- 1 - 主 文 1 被告は,原告に対し,2261万4953円及びこれに対する令和元年8月 8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負 5 担とする。 4 この判決は,仮に執行することができる。 事 実 及 び 理 由 第1 請求の趣旨 被告は,原告に対し,2492万4953円及びこれに対する令和元年8月 10 8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,被告の設置する福岡県立A高等学校(以下「本件高校」という。) に在学していた原告が,本件高校の硬式野球部(以下「本件野球部」という。) の練習中,右側頭部に打球が直撃して外傷性くも膜下出血等の傷害を負い(以 15 下「本件事故」という。),右側感音性難聴・内耳機能障害等の後遺障害が残 ったところ,本件事故は部活動顧問による安全配慮義務違反により発生したも のであると主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求 として,2492万4953円及びこれに対する本件事故の日である令和元年 8月8日から支払済みまで国家賠償法4条により準用する民法(平成29年法 20 律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払 を求める事案である。 2 前提事実(証拠の掲記がない項は,当事者間に争いがないか,当裁判所に顕 著である。) ⑴ 原告は,平成▲年▲月▲日生まれの男性であり,平成30年4月に本件 25 高校に入学した。原告は,高校1年生の時から本件野球部に所属していた。 - 2 - ⑵ B教諭(以下「B教諭」という。)は,平成30年4月から現在まで本件 高校に教諭として勤務し,本件野球部の顧問 入学した。原告は,高校1年生の時から本件野球部に所属していた。 - 2 - ⑵ B教諭(以下「B教諭」という。)は,平成30年4月から現在まで本件 高校に教諭として勤務し,本件野球部の顧問を務めている被告の公務員(福 岡県の職員)であり,被告は,本件高校を設置する地方公共団体である。 ⑶ 高等学校における部活動は,高等学校学習指導要領に基づき,学校教育の 一環として行われる(甲2)。 5 ⑷ 原告は,令和元年8月8日,本件高校のグラウンドで本件野球部の練習に 参加し,打撃練習の打撃投手を務めていた。 上記打撃練習中,打者が原告の投げたボール(硬球)を打ち返したところ, その打球が原告の右側頭部に直撃した(甲1。本件事故)。 ⑸ 原告は,搬送先の九州病院(以下「本件病院」という。)において,外傷 10 性くも膜下出血,脳震盪後症候群,右一側性感音難聴,側頭部打撲傷,迷路 障害と診断され(甲8,9),受傷直後の頭部CT検査では脳挫傷も認めら れた(甲11)。 原告は,右側感音性難聴及び内耳機能障害(令和元年8月14日症状固定。 甲10)のほか,脳挫傷による局所的な脳障害で将来外傷性てんかんが起き 15 る可能性が常にあると診断された(令和元年11月8日症状固定。甲11)。 ⑹ 原告は,本件に関し,独立行政法人日本スポーツ振興センターに対して医 療費の支給を請求し,日本スポーツ振興センターに関する省令に定める障害 等級表11級6号(一耳の聴力が40㎝以上の距離では普通の話声を解する ことができない程度になったもの)に該当すると認定され,障害見舞金31 20 0万円が支給された(甲12ないし14)。 3 争点及び当事者の主張 ⑴ B教諭の職務行為の違法性の有無 (原告の主張)【訴p3,X1p1】 ア 高等学校における部活動は,高等学校学習指導 0 0万円が支給された(甲12ないし14)。 3 争点及び当事者の主張 ⑴ B教諭の職務行為の違法性の有無 (原告の主張)【訴p3,X1p1】 ア 高等学校における部活動は,高等学校学習指導要領に基づき,学校教育 25 の一環として行われるものであり,部活動を指導する教師は,部活動を行 - 3 - う生徒の安全に配慮する義務を負う。 イ 本件高校は,公益財団法人日本高等学校野球連盟(以下「高野連」とい う。)の加盟校であるところ,打撃練習では,打撃投手が投げた球を打ち 返した打者の球が打撃投手に当たる危険があることから,高野連は打撃練 習時に投手用ヘッドギアの着用を義務付けている。 5 さらに,本件では,打撃練習中,打撃投手と打者との間の距離を通常の 投手と打者との間の距離(18.44m)よりも短い約15mの距離にし ていたため,L字ネットを設置していても,打撃投手は打者が打ち返した 球を避けられない場合がある。 したがって,B教諭は,打撃投手を務める部員の頭部に打球が直撃して 10 も傷害を与えないように,投手用ヘッドギアを装着させる義務を負ってい た。 ウ それにもかかわらず,本件高校には投手用ヘッドギアがなく,B教諭は, 原告に投手用ヘッドギアを装着させず,上記義務を怠った。 (被告の主張)【答p1,Y2p1,2】 15 ア 部活動に安全配慮義務があること,本件高校が高野連に加盟しており, 高野連が打撃練習時投手用ヘッドギア着用義務を定めていること,本件の 打撃練習は通常より距離を短くしており,打球の投手への到達時間が極め て短いこと,本件高校にはヘッドギアがなく,本件事故当日を含め,これ までの打撃練習でヘッドギアを装着したことがなかったことは認める。 20 イ B教諭に過失があったとする点は争う。 ⑵ 過失相殺の適否 と,本件高校にはヘッドギアがなく,本件事故当日を含め,これ までの打撃練習でヘッドギアを装着したことがなかったことは認める。 20 イ B教諭に過失があったとする点は争う。 ⑵ 過失相殺の適否 (被告の主張)【答p2,Y2p2,3】 B教諭は,打撃練習時に,打撃投手は頭部がL字ネットの外に出ないよう にし,ネットのない部分は打者から見てボールを投げる腕だけが見えるよう 25 な位置で投げることを指導していた。このように,L字ネット後方で適切な - 4 - 位置から投球すれば,打撃投手に打撃が直撃することはない。 本件事故が発生したのは,原告が上記指導に従わなかったからであり,仮 に安全配慮義務違反があったとしても,本件では過失相殺がなされるべきで ある。 (原告の主張)【X1p1,2】 5 高野連が義務付けているヘッドギアを装着していれば,本件事故はそもそ も起きなかった。さらに,L字ネットの使用方法についてB教諭は厳しく指 導していなかったこと,打球のスピードと位置関係からすると打撃投手が打 球を回避するのは困難であること,高校生である原告が部活において注意力 が少し散漫になることは通常予想されること等からして,過失相殺をするこ 10 とは相当ではない。 ⑶ 本件事故による原告の損害 (原告の主張)【訴p4,5,X2p1】 ア 入院雑費 1万5000円 原告は,本件事故により10日間の入院を余儀なくされた。一日あたり 15 の入院雑費は1500円とするのが相当であるから,原告の入院雑費は1 万5000円である。 イ 通院交通費 180円 ウ 入通院付添費 7万8200円 原告は,入院中はめまいがひどく,入院当初の一週間はベッドから起 20 き上がれず,その後も一人で歩くことができない状態であった。そのた め,原告の 180円 ウ 入通院付添費 7万8200円 原告は,入院中はめまいがひどく,入院当初の一週間はベッドから起 20 き上がれず,その後も一人で歩くことができない状態であった。そのた め,原告の母親であるCが,原告の尿便の処理やトイレまでの付添いそ の他の原告の世話をした。 また,原告は通院時にもめまいや耳鳴りがあり,てんかん発作がいつ 出るか分からない不安もあって,母親が本件病院まで車で送迎した。 25 以上のとおり,原告が入院した10日間はすべて母親が付き添い,通 - 5 - 院にも同人が付き添った。 一日あたりの入院付添費は6500円,一回あたりの通院付添費は3 300円とするのが相当である。 10日間×6500円+4回×3300円=7万8200円 エ 傷害慰謝料(入通院慰謝料) 80万円 5 原告の入院日数は10日間,通院期間は2か月20日間であることに加 え,原告は聴力が低下して会話が聞こえにくいという苦痛を受けているこ とからすれば,傷害慰謝料としては80万円が相当である。 オ 後遺障害逸失利益 1863万1573円 原告については,日本スポーツ振興センターに関する省令に定める障 10 害等級表11級6号に該当する後遺障害が残存しており,労働能力喪失 率は20%を下らない。 原告の進路状況等に鑑み大学卒全年齢平均賃金668万9300円を 基に計算すると,逸失利益は以下のとおりである。 668万9300円×20%×13.9264(18.2559〔1 15 7歳の就労可能年数50年のライプニッツ係数〕-4.3295〔17 歳から大卒22歳までの5年のライプニッツ係数〕)=1863万15 73円 カ 後遺障害慰謝料 600万円 原告は,右耳の聴力を大きく喪失し,後遺障害11級の認定を受けた。 4.3295〔17 歳から大卒22歳までの5年のライプニッツ係数〕)=1863万15 73円 カ 後遺障害慰謝料 600万円 原告は,右耳の聴力を大きく喪失し,後遺障害11級の認定を受けた。 20 右側から話しかけられても,話しかけられたこと自体を認識できなかった り,話しかけられた内容が分からなかったりする状況である。 また,独立の後遺障害としては認定されていないが,将来的にてんかん 発作が出る可能性が常にあると医師から診断されており,常に不安を抱え て生活していかなければならない。 25 したがって,後遺障害慰謝料は600万円とすることが相当である。 - 6 - キ 弁護士費用 250万円 ク 既払金 310万円 (被告の主張) ア 原告の主張する損害はいずれも不知ないし争う。【答p2】 イ 原告の年齢(本件事故当時17歳)や,原告は本件事故後も意識があり, 5 受け答えがはっきりしている状態であったことからすると,原告の母親が 入通院に毎日付き添う必要があったとはいえない。【Y1p1】 ウ 原告の右耳の聴力障害が,認定された障害等級11級6号に該当するこ とは争わないが,原告は,本件事故後も部活動を含む学校生活を通常どお り送っており,逸失利益が発生するとは考えられないし,後遺障害慰謝料 10 を増額する理由もない。【書面による準備手続調書(令和3年6月17 日),答p3,Y1p1,2】 エ 後遺障害逸失利益に関し,原告は未だ大学を卒業しているわけではない こと等から,基礎収入は男子学歴計全年齢平均を用いるべきである。 また,本件事故後,原告の教室での座席位置は後ろから2番目であり, 15 それでも授業を受けるのに特段の不自由を生じていなかったことや,令和 元年8月下旬から原告が本件野球部の練習に復帰し,同年1 また,本件事故後,原告の教室での座席位置は後ろから2番目であり, 15 それでも授業を受けるのに特段の不自由を生じていなかったことや,令和 元年8月下旬から原告が本件野球部の練習に復帰し,同年10月下旬から は他の生徒と同様の練習メニューをこなせるようになり,練習試合や公式 戦にも出場し,問題なくプレーできていたことからすると,就業にあたり 特段不利益を被るとは考えがたく,労働能力が20%も喪失したとはいえ 20 ない。【Y1p1,2】 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認 められる。 25 ⑴ 本件事故の経緯 - 7 - ア 本件野球部は,令和元年8月8日午前11時頃から,本件高校のグラウ ンドにおいて,部活動として打撃練習を行っていた(甲1,原告66)。 上記打撃練習は,打撃投手と打者との距離が公式ルールで定められた投 手板から本塁までの距離(18.44m)よりも短い,約15m程度の距 離で行われていた(甲1,原告21,乙3)。 5 イ 本件野球部では打撃投手を決めず,毎回の練習時に打撃投手を依頼され た部員が投球を行う(原告15,28~31,甲18)。原告も,平成3 0年秋頃から週に1回か2回程度の頻度で打撃投手を務めていた(原告1 28,129,乙3)。 ウ 本件当日,他の部員が打撃投手を務めた後に原告が打撃投手を担当した。 10 原告の前方にはL字ネット(形状は甲7の右側の写真と同様のもの)が設 置され,側方には防球ネットが設置されていた(甲1,原告36~39, 乙3)。 L字ネットの高くなっている部分は打撃投手の身体全体が隠れる程度の 高さであるが(原告42),原告は,L字ネットの低くなっている部分か 15 ら右手で投球した(原告72,131~ 9, 乙3)。 L字ネットの高くなっている部分は打撃投手の身体全体が隠れる程度の 高さであるが(原告42),原告は,L字ネットの低くなっている部分か 15 ら右手で投球した(原告72,131~133)。 エ 原告は,従前は投球後に身体をL字ネットの高い方に移動して打球を回 避していた(原告136)が,本件当日は,打撃投手を始めて一球目のボ ールを打者が打ち返した際,打球を回避しきれず,ボールが原告の右側頭 部に直撃した(原告70~83。本件事故)。 20 ⑵ 本件野球部は高野連に所属している(甲3)ところ,高野連は,打撃練習 時において「製品安全協会」のSGマークが付けられている投手用ヘッドギ アの着用を義務付けている(甲4,5)が,本件事故当時,本件野球部には 投手用ヘッドギアが存在しなかった(原告62~64,証人B29,38)。 ⑶ 年に一度,教諭に配布される指導者必携には,野球部の打撃練習時におい 25 て投手用ヘッドギアの着用が義務付けられていることが記載され周知されて - 8 - いる(証人B32~34,63~67)が,本件事故当時,B教諭は,打撃 練習に際し打撃投手に投手用ヘッドギアを着用させる義務があることを知ら なかった(乙3)。 ⑷ 原告の入通院及び後遺障害等の状況 ア 原告は,本件事故後,本件病院に緊急搬送され,10日間入院し(原告 5 89),令和元年9月及び同年11月に,それぞれ2回本件病院に通院し, 最後の通院日(症状固定日)は令和元年11月8日である(甲8,9,1 1)。 本件病院に入院中,原告はめまいがひどく,最初の2日間はベッドから 離れられず,その後も1人でトイレに行けない状態であったため,入院に 10 は母親が付き添い,尿便の処理やトイレへの付添い,原告の身の回りの世 話をするなどした(原告90~ ,最初の2日間はベッドから 離れられず,その後も1人でトイレに行けない状態であったため,入院に 10 は母親が付き添い,尿便の処理やトイレへの付添い,原告の身の回りの世 話をするなどした(原告90~96,甲17)。母親は,自家用車で原告 の通院の送迎も行った(甲17)。 本件病院と原告の自宅との距離は,1.5㎞である(弁論の全趣旨)。 イ 原告は,本件事故による右側感音性難聴及び内耳機能障害の症状として 15 右耳の聴力がなくなり,特に周囲から雑音が入る場所では音声を聞き取り づらいことがあり,他人との会話にも支障がある(原告97~105,甲 10,甲17)。また,音の鳴っている方向を認識することができない (原告212~214)。 さらに,原告は,医師から,右耳の聴力がないため左耳のみで周囲の音 20 を聞いていることから,左耳に負担がかかり,左耳の聴力も次第に落ちて いくといわれている(原告119~125,202~206)。 ウ 原告は,今後外傷性てんかんが起きる可能性が常にあると診断された (甲11)が,本件事故後現在に至るまでてんかんの発作は発症していな い。また,外傷性てんかんの予防薬は服用しておらず,定期的に病院に通 25 院し,検査を受けているわけでもない。その他,てんかん発作の可能性が - 9 - あるために運動や行動を制限されているということもない(原告207~ 211)。 ⑸ 本件事故後の原告の高校生活 ア 原告は,令和元年8月29日から本件野球部の練習に復帰し,当初は見 学にとどまることもあったが,同年10月下旬頃からはノックも受けるよ 5 うになった(原告165,166,証人B39,44,45)。 原告は,同年11月には本件野球部の練習試合一試合に先発出場し,試 合終了まで出場したが,打撃,守備及び走塁 はノックも受けるよ 5 うになった(原告165,166,証人B39,44,45)。 原告は,同年11月には本件野球部の練習試合一試合に先発出場し,試 合終了まで出場したが,打撃,守備及び走塁のいずれにおいても格別問題 は発生しなかった(原告167~174)。 さらに,原告は,同年11月下旬頃から本件野球部の冬季練習(ウェー 10 ト・トレーニング,階段ダッシュ,タイヤ押し,塁間ダッシュなどを日替 わりで行うというもの。)にも体調に問題がなければ参加するようになり, 同年12月中旬からはほとんどのメニューに参加するようになった(原告 175~179)。その後,新型コロナウイルスの影響による練習中止期 間を経て令和2年6月に練習が再開されてからは休まず練習に参加し,試 15 合にも出場して,問題なくプレーすることができた(原告180~18 9)。 本件野球部でミーティングを行う際は,他の部員はできるだけ原告の正 面に立ちゆっくり話す,練習メニューを可視化するなどの配慮を行った (証人B41~43)。 20 イ 部活動以外の学校生活については,原告は,本件事故翌月に実施された リスニングテストを別室において一人で受験し,黒板に向かって右側の席 に配置してもらうなどの配慮を受けていたが,原告自身の希望により教室 の座席は後ろの方だったこともある。本件高校在学中,学校生活に特別問 題は発生していない(甲17,18,証人B50)。 25 ⑹ 原告は,令和3年2月,D大学の一般選抜Ⅰ期試験(グループディスカッ - 10 - ション併用方式)を受験し,同大学の経済学部地域創造学科に合格した(甲 16)。現在は大学生で,大学授業を受けたり焼肉屋でキッチンのアルバイ トをしたりして生活している(原告107,108,190)。 アルバイトでは 験し,同大学の経済学部地域創造学科に合格した(甲 16)。現在は大学生で,大学授業を受けたり焼肉屋でキッチンのアルバイ トをしたりして生活している(原告107,108,190)。 アルバイトでは,同僚から指示を受けて業務を行う場面もあるため,原告 は,右耳の聴力障害についてアルバイト先の店長に情報を提供し,左側から 5 話しかけてもらうなどの配慮を受けながら勤務している(原告191~19 5,198~201)。 2 B教諭の職務行為の違法性の有無について ⑴ 前記前提事実⑶のとおり,高等学校における部活動は,高等学校学習指導 要領に基づき学校教育の一環として行われるものとされており,そのような 10 観点から,高等学校の部活動について指導監督に当たる教諭等は,部活動を 行う生徒の生命及び身体の安全に配慮すべき義務を負うものと解される。 そして,前記認定事実⑵のとおり,高等学校の野球部の練習活動に関して は,高野連が,打撃練習時において「製品安全協会」のSGマークが付けら れている投手用ヘッドギアの着用を義務付けていることに鑑みると,B教諭 15 は,本件事故当時,本件野球部の顧問として,本件野球部の部員が同部の活 動として打撃練習を行う際には,打撃投手を務める生徒の頭部にボールが直 撃し,当該生徒の生命及び身体に危険が生じることがないよう投手用ヘッド ギアを着用するよう指導すべき職務上の注意義務を負っていたと解するのが 相当である。 20 ⑵ しかしながら,前記認定事実⑶のとおり,本件事故当時,B教諭は,指導 者必携の記載を見落とし,投手用ヘッドギアの着用義務があることを知らず, そのため,本件野球部には投手用ヘッドギアが存在しなかった。 そうすると,B教諭は,打撃練習時に打撃投手を務めていた原告に対して 投手用ヘッドギアを着用するよう指導せず,これ 義務があることを知らず, そのため,本件野球部には投手用ヘッドギアが存在しなかった。 そうすると,B教諭は,打撃練習時に打撃投手を務めていた原告に対して 投手用ヘッドギアを着用するよう指導せず,これにより上記職務上の注意義 25 務に違反して本件事故を生じさせ,原告に損害を与えたものとして,被告の - 11 - 公務員であるB教諭の職務行為の違法性が認められるというべきである。 3 過失相殺の適否について ⑴ 高野連が,打撃練習時に,打撃投手を務める者に対して投手用ヘッドギア の着用を義務付けたのは,硬式球が打撃投手の頭部に当たれば生命身体に重 大な危険が生じるおそれが高いところ,打撃投手を務める者と打者との距離 5 及び打球の速さを勘案すると,L字ネットだけでは当該打撃投手が打球を避 けられない場合があることによるものと解される。 しかも,本件事故時の打撃練習においては,打撃投手と打者との距離が公 式ルールで定められた距離よりも短く,約15mしかなかったことからすれ ば,打撃投手はL字ネットだけでは打球を避けることができず,打球が打撃 10 投手の頭部に当たる可能性が高くなっていたといえる。そうすると,B教諭 が,打撃投手を務める原告に対し,その生命身体の安全を確保するため投手 用ヘッドギアを着用するよう指導する必要性は高く,配布されていた指導者 必携の記載を確認せずこれを怠ったB教諭の過失は重大であるというべきで ある。 15 ⑵ そうすると,前記認定事実⑴エのとおり,本件事故が,原告がL字ネット に身体を隠すのが遅れたことも一因となって発生したものであるとしても, 損害の公平な分担という見地に鑑みると過失相殺を認めることは相当とはい えず,被告の主張は採用できない。 4 本件事故による原告の損害について 20 ⑴ 入院雑費 1万500 ものであるとしても, 損害の公平な分担という見地に鑑みると過失相殺を認めることは相当とはい えず,被告の主張は採用できない。 4 本件事故による原告の損害について 20 ⑴ 入院雑費 1万5000円 前記認定事実⑷ア記載のとおり,原告は,本件事故により本件病院に10 日間入院したところ,入院雑費は一日あたり1500円と認めるのが相当で あるから,本件事故と相当因果関係の認められる入院雑費は1万5000円 (10日間×1500円=1万5000円)である。 25 ⑵ 通院交通費 180円 - 12 - 前記認定事実⑷ア記載のとおり,原告は,令和元年9月及び同年11月, 母親が運転する自家用車に乗って本件病院に合計4日通院したと認められる。 そして,1km当たりのガソリン代は15円と認めることができるから,本 件事故と相当因果関係のある通院交通費は,180円(4日間×2(往復分) ×1.5km×15円=180円)と認めるのが相当である。 5 ⑶ 入通院付添費 7万8200円 ア 原告は本件事故当時17歳であり,本件事故により外傷性くも膜下出血, 脳挫傷等の重大な傷害を負ったこと,原告は本件病院に入院中,めまいが ひどく1人でトイレに行くこともできない状態であったこと,通院時に保 護者が付き添って医師から説明を受ける必要性があることなど,原告の年 10 齢と受傷の内容及び程度を考慮すれば,入通院院期間における母親の付添 いの必要性が認められ,それらは本件事故と相当因果関係のある損害であ ると認めるのが相当である。 イ そして,入院付添費は1日当たり6500円,通院付添費は1日当たり 3300円と認めることが相当であるから,本件事故と相当因果関係の認 15 められる入通院付添費は,7万8200円(10日間×6500円+4日 間×33 は1日当たり6500円,通院付添費は1日当たり 3300円と認めることが相当であるから,本件事故と相当因果関係の認 15 められる入通院付添費は,7万8200円(10日間×6500円+4日 間×3300円=7万8200円)である。 ⑷ 傷害慰謝料 74万円 前記認定事実⑷アに記載した原告の入通院期間(入院10日間,通院2か 月20日間)及び本件事故による受傷の程度によれば,傷害慰謝料は74万 20 円とすることが相当である。 被告は,実通院日数に照らして算出すべき旨主張するが,原告の傷害の内 容,程度,通院期間がそれほど長期間に亘っているわけではないことに照ら し,被告の主張を採用するのは相当ではない。 ⑸ 後遺障害逸失利益 1863万1573円 25 ア 前記認定事実⑷イのとおり,原告には右側感音性難聴及び内耳機能障害 - 13 - の後遺障害があり,右耳で周囲の音声や他者の話声を聞き取ることができ ず,そのため音の鳴っている方向が分からないこともあることなどに照ら せば,原告の後遺障害の程度は,日本スポーツ振興センターに関する省令 に定める障害等級表第11級6号と同等であると認めるのが相当である。 そして,特に周囲の雑音や話者以外の他人の話声が聞こえる環境では, 5 原告は話者の話声を正確に聞き取ることがかなり難しく,日常生活におけ る他者とのコミュニケーションには相当の支障があると認められる。 また,原告は,右耳の聴力がなくなったことにより,左耳の聴力にも影 響が出ているとうかがわれる。 イ 被告は,原告が本件事故後も教室内で後ろから2番目の席に座って不自 10 由なく授業を受けていたこと,本件野球部の練習や試合に参加できていた こと等からすれば,原告が就業にあたり特段不利益を被るとは考え難く, 労働能力喪失率が20%に達す から2番目の席に座って不自 10 由なく授業を受けていたこと,本件野球部の練習や試合に参加できていた こと等からすれば,原告が就業にあたり特段不利益を被るとは考え難く, 労働能力喪失率が20%に達することはないと主張する。 ウ たしかに,原告は,本件高校在学中,本件高校側の配慮と右耳の聴力が 失われている分を左耳で補うなど原告自身の努力によって,一応本件高校 15 での授業や本件野球部の練習及び試合等の日常生活を送ることができたと 認められる。 しかしながら,このような学校の配慮と原告自身の努力がなければ原告 の高校生活がより不自由なものになっていたであろうことは容易に想定で きる。さらに,こうした学校の配慮があっても,原告は授業外での同級生 20 らとの通常の会話にはやはり支障を感じていた。 そして,現在のアルバイト先である焼肉屋では同僚に左側から話しかけ るよう配慮をしてもらう場面もあるなど,就業の継続には原告の後遺障害 に対する周囲の理解と援助が必要であると認められる。 エ 以上のとおり,原告は,右耳の聴力を失ったために現に他者とのコミュ 25 ニケーションや周囲の状況把握に相当の支障が生じていること及び今後左 - 14 - 耳の聴力も低下する可能性がないとはいえないことに照らせば,職業選択 には一定程度制限があり,前記認定事実⑹のような原告の生活状況に照ら してみても,本件事故による原告の労働能力喪失率は20%とすることが 相当である。 オ そして,原告が本件高校を卒業後D大学に進学し,問題なく通学を継続 5 しているとうかがわれることからすれば,原告の逸失利益算定の基礎収入 は原告が主張する平成30年大学卒男性全年齢平均賃金668万9300 円とすることが相当であり,本件事故と相当因果関係のある後遺障害逸失 利益は,1863万1573 すれば,原告の逸失利益算定の基礎収入 は原告が主張する平成30年大学卒男性全年齢平均賃金668万9300 円とすることが相当であり,本件事故と相当因果関係のある後遺障害逸失 利益は,1863万1573円(668万9300円×20%×13.9 264=1863万1573円)である。 10 ⑹ 後遺障害慰謝料 420万円 ア 原告に残存する後遺障害の程度は,上記のとおり障害等級11級に相当 する。 イ 原告は,原告には将来にわたりてんかん発作が発現する可能性が常にあ り,常に不安を抱えて生活していくことになることを後遺障害慰謝料の考 15 慮事由として主張する。 しかしながら,本件事故後現在に至るまで,原告にてんかん発作が発症 したことはなく,さらに,前記認定事実⑷ウ記載のとおり,原告にはてん かん発作の発症を予防するための通院・服薬の継続や行動制限もないこと に照らすと,原告の主張は採用することができない。 20 ウ したがって,原告の後遺障害慰謝料は420万円と認めるのが相当であ る。 ⑺ 小計 上記⑴ないし⑹の合計は2366万4953円であり,前記前提事実⑹に 記載の既払金(障害見舞金310万円)控除後の残額は,2056万495 25 3円(2366万4953円-310万円=2056万4953円)である。 - 15 - ⑻ 本件事故と相当因果関係を有すると認められる弁護士費用は,205万円 と認めるのが相当である。 ⑼ 合計 以上によれば,本件事故と相当因果関係を有する原告の損害の合計額は, 上記⑺及び⑻の合計である2261万4953円と認められる。 5 5 結論 以上によれば,原告の被告に対する請求は,2261万4953円及びこれ に対する令和元年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を 求める限度で理 53円と認められる。 5 5 結論 以上によれば,原告の被告に対する請求は,2261万4953円及びこれ に対する令和元年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を 求める限度で理由があるから認容し,その余の請求は,理由がないから棄却す ることとして,主文のとおり判決する。 10 福岡地方裁判所小倉支部第3民事部 裁判長裁判官 植 田 智 彦 裁判官 福 本 晶 奈 15 裁判官 鈴 木 美 香
▼ クリックして全文を表示