令和2(ワ)22514 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年4月21日 東京地方裁判所
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判決文本文12,693 文字)

令和4年4月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第22514号国家賠償請求事件口頭弁論終結日令和4年2月17日判決 主文 1 被告は、原告に対し、2万2000円及びこれに対する令和2年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを6分し、その5を原告の負担とし、その余 を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が1万4000円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、12万1601円及びこれに対する令和2年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、弁護士である原告が、未決拘禁者として東京拘置所に収容された被告 人の弁護人として、同被告人に対する控訴趣意書案の差入れの申出をしたが、これを拘置所職員により拒否されたことによって、弁護人の接見交通権を違法に侵害されたと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項による損害賠償請求権として、慰謝料等の損害金12万1601円及びこれに対する違法行為日(上記申出の拒否日)である令和2年2月15日から支払済みまで平成29年法律第44 号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事 案である。 (注) 以下において、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律を「法」、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則を「規則」と略記する。また、日付は、特記ない限り、令和2年を指す。 1 前提事実( 注) 以下において、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律を「法」、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則を「規則」と略記する。また、日付は、特記ない限り、令和2年を指す。 1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認 められる事実)⑴ 当事者等ア原告は、東京都世田谷区内に事務所を置く弁護士であり、1月15日、控訴審である東京高等裁判所令和▲年(う)第▲▲号公務執行妨害被告事件(以下「本件被告事件」といい、本件被告事件の被告人を「本件被告人」という。) の国選弁護人に選任された。 本件被告人は、当時、東京拘置所に未決拘禁者として収容されていた。 (以上につき、甲3、4、弁論の全趣旨)イ被告は、東京拘置所を管理運営している(弁論の全趣旨)。 ⑵ 本件被告事件における控訴趣意書の提出期限 東京高等裁判所は、本件被告事件について、原告が国選弁護人に選任されるまでに、控訴趣意書の提出期限を2月17日(月曜日)と指定した(甲4)。 ⑶ 原告による接見及び控訴趣意書案の差入れの申出ア原告は、2月14日、東京拘置所に対し、控訴趣意書の提出期限が迫っており閉庁日である土曜日の接見が必要であるとして、接見時間を同月15日 (土曜日)午前11時から60分間として、本件被告人との接見を予約した。 東京拘置所は、この接見の予約を受け付けた。 (以上につき、乙4、弁論の全趣旨)イ原告は、2月15日(土曜日)に東京拘置所を訪れて、午前11時7分から午前11時54分までの間、東京拘置所において、本件被告人と接見し、 本件被告事件の控訴趣意書の記載内容等について打合せをした(乙4、5、 弁論の全趣旨)。 ウ原告は、上記接見の終了後である2月15日(土曜日)正午頃、東 において、本件被告人と接見し、 本件被告事件の控訴趣意書の記載内容等について打合せをした(乙4、5、 弁論の全趣旨)。 ウ原告は、上記接見の終了後である2月15日(土曜日)正午頃、東京拘置所の面会受付係の職員及び同日の監督当直者であった処遇部指導部門統括矯正処遇官のAに対し、原告の持参した本件被告事件の控訴趣意書案(以下「本件文書」という。)を本件被告人に対して差し入れることを申し出たが、 土曜日は物品の差入れ業務を行っていないことを理由として、その申出を拒否された(甲2、8、乙6、弁論の全趣旨)。 ⑷ 控訴趣意書の提出原告は、2月17日、東京高等裁判所に対し、本件被告事件に係る控訴趣意書を提出した。原告の提出した控訴趣意書は、本件文書と同一の内容であった (甲1、7)。 ⑸ 原告の東京拘置所長に対する通知書の送付原告は、2月20日付けで、東京拘置所長に対し、上記⑶ウの本件文書の差入れの申出を拒否されたことが接見交通権の侵害として違法であり、その拒否について法令上の根拠を示すよう求めるとともに、国家賠償請求訴訟を提起す る旨の通知書(以下「本件通知書」という。)を送付した(甲2)。 2 争点⑴ 東京拘置所の職員が本件文書の差入れの申出に応じなかったことについて、国家賠償法上の違法性等の有無(争点1)⑵ 損害の内容及び損害額(争点2) 3 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(東京拘置所の職員が本件文書の差入れの申出に応じなかったことについて、国家賠償法上の違法性等の有無)について(原告の主張)ア憲法34条前段及び37条3項は、被告人が、弁護人から援助を受ける機 会を持つことを実質的に保障しており、この趣旨を踏まえて、刑事訴訟法3 9条1項は、弁護人 いて(原告の主張)ア憲法34条前段及び37条3項は、被告人が、弁護人から援助を受ける機 会を持つことを実質的に保障しており、この趣旨を踏まえて、刑事訴訟法3 9条1項は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)と被告人との間の接見交通権を保障している。弁護人等と被告人との間の接見交通権は、専門家である弁護人が、被告人に対し、独自の立場から後見的な役割を果たすことが不可欠であることから保障されているものであり、弁護人固有の権利として重要 な憲法上の権利である。 また、刑事訴訟法39条2項は、弁護人等との接見交通権に基づく接見又は書類若しくは物の授受の制限について、法令で、被告人の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障がある物の授受を防ぐために必要な措置を規定することができるとしており、弁護人等以外の者との間で行う場合と区別して、限定 的に規定している(刑事訴訟法81条参照)。 これに加えて、市民的及び政治的権利に関する国際規約14条1項、同条3項b及びd並びに強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約17条等の規定も考慮すると、弁護人と被告人との間の書類の差入れを禁ずることは、許されないというべきである。 イ本件文書は、高等裁判所に提出する控訴趣意書の案であり、本件被告人の防御権の行使に不可欠な文書であって、その授受は、接見交通権の一環として重要である。被告は、弁護人等の被告人に対する物品の差入れについて、刑事施設の管理運営上の支障を理由として制限を正当化するが、これは、弁護人等による文書の差入れとその他の者の物品の差入れとを同一視し、弁護 人等の接見交通権を軽視するものであって、相当でない。 また、弁護人等の被告人に対する信書 制限を正当化するが、これは、弁護人等による文書の差入れとその他の者の物品の差入れとを同一視し、弁護 人等の接見交通権を軽視するものであって、相当でない。 また、弁護人等の被告人に対する信書の受付に当たっては、秘密接見の保障への配慮の観点から、その検査は、弁護人等からの信書であることの確認にとどめるものとされている(法135条2項1号)。東京拘置所では、平日の夜間、土・日曜及び祝日であっても、弁護人等から被告人に対する信書が 到達した場合には、当該被告人に信書が交付される運用がされているところ、 本件文書は、控訴趣意書の案であり、弁護人等からの信書と同程度の検査がされれば足りるのであって、特段の人員配置等を要するものでもない。 ウさらに、東京拘置所の職員は、原告から、控訴趣意書の提出期限が迫っており、本件文書の差入れが認められるべきとの抗議を受けたにもかかわらず、本件文書の体裁及び記載内容を確認することなく、本件文書の差入れを拒否 している。なお、被告が本件文書の差入れの必要性がないとして指摘する事情は、いずれも文書の差入れの許否についての原則と例外を逆転させるものであって、これらを考慮するのは相当でない。 エこのように、本件文書の差入れは、接見交通権の一環として重要であり、土曜日であっても差入れに当たり検査等の業務を行うことに支障はなかっ た。それにもかかわらず、本件文書の体裁及び記載内容を確認せずに、土曜日には物品の差入れの受付業務をしていないことを理由として、本件文書の差入れを認めなかった東京拘置所の職員の行為は、原告の接見交通権を侵害するものとして、国家賠償法上の違法性があり、また、故意又は過失があったと認められる。 (被告の主張)ア弁護人等による被告人との接見交通権は、憲法上保 の行為は、原告の接見交通権を侵害するものとして、国家賠償法上の違法性があり、また、故意又は過失があったと認められる。 (被告の主張)ア弁護人等による被告人との接見交通権は、憲法上保障される弁護人依頼権に由来する重要な基本的権利に属するが、他の権利と同様、何ら制約を受けない絶対不可侵のものではなく、逃亡及び罪証隠滅の防止、刑事施設内の規律及び秩序の維持を図るため必要かつ合理的な制約を受けるものである。さ らに、弁護人等の被告人に対する物品の差入れは、接見交通権の内容に含まれるとしても、面会のような中核的な内容ではない。 現に、弁護人等と被告人との面会は、日曜日その他政令で定める日以外の日(以下「開庁日」という。)の執務時間内については制約されず(法118条1項)、開庁日の執務時間外及び日曜日その他政令で定める日(以下「閉庁 日」という。)については刑事施設の管理運営上支障があるときを除いて、こ れを許すものと定められているが(法118条3項)、他方で、物品の差入れについては、弁護人等による差入れとそれ以外の者による差入れとを区別せずに、刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができると定められている(法51条)。また、開庁日の執務時間外及び閉庁日の弁護人等と被告人との面会については、法務省と日本弁護士連合会との申合せがされているが、 他方で、弁護人等の被告人に対する物品の差入れについては、このような申合せはされていない。 以上の関係法令の規定等に照らすと、弁護人等の被告人に対する物品の差入れの許否の判断は、刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられているというべきである。 イ東京拘置所では、被収容者に対する物品の差入れの受付を、開庁日の午前8時30分から正午まで及び午後1時から午後4時30分 、刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられているというべきである。 イ東京拘置所では、被収容者に対する物品の差入れの受付を、開庁日の午前8時30分から正午まで及び午後1時から午後4時30分までと定めている。これは、刑事施設内の規律及び秩序の維持の観点から、物品の差入れ業務(受付業務及び検査業務)を相当慎重に行う必要があり、日常的に従事する職員をあらかじめ配置しなければならないことから、差入れの受付時間を 限定したものである。本件においても、原告が本件文書の差入れを求めた2月15日(土曜日)には、物品の差入れ業務を担当する職員を配置しておらず、弁護人の面会に対応する職員も受付所の受付担当1名、面会所の受付担当1名及び被収容者の連行担当1ないし2名程度で、これらの職員は、物品の差入れ業務の知識等を備えていなかった。なお、信書の検査と差入れ物品 の検査は着眼点を異にし、検査方法等も異なるから、信書の検査担当職員が本件文書の検査を行うことはできない。 一方、開庁日の執務時間外及び閉庁日に、実際に物品の差入れの申出があるか否か明らかでないにもかかわらず、あらかじめ差入れ業務を担当する職員を配置しなければならないとすると、刑事施設の管理運営に支障を生じる ことが明らかである。なお、原告は、本件文書の差入れについて、信書が到 達した場合と比較して不均衡であると指摘するが、本件文書は、信書ではないから、これと同様の取扱いをすべき義務もない。 ウさらに、本件では、原告は、東京拘置所の職員から説明を受けて、本件文書の差入れの申出を自ら取り下げたにすぎない。加えて、1か月以上前に控訴趣意書の提出期限が定められたにもかかわらず、その期限に切迫して本件 文書の差入れの申出がされたのは、むしろ原告の訴訟準備の進め方に問題が 出を自ら取り下げたにすぎない。加えて、1か月以上前に控訴趣意書の提出期限が定められたにもかかわらず、その期限に切迫して本件 文書の差入れの申出がされたのは、むしろ原告の訴訟準備の進め方に問題があったこと、原告は、本件文書の差入れの申出の直前に、本件被告人と面会して控訴趣意書について47分間にわたり打合せを実施し、接見室のアクリル板越しに本件文書を示していること、控訴趣意書の提出期限が迫っており、既に本件文書が控訴趣意書の案として作成済みで、本件被告人に最終確認を 求めるにすぎなかったこと、本件被告人の主張を補充する方法は控訴趣意書の提出に限られないこと等の事情も考慮すると、本件文書の差入れを認める必要性は乏しい。 エしたがって、本件文書の差入れを認めなかった東京拘置所の職員の行為には、国家賠償法上の違法性はなく、また、故意又は過失があったとも認めら れない。 ⑵ 争点2(損害の内容及び損害額)について(原告の主張)ア原告は、東京拘置所の職員が本件文書の差入れの申出を拒否したことにより、本件被告人との接見交通権を侵害され、精神的苦痛を被った。これに対 する慰謝料は、10万円が相当である。 イ原告は、上記申出に応じなかったことを抗議するため、東京拘置所長に対して本件通知書を送付する必要があり、その送付費用相当額1601円の損害を被った。 ウ原告は、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人弁護士に委任する必要 が生じ、その弁護士費用相当額2万円の損害を被った。 エしたがって、原告は、東京拘置所の職員の違法行為により、合計12万1601円の損害を被った。 (被告の主張)原告の主張は、否認ないし争う。東京拘置所の職員が本件文書の差入れの申出を拒否したことにより、原告が精神 東京拘置所の職員の違法行為により、合計12万1601円の損害を被った。 (被告の主張)原告の主張は、否認ないし争う。東京拘置所の職員が本件文書の差入れの申出を拒否したことにより、原告が精神的苦痛を被ったとは考え難い。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実のほか、当該認定箇所に掲げる証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 ⑴ 本件文書の差入れの申出に関する事実経過 ア原告は、1月15日に本件被告事件の国選弁護人に選任され、原審の訴訟記録の閲覧・謄写手続を通じて、本件被告人が公訴事実を否認していることを把握し、訴訟記録を検討した上で、同月30日に東京拘置所において1時間半程度の接見をした。本件被告人は、1月31日頃、原告に対して自らの主張を記載した書面を郵送で送付した。原告は、2月14日までに、更に訴 訟記録を検討した上で、本件文書を作成した。 本件文書は、A4版で全11頁であり、全文がワープロ書きされたもので、手書きによる書込みや資料の添付はなく、その内容は、原審の認定した公務執行妨害の犯罪事実について、控訴理由として事実誤認を主張し、上記犯罪事実の認定に供された暴行の相手方及び目撃者の各供述には信用性がない こと等を指摘するものであった。 (以上につき、甲1、3ないし8、弁論の全趣旨)イ原告は、2月14日に接見の予約をした上で、2月15日(土曜日)に東京拘置所を訪れて、同日午前11時7分から午前11時54分までの間、本件被告人と接見し、本件被告事件の控訴趣意書の記載内容について打合せを した。その際、原告は、接見室のアクリル板越しに本件文書を示して、本件 被告人に本件文書を読ませた。本件被告人が本件文書の差入れを希望したことから、原告は、本件被 載内容について打合せを した。その際、原告は、接見室のアクリル板越しに本件文書を示して、本件 被告人に本件文書を読ませた。本件被告人が本件文書の差入れを希望したことから、原告は、本件被告人に対して本件文書を差し入れることを伝え、記載内容に誤り等があれば至急連絡するよう伝えた。(甲8、乙4、5、原告本人、弁論の全趣旨)。 ウ原告は、本件被告人との接見の終了後である2月15日正午頃、東京拘置 所の面会受付窓口の担当職員に対し、本件文書の差入れを申し出た。同職員が土曜日に物品の差入れはできないと説明したが、原告は、控訴趣意書の提出期限が切迫しているので何とかならないかと述べた。 上記職員から連絡を受けたAは、面会受付窓口に赴いた。Aが、原告に用件を確認すると、原告は、控訴趣意書の案を差し入れたいと述べた。Aが休 日は窓口での差入れはできないと説明すると、原告は、Aに対し、そこを何とか許可してもらえないかと責任者に聞いてほしいと頼んでいる、あなたが責任者か、控訴趣意書の提出期限が近いので、差入れを認めてほしい等と述べた。Aが、再度、休日は窓口での差入れはできないと説明すると、原告は、あなたが責任者であるなら、これ以上何を言っても結果は変わらないですね 等と述べ、東京拘置所を退去した。 Aは、原告との上記やり取りに際して、原告の持参した本件文書を提示するよう求めることはなかった。 (以上につき、乙6、証人A、原告本人)⑵ 東京拘置所における物品の差入れ等に関する運用 ア物品の差入れ等について東京拘置所では、未決拘禁者を含む被収容者に対する物品の差入れの受付日及び時間について、開庁日の午前8時30分から正午まで及び午後1時から午後4時30分までと定めて運用している。 弁 等について東京拘置所では、未決拘禁者を含む被収容者に対する物品の差入れの受付日及び時間について、開庁日の午前8時30分から正午まで及び午後1時から午後4時30分までと定めて運用している。 弁護人等からの物品の差入れについては、開庁日の勤務時間内は、「被収 容者に係る物品の貸与、支給及び自弁に関する訓令の運用について」(平成 19年5月30日付け矯正局長依命通達)に基づき受け付けているが、開庁日の勤務時間外及び閉庁日には、原則、受け付けていない。ただし、弁護人選任届など、その記載内容や体裁に照らし、日常的に検査業務に従事している職員以外の職員であっても、金品の検査を規定する法44条の検査をなし得ると判断され、当該文書につき、未決拘禁者の署名・指印をさせる必要が あり、弁護人等がその場で当該文書を持ち帰る場合には、当該文書の差入れを認める場合がある。 (以上につき、乙1、2、弁論の全趣旨)イ信書の交付について刑事施設の長は、被収容者の発受する信書について検査を行うことができ るとされているところ(受刑者等について法127条1項、未決拘禁者について法135条1項)、東京拘置所では、閉庁日であっても、外部から郵送等により被収容者に対して届いた信書について、担当職員を配置して検査を実施し、差止事由(法129条1項各号)に該当せず、被収容者に対して交付できる信書については、即日交付する運用をしている(弁論の全趣旨)。 2 争点1(東京拘置所の職員が本件文書の差入れの申出に応じなかったことについて、国家賠償法上の違法性等の有無)について⑴ 法51条は、刑事施設の長は、法第2編第2章第5節に定めるもののほか、法務省令で定めるところにより、差入人による被収容者に対する金品の交付等について、刑事施 償法上の違法性等の有無)について⑴ 法51条は、刑事施設の長は、法第2編第2章第5節に定めるもののほか、法務省令で定めるところにより、差入人による被収容者に対する金品の交付等について、刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができると定め、これ を受けて、規則21条1項柱書及び同項1号イは、金品の交付等の申請日及び時間帯の制限をし得ることを定めている。これは、刑事施設の被収容者に対する金品の交付については、罪証隠滅及び逃亡の防止、刑事施設の規律及び秩序の維持等の目的のため、当該金品について必要な検査等を実施する必要があるところ、刑事施設の管理運営上の支障や検査能力の限度等を勘案して、刑事施 設の長の合理的な裁量により、その申請日及び時間帯について一定の制限を加 えることを許容する趣旨と解される。 もっとも、弁護人等からの未決拘禁者に対する物品の差入れは、憲法上保障される弁護人依頼権に由来する接見交通権が実質的に損なわれないよう配慮する必要があると解され、当該事案における事情如何によっては、上記制限に関する刑事施設の長の裁量にも限度があるというべきである。 ⑵ 以上を前提に、東京拘置所の職員が本件文書の差入れの申出を拒否したことが、東京拘置所長に与えられた裁量の範囲を逸脱して国家賠償法上違法かどうかについて検討する。 ア本件文書は、刑事控訴事件における控訴趣意書の案であるところ、控訴趣意書は、控訴裁判所に対して所定の期間内に提出しなければならず(刑事訴 訟法376条1項)、公判期日では控訴趣意書に基づいて弁論をする必要があり(同法389条)、控訴裁判所の調査範囲も、主として控訴趣意書に包含された事項とされていること(同法392条1項)など、刑事控訴審の審理において重要な書面であるということが いて弁論をする必要があり(同法389条)、控訴裁判所の調査範囲も、主として控訴趣意書に包含された事項とされていること(同法392条1項)など、刑事控訴審の審理において重要な書面であるということができる。 そして、本件被告事件では、控訴趣意書の提出期限が2月17日と指定さ れていたところ(前提事実⑵)、原告が本件文書の差入れの申出をしたのは、その2日前である2月15日であり、本件文書の記載内容や、本件被告事件が否認事件であること(認定事実⑴ア)も併せ考えると、本件被告人に対して本件文書を早期に交付して閲読させ、最終的な確認を求める必要性が高かったといえる。 なお、原告は、上記申出の直前の面会の際、本件被告人に対し、接見室のアクリル板越しに本件文書を提示したことは認められるが(認定事実⑴イ)、上記のとおり、本件文書が控訴審における審理において重要な文書であり、分量もA4版で11枚あり(認定事実⑴ア)、アクリル板越しの短時間の目視で内容を正確に確認することは困難であることからすると、アクリル板越 しの提示をもって確認方法として十分であるとは認め難い。また、原告にお いて、より早期に控訴趣意書の案を作成し、事前に本件被告人に郵送しておくことも考えられるが、本件文書の記載(甲7)から窺われる本件被告事件の事案の内容等に照らすと、同事件の記録の検討には相応の日数を要するものと推認され、原告において、敢えて提出期限の間際に本件文書の差入れの申出をしたとも窺われない。 イ東京拘置所における被収容者に対する物品の差入れの運用は、認定事実⑵アのとおりであり、弁護人等から未決拘禁者に対する物品の差入れについては、開庁日の勤務時間内は受け付けているが、開庁日の勤務時間外及び閉庁日には、原則、受け付けていない の差入れの運用は、認定事実⑵アのとおりであり、弁護人等から未決拘禁者に対する物品の差入れについては、開庁日の勤務時間内は受け付けているが、開庁日の勤務時間外及び閉庁日には、原則、受け付けていないという取扱いをしている。 しかしながら、閉庁日に弁護人等からの物品の差入れを一律に受け付けな いとする取扱いは、事案によっては、弁護人等による弁護活動に支障を来すおそれも生じ得るところである。現に、東京拘置所においては、閉庁日における弁護人等からの書類の差入れについて、弁護人選任届等の書類については、閉庁日においても、日常的に検査業務に従事している職員以外であっても検査をなし得ると判断できるものは、一定の条件の下、弁護人等からの書 類の授受を認めているものである(認定事実⑵ア)。そして、本件文書が、弁護人である原告が作成し、裁判所に提出する控訴趣意書の案であることは、その標題から明らかであり、分量も11頁の書類にすぎず、全文がワープロ書きされ、手書きの書込みや資料の添付もないことからすると(認定事実⑴ア)、日常的に差入物の検査業務に従事する職員でなければ検査できない物 とは考え難く、日常的に検査業務に従事する職員以外の職員であっても、法44条に規定する検査を行うことは可能な物であったといえる。その上、本件文書の差入れの申出がされたのは正午頃の時間帯であって(認定事実⑴ウ)、夜間ないしそれに近い時間帯でもなかったのであるから、弁護人の面会を担当する職員のほか、原告に対応したAらにおいて自ら、又は閉庁日に 信書の検査を担当する職員をして本件文書の検査を実施することも比較的 容易であったと認められる。 ウなお、被告は、原告が東京拘置所の職員から説明を受けて、本件文書の差入れの申出を自ら取り下げたにすぎな る職員をして本件文書の検査を実施することも比較的 容易であったと認められる。 ウなお、被告は、原告が東京拘置所の職員から説明を受けて、本件文書の差入れの申出を自ら取り下げたにすぎないとも主張する。 しかしながら、前記認定事実によれば、原告は、本件文書の差入れの申出について、接見の受付窓口の職員のみならず、東京拘置所の責任者による応 対を求め、監督当直者であったAともやり取りをしており(認定事実⑴ウ)、このような経過に照らすと、原告は、Aらから本件文書の差入れの申出を拒否されたことから、差入れを断念したものと認められ、自ら上記申出を取り下げたとは評価できない。 ⑶ 以上のとおり、本件文書(控訴趣意書案)の重要性のほか、提出期限があと 2日と切迫しており、本件被告事件の事案の内容に照らしても、本件被告人に早期に交付する必要性が高かったこと(前記⑵ア)、他方で、本件文書の体裁・分量等や東京拘置所の執務態勢に照らしても、本件文書を検査することは比較的容易であったといえること(前記⑵イ)を指摘でき、憲法上保障された弁護人依頼権に由来する弁護人等と被告人との接見交通権の重要性も踏まえると、 本件では、東京拘置所の担当職員において、原告による本件文書の差入れの申出を受け付けて、必要な検査を実施して本件被告人に交付すべき職務上の法的義務があったということができる。 しかるに、原告に応対したAら東京拘置所の職員は、原告から控訴趣意書案の差入れであること、控訴裁判所に対する提出期限が切迫していることを告げ られていたにもかかわらず、閉庁日には物品の差入れ業務を行っていないという理由のみで、上記申出を拒否したのであるから(認定事実⑴ウ)、この申出の拒否は、東京拘置所長に与えられた物の差入れの制限に関する裁量の範 にもかかわらず、閉庁日には物品の差入れ業務を行っていないという理由のみで、上記申出を拒否したのであるから(認定事実⑴ウ)、この申出の拒否は、東京拘置所長に与えられた物の差入れの制限に関する裁量の範囲を逸脱したものと認めるのが相当であり、国家賠償法1条1項の違法性があると認められる。 また、Aら東京拘置所の職員は、原告から本件文書が控訴趣意書案であるこ と等を伝えられ、他の差入物と異なり、被告人の弁護人依頼権に由来する接見交通権にも影響を及ぼす重要な書類であり、早期に本件被告人に交付すべき事情を十分認識し得たにもかかわらず、閉庁日には物品の差入れ業務を行っていないという理由のみで本件文書の差入れの申出を拒否しており、その当否を具体的に検討した形跡も窺われないことに照らすと、上記申出の拒否について、 少なくとも過失があったと認められる。 3 争点2(損害の内容及び損害額)について⑴ 慰謝料及び弁護士費用の損害について前記2で説示したとおり、東京拘置所の職員において、原告による本件文書の差入れの申出を拒否したことには違法性があり、本件において現れた諸事情、 特に、弁護人等と被告人との接見交通権の趣旨、本件書面が控訴審での審理において重要な書面であること、他方で、直前の接見で本件被告人に対して本件書面が提示されていること等の事情を勘案すると、原告に対する慰謝料額としては、2万円が相当である。 また、原告は、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人弁護士らに委任し たことが認められる(弁論の全趣旨)。この点、原告は弁護士であるが、事案の性質に照らして訴訟代理人を選任する必要性は否定できず、その弁護士費用相当の損害としては、上記慰謝料額の1割である2000円が相当である。 ⑵ 本件通知書の送付費用 、原告は弁護士であるが、事案の性質に照らして訴訟代理人を選任する必要性は否定できず、その弁護士費用相当の損害としては、上記慰謝料額の1割である2000円が相当である。 ⑵ 本件通知書の送付費用について原告は、本件において、東京拘置所長に対する本件通知書の送付費用相当の 損害が生じたと主張する。 しかしながら、本件通知書は、本件文書の差入れの申出を拒否されたことが接見交通権の侵害として違法であること等を指摘するものであり(前提事実⑸)、もっぱら自己の主張を述べるもので、原告自らの判断により送付したものといわざるを得ず、その送付費用が前記2の違法行為と相当因果関係のある 損害であるとは認められない。 ⑶ 損害額の合計 2万2000円第4 結論以上によれば、原告の請求は、2万2000円及びこれに対する違法行為日である令和2年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、これを認容することとし、その余は理由がないから 棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、被告は、仮執行宣言に係る執行開始時期を判決が被告に送達された後14日経過時とすることを求めるが、相当でないのでその旨の宣言はしない。 東京地方裁判所民事第17部 裁判長裁判官島崎邦彦 裁判官片山健 裁判官白井宏和は、転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官島崎邦彦 裁判官島崎邦彦

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