主文 被告人を罰金40万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 被告人から70万円を追徴する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、かつ、同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者であるが、同人に当選を得しめる目的をもって、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、第1 平成31年3月31日、広島市B区C丁目D番地被告人選挙事務所又はその周辺において、前記Aの配偶者であるEから、現金50万円の供与を受け、第2 令和元年6月1日頃、広島市B区F丁目G番H号被告人事務所において、前記Eから、現金20万円の供与を受けた。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)第1 争点被告人が、Eから、現金50万円、現金20万円をそれぞれ受領したことに争いはなく、証拠上も優に認定できる。 本件の争点は、①金銭交付の趣旨、すなわち、Eが、第25回参議院議員通常選挙の広島県選出議員選挙(以下「本件選挙」という。)に関し、配偶者であるAを当選させる目的をもって、Aへの投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をす ることの報酬として、被告人に対し各現金を供与したか、②このような金銭交付の趣旨を被告人が認識していたか、③被告人に対する公訴提起が公訴権の濫用に当たるかである。 また、①②の前提として現金50万円の交付の時期、①に付随して被告人の選挙運動者該当性も争われている。 第2 当裁判所が認定した事実 1 認定事実関 訴提起が公訴権の濫用に当たるかである。 また、①②の前提として現金50万円の交付の時期、①に付随して被告人の選挙運動者該当性も争われている。 第2 当裁判所が認定した事実 1 認定事実関係証拠により、当裁判所が認定した事実は以下のとおりである。 (1)被告人、E、Aの立場等被告人は、昭和41年からI郡J町議会議員に4回、昭和60年から広島市B区選出の広島市議会議員に9回当選し、平成31年3月29日告示、同年4月7日投票の広島市議会議員選挙にも立候補し、当選した。被告人は、その間の平成17年から平成23年まで広島市議会の議長を務め、本件当時、Kという7名ないし10名の会派の領袖的立場にあった。また、被告人は、当時、L党広島県支部連合会(以下「広島県連」という。)の顧問であり、選挙対策委員会の委員を務めていた。 被告人の後援会には、最盛期で1万1000世帯が登録されていた。 Eは、L党に所属し、本件当時、広島県第三選挙区(広島市M区及びM’区等)選出の衆議院議員であった。 Eの配偶者であるAは、広島市M区選出の広島県議会議員等を務め、平成31年4月29日付けで広島県議会議員の任期を終えた。 被告人は、Eから、平成27、28年頃から、夏と冬の年2回、現金10万円を受け取っていた。その現金は、Eに領収証を発行し、L党広島県第三選挙区支部からL党B区支部(以下、支部名を記載する場合は、いずれもL党の支部を表す。)への交付金として収支報告書に載せていた。平成30年10月には、Eから、広島市議会議員選挙に立候補予定のEの元秘書を被告人の会派に入れることを依頼されるとともに、現金100万円を受け取ったが、その際にも、領収証、収支報告書に つき、同様の処理をした。 (2)本件選挙をめぐる状況等本件選挙は、広島県全域を選挙区とし れることを依頼されるとともに、現金100万円を受け取ったが、その際にも、領収証、収支報告書に つき、同様の処理をした。 (2)本件選挙をめぐる状況等本件選挙は、広島県全域を選挙区とし、令和元年7月4日に公示され、同月21日に施行され、定数は2名であった。L党本部は、前年の平成30年7月頃、広島県連の公認申請を経て、当時現職のNを本件選挙の公認候補者とすることを決定した。同年11月終わり頃、L党本部は、本件選挙における二人目の公認候補者の擁立について広島県連の意見を求めたが、同年12月、広島県連はこれに反対した。 にもかかわらず、L党本部は、平成31年3月13日、Aを二人目の公認候補者として擁立することを決定し、Aは、同月20日、本件選挙への立候補を表明した。 なお、この時点で、当時現職の参議院議員であったNら2名を含む複数の候補者が本件選挙への立候補を表明していた。広島県連は、二人目の公認候補者の擁立というL党本部の決定に反発し、同月中旬から下旬頃にかけて、本件選挙においてはNのみを支援してAの支援は行わない方針を決定し、現に、同月下旬頃にEの公設秘書から各種団体名簿の提供を求められた際に、これを拒否するなどした。 (3)Eによる現金供与の状況等Eは、平成31年3月下旬頃から、A陣営のスタッフらに対し、地方議会議員らとの面会を取り付けるよう指示し、E自身は、相手方の氏名や供与額を記載したリストを作成しながら、広島県内の地方議会議員ら合計約100名に現金を供与した。 当該リストは、「陣中見舞い等」と題するデータファイルで、「A参議院議員選挙’19」と題するフォルダに保存されており、当該リスト内には「B区被告人50+20」という記載もあった。 (4)被告人への現金供与の状況等ア Eは、平成31年3月31日午後6時前後頃、 員選挙’19」と題するフォルダに保存されており、当該リスト内には「B区被告人50+20」という記載もあった。 (4)被告人への現金供与の状況等ア Eは、平成31年3月31日午後6時前後頃、同日午後に秘書が被告人側と連絡を取り、被告人が夕方頃には選挙事務所にいるとのことであったので事前調整の上、広島市議会議員選挙の陣中見舞いとして、運転手の送迎で、被告人の選挙事務所を訪れ、同事務所内又はその隣にある被告人方において、被告人に、陣中見舞 いですなどと言って現金50万円入りの封筒を渡し、被告人はこれを受け取った。 イその後、Eは、令和元年6月1日午前10時頃、事前連絡の上、被告人の常設事務所を訪れ、事務所内で被告人と二人で会い、被告人に、当選おめでとうございます、当選祝いに来ましたなどと言って、現金20万円入りの封筒を渡そうとした。これに対し、被告人は、Eに、Aさんは残念ながら応援はできんなどと言った。 その際、Eは、本件選挙において、L党が広島県で2議席を確保することの大義を説明するなどした。被告人は、別に困っとるわけじゃないんだからええけえなどと言って、現金20万円入りの封筒の受領を断ったが、Eはその封筒を置いていった。 また、Eは、Aに関する宣伝資料が入った白色手提げ袋も置いていった。 (5)現金受領後の被告人の行動等被告人は、現金50万円と現金20万円の受領について、Eから領収証の交付を求められず、領収証を交付しなかった。また、被告人は、受け取った現金50万円をタンス預金に入れ、広島市議会議員選挙の選挙運動費用収支報告書にも、被告人の政治団体の収支報告書にも、計上しなかった。さらに、被告人は、受け取った現金20万円を、B区支部の口座に入金し、同支部の収支報告書に被告人から同支部への寄附として計上した。 被告人は、 、被告人の政治団体の収支報告書にも、計上しなかった。さらに、被告人は、受け取った現金20万円を、B区支部の口座に入金し、同支部の収支報告書に被告人から同支部への寄附として計上した。 被告人は、その後、令和3年2月22日、現金70万円を、熊本県南豪雨義援金としてOに寄附した。 2 現金50万円の交付時期について前記認定事実のうち、現金50万円の交付時期、すなわち、被告人がEから現金50万円の交付を受けた時期につき、弁護人は、平成31年3月31日ではなく、平成31年2月4日である旨主張するので、その点について、当裁判所の認定理由を説明する。 (1)客観的な証拠の内容等Eの日程を示すデータによると、平成31年3月31日にも、平成31年2月4日にも、Eが被告人を訪問する旨の予定を示す記載はない。 他方、E方から発見された広島市議会会派別一覧によると、同書面は、平成31年3月20日に印刷された上、被告人の欄の横に、「50」と手書きされているところ、その手書き部分は、Eが平成31年3月20日以降に記載したものと認められる。 また、Eの秘書であるPとEの運転手であるQとのLINEのやりとりでは、平成31年3月31日午後5時46分に、PがQに被告人の選挙事務所の住所をメッセージで送信し、その後、午後6時9分に、QがPに、「現状 R→S→R(いまここ)」というメッセージを送信している。これは、Eが平成31年3月31日に被告人の選挙事務所に赴いたことを強くうかがわせ、金銭交付時期が平成31年3月31日であることを強く示唆している。 他方で、被告人のホームページの活動状況には、平成31年2月4日に「陣中見舞の来訪者あり」との来訪者名を特定しない記載はあるが、平成31年3月31日には、特段の記載はない。 また、遊説車日程表の 他方で、被告人のホームページの活動状況には、平成31年2月4日に「陣中見舞の来訪者あり」との来訪者名を特定しない記載はあるが、平成31年3月31日には、特段の記載はない。 また、遊説車日程表の平成31年3月31日のものには、Eの来訪予定の記載はないが、被告人が午後6時には選挙事務所に戻り、その後午後7時からの個人演説会場に赴く旨の記載がある。 これらの客観的証拠は、全体としてみると、交付時期が、平成31年2月4日であるよりも、平成31年3月31日であることに整合的である。 (2)関係者の証言の内容等ア E、P、Qの証言Eは、平成31年3月下旬頃から4月初めまでの時期に、被告人の選挙事務所又はその周辺で、現金50万円を被告人に交付した旨証言する。また、Pは、Eの指示を受け、広島県や広島市の地方議会議員への陣中見舞いの日程調整を行い、平成31年3月31日当日、被告人が夕方選挙事務所にいる予定であるとの情報を得て、被告人側と調整の上、その頃、Eが被告人の選挙事務所に赴くこととし、Qに被告人の選挙事務所の住所をLINEのメッセージで連絡するなどした旨証言し、Qは、 平成31年3月31日夕方、Eを被告人の選挙事務所に乗せて行った旨証言する。 Eの証言は、前記の広島市議会会派別一覧の手書き分が平成31年3月20日以降になされたことと整合的といえる。また、Pの証言は、Pが平成31年3月22日に、陣中見舞いの日程を組む旨のメールをEの事務所関係者に送付していることに沿う上、前記の遊説車日程表の示す被告人の予定にも整合し、何より、前記のQとのLINEのやり取りの内容に強く裏付けられている。Qの証言も、同様に、被告人の予定に沿うだけでなく、被告人の選挙事務所の前後に被告人と同じB区選出の広島市議会議員のTの事務所にEを送迎した点も含 とのLINEのやり取りの内容に強く裏付けられている。Qの証言も、同様に、被告人の予定に沿うだけでなく、被告人の選挙事務所の前後に被告人と同じB区選出の広島市議会議員のTの事務所にEを送迎した点も含め、PとのLINEのやり取りに強く裏付けられている。これらによると、PとQの証言は信用性が高く、Eの証言の信用性を強く支えている。 この点、弁護人は、①被告人やTと面会約束をしたとするPの証言は事実に反すること、②Qは被告人の選挙事務所の住所を知らなかったこと、③PとQの証言が整合していないこと、④Qの証言とLINEの送受信時刻に矛盾があること、⑤Tの事務所へ二度訪問したとするQの証言が不自然であること、⑥被告人の選挙事務所の駐車場に駐車車両がなかった旨のQの証言は事実に反することを指摘し、PやQの証言は信用できないと主張する。しかし、①の指摘については、国会議員であるEが地方議会議員の被告人らと面会するのに事前に面会約束をするのはむしろ当然というべきである。また、当時は、広島市議会議員選挙の選挙期間中であったのであるから、同選挙に立候補していた被告人とは面会約束がなければ会うことは困難といえる。さらに、同選挙期間中であるが故に、被告人との面会前後にT(被告人と同様、同選挙に立候補中)とEが約束どおりに会えなかったことも不自然ではない。経緯や相手等で若干曖昧な点があるとはいえ、当日面会約束を取り付けた旨のPの証言に疑問はない。②の指摘については、確かに、選挙事務所予定地一覧に記載の被告人の選挙事務所の住所は、敷地の地番であり住居表示ではないから、一般的な地図やカーナビでは検索できないようである。しかし、Qは、PからのLINEで被告人の選挙事務所の場所を知らされたのであるから、それに基づいてEを 被告人の選挙事務所に送り届けたと認めら 般的な地図やカーナビでは検索できないようである。しかし、Qは、PからのLINEで被告人の選挙事務所の場所を知らされたのであるから、それに基づいてEを 被告人の選挙事務所に送り届けたと認められる。この点により、Qの証言の信用性は否定されない。③の指摘については、確かに、QがPに被告人の選挙事務所の場所を問い合わせたかにつき、PとQの証言には違いがある。しかし、問合せの有無について違いがあるとしても、QがPから伝えられた被告人の選挙事務所にEを送迎した旨の証言の信用性に影響はない。④の指摘については、弁護人は、Qの証言を前提にすると、Q運転の車が再びTの事務所に到着したのは、PがQに送ったLINEのメッセージの午後5時46分から早くとも30分後の午後6時16分頃であり、Tの事務所に着いてからQがPに送ったLINEのメッセージが午後6時9分であることと矛盾する旨指摘する。しかし、Qが証言する移動時間や滞在時間は体感にすぎない。また、Qは、PからのLINEのメッセージを受領した時点でどこにいたか明確に証言しておらず、被告人の選挙事務所に向かう途中、ないし、付近であった可能性もある。なお、被告人の前後の予定からすると、Eが被告人の選挙事務所に滞在した時間は、Qが証言する10分弱よりも短かった可能性もある。 Qの証言がLINEの時刻と矛盾するとはいえない。⑤の指摘については、Tは広島市議会議員選挙に立候補して選挙運動をしている最中であるから、不在を理由とした二度にわたる訪問も特段不自然ではない。⑥の指摘については、Qは、ほかにも車は止まっていなかったが、全くかどうかは曖昧である旨証言しており、自らの周囲に駐車車両がなかった旨を証言しているにすぎない。また、仮に駐車車両があったとしても、Eを被告人の選挙事務所に送迎した旨のQの証言の根幹部分の たが、全くかどうかは曖昧である旨証言しており、自らの周囲に駐車車両がなかった旨を証言しているにすぎない。また、仮に駐車車両があったとしても、Eを被告人の選挙事務所に送迎した旨のQの証言の根幹部分の信用性は揺るがない。 イ Uの証言他方、平成31年3月31日午後に被告人の選挙事務所の当番であったUは、事務所当番をしていた間、Eが被告人の選挙事務所に来たことはなかった旨証言する。 しかし、Uは、その日、誰か来たかもしれないが誰かは覚えていないなどとも証言し、その日の来訪者の記憶はそれほど定かなものとはいえない上、Uの証言を前提としても、トイレのために選挙事務所を不在にしたこともあるというのである。ま た、Uが被告人の選挙事務所にいたのは午後6時前後頃までであった一方、Eが被告人の選挙事務所に赴いたのも関係証拠上午後6時前後頃と認められるから、入れ違いの可能性も否定されない。そうすると、Uの証言が、前記のEらの証言と矛盾するとまではいえず、Uの証言によっても、Eらの証言が信用できるとの判断は変わらない。 ウ被告人の供述また、被告人は、Eが、平成31年2月4日午前9時頃、被告人の常設事務所に事前連絡なく来訪し、50万円を渡された、ホームページの平成31年2月4日の欄の「陣中見舞の来訪者あり」とはEのことである旨供述する。しかし、そもそも、衆議院議員であるEが、被告人不在のリスクを抱えてまで、50万円を被告人に手渡すため、自らの選挙区外選出の広島市議会議員である被告人の常設事務所を、週初めの朝早く、事前連絡なしに突然来訪することは、考え難い。Eの日程のデータやE、Pの証言によると、Eはその日、午前8時に父親が入院していたV病院に見舞いに行き、午前10時には自宅にPが迎えに来ることになっていたのであるから、なおさらである。現に え難い。Eの日程のデータやE、Pの証言によると、Eはその日、午前8時に父親が入院していたV病院に見舞いに行き、午前10時には自宅にPが迎えに来ることになっていたのであるから、なおさらである。現に、現金20万円の交付の際には事前連絡がされている。加えて、被告人が指摘するホームページの記載は名前が特定されていない。むしろ、被告人の供述は、前記のEの手書き入り広島市議会会派別一覧と整合的とはいえず、PとQとのLINEのやり取りと全く整合しない。さらに、被告人は、いったんは、平成31年3月下旬頃に、Eから50万円を受領した旨を供述していたのであって、供述内容が変遷している。これらによると、被告人のこの点の供述は信用できない。 (3)結論以上に照らすと、現金50万円の交付時期は、平成31年3月31日と認められる。 第3 金銭交付の趣旨第2の認定事実によると、本件選挙には、現職2名を含む複数の者が立候補を予定しており、Aが本件選挙で当選するためには、当時現職だったNら2名のうち少 なくとも1名よりも多くの票を獲得する必要があった。また、本件選挙は、広島県全域が選挙区であり、Aが本件選挙で当選するためには、AやEが政治的基盤を有していた広島県第三選挙区内だけでなく、それ以外の地域でもAの知名度を上げ、県内全域から票を獲得する必要があった。しかし、本件選挙の約1年前にL党の公認候補となったNと異なり、AがL党の公認候補となったのは本件選挙の公示日の3か月余り前になってからのことであった。また、A公認の経緯からすると、Aの選挙活動において、広島県連からの支援は期待できない状態であった。これらの状況について、当時、現職の衆議院議員であり、かつ、配偶者としてAの選挙を支援していたEも当然よく理解していた。 このような状況下で、Eは、配偶 島県連からの支援は期待できない状態であった。これらの状況について、当時、現職の衆議院議員であり、かつ、配偶者としてAの選挙を支援していたEも当然よく理解していた。 このような状況下で、Eは、配偶者であるAが本件選挙に立候補を表明した十日余り後に、広島市B区を選挙区として長年広島市議会議員を務め、広島市議会の議長経験もあり、広島市議会の会派の領袖的立場であった被告人に対し、例年2回の寄附金額を大きく超える現金50万円を交付している。 さらに、Eは、本件選挙の公示日の1か月余り前に、被告人に対し、現金20万円を交付している。その際には、Eは現金入りの封筒とともに、Aの宣伝資料の入った手提げ袋も、被告人のもとに置いていっている。 これらの交付は、Eが、広島県内の多数の地方議会議員らに現金を供与する一環として行われたもので、「B区被告人50+20」という本件金銭交付を示す記載のあるリストが「A参議院議員選挙’19」と題するフォルダ内に保存されていたことはそれを示している。 加えて、Eは、被告人への金銭交付に際し、Aを当選させてほしい気持ちがあったことは否定できない旨証言している。 これら本件選挙におけるAの置かれた状況、AとEとの関係、金銭交付の時期、交付した金額、リストの保存状況等に照らすと、Eが被告人に交付した各金銭に、本件選挙に関し、Aを当選させる目的で、Aへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬が含まれていたことは明らかである。 Eは、現金50万円を陣中見舞い名目で、現金20万円を当選祝い名目で、被告人にそれぞれ交付しているが、その点が前記の認定を妨げるものではない。 なお、この認定を前提とすると、被告人の選挙運動者該当性もまた明らかである。 これに対し、弁護人は、被告人が本件選挙でNを支援し、Aを ぞれ交付しているが、その点が前記の認定を妨げるものではない。 なお、この認定を前提とすると、被告人の選挙運動者該当性もまた明らかである。 これに対し、弁護人は、被告人が本件選挙でNを支援し、Aを支援する余地がないことは、現金20万円の受領の際にも被告人がEに伝えてEもそれを前提にしていたのであるから、現金の交付とAへの支援は完全に切り離されており、Eの証言は信用できない旨主張する。しかし、例えそのようなやり取りがあったとしても、Eの側からすれば、これまで継続的関係を有してきた広島市議会の重鎮である被告人の持つ影響力等に期待することは十分あり得るというべきである。 第4 被告人の認識第2の認定事実によると、被告人は、本件当時、広島県連の顧問で選挙対策委員会の委員であったから、本件選挙におけるAやAを応援するEの置かれた状況はよく理解していたと認められる。また、被告人は、現金50万円を受領した際にはAが本件選挙に立候補を表明してから間もないこと、現金20万円を受領した際には本件選挙が迫ってきていることも、当然、それぞれ認識していたと認められる。加えて、被告人は、現金20万円入りの封筒を渡されそうになると、自ら、本件選挙においてAの応援はできない旨をEに伝えているのであって、それは、被告人自身、Eの持参した現金と本件選挙におけるAへの支援とが関連していること、すなわち、その現金がAへの支援の報酬を含むものであることを感じ取ったからに他ならない。 さらに、被告人は、現金50万円についても、現金20万円についても、領収証を交付せず、収支報告書上、Eや広島県第三選挙区支部からの寄附として処理しておらず、これまでのEからの現金受領とは異なる取り扱いをしている。 以上によると、被告人において、Eが被告人に交付した金銭に、本件選挙に関し、Aを当選 や広島県第三選挙区支部からの寄附として処理しておらず、これまでのEからの現金受領とは異なる取り扱いをしている。 以上によると、被告人において、Eが被告人に交付した金銭に、本件選挙に関し、Aを当選させる目的で、Aへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬が含まれていたことを認識していたことは明らかである。 第5 公訴権濫用について 弁護人は、違法な司法取引の結果、いったん被告人は不起訴処分となったにもかかわらず、検察審査会において起訴相当との議決がなされるや、検察官は、再捜査として被告人を呼び出し、従前の被告人の供述調書の内容を30分程度確認しただけで、突然態度を翻して公訴提起したものであり、このような本件公訴提起は、公平、公正な公訴権の行使からかけ離れたものであり、公訴権が濫用されたものとして直ちに公訴棄却されるべきであると主張する。 関係証拠によると、検察官は、不起訴を前提として被告人を取り調べるなどし、被告人は、不起訴となることを期待して検察官の意に沿う供述をするなどしたことは否定できないが、本件公訴提起は、弁護人も指摘するとおり、検察審査会において起訴相当との議決が出たことを踏まえてなされたものであって、本件公訴提起が公訴を棄却すべきほどの違法を有するものとはいえず、ましてや公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に当たるとはいえない。 弁護人の主張には理由がない。 第6 結論以上のとおり、①Eは、本件選挙にAを当選させる目的をもって、Aへの投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として、被告人に対し現金50万円と現金20万円を供与し、かつ、②このことを被告人も認識していたと認められる。また、③本件公訴が公訴権を濫用したものとして、公訴棄却すべきであるとはいえない。 の報酬として、被告人に対し現金50万円と現金20万円を供与し、かつ、②このことを被告人も認識していたと認められる。また、③本件公訴が公訴権を濫用したものとして、公訴棄却すべきであるとはいえない。 (法令の適用)罰条いずれも公職選挙法221条1項4号、1号刑種の選択いずれも罰金刑を選択併合罪の処理刑法45条前段、48条2項労役場留置刑法18条追徴いずれも公職選挙法224条後段(被告人が、判示第1の犯行により取得した現金50万円、 判示第2の犯行により取得した現金20万円は、いずれも公職選挙法224条前段の収受した利益に該当するが、既に費消してその全部を没収することができないので、その価額を追徴する。)訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)本件は広島市議会議員の重鎮であった被告人が、国政選挙である参議院議員選挙に際して、選挙買収のための現金の供与を受けた事案である。 まず、被告人は、市議会議員を長年務め、その間、市議会の議長をも務めた者であるにもかかわらず、2回にわたり、現金を受領しており、その意思決定には相応の非難がされるべきである。また、被告人が受け取った現金は、合計70万円と相当に高額であり、本件は選挙の公正を害するおそれの高い犯行でもある。とはいえ、被告人が、Eの期待どおりにAの支援をした形跡はうかがえず、積極的に選挙の公正を害したとまではいえない。さらに、被告人としては、現職の衆議院議員であったEからの現金供与を拒みにくいとの心情があったこともうかがえる。 これらに加え、被告人は、本件発覚後、受領した金額と同額の現金を寄附していること、検察審査会の議決を受けて公訴提起された後も任期満了まで市議会議員を続けたこと、さらには、Eか たこともうかがえる。 これらに加え、被告人は、本件発覚後、受領した金額と同額の現金を寄附していること、検察審査会の議決を受けて公訴提起された後も任期満了まで市議会議員を続けたこと、さらには、Eから金銭を供与された他の地方議会議員らとの均衡も考慮し、被告人に対しては、主文の罰金刑に処するのが相当である。 よって、主文のとおり判決する。 (検察官の求刑-罰金70万円、主文同旨の追徴)令和5年9月5日広島地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官後藤有己 裁判官櫻井真理子 裁判官林宏樹
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