主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中470日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は,大阪府箕面市ab丁目c番d団地e棟f号室の当時の被告人方で,A,B,被告人の実子であるC(当時4歳)及びD(当時2歳)と同居していたものであるが,A及びBと共謀の上,第1 平成29年12月中旬頃から同月24日午後3時56分頃までの間に,同所において,Cに対し,その顔面,胸部,腹部,側腰部,背部,臀部及び両上下肢を拳骨,平手等で多数回殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治約2週間以内の顔面,胸部,腹部,側腰部,背部,臀部及び両上下肢打撲等の傷害のうちの一部を負わせ,第2 同日午後5時23分頃から同月25日午前2時11分頃までの間に,同所において,Cに対し,その腹部を拳骨で複数回強く殴打する暴行を加え,同人に腸間膜挫裂の傷害を負わせ,よって,同日午前3時25分頃,大阪府内の病院において,同傷害に基づく腹腔内出血により死亡させ,第3 同月中旬頃から同月25日までの間に,前記被告人方又はその周辺等において,Dに対し,その顔面,腹部等を拳骨,平手等で多数回殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1週間以内の多発打撲等の傷害を負わせた。 【弁護人の公訴棄却の申立てに対する判断】 1 弁護人は,C及びDに対する各傷害被告事件の訴因につき,包括一罪とは評価できないものであるのに,検察官は訴追の対象とする個々の暴行内容(主体,時期及び場所等)や暴行と傷害結果との対応関係等を特定しておらず,訴因としての特定を欠いている旨主張する。 この点,検察官が提出した書面の内容等も踏まえると,いずれの訴因も,約1 0日間という一定の期間内に,被告 結果との対応関係等を特定しておらず,訴因としての特定を欠いている旨主張する。 この点,検察官が提出した書面の内容等も踏まえると,いずれの訴因も,約1 0日間という一定の期間内に,被告人とその交際相手等である共犯者らが,被告人方又はその周辺等という限定された場所において,共同生活を送っていた当時4歳及び当時2歳の被告人の実子2名に対し,意に従わせる目的やストレスのはけ口とする目的という共通の動機から繰り返し犯意を生じ,拳骨や平手等で殴打する,蹴るなどの共通ないし類似した態様の暴行を反復累行し,その結果,個別の機会にどういった暴行を加えてどの傷害を発生させたのか,その対応関係を個々に特定することは困難であるものの,結局は,被告人ら3名の一部又はその全員が,各被害者に暴行を加え,一定の傷害を負わせたというものであり,それぞれ包括して一つの傷害罪を構成すると解される。そうすると,いずれも,その共犯者,被害者,期間,場所,暴行の態様及び傷害結果の記載により,他の犯罪事実との区別が可能であり,また傷害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているから,訴因の特定に欠けるところはなく,弁護人の主張は採用できない。 なお,弁護人は,証拠によれば,各訴因に掲げられた傷害結果よりも具体的な傷害結果の内容や,個々に生じた結果に結び付く個々の暴行内容,行為者等を更に特定できる部分があるにもかかわらず,検察官はそのような特定を怠っており,各訴因につき,「できる限り」特定していない違法がある旨主張するが,既に述べたところもみれば,本件において,審判対象の画定や被告人の防御の観点に照らし訴因の特定に関する根幹部分に瑕疵があるとはいえず,この点をして公訴棄却を求める弁護人の主張も採用できない。 2 また,弁護人は, もみれば,本件において,審判対象の画定や被告人の防御の観点に照らし訴因の特定に関する根幹部分に瑕疵があるとはいえず,この点をして公訴棄却を求める弁護人の主張も採用できない。 2 また,弁護人は,各傷害の追起訴がなければ,それらに関する証拠を傷害致死被告事件に関する証拠として用いることは認められなかった可能性があるところ,傷害致死被告事件の起訴後にされた各傷害の追起訴は,そのような立証の禁止を潜脱する目的でされた違法なものである旨主張する。 しかしながら,同一の人的関係等を背景とした傷害と傷害致死との関係や,各事件において被告人と共犯者とされる者との共謀の有無が争われているという争 点の内容,及びその証拠構造等からすれば,判例上被告人が他に犯罪事実を行っていることをもって本件についての犯罪事実を立証することは禁止されていると弁護人がいうところが,本件に妥当するとはいえず,検察官による各傷害の追起訴に,弁護人のいうような目的を見いだすことはできないのであって,弁護人の主張は採用できない。 【補足説明等】第1 共謀があったか 1 弁護人は,いずれの事件との関係でも,被告人とAやB(以下「Aら」ともいう。)との間に共謀はなかった旨主張するが,当裁判所はこれを認めたので,以下,補足して説明する。 2 関係証拠によれば,以下の事実が認められる(なお,以下の日付はいずれも平成29年である。)。 被告人は,10月下旬頃,C及びDと判示の被告人方で3人で暮らしていたが,出会い系アプリを通じてAと知り合い,LINEでのやりとりなどを経て交際を開始し,11月5日,被告人方を訪れたAと初めて対面した。 同月11日,Aは,内妻の弟であったBとともに,勤務していた会社を無断でやめ,被告人方で,被告人,C及びDの5人で同居生活を始めた。 交際を開始し,11月5日,被告人方を訪れたAと初めて対面した。 同月11日,Aは,内妻の弟であったBとともに,勤務していた会社を無断でやめ,被告人方で,被告人,C及びDの5人で同居生活を始めた。 被告人方には,キッチン,風呂及びトイレのほか,6畳和室及び4畳半和室の2部屋があり,被告人らは,同居開始後,主に6畳和室で過ごし,日中は,6畳和室で各人がゲームをしたり,近くのスーパーに買い物に行くなどして過ごしていた。 C及びDは,箕面市内の保育所に通っていたが,Dについては同月16日,Cについては同月22日を最後に,保育所に通わなくなった。 12月9日,保育所の職員が被告人方を訪問し,Dの左頬に青あざを発見したのに対し,被告人は階段から落ちた旨説明した。また,被告人は,同職員に対し,同月11日からC及びDの通所を再開すると説明したが,同日以降も2 人を通わせなかった。 11月下旬ないし12月初め頃,被告人は,Aらに対し,CやDを「叱って」「怒って」と求めたり,「しばいて」と言うこともあり,これを受けて,Aは11月下旬ないし12月初め頃から,Bは12月に入って以降,C及びDに対し,暴行を加えるようになった。 12月中旬頃から,Aらの暴行は,エスカレートし,Aらは,C及びDに対し,拳骨や平手で,頭,頬,腹,尻,背中等を殴る,たたく,蹴るなどし,各人に皮下出血を生じさせた。Aは,C及びDに対し,自身の腹の上に乗せてその両脇腹を殴る,頭や耳,尻等を噛むといった暴行を加えたり,Dに対してはカーペットクリーナーで腕や足等をたたくなどの暴行を加えることもあった。 さらに,Aらは,CやDに対し,陰茎を強く引っ張ったり,四つんばいの姿勢から片足を上げさせる格好をさせ,我慢できず体勢を崩すと腹を殴るなどの暴行を加えたり,おむつ くなどの暴行を加えることもあった。 さらに,Aらは,CやDに対し,陰茎を強く引っ張ったり,四つんばいの姿勢から片足を上げさせる格好をさせ,我慢できず体勢を崩すと腹を殴るなどの暴行を加えたり,おむつの状況をチェックした際にCやDが嘘をつくと,暴行を加えたりすることもあった。 Aらによる暴行は,6畳和室で加えられることが多かったが,同室にいた被告人はこれらを制止しなかった。また,被告人がAらの暴行につき警察に通報をしたり,同じ市内に住み,頻繁に会っていた父親や,能勢町に住み,米の援助等をしてくれていた伯母といった親族に助けを求めることもなかった。 被告人は,同月18日,Aらが仕事に行っている間に,6畳和室においてカラオケを歌いながら,携帯電話機で動画を撮影した。この際,被告人は,Dに対し,大声を上げながら飛び掛かり,手で複数回その身体をたたき,その身体の近くに複数回足を振り落とし「覚えとけよ,パパ帰ってきたら知らないから」「怒られるぞ」「知らないぞ,知らないぞ」「さぁしばく時間が来たぞ」「終わったからしばき倒そうかな」等と言った。 イ同月19日,被告人方集合住宅のエレベーター内に,被告人,C及びDが乗り込んだ際,被告人がDの顔面に向けて持っていた手提げかばんをぶつけ ようとし,Dが床に倒れ込むことがあった。 同月22日,被告人は以前から連絡をとっていた知人男性に対し,LINEで,左目周辺に皮下出血があるCの画像を送信したり,「Cの顔みてびっくりせんとってね笑」「こんなふうになってるから笑」「殴られた笑」「居候から笑」等のメッセージを送信したりした。 同月24日,被告人ら5人がスーパーへ向かうため前記エレベーターに乗った際,AがDを蹴ったが,被告人は携帯電話機を操作し続けていた。 その後一旦帰宅した被告人とC メッセージを送信したりした。 同月24日,被告人ら5人がスーパーへ向かうため前記エレベーターに乗った際,AがDを蹴ったが,被告人は携帯電話機を操作し続けていた。 その後一旦帰宅した被告人とC及びDは,同日午後3時56分頃,被告人の父親と外食へ出かけた。被告人の父親はCの左目周辺に皮下出血があるのを見たため,どうしたのか被告人に尋ねると,被告人は風呂場で転んだ旨答えた。 Cは体調が悪かったため,被告人の父親がCを病院に連れていくよう促したが,被告人はCを病院へ連れていかなかった。 被告人,C及びDは,同日午後5時23分頃帰宅した。 イ同日午後10時46分,被告人はLINEのタイムライン上に「C死にかけ。やばい。」と投稿し,知人に対し,同日午後11時3分にはLINEで「Cがしにそーでやばいけんね。」,同月25日午前1時33分には「彼氏に殴られてぐたーってしてる。」と送信した。また,別の知人に対しても,「友達に殴られてぐたーってしてる。」と送信した。 ウ被告人は,同日午前2時11分頃,110番通報をして,Cの心臓が止まっている旨を申告した。また,被告人は,Aらに対し,逃げるよう促し,同日午前2時17分頃,AとBは前後して被告人方から立ち去った。 同日午前2時20分頃,救急隊員らが被告人方に到着し,Cは大阪府内の病院へ救急搬送された。被告人は,被告人方に駆けつけた警察官から,Cの顔や体にあざがある理由について尋ねられると,お風呂で転んだり,弟と喧嘩したりしたときにできた傷であるなどと供述した。 3 共謀関係を基礎付ける主たる事実関係について 被告人自身によるC及びDに対する暴行A及びBは,公判廷で,被告人と同居して以降Cが死亡するまでの間,被告人は,毎日,C及びDに対し,殴る,蹴る,たたくなどの暴行を加え, ついて 被告人自身によるC及びDに対する暴行A及びBは,公判廷で,被告人と同居して以降Cが死亡するまでの間,被告人は,毎日,C及びDに対し,殴る,蹴る,たたくなどの暴行を加え,特にDに対しては,離婚した前夫に顔が似ているとして嫌い,首を絞めるなどの暴行を加えていた旨供述する。 本件事案の内容等からすれば,Aらが被告人に殊更不利な供述をするおそれがあるといえ,また公判での供述内容に従前供述されていなかったものも含まれているものとみられることなどからすると,それらの供述の信用性は慎重に吟味しなければならず,Aらの供述をそのまま信用することには躊躇を覚えざるを得ない。もっとも,12月18日のカラオケ時の動画や,同月19日のエレベーター内の防犯カメラ映像によれば,被告人が,C及びDに対し,同人らが何らかの悪さをしたともうかがわれないのに,その身体をたたいたり,手提げかばんをぶつけようとしていることが認められ,これに加え,後の検討結果等にも照らすと,被告人が,Aらが被告人と同居して以降,しばしば,CやDに対し,傷害の結果を生じさせたとは認められない程度の暴行を加えていたとする程度では信用できる。 AらがC及びDに暴行を加え始めたきっかけ及びその後の経緯ア公判廷で,Aらは,11月末から12月初頭にかけて,被告人からCやDを「しばいて」「どついて」と言われるようになり,更にAは,被告人から,AらがC及びDを甘やかすので言うことを聞かない,C及びDの親になるのであれば暴力を振るうよう求められたことがあり,これをきっかけに暴力を振るい始めた旨述べ,Bも,被告人自身や被告人から暴力を振るうよう求められたAに指示されるなどしたために,12月に入って以降,C及びDに暴力を振るうようになった旨供述し,更に,Aらは,暴力がエスカ 振るい始めた旨述べ,Bも,被告人自身や被告人から暴力を振るうよう求められたAに指示されるなどしたために,12月に入って以降,C及びDに暴力を振るうようになった旨供述し,更に,Aらは,暴力がエスカレートした同月中旬以降も,被告人は度々「しばいて」「たたいて」等と言っていた旨供述する。 この点,AやBと被告人との関係性等からして,Aらが,被告人の実子であ るC及びDに対し,被告人の関与なく自発的に暴行を加えるようになったとは考え難い。また,同月18日のカラオケ時の動画内で,被告人が「覚えとけよ,パパ帰ってきたら知らないから」「怒られるぞ」等と発言している点も,当時,被告人がAらに対してC及びDに暴行を加えることを求めていたことと沿うものである。この点に関するAらの前記供述は,内容が合理的であり,他の事実関係とも整合することから信用でき,被告人が「しばいて」等と求めたことがAらの暴行のきっかけとなったこと,Aらの暴行が始まり,それがエスカレートした後にも,被告人がAらに対し「しばいて」等と言っていたことが認められる。 イこれに対し,被告人は,11月下旬頃から12月上旬頃にかけて,C及びDが悪さをした際に,Aらに対し,「しばいて」等と述べたことはあるが,それは手で軽く頭をたたくなど,しつけの範囲にとどまるものを求めた趣旨にすぎず,その範囲を超えてあざができるような暴行を加えた場合には止めるよう求めていた,Aらの暴行がエスカレートした後は,Aの存在が怖くて止めることができず,母親として子供たちが怪我をしてほしくないとも思っていたことから,「しばいて」等とも言っていないなどと公判廷で供述する。 しかしながら,同月18日のカラオケ時の動画における被告人の発言は,Aに暴行を加えることを求めることを前提としたものであり,「しばく とから,「しばいて」等とも言っていないなどと公判廷で供述する。 しかしながら,同月18日のカラオケ時の動画における被告人の発言は,Aに暴行を加えることを求めることを前提としたものであり,「しばく」という言葉を用いていると認められる上,同月22日には知人男性とのLINEで,Cの傷ついた姿を笑いものにするかのような内容のやりとりをしていることなどからしても,被告人が,Aらの暴行を容認していたことは明らかであり,前記供述はこれにそぐわない。また,被告人が,A以外の男性とLINEで親密なやりとりを継続したり,他県で就職しようとしたAに対し怒りを爆発させ,結局Aがそこでの就職を断念したことなどに照らすと,Aの暴行を止められなかったとの供述も不合理である。さらに,被告人は,前記カラオケ時の動画はCらの様子を撮影しておくようAから命令されたため逆らいきれずに撮影した 旨述べるが,他方で撮影した動画を結局Aには見せていないとも述べており,不可解である。加えて,被告人が,自身の父親や伯母に助けを求めることは容易であったのに格別相談もしておらず,自宅を訪れた保育所の職員に虚偽の説明をしていること,自ら,C及びDに暴行を加えていたと認められることなども踏まえると,被告人の前記供述は信用できないというほかない。 被告人がAらの暴行を止めなかった点についてア 12月中旬以降,AらのC及びDに対する暴行がエスカレートし,Cらの身体に皮下出血等も生じていたが,被告人はこのようなAらの暴行を目の当たりにしながらこれを制止していない。 弁護人は,その理由として,被告人が本件当時,複雑性PTSDに罹患しており,暴力を目にした際には遷延性解離や感情麻痺の状態に陥り,適切な判断や制止ができなくなっていたからである旨主張し,被告人も,Aらの激しい暴力を として,被告人が本件当時,複雑性PTSDに罹患しており,暴力を目にした際には遷延性解離や感情麻痺の状態に陥り,適切な判断や制止ができなくなっていたからである旨主張し,被告人も,Aらの激しい暴力を目の当たりにすると現実感がなくなってしまい,身体が動かなくなったなどと公判廷でこれに沿う供述をする。 イ精神医学を専門とするE医師は,被告人は,幼少時に祖母からの虐待を,小中学校時代に繰り返しレイプされるといった性暴力を,後には交際相手から激しい暴力を受けるなど,持続的なトラウマ体験を受けてきたことや,リストカットや処方薬,アルコールの大量使用等の暴力的暴発,自己破壊的行動等の自己組織化の障害がみられることから,本件当時,複雑性PTSDに罹患していたといえ,そのために,Aらによるひどい暴力を目の当たりにすることで判断停止状態となり,Aらの暴行を阻止しようと思っても阻止できなかった旨供述する。 しかしながら,このようなE医師の見解は,基本的に被告人の供述内容に依拠して示されたものと認められ,判断の前提資料が十分であったのか疑問がある。また,被告人がトラウマ体験として述べる出来事自体がにわかに信用し難い内容で,被告人の生活歴ともそぐわない上,数百回のリストカットをしたが 痕跡が残っていないなど,E医師が自己組織化の障害を裏付ける要素として挙げる事実関係にも疑問があるというほかない。さらに,E医師によっても,複雑性PTSDに罹患している者は暴力を非常に嫌がるため,普通は自ら暴力行為に及ぶことはない旨述べているところ,前述のとおり,本件当時,被告人は自らC及びDに対してしばしば暴行を加えていたことや暴行を容認する態度を示していたと認められることなど,関係証拠により認められる事実関係とE医師の医学的見解の内容とも矛盾が生じている。E医 被告人は自らC及びDに対してしばしば暴行を加えていたことや暴行を容認する態度を示していたと認められることなど,関係証拠により認められる事実関係とE医師の医学的見解の内容とも矛盾が生じている。E医師の前記見解は,その前提とする事実関係等に疑問があり,採用することができない。 ウこのような判断は,精神医学を専門とするF医師が,前記カラオケ時の動画やエレベーター内の防犯カメラ映像等から認められる被告人の言動に照らし,本件当時,被告人に複雑性PTSD等の精神障害があったとも,Aらの暴力を止められない精神状態にあったともいえない旨供述するところと整合する。 弁護人は,F医師が複雑性PTSDをPTSDと連続性を有する疾患であると説明するが,これは複雑性PTSDの概念を十分理解しないものであるとか,被告人と面談することなく意見を述べている点をもって,その供述の信用性は低いなどと主張するが,それらがF医師の供述内容の本質的な部分の信用性に疑いを差し挟むような事情とはみられず,同主張は採用できない。 エ以上によれば,被告人が,Aらの暴行を目の当たりにした際,精神疾患のために制止できなかったとはいえず,かえって,知人男性とのLINEのやりとりや,カラオケ時の動画,C及びDの身体に見られた多数の皮下出血の存在等に照らせば,被告人は,Aらの暴行を認識していただけでなく,Aらが暴行を加えることにつき,明確に容認していたと認められる。 4 以上を踏まえ,被告人とAらとの間に本件各犯行に係る共謀があったといえるかにつき,検討する。 Aらは,12月以降,被告人から「しばいて」等と言われた際,C及びDに対して,その身体をたたく,殴るなどの暴行を加えるようになり,また,同月 中旬以降は,被告人から「しばいて」等と求められなくても自らの判断でも から「しばいて」等と言われた際,C及びDに対して,その身体をたたく,殴るなどの暴行を加えるようになり,また,同月 中旬以降は,被告人から「しばいて」等と求められなくても自らの判断でも暴行を加えるようになり,暴行の程度もエスカレートし,身体に皮下出血が生じるほどのものがあったこと,その延長で,Aらの一方又は双方が腹部に加えた暴行が致命傷となってCが死亡するに至ったこと,対して,被告人もこのようなAらの暴行を目にしながら制止してこなかったことが認められる。当初の被告人の「しばいて」という発言は,個々の場面を超えて,Aらに対し,C及びDに暴行を加えることを求めた趣旨かは判然としないが,このような被告人の言動こそが,Aらが子供たちに暴行を加え始める発端となったものである。また,同月中旬以降,Aらは,C及びDに対して激しい暴行を加えるようになったが,被告人はこのような状況を目の当たりにしながらも,これを放置し,かえって皮下出血の生じたCの姿を笑いものにするかのような画像を他人に送信するなど,そのような状態を容認していたばかりでなく,自らもC及びDに暴行を加えることがあり,Aらに対して「しばいて」等と求めるなど,暴行を助長する態度も示していた。そして,本件当時の被告人,C及びD,Aらの関係性,立場も併せみれば,被告人の言動や存在が不可欠の要素となって本件の一連の犯行が実現したというべきである。 被告人は,C及びDとともに被告人方での共同生活を送る中で,C及びDに対して暴行を加えることについて,Aらによる暴行がエスカレートした12月中旬頃にはAらとの間に共謀関係を形成していたといえ,その後判示の各犯行の場面で,C,D,被告人,Aらが生活空間を異にしていたとみるべきこともない。被告人は,判示のいずれの犯行との関係でもそれぞれ共同正犯 にはAらとの間に共謀関係を形成していたといえ,その後判示の各犯行の場面で,C,D,被告人,Aらが生活空間を異にしていたとみるべきこともない。被告人は,判示のいずれの犯行との関係でもそれぞれ共同正犯としての責めを負う。 第2 判示第1の傷害について関係証拠によれば,Cの身体には,致命傷となった中心に蒼白部のある腹部正中の皮膚変色部を除き,顔面,胸部,腹部,側腰部,背部,臀部,両上下肢に打撲による皮膚変色,表皮剥脱等が多数認められるところ,G医師によれば,解剖 時に見られたこれらの傷は12月中旬以降に生じたものとみてよい旨述べていること,同じ頃からエスカレートしたAらによる暴行の内容,このような多数の傷が自分で転んだり,打ち付けたりした際に生じたとは考え難いことなどを併せみれば,Cに見られた傷害は,おおむね,12月中旬頃から同月24日午後3時56分頃までの間に,被告人方におけるAらの暴行によって生じたものと認められる。もっとも,同日午後5時23分頃以降も,AらはCに対して種々の暴行を加えていたとみられることからすれば,解剖時にCに見られた傷害の中には前記時刻の後に生じた傷害が含まれている可能性を排斥できない。また,共謀がないところで生じた傷害が含まれている可能性もある。とはいえ,共謀が認められる判示第1の日時にそれらの傷害のうちの一部は確実に生じたものといえるから,結局,判示第1の事実のとおり認定した。 第3 弁護人は,傷害致死の実行行為の時期について疑問をいれる主張もするが,G医師の証言を始めとする関係証拠によれば,判示第2の日時のとおり認められることが明らかである。 第4 また,既に示したところでも明らかなように,判示の各事実について,しつけなどとして犯罪の違法性を阻却すべきものはないと認められる。 【法令の適 の日時のとおり認められることが明らかである。 第4 また,既に示したところでも明らかなように,判示の各事実について,しつけなどとして犯罪の違法性を阻却すべきものはないと認められる。 【法令の適用】罰条判示第1及び第3の所為いずれも包括して刑法60条,204条判示第2の所為刑法60条,205条刑種の選択判示第1及び第3の罪いずれも懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の処理刑事訴訟法181条1項ただし書 判示第1の事実と判示第3の事実については,それぞれ共通するといえる動機から共通ないし類似する態様の暴行を反復継続して各被害者の身体に傷害を負わせたというものであるから,それぞれ包括一罪として評価される。また,判示第1の傷害と判示第2の傷害致死は,別の機会にされた犯行であると区別でき,侵害された法益も同一でないことなどからすれば,併合罪の関係にある(なお,弁護人は,判示第1の傷害と判示第2の傷害致死とが包括一罪となるのであれば,判示第2の事実に係る起訴の後にされた判示第1の事実に係る起訴は二重起訴に当たり,公訴棄却されるべきである旨主張するが,仮に包括一罪と評価されるにしても,訴因変更の手続によるべきところをより慎重な起訴の手続を選択したにすぎないと解され,いずれにしても同主張は採用できない。)。 【量刑の理由】本件は,当時4歳及び当時2歳の子供たちの母親である被告人と,その交際相手及びその知人の男性の2名が,被告人方において同居生活を送る中,互いに意を通じ合い,判示の傷害,傷害致死に及んだ児童虐待の事案である ,当時4歳及び当時2歳の子供たちの母親である被告人と,その交際相手及びその知人の男性の2名が,被告人方において同居生活を送る中,互いに意を通じ合い,判示の傷害,傷害致死に及んだ児童虐待の事案である。 共犯者らは,被告人の求めに応じて子供たちに暴行を加えるようになっていたところ,次第に暴行をエスカレートさせ,数日間にわたり,顔面,腹部等を拳骨,平手等で多数回殴打するなどの暴行を繰り返し加えて皮下出血を生じさせた上,ついには,共犯者の両名又はそのいずれかが,当時4歳の子供の腹部に対し,腸間膜,大網に挫裂を生じさせるほどの強い力で複数回殴打する暴行を加え,同人を死に至らせたのであって,逃げ場のない,幼い子供たちに対して一方的に暴行を繰り返した点は悪質である。 被告人は,子供たちの母親でありながら,共犯者らに対し,子供たちを「しばいて」等と求めて犯行のきっかけを作っただけでなく,共犯者らの暴行を助長し,子供たちに皮下出血が生じてもなお,傷ついた子供たちを助けることもなく,むしろ笑いものにするかのような態度まで示し,暴行を加えることを容認し続け,当時4歳の子供の死亡という結果を招いたのであって,厳しい非難に値する。 もっとも,傷害致死の犯行の際に,証拠上,被告人自身が強度の暴行を加えていたとか,子供の身体を押さえるなど物理的に加功していたなどとは認められない上,共犯者らに対し,強度の暴行を加えるよう指示をしたとも断じられない。被告人の言動や存在が不可欠の要素となって一連の犯行が実現したことは明らかであるが,その刑事責任が,共犯者らと同等又はそれ以上であるとまで評価する根拠に乏しいといわざるを得ない。 その上で,被告人が,公判廷においても不合理な供述をしていることや,他方で被告人に前科前歴がないことなどの諸事情を考慮し, と同等又はそれ以上であるとまで評価する根拠に乏しいといわざるを得ない。その上で,被告人が,公判廷においても不合理な供述をしていることや,他方で被告人に前科前歴がないことなどの諸事情を考慮し,主文のとおりの刑を定めた。(求刑懲役13年) 令和2年2月17日 大阪地方裁判所第6刑事部 裁判長 裁判官 大寄淳 裁判官 沖敦子 裁判官 中村公大
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