主文 被告人を懲役2年4月に処する。 未決勾留日数中330日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,法定の除外事由がないのに,平成15年4月下旬ころから同年5月3日ころまでの間,兵庫県内又はその周辺において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって,覚せい剤を使用したものである。 (証拠の標目)ー括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号省略(争点に対する判断)第1 争点の整理弁護人は,被告人は平成15年5月3日午前10時10分覚せい剤取締法違反(覚せい剤2袋の所持)の被疑事実で現行犯逮捕されたものであるが,その間の,(1)被告人のA警察署への任意同行は実質的には強制力を伴った逮捕というべきであり,同署におけるその後の取調べもおよそ任意の取調べとはいえず違法である,(2)同警察署において実施された被告人車両に対する捜索差押手続は,捜索差押許可状によらず,あるいは同車両の違法な捜索により得られた証拠により発付された令状に基づきなされた重大な違法があり,被告人に対する強制採尿令状は,これら種々の重大な違法捜査手続の積み重ねの後の違法な現行犯人逮捕に引き続く違法な身柄拘束中に取得された証拠に基づいて発付されたものであるから,このような令状により採尿された被告人の尿の鑑定書は,違法収集証拠として証拠能力がなく,この証拠を除くと,本件公訴事実は証明がないから,被告人は無罪である旨主張する。 当裁判所は,前掲被告人の尿の鑑定書には証拠能力が認められ,この証拠を含む前掲関係各証拠によれば,判示の犯罪事実は優に認められると判断したのであるが,その理由を補足して説明する。 旨主張する。 当裁判所は,前掲被告人の尿の鑑定書には証拠能力が認められ,この証拠を含む前掲関係各証拠によれば,判示の犯罪事実は優に認められると判断したのであるが,その理由を補足して説明する。 第2 関係各証拠によれば,被告人が覚せい剤所持の現行犯人として逮捕されるに至った状況及び被告人の尿が採取されるに至った経過として,次の事実が認められる。 1 被告人が覚せい剤所持の現行犯人として逮捕されるに至った状況(1)兵庫県警察本部自動車警ら隊所属の警察官B(以下「B警察官」という。以下,警察官については同様に表記する。)は,平成15年5月3日午前1時5分ころ(以下時刻のみの表示はいずれも同日の時刻である。),同隊所属のC警察官運転のパトカーに乗務し警ら中,神戸市a区b町c丁目所在のローソンb町店前反対車線上に駐車中の普通乗用自動車(日産ブルーバード。以下「本件車両」という。)を認め,ナンバー照会したところ,車種の異なるトヨタイプサムである旨の回答を得て,同車がナンバー付け替え車両(道路運送車両法違反車両)であり,盗難車両であるなどの嫌疑が生じたため,両警察官は同車付近(以下「第1現場」という。)で張り込みを実施し,その運転者が戻るの待った。 (2)B警察官は,ほどなく,被告人とDが本件車両に近付いて,被告人が運転席に,Dが助手席に乗車したのを認め,午前1時23分ころ,運転席ガラスをノックして,被告人に対し,「兵庫県警の者です。この車のことで聞きたいことがある。」と話し掛け,職務質問を開始し,まず,エンジンを切るように求めたところ,被告人はこれに応じてエンジンを停止した。 (3)引き続き,B警察官は,駆け付けたC警察官と2人で,被告人に対し,運転免許証及び車検証の呈示を求めたところ,被告人はこれにも応じ,車検証の記載が日産ブルーバードとは違 じてエンジンを停止した。 (3)引き続き,B警察官は,駆け付けたC警察官と2人で,被告人に対し,運転免許証及び車検証の呈示を求めたところ,被告人はこれにも応じ,車検証の記載が日産ブルーバードとは違う内容のものであったため,その点についてさらに職務質問を続けた。被告人は,「車は知り合いに頼まれて動かしただけだからわからない。」などと答え,そのうちに,車外に出て,本件車両の周囲を歩き回る状態となった。そして,突然,助手席のDが奇声をあげてトイレに行きたいと叫び,B警察官が制止するのも無視して車外に出て,前記ローソンb町店(以下「ローソン」という。)に走って行ったが,まもなく,同車内に戻った。その後,被告人もトイレに行くとしてローソン店内のトイレに入り,Dと同様にまもなく,同車内に戻った。 (4)なお,Dがローソンに行った際には,女性警察官がその後を追ってローソンに向かい,その動静を監視した。また,被告人がローソンに行こうとした際には,B警察官は,その前方に立ってこれを制止しようとしたほか,同警察官を含め3,4名の警察官が被告人に同行してローソンに向かい,同店内で,被告人がトイレに入る前に同人に対し,その所持品検査をさせるように申し向けたところ,被告人は,携帯電話の充電器のコード等を見せるなどしてこれに応じた。 (5)ところで,前記職務質問を開始したのは午前1時23分ころであるが,午前1時25分ころには3台ほどのパトカー(覆面パトカーを含む。以下同じ。)で合計10名程度の警察官が現場に到着し,午前1時40分ころにはさらに2台のパトカーが,その後さらに数台のパトカーが現場に到着し,午前1時50分ころには,合計7台のパトカー,総勢14名(B,C両警察官を含めると16名)の警察官が現場に到着していた。なお,兵庫県警察本部刑事部機動捜査隊所属のE警察 数台のパトカーが現場に到着し,午前1時50分ころには,合計7台のパトカー,総勢14名(B,C両警察官を含めると16名)の警察官が現場に到着していた。なお,兵庫県警察本部刑事部機動捜査隊所属のE警察官の供述によれば,同人がパトカーで現場付近に到着した午前1時40分ころには,すでに被告人は後記第2現場に至っていたという。 (6)その後も,B警察官は被告人に対し,職務質問を続行し,A警察署への任意同行を求めたが,被告人は,「車は動かしてくれと頼まれただけである。」などとこれに応じなかった。なお,被告人の本件車両に関する供述は,その公判供述(被告人の第10回公判供述。以下「被告人公判供述⑩」というように記載する。)によってすら,本件車両は自分が貰ったものではあるが4,5人で使っていた,職務質問の2時間ほど前に知人のO某に頼まれて同人に本件車両を貸してやった,自分とDはタクシーで第1現場付近に至り,そこでOと落ち合い,同人から本件車両のキーの返却を受け同車両にDとともに乗り込んだところを職務質問されたとするものであって,曖昧で意味不明なものであり,検察官調書(乙2)とも齟齬する内容であって,信用性は全くないものである。 そうこうするうち,突然,Dが本件車両から降りて大きな声を上げながら,第1現場から西に向かい歩き始め,前記女性警察官を含む警察官2,3名がこれを追尾したが,被告人もDを追って歩きはじめたため,B警察官,兵庫県警察本部自動車警ら隊所属の警察官Fほか4,5名の警察官が被告人とともに移動し,B警察官ら数名は被告人の前に立ちはだかって手を横に出してその前進を妨げる行動をとったが,それ以上は被告人の歩行を妨げる行為に出なかったため,これを無視して歩く被告人の身体と警察官らの手などが接触することはあったものの,被告人は,西方のJR高架下ガー てその前進を妨げる行動をとったが,それ以上は被告人の歩行を妨げる行為に出なかったため,これを無視して歩く被告人の身体と警察官らの手などが接触することはあったものの,被告人は,西方のJR高架下ガードをくぐって南に向け先行するDに続いて,第1現場から南に向け歩き続けた。体調が悪い,病院に行きたいと訴えていたDは,A警察署でDの母親と落ち合った上病院に向かうことで警察官らの説得に応じ,パトカーに乗車して同警察署に向かった。前述のような警察官らの立ち塞がり,説得,追尾の中,職務質問の続行をされつつ,ゆっくりと歩行して移動していた被告人は,ガードをくぐって第1現場から南方に約50メートル進んだ同区b町e丁目f番g号付近路上(以下「第2現場」という。)で,前方でDがパトカーに乗り込んだのを見て立ち止まり,同所付近にあったポリバケツの上に腰を下ろした。被告人の周囲には多数(少なくとも8名以上)の警察官が集まっていたが,午前2時30分ころA警察署のG警察官ら3名も到着し,そのころから,同所において,主としてG警察官が被告人に対し,それまでと同様に,「車のことを聞くだけやから,ちょっと来てくれへんか。」などとA警察署への同行に応じるようにと説得を続けた。その間,被告人は,強制ならば令状を見せてくれ,もうここを動かないなどと任意同行に応じない旨の態度をとり続けていた。 (7)午前3時37分ころ,被告人は警察署への同行に応じ,覆面パトカーにG警察官らとともに乗車してA警察署に向かい,午前3時45分ころ同署に到着し,同署刑事課4階2号応接室(以下「本件取調室」という。)に入室した。 (8)E警察官が本件取調室に入った際,同所には被告人のほか5名くらいの自動車警ら隊所属の警察官がおり,被告人は,椅子に座って自らの携帯電話の充電器の充電を行い,あるいは,その後携 。)に入室した。 (8)E警察官が本件取調室に入った際,同所には被告人のほか5名くらいの自動車警ら隊所属の警察官がおり,被告人は,椅子に座って自らの携帯電話の充電器の充電を行い,あるいは,その後携帯電話で誰かと話をしていた。 (9)本件取調室は東側中央及び奥北側にそれぞれ出入口のある幅約2.72メートル,長さ約4.38メートルの西向きに長方形状の小部屋であり,中央付近の北側壁際には事務机2個,パイプ椅子2個,背もたれ付き椅子3個が,奥の西側壁際に長テーブル1個が置かれている。 (10)他方,前記自動車警ら隊隊長補佐Hは,午前3時40分ころ,第1現場の同隊所属の警察官I警部補から,「本件車両をA警察署まで搬送したい,搬送しようとドアを開けたらドアポケットにけん銃様の物が差し込まれているのに気づいた。」旨指示を仰ぐ無線連絡があり,「そのまま車には触らず待て。」と指示し,同現場に臨場し,あらためて報告を聞き,あるいは自らけん銃様の物の存在を確認した後,F警察官に本件車両の搬送を命じ,同警察官は同車両を運転して,午前4時20分ころ,同車両をA警察署地下駐車場まで搬送した。 (11)H警察官は,本件取調室において,被告人に対し,「車内のけん銃みたいな物はほんまもんか。」などと話し掛けたところ,被告人は,「モデルガン」と答え,さらに,「けん銃が本物かどうか確認したいので立ち会って欲しい。」と話し掛けると,「よろしおまっ。」と答え,自ら立ち上がり,エレベーターに乗って同署地下駐車場に至った。同所で,H,C,I,Eら警察官6,7名が見守る中,Hが被告人に対し,「車見せてもらうで。」と声を掛け,返事がなかったものの了承していると判断し,ドアを開けた。そして,まず,けん銃様の物を見分したが,モデルガンであると判明し,引き続き,午前4時27分ころ,同車フロアマ 車見せてもらうで。」と声を掛け,返事がなかったものの了承していると判断し,ドアを開けた。そして,まず,けん銃様の物を見分したが,モデルガンであると判明し,引き続き,午前4時27分ころ,同車フロアマット上に覚せい剤様の物が入ったパケ2袋を発見した。なお,ドアを開けた際,被告人においてそのモデルガンを手に取ろうとしたが,H警察官が,「危ない,触るな。」と述べ,自らこれをドアポケットから取り出した。I警察官が車中で前記パケを発見し,「覚せい剤じゃないか。」というと,これを聞きつけた被告人は車内に顔を入れてそのパケの1つをつかんだため,H警察官が「放せ。」と2度強く指示するとこれをもとの場所に置いた(H証言⑤12ページ。被告人公判供述⑪53ページ以下)。 なお,ドアを開ける際,警察官らは本件車両の4枚のドアを一斉に開けたが(H証言⑥16ページ),その際被告人がこれに不満等は述べていないものの(被告人公判供述⑪52ページ),被告人はドアポケットのけん銃様の物を見せることのみに同意していたもので,従前からの経緯によれば被告人において車内を見ること全般については拒否していたことをH警察官は認識していた(同人が自認するところである。)のであって,H警察官は,自ら指示したものではないが,他の警察官らは,車内をみる絶好の機会であると考えてそうしたものと思うとも供述している(H証言⑥28,29ページ)。 (12)その後,被告人は,本件取調室に戻り,前記パケに関する質問には全く答えず,携帯電話をかけ続ける状態となったが,午前4時30分ころから,E警察官は黙秘権の告知をした上,覚せい剤所持及び自動車の窃盗の容疑があることを告げて,被告人の取調べを開始した。被告人はその間,携帯電話による外部との電話連絡を断続的に繰り返すなどしていたものの,取調べ自体には応じて 知をした上,覚せい剤所持及び自動車の窃盗の容疑があることを告げて,被告人の取調べを開始した。被告人はその間,携帯電話による外部との電話連絡を断続的に繰り返すなどしていたものの,取調べ自体には応じていた。当初4,5名いた警察官は順次退室し,その後は概ね1対1の取調べであった(E証言④10ページ)。 その間,被告人の供述によれば,被告人は,午前6時過ぎころ,同署を訪れた友人JやDの声を聞き退室しようと立ち上がったが,室内にいた警察官が一斉に制止する動きを示したのであきらめた,午前7時ころ,警察官が室内に誰もいなくなった際,出入口から出ようとしたが,そこに立っていた4名ほどの制服の警察官に制止されたという。なお,H警察官は,午前6時ころ,A警察署において,前記Jが被告人との面会を申し入れた際に,「捜査上の理由で会わせられない。」旨これを拒絶したことを明言する(H証言⑥23,30ページ)。また,午前7時ころから,被告人はE警察官に体調不調を訴え,病院に行きたいと述べ,携帯電話でK病院に電話し,あるいは携帯電話で119番通報し,E警察官が被告人にかわって電話に出るなどしていた。 (13)午前9時33分ころ発付を受けた本件車両の捜索差押許可状に基づき,午前9時45分ころ,あらためて本件車両の捜索を行い,前記パケ2袋を差押え,覚せい剤簡易試験を行い,陽性であったため,午前10時10分,被告人は,同署地下駐車場において,覚せい剤所持の現行犯人として逮捕された。 (14)なお,本件証拠上認められる,逮捕されるまでの被告人の携帯電話の送受信状況は次のとおりである。 ① 発信歴(甲22)午前7時32分から同日午前9時25分までの間,K病院に午前7時32分に1回,Dに4回,弁護士会に4回,119番通報を2回(午前8時23分と8時41分)など合計19件 。 ① 発信歴(甲22)午前7時32分から同日午前9時25分までの間,K病院に午前7時32分に1回,Dに4回,弁護士会に4回,119番通報を2回(午前8時23分と8時41分)など合計19件② 着信歴(甲23)午前5時45分から同日午前10時8分までの間,Dから16回,Jから午前6時12分及び7時49分に各1回など合計20件 2 被告人の尿が採取されるに至った状況(1)E警察官は,前記取調べの際,午前6時30分から午前7時ころ,被告人に対し,「小便出して,潔白を証明せい。」などと申し向け,被告人はこれに応じる素振りを示してトイレに向かったが,尿が出ないとして戻り,その後は体調不良を訴え,病院に行かせるようにしきりに要求したが,同警察官は,これを許さなかった。なお,同警察官の供述によれば,被告人は午前7時すぎころ,他の警察官が「小便早うださんかい。」と一喝した際,激高して立ち上がりパイプ椅子を振り上げたため,これを押しとどめて座らせた以外には,本件取調室内で,被告人の退室を阻止する等のため有形力の行使をしたことはなく,被告人において退室を要求することもなかったというが,他方で,被告人が退室しようとすれば,あくまで退室しないよう説得したであろうとも述べる。 (2)A警察署生活安全課保安係警察官Lは,午前7時30分ころA警察署に出勤して本件取調室に入り,被告人に小便を出さないのかと声を掛けた。同警察官は,その後,前記捜索差押許可状に基づく本件車両の捜索及びその後のパケ2袋の簡易鑑定に立ち会って写真撮影に従事した。L証言調書(第7回)に添付された写真24枚が前者の際,同6枚が後者の際それぞれ同人が撮影した各状況の写真であるが,本件車両の前で令状を示されている被告人の姿や,簡易試験の際,タイヤに座って携帯電話をしている被告人の姿が撮影さ た写真24枚が前者の際,同6枚が後者の際それぞれ同人が撮影した各状況の写真であるが,本件車両の前で令状を示されている被告人の姿や,簡易試験の際,タイヤに座って携帯電話をしている被告人の姿が撮影されている。その後,同警察官が同道して,午前11時ころ,K病院に被告人を連れて行き,医師の診察を受けたが,同医師によれば,「軽い胆道症の症状がみられるが,投薬で留置には十分耐えられる。」旨の診断であった。 (3)その後,L警察官は被告人に対し,尿の任意提出を促したが,被告人はトイレに赴くなどいったんはこれに応じる態度を示したものの,結局は尿の提出をしなかった。その後,いわゆる強制採尿令状請求手続がなされてこれが発付され,午後5時58分ころ,同署生活安全課取調室において,同僚の警察官(M)が被告人に対し,令状を呈示してその執行を開始し,まず,自ら採取する方法での尿提出を促したところ,被告人はトイレで容器に放尿したものの,これをトイレ内に投棄したため,午後6時12分ころ,被告人をN病院に連行し,同所で午後7時6分ころ,医師により被告人の尿が強制採取された。 (4)その尿について,兵庫県警察本部刑事部科学捜査研究所所属の技術吏員によって鑑定が行われ,その結果,尿中から覚せい剤成分が検出された。 第3 第2認定の事実関係を前提に,本件各手続の適法性について検討する。 1 職務質問開始からA警察署への「任意同行」についてこの間の経過は,前記第2の(1)ないし(7)のとおりであるが,被告人に道路運送車両法違反ないし窃盗の容疑が濃厚に認められ,しかも被告人がいずれかに立ち去ってしまう気配を顕著に示していたのであるから,被告人がローソンへ赴こうとした際,3,4名の警察官が前方に立ってこれを制止しようとした行為は警察官職務執行法2条1項に基づく正当な行為であり,ロ 立ち去ってしまう気配を顕著に示していたのであるから,被告人がローソンへ赴こうとした際,3,4名の警察官が前方に立ってこれを制止しようとした行為は警察官職務執行法2条1項に基づく正当な行為であり,ローソン店内における所持品検査は所持品の任意の提示を求めたもので正当な行為であると認められる。そして,前認定のとおり,第1現場から第2現場に被告人が徒歩で移動した際,B警察官ら少なくとも6,7名の警察官が被告人の進路前方に立ち塞がって,手を横に出すなどしてその前進を妨げる行為に出,警察官の身体と被告人のそれとが接触するに至った点及びその後,第2現場で少なくとも8名以上の警察官が被告人の周囲を取り囲む状態で長時間にわたり任意同行に応じるように説得を続けた行為は,任意同行に応じるよう長時間にわたり執拗に説得された結果であるにせよ,被告人が最終的にはこれに応じたこと,警察官らによる実力行使も前認定のとおりの程度に止まること,被告人は自らパトカーに乗車し,パトカー降車後,自らA警察署4階の本件取調室に歩いて入室し,その間,警察官らによる有形力の行使は認められないこと,他方で,職務質問開始から同行まで約2時間15分を要しており,職務質問開始の約30分後までには警察官総勢16名が第2現場付近に到着していたこと等の諸事情を総合勘案すると,警察官らの前記行為は,いずれも職務質問(警察官職務執行法2条1項)又は任意同行(同法2条3項,刑事訴訟法197条1項,198条1項)の際における強制にわたらない程度の実力行使としてかろうじて許容される範囲内の行為であると認められる。さらに,第1現場に遺留される結果となった本件車両をA警察署まで警察官が搬送した経緯は前記第2の(1)のとおりであるが,この点については,被告人の明示の同意があったものとは認められず,また,本件車 さらに,第1現場に遺留される結果となった本件車両をA警察署まで警察官が搬送した経緯は前記第2の(1)のとおりであるが,この点については,被告人の明示の同意があったものとは認められず,また,本件車両のキーに関して,被告人供述によるとキーを抜いて欲しいとB警察官に言われ,抜けないふりをしていたら,同警察官がこれを抜き取った,その際,キーを返して欲しいとは言っていないというのであり,その供述自体は必ずしも措信し難いものであるが(被告人⑪4ないし6ページ),他方で,本件車両のキーを警察官が入手した経緯について関係する警察官のすべてが記憶がないと供述しており不自然である点をも考慮すると,本件車両の搬送手続の適法性について疑問が生じるが,同車両がA警察署に搬送されたことを知って被告人がこれに抗議するような態度を全くとっていないことなどその後の経緯に照らすと,少なくとも被告人がこれを事後的に承諾したと考えられるのであり,その適法性逸脱の程度は大きいものとはいえない。 2 本件車両の見分とその後の経緯並びに現行犯逮捕の適法性本件車両のA警察署への搬送直後に行われた同車両の見分が,けん銃様の物の見分をする限度で被告人において承諾をしていたことは被告人も認めるところである。他方,H警察官が自認するように,同警察官が指示したものでないにせよ,被告人の承諾がないことを知りながら,他の警察官らがこの機会に車内全体の見分をしようとして4枚のドアを一斉に開き,その結果,覚せい剤のパケ2袋を発見するに至っており,その限度で被告人の承諾のない捜索である点において,その適法性についても疑問が生じるが,車内をくまなく探索するような行為に及んだわけではないこと,発見後,あらためて捜索差押許可状の発付を得てパケ2袋を押収したことに照らすと,その適法性逸脱の程度もまた大きい についても疑問が生じるが,車内をくまなく探索するような行為に及んだわけではないこと,発見後,あらためて捜索差押許可状の発付を得てパケ2袋を押収したことに照らすと,その適法性逸脱の程度もまた大きいものとはいえない。そして,前記逮捕に至るまで本件取調室に被告人を約6時間半にわたって留め置いた点については,その間被告人が病院へ行くことを要求していたにもかかわらず,これを許さなかった点など強制的留め置きの要素の濃いものであるから違法であり,被告人を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕した点も,前記各適法性に疑問のある手続に続く,前記違法な見分により覚せい剤を発見したことに基づきなされたものである点において違法であることに帰する。 3 そうすると,覚せい剤取締法違反事犯の一連の捜査手続として,前記違法な見分及び違法な現行犯逮捕手続により得られた状態を利用してなされた本件強制採尿手続もまた,違法であるといわざるを得ない。 しかしながら,前記のとおり,前記各適法性に疑問のある手続の違法の程度はさほど大きいものではなく,前認定のとおり,一方では,現行犯逮捕に至るまでの間被告人は携帯電話をかけ続けるなど逮捕された者であればなしえない行動の自由があったこと,本件強制採尿手続自体は,前記現行犯逮捕から約8時間後に司法審査を経て発付されたいわゆる強制採尿令状に基づきなされたものであること等前認定の諸事情を総合勘案すると,その違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであるとはいえないし,本件採尿手続により得られた被告人の尿の鑑定書に証拠能力を付与することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないとも認め難いから,前記尿の鑑定書の証拠能力はこれを肯定すべきである。 (法令の適用)被告人の判示所為は覚せい剤取締法41条の3第1項 ることが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないとも認め難いから,前記尿の鑑定書の証拠能力はこれを肯定すべきである。 (法令の適用)被告人の判示所為は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役2年4月に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中330日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が覚せい剤を使用した覚せい剤取締法違反の事案であるところ,多数の同種懲役前科を有する者であるにもかかわらず,格別の理由なく本件犯行に及んだものであり,身に覚えがないとして反省の態度が見られないことをも併せ考慮すると,被告人の刑事責任は相当に重いというべきである。そうすると,本件捜査手続に違法があるとする被告人の主張に一部理由があることなど被告人のために斟酌すべき事情を考慮しても,主文の刑は免れない。 よって,主文のとおり判決する。 平成16年10月28日神戸地方裁判所第1刑事部裁判官杉森研二
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