主文 1 原判決主文第2項を取り消す。 2 被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。 3 被控訴人の本件控訴を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人の控訴の趣旨主文第1,第2項及び第4項と同旨。 2 控訴人の控訴の趣旨に対する被控訴人の答弁控訴人の本件控訴を棄却する。 3 被控訴人の控訴の趣旨(1) 原判決主文第1項を取り消す。 (2) 被控訴人国は,被控訴人に対し,440万円を支払え。 (3) 訴訟費用中,被控訴人に生じた費用の2分の1及び被控訴人国に生じた費用は第1,2審とも,被控訴人国の負担とする。 4 被控訴人の控訴の趣旨に対する被控訴人国の答弁主文第3項と同旨。 第2 事案の概要 1 本件は,日本人女性と婚姻して「日本人の配偶者等」の在留資格で本邦に在留し,同女と離婚した後に難民認定の申請をするとともに難民認定申請中であることを理由に「短期滞在」の在留資格を得たトルコ共和国国籍を有する被控訴人が,法務大臣から難民不認定処分を受け,「短期滞在」の在留資格による在留期間更新許可申請について更新不許可処分を受けたため,これらの処分がいずれも違法であるとして,被控訴人国に対しては合計440万円の国家賠償請求(第1事件)を,法務大臣である控訴人に対しては難民不認定処分の取消請求(第2事件)をそれぞれしている事案である。 原審は,被控訴人の請求のうち,難民不認定処分取消請求(第2事件)については控訴人が難民不認定処分をしたことは違法であるとしてこれを認容したが,国家賠償請求(第1事件)については理由がないとしてこれを棄却したため,控訴人(法務大臣)と被控訴人(第1審原告)の双方が控訴した。 2 前提となる事実(いずれも当事者間に争いがない。 を認容したが,国家賠償請求(第1事件)については理由がないとしてこれを棄却したため,控訴人(法務大臣)と被控訴人(第1審原告)の双方が控訴した。 2 前提となる事実(いずれも当事者間に争いがない。)(1) 被控訴人は,トルコ共和国国籍を有する者であるが,平成7年3月2日,タイ王国バンコクからタイ国際航空機で新東京国際空港に到着し,東京入国管理局(以下「東京入管」という。)成田空港支局入国審査官に対し,渡航目的を「観光」,日本滞在予定期間を「1月」などとして上陸申請をし,同日,同入国審査官から出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)別表第1所定の在留資格を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする上陸許可を受けて本邦に上陸し,同月22日,新東京国際空港からタイ王国バンコクに向け出国した。 (2) 被控訴人は,平成7年11月15日,タイ王国バンコクからタイ国際航空機で新東京国際空港に到着し,東京入管成田空港支局入国審査官に対し,渡航目的を「リサーチ」,日本滞在予定期間を「1月」などとして上陸申請をし,同日,同入国審査官から在留資格を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする上陸許可を受け,本邦に上陸した。 (3) 被控訴人は,平成7年11月29日,神奈川県横須賀市長に対し,日本人であるP1との婚姻の届出をし,同年12月1日,法務大臣に対し,在留資格の変更許可申請を行い,平成8年1月16日,法務大臣から在留資格を「日本人の配偶者等」,在留期間を「6月」とする在留資格変更許可処分を受けた。 (4) その後,被控訴人は,法務大臣に対し,平成8年7月4日,同年12月27日,平成9年7月14日に,それぞれ在留期間の更新許可申請を行い,法務大臣からそれぞれ在留期間更新許可処分を受けた。上記各在留期間更新許可処分に係る在留期間は,平成8年中の申請に対す 同年12月27日,平成9年7月14日に,それぞれ在留期間の更新許可申請を行い,法務大臣からそれぞれ在留期間更新許可処分を受けた。上記各在留期間更新許可処分に係る在留期間は,平成8年中の申請に対するものが各「6月」,平成9年7月の申請に対するものが「1年」であった。 (5) 被控訴人は,平成9年9月29日,P1との協議離婚の届出をし,平成10年7月16日,法務大臣に対し,在留資格を「定住者」に変更する旨の在留資格変更許可申請(以下「第2回在留資格変更許可申請」という。)をするとともに,難民認定申請(以下「本件難民認定申請」という。)をした。 法務大臣は,同年9月14日,第2回在留資格変更許可申請に対し,不許可処分を行い,同日,被控訴人に対してこれを告知した。 被控訴人は,同日,法務大臣に対し,変更の理由を「難民の申請」,在留資格を「短期滞在」とする在留資格変更許可申請をし,法務大臣から在留資格を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする在留資格変更許可処分を受けた。 (6) 被控訴人は,平成10年10月9日,法務大臣に対し,更新の理由を「難民」,在留期間を「90日」とする在留期間更新許可申請(以下「本件更新許可申請」という。)をした。 (7) 法務大臣は,平成10年11月25日,被控訴人の本件難民認定申請は,法61条の2第2項(以下「60日条項」という。)所定の期間を経過してされたものであり,かつ,同項ただし書の規定を適用すべき事情も認められないとして,難民不認定処分(以下「本件不認定処分」という。)をし,同年12月3日,被控訴人に対し,本件不認定処分の告知をするとともに,本件更新許可申請に対しても,これを不許可とする旨の処分(以下「本件更新不許可処分」という。)をし,同日,被控訴人にこれを告知した。 (8) 被控訴人は,平成11年3月2 定処分の告知をするとともに,本件更新許可申請に対しても,これを不許可とする旨の処分(以下「本件更新不許可処分」という。)をし,同日,被控訴人にこれを告知した。 (8) 被控訴人は,平成11年3月2日,本件更新不許可処分の取消しを求める訴え(訴え変更前の第1事件)を提起した。また,本件不認定処分については,平成10年12月7日,法務大臣に対する異議の申出をし,平成11年11月15日,法務大臣から異議の申出に理由がない旨の裁決を受け,平成12年2月4日,同裁決の告知を受けたことから,同年4月7日,本件不認定処分の取消しを求める訴え(第2事件)を提起した。 (9) 法務大臣は,平成14年2月28日,被控訴人に対し,在留特別許可をした。その後,本件更新不許可処分の取消しを求める訴えは,国家賠償を求める訴え(第1事件)に変更された。 第3 争点と争点に関する当事者の主張 1 本件の争点は,法務大臣のした本件不認定処分の適否(争点1)及び法務大臣がした本件更新不許可処分が違法であることを前提とする被控訴人の被控訴人国に対する国家賠償請求の当否(争点2)である。争点に関する当事者の主張の概略は,以下のとおりである。 2 争点1(本件不認定処分の適否)について(1) 被控訴人の主張ア本件不認定処分が違法とされるための要件法61条の2は,その1項において「法務大臣は,本邦にある外国人から法務省令で定める手続により申請があったときは,その提出した資料に基づき,その者が難民である旨の認定を行うことができる。」と定め,その2項において,「前項の申請は,その者が本邦に上陸した日(本邦にある間に難民となる事由が生じた者にあっては,その事実を知った日)から60日以内に行わなければならない。ただし,やむを得ない事情があるときは,この限りでない。」と定めている。そ 邦に上陸した日(本邦にある間に難民となる事由が生じた者にあっては,その事実を知った日)から60日以内に行わなければならない。ただし,やむを得ない事情があるときは,この限りでない。」と定めている。そして,本件不認定処分は,同条2項の規定,すなわち60日条項に違反することを理由としてされたものである。 ところで,60日条項は,難民認定申請をいつまでにすべきかという手続要件を定めたものであって,この要件を欠く申請は不適法と評価されるべきものであるから,手続要件を欠く難民認定申請について,実体要件である難民該当性の判断を行うことは予定されていないものと解すべきである(以下,60日条項が定める要件を「60日要件」といい,難民該当性の要件を「難民要件」という。)。そうだとすると,60日条項違反を理由とする難民不認定処分は,申請が不適法であることを理由とする申請却下処分であるのに対し,難民に該当しないことを理由とする難民不認定処分は,実体要件が具備していないことを理由とする申請棄却処分であると評価すべきことになるから,この両者は,別個の処分と解すべきものである。また,仮に両者が別個の処分であるとまではいえないとしても,60日要件と難民要件との間には,前者を具備しているかどうかの判断が論理的に先行する関係があり,60日要件を満たさないことを理由とする難民不認定処分においては,難民要件該当性については,法務大臣の第1次判断権が全く行使されていないのであるから,その取消訴訟において,難民要件を具備しているかどうかの審理判断まで行うことは,法務大臣の第1次判断権の尊重という観点からも相当ではなく,許されないものというべきである(この点において,いわゆるベンジジン事件に関する最高裁判所平成5年2月16日第2小法廷判決の論理は,本件にも適用されるものという の尊重という観点からも相当ではなく,許されないものというべきである(この点において,いわゆるベンジジン事件に関する最高裁判所平成5年2月16日第2小法廷判決の論理は,本件にも適用されるものというべきである。)。 したがって,60日条項違反を理由とする本件不認定処分の取消訴訟においては,この点に関する法務大臣の判断の適否を審査し,その判断が誤っていれば本件不認定処分を違法とすべきものであって,それに加えて被控訴人が難民に該当するかどうかを審理判断する必要はないし,すべきものでもない。 イ 60日条項違反の有無について(ア) 60日条項の解釈について我が国は,難民の地位に関する条約及び難民の地位に関する議定書(以下,前者を「難民条約」,後者を「難民議定書」といい,両者を併せて「難民条約等」という。)を批准しており,難民を庇護すべき国際的な義務を負っている。法の難民認定に関する規定等は,このような国際的な義務を果たすために制定されたものなのであるから,その解釈に当たっては,難民条約等の定めの趣旨に適合するような解釈が要求されることはいうまでもない。 ところで,難民の意義については,難民条約1条A及び難民議定書1条2項が明確に定めており,難民条約等の締約国は,上記規定の定める難民に該当する者に対しては,庇護をすべき義務を負うのであって,国内法の定めにより,庇護すべき難民の範囲を限定してしまうようなことは許されないものというべきである。難民条約等は,難民認定手続をどのようなものにするかについての定めを置いておらず,各締約国が,各国の実情に応じた手続規定を置くこと(立法裁量)を許容しているものというべきであるが,これは,あくまでも認定「手続」についての立法裁量を許容しているのにすぎず,難民についての実体的要件を変容させることを許容している 続規定を置くこと(立法裁量)を許容しているものというべきであるが,これは,あくまでも認定「手続」についての立法裁量を許容しているのにすぎず,難民についての実体的要件を変容させることを許容しているものではない。そして,この観点から考えると,難民条約上の「難民」に当たる者に対し,難民認定申請についての期間制限を課し,その期間制限に違反した場合には,難民であるにもかかわらず難民認定をしない制度を設けることは,難民認定について,難民該当性以外の要件を課するものであって,国内法の定めにより,庇護すべき難民の範囲を限定することにほかならないから,このような定めが難民条約に違反することは明らかである。なお,期間制限という形式要件に違反した難民に対しては形式要件違反を理由に難民不認定処分をすることが許されるとすると,当該難民は,難民であるにもかかわらず難民認定を受けることができず,最終的には本国に送還されることになるが,この結果は,難民をその本国に送還してはならない旨(ノン・ルフールマン原則)を定める難民条約33条1項に違反することにもなり,この観点からしても,上記のような事態は,難民条約上到底許されるものではない。したがって,60日条項を難民条約に適合させるためには,同条項にいう「やむを得ない事情」を広く解釈し,真の難民が期間制限違反を理由に難民認定を受けられないような事態が生ずることのないようにする必要があるというべきである。 これを,被控訴人のように適法な在留資格を得て本邦に滞在していた者についてみると,難民認定を申請し,第三国での庇護を求めるということは,当該難民にとっては本国と決別することを意味し,相当の覚悟と決断が要求される一方,適法な在留資格を有している者は,難民認定を受けているかどうかにかかわらず,当面,本国に強制送還されて迫害に ことは,当該難民にとっては本国と決別することを意味し,相当の覚悟と決断が要求される一方,適法な在留資格を有している者は,難民認定を受けているかどうかにかかわらず,当面,本国に強制送還されて迫害にさらされるおそれはないから,難民認定を申請して庇護を求める必要性を感じることも少ないのである。したがって,適法な在留資格を得て本邦に滞在している者については,その在留資格が継続している間は,難民認定申請をしなかったとしても,それには無理からぬ事情があったものというべきである。このように,適法な在留資格を得ていた者が,在留資格が継続している間に難民認定申請をした場合や,その在留資格を失った後直ちに難民認定申請をした場合には,当該申請が,申請権の濫用に当たるなど,難民としての保護に値しないと認められる特別な事情がある場合や,実体審査をするまでもなく難民に該当しないことが明らかである場合などを除き,当該難民認定申請者の難民認定制度に関する知識の有無や申請を決意した時期等にかかわらず,入国後60日以内に難民認定申請をしなかったことにつき「やむを得ない事情」があったものと解すべきである。 また,仮に上記のような解釈が認められないとしても,本国にいた当時から迫害を受けていた者が,本邦に入国した後新たな事情が発生したり,新たな証拠を入手した結果,従来有していた迫害のおそれを再認識し,あるいは迫害のおそれが増大したものと認められる場合には,法61条の2第2項かっこ書所定の「本邦にある間に難民となる事由が生じた者」に該当するものとして,上記のような事情が発生したことを知った日,あるいは新たな証拠を入手した日から60日以内に難民認定申請をすれば60日要件を満たすものと解すべきである。そのように解しなければ,上記の者は,本国にいた当時から迫害を受けていたこと,すな 知った日,あるいは新たな証拠を入手した日から60日以内に難民認定申請をすれば60日要件を満たすものと解すべきである。そのように解しなければ,上記の者は,本国にいた当時から迫害を受けていたこと,すなわち,難民であったことが立証されることによって60日条項に違反し,難民認定を受けることができなくなるという不合理な結果がもたらされ,このような結果は,難民条約上,到底許容されるものとはいえないからである。 (イ) 本件について被控訴人は,「日本人の配偶者等」の在留資格で本邦に入国し,その後も,同様の資格で適法に本邦に在留していた期間中に難民認定申請をしたものである上,被控訴人の本件難民認定申請が申請権の濫用に当たるなどの事情も存在しないのであるから,入国後60日以内に難民認定申請をしなかったことには,「やむを得ない事情」があるものというべきである。 また,仮に上記主張が認められないとしても,被控訴人は,本邦に入国した後である平成10年3月21日に,MEDTV(ヨーロッパに本拠を置くクルド系衛星テレビであって,トルコ政府からは「テロ組織の宣伝機関」であるとして敵視されている。)の番組に出演して,日本におけるクルド人の状況を報道したところ,同年7月11日になって本国の家族から,家族に対する監視と圧迫が強められたことを知らされたものであり,この事実は,被控訴人に対する迫害のおそれを増大させ,あるいは迫害のおそれを再認識させる事実であったといえる。したがって,同日から60日以内にされた本件難民認定申請は,60日条項に違反するものではないというべきである。 ウ被控訴人の難民該当性について(ア) トルコ共和国憲法(平成13年改正前のもの)は,その前文において,「トルコの国家利益,国家と国土が不可分であるというトルコの存立の原則,トルコ人であると 。 ウ被控訴人の難民該当性について(ア) トルコ共和国憲法(平成13年改正前のもの)は,その前文において,「トルコの国家利益,国家と国土が不可分であるというトルコの存立の原則,トルコ人であるという歴史的・精神的価値,アタテュルクの民族主義・原則・改革・文明性に反しては,いかなる思想も見解も保護されず,また世俗主義の原理の必然としての神聖な宗教的感情が国家の業務及び政治に絶対に関与することがないこと」を,第2部第1章Ⅲ14条において,「本憲法で定めるいかなる権利及び自由も,国土と国民とからなる不可分の国家の全体性を破壊し,トルコ国と共和制の存立を危うくし,基本的権利と自由を剥奪し,国家が一個人又は一集団によって支配されること,又は社会的階級が他の社会的階級に対して主権を確立すること,若しくは言語,民族,宗教及び宗派の相違を惹起することなどのいかなる方途であれ,かかる見解と思考に基づいた国家の秩序を構築する目的では行使し得ない。この禁止規定に反して行動したり,又は他人に対しかかる方途で煽動あるいは中傷した者に対して適用されるべき制裁は,法律でこれを定める。」と,第2部第2章Ⅷ26条において,「思想の表現及び伝達において法律で禁止された言語は使用できない。この禁止に反する書類,印刷物,レコード,録音及び録音テープ,その他の表現の手段は,手続に基づいて付与された裁判官の令状に基づき,あるいは遅延することによって支障が生じる場合には法律によって権限が付与されている関係当局によって押収される。」と,第2部第3章Ⅱ42条において,「トルコ語以外のいかなる言語も,教育及び教導の機関においてトルコ国民に対し母国語として教授されることはない。教育及び教導の機関で教授される外国語,外国語による教育及び教導を行うべき原則は,法律でこれを定める。」と,それ 言語も,教育及び教導の機関においてトルコ国民に対し母国語として教授されることはない。教育及び教導の機関で教授される外国語,外国語による教育及び教導を行うべき原則は,法律でこれを定める。」と,それぞれ規定している。 また,反テロリズム法(1991年制定)は,テロリズムの定義を,「憲法に定める共和国の基本政体及び政治的,法的,経済的,社会的制度の変革,国家及び領土の統一性の毀損,トルコの国家及び共和政体の存続を危うくし,国家の統治権を弱め,破壊し,あるいは奪取しようとし,基本的権利及び自由を侵害し,あるいは国家の内部的及び国際的安全,公共の秩序,厚生を威力,実力行使,暴行,脅迫のいずれかの方法により損なうことを目的とする団体に属する一人又は数名の者により行われる一切の行為をいうものとする。」と定めた上(同法第1章1条),犯罪がテロリスト犯罪として行われた場合には,刑を一般の法定刑の1・5倍に加重することを定め(同法5条),また,同法違反行為に関する裁判手続は,国家保安裁判所の管轄に属し,その手続については,一般の刑事訴訟法の適用を排除し,同法及び国家保安裁判所構成及び手続法による旨を定める(同法9条)など,特別に厳格な刑罰及び刑事手続による旨を定めている。 (イ) ところで,トルコ共和国憲法の前記規定は,「トルコは,トルコ民族によってのみ構成される国家である。」とするトルコ共和国成立当時からの建国理念(いわゆるケマリズム)に基づくものであるが,このケマリズムは,国内的には,トルコにおける少数民族の存在や,その独自の文化,言語等の存在を否定しようとする動きとなって現れた。このため,トルコ国内に居住するクルド人は,トルコの総人口の約4分の1を占める勢力であったにもかかわらず,クルド人としての独自性を主張したり,クルド語を使用したり,クルド人 する動きとなって現れた。このため,トルコ国内に居住するクルド人は,トルコの総人口の約4分の1を占める勢力であったにもかかわらず,クルド人としての独自性を主張したり,クルド語を使用したり,クルド人の伝統文化に基づく行事を行ったりすること(クルド人の伝統的な祭りであるネブローズの祭りを祝うことなど)などを許されないという状況に置かれてきた。クルド人は,トルコ政府の政策に対し,反乱や抵抗運動によって対抗しようとしたこともあったものの弾圧され,このような歴史を通じて,クルド人の独自性を主張しようとする行動に対しては,ますます厳しい弾圧が加えられるようになっていった。また,1984年(昭和59年)以降,クルド労働者党(PKK)がトルコ政府に対する武装闘争を開始した後は,クルド人が組織する政党や,団体,一般のクルド人等が,PKKへの関与を疑われ,あるいはPKKへの関与の疑いを口実にして逮捕,投獄された上で虐待を受けたり,殺害されたり,権利を剥奪されたり,平和的行動さえもが弾圧されたりする事例が多発し,さらに,クルド人が居住する村が,PKKへの関与の疑いの下に,軍やその関係者らから攻撃を受け,あるいは強制的に移住させられる事例も多数生じるようになった。 なお,1991年には,それまでクルド人によるクルド語使用を禁じてきた「トルコ語以外の諸言語での出版に関する法律」が廃止され,クルド語の使用が一定の範囲で認められるようになったが,このことは,トルコ政府によるクルド人弾圧政策が変更されたことを意味するものではなく,上記(ア)に記載したとおり,同年には反テロリズム法が制定され,同法下において,クルド人による独立運動はもちろん,クルド人の独自性を主張する運動や言論活動さえもが,テロリズム行為あるいはこれに関連する行為とみなされ,弾圧の対象とされたのであ リズム法が制定され,同法下において,クルド人による独立運動はもちろん,クルド人の独自性を主張する運動や言論活動さえもが,テロリズム行為あるいはこれに関連する行為とみなされ,弾圧の対象とされたのである。 このようなクルド人に対する弾圧は,クルド系ジャーナリズムに対しても例外ではなく,例えば,クルド問題に焦点を当てた新聞であるオズギュル・ギュンデム(OzgurGundem)紙(1992年発刊)や,同紙が発行停止になった後これを受け継ぐものとして発刊されたオズギュル・ウルケ(OzgurUlke)紙(1994年発刊)は,反テロリズム法違反の疑い等の名目で,社長,編集長,記者,執筆者,戯画家ら多数の関係者が逮捕,勾留され,それらの者の中には長期の禁固刑判決を受ける者が出るなど刑事訴追の対象とされたほか,支社に対する捜索と関係書類や発行物の押収,新聞販売に対する妨害等様々な弾圧を受けた。 また,同紙の記者や新聞配達人が,正体不明の者によって殺害される事例が頻発したにもかかわらず,当局からの保護を受けられず,かえって自衛のための手段を採ることさえも許されないという弾圧の下にもさらされた。 (ウ) 被控訴人は,1966年,トルコのホラサンで生まれたクルド人であり,1986年からプロのフォト・ジャーナリストとして活動を始め,各種日刊紙で通信員,記者,デスクなどとして働いた後,1992年からオズギュル・ギュンデム紙で働くようになったものであるが,同紙は,トルコ政府から様々な弾圧を受けていたことは,前記のとおりである。 また,被控訴人は,①1984年に警察がバイラムパシャ地区のクルド人労働者を襲撃した際,その現場にいたため3日間警察署に拘禁され,②1990年,大学生たちがクルド人の祭りであるネブローズ祭を祝った際,これに参加していたことから警察,軍の襲 ラムパシャ地区のクルド人労働者を襲撃した際,その現場にいたため3日間警察署に拘禁され,②1990年,大学生たちがクルド人の祭りであるネブローズ祭を祝った際,これに参加していたことから警察,軍の襲撃を受け,12日間拘禁され,③オズギュル・ギュンデム紙の記者として働いていた間にも,1992年9月にイスタンブールで,同年12月にユクセコヴァで,それぞれ秘密警察ないし対テロ部隊の攻撃を受け,生命の危険にさらされたほか,度々逮捕された。 被控訴人は,平成7年,本邦に入国したが,その後の平成10年3月21日,日本において,在日トルコ国籍クルド人数十人と共にネブローズ祭を祝い,その模様を国際電話でMEDTVに報道した。その音声による報道がテレビで流され,その際,被控訴人の名がテロップで示されたため,トルコに住む被控訴人の親,兄弟に対し,監視が強化されるようになった。さらに,同年12月10日には,NHK教育テレビの「ビデオ・ジャーナリストは見た」という番組で,トルコにおけるクルド人に対する人権侵害状況が報道され,その番組の中で,被控訴人の来日以来の生活状況も紹介された(ちなみに,この番組に対してはトルコ大使館等からNHKに対しての抗議が行われている。)ほか,オズギュル・ポリティカ紙(トルコ国外で編集され,ヨーロッパ等で発刊されているほか,インターネットで記事を公開している新聞であり,前述のオズギュル・ギュンデム紙と同様の性格の新聞である。)の定期コラムニストとなり,日本におけるクルド人及びトルコ人の社会に関する報道を行っている。 以上のような事情に照らしてみれば,被控訴人は,トルコ国内で居住していた当時から人種や政治的意見を理由に迫害を受けていた者であり,また,本邦に入国した後の活動によっても迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を してみれば,被控訴人は,トルコ国内で居住していた当時から人種や政治的意見を理由に迫害を受けていた者であり,また,本邦に入国した後の活動によっても迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する者であって,難民に当たることが明らかである。 (2) 控訴人らの主張ア本件不認定処分が違法とされるための要件被控訴人は,60日要件は手続要件であるのに対し,難民要件は実体要件であって,前者が後者に論理的に先行する関係にあるのであるから,60日条項違反を理由とする難民不認定処分は難民該当性が認められないことを理由とする難民不認定処分とは別個と解すべきであり,仮にそうではないとしても,ベンジジン事件に関する最高裁判決に照らし,60日条項違反を理由とする難民不認定処分はその判断が誤っていればそれだけで違法として取り消されるべきものである旨の主張をする。 しかしながら,法には,60日要件を満たさないことを理由とする難民不認定処分と難民要件を満たさないことを理由とする難民不認定処分とが別個の処分であることを前提とした規定や,60日要件についての判断を難民要件の判断に先行させるべき旨を定めた規定は存在せず,むしろ,法施行規則58条2項が,60日条項違反を理由とする難民不認定処分に対する異議の申出の場合であっても,60日要件及び難民要件の両者が満たされていると認められる場合に初めて,法務大臣が異議の申出に理由がある旨の判断をすると定めていることからすれば,両者は一個の処分であり,要件該当性の判断についても,論理的な先後関係は存在しないものと解すべきである。 また,60日条項が定められたのは,①難民認定申請が遅れれば遅れるほど証拠が散逸し,公正な難民認定が困難になること,②真の難民であれば本邦に入国後速やかに難民としての保護を求めようとするは ある。 また,60日条項が定められたのは,①難民認定申請が遅れれば遅れるほど証拠が散逸し,公正な難民認定が困難になること,②真の難民であれば本邦に入国後速やかに難民としての保護を求めようとするはずであるのに,そのような行為に及ばなかったことは,それ自体が難民該当性を否定する有力な事実になること,③我が国において難民認定制度が発足した昭和57年当時,諸外国では,実際には難民に該当しないにもかかわらず,滞在国において長期間滞在又は就労を確保するために虚偽の難民認定申請に及ぶ難民認定制度濫用者が存在することが重大な問題となっており,このような濫用的な難民認定申請を防止するためにも,難民認定申請について期間制限を設ける必要があったことなどを考慮し,我が国の国土面積,交通・通信機関,地方入国管理官署の所在地等の地理的,社会的実情からすれば,60日あれば我が国に入国した難民が難民認定申請をするのに十分な時間的余裕があるものと考えられたことによるものであり,これらの理由からすれば,60日要件も,実体要件であって難民要件とその本質を異にするものではないというべきであって,この点からみても,上記の主張が正当であることは明らかである。 なお,被控訴人が引用するベンジジン判決は,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)の適用がないことを理由としてされた労働者災害補償保険不支給決定(以下「労災保険不支給決定」という。)の取消訴訟において,労災保険法の適用がないとの行政庁の判断に誤りがある場合には,労災保険給付のためのその他の要件(業務起因性等)について判断するまでもなく,当該不支給決定を取り消すべき旨を判示したものであるが,この場合,労災保険法が適用されることは,その他の要件の適合性を判断するための前提要件であり,まずこの点について判断をした後 断するまでもなく,当該不支給決定を取り消すべき旨を判示したものであるが,この場合,労災保険法が適用されることは,その他の要件の適合性を判断するための前提要件であり,まずこの点について判断をした後にその他の要件の適合性を判断するという論理的先後関係があるため,この点に着目した判断がされたものと解される。これに対し,60日要件と難民要件との間には論理的な先後関係が存するものではないことは既に主張したとおりであるから,本件についてベンジジン判決の論理が適用されるものではない。 以上の次第であるから,60日要件と難民要件とはいずれも難民認定処分を行うための実体要件であって,これら二つの要件が満たされた場合に初めて難民認定処分を行うことができる(逆にいえば,いずれか一つの要件を満たさなければ難民認定を受けることはできない。)ものというべきであるから,本件不認定処分の取消しを求める被控訴人としては,上記の2要件を,いずれも満たしていることを主張立証する必要があるものというべきである。 イ 60日条項違反の有無について(ア) 60日条項の解釈について60日条項が設けられた理由は,上記アで指摘したとおりであって,合理的な根拠に基づくものである。そして,難民条約は,難民認定手続については何ら規定を置いておらず,この点については,締約国の立法裁量に委ねられているものと解されることや,本邦に入国した難民は,速やかに難民認定申請をしようとするのが通常なのであるから,真の難民が60日条項に違反することはほとんど考えられず,仮に難民が入国後60日以内に難民認定申請をせず,しかも,同申請をしなかったことにつき「やむを得ない事情」があったとは認められないものとして難民不認定処分を受けたとしても,それは,自らが難民認定申請を怠った結果であってやむを得ないものであ せず,しかも,同申請をしなかったことにつき「やむを得ない事情」があったとは認められないものとして難民不認定処分を受けたとしても,それは,自らが難民認定申請を怠った結果であってやむを得ないものであるといえることからすれば,60日条項を設けることが難民条約に違反するということもできない。 このように考えると,60日条項は,その文言どおりに解釈したとしても難民条約に違反するところはないのであって,「やむを得ない事情」や法61条2項かっこ書の規定について無理な拡張解釈をする必要は全くないものというべきであるから,被控訴人の主張は誤った前提に基づく誤った主張であるといわざるを得ない。 なお,被控訴人は,難民に対して60日条項違反を理由に難民不認定処分を行うことは,難民に対して庇護を与えるべき旨やノン・ルフールマン原則を定めた難民条約に違反する旨の主張をする。しかしながら,我が国の法制度における難民認定処分の効果は,難民条約上の各種保護措置との関係でいえば,難民旅行証明書の発給を申請するための要件となる点にあるにすぎず,その他の各種保護措置を受けるために難民認定処分が要求されるものではない。また,難民不認定処分がされたからといって直ちに当該難民認定申請者は強制送還されるわけではなく,退去強制令書発付処分という別個の処分によって強制送還されることになるものであるところ,退去強制令書発付処分において送還先をどこにするかを判断するに当たっては,改めてその対象となった外国人が難民であるかどうかを判断する余地があり得,その時点で難民であることが明らかになれば,送還先を本国以外の国とすることもあり得るのであるから,難民不認定処分を行うことがノン・ルフールマン原則に違反するということもできない。したがって,被控訴人の主張は,これらの点においても,その前提に 還先を本国以外の国とすることもあり得るのであるから,難民不認定処分を行うことがノン・ルフールマン原則に違反するということもできない。したがって,被控訴人の主張は,これらの点においても,その前提に誤りがあるものといわざるを得ない。 (イ) 本件について被控訴人は,本邦に入国(平成7年3月2日)から約3年半も経過した平成10年7月16日になって初めて本件難民認定申請をしたものであり,この申請が60日条項に違反することは明らかである。被控訴人は,適法な在留資格に基づいて我が国に滞在している間は,難民認定申請をしなかったとしても,そのことについて「やむを得ない事情」があったものというべきである旨の主張をするが,「やむを得ない事情」について,そのような拡張解釈をすべき理由がないことは既に主張したとおりであって,被控訴人の主張は,失当である。 被控訴人は,本邦に入国後迫害のおそれを強めさせ,あるいは再認識させる事情が発生したものであり,それから60日以内に被控訴人が本件難民認定申請をしているから60日条項違反はない旨の主張もするが,被控訴人は,一方で本国に居た当時から本国政府の迫害を受ける難民であったと主張しているのであるから,法61条の2第2項にいう「本邦にある間に難民となる事由が生じた者」であるとはいえず,したがって,本邦に上陸した日から60日以内に難民認定申請をしなければならないのである。また,法務大臣は,難民が提出した資料に基づき,難民認定処分を行うものであるところ(法61条の2第1項),被控訴人は,本件難民認定申請をする際には,MEDTVに出演し,そのことを理由として迫害を受けるおそれが生じたなどといった事情は何ら主張していなかったのであり,専ら本国で迫害を受けていたことを主張していたのにとどまっていたのであるから,法務大臣は本 に出演し,そのことを理由として迫害を受けるおそれが生じたなどといった事情は何ら主張していなかったのであり,専ら本国で迫害を受けていたことを主張していたのにとどまっていたのであるから,法務大臣は本件不認定処分の際には本邦に入国後の事情を考慮することはできなかったのである。したがって,被控訴人の主張は,いずれにせよ失当というべきである。 ウ被控訴人の難民該当性について(ア) トルコ共和国において,クルド人が,その民族的出自のみを理由として差別を受けたり,迫害を受けたりしている事実はなく,むしろ,多くのクルド人が,政府や軍などにおいても主要な地位についている。 もっとも,クルド民族のアイデンティティを公然と主張したり,クルド分離主義の主張をしたりするクルド人に対して迫害が行われた例があったことは,英米の政府機関の報告書等でも指摘されており,特に1970年代にテロが多発し,治安が悪化したことを受けて1980年に無血軍事クーデターが発生し,軍部の影響下で1982年のトルコ共和国憲法が制定された当時は,治安維持が重視され,憲法の規定の中にも治安維持を優先する規定が数多く盛り込まれていた。しかしながら,1990年代に入って治安が安定してくるとともに,トルコの政治体制も民主主義を重視するものに変容し,トルコ政府がEU加盟を目指すようになった後は,各種の法制度をEU加盟各国の水準に達するものとするよう法改正等が行われた。その結果,トルコ共和国憲法も,1987年,1993年,1995年,1999年,2001年と頻繁に改正が行われ,2001年憲法においては,被控訴人が問題視している条文のうち,前文の「いかなる思想及び見解も保護されず」との規定は「いかなる行動も保護されず」と修正されて,思想,信条の自由をより尊重したものに変更され,26条の「思想の表現及 訴人が問題視している条文のうち,前文の「いかなる思想及び見解も保護されず」との規定は「いかなる行動も保護されず」と修正されて,思想,信条の自由をより尊重したものに変更され,26条の「思想の表現及び伝達において法律で禁止された言語は使用できない」との文言,及び28条の「法律で禁止された言語では出版を行い得ない」との文言がいずれも削除されるに至っている。このような変化の中でクルド人によるクルド語の使用やクルドの伝統行事の実施も許容されるようになり,例えば,平成13年に英国内務省移民局によって実施されたトルコの事実調査や平成12年の米国国務省の報告書においては,個人的な会話や印刷物においてクルド語を使用することは合法とされ,また,ラジオ,テレビ放送はトルコ語で行う旨が法律で規定されているものの,実際には,クルド語による放送もある程度許容されていることなどが報告されており,ネブローズ祭については,平成6年3月15日,トルコ政府によってトルコの市民により祝福された公休日であると宣言され,それ以降,トルコの各地で自由にネブローズ祭が祝われている。さらに,トルコにおける親クルド政党であるHADEPは,現在でも合法政党として存続し,同党員は,トルコ国内で政治活動を続けている。 (イ) このような変化は,1990年代から継続的に起きているものであり,本件不認定処分が行われた平成10年(1998年)当時には,もはや,クルド人がテロリズムへの関与等犯罪行為に荷担しないにもかかわらず迫害を受けるというおそれは消滅していたものといってよい。被控訴人の主張は,このような変化を無視したものであって,その前提に誤りがあるものというべきである。現に我が国において難民認定申請をしていたクルド人のうち少なからぬ者が帰国しても危険はないとして自主的にトルコに帰国しているの 変化を無視したものであって,その前提に誤りがあるものというべきである。現に我が国において難民認定申請をしていたクルド人のうち少なからぬ者が帰国しても危険はないとして自主的にトルコに帰国しているのであり,この事実は,クルド人に対する迫害のおそれはないことを端的に示すものというべきである。 なお,1990年代以降も,PKK関係者に対する訴追や処罰等が行われていることは事実であるが,PKKは,トルコ国内においてゲリラ戦やテロ活動を行っている反政府武装集団であり,その活動は,アムネスティ・インターナショナルの報告書においても,「無差別又は恣意的な殺人」を行っているものと非難されているほか,米国国務省から「海外テロリスト組織」として認定されるなど,諸外国からも犯罪集団として糾弾されている存在なのである。したがって,PKK関係者が,テロ活動への関与等を理由に刑事訴追等を受けたとしても,それは,犯罪者に対する刑罰権の行使にほかならず,迫害には当たらないことは明らかである。また,被控訴人は,反テロリズム法はクルド人弾圧を意図した法律であり,その内容も極めて不当なものである旨の主張をしているが,反テロリズム法にはそのような意図はないし,その内容も特段不当といえるようなものではないのであって,この点に関する被控訴人の主張も失当である。 (ウ) 被控訴人は,被控訴人がジャーナリストとしてクルド人の独自性を主張するなどしたためトルコ国内で迫害を受けていた旨の主張をしているが,被控訴人は,平成6年9月1日にイスタンブール治安当局から旅券の発給を受け,平成7年2月27日にトルコを出国して同年3月23日に帰国し,同年11月14日に再度トルコを出国している上,同年11月28日には,P1との婚姻届出をするため,在東京トルコ大使館から婚姻要件具備証明書の発給を受けてい 日にトルコを出国して同年3月23日に帰国し,同年11月14日に再度トルコを出国している上,同年11月28日には,P1との婚姻届出をするため,在東京トルコ大使館から婚姻要件具備証明書の発給を受けているのであって,この間トルコ政府から差別的な扱い等を受けた形跡は全くない。しかも,被控訴人は,本人尋問において,平成7年11月15日の来日当時にはトルコで迫害される危険は感じていなかった旨の供述をしている。これらの点からすれば,被控訴人が,トルコにおいて迫害を受けていたのかどうか,また,被控訴人自身が迫害の危険を感じていたのかどうかは,極めて疑わしいものといわざるを得ないのであって,被控訴人の主張は失当である。 また,被控訴人は,我が国に在留中,MEDTVの番組に出演し,日本におけるクルド人の状況を報道したことにより,トルコ政府による迫害を受けるおそれが生じ,あるいは強まった旨の主張もしているが,同番組における被控訴人の発言内容は,日本においてネブローズ祭が祝われたという程度のものにすぎないのであるから,(ア)で指摘したような現在の状況に照らせば,その程度の発言によって迫害を受けるおそれはないものというべきである。さらに,被控訴人は,その後の被控訴人の活動内容に基づく主張をもしているが,これらは本件不認定処分後の事情であって,本件不認定処分の適否を判断するに当たっては考慮する必要がないものである。 したがって,被控訴人は,本国において「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」者であるとはいえないことは明らかである。 3 争点2(国家賠償請求の当否)について(1) 被控訴人の主張ア本件更新不許可処分の違法性について法務大臣のした本件更新不許可処分には,①難民である被控訴人に対し,難民条約32条1項が定める権利を保障 国家賠償請求の当否)について(1) 被控訴人の主張ア本件更新不許可処分の違法性について法務大臣のした本件更新不許可処分には,①難民である被控訴人に対し,難民条約32条1項が定める権利を保障しなかった難民条約違反,②難民不認定処分に対する異議申出の手続的権利を考慮しなかった違法があり,これらの事由は,国家賠償法上の違法事由に当たるものというべきである。 (ア) 難民条約32条1項違反について被控訴人が難民に該当することは既に主張したとおりであるところ,被控訴人は,本件更新不許可処分をされるまでの間,本邦に合法的に在留していたのであるから,難民条約32条1項が定める合法的に本邦内の領域内にいる難民に該当するものである。そうすると,日本政府は,同項の規定によって,「国の安全又は公の秩序を理由とする場合」を除くほか,被控訴人を追放することは許されないことになる。ところが,法務大臣は,「国の安全又は公の秩序」に基づく理由は何ら存しないにもかかわらず,被控訴人に対して本件更新不許可処分を行ったものであるから,同処分は,難民条約32条1項に違反する。 なお,控訴人らは,難民認定手続と退去強制手続とは別個の手続なのであるから,難民不認定処分をしたからといって被控訴人を追放したことにはならない旨の主張をする。しかしながら,本件更新不許可処分がされた以上,被控訴人は,「在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者」(法24条4号ロ)に該当するものとして退去強制手続の対象となり,最終的には本邦から強制的に排除されることが必然的な成り行きとなるものであるから,本件更新不許可処分を行うことは,実質的には,被控訴人を追放するための手続を開始したのと同視し得るものである。控訴人らの主張は,このような実質を無視した形式論にすぎず, り行きとなるものであるから,本件更新不許可処分を行うことは,実質的には,被控訴人を追放するための手続を開始したのと同視し得るものである。控訴人らの主張は,このような実質を無視した形式論にすぎず,失当である。 (イ) 異議申出の手続的権利を考慮しなかった違法について被控訴人は,本件更新不許可処分当時,難民不認定処分を受けていたものの,これに対して異議の申出中であったのであるから,この異議申出に対して適正な審理判断を受ける手続的権利が保障されるためにも在留期間の更新が認められる必要があった。このことは,我が国の憲法や法の解釈からも導き出される帰結であるばかりではなく,難民条約32条2項が追放を受けようとする難民に対しては不服の申立てに関する権利が保障されるべきことを定めていること,国連難民高等弁務官事務所執行委員会結論第8(e)(Ⅳ)及び(Ⅶ)が,締約国に対し,難民に対し,難民認定を受けられなかった場合には,不服申立てのために相当な時間を保障し,その間の滞在の保障を求めていることからも裏付けることができる。また,被控訴人に対して直接適用されるものではないが,児童の権利条約22条は,締約国に対し,難民と認められた児童のみならず,難民の地位を求めている児童に対しても適切な庇護を与えるべきことを求めており,この事実は,被控訴人のように,難民認定を受けてはいないが,これを求めている者に対しても適切な庇護を与えるべきことが国際的な常識となりつつあることを示しているものといえる。 イ法務大臣の故意,過失について本件更新不許可処分には上記のような難民条約違反等の違法事由が存することは明らかであるといえるから,このような違法事由の存在を看過した法務大臣には,少なくとも過失があったことは明らかである。 なお,控訴人らは,被控訴人は難民調査官による事 違反等の違法事由が存することは明らかであるといえるから,このような違法事由の存在を看過した法務大臣には,少なくとも過失があったことは明らかである。 なお,控訴人らは,被控訴人は難民調査官による事実調査のための呼び出しに応じず,不出頭を繰り返し,平成10年11月13日に出頭した際にも,以前に出頭しなかった理由を簡単に述べただけで一方的に退席するなど難民調査官による事実調査に対して非協力的で不誠実な対応を繰り返し,自己が難民であることについて十分な説明をしようとさえもしなかったのであるから,法務大臣が被控訴人は難民には当たらないとの前提で対応をしたことについて国家賠償法上の違法はないし,故意,過失もない旨の主張をしている。しかしながら,被控訴人は,平成10年8月ころ,それまで居住していた港区α-3-15β○○○号室(以下「β」という。)から退去し,友人宅を泊まり歩いた後,同年10月末,杉並区に転居したものであるが,クルド人活動家やジャーナリストが,外国においてトルコ治安当局員や国家主義者のトルコ人から危害を加えられる例が少なくないことを知っており,本邦においても身の危険があり得るものと考えていたため,外国人登録上の住所は,しばらくβのままにしておき,その間に郵便物を受け取る方法として,赤坂郵便局の私書箱を利用する方法や,企業の管理するメイルボックスを利用する方法などを採っていたところ,郵便局の私書箱では書留郵便を受領することができず,また,メイルボックスに呼出状が届いた際にはたまたま大阪に出向いていたため,これを受領するのが遅れ,呼出に応じることができなかったものである。また,平成10年11月13日の件は,被控訴人が,難民調査官に対し,予めトルコ語の通訳人ではなく,英語の通訳人を手配してくれるよう要望していたにもかかわらず,手配されて とができなかったものである。また,平成10年11月13日の件は,被控訴人が,難民調査官に対し,予めトルコ語の通訳人ではなく,英語の通訳人を手配してくれるよう要望していたにもかかわらず,手配されていた通訳人がトルコ語の通訳人であったため,難民調査官に対して不信を抱いたことや,出頭日の前日怪我をし体調が良くなかったことなどから,インタビューの延期を求めて退出したのにすぎず,いずれも非協力であるとか不誠実であるといって非難されるようなものではない。その後,被控訴人は,大橋弁護士,高澤弁護士と相談の上,詳細な陳述書を作成して難民調査官に郵送し,同陳述書は,同月24日に難民調査官に到達したにもかかわらず,難民調査官はこれを上記弁護士ら宛に送り返した上,同月25日,本件不認定処分を行ったものであり,このような難民調査官の対応は,誠実に調査を行おうとしたものとは到底評価し得ないものであった。そして,法務大臣としても,このような事情は認識すべきものであったといえるし,難民調査官に命じて英語の通訳人を手配させた上で被控訴人の陳述を求めるとか,被控訴人が提出した上記陳述書を詳細に検討させるなどしていれば,被控訴人が難民であるとの判断に十分達することができたものであるから,被控訴人国の主張は失当であり,過失を免れないものというべきである。 ウ損害について被控訴人は,本件更新不許可処分を受けた平成10年当時,株式会社三進製作所(以下「三進製作所」という。)において就労し,輸出用テレビ,パソコンなどの外枠製作に従事し,月収20万円を得ていたが,本件更新不許可処分を受けたことにより,三進製作所を退職せざるを得ず,再就職も困難となり,以後,平成12年12月に協和食品株式会社に就職するまでの間,アルバイトをしたり,アジア福祉教育財団という財団法人の支援を受けた 受けたことにより,三進製作所を退職せざるを得ず,再就職も困難となり,以後,平成12年12月に協和食品株式会社に就職するまでの間,アルバイトをしたり,アジア福祉教育財団という財団法人の支援を受けたりしたものの,その収入は1か月10万円にも満たないものであった。したがって,被控訴人は,本件更新不許可処分により,平成10年12月3日から平成12年12月2日までの間,1か月当たり10万円を下回らない収入減を生じ,同額の経済的損害を受けたことになり,その額は,合計240万円に達する。 また,被控訴人は,本件更新不許可処分を受けたことにより,いつ警察から検挙され,あるいは入国警備官から収容されるかわからないという不安定な身分に置かれた上,国民健康保険に加入することもできず,自費で怪我や病気の治療を受けざるを得ない立場に立たされたものであり,これらのことによって精神的打撃を受けたところ,この精神的打撃を慰謝するための慰謝料は200万円を下らない。 したがって,被控訴人国は,被控訴人に対し,以上の合計440万円の損害賠償をすべき義務があるものというべきである。 (2) 控訴人らの主張ア本件更新不許可処分の違法性について(ア) 国家賠償法上の違法とは,民事上の不法行為における違法(権利侵害)とも行政処分の取消訴訟における違法とも異なり,公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することを意味するものであり(最高裁判所第1小法廷昭和60年11月21日判決,民集39巻7号1512頁参照),そのような意味での違法があったかどうかを判断するに当たっては,当該公権力の行使がされた時点において当該公務員が収集していた資料や当該公務員に対して通常要求される調査等をすれば収集し得た資料を総合勘案し,それに基づく合理的な判断過程 かを判断するに当たっては,当該公権力の行使がされた時点において当該公務員が収集していた資料や当該公務員に対して通常要求される調査等をすれば収集し得た資料を総合勘案し,それに基づく合理的な判断過程を経た場合には,当該公権力の行使をすべきではなく,それにもかかわらず当該公権力の行使をしたことが当該公務員の職務上の注意義務に違反したものといえるかどうかという観点から判断されるべきものである。被控訴人の主張は,行政処分の違法の問題と国家賠償法上の違法の問題の区別を踏まえたものではなく,この点において既に問題があるというべきであるが,この点を措くとしても,失当といわざるを得ないものである。その理由は,以下のとおりである。 (イ) 被控訴人は,本件更新不許可処分が難民条約32条1項に違反するとか,本件不認定処分に対して異議申出をしていた被控訴人の手続上の権利を侵害するものであったから違法であるといった主張をする。 しかしながら,難民認定手続と強制退去手続とは別個の手続なのであるから,被控訴人は,本件不認定処分を受けたからといって直ちに本国に送還されるものではないし(退去強制手続が開始された後においても,法務大臣から在留特別許可を受けることにより,結局,本邦での滞在が認められる場合もあり得る。),異議申出手続に関与することができなくなるものでもない。したがって,本件更新不許可処分が被控訴人を追放する処分に当たるとはいえないし,これによって被控訴人の異議申出手続上の権利が侵害されることになるものでもなく,被控訴人の主張は,その前提を欠くものというべきである。 (ウ) また,被控訴人の主張は,被控訴人が難民であることを前提とするものであるところ,被控訴人の難民認定申請は,60日条項に違反するものであったから,被控訴人が難民として取り扱われなかったことは (ウ) また,被控訴人の主張は,被控訴人が難民であることを前提とするものであるところ,被控訴人の難民認定申請は,60日条項に違反するものであったから,被控訴人が難民として取り扱われなかったことはやむを得ないものである上,そもそも被控訴人が難民であるとは認められないことも,既に主張したとおりであるから,被控訴人の主張はいずれにせよ,その前提を欠き,失当というべきである。 イ法務大臣の故意,過失に関する主張について既に主張した点に照らしてみれば,法務大臣が本件更新不許可処分をしたことは,やむを得ないものであったというべきであるから,このことについて故意,過失があったということはできない。 さらに,本件更新不許可処分がされるまでの間には次のような事情も認められ,これらの点からしても,法務大臣が被控訴人の難民該当性を疑ったのはやむを得ないものであって,法務大臣に故意,過失があったとはいえないというべきである。 (ア) 難民調査官は,平成10年8月13日,同年9月1日,同月18日及び同年10月19日の4回にわたって,事情聴取のため被控訴人に出頭を求めたにもかかわらず,被控訴人は,同年9月1日の呼出しを除き,いずれも事前に連絡もなく出頭に応じなかった。この点につき,被控訴人は,郵便局の私書箱を利用していたため書留郵便を受領することができなかった旨の弁解をしているが,難民調査官は,第1回目及び第2回目の出頭通知書はβ宛に,その後の出頭通知書は,大橋弁護士から通知された被控訴人の住所である「渋谷区γ-25-3 δ」宛に,それぞれ送付しているのであるから,上記弁解が理由のないものであることは明らかである。 (イ) その後,難民調査官は,平成10年11月5日に再度出頭通知書を発送したところ,被控訴人は,同月13日,ようやく東京入国管理局に出頭したが ,上記弁解が理由のないものであることは明らかである。 (イ) その後,難民調査官は,平成10年11月5日に再度出頭通知書を発送したところ,被控訴人は,同月13日,ようやく東京入国管理局に出頭したが,その際にも,以前に出頭しなかった理由を簡単に述べたのみで一方的に退席してしまった。この点につき,被控訴人は,予め英語の通訳人を手配してくれるよう依頼していたのにトルコ語の通訳人が手配されていたので難民調査官に対して不信感を持った旨の弁解をしているが,トルコ人である被控訴人について,トルコ語の通訳人を手配することが不当な対応であると非難されるいわれはないし,待機していた通訳人は日本人であってトルコ政府と関係を有するものではなく,この点からしても,被控訴人が不信感を持たなければならない理由はない。 (ウ) 以上のような被控訴人の対応は,難民認定申請をしている者の行動としては,真摯さに欠ける不誠実なものといわざるを得ないのであって,これらの点からしても,法務大臣が被控訴人の難民該当性を疑ったのはやむを得ないものであったといわざるを得ないのである。 ウ被控訴人の損害について被控訴人は,本件更新不許可処分によって就労することができず,経済的損害を受けたと主張するが,「短期滞在」の資格で在留する者については就労が認められておらず,就労をするためには,資格外活動許可を受ける必要がある。ところが,被控訴人は,在留資格を「短期滞在」に変更する許可を受けた後,資格外活動許可申請をしておらず,もともと就労をすることはできない状態にあったのであるから,就労できなかったことによる経済的損害が発生する余地はない。 また,被控訴人は,就労できなかったことや国民健康保険に加入することができなかったことによる精神的損害に対する慰謝料をも求めているが,これらは,経済的利 ことによる経済的損害が発生する余地はない。 また,被控訴人は,就労できなかったことや国民健康保険に加入することができなかったことによる精神的損害に対する慰謝料をも求めているが,これらは,経済的利益についての損害というべきものであるから,慰謝料の対象になるものではない。 したがって,本件において,被控訴人には,何ら損害は発生していないというべきである。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件不認定処分の適否)について(1) 60日条項の解釈についてア前記前提となる事実によれば,被控訴人が本邦に初めて上陸した日は平成7年3月2日であり,2度目に上陸した日は同年11月15日であるところ,被控訴人が本件難民認定申請をした日は平成10年7月16日であるというのであるから,本件難民認定申請は,いずれにしても,難民認定の申請は本邦に上陸した日から60日以内に行わなければならないとする法61条の2第2項の規定,すなわち60日条項に違反するものであることは明らかである。 イ被控訴人は,難民条約等の締約国は難民に対してはこれを庇護すべき義務を負うものであるから,国内法の定めにより庇護すべき難民の範囲を限定することは許されず,難民認定申請について期間制限を課し,これに違反した場合には難民であるにもかかわらず難民認定をしない制度を設けることは難民条約等に違反するものである,したがって,60日条項を難民条約に適合させるためには同条項にいう「やむを得ない事情」を広く解釈し,真の難民が期間制限違反を理由に難民認定を受けられないような事態が生ずることのないようにする必要がある旨の主張をする。そして,具体的には,適法な在留資格を得て本邦に滞在している者が難民認定を申請し,第三国での庇護を求めるということは,当該難民にとっては本国と決別することを意味し,相当の覚 要がある旨の主張をする。そして,具体的には,適法な在留資格を得て本邦に滞在している者が難民認定を申請し,第三国での庇護を求めるということは,当該難民にとっては本国と決別することを意味し,相当の覚悟と決断が要求される一方,適法な在留資格を有している者は,難民認定を受けているかどうかにかかわらず,当面,本国に強制送還されて迫害にさらされるおそれはないから,難民認定を申請して庇護を求める必要性を感じることも少ないのであり,適法な在留資格を得て本邦に滞在している者については,その在留資格が継続している間は,難民認定申請をしなかったとしても,それには無理からぬ事情があったものというべきであるから,適法な在留資格を得ていた者が,在留資格が継続している間に難民認定申請をした場合や,その在留資格を失った後直ちに難民認定申請をした場合には,当該申請が,申請権の濫用に当たるなど,難民としての保護に値しないと認められる特別な事情がある場合や,実体審査をするまでもなく難民に該当しないことが明らかである場合などを除き,当該難民認定申請者の難民認定制度に関する知識の有無や申請を決意した時期等にかかわらず,入国後60日以内に難民認定申請をしなかったことにつき「やむを得ない事情」があったものと解すべきであると主張する。 ウところで,法が61条の2第2項の規定を設け,難民認定の申請は本邦に上陸した日から60日以内に行わなければならないとした趣旨は,難民となる事由が生じてから長期間が経過すると事実の把握が困難となり,適正な難民認定ができなくなるおそれがあるので,我が国の庇護を受けるべく難民認定の申請をしようとする者に速やかにその申請をさせようとすることにあるものと解される。これは,迫害から逃れて他国に移動した難民は,他国に入国後速やかに庇護を求めるのが一般であり,他 受けるべく難民認定の申請をしようとする者に速やかにその申請をさせようとすることにあるものと解される。これは,迫害から逃れて他国に移動した難民は,他国に入国後速やかに庇護を求めるのが一般であり,他国に入国後速やかに庇護を求めなかったという事実自体がその者が難民でないことを疑わせるという経験則や,そもそも自国からの迫害を逃れて難民として真摯に他国の庇護を求めようとする者は他国に入国後速やかに庇護を求めるべきであるとの理解に基づくものと考えられる。また,「本邦に上陸した日」の上陸とは,合法か非合法かは問わないものと解されるから,我が国への在留が合法である限りは,60日の難民認定の申請期間が進行しないと解することはできない。また,この期間を60日としたのは,我が国の地理的事情,社会的実情等からみて,出入国管理機関に出頭して難民の認定を申請するには60日あれば十分であると判断されたことによるものと考えられる。もっとも,個々の事案においては,申請期間を一律・機械的に60日として取り扱うことが相当でない場合もあり得るから,同項ただし書の規定を置き,個別に救済を図っているものである。 しかるところ,被控訴人は,難民認定申請について期間制限を課することは難民条約等に違反すると主張する。しかしながら,難民条約等は,難民の定義及び締約国が取るべき保護措置の概要についての規定は置いているものの,難民の認定手続については何ら定めていない。そうすると,難民の認定手続をどのように定めるかは,各締約国の主権国家としての立法裁量に委ねられ,各締約国がその実情等を勘案して合理的に定め得るものとしていると解される。現に乙第47号証によれば,諸外国においても各国ごとに独自の立法により難民認定制度を定めており,諸外国の中には,例えばアメリカ合衆国が到着後1年間とし,韓国が入 的に定め得るものとしていると解される。現に乙第47号証によれば,諸外国においても各国ごとに独自の立法により難民認定制度を定めており,諸外国の中には,例えばアメリカ合衆国が到着後1年間とし,韓国が入国後60日以内としているように認定申請期間を設けている国もあれば,例えばカナダが難民認定の審査を受けることができたであろう国を通過してきたときなどには申請は適格性を有しないとし,ドイツが安全な国からの入国者には庇護権が認められないとしているように他の要件を定めている国もあることが認められるのである。そして,このように他国において定められている形式要件も,難民認定申請者が真の難民であるか否かにかかわらず適用されるものであるから,真の難民といっても,その国の難民認定手続の要件を充たさなければ,庇護を受けられないこともあり得るのである。このことは,難民認定手続を各国の立法裁量に委ねた以上,やむを得ないことといわなければならない。ちなみに,カナダやドイツが迫害を受ける国以外の国を通って入国した場合に難民としての庇護を否定しているのは,難民だからといっていつでもどこへでも自由に庇護を求めて行けるものではないことを意味しているものといえる。 したがって,我が国が難民認定申請につき合理的な範囲内で期間制限を設けることは,難民条約等に違反するものではないというべきところ,前記のとおり,地理的事情,社会的実情等からみて出入国管理機関に出頭して難民の認定を申請するには60日あれば十分であるとの判断の下に定められた本邦上陸後60日という期間も,これを不合理とはいえないから,60日条項自体が難民条約等に違反するということはできない。 エ被控訴人は,上記のように,法61条の2第2項ただし書に規定する「やむを得ない事情」につき,適法な在留資格を得て本邦に滞在している ら,60日条項自体が難民条約等に違反するということはできない。 エ被控訴人は,上記のように,法61条の2第2項ただし書に規定する「やむを得ない事情」につき,適法な在留資格を得て本邦に滞在している者については,難民認定を申請して第三国での庇護を求めるということは本国と決別することを意味し,相当の覚悟と決断が要求される一方,適法な在留資格を有していれば難民認定を受けているかどうかにかかわらず,当面,本国に強制送還されて迫害にさらされるおそれはないから,難民認定を申請して庇護を求める必要性を感じることも少ないことを理由に,その在留資格が継続している間は,難民認定申請をしなかったとしても,それには無理からぬ事情があったものというべきであるとし,特別の事情のない限り,入国後60日以内に難民認定申請をしなかったことにつき「やむを得ない事情」があったものと解すべきであると主張する。 しかしながら,上記の「やむを得ない事情」とは,病気,交通の途絶等客観的にみて所定の60日以内に難民認定の申請をすることができなかったことにつき合理的理由が存する場合をいうものと解すべきである。これを被控訴人の主張するように,適法に在留資格が得られている者については,それだけで難民認定の申請をしないことに無理からぬ事情があったとして「やむを得ない事情」が存在したものとするのでは,在留資格を有する者はいつでも好きな時に難民認定の申請をすることができることなり,難民認定申請の期間制限を設けなかったのに等しく,このような解釈は,前記の立法の趣旨や法文の文理に明らかに反することになろう。なお,乙第47号証によれば,適法在留者についてはその在留期間内に難民認定申請をすればよいとしている国(ベルギー,スペイン)があることが認められるが,それは,立法の問題である。「本邦に上陸した日 。なお,乙第47号証によれば,適法在留者についてはその在留期間内に難民認定申請をすればよいとしている国(ベルギー,スペイン)があることが認められるが,それは,立法の問題である。「本邦に上陸した日」の上陸は,合法か非合法かは問わないものと解されることは前記のとおりである。被控訴人の上記主張は,到底採用することができない。 (2) 本件についてア上記見地に立って本件をみるに,被控訴人は,病気,交通の途絶等客観的にみて所定の60日以内に難民認定の申請をすることができなかったことにつき合理的理由があったことについての具体的な事実を主張・立証しない。適法な在留資格を有していたことが上記の合理的理由に当たらないことは,前記(1)で検討したとおりである。したがって,被控訴人が60日条項に違反したことにつき「やむを得ない事情」が存在したものということはできない。 イ被控訴人は,本邦に入国した後である平成10年3月21日に,MEDTVの番組に出演して,日本におけるクルド人の状況を報道したところ,同年7月11日になって本国の家族から,家族に対する監視と圧迫が強められたことを知らされたものであり,この事実は,被控訴人に対する迫害のおそれを増大させ,あるいは迫害のおそれを再認識させる事実であったといえるから,同日から60日以内にされた本件難民認定申請は,60日条項に違反するものではないというべきであるとも主張する。 しかしながら,被控訴人は,クルド人のジャーナリストとして自国で逮捕・拘禁されるなどの迫害に遭っていたと主張しているのであるから,法61条の2第2項の規定にいう「本邦にある間に難民となる事由が生じた者」ということはできない。 仮に被控訴人が主張するように本国に居た当時から迫害を受けていた者が本邦に入国した後新たな事情が発生したり,新たな 項の規定にいう「本邦にある間に難民となる事由が生じた者」ということはできない。 仮に被控訴人が主張するように本国に居た当時から迫害を受けていた者が本邦に入国した後新たな事情が発生したり,新たな証拠を入手した結果従来有していた迫害のおそれを再認識し,あるいは迫害のおそれが増大したものと認められる場合には「本邦にある間に難民となる事由が生じた者」に該当すると解するとしても,被控訴人の上記主張を裏付けるものとしては被控訴人の供述しかない上,乙第20号証,第21号証によれば,被控訴人は,本件難民認定申請をした際,平成10年7月11日になって本国の家族から,家族に対する監視と圧迫が強められたことを知らされたとの事実は主張していなかったことが認められる。また,被控訴人は,来日後はクルド語のメディアや英語のメディアで働き,毎年3月21日ネブルーズ祭りを祝っており,平成9年及び平成10年にその模様を国際電話でMEDTVに報道したとも主張しているところ,仮にそのような被控訴人の行動が本国政府からの迫害の理由となるとしたら,ジャーナリストである被控訴人は,家族からの電話によるまでもなく,報道の時点で自らの行動が迫害を招くおそれとなることを十分に認識していたものと推認せざるを得ない。 したがって,難民認定申請期間の始期を平成10年7月11日とすべきである旨の被控訴人の主張は,採用することができない。 (3) 小括以上によれば,法務大臣が,本件難民認定申請は法61条の2第2項所定の期間を経過してされたものであり,かつ,同項ただし書の規定を適用すべき事情も認められないとして,本件不認定処分をしたことには違法はないというべきである。 したがって,被控訴人の法務大臣に対する請求は,理由がないものとしてこれを棄却すべきである。 2 争点2(国家賠償請求の当 られないとして,本件不認定処分をしたことには違法はないというべきである。 したがって,被控訴人の法務大臣に対する請求は,理由がないものとしてこれを棄却すべきである。 2 争点2(国家賠償請求の当否)について被控訴人は,法務大臣のした本件更新不許可処分には,難民である被控訴人に対し,難民条約32条1項が定める権利を保障しなかった難民条約違反,難民不認定処分に対する異議申出の手続的権利を考慮しなかった違法があり,これらの事由は,国家賠償法上の違法事由に当たるというべきである旨主張する。 しかしながら,被控訴人が難民といえるかどうかはひとまず措くとしても,在留期間更新に関する手続と退去強制に関する手続とは別個の手続であり,在留期間更新不許可処分がされたからといって,直ちに当該外国人が強制退去させられることになるものではない。強制退去させられるかどうかは,最終的には退去強制令書が発付されるか否かに懸かっているのである。本件更新不許可処分がされたからといって,被控訴人は,直ちに強制退去させられるものではなく,したがって,本件更新不許可処分に難民条約32条1項が定める権利を保障しなかった難民条約違反,難民不認定処分に対する異議申出の手続的権利を考慮しなかった違法があるとはいえないものというべきである。 被控訴人は,更新不許可処分がされた以上退去強制手続の対象となり,最終的には本邦から強制的に排除されることが必然的な成り行きであるから,更新不許可処分を行うことは,実質的には被控訴人を追放するための手続を開始したものと同視し得る旨主張するが,本件更新不許可処分により被控訴人は適法な在留資格を失うことになるから被控訴人が自発的に出国しない場合には法24条4号ロに該当するものとして退去強制手続の対象となり得るとはいえても,同条は,その各号に該当す 許可処分により被控訴人は適法な在留資格を失うことになるから被控訴人が自発的に出国しない場合には法24条4号ロに該当するものとして退去強制手続の対象となり得るとはいえても,同条は,その各号に該当する者に対しては強制退去をさせ得ることを定めたものであって,該当するすべての者について直ちに退去強制手続を採るよう行政庁に命じているものではなく,行政庁が適切な裁量権を行使して適切な時期に適切な者に対して退去強制手続を開始することも認めているものと解されるのである。現に,被控訴人は,本件更新不許可処分がされたにもかかわらず,その後法務大臣により在留特別許可を受け,現在も我が国に在留しているのである。したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。 そうすると,法務大臣のした本件更新不許可処分には,被控訴人が主張する違法はないというべきであるから,被控訴人の被控訴人国に対する国家賠償請求は,その余について判断するまでもなく,すべて理由がないというべきである。なお,法務大臣が被控訴人に対して本件不認定処分をしたことが違法ではないことは,上記1で判断したとおりである。 3 結論以上によれば,被控訴人の第1事件請求,第2事件請求はいずれも理由がないというべきであるから,原判決中被控訴人国に対する請求を棄却した部分は正当であるが,控訴人に対する請求を認容した部分は不当である。 よって,原判決中控訴人敗訴部分を取り消して被控訴人の控訴人に対する請求を棄却し,被控訴人の被控訴人国に対する本件控訴を棄却することとして,主文のとおり,判決する。 東京高等裁判所第20民事部裁判長裁判官久保内卓亞裁判官大橋弘裁判官長谷川誠 判所第20民事部裁判長裁判官久保内卓亞裁判官大橋弘裁判官長谷川誠
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