平成26(行ウ)397 行政文書不開示決定処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年3月28日 東京地方裁判所
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判決文本文42,057 文字)

- 1 -平成30年3月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成26年(行ウ)第397号行政文書不開示決定処分取消請求事件口頭弁論終結の日平成30年1月19日判決 主文 本件訴えのうち,原告らが別紙1文書目録記載1の文書中同目録記載2の各箇所の開示の義務付けを求める部分を却下する。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 内閣官房副長官補が原告らに対して平成26年8月1日付け閣副第547-2号ないし第547-10号をもってした別紙1文書目録記載1の文書に係る行政文書不開示決定(ただし,それぞれ同年10月27日付け閣副第788号 ないし第796号をもってした行政文書開示決定変更により一部変更された後のもの)のうち,同目録記載2の各箇所を不開示とした部分を取り消す。 内閣官房副長官補事務承継者内閣府政策統括官(原子力防災担当)は,原告ら各自に対し,別紙1文書目録記載1の文書中同目録記載2の各箇所を開示せよ。 第2事案の概要本件は,平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震(以下「本件地震」という。)及びこれに伴う津波によって惹起された東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)福島原子力発電所における事故に関し,政府に設置された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(以下「政 府事故調」という。)が,事故当時福島第一原子力発電所長の地位にあったA氏(以下「A氏」という。)から事情を聴取した聴取結果書について,原告ら- 2 -が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成26年法律第67号による改正前のもの。以下,単に「法」という。)に基づき,そのすべての開示を請求したところ,これを管理す いて,原告ら- 2 -が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成26年法律第67号による改正前のもの。以下,単に「法」という。)に基づき,そのすべての開示を請求したところ,これを管理する内閣官房副長官補が,原告らに対し,平成26年8月1日付けで,その全部を開示しない旨の決定をし(以下「当初各不 開示決定」という。),次いで,同年10月27日付けで,一部関係者の個人に関する情報等が記録されている部分を除いて開示する旨の変更決定をした(以下「本件各変更決定」という。)ため,原告らが,当初各不開示決定(ただし,本件各変更決定により一部変更された後のもの)のうち,なお開示しないとされた箇所の一部に係る部分の取消し及び当該部分の開示の義務付けを, 本件各変更決定後に上記の内閣官房副長官補の管理事務を承継した内閣府政策統括官(原子力防災担当)の所属する被告国に対し,求める事案である。 関係法令等の定め(1) 行政文書の開示請求権法3条は,何人も,法の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該 行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる旨を定める。 (2) 行政文書の開示義務法5条は,(1)の開示の請求(以下「開示請求」という。)があったときは,開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当 該行政文書を開示しなければならない旨を定め,同条1号は,以下の旨を定める。 一個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特 定の個人を識別することができることとなるものを含む く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特 定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利- 3 -益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 イ法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報(以下「公領域情報」という。)ロ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要 であると認められる情報(以下「生命等保護情報」という。)ハ当該個人が公務員等である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分(以下「公務員等職務情報」という。)(3) 行政機関の長たる内閣総理大臣の権限の委任 法17条,行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令(平成26年政令第401号による改正前のもの)15条1項は,行政機関の長は,内閣官房副長官補又は内閣府本府の官房及び局の所掌に属しない事務の能率的な遂行のためこれを所掌する職で局長に準ずるもの(内閣府設置法17条1項の職)等に法第2章に定める権限又は事務のうちその所掌に係るものを委 任することができる旨を定めるところ,内閣総理大臣の所掌に係る同章に定める①内閣官房の保有する行政文書の開示に係る権限又は事務のうち内閣官房副長官補の所掌に係るもの及び②内閣府の保有する行政文書の開示に係る権限又は事務のうち内閣府設置法17条1項の職である内閣府政策統括官(原子力防災担当)の所掌に係るものは,それぞれ開示請求の受付,開示請 求書の記載の補正の要求及び開示請求に係 文書の開示に係る権限又は事務のうち内閣府設置法17条1項の職である内閣府政策統括官(原子力防災担当)の所掌に係るものは,それぞれ開示請求の受付,開示請 求書の記載の補正の要求及び開示請求に係る手数料の徴収に係るものを除き,①については内閣官房副長官補に,②については内閣府政策統括官(原子力防災担当)に委任されている(①につき内閣官房の保有する行政文書の開示に係る権限又は事務の一部委任(平成13年3月23日告示),②につき内閣府本府の保有する行政文書の開示に係る権限又は事務の一部委任(平成1 6年4月1日内閣府告示第117号))。 (4) 政府事故調が収集した資料の管理事務の移管- 4 -平成28年3月まで内閣官房において担当していた原子力規制組織等の改革に関する企画及び立案並びに総合調整の業務については,同年4月以降,内閣府及び環境省において取り組むこと等とし,国会に設けられた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(以下「国会事故調」という。)及び政府 事故調の報告書の提言を受けた政府の取組状況のフォローアップについては,内閣府において,行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整を行うとともに,この事務に関連し政府事故調が収集した資料の管理を行うこと等とされた(乙11)。内閣府内において,同事務は,原子力防災担当の内閣府政策統括官がつかさどることとされている(内閣府 政策統括官の職務分担に関する訓令(平成13年内閣府訓令19号))。 前提事実(後掲各証拠等により容易に認められる事実)(1) 原子力発電所(以下「原発」という。)事故の発生及び調査ア平成23年3月11日に発生した本件地震及びこれに伴う津波によって,東京電力福島第一原発及び福島第二原発における事故(以下「本件両事 故」 力発電所(以下「原発」という。)事故の発生及び調査ア平成23年3月11日に発生した本件地震及びこれに伴う津波によって,東京電力福島第一原発及び福島第二原発における事故(以下「本件両事 故」という。)が惹起され,間もなく津波により電源を喪失した福島第一原発1号機ないし3号機原子炉が炉心溶融(メルトダウン)した(以下「本件事故」といい,福島第一原発の原子炉を番号のみで記す。公知の事実)。 イ政府は,平成23年5月24日,本件両事故の原因及び本件両事故によ る被害の原因を究明するための調査・検証を,国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い,もって本件両事故による被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的として,政府事故調を開催する旨閣議決定した。同決定においては,関係大臣は,政府事故調から関係事業者を対象とする実地調査の受入れ,資料提出及び 説明聴取等の要請があった場合には,法令に定められた権限に基づき,これに応じるよう事業者に対し指示を行うものとすることも合意された。 - 5 -(乙6)ウ政府事故調は,別紙1文書目録記載3の変更後不開示部分一覧表(以下「別紙一覧表」という。)の「聴取結果書」の「聴取日時」欄記載の各日時に,福島県双葉郡所在のJヴィレッジ又は福島第一原発免震重要棟にお いて,本件両事故当時福島第一原発の所長の地位にあったA氏から,それぞれ同「聴取内容」欄記載の内容について聴取し,その結果について,それぞれ同「作成日」欄記載の日に同「調書番号」欄記載の番号を付して聴取結果書が作成された(乙1の1ないし1の7。以下,これらの聴取結果書を,順に乙第1号証の枝番を用いて「本件調書1」ないし「本件調書 7」といい,これら7通の聴取結果書を合わせて「本件全調書」とい 結果書が作成された(乙1の1ないし1の7。以下,これらの聴取結果書を,順に乙第1号証の枝番を用いて「本件調書1」ないし「本件調書 7」といい,これら7通の聴取結果書を合わせて「本件全調書」という。)。 エ政府事故調は,平成23年12月26日に中間報告を,平成24年7月23日に最終報告を,それぞれ取りまとめて公表した(以下,この中間報告及び最終報告を「政府事故調報告」と総称する。)後,同年9月28日 の閣議決定により廃止された(乙5の1・2,乙7,14)。 (2) A氏の死亡A氏は平成25年7月9日に死亡した(甲31の319頁)。 (3) 原告らの開示請求の帰すうと本件請求内容の変遷ア原告らは,法3条に基づき,内閣官房副長官補に対し,平成26年6月 5日,「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会が作成したA氏の聴取結果書すべて(以下の①ないし⑤を含む)①平成23年8月14日付け聴取結果書1通②平成23年8月16日付け聴取結果書3通③平成23年10月16日付け聴取結果書1通④平成23年11月25日付け聴取結果書1通⑤平成23年11月30日付け聴取結果書 1通」(以下「本件文書」という。)の開示を請求した(以下「本件各開示請求」という。)ところ,内閣官房副長官補は,原告らに対し,平成2- 6 -6年8月1日付け閣副第547-2号ないし第547-10号行政文書不開示決定通知書をもって,本件文書の全部を開示しない旨の決定をし(当初各不開示決定),通知した(甲2ないし10)。 イ原告らは,平成26年8月20日,当初各不開示決定の取消し及び本件 文書すべての開示の義務付けを求めて本訴を提起した(顕著な事実)。 ウその後,政府は,本件文書に該当する本件全調書を一部公開する方針に転換し(乙4の1ないし 日,当初各不開示決定の取消し及び本件 文書すべての開示の義務付けを求めて本訴を提起した(顕著な事実)。 ウその後,政府は,本件文書に該当する本件全調書を一部公開する方針に転換し(乙4の1ないし4の7),内閣官房副長官補は,原告らに対し,平成26年10月27日付け閣副第788号ないし第796号行政文書開示決定変更通知書をもって,本件各開示請求について,状況の変化を踏ま え,当初各不開示決定の一部を撤回するとして,本件全調書について,別紙一覧表の「不開示箇所」欄に掲げる計265箇所に係る部分(以下「本件不開示部分」という。)は,同表の「不開示理由」の「概要」欄記載のとおり法5条1号又は2号に該当するとして不開示とするが,本件不開示部分以外を開示する旨の決定をし(本件各変更決定),通知した(乙2の 2ないし2の10)。 エ原告らは,平成30年1月19日の本件口頭弁論終結日までに,当初各不開示決定のうち本訴で取消し及び情報の開示の義務付けを求める部分を,本件各変更決定により一部変更された後の本件不開示部分のうち本件調書1ないし4,6及び7(以下「本件各調書」という。)中の別紙一覧表に 色塗りした計78箇所(以下「本件各記述」という。)に係る部分に限る旨,その請求を減縮した(顕著な事実)。 本件各記述は,いずれも東京電力のグループマネージャー(以下「GM」という。)以上の職位にある個人の氏名又は職名を記述した箇所として法5条1号本文の個人に関する情報を構成しており(以下,本件各記述 の対象となっている個人を「本件各記述対象者」という。),本件各記述の前後における本件各調書の内容は,それぞれ別紙一覧表の「不開示箇- 7 -所」の「該当別紙」欄記載の別紙2ないし15のとおりである(乙1の1ないし1の4,1の6,1の7,弁論 う。),本件各記述の前後における本件各調書の内容は,それぞれ別紙一覧表の「不開示箇- 7 -所」の「該当別紙」欄記載の別紙2ないし15のとおりである(乙1の1ないし1の4,1の6,1の7,弁論の全趣旨)。 (4) 本件事故に係る刑事手続本件事故については,東京第五検察審査会による2度の議決を経て,指定 弁護士により,平成28年2月,東京電力のB元会長(以下「B氏」という。),C元副社長(以下「C氏」という。)及びD元副社長(以下「D氏」という。)を業務上過失致死傷罪に問う刑事裁判の公訴が東京地方裁判所に提起され,平成29年6月30日にその第1回公判期日が開かれた(甲17,甲20の118~119頁,甲59,60,公知の事実,弁論の全趣 旨。以下,この刑事裁判を「別件公判」という。)。 主な争点及び当事者の主張本件の主な争点は,(1)本件各記述部分が法5条1号ただし書イの公領域情報に該当するか否か(争点1),及び(2)本件各記述部分が同号ただし書ロの生命等保護情報に該当するか否か(争点2)であり,これらに関する当事者の 主張は,以下のとおりである。 (1) 本件各記述部分が公領域情報に該当するか否か(争点1)(原告らの主張)ア公領域情報該当性の判断基準法5条1号ただし書イにいう「慣行として公にされ」とは,公にするこ とが慣習として行われていることを意味するが,公表の慣行該当性は,職務の公共性や行政運営に関する説明責任といった保護法益の重要性や,実際に新聞記事で公表されているなどの現状に着目して判断される。 また,「公にすることが予定されている情報」とは,将来的に公にする予定の下に保有されている情報や,ある情報と同種の情報が公にされてい る場合に当該情報のみ公にしないとする合理的理由がない情報,その他当該情報 ることが予定されている情報」とは,将来的に公にする予定の下に保有されている情報や,ある情報と同種の情報が公にされてい る場合に当該情報のみ公にしないとする合理的理由がない情報,その他当該情報の性質上通例公にするのが相当のものを含むと解するのが相当とさ- 8 -れる。 イ本件各記述対象者の職務の公共性と東京電力のGM以上の職にある個人の氏名等の公表慣行東京電力におけるGMは,「建設部」や「原子力設備管理部」などの 各部門以下に設置された「土木技術」や「土木調査」などの担当職務ごとに分けられたグループにおいて,グループ員複数名の部下に対して指示・指導する権限を持った責任者(管理監督者)である。 日本電気協会新聞部発行の「季刊電力人事」においては,昭和37年頃から50年以上にわたって,福島第一原発において勤務する全ての東 京電力のGM以上の職にある者の氏名が公表されてきたところ,この「季刊電力人事」は,政府刊行物として全国官報販売協同組合で販売され,同ウェブサイトやアマゾンなどのウェブサイトを通じて誰でも購入することができ,国立図書館でも閲覧可能である。また,電気新聞においては,東京電力の人事情報が個人名及び職名と共に全て公開されてい るところ,同新聞は,明治40年に創刊された,電力会社を始めとするエネルギー関連産業の動向を報道してきた新聞である。したがって,東京電力のGM以上の職にある者の氏名は,110年以上の長期間にわたって,慣行として公にされているといえる。 また,共同通信社原発事故取材班が出版した公刊物である『全電源喪 失の記憶証言・福島第一原発―1000日の真実』(以下「本件ルポ」という。)においては,GMを含む31名の東京電力社員の個人名だけでなく,年齢,肩書き,所属,家族といった個人情報に加え,各人 失の記憶証言・福島第一原発―1000日の真実』(以下「本件ルポ」という。)においては,GMを含む31名の東京電力社員の個人名だけでなく,年齢,肩書き,所属,家族といった個人情報に加え,各人の事故対応における行動や心情などまで記載され,公開されているから,この点からも東京電力のGM以上の職にある個人の氏名は慣行として公 にされていることが確認される。 さらに,多数の人間が傍聴した別件公判の第1回公判期日で,冒頭陳- 9 -述及び証拠の要旨告知において挙げられた人名が,別件公判に被害者代理人として参加した海渡雄一弁護士が作成し,インターネット上に公表した詳細な公判報告書(以下「別件公判報告書」という。)において明らかとなっており,本件各記述の中にこれらの人名が含まれるのであれ ば,当該部分についての開示の必要性が裏付けられる。 本件各記述対象者らが関与していたのは,未曾有の原発事故への緊急対応作業であり,場合によっては日本の首都である東京を含む東日本全域が放射能汚染により数百年にわたり居住不可能となりかねない影響力を有していたという意味で,その職務の公共性は極めて高いことは明ら かである。その原因を究明し,2度と同種の原発事故が起こらないように広く社会において議論を深めることの必要性,特に現在国内の他の原発の再稼働の是非が問われている状況に鑑み,本件事故と同種の過酷事故が再発すれば何十万人以上の国民の生命・身体が危険にさらされることからその保護法益も極めて重要であることに照らせば,その説明責任 は極めて重いといわざるを得ない。 被告は,法5条1号ただし書イにいう「情報」を公にし,又は公にすることを予定する主体(以下「公表主体」という。)は行政機関に限られると主張するが,同号ただし書イは,文言上,その公表主体には何 ない。 被告は,法5条1号ただし書イにいう「情報」を公にし,又は公にすることを予定する主体(以下「公表主体」という。)は行政機関に限られると主張するが,同号ただし書イは,文言上,その公表主体には何ら制限をしていない。被告の主張は,法律上の文言にはない主体要件を加 重して,行政府において不開示情報の範囲を拡大解釈するものであって,国民の知る権利を不当に制約するから失当である。 公領域情報は,個人に関する情報であっても,公にされている情報については,あえて不開示情報として保護する必要性に乏しいものと考えられることから,ただし書により法5条1号の不開示情報から除くとし たものであり,言い換えれば,これを開示することにより,場合により個人のプライバシーを害するおそれがあるとしても,受忍すべき範囲内- 10 -にとどまると考えられるので,これを例外開示情報としたのである。当該個人に関する情報を慣行として公にしている公表主体が行政機関かそれ以外の報道機関等であるかどうかによって,不開示情報として保護するに値する個人のプライバシー等の権利利益を害するおそれに違いはな いのであるから,公表主体によって公領域情報該当性に何らかの区別を設ける合理性はない。立法過程においても,法5条1号ただし書イの原型となった条文は,中間報告で公表主体が行政機関に限定されていたところ,要綱案の段階で公表主体を行政機関に限定する文言は削除され,これが現在の法5条1号ただし書イに引き継がれているものである。 aまた,被告は,公領域情報に該当するためには,特定の個人の氏名等だけでなく「個人に関する情報」全体について,法5条1号ただし書イに該当する事由が認められる必要があると主張する。 bしかし,本件各調書における本件各記述対象者の氏名や役職は,本件事故対 の氏名等だけでなく「個人に関する情報」全体について,法5条1号ただし書イに該当する事由が認められる必要があると主張する。 bしかし,本件各調書における本件各記述対象者の氏名や役職は,本件事故対応に関する職務を遂行した者を特定し,本件事故の発生状況 及び発生原因の理解のために表示されているものにすぎないのであって,それ以上に当該本件各記述対象者の個人としての行動ないし生活に関わる意味合いを含むものではなく,このような情報は原則として「個人に関する情報」に当たらないというべきである。 公務員の氏名が不開示となっている場合に当該不開示情報が公領域 情報に該当するとして開示が認められた内閣府情報公開・個人情報保護審査会(以下,単に「審査会」という。)の答申例においては,公務員の職務に関する情報を含めた公表状況ではなく,公務員の氏名の公表状況が独立して問題とされているところ,本件事故によって多数の国民の生命身体に対して重大な影響を与える公的な業務であること が明らかとなった原発の運営・管理という業務に係る職務内容はもちろん,その職務上の地位も公的な性格を有する。したがって,福島第- 11 -一原発の運営・管理に実質的影響力を有していたGM以上の東京電力社員の氏名及び職名は,その業務及び地位の公的性格から,公務員の氏名及び職名に準ずるのであって,公務員の氏名の不開示情報該当性を判断する際と同様に,氏名及び職名については独立してその公領域 情報該当性が判断されるべきである。 上記aの被告の解釈は失当である。 c仮に被告の主張を前提としても,例えば,津波対策について重要な意思決定に関与していたとされる東京電力の土木調査グループGMのE氏(以下「E氏」という。)については,その氏名及び職名だけで なく,少なくとも津波対策の責 ても,例えば,津波対策について重要な意思決定に関与していたとされる東京電力の土木調査グループGMのE氏(以下「E氏」という。)については,その氏名及び職名だけで なく,少なくとも津波対策の責任者であったという点においては公になっており,個人のプライバシーを害するおそれがあるとしても受忍すべき範囲内にとどまると考えられるから,公領域情報として開示されるべき情報である。 すなわち,東京電力の原子力・立地本部の安全担当らの研究チーム は,2006年(平成18年)7月に米国フロリダ州マイアミで開催された第14回原子力工学国際会議で,福島第一原発に押し寄せる津波の高さについて報告したところ,この研究チーム代表がE氏であったことは,当該報告内容(以下「マイアミ報告書」という。)が同会議に提供された上,インターネット上にアップロードされ,他の論文 に引用されていることからも明らかである。マイアミ報告書は,本件両事故後,政府事故調の報告書にも記載され公となっているし,本件両事故直後の多数の新聞報道においても,E氏の氏名と共に,東京電力が本件事故前において津波に対する予見可能性を有していたことを示す重要証拠として採り上げられており,E氏が東京電力の津波対策 チームの中心的人物であり,津波対策について重要な意思決定に関与していたことは,公にされていた情報なのである。 - 12 -したがって,上記aの被告の主張を前提としても,少なくともE氏の氏名及び職名については,「個人に関する情報」全体について公になっているといえるから,法5条1号ただし書イに該当する事由が認められる。 ウ本件各記述と同種の内容を含む情報に係る公表慣行原発事故等の過酷事故においては,2度と同種の事故を発生させないために,徹底した原因究明及び再発防止策の検討が イに該当する事由が認められる。 ウ本件各記述と同種の内容を含む情報に係る公表慣行原発事故等の過酷事故においては,2度と同種の事故を発生させないために,徹底した原因究明及び再発防止策の検討が必要とされる。したがって,1986年(昭和61年)4月26日のチェルノブイリ原発事故,昭和60年8月12日の日本航空123便墜落事故,平成24年4月28日 の関越自動車道高速ツアーバス事故の報道や報告書に見られるように,原因究明及び再発防止のための事故経緯の詳細を明らかにする上で,事故発生に関与したとされる者については実名を公表するのが慣行となっている。 また,事故発生に直接関与していないことが客観的に明らかな者についても,事故経緯を把握する上で必要な範囲において,仮名処理をした上で, その者の事故前後の行動について公表することが慣行となっている。 本件事故も,チェルノブイリ原発事故に並ぶ過酷事故なのであるから,当日の現場対応の状況を克明に理解することのできる同水準の実名入りの事故経過を公表し,専門の展示館をも設立して,原因究明及び再発防止に努めるべきであり,これらの同種事故と比較して,本件事故における事故 関係者等の氏名を公にしないことに合理的理由は存在しない。 エ小括本件各変更決定において不開示とされた本件各記述は,法5条1号ただし書イに該当する公領域情報であるから,開示されなければならない。 (被告の主張) ア公領域情報該当性の判断基準法5条1号が同号ただし書イの公領域情報を例外的に開示すべき情報と- 13 -して規定しているのは,特定の個人を識別できる情報であっても,一般に公にされている情報については,あえて不開示情報として保護する必要性に乏しいものと考えられたためである。このような趣旨に照らすと,同号ただし書 いるのは,特定の個人を識別できる情報であっても,一般に公にされている情報については,あえて不開示情報として保護する必要性に乏しいものと考えられたためである。このような趣旨に照らすと,同号ただし書イにいう「慣行として」とは,事実上の慣習として公にされてい ること又は公にすることが予定されていることで足りるが,当該情報と同種の情報が公にされた事例があったとしても,それが個別的な事例にとどまる限り,これに当たらないものと解され,また,「公にすることが予定されている情報」とは,将来的に公にする予定の下に保有されている情報をいうものと解される。 イ政府事故調のヒアリングの趣旨この点,そもそも,政府事故調の目的を達成するためには,本件両事故の事象そのもの及びその背景事情等について正確に把握することが必要不可欠であったため,政府事故調は,本件両事故の関係者に対するヒアリングに際しては,①責任追及を目的とした調査等を行わないこと,②ヒアリ ングの相手方が聴取結果書について不開示を希望する場合には,聴取結果書は外部に開示しないという方針を前提としてA氏を含む本件両事故の関係者から任意の協力を得てヒアリングを行ったものである。 したがって,政府事故調が行ったヒアリングの聴取結果書は,原則として公にしないものとされており,将来的に公にすることが予定されている ものではない。そして,例外的に一部が公開されている本件全調書においても,本件不開示部分は不開示とされていることから明らかなとおり,本件不開示部分が事実上の慣習として公にされているという事実はなく,将来的に公にすることも予定されていない。 なお,本件全調書における個人の氏名及び職名のうち,ウェブサイトに 掲載されている会社役員のほか,公表された政府事故調報告に氏名が記載されてい はなく,将来的に公にすることも予定されていない。 なお,本件全調書における個人の氏名及び職名のうち,ウェブサイトに 掲載されている会社役員のほか,公表された政府事故調報告に氏名が記載されている個人及び国家公務員の氏名は,いずれも法5条1号ただし書イ- 14 -の公領域情報に該当するため,開示しているが,その余の者の氏名等については同号ただし書に該当する事情はないため,不開示としている。そして,政府事故調報告においては,その見解の内容が論文等によって明らかになっている学識者のほか,本件両事故の対応等で主要な役割を果たした 政治家や一定の役職以上の国家公務員,フェロー又は原発所長以上(当時)の東京電力の役員等の氏名について,政府事故調が,本件両事故の原因及び本件両事故による被害の原因を究明し,被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うために必要かつ相当と判断した範囲で公開されているものと考えられる。 ウ東京電力のGM以上の職にある個人の氏名等の公表慣行について法5条1号ただし書イにいう「慣行として」は,「法令の規定により」と並列的に規定されており,公表主体について別途の規定を置いていないという同号ただし書イの文言等に照らすと,同号ただし書イにいう「情報」の公表主体も,法令の規定による公表主体と同様,行政機関 に限られると解される。このように解されることは,公領域情報該当性の一次的な判断主体は行政機関であるところ,行政機関において,行政機関以外の組織,例えば報道機関等においてどのような個人情報を保有しているのか,保有しているとして当該個人情報を慣行として報道する予定等があるのかといった事項はおよそ知り得ないものであるため,そ ういった事項も含めて公領域情報該当性の判断を求めているとはおよそ考え のか,保有しているとして当該個人情報を慣行として報道する予定等があるのかといった事項はおよそ知り得ないものであるため,そ ういった事項も含めて公領域情報該当性の判断を求めているとはおよそ考え難いことからしても明らかである。 原告らが挙げる「季刊電力人事」,電気新聞及び本件ルポは,いずれも行政機関が編集・発行したものではなく,その公表主体が行政機関でないことは明らかである。 別件公判期日における冒頭陳述等及びその後被害者参加弁護士が作成した別件公判報告書の内容は,それ以前にされた当初各不開示決定(本- 15 -件各変更決定による一部変更後のもの)の適法性に何ら影響を及ぼすものではない。 この点をおくとしても,仮に別件公判期日における冒頭陳述等の内容に本件各記述と同一の情報が含まれており,これが傍聴人に対して明ら かにされたとしても,それは,裁判の公正を確保する目的を実現する一手段として明らかにされたものにすぎず,その態様も,当該公判期日という時間的,場所的に限られた状況の下,別件公判を傍聴した者に対して明らかにされたというにすぎない。また,被害者参加弁護士が,上記冒頭陳述等の内容について別件公判報告書を作成し,これをインターネ ット上で公にしているとしても,これは当該被害者参加弁護士独自の判断で公にしているにすぎないものである。したがって,当該冒頭陳述等がされたことなどをもって,当該情報について,慣行として現に公衆が知り得る状態に置かれたものであるとか,一般的に公にすべき事実上の慣習があるとは認められない。 aさらに,法5条1号が「情報」に着目して不開示情報性を規定していることに照らすと,公領域情報に該当するというためには,個人の氏名等の記述部分だけでなく,「個人に関する情報」全体について,同号ただし書イに ,法5条1号が「情報」に着目して不開示情報性を規定していることに照らすと,公領域情報に該当するというためには,個人の氏名等の記述部分だけでなく,「個人に関する情報」全体について,同号ただし書イに規定する事由が認められることが必要であるところ,これらの各刊行物に東京電力のGM以上の職にある個人の氏名が掲載 されていたとしても,それは,当該人物が一定の時期に東京電力の一定の役職に就いていたという個人の経歴に関する情報が記載されたものにすぎない。 これに対し,本件全調書には,本件不開示部分を含む個人に関する情報,すなわち,特定の個人の氏名及び職名のみならず,特定の個人 の言動や本件両事故との関わり合い等,個人に関する情報が含まれており,本件各記述が明らかにされた場合,単に氏名や職名だけでなく,- 16 -特定の個人の言動や本件両事故との関わり合い等まで明らかになるものであるから,本件においては,このような「個人に関する情報」全体について,法5条1号ただし書イに該当する事由が認められる必要がある。そうすると,仮に行政機関の刊行物に特定人の氏名が記載さ れていたとしても,本件各記述を含む個人に関する情報について同号ただし書イに規定する事由が認められるものではない。 b原告らは,東京電力のGM以上の地位にある従業員の氏名及び役職について,その業務の地位及び役職の公的性格に照らして,公務員の場合と同様に当該氏名及び役職の公表状況のみで公領域情報該当性が 判断されるべき旨主張する。 しかし,東京電力のGM以上の地位にある従業員は,法5条1号ただし書ハにいう公務員等に該当するものではなく,同号ただし書は公務員等とそうでない者とを明確に区別して規定しているのであるから,その地位にあること等をもって,これらの地位にある従業員が公務員 号ただし書ハにいう公務員等に該当するものではなく,同号ただし書は公務員等とそうでない者とを明確に区別して規定しているのであるから,その地位にあること等をもって,これらの地位にある従業員が公務員 と同様に判断されるべきとする原告らの主張は,独自の見解に基づくものというほかない。 原告らが上記主張の根拠として挙げる審査会の各答申例は,飽くまで対象者が公務員であることを前提とするものであって,公務員以外の者の氏名について,当該氏名の公表状況のみから公領域情報該当性 を判断すべき旨述べたものではない。公務員の職務の遂行に係る情報の場合,その職及び職務の遂行の内容に係る情報は,法5条1号ただし書ハの公務員等職務情報に該当するため,「どのような役職の者が何をしたか」という情報は,公領域情報該当性について判断するまでもなく,常に開示されることになり,開示対象から除かれた公務員の 氏名については,自ずと「どのような役職の者が誰なのか」という情報の公表状況のみに着目して公領域情報該当性を判断すれば足りるこ- 17 -ととなることから,上記各答申例も,当該公務員の氏名を除く個人に関する情報の公表状況について検討する必要がないことを前提として,当該公務員の氏名の公表状況のみを検討対象としたにすぎないと考えられる。 これに対し,東京電力のGM以上の地位にある従業員については,その個人に関する情報がその所属する会社等における職務の遂行に係るものであったとしても,法5条1号ただし書ハが適用されない以上,公務員とは異なり,「どのような役職の者が何をしたか」という情報が当然に開示されることにはならないから,個人の氏名等の記述部分 だけでなく,その者がいつ何をしたのかという「個人に関する情報」全体について,同号ただし書イの事由が認められる したか」という情報が当然に開示されることにはならないから,個人の氏名等の記述部分 だけでなく,その者がいつ何をしたのかという「個人に関する情報」全体について,同号ただし書イの事由が認められることが必要となるのである。 c原告らは,E氏について,マイアミ報告書に関与していたことがインターネット等で公にされていることを根拠に,E氏が東京電力にお ける津波対策の重要な意思決定に関与していたことは公にされている情報であるとして,E氏の氏名及び職名を含めた「個人に関する情報」が法5条1号ただし書イ所定の事由に該当する旨主張する。 しかしながら,そもそも,E氏が東京電力における津波対策の重要な意思決定に関与していたとの原告らの主張する事実が具体的にどの ような事実を示すのか明らかではない。 この点をおくとしても,E氏がマイアミ報告書に関与していたことがインターネット等で公にされていたからといって,東京電力に所属する特定の従業員が,いつ,東京電力における津波対策のいかなる意思決定に関与していたかまで公にされている情報であるとは認められ ないし,ましてや,本件全調書に記録されているような個々の具体的な場面において東京電力の特定の従業員がどのような言動をしたかに- 18 -ついてまで公にされている情報であるとは到底認められない。 なお,本件全調書には,本件各記述を含む「個人に関する情報」として,E氏に係るものであるか否かにかかわらず,特定の個人が東京電力の研究チームの代表としてマイアミ報告書に関与していたという 情報は記録されていない。 したがって,原告らの主張する事情をもって,法5条1号ただし書イ所定の事由があるとは認められない。 エ重大事故の関係者の氏名等の公表慣行についてまた,一般に,行政機関による重大な事故における調査 したがって,原告らの主張する事情をもって,法5条1号ただし書イ所定の事由があるとは認められない。 エ重大事故の関係者の氏名等の公表慣行についてまた,一般に,行政機関による重大な事故における調査等において,当 該事故の関係者につき,その地位等にかかわらず,全ての関係者の氏名等が公表されているとか,将来的に公表される予定があるなどの事実上の慣習は存在しない。 原告らが指摘するチェルノブイリ原発事故に関する文書には,その作成の基礎となった1次的な調査資料に記載された全ての関係者まで記載され ているかは明らかではないことに加え,そもそも,個人情報保護や情報公開に係る法制度の異なる外国の事例であるから,同事例をもって我が国の行政機関における公表慣行を基礎付けることはできない。また,日本航空123便墜落事故及び関越自動車道高速ツアーバス事故に関しては,当時の報道機関の判断に基づいて関係者の氏名が報道された事例にすぎず,こ れらの事例をもって行政機関における公表慣行を基礎付けることはできない。さらに,国土交通省が関越自動車道高速ツアーバス事故の概要等についてウェブサイトで公表した資料は,本件全調書のように報告書を取りまとめるに当たって作成された1次的な調査資料とは全く性質の異なるものである上,関係者として事故を発生させた運転手の氏のみが記載され,事 故以前に車両を運転していた運転手については仮名で記載され,その余の事故関係者については会社関係者を含めて氏名の記載は全くない。 - 19 -そうすると,これらの事例をもって,行政機関による重大事故の調査等において,事故関係者については全員の実名を,事故発生に直接関係のない者については仮名処理をして公表する慣行があるなどといえないことが明らかである。 オ小括本件各記述を含む 重大事故の調査等において,事故関係者については全員の実名を,事故発生に直接関係のない者については仮名処理をして公表する慣行があるなどといえないことが明らかである。 オ小括本件各記述を含む個人に関する情報は,法5条1号ただし書イの公領域情報に該当しない。 (2) 本件各記述部分が生命等保護情報に該当するか否か(争点2)(原告らの主張) ア生命等保護情報該当性の判断基準不開示情報該当性の判断に当たっては,開示することの利益と開示されないことの利益との調和を図ることが重要であり,個人に関する情報についても,公にすることにより害されるおそれがある当該情報に係る個人の権利利益よりも,人の生命,健康等の保護の必要性が上回るとき(現実に 人の生命,健康等に被害が発生している場合に限らず,将来これらが侵害される蓋然性が高い場合も含まれる。)には,当該個人に関する情報を開示する必要性と正当性が認められることから,当該情報を開示しなければならない。 なお,法は,5条において,不開示情報のいずれかが記録されている場 合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならないとして,行政文書について開示を大原則としている。情報公開請求権は,国民の知る権利の具体化としての開示請求権として捉えられており,法が,国民の知る権利を認めている法律であるというその基本的性格に照らし,法規定の要件に係る立証責任の分配については,法文の形式のみを考慮し て画一的に判断するべきではない。法5条1号本文及びただし書は,一体として機能し国民の知る権利を制限するものと考えられるから,被告であ- 20 -る国がその本文及びただし書の各要件について主張立証責任を負い,不開示情報であることを立証すべきであると解される。 イ本件各記述部分の不開示に を制限するものと考えられるから,被告であ- 20 -る国がその本文及びただし書の各要件について主張立証責任を負い,不開示情報であることを立証すべきであると解される。 イ本件各記述部分の不開示により保護される利益について本件各記述は,個人の職務上の情報にすぎず,個人を特定し得るとし ても現に当該個人が職務上行った業務に関する情報にすぎないから,当該個人の私生活等プライバシーの観点から保護する必要性の高い情報ではない。したがって,本件各記述を公にすることにより害されるおそれのある個人の権利利益は,そもそも侵害の危険性が低く,仮に侵害され得るとしてもプライバシーの観点からは重要性が低い。 被告は,A氏の上申書を援用して,記憶の減退や混同等により,本件全調書に事実と異なる内容が含まれている可能性が否定できない旨主張する。しかし,政府事故調は,後になってしまっては記憶が減退してしまうことから,それを防ぐため,あえて本件事故から4か月を経過してもなおA氏が本件事故について現場で対応中であった記憶が新鮮な時期 において,A氏からのヒアリングを実施したのであり,A氏が本件事故等について詳細かつ具体的に語っているものであることは本件全調書の内容から見ても明らかである。本件全調書においては記憶の減退等について特に言及していなかったA氏が,上申書において突然これに言及していることの不自然さからすると,A氏は,本件全調書に聴取されたヒ アリングにおいて素直な認識等を赤裸々に語ってしまったため,事後になって,自己保身から記憶の薄れや混同などと言い始めたものと考えるのが合理的である。以上の点を踏まえると,上申書がA氏の意思に基づいて作成された文書とは考え難く,その成立の真正すら非常に疑わしく,その存在等から本件全調書に事実と異なる内容が含 始めたものと考えるのが合理的である。以上の点を踏まえると,上申書がA氏の意思に基づいて作成された文書とは考え難く,その成立の真正すら非常に疑わしく,その存在等から本件全調書に事実と異なる内容が含まれているというこ とにはならない。 また,開示請求対象文書に記載された個人に関する情報が真偽不明で- 21 -あるか否かは,原則として(少なくとも,当該行政情報の内容が全くの虚偽であり真実に反することが明らかである場合でない限りは,)開示の是非に影響を与えるものではないところ,本件各記述の真偽不明の程度は,事実と異なる内容が含まれている可能性が否定できないという程 度にとどまるのであるから,本件各記述に事実と異なる内容が含まれている可能性が否定できないという事実は,開示の是非の判断に当たって考慮されるべきではない。 さらに,被告は,①居住地域,学校及び職場等における嫌がらせや,②報道関係者による過度な取材,③民事・刑事を問わず,根拠に乏しい 法的責任の追及のおそれという3つを挙げて,本件各記述を開示した場合における不利益を主張する。 しかし,このうち①については,本件全調書中の氏名が開示されている人物が実際に嫌がらせを受けた事実は確認されておらず,②についても,これらの人物に対して過度な取材が行われているという事実はない。 また,③について,法的責任の追及が根拠に乏しいかどうかは,裁判所が訴訟手続を経て判断するものであり,情報公開請求の手続において行政庁が行政文書を開示するか否かを判断する段階において考慮されるべきものではない。そもそも本訴において原告らが開示を求めている本件各記述は,公にされる慣行のあるGM以上の地位を有する者らの個人名 のみであるから,その開示によって新たに嫌がらせ等の被害を受けることはおよそ考え もそも本訴において原告らが開示を求めている本件各記述は,公にされる慣行のあるGM以上の地位を有する者らの個人名 のみであるから,その開示によって新たに嫌がらせ等の被害を受けることはおよそ考えられない。 ウ本件各記述部分の開示により保護される利益一方,人の生命,健康等の保護の必要性については,本件全調書が未曾有の災害である本件事故に関する歴史的資料であり,本件事故により 大量に被ばくした地域住民や,今なお避難生活を続ける地域住民の生命及び健康を保護する必要性は極めて高い。さらに今後,本件事故と同様- 22 -の原発事故を防止し,ひいては将来再び発生することが懸念される原発事故による無数の潜在的被害者ら(日本は原発輸出を行っており,その居住範囲は国内にとどまらない。)の生命,健康等の重要な人権に対する数世代にわたり得る重大な侵害を防止する観点からも,その必要性が 極めて高い。本件各記述が開示されることによって本件事故の原因究明等がより一層進み,本件事故に匹敵する大災害を今後予防するのに大いに役立ち,もって人の生命,健康,生活又は財産の保護に資することは明らかである。 被告は,本件事故については,政府事故調において調査等が行われ, 調査及び具体的な提言等の結果をまとめた報告書が公開されているとして,事故原因究明の観点から,本件全調書を含む本件事故に関する基礎資料を国民に公開する必要はないとの趣旨の主張をするようである。 しかし,事故原因については,様々な機関,人物により多角的な分析を行うことにより,初めて有益な原因分析を実施することが可能になり, 将来にわたってより有効な事故防止策を講じることができるものであり,特に,本件事故は,原発という,高度な科学技術を結集し,かつ多数の人間が組織的に関わって運営されている施設 ことが可能になり, 将来にわたってより有効な事故防止策を講じることができるものであり,特に,本件事故は,原発という,高度な科学技術を結集し,かつ多数の人間が組織的に関わって運営されている施設において発生したものであり,より一層多角的な事故原因の究明が求められる。 したがって,被告において本件事故の原因を究明済みであるから,国 民において本件事故の原因を究明する必要がないとは到底いえない。 また,被告は,本件全調書は大部分が既に公開されていることからすると,本件各記述が開示されることによって,本件事故の原因究明が更に進むものとはにわかに考え難く,まして原子力事業者等における再発防止策の構築等がされ,人の生命,健康,生活又は財産の保護に資する ような可能性が相当程度具体的に認められるということはない旨主張する。 - 23 -しかし,本件事故の原因究明に当たっては,福島第一原発を運営していた東京電力及びこれを監督していた被告国の組織的な観点に着目せざるを得ず,より綿密に事故原因を究明するには,どの部署にいた人物が,本件地震発生後本件事故に至るまで,本件事故発生後,あるいは福島第 一原発において,それぞれどのような役割を担い,どのように振る舞っていたかという点については,具体的に検討しなければならない。また,福島第一原発を運営していたのが究極的には個々の人間である以上,どの人物がどのような判断ミスを犯し,本件事故につながったのかという点についても当然検証する必要がある。にもかかわらず,本件各変更決 定においては,本件事故の原因を究明する上で重要人物と考えられる者が記載されている部分についてまで不開示となっている例がある。 本件事故の原因を徹底的に究明するためには,本件全調書の既開示部分記載の情報のみでは不十分であり本件各 究明する上で重要人物と考えられる者が記載されている部分についてまで不開示となっている例がある。 本件事故の原因を徹底的に究明するためには,本件全調書の既開示部分記載の情報のみでは不十分であり本件各記述の開示により初めて,効果的な本件事故原因の分析及び本件事故のような大災害の有効な予防策 を構築することが可能になり,人の生命,健康,生活又は財産の保護に資するような可能性が相当程度具体的に認められることは明らかである。 この点,より具体的には,以下のとおりである。 a本件事故は,津波による電源喪失が重要な発生原因であると考えられるところ,どのような原因で本件地震に伴う津波に耐え得る対策が 構築されなかったのかといった点について,同事故の原因を究明する上で,以下の3点が極めて重要である。 ①東京電力の土木調査グループの担当者は,平成20年6月10日,D氏に資料を示しながら,政府の地震調査研究推進本部(以下「推本」という。)が平成14年7月に公表した長期評価(以下「推本 の長期評価」という。)を用いて,福島第一原発の原子炉建屋等を津波から守るための防潮堤を設置する場合には,O.P.(小名浜- 24 -港における平均水位)+10メートルの敷地上に約10メートルの防潮堤を設置する必要があること等を説明したのに対し,D氏は津波の遡上高を低減する方法や沖合防波堤設置のための許認可など機器の対策の検討を指示した。しかし,D氏は,平成20年7月31 日には,土木調査グループに対し,耐震バックチェック(平成18年の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」等の改定に伴う既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価)においては,推本の長期評価は取り入れず,土木学会津波評価部会が平成14年2月に発表した「原子力発電所の津波評価技術」(以下, 設計審査指針」等の改定に伴う既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価)においては,推本の長期評価は取り入れず,土木学会津波評価部会が平成14年2月に発表した「原子力発電所の津波評価技術」(以下,単に「津波評 価技術」という。)に基づいて実施するよう指示した。D氏はどのような理由で推本の長期評価を取り入れないとの方針転換を行ったのか。 ②上記①の方針転換の後でも土木調査グループがなお津波対策の必要性を報告したにもかかわらず,東京電力経営陣は十分な津波対策 をなぜとらなかったのか。 ③上記①②のほかどのような検討を経て,東京電力経営陣は津波対策についての意思決定を行ったのか。特に推本の長期評価や貞観津波についてどのような検討が行われたのか。 これらの事実を明らかにするためには,本件各記述のうち別紙一覧 表の「原告ら主張の開示の必要性」の「津波対策意思決定過程」欄に○印を付した箇所に係る情報について開示を受けた上で,重要人物を特定し,その者の聴取結果や他の公開資料と照合しながら,多角的に事実を検討する必要がある。 b1号機については,平成23年3月12日午前零時過ぎにはドライ ウェル圧力が600キロパスカルと表示されていたことからベント(格納容器中の蒸気を大気中に放出して格納容器内を減圧すること)- 25 -の準備が進められ,同日午前3時06分には,経済産業大臣らが同3時30分を目途にベントを行うと発表したにもかかわらず,実施は遅延し,同7時10分の菅直人内閣総理大臣の訪問を経て,実際にベントが実施されたのは同日午後2時30分であったところ,このベント 実施の遅延の背景には,福島第一原発の現場と,官邸,原子力安全・保安院(以下「保安院」という。),東京電力本社との間で情報共有方法及び指示伝達方法などの指揮系統 30分であったところ,このベント 実施の遅延の背景には,福島第一原発の現場と,官邸,原子力安全・保安院(以下「保安院」という。),東京電力本社との間で情報共有方法及び指示伝達方法などの指揮系統に問題があったと認められる。 したがって,今後シビアアクシデントの発生に適切に対応する準備を整えるために,当時どのような指揮系統となっており,なぜ情報共有 や指示伝達が上手く行かなかったのかを明らかにする必要がある。 1号機原子炉格納容器のベントに関する指揮系統を明らかにするためには,本件各記述のうち別紙一覧表の「原告ら主張の開示の必要性」の「1号機ベント指揮過程」欄に○印を付した箇所に係る情報について開示を受けた上で,重要人物を特定し,その者の聴取結果や他 の公開資料と照合しながら,多角的に事実を検討する必要がある。 c3号機に対しては,最初から海水を注水するよう準備が進められていたところ,官邸に詰めていた原子力品質・安全部長から,淡水があるうちは淡水を優先して使ってはどうかとの提言が伝えられ,これに従ったとの報告があり,この提言は,海水を注水すれば原発再稼働が 困難になることから発せられたものだと考えられるが,メルトダウンの危険性もあり,住民の生命,身体,健康,生活を守るために一刻も早く事態を収束させる必要があった状況において,住民の権利よりも再稼働を優先させるような上記提言にどのような組織的背景があったのか,官邸や東京電力本社の誰の意向を受けたものであるかなどを解 明して是正していく必要がある。 3号機に対する海水注水に関する指揮系統を明らかにするためには,- 26 -本件各記述のうち別紙一覧表の「原告ら主張の開示の必要性」の「3号機注水指揮過程」欄に○印を付した箇所に係る情報について開示を受けた上で,重要人物を特定 揮系統を明らかにするためには,- 26 -本件各記述のうち別紙一覧表の「原告ら主張の開示の必要性」の「3号機注水指揮過程」欄に○印を付した箇所に係る情報について開示を受けた上で,重要人物を特定し,その者の聴取結果や他の公開資料と照合しながら,多角的に事実を検討する必要がある。 d本件事故では,3号機について平成23年3月13日午前8時頃に,2号機についても翌14日午後10時半頃に,炉心溶融が始まったとされるが,2号機については同月11日午後9時以降は水位のデータが取れ,格納容器の圧力のデータも見られる状態にあり,3号機では直流電源が失われておらず,水位のデータも翌12日午後8時まで見 ることができた。なぜ炉心溶融まで時間のあった両号機まで炉心溶融してしまったのかという点については,炉心溶融を回避するために参照されるべき徴候ベース用の事故時運転操作手順書(以下「手順書」という。)が参照されず,的確な対処がされなかったことが原因である可能性が高い。例えば,上記cにも関わることであるが,徴候ベー ス用の手順書(以下「徴候ベース手順書」という。)に従えば,原子炉を冷やす高圧注水系が稼働している間に原子炉を減圧し,代替低圧注水系からの注水に切り替えることができたと考えられるが,実際には,高圧注水の維持や格納容器圧力を下げるベントのために奔走するなど場当たり的な対応がされ,事故が深刻化したものと考えられる。 この点,A氏は,全交流電源を喪失した時点でシビアアクシデント事象に該当し得ると判断したと述べているが,シビアアクシデント用の手順書(以下「シビアアクシデント手順書」という。)は炉心損傷してから使うべきものであり,この判断は明らかな誤りである。 このように本件事故対応において手順書がないがしろにされたこと は判明し 手順書(以下「シビアアクシデント手順書」という。)は炉心損傷してから使うべきものであり,この判断は明らかな誤りである。 このように本件事故対応において手順書がないがしろにされたこと は判明しているが,具体的にどのような状況認識の下で,どのような議論・判断過程・指揮命令系統を経て徴候ベース手順書を参照しない- 27 -という判断に至ったのか,その後も徴候ベース手順書を参照するチャンスは幾度か訪れるがなぜ1度も参照されないまま炉心溶融に至ってしまったのかについては,いまだ不明のままである。徴候ベース手順書やシビアアクシデント手順書が参照されなかった原因を突き止めな い限り,同種の過酷事故の再発防止及び対応方法の改善に役立てることはできないところ,事故対応に当たった発電所幹部や東京電力本店職員の当時の認識及び判断について明らかにすることは,今後の同様のシビアアクシデント発生時における対処方法を準備する上で決定的に重要な情報である。 なぜ手順書がないがしろにされ事故が深刻化してしまったのかを明らかにするためには,本件各記述のうち別紙一覧表の「原告ら主張の開示の必要性」の「手順書参照過程」欄に○印を付した箇所に係る情報について開示を受けた上で,重要人物を特定し,その者の聴取結果や他の公開資料と照合しながら,多角的に事実を検討する必要があり, その公益的必要性は極めて高いものである。 エ小括本件各記述部分は,法5条1号ただし書ロに該当する生命等保護情報であるから,開示すべきである。 (被告の主張) ア生命等保護情報該当性の判断基準生命等保護情報の該当性の判断に当たっては,不開示により保護される利益と開示により保護される利益の比較衝量を行った結果,後者が前者に優越すると認められるときに限り開示が義務付けられると解さ 判断基準生命等保護情報の該当性の判断に当たっては,不開示により保護される利益と開示により保護される利益の比較衝量を行った結果,後者が前者に優越すると認められるときに限り開示が義務付けられると解されている。 生命等保護情報が,法5条1号ただし書として個人に関する情報の例外的 開示事由を定めていることからすれば,それが規定する情報は,その公開により個人が特定されるものであることを前提として,それに優越する法- 28 -益を保護するために必要である場合に限り,開示に伴う不利益を個人に受忍させた上で例外的に開示されるものであり,このような不利益を受忍させるためには,その開示により人の生命,健康,生活又は財産の保護に資することが相当程度具体的に認められることを要すると解するのが,ただ し書という条文の構造から見ても相当である。 そして,同号ただし書該当性の主張立証責任については,法5条1号の本文とただし書の規定の仕方,同号の規定文言等に照らすと,同号本文該当性の主張立証責任は被告が負う一方で,同号ただし書該当性の主張立証責任は行政文書不開示決定取消訴訟の原告が負うものと解すべきである。 イ本件各記述部分の不開示により保護される利益本件全調書は,本件両事故の発生から少なくとも4か月以上という長期間が経過した後,原子炉炉心が損傷するという未曾有の事態に直面するなど,正確な事実認識が容易ではない混乱した状況下におけるA氏の記憶に基づく率直な認識等についてのヒアリング結果が記載されているものであ るから,その性質上,記憶の減退ないし他の事態との混同等により,事実を誤認等している部分が含まれている可能性が否定できず,A氏自身,上申書においてその旨述べている。したがって,本件全調書には,事実と異なる内容が含まれている可能性が否定できな との混同等により,事実を誤認等している部分が含まれている可能性が否定できず,A氏自身,上申書においてその旨述べている。したがって,本件全調書には,事実と異なる内容が含まれている可能性が否定できないというべきである。 しかるところ,本件各記述対象者は,その意思とは全く関係なく,自ら のあずかり知らないうちに,本件両事故に関する自己の言動として本件各調書に記載されているため,本件各記述対象者においては,事前に,本件各調書に記載されている事実の有無,記載された言動の趣旨及び前後の経緯等について,訂正や補足はもとより,何らの意見を述べる機会をも与えられておらず,更にいえば,本件各調書に記載されていることすら認識し ていない可能性もある。 そして,本件全調書は,本件両事故という我が国における未曾有の原子- 29 -力災害について,当時,福島第一原発所長の地位にあったA氏の本件両事故に関する認識等が記載されたものであり,その一部が公開されるに至った際にも,多くの新聞において報道された。このような本件全調書の影響力及びこれに対する社会一般の関心の高さからすると,本件各記述が開示 された場合,本件各記述対象者は,本件各調書には事実と異なる内容が含まれている可能性が否定できず,それに何らの意見をも述べる機会がなかったにもかかわらず,その家族や親族等も含めて,その居住地域,学校及び職場等における嫌がらせや報道関係者等による過度な取材等により,プライバシーが侵害されて平穏な生活を送ることが著しく困難になったり, 民事・刑事を問わず,根拠に乏しい法的責任の追及を受けたりするおそれも考えられるのであって,その身体の安全,プライバシー,社会的地位及び名誉等に,回復が著しく困難な不利益を生じさせるおそれがある。 本件各記述を開示した場合に生ずるお 的責任の追及を受けたりするおそれも考えられるのであって,その身体の安全,プライバシー,社会的地位及び名誉等に,回復が著しく困難な不利益を生じさせるおそれがある。 本件各記述を開示した場合に生ずるおそれのある不利益は極めて大きいというべきであり,これを不開示とすることにより保護される利益は極め て大きいものといえる。 ウ本件各記述部分の開示により保護される利益についてそもそも,本件両事故については,既に,10名の学識経験者等により構成される政府事故調において,従来の原子力行政から独立した立場で,国民や国際社会に対する公開性を重視しながら,技術的な問題のみ ならず制度的な問題まで含めた包括的な調査・検証が行われており,本件全調書を含む多数の資料等を基礎として,関係分野の専門技術的知見を有する学識経験者等により,本件両事故についての分析,原因究明のための調査及び再発防止に向けた具体的な提言等の結果をまとめた報告書がウェブサイト上で公開されているところである。 加えて,本件全調書は,本件不開示部分を除き,大部分が既に公開されていることからすると,公開部分に加えて本件各記述それ自体が開示- 30 -されることによって,本件両事故の原因究明が更に進むものとはにわかに考え難いところであり,ましてや,原因究明等が更に進められた結果を受けて原子力事業者等における再発防止策の構築等がされ,人の生命,健康,生活又は財産の保護に資するような可能性が相当程度具体的に認 められるということはおよそできない。 原告らが本件両事故の原因究明を行うために重要な事項として指摘する種々の事項(①D氏や東京電力経営陣がいかなる理由・経緯で津波対策の方針転換や意思決定等を行ったか,②1号機の原子炉格納容器に係るベントの指揮系統に関しなぜ情報共有や指示伝達 要な事項として指摘する種々の事項(①D氏や東京電力経営陣がいかなる理由・経緯で津波対策の方針転換や意思決定等を行ったか,②1号機の原子炉格納容器に係るベントの指揮系統に関しなぜ情報共有や指示伝達が上手く行かなかっ たのか,③3号機の注水に関し淡水を優先して使ってはどうかとの提言にどのような組織的背景があったのか,及び④なぜ手順書がないがしろにされ事故が深刻化してしまったのか,という事項)は,本件全調書上既に開示されている情報に加え,更に本件各記述それ自体を開示することによって解明されるものではない。また,上記③の提言が誰の意向を 受けたものであるかという点について,そもそも本件各調書には当該「誰」を指し示す本件不開示部分は存在しない。 原告らの主張も,本件各記述を開示することによりこれらの事項が直ちに解明されるというものではなく,その開示を受けた上でまず「重要人物」なる者を特定し,その者の聴取結果や他の公開資料と照合しなが ら,多角的に事実を検討する必要があり,そのような検討を経てこれらの事項が解明されることが期待されるというにすぎないものであり,このような主張内容に照らしても,原告らの解明を求める事項が,本件各記述それ自体を開示することにより解明されるものでないことは明らかである。 なお,①平成20年以降の東京電力における津波対策の意思決定の経緯等,②1号機の原子炉格納容器のベントに至る経緯,③3号機への注- 31 -水に関する経緯及びその問題点,及び④福島第一原発における事象ベース,徴候ベース,シビアアクシデント用の各手順書の参照状況については,政府事故調報告でも述べられていることに加え,それ以外の原子力災害対策本部,保安院,東京電力,国会事故調においても,本件両事故 に関する原因究明等がされているとこ の各手順書の参照状況については,政府事故調報告でも述べられていることに加え,それ以外の原子力災害対策本部,保安院,東京電力,国会事故調においても,本件両事故 に関する原因究明等がされているところである。 エ小括以上のとおり,本件各記述を不開示とすることにより保護される利益は極めて大きい一方で,本件各記述それ自体を開示することによって,当該開示に伴う不利益を特定個人に受忍させてもやむを得ないほどの,人の生 命,健康,生活又は財産に係る利益が相当程度具体的に認められるということはできない。 よって,本件各記述部分は法5条1号ただし書ロの生命等保護情報に該当しない。 第3当裁判所の判断 争点1(本件各記述部分が公領域情報に該当するか否か)について(1) 公領域情報が不開示情報でないとされる趣旨等ア法5条1号本文は,個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。以下同じ。)のうち,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等(以下「個人識別記述等」という。)により特定の個人 を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。以下「個人識別情報」という。)及び特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの(以下「非個人識別権利利益侵害情報」という。)を,不開示情報として規定している(前記 第2の1の関係法令等の定め(2))。 上記の定めは,個人識別情報のほか,個人識別情報に当たらなくても公- 32 -にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるもの(非個人識別権利利益侵害情報)をもって,原則として同号の不開示情報に当たるものとした上,例外(同号イからハまで)を設けることに - 32 -にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるもの(非個人識別権利利益侵害情報)をもって,原則として同号の不開示情報に当たるものとした上,例外(同号イからハまで)を設けることにより,個人の権利利益の保護と,行政機関の保有する情報の公開をもって政府の有する諸活動 を国民に説明する責務が全うされるようにするなどの法の目的(法1条)との調和を図ったものであると解される。 イ上記の例外のうち法5条1号ただし書イが,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報(公領域情報)を不開示情報から除外している趣旨は,個人識別情報又は非個人識別権利 利益侵害情報であっても,一般に公にされている情報については,不開示情報として個人の権利利益を保護する必要性に乏しいと考えられる点にあると解される。 公領域情報が不開示情報から除外される趣旨が上記の点にあり,条文の文言上も,法令の規定により公にされる場合に加え,慣行として公にされ る場合が含まれるとされ,これを公の領域に置いた主体(公表主体)に関する明文の規定が設けられていないことに照らすと,公表主体が行政機関ではないからといって公領域情報に当たらないと解すべき理由はない。 「慣行として」公にされ,又は公にすることが予定されているとは,事実上の慣習として公にされ,又は公にすることが予定されていることで足り ると考えられるのであり,公表主体が行政機関である場合に限って公領域情報に該当する旨の被告の主張は,採用の限りでない。 もっとも,開示請求の対象とされている情報が公領域情報であるといえるためには,単に当該情報が「公にされ,又は公にすることが予定されてい」れば足りるわけではなく,「法令の規定により又は慣行として」その ようなものであることを要 いる情報が公領域情報であるといえるためには,単に当該情報が「公にされ,又は公にすることが予定されてい」れば足りるわけではなく,「法令の規定により又は慣行として」その ようなものであることを要すると規定され,個人の権利利益を保護する必要性が乏しい状況にあることが想定されていることからすると,当該情報- 33 -又はそれと性格を同じくする同種の情報が,公衆が知り得る状態に置かれたという事例がありさえすればこれに当たるというわけではなく,開示請求に対する決定の時において,公にされ,又は爾後も公にされることが予定され続けるであろうことが反復継続的に見込まれる状況にあって初めて 公領域情報ということができるというべきである。当該情報が過去に公にされたことがあったとしても,一時的に公にされただけであって爾後も反復継続的に公にされることが見込まれる状況になく,また,類似の情報について公にされている事例があったとしても,それが情報としての性格を同じくする同種の情報とはいえない場合であったり,個別的な事情に基づ いて公にされたりしているにとどまるものであれば,当該情報は,直ちに「慣行として」公にされ,又は公にすることが予定されているものとはいえないと解される。 (2) 本件各記述部分の公領域情報該当性ア本件各調書及び本件各記述の概要 そこで,上記の見地に立って本件についてみると,本件各記述が記載されている本件各調書は,閣議決定に基づいて設置された政府事故調が,本件両事故当時福島第一原発所長の地位にあって事故対応の指揮等の業務に携わったA氏から,「事故時の状況とその対応について」及び「汚染水への対応について」聴取したものであって(前記第2の2の前提事実(1)イ 及びウ),主に本件事故中及びその後に,東京電力又は政府等の関係者と 氏から,「事故時の状況とその対応について」及び「汚染水への対応について」聴取したものであって(前記第2の2の前提事実(1)イ 及びウ),主に本件事故中及びその後に,東京電力又は政府等の関係者としてどの職にある誰がどのような行動を取ったか,あるいは,事故の未然防止措置として,東京電力のどの職にある誰がどのような行動を取っていたかという点についてのA氏の認識を聴き取り,その内容を記録したものであり(乙1の1ないし1の4,1の6,1の7),一連の調査過程の中 で,事故対応に当たった人物の認識を録取したいわゆる1次資料としての性格を有する。 - 34 -そして,本件各記述は,いずれも東京電力のGM以上の職位にある個人の氏名又はこれと併記された職名に係る部分であり,上記の聴取りにおける質問者及び回答者(A氏)の口述内容を逐語的に記録した文章又は上記の聴取りにおいて質問者が回答者(A氏)に対して示した東京電力社内の テレビ会議の録画記録上の会話を反訳した文章の中の単語として存在する。 このように,本件各記述は,その前後の文章の内容と相俟って,A氏の認識する,本件事故中及びその後,又は事故の未然防止措置の検討の際における個人の行動等を記録することによって,有意な情報として構成され,本件各記述対象者に係る個人識別情報を形成しているものであり(以下, このような一体としての個人の行動等に係る情報を「行動情報」といい,本件各記述を要素に含んで構成される行動情報を「本件各行動情報」という。),本件各記述以外の文章の部分は既に開示されていることから,本件各記述部分が開示されると,本件各行動情報の全部が明らかになるという関係にある(ただし,本件全調書に顕れた東京電力関係者のうち,同社 ウェブサイトに氏名が掲載されている役員(会長,社長,副 本件各記述部分が開示されると,本件各行動情報の全部が明らかになるという関係にある(ただし,本件全調書に顕れた東京電力関係者のうち,同社 ウェブサイトに氏名が掲載されている役員(会長,社長,副社長,常務取締役)及び政府事故調報告において氏名に言及されている一部のGM以上の職位にある者(フェロー(社長からの委嘱に基づき技術的事項について指導助言を行う役職),原発所長)の氏名は,既に開示されている。弁論の全趣旨)。 なお,東京電力の本店におけるGMは,「原子力運営管理部」などの各「部」に置かれた「運営業務」「防災安全」「土木」などの担当職務ごとのグループに配置される複数の者であり(甲27,28),また,福島第一原発におけるGMは,「所長」の下の「ユニット所長」の下の「第一運転管理部」などの各「部」に置かれた「発電」などの担当職務ごとのグル ープに配置される複数の者であり,保安規定上,グループ員を指示・指導し,所管する業務を遂行するなどの職務を負うとされるが(甲26の10- 35 -頁),これらの者について,法令上,特に公務員に準じた取扱いがされているわけではない。 イ他の過酷事故における報告等について原告らは,チェルノブイリ原発事故を始めとする過酷事故においては, 新聞報道や報告書で,事故発生に関与したとされる者については実名を,直接関与していないことが客観的に明らかな者については仮名処理をした上で事故前後の行動を公表するのが慣行になっている旨主張する。 しかしながら,原告らが上記の観点からの公表慣行を基礎付けるものとして援用する各書証(甲21ないし25)は,新聞記事のほか,事故の内 容等を取りまとめた報告書や論文であって,いずれも事故当事者から事故前後の認識を直接録取した1次資料とはいえないところ,上記アのとお 用する各書証(甲21ないし25)は,新聞記事のほか,事故の内 容等を取りまとめた報告書や論文であって,いずれも事故当事者から事故前後の認識を直接録取した1次資料とはいえないところ,上記アのとおり,調査過程において録取された1次資料である本件各調書とは,情報媒体としての性格を異にする。すなわち,事故当事者から事故前後の認識を直接録取した1次資料について,そのいわば生の供述内容に係る情報について, これを公表することが慣行になっているとは解されない。上記各書証に係る公刊物は,1次資料である本件各調書と同種の情報を公衆が知り得る状態に置くものとはいえず,1次資料に記録された行動情報について「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている」とは認めることができない。 ウ本件ルポについて原告が提出した本件ルポ(甲31)には,東京電力のGM以上の職位にある個人につき,その実名と共に,当該個人が本件事故又は事故の未然防止措置に関連して取った行動等を記載した部分が含まれており,現在では,一般書籍として誰でも入手可能なものであることが認められる。 しかし,本件ルポは,実名で証言することを承諾して取材を受けたGM以上の職にある個人の氏名が実名で記載されていることがうかがわれるも- 36 -のの(甲31の4頁・12頁),通信社の記者が,様々な取材を踏まえて記述し,全国加盟紙に配信した新聞記事を加筆修正して,本件各変更決定後の平成27年に公刊に至ったものであり(同奥書),本件ルポに記載された行動情報のうちに本件各行動情報と同じものが含まれているとしても, 本件各変更決定時において,単に一時的に公にされたというにとどまらず,爾後も反復継続的に公にされることが見込まれる状況にあったのかは定かではないことからすると,本件各行動情 まれているとしても, 本件各変更決定時において,単に一時的に公にされたというにとどまらず,爾後も反復継続的に公にされることが見込まれる状況にあったのかは定かではないことからすると,本件各行動情報が「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている」ものであったとは認めることができない。 エ別件公判報告書について また,別件公判報告書(甲60)にも,東京電力のGM以上の職位にある個人につき,その実名と共に,当該個人が本件事故又は事故の未然防止措置に関連して取った行動等を記載した部分が含まれており,弁論の全趣旨によれば,その作成者たる別件公判の被害者参加弁護士で原告ら代理人でもある海渡雄一弁護士によって,インターネット上にアップロードされ ていることが認められる。 しかしながら,別件公判は,業務上過失致死傷罪で告訴又は告発されたものの,不起訴処分になっていたB氏,C氏及びD氏について,東京第五検察審査会による2度の議決を経て,指定弁護士により公訴提起された刑事裁判に係るものであり(前提事実(4),甲59),別件公判報告書の主 たる内容は,指定弁護士が法廷で朗読した冒頭陳述及び証拠の要旨告知の内容を,NHKが報道した記事を基にして,同報道では仮名とされていた記述部分について法廷での聴取りに基づいて実名に復元したというものである。しかるに,公判期日における冒頭陳述等は,刑事訴訟手続の一部であり,時として被告人以外の個人のプライバシーを含み得るところ,当該 公判廷で傍聴していなかった者一般に対してそれを公にすることを予定するとの事実上の慣習があるとは認められず,むしろ,別件公判報告書が依- 37 -拠したという上記の報道においても,被告人以外の東京電力の職員が仮名とする扱いがされていたことからすると,別件公判報告書 との事実上の慣習があるとは認められず,むしろ,別件公判報告書が依- 37 -拠したという上記の報道においても,被告人以外の東京電力の職員が仮名とする扱いがされていたことからすると,別件公判報告書の存在をもって,本件各行動情報が「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている」ものであると認めることはできない。 オ「季刊電力人事」及び電気新聞について原告らは,本件各記述に係る東京電力のGM以上の職位にある個人の氏名は,日本電気協会新聞部発行の「季刊電力人事」(甲27,28,32ないし34)や電気新聞(甲29,30,35ないし38)において長年公表されてきたことを指摘する。 しかしながら,個人識別情報に当たるか否かの判断の客体となる「情報」が,個人識別記述等(氏名などの特定の個人を識別することができる「記述等」をいう。法5条1項本文参照。)の部分とそれ以外の部分が複合して一定のまとまりをもって初めて有意な情報であるといえる場合には,その有意といえる最小の情報のまとまりの全体について,法令 の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているか否かを吟味すべきものであると解される。この場合において,何をもって情報として有意といえるかは,当該行政文書が作成,取得された目的及び社会通念上有すると考えられる性質等に鑑みて,当該行政文書に記録されるべき情報の内容から決せられると解するのが相当である。 これを本件各調書についてみると,上記アに判示したとおり,本件各調書は,政府事故調が,本件両事故の原因等を究明するための一連の調査過程の中で,本件両事故当時福島第一原発所長の地位にあって事故対応の指揮等の業務に携わったA氏から,東京電力関係者等の行動情報を聴き取って,その内容を書き留める目的で作成されたもの ための一連の調査過程の中で,本件両事故当時福島第一原発所長の地位にあって事故対応の指揮等の業務に携わったA氏から,東京電力関係者等の行動情報を聴き取って,その内容を書き留める目的で作成されたものと認められ, 社会通念上も,本件事故の現場にいた当事者の事故前後の認識を録取した1次資料としての性質を有すると考えられる。このような本件各調書- 38 -の作成目的や性質に鑑みれば,そこに記録されるべき情報としては,「個人識別記述等」と「当該個人がどのような行動を取ったかという記述」とが組み合わされた情報をひとまとまりにして初めて有意の情報といえるものと解され,個人識別記述等のみをもって,有意の情報である とは解することができない。 したがって,本件各記述部分が公領域情報として不開示情報から除外されるか否かは,本件各記述部分を含む最小の有意の個人識別情報である本件各行動情報のそれぞれ全体について,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているといえるか否かを もって判断すべきものであるところ,原告らの指摘する「季刊電力人事」又は電気新聞は,本件各行動情報全体についての公表慣行を示すものではない。 原告らは,公務員の氏名の公領域情報該当性が問題とされた審査会の答申例において,公務員の職務に関する情報を含めた公表状況ではなく, 公務員の氏名の公表状況が独立して判断されており,原発の運営・管理という国民の生命身体に対し重大な影響を与える公的な業務に携わる東京電力のGM以上の職位にある者の氏名及び職名についても,独立して公領域情報該当性が判断されるべきである旨主張する。 しかしながら,法5条1号ただし書ハに定義される「公務員等」につ いては,その職及び職務遂行の内容に係る部分(公務員等職務情報)が不開 立して公領域情報該当性が判断されるべきである旨主張する。 しかしながら,法5条1号ただし書ハに定義される「公務員等」につ いては,その職及び職務遂行の内容に係る部分(公務員等職務情報)が不開示情報から除外されているところ,これらは,法令の規定により公にすることが予定されている情報内容であるから,公務員等については,さらに,誰がどの職にあるかという記述について公表慣行が認められれば,職務遂行の内容に係る部分を含む行動情報の全体について,法令の 規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているものとなるといえる。原告らが上記の主張において援用する各答申例- 39 -(甲44ないし46)は,このような観点から判断していると理解するのが正しいと考えられるものであって,上記の原告らの主張が,公務員の氏名の公表状況が「独立して」判断されていると述べる趣旨が,これと異なる理解に立つものであるとすれば,採用することができない。 そして,「公務員等」については,上記の法5条1号ただし書ハという法令の規定により,各種法律の規定を引用した定義がされ,公務員等の職及び職務遂行の内容に係る情報の部分(公務員等職務情報)を公にすることが予定されているのとは異なり,その定義に該当しない公務員等以外の者について,法は,このような規定を欠いている。東京電力の 従業員は,GM以上の職位にある者であっても,法5条1号ただし書ハに定義された「公務員等」の定義には直接当てはまらず,上記アに判示したとおり,法令上,特に公務員に準じた取扱いがされているわけではないところ,公務員等以外の民間人について,その職務内容の公共性に基づいてこれに準じた取扱いとするようなことは,立法論としてはとも かく,法解釈論としては,その判別の基準が曖昧に過ぎ るわけではないところ,公務員等以外の民間人について,その職務内容の公共性に基づいてこれに準じた取扱いとするようなことは,立法論としてはとも かく,法解釈論としては,その判別の基準が曖昧に過ぎていて,情報公開制度の安定的運用を阻害する解釈であるといわざるを得ず,採ることができない。 上記の原告らの主張は採用の限りでない。 カマイアミ報告書について なお,原告らは,仮に本件各行動情報のそれぞれ全体としての公領域情報該当性を吟味するという立場に立ったとしても,E氏が研究チーム代表として報告しているマイアミ報告書(甲47の1)が公表されていることにより,E氏が東京電力の津波対策に係る意思決定に関与していたことは公にされている事実があるから,本件各記述のうち少なくともE氏の氏名 及び職名に係るものは,「個人に関する情報」全体について公になっていると主張する。 - 40 -しかしながら,マイアミ報告書には,本件各行動情報に相当する本件事故前における東京電力内部の津波対策の検討状況そのものに関する記述があるわけではない(甲47の1)から,上記原告ら主張の事実をもってE氏に係る本件各行動情報が公領域情報に該当するということはできない。 キその他そのほか,本件各行動情報が公領域情報に該当することをうかがわせる事情は見当たらない。 (3) まとめ本件各記述を含む本件各行動情報は,本件各変更決定時において,法令の 規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されていたといえないから,法5条1号ただし書イの公領域情報として不開示情報から除外されるものであったということはできない。 争点2(本件各記述部分が生命等保護情報に該当するか否か)について(1) 生命等保護情報が不開示情報でないとされる趣旨等 ア法5 開示情報から除外されるものであったということはできない。 争点2(本件各記述部分が生命等保護情報に該当するか否か)について(1) 生命等保護情報が不開示情報でないとされる趣旨等 ア法5条1号ただし書ロは,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報(生命等保護情報)を不開示情報から除外している。その趣旨は,人の生命,健康,生活又は財産は,公正で民主的な行政の基盤となる憲法も保障する重要な法益であることから,これらの法益を保護するため,個人の権利利益を害するおそれを 受忍させてでも情報を公にすることが必要であると認められるときは,これを不開示情報とするのを解除して,個人の権利利益を上回って重要な法益を保護しようとするものであると解される。 したがって,行政文書が生命等保護情報として開示しなければならないものと認められるためには,これを公にすることによって現在又は将来に 保護される人の生命,健康,生活又は財産の利益と,これを公にすることによって個人の権利利益が害されるおそれとを比較衡量して,前者が後者- 41 -に優越すると認められることを要し,その優劣が不明であるにとどまるときは,なおこれを不開示情報とすることによって個人の権利利益を保護すべき要請は失われないというべきである。また,何人に対しても同様の取扱いをすべきことを前提としている法に基づく開示請求の性格上,その必 要性は,開示請求者における個別の主観的な観点からではなく,客観的な公益上の観点からその有無・程度が検討されるべきものと解される。 イそして,上記のうち前者の公にすることによって現在又は将来に保護される人の生命,健康,生活又は財産の利益については,行政文書は,一般に,特定の行政目的を達成するために行われる行 ものと解される。 イそして,上記のうち前者の公にすることによって現在又は将来に保護される人の生命,健康,生活又は財産の利益については,行政文書は,一般に,特定の行政目的を達成するために行われる行政行為の過程において作 成,取得されるものであるところ,その行政目的の中に,人の生命,健康,生活又は財産の利益の保護が既に含まれている場合には,開示請求の対象とされている情報が含まれる行政文書の性格,当該行政文書が当該行政目的を達成するために果たしている役割,当該行政目的の達成状況等を踏まえた上で,更に開示請求の対象とされている情報を開示することにより, 当該行政行為によっては実現できないような人の生命,健康,生活又は財産の利益の保護が図られることになる蓋然性の有無及び程度を検討することになると解される。 (2) 本件各記述部分を公にすることにより保護される利益についてア本件全調書の作成の目的,役割,行政目的の達成状況等 そこで,上記の見地に立って本件についてみると,本件全調書は,本件両事故の原因及び本件両事故による被害の原因を究明するための調査・検証を,国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い,もって本件両事故による被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的として開催された政府事故調によって録 取されたものであり,これらが作成された行政目的の中には,将来の人の生命,健康,生活又は財産の利益の保護が既に含まれているものと解- 42 -される。 政府事故調は,工学,放射線医学,法律家,被災自治体の代表等から成る学識経験者等によって構成され,専門的,技術的事項について助言を得るために2名の技術顧問も置かれ,その調査・検証を補佐する事務 局にも,各府省庁出身者のほか,社会技術論,原 自治体の代表等から成る学識経験者等によって構成され,専門的,技術的事項について助言を得るために2名の技術顧問も置かれ,その調査・検証を補佐する事務 局にも,各府省庁出身者のほか,社会技術論,原子炉過酷事故解析,避難行動等の分野の専門家8名を配置している。そして,政府事故調は,規制当局である保安院等の従来の原子力行政から独立した立場で,技術的な問題のみならず制度的な問題も含めた包括的な検討を行うことを任務として調査・検証を行い,本件両事故を起こした福島第一原発及び福 島第二原発のほか,日本原子力発電株式会社東海第二発電所,東北電力株式会社女川原発,同社原町火力発電所,中部電力株式会社浜岡原発及び東京電力柏崎刈羽原発の視察,被災自治体の複数の首長及び被災自治体住民からの意見聴取並びに仮設住宅の視察を行い,東京電力,保安院,原子力安全委員会を始めとする関係事業者,関係機関から資料の提出を 受けて分析し,これらの役職員,構成員や,菅直人元内閣総理大臣を始めとする本件両事故発生当時の閣僚,学識経験者等を含めて772名の関係者から1479時間のヒアリングを行った。(前提事実(1)イ及びウ,乙5の1ないし5の4,乙6)政府事故調は,本件全調書を含む上記のヒアリングの結果等の1次 資料を基にして,種々の調査・検証によって明らかになった事実関係を詳細に記述し,一部,評価・提言を盛り込んだ中間報告を公表した。同中間報告には,本件事故の時間的な経過を追って,その事実関係や本件事故対応に関するA氏やその他の東京電力の職員の判断内容が記載されているほか,個々の事故対応に係る問題点等についても批判的検討を加 えて事故原因に言及した上で原子力災害の再発防止のための提言が盛り込まれていた(例えば,3号機代替注水の準備,実施上の問題点につい いるほか,個々の事故対応に係る問題点等についても批判的検討を加 えて事故原因に言及した上で原子力災害の再発防止のための提言が盛り込まれていた(例えば,3号機代替注水の準備,実施上の問題点につい- 43 -て,同中間報告(乙14)の181頁以下参照)。さらに,政府事故調は,国際的に著名な原子力,放射線等の専門家を招へいして,最終報告に向けた調査・検証についての意見交換を行い,その結果を踏まえて,主として中間報告後の調査・検証の結果を記述した最終報告を取りまと めて公表した。(前提事実(1)エ,乙5の2,乙14)。 なお,政府事故調報告が上記のとおり公表されていることに加えて,本件全調書自体についても,本件各変更決定時より前に,別紙一覧表記載の個人の氏名若しくは職名又は内線番号に係る不開示箇所(本件不開示部分)を除いて,その大部分が公にされており(乙4の1ないし4の 7),本件事故の原因については,これに基づいた相応の検証,批判が可能な状態ともなっている(前提事実(3)ウ。実際に行われている検証,批判として,甲18の1ないし18の5,甲50ないし58も参照。)。 イ原告らの主張について原告らは,政府事故調報告が公開されているとしても,本件全調書の 全部を開示した上で,事故原因については様々な機関,人物により多角的な分析を行うことにより,初めて有益な原因分析を実施することが可能になり,将来にわたってより有効な事故防止策を講じることができるものである旨主張する。 しかし,事故原因を究明した結果だけが簡略に報告されているような 場合であればともかく,上記アのように,政府事故調報告が,その基礎として把握した事実関係を含めて,検証,批判が可能なものとして,公開されている場合においてまで,上記の原告の主張のようにいうことはで 場合であればともかく,上記アのように,政府事故調報告が,その基礎として把握した事実関係を含めて,検証,批判が可能なものとして,公開されている場合においてまで,上記の原告の主張のようにいうことはできない。報告の基礎とされた事実関係自体にねつ造,歪曲等が疑われる事情があるなどの場合であれば格別,そのような事情がなく,事故原 因を究明すべき立場にある行政機関の報告が検証,批判が可能なものとして公開されている場合において,1次資料のすべての部分を公開する- 44 -ことが常に必要であるとは解されない。 原告らは,本件全調書のうち本件不開示部分以外の部分が公にされていてもなお,①本件事故前の津波対策において,耐震バックチェックを推本の長期評価に拠らずに津波評価技術に基づいて行うとした意思決定 過程における重要人物,②1号機のベントに関する情報共有や指揮伝達が機能しなかったことについての重要人物,③3号機への海水注水指示に際して再稼働を優先させる淡水使用の発言があった組織的背景を明らかにする重要人物,及び④本件事故の初期段階において正しく徴候ベース手順書が参照されなかった原因を明らかにする重要人物を特定するた めに,本件各記述の開示が必要であると主張する。 しかしながら,本件各記述対象者の中に,上記①ないし④の「重要人物」といえる者が含まれ,これを特定することができるのか自体必ずしも明らかではないし,本件全調書は,政府事故調の行政目的を達成するためその事実認定等の基礎として用いられることにより,政府事故調に よる本件事故の原因究明及び原子力災害の再発防止に役立てられ,加えて,本件全調書のうち本件不開示部分以外の部分も,検証,批判が可能な程度に開示されているところ,それ以上に,本件各記述部分が開示されることにより,「重要人物」を 子力災害の再発防止に役立てられ,加えて,本件全調書のうち本件不開示部分以外の部分も,検証,批判が可能な程度に開示されているところ,それ以上に,本件各記述部分が開示されることにより,「重要人物」を仮に特定することができたとしても,責任追及の観点からは格別,将来の人の生命,健康,生活又は財産を保 護するための同種事故の再発防止という観点からみて格別の効果が上がるかどうかは,必ずしも明らかではない。 なお,原告らが上記②の1号機のベントに関する情報共有や指揮伝達上の問題点についての原因解明に資するものであると指摘する本件各記述のうち,別紙一覧表の「不開示箇所」欄順号74,76ないし78, 80,83,86,89及び91に係るものは,これらの前後の文脈上,1号機に関する記述かどうか不明である。また,原告らが上記④の本件- 45 -事故の初期段階において正しく徴候ベース手順書が参照されなかった原因を明らかにするものであると指摘する本件各記述(別紙一覧表の「不開示箇所」欄順号16,17,52,54ないし59,74,76ないし78,80,83,86,89,91,94ないし98,137,1 38,229ないし235,243,247ないし256に係るもの)は,いずれも徴候ベース手順書が参照されなかった原因との具体的関連性が直ちに明らかであるとは必ずしもいい難い。したがって,これらに関する重要人物を特定するために上記の各不開示箇所を開示する必要があるとする原告の主張は,そもそも前提を欠くというべきである。 ウ小括以上のとおり,本件各変更決定時において,既に,本件事故の原因分析等に関する知見,能力を有すると認められる識者によって,中立的な立場から,本件全調書を含む1次資料に基づいて原因を究明し,再発防止策を提言した政府事故調報告が 定時において,既に,本件事故の原因分析等に関する知見,能力を有すると認められる識者によって,中立的な立場から,本件全調書を含む1次資料に基づいて原因を究明し,再発防止策を提言した政府事故調報告が作成され,同報告は,調査・検証によって明ら かになった事実関係を詳細に記述して,検証,批判が可能な形で公にされていることに加えて,本件全調書自体,一部の個人の氏名若しくは職名及び内線番号である本件不開示部分を除き,基礎事実を明らかにするその大部分が公にされていることが認められ,また,政府事故調報告の基礎とされた事実関係自体にねつ造,歪曲等が疑われる事情があることもうかがわ れない。これらの点に鑑みれば,本件各記述部分が開示されることにより,政府事故調による調査及びその結果が公表されていることによっては実現できないような将来の人の生命,健康,生活又は財産の利益の保護が図られることになる蓋然性は,客観的にみて高いとまではいえない。 (3) 本件各記述部分を公にすることにより害されるおそれのある個人の権利利 益について一般に,供述を録取した1次資料に記載された供述者以外の者に関する行- 46 -動情報は,供述者の認識を通して得られた主観的な情報としての性格が濃いという特性を有し,これが公開された場合に当該行動情報に係る個人の権利利益が害されるおそれの程度は,客観的に裏付けられた行動情報が公開された場合に当該行動情報に係る個人の権利利益が害されるおそれの程度よりも 大きいと考えられる。この観点からすると,本件各行動情報が,徹底した原因究明等をする必要がある本件事故に関連するものであったとしても,これらが開示された場合において本件各記述対象者が被る権利利益の侵害のおそれは,なお無視し得る程度に低いものとはいえない。 特に,仮に,原告ら をする必要がある本件事故に関連するものであったとしても,これらが開示された場合において本件各記述対象者が被る権利利益の侵害のおそれは,なお無視し得る程度に低いものとはいえない。 特に,仮に,原告らの主張するように,本件各記述部分が公にされること で本件事故を惹起した重要人物の特定につながるとして,それが客観的に裏付けられているとはいえない主観的な性格の濃い行動情報に基づいて特定されるとすれば,その個人の権利利益が害されるおそれは,当該個人において甘受すべきものばかりであるとは解されない。 (4) まとめ 以上のとおり,本件各行動情報が本件各記述部分を含めて公にされることで,将来の人の生命,健康,生活又は財産の保護に資する蓋然性が客観的にみて高いとまでは認められない一方,本件各記述部分が公にされることによって本件各記述対象者の権利利益が害されるおそれは無視し得る程度に低いものとはいえず,前者の利益が後者の利益に優越するとまでは認められない ことからすると,本件各記述は,法5条1号ただし書ロの生命等保護情報として不開示情報から除外されるべきものであるということはできない。 結論 したがって,本件各記述は,本件各変更決定時において法5条1号の個人に関する不開示情報の一部であったというべきであるから,当初各不開示決定 (本件各変更決定により一部変更された後のもの)のうち本件各記述を不開示とする部分の取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がない。 - 47 -行政事件訴訟法3条6項2号のいわゆる申請型の義務付けの訴えは,これに併合して取消訴訟を提起した場合においては,申請を却下し又は棄却する旨の処分が取り消されるべきものであるときに限って,提起することができる(同法37条の3第1項2号,3項2号)ところ,上記のとおり,本件 して取消訴訟を提起した場合においては,申請を却下し又は棄却する旨の処分が取り消されるべきものであるときに限って,提起することができる(同法37条の3第1項2号,3項2号)ところ,上記のとおり,本件において取 り消されるべき処分の部分があるとは認められないから,本件訴えのうち本件各記述の開示の義務付けを求める部分は不適法である。 よって,本件訴えのうち本件各記述の開示の義務付けを求める部分を却下するとともに,原告らの処分取消請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,61条を適用し て,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部裁判長裁判官谷口豊 裁判官平山馨 裁判官馬場潤

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