平成9(ワ)13134等 新日本製鐵強制労働損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成13年3月27日 大阪地方裁判所
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判決文本文67,266 文字)

主文 一原告らの請求をいずれも棄却する。 二訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第一請求一被告らは別紙記載の謝罪文を原告らに交付せよ。 二被告らは各自原告P1に対し、金一八九一万一六〇〇円及び内金一七九一万一六〇〇円について平成一〇年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 三被告らは各自原告P2に対し、金一八九八万二八〇〇円及び内金一七九八万二八〇〇円について平成一〇年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 第二事案の概要本件は、原告らが、第二次世界大戦時に、当時の日本製鐵株式会社(以下「日本製鐵」という。)の労務者募集に応募して朝鮮半島から日本製鐵の経営する大阪製鉄所まで強制連行され、強制労働に従事させられた、被告国は日本製鐵の事業を国策として推進・支援したなどと主張し、被告新日本製鐵株式会社(以下「被告新日鐵」という。)に対し、未払賃金ないし相当損害金、慰謝料、弁護士費用の支払と謝罪文の交付を、被告国に対し、未払賃金相当損害金、慰謝料、弁護士費用の支払と謝罪文の交付をそれぞれ求めた事案である。 一主たる争点Ⅰ 原告らの強制連行、強制労働の事実の有無Ⅱ 原告らの強制連行、強制労働に関する被告らの責任の有無 1 日本製鐵の責任の有無 2 被告国の責任の有無 3 被告新日鐵の責任の有無-日本製鐵の債務の承継の有無Ⅲ 原告らに関する被告らの供託行為についての不法行為責任の有無 1 日本製鐵の責任の有無 2 被告国の責任の有無 3 被告新日鐵の責任の有無-日本製鐵の債務の承継の有無Ⅳ 損害等Ⅴ 原告らの請求権の消滅の可否 1 日韓協定等による請求権の消滅の可否 2 消滅時効ないし除斥期間による請求権の消滅の可否Ⅵ 原告らの謝罪文交付請求権の有無二争点に関 務の承継の有無Ⅳ 損害等Ⅴ 原告らの請求権の消滅の可否 1 日韓協定等による請求権の消滅の可否 2 消滅時効ないし除斥期間による請求権の消滅の可否Ⅵ 原告らの謝罪文交付請求権の有無二争点に関する当事者の主張Ⅰ 原告らの強制連行、強制労働の事実の有無(原告らの主張)原告らは、昭和一八年(一九四三年)九月(以下、年の表示については元号による。)、朝鮮平安南道平壌市において募集方式によって徴用された。この方式は、もともと、昭和一四年四月の日本国政府の閣議決定により厚生省、朝鮮総督府の統制下で、朝鮮における地域割当に基づき事業主が募集許可を受けて朝鮮人労務者を募集し、集団渡航で日本に連行することを認めたもので、内務・厚生両次官通牒「朝鮮人労務者内地移住に関する件」(昭和一四年七月二九日)に基づく「朝鮮人労務者募集並びに渡航取扱要綱」(同年九月一日)に従って実施されていた。 しかし、原告らが応募した昭和一八年九月段階では、既に昭和一七年二月一三日閣議決定「朝鮮人労務者活用に関する方策」に基づく「朝鮮人内地移住斡旋要綱」が発令されており、この方式では、割当地域に派遣された事業主の補導員が、地方行政機関、警察そして朝鮮労務協会等の連携した協力を得て、短期間に目的人数を確保し、確保した朝鮮人労務者は、事業主の補導員に引率され、日本の事業所に連行される、官斡旋方式という方式が実施されており、原告らの徴用はむしろこの官斡旋方式によって行われたと考えられる。 いずれにせよ、原告らは募集に応じて事務所に出頭し、直ちに協和訓練隊に編入され、約一週間、大阪製鉄所属の軍事教官により、平壌市で軍事教練を受け、そのあと、約一〇〇人の部隊として日本に連行され、大阪製鉄所に到着後は朝鮮人労務者専用の寄宿舎に入れられ、約二〇日間の軍事教練と現場研修を受けた後に 製鉄所属の軍事教官により、平壌市で軍事教練を受け、そのあと、約一〇〇人の部隊として日本に連行され、大阪製鉄所に到着後は朝鮮人労務者専用の寄宿舎に入れられ、約二〇日間の軍事教練と現場研修を受けた後に、事業場に配属されて就労したのであり、原告らの日本製鐵における就労は、通常の雇用契約に基づくものではなく、当時の日本国政府の朝鮮人労働力の重要企業への導入方針に基づき、日本人労働者の労働力を補完する労働力提供者として日本製鐵の生産機構に編入された。 こうした状況下において、原告らは同時に連行された約一〇〇名の朝鮮半島出身者とともに、完全に同一の就労体制を義務づけられ、起床から就寝に至るまで軍隊的規律下にあり、個人的な行動は一切認められず、もとより就労からの離脱は厳禁され、逃亡とみなされた場合には、生命に関わる苛酷な制裁を受けた。また、原告らは、日本製鐵に連行されて七、八か月後に徴用手帳を交付されてからは、就労に関し個人的自由は全く存在しなかった。就労条件は苛酷で、特に給料の支払は著しく恣意的に取り扱われ、給料額は明示されず、また通帳らしきものを示されて、了解抜きで一方的に給料から預金させられ、ごくわずかの金員しか渡されなかった。 さらに、昭和二〇年三月、大阪製鉄所が爆撃を受けて破壊され就労継続が不可能になったことから、原告らは、同年六月、朝鮮清津の製鐵所建設予定地に連行され、ソ連軍の侵攻により離散逃亡するまで、建設基礎工事に従事させられた。この間の労働は、大阪製鉄所での就労よりもさらに苛酷であり、その間の給料は全く支給されなかった。 したがって、原告らの大阪製鉄所への連行及び同所での就労並びに朝鮮清津の製鐵所建設予定地への連行及び同所での就労就業は、実質的には強制徴用、強制連行以外の何ものでもなかった。 Ⅱ 原告らの強制連行、強制労働に関 原告らの大阪製鉄所への連行及び同所での就労並びに朝鮮清津の製鐵所建設予定地への連行及び同所での就労就業は、実質的には強制徴用、強制連行以外の何ものでもなかった。 Ⅱ 原告らの強制連行、強制労働に関する被告らの責任の有無 1 日本製鐵の責任(一) 国際法に基づく直接請求権(原告らの主張)原告らの強制連行、強制労働は被告国に関して後述するように国際法に違反しており、右違反行為に関与した日本製鐵に対し、原告らは、国際法上、直接の損害賠償請求権を有する。日本製鐵の関係で特記すべきことは以下のとおりである。 (1) 原告P2の場合には、P3(中尉)及びP4(軍曹)らによる募集活動により、軍事教練を経て大阪製鉄所まで連行され、また、原告P1の場合にも、同様の募集活動により、協和訓練隊における軍事教練を経て大阪製鉄所まで連行された。 右の各連行は、逃亡したら酷い目に遭うという威嚇及び監視(原告P2の場合には監視員は募集活動をした四名であった。)の下に実行されたものである。これら募集活動及び連行を実施した者らの行為は、強制労働条約、「人道に対する罪」、国際人権規約に違反する。 (2) 原告らは大阪製鉄所において、その全生活過程を監視員らによって把握されており、その特質は逃亡の禁止と就労の強制ということができる。 (3) 原告P2の場合、一緒に連行された九九名は同一の寮に入れられ、そこで朝夕の点呼を受け、点呼に参集できなかった者は前記P4らによって叩かれるなどの暴行を受けていたことを見知っている。そして、実際に逃亡をした者に対しての制裁としての暴行は激しく、一緒に連行された者のうち半分死にかけるまでの暴行を受けたうえ、「強制送還」させられた者もいた。 原告P1の場合には、徴用された後、逃亡しようとして密告され、寮の舎監に木材で腎部を殴られるという酷 一緒に連行された者のうち半分死にかけるまでの暴行を受けたうえ、「強制送還」させられた者もいた。 原告P1の場合には、徴用された後、逃亡しようとして密告され、寮の舎監に木材で腎部を殴られるという酷い暴行を受けたことがある。 右のような原告らの大阪製鉄所での労働は、強制労働条約によって禁止されている「強制労働」に該当する。 (4) これら募集活動、連行及び日本製鐵での原告らの逃亡の防止と就労の強制をした者らは、いずれも日本製鐵の構成員であり、日本製鐵の利益のために行為したのであるから、日本製鐵ひいては被告新日鐵が国際法違反行為の責任を負担することになるのは当然である。 (二) 国内法違反に基づく各請求権(1) 民法七〇九条の不法行為に基づく損害賠償請求権について(原告らの主張)① 日本製鐵が、原告らを強制連行し、強制労働に従事させたことは、民法上の不法行為を構成する。 原告らは、日本製鐵の構成員による軍事教練を受け、厳重な監視の下に大阪製鉄所まで連行されてきたものであり、連行過程が原告らの意思を抑圧する態様のものであることは明白であるから、日本製鐵の行為は民法上の不法行為を構成する。 ② また、原告らの大阪製鉄所での労働は次のようなものであった。 原告らは、大阪製鉄所に連行された後、約二〇日間の軍事教練を経て、見習い及び軍事教練を並行する期間を過ごした後、現場配属として起重機の操作や瓦斯工場の工員を担当させられた。勤務は三交代制であった。また、就労時間以外は全員同じ寮に入れられ、そこでの状況も常時の監視の下にあり、自由な行動も許されず、就労を強制され、賃金の支払を受けなかった。 以上のとおり、大阪製鉄所での原告らが従事させられていた労働も、およそ近代法の予定する労働とはほど遠く、苦役そのものという外ない。 ③ 日本製鐵は、原告らの起 を強制され、賃金の支払を受けなかった。 以上のとおり、大阪製鉄所での原告らが従事させられていた労働も、およそ近代法の予定する労働とはほど遠く、苦役そのものという外ない。 ③ 日本製鐵は、原告らの起臥寝食の一切を管理し、原告らに就労の強制を行い、それによって利益、利得を得ていた。このような関係にある以上、日本製鐵は原告らの生命身体の安全はもとより、原告らに対して適当な宿舎、寝食を整えるなどして原告らが安全かつ適当な環境を享受できるよう必要な措置を講じるべきであることは当然であった。 そうであるにもかかわらず、日本製鐵は原告らに適当な環境を整備せず、むしろ暴力を究極の背景とした監視体制を敷き、これによって原告らを畏怖させ、反抗と不満の抑圧を図っていた。 また、日本製鐵は原告らを寮に収容せしめていたものであるが、これは日本人労働者の寄宿舎とは全く別のものであり、その目的は福利厚生の付与ではなく、逃亡の防止の一点に尽きるものであった。これらの日本製鐵の原告らに対する処遇は、日本人労働者・徴用者と全く異なる差別的な劣悪なものであった。 ④ 以上のとおり、日本製鐵が原告らを強制連行したこと、強制労働に従事させたこと、原告らを日本人労働者、徴用者とは異なった差別的な処遇をしたことはそれぞれ不法行為を構成する。 (2) 債務不履行に基づく損害賠償請求権について(原告らの主張)① 原告らの大阪製鉄所における労働は、通常の労働契約関係の成立に見られるように提供する労働とその対価としての賃金が当事者の意思表示によって約定されたことはない。しかし、そのことの故に日本製鐵が原告らに対して何らの法的義務を負っていなかったとするのは正当な考察ではない。このことは、例えば現在の労働基準法第五条は刑法上の脅迫罪、強要罪を上回る法定刑を定めて「暴行、脅迫、監禁その他 本製鐵が原告らに対して何らの法的義務を負っていなかったとするのは正当な考察ではない。このことは、例えば現在の労働基準法第五条は刑法上の脅迫罪、強要罪を上回る法定刑を定めて「暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって労働者の意思に反した労働を強制」することを禁止しているが、ある労働関係が右の労働基準法所定の強制労働に該当することになったときにおいても、そのことによって使用者が負っていた賃金支払義務その他法的義務を果たさなくてよいということにはなり得ないことからも明らかである。 右のようにして成立する関係を「事実的労働関係(faxtischeArbeitverhaltness)」と呼称することができる。この「事実的労働関係」とは、当事者の間に法的に有効な契約が成立していないけれども、労働の提供と受領という関係が通常の労働契約と同様に成立している場合を指しているものであり、ドイツの学説から提起されてきた観念である。そして、この「事実的労働関係」が成立している場合、使用者において労働の提供を受領していながら、その対価の支払を免れることは許されず、むしろ有効な労働契約関係が成立しているときと同様の義務を負担するものとされている。 また、安全配慮義務を承認したリーディングケースたる最高裁判所昭和五〇年二月二五日判決(民集二九巻二号一四三頁)は、「安全配慮義務はある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって・・・」と論じているが、右の判例の射程は、前記したような「事実的労働関係」が成立している場合はもとより「特別な社会的接触の関係」がある当事者間に及ぶものと解される。 以 認められるべきものであって・・・」と論じているが、右の判例の射程は、前記したような「事実的労働関係」が成立している場合はもとより「特別な社会的接触の関係」がある当事者間に及ぶものと解される。 以上のとおり、原告らと日本製鐵との間には労働契約締結という事実はなかったとしても、両者間には「事実的労働関係」の成立が認められ、これに基づいてまたは信義則に基づいて、日本製鐵は原告らに対し、以下のような義務を負担していたものと解されなければならない。 a 賃金支払義務日本製鐵は、前記のように就労した原告らに対して、賃金その他就労の対価の支払をするべき義務を負っていた。 原告P2の場合、賃金の支払に関して、日本製鐵はその事務所において貯金したといって通帳様の書類を示したことはあったが、実際の支払を受けたことはない。 さらに煙草代や寮での生活費等については、賃金から天引きするという扱いであると説明されたが、そのような取り扱いがされていたのかどうか、されていたとして適正な計算に基づいてなされていたのか全くわからない。 原告P1の場合、初めての賃金支払日に強制的に貯金に加入させられ、その後、その記帳されたものを示されただけであり、また、天引き等の計算関係もそれがどのようになされていたのか、それが適正であるか全く説明されていない。また、原告P1が逃亡を試みて発覚して舎監から暴行を加えられた後には、それまでは手渡されたことのあった小遣い銭の支払を受けることもなかった。 また、日本製鐵は、原告らが大阪製鉄所から清津に転傭になるときに日本製鐵から未払となっている賃金について支払がされるということを聞いたのであるが、それが履行されたことはもとより、履行のために協力を求められたことすら全くない。 さらに、原告らが、清津に転傭された後において、そこで従事した労働 について支払がされるということを聞いたのであるが、それが履行されたことはもとより、履行のために協力を求められたことすら全くない。 さらに、原告らが、清津に転傭された後において、そこで従事した労働は大阪製鉄所における就労内容とは異なった肉体的に苛酷で単純なものが多かったのであるが、これに対して賃金の支払は一銭もなされていない。 右に見たように、日本製鐵は原告らに対して、その就労と対価的意義を有する金員の交付をなすべきことは認識していたものである。その基礎に立って日本製鐵は「貯金」「天引き」等の操作をしてきたと認められる。そうであれば、その金員の交付を原告らに対してすることは、通常の労働契約関係における賃金の支払と同様に、日本製鐵に法的な義務となっていたものと解すべきである。 b 安全配慮義務違反日本製鐵の不法行為責任に関する主張は、そのまま安全配慮義務違反をも構成する。 c 送還、帰郷義務原告らは、昭和二〇年六月に、大阪製鉄所から清津に転傭された。このような配転ともいうべき措置を講じながら、日本製鐵は清津において原告らに対し、何らの賃金の支払をもせず、糧食その他の生活必需品の提供もしなかった。日本製鐵には配転に際しての安全義務を放擲していたといえる。 また、原告らは、昭和二〇年八月、ソビエト連邦軍が侵攻してくるという状況下において、右清津において日本製鐵から何らの指示もないままに放置された。日本製鐵は、原告らをその自由な意思を抑圧して、強制連行し、かつ強制労働に従事させてきたものであるから、その関係が終了したときには、原告らを元の居住地に送還、帰郷させる義務を負担していたと解すべきである。また、このような送還、帰郷義務は、当時の国民徴用令一六条に明確に定められていたところである外、昭和二〇年九月一日に発せられた通達(「朝鮮人 地に送還、帰郷させる義務を負担していたと解すべきである。また、このような送還、帰郷義務は、当時の国民徴用令一六条に明確に定められていたところである外、昭和二〇年九月一日に発せられた通達(「朝鮮人集団移入労務者等ノ緊急措置ニ関スル件」警保局発甲第三号、甲二六)においても表現されているものである。しかるに、日本製鐵はかかる義務を怠った。 (被告新日鐵の主張)原告ら主張の事実関係は知らない。被告新日鐵の法的責任についてはいずれも争う。 2 被告国の責任(一) 国際法に基づく直接請求権について(原告らの主張)原告らの強制連行、強制労働は以下のとおり国際法に違反しており、右違反行為に関与した日本製鐵及び被告国に対して、原告らは、国際法上、直接の損害賠償請求権を有する。 (1) 強制労働に関する条約(ILO第二九号条約)違反原告らは日本国政府の直接の関与の下に、日本製鐵により強制連行され、就労からの離脱を図った場合には生命に拘わる拷問を加えられるとの脅迫の下に苛酷な労働に従事することを強要され、また、原告らの日本製鐵での就労期間は無期限であって、しかも、その間、原告らに支給されるべきであった賃金は日本人(内地人)労働者に比して格段に安いだけでなく、現実にはその一部しか支給されなかったものである。 ところで、昭和五年六月二八日ILOの第一回総会において、「強制労働に関する条約第二九号」(以下「強制労働条約」という。)が採択され、日本国は、昭和七年一一月二一日、これを批准したが、同条約にいう強制労働とは、「あるものが処罰の脅威の下に強要せられ、且つ右の者が自ら任意に申出でたるに非ざる一切の労務をいう」ものと定義され、「権限ある機関は私の個人、会社または団体の利益のため強制労働を課し、または課することを許可することを得ず」、「行政庁の職 且つ右の者が自ら任意に申出でたるに非ざる一切の労務をいう」ものと定義され、「権限ある機関は私の個人、会社または団体の利益のため強制労働を課し、または課することを許可することを得ず」、「行政庁の職員はその責任の下にある住民に何らかの形式の労働に従事することを奨励するの職務を有する場合にも該住民の全部またはその中の何人かに対し、私の個人、会社または団体の為に労働せしむるため強制を加えることを得ず」と規定され、また、強制労働に徴集せられうべき最長期間は労務場所に往復するに要する期間を含み六〇日を超えてはならないこと、一切の種類の強制労働は労力が使用される地方における類似の労務に通常行われる率より低くない率で現金をもって報酬を与えられるべきことなども規定されているうえ、強制労働の不法な強要は刑事犯罪とし処罰されるべきことが条約を批准する締結国の義務であるとも宣言しているから、原告らに対する強制連行、強制労働は強制労働条約に違反している。 (2) 国際的人権規範違反昭和三一年一二月一六日国連第二一回総会で採択され、昭和五一年八月二三日に発効し、昭和五四年九月二一日、日本国について発効した市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権規約B規約八条。以下右条約を「国際人権現約B規約」という。)は、何人も隷属状態に置かれず、また何人も強制労働に服することを要求されないとし、この規約において認められる権利または自由を侵害された者が、公的資格で行動する者によってその侵害が行われた場合にも、効果的な救済措置を受けることを確保することを締約国が約束する(三条三項)としている。国際人権規約B規約は第二次世界大戦俊一一年を経過した段階で国連総会で採択され、以後、全世界のほとんどの国によって採択されている国際人権規範であり、日本国政府もその拘束を受けている 項)としている。国際人権規約B規約は第二次世界大戦俊一一年を経過した段階で国連総会で採択され、以後、全世界のほとんどの国によって採択されている国際人権規範であり、日本国政府もその拘束を受けているものである。 また、昭和二三年一二月一〇日、第三回国連総会において採択された世界人権宣言は、何人も、奴隷にされ、または苦役に服することはない、何人も非人道的な若しくは屈辱的な取扱いを受けることはないとし、また全ての人は、憲法または法律によって与えられた基本的権利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有するとしている。 国際人権規約B規約及び世界人権宣言は、日本国を含む全ての国家がその遵守を義務づけられている国際人権規範であり、その採択は、本件強制連行、強制労働がなされた時点以降になされたものであるが、その規範性は、採択以前の、特に、大戦中になされた人権侵害行為にも向けられているものであり、人権侵害が救済措置の不作為として継続している場合には、右不作為自体を違法とする意味で、救済措置が完了するまで機能し続けており、日本国は、本件強制連行、強制労働及び救済措置の懈怠について、国際人権規約B規約、世界人権宣言に明示されている国際人権規範の違法評価を受ける。 なお、国際人権規約B規約は遡及的に解釈適用されるべきだという解釈論は、著名な国連NGOである国際法律家委員会(ICJ)も採用している。 (3) 「人道に対する罪」違反原告らは、脅迫、監視の下で言語も異なる日本に連行され、乏しい食糧しか与えられず、健康保持に対する配慮もなく、外出の自由もなく、逃亡防止のため監視された生活下において、長期間に亘る労働を強いられていたのであるから、まさに「奴隷的虐待」状態にあった。 原告らに対する強制連行、強制労働は、これ る配慮もなく、外出の自由もなく、逃亡防止のため監視された生活下において、長期間に亘る労働を強いられていたのであるから、まさに「奴隷的虐待」状態にあった。 原告らに対する強制連行、強制労働は、これを直接行った行為者個人について国際法上の戦争犯罪として極東軍事裁判所条例五条(C)の定める「犯行地の国内法違反たると否とを問わず、本栽判所の管轄に属する犯行の遂行として、または之に関連して為されたる戦前または戦時になされたる殺戮、せん滅、奴隷的虐待、追放その他の非人道的行為、若しくは政治的または人種的理由に基づく迫害行為」と規定する「人道に対する罪」に該当し、被告国は「奴隷的虐使」状態に原告らを送り込み、利用した国家行為(立法行為、法適用行為)は、国際法上の違法性を構成するものである。 なお、被告国は、サンフランシスコ平和条約で、極東軍事裁判所の判決を受諾し(同条約一一条)、「人道に対する罪」の規範性は、被告国自身の承認するところであり、また、第二次世界大戦後の国際社会も「人道に対する罪」の規範性を明確に承認しており、一般法常識に照らしても、刑事罰に問われる行為が民事的責任を問われるのは当然である。 (4) 国際慣習法違反国際社会においては、国際法上の違法行為は、国内私法上の不法行為に類するものとして取り扱われてきており、国際違法行為を行った国が現状回復ないし損害賠償義務を負うとされてきた(ホルジョウ工場事件判決同旨)。しかも、被告国も締結した「陸軍ノ法規慣例ニ関スル条約」(第四ヘーグ条約、日本の批准は明治四四年)は、戦争の法規と慣例の違反に賠償を支払う国家の義務を規定している(第三条)。この条項は、ジュネーブ条約(昭和二四年)で再言され、さらに同条約の共通条項として、いかなる国も諸ジュネーブ条約に記されている重大な侵害に関して、自国あ を支払う国家の義務を規定している(第三条)。この条項は、ジュネーブ条約(昭和二四年)で再言され、さらに同条約の共通条項として、いかなる国も諸ジュネーブ条約に記されている重大な侵害に関して、自国あるいは他の国が侵した責任を免れさせることはできないという規定が置かれた。右ジュネーブ条約での再言は、人道法上の違反行為に関する賠償義務が既に国際慣習化していることを確認したものに外ならない。 また、①国家の行為や怠慢からなる行動は国際法の下に国家に責任を帰される、②国家の行動が国際的な義務違反となるとき、国家による国際的に不法な行為があるとされる、③この国家による不法な行為は、国際的な義務の侵害が結果として危害をもたらす場合には適切な損害賠償の義務を生じさせる、ということは確立した国際法の原則である。 すなわち、国連事務総長による戦争犯罪と人道に対する罪に関しての研究、国連社会経済理事会における昭和二六年三月一九日決議三五三、また、国連総会における「戦後問題」の名の下での一連の決議は、明文の規定がないにもかかわらず、国際義務に違反した国家に損害賠償を求めることを支持した。また、国際人権規約やヨーロッパ人権条約、米州人権条約、「拷問及びその他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を禁止する条約」など第二次世界大戦後成立した主要な人権条約、規約では、これに定める人権の侵害について損害賠償ができるものとされた。右にいう国連の幾多の決議や研究は賠償の明文規定のないものであり、とすれば、人権規約、ヨーロッパ人権条約、米州人権条約などの規定も、権利の創設的規定ではなく、原則としての条約違反への損害賠償の権利を確認し、それ故に定められたものといえ、国際人権法や人道法の義務に違反する国家は損害賠償の義務を負うということは、実定法の規定 も、権利の創設的規定ではなく、原則としての条約違反への損害賠償の権利を確認し、それ故に定められたものといえ、国際人権法や人道法の義務に違反する国家は損害賠償の義務を負うということは、実定法の規定の有無にかかわらず認められるものというべきである。 人権の侵害、人道に対する罪が国際法違反として損害賠償をなすべきことが国家に義務づけれられていることは累次に亘って国連その他国際社会において確認されており、このことによって右の国際法の原則が法規範となっている。 ヘーグ条約の内容は、第二次世界大戦までに慣習法化していた。ニュールンベルグ、東京の両国際軍事裁判や各戦争犯罪法廷なども右のような見解を採用しており、日本政府も昭和二六年に署名した平和条約がその第一一条において、「極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し」と規定していることからすれば右見解を公的に受容したと解される。また、ヘーグ条約を理解するには、その背景に交戦法規一般を想定しなければならないが、交戦法規には、主権国家のみが国際法の主体であるとの観念が一般的であった第二次世界大戦前においても、交戦法規上では特別のレジームとして個人に対する権利の付与と義務の賦課が長期に亘って承認されてきたという特殊性があるところ、ヘーグ条約が「交戦者相互間ノ関係及人トノ関係」(前文二段)を想定していることからすれば、同条約が交戦法規一般の発展を自己の中に取り込んで個人の権利を保障するものとして策定されたと解すべきであることは明らかである。ヘーグ条約三条(平成九年の第一追加議定書九一条に若干の修正をほどこして再現された)についての赤十字国際委員会コンメンタールは、「賠償を受ける権利を有する者は、通常は、紛争当事国またはその国民である」と記述され、個人の賠償請求資格を 定書九一条に若干の修正をほどこして再現された)についての赤十字国際委員会コンメンタールは、「賠償を受ける権利を有する者は、通常は、紛争当事国またはその国民である」と記述され、個人の賠償請求資格を明瞭に認めているが、右コンメンタールは、ハーグ条約三条と第一追加議定書九一条が、昭和二四年ジュネーブ諸条約の共通条項と同じ原則に立脚していることを明らかにし、その趣旨は「締約国は・・・ジュネーブ諸条約及びこの議定書の規則の被害者が賠償を受ける権利を否定することはできない」というものと記述しており、個人は固有の賠償請求をなし得ることを明瞭に確認している。そうしてみれば、右に記したとおりヘーグ条約が個人の損害賠償請求をなし得る旨を記述していることは最大限に尊重されなければならないはずである。 (被告国の主張)原告らの国際法に基づく直接請求権に関する各主張は、原告ら個人が国際法上の法主体性を有することを前提としているように思われるが、仮にそうだとすれば、原告らの主張は、国際法上の基本的な考え方から離れた独自の立論というほかない。 すなわち、国際法は、国家と国家との関係を規律する法であり、条約等は第一義的には国家間の権利義務を定めるものであり、国際法が個人の生活関係、権利義務関係を規律の対象としたとしても、それは、国家が他の国家に対し、そのような権利を個人に認めること、あるいは、そのような義務を個人に課すことを約するものであって、そこに規定されているのは、直接的には国家と他の国家との国際法上の権利義務であって、国際法が、個人の生活関係、権利義務を対象とする規定を置いたということから、直ちに個人に国際法上の権利義務が認められ、あるいはこれによって個人が直接国際法上何らかの請求の主体となることが認められるものではない。 国際法が国家間の権利義務を規 規定を置いたということから、直ちに個人に国際法上の権利義務が認められ、あるいはこれによって個人が直接国際法上何らかの請求の主体となることが認められるものではない。 国際法が国家間の権利義務を規律するものである以上、ある国家が国際法に違反する行為により国家責任を負うべき場合、その国家に対し、右責任を追及できる主体が国家であることは当然である。このことは、相手国国家から直接被害を受けたのが個人であったとしても、同様である。この場合に、当該国家に責任を問い得るのは、被害者個人やその関係者ではなく、被害を受けた個人の属する国家であり、外交保護権を行使することによって、右被害者等の救済が図られるべきものである。 原告らは、国際社会において、国際法上の違法行為が、国内私法上の不法行為に類するものとして取り扱われていることを示す例として、ホルジョウ工場事件判決を挙げているが、同判決は、ある国家の条約違反等の不法行為によって、他の国家の私人が損害を受けた場合について、右損害を受けた私人の権利、利益と、その私人の属する国家が侵害された権利とは異なるものであって、私人の受けた損害は、その属する国家に支払われるべき賠償金額を計算するための便宜的尺度を提供するにすぎないとして、国家間の賠償問題として処理されることを明らかにした判決であり、国家の個人に対する賠償義務を論じたものではない。したがって、同判決は被告国の原告らに対する賠償義務の根拠となるものではない。 (1) 国際的人権規範違反の主張について国際人権規約B規約は、昭和五一年三月二三日に効力が発生し、我が国については昭和五四年九月二一日に効力が生じているが、一般に、条約が遡及的に適用されるか否かは、別段の意思が条約自体から明らかであるか、他の何らかの方法によって確認される場合を除くほか、条約の が国については昭和五四年九月二一日に効力が生じているが、一般に、条約が遡及的に適用されるか否かは、別段の意思が条約自体から明らかであるか、他の何らかの方法によって確認される場合を除くほか、条約の効力が当事国について生ずる日より前に行われた行為または発生した事実については、当事国を拘束しないと解されている(ウィーン条約法条約二八条参照)。 国際人権規約B規約については、明文上遡及的な適用は認められておらず、本件のような第二次世界大戦中の事実についての適用はないというべきである。 なお、原告らは、世界人権宣言を「日本国を含む全ての国家がその遵守を義務づけられている国際人権規範」として挙げているが、世界人権宣言は、それ自体法的拘束力を持たないものと解されており、賠償義務等の根拠とはなり得ないものというべきである。 (2) 「人道に対する罪」違反の主張について「人道に対する罪」は、ニュールンベルグ国際軍事裁判所条例六条及び極東軍事裁判所条例五条において定められた戦争犯罪であって、第二次世界大戦に関連して行われた非人道的行為、迫害行為を行った行為者個人の刑事責任を明らかにし、これを処罰するために設けられた条項である。したがって、「人道に対する罪」によって、違反者の属する国家の民事責任を基礎づけ、当該国家の賠償義務を認めることはできないというべきである。 (3) 国際慣習法違反の主張について原告らは、「陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約」(ヘーグ陸戦条約)を引いて、人道法上の違反行為についての国家の損害賠償義務が国際慣習化していることが確認されていると主張するが、国際法上の違反行為がされた場合に、違法行為を行った国家が、被害を受けた個人に対して直接に賠償義務を負うとの国際慣習法が成立していると主張するものであるとすれば、国際慣習法の成立については 張するが、国際法上の違反行為がされた場合に、違法行為を行った国家が、被害を受けた個人に対して直接に賠償義務を負うとの国際慣習法が成立していると主張するものであるとすれば、国際慣習法の成立については、①国家実行の反復による不断かつ均一の慣行(一般慣行)の存在と、②国家が特定の行為を国際法上義務的なものとして要求されていると認識して行うという法的確信という二つの要件が必要であるところ、かかる要件は満たされていない。ヘーグ陸戦条約三条は、交戦当事者である国家が直接個人に対して賠償責任を負うことを定めたものではなく、国家間の権利義務を規定したものであるし、さらに、国際人道法違反行為をした者を構成員とする国家が、右違反行為によって被害を受けた個人に対して直接損害賠償を行った事例は存在しないから、原告らの主張に係る国際慣習法の成立を認める前提である一般慣行自体が存在せず、法的確信が成立する余地もない。 (二) 国内法違反に基づく各請求権の有無(1) 損失補償の法理に基づく請求権について(原告らの主張)大日本帝国憲法下においては「日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ」(二七条一項)との財産の保障原則の規定は存するが、日本国憲法二九条三項のような損失補償に関する明文規定は置かれていない。しかし、日本国憲法二九条三項の定める損失補償は、恩恵としてではなく、公益のために特定の者が特別の犠牲を払う場合に、正義公平の見地から要求されるものであり、財産権保障の反面でもあるのである。大日本帝国憲法下においても、法律による財産権の留保が予定されながらも(二七条二項)、財産権を不可侵とすることは明確に唱われており(同条一項)、両者の間の調整として条理上損失補償が行われることは憲法自身の精神ともいえる。 したがって、日本国憲法二九条三項が定める損失補償法理は、 、財産権を不可侵とすることは明確に唱われており(同条一項)、両者の間の調整として条理上損失補償が行われることは憲法自身の精神ともいえる。 したがって、日本国憲法二九条三項が定める損失補償法理は、大日本帝国憲法下においても財産権補償の原則に基づき条理上認められていた権利であり、大日本帝国憲法下の国家の行為により特別な損害を受けたものは、損失補償を請求できるというべきである。 そして、この損失補償の対象となる損害は、財産上の損害が対象となるのであれば、より絶対視されるべき生命身体に対する損害が、その対象となることは当然である。被告国は原告らに対し、逃亡すれば酷い目に遭うと脅し、完全な監視のもと身体の自由を侵害して日本へ連行し、逃亡に対する拷問、処罰の脅威、逃亡しても生きる術がないとの脅威、飢餓のもとで有無を言わせず労働させていた。かかる原告らの生命身体に対する損害について、被告国は損失補償の責任を負う。 被告国は損失補償について、大日本帝国憲法下では財産権の侵害について明文の規定がなく、法律によっていかなる定めでも可能であり、その法律がない以上損失補償は請求できず、裁判上、国の損失補償を請求する手続がなかったので、国の損失補償の責任は予定されていなかったと主張しているが、前者の点について、被告国の主張は歴史的経過を全く無視した議論である。すなわち、大日本帝国憲法は様々な問題を抱えながらも、近代自由国家として日本が成立し、その中で市民階級が演じた重要な役割の結果制定されたものであり、私有財産制はその根幹ともいうべきものであった。それ故、損失補償は単なる恩恵ではなく、正義公平の見地より特別の犠牲に対する調整として認められると解されるべきである。したがって、法が明文でもってその補償を否定していない限り、補償が認められるべきである(東京地 償は単なる恩恵ではなく、正義公平の見地より特別の犠牲に対する調整として認められると解されるべきである。したがって、法が明文でもってその補償を否定していない限り、補償が認められるべきである(東京地方裁判所昭和三二年(ワ)第三二三七号同三三年七月一九日判決も同旨)。また、後者の点についても、行政裁判所法一六条の文言からは行政裁判所が国に対する損害賠償請求訴訟を受理しないことは明らかであるとしても、司法裁判所の権限については必ずしも文面上明らかではない。また、大日本帝国憲法下の司法裁判所が国家に対する損害賠償請求がなされた場合、本案審理を行ったうえ、「却下」ではなく「請求棄却」の判決をしている事案は、右訴訟の司法裁判所の管轄権自体を否定しているのではないことを表している。したがって、被告国がいう如く、制度上の問題から大日本帝国憲法下で国に対する損失補償請求権が存在しなかったということはできない。 (被告国の主張)原告らが損失補償の法理に基づく請求として主張する発生根拠、主張内容からすれば、その求めるものは違法行為に基づく損害賠償であって、適法行為に基づく損失を補償する損失補償の範ちゅうに属さないから、原告らの請求は、その立論において失当である。 のみならず、日本国憲法二九条三項に基づく請求については、原告らが、本訴において、「補償」の対象と主張する損害の原因となる行為は、その施行以前のものであるところ、日本国憲法は、昭和二一年一一月三日に公布され、昭和二二年五月三日から施行されたものであって、憲法上遡及効を認めた規定はないから、法律不遡及の原則により、原告ら主張に係る被告国の違法行為の存否を論ずるまでもなく、これに対して日本国憲法の適用や類推適用の余地は全くないというべきである。 さらに、大日本帝国憲法は、公益のためにする所有権等の 則により、原告ら主張に係る被告国の違法行為の存否を論ずるまでもなく、これに対して日本国憲法の適用や類推適用の余地は全くないというべきである。 さらに、大日本帝国憲法は、公益のためにする所有権等の財産権の制限につき、公益のためにする必要な処分は法律をもって定められるべきことを要件とするにとどまり、一般的に補償を与えるべきものであるか否かに関しては明文の規定を欠いていたから、どのような場合にどの程度の損失補償を認めるかは全く立法政策の問題であったというべきであり、そのような補償立法が存在しない以上、公益のため財産権に対する処分、制限がされたとしても、国民は損失補償の請求をすることができないというべきである。 そして、権力的作用に基づく違法行為による損害賠償についても、大日本帝国憲法下ではいわゆる「国家無答責の法理」によって賠償責任を負わないと解されていたのであるから、まして適法行為による損失補償責任が認められるはずのないことは、自明というべきである。 視点を変えて、大日本帝国憲法下の裁判制度における損失補償請求についてみても、法律に定めのあるものを除き、裁判上損失補償を請求する手続がそもそも存在しなかったのであるから、もともと手続面においても、同憲法下における損失補債責任は予定されていなかったというべきである。すなわち、「行政裁判所ハ損害要償ノ訴訟ヲ受理セス」(行政裁判法一六条)と定められていたことから、行政裁判所に損失補償を求める訴えを提起することはできず、補償を認める法律があってこれに基づき損失補償を求める場合に初めて、訴願または通常裁判所への出訴が許されていた。そして、訴訟を認める法律がない場合は、損失補償請求権が公権に属するということから、通常裁判所へ出訴をすることができないというのが通説であり、確立した判例の立場でもあった 所への出訴が許されていた。そして、訴訟を認める法律がない場合は、損失補償請求権が公権に属するということから、通常裁判所へ出訴をすることができないというのが通説であり、確立した判例の立場でもあった(大審院明治四〇年五月六日判決・民録一三揖四七六頁参照)。 以上によれば、大日本帝国憲法下における損失補償は、法律の明文規定があって初めて認められる制度であったというべきであり、補償立法がないことを前提としながら、「損失補償の法理」に基づいて請求権が発生するとする原告らの主張は、失当というべきである。 なお、原告らは、原告らに加えられた強制労働は、「歴史的犯罪というべき太平洋戦争の継続のために」されたとも主張しているところ、このような戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償は、憲法の全く予想しないところであって、憲法二九条三項を根拠として補償を求めることはできないとされている(最高裁判所昭和四三年一一月二七日大法廷判決・民集二二巻一二号二八〇八頁、最高裁判所平成四年四月二八日第一小法廷判決・判例時報一四二二号九一頁)。 したがって、原告らの受けた損害が、日本国憲法二九条三項の定める損失補償の対象となることを前提とした原告らの主張は、その前提において誤ったものといわざるを得ない。 (2) 民法七〇九条に基づく損害賠償請求権について(原告らの主張)被告国は、原告らを朝鮮半島から強制連行し、被告新日鐵(当時は日本製鐵)と共同して原告らを強制労働させた上、郷里への帰還義務を果たさなかったものである。したがって、被告国は、原告らに違法に損害を与えたものであり、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。 被告国は、大日本帝国憲法六一条及び行政裁判所法一六条の存在を国家無答責論の根拠としているようであるが、司法裁判所が管轄権を認めて請求棄却判決を下した判 民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。 被告国は、大日本帝国憲法六一条及び行政裁判所法一六条の存在を国家無答責論の根拠としているようであるが、司法裁判所が管轄権を認めて請求棄却判決を下した判例が存在する。 また、司法裁判所は、当初から、行政権の活動のうち、国家や公共団体が私人と同様の立場で実施する経済的取引とか営利的な事業活動に関わる不法行為については民法の適用を認めていた。しかし、公益に関する活動については、民法の規定は適用されないとして請求を棄却していた。もっとも、大審院大正五年六月一日判決で、小学校の校庭に設置した遊具の瑕疵に基づく児童の人身事故に関して初めて民法七一七条の適用を認めた。そしてこれを契機に、司法裁判所は、公益的な行攻活動であっても、道路、河川、下水道など公共事業の実施や公物の管理の瑕疵に基づく不法行為については、国家、公共団体の損害賠償責任を肯定するに至った。そして、大審院昭和七年八月一〇日判決(法律新聞第三四五三号)は、陸軍施設の温泉利用工事によって温泉利用権の侵害を受けた者からの仮処分申請事件において、傍論ながら権力的行政作用についても、不法行為責任を肯定するような態度を見せた。 結局、国家無答責の法理の法律上の根拠はなく、大日本帝国憲法下において、当時の民法の解釈上、権力的行政作用であること等が責任阻却事由として取り扱われてきたにすぎないものであり、しかも右責任阻却事由の範囲は大日本帝国憲法下においてすら限定的に解釈されるようになっていた。 日本国憲法一七条は、国家無答責の法理を明確に否定しており、現在そのような法理に導かれて民法を解釈することは許されない。そして、法令の解釈は、過去の時点の解釈にしたがうべきではなく、現時点における法令の解釈を適用しなければならないから、現時点における民法の解釈と ような法理に導かれて民法を解釈することは許されない。そして、法令の解釈は、過去の時点の解釈にしたがうべきではなく、現時点における法令の解釈を適用しなければならないから、現時点における民法の解釈としては、国家無答責の法理を当てはめる余地はない。 本件において原告らは、現時点において、被告国の行為について民法の適用を主張しているものである。したがって、被告国が主張する国家無答責の法理が現時点の民法の解釈に適用される余地がなく、被告国は民法に基づく不法行為責任を免れない。 (被告国の主張)大日本帝国憲法下においては、行政裁判法一六条は「行政裁判所ハ損害要償ノ訴訟ヲ受理セス」と規定して、行政裁判所に対して国家賠償訴訟を提起する途は閉ざされていた。また、ボアソナードの起草した旧民法草案においては、国は私人と同様に使用者責任を負うことと規定されていたが、後にその規定は削除され、国の権力活動についての「国家無答責」の基本政策が確立された。 その後の大審院の判例も、権力的な作用に関する事項については、国の損害賠償責任を否定するという態度で一貫している(大審院昭和一六年二月二七日判決・民集二〇巻二号一一八頁、大審院昭和四年一〇月二四日判決・法律新聞三〇七三号九頁、大審院昭和一六年一一月二六日判決・民集一七巻二四号二六八九頁、大審院昭和一三年一二月二三日判決・民集一七巻二四号二六八九頁、大審院昭和八年四月二八日判決・民集一二巻一一号一〇二五頁)。 また、最高裁判所昭和二五年四月一一日第三小法廷判沢(裁判集民事三号二二五頁)も「国家賠償法施行以前においては、一般的に国に賠償責任を認める法令上の根拠のなかったことは前述のとおりであって、大審院も公務員の違法な公権力の行使に関して、常に国の賠償責任のないことを判示してきたのである。」として、大審院判例 、一般的に国に賠償責任を認める法令上の根拠のなかったことは前述のとおりであって、大審院も公務員の違法な公権力の行使に関して、常に国の賠償責任のないことを判示してきたのである。」として、大審院判例の立場を踏襲している。 このように、大日本帝国憲法下では、権力的作用に基づく加害行為による国の損害賠償責任は認められておらず、判例及び学説において、右原則に何らの留保も付されていなかったものであるから、民法七〇九条に基づく原告らの請求は、主張自体失当である。 (3) 事実的労働関係に基づく債務不履行責任等について(原告らの主張)被告国は、その国策において、原告らを含む朝鮮人を労働者として日本製鐵ら戦時重要産業である鉄鋼業等に投入し、後には徴用令を適用してその雇用を固定化し、給与額から雇用期間に至るまでを決定して原告らの労務管理に積極的に関与してきた。日本製鐵と原告らは前記のとおり「特殊な社会的接触において発生した権利関係」ともいうべき「事実的労働関係」にあるが、被告国もまた、この債権債務関係にあっては、事実上の雇用者の立場に立ち、日本製鐵と連帯して未払賃金相当額の支払義務を有する。 仮に、被告国と原告らとの間に「事実的労働関係」が成立していないとしても、被告国は、その国策によって原告らを被告新日鐵に投入し本件強制労働に付したことについて不法行為が成立し、原告らにおいて発生した損害について賠償責任を負う。 (4) 条理に基づく損害賠償請求について(原告らの主張)仮にこれらの各法が適用されなかったとしても、被告国は条理に基づく損害賠償請求責任を負う。 条理とは、正義公平の理念であり、理性による道筋であるとされているが、成文規範が存在しない場合には独立の法源となる。この条理の法源性については、明治八年太政官布告第一〇三号裁判官事務心得に 負う。 条理とは、正義公平の理念であり、理性による道筋であるとされているが、成文規範が存在しない場合には独立の法源となる。この条理の法源性については、明治八年太政官布告第一〇三号裁判官事務心得に「民事裁判ニ成文ノ法律ナキモノ習慣ニヨリ、習慣ナキモノ条理ヲ推考シテ裁判スヘシ」と規定されており(三条)、本件強制連行、強制労働、送還義務の不履行が行われた当時、既に右の裁判基準は定められていたのである。 被告国が行った官斡旋名下による連行とその後の徴用、就労、送還義務の不履行により発生した損害は、被告国が賠償ないし補償する責任を有するのは、正義公平の理念に照らせば、あまりにも当然である。 さらに、近代社会においては、国民生活の中における国家の役割が増大し、そのことによって国民の特定の部分に無視し得ないような損害がしばしば発生するようになった。そのため、明文規定に基づく損害賠償法理や損失補償法理の適用による救済が不可能もしくは著しく困難な場合であっても、正義公平の理念に照らして国家補償を行うべきだとする法理が生じてきた(一種の結果責任の法理)。この国家補償責任の法理は、国家の役割が飛躍的に増大し、統治行為が国民生活に及ぼす影響が極端に大きくなった第一次世界大戦以降、既に成立しており、例えば日本国憲法四〇条が定める刑事補償規定は、右法理の一部を戦後明文化したものにすぎないといわれている。 原告らの損害は、植民地化の過程において国家が特定の個人に対して、特に大きな損害を与えたものであり、刑事手続において右国家補償責任の法理が適用されるのであれば、本件での被害者たる原告らに対しても右の法理は適用され、救済措置がとられて当然である。 被告国が条理の具体的法規範性を否定したものとして引用する最高裁判所昭和三五年一〇月一〇日大法廷判決(民集一四巻一 での被害者たる原告らに対しても右の法理は適用され、救済措置がとられて当然である。 被告国が条理の具体的法規範性を否定したものとして引用する最高裁判所昭和三五年一〇月一〇日大法廷判決(民集一四巻一二号二四四一頁参照)は、「原判決が上告人主張の条理の存在はただちに肯定することはできない旨判示したことは正当である」というが、条理が具体的法規範性を有しないと判示するわけではなく、むしろ、「訴訟係属中に原告の上告人が準拠すべき法律が制定されたので、これに準拠して請求すべきであり、直ちに条理に基づいて請求することは容認できない」と判示しており、法律がない場合は条理に基づいて請求できることを予定している。 また、最高裁判所平成三年四月二六日第二小法廷判決(民集四五巻四号六五三貢)は、条理に基づく処分庁の作為義務を認め、条理に具体的な法規範性を認めた。日本国憲法三二条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と規定して裁判を受ける権利を保障し、右保障の内容には、何人も裁判所に訴訟を提起し裁判を求める権利を有するということを含むのであり、裁判を求めた当該問題に関して適用すべき法規がない場合、条理に基づき判断される外ない。したがって、条理による裁判は現行憲法上の要請である。 被告国は、いわゆる戦争損害ないし戦争犠牲に対する補償は、現行憲法の全く予想しないところで専ら立法政策に委ねられるところであり、国の政策的裁量判断を介することなく、裁判所の司法判断によって請求権を基礎づけようとする原告らの請求は採用できないと述べ、最高裁判所昭和四三年一一月二七日大法廷判決、同平成四年四月二八日第三小法廷判決、同平成九年三月一三日第一小法廷判決を引用する。しかし、被告国が引用する右判例は、いずれも日本国憲法一四条、二九条三項等に基づき補償等を請求したのに 大法廷判決、同平成四年四月二八日第三小法廷判決、同平成九年三月一三日第一小法廷判決を引用する。しかし、被告国が引用する右判例は、いずれも日本国憲法一四条、二九条三項等に基づき補償等を請求したのに対し、「憲法の全く予想しないところであり、同条項の適用の余地はない」あるいは「憲法二九条三項等に基づいてこれを一義的に決することが不可能である」等として、立法府の政策的裁量判断に委ねざるを得ないと判示したものにすぎず、本件における条理に基づく請求は、万一民法の不法行為規定の適用が認められなかった場合に、本件具体的事案について正義公平の理念に基づく救済を求めるものであり、憲法判断を求めるものでも、立法政策的な判断を求めるものでもない。 (被告国の主張)条理は、抽象的、多義的、相対的なものであって、直ちに補償請求権の根拠となるものではない。条理は、裁判規範として機能する法規範としては不完全なものであって、実定法に不備、欠陥等の不完全がある場合の解釈原理にとどまり、これを超えて実体的法規性を有するものではない。最高裁判所昭和三五年一〇月一〇日大法廷判決(民集一四巻一二号二四四一頁)も、条理に基づく損失補償請求を否定した原判決(東京地裁昭和二六年三月一日判決・民集一四巻一二号二四六四頁)を是認している。したがって、条理を根拠として補償請求できることを前提とする原告らの主張は、失当というべきである。 いわゆる戦争損害ないし戦争犠牲に対する補償は、憲法の全く予想しないところであり、専ら立法政策にゆだねられるところであり(前掲最高裁判所昭和四三年一一月二七日大法廷判決及び最高裁判所平成四年四月二八日第三小法廷判決)、「その補償の要否及び在り方は、事柄の性質上、財政、経済、社会政策等の国政全般にわたった総合的政策を待って初めて決し得るものであって、憲法の 法廷判決及び最高裁判所平成四年四月二八日第三小法廷判決)、「その補償の要否及び在り方は、事柄の性質上、財政、経済、社会政策等の国政全般にわたった総合的政策を待って初めて決し得るものであって、憲法の各条項に基づいて一義的に決することは不可能というほかなく、これについては、国家財政、社会経済、戦争によって国民が受けた被害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたもの」(最高裁判所平成九年三月一三日第一小法廷判決・判例時報一六〇七号一一頁)というべきである。したがって、原告らの条理に基づく補償請求は、このような国の政策的裁量判断を介することなく、裁判所の司法判断によって請求権を基礎づけようとするものであって、この点からも採用できないものというべきである。 3 被告新日鐵による日本製鐵の債務の承継の有無について(原告らの主張)被告新日鐵は、昭和二五年四月一日に設立された八幡製鐵株式会社が同日に設立された富士製鐵株式会社(以下、八幡製鐵株式会社を「八幡製鐵」、富士製鐵株式会社を「富士製鐵」、八幡製鐵と富士製鐵を併せて「第二会社」という。)を吸収合併し商号変更を行って成立している会社であって、昭和二五年四月一日に解散した日本製鐵からは義務(債務)を承継していない旨主張するが、被告新日鐵の前身である八幡製鐵及び富士製鐵は、日本製鐵と実質的に同一であり、さらに第二会社が設立されるに至った手続等を規定した会社経理応急措置法と企業再建整備法からは、第二会社は、原告らが本件において請求している未払賃金債務及び慰謝料債務を日本製鐵から承継していることが明らかであり、被告新日鐵の主張は失当である。 日本製鐵は、昭和二三年二月八日、過度経済力集中排除法に基づき設置された持株会社整理委員会により、「過度の経済力の集中」との指定を受 承継していることが明らかであり、被告新日鐵の主張は失当である。 日本製鐵は、昭和二三年二月八日、過度経済力集中排除法に基づき設置された持株会社整理委員会により、「過度の経済力の集中」との指定を受け、同年一〇月九日付の「日本製鐵再編成計画に関する司令案(以下「司令案」という)」をもって、二社分割の指令を受け、八幡製鐵、富士製鐵の両第二会社に分割されたが、その際、日本製鐵の保有していた八幡、γ、釜石、富士、δの各製鐵所のうち、八幡製鐵所を八幡製鐵が、他の四製鐵所を富士製鐵がそのまま承継した。その後、昭和二五年四月一日、日本製鐵は解散したが、八幡製鐵、富士製鐵は、昭和四五年に至って合併し、被告新日鐵が誕生した。 以上によれば、分割して別法人を設立したとはいえ、日本製鐵と八幡製鐵、富士製鐵両第二会社は実質的において同一であり、八幡製鐵、富士製鐵両者の合併により設立された被告新日鐵と日本製鐵の両者も、実質的に同一なのであり、被告新日鐵の主張は失当であることは明らかである。 (1) 実質的同一性① 営業財産の同一性第二会社は日本製鐵の各製鐵所を引き継ぎ、物的設備において日本製鐵と変わるところは全くなかった。 第二会社の営業に要するすべての日本製鐵保有資産は、GHQの指令により賠償指定を受けていた設備(賠償資産)を除いて第二会社に現物出資ないし譲渡された。また、賠償資産も形式上は日本製鐵に帰属するものとされながら、第二会社が日本製鐵から貸与を受けることで実質的に受け継がれた。 さらに、昭和二七年には、サンフランシスコ平和条約の発効に伴い、賠償指定が解除された。このため、あらためて八幡製鐵所関係の賠償資産は八幡製鐵に譲渡され、δ、室蘭、富士製鐵所分は富士製鐵に現物出資され、旧賠償資産も含め、全面的に第二会社に帰属することが確定した。 そ が解除された。このため、あらためて八幡製鐵所関係の賠償資産は八幡製鐵に譲渡され、δ、室蘭、富士製鐵所分は富士製鐵に現物出資され、旧賠償資産も含め、全面的に第二会社に帰属することが確定した。 その他、日本製鐵保有の特許権、実用新案権は第二会社が機会均等に無料使用できるものとされた。 ② 取締役取締役や従業員などの人的関係面においても、第二会社は、日本製鐵と全く同一であった。八幡製鐵及び富士製鐵の取締役はいずれも元日本製鐵の取締役であり、その他の役員もすべて、日本製鐵の幹部従業員で占められていた。 ③ 従業員日本製鐵における雇用関係はすべて第二会社に承継されて、従業員関係も日本製鐵時代と何ら変わるところがなかった。現に、日本製鐵時代から八幡製鐵、富士製鐵時代を通じ八幡製鐵所において勤務していたある元社員は、昭和二五年四月一日の新会社移行にあたっては従業員に対し辞令一つ交付されなかった、と証言している。 ④ 社標八幡製鐵は日本製鐵の社標をそのまま社標として使用しており、富士製鐵についても富士山の形をモチーフにしながらも、日本製鐵の社標を若干アレンジしただけのデザインが社標となっている。 ⑤ 朝鮮人元徴用工遺族らに対する慰霊費等の支払被告新日鐵は、東京地方裁判所に継続していた朝鮮人元徴用工遺族らによる遺骨引渡等請求事件において、釜石市における慰霊の実施及び旅費の負担、韓国における合同慰霊への旅費の負担、個別慰霊に関わる費用の一部拠出等を内容とする和解をした。これにより被告新日鐵は、遺骨が返還されていない原告には二〇〇万円、遺骨が返還された原告には五万円を支払った。被告新日鐵が、真に日本製鐵と別会社であれば、そのような慰霊金等の支払をする必要もなかったものであり、被告新日鐵がこのような支払をしたこと自体が、日本製鐵債務の承継を自認し 告には五万円を支払った。被告新日鐵が、真に日本製鐵と別会社であれば、そのような慰霊金等の支払をする必要もなかったものであり、被告新日鐵がこのような支払をしたこと自体が、日本製鐵債務の承継を自認していることを示すものである。 (2) 法的同一性① 会社経理応急措置法と企業再建整備法は、国が企業等に対する戦時補償の打切りを決定したに際して、企業がこれにより莫大な損失を抱え込み破産のやむなきに至ることを考慮し、戦時補償打切りで著しい影響を受ける企業において特別の経理処理を行うことを指示し、さらには、急激な事業の建て直しを図った法律であり、基本的な内容は、会社経理応急措置法では、昭和二一年八月一一日午前零時現在(指定時)の会社の資産を、事業の継続及び戦後産業の回復振興に必要なものとそれ以外のものに区分し、前者を「新勘定」に、後者を「旧勘定」にそれぞれ所属させ、以後の企業の活動は専ら新勘定において行い(同法七条)、旧債務は原則として弁済を禁止し(同法一四条)、企業再建整備法では、指定時以前の原因に基づいて生じた収入および支出は、旧勘定の収入および支出として経理することとし(同法一一条三項)、企業に整備計画を提出させて、日本製鐵のように第二会社を設立して事業継続を行う場合には、第二会社は新勘定に区分された全ての債権債務を承継するというものであった(同法施行令三条)。 ② そこで、原告らの請求する未払賃金債権及び慰謝料請求権が、新旧どちらの勘定に区分されたか、第二会社に承継されたか等が問題となるが、第一に、会社経理応急措置法自身が、旧勘定に属する「指定時以前に確定した給料その他命令で定める定期的給与債権」「従業員の預り金」「指定時以前に確定した退職金その他命令で定める臨時的給与債権」等々については、新勘定からの支払を認めていること(同法一四条)、 前に確定した給料その他命令で定める定期的給与債権」「従業員の預り金」「指定時以前に確定した退職金その他命令で定める臨時的給与債権」等々については、新勘定からの支払を認めていること(同法一四条)、第二に、企業再建整備法では、日本製鐵の従業員が第二会社設立後に退職する場合には、日本製鐵の在職期間を通算して退職金を支払うこととされ、その支払を確保するために、日本製鐵において積み立てられていた退職給与引当金に相当する資産を第二会社に譲渡しなければならないとするなど(同法三四条の三、四)、旧勘定と新勘定の区分は、日本製鐵と第二会社との実体的同一性を認めざるを得ないことを反映して非常に弾力的なものとなっていること、第三に、旧勘定と新勘定は、第二会社の設立登記時に併合され(企業再建整備法三六条)、新旧勘定併合時には、旧勘定所属債務を被担保債権とする新勘定所属資産上の先取特権、質権、抵当権が、右新旧勘定併合時に再度設定されたものと見なされること(会社経理応急措置法一二条)、第四に、外国を履行地とする在外負債が存する場合は、資産処分に伴う特別損失を処理するための仮勘定を閉鎖した後、主務大臣の認可を得て、在外負債引当額に相当する金銭を特殊管財人に引き渡し、管理を委託することになっているが(企業再建整備法施行令二条)、そのような措置がとられた形跡は存しないこと、第五に不法行為債権については新旧いずれの勘定に区分されるべきか明文の規定がなくその所属が明らかでないことなどからすれば、第二会社は原告らの請求する債権を承継しており、被告新日鐵が本件行為当時未だ会社として存在していなかったという理由のみでは、本件請求を否認する根拠たりえないことは明らかである。 ③ 被告新日鐵は債務の承継を否定する理由として、原告らの請求にかかる債務は、すべて指定時以前の原因に基 存在していなかったという理由のみでは、本件請求を否認する根拠たりえないことは明らかである。 ③ 被告新日鐵は債務の承継を否定する理由として、原告らの請求にかかる債務は、すべて指定時以前の原因に基づいて生じた債務(いわゆる旧債務)であることを掲げるが、基本的な前提として、特定の企業が解散し、その営業実体が全部第二会社に移行する場合、日本製鐵の資産が新会社に移行する際に、債務だけが処理の対象とならずに、自然的に消滅させられるごときことは、法の世界においてはありえないことである。その場合には必ず企業と債権者の間において、債権消滅ないし変更にかかる合意がなされるべきであり、このような合意がなされないかぎり、企業に対する債権は営業実体を全部譲り受けた第二会社に自動的に移行すべきことは当然である。したがって、企業再建整備法一〇条が、新勘定の負担となった債務のみを承継し、これ以外の債務(旧債務)を承継しないことを規定したものとすれば、右条項は明らかに違法かつ不当である。したがって、同条項の解釈としては、新勘定の負担となった債務の承継のみを規定している点において、誤解を招く立法上の不備があるが、これ以外の債務の承継については明文による規定をなさなかったとみるべきであり、法の一般原則によって、当然に旧債務も第二会社によって承継されていると解すべきである。 特に、本件原告は、実質的にみて、同法制定当時ならびにそれ以降において外国人であり、同法の立法化過程において全く発言の機会を奪われていた。原告らの本件債権は、日本製鐵に対する実体を持つ権利であるから、第二会社である被告新日鐵がこの債務を承継していることは明らかである。 そして、右事情を前提とする限り企業再建整備法の解釈としては極めて限定的になされるべきである。企業再建整備法五条は、特別経理株式会社の である被告新日鐵がこの債務を承継していることは明らかである。 そして、右事情を前提とする限り企業再建整備法の解釈としては極めて限定的になされるべきである。企業再建整備法五条は、特別経理株式会社の特別管理人は、整備計画を立案し、主務大臣の許可を申請するものとし、整備計画に第二会社を設立する場合、同法一〇条の規定による債務の承継と資産の譲渡に関する事項が含まれており、同法一〇条には第二会社は特別経理会社の新勘定の負担となった債務を承継する旨を定めているものにすぎない。すなわち、同法五条は特別管理人が作成し許可を求める整備計画の記載事項にかかる規定であり、同法一〇条一項は、「特別経理株式会社が新勘定に所属する資産の全部または一部を出資する場合においては、その出資を受けるものは、命令の定めるところにより、指定時後特別経理株式会社の新勘定の負担となった債務を承継する」と規定しているが、これは整備計画の記載事項についてその内容として必要な事項を記載したものであって、これらから実体的に、第二会社が新勘定の負担債務だけを承継し、旧債務についてはこれを承継しない旨の結論を引き出すことは見当違いである。 ④ 被告らの主張においても、以下のとおり、原告らの請求権の承継は否定されておらず、また、責任を免れるものではない。 被告新日鐵の主張する「別会社論」とは、会社経理応急措置法及び企業再建整備法(以下、一括して「両法」という。)上、第二会社は、日本製鐵の旧勘定に所属する債務を承継せず、第二会社から商号変更、合併を経て成立した被告新日鐵は日本製鐵の旧勘定に属することになる原告らの請求権を承継していないというものであるが、その内容は、両法上、第二会社は日本製鐵の債務を包括承継することにはなっていないという一般論を述べるにとどまっている。両法は旧勘定に属する債務 になる原告らの請求権を承継していないというものであるが、その内容は、両法上、第二会社は日本製鐵の債務を包括承継することにはなっていないという一般論を述べるにとどまっている。両法は旧勘定に属する債務についても、第二会社がこれを承継する場合を認めており、加えて、本件のような労働関係債務については債務の承継に関してかなり弾力的な条項を置いてその保護を図り、在外負債については引当金としてその相当資産を引き渡す処理をしなければ旧勘定を閉鎖できないとしているのであるから、日本製鐵および第二会社が両法においてどのような処理を行ってきたのかを明らかにされることなく、法人格上の「別会社」であるとの一事のみでは、本件原告らの請求債権に対する責任の有無は決せられない。 日本製鐵と第二会社との実体的同一性を踏まえて、前述したように両法において労働債権は弾力的に取り扱われており、不法行為債権についてはその帰趨が必ずしも一義的ではなく、原告らの請求の承継が否定されていないことに加え、そもそも、会社の経営主体の変更等において労働債権を新日鐵の一方的な処理にかからしめることができないこと、また、第二会社が設立された当時、既に再合同が予定されており、日本製鐵と実質的に同一で継続性を有する会社となることが予定されていたことからすれば、被告新日鐵は責任を負う。 すなわち、被告新日鐵側の一方的処理により労働債権の責任主体を変動させることはできないというべきである。企業再建整備法下における第二会社の設立の実態は、政策的に企業分割という要素が加味されたものの、営業継続を目的としてこれに要する全ての資産(および一部の負債)を現物出資する等してこれを承継させるというというものであるから、実質的には企業の経営主体の変更ないし組織変更、もしくはこれと同視しうるような営業の全部また れに要する全ての資産(および一部の負債)を現物出資する等してこれを承継させるというというものであるから、実質的には企業の経営主体の変更ないし組織変更、もしくはこれと同視しうるような営業の全部または一部譲渡ということができるが、このような企業の経常主体の変更ないし組織変更、営業譲渡がなされた場合における労働契約関係の扱いについては、裁判例上も、正義公平の観点から信義則上新会社が旧会社と別人格であるとの主張は許されず、労働関係は承継されるものとされているところ、かかる正義公平の観点からすれば、原告らの請求権については責任主体を変動させることはできないことは同様である。 しかも、第二会社の設立時においては、両法制定当時とは大きく社会情勢を異にし、財閥解体方針は既に緩和され、分割されて設立された第二会社は将来的に再合同することが予定されていた。そのような状況下で発足した第二会社は、実質的に日本製鐵と同一の会社として存続していくことが既に見込まれていた。そのような見込みにおいて設立された新会社が、補償打切りから除外されていた在外負債に属する本件原告らの請求に対してまでも責任を負わないとするのは、まさに、第二会社が形式上別人格であることを奇貨として義務を免れようとする行為に他ならない。 (被告新日鐵の主張)(1) まず、原告も指摘する被告新日鐵の設立過程のとおり、被告新日鐵の法人格は、日本製鐵のそれとは全く別個である。 (2) 仮に日本製鐵が原告らの主張にかかる債務(義務)を負担していたことを前提としても、被告新日鐵は、これを承継していない。 原告らの主張する、第二会社が旧債権としての原告らの債務を承継する根拠はいずれも理由がない。 原告らは、第一の根拠として会社経理応急措置法一四条二項が「指定時以前に確定した給料…」につき新勘定による支払 の主張する、第二会社が旧債権としての原告らの債務を承継する根拠はいずれも理由がない。 原告らは、第一の根拠として会社経理応急措置法一四条二項が「指定時以前に確定した給料…」につき新勘定による支払を認めることをあげる。しかし、同規定は、「旧勘定から弁済することができない場合に限り、特別管理人の承認を受け」た場合に限り適用されるものであるところ、仮にその場合であっても、同法九条から窺えるとおり、新勘定が当該旧勘定に属する債務を承継するというものではなく、未整理支払勘定を介していわば当該債務を代位弁済することを意味するだけのものである。したがって、同法一四条二項の規定は、第二会社による債務の承継の一般的根拠にはなり得ない。 原告らは、第二の根拠として、企業再建整備法が再建整備計画認可の日後の退職者の退職金につき、それ以前の分を通算して第二会社が支払うこととしている点をあげて、特別経理会社と第二会社は実体的に同一であるとする。しかし、原告も認めるとおり、同法は、その場合も、特別経理会社は第二会社に対しその通算にかかる退職給与引当金に相当する資産を第二会社に譲渡することとし、これを前提として退職金通算の取扱いを規定しており、債務が当然に承継されるとしているわけではない。右取扱いは、かえって同法が両社の別会社性を前提として組み立てられていることを示すものである。 第三に、原告らは、会社経理応急措置法一二条四項本文が、新旧勘定併合時に、旧勘定所属債務を被担保債権とする新勘定所属資産上の先取特権等が再度設定されたものとみなされることをもって承継の根拠とするが、かかる取扱いは、当該資産が第二会社に帰属した場合(日本製鐵の場合はこれに該当する。)は除外されている(同項但書)。 原告らは、日本製鐵が、原告らに対して未払賃金と慰謝料の支払債務を負担す るが、かかる取扱いは、当該資産が第二会社に帰属した場合(日本製鐵の場合はこれに該当する。)は除外されている(同項但書)。 原告らは、日本製鐵が、原告らに対して未払賃金と慰謝料の支払債務を負担することを前提とした上で、両法においてかかる債務の第二会社への承継が否定されていないこと、会社の経営主体の変更等において労働債務を新日鐵の一方的な処理にかからしめることができないこと、第二会社は、設立当初から既に再合同をして、日本製鐵と実質的に同一で継続性を有する会社となることが予定されていたことなどから、被告新日鐵は、日本製鐵が原告らに負担する債務を承継していると主張するが、かかる立論は、両法に対する正しい理解を欠くものである。 第一に、企業再建整備法の下で成立した第二会杜は、新債権だけを承継するのであり(同法一〇条一項)、第二会社は、特別経理会社の債務を当然に引き継ぐものではなく、ただ第二会社が特別経理会社の新勘定所属財産の全部または一部の出資を受ける場合には、その旧債権者を保護する必要があり、ここから一〇条一項がこの堤合に限り第二会社は旧債権を承継する旨を法定したのであるから、この理は特別経理会社とその従業員との雇用関係に基づく債権についても同様に当てはまるのであって、第二会社の設立及びこれによる旧債権の不承継は、両法の規定にしたがって行われたものであるから、その実質の如何を問うまでもなく、債務の不承継に関し、経営主体の変更等の一般法理の働く余地は全くないし、また、そのこと自体に信義則等の適用の余地もない。そもそも、両法は、政府による戦時補償の実質的打切り措置への対処に端を発したものではあるが、そのこと自体に悪性インフレの回避という大目的があったことから知られるように、究極的には国民経済の建て直し策の一環として、とりわけ民需生産の継続と 実質的打切り措置への対処に端を発したものではあるが、そのこと自体に悪性インフレの回避という大目的があったことから知られるように、究極的には国民経済の建て直し策の一環として、とりわけ民需生産の継続とインフレの回避という戦後日本経済の再建という公益的な目的をもって作られた法律である。一企業が一債権者の債権を切り捨てるために制定された等の事情のないこともちろんであり、第二会社には同法に従ってなされた第二会社の設立と旧債権の不承継に関して、何ら信義則に違反する等の事実はない。 なお、具体的に日本製鉄の再建整備計画について論ずると、乙ロ四(整備計画認可申請書)及び乙ロ五(整備計画修正申請書)(因みに、これらの書類は、被告新日鐵が同法の事務の取扱い窓口である日本銀行に依頼をして取り寄せた文書である)は、いずれも整備法第五条に基づき、日本製鉄が主務大臣(大蔵大臣、商工大臣、運輸大臣)に提出した整備計画認可申請書の写しであるが、いずれの書類上も、第二会社である八幡製鐵及び北日本製鐵株式会社(この商号は、昭和二五年三月二八日の変更申請認可により、富士製鐵に改められた。)の該当事項欄には、旧債権の承継につき「該当事項なし」と記載されている(乙ロ四「整備計画」の六、一二貢、乙ロ五「整備計画」の七、一三頁)。乙ロ五の整備計画修正申請書は、そのまま昭和二四年一二月三一日付にて認可されており、したがって第二会社たる八幡製鐵及び富士製鐵が旧債権を承継しなかったことは明らかである。 また、原告は、第二会社は、設立当初から既に再合同する予定であったというが、そのような事実はない。 Ⅲ 原告らに関する被告らの供託行為についての不法行為責任の有無(原告らの主張)原告らは、日本製鐵に対して未払賃金請求権を有していたところ、日本製鐵は、原告らに対し、昭和二二年三月一八日 ない。 Ⅲ 原告らに関する被告らの供託行為についての不法行為責任の有無(原告らの主張)原告らは、日本製鐵に対して未払賃金請求権を有していたところ、日本製鐵は、原告らに対し、昭和二二年三月一八日、原告P1について四六七円四四銭(給料五七円四四銭、預り金四一〇円)、原告P2について四九五円五二銭(給料五〇円五二銭、預り金四四五円)の未払金を供託した(以下「本件各供託」という。)被告ら(被告新日鐵については当時は日本製鐵)の行った本件各供託は、債権者への通知がないこと、債権者の住所が不正確であること、金額について不正確であることなどから、供託の要件はなく、供託そのものは無効であるが、供託行為により、原告らの未払賃金支払請求権の行使が困難な状況に置かれ、供託自体が無効であるという手続を採らざるを得なくなった上、供託の経緯は、宮城県内部部長の斡旋により朝鮮人連盟との交渉によって未払金の交付の可能性があったにもかかわらずこれを妨害し、債権者への通知が不可能であることを知った上でなされたものであって、債権の実現そのものを困難に陥れたという点で債権侵害というべきであって、不法行為が成立する。少なくとも、原告らは、財産権侵害はともかくとしても慰謝料請求権を取得する。 また、仮に本件各供託が有効であったとしても、供託法上、被告国は供託通知を原告らに送付すべき義務を負っているところ、かかる義務が尽くされていない以上、被告国は、供託通知義務違反により、未払金相当額の金銭の受領を困難ならしめているから、その点については不法行為が成立し、現在もその状態が継続しているものというべきである。 また、原告らに関して供託行為が行われた昭和二二年三月一八日の時点においては、既に日本国憲法が公布されており、供託官は、供託を受理した後に、日本銀行から供託物受領の証 いるものというべきである。 また、原告らに関して供託行為が行われた昭和二二年三月一八日の時点においては、既に日本国憲法が公布されており、供託官は、供託を受理した後に、日本銀行から供託物受領の証券を受け取ったときあるいは供託書とともに供託金の受領を受けたときには、被供託者に対して、供託通知書を発送しなければならない義務を負っているにもかかわらず(民法四九五条、供託規則第一九条、第二〇条、第一六条)、右供託官の被供託者である原告らに対する供託通知書の発送義務は憲法施行後さらには国家賠償法施行後においても懈怠されている。 供託通知書発送義務に関して、被告国は、民法四九四条に定める債権者の受領不能であるときには供託者の被供託者に対する通知義務は発生しない、と述べるが、右のような解釈は恣意的であるまず、民法四九四条は、債権者が弁済の受領を拒んでいることと受領することが不能であるときに弁済者が供託することができる、としており、受額拒絶と受領不能とを区別していないし、このことは民法四九五条三項においても同一である。また、解釈上、民法四九四条の「受領不能」については、電話で債権者の所在を聞いたが、その家人がわからないと言ったというような場合をも含めて広く理解されている(大審院昭和九年七月一七日判決など)が、そのようなときのすべてに被供託者に対する通知の義務が発生しないということは到底ある得べからざる解釈というしかない。被告国は、債権者が居所不明ないし通信不能であったと述べるが、そもそも本件供託当時においてもその後においても居所不明ないし通信不能であったということはまったく証明されていない(証人P5が試みた連絡ができたことは本件審理の上で証拠上明らかである)上、自ら強制的に連行し、大阪において就労させた上、清津に転傭させて、その後何らの手当をも たということはまったく証明されていない(証人P5が試みた連絡ができたことは本件審理の上で証拠上明らかである)上、自ら強制的に連行し、大阪において就労させた上、清津に転傭させて、その後何らの手当をもしなかったというのであるから、居所不明ないし通信不能という理由で通知義務がなかったなどのことを主張すること自体信義則に反するといわなければならないのであり、前記のような主張は失当極まりない。 したがって、本件各供託が、「供託者が被供託者に供託の通知をしなければならない場合」であることは、民法四九五条三項の規定により明確であり、そうであるにもかかわらず、供託規則第一九条または第二〇条に定める供託官の供託通知書発送義務を懈怠し続けたことは、明らかに供託官の違法行為であり、供託官が公権力の行使をする公務員であることも明らかである。そして、供託官が原告らに対して供託通知書の発送をしていれば、原告らは供託物還付請求権を行使し得たと考えられるのであって、供託官の前記違法行為と原告らが供託物還付請求権の行使を侵害されたという損害とは相当因果関係に立つことも明らかである。 よって、被告国は、原告らに対して国家賠償法に基づいて前記損害を賠償する義務を負担する。 (被告国の主張)弁済供託は、債務者が、弁済の受領拒絶あるいは受領不能等の場合に、債務を免れるためになすものであって(民法四九四条)、債務の本旨に従ってなされた弁済供託そのものが債権侵害となるものではないことは明らかである。 また、債権者が居所不明ないし通信不能である場合には、受領不能を原因として弁済供託ができることになる(民法四九四条)が、そのような場合には、供託通知書の送付は不可能であるから、供託者の通知義務(民法四九五条三項)は発生しないことは明らかであり、また、そうである以上供託官に供託通知 できることになる(民法四九四条)が、そのような場合には、供託通知書の送付は不可能であるから、供託者の通知義務(民法四九五条三項)は発生しないことは明らかであり、また、そうである以上供託官に供託通知書の送付義務も発生しない。 (被告新日鐵の主張)本件各供託をめぐる不法行為が成立しても、これに基づく債務について、第二会社である八幡製鐵及び富士製鐵のいずれも、その設立に際し、これを引受承継していないから、被告新日鐵には責任はない。 Ⅳ 損害等(原告らの主張) 1 未払金について原告P1についていえば、日本製鐵は給料として金五七円四四銭及び預り金として金四一〇円の合計金四六七円四四銭を未払金として供託した。また、昭和二〇年六月一四日付で清津へ転傭になっているものの、その間終戦までの間の二か月間給料を受領していないものであるから、二か月分合計金一一四円八八銭が右の供託金に加算されたもの(計金五八二円三二銭)が日本製鐵の原告P1への未払金となる。 原告P2については、日本製鐵は給料として金五〇円五二銭、預り金として金四五五円の合計金四九五円五二銭を未払金として供託した。また、原告P1と同様清津でも二か月分の給料として金一〇一円〇四銭が加算されたもの(計金五九六円五六銭)が日本製鐵の原告P2への未払金となる。 そして、総理府統計局が発行する日本統計年鑑から、昭和二〇年八月以降の消費者物価指数の推移を見ると、昭和二〇年八月を一〇〇とした時、平成五年一二月には、一万八四〇〇となっており、一八四倍になっている。また、同じ時期において賃金(製造業)の指数の変動を見ると、一〇〇から五二万九〇六九に上昇しており、約五二九一倍になっている。原告らの未払金のほとんどは賃金であることを考慮すると、貨幣価値の変動に対する修正としては五〇〇〇倍にすることが相 数の変動を見ると、一〇〇から五二万九〇六九に上昇しており、約五二九一倍になっている。原告らの未払金のほとんどは賃金であることを考慮すると、貨幣価値の変動に対する修正としては五〇〇〇倍にすることが相当である。 したがって、原告P1にあっては金五八二円三二銭×五〇〇〇=二九一万一六〇〇円、原告P2にあっては金五九六円五六銭×五〇〇〇=二九八万二八〇〇円が未払金として計上されるべきである。 2 慰謝料被告らの強制連行、強制労働によって原告らが被った精神的損害は実に重大である。原告らは被告らによって、日本国の圧倒的支配体制の中で強制連行、強制労働させられ、朝鮮民族の解放と全く相反する帝国主義戦争の継続のための道具として、問答無用に酷使され、また母国から引き離されて、家族との断絶を含む社会的不利益を強制されたが、原告らが被った損失は金銭に評価できないほど大きい。また、原告らが受けた賃金の未払という言語道断の事態に対して被告らは、それが自らの責任に帰着するものであるにもかかわらず、全くこれを顧みず、原告らを放置し続けた。被告らの行為により原告らの受けた精神的損害を金銭的に評価すると、各一五〇〇万円を下らない。 3 弁護士費用本件訴訟において原告らの支払うべき弁護士費用のうち、被告らの責任と相当因果関係のある金額は、それぞれ一〇〇万円である。 (被告新日鐵の主張)原告ら主張の事実はいずれも不知。 Ⅴ 被告らの責任の消滅の可否 1 日韓協定等による消滅の可否(被告新日鐵の主張)日本国と大韓民国(以下「韓国」という。)との間では、昭和四〇年六月二二日に「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四〇年一二月一八日条約第二七号。以下「日韓請求権協定」という。)が締結された。 その二条一項及び 二日に「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四〇年一二月一八日条約第二七号。以下「日韓請求権協定」という。)が締結された。 その二条一項及び二項では、「①両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、昭和二六年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。②この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執った特別の措置の対象となったものを除く。)に影響を及ぼすものではない。(a)一方の締約国の国民で、昭和二二年八月一五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがある者の財産、権利及び利益、(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって昭和二〇年八月一五日以後における通常の接触の過程において取得されまたは他方の締約国の管轄の下にはいったもの」と規定されるとともに、同条第三項には「③②の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」と規定された。 そしてその後、日本国では、日韓協定内容の具体的実現のため、「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和四○年一二月一七日公布法律第一四四 現のため、「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和四○年一二月一七日公布法律第一四四号)」(以下「財産権措置法」という。)が制定されたが、その一項本文及び一号では、「次に掲げる大韓民国またはその国民(法人を含む。以下同じ。)の財産権であって、協定第二条3の財産、権利及び利益に該当するものは、次項の規定の適用があるものを除き、昭和四〇年六月二二日において消滅したものとする。ただし、同日において第三者の権利(同条3の財産、権利及び利益に該当するものを除く。)の目的となっていたものは、その権利の行使に必要な限りにおいて消滅しないものとする。一日本国またはその国民に対する債権」と規定されている。 したがって、原告らが日本製鐵に対し原告ら主張の如き請求権を有していたとしても、同請求権は日韓請求権協定二条三項及び財産権措置法一項本文及び一号により昭和四〇年六月二二日に消滅した。 (原告らの主張)(一) 財産権措置法の効力被告新日鐵の主張する財産権措置法は、以下の点において無効である。 第一に、日本の統治権の及ばない他国の領域内にある者に対して、その者の日本国または日本国民に対する財産権を一方的に消滅させる措置を、日本の国内法として制定しても、その他国人に効力は及ばない。第二に、財産権措置法の根拠となった日韓請求権協定については、その効果は、日本国が相手国に対し外交保護を放棄したものにすぎず、個人の請求権を放棄したものではない、とされており、したがってそれに基づく財産権措置法は個人の請求権を消滅させる効力を持たない。第三に、もし財産権措置法により一方的に韓国人の財産が奪われることになると、それは、何らの補償なく個人の財産権を国家が 、したがってそれに基づく財産権措置法は個人の請求権を消滅させる効力を持たない。第三に、もし財産権措置法により一方的に韓国人の財産が奪われることになると、それは、何らの補償なく個人の財産権を国家が侵害することになり、それは、日本国憲法二九条に違反する。 (二) 日韓請求権協定の締結の経緯第二次世界大戦における日本の敗北を受けて、戦後日韓両国間の協議・交渉が行われたが、その交渉における基本的な主張の対立点は、韓国が日本の植民地支配による損害も含めて全面的な賠償を求めたのに対し、日本が、「植民地支配は合法であった」、すなわち明治四三年の韓国併合条約は有効に締結された、との前提で、韓国に対する賠償としては拒否をし、韓国に対する「独立祝賀金」あるいは韓国に対する経済援助として幾ばくかの経済的支出を検討する、というものであった。検討項目には、「戦争による被徴用者の被害に対する補償」という項目も含まれ、韓国側の基本的態度は、「経済協力」等の問題は賠償問題が解決され日韓両国の国交が正常化された後の問題である、というものであったのに対し、日本政府の態度は極めて低額の金銭支払を検討する、というものであった。 こうした会談における根本的な態度の相違から、会談はしばしば暗礁に乗り上げ、容易に合意に達することができなかったが、朴正熙政権誕生後政治的決着が目指されるようになり、一九六二年における大平外相と金鐘泌特使(韓国中央情報部長)の会談の後、最終的に金特使が折れて事実上の合意に至った。その合意内容が記載されたものがいわゆる「金・大平メモ」であるが、池田首相及び朴大統領(当時)がこれを承諾し、この後同年一二月、大野自民党副総裁が訪韓し、対日請求権を経済協力という形で解決するという案を正式に示し、韓国側も同意する、という運びとなった。このように、結局、韓 朴大統領(当時)がこれを承諾し、この後同年一二月、大野自民党副総裁が訪韓し、対日請求権を経済協力という形で解決するという案を正式に示し、韓国側も同意する、という運びとなった。このように、結局、韓国側の求めた請求権論議は打ち切られ、その後は、「日本の韓国に対する経済援助」の額の問題が論議されていくことになり、最終的には、金額的には、三億ドルの無償供与、二億ドルの有償供与を内容とする協定が、一九六五年六月二二日に調印されたが、その過程では、従軍慰安婦問題、BC級戦犯問題、在韓被爆者問題、サハリン残留韓国人間題などについては、全く論議されなかった。 (三) 日韓請求権協定の意味日韓請求権協定の締結経緯及び内容からすると、同協定の持つ意味は以下のとおりに理解されるべきである。 まず、締結経緯と締結結果からすると、請求権協定一条が「前記の供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない」とするように、供与金の趣旨は、韓国側が求めていた日本国あるいは日本国民に対する請求権に対応する賠償では全くなかった。 また、請求権協定二条一項においては、「両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」との規定がおかれたが、この「完全かつ最終的に解決済」という規定の持つ意味については、当初からそれは、国家としての外交保護権の放棄を意味すると理解され、その趣旨は、その後の国会においても確認されている(平成三年八月二七日の参議院予算委員会における柳井条約局長答弁)。 そして、日韓請求権協定二条三項は、両国は、互いに相手国のとる国内的な措置について何ら主張しない、と前記の趣旨を確認している。財産権措置法は、この規定に基づく日本における国内的措置である。 弁)。 そして、日韓請求権協定二条三項は、両国は、互いに相手国のとる国内的な措置について何ら主張しない、と前記の趣旨を確認している。財産権措置法は、この規定に基づく日本における国内的措置である。したがって、同法の解釈においても、この協定の意味が当然の前提となる。 (四) 財産権措置法の意味とその効力について財産権措置法は、韓国在住の大韓民国国民の権利について「消滅した」と規定しており、日本の国家としての統治権が及ばない地域と国民について、日本がその国内法で、当該外国の国民の権利の消滅したことを規定しているが、常識的に、こうした国内法が当該外国人に効果が及ぶと理解することは不可能である。当該外国人は、その法律に関して何らの関与もすることはできないにもかかわらず、一方的にその有する権利を消滅させられるという事態は原理的に理解しがたい。同法は日本の国内法として定められたものであり、したがって、その意味は、債務者である国とその国民が、相手国あるいは相手国国民に対して負っている債務を、その債務者だけで、一方的に「その債務は消滅した」、と宣言したものとしか理解できない。 そして、そのような立法によって、その債権者の有する債権を一方的に消滅させ得る法的根拠はどこにも存しない。 さらに、財産権措置法は、昭和四〇年一二月一七日に制定されながら、権利の消滅について、同年六月二二日に遡るとされているが、法により遡及的に権利が消滅するとされながら、それに対しては何らの補償の措置もとられていない。もし同法が実体的にも韓国国民の請求権を消滅させるだけの効力をもつと理解するとするならば、何らの補償なく、国家が一方的に個人の権利を奪う結果を承認することになり、明確に日本国憲法二九条に反する。財産権を一方的に奪う法律は在外の外国人に適用し、財産権を補償したその上位 するとするならば、何らの補償なく、国家が一方的に個人の権利を奪う結果を承認することになり、明確に日本国憲法二九条に反する。財産権を一方的に奪う法律は在外の外国人に適用し、財産権を補償したその上位規範は適用しない、等との便宜的な取り扱いは断じて許されない。 財産権措置法は、その規定自体から明らかなように、日韓請求権協定二条を根拠として制定された。すなわち、「韓国の国民」の請求権が「消滅した」とされる根拠は、日韓請求権協定において「完全かつ最終的に解決済み」とされたからであって他の理由は存在しない。一般的に債権の消滅事由としては、弁済、相殺、更改、免除、混同が民法四七四条以下で定められているが、同協定締結の過程で、その債権者たる韓国国民が債務を免除するような何らかの意思表示をしたこともないし、また、債権の弁済に該当するような事実もない。ただ、協定によって「解決済み」とされたのみである。すなわち、同法はあくまでも協定の砕からは一歩も抜け出していない。したがって、財産権措置法が制定されたからといって、個人の請求権は消滅させられたことにはならず、そうした国内法を日本が制定することについて韓国政府としては何らの異議を述べない、ということを意味しているに過ぎない。 以上からすると、同法における「権利消滅」の意味は、結局は協定における「完全かつ最終的に解決済み」との文言の解釈以上のものはない、すなわち、韓国人の日本国または日本国民に対する個人の請求権を消滅させるものではない、と解釈せざるを得ない。法案の審議過程でその趣旨について特に審議が尽くされていない点からも、日韓条約及びその下の諸協定の承認に付随する些末な問題であると捉えられ、財産権措置法は、日韓請求権協定二条三項を受けて、その趣旨に沿った国内法を制定することにより、日本政府が国内的に日韓 点からも、日韓条約及びその下の諸協定の承認に付随する些末な問題であると捉えられ、財産権措置法は、日韓請求権協定二条三項を受けて、その趣旨に沿った国内法を制定することにより、日本政府が国内的に日韓請求権協定を締結したことを宣言する趣旨のいわば政治的マニフェストにすぎないといえる。 また、財産権措置法が、そもそも実体的に特定の個人の権利を消滅させる効力をもたないこと、少なくとも韓国国民に対して効力の及ばないこと、等から、原告らの請求を否定することができないことは、富山地方裁判所平成八年七月二四日判決からも明らかである。 (五) 以上から、財産権措置法を根拠に原告らの被告新日鐵に対する請求を否定することは許されない。 2 消滅時効の援用及び除斥期間について(被告新日鐵の主張)(一) 不法行為に基づく請求権について仮に、被告新日鐵が原告ら主張の債務を負担するとしても、原告らが主張することのできる最終の不法行為日と思われる昭和二〇年八月一五日の翌日から起算して満三年が経過した。よって、被告新日鐵は民法七二四条による消滅時効を援用する(なお、原告主張にかかる国際法違反の請求も、その実質は不法行為請求であるので、ここでの消滅時効及び除斥期間の経過による請求権の消滅の対象になる。)。 仮に時効消滅が認められないとしても、原告らが主張することのできる最終の不法行為日と思われる昭和二〇年八月一五日の翌日から起算して満二〇年が経過したので、原告ら主張の債権は除斥期間の経過により消滅した。 (二) 債務不履行に基づく請求権について仮に、被告新日鐵が原告ら主張の債務を負担するとしても、未払賃金の点については、その債務履行日たる昭和二〇年八月から起算して満一年が経過した。よって、被告新日鐵は民法一七四条一項による消滅時効を援用する。 また、安全配慮義 の債務を負担するとしても、未払賃金の点については、その債務履行日たる昭和二〇年八月から起算して満一年が経過した。よって、被告新日鐵は民法一七四条一項による消滅時効を援用する。 また、安全配慮義務違反の点についても、その不履行が生じたもっとも遅い月と思われる昭和二〇年八月から起算して満一〇年が経過した。よって、被告新日鐵は民法一六七条一項による消滅時効を援用する。 (原告らの主張)(一) 被告新日鐵の主張は、不法行為債権に関する除斥期間の主張については、民法七二四条後段を除斥期間と解する点で誤っており、仮に除斥期間であると解されるとしても、本件においては、信義則違反、権利濫用等を理由とする適用制限が認められるべきであるので、除斥期間の適用はない。また、不法行為及び債務不履行のいずれに基づく債権にしても、被告新日鐵が時効を援用することは、信義則違反、権利濫用である。また、仮に被告新日鐵による時効援用が許されるとしても、被告新日鐵の主張は、時効の起算点を誤ったものである。 (二) 民法七二四条後段は消滅時効を定めたものというべきである。 (1) 同条後段を除斥期間と解することは次の理由から誤りである。第一に、長期消滅時効と解しても前段のように起算点に主観的認識を含めないのであるから、そこに二重規定の意義を認めることができる。第二に長期時効説に立ち二〇年の期間の中断を考えた場合も、中断の前提として損害及び加害者を知っているわけであるから、その時から短期の三年間の時効が進行するはずであり、浮動性の排除の点でそれほどの差異はない。第三に、この短期時効の中断を永続化していけば確かに権利は永続するかもしれないが、それは権利一般に当てはまることで、なぜ不法行為に基づく損害賠償請求権の場合だけ、権利一般に認められることが許されないのかが問題となる。第四 断を永続化していけば確かに権利は永続するかもしれないが、それは権利一般に当てはまることで、なぜ不法行為に基づく損害賠償請求権の場合だけ、権利一般に認められることが許されないのかが問題となる。第四に、この規定の淵源となったドイツ民法典八五二条においては、三年の短期時効とともに規定されている長期期間は明文上時効であるとされているし、しかもその期間が我が国よりも長い三〇年であること、時効であるが故に、この長い三〇年の期間の中断や停止も当然に前提とされていることも留意に値する。この点については、最高裁判所平成一〇年六月一二日判決の反対意見も、同様の見解を示している。 (2) これに対し、文言上は民法七二四条後段の期間は消滅時効を定めたものと解するのが素直であり、立法者の意思も右期間は時効期間と解するものであったこと、除斥期間説は時効説に比して浮動性排除をより達成するかもしれないが、それも程度問題にすぎないこと、公害や労災など構造的、潜在的な被害発生の多発する今日において、既存の除斥期間説による画一的な処理は、いたずらに被害者切り捨て機能を果たすだけであることからすれば、民法七二四条後段の期間は、長期の消滅時効を定めたものと解するのが妥当である。 (3) 以上より、民法七二四条後段の期間は時効期間であるから、その適用にあたっては、当事者の援用が必要である。そして、本件において被告新日鐵が、右援用を行うことは、信義則違反、権利濫用となる。 (三) 除斥期間に対する信義則違反、権利濫用による適用制限の存在民法七二四条後段の期間が、仮に除斥期間であるとしても、その適用に際しては、信義則違反、権利濫用等を理由とする適用制限が認められるべきである。同条後段について連用制限が存することは、最高裁判所平成一〇年六月一二日判決、下級審判決(京都地方裁判所平成 、その適用に際しては、信義則違反、権利濫用等を理由とする適用制限が認められるべきである。同条後段について連用制限が存することは、最高裁判所平成一〇年六月一二日判決、下級審判決(京都地方裁判所平成五年一一月二六日判決・判例時報一四七六号三頁)においても認められているところである。 最高裁判所平成一〇年六月一二日判決は、民法七二四条後段の適用制限を民法一五八条の法意に照らして認めており、これは右適用制限を右範囲に限定するかのようであるが、その根底には、停止事由に該当する被害者の心神喪失の状況が、当該不法行為の結果として発生している事実を重視したことが存することから、民法七二四条後段の連用制限は、右場合に限定されるべきものではなく、不法行為者が被害者の権利行使を困難にした場合等、同条後段の適用を認めることが「著しく正義、公平の理念に反する」場合に広く同条後段の連用制限が認められることを示したものと解すべきである。 そもそも、除斥期間という性質を根拠に濫用論を一律に排斥すべき論理的必然性はない。例えば、ドイツでは消滅時効の抗弁に対する許されない権利行使の抗弁の原則が、それぞれの除斥期間の意義と目的に反しない限りで、除斥期間にも適用されうるとされている。また、除斥期間制度における画一性の要請もそもそも程度問題であり、早期確定が唯一、絶対の基準ではなく、それも正義と信義の枠内での規範的判断に服すべきである。よって、最高裁判所平成元年判決があたかも除斥期間が濫用論を一律に排斥するかのような帰結は、理論的に誤りである。 以上より、仮に民法七二四条後段の期間が除斥期間と解されるとしても、その適用には信義則及び権利濫用の法理ないし正義公平の理念が適用される。 (四) 本件における被告新日鐵の主張の信義則違反、権利濫用の実情そして、前述した被告らの 期間が除斥期間と解されるとしても、その適用には信義則及び権利濫用の法理ないし正義公平の理念が適用される。 (四) 本件における被告新日鐵の主張の信義則違反、権利濫用の実情そして、前述した被告らの強制連行、強制労働に至る経緯、その態様、原告らの受けた精神的損害、被告らの賃金未払の態度、供託に至る過程、日韓条約の制定過程、その他、平成七年に戦後五〇周年の節目を迎え、国会においても戦争被害者への謝罪と補償問題が議論され、そこにおいて、朝鮮人徴用工に労働を強いた企業の責任も問題外ではなかったが、被告国も被告新日鐵も、原告ら被害者に対しては、なお、何らの調査も行わず、未払金を供託していた事実を知らしめようともしなかったこと、結局、原告ら外国にある外国人被害者にとっては、日本と当該国において支援体制が組まれ、請求方法を検討し、実際に請求、提訴できたときになって初めて、その請求権を行使しうる客観的状況に至ったことなどに鑑みると、被告新日鐵が除斥期間を主張することは信義則に反し、権利濫用である。 (五) 本件においては以下のとおり民法七二四条は適用されるべきではない。 (1) 時効、除斥期間の本来の趣旨は、権利行使が十分可能でありながら、その権利を長期間行使せず、あるいはその権利の不行使につき権利者に基本的な責任がある場合に、いわば「権利の上に眠る」者の権利をいつまでも保護する必要がない、という考えである。そして、一方で義務者側の防御権の行使が、その期間の経過故に妨げられる、という結果となることから、正義、公平の理念から認められてきた制度である。こうした観点からするとき、原告らが本件訴訟に踏み切るまでの以上の状況を見れば、期間遵守は客観的に不能であり、それは、到底「権利の上に眠る」という評価がなされるべき状態ではない。逆に、被告らは、原告らが外国にあ らするとき、原告らが本件訴訟に踏み切るまでの以上の状況を見れば、期間遵守は客観的に不能であり、それは、到底「権利の上に眠る」という評価がなされるべき状態ではない。逆に、被告らは、原告らが外国にある外国人であることを奇貨として、何らの催告、通知も行うことなく、無効な供託を行い、会社経理応急措置法、企業再建整備法をもって、日本製鐵と実体的に同一である被告新日鐵と原告らに対する債務は法形式上無関係であるとの外形を作出していたのである。 こうした状況からすれば、原告らが、韓国在住の韓国人被害者であることを考え合わせると、被告新日鐵が消滅時効を援用し、除斥期間を主張することは、明らかな権利濫用であり、著しく信義に反するものといわざるを得ない。 (2) 以上により、被告新日鐵が民法七二四条後段の時効を援用することは信義則違反、権利濫用であり排斥されるべきである。また、仮に右期間を除斥期間と解しても、除斥期間の適用にも信義則違反及び権利濫用の法理の適用があるというべきであって、本件における除斥期間の適用は信義則違反、権利濫用として排斥されなければならない。 よって、本件においては民法七二四条後段の期間制限の適用はない。 (六) 原告らの債務不履行に基づく請求に対する消滅時効の援用は以下のとおり信義則違反となる。 本件提訴に至るまでの原告らと被告新日鐵の客観的状況は、民法七二四条の適用をめぐる実情として述べたとおりである。かかる経緯、状況は、債務不履行請求においても同様である。 したがって、原告らの債務不履行に基づく請求(賃金、安全配慮義務等)に対する、被告新日鐵による時効援用も、前項までにおいて述べたところと同様にして、信義則違反、権利濫用として許されない。 (七) 被告新日鐵の消滅時効の起算点に関する主張は以下のとおり誤りである。 すなわち 、被告新日鐵による時効援用も、前項までにおいて述べたところと同様にして、信義則違反、権利濫用として許されない。 (七) 被告新日鐵の消滅時効の起算点に関する主張は以下のとおり誤りである。 すなわち、消滅時効の時効期間は、一般的に、「権利を行使することを得る時」から進行するとされている。原告らの場合、日本の戦争責任に関わる戦争被害者であるうえ、韓国にある韓国人であるという特殊性から、前述したとおり、客観的に「権利を行使することを得る時」に至ったのは、韓国及び日本の双方において、権利行使方法を検討し、具体的に訴訟提起の準備を行う支援体制ができたときであり、そのような状態に至って初めて、その権利を行使しうる状態になったのである。それまでは、原告らにおいて権利行使しようにも、その行使は不能であった。 したがって、消滅時効の起算点は、韓国及び日本において支援体制が組まれ、国境を越えて実際に訴訟提起ができる時点に求められるべきであり、本件においては、それは、平成九年一二月の提訴時点になってからである。 Ⅵ 謝罪文の交付について(原告らの主張)原告らは、被告らの強制連行、強制労働により、その人格権を著しく侵害されたものである。当時、被告国は、侵賂戦争、植民地支配のなか、朝鮮民族を、「半島人」「二等国民」と呼んでおきながら、侵略者である日本の天皇の名の下にすべてをなげうって働くことを要求し、原告らについても有形無形に力づくでこれに従わせ、あげくには賃金の支給もせずに見知らぬ土地で放置した。このような原告らに対する処遇は人格権を著しく侵害したものといえるうえ、被告らはこのような状態を永年放置し続けたものであり、被告らの行為は歴史的背景を持つものであるとはいえ、決して正当化できるものではない。このような原告らの心情を考えた場合、本件においては別紙謝罪 え、被告らはこのような状態を永年放置し続けたものであり、被告らの行為は歴史的背景を持つものであるとはいえ、決して正当化できるものではない。このような原告らの心情を考えた場合、本件においては別紙謝罪文記載のとおりの謝罪文が被告らより原告らに交付されるべきである。 不法行為に対する被害(損害)回復方法としては、民法上、金銭賠償を原則とすることが定められている(民法七二二条一項)が、同条は現代社会において一般的に合理的と解されるところを規定しただけであって、必要に応じて適当な原状回復の方法によって被害が救済されることを排斥するものでないことは広く承認されており、名誉毀損事例においては、民法七二四条に基づき、判例上も事案の被害救済にふさわしい原状回復方法として謝罪広告、謝罪文の交付などが認められている。 本件訴訟は、まさに原告らの受けた人格の名誉回復を求めたものであるが、このような被害に対する救済方法としては、金銭賠償のみで救済されるものではない。そこで、原告らは、民法七二四条を類推して、金銭賠償に併せて、謝罪文の交付を請求する。 なお、植民地支配における被告国の行為については、これまで、被告国自身が、外交関係においてこれまで幾度も謝罪文言を検討し述べてきたところであるが、植民地支配下の行為について明確な謝罪文言を述べることによって初めて国家間の正常な関係を築いていくことができることの現れであり、外交関係における原状回復の重要な要素であることを被告国自身が自認しているものに他ならず、直接の被害当事者である原告の被害救済においては、なおさら明確な謝罪を伴う原状回復方法がとられるべきことは当然であり、謝罪文の交付は本件における適切な原状回復方法といえる。 第三当裁判所の判断一前提事実関係証拠(甲一ないし四、六ないし一二、一四ないし二四、 伴う原状回復方法がとられるべきことは当然であり、謝罪文の交付は本件における適切な原状回復方法といえる。 第三当裁判所の判断一前提事実関係証拠(甲一ないし四、六ないし一二、一四ないし二四、二六ないし三八、乙ロ一ないし五、証人P5、原告P1、原告P2)及び弁論の全趣旨によれば、原告らの大阪製鉄所での労働に関する前後の経緯から本訴提起に至るまでの事情として以下の事実が認められる。 1 原告らの就労状況等(一) 原告らの朝鮮での生活状況等原告P1は、昭和元年一一月二一日、朝鮮半島全羅南道にある農村に八人兄弟姉妹の四番目(長男)として生まれた。同原告の創氏改名による日本名は「P6」であった。 原告P1は、同所で小学校に通学した後、父が事業に失敗したため、昭和一七年に一六歳で京城に出稼ぎに行き、喫茶店や酒場で働き、昭和一八年に平壌に移り、日本人の経営する食堂で働くようになった。 原告P2は、大正一二年六月八日に朝鮮半島全羅北道で二人兄弟の二男として生まれた。同原告の創氏改名による日本名は「P7」であった。 原告P2は、四歳の時に、兄とともに忠清南道論山郡〈以下略〉の伯父の家に預けられ、伯父夫婦に養育されたが、伯父夫婦が貧しかったため、幼い頃から農作業を手伝わされ、学校には行かせてもらえなかった。原告P2は、一三、四歳頃になってようやく簡易学校(一五歳から二〇歳ぐらいの朝鮮人を対象に二年間日本語を教える学校)に通いはじめ、三か月程日本語を学んだ後、日本人の経営する食料品店で二年間働いた。その後、朝鮮無煙炭株式会社が平壌で旋盤工、鋳物工等の工員を募集していることを知り、平壌に行って同社に就職し、炭鉱の鉱夫として就労した後、鋳物工として一年就労し、一九歳で同社を辞めて日本人の経営する理髪店に就職した。 (二) 日木製鐵の労務者募集、原 員を募集していることを知り、平壌に行って同社に就職し、炭鉱の鉱夫として就労した後、鋳物工として一年就労し、一九歳で同社を辞めて日本人の経営する理髪店に就職した。 (二) 日木製鐵の労務者募集、原告らの応募の状況等日本製鐵は、昭和一八年、平壌において、大阪製鉄所の労務者を募集し、そのための新聞広告等を出した。右広告には、大阪製鉄所で二年間訓練を受ければ、技術を習得することができ、訓練終了後は朝鮮半島内の製鐵所に技術者として就職できること、募集人員は一〇〇名であること、応募資格は、二五歳未満の国民学校を終了した日本語の話せる独身者であること等が記載されていた。 原告らは、右広告を見て、訓練によって技術を習得することができ、訓練終了後は朝鮮半島内の製鉄所で技術者として雇用される点に惹かれて、上記募集に応募することにし、右広告に記載された募集場所に赴いた。 募集場所には、一〇〇名の募集人員に対し約五〇〇名の応募者が来ていた。原告らは、右募集場所で身体検査を受けたほか、日本製鉄の担当者であるP3及びP4等と面接し、日本語の会話能力、家族構成、思想内容に関する調査を受け、募集審査に合格した。 P3らは、原告ら合格者に対し、契約期間は二年間であること、一回目の募集の応募者(一期生)は既に日本で訓練を受けており、二回目の募集の応募者(二期生)である原告らが日本に行けば、一期生は朝鮮に帰ってくること、大阪製鉄所における訓練中は食事、宿舎は支給されること、二年間訓練を受けて技術を習得した後は、朝鮮半島内の製鉄所に技術者として就職することができること等を述べた。 (三) 大阪製鉄所到着までの経緯原告らは、募集審査に合格した翌日頃、指定された場所に出頭し、他の合格者とともに、P3やP4の指導のもと、二、三日間にわたって、整列、歩行等に関する団体行 べた。 (三) 大阪製鉄所到着までの経緯原告らは、募集審査に合格した翌日頃、指定された場所に出頭し、他の合格者とともに、P3やP4の指導のもと、二、三日間にわたって、整列、歩行等に関する団体行動の訓練を受けた。P3らは、原告らに対し、原告ら合格者は「協和訓練隊」と呼ばれることになったと述べた。 原告らは、右訓練後、P3らから、団体行動を守るよう厳しく注意を受けた上で、同人らの引率のもと、他の合格者とともに、平壌から列車で釜山に向かい、釜山で一泊した後、船で下関に渡り、下関から列車で大阪に向かい、大阪駅からトラックで、αの木津川の西に隣接していた大阪製鉄所の寮(以下「本件寮」という。)まで移動し、昭和一八年九月一〇日、同寮に入寮した。 原告らは、日本で技術を習得することに大きな期待を抱いていたため、右移動の間、逃亡したい等とは考えなかった。 (四) 本件寮の状況本件寮は、木造二階建てで、一階の窓には鉄格子が嵌められており、一階の出入口は日本人の舎監が常時監視し、夜間は出入口に鍵をかけ、舎監が出入口の内側で就寝してこれを監視した。寮の門にも見張りがおり、夜間は門に鍵がかけられた。 本件寮に入寮したのは、朝鮮半島から来た原告ら訓練工のみであり、入寮当初は、外出は許されなかった。原告らはそれぞれ、四人部屋に入れられ、八畳間で他の三人の訓練工と寝起きを共にすることになった。 (五) 大阪製鉄所における就労状況等原告らは、入寮の翌々日頃から、他の訓練工とともに、木銃を使った銃剣術等を含む軍事教練を受けた後、訓練工として就労するようになったが、就労開始後も最初のうちは、午前中に軍事教練があり、午後のみ就労する状況であった。 大阪製鉄所における原告らの勤務体制は、一勤務八時間の三交替制で、休日も月一、二回しか与えられなかった。 原告P1は、 始後も最初のうちは、午前中に軍事教練があり、午後のみ就労する状況であった。 大阪製鉄所における原告らの勤務体制は、一勤務八時間の三交替制で、休日も月一、二回しか与えられなかった。 原告P1は、石炭を炉に投入し、投入後の石炭を鉄棒で砕いて掻き混ぜる労務に従事した。右労務は、高温で燃焼している炉の急な傾斜のついた石炭の落とし口に立ち入って、石炭を鉄棒で突き落とすという危険な作業を伴う重労働であった。また、原告P1は、数日間に一回の割合で、内径約一・五メートル、長さ約一〇〇メートルの鉄パイプの中に入り、一日がかりでパイプ内に付着した石炭滓と煤を取り除く労務に従事した。右労務は、溶鉱炉の火が落とされているとはいえ未だ熱気の残っているパイプの中で、熱気と粉塵に耐えながら、腰をかがめた状態で、手でパイプから石炭滓等を取り除くという、危険な重労働であった。 原告P2は、日本人工員の指導のもと、起重機を操作して銑鉄や古鉄等を平炉に投入する労務に従事した。右労務に従事していた工員は、大阪製鉄所全体で約二〇名おり、そのうち四人が原告P2ら朝鮮人訓練工であった。右労務は、高温で燃焼している炉の近くで起重機を操作する危険な作業であり、原告P2は、就労中に、日本人工員の操作した起重機の高圧線が手に当たって感電したり、銑鉄等が入った高温の容器に右脚が当たってやけどを負ったことがあった。原告P2は、早く起重機の操作を覚えたので、模範工員に選ばれ、表彰された。 なお、原告P2の創氏改姓による日本名は、前記認定のとおり、「P7」であったが、原告P2は、日本製鐵の担当者から「P8」の方が縁起がよいとの理由で、「P8」と名乗るように勧められ、大阪製鉄所では「P8」と呼ばれるようになった。 原告ら訓練工の食事は、寮内の食堂で提供され、就労時間中は、寮の食堂で支給さ ら「P8」の方が縁起がよいとの理由で、「P8」と名乗るように勧められ、大阪製鉄所では「P8」と呼ばれるようになった。 原告ら訓練工の食事は、寮内の食堂で提供され、就労時間中は、寮の食堂で支給される弁当を摂ることとされていたが、量が少なく、原告らは、常に空腹を感じる状態であった。 原告らは、雇用後七、八ケ月経過した頃から、五、六名の同僚同士で、本件寮の舎監の許可を得て外出することが許されるようになり、月に一、二回外出して、工場近くの浜や中之島公園等に行ったり、本件寮の近くで売っている粥を買って食べたりしたが、舎監から、逃げても捕まえると言われており、また、大阪製鉄所近くのβ警察署の警察官が、毎月一、二回、大阪製鉄所を訪れ、原告ら訓練工に対し、逃げてもすぐに捕まるので逃亡など考えるなと話していたため、逃亡してもすぐ捕まえられると思い、逃亡はしなかった。 (六) 大阪製鉄所における賃金支払状況等日本製鐵は、原告らの就労開始後、原告ら訓練工に対し、賃金を支給する旨を告げたが、賃金額や内訳については説明をせず、原告らには月に二、三円の小遣い程度の現金を手渡すのみで、賃金のほとんどを、日本製鐵が原告らに無断で開設した各工員名義の郵便貯金口座に、原告らの同意を得ずに一方的に入金し、その貯金通帳と届出印を、寮の舎監に保管させ、原告らに対しては、原告らは独身者であるため、賃金全額を渡すと無駄遣いするおそれがあるので、貯金しておくと説明した。 なお、右の各工員名義の貯金額は、本件寮内の壁に、棒グラフで表示されて貼り出されていた。また、原告P1は、本件寮の舎監から、同原告の賃金の明細が記載された給与袋を見せてもらったことがあり、原告P2も、本件寮の舎監から、同原告名義の貯金通帳を見せてもらったことがあった。 (七) 原告らの徴用及び原告P1の徴兵 舎監から、同原告の賃金の明細が記載された給与袋を見せてもらったことがあり、原告P2も、本件寮の舎監から、同原告名義の貯金通帳を見せてもらったことがあった。 (七) 原告らの徴用及び原告P1の徴兵原告らは、昭和一九年二月か三月頃、本件寮の舎監から、原告らが徴用された旨の告知を受けた。右徴用後は、原告ら工員に対する監視が厳しくなり、外出も制約されるようになった。 原告P1は、同年秋頃、徴兵のための身体検査を受け、海軍航空整備兵に徴兵されることになったとの告知を受けた。原告P1は、戦場に行けば間違いなく死ぬだろうと思い、従前から職場や空腹に耐えなければならないことに不満を抱いていたことから、友人と二人で逃亡を計画したが、実行前に右計画が発覚し、本件寮の舎監から棍棒で、臀部や腰部を二〇回殴打される暴行を受けた上、舎監の部屋で約一時間にわたって、跪いて手を上に挙げる姿勢を強いられる体罰を受け、始末書を書かされ、その後二か月間、それまで支給されていた小遣い程度の現金の支給も停められた。 (八) 大阪製鉄所の破壊と原告らの転傭大阪製鉄所の工場は、昭和二〇年三月一九日の大阪大空襲によって破壊され、日本製鐵は、同年六月、大阪製鉄所で就労していた朝鮮人工員を、朝鮮半島の清津に建設予定の製鐵所に配置換えすることにし、同人らを三回にわけて、清津に移動させた。 原告らは、同年六月下旬頃、本件寮の舎監の引率のもと、第一回目の転属者として、他の工員らとともに、大阪から列車で下関に向かい、下関から船で釜山に渡り、釜山から列車で清津に移動した。 原告P2は、大阪製鉄所を離れる際、本件寮の舎監に対し、同原告名義の貯金通帳を渡してほしいと申し出たが、舎監は、清津に着いたら貯金通帳を渡すと述べたため、清津に到着した後、再度、貯金通帳を渡して欲しいと申し入れたが、舎 所を離れる際、本件寮の舎監に対し、同原告名義の貯金通帳を渡してほしいと申し出たが、舎監は、清津に着いたら貯金通帳を渡すと述べたため、清津に到着した後、再度、貯金通帳を渡して欲しいと申し入れたが、舎監は、次の転属者を清津に引率して来るときに、持って来ると述べて、貯金通帳を渡さなかった。原告P1も、清津で、本件寮の舎監に対し、日本で働いた分の賃金を渡してほしいと申し出たが、同人は、同原告に対しても、いったん日本に戻り、次の転属者を清津に引率して来る時に、持参すると答え、賃金の支私をしなかった。 (九) 清津での勤労状況と終戦原告らは、清津では、一日一二時間、製板工場及び製條工場の建設のための土木工事に従事させられた。右労務は、これに従事していた他の労働者が土砂崩れのために死亡する等、危険で苛酷な労務であった。 原告らは、日本製鐵の宿舎に寝泊まりし、食料の支給を受けたが、食事の量や内容は、大阪製鉄所の時よりも乏しいものであった。 同年八月一三日、ソビエト連邦軍による清津の日本軍施設に対する攻撃が始まり、原告P1は、徒歩で茂山に避難した後、茂山から京城に避難した。原告P1は、京城で八月一五日を迎えた後、同所の日本製鐵事務所に行ったが、誰もいなかった。 原告P2は、大阪製鉄所起重機課の責任者であった日本人のP9及びその家族とともに、清津の山中に避難し、数日間を山中で過ごした後、単独で茂山を経由して成津に向かったが、同所でソ連兵から日本人に間違われ、捕らわれそうになって地元民に助けてもらった後、京城に避難し、同年九月初め頃、故郷の忠清南道論山郡〈以下略〉に戻った。 原告らは、清津で労務に従事した二か月間、全く賃金の支給を受けられなかった。 原告らは、その後も、日本製鐵から未払賃金の支給等について連絡を受けたことはなかった。 2 日本製 以下略〉に戻った。 原告らは、清津で労務に従事した二か月間、全く賃金の支給を受けられなかった。 原告らは、その後も、日本製鐵から未払賃金の支給等について連絡を受けたことはなかった。 2 日本製鐵の分割、解散と第二会社の設立等(一) 日本製鐵は、昭和二一年八月一五日に制定された会社経理応急措置法により、特別管理人の管理する特別経理会社とされ、指定時である昭和二一年八月一一日午前零時現在(同法一条一号)において、会社の計算を新勘定(現に行っている事業の継続及び戦後産業の回復復興に必要な会社財産)と旧勘定(新勘定以外の会社財産)に区分経理された(同法七条一項)。 特別経理会社の財産目録上の動産、不動産、債権その他の財産は、「会社の目的たる現に行っている事業の継続及び戦後産業の回復振興に必要なもの」に限り、指定時において、新勘定に属するものとされ、それ以外は、原則として、指定時において、旧勘定に所属するものとされ(同法七条二項)、指定時後の原因に基づいて生じた収入及び支出を新勘定の収入及び支出として、指定時以前の原因に基づいて生じた収入及び支出を旧勘定の収入及び支出として経理しなければならないものとされた(同法一一条一項、二項)。 また、指定時以前の原因に基づいて生じた特別経理会社に対する債権(旧債権)については、同法一四条一項に定める例外を除き、弁済その他の消滅行為(但し、免除を除く。)をすることができないものとされ(同項各号列記以外の部分)、「指定時以前に確定した給料その他命令で定める定期的給与の債権」(同法一四条一項二号)、「従業員の預かり金その他これに準ずる債権(命令で定める制限を超えないものに限る。)」(同項三号)等は、右例外とされたものの、これらの債権について新勘定から弁済することができるのは、旧勘定から弁済することができ り金その他これに準ずる債権(命令で定める制限を超えないものに限る。)」(同項三号)等は、右例外とされたものの、これらの債権について新勘定から弁済することができるのは、旧勘定から弁済することができない場合に限られるものとされ、かつ、特別管理人の承認を受けて、同法九条の規定によって設けた新勘定の貸借対照表の負債の部の未整理支払勘定に計上した金額の限度において、弁済することができるものとされた(同条二項)。 (二) 昭和二一年一〇月一九日に制定された企業再建整備法は、特別経理会社などの会社経理応急措置法の適用を受けるものについて、戦時補償特別税を課せられること等により生じた損失を適正に処理し、速やかな再建整備を促進し、産業の健全な回復及び振興を図ることをその目的とし(同法一条)、特別経理株式会社(企業再建整備法上の特別経理会社に当たる株式会社)の損失の処理及び会社の再建について、要旨、以下のとおり定めた。 すなわち、同法は、特別経理会社の特別管理人は、特別経理株式会社の存続又は解散の別、存続する場合の会社の整理の方法、解散する場合の手続、特別損失の額、特別損失を負担する旧債権の総額、負担割合等を定めた整備計画を所定の期間内に立案し、主務大臣の認可を申請しなければならないものとした(同法五条、六条一項)。 また、特別経理株式会社は、戦時補償特別税が課せられることにより生じる損失額、在外資産についての損失額、会社経理応急措置法五条の財産目録に記載した金融機関に対する預貯金等が金融緊急措置令施行規則一条ノ三の規定により第二封鎖預金等となり、支払を受けることが不能となることにより生じる損失額その他の損失額を計算しなければならないものとし(同法三条一項)、これを、特別経理株式会社の指定時をもって終了する事業年度の利益金、繰越利益金、法定積立金、指 ることが不能となることにより生じる損失額その他の損失額を計算しなければならないものとし(同法三条一項)、これを、特別経理株式会社の指定時をもって終了する事業年度の利益金、繰越利益金、法定積立金、指定時後旧勘定と新勘定との併合時までに旧勘定に生ずる総益金等(同法三条二項)から差し引き、なお損失が残るときはその残額を「特別損失」として決算に計上することとした上で(同法三条、四条)、右特別損失のうち資本金の一○分の九に相当する額は、株主の負担とし、なお、特別損失の額が残るときには、同法七条二号所定の旧債権(知れたる特別損失負担債権)の債権額の一〇分の七に相当する額を債権者の負担とし、なお、特別損失の額が残るときは、さらに資本金の一〇分の一に相当する領を株主の負担とし、それでもなお特別損失の額が残るときは、前記の知れたる特別損失負担債権の債権額の一〇分の三に相当する額を、同債権者に負担させることとして(同法七条)、特別損失を処理すべきものとし、右のとおり、損失を負担した債権は、整備計画が認可された日に消滅することとした(同法一九条一項)。 また、同法は、右整備計画において取ることのできる特別経理株式会社の再建整備の方法の一つとして、第二会社を設立し、第二会社に特別経理会社の資産を出資もしくは譲渡する方法を挙げ(同法六条一項七号)、特別経理会社が新勘定に所属する資産の全部又は一部を出資する場合には、その出資を受ける者(右の場合には第二会社)は、命令の定めるところにより、指定時後特別経理会社の新勘定の負担となった債務を承継し(同法一〇条一項)、その場合には、特別経理株式会社は、債務を承継する者に対し、当該債務の額に相当する資産を譲渡しなければならないものとした(同条二項)。 なお、同法施行規則(昭和二一年商工、大蔵、司法、農林、運輸、厚生省令 には、特別経理株式会社は、債務を承継する者に対し、当該債務の額に相当する資産を譲渡しなければならないものとした(同条二項)。 なお、同法施行規則(昭和二一年商工、大蔵、司法、農林、運輸、厚生省令第一号)七条一項七号リは、第二会社が旧債権を承継する場合には、整備計画において、その債務の額、条件並びに当該債務の承継に伴い譲渡する資産の範囲及び価格を、定めなければならないものとした。 (三) 日本製鐵は、昭和二三年二月八日、過度経済力集中排除法に基づき設置された持株会社整理委員会により「過度の経済力の集中」の指定を受け、同年一〇月九日付けの日本製鐵再編成計画に関する司令案により分割されることとなり、八幡製鐵株式会社(以下「八幡製鐵」という。)、北日本製鐵株式会社(昭和二五年三月二八日に富士製鐵株式会社に商号変更。以下「富士製鐵」という。)、日本製鐵汽船株式会社、播磨耐火煉瓦株式会社の四社を設立して、資産を現物出資して解散する旨の整備計画が立案され、昭和二四年一二月三一日、大蔵大臣によって右整備計画が認可されたが、右整備計画認可申請書には、企業再建整備法施行規則七条一項七号リに定める、第二会社が旧債権を承継する場合の債務の額、条件等の項目については、「該当なし」と記載されていた。 昭和二五年四月一日、企業再建整備法により八幡製鐵株式会社、富士製鐵株式会社が設立され、日本製鐵は、同日、解散するに至った。 日本製鐵が八幡製鐵、富士製鐵の両第二会社に分割されるに際しては、日本製鐵の保有していた八幡、γ、釜石、富士、δの各製織所のうち、八幡製鐵所を八幡製鐵が、他の四製鐵所を富士製鐵がそのまま承継した。 その後、八幡製鐵、富士製鐵は、昭和四五年に合併し、被告新日鐵が誕生した。 3 日本製鐵による本件各供託と右供託に至る経緯戦後、日本製鐵により、 鐵が、他の四製鐵所を富士製鐵がそのまま承継した。 その後、八幡製鐵、富士製鐵は、昭和四五年に合併し、被告新日鐵が誕生した。 3 日本製鐵による本件各供託と右供託に至る経緯戦後、日本製鐵により、原告らの未払賃金等が大阪供託局に供託されることとなり、昭和二二年三月一八日、原告P1(雇用期間は昭和一八年九月一〇日から昭和二〇年六月一四日、供託上の本籍地は平安南道平壌府〈以下略〉)については、四六七円四四銭(給料五七円四四銭、預り金四一〇円)、原告P2(雇用期間は昭和一八年九月一〇日から昭和二〇年六月一一日、供託上の本籍地は平安南道平壌府〈以下略〉)については四九五円五二銭(給料五〇円五二銭、預り金四四五円)が供託された。 4 日韓関係朝鮮は、明治四三年の日韓併合条約が締結された後、日本国の統治下にあったが、昭和二〇年八月一五日、第二次世界大戦の終結と同時に独立し、日本との国交が絶たれたが、昭和二三年に大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が成立した。 その後、日本国と大韓民国との間では、昭和四〇年六月二二日に日韓基本関係条約、日韓請求権協定が締結され、同協定内容の具体的実現のため、同年一二月一七日、財産権措置法が制定された。 5 原告らの本訴提起原告らは、平成七年に戦後五〇周年の節目を迎えた後の平成九年一二月二四日に本訴を提起するに至った。 二主たる各争点の検討 1 原告らに対する強制連行、強制労働の有無(争点Ⅰについて)原告らは、日本製鐵及び被告国が原告ら朝鮮人労働者を官斡旋方式ないし自由募集方式の名の下に日本に強制連行して労務に従事させたものであると主張し、原告らの場合は都市型官斡旋によるものであるから強制連行に当たるとの意見を述べる証人P5の証言を援用するが、当時、日本国政府、朝鮮総督府などが、戦時下の労務動員のための積極的な ものであると主張し、原告らの場合は都市型官斡旋によるものであるから強制連行に当たるとの意見を述べる証人P5の証言を援用するが、当時、日本国政府、朝鮮総督府などが、戦時下の労務動員のための積極的な政策を打ち出していたことが認められるとしても、前記認定のとおり、原告P1及び原告P2はいずれも、日本製鐵の二年間の技術訓練により技術を習得し、その後は朝鮮半島の製鉄所で技術者として就職できるとの労働者募集の際の説明に応じて、その意思によりこれに応募し、大阪製鉄所で労働するに至ったものであって、大阪製鉄所に付属した本件寮への入寮までの経緯、原告らの対応などからみても、原告らの意思に反して原告らを大阪製鉄所まで連行して労働に従事させたものとまでは認められず、日本製鐵及び被告国が強制連行したとする原告らの主張及びこれに沿う意見を述べる証人P5の証言はにわかに採用できない。 次に、原告らは、日本製鐵及び被告国により原告らが日本製鐵の経営する大阪製鉄所及び清津において強制労働に従事させられたと主張する。 ところで、前記認定のとおり、日本製鐵の経営する大阪製鉄所に付属する本件寮における原告らの居住状況と大阪製鉄所での労働内容は、技術を習得させるという日本製鐵の事前説明から予想されるものとは全く異なる劣悪なものであって、原告らは、一部賃金の支払を受けたものの、具体的な賃金額も知らされないまま、残額は強制的に貯金させられ、多少の行動の自由が認められた時期もあったものの、常時、日本製鐵の監視下に置かれて、労務からの離脱もままならず、食事も充分には与えられず、劣悪な住環境の下、過酷で危険極まりのない作業に半ば自由を奪われた状態で相当期間にわたって従事させられ、清津においても、短期間とはいえ、一日のうち一二時間も土木工事に携わるというさらに過酷な労働に従事させら 環境の下、過酷で危険極まりのない作業に半ば自由を奪われた状態で相当期間にわたって従事させられ、清津においても、短期間とはいえ、一日のうち一二時間も土木工事に携わるというさらに過酷な労働に従事させられ、賃金の支払は全くなされていないことが認められ、右は実質的にみて、強制労働に該当し、違法といわざるをえない。 2 原告らの強制労働に関する被告らの責任の有無(争点Ⅱについて)原告らの被告らに対する強制連行に対する責任は認められないから、以下、原告らの強制労働に関する被告らの責任の成否につき検討する。 (一) 国際法上の日本製鐵及び被告国の責任の有無(1) 国際法違反そもそも、国際法は、国際社会を構成する国家間の関係を規律し、権利義務を定めるものであるから、国家の構成員である個人の生活関係や権利義務関係を規律の対象としたとしても、直ちに個人に国際法上の権利義務が認められたり、個人としての請求主体性が認められるものではなく(個人が他国から受けた被害等については所属国の外交保護権の行使により国家間の問題として処理されるべきが原則である。)、個人の請求主体性が認められるためには、特別に個人が当事者として自ら権利行使できる適格が認められるとともに、これを実現するための手続が国際法上も定められていることが必要であるというべきである。原告らが主張する強制労働条約やヘーグ陸戦条約が被害者個人である原告らが加害国とされる被告国ないし加害企業とされる日本製鐵に直接の請求権を認めたものとは解し得ない。 また、条約の効力についての時間的適用範囲については特別の合意がなければ遡及しないものと解されており(ウィーン条約法条約二八条)、効力発生日よりも前に生じた行為に関しては、当事国は条約に拘束されることはないものといわなければならないところ、国際人権規約B規約 なければ遡及しないものと解されており(ウィーン条約法条約二八条)、効力発生日よりも前に生じた行為に関しては、当事国は条約に拘束されることはないものといわなければならないところ、国際人権規約B規約を日本国が批准したのは昭和五四年六月二一日、発効したのが同年九月二一日であり、他方、原告らに対する強制労働による違法行為は遅くとも昭和二〇年八月までのことであり、国際人権規約B規約の効力発生前になされた行為であることは明らかであるから、国際人権規約B規約違反を理由とする原告らの請求は理由がない。 さらに、世界人権宣言はその前文からも明らかなように「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」を定めたものにすぎず、具体的な法規範性までは認められず、個人の損害賠償請求権の発生要件及びその履行を厳格に義務づけていると解することもできないから、やはり、世界人権宣言違反を直接の根拠として個人が加害国家とされる被告国に対して直接に損害賠償、損失補償を求めことはできないといわなければならない。 さらに、「人道に対する罪」違反の点についても、これを定めた極東国際軍事裁判所条例及びニュールンベルグ国際軍事裁判所条例によれば、非人道的行為等を行った行為者個人の刑事責任の追及を目的としていることが明らかであり、右条例の規定からは当該個人の国際法上の刑事責任が発生するにとどまり、当該個人の属する国家の被害者個人に対する民事責任まで定めたものということはできないから、被害者個人が国家に対して(これに対する名誉回復手段としての謝罪文の交付を含む。)、損失補償を求めることはできないといわなければならない。 したがって、各条約を直接の根拠とする請求権の発生を主張する原告らの請求はいずれも理由がない。 (2) 国際慣習法違反また、原告らは、被告らに確立した国際法の はできないといわなければならない。 したがって、各条約を直接の根拠とする請求権の発生を主張する原告らの請求はいずれも理由がない。 (2) 国際慣習法違反また、原告らは、被告らに確立した国際法の原則に基づく損害賠償義務があると主張し、右は国際慣習法に基づく請求権を主張するものとも解されるところ、国際慣習法とは「法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習」(国際司法裁判所規程三八条一項b)であるから、これが認められるためには、国際法主体である国家の実行が恒常的で均一の慣行になったという一般慣行と、一般慣行を国際法上の義務として認識して確信して行うという法的確信の存在が必要であるにもかかわらず、一件記録によってもかかる一般慣行の存在及び右慣行に関する法的確信の存在を認めるに足りる証拠はないといわざるをえないから、この点に関する原告らの主張も理由がない。 (二) 被告国の国内法上の責任(1) 損失補償の法理に基づく請求権について大日本帝国憲法には「日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ」(二七条一項)との規定は存在するが、日本国憲法二九条三項のような損失補償の規定は存在しない。私有財産制を前提とする資本主義社会においては、私人が財産権に関し特別の犠牲を受けた場合には、これに対する相当額の補償をなすのが望ましいことはいうまでもないが、右犠牲が公共の福祉目的のために利用される側面があることを合わせ鑑みると、右犠牲に対していかなる補償をすべきか否か、その要件、効果は実定法上の根拠なくして一義的に明らかではなく、まして、本件における原告らの損害が戦争犠牲、戦争損害ともいうべきものであって、右損害に対する補償の要否の判断は政治的判断を伴うものとして広範な立法裁量を含むべきだものであることから、何らの明文なくして当然に損失補償を請求しうるも が戦争犠牲、戦争損害ともいうべきものであって、右損害に対する補償の要否の判断は政治的判断を伴うものとして広範な立法裁量を含むべきだものであることから、何らの明文なくして当然に損失補償を請求しうるものと解することはできない。 また、日本国憲法は昭和二一年一一月三日に公布され、翌二二年五月三日に施行されたが、法律の効力の時間的適用範囲については特別の規定のない限り遡及適用することができないから、原告らの問題とする行為については損失補償を定めた日本国憲法二九条三項を遡及適用することもできず、同条項を根拠として原告らの請求権を基礎づけることはできない。したがって、右法理を理由に損害賠償を求める原告らの請求は理由がない。 (2) 民法七〇九条、七一五条に基づく請求権について原告らは、被告国に対し、強制労働があったとして、民法七〇九条及び七一五条に基づく責任がある旨主張する。しかし、昭和二二年一〇月二七日に施行された国家賠償法附則六条では、「この法律施行前の行為に基づく損害については、なお従前の例による。」として、同法施行前の行為についていわゆる旧法主義を採用している。そして、国家賠償法の施行前においては、一般的に国の賠償責任を認める法令上の根拠はなく、大日本帝国憲法下においては、国の公法上の行為のうち権力作用による個人の損害については、行政裁判所において「損害要償ノ訴訟」を受理できないものとされており(行政裁判法一六条)、国は責任を負わないといういわゆる国家無答責論が妥当するとされていた。このため、権力作用によって個人の損害が発生したとしても、私法すなわち民法上の不法行為責任に関する規定の適用はなく、国家賠償法のような一般的に国の賠償責任を認めた法律もなかったことから、国の賠償責任を追及することはできないものと解されていた(大審院昭和四年 法すなわち民法上の不法行為責任に関する規定の適用はなく、国家賠償法のような一般的に国の賠償責任を認めた法律もなかったことから、国の賠償責任を追及することはできないものと解されていた(大審院昭和四年一〇月二四日判決・法律新聞三〇七三号九頁参照)。したがって、国家無答責論自体が今日において妥当なものといえないことは当然としても、右国家賠償法附則六条の経過規定が存在していることなどに照らせば、現時点における解釈としても、国家賠償法施行以前の権力作用であることが明らかな原告ら主張前記認定の各行為については権力作用との関係を規律していない民法の適用はないものというべきであって、被告国が私人である原告らに対して直接民法上の損害賠償責任を負うとの解釈を採ることはできない(なお、強制労働が戦時政策の一環で行われたことから、直ちに被告国が日本製鐵の使用者的な立場になるとはいえず、民法七一五条を原因とする原告らの主張はこの点でも失当である。)。 よって、この点に関する原告らの主張はいずれも理由がない。 (3) 債務不履行責任次に、原告らの主張する債務不履行責任について論じると、日本製鐵と原告らには、契約書は交わしていないものの、原告らは、日本製鐵の労務者募集に応じて、朝鮮を離れて大阪にあった日本製鐵の本件寮に寝泊まりした上で日本製鐵の大阪製鉄所で一年余りにわたって労働していたのであるから、黙示の労働契約が成立したと認めるのが相当であり、右契約に基づいて、日本製鐵側には、当然に、原告らに対し、安全に労働をしうる環境下で労働をさせ、労働の対価として相当額の賃金を支払う義務があったというべきであるが、あくまでも右関係は日本製鐵と原告らの間にあるというべきであって、被告国の戦時政策の一環として行われた自由募集方式で原告らが日本製鐵と労働関係に入ったとしても、 支払う義務があったというべきであるが、あくまでも右関係は日本製鐵と原告らの間にあるというべきであって、被告国の戦時政策の一環として行われた自由募集方式で原告らが日本製鐵と労働関係に入ったとしても、そのことをもって直ちに原告らが被告国との関係でも契約類似の関係に入ったものということはできず、被告国に対する債務不履行を理由とする原告らの主張は失当である。したがって、この点に関する原告らの主張も理由がない。 (4) 条理に基づく責任さらに、原告らの主張する条理に基づく損害賠償請求権についても、原告らは、第二次世界大戦中の戦時政策の一環としての日本製鐵での労働によって損害を被ったから損害を賠償すべきとするが、損害賠償請求権を認めるべき主体、損害額等はどのように定めるのが相当か、損害賠償請求権はいつまで存続するかなど、その要件や効果等については、広範な立法裁量が認められるべきであるから、実定法の規定がないにもかかわらず当然に損害賠償請求権が発生するものということはできず、この点に関する原告らの主張も理由がない。 (5) 不作為に関する責任なお、原告らは、現在に至るまで未だ原告らに対する補償が行われないという被告国の不作為をも問題とするが、戦争被害をどのように賠償すべきかは広範な政治的な判断を伴うものであり、立法府の広範な裁量が認められるから、被告国が、原告らに対し、戦時政策によって被った被害の賠償を認める実定法を定めないことが、直ちに違法であるということはできず、国家賠償法上の責任は認められないというべきであって、この点についても原告らの主張は理由がない。 (三) 被告新日鐵の国内法上の責任-債務の承継前記認定事実によれば、日本製鐵が原告らに対し賃金を一部支払わなかったこと及び違法な強制労働に従事させたことが認められるから、日本製鐵には、 がない。 (三) 被告新日鐵の国内法上の責任-債務の承継前記認定事実によれば、日本製鐵が原告らに対し賃金を一部支払わなかったこと及び違法な強制労働に従事させたことが認められるから、日本製鐵には、賃金未払、強制労働、それぞれに関して債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償責任が認められることになる。そこで、右責任が被告新日鐵に承継されたか、すなわち右債務が第二会社に承継されたか否かについて、以下検討する。 前記認定のとおり、日本製鐵は、会社経理応急措置法上の特別経理会社及び企業再建整備法上の特別経理株式会社に当たり、同社は、企業再建整備法に基づき、同社の新勘定に属する資産を出資して、昭和二五年四月一日、八幡製鐵、富士製鐵、日本製鐵汽船株式会社、播磨耐火煉瓦株式会社の四社を設立し、解散し、昭和四五年に八幡製鐵と富士製鐵が合併して被告新日鐵となったものであるところ、原告らの賃金債権及び強制労働による債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償債権は、会社経理応急措置法上の指定時(昭和二一年八月一一日午前零時〔会社経理応急措置法一条一号〕)以前に生じた原因に基づいて生じた日本製鐵に対する債権であるから、右各法上の「旧債権」に当たる。 ところで、特別経理会社に対する旧債権が新旧いずれの勘定に属するのか、及び、特別経理株式会社が第二会社を設立して資産を出資又は譲渡する再建方法を選択した場合に、旧債権が第二会社に承継されるかどうかに関しては、これを直接明示して定めた規定は、会社経理応急措置法と企業債権整備法のいずれにも見当たらない。 しかしながら、会社経理応急措置法が、旧債権については、原則として、弁済その他の債権消滅行為を禁止し(同法一四条一項)、例外的に弁済等を認める同項所定の給与債権等についても、まず旧勘定から弁済すべきものとし、新勘定からの 応急措置法が、旧債権については、原則として、弁済その他の債権消滅行為を禁止し(同法一四条一項)、例外的に弁済等を認める同項所定の給与債権等についても、まず旧勘定から弁済すべきものとし、新勘定からの弁済は、旧勘定からの弁済ができない場合に限り、特別管理人の承認のもとに、新勘定の貸借対照表上の未整理支払勘定に計上した金額の限度で、可能であるとしていること(同条一項、二項)、指定時以前の原因に基づいて生じた収入及び支出は、旧勘定の収入及び支出として経理しなければならないとしていること(同法一一条一項、二項)からすれば、同法は、旧債権が旧勘定に属することを前提とするものと解するのが相当である。したがって、原告らの日本製鐵に対する賃金債権及び強制労働にかかる債務不履行ないし不法行為に基づく損害陪償債権もまた、同法上の「旧債権」として、旧勘定に属するものとなったというべきである。 そこで、旧勘定に属する原告らの日本製鐵に対する右各債権が、第二会社に承継されたかについて検討するに、企業再建整備法は、特別経理株式会社が、新勘定に所属する資産を出資する場合には、出資を受ける者は、指定時後特別経理株式会社の新勘定の負担となった債務を承継する旨を定める(同法一〇条一項)にとどまり、旧勘定に属する債務の承継の有無については、何ら明文の規定を置いていない。このことに加え、企業再建整備法が、戦時補償特別税を課せられること等により特別経理会社等に生じた損失を適正に処理し、速やかな再建整備を促進し、産業の健全な回復及び振興を図ることを目的(同法一条)とする法律であり、そのための方策として、特別経理株式会社について、指定時までに生じた戦時補償特別税の課税等による損失合計額と、利益金及び積立金その他の益金等の合計額をそれぞれ計算させ(同法三条)、前者が後者を上回る場 めの方策として、特別経理株式会社について、指定時までに生じた戦時補償特別税の課税等による損失合計額と、利益金及び積立金その他の益金等の合計額をそれぞれ計算させ(同法三条)、前者が後者を上回る場合にはその超過額を特別損失の額とし(同法四条)、一定の基準に基づいて株主、債権者にこれを負担させてその償却を図り(同法七条)、右の特別損失を負担する旧債権は、整備計画に定められた損失負担割合に従って、整備計画が認可された日に消滅するものとしていること(同法一九条一項)に鑑みれば、同法は、第二会社が、当然に、特別経理株式会社の旧勘定に属する旧債権を包括的に承継することを前提とするものではなく、むしろ、特別経理株式会社とは別の法人格である第二会社は、原則として、特別経理株式会社の債権債務を承継しないことを前提として、特別経理株式会社から新勘定に属する資産の出資を受ける場合について、債権者保護の見地から、特に、指定時後特別経理株式会社の新勘定の負担となった債務を承継するものとし(同法一〇条一項)、併せて、特別経理株式会社は、右債務の額に相当する資産を右債務を承継する者に対し譲渡しなければならない(同条二項)旨を定めたものと解すべきである。同法施行規則(昭和二一年商工、大蔵、司法、農林、運輸、厚生省令第一号)七条一項七号リが、第二会社が旧債権を承継する場合には、整備計画において、その債務の額、条件並びに当該債務の承継に伴い譲渡する資産の範囲及び価格を定めなければならない旨を規定しているのも、第二会社は当然かつ包括的に特別経理株式会社の旧債権を当然かつ包括的に承継するものではないことを前提として、第二会社が旧債権を承継する旨の意思表示をするような場合について、承継される旧債権の額、条件等を整備計画に明示すべきことを求めたものとみるべきである。したがって 継するものではないことを前提として、第二会社が旧債権を承継する旨の意思表示をするような場合について、承継される旧債権の額、条件等を整備計画に明示すべきことを求めたものとみるべきである。したがって、日本製鐵の旧勘定に属していた原告らの日本製鐵に対する賃料債権及び強制労働にかかる債務不履行ないし不法行為債権は、企業再建整備法に基づいて設立された同社の第二会社である八幡製鐵、富士製鐵、日本製鐵汽船株式会社、播磨耐火煉瓦株式会社の四社に、当然に承継されたとはいえない。 また、前記認定のとおり、日本製鐵は、整備計画認可申請書の同法施行規則七条一項七号り所定の項目に「該当なし」と記載した上、右申請書を大蔵大臣に提出し、昭和二四年一二月三一日、右申請について認可を得たこと(乙ロ四、五)に照らすと、第二会社四社が、日本製鐵に対する旧債権を承継する旨の意思表示をしたともみる余地もないものといわなければならない。 そうすると、日本製鐵に対する旧債権は、第二会社四社には承継されなかったものといわざるを得ないから、原告らの未払賃金債権及び損害賠償債権もまた、第二会社四社には承継されないまま、昭和二五年四月一日、その債務者である日本製鐵が、解散するに至ったものといわなければならない。 もっとも、不法行為による損害賠償債権については、その内容や金額などを予め明らかにすることが困難であるという特殊性を有しており、整備計画への記載を求めることは、不法行為の被害者に対しての救済を事実上不可能にせしめることになり、過酷なようにも思われる。しかしながら、前述した会社経理応急措置法及び企業再建整備法の目的には、その当時の社会情勢としては合理性が認められ、その手段として整備計画への記載を求めた点についても相当性が認められる以上、戦後処理の一環としてやむをえない措置であっ 置法及び企業再建整備法の目的には、その当時の社会情勢としては合理性が認められ、その手段として整備計画への記載を求めた点についても相当性が認められる以上、戦後処理の一環としてやむをえない措置であったといわざるをえない。 したがって、原告らの主張する日本製鐵の原告に対する不法行為に基づく損害賠償債務及び未払賃金債務についての第二会社に対する承継は認められないといわざるを得ない。 また、原告らは、営業財産、取締役、従業員、社標の同一性と朝鮮人元徴用遺族らに対する慰霊費等の支払の事実から、被告新日鐵は日本製鐵と経済的、実質的に同一であることを理由に債務の承継が認められるべきであるとも主張するが、被告新日鐵が承継することとなった八幡製鐵、富土製鐵は、企業再建整備法上の第二会社として、日本製鐵から営業譲渡ないし出資を受けて日本製鐵とは別個の法人格を有する会社として成立した以上、原告らの指摘する点について共通するところはむしろ当然であり、このことから直ちに、法律上も八幡製鐵、富士製鐵、ひいては被告新日鐵への債務の承継があるものとは認めることはできないから、原告らの右主張も採用できない。 このように、原告らの主張するいずれの請求権も、法律上は被告新日鐵へ承継していないといわざるを得ない。 4 供託に関する被告らの責任の有無(争点V2について)(一) 本件各供託に関する被告国の責任の有無について原告らに対する本件各供託は、終戦後の、朝鮮との国交がなかった混乱期に当たる昭和二二年三月一八日(なお、日本国憲法は、昭和二一年一一月三日に公布され、翌二二年五月三日に施行されている。)になされ、直後の昭和二三年に大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が成立しており、供託の要件とされる受領不能であったことは窺えるものの、供託額が正当な賃金をもとに算出されて正確 三日に施行されている。)になされ、直後の昭和二三年に大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が成立しており、供託の要件とされる受領不能であったことは窺えるものの、供託額が正当な賃金をもとに算出されて正確な金額が記載されているとは考えられないから(甲二〇、証人P5)、本件各供託は本来の債務消滅の効力を生じないというべきである。したがって、本件各供託は無効であり、被告国に債権者に対する供託の通知義務があったとはいえず、原告らの供託金返還請求権の発生も認められないから、本件各供託が有効なものであることを前提として被告国の右通知義務違反による供託金返還請求権の侵害をいう原告らの主張は、通知義務違反及び権利侵害のいずれの点においても、失当なものといわざるを得ない。 仮に、本件各供託を有効とみる余地があるとしても、債権者を確知できない場合には、供託の通知が不可能であるから通知も要しないと解すべきところ、本件では、供託報告書記載の原告らの本籍の記載は曖昧であり(甲一)、右時点では、原告らの住所を覚知しえなかったものといえるから、供託官に債権者とされる原告らに対する通知義務まであったものとはにわかに認めがたい。 なお、原告らは、本件各供託が有効であることを前提として、日本製鐵の本件各供託により原告らの有する未払賃金等請求権の行使が困難となったから、これに関与した被告国による債権侵害があったとも主張するが、前記のとおり、本件各供託は無効であるうえに、原告らの主張するように本件各供託が有効であるならば、原告らの未払賃金等請求権は供託によって消滅するのであるから、そもそも原告らが本件各供託によって侵害されたと主張する債権そのものが存しないことになるのであって、この点に関する原告らの主張は、失当なものというべきである。 (二) 本件各供託に関する被告新日鐵の責任の も原告らが本件各供託によって侵害されたと主張する債権そのものが存しないことになるのであって、この点に関する原告らの主張は、失当なものというべきである。 (二) 本件各供託に関する被告新日鐵の責任の有無について被告新日鐵は、本件各供託に関し日本製鐵に何らかの不法行為が成立したとしても、第二会社である八幡製鐵等は、これを承継しないから、同被告には右不法行為に基づく損害賠償責任はないと主張する。 しかしながら、前記認定のとおり、本件各供託は、会社経理応急措置法上の指定時である昭和二一年八月一一日の後の昭和二二年三月一八日になされたものであるから、仮に本件各供託に関し日本製鐵に何らかの不法行為が成立したとすれば、これによる原告らの日本製鐵に対する債権は、同法上にいう「旧債権」には当たらず、日本製鐵の新勘定に属する債権として、第二会社四社に承継されたとみるべき余地がある。 そこで、日本製鐵に本件各供託に関し不法行為による損害賠償債務が生じたかどうかについて検討するに、前記のとおり、本件各供託は無効であり、原告らの日本製鐵に対する未払賃金債権は、本件各供託によっては消滅しなかったものとみるべきところ、原告らは、無効な本件各供託によって、未払賃金債権を行使するために供託自体が無効であるという手続を採らざるを得なくなり、未払賃金債権の行使が困難になったと主張する。 しかしながら、本件全証拠をもってしても、本件各供託後、原告らが、日本製鐵に未払賃金あるいは供託金の支払を求めたのに、無効な本件各供託がされていたために、実際にその権利行使を妨げられた等の経緯は認められないから、日本製鐵が無効な本件各供託をしたことによって、原告らの未払賃金債権の行使を困難ならしめ、これによって右未払賃金債権の実現が困難になった旨の原告らの主張は、採用することができず は認められないから、日本製鐵が無効な本件各供託をしたことによって、原告らの未払賃金債権の行使を困難ならしめ、これによって右未払賃金債権の実現が困難になった旨の原告らの主張は、採用することができず、右主張に基づく原告らの被告新日鐵に対する損害賠償請求は、理由がない。 5 結論したがって、原告らの請求は、理由がないといわざるをえない。 第四結語以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は、損害賠償請求権を前提とする謝罪文交付請求権も含めて、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第二〇民事部裁判長裁判官岡原剛裁判官武田美和子裁判官新谷貴昭は転補につき署名押印できない。 裁判長裁判官岡原剛

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