平成28年3月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第13006号職務発明補償金請求事件口頭弁論の終結の日平成28年1月21日判決 原告 A 被告太陽生命保険株式会社同訴訟代理人弁護士城山康文同村上 遼 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,5000万円及びこれに対する平成27年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の従業員であった原告が,被告に在籍中にした職務発明について特許を受ける権利を被告に承継させたと主張して,被告に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条(以下「旧35条」という。)3項に基づく相当の対価請求として,48億3302万1134円の一部である5000万円及びこれに対する平成27年5月15日(本件訴えの提起の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。) ⑴ 当事者原告は,昭和52年4月から平成26年3月までの間,被告の従業員として被告又は被告の関連会社に勤務し,同月に被告を定年退職した後,同年4月からは,被告の関連会社に常勤の嘱託従業員として勤務している。 被告は,生命保険業等を目的とする株式会社であり,平成15年4月,相互会社から株式会社に組織変更した。 (甲2,4)⑵ 被告の特許権ア被告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特 は,生命保険業等を目的とする株式会社であり,平成15年4月,相互会社から株式会社に組織変更した。 (甲2,4)⑵ 被告の特許権ア被告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」という。)を有している。 特許番号第3682274号発明の名称会計管理方法,会計管理装置,記録媒体及びコンピュータ・プログラム製品出願日平成14年6月26日登録日平成17年5月27日イ本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4の記載は,本判決添付の特許公報の該当項記載のとおりである。(以下,それぞれの請求項の符号に従い「本件発明1」のようにいい,これらを併せて「本件発明」という。)。 ウ本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである。(以下,分説した構成要件を,それぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。 A 基本契約情報及び顧客償還情報を含むクレジット契約データを記憶する記憶装置と中央処理装置とを含む会計管理装置を用いた会計管理方法であって,B 前記中央処理装置が,B-1 記憶装置に記憶されたクレジット契約データの基本契約情報である支払利息総額と,今回の返済回次を読み出すとともに,クロック から現在時点を読み出すステップと,B-2 読み出した今回の返済回次に基づき今回の残存回数と前回の残存回数を算出し,算出された前回の残存回数に基づき,下記式(1)に従って,前回の未経過利息率を算出し,算出された今回の残存回数に基づき,下記式(1)に従って,今回の未経過利息率を算出するステップと,B-3 読み出した支払い利息総額と算出した今回の未経過利息率及び前回の未経過利息率に基づき演算下記式(2)に従って,利息額を算出し,記憶装置に記憶させるステップとB-4 るステップと,B-3 読み出した支払い利息総額と算出した今回の未経過利息率及び前回の未経過利息率に基づき演算下記式(2)に従って,利息額を算出し,記憶装置に記憶させるステップとB-4 記憶装置に記憶したクレジット契約データの今回の顧客返済額と前回の償還情報である前回積立利息残高とを読み出し,顧客返済額が,前回積立利息残高よりも大又は等しいか否かを比較し,比較結果,顧客返済額が,前回積立利息残高よりも大又は等しい場合,前回積立利息残高を今回の償還情報である積立利息内入額として,記憶装置に記憶させ,顧客返済額が,前回積立利息残高よりも小である場合,顧客返済額を今回の償還情報である積立利息内入額として,記憶装置に記憶させるステップと,B-5 記憶装置に記憶させた利息額と今回の顧客返済額と今回の積立利息内入額とを読み出し,利息額が,顧客返済額から積立利息内入額を引いた額に対して,小又は等しいか否かを比較し,比較結果,利息額が,顧客返済額から積立利息内入額を引いた額に対して,小又は等しい場合,利息額を今回の償還情報である経過利息額として,記憶装置に記憶させ,比較結果,利息額が,顧客返済額から積立利息内入額を引いた額に対して,大である場合,顧客返済額から積立利息内入額を引いた 額を今回の償還情報である経過利息額として,記憶装置に記憶させるステップと,B-6 読み出した顧客返済額と演算された今回の積立利息内入額と今回の経過利息額に基づき,次式(3)に従って,今回の元金内入額を算出し記憶装置に記憶させるステップと,B-7 前回の償還情報である前回所要資金残高を記憶装置から読み出し,読み出した前回所要資金残高と演算により求めた今回の元金内入額に基づき次式(4)に従って今回の返済後所用 憶させるステップと,B-7 前回の償還情報である前回所要資金残高を記憶装置から読み出し,読み出した前回所要資金残高と演算により求めた今回の元金内入額に基づき次式(4)に従って今回の返済後所用資金残高を算出し記憶装置に記憶させるステップと,B-8 前回の償還情報である前回積み立て利息残高を記憶装置から読み出し,読み出した前回積み立て利息残高と演算により求めた今回の積立利息内入額と利息額と経過利息額に基づき次式(5)に従って今回の返済後積み立て利息残高を算出し記憶装置に記憶させるステップと,を含むことを特徴とするC 会計管理方法。 式(1): 式(2):利息額 = 支払利息総額 × 前回未経過利息率 - 支払利息総額 × 今回未経過利息率式(3):元金内入額 = 顧客返済額 - 積立利息内入額 - 経過利息額式(4):返済後所要資金残高 = 前回所要資金残高 - 元金内入額式(5):返済後積立利息残高 = 前回積立利息残高 - 積立利息内入額 + 利息額 - 経過利息額⑶ 原告の職務発明及び特許を受ける権利の承継 ア原告は,被告に在籍中,単独で本件発明をした。本件発明は,被告の業務範囲に属し,かつ,発明をするに至った行為が被告における原告の職務に属するものであって,旧35条1項所定の職務発明に当たる。 イ原告と被告は,後記(4)の職務発明規定に基づき,平成13年11月21日,原告が被告に対し,本件発明について特許を受ける権利を譲渡する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結し,これにより被告が本件発明について特許を受ける権利を承継した。 本件契約には,次の条項がおかれている。 (ア) 乙(判決注:原告)は,日本国及び他の国において本発明(判決注:本件発明に相当する「アドオン方式の が本件発明について特許を受ける権利を承継した。 本件契約には,次の条項がおかれている。 (ア) 乙(判決注:原告)は,日本国及び他の国において本発明(判決注:本件発明に相当する「アドオン方式の二重価格理論」)に基づいて特許を受ける権利を,甲(判決注:被告)に譲渡する。(1条)(イ) 前条の譲渡の対価として,甲は,乙に対して,特許出願手続時に金1万円,特許登録手続時に金1万円を支払う。両当事者は,本発明が職務発明であり,本条の対価が,本発明により甲が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて甲が貢献した程度を考慮して定められたものであり,乙は,特許法第35条(判決注:旧35条)3項に基づいて,本条の対価以外に,相当の対価の支払を求める権利を有していないことを確認する。(2条)(ウ) 本発明が特許され,かつ,第三者にライセンス又は譲渡されることなどにより甲が利益を受けた場合には,甲は乙とその報奨金の支払いにつき,協議するものとする。(3条)(エ) 本契約書の締結にあたり,乙は,職務発明等に関する特許法の規定及びこれに関する判例について,理解した上で,契約を締結したことを確認する。(4条)(甲9)ウ被告は,原告に対し,本件契約2条に基づき,本件発明に係る特許を受 ける権利の譲渡の対価として,平成13年11月21日(本件契約の締結日)に1万円,平成17年9月5日に1万円の合計2万円を支払った。 また,被告は,本件特許につき第三者に実施許諾をしておらず,被告以外の第三者が本件発明を実施している事実もない。 (甲28,34,35)⑷ 被告の職務発明規定被告は,従業員が職務発明をした場合の取扱等について,本件契約の締結日である平成13年11月21日の時点において,職務発明規定(以下「本件規定」という 28,34,35)⑷ 被告の職務発明規定被告は,従業員が職務発明をした場合の取扱等について,本件契約の締結日である平成13年11月21日の時点において,職務発明規定(以下「本件規定」という。)を設けていた。本件規定には,被告従業員の職務発明についての特許を受ける権利の譲渡及び補償等について,次の条項がおかれている。 ア従業員が会社の業務範囲に属する発明をした場合は,当該従業員はその内容を自己の所属長に対し届け出るものとし,所属長は遅滞なくその内容を会社に届出なければならない。(3条)イ従業員は,前条により届出た発明で,職務発明に該当するものについては,その発明の日本国および外国における特許を受ける権利を会社に譲渡しなければならない。(4条1項)ウ会社は,第4条第1項(中略)により特許を受ける権利を譲り受けた場合,必要と認めるものについて特許出願を行う。(6条1項)エ前条第1項により特許出願を行った場合には,会社は発明者に金10,000 円の補償金を支給する。(7条)オ第6条第1項により特許出願を行った発明に特許権が設定された場合には,会社は発明者に金10,000 円の補償金を支給する。(8条)(乙1)⑸ 被告による会計管理被告は,日立キャピタル株式会社(以下「日立キャピタル」という。)や 東芝ファイナンス株式会社(現在は,イオンプロダクトファイナンス株式会社に商号変更されている。以下,商号変更の前後を通じ「東芝ファイナンス」という。)との提携に係るローンを実行しており,その会計を管理するための方法(以下「被告方法」という。)を実現するための会計管理プログラムを電子計算機の記憶装置に記憶させ,そこから金額を読み出して計算に使用している。なお,被告方法においては,支払利息総額又は顧客返済額 方法(以下「被告方法」という。)を実現するための会計管理プログラムを電子計算機の記憶装置に記憶させ,そこから金額を読み出して計算に使用している。なお,被告方法においては,支払利息総額又は顧客返済額ではなくこれらからそれぞれ保証料を控除した額を使用している。 (6) 被告による消滅時効の援用被告は,平成27年7月9日の第1回口頭弁論期日において,原告の相当対価請求権につき消滅時効を援用する旨の意思表示をした。(弁論の全趣旨) 2 争点(1) 本件発明についての相当対価請求権の有無及び対価の額(争点1)(2) 相当対価請求権の放棄の有無(争点2)(3) 消滅時効の成否(争点3) 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(本件発明についての相当対価請求権の有無及び対価の額)について[原告の主張]ア被告が本件発明1を実施していること本件特許の出願範囲は,本件発明の対象となる提携消費者ローンのソフトウェアの構成範囲の一部にすぎない。 被告方法においては,本件発明1の「支払利息総額」又は「顧客返済額」ではなく,これらからそれぞれ保証料を控除した額を使用しているが,電機メーカー系クレジット会社において保証料を控除するのは,クレジット契約の返済回次とは無関係に回収経費を一定に保つための政策事項にすぎない。他方,提携金融機関の立場では,電機メーカー系クレジット会社 (日立キャピタル及び東芝ファイナンス)が実施する提携消費者ローンにおいて,本件発明1の構成要件B-4,B-5及びB-6の各「顧客返済額」(広義の顧客返済額)を,狭義の顧客返済額(クレジット会社が使用する広義の顧客返済額から保証料を控除したもの)と認識させ,構成要件B-1,B-2及びB-3の各「支払利息総額」(広義の支払利息総額)を,狭義の支払 済額)を,狭義の顧客返済額(クレジット会社が使用する広義の顧客返済額から保証料を控除したもの)と認識させ,構成要件B-1,B-2及びB-3の各「支払利息総額」(広義の支払利息総額)を,狭義の支払利息総額(クレジット会社が使用する広義の支払利息総額から保証料総額を控除したもの)と認識させれば,ソフトウェアは正常に作動し,業務に支障は生じない。 「顧客返済額」及び「支払利息総額」をそれぞれ上記のように解釈すれば,被告方法は本件発明1の技術的範囲に含まれるから,被告が本件発明を実施していると認められる。 イ本件発明により被告が受けるべき利益が存在すること被告は,旧35条4項の「使用者等が受けるべき利益」を職務発明の排他的な実施によって得られる利益(独占の利益)に限定しているが,このような主張は,判例の動向を踏襲しておらず,狭きに失する。本件発明のように会計基準をターゲットとしている場合には,発明自体に利益が存在するわけではなく,発明を具現化したソフトウェアを稼働して初めて収益が認識できるものであるから,他社に対する実施(使用)の禁止に主眼をおくのではなく,広くクレジット会社のほか金融機関や保険会社が利用できるような実施形態の実現に主眼をおくべきである。 本件においては,本件特許及びノウハウを含めた周辺領域が,業務提携の中核部分として被告の提携消費者ローンという領域における営業基盤の形成という成果の実現に極めて大きな役割を果たしている。なお,本件特許とノウハウとは実態として同一であるが,正確には,上記成果は本件特許ではなく,本件特許の領域に係るノウハウによるものである。すなわち,日立キャピタルとの関係では,本件特許の領域に係るノウハウが同社から 技術面で高い評価を得たために,平成10年1月度以降,新規実行額が増加した 領域に係るノウハウによるものである。すなわち,日立キャピタルとの関係では,本件特許の領域に係るノウハウが同社から 技術面で高い評価を得たために,平成10年1月度以降,新規実行額が増加した上,同社のグループ企業である沖縄日立キャピタル株式会社との業務提携を実現するという市場独占に匹敵する事実も存在する。また,東芝ファイナンスとの関係では,同社が平成12年5月から農水機器ローン制度を導入しており,これは本件特許の領域に係るノウハウのライセンスに相当するから,被告は,実施料相当額として金利に相当する金員を受領するに至ったはずであり,これも被告が受けるべき利益(超過売上高)に該当する。 ウ本件発明の価値が高いこと(ア) 本件発明の本質本件発明の本質は,①資産認識(償却原価法),②データ構造,③積立利息の積立方法と充当方法の3点にあり,本件特許に係る特許出願の願書に添付した明細書(甲27の特許公報を参照。以下「本件明細書」という。)の「特許請求の範囲」に記載された会計管理方法,会計管理装置,記録媒体,コンピュータ・プログラム製品は,いずれも本件発明の本質ではない。 上記①の資産認識(償却原価法)とは,貸借対照表の計上額は金利(未経過利息)を含む資産額とするか,金利を含まない資産額とするかの議論であり,本件発明の前提条件を構成する。また,上記②のデータ構造と上記③の積立利息の積立方法と充当方法は,いずれも原告が発明したものではなく,金融機関が実施している変動金利型住宅ローンの商品構造(計算構造)を応用したものである。 このように,本件発明の最大の特徴は,住宅ローン分野の商品構造(計算構造)をクレジット分野(アドオン方式)に引用したことにある。 (イ) 会計管理の観点から見た本件発明の価値本件発明は,日本公認会計士協会 ,本件発明の最大の特徴は,住宅ローン分野の商品構造(計算構造)をクレジット分野(アドオン方式)に引用したことにある。 (イ) 会計管理の観点から見た本件発明の価値本件発明は,日本公認会計士協会が平成12年1月度に公表した「金 融商品会計に関する実務指針」に示された会計基準を前提条件とし,償却原価法としてクレジット分野で普及している78(しちはち)分法による収益認識を採用している。 本件発明は,提携消費者ローンの会計管理手法に関するスタンダードたる地位を獲得した結果,この事業における会計管理面の市場優位性を獲得するに至っている。このことは,本件発明について公認会計士から「特許発明したアドオン方式の二重価格理論は償却原価法の計算理論を多様化したもので,金融商品会計の実務指針(会計基準)の記載事項そのものであり,また,ご存じのとおり,国際会計基準委員会はあらゆる金融商品に公正価格評価をもとめているため,このアドオン方式の二重価格理論は今後の金融商品会計の動向を踏襲しており,事業展望としても充分におしてみる価値があります。」との意見を得られたこと(甲8)からも裏付けられる。 (ウ) 営業基盤形成の観点から見た本件発明の価値被告は,本件特許の登録時点において,日立キャピタルと東芝ファイナンスという提携消費者ローンの事業会社を獲得し,その取引基盤を形成するに至っている。したがって,本件発明は,提携消費者ローンという領域における被告の営業基盤の形成に極めて大きな役割を果たしたといえる。 具体的には,被告が日立キャピタルと取引を開始する契機となったのは,農水機器ローンであるが,本件特許及びこれに係るノウハウが同社から技術面で評価されたために新規実行額が増加した。また,被告は,日立キャピタルの主導により,同社のグループ企業とも る契機となったのは,農水機器ローンであるが,本件特許及びこれに係るノウハウが同社から技術面で評価されたために新規実行額が増加した。また,被告は,日立キャピタルの主導により,同社のグループ企業とも業務提携を実現しており,このことも,本件発明が被告に対し,営業基盤の開拓に匹敵する利益をもたらしたといえる。 さらに,東芝ファイナンスも農水機器ローン制度を導入しているが, これは本件特許に係るノウハウのライセンスに相当するとみるべきであり,被告と東芝ファイナンスとの間でノウハウ提供に関する契約書などは締結されていないものの,被告は,東芝ファイナンスから,本件特許に係るノウハウの実施料相当額として,年利0.1%ないし0.20%の金利相当額を受領していると考えられる。 (エ) 被告の主張に対する反論被告は,本件発明には進歩性がなく,無効審判により無効とされて然るべきものである上,その技術的価値も乏しいと主張する。 しかしながら,被告は本件特許によって現に利益を上げてきたのであり,従業員が相当対価請求をした場面で上記主張をすることは,信義則(禁反言)に反する上,上記(ア)のとおり,本件発明の最大の特徴は,住宅ローン分野の計算構造をクレジット分野(アドオン方式)に引用したことであるところ,通常の創作能力を発揮することにより本件発明に容易に想到できる当業者は皆無又はごく僅少であるから,本件発明の進歩性は否定されない。また,コンピュータソフト関連発明では,まず,ソフトウェアが発明の主役として認められることが前提であり,ハードウェアが独立して発明の主役になるわけではないから,本件発明の技術的価値が乏しいという被告の主張にも理由がない。 エ相当対価の額上記のとおり,被告は,本件発明を実施するのみならず,本件発明に係るノウハウの使 明の主役になるわけではないから,本件発明の技術的価値が乏しいという被告の主張にも理由がない。 エ相当対価の額上記のとおり,被告は,本件発明を実施するのみならず,本件発明に係るノウハウの使用や他社への許諾等によって多大な利益を上げている。そして,本件特許の対象は金融商品(提携消費者ローン)であるため,新規売上(新規実行)そのものが収益(利息)をもたらすわけではなく,当該契約の残高を保有し利息の支払を受けて初めて収益(利息)をもたらすから,相当の対価の額を求めるに当たっては,超過売上高×仮想的実施料率×発明者貢献度(一般的な自社実施型の場合)によるのではなく,期待収益×市場規模×仮 想的実施料率×発明者貢献度によるのが相当である。 したがって,被告が原告に支払うべき相当対価の額は,次の計算式により,48億3302万1134円となる。 (計算式)82億4286万5766円(被告の中間利息控除後の期待収益)×131.2956(市場規模(市場倍率))×0.03(仮想的実施料率)×0.15(発明者貢献度)-{3709万2895円(自社実施分の相当対価請求額)+2万円(受領済みの補償金)}=48億3302万1134円[被告の主張]ア被告による本件発明1の不実施(ア) 被告方法が計算に用いているのは,顧客が支払った利息の総額又は顧客が返済した額から保証料の額を控除した金額である。他方,本件発明1の構成要件B-1,B-2及びB-3の「支払利息総額」又は「支払い利息総額」及び本件発明1の構成要件B-4,B-5及びB-6の「顧客返済額」の各文言は,次のとおり,それぞれ顧客が支払った「利息の総額(そのもの)」又は,「顧客が返済した額(そのもの)」と解釈されるから,被告方法は本件発明1の技術的範囲に属さず,本件発明1の実施 返済額」の各文言は,次のとおり,それぞれ顧客が支払った「利息の総額(そのもの)」又は,「顧客が返済した額(そのもの)」と解釈されるから,被告方法は本件発明1の技術的範囲に属さず,本件発明1の実施には当たらない。 ① 「支払(い)利息総額」被告方法において記憶装置に記憶し,読み出して計算に使用しているのは,顧客が支払った支払利息の総額ではなく,そこから提携信販会社が収受した保証料を控除した金額である。 したがって,被告方法は,構成要件B-1,B-2及びB-3を充足しない。 ② 「顧客返済額」の要件について被告方法において構成要件B-4及びB-5の比較並びに構成要 件B-6の算出に使用しているのは,顧客返済額そのものではなく,そこから提携信販会社が収受した保証料を控除した金額である。 したがって,被告方法は,構成要件B-4,B-5及びB-6を充足しない。 (イ) 原告は,「狭義の利息総額」及び「広義の利息総額」という概念を持ち出し,提携金融機関が使用する利息総額(狭義の利息総額)とはクレジット会社が使用する利息総額(広義の利息総額)から保証料総額を控除したものであると主張する。また,「狭義の顧客返済額」及び「広義の顧客返済額」という概念を持ち出し,提携金融機関が使用する顧客返済額(狭義の顧客返済額)とはクレジット会社が使用する顧客返済額(広義の顧客返済額)から保証料を控除したものであるなどと主張する。 しかしながら,本件明細書には,「狭義の」支払利息総額(顧客返済額)」又は「広義の」支払利息総額(顧客返済額)などという概念は記載も示唆もされておらず,業界においてこのような概念が用いられているということもない。本件明細書に記載のないこのような独自の概念を持ち出さなければ説明がつかないこと自体,被告方法が本件 いう概念は記載も示唆もされておらず,業界においてこのような概念が用いられているということもない。本件明細書に記載のないこのような独自の概念を持ち出さなければ説明がつかないこと自体,被告方法が本件発明1の構成要件を充足しないことを示している。 (ウ) 以上のとおり,被告は本件発明1を実施していない。 イ本件発明により被告が受けるべき利益が存在しないこと旧35条4項の「使用者等が受けるべき利益」とは,特許権の取得により発明を実施する権利を独占することによって得られた利益を意味し,本件のように従業員が自社実施を主張している場合にあっては,発明の排他的な実施によって得た超過利益と言い換えることもできる。 原告は,当該契約の残高を保有し利息の支払を受けて初めて収益(利息)をもたらすことになる点で,通常の特許の場合と大きく異なると主張する が,ローンの残高を保有し利息の支払を受けることは,まさに貸付けと回収という被告の事業活動そのものである。信販会社が,どの資金提供会社と提携してローン商品を販売するかは,金利や利益率など,ローンそのものの条件によって決定されるのであって,本件発明が存在することを理由に提携消費者ローンの採用が決定されるのではない。現に,被告が手作業によって会計管理を行っていた平成10年1月までの間も,被告の提携消費者ローンは信販会社に受け入れられ,その残高を伸ばしていた。本件特許は,手計算によって既に実現されていたこのような会計管理上の計算方法について,ハードウェアを利用する形のシステムとして構成し,それを事後的に特許出願したものであり,ハードウェアを利用するという点については何ら工夫や効果はない。 また,本件発明に係る会計管理方法等は,残高や支払を受けた利息を会計上どう管理するかを問題とするものであり,ロ 許出願したものであり,ハードウェアを利用するという点については何ら工夫や効果はない。 また,本件発明に係る会計管理方法等は,残高や支払を受けた利息を会計上どう管理するかを問題とするものであり,ローンによる収益,すなわち被告の提携消費者ローンの実行という事業活動そのものによって得られる収益とは明確に区別される。仮に原告が主張するように日立キャピタルの農水機器ローンの取扱高の増加があったとしても,それは,同社の事業の構造転換の試みと重点分野への経営資源の重点的な投下というまさに同社の事業活動の展開の結果であって,会計管理方法に係る本件発明の実施と関係を有するものではない。なお,原告の主張する「市場規模」は,クレジット業界の事業活動全体による収益とでもいうべきものであり,本件発明の実施による利益とは無関係である。 なお,本件発明は,農水機器ローンの実行に必須のものではない。また,東芝ファイナンスや日立キャピタルのような信販会社がどの資金提供会社と提携してローン商品を販売するかは,金利や利益率など,ローンそのものの条件によって決定されるものであり,本件発明が存在することを理由に,提携消費者ローンの採用が決定されるものではない。さらに,本件特 許が被告における日立キャピタル及び東芝ファイナンスの農水機器ローンの取扱残高の増加に貢献したことを示す根拠もない。本件特許が被告に何らかの利益をもたらすとすれば,それは被告のバックオフィスにおける会計管理コストの削減であるが,これは法定の通常実施権(特許法35条1項)においても実現可能であり,それを超えて,本件特許の存在により,他社の農水機器ローンを排除して,被告が市場で優位に立ったことを示す根拠は一切ない。 よって,被告には,本件特許により受けるべき利益が存在しない。 ウ本件発明の を超えて,本件特許の存在により,他社の農水機器ローンを排除して,被告が市場で優位に立ったことを示す根拠は一切ない。 よって,被告には,本件特許により受けるべき利益が存在しない。 ウ本件発明の価値が乏しいこと後記(ア)~(ウ)のとおり,本件発明には進歩性(特許法29条2項)がなく,本来は無効審判により無効とされて然るべきものである上,上記イのとおり,本件発明は被告に何らの利益ももたらしていない。 したがって,本件発明には価値が全くないか,あったとしても非常に限定的なものである。 (ア) 本件明細書によれば,【発明が解決しようとする課題】は,「クレジット契約が,年賦払契約,半年賦払契約,隔月払契約及び初回ミニマムペイメント契約であっても,上述した『金融商品会計の会計基準(現在価値認識)』に則して,未経過利息を含まない資産を基準とする会計管理(以下「新会計管理手法」と言う)を行うことができる会計管理手法を提供すること」にあり(段落【0007】),本件発明は,上記課題を解決するため,「1.データ構造」,「2.ルール」及び「3.会計管理手法」を採用する(段落【0013】~【0028】)。 しかしながら,本件明細書には,「データ構造」について,従来から用いられてきたデータ項目に加えて,「積立利息内入額」及び「積立利息残高」というデータ項目を採用したものであるとの記載があるが(段落【0013】,【0014】及び【表1】),これらの新たに加えられた データ項目(「積立利息内入額」及び「積立利息残高」)は,既に民法491条により想定されていた概念にすぎない。また,原告自身,「積立利息内入額」及び「積立利息残高」を含むデータ構造について,他の金融機関によって既に実施されていた変動金利型住宅ローンのデータ構造を適用したものであるこ ていた概念にすぎない。また,原告自身,「積立利息内入額」及び「積立利息残高」を含むデータ構造について,他の金融機関によって既に実施されていた変動金利型住宅ローンのデータ構造を適用したものであることを自認している。 また,本件発明の採用する「ルール」も,積立利息の積立方法及び充当方法は,単に民法491条1項の規定に従ったものにすぎないし(段落【0016】),収益をどのように認識するかについても,既にクレジット会社が採用している逓減法(78分法)をそのまま採用している(段落【0019】)。なお,原告自身,積立利息の積立方法及び充当方法について,他の金融機関が住宅ローン商品について既に使用していたものを適用したものであると自認している。 さらに,本件明細書が,新会計管理手法について,従来行われてきた会計管理手法と比べて新規であるとして列挙する事項(段落【0026】,【0027】,【0028】)は,78分法という利息の認識方法に立脚し,「積立利息内入額」及び「積立利息残高」というデータ項目を設けたことの結果の説明にとどまり,単に人間が会計管理サービスを行う際に採るべき行為そのものにすぎないのであって,新たな技術的思想に係るものではない。 このように,本件発明の基礎となった思想は,いずれも本件特許に係る特許出願の出願日(平成14年6月26日)より前に公知の規則,法則ないし事項等(例えば,上述した,民法491条1項の規定,78分法という逓減法,他の金融機関・クレジット会社により実施された事項等)を適宜選択することのみによって導き出されたものである上,人間が会計サービスを実施する際に採るべき行為そのものにすぎず,新たな技術的思想に係るものでない。 (イ) また,本件発明は,ハードウェアを用いているが,人間の行為を単に人間の代 上,人間が会計サービスを実施する際に採るべき行為そのものにすぎず,新たな技術的思想に係るものでない。 (イ) また,本件発明は,ハードウェアを用いているが,人間の行為を単に人間の代わりにそのままハードウェアに実行させるために必要な構成要素を,ハードウェアを用いて形式的に表現したものにすぎず,技術的な工夫(たとえば,処理速度を向上させる,メモリ消費量や誤差を抑えるなどの効果をもたらすための何らかの技術的な工夫)を一切含まないから,ハードウェアを用いた点にも何ら進歩性は認められない。 (ウ) なお,原告は,特許発明の構成要素について,①資産認識,②データ構造,③積立利息の積立方法と充当方法及び④収益認識の4つであり,このうち上記①~③が特許発明の本質であると主張するが,いずれも本件発明の進歩性を基礎付けるものとはなり得ない。 エ相当対価の額上記のとおり,被告には独占の利益がないから,原告の被告に対する相当対価請求権は存在しない。 なお,原告は,相当対価の額について,相当対価請求額(補償金請求額)=(期待収益×市場規模×仮想的実施料率)×(発明者貢献度)などという独自の計算を展開する。しかしながら,市場規模と被告による独占の利益は無関係であるし,原告が期待収益の計算にあたって基礎とするローンによる利息収入は,ローンの実行という被告の事業活動そのものによって得られる収益であって,本件発明の実施により得られる利益ではない。 (2) 争点(2)(相当対価請求権の放棄の有無)について[被告の主張]原告は,本件契約に係る契約書に署名押印を行うことにより,特許出願手続時に支払を受ける1万円,登録手続時に支払を受ける1万円の各請求権を除き,旧35条3項の相当対価請求権を放棄する意思表示をした。本件契約は,補 約に係る契約書に署名押印を行うことにより,特許出願手続時に支払を受ける1万円,登録手続時に支払を受ける1万円の各請求権を除き,旧35条3項の相当対価請求権を放棄する意思表示をした。本件契約は,補償金条項を有する本件規定の存在を前提に,これと重ねて締結されたものであり,本件契約2条が「乙は,特許法第35条3項に基づいて,本条 の対価以外に,相当の対価の支払を求める権利を有していないことを確認する。」と規定していることに鑑みると,同条は,本件規定に記載されたもの以外にも不足分の相当対価請求権が抽象的には存在し得ることを前提として,なおこれを放棄することを確認したものと解される。なお,本件契約3条は「第三者にライセンス又は譲渡されること」があった場合には報奨金の支払につき協議することを定めるが,本件特許は,第三者へのライセンスも譲渡もされていない。 [原告の主張]争う。 原告は,本件契約の締結に当たり,被告に対し,現時点では特段の異論はないが,本件契約締結後に本件規定を改正し,発明者である原告から協議の申し入れができるようにしてほしいと提言した。こうした経緯から,平成17年4月1日に本件規定が改訂されて「第7条および第8条に定める補償金の額によることが特許法第35条の趣旨に鑑みて不適当となるおそれがある場合には,会社または発明者からの申し出により出願補償および登録補償の額につき別途協議のうえ定めた額をもって補償金とする。」(10条)という条項が新設された。原告は,同年7月6日,新設された同条項に基づく別途協議申立書を提出して補償金請求を行ったのであり,このような本件契約の締結状況及びその後の原告・被告間のやり取りを勘案すると,本件契約2条は,当事者を拘束しない事実上の死文条項とみるべきである。 (3) 争点(3)(消 償金請求を行ったのであり,このような本件契約の締結状況及びその後の原告・被告間のやり取りを勘案すると,本件契約2条は,当事者を拘束しない事実上の死文条項とみるべきである。 (3) 争点(3)(消滅時効の成否)について[被告の主張]相当対価請求権の消滅時効の起算点は,その行使に法律上の障害が存在しない限り,特許を受ける権利を承継した時点と解すべきであるところ,本件契約において,出願補償及び登録補償の固定額が明示された上でこれとは別に相当対価請求権への言及があり,当該相当対価請求権に支払時期の定めが 付されていないことからすれば,原告としては,出願補償及び登録補償の固定額に不服があれば,本件契約の締結時点から相当対価請求権を行使できたのであり,その行使に当たって法律上の障害はもとより事実上の障害も存在しない。したがって,原告の相当対価請求権の消滅時効の起算点は,本件契約が締結された平成13年11月21日と解すべきである。原告が本件訴えを提起した平成27年5月15日の時点において,本件契約の締結日から既に10年を経過しており,消滅時効が完成している。 [原告の主張]本件規定及び本件契約の定めによれば,原告の相当対価請求権の消滅時効の起算点は,本件特許の登録日である平成17年5月27日と解すべきである。 被告は,原告が本件契約の締結時点において相当対価請求権を行使することが可能であり,権利行使に関する法律上・事実上の障害がなかった旨主張するが,本件契約の締結時には本件特許の特許出願がされていなかったことに加え,当時の社会状況や判例動向等に照らすと,原告において,本件契約時から相当対価請求を行えたかは疑問である。旧35条3項は,相当対価請求権が譲渡契約時点で生ずることを認めているが,原告は,同条項のみに基づいて補償金 や判例動向等に照らすと,原告において,本件契約時から相当対価請求を行えたかは疑問である。旧35条3項は,相当対価請求権が譲渡契約時点で生ずることを認めているが,原告は,同条項のみに基づいて補償金請求を行っているわけではないし,実態として,訴訟提起を権利行使の手段として選択する限り,相当対価請求権の権利行使の時期は特許登録後に限られるというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件発明についての相当対価請求権の有無及び対価の額)について(1) 本件明細書には,次の記載がある。 ア 【従来技術】「この提携消費者ローン制度では,簡便な支払額計算ができるアドオン 方式が普及している。このアドオン方式のクレジット契約の資産価格は,現金販売価格(頭金を控除した額で,以下,「所要資金」と言う)に,全返済期間に渡る利息,すなわち,最終期限に一括返済するという前提条件で計算した利息(以下,「未経過利息」という)を加算した金額となる。 このため,アドオン方式のクレジット契約の資産は,常に未経過利息(会計管理上又は会計認識上,「負債」として取り扱われる)を含むことになる。したがって,事情に精通していない第三者が,アドオン方式のクレジット契約を正確に資産認識することは困難である。」(段落【0003】)「また,一般的に言って,資産に関する収益率管理又は収益測定を行う場合には,資産と収益間の比較をおこなうことが必要である。しかしながら,アドオン方式のクレジット契約の資産は,上述のように負債を含んでいるため,正確な収益率管理又は収益測定を行うことが困難である。」(段落【0004】)イ 【発明が解決しようとする課題】「本発明の目的は,クレジット契約が,年賦払契約,半年賦払契約,隔月払契約及び初回ミニマムペイメント契 収益測定を行うことが困難である。」(段落【0004】)イ 【発明が解決しようとする課題】「本発明の目的は,クレジット契約が,年賦払契約,半年賦払契約,隔月払契約及び初回ミニマムペイメント契約であっても,上述した「金融商品会計の会計基準(現在価値認識)」に則して,未経過利息を含まない資産を基準とする会計管理(以下,「新会計管理手法」と言う)を行うことができる,会計管理手法を提供することにある。」(段落【0007】)「一般的に言って,顧客返済がなくても,経過利息は発生しており,この経過利息は,金融機関の立場では,いわゆる未収利息(クレジット顧客の立場では未払利息)として認識する。また,返済各回の経過利息額が,顧客返済額を超過する場合は,経過利息額中,顧客返済額と同額の相当部分は,現金として収益認識するが,この不足額は,未収利息として認識するのが,通常の会計処理である。このため,本発明による新会計管理手法を行うには,未収利息を残高と同様に資産計上するという新たな会計認識 が必要となる。」(段落【0009】)「また,住宅ローンの商品多様化の原点となる変動金利型住宅ローンでは,こうした未収利息が発生した場合,充当順序は,未収利息,約定利息,元金の順となっている。したがって,この場合においても,本発明による新会計管理手法を行うには,未収利息の充当という新たな認識が必要となる。 このため,本発明による新会計処理手法は,次のような取引認識の下に行う。」(段落【0012】)「1.データ構造金融商品の多様化を実現できう(判決注:「る」の誤記と認める。)ようにするため,本発明による新会計管理手法では,対象となるクレジット契約については,通常の償還情報に関するデータ項目に加えて,下記の表 1 に示す償還情報に関する (判決注:「る」の誤記と認める。)ようにするため,本発明による新会計管理手法では,対象となるクレジット契約については,通常の償還情報に関するデータ項目に加えて,下記の表 1 に示す償還情報に関するデータ項目を含むデータ構造を採用する。」(段落【0013】)「【表1】 ( 表2 中,○ 印は,データ項目に掲げることを示し,- 印は,データ項目に掲げないことを示す。)ここに,「積立利息残高」とは,返済各回の理論上の収益額(利息額)と顧客返済額(キャツシュフロ-)との差額がある場合の積立額を言う(返済各回毎に累積)。また,「積立利息内入額」とは,この積立利息が 発生後に最初に到来する顧客返済額(キャツシュフロ-)から第一順位で充当する未収利息残高の一部または全部を言う。」(段落【0014】)「2.ルールつぎに,本発明による新会計管理手法では,こうした積立利息に関する積立利息の積立方法と充当方法は,どのようなルール付けを行う必要があるのかを明らかにする。」(段落【0015】)「民法第491条第1項(費用・利息・元本間の法定弁済充当)では,こうした未収利息や積立利息が発生するいわゆる不足弁済の局面を想定し「弁済者がその債務の全部を消滅せしむるに足らざる給付を為したときは之をもって順次費用,利息及び元本に充当することを要す」といわゆる法定弁済充当を定めている。そして,これ以外の充当方法を定める場合には,当事者間の合意事項となっている。このため,本発明による新会計管理手法では,この民法第491条第1項の規定に従って「返済各回の顧客返済額が,利息額より小さい場合(顧客返済額がない場合も含む)には,この利息額と顧客返済額との差額を積立利息として積み立ておき,返済開始後に最初に到来する顧客返済額から当 定に従って「返済各回の顧客返済額が,利息額より小さい場合(顧客返済額がない場合も含む)には,この利息額と顧客返済額との差額を積立利息として積み立ておき,返済開始後に最初に到来する顧客返済額から当該積立利息,経過利息,元金の順序で充当する」という積立利息の積立方法及び充当方法に関するル-ルを導入する。」(段落【0016】)「クレジット会社各社の繰上返済金と一括代位弁済金を調査したところ,いずれも,資産計上残高(未経過利息を含む)から未経過利息を控除した金額を支払金額とし,かつ,未経過利息は,いわゆる78分法(しちはちぶんほう)(繰延計上方式のうち逓減法)に基づく算出方法であることが分かった。」(段落【0019】)「【式2】 すなわち,アドオン方式が導入されたクレジット契約のある時点の収益率は,当該時点の前回未経過利息率と今回未経過利息率との差額として認識することができる。 本発明による新会計管理手法における収益認識は,繰延計上方式のうち,上述した78分法と呼ばれる逓減法を採用する。」(段落【0023】)「3.会計管理手法また,本発明による新会計管理手法を,こうした収益認識に立って契約成立時と返済各回の具体的な会計取引認識を,従来の会計管理手法と比較しながら,明らかにする。」(段落【0025】)「(1) 契約成立時(新規実行時)従来の会計管理手法では,所要資金(現金販売価格)と全返済期間に渡る利息(未経過利息)との合計額を,融資金額として資産計上する。一方,本発明による新会計管理手法は,所要資金のみを資産計上する。」(段落【0026】)「(2) 返済取引時従来の会計管理手法では,顧客返済額を受領した場合は,全額を元金内入金として取引認識する。一方,本発明による新会計管理 要資金のみを資産計上する。」(段落【0026】)「(2) 返済取引時従来の会計管理手法では,顧客返済額を受領した場合は,全額を元金内入金として取引認識する。一方,本発明による新会計管理手法では,返済回数に応じた元金内入金,経過利息額及び積立利息内入額に分けて取引認識する(経過利息額及び積立利息内入額の合計額は,利息と認識する。なお,この利息の算出方法として,上述した逓減法を使用する)。」(段落【0027】)「(3) 決算時 従来の会計管理手法では,決算時には返済回数に応じた未経過利息を,前受け収益として計上(振替)を行う。一方,本発明による新会計管理手法では,こうした決算処理は不要である。」(段落【0028】)ウ 【課題を達成するための手段】「上述した会計管理手法を,具体的に実施できるようにするために,本発明は,下記のような構成上の特徴を有する,(1)会計管理データ構造,(2)会計管理方法,(3)会計管理装置,(4)コンピュータ読み取り可能な記録媒体及び(5)コンピュータ・プログラム製品を提供する。」(段落【0029】)「(1) 会計管理データ構造本発明に係るクレジット契約会計管理データ構造は,少なくとも,債務者名,契約番号,契約成立日,返済回数,当初所要資金額及び支払利息額に関する基本契約情報,並びに,少なくとも,返済回次,顧客返済額,元金内入額,経過利息額,積立利息内入額,返済後所要資金残高及び返済後積立利息残高に関する償還情報を有することを特徴とする。本発明に係る会計管理データ構造は,従来の会計管理データ構造とは,積立利息内入額に関するデータ項目と返済後積立利息残高に関するデータ項目とを有する点で相違する。」(段落【0030】)エ 【発明の効果】「本発明は,つぎのよう ,従来の会計管理データ構造とは,積立利息内入額に関するデータ項目と返済後積立利息残高に関するデータ項目とを有する点で相違する。」(段落【0030】)エ 【発明の効果】「本発明は,つぎのような効果を奏する。 (1) 年賦払契約のほか半年払契約,隔月払契約など従前は演算できなかったいかなるクレジット契約でも,未経過利息を含まない資産を基準とする価格管理を行うことができる,独自の構造を持つ金融商品として認識できる。 (2) 副次効果として,資産と収益との割合とアドオン方式の実質年率の計算結果との乖離幅の縮小化を図ることができる。」(段落【0068】) (2) 以上を前提に,事案に鑑み,本件発明の価値及び本件発明により被告が受けるべき利益の有無について判断する。 本件明細書の記載(段落【0003】,【0004】,【0007】,【0068】)によれば,本件発明が解決しようとする課題は,クレジット契約が年賦払契約,半年賦払契約,隔月払い契約及び初回ミニマムペイメント契約であっても,新会計基準に準拠した会計管理手法である未経過利息を含まない資産を基準とする新会計管理手法を提供することにあると認められ,また,その作用効果は,クレジット契約データを記憶する記憶装置と中央処理装置とを含む会計管理装置を用いることによって新会計管理手法を行うことができる点にあるものと認められる。もっとも,新会計基準に準拠した会計管理手法を行うこと自体は独占を認めるべき事柄ではないし,会計管理手法を行うに当たってハードウェアを利用するという点についても何ら工夫や技術的意義があるものではないから,本件発明の価値の存否及び大小の判断に際してこれらの点を考慮するのは相当でなく,本件発明の価値は,本件発明が課題の解決のために採用した会計管理の具体的な手順及び や技術的意義があるものではないから,本件発明の価値の存否及び大小の判断に際してこれらの点を考慮するのは相当でなく,本件発明の価値は,本件発明が課題の解決のために採用した会計管理の具体的な手順及び会計処理過程等について判断する必要がある。 (3) そこで検討するに,本件明細書によれば,本件発明による新会計管理手法は,①「1.データ構造」(段落【0013】,【0014】),②「2.ルール」(段落【0015】~【0024】)及び③「3.会計管理手法」(段落【0025】~【0028】)に記載された取引認識の下に行われることが明示されている(段落【0012】)。 しかしながら,上記①は,通常の償還情報に関するデータ項目に加えて,「積立利息内入額」及び「積立利息残高」というデータ項目を採用するものであるところ(段落【0013】,【0014】),新たに加えられたこれらのデータ項目(「積立利息内入額」及び「積立利息残高」)は,民法491条の法定充当そのものであり(段落【0016】参照),原告が,「積立利息内入 額」及び「積立利息残高」を含むデータ構造につき,原告が発明したものでなく,他の金融機関によって既に実施されていた変動金利型住宅ローンのデータ構造であると自認していること(訴状19頁など)に照らしても,この点をもって本件発明の価値を基礎付けるものということはできない。また,上記②についても,積立利息の積立方法及び充当方法は,民法491条1項の規定に従ったもので(段落【0016】参照),かつ,他の金融機関が住宅ローン分野について既に使用していたものであって原告の発明に係るものではないし(訴状19頁など),また,本件発明が採用する収益認識方法についても,本件特許に係る特許出願の出願時点において既にクレジット会社が採用し公知となってい いたものであって原告の発明に係るものではないし(訴状19頁など),また,本件発明が採用する収益認識方法についても,本件特許に係る特許出願の出願時点において既にクレジット会社が採用し公知となっていた逓減法(78分法)をそのまま採用したものにすぎない(段落【0019】,【0023】,訴状9~10頁参照)。さらに,上記③は,データ項目(「積立利息内入額」及び「積立利息残高」)を新たに設けたり78分法を採用したりした結果,各時点において会計処理がどのように変化するかを説明しているにすぎない。 このように,本件発明が採用した会計管理の具体的な手順又は会計処理過程は,いずれも本件特許に係る特許出願の出願日(平成14年6月26日)より前に公知の事項を適宜選択することのみによって導き出されるものであり,その選択の結果として行われる会計処理についても,新たな技術的思想に係るものとはいえないから,本件発明に独自の技術的意義はなく,発明としての価値は皆無あるいは非常に小さいものといわざるを得ない。 (4) これに対し,原告は,要旨,①本件発明の本質は,資産認識(償却原価法),データ構造,積立利息の積立方法と充当方法の3点にあり,本件明細書の「特許請求の範囲」に記載された会計管理方法,会計管理装置,記録媒体,コンピュータ・プログラム製品は,いずれも本件発明の本質ではない,②本件発明は,新会計基準を前提条件とし,償却原価法としてクレジット分野で普及している78分法による収益認識を採用しており,提携消費者ロー ンの会計管理手法に関するスタンダードたる地位を獲得した結果,この事業における会計管理面の市場優位性を獲得するに至っているから,会計管理の観点から見た本件発明の価値は大きい,③本件発明によって,日立キャピタルや東芝ファイナンスという提携消費者 獲得した結果,この事業における会計管理面の市場優位性を獲得するに至っているから,会計管理の観点から見た本件発明の価値は大きい,③本件発明によって,日立キャピタルや東芝ファイナンスという提携消費者ローンの事業会社を獲得し,取引基盤を形成するに至っており,提携消費者ローンという領域における被告の営業基盤の形成にとって極めて大きな役割を果たしているから,営業基盤形成の観点から見ても本件発明の価値は大きいなどと主張する。 しかしながら,まず,上記①については,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められるのであるから(平成14年法律第24号による改正前の特許法70条1項),本件明細書の「特許請求の範囲」に記載された会計管理手法等が本件発明の本質ではないという原告の上記①の主張は到底採用することができない。この点をおくとしても,本件明細書によれば,原告が上記①において本件発明の本質として主張する「資産認識(償却原価法)」は,本件特許に係る特許出願の出願時において公知であった78分法によるものであるし(段落【0019】,【0023】),原告が,「データ構造」及び「積立利息の積立方法と充当方法」につき,原告が発明したものでなく,他の金融機関によって既に実施されていたものである旨自認していること(訴状19頁等)に照らしても,上記①の主張を採用することはできない。 また,上記②についても,上記(3)のとおり,78分法による収益認識は,本件特許に係る特許出願の出願時において公知であったから,上記②の主張も失当というほかない(なお,原告が指摘する公認会計士の意見(甲8)にも「特許発明したアドオン方式の二重価格理論は償却原価法の計算理論を多様化したもので,金融会計商品の実務指針(会計基準)の記載事項そのものであ かない(なお,原告が指摘する公認会計士の意見(甲8)にも「特許発明したアドオン方式の二重価格理論は償却原価法の計算理論を多様化したもので,金融会計商品の実務指針(会計基準)の記載事項そのものであり」とあり,本件発明に実務指針を上回る独自の価値が存しないことがうかがわれる。)。 さらに,上記③についても,日立キャピタル及び東芝ファイナンスにおいて,本件発明が存在することを理由に被告との提携消費者ローンを採用したことをうかがわせる証拠はなく,上記③の主張も採用することができない(なお,原告は,東芝ファイナンスにおける農水機器ローン制度の導入は「本件特許の領域に係るノウハウのライセンス」に相当し,被告が東芝ファイナンスからライセンス料を受領するに至っているなどとも主張するが,そのような事実をうかがわせる客観的証拠は見当たらない上,原告の主張によっても本件特許権についてのライセンスが行われているわけではないから,何ら上記の判断を左右するものとはいえない。)。 さらに,原告は,被告が本件特許によって利益を上げてきたことを前提に,被告が本件発明の価値が乏しい旨を主張することは信義則(禁反言)に反するとも主張するが,被告が本件特許によって利益を上げてきたという前提自体が認められない上,他に被告の上記主張が信義則に反することをうかがわせる事情は見当たらないから,採用できない。 (5) 以上のとおり,本件発明は,公知の事項を適宜選択したものにすぎず何ら新しい技術的思想を含むものではないから,その価値は皆無若しくは極めて小さいというほかない。さらに,上記(3)のとおり,本件発明が採用した具体的な会計管理の手順又は計算過程が,いずれも本件特許に係る特許出願の出願日(平成14年6月26日)より前に公知の事項を適宜選択することのみによって さらに,上記(3)のとおり,本件発明が採用した具体的な会計管理の手順又は計算過程が,いずれも本件特許に係る特許出願の出願日(平成14年6月26日)より前に公知の事項を適宜選択することのみによって導き出されるものであることに照らせば,本件特許は特許無効審判によって無効とされるべきものとも解される(特許法123条1項2号,29条2項参照)。 そうすると,本件発明により被告が受けるべき利益は皆無若しくは極めて小さいといわざるを得ないから,仮に本件発明によって被告に何らかの受けるべき利益が生じているとしても,被告が原告に対して支払うべき相当対価の額が,既払の対価である合計2万円(第2の1(3)ウ)を超えるものと認 めることはできない。 2 争点(2)(相当対価請求権の放棄の有無)について上記1に検討したところによれば,本件請求に理由がないことは既に明らかであるが,なお念のため,争点(2)についても検討する。 (1) 上記第2の1(3)イのとおり,本件契約には,「譲渡の対価として,甲は,乙に対して,特許出願手続時に金1万円,特許登録手続時に金1万円を支払う。両当事者は,本発明が職務発明であり,本条の対価が,本発明により甲が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて甲が貢献した程度を考慮して定められたものであり,乙は,特許法第35条3項に基づいて,本条の対価以外に,相当の対価の支払を求める権利を有していないことを確認する。」(2条),「本発明が特許され,かつ,第三者にライセンス又は譲渡されることなどにより甲が利益を受けた場合には,甲は乙とその報奨金の支払いにつき,協議するものとする。」(3条),「本契約書の締結にあたり,乙は,職務発明等に関する特許法の規定及びこれに関する判例について,理解した上で,契約を締結したことを確認 は乙とその報奨金の支払いにつき,協議するものとする。」(3条),「本契約書の締結にあたり,乙は,職務発明等に関する特許法の規定及びこれに関する判例について,理解した上で,契約を締結したことを確認する。」(4条)との条項がおかれている。 そして,本件契約2条及び4条にはいずれも何らの留保も付されていないこと,本件契約3条が報奨金支払について被告と原告が再協議すべき場合を限定的に規定していることに鑑みると,これらの各条項は,職務発明規定に記載されたもの以外にも不足分の相当対価請求権が抽象的には存在し得ることを前提として,本件契約3条に該当する場合を除き,職務発明の相当対価請求権を放棄することを確認したものとみるのが合理的である(なお,上記1(3)のとおり,本件発明の価値が皆無又は極めて小さいと認められることも,上記解釈に沿う事情といえる。)。 したがって,原告は,本件発明に関する相当対価請求権を放棄したものと認めるのが相当である(なお,原告は,本件特許の領域に係るノウハウが東芝ファイナンスにライセンスされているなどと主張するが,これを認めるに 足る証拠はないし,原告の主張によっても本件特許自体のライセンスがされているわけでもないから,本件契約3条の適用がないことも明らかである。)。 (2) これに対し,原告は,本件契約締結後の平成17年4月1日に本件規定が改訂されて「第7条および第8条に定める補償金の額によることが特許法第35条の趣旨に鑑みて不適当となるおそれがある場合には,会社または発明者からの申し出により出願補償および登録補償の額につき別途協議のうえ定めた額をもって補償金とする。」(10条)という条項が新設され,原告が,同年7月6日,新設された同条項に基づく別途協議申立書を提出して補償金請求を行ったから,本件契約2条は, につき別途協議のうえ定めた額をもって補償金とする。」(10条)という条項が新設され,原告が,同年7月6日,新設された同条項に基づく別途協議申立書を提出して補償金請求を行ったから,本件契約2条は,契約当事者である原告及び被告を拘束しない事実上の死文条項となったなどと主張するが,本件契約の締結後に本件規定が改訂されたからといって本件契約の拘束力が当然に消滅するわけではないから,原告の主張を採用することはできない。 3 結論以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官沖中康人 裁判官矢口俊哉 裁判官廣瀬達人 (添付の特許公報は省略)
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