平成15(ワ)253 預金払戻請求

裁判年月日・裁判所
平成16年5月27日 甲府地方裁判所
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判決文本文5,905 文字)

成16年5月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成15年・第253号預金払戻請求事件(平成16年4月8日口頭弁論終結)判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,216万円及び平成15年6月5日から支払ずみまで年6分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,盗まれた預金通帳と印鑑を利用されて預金を引き出された原告が,被告銀行に対し,普通預金契約に基づき預金の払戻を請求した事案である。 1 争いのない事実・被告は,銀行取引を業務とする株式会社である。 ・原告は,被告本店営業部において,平成13年3月13日総合口座取引契約を締結し,原告名義の総合口座(口座番号 1775170)を開設した(以下「本件口座」という)。 ・平成14年6月17日の時点での本件口座内の普通預金(以下「本件普通預金」という)の残金は411万1853円であった。 ・平成14年7月3日,被告本店において,Aが,原告名義の普通預金払戻請求書を作成し,盗取された普通預金通帳(以下「本件通帳」という)及び届出印(以下「本件届出印」という)を用いて,本件普通預金のうち250万円の払戻請求を行い,被告は同額をAに支払った(以下「本件払戻」という)。 ・その後Aは,同日午後0時10分ころ,被告B支店において,上記と同様にして,160万円の支払を求めた。 しかし,同支店で窓口係を担当していたCは,払戻金額が100万円以上であったことから,被告において定められた内規に従い本人確認を行うこととし,Aに対し, にして,160万円の支払を求めた。 しかし,同支店で窓口係を担当していたCは,払戻金額が100万円以上であったことから,被告において定められた内規に従い本人確認を行うこととし,Aに対し,本人であることの資料の提供を求めた。そこで,Aは,原告名義の健康保険証を提示したが,Cが写真付き身分証明書の提示を求めたところ,Aは予め用意してあったAの写真付きの原告名の偽造運転免許証を提示した。しかし,当該運転免許証は真正な運転免許証よりも厚く,かつ,「山梨県公安委員会」の記載及び住所部分の表記の仕方が真正な運転免許証とは異なっていた。Cは,提示された運転免許証を偽造の疑いが強いと判断し,上司に連絡し,Aが原告を装って払戻を請求したことが発覚した。 2 原告の主張・原告は,Aから,Aが原告を装って預金を払い戻したことの損害賠償として34万円の支払を受けた。原告は,被告に対し,本件普通預金のうちAへの支払分と同額の250万円から上記34万円を控除した216万円の預金払戻請求権を有する。 ・免責約款の及ぶ範囲免責約款といえども,社会的合理性の認められる範囲にしか効力は及ばず,被告に,他人に対し支払うことの認識があった場合,又は,預金者本人であることを確認をしなかったことにつき過失がある場合は免責約款の適用はない。 本件では,後記のとおり被告に過失が認められるため,免責約款の適用はない。 ・無過失の主張に対する反論以下のとおり,被告は本件払戻に際し無過失とはいえず,準占有者に対する弁済に当たらない。 ・被告の認識及び対策ア警視庁は,平成11年9月6日以降,主立った都銀9行に対し通帳などの使用による預金引出事案の防止につき配慮を求めるなどした。さらに,平成12年ころからピッキングによ 被告の認識及び対策ア警視庁は,平成11年9月6日以降,主立った都銀9行に対し通帳などの使用による預金引出事案の防止につき配慮を求めるなどした。さらに,平成12年ころからピッキングによる盗難事案が多発し,スキャナーを使用して副印鑑の印影を読みとった上,払戻請求書に印字をして,盗取した預金通帳とともに窓口において払戻請求を行う事案が多発するようになった。そこで,多くの金融機関が副印鑑制度を廃止し,印影をデータベース化するなどの措置をとるようになった。 被告においても,平成14年6月20日,副印鑑制度を廃止した。 イ被告において,預金口座開設店(以下「自店」という)以外の店舗(以下「僚店」という)における払戻に関する内部規定の概要は,印鑑照合の他に100万円を超える払戻請求の場合には運転免許証など本人確認資料の提示を求め,印鑑照合は窓口係と役席者の2名で行う等というものであり,自店でも同内容の取扱をする旨内部規定を設けることは可能であった。 ・本件払戻の状況ア本件払戻の際の請求金額は,原告の本件普通預金口座に残った残高約411万円のうち250万円であり,残高の半分以上の金額の払戻請求であった。 また,Aは,7月であるにもかかわらず帽子を目深にかぶり,払戻請求書を作成する際3回も書き直しをするなどの不審な挙動があった。 イ原告の取引実績はキャッシュカードによる払戻のみであり,窓口によるものは存在しなかった。原告は,Aが払戻請求をする以前,本件普通預金につき100万円以上の多額の払戻を行ってはいなかったし,窓口での取引履歴もなかった。 ウ被告本店の預金窓口担当者Dは,Aに対し,上記アについての確認,運転免許証又は印鑑証明による本人確認,口頭で 00万円以上の多額の払戻を行ってはいなかったし,窓口での取引履歴もなかった。 ウ被告本店の預金窓口担当者Dは,Aに対し,上記アについての確認,運転免許証又は印鑑証明による本人確認,口頭での住所・生年月日などの聞き取り,キャッシュカードの暗証番号の聴取,使途についての会話,印鑑票との印鑑照合,印鑑票に記載された個人情報との対比,のいずれも行わなかった。 ・よって,原告は,被告に対し,本件普通預金契約に基づき,216万円及び本訴状送達の日の翌日である平成15年6月5日から支払ずみまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。 3 被告の主張・免責約款・被告と原告間が締結した本件総合口座取引契約にかかる総合口座取引規定14条には,取引において払戻請求書,諸届その他書類に使用された印影を届出の印鑑と相当の注意をもって照合し,相違ないものと認めて取り扱ったうえは,それらの書類につき偽造,変造その他の事故があってもそのために生じた損害については,被告は責任を負わない旨の免責約定が定められている。 ・平成14年7月3日ころ,被告本店にAが来店して本件普通預金につき払戻請求を行った際,預金窓口担当者Dは,提出された払戻請求書に押捺された印影と本件届出印の印影との照合を相当の注意をもって慎重に行い,その印影が同一であることを確認して250万円を支払った。 ・よって,被告の上記支払は上記約款に基づき免責される。 ・準占有者に対する弁済以下のとおり,本件払戻の際,被告は善意無過失であった。 ・本件預金名義人である原告は日本人の女性であるところ,本件払戻請求をしたAも日本人女性であり,Aには特に不自然な言動はなかった。さらに,Aが払戻請求を行った時間は午前11時30分ころであり,銀行の開店 件預金名義人である原告は日本人の女性であるところ,本件払戻請求をしたAも日本人女性であり,Aには特に不自然な言動はなかった。さらに,Aが払戻請求を行った時間は午前11時30分ころであり,銀行の開店まぎわの時間などではなかった。 ・ Dは,払戻請求書に記載された原告名が預金者名と同一であること,払戻請求書に押捺された印影と本件通帳の表紙の裏に押印してある本件届出印の印影との照合を相当の注意を持って慎重に行い,その印影が同一であることを確認した。上記払戻請求書に記載された原告名に誤記・不一致はなく,訂正の形跡もなかった。また,本件普通預金払戻当時,本件預金について事故届は提出されておらず,被告は本件通帳や届出印が窃取されたことを知らなかった。 ・ Aの本件払戻請求当時の本件普通預金残高は約411万円であったが払戻請求額はそのうち250万円であり,預金残高全額ないしは全額に近い金額ではなかった。 4 本件の争点被告の払戻が債権の準占有者に対する弁済として有効か。払戻につき被告は無過失か。 第3 争点に対する判断 1 上記争いのない事実に証拠(甲1ないし5,甲6の1ないし4,甲7,甲8の1ないし9,甲19,乙1ないし6,16ないし19,証人D)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ・平成14年6月17日から同年7月3日までの間,原告の自宅から何者かが本件通帳及び届出印を盗み出した。しかし,原告宅において何者かが侵入した形跡は見られなかったことから,原告は,盗難の被害には気がつかなかった。 原告は,同年7月3日,被告B支店から連絡を受けてはじめて上記犯行に気がついた。 ・ Aは,平成14年6月下旬,「E」と称する人物から,「簡単にできるアルバイトがある」と言われ,他人名義の口座から,当該口座 7月3日,被告B支店から連絡を受けてはじめて上記犯行に気がついた。 ・ Aは,平成14年6月下旬,「E」と称する人物から,「簡単にできるアルバイトがある」と言われ,他人名義の口座から,当該口座の名義人になりすまして払戻を行う仕事を引き受けた。 Aは,同年7月3日,氏名不詳の男に会い,本件通帳,本件届出印,Aの顔写真が貼られた「X」名の入った偽造運転免許証及びXの氏名,住所などを記載したメモを手渡され,以後,同人の指示のもと,払戻を行うことになった。 ・ Aは,同日,ヒョウ柄の帽子をやや目深にかぶり,本件普通預金口座開設店である被告本店の南側出入口から中に入り,記帳台で払戻請求書に原告名及び本件普通預金の口座番号を記載し,さらに本件届出印を押印した。この際Aは,払戻請求書を2回書き損じた。そして,Aは上記払戻請求書を被告本店従業員で5番窓口の係をしていたDに提出し,Dが少々待つように言うと,Aは5番窓口の近くにある最前列のソファーに座って手続を待った。 Dは払戻請求書に記載された氏名及び口座番号が本件通帳の預金名義人及び口座番号と一致していること,本件通帳の裏の印影と払戻請求書の印影が同一の印鑑によって押印されたものであることを確認し,また事故届出がないことも確認した。被告の払戻請求書には住所欄がなく,また,自店での普通預金払戻についての内規では,300万円以上の払戻請求の場合に本人確認をすることになっていたため,Dは,Aに対し特に身分証明書の提示を求めたりせず,Aが預金者本人であると信じた。 当時Dは300万円までは自己の判断で払戻ができることとなっていたため,他の行員に相談することなく自己の判断で250万円の払戻を決定した。なお,Dは,Aが払戻請求書を書き損じたことを知らなかった。 Dが「Xさん」 は自己の判断で払戻ができることとなっていたため,他の行員に相談することなく自己の判断で250万円の払戻を決定した。なお,Dは,Aが払戻請求書を書き損じたことを知らなかった。 Dが「Xさん」と呼んだところ,ソファーに座って待っていたAが窓口に来たので,現金250万円と本件預金通帳を渡した。Aは,その場で現金を数えることはしないで,封筒に現金を入れて同店を出た。 ・その後,同日午後0時10分ころ,Aは,僚店である被告B支店において,原告名義の本件普通預金の払戻請求書を作成し,160万円の支払を求めた。 しかし,同支店において窓口係を担当していたCは,払戻請求金額が160万円であり,100万円以上であったことから,僚店に関する被告の内規に従い本人確認を行うことにし,Aに対し本人であることの資料の提示を求めた。 AはAの顔写真付の原告名義の偽造運転免許証を提示したが,Cがこれを偽造ではないかと疑いを持ち,上司に連絡し,Aを別室に通して,山梨県警察に通報したため,Aが原告を装って払戻を請求したことが発覚した。 2 本件払戻は債権の準占有者に対する弁済として有効か。 ・被告の総合口座取引規定において,被告が払戻請求書に使用された印影と届出印鑑の印影を照合・確認すれば免責される旨規定されているが,そのような照合・確認をした場合であっても,払戻が債権の準占有者に対する弁済として有効でない限り免責されることはないと解される。 そこで,本件払戻が債権の準占有者に対する弁済として有効か,すなわち,被告が本件払戻につき無過失であったかどうかについて判断する。 ・上記認定事実によれば,被告の総合口座取引規定において,被告が相当の注意をもって払戻請求書の印影と届出印の印影を照合して相違ないものと認めて払戻をしたときは被告 たかどうかについて判断する。 ・上記認定事実によれば,被告の総合口座取引規定において,被告が相当の注意をもって払戻請求書の印影と届出印の印影を照合して相違ないものと認めて払戻をしたときは被告は責任を負わないものとされていること,本件において,被告窓口担当者Dは印鑑照合を行い,その印影の同一性を確認した上で,Aの本件普通預金払戻請求に応じたこと,本件払戻請求当時,Aが払戻請求書を書き損じたことをDは知らなかったこと,Aには何ら不審な言動がなかったことが認められる。 また,被告には,自店では300万円以上,僚店では100万円以上の普通預金払戻請求に対し印鑑照合の他に身分証明書の提示を求める旨の内規が存在したが,これは被告が自主的に定めたものである上,自店で普通預金の出し入れ手続がなされることが多く,これが通常の取引形態であるから,本件払戻当時,自店でも100万円以上とすべきであったとまではいえない。 なお,被告においては平成15年11月10日以降自店で100万円以上の普通預金払戻請求の場合でも僚店と同様の扱いをするようになった(証人D)が,これは自店における事故防止対策をとったものであり,平成14年7月時点での自店における本件払戻について,上記結論を左右するものではない。 上記認定事実及び諸事情を総合考慮すれば,本件払戻の際には被告は無過失であったと認められるから,本件払戻は準占有者に対する弁済として有効であり,被告の上記主張は理由がある。 3 結論よって,原告の請求は理由がない。 甲府地方裁判所民事部裁判官新堀亮一 裁判官 新堀亮一

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