平成18年6月26日判決言渡平成14年(ワ)第2168号損害賠償請求事件判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求被告らは,原告A及び原告Bに対し,連帯して,各金4078万3275円及びこれらに対する平成13年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,小児もやもや病の治療のため,被告Cの設置,運営する病院において頭蓋内外血管間接吻合術を受けた患者が,手術後に脳梗塞を生じ死亡したことから,患者の両親が,担当医師らには,①適応がなかったにもかかわらず手術を実施した過失,②適切な術後管理を怠った過失,③手術の危険性につき十分な説明を怠った過失があったなどと主張し,被告Cに対しては不法行為又は債務不履行に基づき,被告D及び被告Eに対しては不法行為に基づき,損害の賠償を請求した事案である。 前提事実(1)当事者ア被告Cは,F病院を設置,運営する学校法人である。 イ被告D及び被告Eは,いずれも,脳神経外科医師としてF病院に勤務し ていた者である。 ウ原告A及び原告B(以下,原告A及び原告Bをあわせて,「原告ら」ということがある。)は,F病院に入院手術後に死亡したG(平成2年10月15日生,平成13年12月15日当時11歳。)の両親である。 (2)事実経過(以下,特に断りのない場合は,平成13年11月中の出来事である。)アGは,平成12年ころから,足下がふらつく,状況理解ができにくくなるなどの症状が見られたため,平成13年8月20日にF病院小児科を受診し,以降,脳神経外科等において諸検査を実施した結果,もやもや病との診断を受けた。上記診察等には,被告D及び被告Eを含む複数の医師が関与した。 イ れたため,平成13年8月20日にF病院小児科を受診し,以降,脳神経外科等において諸検査を実施した結果,もやもや病との診断を受けた。上記診察等には,被告D及び被告Eを含む複数の医師が関与した。 イ被告Dらは,Gにつき,頭蓋内外血管間接吻合術(EDAS,以下「本件手術」という。)の適応と判断し,同年10月3日に原告らに対し本件手術の実施及び今後の予定等につき説明を行った。 ウGは,同月11日にF病院に入院し,同月16日に手術が予定されていたが,気管支喘息発作を発症していたことが判明したため,手術は延期された。 エGは,同年11月15日にF病院に入院した。この際,被告Dは,原告らに対し,手術承諾書を示して本件手術に関する説明を行い(具体的な説明内容については争いがある。),原告Aは本件手術の実施に同意した。 オGは,同月20日,F病院において本件手術を受けた。 カ本件手術終了後,Gは両側頭部痛及び右上腕部痛を訴え,同日午後4時40分ころ,ボルタレン12.5mgが投与された。 キGは,同月21日午前2時20分ころ,再度頭痛を訴え,ボルタレン12.5mgが投与された。 ク被告Dらは,同日午前10時51分ころ頭部CT検査を実施し,同検査 の結果,右半球に低吸収域及び腫脹が認められた。 ケGは,同日午後2時30分ころICUに転棟し,脳梗塞との診断により同月22日に内外減圧術を受けた。 コGは,同日以降も治療を継続したが,同年12月15日死亡した。死因は,もやもや病による脳梗塞に起因する急性脳腫脹と診断された。 争点 本件における争点は,①本件手術の適応の有無,②適切な術後管理を怠った過失の有無,③術後管理を怠った過失とGの死亡との間の因果関係の有無,④本件手術前に十分な説明がなされたか否か及び⑤損害額の5点である。 争点に関する 件手術の適応の有無,②適切な術後管理を怠った過失の有無,③術後管理を怠った過失とGの死亡との間の因果関係の有無,④本件手術前に十分な説明がなされたか否か及び⑤損害額の5点である。 争点に関する当事者の主張(1)争点1(本件手術の適応の有無)について(原告らの主張)ア小児もやもや病の治療法は未確立であり,EDASの有効性は必ずしも明らかではないのに対し,これを実施した場合,脳梗塞等の重篤な合併症が生じる危険性があることからすれば,その適応は慎重に判断すべきである。平成13年に厚生労働省の指導の下で作成された基準において,脳虚血症例に対しては,内科的治療をすすめながらウィリス動脈輪閉塞症(もやもや病と同義)の確定診断をし,①明らかな脳虚血発作を繰り返す,②脳循環代謝検査において,脳血管反応性の低下,脳循環予備能の障害が認められた場合にEDASを含む血行再建術の適応となるとの治療方針が示されているところ,①Gには,本件手術前1年間に1回ないし2回の脳虚血発作があったものの,その他は,激しい運動も可能な程度に良好な健康状態であったのであるから,明らかな脳虚血発作を繰り返していたとはいえないこと,②被告Dらは,脳血管造影検査は実施したものの,病状の進行を適切に評価しておらず,脳血管反応性の低下,脳循環予備能の障害が認められたとはいえないことに加え,既往症である気管支喘息発作を発症 する危険性があり,呼吸管理が通常の患者よりも困難であったことからすれば,本件手術の適応があったとはいえない。 イGの死因となった脳梗塞は本件手術の合併症として発症したものであり,被告らが本件手術の適応につき適切に判断して,これを実施しなければGが死亡することはなかったのであるから,死亡との因果関係も認められる。 ウ被告Eは,Gに対して実施されたチーム 発症したものであり,被告らが本件手術の適応につき適切に判断して,これを実施しなければGが死亡することはなかったのであるから,死亡との因果関係も認められる。 ウ被告Eは,Gに対して実施されたチーム医療の代理監督者の地位にあった者であるから,被告Dに不法行為が成立する場合,代理監督者としての責任を負う。そして,上記被告両名の不法行為に基づく損害賠償債務と被告Cの不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償債務は,不真正連帯債務となる(この点に関する主張は,後記争点2ないし4においても共通する。)。 (被告らの主張)アもやもや病は進行性病変であり,時間の経過により重篤な症状が発現する危険性が増大する一方,有効性が確立された薬物療法はなく,EDASを含む血行再建術を実施するのが趨勢となっており,特に虚血型もやもや病に対しては,その有効性が高いとされている。Gには,平成12年に1回,平成13年8月に2回にわたり,右不全麻痺の症状が認められていることからすれば,明らかな脳虚血発作を繰り返していることが明白であり,原告らの主張する基準によっても,本件手術の適応があったといえる。なお,被告らは気管支喘息発作が生じてから十分な期間を置いて本件手術を実施しており,実際に本件手術中及び手術後のいずれにおいても気管支喘息発作が発症したことはなかったことからすれば,この点についても問題はなかった。 イもやもや病患者に対しEDASを実施した場合に,これにより脳梗塞を発症する原因としては,①過度の血圧低下,②過度の炭酸ガス分圧低下,③脱水,④側副血行路の損傷等が考え得るが,本件診療経過においては, 上記のいずれも認められない。もやもや病自体の増悪により脳梗塞が発症した可能性も否定できず,具体的な原因は不明というべきであるから,本件手術を実施しなかったとして るが,本件診療経過においては, 上記のいずれも認められない。もやもや病自体の増悪により脳梗塞が発症した可能性も否定できず,具体的な原因は不明というべきであるから,本件手術を実施しなかったとしても,Gの死亡を回避することができたということはできない。 ウ被告Eが被告Dらの代理監督者の地位にあったとはいえないから,同人が民法上の監督責任を負うことはない。 (2)争点2(適切な術後管理を怠った過失の有無)について(原告らの主張)被告Dらは本件手術後,以下のとおり,適切な術後管理を怠った。これらの点については,病院として一連の組織的な活動の過程に全体として不十分な点が存したのであるから,病院(被告C)自体についても不法行為が成立する。 ア血中炭酸ガス分圧の測定虚血による脳梗塞の予防及び拡大防止のためには,虚血状態の判定が重要であり,血中炭酸ガス分圧は,虚血状態に陥るリスクを判断する上で重要な指標である。したがって,被告Dらは本件手術後,血中炭酸ガス分圧を継続的に測定し,虚血状態が判明した時点で,ペーパーバッグによる呼吸管理,デキストランの投与による血管斂縮の防止,軽減を行うことにより,脳梗塞の発生を未然に防止すべきであったにもかかわらず,これを怠った。 イ頭痛に対する対応Gは,21日午前2時20分ころ頭痛を訴えているところ,上記頭痛はボルタレン投与によっても軽減しなかったことからすれば,創部痛ではなく,頭蓋内圧亢進を原因とする頭痛であった可能性が高い。そして,もやもや病患者が虚血を発症する際には,頭痛を伴うことが多いとされ,中等度から重度の頭痛は,虚血を疑うべき兆候と評価できること及び小児もや もや病患者においては,頭痛による精神的不安により泣くなどして過呼吸を生じ,これにより虚血性脳梗塞を発症する危険性があることからすれ ら重度の頭痛は,虚血を疑うべき兆候と評価できること及び小児もや もや病患者においては,頭痛による精神的不安により泣くなどして過呼吸を生じ,これにより虚血性脳梗塞を発症する危険性があることからすれば,被告Dらは,Gに生じた頭痛の原因につき創部痛と即断せず,虚血を発症している可能性を考慮してCT検査等の適切な検査を実施すべきであったにもかかわらず,これを怠った。 ウ呼吸管理F病院麻酔記録には,手術後翌朝まで酸素吸入を実施すべきとの記載があり,Gに喘息の既往症があったことを考慮すれば,通常の患者と比較して慎重な呼吸管理を要する状態であったにもかかわらず,被告Dらは,手術後3時間ないし4時間が経過した時点で,酸素投与を中止した。 エ合併症の観察等(ア)Gは脳梗塞発症の危険性がある状態だったのであるから,小児病棟ではなく脳神経外科病棟に入院させるべきであった。 (イ)F病院看護師らは,適切な頻度で観察を行い,特に21日午前2時20分ころにGが頭痛を訴えた時点では,頭蓋内圧亢進等を疑って瞳孔所見,麻痺の有無・程度,嘔気・嘔吐の有無の確認及び採血等を実施すべきであった。また,虚血状態の有無の診断においては,綿密な血圧測定が重要であり,特にボルタレン投与後は,これにより血圧低下を生じる危険性があったのであるから,高い頻度で血圧測定を実施すべきであったにもかかわらず,20日午後10時から21日午前10時までの間,約4時間ごとに測定するにとどまった上,測定の結果拡張期血圧が低かったにもかかわらず,適切な措置をとらなかった。被告Dは,上記各点につき看護師らに十分な指示監督をすべきであったにもかかわらず,これを怠った。 (ウ)被告Dは,自らも十分な診察を実施すべきであったにもかかわらず,20日午後9時以降,診察を怠った。 オ脳梗塞発症後 護師らに十分な指示監督をすべきであったにもかかわらず,これを怠った。 (ウ)被告Dは,自らも十分な診察を実施すべきであったにもかかわらず,20日午後9時以降,診察を怠った。 オ脳梗塞発症後の対応21日午前10時51分ころに頭部CT検査を実施した時点で,脳梗塞を発症していることが判明していたのであるから,被告Dらは直ちに内外減圧術を実施すべきであったにもかかわらず,これを怠った。 (被告らの主張)被告らは,以下のとおり,適切な術後管理を実施しているから,被告らの術後管理に過失はない。 ア血中炭酸ガス分圧の測定血中炭酸ガス分圧測定は動脈採血により実施するため,呼吸状態の異常が認められるなど,医学的必要性のある場合にのみ適応となる。本件では呼吸状態の異常は認められておらず,他に脳梗塞又は脳虚血状態を示唆するような神経症状も認められなかったのであるから,血中炭酸ガス分圧測定を実施すべき医学的必要性はなかった。また,ペーパーバッグは過呼吸状態において使用されるところ,本件において過呼吸状態が生じていたとの事実はないこと,デキストランには血管収縮の防止,軽減の効果はないことからすれば,原告らが必要であったと主張する治療行為は,いずれも医学的必要性を欠くものである。 イ頭痛に対する対応Gが訴えていた頭痛は,本件手術による創部痛であったことが明らかであるから,これに対しCT検査等を実施すべきであったとはいえない。 ウ呼吸管理被告Dらは,本件手術後4時間という十分な経過観察時間を置いた上で,問題となるような症状,所見を認めなかったことを確認し,酸素投与を継続することにより咽頭痛,鼻粘膜充血,咳等の症状が誘発される可能性があること,G自身が酸素マスクを嫌がっており,継続すれば安静を保持できなくなる危険性があること等の要素を考慮して酸素 ,酸素投与を継続することにより咽頭痛,鼻粘膜充血,咳等の症状が誘発される可能性があること,G自身が酸素マスクを嫌がっており,継続すれば安静を保持できなくなる危険性があること等の要素を考慮して酸素投与の中止を決定し たのであり,上記判断に誤りはない。 エ合併症の観察等(ア)F病院小児病棟においては,小児特有の疾患につき熟知した専門の看護師らが観察を行っているから,小児病棟に入院させたことに何ら問題はない。 (イ)F病院看護師らは,Gの状態につき頻回に観察を行っている。Gが訴えた頭痛は,本件手術の創部痛によるものであったことが明らかであるから,その原因が頭蓋内圧亢進等である可能性を疑って原告らの主張する観察をすべき義務があったとはいえない。また,虚血状態の有無の診断のために血圧測定を実施すべきとの医学的知見は存在せず,原告らが主張する事実関係を前提として,いかなる処置をすべきであったかについても明らかではない。 (ウ)D医師は,21日午前0時ころにもGを診察している。その後の時間帯においては,看護師から特段の異常の報告はなかったのであるから,診察しなかったことに問題はない。 オ脳梗塞発症後の対応脳梗塞を発症した場合,梗塞部分は不可逆的壊死に陥っているのであるから,内外減圧術によっても機能を回復させることはできない。また,内外減圧術を実施した場合,正常部分を含めて脳を切除せざるを得ないため,脳ヘルニアが避けられない状態において最後の手段として実施されるものであることからすれば,脳梗塞が認められたとしても,直ちに内外減圧術を実施すべきではない。 (3)争点3(術後管理を怠った過失とGの死亡との因果関係の有無)について(原告らの主張)ア脳梗塞の発症時期 21日午前10時51分ころに実施された頭部CT検査において,脳実 きではない。 (3)争点3(術後管理を怠った過失とGの死亡との因果関係の有無)について(原告らの主張)ア脳梗塞の発症時期 21日午前10時51分ころに実施された頭部CT検査において,脳実質の広範囲にわたって低吸収領域が出現しているところ,発症から上記所見が出現するまでには通常12時間程度を要する場合が多いとされること,同日午前2時20分ころにGが訴えていた頭痛は脳梗塞と関係していたと考えられることからすれば,上記時刻ころ又はそれ以前の時点で,脳梗塞が発症していたと考えられる。 イ脳梗塞の原因及び回避可能性Gに生じた脳梗塞は,本件手術の合併症として生じたものであり,その具体的機序を特定することはできないが,①頭痛等による過呼吸,②輸液不足による脱水,③ボルタレンの投与を含む疼痛コントロールに起因する血圧低下のいずれかが影響していると考えられる。 そして,①であれば適切な呼吸管理及び鎮痛剤の投与により,②であれば輸液の補充により,③であれば血圧昇圧剤の使用により,Gの死亡を回避することが可能であったというべきであり,少なくとも,その相当程度の可能性は存在した。 (被告らの主張)ア脳梗塞の発症時期脳梗塞の画像上の所見は,血流不足の程度,その過程における時間的経過,側副血行路の程度等の要素により異なり,特にGのようにもやもや病という特殊な血行動態を有する患者については,原告らの前提とする一般的な医学的知見は当てはまらない。むしろ,脳梗塞においては,画像上の所見が出現する前に麻痺その他の神経症状が必ず出現するとされるところ,Gについて,20日午後9時から21日午前2時20分までの間に神経症状が認められたことはなかったのであるから,上記時点ではまだ脳梗塞は発症しておらず,同日午前10時ころの時点で発症又は発症の前段階である脳 て,20日午後9時から21日午前2時20分までの間に神経症状が認められたことはなかったのであるから,上記時点ではまだ脳梗塞は発症しておらず,同日午前10時ころの時点で発症又は発症の前段階である脳虚血の状態に至ったと考えられる。 イ脳梗塞の原因及び回避可能性原告らの主張する過呼吸,脱水又は血圧低下の事実があったことをうかがわせる事情は存在しない。もやもや病自体の増悪により脳梗塞が発症する可能性も否定できず,Gに発症した脳梗塞の具体的な原因は不明というべきであるから,原告らの主張する術後管理を実施したとしても,Gの死亡を回避することが可能であったということはできない。 (4)争点4(説明義務違反の有無)について(原告らの主張)アEDASを実施するに当たっては,脳梗塞を含む重篤な合併症が生じる危険性があるから,医師は患者らに対し,上記合併症発生の危険性につき十分に説明すべき義務を負う。被告Dは,手術承諾書において,術後合併症として,「血行動態変化による神経症状発現の可能性」を挙げたのみで,脳梗塞発症の危険性について十分に説明しなかった。 イ原告らが脳梗塞発症の危険性につき十分な説明を受けていれば,本件手術の実施に同意することはなかった。そして,Gの死因となった脳梗塞は本件手術の合併症として発症したものであり,被告らが本件手術を実施しなければGが死亡することはなかったのであるから,結果との因果関係が認められる。 (被告らの主張)ア被告Dは,原告らに対し口頭で,本件手術侵襲により脳虚血状態を生じ,これにより脳梗塞を発症する危険性がある旨を説明し,そのような趣旨で手術承諾書に「血行動態変化による神経症状発現の可能性」と記載したのであるから,説明義務は十分に果たしている。 イ前記のとおり本件手術は十分に適応があったのであるから る旨を説明し,そのような趣旨で手術承諾書に「血行動態変化による神経症状発現の可能性」と記載したのであるから,説明義務は十分に果たしている。 イ前記のとおり本件手術は十分に適応があったのであるから,詳細な説明をしていれば,むしろ原告らが同意する可能性がより高まっていたというべきである。したがって,結果との因果関係も認められない。 (5)争点5(損害額)について(原告らの主張)本件医療事故により,G及び原告らは,以下の損害を被った。(合計8156万6550円)ア逸失利益3856万3834円賃金センサス平成12年産業計全労働者497万7700円を基礎収入とし,就労可能期間を18歳から67歳まで,生活費控除率を40パーセントとして,中間利息をライプニッツ方式(係数は12.9122)で控除して算定。 イ本人慰謝料2000万円ウ近親者固有慰謝料各500万円エ治療費等2万8000円オ入院付添費各12万5000円カ診療情報開示費用8万5600円キ葬儀費用200万円ク弁護士費用1063万9116円(上記アないしキの合計額の約15パーセント)(被告らの主張)いずれも争う。 第3争点に対する判断 認定事実前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 (1)Gは,平成12年ころ及び平成13年8月9日に食事中に箸を落とし,足元がふらつく症状が,同月13日に立ちくらみ発作が,同月14日には電話中に状況を理解しにくくなる症状が見られたため,同月20日,上記各症 状を訴えてF病院小児科を受診し,被告Cとの間で診療契約を締結した。 (2)F病院は,同月28日以降,Gに対し,心電図検査,脳波検査,頭部CT検査及び頭部MRI検査を実施し,同年9月10日ころまでに,もやも F病院小児科を受診し,被告Cとの間で診療契約を締結した。 (2)F病院は,同月28日以降,Gに対し,心電図検査,脳波検査,頭部CT検査及び頭部MRI検査を実施し,同年9月10日ころまでに,もやもや病の疑いがある旨診断した。 (3)Gは,同月18日から20日までの間F病院に入院し,入院中の同月19日,両側内頚,外頚動脈,左椎骨動脈造影検査を受けた。上記検査の結果,主治医であった被告Dは,もやもや血管の増勢期にあると診断し,同年10月16日に本件手術を実施することを決定した。その後,同月8日に既往症である気管支喘息発作が発症したため,本件手術は同年11月20日に延期された。 (5)被告Dは,同年10月3日,原告らに対し,本件手術及び今後の予定等につき説明を実施した。 (6)被告Dは,同年11月7日,原告らに対し,Gの状態につき,「段階に分けると6段階中2ないし3段階目であり,すぐに手術をしなくても良いが,いずれ脳血管が詰まる可能性がある,ただしその時期は予測できず,そのまま何も起きない可能性もある。」との趣旨の説明をした。 (7)Gは,15日から本件手術のためF病院に入院した。被告Dは,同日,「術中・術後合併症」欄に「血行動態変化による神経症状発現の可能性」と記載した手術承諾書を示した上で,原告らに対し,Gの状態及び本件手術等につき説明を行い(その具体的内容については後に検討する。),原告Aは本件手術の実施に同意した。 (8)H医師は,20日午前9時46分から午後3時03分にかけて,左側頭部及び右側頭部を順次切開する方法により本件手術を実施し,被告Dは助手として関与した。本件手術中のGの血中炭酸ガス分圧等の測定結果に特段の異常は見られなかった。 (9)Gは,本件手術終了後の同日午後3時50分ころ小児病棟の病室に帰 室したが 施し,被告Dは助手として関与した。本件手術中のGの血中炭酸ガス分圧等の測定結果に特段の異常は見られなかった。 (9)Gは,本件手術終了後の同日午後3時50分ころ小児病棟の病室に帰 室したが,運動麻痺は認められず,そのころから両側頭部痛及び右上腕部痛を訴え始めた。被告DはGを診察し,酸素マスクを装着させた上で,同日午後4時40分ころ,ボルタレン12.5mgを投与したところ,両側頭部痛は軽減した。 (10)I看護師は,同日午後3時50分ころ,血圧測定を実施した。以降,F病院看護師らは,同日午後4時05分(128/54),午後4時20分(128/52),午後4時50分(124/48),午後5時50分(118/38),午後6時(128/40),午後10時(116/42),21日午前2時(128/56),午前6時(130/58),午前10時(128/62)に血圧測定を実施した。なお,I看護師は,本件手術後の20日午後3時50分ころから午後5時ころまで及び21日午前0時30分ころから午前9時ころまでの時間帯にGの看護を担当していた。 (11)被告Dは,20日午後7時ころGを診察したところ,頭痛があるものの,右上腕痛は軽減し,嘔吐はなく,意識清明で巣症状は見られなかった。 また,被告Dは,看護師に指示して,Gが装着していた酸素マスクを取り外したが,呼吸状態に著しい変化はなかった。 (12)被告Dは,同日午後9時ころGを診察して患部のガーゼを交換し,圧迫止血を行った。 (13)被告Dは,21日午前0時ころ,入眠中のGを起こして診察し,頭痛があるものの,意識清明で運動麻痺及び巣症状は見られないこと等を確認した。(なお,原告らは,証拠中の上記記載部分は事後的に改ざんされたものである可能性があること及び上記診察の記載が看護記録には存在しないこ のの,意識清明で運動麻痺及び巣症状は見られないこと等を確認した。(なお,原告らは,証拠中の上記記載部分は事後的に改ざんされたものである可能性があること及び上記診察の記載が看護記録には存在しないことを理由に,上記診察は実際には行われていなかった旨を主張する。しかしながら,診療録の上記記載部分が事後的に改ざんされたものであると認めるに足りる事情はなく,また,看護記録に同旨の記載が存在しないことをもって直ちに上記診察があったとの事実を否定すべきことにはならないから,原 告らの主張は採用できない。)(14)I看護師は,同日午前2時ころGを観察したが,状態に変化はなかった。また,Gは,同日午前2時20分ころ,ナースコールにより自制不能な程度の頭痛を訴え,I看護師がボルタレン12.5mgを投与したが,頭痛は軽快しなかった。 (15)I看護師は,同日午前6時,午前8時30分及び午前9時にGを観察したが,その間,Gは,15分ないし30分毎に頭痛を訴えていたものの,特段の神経症状は認めなかった。 (16)F病院看護師は同日午前10時ころ,Gの左上下肢の動きがいまひとつであることを発見し,被告Dは,同日午前10時51分ころ,放射線科に依頼してGの頭部CT検査を行った。同検査の結果,Gの右半球に低吸収域及び腫脹が認められ,同日午後2時30分ころ,ICUに転棟した。 (17)被告Dは,Gにつき脳腫脹及び切迫脳ヘルニアと診断し,同月22日午後5時10分から午後6時20分にかけて,内外減圧術を実施した。 (18)Gは,以降も治療を継続したが,同年12月15日に死亡した。死因は,もやもや病による脳梗塞に起因する急性脳腫脹と診断された。 争点1(本件手術の適応の有無)について(1)この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 アJ鑑定 に死亡した。死因は,もやもや病による脳梗塞に起因する急性脳腫脹と診断された。 争点1(本件手術の適応の有無)について(1)この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 アJ鑑定小児もやもや病に対する治療適応は未だ確立されたものではないものの,文献上,①一過性脳虚血発作例,②脳梗塞慢性期だが,ADL(日常生活動作)が確立している例,③他に原因が特定できないコントロール不良の不随意運動(舞踏病等),④難治性の虚血側と一致する頭痛が挙げられており,Gには本件手術の絶対適応があった。 イK鑑定Gは,放置すれば一過性脳虚血発作(TIA)を繰り返したり,脳梗塞 を発症して永続的な神経脱落症状を生じ,知能予後に影響を及ぼす危険性もある状態であり,内科的に有効とされる治療法はなかったのであるから,何らかの血行再建術を実施すべきであった。 ウL鑑定Gの疾患は,症候性のもやもや病であったところ,若年者の症候性のもやもや病に対する内科的治療には限界があり,これに対して手術の効果は期待できること,症状が軽微であったとしても,経過観察のみで軽快する例はごく少数であること,症状安定期の手術は比較的安全に行えるのに対し,発作が頻発してから治療にかかるのは危険なことが多いことからすれば,手術適応及び時期には問題がなかった。 (2)複数鑑定の結果によれば,K鑑定及びL鑑定は,経過観察を実施しても自然軽快する可能性は低く,むしろ脳梗塞等を発症する危険性があり,有効な内科的療法は存在しないこと等を理由に本件手術の適応を肯定し,J鑑定も,Gに一過性脳虚血発作が見られたこと等を理由に本件手術の適応を肯定しているところ,証拠中の医学的知見を併せ考えれば,Gには本件手術の適応があったものと認めるのが相当である。なお,L鑑定は,本件で行われたように 虚血発作が見られたこと等を理由に本件手術の適応を肯定しているところ,証拠中の医学的知見を併せ考えれば,Gには本件手術の適応があったものと認めるのが相当である。なお,L鑑定は,本件で行われたように左右両側を同時に手術する方法の他,段階的に2回にわたって左右別々に手術する方法も考えられ,同時に治療する必要があったかについては疑問の余地がある旨を指摘しているものの,いずれの方法がより安全かに関しては明確な結論は出ていないとしているのであるから,本件手術の適応を否定する趣旨でないことは明らかである。 (3)これに対し,原告らは,脳梗塞等の重篤な合併症を生じる危険性があったことを理由の1つとして,本件手術の適応がなかった旨を主張するところ,3名の鑑定人は,いずれも本件手術による合併症の危険性につき直接言及してはいないが,本件手術により得られる利益が,上記危険性のリスクを上回るとの前提に立っているものと解するのが相当である。 (4)したがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。 争点2(適切な術後管理を怠った過失の有無)について(1)血中炭酸ガス分圧の測定についてこの点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 アJ鑑定血中炭酸ガス分圧の測定は,術後管理の1つの指標としては有効であるが,F病院のプロトコールにおいては,術後に安定している小児例では,動脈内にサンプリング用のカテーテルを留置する必要がある血中炭酸ガス分圧の測定は行っておらず,本件でこれを行わなかったことは不適切ではなかった。 イK鑑定本件手術後,Gには啼泣や過呼吸は見られず呼吸状態は安定していたこと,採血に伴う痛みやストレス,血液量の減少等のデメリットがあることからすれば,血中炭酸ガス分圧の測定を行わなかったことは適切であった。 ウL鑑定もやも や過呼吸は見られず呼吸状態は安定していたこと,採血に伴う痛みやストレス,血液量の減少等のデメリットがあることからすれば,血中炭酸ガス分圧の測定を行わなかったことは適切であった。 ウL鑑定もやもや病患者について血中炭酸ガス分圧の測定をすることは,過呼吸による脳梗塞の予防の面では有用であるが,一方において,採血又は持続的な動脈内エラスタ(点滴用の針)留置が必要であり,これらによる疼痛,不安から症状の悪化を誘発する場合もあるため,検査による利益と不利益を勘案して適応を決すべきところ,本件診療記録を見る限りでは,これを実施しなかったことが不適切とまではいえない。経過観察の過程において,症状の悪化や継続する過呼吸状態が認められた場合には,直ちに血中炭酸ガス分圧の測定を実施すべきであったが,21日午前2時20分から午前10時までの時間帯のGの状態については診療録中に十分な記載が存在しないため,上記期間に血中炭酸ガス分圧の測定を実施しなかったことの是非については判定不能である。 エ複数鑑定の結果によれば,3名の鑑定人はいずれも,本件診療記録等に現れた事実のみを前提とする限りでは,動脈内にサンプリング用のカテーテルを留置する必要がある血中炭酸ガス分圧測定を実施することによる症状悪化の危険性等を考慮すれば,同測定を実施しなかったこと自体が不適切であったとはいえないとする点で一致している。 しかしながら,L鑑定は,経過観察の過程において症状の悪化や継続する過呼吸状態があった場合には,直ちに同測定を実施すべきであったところ,21日午前2時20分から同日午前10時までの時間帯のGの状態については診療録中に十分な記載が存在しないため,上記期間に血中炭酸ガス分圧の測定を実施しなかったことの是非については判定不能であるとしている。 K鑑定は,血中炭酸 午前10時までの時間帯のGの状態については診療録中に十分な記載が存在しないため,上記期間に血中炭酸ガス分圧の測定を実施しなかったことの是非については判定不能であるとしている。 K鑑定は,血中炭酸ガス分圧測定を実施しなかったことが不適切ではなかったとしているが,上記結論に至る理由中において,Gの呼吸状態が安定していたことを挙げていることからすれば,呼吸状態が不安定であった場合には,血中炭酸ガス分圧測定の必要性が生じるとの趣旨と解される。 J鑑定は,血中炭酸ガス分圧測定を実施しなかったことが不適切ではなかったとするものの(同鑑定は,明示してはいないものの,本件診療記録等に記載されたもの以外にGに異常はなかったことを前提としているものと解される。),一般論として,もやもや病患者に対するEDASの術後管理としての血中炭酸ガス分圧測定の有効性を肯定している。 そうすると,各鑑定の理由を総合すると,K鑑定及びL鑑定は,本件診療記録に記載されたもの以外に呼吸状態等の異常が生じていた場合には血中炭酸ガス分圧測定を実施すべきであったとする点においては一致しているというべきであり,J鑑定もこれを直ちに否定するものではないから,本件診療記録に記載されたもの以外に,Gに呼吸状態等の異常が生じていたか否か及び被告らにこれを看過した過失があったか否かにつき検討を要 することになるが,後者は合併症の観察等を怠った過失(後記(4))があったか否かの問題であり,前者は上記過失があった場合に,Gの死亡との因果関係が認められるか否か(争点3)の問題に帰することになるから,それぞれの項目において後に検討する。 (2)頭痛に対する対応この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 アJ鑑定Gが本件手術以前には頭痛を訴えていなかったこと及び痛みの部位が切開部 れぞれの項目において後に検討する。 (2)頭痛に対する対応この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 アJ鑑定Gが本件手術以前には頭痛を訴えていなかったこと及び痛みの部位が切開部位と一致することからすれば,頭痛の原因は創部痛であったと考えられる。 イK鑑定20日午後3時50分ころ以降の頭痛は,ボルタレンの投与により午後5時50分時点で軽快していることからすれば,創部痛であった可能性が高いが,21日午前2時20分以降の頭痛は,ボルタレンの投与によっても軽快しなかったこと等からすれば,脳梗塞の随伴症状としての頭痛又は頭蓋内圧亢進症状としての頭痛であった可能性も否定できない。ただし,Gが頭痛を訴えた時点で上記判断を行い,脳梗塞の発症を予想することは困難であった。 ウL鑑定頭痛の訴えが始まった20日午後3時50分時点では脳梗塞は発症していなかったこと,脳梗塞において警告頭痛が生じることはまずないこと,もやもや病においては脳虚血発作に伴い頭痛が生じる場合があるものの,この場合の頭痛は2時間ないし3時間以内の一過性かつ軽度のものが多いことなどからすれば,頭痛の原因は本件手術による創部痛であったと考えられる。 エ複数鑑定の結果によれば,J鑑定及びL鑑定は,Gに生じた頭痛は本件 手術による創部痛であったとしているのに対し,K鑑定は,20日午後3時50分以降の頭痛は創部痛であった可能性が高いが,21日午前2時20分以降の頭痛は脳梗塞の随伴症状又は頭蓋内亢進症状としての頭痛であった可能性も否定できないとしているので,この点につき検討する。 J鑑定は,Gが本件手術以前には頭痛を訴えていなかったこと及び痛みの部位が切開部位と一致することを理由に,L鑑定は,頭痛の訴えが始まった20日午後3時50分時点では脳梗塞は発症していなかっ 討する。 J鑑定は,Gが本件手術以前には頭痛を訴えていなかったこと及び痛みの部位が切開部位と一致することを理由に,L鑑定は,頭痛の訴えが始まった20日午後3時50分時点では脳梗塞は発症していなかったこと,脳梗塞において警告頭痛が生じることはまずないこと及びもやもや病においては脳虚血発作に伴い頭痛が生じる場合があるものの,この場合の頭痛は2時間ないし3時間以内の一過性かつ軽度のものが多いことを理由に,いずれもGに生じた頭痛の原因は本件手術により生じた創部痛であったとしている。 これに対しK鑑定は,20日午後3時50分ころ以降の頭痛がボルタレンの投与により午後5時50分には軽快したのに対し,21日午前2時20分以降の頭痛はボルタレン投与によっても軽快しなかったことを理由に,後者は脳梗塞の随伴症状又は頭蓋内亢進症状としての頭痛であった可能性も否定できないとするが,頭痛が軽快したといえるか否かは程度問題であるから(看護記録には,午後5時50分に「頭の創痛軽減」との記載はあるものの,この時点で完全に軽快したとまでは認められない。),両者の比較のみをもって直ちに上記結論を導くに足りる根拠となり得るかは疑問であること,K鑑定も脳梗塞の随伴症状又は頭蓋内亢進症状としての頭痛であった可能性も否定できないとするにとどまり,創部痛であった可能性を積極的に否定するものではないこと等の事情を総合すれば,Gに生じた頭痛は本件手術による創部痛であったと認めるのが相当である。 さらにK鑑定は,前記判断は脳梗塞を生じた結果からの推測であり,頭痛を訴えた時点でこれを予測することは困難であったとしていることから すれば,K鑑定によっても,Gの頭痛の原因が脳梗塞の随伴症状又は頭蓋内亢進症状である可能性を考慮してCT検査等を実施しなかったことが過失であったとはいえない とは困難であったとしていることから すれば,K鑑定によっても,Gの頭痛の原因が脳梗塞の随伴症状又は頭蓋内亢進症状である可能性を考慮してCT検査等を実施しなかったことが過失であったとはいえない。上記結論においては,3名の鑑定人の意見は一致しているというべきである。 オしたがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。 (3)呼吸管理ア前記認定事実によれば,Gは本件手術終了後から酸素マスクを装着して酸素投与を受けていたが,20日午後7時ころに診察した被告Dの指示により酸素投与が中止されたことが認められる。 イこの点につき原告らは,F病院麻酔記録において,「酸素吸入可能ならば」,「翌朝時まで」と記載されていたにもかかわらず,本件手術後約4時間で酸素投与を中止したことは不適切であった旨を主張するが,上記記載は本件手術終了時における麻酔科医師の判断を記載したものに過ぎず(このことは同頁の「可能ならば」との記載からも裏付けられる。),最終的な酸素投与中止時期については,患者を直接診察した医師の判断に委ねられていたというべきであるところ,被告Dは前記のとおりGを診察した上で酸素投与の中止を決定していること,本件手術後のGの呼吸状態には特段問題がなく,SpO2は97ないし100の間で推移していたこと,証拠中の医学的知見によれば,一過性脳虚血発作の発症時には適度の酸素投与を行うとされており,発作が生じていない場合も常に実施する必要があるとまでは認められないこと等を考慮すれば,上記時期に酸素投与を中止したことが不適切であったと認めることはできない。 ウしたがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。 (4)合併症の観察等ア小児病棟に入院させた点この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 (ア)J鑑定 きない。 ウしたがって,この点に関する原告らの主張は採用できない。 (4)合併症の観察等ア小児病棟に入院させた点この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 (ア)J鑑定Gを小児病棟に入院させた点は,F病院脳神経外科がルーチンに行っているものであって,適切であった。 (イ)K鑑定Gが当時11歳であったことからすれば,専門のスタッフが看護を行うことによりリスクを最小にできる小児病棟において周術期管理を行うのが一般的であり,適切であったといえるが,病院によっては内規により脳神経外科病棟で管理する場合もあるので,F病院においてどのような診療体制がとられていたかにつき確認する必要がある。 (ウ)L鑑定F病院小児病棟の看護能力,特に脳外科患者に対する経験,熟練度が不明なため判定できないが,直ちに不適切であったとは言い難い。 (エ)複数鑑定の結果によれば,J鑑定は,Gを小児病棟に入院させた点につき無条件で適切であったとするのに対し,K鑑定人はF病院においてどのような診療体制がとられていたかにつき確認する必要があるとの留保付きで適切であったとし,L鑑定は,小児病棟の看護能力が不明なため判定できないが直ちに不適切であったとは言い難いとしており,3名の鑑定人の意見は必ずしも一致していない。 そこで,各鑑定の理由を総合して検討すると,K鑑定は,Gを小児病棟に入院させたことがF病院において通常とられていた診療体制に合致するか否かを検討する必要性を指摘するところ,上記指摘は,F病院の診療体制自体が医療水準に合致するか否かについての検討を必要とするとの趣旨と解され,上記検討においては小児病棟の看護能力についての検討を要することになるから,結局,小児病棟の看護能力の検討を要するとする点において,L鑑定と一致しているというべきであ を必要とするとの趣旨と解され,上記検討においては小児病棟の看護能力についての検討を要することになるから,結局,小児病棟の看護能力の検討を要するとする点において,L鑑定と一致しているというべきである。これに対しJ鑑定は,無条件で適切であったとする根拠としてF病院がルーチ ンで行っているものであることを挙げるものの,これはF病院における医療慣行を示すものにとどまり,それ自体が合理的根拠となり得るかは疑問があるといわざるを得ない(このことは,後記イ及びウに関しても同様である。)。 (オ)そこで検討するに,F病院小児病棟はF病院のすべての診療科目から小児患者を受け入れており,深夜帯においては看護師3名が常駐していたこと,I看護師は,もやもや病の病態及びこれにより脳梗塞,脳出血等の合併症を生じる可能性があるなどの知識を有しており,少なくとも20日午後3時50分ころから午後4時40分ころまでの時間帯には,瞳孔所見,麻痺の有無等,脳神経外科手術後に必要な各種観察を実施していたこと(なお,I看護師が上記観察を21日午前2時以降においても実施したか否かについては,後に検討する。)に加え,20日深夜から21日早朝にかけての時間帯においては,脳神経外科医である被告Dが当直医であったことを併せ考えれば,少なくとも上記時間帯におけるGに対する看護に関しては,F病院小児病棟は十分な看護能力を有していたものと認めるのが相当である。 (カ)したがって,Gを小児病棟に入院させたこと自体が不適切であったとは認められないから,この点についての原告らの主張は採用できない。 イ看護師による観察内容この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 (ア)J鑑定本件手術終了以降のF病院看護師らによる観察内容は,F病院脳神経外科がルーチンに行っているもので い。 イ看護師による観察内容この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 (ア)J鑑定本件手術終了以降のF病院看護師らによる観察内容は,F病院脳神経外科がルーチンに行っているものであって,適切であった。 (イ)K鑑定バイタルサイン,意識状態,呼吸状態,嘔気・嘔吐,創部痛,尿量等 の一般的な術後観察の内容は適切であった。麻痺の有無,瞳孔所見等,脳神経外科手術の術後において特に必要とされる点については診療録等に記載するのが一般的であり,これらの点につき記載がないことには疑問を感じるが,瞳孔所見及び握手をした時の左右差を確認したとのI証言が真実であれば,この点についての観察内容も適切であった。 (ウ)L鑑定F病院診療録等には,21日午前0時以降の麻痺を含む局所神経症状や意識状態の記載につき欠ける点が多く,同日午前6時から午前9時ころまでには麻痺が出現していた可能性が高いにもかかわらず,その記載がなされていない。同日午前2時20分にボルタレンを投与した5分ないし15分後及び30分ないし60分後には血圧測定を実施すべきであり,これが行われていなかったとすれば不適切であった。 (エ)複数鑑定の結果によれば,J鑑定は,看護師による観察内容につき無条件で適切であったとしているのに対し,K鑑定は,瞳孔所見及び握手をした時の左右差を確認したとするI証言が真実であればとの条件付きで適切であったとし,L鑑定は,F病院診療録等には麻痺を含む局所神経症状や意識状態の記載につき欠ける点が多いとしているものの,看護内容の適切性については明確な結論を述べておらず,3名の鑑定人の意見は必ずしも一致していない。 そこで,各鑑定の理由を総合して検討すると,無条件で適切であったとするJ鑑定が示す根拠が,それ自体必ずしも合理的な根拠となり得るか疑問 を述べておらず,3名の鑑定人の意見は必ずしも一致していない。 そこで,各鑑定の理由を総合して検討すると,無条件で適切であったとするJ鑑定が示す根拠が,それ自体必ずしも合理的な根拠となり得るか疑問があることについては,前記アと同様である。そして,K鑑定及びL鑑定は,いずれも診療録等には麻痺の有無,瞳孔の大きさの左右差及び血圧測定の結果等の記載に欠ける部分があり,これらの点につき十分な観察が行われていなかったとすれば不適切であったとの趣旨と解される。 (オ)そこで検討すると,被告らは,I看護師は瞳孔所見,握手をしてもらって左右差がないか等の神経的な面についても適切な観察を行っていた旨主張し,証人Iも概ねこれに沿う証言をしている。しかしながら,同証人はその余の観察経過については記憶がないとしている部分が多く,陳述書においても,本件手術後のGに関する記憶として残っているのは,帰室直後から創部痛を訴えていたこと,深夜帯において創部痛を訴えることがあったこと,ICUに入室したこと等であり,それ以外に詳しい記憶はないとしていることからすれば,上記証言部分は,本件における具体的観察経過を述べたものというよりは,脳神経外科の患者に対し通常実施すべき観察内容を述べたものに過ぎないというべきである。そして,診療録中,I看護師が20日午後3時50分以降にGの看護を担当した際の記載部分には瞳孔所見及び麻痺の有無についての記載がされているにもかかわらず,21日午前2時以降に担当した際の記載部分には,これらの点についての記載が存在しないこと等の事情を総合すれば,I看護師が,瞳孔所見,握手をしてもらって左右差がないか等の神経的な面を含め,適切な観察を行っていたとは認め難い。 また,被告らは,21日午前2時20分から午前6時までの時間帯においても,15分 ,I看護師が,瞳孔所見,握手をしてもらって左右差がないか等の神経的な面を含め,適切な観察を行っていたとは認め難い。 また,被告らは,21日午前2時20分から午前6時までの時間帯においても,15分ないし30分ごとに観察がなされていた旨を主張し,証人Iも同旨の証言をするが,同証人は上記観察の事実につき「(診療録の)この記載を見ると,おそらくそういうことがあったと思います。」とするにとどまるのであるから,直ちに上記観察がなされたと認めることはできない。そして,診療録中の20日午前6時の部分には,「上記(頭痛の)訴え,15~30分毎にあり」との記載があるものの,これに対応する各時間ごとの観察内容等に関する具体的記載が一切存在しないことからすれば,上記時間帯においてI看護師が,神経症状や血圧測定を含む十分な観察を行っていたとは認められない。 (カ)したがって,I看護師による神経症状や血圧測定を含む観察内容及び21日午前2時20分から午前6時までの時間帯の観察頻度は不十分なものであったと認めるのが相当である(なお,これらの点についての被告D及び被告E並びに被告Cの責任の検討の要否については後に述べる。)。 (キ)なお,原告らは,20日午後5時50分ないし午後10時までの間の血圧測定の結果,拡張期血圧が38mmHg,40mmHg,42mmHgと低い状態だったのであるから,被告らはこの時点で何らかの適切な措置をとるべきであった旨も主張する。しかしながら,L鑑定は,上記数値を前提としてさらにボルタレン投与により血圧低下が生じた場合には昇圧剤等の投与を要するとしていることからすれば,上記数値が認められても直ちに昇圧剤等の投与が必要になるものではないというべきであり,他に何らかの措置の必要性を認めるに足りる証拠はないから,この点についての原 与を要するとしていることからすれば,上記数値が認められても直ちに昇圧剤等の投与が必要になるものではないというべきであり,他に何らかの措置の必要性を認めるに足りる証拠はないから,この点についての原告らの主張は採用できない。 ウ被告Dによる観察の頻度,内容についてこの点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 (ア)J鑑定被告Dによる観察の頻度,内容は,F病院がルーチンに行っているものであり,適切であった。 (イ)K鑑定被告Dは,本件手術終了後の帰室時,20日午後7時,午後9時及び21日午前0時にGを観察しており,神経脱落兆候等の異常所見は認められていないこと,その後も看護師からの報告,診察の要請はなかったことからすれば,被告Dによる観察の頻度及び内容は適切であった。 (ウ)L鑑定被告Dは20日午後7時,午後9時及び21日午前0時に観察を行っ ており,意識及び局所神経症状につき観察がなされていることからすれば,21日午前0時以前の観察頻度,内容は適切であった。上記時刻以降については診療録等に記載がないため不明であるが,ボルタレンの投与を指示した時点で,血圧測定につき十分な指示がなされていたか否かは重要な論点と思われる。 (エ)複数鑑定の結果によれば,J鑑定は無条件で適切であったとし,K鑑定は21日午前0時以前の観察の頻度,内容は適切であり,上記時刻以降も看護師からの報告,診察の要請がなかったことからすれば,自ら観察を行わなかったことに問題はないとし,L鑑定は,21日午前0時以前の被告D自身による観察の頻度,内容は適切であったが,上記時刻以降については記録が残っていないため不明であるとしている。 そこで,各鑑定の理由を総合して検討すると,看護師からの報告がなかったことを理由に適切であったとの結論を導いているK鑑定は ったが,上記時刻以降については記録が残っていないため不明であるとしている。 そこで,各鑑定の理由を総合して検討すると,看護師からの報告がなかったことを理由に適切であったとの結論を導いているK鑑定は,上記時刻以降看護師が適切な観察を実施していたことを前提とするものと解される。また,L鑑定も,ボルタレン投与を指示した時点で血圧測定につき十分な指示があったかどうかは重要な論点と思われるとしており,直接的には看護師らによる血圧測定を含む適切な観察の有無を問題とする点で一致している。そうすると,この点については,看護師らによる観察内容が適切であったか否かの問題(前記イ)に帰することになる。 (5)脳梗塞発症後の措置ア前記認定事実によれば,被告Dは21日午前10時51分ころに実施した頭部CT検査の結果,Gの右半球に低吸収域及び腫脹の存在を認め,同日午後2時30分ころICUに転棟させたこと及び22日午後5時10分から午後6時20分にかけて,内外減圧術を実施したことが認められる。 イ原告らは,上記頭部CT検査の結果を受けた時点で直ちに内外減圧術を実施すべきであり,これを行っていればGの救命が可能であった旨主張す るが,同手術は頭蓋骨の一部を除去して脳圧を下げるものであり,これを実施すること自体による危険性は相当に高いと考えられることからすれば,脳梗塞の診断がなされた場合に直ちに内外減圧術の適応といえるかについては疑問が残ること,被告らは21日午前10時50分ころ以降,意識レベル,麻痺の程度,瞳孔所見等の観察を行い,左片麻痺の回復は困難と判断した上で内外減圧術の実施を決定しており,上記判断過程に特段不適切な点があったことはうかがわれないことからすれば,上記時点で直ちに内外減圧術を実施しなかったことが不適切であったとまでは認められないという で内外減圧術の実施を決定しており,上記判断過程に特段不適切な点があったことはうかがわれないことからすれば,上記時点で直ちに内外減圧術を実施しなかったことが不適切であったとまでは認められないというべきである。また,仮に上記時点で内外減圧術を実施していればGの救命が可能であったと認めるに足りる的確な証拠もないから,この点についての原告らの主張は,いずれにせよ採用できない。 争点3(術後管理の過失と死亡との因果関係の有無)について(1)脳梗塞の発症時期この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 アJ鑑定21日午前0時時点では脳梗塞の発症をうかがわせる神経学的所見はなかったのに対し,同日午前10時時点では明らかな巣症状による左片麻痺を呈し,この時点では既に脳梗塞を発症していたと考えられるから,脳梗塞の発症時期は同日午前0時から午前10時までの時間帯である。 イK鑑定脳梗塞を疑う症状が出現したのは,左片麻痺が認められた21日午前10時ころである。また,同日午前10時51分に実施された頭部CT検査において右大脳半球に低吸収域が出現していること及び一旦軽快した頭痛が再び出現した時期を考慮すると,病態としての脳虚血が始まったのは同日午前2時ころと考えられる。 ウL鑑定 21日午前10時51分に実施された頭部CT検査の結果,右中大脳動脈領域に広範な低吸収域が出現しており,これは脳梗塞に合致する所見であること,脳梗塞発症から上記所見が生じるまでには少なくとも3時間を要し,鮮明な低吸収域及び周囲構造物に対する圧迫所見が生じるまでには12時間程度を要するとされていること,一方において,同日午前0時時点の診療録には麻痺がないとの記載があることからすれば,脳梗塞の発症時期は,同日午前0時から午前7時50分までの時間帯と確定できる 12時間程度を要するとされていること,一方において,同日午前0時時点の診療録には麻痺がないとの記載があることからすれば,脳梗塞の発症時期は,同日午前0時から午前7時50分までの時間帯と確定できる。さらに,同日午前2時20分から午前6時までの時間帯の観察が一時的に疎になっていたことを考慮すれば,上記時間帯に脳梗塞が発症した可能性が高いと強く推測される。 エ複数鑑定の結果によれば,脳梗塞の発症時期につき,J鑑定は21日午前0時から午前10時までの時間帯とし,K鑑定は(脳虚血の開始時期につき)同日午前2時ころとし,L鑑定は同日午前0時から午前7時50分までの時間帯としているのであって,3名の鑑定人の意見は必ずしも一致していない。 そこで,各鑑定の理由を総合して検討すると,J鑑定及びL鑑定は,21日午前0時時点で脳梗塞の発症をうかがわせる神経学的所見がなかったこと等を理由に発症時期は上記時刻以降であるとしており,K鑑定も上記判断自体を否定する趣旨とは解されないから,脳梗塞の発症時期は21日午前0時以降であったと認めるのが相当である。 一方,その終期についてL鑑定は,脳梗塞発症からCT上の低吸収域の所見が生じるまでには少なくとも3時間を要することを理由に同日午前7時50分以前に確定できるとしているところ,この点については証拠中の医学的知見と一致する。また,J鑑定は,上記医学的知見には言及せずに,左片麻痺が認められた午前10時以前に発症したとの結論に至っているものの,上記医学的知見を直ちに否定する趣旨とは解されない。 これに対し,K鑑定は,一旦軽快した頭痛が再び出現した時期を考慮すると,脳虚血が始まった時期は同日午前2時ころに特定できるとしているが,前記認定のとおり,21日午前2時20分ころ以降にGが訴えていた頭痛は本件手術による創部 軽快した頭痛が再び出現した時期を考慮すると,脳虚血が始まった時期は同日午前2時ころに特定できるとしているが,前記認定のとおり,21日午前2時20分ころ以降にGが訴えていた頭痛は本件手術による創部痛であったと認めるのが相当であるから,直ちに脳虚血の開始時期を特定するに足りる根拠となり得るかについては疑問があるといわざるを得ない。以上を総合すれば,Gの脳梗塞の発症時期は,21日午前0時から午前7時50分までの時間帯であったと認めるのが相当である(なお,L鑑定は,さらに進んで,同日午前2時20分から午前6時までの時間帯であった可能性が高いとしているが,上記時間帯の観察が疎であったことから直ちに上記時間帯に脳梗塞を発症したとの事実を推認することはできないというべきである。)。 (2)脳梗塞の原因及び回避可能性この点についての複数鑑定の結果は,以下のとおりである。 アJ鑑定(ア)EDASの手術術式は容易であり,専門医が行えば極めて安全に実施できる手術であること,手術時間も短く,麻酔中の各指標も安定していたこと,覚醒直後に神経脱落症状は認められなかったことからすれば,本件手術が脳梗塞の発症に直接影響したものとは考えられない。本件手術の創部痛により過呼吸を生じ,これにより血中炭酸ガス分圧が低下してもやもや血管が収縮し,最終的に脳梗塞に至ったとの仮説は考えられるが,実際には過呼吸症状は観察されておらず,創部痛による呼吸回数の増加により血中炭酸ガス分圧にどの程度の影響を生じるかについても明らかではないから,脳梗塞の原因は不明である。 (イ)文献によれば,もやもや病患者に術後に生じる脳虚血症状は,麻酔管理に影響されるというよりは,もやもや病自体の重症度及び手術術式に関係しており,術後の神経学的脱落症状を生じやすかったのは,術 前頻回に一 れば,もやもや病患者に術後に生じる脳虚血症状は,麻酔管理に影響されるというよりは,もやもや病自体の重症度及び手術術式に関係しており,術後の神経学的脱落症状を生じやすかったのは,術 前頻回に一過性脳虚血発作(TIA)を認めた場合及び手術術式として間接吻合法が実施された場合であるとされることからすれば,Gの脳梗塞の発症を回避することは不可能であった。 イK鑑定(ア)もやもや病に対する血行再建術による合併症として一過性脳虚血発作や脳梗塞が生じ得ることが知られていること,11歳の女児がもやもや病の自然経過として致死的な脳梗塞を発症する可能性は極めて低いことからすれば,本件手術が脳梗塞の発症に影響を与えているものと考えられる。その具体的機序については,本件手術中の輸液が950mlと比較的少量であったこと(文献によれば,15歳未満のもやもや病患者の吸入麻酔群では体重1kg当たり毎時間平均9.1mlの輸液がなされており,これを本件に当てはめると,Gの体重は約35kgであり,麻酔時間が6時間14分であったから,1958mlの輸液がなされることになる。)及び本件手術後にGが口渇を訴えていたことからすれば,潜在的な脱水状態が存在し,手術侵襲によるストレスホルモンであるカテコラミンの分泌,サイトカインをはじめとする炎症性メディエーターを介する反応等が関与して脳梗塞を発症するに至ったとの推測は可能であるが,その特定は困難である。 (イ)(回避可能性については言及せず)ウL鑑定(ア)脳梗塞の発症時期が21日午前0時から午前7時50分までの時間帯に確定できることからすれば,本件手術が脳梗塞の直接的な原因でないことは明らかである。同日午前2時20分のボルタレン投与により血圧低下を生じ,これにより脳梗塞を発症した可能性は捨てきれないが,同日午 確定できることからすれば,本件手術が脳梗塞の直接的な原因でないことは明らかである。同日午前2時20分のボルタレン投与により血圧低下を生じ,これにより脳梗塞を発症した可能性は捨てきれないが,同日午前2時20分から午前6時までの血圧の推移が明らかではないため,血圧低下が生じていたか否かは不明である。また,継続的な過呼吸 が存在し,これにより脳梗塞を発症した可能性も考えられるが,一時的(5分ないし10分程度)な過呼吸により脳梗塞を発症することは極めて希である上,本件手術後のGの状態からすれば過呼吸の症状を訴えることが可能だったにもかかわらず訴えた形跡がないことからすれば,過呼吸が生じていたか否かも不明である。 (イ)I看護師らが21日午前2時20分のボルタレン投与以降に定期的に血圧測定を実施していれば,血圧低下を早期に発見し,昇圧剤の投与及び輸液の追加を実施することにより血圧を回復させ,脳梗塞の発症を予防できた可能性はあるが,ボルタレンによる血圧低下が生じていたと仮定した場合の話であり,推論の域を出ない。 I看護師らが神経症状等についての観察を適切に実施し,過呼吸に起因する麻痺を発見していれば,直ちに血中炭酸ガス分圧測定を実施し,低炭酸ガス血症の診断がつけば,鎮静剤,鎮痛剤の投与等により脳梗塞を予防できた可能性はあるが,これには継続する過呼吸の存在とそれが脳梗塞の直接の原因になっていたことの2点の仮定が必要であり,現実を無視した仮定は議論を複雑にするだけで無益である。 血圧低下や過呼吸等の明らかな原因がないにもかかわらず左片麻痺等の神経症状が出現していた場合は,単純な原因排除により脳血流の回復を図るのは困難であり,むしろ患者自身に内在する脳血流不全が主因と考えられるから,脳梗塞を回避できた可能性は低かった。もやもや病により脳血流が が出現していた場合は,単純な原因排除により脳血流の回復を図るのは困難であり,むしろ患者自身に内在する脳血流不全が主因と考えられるから,脳梗塞を回避できた可能性は低かった。もやもや病により脳血流が不安定なところに手術侵襲が加わることにより術後一時的に脳血流が悪化することが考えられ,完全な周術期管理を行ったとしても,周術期の脳梗塞は発症し得る。その場合でも,CT検査により出血性病変を除外した後,より早期に脳梗塞に対する治療を開始し,多少でも症状を軽減できた可能性はあるが,その可能性の程度については明言は難しい。 エ複数鑑定の結果によれば,3名の鑑定人はいずれも脳梗塞の原因は不明であることを前提としながら,J鑑定及びL鑑定は,本件手術が脳梗塞の直接の原因とは考えられないとしているのに対し,K鑑定は,本件手術が脳梗塞の発症に影響を与えているとしているのであって,3名の鑑定人の意見は必ずしも一致していない。 そこで,各鑑定の理由を総合して検討すると,K鑑定は,もやもや病に対する血行再建術による合併症として一過性脳虚血発作や脳梗塞が生じ得ることが知られていること,11歳の女児がもやもや病の自然経過として致死的な脳梗塞を発症する可能性は極めて低いことからすれば,本件手術が脳梗塞の発症に影響を与えていると考えられるとしているのに対し,J鑑定及びL鑑定は,本件手術が脳梗塞の直接の原因とは考えられないとしている。しかしながら,J鑑定は本件手術による創部痛が脳梗塞の発症に影響した可能性を示しており,L鑑定も,過呼吸又は創部痛の治療のために投与されたボルタレンによる血圧低下が脳梗塞の発症に影響した可能性を示しているのであるから,3名の鑑定人はいずれも,脳梗塞がもやもや病自体の自然増悪として発症したものではなく,本件手術等が脳梗塞の発症に影響を及 タレンによる血圧低下が脳梗塞の発症に影響した可能性を示しているのであるから,3名の鑑定人はいずれも,脳梗塞がもやもや病自体の自然増悪として発症したものではなく,本件手術等が脳梗塞の発症に影響を及ぼしていた可能性を完全に否定するものではない点において一致しているというべきである。さらに,証拠中の医学的知見によれば,小児もやもや病自体の増悪により致死的な脳梗塞を発症することは比較的希であること,Gは本件手術時点では,手術適応はあるものの,いずれの時点で脳梗塞を発症するかについては予測できない程度の状態であったこと,脳梗塞の発症時期は本件手術終了の約9時間ないし17時間後である21日午前0時ないし午前7時50分の時間帯であること等の事情を併せ考えれば,Gに生じた脳梗塞は,もやもや病の自然増悪のみにより発症したものではなく,本件手術等が何らかの影響を与えていたものと認めるのが相当である。 オ上記発症の具体的機序について,3名の鑑定人はいずれも結論は不明であるとしながら,J鑑定は本件手術の創部痛に起因する過呼吸により血中炭酸ガス分圧が低下してもやもや血管が収縮し,最終的に脳梗塞に至った可能性を,K鑑定は,本件手術後のGが潜在的脱水状態にあり,手術侵襲によるストレスホルモンであるカテコラミンの分泌,サイトカインをはじめとする炎症性メディエーターを介する反応等が関与して脳梗塞を発症するに至った可能性を,L鑑定は,J鑑定と同様に過呼吸が関与していた可能性のほか,21日午前2時20分のボルタレン投与による血圧低下が影響していた可能性及びもやもや病により脳血流が不安定なところに手術侵襲が加わることにより術後一時的に脳血流が悪化して脳梗塞の発症に至った可能性を示している。F病院診療録上は,上記各機序のいずれについても,これを認めるに足りる記載 より脳血流が不安定なところに手術侵襲が加わることにより術後一時的に脳血流が悪化して脳梗塞の発症に至った可能性を示している。F病院診療録上は,上記各機序のいずれについても,これを認めるに足りる記載は存在しないものの,前記認定によればF病院看護師らによる観察が不十分であったことからすれば,上記各機序をうかがわせる兆候があったにもかかわらずこれを看過していた可能性も否定できないので,以下に検討する。 (ア)過呼吸J鑑定は創部痛により過呼吸を生じ,これにより血中炭酸ガス分圧が低下してもやもや血管が収縮し,最終的に脳梗塞に至った可能性を示しており,L鑑定も具体的機序は示していないものの,同趣旨と解される。 しかしながら,本件手術終了後の20日午後に頭痛を訴えた際には呼吸状態に特段の変化は生じなかったこと,もやもや病患者に過呼吸が生じた場合,まず手足の痺れや脱力,言語障害等の症状を生じるところ(L鑑定),Gはこれらの症状を訴えていないこと等,過呼吸の存在を否定する事情は存在するのに対し,これを肯定するに足りる事情は存在しないのであるから(なお,原告らは,Gが小児であったこと,頭痛による強い痛みがあったこと,深夜に長時間放置されたこと,21日午後 7時ころまでに酸素投与が中止されたこと,被告らがGに深呼吸を促していたこと及びGに発熱があったことを主張するが,これらはいずれも実際に過呼吸が生じていたとの事実を具体的に推認させ得るものとは認められない。),Gに過呼吸があったとの事実を認めることはできない。 (イ)血圧低下L鑑定は,21日午前2時20分のボルタレン投与により血圧低下を生じ,これが脳梗塞の原因となった可能性を示している。 しかしながら,上記時刻に投与されたボルタレンの量は12.5mgであったところ,ボルタレンの小児1回常用量が体 分のボルタレン投与により血圧低下を生じ,これが脳梗塞の原因となった可能性を示している。 しかしながら,上記時刻に投与されたボルタレンの量は12.5mgであったところ,ボルタレンの小児1回常用量が体重1kg当たり0. 5ないし1mgであり,当時のGの体重が約35kgであったことからすれば,上記投与量は常用量の約4割ないし7割程度であること,20日午後4時40分ころに同量のボルタレンを投与した際には,特段の血圧低下は生じなかったこと等,血圧低下を否定する事情は存在するのに対し,これを肯定するに足りる事情は存在しないのであるから,Gに血圧低下が生じていたとの事実を認めることはできない。 (ウ)潜在的脱水状態K鑑定は,本件手術中の輸液が950mlと比較的少量であったこと及び本件手術後にGが口渇を訴えていたことからすればGに潜在的な脱水状態が存在し,手術侵襲によるストレスホルモンであるカテコラミンの分泌,サイトカインをはじめとする炎症性メディエーターを介する反応等が関与して脳梗塞を発症するに至った可能性を示している。 しかしながら,血液検査上は脱水は否定されているのであり(K鑑定),口渇を訴えていたことから直ちに脱水状態があったということはできないから,Gに脱水状態が存在したとの事実を認めることはできない。 カ以上のとおり,頭痛による過呼吸,ボルタレン投与による血圧低下及び潜在的脱水状態の存在がそれぞれGの脳梗塞の発症に関与していた可能性 が考えられるものの,これらが存在したことを積極的に認めるに足りる証拠はない。そして,上記各事実が存在しなかったとしても,G自身に内在した脳血流不全を主因として脳梗塞を発症したとの機序が合理的に想定し得ることからすれば(証拠中にも,十分な循環,呼吸管理を実施したにもかかわらず,片麻痺等の周術期悪化を生じ たとしても,G自身に内在した脳血流不全を主因として脳梗塞を発症したとの機序が合理的に想定し得ることからすれば(証拠中にも,十分な循環,呼吸管理を実施したにもかかわらず,片麻痺等の周術期悪化を生じた例が示されている。),Gに生じた脳梗塞は自身に内在した脳血流不全を主因とするものであったと認めるのが相当である。なお,上記機序は,従前からの脳血流不全を主因とするものの,これに手術,麻酔等による侵襲が関与して生じるものと考えられるから,Gが本件手術以前には相当程度健康な状態であったとしても,このことから直ちに上記機序を否定することはできないというべきである。 キ上記発症原因を前提として,被告らが合併症等についての観察義務を尽くした場合にGの救命が可能であったか否かにつき検討を加えているのはL鑑定のみであるところ,同鑑定は,この場合脳梗塞の発症を回避できた可能性は低く,CT検査による出血性病変の除外後,より早期に脳梗塞に対する治療を開始でき,多少でも症状を軽減できた可能性はあるが,可能性の程度の明言は難しいとしている。左片麻痺がいずれの時点で生じていたかは明らかではなく,これを直ちに発見してCT検査を実施したとしても,本件で実際にCT検査が実施された21日午前10時51分よりどの程度検査時期を早めることが可能であったかは不明であること,仮に脳梗塞を発見したとしても,上記原因を前提とした場合,対処は困難であること(L鑑定)に加え,仮に多少症状を軽減することが可能であったとしても,Gの救命が可能であったといえるかは疑問であること等を併せ考えれば,被告らが術後の合併症についての観察等を尽くしたとしても,Gの救命が可能であった高度の蓋然性があったと認めることはできず,上記事実関係の下では,その相当程度の可能性を認めることもできないというべきであ らが術後の合併症についての観察等を尽くしたとしても,Gの救命が可能であった高度の蓋然性があったと認めることはできず,上記事実関係の下では,その相当程度の可能性を認めることもできないというべきである。 (3)したがって,術後の合併症についての観察等が不適切であったことについては,被告D及び被告E並びに被告Cの責任について判断するまでもなく,被告らに不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償義務が生ずるとは認められないから,この点についての原告らの主張は採用できない。 争点4(説明義務違反の有無)について(1)前記認定事実によれば,被告Dが15日に原告らに対し,手術承諾書を示した上で,口頭で本件手術に関する説明を行ったこと及び上記手術承諾書の「術中・術後合併症」欄には,「血行動態変化による神経症状発現の可能性」との記載があることが認められる。 (2)この点につき被告らは,被告Dから原告らに対し,本件手術及び麻酔の侵襲により脳虚血状態を生じ,脳機能が不可逆的に障害されて脳梗塞に至る場合及び脆弱なもやもや血管から出血して脳実質が障害され,永続的な神経症状を生じる場合があり得る等の説明をした旨主張し,被告Dの供述ないし供述記載にも概ねこれに沿う部分がある。本件手術は側頭部を2箇所にわたり切開するものであり,これにより機序は別論として死亡又は重篤な障害が生じ得ることは通常人であれば容易に認識し得るにもかかわらず,被告Dが脳梗塞を含む死亡の危険性につき何ら言及しないことは考え難く,また,言及がなされなかった場合,原告らにおいても直ちにこれを受け入れることは通常考え難いこと,被告Dは本件手術を実施しなかった場合には脳血管が詰まる可能性があるがその発症時期は予測できず,発症しない可能性もあるなど,本件手術の必要性を否定する事情についても原 入れることは通常考え難いこと,被告Dは本件手術を実施しなかった場合には脳血管が詰まる可能性があるがその発症時期は予測できず,発症しない可能性もあるなど,本件手術の必要性を否定する事情についても原告らに説明を行っており,本件手術に先立つ脳血管造影検査の際には,これにより脳梗塞を発症する可能性がある旨の説明を行っていること,手術承諾書の「血行動態変化による神経症状発現の可能性」との記載部分は,本件手術による合併症発症の機序が複数考えられるため,その総称として脳梗塞を含む概念として記載したものであるとの説明には十分な合理性が認められること等の事情を総合す れば,被告Dの供述は,少なくとも死亡を含む重篤な結果が発生する危険性があるとの趣旨の説明がなされたとの点については,信用し得るというべきである。 これに対し原告らは,被告Dから脳梗塞発症の危険性についての説明はなされておらず,手術承諾書記載の「血行動態変化による神経症状発現の可能性」の意義につき質問したところ,麻痺が出る可能性があるとの趣旨であるがその可能性は低く,重篤なものにはならないとの回答がなされた旨を主張し,原告Bの供述にも概ねこれに沿う供述部分がある。しかしながら,前記のとおり被告Dがあえて本件手術の危険性につき説明を行わないことは考え難いこと,原告Bの供述によっても15日の被告Dの説明は15分弱にわたって行われたのであり,これ以前にも2回(10月3日及び11月7日)にわたり説明がなされていたことを考慮すれば,原告Bの供述する内容のみにとどまったとは考え難いのであって,同人の前記供述は,被告Dの前記供述と矛盾する限度においては,直ちに採用することができないといわざるを得ない。 したがって,被告Dは,詳細な機序までは別論としても,原告らに対し本件手術により死亡を含む重篤な 供述は,被告Dの前記供述と矛盾する限度においては,直ちに採用することができないといわざるを得ない。 したがって,被告Dは,詳細な機序までは別論としても,原告らに対し本件手術により死亡を含む重篤な合併症が生じる危険性があるとの趣旨の説明を行ったものと認めるのが相当である。 (3)この他原告らは,被告EがGの治療につき,手術しかないとの趣旨の説明をしたこと及び被告Dが本件手術につき,盲腸の手術のようなものだとの趣旨の説明をしたことが不適切であった旨をも主張するものと解される。 しかしながら,前記認定事実によれば,Gは本件手術の適応がある状態であったことが認められ,また,本件手術の術式は血行再建術の中では比較的安全なものであることからすれば,上記各説明は,表現としてやや適切さを欠いているものの,いずれも医師の裁量の範囲を逸脱するものとまではいえない。 (4)したがって,この点についての原告らの主張は採用できない。 第4 結論 よって,原告らの請求は,その余の争点(争点5)につき判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所民事第2部裁判長裁判官小磯武男裁判官田原美奈子裁判官阿保賢祐
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