類推適用を肯定した原審の判断には,審理不尽の結果法令の適用を誤った違法があるといわざるを得ず,論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。 したがって,原審の前記判断には,判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官滝井繁男裁判官福田博裁判官北川弘治裁判官亀山継夫裁判官梶谷玄)- 5 -
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