平成27年1月29日判決言渡平成25年(行ウ)第712号供託金払渡認可義務付等請求事件 主文 1 本件各訴えのうち,東京法務局供託官に対して,原告が平成25年9月20日付けでした別紙2供託目録記載の供託金の払渡請求につき払渡しの認可を求めるものを却下する。 2 原告のその余の訴えに係る請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 東京法務局供託官が平成25年10月1日付けで原告に対してした別紙2供託目録記載の供託金の払渡請求却下決定を取り消す。 2 東京法務局供託官は,原告が平成25年9月20日付けでした別紙2供託目録記載の供託金の払渡請求につき,払渡しを認可せよ。 第2 事案の概要本件は,宅地建物取引業(以下「宅建業」という。)の免許を受け,平成10年3月31日をもってその免許の有効期間が満了した原告が,平成25年9月20日,宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)25条1項に基づき供託した営業保証金(以下,単に「営業保証金」といい,原告が供託した営業保証金を「本件保証金」という。)1000万円について,東京法務局において,供託原因消滅を取戻事由として,取戻請求(以下「本件取戻請求」という。)をしたところ,東京法務局供託官が,同年10月1日,本件保証金の取戻請求権(以下「本件取戻請求権」という。)について消滅時効が完成していることを理由に,供託規則31条により,原告の払渡請求を却下する決定(以下「本件処分」という。)をしたことから,本件取戻請求権の消滅時効の起算日は,上記有効期間満了から10年が経過した時であり,本件取戻請求時にお いて本件取戻請求権の消滅時効は完成していないとして,東京法務局供託官が所属する から,本件取戻請求権の消滅時効の起算日は,上記有効期間満了から10年が経過した時であり,本件取戻請求時にお いて本件取戻請求権の消滅時効は完成していないとして,東京法務局供託官が所属する被告に対し,本件処分の取消しを求めるとともに,本件処分において却下した供託金払渡請求に係る供託金の払渡しの義務付け(以下「本件義務付けの訴え」という。)を求める事案である。 1 関係法令の定め等(1) 宅建業の免許宅建業を営もうとする者は,1の都道府県の区域内にのみ事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあっては当該事務所の所在地を管轄する都道府県知事の免許を受けなければならず(宅建業法3条1項),その免許の有効期間は5年とし(同条2項),この有効期間の満了後引き続き宅建業を営もうとする者は,免許の更新を受けなければならない(同条3項)。 (2) 営業保証金の供託宅地建物取引業者(上記の免許を受けて宅建業を営む者(宅建業法2条3号)。以下「宅建業者」という。)は,営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託しなければならない(同法25条1項)。 (3) 営業保証金の還付宅建業者と宅建業に関し取引をした者(以下「宅建業者の取引の相手方」という。)は,その取引により生じた債権に関し,宅建業者が供託した営業保証金について,その債権の弁済を受ける権利(以下「還付請求権」という。)を有する(宅建業法27条1項)。 (4) 営業保証金の取戻しア宅建業法3条2項の有効期間が満了したときなど所定の事由がある場合は,宅建業者であった者は,当該宅建業者であった者が供託した営業保証金を取り戻すことができる(宅建業法30条1項)。 イ宅建業法30条1項の営業保証金の取戻しは,当該営業保証金につき同法27条1項の権利 業者であった者は,当該宅建業者であった者が供託した営業保証金を取り戻すことができる(宅建業法30条1項)。 イ宅建業法30条1項の営業保証金の取戻しは,当該営業保証金につき同法27条1項の権利を有する者(以下「保証金に権利を有する者」とい う。)に対し,6月を下らない一定期間内に申し出るべき旨を公告(以下「営業保証金取戻公告」という。)し,その期間内にその申出がなかった場合でなければ,これをすることができない。ただし,営業保証金を取り戻すことができる事由(以下「保証金取戻事由」という。)が発生した時から10年を経過したときは,この限りでない(宅建業法30条2項)。 ウ宅建業者であった者が営業保証金の取戻しをしようとするには,官報に次に掲げる事項を公告しなければならない。ただし,宅建業法30条2項ただし書の規定に該当するときは,この限りでない(宅地建物取引業者営業保証金規則(以下「宅建保証金規則」という。)8条1項)。 (ア) 当該宅建業者であった者についての商号又は名称,氏名(法人にあっては代表者の氏名)及び事務所の所在地(イ) 当該宅建業者であった者の営業保証金の額(ウ) 前記(イ)の営業保証金につき,保証金に権利を有する者は,6か月を下らない一定期間内に,その債権の額,債権発生の原因たる事実並びに住所及び氏名又は名称を記載した申出書2通を当該宅建業者であった者が免許を受けていた都道府県知事に提出すべき旨(エ) 前記(ウ)の申出書の提出がないときは,前記(イ)の営業保証金が取り戻される旨 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告(変更前の商号「株式会社A」。以下,商号の変更前後を通じて「原告」という。)は,昭和56年6月19日付けで設立された 事実,顕著な事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告(変更前の商号「株式会社A」。以下,商号の変更前後を通じて「原告」という。)は,昭和56年6月19日付けで設立された株式会社であり,平成元年3月31日付けで,東京都知事により宅建業法3条1項の免許を受けた。 (2) 原告は,平成元年6月13日付けで,東京法務局において,別紙2供託目録記載のとおり,宅建業法25条1項に基づき,本件保証金1000万円 を供託した。 (3) 原告に係る宅建業法3条2項の有効期間は,平成10年3月31日をもって満了した。 (4) 原告は,平成25年9月20日,東京法務局に対して,取戻事由を供託原因消滅として,本件取戻請求を行った。なお,上記(3)の有効期間満了後本件取戻請求までの間,原告は営業保証金取戻公告は行わず,また,保証金に権利を有する者が本件保証金に対して還付請求権を行使することもなかった。 (5) 東京法務局供託官は,平成25年10月1日付けで,本件取戻請求について,本件取戻請求権の消滅時効が完成していることを理由に,本件処分をした。 (6) 原告は,平成25年11月12日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点本件取戻請求権の消滅時効の起算点 4 争点に対する当事者の主張の要旨(被告の主張)(1) 供託物の取戻請求権は,供託者が同請求権を行使することができる時から起算して10年を経過すれば,時効により消滅する。この「権利を行使することができる」の意義について,最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁(以下「最高裁昭和45年判決」ということがある。)は,弁済供託における供託物の取戻請求権に関する事案に関してであるが,「単にその権利の行使 0号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁(以下「最高裁昭和45年判決」ということがある。)は,弁済供託における供託物の取戻請求権に関する事案に関してであるが,「単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけでなく,さらに権利の性質上,その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要とすると解するのが相当である」と判示している。そもそも消滅時効の制度趣旨は,長期間継続した事実状態を維持することが法律関係の安定のために必要であること,権利の上に眠る者は法 の保護に値しないことなどにあるところ,この趣旨は本件のような担保供託にも及ぶから,最高裁昭和45年判決の趣旨は供託全般に及ぶものといえる。 したがって,供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点である「権利を行使することができる」の意義も,最高裁昭和45年判決を前提に,消滅時効の制度趣旨を踏まえながら,供託の種類及び目的,供託の原因たる事実並びに供託物の取戻手続の内容等をみて,その権利行使が現実に期待できるものであるか否かの点から判断されるべきものである。 (2) 宅建業法30条2項本文は,「前項の営業保証金の取りもどしは,一定期間内に申し出るべき旨を公告し,その期間内にその申出がなかつた場合でなければ,これをすることができない。」旨規定し,宅建保証金規則8条1項本文は,営業保証金の取戻しをしようとするには公告をしなければならない旨規定しており,これらの規定の文言に照らせば,営業保証金を取り戻すためには公告が義務付けられていることは明らかである。宅建業者との取引によって損害を被った消費者等は,損害賠償請求権を有する場合,宅建業者が供託した営業保証金から弁済を受けることができる(宅建業法27条1項)。そうすると,その者が知らない間に営業保証金の取戻しが行わ によって損害を被った消費者等は,損害賠償請求権を有する場合,宅建業者が供託した営業保証金から弁済を受けることができる(宅建業法27条1項)。そうすると,その者が知らない間に営業保証金の取戻しが行われてしまうことは,その者が営業保証金から損害を賠償してもらう機会を失わせることになる。そのため,還付請求権を持っている者に対して,その権利を実行する機会を付与し,その機会に権利を行使しない場合にのみ取戻しを認めるのが合理的であるなどの理由から,宅建業者による営業保証金取戻公告が要求されているのである。このように営業保証金取戻公告が要求されている趣旨からしても,営業保証金を取り戻すために公告が義務付けられていることは明らかというべきである。 (3) 上記(2)のとおり,事業者が営業を廃止した場合における営業保証金の取戻しに当たっては,当該営業保証金に権利を有する者に対し,6か月を下らない一定の期間を定めて営業保証金取戻公告をするよう義務付けられている。 このように供託物取戻請求に当たり権利申出公告が義務付けられている場合一般についてみると,権利申出公告で定めた一定期間が経過しない限り,供託者は,その期間,供託物を取り戻すことができない。したがって,取戻事由が発生した以降,直ちに供託物の取戻請求権の行使が現実に期待できるようになったとはいえない。もっとも,供託者は,取戻事由が発生した後,権利申出公告手続をとって,取戻請求権行使の障害事由を取り除き,公告で定めた一定期間が経過すれば,取戻請求権が行使できるようになる。また,供託者は,上記期間を定めることができるから,取戻請求権を早く行使したければ,上記期間について,法令上許される最低限の期間を定めればよい。そうすると,権利申出公告が義務付けられている場合,供託者が実際に公告したか否かに めることができるから,取戻請求権を早く行使したければ,上記期間について,法令上許される最低限の期間を定めればよい。そうすると,権利申出公告が義務付けられている場合,供託者が実際に公告したか否かにかかわらず,取戻事由が発生した後,権利申出をするために必要な最低限の期間が経過した日から,供託物の取戻請求権の行使が現実に期待できるようになったということができる。したがって,営業保証金の取戻請求権の消滅時効の起算点は,法令により公告が義務付けられているものである場合は,各法令により公告で定め得る最低限の期間を経過した時点である。 この考え方は,債権者が履行の請求をした後一定の期間内に債務を履行すべき特約がある債権関係においては,その成立後上記期間を経過した時から債権の消滅時効の期間を起算すべき旨判示した大審院大正2年(オ)第151号同3年3月12日判決・民録20輯152頁(以下「大審院大正3年判決」という。)の趣旨にも沿うものである。すなわち,請求・解約申入れなどがあってから一定期間の経過後に初めて現実に行使し得る債権の場合には,前提となる請求・解約申入れがなされたならば,それから一定期間を経過した時から債権者は現実に請求をなし得るし,債務者もこの時期から遅滞に陥るのであるが,他方,請求・解約申入れをもって時効進行開始のための絶対的前提条件であると解すると,請求・解約申入れの積極的行為に出た債権者よりも,何もしないでいた債権者の方が得をするという奇妙な結果になるので, この場合には,前提たる請求・解約申入れをなし得る時から当該一定期間が経過した時から消滅時効が進行を開始すると解すべきである。 (4) 通達においても,営業保証金のうち,その根拠法又はその委任を受けた省令が,取戻請求の前提手続として取戻請求者等に,当該営業保証金につき した時から消滅時効が進行を開始すると解すべきである。 (4) 通達においても,営業保証金のうち,その根拠法又はその委任を受けた省令が,取戻請求の前提手続として取戻請求者等に,当該営業保証金につき権利を有する者に対する一定期間内に申し出るべき旨の公告を義務付けているものについては,供託原因消滅後権利申出期間の最低限と定められている期間を経過した日から取戻請求権の消滅時効が進行するものと解して供託事務を取り扱うのが相当であるとされている(昭和52年8月31日民四第4448号民事局長通達)。また,時効処理等取扱要領(平成25年1月11日法務省民商第7号通達)は,営業上の保証供託に係る取戻請求権の消滅時効の完成時については,供託根拠法令に権利申出公告手続の定めがある場合,供託原因消滅事由の発生後,権利申出をするために必要な最低限の期間が経過した日から起算して10年と規定している。 (5) 以上によれば,営業保証金の取戻請求権の消滅時効は,営業を廃止した後,権利申出期間の最低限の期間と定められている6か月を経過した日以降,権利行使が現実に期待できるようになったといえるのであるから,実際の公告の有無にかかわらず,同日が消滅時効の起算点となる。 (6) 原告の主張に対する反論ア原告の主張は,営業保証金の消滅時効の起算点を,営業保証金取戻公告を行った場合と行わなかった場合とを分けることを前提としているところ,供託者は,供託物の取戻請求権を行使したければ,速やかに公告手続をとり,取戻請求権行使の障害事由を取り除けばよいのであって,このことは,実際に公告を行ったか否かで変わるものではない。 イまた,原告の主張を前提とすると,宅建業者であった者が公告を行わなければその分だけ消滅時効の起算点が遅くなるという結果となるが,この結果は,事業を廃止し 告を行ったか否かで変わるものではない。 イまた,原告の主張を前提とすると,宅建業者であった者が公告を行わなければその分だけ消滅時効の起算点が遅くなるという結果となるが,この結果は,事業を廃止した後に公告を行わずに供託物の取戻請求権を行使し ないまま,いわば権利の上に眠る者を不当に保護することになり,消滅時効の趣旨に沿わないばかりか,営業保証金取戻公告を事業者の義務とした宅建業法の実効性を失わせるものであって,法解釈として相当性を欠く。 ウ原告が引用する東京高裁昭和57年(ラ)第357号同57年9月2日決定判時1057号75頁(以下「東京高裁昭和57年決定」という。)は,残額が確定するまでの時期における債権の被転付適格に関する解釈を示したものであり,供託者である宅建業者であった者がいつから権利の行使が現実に期待できるようになったかが問題となっている本件とは関連性がない。 (原告の主張)(1) 営業保証金の取戻請求権の消滅時効の起算点は,①宅建業者であった者等が営業保証金取戻事由が生じた時から10年が経過するまでの間に営業保証金取戻公告を行わなかった場合には,同事由が生じた時から10年が経過した時,②宅建業者であった者等が保証金取戻事由が生じた時から10年が経過するまでの間に営業保証金取戻公告を行ったところ,同公告で定めた一定期間が経過するまでに保証金に権利を有する者から申出がなされなかった場合には,同公告で定めた一定期間が経過した時,③宅建業者であった者等が保証金取戻事由が生じた時から10年が経過するまでの間に営業保証金取戻公告を行ったところ,同公告で定めた一定期間が経過するまでに保証金に権利を有する者からの申出がなされた場合には,申出に係る権利の金額を上回る金額については同公告で定めた一定期間が経過した時,申出に 戻公告を行ったところ,同公告で定めた一定期間が経過するまでに保証金に権利を有する者からの申出がなされた場合には,申出に係る権利の金額を上回る金額については同公告で定めた一定期間が経過した時,申出に係る権利の金額以下の金額についてはその不存在又は消滅が確定した時からそれぞれ起算する。 (2) 営業保証金は,宅建業者の取引の相手方の利益保護のための制度であり,保証金取戻事由が生じた後も,この相手方の利益を十分に保護するため,営業保証金を取り戻すに当たり,営業保証金取戻公告を行わなければならない とされている(宅建業法30条2項)。他方で,保証金取戻事由が生じた時から10年が経過した場合には,仮に営業保証金が引き当てられるべき債権が生じていたとしても,通常,当該債権につき消滅時効が完成しているものと考えられることから,営業保証金取戻公告を行わなくても宅建業者の取引の相手方の利益保護をないがしろにすることにはならないため,同公告は不要であるとされている(宅建業法30条2項ただし書,宅建保証金規則8条1項ただし書)。すなわち,保証金取戻事由が発生したとしても,そのことから直ちに営業保証金の払渡しを受けることができるわけではない。営業保証金の払渡しを受けるためには,保証金取戻事由が生じることに加えて,同事由が生じてから10年が経過することで営業保証金取戻公告が不要とされるか,同公告を行いそこで定めた一定期間内に保証金に権利を有する者から申出がなされないか,同公告を行いそこで定めた一定期間内に申出がなされた権利につきその不存在又は消滅を書面により証明するか,のいずれかが必要である。保証金取戻事由が生じただけ,又は,同事由が生じてから抽象的に営業保証金取戻公告の最低限の期間である6か月が経過するだけでは,営業保証金の取戻しに当たり「法律 り証明するか,のいずれかが必要である。保証金取戻事由が生じただけ,又は,同事由が生じてから抽象的に営業保証金取戻公告の最低限の期間である6か月が経過するだけでは,営業保証金の取戻しに当たり「法律上の障害」が残っており,営業保証金の取戻しをしようとする者が供託金払渡請求書を提出したとしても,供託官は供託金の払渡しを認可することができない以上,営業保証金の取戻請求権を行使することができる(民法166条1項)とはいえない。宅建業法自体が保証金取戻事由が生じた時から10年が経過した後に営業保証金の取戻しが行われることを十分想定していることは,営業保証金取戻公告が必要である旨を規定する宅建業法30条2項本文のただし書として,同事由が生じた時から10年が経過した時は,同公告が不要である旨明確に規定していることから,明らかである。 (3) そもそも宅建業者は,宅建業法の定めるところにより宅建業者の取引の相手方の利益保護のために多額の営業保証金を供託しなければならないとさ れているものであり,営業保証金を供託することにより,宅建業者が直接利益を受けるものでない。また,供託所は,宅建業者の取引の相手方の保護のために,宅建業者から営業保証金を預かっているものであり,会計上も歳出歳入とは区別して歳出歳入外現金として現金により供託された営業保証金を保管しているところ,ここでは,消滅時効の制度趣旨である権利を消滅させて法律関係の安定を図るという要請は極めて乏しい。そうである以上,営業保証金の取戻請求権の消滅時効については,できる限りそれを預けた宅建業者の利益になる方向で解釈することこそが法の正しい解釈の方向性である。 そして,営業保証金の取戻公告には一定の費用が掛かること,供託金には利息が付されること(供託規則33条1項参照),同公告を行った後に の利益になる方向で解釈することこそが法の正しい解釈の方向性である。 そして,営業保証金の取戻公告には一定の費用が掛かること,供託金には利息が付されること(供託規則33条1項参照),同公告を行った後に保証金に権利を有する者から申出がなされた場合には,同申出に法的根拠がないと考えられる場合であっても営業保証金を取り戻そうとする者において同申出に係る権利が存在しないこと又は消滅したことを書面にて証明しなければ営業保証金の払渡しを受けることができないとされていることを踏まえ,営業保証金の取戻しを行おうとする者が,経営判断として,同公告が不要とされる10年間の経過を待ってから営業保証金の取戻しを行うことについて,合理性が認められるものである。これらの点からも,保証金取戻事由が生じただけ,あるいは,同事由が生じてから抽象的に営業保証金取戻公告に定め得る権利申出期間の最低限の期間である6か月が経過するだけで,営業保証金の取戻請求権を行使することができる(民法166条1項参照)と評価し,そこから消滅時効が起算されると解することは不当である。 (4) 上記原告の主張は,営業保証金の取戻請求権につき,宅建業法27条の還付請求権の行使があったときは,これを控除した残額につき取戻しができるにすぎず,上記取戻請求権は,残額が確定するまでは発生及び金額の不確定な債権であって,券面額を欠き被転付適格を有しないものと解するのが相当である旨判示した東京高裁昭和57年決定とも整合する。 (5) 被告の主張に対する反論ア大審院大正3年判決は,権利者が請求・解約申入れ等をすれば,一定期間経過後,当然に権利行使が可能となる状況を前提としている。これに対して,営業保証金の取戻請求権の場合,仮に営業保証金取戻公告を行ったとしても,それによって直ちに権利行使が可 入れ等をすれば,一定期間経過後,当然に権利行使が可能となる状況を前提としている。これに対して,営業保証金の取戻請求権の場合,仮に営業保証金取戻公告を行ったとしても,それによって直ちに権利行使が可能となるものではない。営業保証金取戻公告において定めた一定期間内に保証金に権利を有する者から申出がなされないか,又は,同公告において定めた一定期間内に申出がなされた権利につきその不存在又は消滅を書面により証明することに成功するか,いずれかの条件を成就しない限り,権利者は権利行使できない。そして,上記条件は,権利者の意思によって左右できるものでない。ただし,上記条件は,保証金取戻事由が生じてから10年が経過することで除去される(宅建業法30条2項ただし書,宅建保証金規則8条1項ただし書)。 したがって,大審院大正3年判決の事案と本件とでは,状況が全く異なる。 イ営業廃止後に権利申出期間の最低限の期間と定められている6か月を経過した日が本件取戻請求権の消滅時効の起算点となるとの被告の主張は,営業保証金取戻公告の公告期間中に権利の申出があった場合には,申出に係る権利の金額以下の金額については,その不存在又は消滅が確定した時が営業保証金の取戻請求権の消滅時効の起算点となることと論理的整合性を保ち得ない。 第3 当裁判所の判断 1 本件取戻請求権の消滅時効の起算点について(1) 時効起算点についての基本的視点民法166条1項にいう「権利を行使することができる時」とは,単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけでなく,さらに権利の性質上,その権利行使が現実に期待のできるものであることが必要と解するのが相当である(最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月 15日大法廷判決・民集24巻7号771頁参照)。 そ 上,その権利行使が現実に期待のできるものであることが必要と解するのが相当である(最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月 15日大法廷判決・民集24巻7号771頁参照)。 そこで検討すると,被告の主張中には,供託金の取戻事由発生後,権利申出公告で定め得る最低限の期間を経過した日から取戻請求権の消滅時効が進行する旨の部分がある。しかしながら,宅建業法30条2項の定めについてみると,同項は,営業保証金取戻公告をした場合に当該保証金の取戻しが可能になる要件として,①保証金に権利を有する者に対し,6月を下らない一定期間内に申し出るべき旨の営業保証金取戻公告をすること及び②その期間内に保証金に権利を有する者からの申出がなかったことを挙げているのであり,①の要件を満たして権利行使の申出期間が経過するだけで営業保証金の取戻しができるわけではなく,当該期間経過時点で取戻しが可能となるためには②の要件をも満たす必要があることは文言上明らかである(②の要件に係る申出があった場合には,当該申出に係る権利の不存在又は消滅が確定して初めて取戻しが可能となる。このように②の要件は取戻請求をする者の意思によって左右できないから,民法127条にいう条件であり,当該条件の成就があって初めて権利行使が可能になることとなる。)。被告主張の上記部分が,仮に②の要件を満たすまでもなく上記期間経過により当然に取戻請求権の消滅時効期間が進行するという趣旨のものであるとすれば,それは採用できない。 この点につき,被告は,債権者が履行の請求をした後一定の期間内に債務を履行すべき特約がある債権関係においては,その成立後上記期間を経過したときから債権の消滅時効期間を起算すべきものとした大審院大正3年判決を引用し,本件においても同様に考えられるべきであると主張 務を履行すべき特約がある債権関係においては,その成立後上記期間を経過したときから債権の消滅時効期間を起算すべきものとした大審院大正3年判決を引用し,本件においても同様に考えられるべきであると主張するが,同判決は,本件のように所定の条件の成就が時効の進行に影響する事案についてのものではないから,この主張も採用できない。 また,被告の主張中には,営業保証金取戻公告をすることが義務付けられているという部分もある。当該公告が義務的か否かのいかんが時効の起 算点に係る上記解釈について具体的にいかなる影響を及ぼすのか,必ずしも判然としないところではあるが,所論に鑑み検討すると,宅建業法30条2項は,「…営業保証金の取りもどし…は,当該営業保証金につき第27条第1項の権利を有する者に対し,6月を下らない一定期間内に申し出るべき旨を公告し,その期間内にその申出がなかつた場合でなければ,これをすることができない。ただし,営業保証金を取りもどすことができる事由が発生した時から10年を経過したときは,この限りでない。」と規定しており,文言上,営業保証金取戻公告をすることが義務であるとされているわけではないし,また,当該公告をしなかった時の制裁等が定められているわけでもない。この点,被告は,公告が義務的である根拠として宅建保証金規則8条1項も挙げるが,同項は,「…営業保証金の取戻しをしようとするには,官報に次の各号に掲げる事項を公告しなければならない。ただし,同条第2項ただし書の規定に該当するときは,この限りでない。」と規定しているのであって,営業保証金取戻公告をする際に公告すべき事項を定めたものであり,当該公告自体を義務付けるものとはいえない。そうすると,宅建業法30条2項は,営業保証金の取戻手続として同項本文及びただし書所定の二つの 業保証金取戻公告をする際に公告すべき事項を定めたものであり,当該公告自体を義務付けるものとはいえない。そうすると,宅建業法30条2項は,営業保証金の取戻手続として同項本文及びただし書所定の二つの方法があることを定めたものとはいえても,それ以上に,営業保証金取戻公告をすることを義務付けたものということはできない(後記(2)で述べるとおり,同公告は営業保証金を早く取り戻したいという宅建業者の利益を図るために設けられた面があると解し得ることに照らしても,同公告を義務的に行うべきものとするのが法の趣旨であるとは解されない。)。 もっとも,営業保証金取戻公告につき定めた宅建業法30条2項の趣旨等は,後記(3)で述べるとおり,本件の具体的事情の下における時効起算点を検討するに際して考慮されるべきものということができる。そこで,以下,上記趣旨等につき項を改めて検討する。 (2) 営業保証金取戻公告の趣旨宅建業者は,営業保証金を供託しなければならず(宅建業法25条1項),宅建業者の取引の相手方は,その取引により生じた債権に関し,営業保証金について,その債権の弁済を受ける権利を有する(同法27条1項)。もともと,宅建業者の取引の相手方は,その取引について生じた債権について,営業保証金の供託の有無にかかわらず,宅建業者に対して訴訟を提起するなどしてその請求をすることを妨げられないところ,宅建業法25条1項が宅建業者が営業保証金を供託しなければならないとしているのは,宅建業者の取引の相手方の利益保護をより厚いものとするとともに,宅建業者の信用を確保し,もって宅地建物取引の利用の促進を図ることとしたものと解される。 ところで,宅建業者の免許の有効期間が満了し,免許が更新されない場合であっても,当該満了前に宅建業者 ,宅建業者の信用を確保し,もって宅地建物取引の利用の促進を図ることとしたものと解される。 ところで,宅建業者の免許の有効期間が満了し,免許が更新されない場合であっても,当該満了前に宅建業者と取引をした相手方は,その取引について生じた債権について,宅建業者に対して訴訟を提起するなどしてその請求をすることは妨げられない。しかし,営業保証金を宅建業者が上記有効期間満了と同時に取り戻し得るとすれば,宅建業者の取引の相手方は,その重要な権利保護手段である営業保証金を喪失することになり,宅建業者の取引の相手方の利益保護のために宅建業者に対して営業保証金を供託させることとした趣旨を没却することになりかねないが(宅建業者の取引の相手方の利益保護の見地からはむしろ長期間供託を継続させるのが望ましいことになる。),その一方で,上記期間満了後長期間にわたり営業保証金を取り戻すことができないこととなれば,宅建業者の利益を害することとなる。そこで,両者の利益を調整する観点から,宅建業法30条2項本文,宅建保証金規則8条1項は,宅建業者であった者が供託した営業保証金を取り戻すには,保証金に権利を有する者に対し,官報に6月を下らない一定期間内に申し出るべき営業保証金公告をし,その期間内に申出がなかったことを要する旨定めたものと解される。また,宅建業法30条2項ただし書は,営業保証金取戻公告を しなくても,営業保証金取戻事由発生時から10年を経過した場合には,営業保証金の取戻しをすることができる旨規定しているが,これは,同事由発生から10年が経過した場合には,通常,営業保証金の取引の相手方が有する債権は時効により消滅しており,営業保証金の還付請求権を行使する者がいなくなるであろうとの考慮の下,同項本文同様に,宅建業者の取引の相手方と宅建業者の利 には,通常,営業保証金の取引の相手方が有する債権は時効により消滅しており,営業保証金の還付請求権を行使する者がいなくなるであろうとの考慮の下,同項本文同様に,宅建業者の取引の相手方と宅建業者の利益の調整を図ったものと解される。 以上のような仕組みに照らすと,営業保証金取戻公告の趣旨は,宅建業者の取引の相手方の重要な権利保護手段である営業保証金につき,宅建業者であった者が宅建業法30条2項ただし書所定の10年の経過を待つことなく取戻しを企図していることから,保証金に権利を有する者に対して,所定期間内に速やかに権利行使をするよう注意喚起をするものと解するのが相当である。なお,宅建業者は,宅地建物取引の際,宅建業者の取引の相手方に対し,宅建業者の事務所等に置かなければならないとされている取引主任者(宅建業法15条1項)をしてその記名押印のある重要事項説明書を交付して成立した契約内容等を説明することが義務付けられていること(同法35条)などに鑑みれば,宅建業者の取引の相手方は,その取引について債権が生じた場合,その債権の存在及びその相手方である宅建業者を認識することができることに照らすと,営業保証金取戻公告は,上記のとおり,速やかに権利行使をするよう注意喚起をする趣旨のものとはいえるが,宅建業者の取引の相手方に対してその有する債権の存在に気付かせたり,債務者である宅建業者を知らしめたりするために情報を提供する趣旨のものとはいえない。 (3) 本件の事情の下における時効起算点以上述べたところを踏まえて,本件の事情の下における時効起算点について検討する。 被告は,原告が営業保証金取戻公告をすることが可能であった以上,当該公告において定め得る最低限の期間の権利行使申出期間が経過した時点から 時効が進行する旨主張するが, いて検討する。 被告は,原告が営業保証金取戻公告をすることが可能であった以上,当該公告において定め得る最低限の期間の権利行使申出期間が経過した時点から 時効が進行する旨主張するが,前記(1)で見たとおり,同時点において営業保証金を取り戻すためには,当該期間内に保証金に権利を有する者からの申出がなかったことも要件になるというべきである。この点,本件では,原告が営業保証金取戻公告をする方法を選択せず,取戻事由発生から10年の経過を待つ方法を選択しているため,上記公告で定めた期間内に上記申出がなかったという事実自体は存在しない。しかしながら,このような場合であっても,仮に原告が本件で取戻事由発生後直ちに営業保証金取戻公告を行っていたとしても当該公告がされてから6月の期間内に保証金に権利を有する者からの申出がなかったであろうと認め得るだけの事情があるならば,当該期間経過時点において取戻請求権の行使が可能であったというべきであり,同時点から時効が進行を開始していたものと解するのが相当である(先に述べたとおり,同公告を行う方法を採ることが義務的というわけではないが,そのことと,原告が可能な手段を尽くした場合に最も早く権利行使をし得たのは状況から見てどの時点といえるかを検討することとは別の事柄である。なお,原告の主張中には,同公告を行うには費用を要することを述べる部分もあるが,それが同公告を行うことを困難とさせるほどのものとはいえない。)。 そこで,まず,本件の事実関係についてみると,前記前提事実で述べたとおり,原告については平成10年3月31日をもって宅建業法3条2項の免許の有効期間が満了しており,同期間が満了してから本件取戻請求までの10年以上の間,保証金に権利を有する者が本件保証金に対する権利の申出をしていないことが認め 3月31日をもって宅建業法3条2項の免許の有効期間が満了しており,同期間が満了してから本件取戻請求までの10年以上の間,保証金に権利を有する者が本件保証金に対する権利の申出をしていないことが認められる。この点,前記(2)でも見たとおり,宅建業者の取引の相手方は,その取引について債権が生じた場合,その債権の存在及びその相手方である宅建業者を認識することができるものといえるから,仮に原告が宅建業者として取引をした相手方のうちに当該取引について生じた債権について原告の営業保証金につき権利の申出を企図する者がいた場合には,営業保証金が供託された状態にあるにもかかわらず,民法上の消滅時効期間 である10年間が経過するまでの間,当該申出をしないまま放置することは通常考えにくいものというべきである。そうすると,原告の供託した営業保証金については,上記権利の申出をしようとする者が存在しなかったものと推認することができる。 以上の事情に加え,営業保証金取戻公告が,債権の存在に気付かせたり,債務者を知らしめたりする情報を提供する趣旨のものではなく,権利の行使をしようとする者に対して速やかな権利行使をするよう注意喚起をする趣旨のものであることにも照らすと,上記のとおり権利の申出をしようとする者がいなかったと推認される以上,速やかな権利行使のための注意喚起をしたところで,これに応じて権利行使をする者が現れたであろうとも考えにくい。 このような事情を総合すると,仮に原告が本件で営業保証金取戻公告を行っていたとしても当該公告がされてから6月の期間内に保証金に権利を有する者からの申出はなかったであろうと推認されるところであり,本件において,かかる推認を覆すだけの事情が存するとは証拠上うかがわれない。 (4) 小括以上によれば,原告は,平成10 に権利を有する者からの申出はなかったであろうと推認されるところであり,本件において,かかる推認を覆すだけの事情が存するとは証拠上うかがわれない。 (4) 小括以上によれば,原告は,平成10年3月31日をもって宅建業法3条2項の免許の有効期間が満了しているから,同年4月1日には,公告で定め得る最低限の期間である6か月を権利申出をするために必要な期間と定めて営業保証金取戻公告をし,この6か月を経過した日の翌日である平成10年10月2日から現実に本件取戻請求権を行使することが可能であり,この日から本件取戻請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。そうすると,結論的には,それから10年が経過をした翌日である平成20年10月2日をもって本件取戻請求権の消滅時効が完成していることとなる。 2 本件処分の適法性前記1のとおり,本件取戻請求権は,平成20年10月2日をもって時効により消滅しているから,本件取戻請求権について消滅時効が完成していること を理由に本件取戻請求を却下した本件処分は,適法である。 3 本件義務付けの訴えについて本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号所定の申請型の義務付けの訴えであるところ,申請型の義務付けの訴えについては,当該処分が「取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在である」ときに限り,提起することができると定められており(同法37条の3第1項2号),併合提起した処分の取消請求又は無効確認請求が認容されることが訴訟要件になるところ,本件義務付けの訴えと併合提起された本件処分が取り消されるべきものでないことは前記2判示のとおりであるから,本件義務付けの訴えは,上記訴訟要件を欠くものとして不適法である。 第4 結論以上によれば,本件各訴えのうち,本件義務付けの 処分が取り消されるべきものでないことは前記2判示のとおりであるから,本件義務付けの訴えは,上記訴訟要件を欠くものとして不適法である。 第4 結論以上によれば,本件各訴えのうち,本件義務付けの訴えは不適法であるから却下し,原告のその余の訴えに係る請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官小林宏司 裁判官桃崎剛 裁判官中村仁子
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