昭和26(う)963 不法監禁被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和26年10月26日 大阪高等裁判所 棄却
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【DRY-RUN】主    文      本件控訴はこれを棄却する。          理    由  弁護人白井源喜の控訴趣意第一点について。  論旨は、要するに、ソロモン群島フワウロ島は日本の裁判権の行われない場所

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判決文本文3,637 文字)

主文 本件控訴はこれを棄却する。 理由 弁護人白井源喜の控訴趣意第一点について。 論旨は、要するに、ソロモン群島フワウロ島は日本の裁判権の行われない場所であるから、昭和二十一年二月初頃同所において犯された被告人等の本件不法監禁行為に対してはわが国の裁判権がなく、原審がこれに対し有罪判決をしたのは違法であるというに帰する。 <要旨>しかしながら、裁判権は、主権の実力を実際に行使する一権力であるから、わが主権の行使される領域内に</要旨>限定されると共に右地域内においては無制限にこれを行い得ることを原則とするものであつて、たゞ敗戦後わが主権が裁判権の面においてもある程度の制限を受けることとなつたけれども、本件のような被告人等の行為に対してわが国内で裁判権を否定若しくは制限するなんらの法軌範がないから原審が本件について公訴を棄却することなく実体的裁判をしたことはまことにそのところといわねばならない。 論旨前段は、本件が所論の勅令及政令の由つて来るところの連合国最高司令官の管轄区域外の行為であるの故を以て、原判決の説示を非議するけれども、原判決は右勅令及び政令に規定する以外にはわが領域内における日本裁判権の行使を制限する法軌範のないことを説明しているのであるから、論旨に従えばわが裁判権の制限がかえつてゆるやかになるだけであつて、本件に対するわが裁判権の存在を否定する理由とはならない。また、論旨中段は、原審が刑法第三条を援用したことを非難し、被告人等が濠洲軍の俘虜としてその指揮命令下にあつた特異な情勢における行為であるからこれに対しては右法条の適用がなく従つてまた裁判権もないというけれども同条は刑法第二百二十条に該当する行為が日本人によつて行われた以上その行為地の如何に拘らずこれを適用する旨を定め る行為であるからこれに対しては右法条の適用がなく従つてまた裁判権もないというけれども同条は刑法第二百二十条に該当する行為が日本人によつて行われた以上その行為地の如何に拘らずこれを適用する旨を定めた刑法の場所的効力に関する規定であるに止り前に説明した裁判権をも規定したものではないから、たとえ所論のように右法条の適用がないとしても原審の本件に対する裁判権に消長を来すものではないのみならず、同条は所論のような客観情勢の下にあつてもその適用のあることは疑なく、たゞこれに対し現地において日本の裁判権を行使し訴訟手続を行い得ないだけである。裁判権のあることと処罰規定の適用のあることとは厳に区別しなければならないのであつて、前者のない場合には実体的裁判をなすことができないから公訴はこれを棄却すべく、後者だけない場合には無罪の実体的裁判をなすべきであつて、論旨はこの両者を混同しているものといわねばならない。原審が右法条を援用したのは、本件について原審が有罪無罪の実体的判断にまで立入り得ることを説いたにすぎないのである。最後に論旨後段は本件行為の当時わが裁判権の及ばなかつた事件に対し後に裁判権を行うのは憲法第三十九条に違反するというけれども、同条は行為当時処罰規定のなかつた行為に対しその後の立法を以てこれを処罰することを禁じただけであつて、行為当時現実にわが裁判権を行い得なかつたとしても後にこれを行い得る事情が生じたときにこれを行うことを妨げるものではない。本件行為は、原判示によればその行為のときにおいても刑法第三条第二百二十条に該当したものであり、行為者たる被告人等は本件起訴のときにはすでに復員して内地に帰つて来ていたのであるから、原審がこれに対し右法条を適用して被告人の刑責を問うたとしても、なんら憲法第三十九条に触れるところはないのである(昭和二 る被告人等は本件起訴のときにはすでに復員して内地に帰つて来ていたのであるから、原審がこれに対し右法条を適用して被告人の刑責を問うたとしても、なんら憲法第三十九条に触れるところはないのである(昭和二十一年五月十七日勅令第二七八号附則第四項参照)よつて論旨第一点は採用することはできない。 同控訴趣意第二点について。 本趣旨は縷々論述しているけれども要するに原判決の採用しない証拠によつて事実の誤認があると主張するに帰し、その重点は被告人が原判示の制縛行為に共謀加功していないというにある。しかしながら原判決の掲げた証拠は必ずしも所論のように真実性を疑わしめるものではなく、それによれば原判決摘示の犯罪事実を認めるに足り、殊に共謀加功の点に関しては原審相被告人等が被告人の発議に相応して本件制縛行為に出たことが明であつて、訴訟記録を精査しても原判決に所論のような事実誤認のふしあることを発見しないから、この論旨もまた理由がない。 同控訴趣意第三点について。 起訴状及び原判決には本件犯罪の日時を単に昭和二十一年二月初旬午後六時頃と記載しているのみでその日を明記していないことは所論の通りである。しかして、刑事訴訟法第二百五十六条第三項が所論のような規定を設けている所以は、起訴事実を特定して裁判所の審判の対象を明確にすると共に被告人をしてその防禦に遺憾なからしめんとするにあるのであるが、右起訴状には本件犯罪の動機、被害者、場所及び手段方法等を詳細に記載しており、昭和二十一年二月初旬午後六時頃という記載と相侯つて、犯罪事実の特定に欠くるところがなく、被告人の防禦にも不測の不利益を与えるものとはいえないから本件起訴状の記載は公訴事実の表示として不適法であるとすることができないのであつて、このことは、論旨援用の前記法条が「できる限り日時、場所及び方法を以て にも不測の不利益を与えるものとはいえないから本件起訴状の記載は公訴事実の表示として不適法であるとすることができないのであつて、このことは、論旨援用の前記法条が「できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定して」と明規しているによつても明である。されば原審が右起訴事実に対して犯罪の具体的な日について釈明をなさずに審理を進めたからといつて、これを以て違法とすることができないのであり、また原判決が起訴状と同様な動機、被害者、場所及び手段方法を掲げている以上日時について前示のような記載をしているに止つたからといつて、これを以て所論のように法令の適用に誤りがあるとすべきではない。論旨は理由がない。 同控訴趣意第四点について、しかしながら、原判決が被告人等には所論のような慣例上の懲罰権もなかつたことを認定していることは、判文に「被告人等は班員の非行に対し何等懲罰権をもつていなかつたのに拘らず」と明記しているのによつて明白であつて、このことは原判決挙示の証拠によつて優にこれを認めるに足り、記録を精査してもその誤認を疑うに足るものがないから、原審が被告人等の本件制縛行為が不法に為されたものであるとした認定には経験則の違反もなければ法令適用の誤りもない。この論旨もまた理由がない。 同控訴趣意第五点について、原判決が罪となるべき事実として摘示したところに、被告人等が共謀の上Aをロープ等で胸部足部等を幕舍の木柱に縛り付け同人を不法に監禁した旨の記載のあることは、所論の通りであつて、その趣旨は制縛行為を認定しつつも、末段において「不法に監禁したものである」とこれに対する法律的見解を要約したものと解せざるを得ないから、原審がその罰条として掲げた刑法第二百二十条第一項もまた同項後段の不法監禁罪を以てこれに擬せんとするものと解すべく、同項前 たものである」とこれに対する法律的見解を要約したものと解せざるを得ないから、原審がその罰条として掲げた刑法第二百二十条第一項もまた同項後段の不法監禁罪を以てこれに擬せんとするものと解すべく、同項前段の不法逮捕罪を適用しない趣旨であるとなさざるを得ない。思うに、同項にいわゆる監禁とは、人をして一定の区域外に出ること得ざらしめることを指し、逮捕とは、直接に人の身体の自由を拘束することを指すのであるから、原審認定の制縛行為は右にいわゆる不法監禁には該当せずむしろ不法逮捕の典型的な場合に属することが明かであつて、原審が前者に該当するものとする趣旨において、刑法第二百二十条第一項を挙示したのは所論の通り法令の適用に誤りがあるといわねばならない。しかしながら、逮捕と監禁とは共に人の身体に対する有形の自由を奪うものであつて、その罪責を同じうし、刑法の同条同項に規定せられ刑罰もまた全く同一であるから、彼れ此れあやまり適用せられても判決に影響を及ぼさないことが明であつて、この誤りは未だ以て原判決を破棄すべき事由となすに足りない。 以上のようにして、論旨はいずれもその理由がないから、刑事訴訟法第三百九十六条に則り主文のように判決する。 (裁判長判事荻野益三郎判事梶田幸治判事井関照夫)

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