判決平成14年3月19日宣告平成13年(わ)第553号強盗致傷被告事件(認定罪名強盗) 主文 被告人を懲役4年4月に処する。 未決勾留日数中210日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成13年5月16日午後11時30分過ぎころ,神戸市A区Ba丁目b番c号先路上において,V(当時53歳)に暴行を加えて同人から金品を奪取しようと企て,同人ともみ合った末,その胸倉を掴むなどして同人を2回突き倒したり,転倒した同人に馬乗りになる等の暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同人所有又は管理に係る現金1万6000円及び運転免許証1通等3点在中の財布1個(物品時価合計2000円相当)を強取したものである。 (証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(補足説明)第1 争点の整理等検察官は,被告人が,V(以下「被害者」という。)に対し,判示の暴行を加えてその反抗を抑圧し,同人から判示財布を強取し,その際,被害者が自転車の後部荷台を掴んでいるにもかかわらず,自転車を発進させて同人を転倒させる等の暴行を加え,よって,同人に加療約3日間を要する右膝,右拇趾擦過傷の傷害を負わせたものであるとして,強盗致傷罪の成立を主張する。 他方,弁護人は,被告人において,被害者の胸倉を掴んで突き飛ばしたり,同人に馬乗りになる等の暴行を加えていないし,被害者が被った前記傷害は極めて軽微なものに止まるから強盗罪が成立するに過ぎない旨主張し,加えて,被告人は,当公判廷において,自転車に乗車して逃走する際,被害者が自転車の後部荷台を掴んだことはないなどと供述する。 傷害は極めて軽微なものに止まるから強盗罪が成立するに過ぎない旨主張し,加えて,被告人は,当公判廷において,自転車に乗車して逃走する際,被害者が自転車の後部荷台を掴んだことはないなどと供述する。 当裁判所は,関係証拠に照らすと,被告人が,被害者に対し,判示の暴行を加えて同人から判示財布を強取したことは優に認められるが,他方で,被害者において,逃走しようとする被告人運転の自転車の後部荷台を掴もうとしたが及ばず,これに触れただけでバランスを崩し自ら転倒した可能性は否定できず,その際に被害者が前記傷害を負った可能性も否定できないから,前記傷害は,強盗の機会に,被告人の行為によって被害者が被った傷害と認めるにはなお合理的な疑いを容れる余地が残るので,強盗致傷罪は成立しないと判断したのであるが,その理由について,補足して説明を加える。 第2 当裁判所が認定した事実 1 前掲関係各証拠並びに司法警察員作成の写真撮影報告書3通(検察官請求証拠番号10,15,16)及び医師C作成の診断書(同5)によれば,次の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成13年5月16日午後11時30分過ぎころ,神戸市A区Ba丁目b番c号所在のD事務所前北側路上において,酒に酔ってふらふらしながら歩行中の被害者を発見するや,自転車に乗車したままその後方から被害者に近づき,同人のズボン左後ろポケットからその財布を抜き取ろうとしたが,たまたま被害者がよろけたため,自転車に乗った被告人と被害者とが接触・衝突し,失敗に終わった。 (2) 被告人は,前記事務所前西側路地に自転車を駐輪し,前記路地入口付近において,暴行を加えてでも被害者から金品を奪取しようと決意し,背後から近づくと,再び同人のズボン左後ろポケットから財布を抜き取ろうとしたが,同人ともみ合いになり,そのま を駐輪し,前記路地入口付近において,暴行を加えてでも被害者から金品を奪取しようと決意し,背後から近づくと,再び同人のズボン左後ろポケットから財布を抜き取ろうとしたが,同人ともみ合いになり,そのままの状態で前記事務所前西側路地に入っていき,同所において,被害者の体をひねり,同人をして,同所付近に並んで駐輪中の自転車の列の中に転倒せしめた。被告人は,さらに,立ち上がった被害者と再びもみ合いになり,同人の胸倉付近を掴んで同人を両手で突き飛ばし,同人をして,前記路地脇の溝付近に転倒せしめた。 (3) 被告人は,いったん立ち上がったものの,直ぐによろけて四つんばいになった被害者の腰付近に跨って馬乗りになり,ズボン左後ろポケットを押さえている被害者の手を払い除ける等して,被害者から判示の財布1個を奪取した。 (4) 被告人は,財布を奪取すると,前記自転車に乗って逃走を開始した。被害者は,被告人が離れると直ぐに立ち上がり,被告人を捕まえようと,被告人運転の自転車の後部荷台を掴もうとしたが,既に被告人が自転車を発進させていたため掴めず,そのまま路上に転倒した。 (5) 被害者は,被告人の前記一連の暴行により,あるいは,前記のとおり被告人を追走しようとして自ら転倒したことにより,前記傷害を負った。 以上のとおり,認められる。 2 被告人は,当公判廷において,被害者の胸倉を掴んで突き飛ばしたり,同人に馬乗りになる等の暴行を加えたことはない旨供述するが,具体的かつ詳細な供述であり,全体として極めて信用性の高い目撃証言である証人Wの証言(以下「W証言」という。)に照らし,信用し難い。 3 他方,検察官は,被告人が,被害者において被告人運転の自転車の荷台部分を掴んでおり,そのことを認識していたにもかかわらず,自転車を発進させて同人を転倒 証言」という。)に照らし,信用し難い。 3 他方,検察官は,被告人が,被害者において被告人運転の自転車の荷台部分を掴んでおり,そのことを認識していたにもかかわらず,自転車を発進させて同人を転倒させる等の暴行を加えた旨主張し,証人Vの証言(以下,「被害者証言」という。)及び被告人の捜査段階における供述調書中にはこれに沿う供述部分もある。 しかしながら,関係証拠,とりわけW証言は,被害者が被告人運転の自転車の後部荷台に触れるか触れないかの状態で転倒したものであって,同人が自転車に引きずられたことはない旨の明確な供述であり,同人が敢えて虚偽の供述をする理由は全くないこと,被害者証言は,当初,被告人が自転車で逃走しようとした際,膝を地面に付けた状態で自転車の後部荷台を掴んで引きずられたと供述しながら,自らが立ち会った実況見分調書(検察官請求証拠番号17。以下同じ。)においては片膝を付けずに両足で立ったまま中腰で被告人運転の自転車の後部荷台を掴んだように被害状況を再現していたことを指摘されるや,いずれが真実であるかわからない旨供述していることに加えて,前記傷害の原因に関する被害者の供述内容は同人作成の被害届(2)や同人の司法警察員調書(4)とも異なっていること,被害者である証人Vは,本件犯行当時,相当程度酒に酔った状態にあり,被害状況に関して断片的かつ曖昧な記憶しか残っていない旨自認していることなどを総合考慮すると,W証言が最も信用できるというべきであり,被害者証言は,W証言に反しない限度でのみ信用でき,自転車の後部荷台を掴んで引きずられた旨述べる部分の信用性は乏しいといわざるを得ない。そして,被害者が自転車の後部荷台を掴んでいることを知りながらこれを発進させて被害者を引きずったことを自認する被告人の検察官調書(31)も存在するけれど べる部分の信用性は乏しいといわざるを得ない。そして,被害者が自転車の後部荷台を掴んでいることを知りながらこれを発進させて被害者を引きずったことを自認する被告人の検察官調書(31)も存在するけれども,これは,前記のとおり被害者が真実自転車の後部荷台を掴んでいたか否か自体関係証拠を総合しても明らかでないことに反していること,被告人がその前日又は2日前の検察官調書(30)及び司法警察員調書(29)において,被害者が自転車の後部荷台に掴まっていたとは知らなかった旨供述していたのに,突如として顕著な変遷を遂げているにもかかわらず,この供述変遷についての合理的な説明もないことなどに照らせば,前記被告人の検察官調書は,被告人が,被害者が自転車の荷台部分を掴んでいることを知りながらこれを発進させて引きずって転倒させたと断定するに足りる証明力はないといわざるを得ない。 したがって,関係証拠を総合すれば,被害者は,逃走しようとする被告人運転の自転車の後部荷台を掴もうとしたが及ばず,これに触れただけでバランスを崩し自ら転倒したと認めるのが相当であり,被害者が自転車の後部荷台を掴んだことを前提にした前記検察官の主張は採用できない。 第3 当裁判所の判断前記認定事実を前提に検討すると,被害者の前記傷害は,①被告人が被害者を突き飛ばして転倒させる等の暴行を加えたこと,又は②被害者が逃走しようとする被告人運転の自転車の後部荷台を掴もうとして自ら転倒したことのいずれかにより生じたものであることは明らかであるが,いずれによって生じたものかは明らかではない。 ところで,刑法240条所定の「強盗が人を負傷させたとき」とは,強盗が「強盗の機会」に人を負傷させた場合をいい,その傷害の結果が強盗の手段である暴行又は脅迫行為によって生じた場合に限定されるもので ところで,刑法240条所定の「強盗が人を負傷させたとき」とは,強盗が「強盗の機会」に人を負傷させた場合をいい,その傷害の結果が強盗の手段である暴行又は脅迫行為によって生じた場合に限定されるものではないけれども,法文上「負傷させた」と規定されていることに照らすと,「強盗の機会」におけるあらゆる負傷がこれに含まれるのではなく,当該強盗行為とその性質上密接に関連性をもつ被告人の行為との間に因果関係のある傷害についてのみ,強盗致傷罪が成立すると解するのが相当である。 そこで本件について検討すると,被告人は,暴行脅迫を止め,財物奪取を遂げて自転車に乗り逃走を開始しており,被害者は,現場から逃走を開始した被告人運転の自転車の後部荷台を掴みそこねて自ら転倒したものであって,被告人が被害者に対して何らかの積極的な暴行を加えたと評価することができないのはもとより,被害者に対する積極的行為は何もしていないこと,強盗犯人が財物奪取後自転車に乗って逃走する行為自体は,一般的,類型的に見て被害者らの致傷の結果を招く行為とはいえないことを総合考慮すると,少なくとも被告人の前記逃走行為を当該強盗行為とその性質上密接に関連性をもつ被告人の行為ということはできず,被告人の行為と前記傷害との間に「強盗の機会」における致傷結果としての因果関係を認めるには合理的な疑いを容れる余地が残るから,本件については,強盗致傷罪の成立を否定するのが相当である。 (累犯前科)被告人は,平成9年8月8日神戸地方裁判所で常習累犯窃盗罪により懲役2年10月に処せられ,平成12年5月18日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書(省略)及び判決書謄本(省略)によって認める。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法236条1項に該当するところ,前記の前 刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書(省略)及び判決書謄本(省略)によって認める。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法236条1項に該当するところ,前記の前科があるので同法56条1項,57条により同法14条の制限内で再犯の加重をし,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽した刑期の範囲内で被告人を懲役4年4月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中210日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,被害者に対し,判示の暴行を加えて,その反抗を抑圧した上,判示財布を強取したという強盗の事案である。 被告人は,常習累犯窃盗又は窃盗罪等による多数の懲役前科を有し,最終前科である前記累犯前科の刑の執行終了から未だ1年もたたないのに,通行人から金品を窃取しようと決意し,酒に酔ってふらふらと歩いていた被害者から財布を抜き取ろうと試みたものの失敗するや,今度は同人に暴行を加えてでも金品を奪取しようと決意して本件犯行に及んだものであり,短絡的かつ自己中心的な動機に酌量の余地はない。その犯行態様は,被告人が,前記の経過で金品奪取を決意するや突如被害者に襲いかかり,酒に酔ってまともに抵抗できない同人を突き倒す等の執拗な暴行を加えて判示財布を奪取したものであり,通り魔的犯行である上大胆かつ危険であること,強取した金品も少額とはいえず,被害者が本件犯行の際に負傷していること,被害者が厳しい処分を望んでいること,前記の前科に照らすと,規範意識の乏しさは顕著であり,被告人には根深い盗癖があるといわざるを得ず,その犯行の手口・態様は次第に危険かつ悪質化していること,真摯な反省の態度は必ずしも十分とはい こと,前記の前科に照らすと,規範意識の乏しさは顕著であり,被告人には根深い盗癖があるといわざるを得ず,その犯行の手口・態様は次第に危険かつ悪質化していること,真摯な反省の態度は必ずしも十分とはいえないことを総合考慮すると,再犯のおそれも否定し難く,犯情は極めて悪質であり,被告人の刑事責任は重大である。 そうすると,本件犯行が偶発的犯行であり,凶器は一切用いていないこと,被害者に被害品が全て還付されており,実害がなかったこと,未決勾留が相当期間に及んでいること等,被告人のために酌むべき事情を最大限考慮しても,主文掲記程度の刑は免れない。 よって,主文のとおり判決する。 平成14年3月19日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官杉森研二 裁判官溝國禎久 裁判官林史高
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