- 1 -主文 本件訴えを却下する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求法務大臣は,原告に対し「日本人の配偶者等」の在留資格で在留期間を3,年としてその在留を特別に許可せよ。 第2事案の概要本件は,退去強制令書の発付を受けた外国人である原告が,その後に生じた事情があるとして,それを理由に,法務大臣が原告の本邦への在留を特別に許可すべき旨を命ずることを求める義務付け訴訟である。 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲1,2)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1)原告の国籍及び入国,在留状況原告はフィリピン共和国(以下「フィリピン」という)で生育してその。 国籍を有する男性(▲年▲月▲日生)であり,平成4年10月23日,本邦で不法就労をする目的で,新東京国際空港(成田空港)に到着し,他人名義の偽造旅券を使用して不法入国し,以後不法就労に従事した。 原告は,平成16年11月4日,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)違反の容疑で現行犯逮捕され,平成17年1月14日,東京。 地方裁判所八王子支部において,同法違反の罪(不法在留)により○の判決を言い渡された。 (2)退去強制手続平成17年1月13日以降,東京入国管理局において原告に対する退去強制手続が行われた。原告は,同月14日,収容令書の執行により同局収容場に収容され,違反調査,審査を経て,同年1月19日,同局入国審査官は,- 2 -原告が入管法24条1号(不法入国)に該当すると認定した。原告は,特別審理官に対し口頭審理を請求したが,同局特別審理官は,口頭審理を経て,同年2月3日,入国審査官の上記認定が誤りがないと判定した。原告は,同法49条1項の規定により,法務大臣に対し異議を申し出たが,同大臣から し口頭審理を請求したが,同局特別審理官は,口頭審理を経て,同年2月3日,入国審査官の上記認定が誤りがないと判定した。原告は,同法49条1項の規定により,法務大臣に対し異議を申し出たが,同大臣から権限の委任を受けた東京入国管理局長は,同月8日,原告の異議の申出には理由がないとの裁決をした(以下「本件裁決」という。そして,同局主。)任審査官は,同月9日,原告に対し,フィリピンを送還先とする退去強制令書を発付した(以下「本件退令発付処分」という。 。)原告は上記令書の執行により東京入国管理局収容場に収容され,平成17年8月9日,入国者収容所東日本入国管理センターに移収され,同年12月26日,仮放免された。 (3)取消訴訟(以下「前訴」という)。 原告は,平成17年8月9日,本件裁決及び本件退令発付処分の取消しを求めて東京地方裁判所に提訴したが,同裁判所は,平成18年10月6日,請求をいずれも棄却する判決を言い渡した。原告は控訴したが,東京高等裁判所は,平成19年1月16日に口頭弁論を終結し,同年2月27日,控訴を棄却する判決を言い渡した。原告は上告及び上告受理の申立てをしたが,最高裁判所は,同年6月19日,上告を棄却し,上告を受理しない決定をした。 (4)原告の婚姻関係原告は,東京入国管理局収容場に収容されていた平成17年1月24日,埼玉県入間市長に対し,日本人女性のA(昭和▲年▲月▲日生。以下「妻」という)との婚姻を届け出た。 。 妻は,以前,日本人と婚姻し,一男二女をもうけたが,平成11年5月に離婚した。原告と妻は,平成13年4月ころから交際を始め,同年6月には肉体関係をもった。妻は,当時,借家で3人の子と同居していたが,息子は- 3 -同年中に別居した。娘2人とはその後も同居を続けたが,妻は原告との交際を深め,やがて ころから交際を始め,同年6月には肉体関係をもった。妻は,当時,借家で3人の子と同居していたが,息子は- 3 -同年中に別居した。娘2人とはその後も同居を続けたが,妻は原告との交際を深め,やがて原告宅で夜を過ごすようになった。そして,二女が,次いで長女も,妻と一緒に原告宅に泊まりに行くようになり,娘たちも原告と親密になった。原告と妻は,平成16年2月ころに婚姻の合意をし,同年夏ころには娘2人の,同年9月ころには息子の了解を得た。原告が逮捕される前から婚姻の手続に必要な書類の準備を始めていたが,書類がそろうのに時間がかかったため,婚姻の届出は原告の退去強制手続開始後となった。 原告は,逮捕前は妻と同居したことはないが,平成17年12月に仮放免された後は,妻の自宅である借家(本判決原告肩書住所地)において妻及び娘2人と同居生活をしている。現在の娘たちの年齢は,長女が20歳,二女が16歳である。 争点 本件の主要な争点は以下のとおりであり,摘示すべき当事者の主張は,別紙「原告の主張の要旨」のほか,後記第3「争点に対する判断」に掲げるとおりである。 (1)本件訴えの性質本件訴えが,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)3条6項1号の。 義務付けの訴え(非申請型義務付けの訴え)であるか,それとも同項2「」号の義務付けの訴え(申請型義務付けの訴え)であるかが争点となる。 「」なお,争点(2)以下の争点は,本件訴えが非申請型義務付けの訴えであることを前提とした争点設定である。仮に本件訴えが申請型義務付けの訴えであるとすると,義務付けのみを求め,不作為の違法確認の訴え又は取消訴訟若しくは無効等確認の訴えを併合提起しない本件訴えは,それだけで訴訟要件を欠き不適法となるから(同法37条の3第3項,争点(2)以下を判断)する必要がない。 ,不作為の違法確認の訴え又は取消訴訟若しくは無効等確認の訴えを併合提起しない本件訴えは,それだけで訴訟要件を欠き不適法となるから(同法37条の3第3項,争点(2)以下を判断)する必要がない。 (2)訴訟要件- 4 -被告は,本件裁決が取り消されない以上,法務大臣には原告の在留を特別に許可する権限がないところ,本件裁決が適法であることについては前訴判,,決に既判力が生じておりこれが取り消される事態はおよそ想定し難いから本件訴えは訴えの利益を欠き不適法であると主張するので,この主張の当否が争点となる。 また,本件訴えが非申請型義務付けの訴えであるとすると,行訴法37条の2第1項の定める訴訟要件を満たしているかが問題となる。被告からこの点についての主張はないが,訴訟要件にかかわる問題であるから職権をもって判断する必要がある。 (3)原告の本案勝訴要件本件訴えが訴訟要件をすべて満たしている場合,行訴法37条の2第5項の定める本案勝訴要件を満たしているかが更に争点となる。 第3争点に対する判断 争点(1)(本件訴えの性質)について法務大臣は,退去強制手続の対象となった外国人が退去強制対象者(入管法24条各号のいずれかに該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない外国人のこと)に該当すると認められ,同法49条1項の規定による異議の申出が理由がないと認める場合においても,その外国人が同法50条1項各号のいずれかに該当するときは,その者の在留を特別に許可することができる(同条1項柱書。この在留特別許可は,同法49条4項の適用については,異議の申出が)理由がある旨の裁決とみなされるから(同法50条3項,法務大臣から在留)特別許可をした旨の通知を受けた主任審査官は,直ちにその外国人を放免しなければならない。 このほかに,本邦にある在 申出が)理由がある旨の裁決とみなされるから(同法50条3項,法務大臣から在留)特別許可をした旨の通知を受けた主任審査官は,直ちにその外国人を放免しなければならない。 このほかに,本邦にある在留資格未取得外国人(同法61条の2の2第1項),,参照から難民の認定の申請がありその難民の認定をしない処分をするとき又は定住者の在留資格の取得を許可しないときは,法務大臣は,当該在留資格- 5 -未取得外国人の在留を特別に許可すべき事情があるか否かを審査するものとされ,当該事情があると認めるときは,その在留を特別に許可することができる(同条2項。 ),,これらの規定が定める在留特別許可は退去強制対象者と認められた外国人あるいは,難民の認定がされず又は難民の認定はされたが定住者の在留資格の取得が許可されなかった在留資格未取得外国人に対し,上記の入管法所定の場合に行われる恩恵的措置として,法務大臣がその在留を特別に許可するものであり,本邦にある外国人に在留特別許可を申請する権利が与えられているものではない。したがって,在留特別許可を求める旨の「法令に基づく申請(行」訴法3条6項2号)なるものは存在しないから,法務大臣が在留特別許可をすべき旨を命ずることを求める義務付けの訴えは,非申請型義務付けの訴えである。 以上のとおり本件訴えは非申請型義務付けの訴えであるから更に争点(2),,以下の検討を進めることとする。 争点(2)(訴訟要件)について被告は,前訴判決の既判力を理由に,法務大臣には原告に対し在留特別許可を与える権限がないと主張し,したがって本件訴えには訴えの利益がないと主張する。 原告は,本件訴えにおいて,本件裁決及び本件退令発付処分が違法であると主張しているのではなく,これらが違法ではないことを前提として,本件裁 主張し,したがって本件訴えには訴えの利益がないと主張する。 原告は,本件訴えにおいて,本件裁決及び本件退令発付処分が違法であると主張しているのではなく,これらが違法ではないことを前提として,本件裁決後に生じた事情(後発的事情)があるとして,それを理由に法務大臣が在留特別許可をすべきであると主張している。本件裁決の効力が存続している状態においては,被告が主張するとおり,これと矛盾する処分である在留特別許可を法務大臣が行うことはできないし,在留特別許可は,入管法所定の場合に行われるものであるが,本件で在留特別許可が行われ得るようにしようとするならば,本件裁決の効力を失わせ,改めて裁決が行われる機会を設けなければなら- 6 -ない(入管法50条1項柱書参照。したがって,原告は,在留特別許可をす)べきであるとする主張の当然の論理的前提として,法務大臣が本件裁決の効力を失わせるべきことを主張しているものと解するほかないところ,有効に成立した行政行為の効力を,後発的事情を理由として行政庁が失わせることは,講学上「行政行為の撤回」と呼ばれるから,原告の主張は,同大臣が本件裁決を撤回した上で新たに在留特別許可をすべきであるということに帰することになる。そうすると,前訴の既判力いかんにかかわらず,法務大臣が上記撤回を行うことが法律上義務付けられることがないままである本件において,いきなり在留特別許可の義務付けを求めることはできないといわざるを得ず,その意味において,本件訴えは,広義の訴えの利益を欠くということになる。 結論 よって,本件訴えは,非申請型義務付けの訴えであるが,広義の訴えの利益を欠くので,その余の点について判断するまでもなく,不適法として却下すべきである。 補論以上のとおり,本件訴えは不適法として却下するほかないが,原告の主 義務付けの訴えであるが,広義の訴えの利益を欠くので,その余の点について判断するまでもなく,不適法として却下すべきである。 補論以上のとおり,本件訴えは不適法として却下するほかないが,原告の主張にかんがみ,訴訟要件の点をさておき,本案(争点(3))についての当裁判所の判断を示しておくこととする。 在留特別許可の義務付けが認められるべき事情として原告が主張する事実関係は,別紙「原告の主張の要旨」の欄に記載したとおり,①原告の居住関係,②原告の本国における家族の状況,③本邦における原告及びその家族の状況の3点である。 このうち,上記①及び同②の主張事実は,その主張自体からして,そもそも後発的事情すなわち本件裁決後に発生した新しい事情とみることはできない。 したがって,これらの事実を理由に,法務大臣が本件裁決を撤回し,原告の在留を特別に許可すべきであるとする余地はない。 - 7 -これに対し,上記③の主張事実の中には,一見したところ,後発的事情といえそうなものがあるようにもみえる。しかし,原告の主張するところは,詰まるところ,既に本件裁決前に生じていた原告と妻,原告と娘2人との関係が,本件裁決後に深化したということにすぎず,基礎となる事実関係はいずれも本件裁決前から存在している。これを具体的にみると,前記前提事実によれば,原告は,平成13年6月には妻と肉体関係をもち,以後交際を深め,夜を共に過ごすようになり,やがて妻の娘2人とも親密な関係になってから,平成17年1月24日に婚姻の届出をしている。本件裁決はその後の同年2月8日である。そうすると,上記③の事実も,結局は本件裁決前に生じていた事実と同視することができるから,後発的事情とみることはできない。 なお,証拠(甲1,2)によれば,前訴判決は,本件裁決の前から原告と妻の間に婚姻の実体が 上記③の事実も,結局は本件裁決前に生じていた事実と同視することができるから,後発的事情とみることはできない。 なお,証拠(甲1,2)によれば,前訴判決は,本件裁決の前から原告と妻の間に婚姻の実体があり,妻の娘2人と原告の間にも親密な関係が形成されていたことを前提とした上で,それにもかかわらず本件裁決は適法であるとの判断を下したことが認められるから,その判断は,原告と妻及び娘2人からなる家族に本件裁決後現に生じ,将来生じ得る事態をも予測した上で行われたものといわざるを得ない。このことからしても,上記③の事実は,前訴において原告が主張した事実の蒸し返しというべきであって,これが後発的事情であるとする原告の主張に理由がないことは明らかである。 以上の検討によれば,原告の主張する上記①から同③までの事実は,いずれも本件裁決前から存在した事実あるいはこれと同視し得る事実であるから,本件裁決が撤回された上で,原告に対して新たに在留特別許可をすべきことを基礎付ける後発的事情にはなり得ない。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官大門匡- 8 -裁判官倉地康弘裁判官小島清二- 9 -(別紙)原告の主張の要旨原告には,本件裁決後に生じた以下の事情があるので,市民的及び政治的権利に関する国際規約17条,23条,24条1項及び児童の権利に関する条約並びに比例原則を根拠として「日本人の配偶者等」の在留資格で在留期間を3年とする在,留特別許可が与えられるべきである。 原告の居住関係原告は,本邦において就業し,我が国社会の中で平穏に暮らし,在日フィリピン人のコミュニティにおいても役割を果たしてきた。 原告の本国における家族の状況フィリピンには原告の両親と兄がいるが,その生活は原告を含めた子・兄弟による海外からの支援によ 暮らし,在日フィリピン人のコミュニティにおいても役割を果たしてきた。 原告の本国における家族の状況フィリピンには原告の両親と兄がいるが,その生活は原告を含めた子・兄弟による海外からの支援によって成り立っている。同国には,また,原告のかつての(,。),恋人とその間の子がいるがただしこの子が原告の子であるとの確証はない原告とは別の生活を構えている。 本邦における原告及びその家族の状況原告と妻とは婚姻届出前から夫婦同然の生活を送っており,経済的な一体性も非常に強かった。この状況は現在も何ら変わるところがないばかりか,妻の体調が完全ではない状況の下で,妻及び娘2人と原告からなる家族にとって原告の存在の意味は一層増している。 二女は,小学生のころから原告と共に過ごし,自分にとっても大切な存在として原告を受け止めてきた。長女にとっても,二女ほどではないとしても同様のことがいえる。原告がいなくなることは,将来的にさまざまな心理的・経済的・社会的不利益を娘ら特に二女に与えることになり「子供の最善の利益」に悪影響,を与えることは必至である。 原告がフィリピンに送還されれば上記家族と分離されてしまうことはいうまで- 10 -もなく,しかも実務上5年は本邦への入国を認めないことが原則となっており,5年経過後も入国が確実とはならない。言葉や文化の問題などがあり,妻及び娘らがフィリピンに行く選択はあり得ない。
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