令和6年(わ)第202号道路交通法違反被告事件令和7年6月26日千葉地方裁判所松戸支部刑事部宣告 主文 被告人を懲役1年に処する。 未決勾留日数中240日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、令和6年4月15日午後0時39分頃、自転車を運転し、千葉県柏市(以下省略)付近道路を同市X方面から同市Y方面に向かい進行するに当たり、a(当時56歳)運転の普通乗用自動車の通行を妨害する目的で、同道路対向車線上を時速約31キロメートルで対向進行してきた同車に対し、法定の除外事由がないのに、同車の約29.01メートル手前で右転把して同道路の中央から右の部分である対向車線上にはみ出して運転するとともに、時速約15キロメートルで進行し、同車に自車を約5.38メートルまで接近させ、同人に回避措置を講じることを余儀なくさせ、他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転し、もって同人運転車両に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法による運転をしたものである。 【事実認定の補足説明】 1 争点等弁護人は、公訴事実記載の日時場所で被告人が自転車(以下「被告人自転車」という。)を運転していたことは争わないが、被告人の被告人自転車の運転に道路交通法規違反があるとしても、本件における具体的な交通状況等に照らせば、a運転の自動車(以下「本件自動車」という。)に道路における交通の危険を生じさせるおそれがあったとは認められず、また、被告人には本件自動車の通行を妨害する目的もなかったなどと主張するので、検討する(以下、特段の断りのない限り、日 時は本件当日(令和6年4月15日)中のものである。)。 2 前提事実等関係証拠によれば、次の事実を認めることができる。 ⑴ 被告人は、本件当日、柏市 下、特段の断りのない限り、日 時は本件当日(令和6年4月15日)中のものである。)。 2 前提事実等関係証拠によれば、次の事実を認めることができる。 ⑴ 被告人は、本件当日、柏市役所に向かうため、被告人自転車で自宅を出発し、千葉県柏市(以下省略)付近道路(以下「本件現場付近道路」という。)を同市X方面から同市Y方面に向かって右折用車線を進行中、午後0時39分4秒頃、被告人自転車を右転把させ、中央線から右の部分にはみ出し、対向車線を進行し始めた。 他方、同時刻頃、同対向車線上を進行してきた本件自動車は、被告人自転車の接近を認め、午後0時39分7秒頃、減速して一時停止したところ、被告人は、本件自動車の目前で、被告人自転車を左転把させ、右折用車線に戻った。 なお、本件当時、本件自動車の後ろを後続車が進行しており、同後続車は本件自動車の一時停止に伴って減速した。 ⑵ 上記2⑴における被告人自転車と本件自動車の速度や位置関係は後記3のとおりである。 ⑶ 本件現場付近道路は三車線の道路である。本件自動車の進行車線は1車線であり、その幅員は約3.5メートルである。被告人自転車の進行車線は2車線あり、上記2⑴のとおり、被告人自転車は右折用車線を進行してきた。 本件現場付近道路はやや蛇行しているものの見通しは良好である。 本件自動車は普通乗用自動車(ホンダフリード)であり、車体は長さ4.26メートル、幅1.69メートル、高さ1.71メートルである。 ⑷ 被告人は、本件の直前にも対向車線に進出して進行することを繰り返しており、本件の約40秒前と約10秒前にも対向車線に進出して進行し、対向車線を進行してきた自動車が被告人自転車の接近に伴って一時停止するなどした。また、被告人は、本件後、本件現場付近道路先の交差点を右折して国道16 40秒前と約10秒前にも対向車線に進出して進行し、対向車線を進行してきた自動車が被告人自転車の接近に伴って一時停止するなどした。また、被告人は、本件後、本件現場付近道路先の交差点を右折して国道16号線に合流したが、その後も対向車線に進出して進行することを繰り返した。 3 被告人自転車と本件自動車の速度や位置関係等について ⑴ b警察官の解析結果等b警察官は、上記2⑴の際の両車の速度や位置関係等について、解析ソフトウェア証拠ナビAF(以下「証拠ナビAF」という。)を用いて本件自動車のドライブレコーダー映像(以下「ドライブレコーダー映像」という。)を解析した。そして、解析結果について、当公判廷において、①本件自動車の減速前(午後0時39分0秒頃)の速度は時速約31キロメートルであったこと、②本件自動車に接近中(午後0時39分6秒頃から7秒頃)の被告人自転車の速度は時速約17キロメートルであったこと、③被告人自転車が右転把した際(午後0時39分4秒頃)の被告人自転車と本件自動車の距離は約29.01メートルであり、右転把後、被告人自転車は本件自動車に約5.38メートルの距離まで接近し、その際、被告人自転車は約0.92メートル対向車線上にはみ出していたことを供述し、その解析方法等について、次のように供述する。 ア ①の解析方法等b警察官は、本件自動車の速度について、次のように供述する。 「ドライブレコーダー映像は1秒間30フレームで構成されていた。本件自動車が減速する前のドライブレコーダー映像(画面表示時刻午後0時39分22秒(補正時刻午後0時39分0秒))を解析したところ、本件自動車は第1フレーム画像から第8フレーム画像までの30分の7秒間にドット線2か所間(2.01メートル)を移動したことが確認できたので、本件 秒(補正時刻午後0時39分0秒))を解析したところ、本件自動車は第1フレーム画像から第8フレーム画像までの30分の7秒間にドット線2か所間(2.01メートル)を移動したことが確認できたので、本件自動車の時速は約31キロメートルと算出した。ドット線2か所間の距離は、c警察官が現地でメジャーを用いて実測した結果を用いた。」イ ②の解析方法等b警察官は、被告人自転車の時速について、「本件自動車と被告人自転車が動いていることから本件自動車の速度解析と同様の手法を用いることはできず、マス目を座標とした解析を行った。」旨供述し、その概要について、次のように供述する。 「㋐座標とするマス目を作成するため、柏警察署の敷地内に本件自動車を配置し、本件自動車前端を0メートルラインと設定して、縦20メートル(0メートルラインから20メートルライン)、横6メートル(AメートルラインからGメートルライン(本件自動車の右側面をDメートルラインと設定))の範囲で、1メートル四方のマス目状となるようテープ状のものを敷き、本件自動車のドライブレコーダーで撮影し、解析用の画像シート(画像解析シート)を作成した。 ㋑証拠ナビAFを用いて、画像解析シートとドライブレコーダー映像の画面表示時刻午後0時39分28秒(補正時刻午後0時39分6秒)の第21フレーム画像を重ねて合成画像を作成し、作成した合成画像につき、手動と証拠ナビAFによる機能を用いて、広角レンズによるゆがみを補正した上、補正後の合成画像上で被告人自転車の位置をマス目の縦横ラインを座標として手動で特定した。また、合成画像上で特定した位置を現場見取図に反映させて現実の位置として把握するため、その際の基準とする不動物(路面の右折矢印)の位置も特定した。同フレーム画像を解析に使用したのは、被告人 定した。また、合成画像上で特定した位置を現場見取図に反映させて現実の位置として把握するため、その際の基準とする不動物(路面の右折矢印)の位置も特定した。同フレーム画像を解析に使用したのは、被告人自転車の前輪と道路の接地面が鮮明に確認できたからである。 ㋒ドライブレコーダー映像の画面表示時刻午後0時39分29秒(補正時刻午後0時39分7秒)の第4フレーム画像についても上記手順で特定した。同フレーム画像を解析に使用したのは、被告人自転車が対向車線を進行中に本件自動車に最接近した地点であり被告人自転車が自車線に戻るために左転把した地点であるからである。 ㋓㋑と㋒の合成画像上で特定した位置を現場見取図に反映させて現実の位置として把握するため、作図ソフトを用いて、右折矢印を基準として現場見取図と合成画像を重ね合わせ、マス目、本件自動車、被告人自転車の位置関係を反映させ、作図ソフト上で、㋑から㋒までの被告人自転車の移動距離を計測したところ2.14メートルであり、移動時間は13フレーム分であることから、被告人自転車の時速は約17キロメートルと算出された。現場見取図は、d警察官が本件現場付近道路 の測量結果を元に作成したものを使用した。」なお、現場見取図については、d警察官が、本件現場付近道路を三次元レーザー計測器で測量し、取得した座標点群データ(各点の間隔は0.1ミリメートル)を作図ソフト(D-PAMS)を用いて手動で各点を繋いで作成した旨供述する。 ウ ③の解析方法等b警察官は、被告人自転車が右転把した際の本件自動車との距離について、次のように供述する。 「被告人自転車が右転把した地点であるドライブレコーダー映像の画面表示時刻午後0時39分26秒(補正時刻午後0時39分4秒)の第18フレーム画像を使用し、上記同様、証拠ナ 、次のように供述する。 「被告人自転車が右転把した地点であるドライブレコーダー映像の画面表示時刻午後0時39分26秒(補正時刻午後0時39分4秒)の第18フレーム画像を使用し、上記同様、証拠ナビAFを用いて合成画像を作成した上、証拠ナビAFのヘルパーライン機能を用いるなどして被告人自転車の位置関係を特定した。また、上記同様、作図ソフト上で、現場見取図に本件自動車や被告人自転車などの位置を反映させ、両車間の距離を計測したところ、約29.01メートルと計測された。」また、被告人自転車が本件自動車に最接近した際の両車の距離については、「ドライブレコーダー映像の画面表示時刻午後0時39分29秒(補正時刻午後0時39分7秒)の第4フレーム画像の解析・計測によって、被告人自転車が本件自動車に最接近した際の両車の距離は約5.38メートルと計測され、被告人自転車は対向車線に約0.92メートルはみ出したと計測された。」旨供述する。 ⑵ b警察官による解析結果の信用性等ア上記b警察官の解析は、解析手法として相当性を有するものと認められる。 また、b警察官は、交通部門での経験を積み、交通捜査に解析ソフトを用いたドライブレコーダー解析を十件程度は行っているというのであって、相応の解析能力を有していたと認められる。そして、解析過程等についても、解析の際に作成した合成画像等を使用するなどしながら具体的に説明しており、その内容に特に不合理な点も見当たらない。また、ドット線間の実測、測量や現場見取図の作成はc警察官やd警察官が行ったものであるが、両警察官の供述によれば、両警察官も交通部門 での経験を積み、機器類の取扱いにも通じた警察官であると認められる上、その測定方法等に不合理な点は見当たらない。 この点、たしかに、弁護人が指摘するとおり、b警察官 ば、両警察官も交通部門 での経験を積み、機器類の取扱いにも通じた警察官であると認められる上、その測定方法等に不合理な点は見当たらない。 この点、たしかに、弁護人が指摘するとおり、b警察官による合成画像上の被告人自転車の位置の特定、c警察官によるドット線間の実測、d警察官による現場見取図の作成などは、手動で行われた部分があり、誤差が生じている可能性は否定できない。しかしながら、各警察官の供述によれば、各警察官は、できる限り誤差が生じないよう慎重に解析や計測等を行ったことが認められる。また、その過程についても証拠化し、信用性が担保されるよう努めている。さらに、解析結果とドライブレコーダー映像から予測される距離感等に大きな齟齬があることも認められない。 以上からすれば、厳密な数値的正確性はないとしても、その解析結果は信用性を有するもので、本件の争点等を判断する前提事実とすることができると考える。 イもっとも、②被告人自転車の速度について、被告人は時速約15キロメートルであった旨供述している。被告人は被告人自身の体感に基づいてこのような供述をしているものであり、これが解析結果の信用性に影響を与えるものではないが、被告人の供述も解析結果と大きく齟齬するものではないことから、被告人自転車の速度については、被告人に有利に考え、被告人の供述に基づき、時速約15キロメートルと認定した。 4 妨害運転について⑴ 本件では、被告人自転車が中央線(道路の中央)から右の部分に全部又は一部をはみ出して通行することができる法定の除外事由(道路交通法17条5項)はないのに、被告人は、被告人自転車を右転把させ、中央線の右の部分にはみ出して進行したものであって、通行区分違反(同法17条4項)に該当する。そして、上記のとおり、被告人は、本件自動車の約29 項)はないのに、被告人は、被告人自転車を右転把させ、中央線の右の部分にはみ出して進行したものであって、通行区分違反(同法17条4項)に該当する。そして、上記のとおり、被告人は、本件自動車の約29.01メートル手前でこのような違反行為に及んだものであるが、被告人自転車と本件自動車の速度からすれば、被告人は、本件自動車と二、三秒で衝突に至るという位置関係で突然このような違反行為を行ったものであり、このような行為は、本件自動車の運転手を驚愕狼狽させる行 為であって、急ハンドルや急制動などの急な回避措置の起因となりうる行為であったと認められる。そして、本件現場付近道路の見通しは良好であるものの、幅員が約3.5メートル程度の広くはない道路であり、後続車もいたことなどの交通状況等にも照らせば、運転手の急な回避措置によって、本件自動車が縁石や防護柵へ衝突したり後続車が追突するなどの事故を生じさせるおそれがあったと認められる。 さらに、被告人は、本件自動車の約29.01メートル手前で中央線から右の部分にはみ出した後、すぐに左転把して進行車線に戻ることなく、時速15キロメートルで本件自動車に約5.38メートルまで接近している。対向車線にはみ出したまま1秒間に約4.16メートルという速さで本件自動車に迫ったものであり、他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したものと認められ、安全運転義務違反(同法70条)に該当する。そして、このような行為は、本件自動車の運転手からすれば、正面衝突の危険性を予期させる異常な事態であって、急な回避措置を講じざるを得ない状況であり、事故を生じさせるおそれはさらに高まったと認められる。 ⑵ これに対し、弁護人は、本件自動車が一時停止した事実はあるが、安全な操作方法であって、急制動を要せず一時停止できる状況といえるし、 況であり、事故を生じさせるおそれはさらに高まったと認められる。 ⑵ これに対し、弁護人は、本件自動車が一時停止した事実はあるが、安全な操作方法であって、急制動を要せず一時停止できる状況といえるし、後続車との距離も十分にあったことからすれば、急制動などで事故が生じる可能性はなかった旨主張し、また、被告人自転車が対向車線にはみ出した程度も約0.92メートルにとどまり、本件自動車と被告人自転車の速度なども考えれば、本件自転車が実際にしているように左方に移動して本件自動車と距離をとることが可能な状況であって、本件自動車と被告人自転車が衝突するなどして事故が生じる可能性はなかった旨主張する。 たしかに、本件では実際に事故は生じていないが、それは本件自動車の運転手が被告人自転車の接近を的確に認知し、適切に減速一時停止したことによるものであって、上記4⑴の状況からすれば、事故が生じる可能性が存在しなかったとは到底認められず、事故が生じる一般的抽象的可能性があったものと認められる。 ⑶ 以上から、被告人の被告人自転車の運転は、本件自動車に道路における交通 の危険を生じさせるおそれがある方法による運転、すなわち妨害運転と認めた。 5 本件自動車の通行を妨害する目的について⑴ 被告人は、「国道16号に入ろうと思っており、そのためには本件現場付近道路の先にある交差点を右折する必要があったが、右側に渡ってショートカットしようと思い、中央線を越えた。中央線を越える前に本件自動車が来ていることは分かっていたので、右側に渡れば本件自動車の邪魔になるとは思ったが、邪魔してやろうとは思っていなかった。」旨供述する。 しかし、被告人は、右側に渡るつもりだった旨供述しながら、中央線を越えた後、被告人が被告人自転車を右側に移動させる素振りはなく、そのまま直 が、邪魔してやろうとは思っていなかった。」旨供述する。 しかし、被告人は、右側に渡るつもりだった旨供述しながら、中央線を越えた後、被告人が被告人自転車を右側に移動させる素振りはなく、そのまま直進し、本件自動車に接近していったもので、被告人の供述内容は被告人自転車の動きと整合しない。被告人自転車の動きからすれば、このような動きをすること自体に目的があったと考えるのが合理的であるが、被告人が本件自動車を認識し、本件自動車の邪魔となるであろうことを認識しながらも、あえてこのような動きをしたことからすれば、被告人は本件自動車の運転手に被告人自転車との衝突の危険を感じさせ、回避措置を講じることを余儀なくさせるなど、その自由かつ安全な通行を妨げることを意図していたと推認される。 ⑵ そして、被告人は、上記2⑷のとおり、本件直前にも、二度、中央線を越え、進行する自動車に接近するという本件同様の行為を行い、その都度、自動車は一時停止するなどの回避措置をしていたことが認められる。このような一連の運転行為からすれば、被告人は進行中の自動車を狙い、その自動車の運転手に回避措置を講じさせるなど、その自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して妨害運転を繰り返していたもので、本件はその一環であったと認めるのが相当である。 ⑶ 以上から、被告人は本件自動車の自由かつ安全な通行を妨げる目的があったと認めた。 【量刑の理由】被告人は、本件自動車の目前で対向車線に進出し、時速約15キロメートルとい う速さで約5.38メートルという至近距離まで被告人自転車を本件自動車に接近させたものである。本件自動車の運転手が一時停止したことなどにより事故に至ってはいないが、非常に危険な行為であった。動機は明らかでないものの、被告人は、これまで道路交通法違反( 車を本件自動車に接近させたものである。本件自動車の運転手が一時停止したことなどにより事故に至ってはいないが、非常に危険な行為であった。動機は明らかでないものの、被告人は、これまで道路交通法違反(自転車による妨害運転)を含む罪で二度も処罰され、比較的長期間の服役を経験しながら、再び同種犯行に及んだものであり、強く非難される。 以上によれば、被告人の刑事責任は重く、被告人に反省の態度もないことからすれば、相応期間の実刑となるのはやむを得ないところであり、主文の刑が相当と考えた。 (求刑懲役1年4月)令和7年7月4日千葉地方裁判所松戸支部刑事部 裁判官向井志穂
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