平成13(ネ)3048 謝罪広告等請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成13年10月17日 東京高等裁判所
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判決文本文13,546 文字)

(原審・東京地方裁判所平成12年(ワ)第25338号謝罪広告等請求事件(原審言渡日平成13年5月22日)) 主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は控訴人に対し、200万円及びこれに対する平成12年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は第1、2審を通じてこれを50分し、その1を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。 5 この判決の主文第2項は仮に執行することができる。 事実 第1 当事者の求める裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は控訴人に対し、日本経済新聞全国版朝刊に原判決別紙謝罪広告文案記載の謝罪広告を同別紙記載の条件で1回掲載せよ。 (3) 被控訴人は控訴人に対し、1億円及びこれに対する平成12年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払らえ。 (4) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人本件控訴を棄却する。 第2 当事者の主張次のとおり付け加えるほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。 1 控訴人の補充主張(1) 摘示事実とその具体性名誉及び信用の毀損を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求において、摘示される事実の具体性や特定性はその成立要件ではない。ダウレポートは証券投資の専門誌として投資家に対し株式売買の決断基礎となる情報を提供しており、本件記事を信じて株式売買を行った投資家が多数存在することは疑いがない。本件記事は個別の銘柄の売りの材料となる虚偽の事実を摘示して売りを推奨しているもので、十分な具体性を有している。 (2) 控訴人の損害等控訴人は資本金304億77 することは疑いがない。本件記事は個別の銘柄の売りの材料となる虚偽の事実を摘示して売りを推奨しているもので、十分な具体性を有している。 (2) 控訴人の損害等控訴人は資本金304億7790万円、従業員数3433名、平成12年3月期の営業利益1922億円余り、純利益1135億円余りの会社であり、平成10年12月に東証一部に上場していた。本件記事は控訴人に資本金、営業利益及び純利益をはるかに上回る2800億円もの巨額の損失が生じたとするものである。ダウレポートの影響力は強力で、投資家はこれに掲載される数行の記事・情報に敏感に反応して企業価値を判断し株の売買を行う。控訴人は上場後間がなく確固たる信用及び地位を保持するに至っておらず、このような控訴人にとって本件記事は経営危機に陥っていると報じられたも同然であり、真実でない限り掲載は許されない。 また、本件記事の前後に控訴人に関し複数の虚偽の風説が流布された。①平成12年10月30日の別冊宝島、②同年11月1日の財界展望及び③同月29日のベルダの記事がそれである。他方、控訴人の株価は上場後1万1000円台を中心に概ね堅調に推移していたが、同年11月から急落し、同月10日に9990円、17日に8450円、20日に7450円、21日に6450円、22日に5650円と日毎に1000円近く下落し、その間の取引出来高も急増している。これらの原因は上記各記事以外には見当たらず、経験則上も本件記事は株価下落に影響しているというべきである。 上場企業の株価は企業価値の反映であり、控訴人は本件記事により信用を低下させられ深刻な打撃を受けている。控訴人はメインバンクを持たない経営方針を採り、外国銀行からの融資及び社債の発行等によって資金調達をしている。外国銀行は融資先の株価を非常に重視する により信用を低下させられ深刻な打撃を受けている。控訴人はメインバンクを持たない経営方針を採り、外国銀行からの融資及び社債の発行等によって資金調達をしている。外国銀行は融資先の株価を非常に重視するから、株価の下落により融資利率が高くなって資金調達コストが上昇するだけではなく、融資を受けられなくなることさえあり、社債も発行が困難となり、あるいは高利率とせざるを得なくなる。控訴人は本件記事に起因して従業員が株主からの電話への対応等に忙殺され、専務取締役の海外出張やPWCへの特別調査依頼を余儀なくされた。 (3) 共同不法行為(当審における主張)本件記事及び(2)①ないし③の記事の報道内容はいずれも事実無根であり、これらは客観的に関連共同し社会観念上一体のものとして控訴人の株価の急落とその後の低迷に影響を与えている。したがって、被控訴人は①ないし③の記事による報道をした各会社と共同不法行為責任を負う。 2 被控訴人の補充主張控訴人の主張はいずれも否認し争う。 被控訴人は弱小な会社であり、ダウレポートは小口投資家である300名足らずの会員に配付されているにすぎない。本件記事によって会員でもない大口投資家が影響を受け株価の大変動を引き起こすようなカラ売りをすることはあり得ず、本件記事及び控訴人主張の他の雑誌の記事は株価下落と無関係である。控訴人の株価下落は海外大口投資家による影響と思われるが、本訴請求はこのような真の下落原因を隠蔽するためのものである。 第3 証拠関係本件訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。 理由 第1 事実認定争いのない事実並びに証拠(甲1、2、3の1ないし4、甲4、6ないし14、16、17、乙4の1、乙5、6及び7の各1ないし3)及び弁論の を引用する。 理由 第1 事実認定争いのない事実並びに証拠(甲1、2、3の1ないし4、甲4、6ないし14、16、17、乙4の1、乙5、6及び7の各1ないし3)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。 1 控訴人と被控訴人及びダウレポート控訴人は現在の控訴人代表取締役が昭和41年に創業した金融業者であり、その後法人化され、現在は消費者金融業等を目的とする資本の額304億7790万円、従業員数3433名の株式会社であり(ただし、商業登記上の会社成立の日は昭和26年3月14日とされている。)、香港に子会社がある。控訴人の平成12年3月期の営業利益は1922億円余、純利益は1135億円余、平成13年3月期の営業利益は2193億円余、純利益は1276億円余であり、同期の営業貸付残高は1兆6450億円余、口座数は290万余(いずれも前期より増加)であって業界最大手の会社とされている。控訴人は平成10年12月に東京証券取引所第1部に上場しており、また、いわゆるメインバンクを持たない経営方針を採り、外国銀行からの融資及び社債の発行等によって資金を調達している。 被控訴人は昭和61年に設立された株式会社で投資顧問業者であり、投資顧問契約を締結した顧客(会員)に対し「ダウレポート」という情報紙を配付している。ダウレポートの発行部数は公称600部とされているが、被控訴人の実際の会員数は約300名である。 (甲14、乙6及び7の各1ないし3) 2 本件記事の内容等被控訴人が平成12年11月18日(土曜日)付けで発行したダウレポート1461号(本件レポート)には本文が4頁にわたって記載されている。 5頁目の冒頭には「実践投資のヒント」として、「この頁は単なるアフタケアではなく、弊社独自の調査網 付けで発行したダウレポート1461号(本件レポート)には本文が4頁にわたって記載されている。 5頁目の冒頭には「実践投資のヒント」として、「この頁は単なるアフタケアではなく、弊社独自の調査網が捉えたナマの情報を、さらに5本線のフルイにかけ厳選したもので、売買両面にわたり即座に反応を示す、打てば響く投資のヒントです。短い行間に情熱を込めて作り上げております。どうぞ推奨株と同様の感覚で深甚のご注目を賜り、お好みに合わせて実践投資にお役立て下さるよう、お願い申し上げます。」と記載され、次いで「アフタケア」として6社に関する記事がある。そして同頁の末尾近くに「カラ売りコーナー」と題して本件記事が4行にわたって掲載されており、その文面は「武富士 ☆(東証一部貸借銘柄コード№8564 時価8,450円) 先にカラ売りで推奨した「ダイエー」の感覚で捉えて頂きたい銘柄です。事情筋によれば、香港で2,800億円規模の穴をあけた模様であります。 週明け中途半端な買い戻しが入るようなら、売り乗せのチャンスです。9,140円絡みに売り上がって下さい。」というものである。(甲1) 3 他の雑誌等の記事控訴人に関し、本件記事に前後して雑誌等に概略次のような記事が掲載された。 (1) 同年10月30日発売の別冊宝島(同年11月30日発行)の記事(甲11)大正生命保険から計85億円を騙し取ったして東京地検特捜部が同年8月28日に逮捕した投資会社のA社長(以下「A」という。)の最大の金主は消費者金融会社T社だった。「Aの事件はある大口の金主から融資を引き上げられ、資金ショートしかかったため苦し紛れに詐欺行為を働いたというのが真相。金主はAをダミーにネット株暴騰を仕掛けていたようだが結果は大損で、Aには任せられないということになった。」、「T社はメ 上げられ、資金ショートしかかったため苦し紛れに詐欺行為を働いたというのが真相。金主はAをダミーにネット株暴騰を仕掛けていたようだが結果は大損で、Aには任せられないということになった。」、「T社はメインバンクを持たず主に外国銀行からの融資や社債発行などで資金を調達しているため、自社の株価を高値維持しておかなければならない。外銀などは株価だけで融資を判断するといってよいが、本業の方は貸し倒れの急増で儲けは多くなく、実態を正直に決算報告すればどこも融資してくれないおそれがある。」(「 」内は全国紙社会部記者の言)。そのため粉飾まがいの決算をする一方、A傘下の投資顧問会社に運用資金を預け、自社株買いをやらせていたようだという。その額約150億円。 (2) 同年11月1日発売の財界展望(同年12月号)の記事(甲12)希代の詐欺師Aはその金主が放った暴力団の殺し屋から逃れるため詐欺に走ったという情報がある。メインバンクがないことで知られるノンバンクは系列企業が保有する自社株を担保に銀行等から資金を借り入れていたため、同社の経営にとっては自社の株価が高くないと資金繰りが追いつかない。このため同社はAに資金を提供して自社株を高騰させる謀略を画策し、Aはこれを受けて株価吊り上げを試みたが、資本金の大きい同社の株価は上がらなかった。激怒した同社の経営者はAに資金返済を迫ったが返済不能であったため、同社は関係の深い広域暴力団を使ってAを脅迫し、生命の危険にさらされたAはせっぱ詰まって偽造証券で大正生命保険を騙しノンバンクへの返済に充てたという。 (3) 同年11月月29日のベルダ(同年12月号)の記事(甲13)風説に晒された武富士の因果。消費者金融のトップ武富士が株価の急落に見舞われている。武富士は、①A絡みの損失が発表された以外に ) 同年11月月29日のベルダ(同年12月号)の記事(甲13)風説に晒された武富士の因果。消費者金融のトップ武富士が株価の急落に見舞われている。武富士は、①A絡みの損失が発表された以外にもある、②Aに対しヤクザを使って資金の返還を求めた、③自社株を吊り上げるためAに資金提供を申し出た、④破綻した千代田生命との取引で損失が生じた、⑤香港で2800億円の損失が発生したという市場の噂を、根も葉もない風説であるとして否定する。大手証券幹部は「メインバンクがないため武富士は常に資金繰りが逼迫しているのではないかという印象がつきまとい、リスクの高い運用話に乗りやすいという連想が働いてしまう。」と指摘する。武富士がテラネット(消費者金融業界が蓄積してきた顧客情報を銀行など異業種にも開放する構想)に反対しているのも、ローン債権を複数の銀行に重複して担保に提供していることがばれてしまうからであろうとの風説が流れたことで、売りが加速した面があると証券関係者は証言する。武富士は外資などから積極的に資金調達を図ってきており、6年前に関連会社を介してバンカース・トラスト銀行から10億ドル(当時の為替レートで1200億円)を調達したが、これをアレンジした金融ブローカーに巨額のコミッションを払っていると関係者は証言する。武富士を巡ってはこれまでにも大蔵省OBへの未公開株譲渡や京都の土地の地上げに絡んだトラブル、暴力団系右翼団体との訴訟騒ぎなどがあり、今回の株価急落は、悪質な風説が原因だったにせよ、こうした武富士の企業体質に対する懸念が投資家の間に根強く残っていることを示しているといえよう。 (4) 日本経済新聞の記事日本経済新聞は、同年11月3日に「武富士は、Aが資産運用を指揮する投資顧問会社から購入していた架空金融商品の購入に伴う損失39億 とを示しているといえよう。 (4) 日本経済新聞の記事日本経済新聞は、同年11月3日に「武富士は、Aが資産運用を指揮する投資顧問会社から購入していた架空金融商品の購入に伴う損失39億円程度を計上すると発表した。」旨の記事、同月22日に「21日の東京株式市場で武富士が11日連続で下落。市場で「アジアでの投資で巨額の損失が出た」「Aとの取引で損失が出た」といった噂が広がったのが株価急落の背景。同社は午前中に説明会を開き噂を全面否定したが、午後になっても売り気配のまま推移した。説明会に出席した外国証券のアナリストは「いったん離れた投資家に対して魅力を回復するのは簡単ではない」と話していた。武富士は3月末の外国人持ち株比率が26.7%と高く、外国人投資家からの見切り的な売りも続いているようだ。」とする記事をそれぞれ掲載した。(乙4の1、乙5) 4 控訴人の対応等本件記事が掲載された後の控訴人の対応等は次のとおりである。 (1) 本件レポートが配付された後の同月20日、インターネットのウェブサイトの一つであるヤフーの掲示板に本件記事に関する情報が掲載された。その内容(概略)は「今回の下げの原因はダウレポートという会員向け投資情報紙?で11/18に売り推奨をだしたためだと思う。内容は香港で2800億円規模の損失がでた模様とか。真偽のほどは定かでない。」、「ベテランの投資家は朝一から大幅に空売りを掛けていた。貴方の情報が本当で2800億円の損失が事実なら5000円台突入でしょうか?」、「よければどこからの情報か教えて下さい。先日からこの株についてはいろんな情報が飛んでますので、情報源が明確でないと…。先日は生保の売りで、先ほどは2800億円の香港での損失との情報が飛んでました。」、「手口みると野村は金曜日から大口で買ってるね。 の株についてはいろんな情報が飛んでますので、情報源が明確でないと…。先日は生保の売りで、先ほどは2800億円の香港での損失との情報が飛んでました。」、「手口みると野村は金曜日から大口で買ってるね。今日の最後のS安の14時20分以降は100~500株といった小口売りが積み上がっていった感じで、香港の件の噂を目にした個人の狼狽売りが大勢を占めているんじゃないかな?…香港での2800億の損失の噂については、全くのデマで証券取引等監視委員会が風説の流布で動き出すよ。」といったものであった。また、同日から同月22日にかけて、控訴人に対し、ヤフーの掲示板に控訴人が香港で2800億円もの巨額損失が発生したらしいと出ているが本当か、ここ数日来株価が急落しているがそれが原因か、2800億円の損失情報によって株価が下落したといった多数の問い合わせや苦情の電話があり、これに対応した総務課長等は事実無根であることを繰り返し説明した。 (2) 控訴人は同年12月1日にPWCに対し、①Aに関連した新たな損失が生じているのではないか、②特定金外信託を利用して自社株を購入しているのではないか、③千代田生命の基金出資や劣後債購入等で損失が発生しているのではないか、④香港において2800億円の損失が発生しているのではないかという4項目についての特別調査(本件調査)を依頼した。本件調査に当たって控訴人はPWCに対し経営者の言明書を提出し、上記④につき、「同月31日現在控訴人の香港の2子会社が保有する株式投資及び債券投資の時価は子会社の同日現在の財務諸表に計上された投資の価額を総額で下回っていない。…同日終了した事業年度について子会社から報告された株式投資及び債券投資による実現損失及び未実現損失の合計額は約700万米ドルである。」旨の言明がされている。PWCは控訴人に対し で下回っていない。…同日終了した事業年度について子会社から報告された株式投資及び債券投資による実現損失及び未実現損失の合計額は約700万米ドルである。」旨の言明がされている。PWCは控訴人に対し、「私どもの意見では、上述の経営者の言明は、言明書に記載された測定基準に基づき、すべての重要な点において適正に提示されている。」とする平成13年3月20日付け独立監査法人の報告書を控訴人に提出した。控訴人は同月22日付けで「PWCの調査結果は「風説」を否定する当社の主張を支持」等と記載した文書を配布した。なお、控訴人は同年2月5日に本件調査の費用等として1億1000万円をPWCに支払うことを決めた。(甲3の1ないし4、甲4、6ないし9) 5 控訴人の株価等控訴人の株価(終値)の推移等は概ね次のとおりである。 (1) 控訴人の株価は、平成11年4月30日には9900円であったが、同年5月31日に1万1230円、6月30日に1万2510円、7月30日に1万3770円、8月31日に1万7610円、9月30日に1万7730円、10月29日に1万3500円、11月30日に1万4600円、12月30日に1万2790円、平成12年1月31日に1万2800円、2月29日に1万4350円、3月31日に1万1000円、4月28日に1万1430円、5月31日に1万1400円、6月30日に1万2810円、7月30日に1万1000円、8月31日に1万0490円、9月29日に1万1900円、10月31日に1万0800円、11月6日に1万1660円(同月の高値)であり、平成11年5月末ころ以降ほとんど1万1000円台を割ることなく推移していた。 しかし、控訴人の株価は平成12年11月10日に9990円と約16か月ぶりに1万円を割り、同月13日に9410円、17 11年5月末ころ以降ほとんど1万1000円台を割ることなく推移していた。 しかし、控訴人の株価は平成12年11月10日に9990円と約16か月ぶりに1万円を割り、同月13日に9410円、17日に8450円と下落し、本件記事が掲載された後の初取引日である同月20日に7450円、21日に6450円、22日に5650円(同月の安値)と続落した。その後、同月24日に6650円としてからやや持ち直したものの、同月30日に6580円、同年12月1日に7200円、14日に7710円(同月の高値)、29日に7200円であった。 (2) また、取引出来高は、平成12年10月中は1取引日に2、3十万株で推移していたが、同年11月8日ころからは1取引日50万株前後となり、同月20日には100万株を超え、同月22日に273万株余、同月27日に130万株程度が取引され、その後もしばらく50万株前後の取引が続いた。(甲2、16)第2 判断 1 不法行為の成否(1) 判断基準報道等の記事による名誉あるいは信用の毀損の有無を検討する場合、当該記事についての一般読者の普通の注意と読み方を基準にこれを判断すべきであると考えられる。 そしてダウレポートは上記のとおり投資顧問業者である被控訴人がその会員(顧客)に対して配付しているものであり、読者は会員を中心とする投資家にほぼ限定されるものと考えられる。したがって、本件記事による名誉あるいは信用の毀損を検討するに当たっては、このような投資家の普通の注意と読み方を基準に検討するのが相当である。 (2) 本件記事についての評価等本件記事は、これを読む上記投資家の普通の注意と読み方を基準とすれば、控訴人において香港における取引により2800億円 方を基準に検討するのが相当である。 (2) 本件記事についての評価等本件記事は、これを読む上記投資家の普通の注意と読み方を基準とすれば、控訴人において香港における取引により2800億円規模の損失が発生したとの印象を受けるものということができる。 ところで、本件レポートは本文わずか4頁の小冊子であり、その体裁、発行部数等からして信用性や影響力においてさほど重視すべきほどのものではないのではないかとの疑念を抱かせるものであることに加え、本件記事は3行にすぎず上記損失がいつ、どのような取引に関して生じたのか等についてはなんら具体的にこれを特定していないため、投資家が本件記事を信憑性の高い情報であると判断するかどうかについては疑問がある。しかし、被控訴人の会員は約300名でダウレポートの発行部数も公称600部にすぎないものの、それが証券業界を中心に回読され、掲載された情報が流布あるいは伝播される範囲は発行部数以上に広いということができる(被控訴人はダウレポートが回読されその情報の伝播力が相当程度に強く、本件記事が投資家に与える影響が強いことを明らかに争っておらず、甲5によってもダウレポートに上記のような影響力があることが認められる。)。また控訴人が香港に子会社を有していることは前記認定のとおりであり、被控訴人は投資顧問業者であって、本件レポートに掲載された記事を「独自の調査網が捉えたナマの情報」とし、本件記事においても「事情筋によれば」とすることにより信憑性があることを強調していること、上記認定のとおり同月20日以降ヤフーの掲示板に本件記事に関する本件情報が掲載され、控訴人にも多数の問い合わせや苦情の電話があったこと、具体的な影響を数量的に判断することはできないものの本件記事が掲載された後も控訴人の株価が下落したことが認めら 件記事に関する本件情報が掲載され、控訴人にも多数の問い合わせや苦情の電話があったこと、具体的な影響を数量的に判断することはできないものの本件記事が掲載された後も控訴人の株価が下落したことが認められるのである。これらの事実によると、投資家は本件記事を全く根拠のないものとは判断しなかったものと考えられ、本件記事が投資家に上記のような印象を与えたことを否定することはできない。 控訴人が香港における取引により2800億円規模の損失を被ったことが真実であると認めるべき証拠はない。なお、控訴人の香港の子会社2社において平成12年12月31日までの事業年度について実現損失及び未実現損失を合わせて700万米ドル(約800億円)が報告されたことは認められるものの、これらと上記2800億円の損失とは金額も大きく相違しており、700万米ドルの損失の存在により本件記事の真実性が証明されたということはできない。 そして控訴人は東京証券取引所に上場してからまだ日が浅い上、控訴人の株価は同年11月10日以降続落状況にあったことからすると、本件記事が掲載された当時控訴人の信用の基盤は強固なものであったということはできない。このような控訴人にとって、資本の額の約9倍に相当し、しかも平成12年3月期の営業利益額及び純利益額をも遥かに上回る2800億円もの巨額の損失が発生したかのようなきわめて衝撃的な情報がもたらされることによって、投資家に控訴人に対する信用上の不安が生じ、あるいは投資家が既に抱いていた控訴人に対する不安感がより増大することは当然と考えられる。上記認定のとおりヤフーの掲示板に本件記事に関する情報が掲載され、控訴人に問い合わせや苦情の電話があったが、これらはいずれも本件記事の読者及び読者から本件記事の内容となる情報を聞知するなどした者が控訴人の のとおりヤフーの掲示板に本件記事に関する情報が掲載され、控訴人に問い合わせや苦情の電話があったが、これらはいずれも本件記事の読者及び読者から本件記事の内容となる情報を聞知するなどした者が控訴人の信用に対する不安を生じ又はこれを増大させられた結果の行為であるという側面を有することは否定できないから、これらも本件記事によって控訴人の信用が毀損されたことを徴表するものといって妨げない。 以上によると、本件記事によって控訴人の信用が毀損されたものということができる。 (3) 被控訴人の主張(因果関係等)について上記のとおり本件記事により控訴人の信用が毀損されたと認めるについて、株価下落の事実は重要な憑表と考えられるところ、被控訴人は本件記事と株価下落との間の因果関係を争うので、この点について判断する。 企業の信用に不安が生じ又は不安が増大したことは基本的に株価下落の一要因となるものである。したがって、信用不安情報がありその影響の及ぶ一定の時間内に株価が下落している場合、他に明確な要因が存在するといえるときは別として、その信用不安情報の存在と株価の下落との間には因果関係があると判断して差し支えない。本件記事における情報がこの信用不安情報であるといえること、控訴人の株価が下落していること、この両者が時間的に近接していることは前示のとおりであり、そうすると本件記事と控訴人の株価下落との間には因果関係があるというべきである。 被控訴人は、株価下落の原因として海外の大口投資家による影響を指摘する。確かに、株価は種々の要因によって変動し得るものであり、その変動が直ちに企業の客観的な業績や資産状態等と合致するということはできない。すなわち、株価はいわゆる相場操縦等の違法不正な行為(証券取引法157条以下等)や思惑による取引等 変動し得るものであり、その変動が直ちに企業の客観的な業績や資産状態等と合致するということはできない。すなわち、株価はいわゆる相場操縦等の違法不正な行為(証券取引法157条以下等)や思惑による取引等によっても変動するものであり、大口投資家の動向も株価に影響を与える一つの要因となり得ることは否定できず、現に日本経済新聞の記事もこれを一要因として記載している。また、本件において控訴人の株価がいかなる要因によってどの程度下落したのかについては、これを具体的に確定することはできない。しかし、そのことによって本件記事と控訴人の株価の下落との間に因果関係がないということはできない(日本経済新聞の記事も控訴人の株価の急落の要因として外国投資家の影響等とともにアジアでの巨額の損失の噂も挙げている。)し、本件記事によって控訴人の信用が毀損されることはなかったということもできない。被控訴人の主張は要するにダウレポートの投資家に対する影響力をことさら矮小化しようとするものにすぎず、上記認定判断を覆すに足りるものではない。 (4) 控訴人の共同不法行為の主張に対する判断控訴人は、控訴人に関する他の雑誌の記事の内容(上記第1の3(1)ないし(3))も事実無根であり、被控訴人はこれらの報道をした各会社と共同不法行為責任を負う旨主張する。 これらの雑誌の記事のうち、控訴人がメインバンクをもたない消費者金融会社であり、外国銀行からの融資や社債の発行等によって資金調達をしていたことは、控訴人自身も主張しているところであって、これらは真実であると認めることができる。しかし、記事に記載されたその余の事実(控訴人が上記のような資金調達をしているので株価を高値維持するためにAに資金提供をして株暴騰を仕掛け、粉飾まがいの決算をしていたかのような事実、Aによる きる。しかし、記事に記載されたその余の事実(控訴人が上記のような資金調達をしているので株価を高値維持するためにAに資金提供をして株暴騰を仕掛け、粉飾まがいの決算をしていたかのような事実、Aによる株価吊り上げが奏功しなかったため控訴人がAに資金返済を迫り暴力団を使って同人を脅迫したため、同人が詐欺に至ったかのような事実、控訴人が常に資金繰りに逼迫しており、資金調達のため金融ブローカーに巨額のコミッションを支払ったかのような事実等)は、いずれも真偽が不明というほかない(これらの事実の真偽を判断できる証拠は皆無であるし、上記各社は本件訴訟の当事者ではないからその主張立証もなく上記事実を虚偽であるとすることもできない。)から、上記各社が不法行為責任を負うとすることはできない。したがって、上記各会社と被控訴人が共同不法行為責任を負うとする控訴人の主張は失当である。 2 控訴人の損害(1) 財産的損害等上記のとおり、本件記事により控訴人の信用が毀損されたということができる。しかし、控訴人は本訴において名誉及び信用毀損による不法行為を理由としこれにより被った無形の損害の賠償(慰謝料)を請求するものであって、株価下落による資金調達コストの上昇率等を含め上記信用毀損による財産上の損害については何ら主張をしていない。そして控訴人の従業員の電話への対応等による財産上の損害が多額に上るとは考えられないし、本件調査は上記のとおり本件記事関係のほかの3項目を含むものであって、それに要した費用等を直ちに本件記事による損害とすることもできない。 (2) 損害賠償の額控訴人は、本件訴訟において信用等の毀損により無形の損害を被ったとし、それを回復するための損害賠償として1億円の支払を請求している。 害とすることもできない。 (2) 損害賠償の額控訴人は、本件訴訟において信用等の毀損により無形の損害を被ったとし、それを回復するための損害賠償として1億円の支払を請求している。 前述のように控訴人は本件記事により信用を毀損されたということができ、これは無形の損害ではあるが金銭的評価が可能なものであるから、被控訴人は控訴人が被った損害の賠償として相応の金員の支払義務を負うというべきである。そこで検討すると、前述のとおり、投資家が本件記事を信憑性の高い情報であると判断するかどうかについては疑問があること、株価は種々の要因によって変動し得るものであって、本件記事の影響による株価の下落を数量的に把握することはできないこと、そもそも平成12年11月10日以降下落する前の控訴人の株価が適正なものであったか否か不明であること(上記各雑誌の記事が真実であれば控訴人の株価につき相場操縦がされていたことになる。)、本件記事による情報は基本的に被控訴人の会員あるいはこれと関係のある投資家の範囲でしか流布しない性質のものであって情報の伝播する範囲も限定されていること、控訴人は本件記事が掲載された後の平成13年3月期においても平成12年3月期を上回る利益を上げ、貸付金の残高及び口座数とも前年に比べて増加していること等の事情が認められる。これらの事情を総合すると、本件記事による現実の信用毀損の程度は低いというべきであり、上記損害に対する賠償額は200万円をもって必要かつ十分であるとすべきである。 3 謝罪広告の要否控訴人は本件記事に対しては謝罪広告が必要であるとしている。 しかし、民法723条が名誉毀損(信用毀損も含むものと解される。)における特則として損害賠償のほかに名誉を回復する適当な処分を命じ得ることを規定しているのは、金銭賠 告が必要であるとしている。 しかし、民法723条が名誉毀損(信用毀損も含むものと解される。)における特則として損害賠償のほかに名誉を回復する適当な処分を命じ得ることを規定しているのは、金銭賠償だけでは毀損された名誉の回復を回復できない場合にその処分によって客観的な評価自体の回復を可能にさせるためである。謝罪広告はこの処分の一態様であるが、前述のとおり控訴人に具体的な財産的損害があるとはいえず、しかも非財産的あるいは無形の損害に対する損害賠償も上記のような金銭賠償によって填補され得ないとは考えられず、本件において被控訴人に謝罪広告を命ずべき理由があるとは認められない。したがって、この点に関する控訴人の請求は理由がない。 4 まとめ以上によると、控訴人の請求は不法行為による損害金200万円及びこれに対する不法行為後である平成12年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。 第3 結論よって、これと異なる原判決を取り消すこととし、仮執行宣言につき民事訴訟法310条本文、訴訟費用につき同法67条2項、64条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第17民事部裁判長裁判官新村正人裁判官笠井勝彦裁判官田川直之

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