主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2⑴ 被控訴人は、控訴人に対し、55万円及びこれに対する令和2年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 控訴人のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを4分し、その3を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 4 この判決は、第2項⑴に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、220万円及びこれに対する令和2年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等(以下、理由説示部分も含め、原則として、原判決の略称をそのまま用いる。) 1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が、ソーシャルネットワークサービスであるツイッターに他のユーザーの投稿したツイートに関して、「いいね」のボタンをタップ又はクリックしたことにより、控訴人の名誉感情を侵害したと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金220万円及びこれに対する不法行為の後である令和2年2月21日から支払済みまで民法(平成29 年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が、これを不服として控訴した。 2 前提事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり原判決を補 正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1及び2に記載のとおりで あるから、これを引用する。 ⑴ 原判決4頁25行目の「平成28年6月29日」 張は、次のとおり原判決を補 正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1及び2に記載のとおりで あるから、これを引用する。 ⑴ 原判決4頁25行目の「平成28年6月29日」を「平成30年6月29日」と、5頁12行目の「平成28年7月1日」を「平成30年7月1日」とそれぞれ改める。 ⑵ 原判決別紙2-Bの「E【22】」欄の「貴女」を「貴方」と改める。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(本件各押下行為の不法行為該当性)について⑴ 人の名誉感情を侵害する行為は、それが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合には、その人の人格的利益を侵害するものとして不法行為が成立すると解するのが相当である。 そこで、この観点から、本件各押下行為が控訴人に対する不法行為となるか否かを検討する。 ⑵ 「いいね」を押すことの一般的な理解について原判決10頁15行目から12頁2行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ただし、原判決11頁24行目から12頁2行目までを次のとおり改める。 「ウそうすると、「いいね」を押す行為は、その行為をした者の実際の意図ないし目的はともかく、その行為をした者が当該対象ツイートに関して好意的・肯定的な感情を示したものと一般的に理解されているということができる。」 ⑶ 本件各押下行為は控訴人の名誉感情を侵害するものであるか否かについてア 「いいね」を押した目的の認定方法について「いいね」を押す行為は、その行為をした者が当該対象ツイートに関する好意的・肯定的な感情を示したものと一般的に理解されているとしても、前記第2の2(原判決の前提事実⑴イ)のとおり、ツイッターにおける いいね」を押す行為は、その行為をした者が当該対象ツイートに関する好意的・肯定的な感情を示したものと一般的に理解されているとしても、前記第2の2(原判決の前提事実⑴イ)のとおり、ツイッターにおける「い いね」ボタンは、押すか押さないかの二者択一とされているから、仮に「い いね」が押されたとしても、対象ツイートのどの部分に好意的・肯定的な評価をしているかが当然に明確になるというものではない。また、「いいね」を押すことは、ブックマークとして使用する場合があるなど、対象ツイートに対する好意的・肯定的な評価をするため以外の目的で使用することがあることも認められる。 そうすると、当該「いいね」を押す行為が、対象ツイートに対して好意的・肯定的な感情を示したものと認めることができるか否か、そのように認めることができるとしても、具体的にどの部分に好意的・肯定的な感情を示したものと認めることができるかを判断するためには、対象ツイートの記載内容等から、「いいね」を押すことによって対象ツイートのどの部分に好意 的・肯定的な評価をしていると理解することができるかを検討する必要があるし、また、「いいね」を押した者と対象ツイートで取り上げられた者との関係や「いいね」が押されるまでの経緯も検討する必要がある。 イ本件各押下行為が控訴人の名誉感情を侵害するものか否かについて 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人が本件各押下行為を するに至る経緯は、次のとおりである。 a 被控訴人は、平成30年3月頃、インターネットで放送された「日本の病巣を切る」という番組に出演した。その中で、出演者の一人である漫画家が控訴人を面白おかしく取り上げたイラスト画(画中には「枕営業大失敗」と大きく記載され 3月頃、インターネットで放送された「日本の病巣を切る」という番組に出演した。その中で、出演者の一人である漫画家が控訴人を面白おかしく取り上げたイラスト画(画中には「枕営業大失敗」と大きく記載されている。)を披露したが、被控訴人は、こ れを題材に、他の出演者らと共に控訴人を揶揄した(甲19の1・2)。 b イギリスのBBC放送は、同年6月28日、控訴人の本件性被害を取り上げた「Japan’ssecretshame」(日本の秘められた恥)という番組を、イギリス国内で放送した。その番組で、被控訴人は、「彼女(控訴人のこと)の場合は明らかに女としても落ち度がありますよね。」、 「Aさんがああいう記者会見を行って、ああいう嘘の主張をしたがた めにですね、BさんやBさんの家族には、「死ね」とかいっていうような誹謗中傷のメールとか電話とかが殺到したわけですよ。」などと、控訴人を批判するとともに、Bを擁護する発言をした(甲3)。 c 被控訴人は、同月29日、被控訴人ツイート1をした。その後、同月30日から同年7月12日にかけて、本件対象ツイート1ないし5が された(原判決の前提事実(以下、単に「前提事実」という。)⑷ア)。 d 被控訴人は、同年6月30日、自身のブログで、上記bのBBC放送の番組を取り上げ、「A氏のこの事件が、それらの理不尽な、被害者に全く落ち度がない強姦事件と同列に並べられていることに女性として怒りを感じます。」と投稿して、控訴人を非難した(甲20の1・2)。 また、被控訴人は、同日、ツイッターで、上記ブログ記事の全体(甲20の2)を引用した上、上記投稿と同趣旨の投稿をした(甲21)。 e 被控訴人は、同年7月16日、被控訴人ツイート2をした また、被控訴人は、同日、ツイッターで、上記ブログ記事の全体(甲20の2)を引用した上、上記投稿と同趣旨の投稿をした(甲21)。 e 被控訴人は、同年7月16日、被控訴人ツイート2をした。その後、同日から翌17日にかけて、本件対象ツイート6ないし25がされた(前提事実⑷イ)。 f 被控訴人は、同年6月30日頃から同年7月17日頃にかけて、本件対象ツイートに対し、本件各押下行為をした。 a 本件対象ツイートは、前提事実⑷のとおり、いずれも、控訴人が本件性被害を受けたと主張することについて、控訴人や控訴人を擁護するツイートをした「C」を批判するものであり、本件対象ツイート2及び 24以外には、控訴人らを批判する内容以外の記述はない。 本件対象ツイート2には、「男もロクでないよ。」と相手方の男性を批判する部分もあるが、同ツイート(全部で130数文字)のごくわずかを占めるにすぎず、その大半は控訴人を批判するものであって、本件対象ツイート2の主眼がそこにあることは明らかである。 また、本件対象ツイート24には、「B氏がやった行為を擁護するつ もりは無く」との記載があるが、これに続く「Aさんが嘘をついて日本を貶めている事を責めているだけ」との記載などに照らせば、本件対象ツイート24の目的が控訴人を批判することにあるのは明らかである。 b 本件対象ツイートの具体的な内容を見ると、「顔を出して告発する時点で胡散臭い・・同情で国を貶め、それを飯のタネにしたいという意図 が見えて賛同できません。」(本件対象ツイート1)、「最初っから今まで自分の私利私欲。自分から危ないとこに飛び込んでってんの。・・この女のやってる事は・・自己中の延長だよ」(本件対象ツ う意図 が見えて賛同できません。」(本件対象ツイート1)、「最初っから今まで自分の私利私欲。自分から危ないとこに飛び込んでってんの。・・この女のやってる事は・・自己中の延長だよ」(本件対象ツイート2)、「自称♯Aは、そもそもレイプの事実関係が怪しすぎる。」(本件対象ツイート3)、「彼女がハニートラップを仕掛けて、結果が伴わなかっ たから被害者として考え変えて」(本件対象ツイート4)、「枕営業の失敗ですよね。」(本件対象ツイート5)、「言ってる事の整合性がなく、被害妄想?を疑いましたよ。売名行為なのかな?」(本件対象ツイート6)、「Aおばさんは、薬を盛られたくせにホテルで泥酔・・自分の望みが叶わないと相手をレイプ魔呼ばわりした卑怯者。そして、貴女 は、それを知りながらDさんに因縁をつける最低の人間。」(本件対象ツイート7)、「ニコニコ顔で自分のレイプ体験語るヤツが被害者って変だと思わないかなぁ!?」(本件対象ツイート8)、「被害者ぶるのもいい加減にして下さい。」(本件対象ツイート9)、「Aさんの行動が招いた結果でOKだね(笑)」(本件対象ツイート10)、「お前は 本当のキチガイか?・・この屑野郎!」(本件対象ツイート11)、「クレーまであり、キチガイそのものだろ!!どういう育て方を受ければここまでキチガイになれるんだ!?」(本件対象ツイート12)、漫画の女性キャラクターの画像を使って、「誰だよてめーは」、「いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねーぞ」と語らせるもの(本件対象ツイー ト13)、「悪意に騙されやすい、まっすぐでお花畑の方でしょうか。・・ 確信犯のサヨクなら知りませんが。」(本件対象ツイート14)、「見苦しい品性の無い情けない」(本件対象ツイート15)、「こっち来るなよ」(本件対象ツ まっすぐでお花畑の方でしょうか。・・ 確信犯のサヨクなら知りませんが。」(本件対象ツイート14)、「見苦しい品性の無い情けない」(本件対象ツイート15)、「こっち来るなよ」(本件対象ツイート16)、「こいつAが被害者だってマジで思ってんのかな?馬鹿じゃねえの?」(本件対象ツイート17)、「お前はもっと品性ねーよwww」(本件対象ツイート18)、「このCと か言う人、変態やな」(本件対象ツイート19)、「なんだこいつ品性ねぇのはあんただ」(本件対象ツイート20)、「バカの典型文」(本件対象ツイート21)、「貴方の品性のない発言こそ、下劣で不愉快ですよ。」(本件対象ツイート22)、「どう考えてもカネを摑まされた工作員」(本件対象ツイート23)、「Aさんが嘘をついて日本を貶め ている事を責めているだけ」(本件対象ツイート24)、「ジャーナリストになる為のコネを作ろうとホテルに行ったのに、上手くいかなかったと分かるとレイプされたと虚言を吐き始めたのです。」(本件対象ツイート25)などといったものである。 本件対象ツイートのこれらの内容は、理を説いて控訴人や控訴人を 擁護するツイートをした「C」を批判するなどといったものではなく、総じて、さしたる根拠もなく控訴人が本件性被害を受けたとの事実を否定した上で、控訴人らを揶揄、中傷し、あるいは控訴人らの人格を貶めようとするものであって、控訴人らを侮辱するものであるから、控訴人らの名誉感情を侵害するものと認められる。 被控訴人は、原判決別紙1のうちの「その他被告が「いいね」を押したツイート」欄記載のとおり、本件対象ツイート以外にも、控訴人や「C」を批判、中傷する33件のツイートについても「いいね」を押している(甲26)。 うちの「その他被告が「いいね」を押したツイート」欄記載のとおり、本件対象ツイート以外にも、控訴人や「C」を批判、中傷する33件のツイートについても「いいね」を押している(甲26)。 他方で、被控訴人は、被控訴人ツイート1及び2に対して批判的なCツ イート1及び2はもとより、本件各押下行為がされた頃に「C」以外のユ ーザーから投稿された被控訴人に批判的なツイートについては「いいね」を押していない(甲28)。 以上で検討したとおり、本件対象ツイートは、いずれも、控訴人や控訴人を擁護するツイートをした「C」を揶揄、中傷し、あるいは控訴人らの人格を貶めるものである。そして、被控訴人は、インターネットで放送さ れた番組やBBC放送の番組の中で、更には自身のブログやツイッターに投稿したツイートで、本件性被害に関し、控訴人を揶揄したり、控訴人には落ち度があるとか、控訴人は嘘の主張をしていると批判したり、本件性被害が被害者に全く落ち度のない強姦事件と同列視されていることに怒りを感じると控訴人を非難する発言や投稿を繰り返していたところ、 被控訴人ツイート1及び2を契機に本件対象ツイートがされるや、「いいね」を押した(本件各押下行為)ものである。また、被控訴人は、本件対象ツイートのほかにも、控訴人や「C」を批判、中傷するする多数のツイートについて「いいね」を押している一方で、被控訴人に批判的なツイートについては「いいね」を押していなかった。 これらの事実に照らせば、本件各押下行為は、控訴人や「C」を侮辱する内容の本件対象ツイートに好意的・肯定的な感情を示すために行われたものであることが優に認められる。同時に、控訴人に対する揶揄や批判等を繰り返してきた被控訴人が控訴人らを侮辱する内容 「C」を侮辱する内容の本件対象ツイートに好意的・肯定的な感情を示すために行われたものであることが優に認められる。同時に、控訴人に対する揶揄や批判等を繰り返してきた被控訴人が控訴人らを侮辱する内容の本件対象ツイートに賛意を示すことは、控訴人の名誉感情を侵害するものと認めるこ とができる(なお、本件対象ツイートの中には、控訴人を直接侮辱するのではなく、「C」を侮辱する内容のものもあるが、上記の事実経過に照らせば、控訴人を擁護する「C」を侮辱するツイートに「いいね」を押して賛意を示すことも、控訴人の名誉感情を侵害するものというべきである。)。 なお、原判決別紙1のうちの「その他被告が「いいね」を押したツイー ト」欄に記載されたツイートの中には必ずしも侮辱的とはいい難いものも含まれているが、このことは上記の認定を左右するものではない。 以上のとおり、被控訴人は、本件各押下行為により、控訴人の名誉感情を侵害したものである。 ⑷ 本件各押下行為は社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるか否 かについて本件各押下行為は、合計25回と多数回に及んでいる。また、このことに加え、被控訴人は、本件各押下行為をするまでにも控訴人に対する揶揄や批判等を繰り返していたことなどに照らせば、被控訴人は、単なる故意にとどまらず、控訴人の名誉感情を害する意図をもって、本件各押下行為を行ったものと認 められる。すなわち、一般的には、「いいね」を押す行為は、その行為をした者が当該対象ツイッターに関して好意的・肯定的な感情を示すものにとどまるとしても、被控訴人は、上記1⑶イbのような控訴人らを侮辱する内容の本件対象ツイートを利用して、積極的に控訴人の名誉感情を害する意図の下に本件各押下行為を 好意的・肯定的な感情を示すものにとどまるとしても、被控訴人は、上記1⑶イbのような控訴人らを侮辱する内容の本件対象ツイートを利用して、積極的に控訴人の名誉感情を害する意図の下に本件各押下行為を行ったものというべきである。 さらに、本件各押下行為は、約11万人ものフォロワーを擁する被控訴人のツイッターで行われたものである上(甲14)、被控訴人は国会議員であり。 その発言等には一般人とは容易に比較し得ない影響力があるところ、このことは本件各押下行為についても同様と認められる。 これらの事情に照らすと、本件各押下行為は、社会通念上許される限度を超 える侮辱行為であると認めることができるから、控訴人の名誉感情を違法に侵害するものとして、控訴人に対する不法行為を構成する。 2 争点⑵(損害)について⑴ 本件対象ツイートの内容は、前記1⑶イbのとおり、控訴人や「C」を揶揄、中傷し、あるいは控訴人らの人格を貶めようとするものである。そして、 被控訴人は、前記1⑷のとおり、本件対象ツイートを利用して、加害の意図を もって本件各押下行為を行った。しかも、本件対象ツイートは、元はといえば、被控訴人のした控訴人を批判ないし揶揄する被控訴人ツイート1及び2を契機として、これに触発されて投稿されたものである。 また、本件各押下行為は、合計25回と多数回に及んでいる上、約11万人ものフォロワーを擁する被控訴人のツイッターで行われたものであるから、 不特定多数の者が本件各押下行為がされたことを認識し得る状況にある。そして、被控訴人は国会議員であるから、前記1⑷のとおり、本件各押下行為による影響は大きいものと認められる。 これらの事情に照らすと、本件各押下行為によって名誉感情が侵害された 況にある。そして、被控訴人は国会議員であるから、前記1⑷のとおり、本件各押下行為による影響は大きいものと認められる。 これらの事情に照らすと、本件各押下行為によって名誉感情が侵害されたことによる控訴人の精神的苦痛は軽視し得ないものというべきである。この ほか、本件に現れた一切の事情を考慮すると、控訴人が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は50万円とするのが相当である。 ⑵ 被控訴人の不法行為と相当因果関係のある損害である弁護士費用は、5万円が相当である。 したがって、被控訴人が控訴人に対して支払うべき損害金は、合計55万円 となる。 3 よって、控訴人の請求は、損害金55万円及びこれに対する不法行為後の令和2年2月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であって、本件控訴の一部は理由があ るから、原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部 裁判長裁判官石井浩 裁判官塚原聡 裁判官飯畑勝之
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