平成16(ネ)84 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成16年9月28日 広島高等裁判所 広島地方裁判所 平成13(ワ)1084
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判決文本文11,057 文字)

主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は,株式会社Aに対し,金500万円及びこれに対する平成13年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の本件請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審ともこれを12分し,その1を被控訴人の,その余を控訴人の各負担とする。 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,株式会社Aに対し,5993万1155円及びこれに対する平成13年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 請求の趣旨に対する答弁本件控訴を棄却する。 第2 事案の概要 1 本件は,家具及び玩具販売等を主たる営業目的とする株式会社A(以下「A」という。)の創設者であり,株主である控訴人が,①Aの代表取締役である被控訴人は,平成11年6月2日,必要な市場調査等をすることなく漫然と広島市西区内のIに玩具店を出店し,その後,同店舗の経営を同社の取締役B(被控訴人の実弟。)に任せたままで必要な監督もせず,経営者として当然行うべき人件費の節減等の措置も採らなかったことなどにより,同店舗は当初から赤字で翌年9月24日には撤退せざるを得なくなった結果,Aに500万円の損害を与えたとして,また,②被控訴人は,何ら経営上必要もなかったのに,当初から損失が予想される協同組合C(以下「C」という。)の設立に関与し,これに参加した結果,出資金を失った上,Cから脱退するに際してCの債務を引き受けるなどしたことにより,Aに約5222万円ほどの損害を与えたとして,さらに,③被控訴人は, 」という。)の設立に関与し,これに参加した結果,出資金を失った上,Cから脱退するに際してCの債務を引き受けるなどしたことにより,Aに約5222万円ほどの損害を与えたとして,さらに,③被控訴人は,その妻に対して不当な退職金270万円を支払い,これによりAに同額の損害を与えたとして,商法266条1項5号,267条(株主代表訴訟)に基づき,被控訴人に対し,損害賠償として約5993万円及びこれに係る遅延損害金をAに支払うよう求めた事案である。 その余の事案の概要は,第2項のとおり補正し,第3項に控訴人の控訴の理由の要旨を付加するほかは,原判決「事実」中の「第2 当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。 原審は,控訴人の本件各請求をいずれも理由がないとして棄却した。これを不服として控訴人から提起されたのが,本件控訴事件である。 当審における争点も,原審と同様であって,次のとおりである。 (1) AがIに出店したことにより発生した損害につき,被控訴人は責任を負うか(2) AがC設立行為に関与し,参加したことにより発生した会社の損害につき,被控訴人は責任を負うか(3) Aが被控訴人の妻に対して退職金270万円を支払ったことにつき,被控訴人は責任を負うか 2 原判決の補正(1) 原判決2頁2行目の「家具」を「家具及び玩具など」に改める。 (2) 原判決4頁下から9行目の末尾に続けて,次のとおり加える。 「控訴人は,市場調査に際し,被控訴人がBに対し,テナントの場所の適否,損益分岐点の見込み,商品の種類,客単価等の事項につき具体的に指示すべきであった旨主張するが,それらの事項は,Bの収集した客観的数値を資料として取締役会で判断すべきことである。また,人員配置をBに任せていたこと自体が不当とはい ,客単価等の事項につき具体的に指示すべきであった旨主張するが,それらの事項は,Bの収集した客観的数値を資料として取締役会で判断すべきことである。また,人員配置をBに任せていたこと自体が不当とはいえないはずであるから,Bの人員採用や配置にどのような不具合があったのか具体的に主張すべきである。」(3) 原判決5頁4行目の末尾に続けて次のとおり加える。 「なお,控訴人のC理事長就任は,単に『名前を貸しただけ』というような形式的なものではないというべきである。」(4) 原判決6頁6行目の「原告が」の前に「控訴人は,名前を貸すように頼まれ,形式的に理事長に就任したにすぎない上,」を加える。 3 控訴の理由の要旨(1) 争点(1)(AがIに出店したことにより発生した損害につき,被控訴人は責任を負うか)について原判決は,①被控訴人が,広島市内において玩具店を経営するAの現代表者であるD(被控訴人の実弟。)が作成した収支計画を基に出店を検討したこと,②同人の意見を聴いた上で出店を計画したこと,③Aの取締役会の議事録にも前記出店につき検討したことが記載されていること,④出店後も店長会議を開催し,売上げ予測,目標,仕入れ計画等を検討させたことなどをもって,被控訴人に過失がなかったことの理由としている。 しかしながら,前記①については,Dは前記収支計画に基づき検討の結果,自らは出店を取りやめているのであるから,本件出店についての積極的な根拠とはなり得ないというべきであり,また,同②については,もともとI出店の話はDに持ち込まれたものであり,出店の条件等については同人が従前から聞いていたこともあって,被控訴人とともに出向いて話を聞いたにすぎず,被控訴人に対して具体的な助言等は何らしていない。同③については,多くの中小企業 たものであり,出店の条件等については同人が従前から聞いていたこともあって,被控訴人とともに出向いて話を聞いたにすぎず,被控訴人に対して具体的な助言等は何らしていない。同③については,多くの中小企業では,代表者が独断で決定し,事後的に形式を整えるために取締役会の議事録等を作成しているのが通常であるところ,Aにおいても例外ではなく,被控訴人の独断でI出店を決定したものである。さらに,同④については,たとえ出店後にいろいろ検討したとしても,それは出店に係る善管注意義務違反の有無とは直接関係がないから,その正当事由となるものではないというべきである。 (2) 争点(2)(AがC設立行為に関与し,参加したことにより発生した会社の損害につき,被控訴人は責任を負うか)について原判決は,①Aは,C設立に関し,自らも加入しているE協同組合における議論の末にCに加入していること,②Cには多数の同業他社もそれぞれの判断で加入していること,③控訴人自身C理事長に就任し個人保証までしてその運営に深く関与していること,などと事実認定し,被控訴人がCに加入することを決断したことにつき善管注意義務違反ないし忠実義務違反ということはできないとし,また,④AがCの創立に深くかかわり,Cにおいても一定の経営努力がされたこと,控訴人がその設立・運営に関与したことから,被控訴人がAの配送システムの縮小などの組織改革をすべきであったのにこれを適切に行わなかったとか,適切な時期にCを脱退すべきであったのにこれを怠ったということはできないと判断している。 しかしながら,前記①については,証拠に基づかない認定である上,どのような議論がされたのかが重要であるというべきところ,その点に関する判断がされていないし,同②については,独自の配送システムと人員を有するAにと 前記①については,証拠に基づかない認定である上,どのような議論がされたのかが重要であるというべきところ,その点に関する判断がされていないし,同②については,独自の配送システムと人員を有するAにとってCに加入するメリットは存在しないのであるから,他社との比較は意味がないというほかはなく,同③については,控訴人がCの設立に深く関与した事実はないし,仮にあったとしても被控訴人の本件損害賠償義務を否定する根拠となるものではない。 また,前記④については,Cは,バブル経済期のデータに基づきそもそも実現不可能な計画に基づき設立されたものであるから,事業運営が円滑に推移するはずもないことは当初から予見されたことであった。実際にも,Cは,第2期(平成8年4月1日から平成9年3月31日まで。期間については,以下これに準じる。)が1915万8468円,第3期が2812万2093円,第4期が772万6462円,第5期が1483万4054円の各損失を計上しているのであるが,設立後赤字続きとなったことは当然であったというべきである。結局,Cは多額の負債を抱えたため株式会社Fに譲渡することとなり,Aも撤退を余儀なくされたのである。このように,そもそもAはCに加入すべきではなかったし,加入後もCが赤字となり,改善の見込みがなかったのであるから,速やかに撤退すべきであったにもかかわらず,被控訴人はこれを怠った。また,Cが行ったとする経営努力の内容を示す証拠はない上,A自体も配送部門人員の配置転換等による同部門の縮小などの措置を採ろうとしなかった。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,争点(2)及び争点(3)については,被控訴人に善管注意義務違反ないし忠実義務違反は認められないから,これらの点に係る控訴人の本件各請求はいずれも理由がなく棄却されるべきであ 判断 1 当裁判所は,争点(2)及び争点(3)については,被控訴人に善管注意義務違反ないし忠実義務違反は認められないから,これらの点に係る控訴人の本件各請求はいずれも理由がなく棄却されるべきであるが,争点(1)については,被控訴人が十分な検討に基づき出店を決定したものとは認め難く,Aに生じた損害につき被控訴人には責任があるというべきであるから,控訴人の請求は理由があると判断する。その理由は,次項のとおり補正し,第3項に控訴の理由(2)に対する判断を付加するほかは,原判決「理由」に記載のとおりであるから,これを引用する。 2 原判決の補正(1) 原判決6頁11行目から同10頁15行目までを次のとおり改める。 「2 各争点に対する判断(1) 争点(1)(AがIに出店したことにより発生した損害につき,被控訴人は責任を負うか)についてア取締役は,会社を経営するに際し,善良な管理者の注意をもって忠実にその任務を果たすべきものであるが,不確実かつ流動的で複雑多様な諸情報に基づいて日常的に経営方針を選択・決定することが求められるという会社経営の性質上,そこに多少の冒険と危険は不可避のものであるから,取締役にはおのずと広い裁量権が認められるというべきである。したがって,取締役が,その経営上の判断を誤った場合等に生じる対会社責任に関しては,取締役の経営判断が結果的に会社に損害をもたらしたとしても,それだけで当該取締役が必要な注意を怠ったと断定することはできない。しかしながら,取締役の経営上の判断をするに当たり,その前提となった事実の認識につき不注意な誤りがあった場合ないし当時の状況に照らして合理的な程度に情報収集・調査等をしたとは認められない場合,また,その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理 た事実の認識につき不注意な誤りがあった場合ないし当時の状況に照らして合理的な程度に情報収集・調査等をしたとは認められない場合,また,その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものであったと認められる場合には,当該決定判断が特に緊急性を要するなどの特段の事情がある場合を除き,取締役の経営判断は許容される裁量の範囲を逸脱ないし濫用したものとなり,取締役の善管注意義務違反ないし忠実義務に違反するものとなると解するのが相当である(東京地裁平成5年9月16日判決・判例時報1469号25頁参照)。 イこれを本件についてみるに,証拠(甲6ないし9,112,118,120,127,乙8ないし11,13,15,19の1ないし同号証の7,原審証人D,同控訴人本人尋問及び同被控訴人本人尋問の各結果)並びに弁論の全趣旨によれば次の各事実が認められる。 ① 被控訴人,B,D及びGは,いずれも控訴人の子どもである。 控訴人は,平成元年9月1日から平成5年9月1日まで,被控訴人とともにAの共同代表取締役であったが,その後はAの会長である。Dは,Aの代表権のない非常勤の取締役であったが,平成12年9月1日,被控訴人に代わってAの代表取締役に就任した(ただし,商業登記簿上は同年8月8日の就任となっている。)。また,Dは,玩具店株式会社H(以下「H」という。)の代表取締役であり,平成4年9月から玩具の販売業を営んでいた。これに対して,被控訴人は,Aとは別に玩具の販売業を営んだ経験はない。なお,Bは,平成12年8月末までAの取締役であったが,被控訴人とともに辞職した。 ② Aの第30期(平成8年9月1日から平成9年8月31日まで)の経常利益は882万6858円,当期未処分利益は3736万5113円であり,同第31期( たが,被控訴人とともに辞職した。 ② Aの第30期(平成8年9月1日から平成9年8月31日まで)の経常利益は882万6858円,当期未処分利益は3736万5113円であり,同第31期(平成9年9月1日から平成10年8月31日まで)の経常利益は43万7631円,当期未処分利益は3557万3994円であった。 ③ 平成10年年末又は平成11年初めころ,Hに対してIにテナントとして出店してほしいとの要請があった。Dは,検討資料として,「I店収支計画」と題する書面(乙19の3の基となったもの。以下「D作成収支計画」という。)を作成した。D作成収支計画には,「投資額」として,「敷金,店舗内装費,商品,什器備品費,その他」,「資金調達」として「自己資金,借入金」との記載が,「売上計画」として,平成11年度から平成13年度までの間について「売上,売上総利益,人件費,広告宣伝費,その他,賃貸料,売上歩合賃貸料,営業利益」との記載があった。また,それぞれの項目について金額の記載があった。Dは,検討の結果,I出店のためには約4000万円の資金を要し,採算が合わないと判断してHとしては出店を取りやめた。 ④ Dが被控訴人に,株式会社HがIへ出店する話があったことを役員会の雑談の中で話したところ,これに興味を持った被控訴人は,Bに客の流れや平日,土,日の客数のデータを取るように指示するとともに,Dを同行して,平成11年1月8日ころ,Iの管理事務所を訪れ,入居条件等について話し合った。 ⑤ 被控訴人は,I出店の資金調達をJ信用金庫K支店に出向き相談したが,「調査した結果,採算上問題がある」として,断られた。 ⑥ そこで被控訴人は,D作成収支計画と全く同じ内容の書面(乙19の3。以下「被控訴人作成収支計画」 用金庫K支店に出向き相談したが,「調査した結果,採算上問題がある」として,断られた。 ⑥ そこで被控訴人は,D作成収支計画と全く同じ内容の書面(乙19の3。以下「被控訴人作成収支計画」という。)を事務員に作成させ,これをL(以下「L」という。)M支店に持参して融資を申し込み,同支店より3000万円の融資を受けた。 ⑦ 平成11年6月2日,AはIに出店した。 ⑧ I出店後のAの経理状況は,第32期(平成10年9月1日から平成11年8月31日まで)の経常利益がマイナス1640万9328円,当期未処分利益が1897万3330円,第33期(平成11年9月1日から平成12年8月31日まで)の経常利益がマイナス5377万1304円,当期未処分利益がマイナス4093万9927円と大幅に落ち込んだ。 ⑨ 平成10年10月2日付けのA取締役会開催通知が存在し,それによれば同月20日開催予定の取締役会において,「玩具店出店の件」が議題とされている。 ⑩ 平成11年10月18日付けの取締役会開催通知が存在し,それによれば,同月29日開催予定の取締役会において,I店運営の件が議題とされている。 ⑪ 平成12年3月3日付けのA取締役会議事録が存在し,それによれば,A取締役3名が全員出席し,取締役会において,出店したI店運営の件が議題となり,議長である被控訴人が,I店の運営が思わしくない旨の説明をし,店舗の縮小及び販管費の削減等の計画を次回の取締役会に提出することを約して全会一致でこれを承認可決したとの記載がある。 ⑫ 平成12年7月28日付けの取締役会開催通知が存在し,それによれば,Aの平成12年8月8日開催予定の取締役会において,I店運営の件が議題とされている。 ⑬ 記載がある。 ⑫ 平成12年7月28日付けの取締役会開催通知が存在し,それによれば,Aの平成12年8月8日開催予定の取締役会において,I店運営の件が議題とされている。 ⑬ 平成12年7月1日付けで同意書と題する書面(乙19の7)が存在し,被控訴人,D,B,Gがこれに署名押印している。同書面によれば,Aの代表取締役は,平成12年9月1日から被控訴人よりDに変更するものとされ,平成12年8月31日をもって,被控訴人及びBはAを退職することとされた。 ⑭ 平成12年9月24日,Aは,I店から撤退した。この結果,Aは,敷金として差し入れた1000万円から,原状回復等の費用として合計500万円(内訳は,原状回復費用205万6452円,解約金〔違約金の性質を有する。〕284万9048円,サイン撤去費用7万3500円,IP撤去費用2万1000円)が差し引かれ,500万円しか払い戻されなかったことにより,差額500万円の損失を被った。 ウ以上の各事実によれば,I出店については,その後売上げが伸びず,ごく短期間に閉店撤退に追い込まれていることからしても,経営者として妥当な判断であったとは言い難い面が否定できないものの,前記認定のとおり,会社経営に関しては多少の冒険と危険は不可避のものであるところ,当時のAの経理状況は,経常利益及び当期未処分利益も相当の黒字決算となっており,玩具を取り扱う新店舗を出すことを許容できないというような状況にはなかったから,結果的に損失を計上し,早期に撤退したことのみをもって,Iに新店舗を出すこととした被控訴人の経営判断が,取締役としての裁量権を逸脱しあるいは濫用したものであるとまで断定することができるかについては必ずしも明らかとはいえない。 しかしながら,前記認定 出すこととした被控訴人の経営判断が,取締役としての裁量権を逸脱しあるいは濫用したものであるとまで断定することができるかについては必ずしも明らかとはいえない。 しかしながら,前記認定事実によれば,被控訴人は,J信用金庫から採算上問題があるとして融資を断られ,またHを経営するDも出店を見合わせた状況を十分認識していながら,D作成収支計画以上の資料を作成することもなく,かつ新店舗出店の際などに経営者に対して通常求められる市場調査(甲127参照)などの適切な調査を踏まえず,また,取締役会における十分な協議検討をしないままほぼ独断で漫然と出店を決定したと認めることができるのであって,これによれば,被控訴人のした前記経営判断の過程において,被控訴人には善管注意義務違反の過失が認められるというべきである。 したがって,I出店に関してAが被った損害につき,被控訴人は賠償責任を免れないものというべきである。 エこれに対し,被控訴人は,I出店に関しては,①Hを経営するDの積極的な助言に基づいたものであり,②Bに集客数の調査を指示し,③それらを踏まえた被控訴人作成収支計画を提出して金融機関(LM支店)の融資も得た上で,④取締役会における十分な検討を行って出店を決定したものであり,何ら善管注意義務違反の事実はない旨主張し,証拠(乙19の1ないし3,原審被控訴人本人の結果)中には,同主張に沿う供述部分がある。 しかしながら,前記①については,Dはこれを否定し,具体的なアドバイスをした記憶はないと証言している上(原審同証人調書7頁,8頁),自らもIでの新規店舗は採算が合わないと判断して,出店要請を断っているのであるから,Dが被控訴人に対してI出店につき積極的な助言をするとは考えにくいところである。 証人調書7頁,8頁),自らもIでの新規店舗は採算が合わないと判断して,出店要請を断っているのであるから,Dが被控訴人に対してI出店につき積極的な助言をするとは考えにくいところである。 また,同②については,被控訴人は単に平日や土日の来客数を調査するよう指示したに止まり,客層や売れ筋の商品の分析といったことも行われておらず,前記のとおり,金融機関から融資を得るに際して通常作成されるべき甲127のような市場調査報告書も作成されていない。なお,被控訴人は,Bに対し,Iにかつて出店していた玩具店「N」の年間売上げ等の資料を収集するようにも指示した旨主張するが,そうであればその資料ないし報告書が提出されていてしかるべきと思われるにもかかわらず,本件各証拠中,そのようなものは見当たらない。よって,被控訴人の前記主張は信用できない。 同③については,確かにLの融資は得られているものの,前記認定のとおり,それまでのメインバンク的存在であったJ信用金庫K支店からは採算上問題があるとして融資を断られている。また,その際,被控訴人が提出した被控訴人作成収支計画は,D作成収支計画をそのまま写したものであるところ,Dは同資料に基づいてHとしての出店を断念していることに照らしても,Lの融資があったことをもって,被控訴人の出店決定過程に過失がなかったとはいえない。 さらに,同④については,前記認定のとおり,平成10年10月2日付けの取締役会開催通知(乙8)には,議題として「玩具部出店の件」との記載があるが,この時点ではまだIからの出店要請はなかったのであるから,単に「条件の良い物件があれば玩具部門の出店を検討」するとの趣旨に止まるものであり(乙19の1),具体的にI出店を念頭においたものではない。また,Iに出店してからの 出店要請はなかったのであるから,単に「条件の良い物件があれば玩具部門の出店を検討」するとの趣旨に止まるものであり(乙19の1),具体的にI出店を念頭においたものではない。また,Iに出店してからの同店舗の経営状況不振に関して取締役会の議題としたことをうかがわせる証拠はあるものの,本件各証拠中,I出店の前にこれを議題とした取締役会が開催されたことを裏付ける確たる証拠は見当たらない上,これが開催されていたとしても,Dの(被控訴人は)「出店するいうことをもう決めとられました。」との証言(原審同調書10頁)からすれば,同取締役会で十分な検討がされたとは到底考えられないところである。さらに,たとえ取締役会で十分討議されたとしても,それがどのような資料や客観的見通しのもとに行われたのかどうかが正に重要であることは前記説示のとおりであるから,被控訴人の前記主張はそれだけでは失当というべきである。 よって,被控訴人の主張に沿う前記各証拠はいずれも採用できない。 オ以上の次第で,被控訴人は,Aに対し,I出店に関して取締役としての善管注意義務違反ないし忠実義務違反が認められるというべきである。前記認定のとおり,I店の閉鎖に伴い,Aに生じた損害額は500万円であると認められるから,被控訴人は,Aに対し,500万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成13年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払う義務がある。」(2) 原判決10頁16行目を次のとおり改める。 「(2) 争点(2)(AがC設立行為に関与し,参加したことにより発生した会社の損害につき,被控訴人は責任を負うか)について」(3) 原判決12頁下から7行目を次のとおり改める。 「(3) 争点(3)(Aが被控訴人の妻に対して退職金270万円を とにより発生した会社の損害につき,被控訴人は責任を負うか)について」(3) 原判決12頁下から7行目を次のとおり改める。 「(3) 争点(3)(Aが被控訴人の妻に対して退職金270万円を支払ったことにつき,被控訴人は責任を負うか)について」 3 控訴理由(2)について(1) 控訴人の主張は,要するに,①Cへの加入は当初から損失の発生が予想されていたにもかかわらず,あえて加入した,②Cの組織改革を適切に行わず,多額の損失を与え続けた,③適切な時期にCから脱退しなかったことにより,Aに多額の損失を与えた,というものであると解される。 (2) しかしながら,これらはいずれも採用できない。まず,前記①については,A以外の同業他社も多数加入していることからみても,当時の状況において,AがCに加入することが明らかに相当性を欠いており,取締役としての裁量権を逸脱ないし濫用するものとまではいえない。また,Cの初代の代表者に就任し,CのJ信用金庫との間の当座勘定貸越契約の連帯保証人となるなど(乙19の31),Cの創立に深くかかわった控訴人が何ら反対の意見を述べた形跡がうかがわれないことからみても,当初の設立時点で損失の発生が明らかであったとまではいえない。 また,同②については,本件各証拠中,Aの配送システムを縮小しなかったことを認定するに足りる的確な証拠はない上,被控訴人が,(ア)どのような組織改革を,(イ)何時するべきだったのか,の点が明確ではなく,また,仮にそれらの点が明らかになったとしても,(ウ)そのことによりどの程度損失が防げたのか,の因果関係が明確ではない。 さらに,同③については,②と同様に(ア)脱退すべきであった時期と(イ)そのことにより発生したとされる損失の額,及び(ア)と(イ)との因果関係が不明な げたのか,の因果関係が明確ではない。 さらに,同③については,②と同様に(ア)脱退すべきであった時期と(イ)そのことにより発生したとされる損失の額,及び(ア)と(イ)との因果関係が不明ないし立証不十分というほかはないから,控訴人の前記主張は失当である。 なお,証拠(乙19の1,8ないし22,33ないし35,原審被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,AがC創立に参入することについては,同社として十分な検討がされたものと認められるから,その判断の過程においても,被控訴人には取締役として特段の善管注意義務違反ないし忠実義務違反は認められない。 (3) よって,控訴人の前記控訴理由はいずれも採用できない。 4 以上によれば,前記認容の限度で控訴人の本件請求は理由があるから認容すべきであり,その余は失当として排斥されるべきところ,これを全部棄却した原判決は一部不当であるから変更を免れない。 よって,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第2部裁判長裁判官鈴木敏之裁判官松井千鶴子裁判官工藤涼二

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