令和2(ワ)20792 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年7月6日 東京地方裁判所
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判決文本文7,349 文字)

令和3年7月6日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年第20792号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和3年4月20日判決主文 1 被告は,原告に対し,33万円及びこれに対する令和2年6月24日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告は,別紙投稿記事目録記載の投稿記事を削除せよ。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,これを10分し,その7を原告の負担とし,その余を被告の負 担とする。 5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する令和2年6月24日から 支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 主文第2項と同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,原告が,被告がインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」 (Twitter)に投稿したツイートによって名誉を毀損され,精神的損害を被ったと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償金110万円(慰謝料100万円,弁護士費用10万円)及びこれに対する上記ツイートの投稿日である令和2年6月24日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払並びに上記ツイートの削除を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨から容易 に認められる事実)⑴ 当事者等ア原告は,フリーランスのジャーナリストである(弁論の全趣旨)。 原告は,平成27年4月3日,当時株式会社TBSテレビの従業員ワシントン支局長であった者(以下「訴外A」という。)から性被害(以下「別 件性被害 ャーナリストである(弁論の全趣旨)。 原告は,平成27年4月3日,当時株式会社TBSテレビの従業員ワシントン支局長であった者(以下「訴外A」という。)から性被害(以下「別 件性被害」という。)を受けたと主張して,同月30日,告訴状を提出した。 原告は,平成29年5月,訴外Aに対する準強姦被疑事件についての不起訴処分を不服として,検察審査会に審査申立てをした。原告は,その際,司法記者クラブにおいて,自ら顔と実名を明らかにした上で記者会見を開き,別件性被害について訴え,その後,自己の体験を綴った著書を出版す るなど,実名で別件性被害に関する発信を行っている。(弁論の全趣旨)原告は,同年9月28日,訴外Aに対し,別件性被害について東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起した。同裁判所は,別件性被害があったとの事実を認定した上で,原告の請求を一部認容する判決をしたところ,訴外Aは,これを不服として控訴した。(甲1,弁論の全趣旨) イ被告は,人工知能及び分散型台帳を利用したプラットフォームの立案・制作及び運営等を目的とする株式会社Daisyの代表取締役で,以前東京大学大学院情報学環・学際情報学府所属の特任准教授の職にあった者である。ツイッター上の被告のアカウントは,令和2年7月20日時点で,約1万8000人のフォロワーを擁していた。(争いがない) ⑵ 原告は,令和2年6月8日,漫画家である者(以下「訴外B」という。)がツイッターに投稿したツイート及び添付のイラスト画像が,原告が就職の斡旋を受けるために訴外Aと合意の下で性交渉に及んだにもかかわらず,期待した結果が得られなかったことから上記性交渉を別件性被害に仕立て上げた等の事実を摘示し,原告の名誉を毀損したと主張して,訴外B及び同人の めに訴外Aと合意の下で性交渉に及んだにもかかわらず,期待した結果が得られなかったことから上記性交渉を別件性被害に仕立て上げた等の事実を摘示し,原告の名誉を毀損したと主張して,訴外B及び同人の ツイートをリツイートした2名に対し,損害賠償を求める訴え(以下「別件 名誉毀損訴訟」という。)を提起した(甲11,弁論の全趣旨)。 ⑶ア被告は,令和2年6月10日午後3時34分,ツイッターに「Cが訴外Bを訴えるって話だけど,どういうロジックで訴えるんだ?別にCを名指しで誹謗中傷してるわけじゃないから,名誉棄損には当たらないでしょ。」と投稿した(甲12)。 イ被告は,令和2年6月10日午後3時46分,ツイッターに「Cの何がダメダメかって,刑事裁判でレイプが認められなかったにもかかわらず,その後の民事裁判の結果をレイプを関連付けている点。今回もやってることの筋が通っておらず全く支持できない。」と投稿した(甲13)。 ウ被告は,令和2年6月10日午後3時52分,被告の上記アのツイート に他のアカウントが「スラップ訴訟ってやつです」とリプライ(返信)したのに対し,「恐らくそうでしょう。ただC氏の場合はこれまでの行いもあって露骨に透けて見えるため,よりセコく見えちゃいますね。」とリプライした(甲14)。 エ被告は,令和2年6月13日午後5時26分,ツイッターに「具合悪そ うだから介抱したのに急に「レイプされた」とかファビョり出して社会的地位を落としにかかってくるのトラップ過ぎるし,男にとって敵でしかないわ。」と投稿した(甲15)。 ⑷ア被告は,令和2年6月24日午後4時58分,ツイッターに,別紙投稿記事目録記載のとおり,「Cって偽名じゃねーか!」という文章に「#性行 為強要」 ないわ。」と投稿した(甲15)。 ⑷ア被告は,令和2年6月24日午後4時58分,ツイッターに,別紙投稿記事目録記載のとおり,「Cって偽名じゃねーか!」という文章に「#性行 為強要」及び「♯D」とのハッシュタグを付し,平成22年9月8日に東京地方裁判所においてCことD(以下,同人の氏名につき「D」と統一して表記する。)という人物について破産手続が開始したことが記載された官報公告記事の画像を添付したツイート(以下「本件ツイート」という。)を投稿した(甲16)。 イ本件ツイートは,令和2年7月21日時点で,622回リツイートされ, 「いいねの数」が1169回と記録されている(甲16)。 ウ本件ツイートに対しては,原告とDという人物が別人である事実及び同事実が広く知られていることを指摘する趣旨のリプライが多数あった(乙1の1ないし26)。 ⑸ 原告の本名は,「C」であり,通名はなく,原告が過去に破産手続開始決定 を受けた事実はない(弁論の全趣旨)。 ⑹ 令和2年7月21日時点において,ツイッター上で「♯性行為強要」のハッシュタグを検索すると,不倫関係にあった上司から性行為を強要されたとする元部下の女性の申告が裁判で虚偽と認定されたという報道に言及するツイートのほか,性被害を話題とするツイートが多数該当した(甲18)。 また,同日時点において,ツイッター上で「♯D」のハッシュタグを検索すると,原告の顔写真を掲載したものを含め,原告に言及するツイートが検索結果の大半を占めた(甲17)。 3 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 本件ツイートにより摘示された事実の内容及び社会的評価の低下の有無 (争点1)(原告の主張)本件ツイートは,原告が本 。 3 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 本件ツイートにより摘示された事実の内容及び社会的評価の低下の有無 (争点1)(原告の主張)本件ツイートは,原告が本名をD,通名を「C」とする外国人で,平成22年9月8日に東京地方裁判所で破産手続開始決定を受けたという事実を摘示するものである。 本件ツイートは,原告が支払うべき債務を支払うことができず,破産に至ったかのような印象を与えるから,原告の社会的評価を低下させる。 (被告の主張)「C」という名前は,ツイッター上も多数存在する上,Dという破産手続開始決定を受けた原告と別人であることは,既にネット上で拡散されており, 広く認識されていたから,一般読者において,本件ツイートが原告について 言及したものと最終的に認識されない以上,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として,本件ツイートが原告に関する何らかの事実を摘示したとは認められないし,本件ツイートによって原告の社会的評価は低下しない。 ⑵ 損害の発生及びその額(争点2)(原告の主張) ア慰謝料本件ツイートは,原告の経済的信用を毀損しただけでなく,別件性被害の二次被害というべき訴外Bによる誹謗中傷行為に対して原告が別件名誉毀損訴訟を起こしたことを理由に,さらに原告を誹謗中傷するものであり,本件ツイートによる被害は原告にとって別件性被害の三次被害と評価でき る。これにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は100万円が相当である。 イ弁護士費用アの金額の1割に相当する10万円が相当である。 (被告の主張) 否認ないし争う。本件ツイートが,原告が破産手続開始決定を受 が相当である。 イ弁護士費用アの金額の1割に相当する10万円が相当である。 (被告の主張) 否認ないし争う。本件ツイートが,原告が破産手続開始決定を受けた事実を摘示すると認められるとしても,上記摘示事実は専ら原告の経済的信用を低下させるものであり,別件性被害とは無関係である。また,上記摘示事実は,本件ツイートに添付された画像により間接的に摘示されるにとどまるから,その影響力は小さい。 ⑶ 本件ツイートの削除請求の可否(争点3)(原告の主張)本件ツイートが掲載され続けることにより,原告の名誉権は継続して侵害され続けているから,原告の名誉を回復するためには本件ツイートが削除される必要がある。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件ツイートにより摘示された事実の内容及び社会的評価の低下の有無)⑴ ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうか は,当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものと解される(第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。 ⑵ 本件ツイートにより摘示された事実の内容ア本件ツイートは,一般読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば,本 件ツイートに添付された官報公告記事の画像と一体となって,原告が本名をD,通名を「C」とする外国人であり,平成22年9月8日に東京地方裁判所で破産手続開始決定を受けたという事実を摘示するものと認められる。 イこれに対し,被告は,①原告と同姓同名の人間に関する話題はツイッタ ー上も多数存在すること,②原告がD 地方裁判所で破産手続開始決定を受けたという事実を摘示するものと認められる。 イこれに対し,被告は,①原告と同姓同名の人間に関する話題はツイッタ ー上も多数存在すること,②原告がDという人物と別人であることは,本件ツイート時点で広く認識されていたことを理由に,本件ツイートが原告について何らかの事実を摘示するものとは認められないと主張する。 しかしながら,原告が「C」という実名を明らかにして別件性被害を訴えて社会に発信している人物であること(前提事実⑴ア),「♯性行為強要」 のハッシュタグは,性被害に関する文脈で用いられているものであること(同⑹),本件ツイートに先立ち,被告が複数回原告を名指しした上で別件性被害や別件名誉毀損訴訟に言及する投稿をしていること(同⑶アないしウ)等に照らし,一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすれば,本件ツイートが「C」という人物の中でも原告を名指しするものであることは 明らかである。よって,被告の上記①の主張は理由がない。 一方,本件各証拠によっても,原告がDという人物と別人であることが,一般の読者による解釈の当然の前提であるといえるまで社会的に広く認識されていたと認めることはできない。かえって「♯D」からのハッシュタグ検索による検索結果の大半が原告に言及するツイートであることからは,実際に大半の読者が原告とDという人物とを誤認し,あるいは,結び付け て認識していることが裏付けられる。よって,被告の上記②の主張は前提を欠き,理由がない。 ⑶ 社会的評価の低下の有無ア上記⑵アで説示のとおり,本件ツイートは,原告が本名をD,通名を「C」とする外国人であり,平成22年9月8日に東京地方裁判所で破産手続開 始決定を受けたと 社会的評価の低下の有無ア上記⑵アで説示のとおり,本件ツイートは,原告が本名をD,通名を「C」とする外国人であり,平成22年9月8日に東京地方裁判所で破産手続開 始決定を受けたという事実を摘示するものであって,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば,原告が多額の負債を抱え,経済的に破綻して破産手続開始決定を受けるに至ったかのような印象を与えるから,原告の社会的評価を低下させると認められる。 イこれに対し,被告は,①原告がDという人物と別人であることは,本件 ツイート時点で広く認識されていたこと,②本件ツイートに対するリプライの中には,原告とDが別人であることを指摘するものも含まれるから,本件ツイートの下部に表示される上記リプライも読めば,原告のことを破産手続開始決定を受けたDであると認識する読者はいないと考えられることを理由に,本件ツイートにより原告の社会的評価は低下しないと主張す る。 しかしながら,上記⑵イで説示のとおり,原告がDという人物と別人であることが,一般の読者による解釈の当然の前提であるといえるまで広く社会的に認識されていたと認めることはできないから,被告の上記主張①は前提を欠く。 また,本件ツイートは,読者がこれを閲読し得る状態になった時点で原 告の社会的評価を低下させるものであり(最高裁第220号同9年5月27日第三小法廷判決・民集51巻5号2024頁参照),本件ツイートが投稿された後に本件ツイートにされた他者のリプライの内容によって,本件ツイート時点で原告の社会的評価が低下した事実自体に消長を来すわけではないから,被告の上記主張②は失当である。 ⑷ そして,上記⑵アの摘示事実は,真実に反しており(前提事実⑸),かつ,被告から ト時点で原告の社会的評価が低下した事実自体に消長を来すわけではないから,被告の上記主張②は失当である。 ⑷ そして,上記⑵アの摘示事実は,真実に反しており(前提事実⑸),かつ,被告から上記摘示事実が真実であると信じるについて相当の理由がある旨の主張立証はない。 よって,本件ツイートは,原告に対する違法な名誉毀損行為に当たる。 2 争点2(損害の発生及びその額) ㋐本件ツイートは,それ自体原告の経済的信用を毀損し,その社会的評価を低下させるものであるところ,その態様は,通名を「偽名」と誇張して記載した上,その裏付けであるかのように官報公告記事の画像を転載するなど,読者の誤認を殊更誘引する演出を加えたもので,悪質であること,㋑被告は本件ツイートの理由を自ら説明しないが,原告を名指しで中傷する態様でなければ名 誉毀損とならないという趣旨の先行ツイート(甲12)を踏まえると,本件ツイートでは,あえて原告とは別人である者を対象とする表現行為の体裁を用いて,先の持論のもと名誉毀損とはならないとする方法を実践したことがうかがわれ,そうであるとすれば身勝手な動機に基づくものと言わざるを得ないこと,㋒この点をおいても,被告の一連の先行ツイート(甲12ないし15)から, 被告は,原告の別件名誉毀損訴訟提起に反感を抱いていることを繰り返し表明した上で,本件ツイートに及んだもので,原告に対する攻撃の一環であると認められること,㋓被告が本件ツイートを発信したアカウントは令和2年7月20日時点で約1万8000人のフォロワーを擁していたもので(前提事実⑴イ),本件ツイートの社会的な影響は小さくないこと,㋔被告は,本件の提訴報 道後,ツイッター上に「Cとかいう活動家が突然俺を訴えると言い出した。正 直全く意味 ていたもので(前提事実⑴イ),本件ツイートの社会的な影響は小さくないこと,㋔被告は,本件の提訴報 道後,ツイッター上に「Cとかいう活動家が突然俺を訴えると言い出した。正 直全く意味が分からない。」,「俺は断固抗戦する。」,「【悲報】C,裁判前に一方的な会見を開き世論を味方に付けようとするも,反応が真逆で大失敗してしまう。」などと投稿し,原告に対する攻撃的な姿勢を軟化させていないこと(甲19の3,4),以上の事情が認められる。 そうすると,本件に現れた諸般の事情に鑑み,本件ツイートが1回の投稿に とどまることを考慮しても,原告に与えた精神的苦痛は軽視できないもので,原告に対する慰謝料の額は30万円が相当であると認める。 そして,弁護士費用は3万円が相当である。 3 争点3(本件ツイートの削除請求の可否)本件ツイートは,被告がこれを削除したことを認めるに足りる証拠はないか ら,依然として掲載されており,原告の名誉権を侵害し続けているものといわざるを得ない。 したがって,被告に対し,その削除を命ずるのが相当である。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償金3 3万円及びこれに対する本件ツイートの投稿日である令和2年6月24日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払並びに本件ツイートの削除を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言は,相当でないからこれを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第44部 裁判長裁判官藤澤裕介 裁判官 東京地方裁判所民事第44部 裁判長裁判官 藤澤裕介 裁判官 津田裕 裁判官 川畑百代

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