- 1 - 主文 被告人は無罪。 理由 第1 公訴事実と争点 1 本件公訴事実本件の訴因変更後の公訴事実は,「被告人は,令和2年4月14日午後1時33分頃,大阪府箕面市ab丁目c番d号大阪府箕面警察署2階留置施設前室において,行使の目的をもって,Aになりすまし,被留置者金品出納簿の申込者欄の氏名欄に「A」と署名するなどし,もって,A名義の被留置者金品出納簿1通を偽造した上,その頃,同所において,前記箕面警察署職員Bに対し,前記偽造の被留置者金品出納簿1通を真正に成立したもののように装い提出して行使した。」というものである。 2 争点被告人は,知人のCからA弁護士の名前で差入れをするように頼まれた,被留置者金品出納簿(以下,「本件文書」ともいう。)に自分の名前を書かなければならないとは知らず,Aの名前を書いて差入れしなければならないと思っていた旨,有印私文書偽造・同行使罪の故意を否定する陳述をしている。 この点,検察官は,被告人が本件文書にAの名前を記載することにつき,同人の承諾があると誤信していた事実はない上,被留置者金品出納簿は,文書の性質上,名義人自身による記載が予定されている文書であり,被告人にはその認識があったから,有印私文書偽造・同行使罪が成立すると主張している。弁護人は,被留置者金品出納簿はその性質上名義人自身による作成が予定されている文書ではなく,また,被告人は,Aの承諾があったと誤信しており,故意がないから,被告人は無罪であると主張している。 したがって,本件の主な争点は,⑴Aの名前使用の承諾に関する被告人の誤信の有無,⑵被留置者金品出納簿が,文書の性質上,名義人自身による記載が予定され - 2 - る文書かどうか,その点に関す したがって,本件の主な争点は,⑴Aの名前使用の承諾に関する被告人の誤信の有無,⑵被留置者金品出納簿が,文書の性質上,名義人自身による記載が予定され - 2 - る文書かどうか,その点に関する被告人の認識の有無である。 第2 前提となる事実 1 Aは,Dの弁護人をしていたが,同人が令和2年4月13日に逮捕され,箕面警察署に留置された後,Cに対し,自分の代わりにDに衣類を差入れするよう依頼した。Aは,その状況について,Cに対し,私の名前を使って差入れすることを了承したことはないが,「私の代わりに」という言葉を使ったため,Cが,私の名前を使って差入れをすればいいと誤解した可能性は否定できない旨を検察官に供述している(甲12)。 2 Cは,同日頃,被告人に電話をけて,衣類を購入した上,A弁護士の名前でDに宅配で送ってほしいと依頼し,Aの所属事務所の所在地と電話番号を伝えた。 被告人は,Cの依頼を了承し,同月14日,衣類を購入した上,郵便局で,Aを依頼主とする伝票を作成して衣類を発送した(C証言,被告人質問,乙2)。 3 被告人は,Cに電話をかけて,衣類を発送した旨伝えたところ,Cは,被告人に対し,追加で,大阪市内のマンションで衣類を受け取り,箕面警察署でそれを差し入れてほしいと依頼した。被告人は,その依頼を了承し,Cから教わったマンションで衣類の入った紙袋を受け取った上,箕面警察署に赴いた(C証言,被告人質問,乙2)。 4 被告人は,同日午後1時33分頃,同警察署2階留置施設前室において,被留置者金品出納簿の申込者欄に,住所欄にAの所属事務所所在地を,電話番号欄に同事務所の電話番号を各記入し,氏名欄に「A」と署名してその横に指印をし,年齢欄には自分の年齢を記入した。被告人は,これを同警察署職員Bに提出して,被留置者Dに対する 属事務所所在地を,電話番号欄に同事務所の電話番号を各記入し,氏名欄に「A」と署名してその横に指印をし,年齢欄には自分の年齢を記入した。被告人は,これを同警察署職員Bに提出して,被留置者Dに対する衣類の差入れを申し込み,持参した衣類を差し入れた。なお,物品欄の品名等はBが物品を確認しながら記入した(甲7,8,被告人質問,乙2等)。 被留置者金品出納簿は,申込者の欄内で,被留置者,弁護人等,上記以外の者を区別する様式であり,いずれに該当するかを示すチェックボックスが設けられてい - 3 - るが,本件では「上記以外の者」にチェックが入れられた。また,住所,名前等の告知の可否の欄は「可」に丸が付けられた。なお,同簿は,被留置者氏名,申込日時,申込者欄,物品の品名欄等が太枠で囲まれた様式となっており,書類表の末尾に「注:1 太枠内は,申込者が記載すること。」という注意が記載されていた。 被告人は,Dとの関係を尋ねられて「友人です。」と答え,身分証明書を持っているかと尋ねられて,持っていないと答えた(上記に加え,甲3,4)。 5 被告人は,差入れしたことをCに電話で報告した後,Cに会い,購入した衣類代金や宅配代金として合計1万円を受け取った(乙2)。 第3 Aの名前使用の承諾に関する被告人の誤信の有無 1 C証言等について⑴ 検察官の主張検察官は,C証言によれば,Cは,被告人に対し,警察署での差入れをAの名前でするよう依頼していないし,その名前使用について同人から承諾を得たと伝えていない事実が認められる上,常識に照らして,弁護士が面識のない被告人に自分の名前をかたることを許容するはずがなく,被告人において,名前の使用についてAの承諾があると誤信していなかったことが明らかであると主張している。 ⑵ C証言の概要 護士が面識のない被告人に自分の名前をかたることを許容するはずがなく,被告人において,名前の使用についてAの承諾があると誤信していなかったことが明らかであると主張している。 ⑵ C証言の概要Cは,当公判廷において,差入れは,Aから,「僕(A)の名前で入れてあげてほしい」と頼まれ,被告人に,Aの名前で衣類を郵送で差入れしてほしいと頼んだ,その後,差入れの追加についてAから連絡があって,窓口で差し入れることとし,それを被告人に頼んだ,被告人には,誰の名前で差入れするかという説明はしなかったと証言している。 ただし,Cは,捜査段階では,Aの名前を使って差入れするよう被告人に頼んだ,Aからその名前を使っていいと言われたと供述していたから,供述が変遷している(弁3,4)。 ⑶ C証言の信用性 - 4 - Cには,友人関係にある被告人をかばう動機も考えられる一方,Cは,本件について被疑者とされた上,処分保留の状況で証言しているから,自分に不利益な供述を避けようとする動機が考えられる。したがって,C証言については,被告人がAの名前を用いたことについて,自分の関与や責任を否定する方向に証言する可能性が想定できる。 また,検察官は,供述変遷につき,捜査初期に作成された調書は,郵送を依頼する場面と窓口での差入れを依頼する場面との区別を意識せず要約して録取されたから,証言とは矛盾しないと主張している。その可能性も考え得るものの,仮に証言の方が真実であるとすると,Cは,弁解録取の手続で,被疑事実ではないと思われる郵送での差入れ依頼の場面に限って妥当する内容を答えていることになり,不自然である(弁4)。 これらによれば,C証言は,被告人の公判供述を排斥するに足りるほど,十分な信用性を備えているとはいえない。 ⑷ 小括そうすると,C証 当する内容を答えていることになり,不自然である(弁4)。 これらによれば,C証言は,被告人の公判供述を排斥するに足りるほど,十分な信用性を備えているとはいえない。 ⑷ 小括そうすると,C証言によって,Cが,箕面警察署での差入れを含めてAの名前で差入れするよう被告人に依頼した可能性を否定することはできない。一般に,弁護士が,面識のない者に自分の名前をかたることを許容することは考えにくいとはいえ,本件では,A自身が,面識のないCに自分の代わりに差入れを依頼し,差入れでの名前使用を許してはいないが,Cが誤解した可能性は否定できないと供述している(甲12)。また,Cは,郵送での差入れはA弁護士の名前でするよう被告人に依頼している。 したがって,Cの依頼や説明が,Aの名前使用につき承諾が得られていると被告人を誤解させるものであった可能性は十分考えられる。 2 弁護士を名乗った事実の有無及び被告人が自分の名前を述べずにAの名前を記載した事実からの推認⑴ 検察官の主張 - 5 - 検察官は,E警察官の証言によれば,被告人は,警察署の受付で自ら弁護士の名前を名乗ってAになりすまし,身分証明書の提示を求めたEに対して自分が弁護士ではないとは説明せず,自分の人定事項を明らかにしなかったと認められ,この事実からは,被告人が,名前の使用についてAの承諾がなく,自分のする行為が悪い行為であると考えていたことが推認されると主張している。 ⑵ E証言及びF証言についてEは,受付から「弁護士の差し入れです」と連絡を受けて被告人に対応した,バッジか身分証明書を示すよう求めたが持っていないという返答だった,身分を確認すると,記憶では,友人であるという話になったが,自分が弁護士ではないという話はされなかったと思う,ジャージのような服装や ッジか身分証明書を示すよう求めたが持っていないという返答だった,身分を確認すると,記憶では,友人であるという話になったが,自分が弁護士ではないという話はされなかったと思う,ジャージのような服装や身分確認ができないことから,被告人が弁護士ではない疑いを持ったので,捜査主任官に報告したと証言している。 しかし,E自身は,被告人が自ら弁護士であると名乗ったのを聞いたわけではなく,受付から,弁護士の差入れであると伝えられたにすぎない。そして,当時受付業務をしていたFは,被告人に応対した状況について記憶がなく,一般論として,差入れ目的で来署した人には,被留置者との関係を尋ねて留置場に連絡を入れていたと証言するにとどまる。EもFも,被告人が,自分が弁護士であると述べ,あるいは,弁護士のAであると名乗ったことまで証言していない。 したがって,E及びFの証言によって,被告人が,自分のことを弁護士のAと名乗って,同人になりすましたとまで認めることは困難である。なお,E証言によっても,被告人は,Eの問いに対して被留置者の友人であると述べている上,被告人は,被留置者金品出納簿の申込者欄に,「弁護人等」ではなく「上記以外の者」として,Aの名前等を記載している。 ⑶ 自分の名前を述べずにAの名前を使用した事実からの推認について他方,被告人は,自分の名前やA弁護士の代理や使い等として来署した旨を警察署員らに対して述べずに,被留置者金品出納簿の申込者欄に,Aの名前を記載して,その横に自分の指印を押していることが認められる。これは,来署して差入れを申 - 6 - し込んだ者が,A自身であると思わせる行為に当たり得る。前記のとおり,検察官は,被告人が人定事項を明らかにしなかったのは,自分の行為が悪い行為であると分かっていたことを推認させると主張している。 し込んだ者が,A自身であると思わせる行為に当たり得る。前記のとおり,検察官は,被告人が人定事項を明らかにしなかったのは,自分の行為が悪い行為であると分かっていたことを推認させると主張している。 しかし,被告人が,CからAの名前で差入れをするよう依頼された(あるいは,Aの名前ですればよいと誤解していた)とすれば,差入れの申込者としてAの名前を記載するのは,それほど不自然なことではない。被告人は,Cの依頼で,郵送による差入れをAの名前で行っていたから,警察署での差入れもAの名前ですることに疑問を抱かないことは十分あり得る。 また,被告人は,差入品がDの交際相手から預かる衣類であると認識していた上,Dの弁護人であるA弁護士から連絡を受けたCから依頼されて差入れを行うのであるから,自分の人定事項を殊更隠して差入れをする理由や必要がない。 そうすると,被告人が,差入れの申込者としてAの名前を記載したのは,Cからそのように依頼されたからと理解することが十分可能である。検察官の前記主張は当たらない。 3 被告人供述について⑴ 公判供述の概要被告人は,Aの承諾があると考えた理由について,Cの依頼を引き受けてAの名前で衣類を郵送した後,もう1個を直接持って行き,Aの名前で差し入れるよう頼まれた,Aの承諾がある(名前を使ってくれて構わないという了解が得られている。)という話だったと供述している。また,Aの名前を記載したのは,同人が動けないので,その代わりに手足となって差入れに行ったからであり,自分の名前をAと偽ったつもりはない,自分の名前を出さなかったのは,Dと関係がない自分では差入れができないと思ったからである,Cに頼まれたことをしただけで,悪いことをしている認識はなかった旨供述している。 ⑵ 公判供述の信用性被告人供述は,C さなかったのは,Dと関係がない自分では差入れができないと思ったからである,Cに頼まれたことをしただけで,悪いことをしている認識はなかった旨供述している。 ⑵ 公判供述の信用性被告人供述は,C証言とは内容が異なるが,前記のとおり,C証言は,十分な信 - 7 - 用性を備えているとはいえない上,C証言を前提にしても,被告人が,Cからの依頼や説明を通じ,A弁護士の名前で差し入れればよいと理解することは,Aの名前で郵送による差入品を発送していたことに照らし,成り行きとして十分あり得る。 また,AがCに差入れを依頼したことは前提となる事実である上,A自身,自分の名前を使って差入れをすればいいとCに誤解させた可能性があると述べている。したがって,Cの依頼や説明が,Aの名前使用につき承諾が得られていると被告人を誤解させるものであった可能性は十分考えられる。 そうすると,CからAの名前で差し入れることを頼まれた,A本人の承諾が得られていると理解したという被告人供述は,A供述やC供述(又は証言)と整合しており,内容が不自然であるとはいえない。 ⑶ 捜査段階の供述について被告人の検察官調書等には,Aの名前を使った差入れについて,Aの了解を得ていないし,CがAから了解を得ているとも思っていなかった旨や,自分の名前を偽ることであるし,Aの了解もないと思っていたので,悪いことだと思っていた旨の供述記載があり(乙2,6,7),公判供述とは違っている。 検察官は,弁護士が他人に名前を騙ることを許すとは考えられない旨の常識に即した内容であり,捜査段階の供述が信用できると主張している。しかし,A自身が,自分の名前を使って差入れをすればいいとCに誤解させた可能性があると検察官に供述している。他方,被告人の検察官調書等には,被告人が,被留置者のDと面識の 信用できると主張している。しかし,A自身が,自分の名前を使って差入れをすればいいとCに誤解させた可能性があると検察官に供述している。他方,被告人の検察官調書等には,被告人が,被留置者のDと面識のない自分では差入れできないと思ったので,Cに確認し,A弁護士の名前で差し入れるよう聞いたが,Aの了解を得ていないし,CがAから了解を得ているとも思っていなかったと記載されている。被告人の検察官調書等は,A自身が,Cに差入れ依頼をし,名前使用について誤解させた可能性があると述べていることを前提としない内容となっており,結果として,A供述との整合性に疑問がある。 前記記載に関する被告人の公判供述にはやや不自然なところもあるが,被告人の検察官調書等の前記記載が十分信用できるとは認められない。 - 8 - 4 結論以上によれば,被告人の公判供述を,信用性が乏しいとして排斥することはできず,被告人が,Aの名前で差入れをすることについて,同人の承諾が得られていると誤信していた可能性は否定できない。 第4 被留置者金品出納簿が,文書の性質上,名義人自身による記載が予定される文書かどうか及びその点に関する被告人の認識の有無 1 被留置者金品出納簿が,文書の性質上,名義人自身による記載が予定される文書かどうかについて⑴ 被留置者金品出納簿作成の根拠規定刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下,「法」という。)51条は,刑事施設の長は,(中略)法務省令で定めるところにより,差入人による被収容者に対する金品の交付及び被収容者による自弁物品等の購入について,刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができると定めている(198条は,留置業務管理者による差入れ等に関する制限について51条の規定を準用し,この場合において,同条中「法務省令 の購入について,刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができると定めている(198条は,留置業務管理者による差入れ等に関する制限について51条の規定を準用し,この場合において,同条中「法務省令」とあるのは「内閣府令」と,「被収容者」とあるのは「被留置者」と,「刑事施設の管理運営」とあるのは「留置施設の管理運営」と読み替えるものとしている。)。国家公安委員会関係刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律施行規則10条2項1号は,留置業務管理者は,差入人に対し,氏名,住所及び電話番号を記載した申出書の提出を求めることができると定め,同条3項は,留置業務管理者は,差入人に対し,前項の申出書の記載内容を証明する書類その他の物件の提出又は提示を求めることができると定めている。 そして,大阪府警察留置業務取扱規程は,留置施設には,被留置者金品出納簿を備え付け,所定事項を記録しておかなければならない(12条3号)とした上,56条3項本文において,留置担当者は,差入れの申出があった場合は,当該申出をした者に被留置者金品出納簿(Ⅱ 差入れ,宅下げ等)を作成させ,事前に留置主任官の許可を受けなければならないと定めている。 - 9 - ⑵ 検討大阪府警察留置業務取扱規程56条3項本文が,差入れの申出をした者に被留置者金品出納簿を作成させると定めていることからすると,差入れの申出者本人による被留置者金品出納簿の作成を求めていると解するのが自然である。被留置者金品出納簿の様式において,申込者の名前欄等を太枠で囲った上,太枠内は,申込者が記載することという注意を付して,差入れの申込者本人が名前欄等を含む太枠内を記載することを求めているのは,前記規程の趣旨を踏まえたものと理解できる。 また,法193条1項は,留置業務管理者は,被留置者に交付する という注意を付して,差入れの申込者本人が名前欄等を含む太枠内を記載することを求めているのは,前記規程の趣旨を踏まえたものと理解できる。 また,法193条1項は,留置業務管理者は,被留置者に交付するため被留置者以外の者が持参等した物品等について,「交付の相手方が未決拘禁者である場合において,刑事訴訟法の定めるところによりその者が交付を受けることが許されない物品であるとき」(2号),「差入人の氏名が明らかでないものであるとき」(4号)は,その物品等の差入人に対して引取りを求めると規定しているから,留置業務管理者は,差入人が接見禁止の対象となっている者であるかどうかを含め,差入人が誰であるかを正確に把握する必要があると考えられる。 そして,被留置者金品出納簿の差入れ申込者として記載された名義人と実際に申込みをした同簿作成者とが異なる場合,差入品から禁制品等が発見された場合の差入れをした人物の特定や,被留置者が差入れを拒否した場合の差入品返還先の特定に困難を生じさせるおそれなどがあり,また,差入品の引取りを求めるべき場合に該当するかどうかの判断を誤らせるおそれがあると考えられるから,留置施設の管理運営を適正に行うために,被留置者金品出納簿の差入れ申込者と作成者との同一性を求めることには,必要性,合理性がある。 弁護人は,被留置者金品出納簿については,名義人の承諾があれば,作成者と名義人とが異なっていても文書の公共的信用が害されないと主張しているが,前記規定によって,被留置者金品出納簿は,差入れを申し出た者が作成するものとされているにもかかわらず,差入れ申込者として記載された名義人と,実際に申込みをした同簿作成者とが異なる場合,同簿を見る者に対して,差入れの申込者が誰である - 10 - かの判断を誤らせることになるから,文書の公共的 入れ申込者として記載された名義人と,実際に申込みをした同簿作成者とが異なる場合,同簿を見る者に対して,差入れの申込者が誰である - 10 - かの判断を誤らせることになるから,文書の公共的信用が害されるおそれがあるといえる。 ⑶ 小括以上の点を考慮すると,大阪府警察留置業務取扱規程に根拠をもつ本件の被留置者金品出納簿については,文書の性質上,名義人自身による記載が予定される文書であると解するのが相当である。 (なお,弁護人は,被留置者金品出納簿が刑法159条にいう「事実証明に関する文書」に該当するのか疑問であると主張している。しかし,同簿は,前記根拠に基づき,留置施設の適正な管理運営のため,留置管理業務者が差入れの申出等を把握する目的で作成が求められ,差入れの申出等の事実を証するものであるから,「事実証明に関する文書」に該当すると解される。) 2 被留置者金品出納簿が,文書の性質上,名義人自身による記載が予定される文書であることについての被告人の認識の有無⑴ 検察官の主張検察官は,被告人が,被留置者金品出納簿について,物品の差入れに際して警察署に提出される書面であり,人定事項の詳細を記載して押印する必要があること,これらの記載を申込者が記載することが求められていることを認識していたことなどからすると,被留置者金品出納簿が,文書の性質上,名義人自身による記載が予定される文書であることにつき,被告人にその認識があったと認められると主張している。 ⑵ 検討被留置者金品出納簿は,金品の差入れに際して警察署で作成,提出が求められる書面であり,差入れ等の申込者の住所,職業,電話番号,氏名,年齢,被留置者との関係を記載して押印することを求める様式となっている。しかし,これらの事項を申込者が記載するよう求める注意書き(「注 れる書面であり,差入れ等の申込者の住所,職業,電話番号,氏名,年齢,被留置者との関係を記載して押印することを求める様式となっている。しかし,これらの事項を申込者が記載するよう求める注意書き(「注:1 太枠内は,申込者が記載すること。」)は,同簿末尾に記されており,特段目立つ表示にはなっていないから, - 11 - 同簿の作成者がその記載に気付かないことは十分あり得る。したがって,同簿の作成者において,同簿の各記入欄は申込者自身が記載すべきであり,申込者欄に記載される名義人と作成者が同一である必要があることが,当然に認識できるとはいえず,説明されなければ分からない者もいると考えられる。 被告人は,警察署で差入れをしたのは初めてのことであり,ルールや手順が分からなかったし,本人が記載すべき書類であるという説明も受けなかったので,Cに指示された通り,Aの名前を記載して提出した,被留置者のDとは関係を有しない自分の名前よりも,Dの弁護人であるAの名前を記載すべきと考えており,自分の名前を記載しなければならない書類であるとは認識していなかったと供述している。 この点に関し,Eから被告人への応対を引き継いで被告人に被留置者金品出納簿の作成を求めたBは,被告人に,記載が必要な項目を説明して,必要事項を記載させたと供述しているが,Bが,被告人に対し,差入れの申込者本人が記載すべき書面であり,申込者欄には被告人の名前等を記載すべきことまで説明したとは認められない。なお,Bは,被告人に免許証等の身分証明書持参の有無を尋ねているが,被告人が持参していないと答えると,身分確認ができなければ差入れができないという根拠がないことから,それ以上の確認はしていない。したがって,被告人が,Bとのやりとりを通じて,申込者欄に被告人の名前等を記載すべきことを当然 と答えると,身分確認ができなければ差入れができないという根拠がないことから,それ以上の確認はしていない。したがって,被告人が,Bとのやりとりを通じて,申込者欄に被告人の名前等を記載すべきことを当然に認識できたとは認められない(甲3,4)。 検察官は,被告人が自分の人定事項を明らかにしなかったのは,自分がAではないことが判明することがよくないことであると認識していたからであると主張している。しかし,差入れの経緯や差入品の内容に照らして,被告人に自分の人定事項を殊更隠す必要が考え難く,被告人が,Cの依頼により,警察署での差入れの前に,Aの名前で郵送による差入品を発送していたことも考慮すると,被告人が,被留置者のDとは関係を有しない自分の名前を書くよりも,Dの弁護人であるAの名前を書くべきであると思ったと供述していることについて,不自然であるとは言い切れない。 - 12 - ⑶ 小括そうすると,被告人の公判供述を排斥することはできず,被告人において,被留置者金品出納簿の差入れの申込者として,被告人自身の名前を記載すべきであるとは認識していなかった可能性が否定できない。 第5 結論以上によれば,⑴被告人が,Aの名前で差入れをすることについて,同人の承諾が得られていると誤信していた可能性がある。また,⑵被留置者金品出納簿は,文書の性質上,名義人自身による記載が予定される文書であると解するが,被告人がその点を認識していなかった可能性が否定できない。したがって,被告人については,有印私文書偽造・同行使罪の故意が認められないというべきである。 よって,本件公訴事実については犯罪の証明がないから,刑事訴訟法336条により,被告人に無罪の言渡しをする。 令和3年10月28日大阪地方裁判所第15刑事部 主文 よって,本件公訴事実については犯罪の証明がないから,刑事訴訟法336条により,被告人に無罪の言渡しをする。 令和3年10月28日大阪地方裁判所第15刑事部 裁判官船戸宏之
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