- 1 - 平成27年6月3日宣告裁判所書記官平成26年(わ)第801号強盗致傷被告事件判決 主文 被告人を懲役4年6月に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は,A(以下「A」という。)と共謀の上,平成25年5月1日午後1時29分頃,兵庫県川辺郡a町bc丁目d番地e所在のB店において,同店店長C管理のカミソリ用替刃等21点(販売価格合計3万4120円)をショルダーバッグ内に入れて窃取し,同日午後1時32分頃,上記窃取行為の一部を目撃し,被告人らを追ってきた警備員D(当時60歳,以下「D」という。)から,同店駐車場において呼び止められるなどしたため,逃走を図ろうとして,近くに横付けされたA運転の軽四乗用自動車の助手席窓から上半身を同車内に入れて乗り込もうとした際,それを阻止しようとしたDに腰付近にしがみつかれたことから,Dを引きずるかもしれないことを認識しつつ,同車を発進させて約38.1メートル走行させることにより,Dを同車で引きずる暴行を加え,よって,同人に加療約2週間を要する左膝擦過創等の傷害を負わせたものである。 【証拠の標目】【争点に対する判断】 1 争点【罪となるべき事実】記載の外形的事実並びに窃盗の故意及び共謀については,関係証拠によって優に認められ,被告人及び弁護人も特に争っていない。 本件の争点は,被告人らにおいて,Dに対し逮捕を免れるための暴行を加え- 2 - ることについて故意及び共謀があったか否か,具体的には,A運転の軽四乗用自動車(以下「逃走車」という。)に乗って逃走するに当たり,被告人を捕まえようとしたDを同車で引きずること又は引きずるかもしれないことを認識し, 及び共謀があったか否か,具体的には,A運転の軽四乗用自動車(以下「逃走車」という。)に乗って逃走するに当たり,被告人を捕まえようとしたDを同車で引きずること又は引きずるかもしれないことを認識し,そのような行為を自分たちの犯罪として共に行うことについて互いに意思を通じ合わせていたか否かである。 2 当裁判所の判断(1)Dの証言及びE(以下「E」という。)の供述(検察官に対する供述調書抄本)によれば,以下の事実が認められる。 ア Dは,被告人が盗品の入ったショルダーバッグをDに押し付けて逃走車に近付いたため,その助手席ドアに自身の右脇腹を密着させることによって,被告人が助手席ドアを開けて逃走車に乗り込むのを防いだ。 イ Dは,逃走車が発進した際,被告人にしがみつきながら「あかん,あかん」と大声で言い,Dとともに被告人らを追ってきた被害店店員のEも,逃走車の速度が上がり始めた頃,逃走車の助手席窓の窓枠をつかみながら「危ない,危ない」と大声で言った。 ウ Dは,当初被告人の腰付近にしがみついていたが,引きずられるうちに体勢を崩し,被告人の右脚付近にしがみつく形になった後,逃走車が駐車場の出入口から公道に右折進入した頃,被告人にしがみついていた手を離し,路上に転倒した。その直後に逃走車が停止し,被告人が助手席ドアを開けて同車に乗りなおした後,同車は走り去った。 (2)DやEがあえて虚偽を述べるような理由は見当たらない。Dについては,証言時既に事件から約2年が経過しているという事情はあるものの,事実経過の基本的部分については具体的かつ明確に供述している。したがって,同人らの供述は十分信用することができる。 これに対して,被告人は,逃走車の助手席窓から上半身を入れた際のDと車の位置関係や,逃走車が公道に出た後,車内に乗り込んだ方法 している。したがって,同人らの供述は十分信用することができる。 これに対して,被告人は,逃走車の助手席窓から上半身を入れた際のDと車の位置関係や,逃走車が公道に出た後,車内に乗り込んだ方法については,- 3 - Dと異なる供述をしている。しかし,被告人自身,Dの証言を積極的に否定するわけではなく,自分の方が記憶違いをしている可能性もある旨述べるなど,曖昧な供述態度である。また,逃走車が軽四乗用自動車であることや当時の被告人の体格(身長約176センチメートル,体重100キログラム近くであったと自認している。)を踏まえると,被告人が供述するように,助手席窓に上半身を入れた状態のまま走行中に下半身も助手席窓から車内に入れて乗り込んだというのは無理がある。したがって,被告人の供述中,Dの供述に反する部分は信用することができない。 (3)前記(1)の認定事実によれば,Dは,被告人が逃走車の助手席窓から上半身を入れる直前,その面前で被告人の逃走を阻止しようとする行動を取っていたことになるから,被告人には,Dがなお逃走を阻止しようとする行動に出ることは容易に予想できたはずである。そして,現に,被告人は,Dによって腰付近にしがみつかれているが,しがみつかれた本人がそれに気が付かないということは通常は考えられない。加えて,Dが「あかん,あかん」と大声で言っていたことをも併せて考えると,被告人がDにしがみつかれていることに気付いていたのは明らかというべきである。 そうすると,被告人には,そのような状態で逃走車が発進すればDを引きずるかもしれないとの認識があったものと考えられる。さらにその後,逃走車の速度が上がった頃に,Eが大声で「危ない,危ない」と叫んでいること,Dのしがみついていた被告人の身体の部位が変化していること,Dが手を離 れないとの認識があったものと考えられる。さらにその後,逃走車の速度が上がった頃に,Eが大声で「危ない,危ない」と叫んでいること,Dのしがみついていた被告人の身体の部位が変化していること,Dが手を離した直後に逃走車が停止し,被告人がその助手席ドアを開けて同車に乗りなおしていることからすると,Dが引きずられている間にその事実を明確に認識するに至っていたものと認められる。 (4)Aについても,逃走車を被告人の近くに横付けした時点で,Dが被告人を店の方へ連れて行こうとしていたことや,被告人が逃走車の助手席窓から上半身を入れるという方法で乗り込もうとしていたことから,Dが被告人の逃走- 4 - を阻止するため,被告人の上半身以外の部分につかみかかるということは十分予想できたと考えられる。そして,発進後,DやEが窓の開いている逃走車の直近で大声を出していたことをも併せて考えると,逃走車を発進させ,走行を継続すれば,少なくともDを引きずるかもしれないことは認識していたものと認められる。 そして,被告人は,Aと共に窃盗を行い,その後も一緒に逃げるため,逃走車の助手席窓から上半身を入れてAに発進を促し,運転を継続させていたのであるから,同人との間で,Dを引きずるという行為を自分たちの犯罪として共に行うことについて互いに意思を通じ合わせていたと認めることができる。 (5)以上によれば,被告人及びAにおいて,Dに対し逮捕を免れるための暴行を加えることについて故意及び共謀があったと認められる。 【法令の適用】罰条刑法240条前段(238条),60条刑種の選択有期懲役刑を選択酌量減軽刑法66条,71条,68条3号未決勾留日数の算入 0条前段(238条),60条刑種の選択有期懲役刑を選択酌量減軽刑法66条,71条,68条3号未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書【量刑の理由】 1 本件犯行における暴行の態様は,自動車で被害者を引きずるというだけでなく,その距離が約38.1メートルとやや長い上,場所が他の通行車両や駐車車両などもある日中のホームセンターの駐車場やその出入口付近の公道であり,自動車の速さも,被告人の身体にしがみついた被害者が併走できずに体勢を崩すほどに達していたことから,危険性の高いものといえる。また,窃盗は,Aから持ちかけたものであったにせよ,被告人も実行していること,逃走車の運転は,Aが行っていたが,被告人とAが共に逃走するためのものである- 5 - こと,被害者を引きずったのは,被告人が逃走車の助手席窓から上半身を入れて乗り込もうとしたため,被害者からしがみつかれたことによるものであること,被告人がAに逃走車の発進を促していることなどに照らせば,役割の重要さにおいて被告人とAとの間に大差はないというべきである。そうすると,被告人の責任は,社会内での更生の機会を与えられるほど軽いものではないことが明らかである。 もっとも,本件が事後強盗致傷の事案であり,被害者の負傷も加療約2週間を要する程度にとどまっていること,後記の前科はあるものの,責任を特に重くみるべき累犯前科などはないことなどからすると,被告人が負うべき責任の重さに相応する刑は,強盗致傷罪の法定刑の下限から酌量減軽によってそれをやや下回る水準と考えられる。 2 さらに,それ以外の事情として,被告人にはいずれも窃 となどからすると,被告人が負うべき責任の重さに相応する刑は,強盗致傷罪の法定刑の下限から酌量減軽によってそれをやや下回る水準と考えられる。 2 さらに,それ以外の事情として,被告人にはいずれも窃盗による執行猶予付きの懲役前科1犯と罰金前科1犯があること,その一方で,被告人が現時点においては,被害者に謝罪するとともに,親族の資金援助を得て被害者や被害店に弁償を申し入れたが,弁償については受け入れられなかったため贖罪寄付をするなど,自己の罪を自覚し始めている部分も見受けられることなども考慮すべきである。 3 以上により,主文のとおり量刑した。 (求刑懲役7年)平成27年6月3日神戸地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官佐茂剛 - 6 - 裁判官空閑直樹 裁判官若林貴子
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