平成13(わ)11 殺人,恐喝,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成13年11月8日 大分地方裁判所
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判決文本文11,255 文字)

主文 被告人を懲役14年に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 押収してある刺身包丁2丁(平成13年押第13号の1及び2)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯) 1 被告人は,平成4年3月に大分県宇佐市内の高校を卒業後,定職に就かず,同年8月ころから,暴力団A組B会C興業大分支部長であるDを頼って同支部組員となり,同支部の若頭となった。その後,被告人は,Dが実質的に経営する人材派遣業や金融業を営む有限会社Eの取締役となり,同社の貸付及び回収業務を取り仕切るようになった。同社の事務所は,同支部の組事務所を兼ねており,同支部の組員であるFやGが同社の従業員として稼働していた。被告人は,同社の従業員であり,被告人を慕っていたHに対し,同組組員になるように誘い,同人は,平成12年11月3日ころ,被告人と兄弟分の杯を交わして同組組員となり,以後は専ら被告人の指示を受けて同組の事務所当番や同人の運転手を務めるようになった。 2 被害者Iは,有限会社Jを設立し,土木建築請負業を営んでいたが,平成7年ころ,Dと知り合い,同社の運転資金をEから借り入れるようになった。Iは,平成11年7月末に3000万円の借用書をDに差し入れ,月々分割返済をしていたが,他にも多額の借金を抱えていたため,同社に対する返済を遅延することが増えていった。 3 Dは,平成12年8月ころから生命保険会社の外交員であるKと情交関係を有していたが,同年9月25日ころ,同女が以前Iとの間でも情交関係にあったことを知って憤慨し,同年10月から11月にかけて,Kに対し,3回にわたり顔面を殴打するなどの暴行を加えて傷害を負わせた。このころ,被告人は,Iに対し,Kとの関係を追及すると共に前記貸付金3000万円を同年10月末までに一括で支払うように要求していたが,Iが返済を怠ったばかり 打するなどの暴行を加えて傷害を負わせた。このころ,被告人は,Iに対し,Kとの関係を追及すると共に前記貸付金3000万円を同年10月末までに一括で支払うように要求していたが,Iが返済を怠ったばかりか居所も明らかにしないようになったため,Jの事務所に乗り込み,同社の従業員を退社させた上で,同社で使用していた普通貨物自動車(以下「本件自動車」という。)等を前記貸付金の担保としてEの事務所付近の駐車場に移動し,帳簿等を持ち帰った。Iは,被告人がIの妻に対し前記貸付金の保証人になるように迫ったり,Iの兄,父及びIの経営上の相談役を呼び出し,前記貸付金の返済を執拗に求めたりするようになったため,暴力団A組L会会長に対し,前記貸付金の返済の猶予の仲介にあたるように依頼した。また,被告人は,そのころ,Hに対し,事務所で使用するためと言って刺身包丁2丁を購入させ,これを持ってIの知人宅までIを探しに行ったり,当時Iが居住していた東国東郡a町所在のアパートへ赴くなどしたが,結局Iを見つけることはできなかった。 4 Kは,同年11月9日,警察に対し,Dによる前記暴行事件について被害届を提出したため,Dは,Iの知人に対し,Iを説得してこれを取り下げさせるよう頼んだが断られ,被告人も,Iに対し,知人を介して被害届を取り下げるかIの妻にKを相手に訴訟を起こさせるように頼んだが断わられた。 Dは,同月25日,被告人と共に名古屋市内に所在するB会C興業本部の事務所当番に就くために大分空港に赴いたが,被告人の目の前でKに対する前記傷害の容疑により逮捕された。そのため,被告人は,Dの見送りに来ていたHを連れて名古屋の同組事務所に向かい,Dの逮捕について報告した後,上京し,都内の弁護士にDの弁護を依頼した。さらに,被告人は,前記被害届はIがKに指図して提出させたもので 人は,Dの見送りに来ていたHを連れて名古屋の同組事務所に向かい,Dの逮捕について報告した後,上京し,都内の弁護士にDの弁護を依頼した。さらに,被告人は,前記被害届はIがKに指図して提出させたものであるから,Dを助けるためには,Iに対し,前記刺身包丁を突きつけて脅し,拉致するなどしてKの被害届を取り下げさせる必要があると考え,直ちに大分に戻った。 5 被告人は,Hと共に翌26日午前2時ころ,大分の同組事務所に到着し,その際,Hに対し,Jから引き上げた本件自動車を運転して自宅まで迎えにくるように指示した。 そして,自らは,同組事務所から前記刺身包丁2丁を入れた箱2箱,ロープ,ガムテープ,ゴム手袋,作業着2着等を紙袋に入れて運び出し,自宅に戻って作業着に着替えた。 被告人は,同日午前3時ころ,Hが本件自動車で被告人宅に到着すると,Hを前記作業着に着替えさせた後,前記刺身包丁等を入れた紙袋を持って本件自動車に乗り込んだ。被告人は,Hに対し,本件自動車をa町方面へ走らせるように指示し,途中スーパーに立ち寄って軍手等を購入させた上,これを着用させ,同日午前5時ころ,a町所在の前記I方アパート付近に到着した。そこには,既に被告人がIを殺害するなどの行動に出ることを恐れたF及びGが被告人を待っていたため,被告人は,いったん本件自動車及びFが運転してきた自動車を同所から移動させた後,F及びGに対し,Iには手を出さない旨約束して帰らせた。 6 その後,被告人は,Hに対し,前記I方アパートの南側の駐車場に本件自動車を停車して軍手の上からゴム手袋を両手にはめるように指示し,自らもゴム手袋をはめて前記刺身包丁2丁を箱から出して身に付け,ガムテープ1巻を手にとって本件自動車を降り,Hにガムテープを持たせてI方アパートに向かった。被告人は,当初,Iを拉致するため, 示し,自らもゴム手袋をはめて前記刺身包丁2丁を箱から出して身に付け,ガムテープ1巻を手にとって本件自動車を降り,Hにガムテープを持たせてI方アパートに向かった。被告人は,当初,Iを拉致するため,窓ガラスを割ってそこからI方に侵入しようと考え,Hを連れてI方の南東側に回り,角部屋のガラス戸の錠付近にガムテープを貼り,その上から金属製のガスのバルブキャップでガラスを叩き割り始めたが,物音に気付いたIが室内に姿を現したため,本件自動車に駆け戻った。被告人は,同じように本件自動車に戻ってきたHに対し,前記刺身包丁の内の1丁を渡し,もう1丁の刺身包丁を自ら手にすると,居宅から出てきたIに近づき,Hも被告人の後を追った。 (罪となるべき事実)被告人は,暴力団A組B会C興業大分支部幹部組員であるが,第1 Hと共謀の上, 1 平成12年11月26日午前5時35分ころ,大分県東国東郡a町大字bc番地のd付近路上において,I(当時40歳)に対し,殺意をもって,こもごも同人の左前胸部等を所携の刃体の長さ約18.7センチメートルの各刺身包丁(平成13年押第13号の1及び2)で3回突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を左肺静脈損傷による失血により死亡させて殺害し, 2 業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時・場所において,前記刺身包丁2丁を携帯し,第2 M(当時36歳)が,いわゆるデートクラブである「N」のデート嬢「O」ことPの面前で,覚せい剤を使用したことを聞知するや,これに因縁を付けてMから金員を喝取することを企て,同デートクラブの責任者であるQ及び同支部組員であるFと共謀の上,平成12年11月5日午後1時10分ころから同日午後6時ころまでの間,大分市e町f丁目g番h号株式会社R店内及び同店西側駐車場に駐車中の普通乗用自動車内に であるQ及び同支部組員であるFと共謀の上,平成12年11月5日午後1時10分ころから同日午後6時ころまでの間,大分市e町f丁目g番h号株式会社R店内及び同店西側駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において,被告人が,Mに対し,「あんた女の子の前でシャブしたろう。」,「あんたがしたことでヒネ(警察)が乗り込んで来てパクられたりでもしたら・・・商売出来んごとなる。この責任をどうとるつもりか。」,「店のオーナーは300万円で示談をすると言いよる・・・俺がオーナーに200万円で話をつけちゃる。」,「ここに200万円ある。これを俺が貸してやるからこの200万円で俺が話をつけちゃる。話がついたら,あんたが俺に返してくれりゃいいわ。どういう意味か分かるやろ。」,「オーナーが怒っているので,俺が話をつけちゃると言いよるんじゃあ。おう,何を考えることがあんのかわれ。」,「われがこん話を飲めんのなら,今からでん警察に突き出すぞ。その代わり,どっちにしてんお前から銭は取るんじゃから。お前がヒネ場(警察)に行ってん,家族から取らいいだけじゃあ。」,「お前シャブの売しよろうが。誰の許可を受けてシャブの売をしよんのか。俺のシマでそげんことをしよんのなら,すぐに警察に突き出してもいいし,石井一家じゃろうがどこじゃろうがたった今連れて行ってけじめをつけてやるぞ。」旨語気鋭く申し向けた上,Fが,現金200万円を持参し,その貸付役を装って,被告人に同現金を手交し,被告人が同店内に待機させていたQを同デートクラブの経営者としてMに紹介し,同人に同現金200万円を手交した後,直ちにQに交付させ,Mが,同金員を借りたように仕向け,さらに,被告人が,Mに対し,「あんたが金を借りたんじゃから,借用書を書け。12月5日に100万円,1月5日に100万円を支払え。」旨申し向けて,金員の交 交付させ,Mが,同金員を借りたように仕向け,さらに,被告人が,Mに対し,「あんたが金を借りたんじゃから,借用書を書け。12月5日に100万円,1月5日に100万円を支払え。」旨申し向けて,金員の交付を要求し,その要求に応じなければ,M及びその家族の身体,財産等に危害を加えかねない気勢を示して同人を畏怖させ,よって,同日午後6時ころ,同店内において,Mをして,現金200万円を借り受けた旨の借用書1通を作成させるとともに,現金200万円の支払を約束させ,もって,財産上不法の利益を得たものである。 (証拠の標目) 省略(事実認定の補足説明)弁護人は,判示第1の1について,被告人の行為と被害者の死亡との間には因果関係がなく,また,被告人は当初から被害者を殺害する計画で本件現場に赴いたのではなく,Hに包丁を渡したことをもって殺人の共謀が成立したとはいえず,Hが被告人とは関係なく被害者を刺して死に至らしめたとして,Hとの共謀による殺人罪は成立しない旨主張するので,以下,判示のとおり,Hとの共謀による殺人罪の成立を認定した理由を補足して説明する。 1 被告人及びHの実行行為について関係各証拠によれば,以下の事実が認定できる。 (1) 被害者は,左鎖骨下部刺創(以下,「第1創」という。),左乳房部刺創(以下「第2創」という。),左下肋部刺創(以下「第3創」という。)を負っており,被害者の死因は,第2創によって左肺静脈が損傷されたことに起因する失血(致命的大出血)である。各創の深さは,第1創が9.4センチメートル,第2創は,いわゆる2度突きになっていて,それぞれの深さが18.5センチメートルと18.3センチメートル,第3創が21センチメートルで,第3創には柄の抜けた刺身包丁が刺入されたままになっている。第1創及び第3創は,血管や臓器を損傷し いて,それぞれの深さが18.5センチメートルと18.3センチメートル,第3創が21センチメートルで,第3創には柄の抜けた刺身包丁が刺入されたままになっている。第1創及び第3創は,血管や臓器を損傷しておらず,そこから大量の出血をすることは考えにくい。 (2) 被害者は,道路西側の歩道上に口から多量の血液を吐き出した状態で仰向けに倒れており,道路の中央線付近の東側車線上から西側の歩道上付近までは,点々と半円を描くように大豆大ないし小豆大の大きさの滴下血痕が十数メートルほど続いているが,その間に多量の出血を窺わせる血痕はない。 (3) 被告人及びHが逃走に使用した本件自動車内には,被告人が座っていた助手席側とHが座っていた運転席側の双方に血液の付着が認められる。 (4) 本件殺害時,SとTが軽トラックに乗って現場を通りかかり,被害者らが道路西側の歩道上に至る前後の状況を目撃した。Tは,3人の男がほぼ一列になって道路の西端から歩道上に移動し,他の2人より背が低く見える男が右手で被害者の胸か腹のあたりを突き上げたところ,被害者はいったん体を前屈みにして,攻撃した男に寄りかかるような姿勢になった後,背筋を伸ばすような形で姿勢を戻し,そのまま仰向けに倒れ,攻撃した男はその直後に腰を低くし,前屈みになって,右手を被害者の左脇腹か左胸付近に向けてまっすぐ突き出したと供述している。Sは,3人の男が喧嘩をしているようだったので,車両を減速して止めると,被害者は道路西側の歩道上で他の2人より拳1個分以上背が低く見えた男と対峙していたが,2,3歩後ずさりして仰向けの状態で倒れた,すぐに被害者と対峙していた男がきらっと光る物を握っているのが目に入ったが,その男が腰を落とし,中腰の姿勢で仰向けになった被害者の左脇腹か左胸付近を1回刺して立ち上がった時には,その 状態で倒れた,すぐに被害者と対峙していた男がきらっと光る物を握っているのが目に入ったが,その男が腰を落とし,中腰の姿勢で仰向けになった被害者の左脇腹か左胸付近を1回刺して立ち上がった時には,その包丁が見当たらなかった旨供述している。なお,証拠によれば,被告人の身長は約174センチメートル,Hの身長は約165センチメートル,被害者の身長は約175センチメートルである。両名の供述は,目撃状況,供述相互間の一致,一貫性,客観的証拠との整合性などに照らし,信用性が高いといえる。 (5) Hの元恋人であるUは,逃亡中のHから何度も電話を受けたが,Hは,犯行当日の電話では,「兄貴が殺ったので,俺も一緒に殺った。」と話し,翌日ころの電話では,「兄貴が殺って,その後で俺が2回殺った。」と話した旨供述している。HとUとの関係,供述の時期や状況に照らせば,Hは,Uに対し,電話の際,真実を述べたと考えるのが自然である。 以上によれば,被告人らは,東側車線の中央線付近から道路西側の歩道上までほぼ一団となって移動し,まず被告人が東側車線の中央線付近で被害者の左胸を1回刺して第1創を負わせ,その後,これを見たHが道路西側の歩道上付近で被害者の左胸を刺して第2創を負わせたところ,被害者は仰向けに倒れ,多量の血液を吐き出し,Hも返り血を浴びたが,同人は,更に倒れた被害者の左脇腹付近を刺して第3創を負わせ,その際,刺身包丁を引き抜くことができなかったため,これを被害者の身体に残したまま現場から逃走したものと認めるのが相当である。なお,被告人及びHは,最初に被告人が2回刺し,2回目の刺突の際に包丁が抜けなくなって柄だけがとれ,その後にHが1回刺したと供述しているが,被告人らの供述を総合すると,被告人が東側車線の中央線付近で第2創を刺したことになるところ,これは,前記 ,2回目の刺突の際に包丁が抜けなくなって柄だけがとれ,その後にHが1回刺したと供述しているが,被告人らの供述を総合すると,被告人が東側車線の中央線付近で第2創を刺したことになるところ,これは,前記創傷の部位や状態,血痕の付着状況といった客観証拠と矛盾しており,信用できない。 2 被告人及びHの共謀について判示犯行に至る経緯のとおり,Hは被告人を慕い,被告人に誘われて暴力団に加入したものであり,Hは暴力団加入後,常に兄貴分である被告人に付き従って被告人と行動を共にしていたこと,本件現場へ赴くにあたっても,被告人は,Hに対し,特に理由等を告げることなく,ゴム手袋や軍手の着用等の通常不自然と感じるべき行動を指示しているのに,Hは被告人に対し何ら説明を求めることなく極めて従順にその指示に従っていること,被告人は,被害者に危害を加えるため,被害者宅への不法侵入を図った際にも,Hに対し,ガムテープを手渡した上で,これを持ってついて来るように指示すれば,Hは当然に自己の意思を察して自分と行動を共にするであろうと考え,実際,Hは同指示により被告人が自己に手伝わせてガラスを割って被害者宅に侵入し,中にいる者に危害を加えるつもりであることを察し,何ら躊躇せずに被告人がガラスを割るのを手伝っていること,被告人もHも,被告人が刺身包丁をHに渡した際,被告人が被害者に攻撃を加える際にはHがその刺身包丁を使うなどして被告人を援護し,加勢する意思であることを当然のこととして暗黙の内に了解していた旨供述していることなどからすれば,被告人とHの間では,通常,仮に違法な行為であっても,具体的な言葉で説明あるいは指示するまでもなく,Hが被告人の行動などからその意を察して行動を共にし,被告人の側でもHがそのような行動に出ることを当然のこととして了解していたことが認められ あっても,具体的な言葉で説明あるいは指示するまでもなく,Hが被告人の行動などからその意を察して行動を共にし,被告人の側でもHがそのような行動に出ることを当然のこととして了解していたことが認められる。 ところで,本件犯行において,被告人は,被害者に対し,所携の刺身包丁で身体の枢要部である左胸部を深く突き刺して第1創を負わせており,凶器の性状,刺突部位・強度及びこれらに対する被告人の認識からすると,被告人が第1創を刺した際に殺意を有していたことは誰の目から見ても明らかであり,被告人の行動を間近で見ていたHが被告人の殺意を認識したこともまた優に認定できる。とすれば,前記のような従前からの被告人とHとの主従関係に加え,Hが被告人の刺突行為を目撃した後に自ら前記刺身包丁で2回被害者の左胸部を刺していること,被告人はHを止めることなく,Hが被害者にとどめを刺すのを見てから共に逃亡していること,Hは,被害者を刺した動機として,被告人が殺ったから自分も殺ったなどと供述していることなどを併せ考えれば,被告人は,自らが殺意を持って被害者を刺した際,これを見たHが,被害者を殺害するという被告人の意思を察し,当然自分の後に続いて被害者を刺すだろうと考え,仮に自分が刺した傷が致命傷とならなくても,Hが刺した傷によって被害者が死亡すればよいとの意思を有しており,Hも被告人が被害者を刺すのを見て,被告人の意を察し,被告人に加勢して自らも被害者を刺殺する決意を固めた後に被害者を刺したものと考えるのが自然である。 よって,遅くとも,被告人が被害者を刺したのを見たHが自ら被害者を刺した時点までには,被告人とHとの間で,被害者の殺害について黙示の共謀が成立していたことが認められる。 3 以上のとおり,被告人とHが共謀の上,殺意をもってそれぞれ被害者を刺し,その結果 被害者を刺した時点までには,被告人とHとの間で,被害者の殺害について黙示の共謀が成立していたことが認められる。 3 以上のとおり,被告人とHが共謀の上,殺意をもってそれぞれ被害者を刺し,その結果,被害者を死亡させたことが認められ,被告人の与えた傷と被害者の死亡との間の因果関係の有無は何ら殺人罪の成否に影響しないから,弁護人の主張は採用のかぎりではない。 (法令の適用)罰条判示第1の1の所為刑法60条,199条判示第1の2の所為刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条判示第2の所為刑法60条,249条2項刑種の選択判示第1の1の罪有期懲役刑判示第1の2の罪懲役刑併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第1の1の罪の刑に同法14条の制限内で加重)未決勾留日数算入刑法21条没収刑法19条1項2号,2項本文(量刑の理由) 1 判示第1の事件について本件は,暴力団幹部である被告人が弟分の組員と共謀の上,土木建築会社社長である被害者をそれぞれ鋭利な刺身包丁で刺して死亡させた事件である。 被告人は,本件犯行の首謀者であり,暴力団に加入してまだ日の浅い組員であった共犯者を本件犯行に巻き込み,被告人らは共謀の上,被害者に対し,強固な殺意に基づき,左胸付近を立て続けに刺身包丁で3回刺して殺害したもので,激しい出血,吐血により被害者が瀕死の状態に陥った後にも,更に続けて深く刺身包丁を突き刺すなど,その態様は執拗で残忍である。 被告人は,本件殺害に及んだ動機について,被害者が,KとDの交際しているのを知りながら未だにKと密会していた,前記傷害事件についてKに対し被害届を提出するように指図した,被告人が融資した3000万円余りについて返済を怠る一方で,K ついて,被害者が,KとDの交際しているのを知りながら未だにKと密会していた,前記傷害事件についてKに対し被害届を提出するように指図した,被告人が融資した3000万円余りについて返済を怠る一方で,Kに保険金名目で隠し金を支払っていた,前記貸付金の返済の猶予を求めようとして他の暴力団組織に援助を求め,被告人が所属する暴力団の面目をつぶしたなどと思ったため,これらのことについて被害者を非難する趣旨の言葉をかけたところ,同人が謝罪することもなく,開き直った態度を取ったため,同人を殺害することを決意した旨供述しており,その真偽のほどは明らかではないが,本件犯行が暴力団に楯突いた被害者に対する制裁的な意味を持っていたことは明らかである。被害者の側にも,自らの事業を維持するためとはいえ,軽率にも暴力団関係者から運転資金の融資を受け,その返済を遅延したという事情はあるものの,被害者が被告人らから借金の一括返済を迫られたため,他の暴力団関係者に仲介を依頼したのは,一般人である被害者が自分や家族を守るための自衛策としてやむを得ない面もあったのであり,少なくとも被告人らは,被害者がこのような措置を採ったことを非難できる立場にあるものではないのであって,本件犯行には何ら酌量の余地はない。被告人は,被害者方に赴くに当たり,予め被害者を拉致するために前記刺身包丁や軍手などを用意し,作業着に着替え,手袋等をはめるなど周到な準備を行い,本件犯行を敢行し,犯行後も,本件自動車を乗り捨て,前記作業着等を廃棄して証拠の隠滅を図り,1か月にわたり逃走を続けるなど,規範を無視し人命を軽視する暴力団特有の思考に従って行動していたものであって,本件犯行は,社会に暴力団組織の凶暴性を印象づけ,一般人にも大きな恐怖心を与えたのであり,このような反社会性の強い凶悪な犯罪について厳しい 軽視する暴力団特有の思考に従って行動していたものであって,本件犯行は,社会に暴力団組織の凶暴性を印象づけ,一般人にも大きな恐怖心を与えたのであり,このような反社会性の強い凶悪な犯罪について厳しい処罰を下すことは社会的要請でもある。 被害者は,深い傷を負って瀕死の状態に陥り,大量の失血により死亡したのであるが,家族と離れ,単身事業の再起を図るため努力していた矢先に,妻や幼い子供を残して無惨に殺害された被害者の無念の気持ちは察するに余りある。被害者は借金の取立てから妻子を守るため形式的に離婚をしているが,事業を再興した暁には再び生活を共にするつもりであったのであり,被害者が死亡したことにより生活の支えを失った妻子の精神的・経済的損害は甚大であり,被害者の父母が「家族の悲しみ」として提出した書面に記載されているとおり,被害者を失った遺族の悲しみは言葉では言い表しがたいものであって,遺族らが被告人らに対して強い怒りを感じているのも当然のことである。それにもかかわらず,被告人は,遺族らに対して何ら慰謝の措置をとっていないばかりか,本件犯行に至るまでの被害者の態度を非難する供述を繰り返し,暴力団を脱退するか否かについては明言を避けるなど,真摯に反省,謝罪の態度を示すことすらしていない。 2 判示第2の事実について本件は,被告人が,デートクラブの経営者や所属暴力団の組員と共謀の上,被害者に対し,同人がデートクラブのデート嬢の前で覚せい剤を使用したことに因縁を付けて脅迫し,200万円の支払を約束させたという恐喝の事案である。 本件犯行は,暴力団が活動資金獲得のために人の弱みにつけ込んで不法な利益を得ようとする典型的な犯行であり,被害者の側にも,覚せい剤を使用したという非難すべき点があるものの,それを理由に被害者を恐喝するという被告人らの行 活動資金獲得のために人の弱みにつけ込んで不法な利益を得ようとする典型的な犯行であり,被害者の側にも,覚せい剤を使用したという非難すべき点があるものの,それを理由に被害者を恐喝するという被告人らの行為には,何ら正当な理由はなく,動機に酌量の余地はない。被告人は,デートクラブの経営者や所属暴力団の組員と示し合わせ,被害者に対し,デートクラブ側と示談するための費用として現金200万円を貸し与えたかのように装って借用書を作成させ,後日,被害者から200万円を取り立てる際,正当な債権に基づいて請求しているに過ぎないという弁解ができるように工作するなど,その手口は巧妙かつ悪質である。本件は,共犯者であるデートクラブの経営者が,前記デート嬢から被害者の覚せい剤使用について聞き,現役の暴力団員である被告人と共謀すれば,被害者から金銭を喝取できると考え,被告人に対し,被害者がデート嬢の前で覚せい剤を使用したと話したことがその発端となったものであるが,被告人は,自ら被害者を呼び出して金銭の支払を要求し,被害者がこれを渋ると,要求に応じなければ被害者を警察に突き出し,家族に対して請求するなどと怒鳴りつけて脅迫し,共犯者らに対し,200万円を持参し,前記デート嬢を連れてくるように指示しているなど,本件犯行の主要な実行行為を行っており,その責任は特に重い。本件は,被害者が警察に通報したために現実には200万円の返済約束は履行されずに終わったが,被害者は,被告人が現役の暴力団員であるため,自己や家族の身体等に危害が及ぶのではないかという恐怖を感じ,被告人の逮捕後も被告人から報復を受けるのではないかという恐怖に悩まされているのであって,その被害は小さくない。それにもかかわらず,被告人自身は被害者に対し,何ら慰謝の措置を講じていない上,法廷でも本件犯行は覚せい剤の乱 から報復を受けるのではないかという恐怖に悩まされているのであって,その被害は小さくない。それにもかかわらず,被告人自身は被害者に対し,何ら慰謝の措置を講じていない上,法廷でも本件犯行は覚せい剤の乱用を防いだもので悪いことだとは思っていない旨供述しているなど,全く反省していない。 3 以上によれば,被告人が実際に被害者を刺したのは最初の一度だけで,その後致命傷を与えたのは共犯者であること,恐喝については,共犯者が被害者に対し,慰謝料として50万円を支払っていること,被告人には前科がなく,本件殺害行為自体については反省している旨述べていることなどを考慮しても,主文の程度の量刑は免れないというべきである。 (求刑懲役18年,刺身包丁2丁没収)平成13年11月8日大分地方裁判所刑事部裁判長裁判官久我泰博裁判官金田洋一裁判官金築亜紀

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