平成13(行コ)146 課税処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成11年(行ウ)第182号)

裁判年月日・裁判所
平成14年11月27日 東京高等裁判所 租税
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判決文本文15,454 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第一控訴の趣旨一原判決を取り消す。 二被控訴人の請求を棄却する。 第二事案の概要一1 本件は、被相続人の死亡後に、被控訴人が提起した、被相続人の子であることの認知を求める訴訟において、認知の判決(以下「本件認知判決」という。)がされ、確定したが、それ以前に、被相続人の他の共同相続人において既に被相続人の相続財産について遺産分割協議を行って各遺産を取得していたことから、被控訴人が、他の共同相続人に対し、民法第910条に基づき、遺産分割に代わる価額の支払を命じる判決(以下「本件価額支払判決」という。)を取得してその支払(以下「本件支払」という。)を受けたため、他の共同相続人が既に申告済みの上記相続に係る相続税額が本件支払により過大となったとして、相続税法(平成10年法律第83号による改正前のもの。以下「法」という。)第32条第2号に基づき、更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたのに対し、控訴人が減額の更正(以下「本件更正処分」という。)をした上、被控訴人に対し、法第35条第3項に基づいて、相続税の決定処分(本件決定)をしたため、被控訴人が、これを不服としてその取消しを求める事案である。 原審は、相続税法特有のいわゆる後発的更正の請求事由を定める法第32条の規定の文言、民法第910条に基づく価額支払請求権の内容等に照らすと、本件において、上記共同相続人らは、法第32条第2号に基づき本件認知判決の確定による更正の請求をするか、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条第2項1号に基づき本件価額支払判決の確定による更正の請求をなし得たにすぎず、本件支払を理由として、法第32条第2号の規定による更正の請求をすることはできなかったも 以下「通則法」という。)第23条第2項1号に基づき本件価額支払判決の確定による更正の請求をなし得たにすぎず、本件支払を理由として、法第32条第2号の規定による更正の請求をすることはできなかったものというべきであるとした上、法第35条第3項に基づいて税務署長が更正又は決定を行う場合には、法第32条第1号から第4号までの規定による適法な更正の請求に基づいて更正処分が行われたことがその前提となるところ、上記共同相続人らのした本件更正の請求は、本件認知判決確定の事実を知ってから4か月以内になされたものではなく、法第32条所定の期間を大幅に徒過してなされた不適法なものであり、これに応じてされた本件更正処分には重大かつ明白な瑕疵があり、したがって、これを前提とする本件決定も適法とみる余地はないとして、被控訴人の請求を認容したため、これを不服として控訴人が控訴を申し立てた。 なお、本判決においては、原則として原判決と同じ略語を使用する。 2 関係法令の定め、前提となる事実等、控訴人が主張する本件決定の根拠、争点及び当事者双方の主張は、当審における当事者の補充主張として二及び三を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「第2 事案の概要」1ないし5に記載のとおりであるから、これを引用する。 二当審における控訴人の補充主張 1 相続税法の改正と後発的事由による相続税の更正の請求(一) 昭和25年相続税法相続税法における課税方式は、シャウプ勧告に基づく昭和25年の改正(昭和25年法律第73号。以下「昭和25年相続税法」という。)により、人が死亡した場合にその遺産に対して課税する「遺産課税方式」から、人が相続によって取得した財産に対して課税する「遺産取得者課税方式」へと変更された。この遺産取得者課税方式は、相続等による財産の取得という事実に担税力を認 の遺産に対して課税する「遺産課税方式」から、人が相続によって取得した財産に対して課税する「遺産取得者課税方式」へと変更された。この遺産取得者課税方式は、相続等による財産の取得という事実に担税力を認めて相続税を課するものであり、いったん相続税の申告等をした場合であっても、民法の定める相続特有の事情に基づく相続財産の増減があり、これにより取得財産が減少する場合には、現実に取得した財産に応じた課税が行われるよう、課税の修正を行うこととした。これが、いわゆる後発的事由に基づく更正の請求(昭和25年相続税法第32条第2項)である。 すなわち、昭和25年相続税法第32条第2項は、未分割遺産の分割(第1号)、民法第787条等の規定による認知等に関する裁判の確定等により相続人に異動を生じたこと(第2号)、遺留分減殺請求(第3号)の後発的事由(現行相続税法第32条第1号ないし第3号に該当する。)によって、課税価格及び相続税額が過大になったときには、当該事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に限り、課税価格及び相続税額について更正の請求をすることができる旨規定した。 そして、昭和25年相続税法においては、各相続人の取得財産から、被相続人の債務等及び基礎控除額を控除したものに累進税率を乗じて計算するものとされ、かつ、基礎控除額は相続人の数と関係なく決められていたから、遺産分割後に認知に関する裁判の確定により相続人の数が増えたとしても、それだけでは他の共同相続人が遺産分割により既に取得している財産及び基礎控除額に変動を生じることはなく、他の共同相続人の「課税価格及び相続税額が過大」となる余地はなかったから、「民法第787條・・・の規定による認知・・・に因り相続人に異動を生じたこと」とは、認知に関する裁判の確定後に被認知者から他の共同相続人に対して 課税価格及び相続税額が過大」となる余地はなかったから、「民法第787條・・・の規定による認知・・・に因り相続人に異動を生じたこと」とは、認知に関する裁判の確定後に被認知者から他の共同相続人に対して民法第910条の価額支払請求権が行使され、他の共同相続人がその支払をすることにより取得財産が減少した場合を指すと解するほかなかったのであり、当時の立法担当者も同様の説明をしている(乙5)。 (二) 昭和33年相続税法(ア) 昭和33年の相続税法の改正においては、相続税の課税体系が、純粋な意味での遺産取得者課税方式から、法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式へ変更された。この課税方式は、相続等により財産を取得したすべての者に係る相続税の総額を計算し、これを基礎として各相続人ごとの相続税額を計算するものであり(法第11条)、その相続税の額の算定に当たっては、先ず共同相続人全員が法定相続分(民法第900条)に従って相続財産を取得したものと仮定して相続税の総額を算出した上(法第16条)、これを各相続人が実際に取得した財産の価額の割合に応じて按分することによって、各相続人が納付すべき相続税の額を算出することとしている(法第17条)。この税額算定の方式は、相続税の総額をほぼ一定のものとすることを前提として、各相続人が現実に取得した財産に相応する課税を行うこととしたものということができる。また、このような課税方式の改正と同時に基礎控除額を相続人の数により決定することとされた(法第15条)。 (イ) 上記のような課税方式の改正をした昭和33年の相続税法改正においても、上記昭和25年相続税法第32条第2項第2号については、条文の文言の改正はなされなかったが、法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式が採用されたことにより、認知に関する裁判の確定によって新た も、上記昭和25年相続税法第32条第2項第2号については、条文の文言の改正はなされなかったが、法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式が採用されたことにより、認知に関する裁判の確定によって新たな相続人が生じた場合、既に相続税を申告納付している他の共同相続人については、① 被認知者が価額支払請求権を行使し、価額金の額が具体的に確定した場合には、「課税価格及び相続税額」が過大となることとなり、また、② 被認知者が価額支払請求権を行使しない場合には、相続人の増加によって基礎控除額(法第15条)が増加することから、課税価格には変動がないものの、相続税額のみが過大となることとなり、いずれの場合も相続税額が過大となることとなった。すなわち、昭和25年相続税法第32条第2項第2号の文言には何らの改正も加えられず、また、同項本文の「課税価格及び相続税額が過大となった」場合という文言も改正されなかったが、上記の課税方式の変更により、従前から更正の請求事由とされていた上記①の場合に加えて、上記②の場合が新たに相続税法第32条第2項第2号の更正の請求事由となったわけである。このことは、昭和33年の法改正時の立法担当者が、「相続人に異動を生じたこととは、認知確定等により相続人となった者がその者の相続分を主張し、ために他の共同相続人が遺産分割により取得したとして相続税の課税価格計算の基礎に算入された財産のうちからその相続分の主張に応じて財産の分配をしたため共同相続人の相続税額が過大となったことをいうと解され、このように解する限り相続税法第32条第2項第2号の改正を要しないと解した。」旨説明していることからも明らかである(乙10)。 このことからも、昭和33年の改正当時、同号は、「民法第910条に規定する価額支払請求権を行使した場合」を含むものと解されてい 要しないと解した。」旨説明していることからも明らかである(乙10)。 このことからも、昭和33年の改正当時、同号は、「民法第910条に規定する価額支払請求権を行使した場合」を含むものと解されていたということができる。 (ウ) 昭和33年の法改正により、現行相続税法第30条の「期限後申告」の特則及び第35条第3項の「更正又は決定」の特則が新たに規定され、これにより、新たに相続人となった者については期限後申告書の提出が認められ、また、共同相続人間の財産の異動により、いったん確定していた相続税額が過大となった者については更正の請求が認められ、他方、これにより相続税額が過少となった者や新たに相続税を納付すべきこととなった者については期限後申告を認め、若しくは更正又は決定を行うことができることとなった。 これらの相続税法の規定の趣旨は、民法に定める相続特有の事情に基づく相続財産の増減があり、これにより取得財産が減少する場合においては、現実に取得した財産に応じて更正の請求を行うこと、かつ、その場合でも、相続税の総額はほぼ一定であることを定めたものであって、これらの規定は相互に有機的に連関しているというべきである。そして、このような配慮の下に、昭和25年相続税法第32条の後発的事由についても改正の要否が検討され、上記(イ)記載のような理由であえて文言の改正はしなかったものの、「民法第910条の規定する価額支払請求権を行使した場合」も、共同相続人間の財産異動により相続財産が減少して相続税額が過大となる場合として、昭和33年相続税法第32条第2項第2号(現行相続税法第32条第2号に該当する。)の更正の請求ができるとされたのである。 2 民法第910条の価額金の取得時期(一) 被認知者による課税物件の取得時期相続税法は、① 相続税の納税義務者を、相続 続税法第32条第2号に該当する。)の更正の請求ができるとされたのである。 2 民法第910条の価額金の取得時期(一) 被認知者による課税物件の取得時期相続税法は、① 相続税の納税義務者を、相続又は遺贈(死因贈与を含む。以下「相続等」という。)によって「財産を取得した」個人(法第1条第1号)とし、② その課税物件を、相続等によって「取得した財産」(法第2条)とし、③ その課税標準を、相続等により「取得した財産」の価額の合計額(法第11条の2)としており、これらの規定は、相続税が、個人が相続等により財産を取得することによって生ずる担税力に着目して課税される遺産取得税であることを示すものである。そして、ここにいう「取得した財産」とは、各相続人が相続等によって当該財産に対する管理支配を現実に取得し、その金額を具体的に算定することができる状態にあるものをいうと解するべきである。 (二) 被認知者が価額支払請求権を有する場合の課税物件認知に関する裁判の確定によって新たに相続人となった被認知者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に遺産分割等の処分を終えていた場合、被認知者は他の共同相続人に対して価額支払請求権を有するが(民法第910条)、これは、既になされた遺産分割の安定の要請と被認知者の権利保護との調和を図るため、遺産分割のやり直しに代えて、価額の支払による金銭的解決を図ったものであり、その実質は相続回復請求又は遺産分割請求にほかならない。このような価額支払請求権の性質にかんがみれば、被認知者が相続等によって「取得した財産」、すなわち、被認知者に係る相続税の課税物件は、同人が受領する価額金ということになる。けだし、被認知者には遺産分割の請求の代わりに価額支払請求が認められているのであるから、これによって受領する価額 」、すなわち、被認知者に係る相続税の課税物件は、同人が受領する価額金ということになる。けだし、被認知者には遺産分割の請求の代わりに価額支払請求が認められているのであるから、これによって受領する価額金は、遺産分割前に認知の裁判が確定していれば取得し得たはずの分割財産が化体したものだからである。 (三) 被認知者が価額支払請求権を有する場合の課税物件の取得時期上記のとおり、相続税の課税物件は、各相続人が相続等によって管理支配を現実に取得し、その金額を具体的に算定できる状態にある財産であり、被認知者が価額支払請求権を有する場合において同人に係る相続税の課税物件は、同人が受領する価額金であるから、その課税物件の取得時期は、同人が価額金に対する管理支配を現実に取得し、その金額を具体的に算定することができる状態に至った時点であり、本件においては、本件価額支払判決が確定した時ということになる。 価額支払請求権の行使は被認知者の自由意思に委ねられているから、被認知者が認知に関する裁判の確定だけで満足し、価額支払請求権を行使しない場合があり得ることからも、この裁判が確定しただけでは、被認知者が価額金に対する管理支配を現実に取得したとは到底いえない。また、被認知者が価額支払請求訴訟を提起した場合、裁判所は、被認知者の具体的相続分に従って被認知者が受領すべき価額金の額を算出することになるが、具体的相続分の算出に当たっては、特別受益の持戻し(民法第903条)並びに寄与分の相続財産からの控除及び相続分への算入(民法第904条の2)などの調整を経る必要があるから、裁判所がこの点についていかなる判断をするかを判決前に正確に予測することは極めて困難であり、したがって、被認知者が価額金の金額を具体的に算定することができる状態になるのは、価額支払判決の確定を待たなけ 所がこの点についていかなる判断をするかを判決前に正確に予測することは極めて困難であり、したがって、被認知者が価額金の金額を具体的に算定することができる状態になるのは、価額支払判決の確定を待たなければならないから、認知に関する裁判の確定時において価額支払請求権の内容が既に確定しているということはできない。 3 法第32条第2号に基づく更正の請求の期限(一) 以上によれば、認知に関する裁判が確定することによって新たな相続人が生じた場合、既に相続税を申告納付している他の共同相続人は、①被認知者が価額支払請求権を行使し、価額金の額が具体的に確定した場合、「課税価格及び相続税額」が過大となり、②被認知者が価額支払請求権を行使しない場合であっても、相続人数の増加により基礎控除額(法第15条)が増加することから、課税価格には変動がないものの、相続税額が過大となることになり、いずれも更正の請求を認める必要が生じる。 (二) 法第32条柱書きは、更正の請求理由について、申告等に係る「課税価格及び相続税額・・・が過大となったとき」と規定し、他方通則法第23条第2項は「課税標準等又は税額等」と規定しているところ、被認知者が価額支払請求権を行使し、価額金の額が具体的に確定した場合は、課税価格及び相続税額の双方が過大となるから、法第32条の上記文言に適合するといえる。 また、法第32条第2号は、「認知・・・その他の事由により相続人に異動を生じたこと」と規定し、その文言中に「価額支払請求権を行使した場合」とは明示されていないが、価額支払請求権は、遺産分割請求権に代わるものとして被認知者の地位に当然伴うものである上、被認知者の権利実現のための手段に過ぎないのであるから、価額支払請求権の行使についても、あえて独立に規定するまでの理由はなく、「民法第787条の規定に のとして被認知者の地位に当然伴うものである上、被認知者の権利実現のための手段に過ぎないのであるから、価額支払請求権の行使についても、あえて独立に規定するまでの理由はなく、「民法第787条の規定による認知」に当然に含まれると解して差し支えないというべきであり、昭和33年の相続税法改正当時においてもこれと同様に解されていたことは前記のとおりである。 (三) 被認知者は、民法第910条の価額金の額が確定すれば、法第30条所定の期限後申告書を提出することができるとされているから、このことと表裏の関係にある他の共同相続人の更正の請求について、法第32条によることを否定し、通則法第23条第2項によるべきであるとすることは、相続税法の趣旨に反する。 (四) ところで、他の共同相続人がまだ遺産分割を行っていない場合、課税庁は、法第55条により、暫定的に各相続人が具体的相続分に従って財産を取得したものとして課税価格を計算することになり、この時点で既に認知の裁判がなされていれば、被認知者についても共同相続人の一人として同様の課税がなされることになるが、その後、被認知者を含む共同相続人が遺産分割を行った結果、各相続人が取得した財産に係る課税価格が具体的相続分に従って計算された課税価格と異なることになった場合について、法第55条ただし書は、各相続人は「申告書を提出し、若しくは第32条の更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない」と規定し、遺産分割の結果、各相続人に係る課税標準に異動があった場合についても、法第32条による更正の請求を認めていることに照らすと、民法第910条の規定に基づき、遺産分割に代わる価額支払請求権の行使がなされた結果、他の共同相続人に係る課税標準に異動があった場合についても、法第32条による更正の請求を認める いることに照らすと、民法第910条の規定に基づき、遺産分割に代わる価額支払請求権の行使がなされた結果、他の共同相続人に係る課税標準に異動があった場合についても、法第32条による更正の請求を認めるというのが相続税法の予定するところというべきである。 (五) したがって、遺産分割終了後に民法第787条の裁判が確定した場合、他の共同相続人が法第32条の更正の請求をなし得る期限は、次のとおりになる。 (ア) 価額支払請求権を行使し、価額金の額が具体的に確定した場合他の共同相続人は、価額金の額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に法第32条第2号による更正の請求ができる。 (イ) 被認知者が価額支払請求権を行使しないままであった場合認知に関する裁判が確定したことにより基礎控除額が増える(法第15条第1項)から、これにより、他の共同相続人は、認知に関する裁判が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に法第32条第2号による更正の請求ができる。 4 仮に、本件の場合が法第32条第2号の「民法第787条の規定による認知に関する裁判の確定」に含まれないとしても、価額支払請求権が実質的には遺産分割の趣旨であり、改めて遺産分割を行う代わりに、価額のみによる償還請求を認めたものであることに照らすと、法第32条第1号の定める更正事由に該当するものと解される。 5 本件における被認知者以外の共同相続人は、本件価額支払判決が確定した日の翌日から4か月以内に更正の請求をすることができるところ、本件更正の請求がこの期限内になされていることは証拠上明らかであるから、本件更正の請求は適法であり、これに対する減額更正を前提としてなされた本件決定も適法というべきである。 三当審における被控訴人の補充主張 1 現行相続税法が採用する法定相続分課税方式による遺産取得者 件更正の請求は適法であり、これに対する減額更正を前提としてなされた本件決定も適法というべきである。 三当審における被控訴人の補充主張 1 現行相続税法が採用する法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式の下では、他の共同相続人が遺産分割協議を終了している場合に認知に関する裁判の確定があると、共同相続人の数に異動が発生し、被認知者において民法第910条に規定する価額金を請求するか否かにかかわらず、従来の共同相続人各自の法定相続分に応ずる取得金額及び相続税額に異動が生じることになる。 したがって、他の共同相続人は、認知に関する裁判が確定し同人らの法定相続分に応じた取得金額及び相続税額が過大となったのであるから、法第32条第2号の規定により、認知に関する裁判の確定を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をしなければならないこととなる。 2 控訴人は、法第32条第2号に基づく更正の請求は、認知に関する裁判が確定し民法第910条に規定する価額支払請求権を有することとなったときだけではなく、被認知者と他の共同相続人との間で価額金の支払が確定したとき、すなわち、価額金の支払額が具体的に確定したときにすることができる旨主張するが、以下のとおり、このような解釈は許されず、上記価額金の支払が確定したときに、通則法第23条第2項1号の事由による更正の請求をすることができるに過ぎない。 (一) 法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式の下では、民法第787条による認知により相続人に異動を生じたときには、課税標準、税率に重大な変更を生じることとなり、それ自体として独立した課税要件を構成するものとして位置付けられることになることから、その段階において法第32条第2号に基づく更正の請求をしなければならないこととされており、これは法定相続分課税方式による遺産取 独立した課税要件を構成するものとして位置付けられることになることから、その段階において法第32条第2号に基づく更正の請求をしなければならないこととされており、これは法定相続分課税方式による遺産取得者課税方式の特質といえる。 (二) 昭和45年の通則法の一部改正により同法第23条第2項が新設されたが、同項第1号は、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」は、「その確定した日の翌日から起算して二月以内」に更正の請求ができるとしているから、価額支払請求権に基づく価額金の判決、和解等はその適用条件を満たすことになり、法第32条第2号の更正の請求によらず、通則法第23条第2項第1号が適用されることとなる。 (三) 税法は侵害規範(国民に負担を求める規範)の代表的なものであり、法的安定性の要請が強く働くから、税法の解釈、特に租税実体法の解釈は、一般的にいって法文から離れた自由な解釈は許されていない。特に、法第32条第2号は、民法における用語(概念)が用いられている(以下「借用概念」という。)規定であるところ、借用概念について税法独自の解釈を認めることになると、納税者の経済生活における予測と安定性を阻害することになるから、これについては、他の法分野におけるのと同じ意義で用いられていると解すべきである。 また、民法第787条の「認知」の意義は民法においてその概念が確定しており、法第32条第2号に民法第910条を含めて解すべき別段の規定がない以上、控訴人主張のように解することは、租税法律主義と法的安全性を阻害し、課税要件明確主義に反するものであって、許されない拡張解釈とい 法第32条第2号に民法第910条を含めて解すべき別段の規定がない以上、控訴人主張のように解することは、租税法律主義と法的安全性を阻害し、課税要件明確主義に反するものであって、許されない拡張解釈というべきである。 3 控訴人は、仮に「民法第910条の価額支払請求権の行使によって価額金額が具体的に確定した場合」が法第32条第2号の「民法第787条の認知」に含まれないとしても、法第32条第1号の更正事由に該当する旨主張するが、法第32条第1号の規定は法第55条の未分割遺産の分割が行われた場合の規定であり、「民法第910条の価額支払請求権の行使によって価額金の額が具体的に確定した場合」を遺産分割と同義と解することは、民法第787条の規定に違背する拡張解釈をするものとして許されない。 第三当裁判所の判断一法第32条の更正請求相続税又は贈与税の納税申告書を提出した者は、通則法第23条第1項各号所定の理由により、その申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき等には、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができ、また、同条第2項各号所定の後発的事由が発生した場合には、更正の請求をすることができるとされているが、通則法の上記規定により更正の請求をすることができるとされている事由がない場合でも、相続、遺贈又は贈与により財産を取得した者の間の負担の公平を図るため、課税価格又は税額を更正すべき場合があるとの観点から、法第32条は相続税法特有の後発的更正の請求の事由を定めている。すなわち、相続税又は贈与税の納税申告書を提出した者又は決定を受けた者は、同条各号に掲げる事由の一つに該当することにより、申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となったときは、その事由を知った日の翌日から4か月以内に更正の請 た者又は決定を受けた者は、同条各号に掲げる事由の一つに該当することにより、申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となったときは、その事由を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をすることができることとされている。 他方、同条第1号ないし第4号に規定する事由により、新たに相続税を納付すべきこととなる者については期限後申告(法第30条)、既に確定した相続税額に不足を生じることになる者については修正申告(法第31条第1項)が、それぞれ認められ、また、法第35条第3項によれば、税務署長は、上記各号の規定による更正の請求に基づき更正をした場合において、その更正の請求をした者の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した他の者(更正の請求をし、更正を受けた者以外の者)について、該当事由に基づき、その者に係る課税価格又は相続税額を更正し、又は決定することができることとされている。 二法第32条第2号の事由法第32条第2号は、「民法第787条又は第892条から第894条までの規定による認知、相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定、同法第884条に規定する相続の回復、同法第919条第2項の規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと」と規定して、相続人に異動を生じる後発的事由を列挙しているが、これは、相続税の申告又は決定の時に、相続人とされていた者がこれらの事由により相続人でなかったこととなり、又は相続人とされていなかった者が後に相続人とされるなど、申告又は決定の時以後に相続人に異動を生じた場合には、各相続人の取得する相続財産に異動が生じ、また、基礎控除額(法第15条)が異なることとなり、先に申告又は決定により確定した相続税額に異動が生じることとなるため,申告又は決定に係る相続税額が過大となり、 相続人の取得する相続財産に異動が生じ、また、基礎控除額(法第15条)が異なることとなり、先に申告又は決定により確定した相続税額に異動が生じることとなるため,申告又は決定に係る相続税額が過大となり、これを減少すべきこととなる者について更正の請求をすることを認めたものである。 三法第32条第2号所定の「民法第787条の規定による認知に関する裁判の確定」と被認知者の民法第910条の価額支払請求権の行使控訴人は、「法第32条第2号所定の「民法第787条の規定による認知に関する裁判の確定」により相続人に異動を生じた場合には、相続人の数に異動が生じたこと自体により被認知者以外の共同相続人の申告又は決定に係る相続税額が過大となる場合のほか、被認知者が上記裁判の確定後に民法第910条の価額支払請求権を行使したのに応じて他の共同相続人が価額金の支払をしたことにより申告又は決定に係る課税価格及び相続税額が過大となった場合も含むと解すべきである」旨主張する。 しかしながら、法第32条第2号が、上記のとおり、相続人に異動を生じることとなる場合を列挙し、これらを更正の請求の事由として規定しているのは、これらが生じたことにより相続人の数に異動が生じた場合には、そのこと自体で、各相続人の法定相続分及び法第15条所定の基礎控除額に異動が生じ、被認知者以外の共同相続人の申告又は決定に係る相続税額が過大となり、これを更正によって是正することが相続税の負担の公平を図る観点から必要であることによるものであると解され、同号の「民法第787条の規定による認知に関する裁判の確定」も、そのような相続人の異動をもたらすものとして、更正の請求をすることができる事由とされているものというべきである。 他方、被認知者が認知に関する裁判の確定後に民法第910条の価額支払請求権を行使し そのような相続人の異動をもたらすものとして、更正の請求をすることができる事由とされているものというべきである。 他方、被認知者が認知に関する裁判の確定後に民法第910条の価額支払請求権を行使したのに対して他の共同相続人が価額金の支払をした場合も、他の共同相続人の申告又は決定に係る課税価格及び相続税額が過大となるから、これを是正する必要が生じ、他方、新たに相続人となった被認知者については他の共同相続人から支払を受けた価額金について課税の必要が生じることは、控訴人の主張するとおりである。 しかしながら、法第32条には、被認知者による民法第910条の価額支払請求権の行使あるいは被認知者以外の共同相続人による価額金の支払を更正請求の事由とするとの別段の規定がないこと、同条第2号は、上記のとおり、更正請求の事由として相続人に異動が生じる場合を列挙しているところ、上記価額支払請求権の行使自体は相続人に異動を生じさせる事由ではないこと、認知に関する裁判が確定したとしても、被認知者において当然に上記価額支払請求権を行使するとはいえず、仮にこれを行使したとしても、被認知者に民法第903条所定の特別受益が存在すること等の理由から、他の共同相続人の申告又は決定に係る課税価格及び相続税額が必ずしも過大となるとは限らないこと等に照らすと、法第32条第2号所定の「民法第787条の規定による認知に関する裁判の確定」という事由の中に、被認知者による民法第910条の価額支払請求権の行使あるいは被認知者以外の共同相続人による価額金の支払が含まれると解することはできないものというべきである。 もっとも、以上のように解すると、法第32条所定の期間の経過後に被認知者による上記価額支払請求権の行使がなされ、これに対して他の共同相続人が価額金の支払をした場合には、他の共同 いうべきである。 もっとも、以上のように解すると、法第32条所定の期間の経過後に被認知者による上記価額支払請求権の行使がなされ、これに対して他の共同相続人が価額金の支払をした場合には、他の共同相続人の申告又は決定に係る相続税額が過大となったことを是正する方法としては、通則法第23条第2項第1号に基づく更正の請求以外にはないこととなるため、価額金の支払を受けた被認知者に対する法第35条第3項に基づく課税が実質上不可能となり、その限度でいわゆる課税漏れが生じることは控訴人の主張するとおりである。そこで、このような結果を回避するために、法第32条第2号において、「民法第787条の規定による認知に関する裁判の確定」により他の共同相続人の申告又は決定に係る「課税価格及び相続税額が過大となったときは」更正の請求をすることができると規定している趣旨にかんがみ、被認知者による民法第910条の価額支払請求権の行使あるいは被認知者以外の共同相続人による価額金の支払により他の共同相続人の申告又は決定に係る課税価格及び相続税額が過大となった場合も、「認知に関する裁判の確定により相続人に異動を生じたことにより他の共同相続人の申告又は決定に係る課税価格及び相続税額が過大となったとき」に含まれると解することにも、遺産分割後の後発的事由に基づく共同相続人間における相続税負担の不均衡を是正してその公平を図るとの見地から、合理性があることは否定できない。 しかしながら、租税法規については、租税法律主義の見地から、納税義務者の不利益になる場合と利益になる場合とを問わず、文理から乖離した拡張解釈をすることには慎重であるべきことが要請されているところであり、上記の合目的的解釈の趣旨に合理性があることを首肯し得ないわけではないとしても、同条第2号の「民法第787条の規定に ら乖離した拡張解釈をすることには慎重であるべきことが要請されているところであり、上記の合目的的解釈の趣旨に合理性があることを首肯し得ないわけではないとしても、同条第2号の「民法第787条の規定による認知に関する裁判の確定」という文言に被認知者による民法第910条の価額支払請求権の行使あるいは被認知者以外の共同相続人による価額金の支払が含まれると解することは、文理上の乖離があまりにも大きいというべきであるから、上記の解釈を採用することは困難といわざるを得ない。 控訴人は、原審以来、被認知者による価額支払請求権の行使あるいは被認知者以外の共同相続人による価額金の支払を法第32条の更正請求の事由として肯定しない場合には相続税の課税上種々の不合理な結果が生じるとして縷々主張するけれども、それらはいずれも立法問題として解決されるべきものであるというほかない。 したがって、控訴人の前記主張は採用することができない。 四さらに、控訴人は、仮に本件の場合、法第32条第2号の適用が許されないとしても、同条第1号の規定による更正の請求が認められるべきである旨主張するが、同号は、未分割の遺産について法第55条の規定に基づき計算した課税価格がその後なされた分割によって過大となった場合に更正の請求を認める規定であり、これに被認知者による民法第910条の価額支払請求権の行使あるいは被認知者以外の共同相続人による価額金の支払がなされた場合が含まれないことは明らかであるから、Aらによる本件更正の請求を同号に基づくものとしてその適法性を肯定することはできない。 したがって、控訴人の前記主張は採用することができない。 五そうすると、Aらは、本件支払を理由として、法第32条第2号の規定による更正の請求をすることはできなかったものであり、法第32条第2号に基づき本件認 、控訴人の前記主張は採用することができない。 五そうすると、Aらは、本件支払を理由として、法第32条第2号の規定による更正の請求をすることはできなかったものであり、法第32条第2号に基づき本件認知判決の確定による更正の請求をするか、あるいは、通則法第23条第2項第1号に基づき本件価額支払判決の確定による更正の請求をするほかはなかったものというべきである。 そして、法第35条第3項に基づいて税務署長が更正又は決定を行う場合には、法第32条第1号から第4号までの規定による適法な更正の請求に基づいて更正処分が行われたことがその前提となるところ、Aらのした本件更正の請求は、本件認知判決確定の事実を知ってから4か月以内に行われたものではなく、これを大幅に徒過した後に行われた不適法なものであるから、これに応じてされた本件更正処分には重大かつ明白な瑕疵があるというほかなく、控訴人がした本件決定は、その前提を欠くものというべきである。 したがって、本件決定は違法なものといわざるを得ない。 第四結論よって、本件決定が違法であるとしてその取消しを求める被控訴人の請求を認容した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第67条第1項、第61条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第5民事部裁判官濱野惺裁判官竹内努裁判長裁判官魚住庸夫は、差し支えのため、署名、押印することができない。 裁判官濱野惺

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