平成23年4月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(行ケ)第10016号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年3月17日判決原告トーヨー産業株式会社同訴訟代理人弁護士藤川義人同弁理士藤川忠司正木裕士三上祐子被告三星ダイヤモンド工業株式会社同訴訟代理人弁理士小田富士雄能美知康田中弘 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2009-800032号事件について平成21年12月14日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許(甲37)発明の名称:ガラスカッターホイール出願日:平成8年6月4日(国内優先権主張日:平成7年 その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許(甲37)発明の名称:ガラスカッターホイール出願日:平成8年6月4日(国内優先権主張日:平成7年11月6日)登録日:平成12年6月2日特許番号:第3074143号(2) 審判手続及び本件審決審判請求日:平成21年2月17日(無効2009-800032号)審決日:平成21年12月14日審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。 原告に対する審決謄本送達日:平成21年12月25日 2 本件発明の要旨本件発明の要旨は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次のとおりのものである。以下,【請求項1】ないし【請求項10】に係る発明を順に「本件発明1」ないし「本件発明10」といい,併せて「本件発明」という。 なお,本件特許に係る明細書(甲37)を,図面を含め,「本件明細書」という。 【請求項1】ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成したことを特徴とするガラスカッターホイール【請求項2】ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成したことを特徴とするガラスカッターホイール【請求項3】上記突起のピッチ及び高さを,ホイール径に応じた値とした請求項1又は2記載のガラスカッターホイール【請求項4】上記突起のピッチを,1ないし20㎜のホイール径に応じ20ないし200μmとした請求項1ないし3のいずれかに記載のガラスカッターホイール【請求項5】上記突起の高さを,1ないし20㎜のホイール径に応じ2ないし20 μ 20㎜のホイール径に応じ20ないし200μmとした請求項1ないし3のいずれかに記載のガラスカッターホイール【請求項5】上記突起の高さを,1ないし20㎜のホイール径に応じ2ないし20 μmとした請求項1ないし4のいずれかに記載のガラスカッターホイール【請求項6】刃先に対し,直交方向に当接させたグラインダで切り欠くことで上記突起を形成する請求項1ないし5のいずれかに記載のガラスカッターホイール【請求項7】刃先を放電加工機で加工することにより上記突起を形成する請求項1ないし5のいずれかに記載のガラスカッターホイール【請求項8】テーブルに載置したガラス板に対して,カッターヘッドが相対的にX及びY方向に移動する機構の自動ガラススクライバーにおいて,前記カッターヘッドに請求項1ないし7のいずれかに記載のガラスカッターホイールを具備したことを特徴とする自動ガラススクライバー【請求項9】柄の先に設けたホルダーに,請求項1ないし7のいずれかに記載のガラスカッターホイールを回転自在に軸着してなることを特徴とするガラス切り【請求項10】請求項1ないし7のいずれかに記載のガラスカッターホイールは,該ホイールに挿通される軸と一体的に形成されることを特徴とするガラスカッターホイール 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,要するに,① 本件発明1について,下記ア又はイの引用例に記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)と同一の発明ではない,② 本件発明について,引用発明1及び2並びに下記ウ及びエの引用例に記載された発明(以下「引用発明3」及び「引用発明4」という。)等に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない,③ 本件発明3ないし5について,いわゆる実施可能要件に違反す された発明(以下「引用発明3」及び「引用発明4」という。)等に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない,③ 本件発明3ないし5について,いわゆる実施可能要件に違反するものではないので,本件発明に係る本件特許を無効にすることができない,というものである。 ア引用例1:特開平6-56451号公報(甲1)イ引用例2:特開昭53-143622号公報(甲2)ウ引用例3:実願昭54-8637号(実開昭55-107304号)のマイクロフィルム(甲3) エ引用例4:特開平3-154797号公報(甲8)(2) なお,本件審決が認定した引用発明1ないし3並びに本件発明1及び2と引用発明1ないし3との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア本件発明1と引用発明1との関係(ア) 引用発明1:円盤に対して両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成したホイールにおいて,該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にしたガラスカッターのホイール(イ) 一致点:ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール(ウ) 相違点1―1:本件発明1は,ガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定するのに対し,引用発明1は,「ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」と特定する点イ本件発明1と引用発明2との関係(ア) 引用発明2:「円周が傷をつけ,刃先の斜面の研削筋に0ないし180°の角度 の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」と特定する点イ本件発明1と引用発明2との関係(ア) 引用発明2:「円周が傷をつけ,刃先の斜面の研削筋に0ないし180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とするガラス材カッター刃(イ) 一致点:ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール(ウ) 相違点1-2:本件発明1は,ガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定するのに対し,引用発明2は,ガラス材カッター刃において「刃先の斜面の研削筋に0ないし180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」と特定する点ウ本件発明1と引用発明3との関係(ア) 引用発明3:外周の刃先に等間隔に複数の切欠部を形成し,瓦にV字状の 溝を切込む,瓦カッターの下部刃車(イ) 一致点:ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字状の刃を形成してなるカッターホイール(ウ) 相違点1-3-1:本件発明1は,「ガラス」カッターホイールと特定するのに対して,本件発明3は「瓦」カッターの下部刃車と特定する点(エ) 相違点1-3-2:本件発明1は,ガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定するのに対して,引用発明3は瓦カッターの下部刃車において「刃先に等間隔に複数の切欠部を形成した」と特定する点エ本件発明2と引用発明1との関係(ア) 引用発明1:前記ア(ア)のとおり(イ) 一致点:ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール(ウ) 相違点2-1:本件発明2は,ガラスカッターホイールにおいて「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形 ク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール(ウ) 相違点2-1:本件発明2は,ガラスカッターホイールにおいて「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」と特定するのに対して,引用発明1はガラスカッターホイールにおいて「該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」と特定する点オ本件発明2と引用発明2との関係(ア) 引用発明2:前記イ(ア)のとおり(イ) 一致点:ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール(ウ) 相違点2-2:本件発明2は,ガラスカッターホイールにおいて「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」と特定するのに対して,引用発明2はガラス材カッター刃において「刃先の斜面の研削筋に0ないし180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」と特定する点 カ本件発明2と引用発明3との関係(ア) 引用発明3:前記ウ(ア)のとおり(イ) 一致点:ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字状の刃を形成してなるカッターホイール(ウ) 相違点2-3:本件発明2は,「ガラス」カッターホイールと特定するのに対して,本件発明3は「瓦」カッターの下部刃車と特定する点 4 取消事由(1) 本件発明1の新規性に係る判断の誤り(取消事由1)(2) 本件発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2)(3) 本件発明3ないし5の実施可能要件に係る判断の誤り(取消事由3)第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 相違点1-1について 明3ないし5の実施可能要件に係る判断の誤り(取消事由3)第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 相違点1-1についてア引用発明1の刃先の稜線部に「突起」が形成されているかについて(ア) 本件審決は,引用発明1の刃先が,本件発明1の「刃」に相当するものの,その稜線部に形成されている凹凸は,本件発明1の「突起」に相当しないとする。 しかしながら,本件審決は,被告が製造したガラスカッターホイール(甲22)等を参酌し,引用発明1の刃の稜線部に形成される凹凸は,微細な山と谷とからなるにとどまるとするものであり,明らかに客観性に欠けるものである。 また,仮に,引用発明1の刃の稜線部が微細な山と谷とからなるとしても,その微細な山と谷は,凹凸である以上,当然,凸部が,凹部よりも部分的に突き出ていることは自明である。 さらに,定まった形状の突起とは,単にある部分の突起の形状が定まっていればよいのであるから,規則的に形成されているか否かは問わないものというべきであって,引用発明1の刃の稜線部に形成される凹凸が,不規則な凹凸であったとして も,定まった形状の突起について開示されていることは明らかである。 (イ) 本件審決は,引用例1には,刃の稜線部に鋸刃を形成することの記載や示唆はないとするが,本件発明1の刃の稜線部に形成されている凹凸が「突起」に該当する以上,引用例1に示唆があるか否かは無関係である。 イ引用発明1の刃先の稜線部に形成される「突起」が打点衝撃を与えるかについて(ア) 本件審決は,本件発明1の「打点衝撃を与える」について,本件明細書の記載を参酌し,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生さ るかについて(ア) 本件審決は,本件発明1の「打点衝撃を与える」について,本件明細書の記載を参酌し,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させつつ,ガラスを連続的にスクライブすることができるものであるとした上で,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸が「打点衝撃を与える」ものではないとする。 しかしながら,本件発明1の「打点衝撃を与える」という文言自体は,一義的に明確に理解されるべきものであるから,本件明細書を参酌することは許されない。 (イ) 引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸をガラス板に当接させれば,凸の先端部分に応力が集中し,それにより,ガラス板表面に「打点」が生じることは,凸の形状を考慮すれば自明である。しかも,ガラス板表面に「打点」を生じさせようとすれば,一定の「衝撃」力をもって,「打点」を生じさせていることは,ガラスの材質を考慮すれば自明の理である。 したがって,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸が「打点衝撃を与える」ことは自明である。 ウ引用例1に,刃の稜線部に鋸刃を形成することの記載や示唆があるかについて本件審決は,引用例1には,刃の稜線部に鋸刃を形成すること自体の記載も示唆もないとする。 しかしながら,引用例1の図2には,模式図にすぎないとしても,刃の稜線部に鋸刃が形成されることが明確に図示されているし,当該鋸刃は,先に指摘したとお り,本件発明1の「打点衝撃を与える突起」に相当するものであるから,本件審決の認定は明らかに誤りである。 エ小括以上からすると,相違点1―1は,実質的な相違点ということはできない。 (2) 相違点1-2についてア引用発明2の刃先の先端に「突起」が形成されているかについて(ア) 本件審 エ小括以上からすると,相違点1―1は,実質的な相違点ということはできない。 (2) 相違点1-2についてア引用発明2の刃先の先端に「突起」が形成されているかについて(ア) 本件審決は,引用発明2の刃先の先端に形成される微小の鋸歯状は,微細な山と谷とからなるものであり,本件発明1の「突起」には相当しないとする。 しかしながら,本件審決が参酌した甲22等は,いずれも被告が製造したガラスカッターホイールにすぎず,明らかに客観性を欠くものである。 (イ) 引用発明2は,一定の幅,深さの傷を付けることができず,切れ具合や切り口形状に悪影響を及ぼすという従来技術の課題を解決するための発明であるところ,ガラスに一定の幅,深さの傷を生じさせるためには,一定の衝撃力を加える必要があることは明らかである。 また,引用例2の図9には,刃先の先端に「部分的に突き出たもの」が明確に図示されているのであるから,引用発明2の刃先の先端には「突起」が形成されていることは明らかである。 イ引用発明2の刃先の先端に形成される「突起」が打点衝撃を与えるかについて(ア) 前記(1)イのとおり,引用発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」について,本件明細書の記載を参酌した本件審決の判断は,それ自体,誤りである。 (イ) 本件審決は,引用例2には,微小の鋸歯状とする刃の先端が打点衝撃を与えることについての記載も示唆もないとするが,引用例2には,ガラス表面に微細な傷が付くと記載されているのであるから,少なくとも打点衝撃を与えることに関する示唆は存在するものである。 そして,引用発明2の刃によって,打点衝撃が与えられることは,原告による各 種実験結果(甲35,36,38~40,42,44。枝番省略。以下,特に断らない限り,同じ。また,上記各 である。 そして,引用発明2の刃によって,打点衝撃が与えられることは,原告による各 種実験結果(甲35,36,38~40,42,44。枝番省略。以下,特に断らない限り,同じ。また,上記各実験は,実験の目的がそれぞれ異なるものもあるが,総称して,「原告実験結果」という。)からも明らかである。特に,事実実験公正証書(甲40)によれば,引用発明2における微小の鋸歯状の刃を用いることによって,ガラスの中心と端面とでは,多少の誤差はあるものの,ガラス板に対して不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることができることが開示されている。別途形成した3本のスクライブラインも,ガラス片に深い垂直クラックが形成され,水平クラックが防止されているから,このような結果は偶発的に生じたものではない。 これに対し,被告による実験報告書(乙3,12。以下,被告による実験に係る上記各書証を総称して,「被告実験結果」という。)は,被告の従業員が行った実験にすぎず,客観性を欠くものであるし,乙12は,原告の実験条件(先端角度,刃先荷重)と異なる条件に基づくものであり,公平性にも欠けるものである。甲42によると,本件明細書【0011】に記載の刃先荷重3.6kgf(≒0.36MPA)により,1.1㎜厚のガラスを切断すると,明らかに水平クラックが生じるから,水平クラックが生じないとする被告の主張は誤りである。 また,甲44は,被告が主張する垂直クラックの観察方法を前提とするものであるが,甲44によれば,甲40の刃先荷重(0.18MPA)とは異なる刃先荷重(0.25MPA)であっても,ガラス板に対して不要な水平クラックが発生せず,板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックが発生していることが客観的に明らかである。 0.18MPA)とは異なる刃先荷重(0.25MPA)であっても,ガラス板に対して不要な水平クラックが発生せず,板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックが発生していることが客観的に明らかである。 なお,被告は,原告実験結果に係る刃の製造方法が不明であるなどと主張するが,各刃は,高速に回転させたダイヤモンド砥石に,ガラスカッターホイールを低速に回転させながら当接させて作製したもので,このような方法は,一般的な研削方法であるから,製造方法が記載されていないことを理由とする被告主張は失当である。 ウ小括 以上からすると,相違点1-2は,実質的な相違点ということはできない。 (3) 本件発明1の新規性についてしたがって,本件発明1は,引用発明1又は2と同一の発明であって,新規性を有しないものというべきであるから,本件審決は取消しを免れない。 〔被告の主張〕(1) 相違点1-1についてア引用発明1の刃先の稜線部に「突起」が形成されているかについて(ア) 本件審決は,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」とは,「突起による点接触が中心となり,スクライブ時にガラス板の表面方向に発生する応力が従来のものと比べて少ないため,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させつつ,ガラスを連続的にスクライブすることができるよう,定まった形状の突起である」とした上で,甲22等を参酌し,引用発明1の刃の稜線部に形成される凹凸は,微細な山と谷とからなるにすぎないとするものであって,その判断に誤りはない。 (イ) 引用発明1の刃の稜線部には,不規則な凹凸が形成されているにすぎず,「所定形状の突起」,すなわち定まった形状の突起を形成することを意図してはいないのみならず,刃の その判断に誤りはない。 (イ) 引用発明1の刃の稜線部には,不規則な凹凸が形成されているにすぎず,「所定形状の突起」,すなわち定まった形状の突起を形成することを意図してはいないのみならず,刃の稜線部を全体として見た場合に部分的に突き出たといえるような突起を形成することも意図していないことは明白である。 イ引用発明1の刃先の稜線部に形成される「突起」が打点衝撃を与えるかについて(ア) 引用発明1における微細な凹凸が,本件発明1のような「打点衝撃」を与えるか否かは評価の問題であるところ,引用発明1のような研削条痕により形成された微細な凹凸では,本件発明1の「打点衝撃」を与えることができないことは,引用発明1を従来技術として指摘する本件明細書の記載(【0010】~【0016】及び図9~図11)から明らかである。 (イ) 本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」とは,前記ア(ア)のと おりの打点衝撃を与えるものであるところ,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸が,「打点衝撃を与える」ものではないことは明らかである。 ウ小括以上からすると,相違点1―1は実質的な相違点ということはできないとする原告主張は誤りである。 (2) 相違点1-2についてア引用発明2の刃先の先端に「突起」が形成されているかについて引用発明2の刃先の先端に形成される微小の鋸歯状は,微細な山と谷とからなるものにすぎず,定まった形状の突起を形成することを意図してはいないばかりか,刃の稜線部全体として見た場合に部分的に突き出たといえるような突起を形成することも意図していないことは明白である。 したがって,本件審決が,引用発明2の刃先の先端に形成されている微小の鋸歯状は,部分的に突き出たものとはいえないから,本件発明1の「突起」 な突起を形成することも意図していないことは明白である。 したがって,本件審決が,引用発明2の刃先の先端に形成されている微小の鋸歯状は,部分的に突き出たものとはいえないから,本件発明1の「突起」に相当するとはいえないとした点に誤りはない。 イ引用発明2の刃先の先端に形成される「突起」が打点衝撃を与えるかについて(ア) ガラス表面に微細な傷が付くようにすることと,傷を付けたことの結果として傷に沿って形成されるクラックの深さが長くなり,板厚を貫通するほどの極めて長い垂直なクラックを発生させることとは技術的に全く異なる事項である。ガラス表面の傷は,ガラスカッターによる引っ掻きにより即物的に形成されるが,垂直クラックは,スクライブラインが形成されるに当たり,ガラス内部の応力の状態によって深さが変化するものである。 したがって,表面に傷を付けたガラスを折るために必要な力の大きさ,すなわち,ガラスの折れやすさは,ガラス表面の傷自体ではなく,傷に沿って形成される垂直クラックによって定まるものであることは明白である。 (イ) 引用発明2は,ガラス材の一方の表面に微細な傷を付け,他方から生じた 傷に高温でシャープな炎を当てて切断する方法に用いられるカッター刃に関する発明であり,同発明が軽く触れるだけで微細な傷が付くようにしているのは,比較的大きな衝撃を与える方法で折ることを前提としており,本件発明1のような深い垂直クラックが形成される程度の傷を付けることができることを示すものではない。 (ウ) 引用例2及び原告実験結果には,いずれもガラスカッターの刃の製造方法について,何ら開示されていないから,各カッターの刃について,引用発明2のカッターの刃と同一のものであるということはできない。 これらの刃は,いわゆるベベル研削法により ラスカッターの刃の製造方法について,何ら開示されていないから,各カッターの刃について,引用発明2のカッターの刃と同一のものであるということはできない。 これらの刃は,いわゆるベベル研削法により製造されたものと推測されるが,同方法による場合,研削に用いられる砥石の砥粒の接合状態により,設計上,凹凸の形状が定まっていても,工業的に大量生産される個々の製品間の刃先の微小の鋸歯状(凹凸の形状)は,製品ごとに異なるものであって,凹凸の形状があらかじめ定まっているものとはいえない。 しかも,甲36の写真では,水平クラックがどの程度形成されているかについては確認することができないし,甲40にも,水平クラックがどの程度形成されたか,公証人がいかなる部分を水平クラックと認識したかに関する記載はない。また,水平クラックは,通常,ガラス表面よりも少し内側で発生するものであり,ガラス片の端面における垂直クラックは,過渡的に長く形成されるとともに,水平クラックも大きくなる可能性があるから,甲40には,スクライブラインのガラス片中央付近と一方の端面とを除いた部分の垂直クラック及び水平クラックが示されていないから,本件発明1に係るガラスカッターホイールとどの程度の作用効果の差異が生じているかについて,確認することはできない。 さらに,甲40において使用されたガラスカッターの刃は,甲35,36,38,39において使用された刃と異なるものであるから,甲40により,その余の原告実験結果の信用性を裏付けることもできない。実際,被告実験結果によると,引用例発明2の刃によっては,深い垂直クラックを発生させることは困難であった。 なお,甲40に記載された刃先荷重は,エアーシリンダ内の断面積を無視して圧 力値をそのまま記載しているから,適切な刃先荷重を示すもので は,深い垂直クラックを発生させることは困難であった。 なお,甲40に記載された刃先荷重は,エアーシリンダ内の断面積を無視して圧 力値をそのまま記載しているから,適切な刃先荷重を示すものではなく,しかも,ガラスカッターのヘッド部のピストン,ロッド部及びヘッド部の総重量を考慮しておらず,不適切なものでもある。したがって,甲40,42の刃先荷重は不正確であるから,異なる刃先荷重を用いている被告実験結果と比較することは無意味である。いずれにせよ,乙12によると,引用発明1及び2のような従来のガラスカッターホイールを用いると,ガラスカッターホイールに印加される切断荷重が大きくなるに従って,ガラス内部での垂直クラックの深さが変化しなくても,ガラス端面では垂直クラックが深くなることが明確に確認できるものである。 (エ) したがって,本件審決が,引用発明2のガラス材カッター刃の「刃先の斜面の研削筋に0ないし180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」構成が,本件発明1の「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」に相当するとはいえないと認定した点に誤りはない。 ウ小括以上からすると,相違点1―2は実質的な相違点ということはできないとする原告主張は誤りである。 (3) 本件発明1の新規性についてしたがって,本件発明1は,引用発明1又は2と同一であるとはいうことはできず,本件発明1の新規性を認めた本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(本件発明の進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件発明1についてア引用発明1に基づく容易想到性(ア) 取消事由1について先に指摘したとおり,相違点1-1は,実質的な相違点ということはできない。 また,引用例1及び2には,本件発明1の「打点衝 いてア引用発明1に基づく容易想到性(ア) 取消事由1について先に指摘したとおり,相違点1-1は,実質的な相違点ということはできない。 また,引用例1及び2には,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当する構成が少なくとも示唆されているということができる。 (イ) 原告実験結果からすると,引用発明2のガラスカッターホイールが極めて長い垂直クラックを形成することは明らかであることに加え,引用例1及び2の記載からすると,本件発明1の効果も,当業者が容易に推測し得るものである。 被告は,打点衝撃の有用性や可能性がガラスカッターホイールの分野で全く認識されていなかったなどと主張するが,その根拠を示すものではない。しかも,引用例1には,ガラスカッターホイールの刃先に形成された条痕の効果として,刃先のガラス板へのかみ合いが確実となるものとされており,引用発明2の刃によれば,ガラス板に対して不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックが発生することは明らかであるから,引用例1及び2には,打点衝撃の有用性や可能性が開示されているものである。 したがって,本件発明1は,少なくとも当業者が引用発明1に引用発明2を組み合わせることによって,容易に想到し得るものであるというべきである。 イ引用発明2に基づく容易想到性引用例2にも,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当する構成が示唆されているということができる。 したがって,本件発明1は,当業者が引用発明2に引用発明1を組み合わせることによっても,容易に想到し得るものであるというべきである。 ウ引用発明3に基づく容易想到性(ア) 相違点1-3-1について本件審決は,通常,瓦とは粘土瓦を想起 用発明1を組み合わせることによっても,容易に想到し得るものであるというべきである。 ウ引用発明3に基づく容易想到性(ア) 相違点1-3-1について本件審決は,通常,瓦とは粘土瓦を想起するのが自然であり,ガラスは亀裂を生じるようには切断されないことなどを根拠に,引用発明3が粘土瓦のみを前提としているとするが,いずれも合理的な根拠に基づかないものである。 したがって,引用発明3の瓦は,粘土瓦のみを前提とするものではない。 また,本件優先日当時,ガラス製の瓦(ガラス瓦)が存在することは周知(甲4~7,17~19)であるから,引用発明3の瓦カッターは,ガラス瓦を切断することができるものである。 この点について,確かに,ガラス瓦のメーカーが作成した資料(乙6)には,ガラス瓦を加工しないように注意を促す旨の記載があるものの,加工すること自体は不可能ではない。実際に,ガラス瓦を切断加工した例もある(甲43)。 以上からすると,ガラスを切断できる瓦カッターの下部刃車を,ガラスカッターホイールに転用することは,当業者が容易に想到し得る事項である。 (イ) 相違点1-3-2について本件発明1のガラスカッターホイールにおいて,ガラスに打点衝撃を生じさせるには,刃先外周に突起を形成した上で,突起に対し,何らかの押圧力を生じさせる必要があり,押圧力を加えなければ,突起が形成されていても,ガラスに打点衝撃は生じない。 引用発明3の上部刃車は,単に,瓦に対して鉛直下向きの押圧力を付与しているにすぎないが,下部刃車の刃先には,等間隔に複数の切欠部が形成されており,その構造と作用効果からすると,このような切欠部は,本件発明1のガラスカッターホイールとは押圧力が作用する方向は異なるものの,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当す 数の切欠部が形成されており,その構造と作用効果からすると,このような切欠部は,本件発明1のガラスカッターホイールとは押圧力が作用する方向は異なるものの,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当するものということができる。 (ウ) 小括以上からすると,本件発明1は,引用発明3及びガラス瓦に係る技術知見に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。 エ本件発明1の進歩性についてしたがって,本件発明1は,引用発明1ないし3に基づいて,当業者が容易に想到し得るものというべきであって,本件審決は取消しを免れない。 (2) 本件発明2ないし10についてア本件発明2について本件発明2は,本件発明1の数値限定発明であるところ,本件発明2の作用効果は,本件発明1からも生じる作用効果にすぎず,しかも,本件明細書には,本件発明2が,「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」と数値 限定した構成を採用したことに基づく作用効果について,何ら記載されていない。 したがって,本件発明1は新規性又は進歩性を欠くものというべきであるところ,本件発明2の「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」との構成も,単なる設計的事項にすぎないということができるから,本件発明2も,同様に,進歩性を有しないものである。 イ本件発明3について本件発明3は,本件発明1又は2の従属項であり,「上記突起のピッチ及び高さを,ホイール径に応じた値とした」構成を有するものである。 引用発明1ないし3は,当該構成を有しないものの,同構成は,当業者が設計上当然に考え得ることであるし,同構成から生じる作用効果については,本件明細書には何ら記載されていない。 したがって,本件発明3は,同様に,進歩性 当該構成を有しないものの,同構成は,当業者が設計上当然に考え得ることであるし,同構成から生じる作用効果については,本件明細書には何ら記載されていない。 したがって,本件発明3は,同様に,進歩性を有しないものというべきである。 ウ本件発明4について本件発明4は,本件発明1ないし3の従属項であり,「上記突起のピッチを,1ないし20㎜のホイール径に応じ20ないし200μmとした」構成を有するものである。 引用発明1ないし3は,当該構成を有しないものの,本件明細書には,ガラスカッターホイールのホイール外径は,1ないし20㎜であることが一般的であるとされているものである。そして,本件明細書には,突起のピッチを20ないし200μmとしたことによる作用効果は記載されていないのであるから,ホイール外径に応じて突起のピッチを設定することは,設計的事項にすぎないというべきである。 したがって,本件発明4は,同様に,進歩性を有しないものというべきである。 エ本件発明5について本件発明5は,本件発明1ないし4の従属項であり,「上記突起の高さを,1ないし20㎜のホイール径に応じ2ないし20μmとした」構成を有するものであるところ,上記構成は,本件発明4のホイール径及び突起のピッチに係る構成と同様, 設計的事項にすぎないというべきである。 したがって,本件発明5も,同様に,進歩性を有しないものというべきである。 オ本件発明6について本件発明6は,本件発明1ないし5の従属項であり,「刃先に対し,直行方向に当接させたグラインダで切り欠くことで上記突起を形成する」構成を有するものである。 そして,引用例1には,「刃先に対し,直行方向に当接させたグラインダで切り欠くことで条痕を形成する」構成が開示されているところ,本件明細 切り欠くことで上記突起を形成する」構成を有するものである。 そして,引用例1には,「刃先に対し,直行方向に当接させたグラインダで切り欠くことで条痕を形成する」構成が開示されているところ,本件明細書には,グラインダで突起を形成することの技術的困難性が指摘されているものではないから,グラインダで突起を形成することは,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。 したがって,本件発明6は,本件発明1ないし5に引用例1を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得るものということができる。 以上からすると,本件発明6は,進歩性を有しないものというべきである。 カ本件発明7について本件発明7は,本件発明1ないし5の従属項であり,「刃先を放電加工機で加工することにより上記突起を形成する」構成を有するものである。 特開平7-96461号公報(甲9)には,ダイヤモンド又はCBN等の超砥粒を使用した超砥粒砥石の先端に微細な凹凸を形成し,被切削物に対する切刃として作用させ,被切削物に対する切れ味を向上させる技術及び超砥粒砥石に形成されるダイヤモンド又はCBN等の超砥粒の先端面に微細な凹凸を放電加工によって刻設される構成が開示されており,本件発明7とは,被切削物に対する切刃を形成する点及び切刃を形成するための材料が同一である。 したがって,本件発明7は,本件発明1ないし5に甲9を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得るものということができる。 以上からすると,本件発明7は,進歩性を有しないものというべきである。 キ本件発明8について 本件発明8は,本件発明1ないし7の従属項であり,「テーブルに載置したカッターヘッドが相対的にX及びY方向に移動する機構の自動ガラススクライバー」という構成を有するものである。 特開 本件発明8は,本件発明1ないし7の従属項であり,「テーブルに載置したカッターヘッドが相対的にX及びY方向に移動する機構の自動ガラススクライバー」という構成を有するものである。 特開平6-1628号公報(甲10)には,テーブルに載置したカッターヘッドが相対的にX及びY方向に移動する機構の自動ガラススクライバーが開示されており,本件発明8は,本件発明1ないし7に甲10を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得るものということができる。 したがって,本件発明8は,進歩性を有しないものというべきである。 ク本件発明9について本件発明9は,本件発明1ないし7の従属項であり,「柄の先に設けたホルダーに,ガラスカッターホイールが回転自在に軸着する」構成を有するものである。 実公昭62-23780号公報(甲11)には,柄の先に円板状の切刃が回転自在に軸着してなるホルダが設けられたガラス切りが開示されており,本件発明9は,本件発明1ないし7に甲11を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得るものということができる。 したがって,本件発明9は,進歩性を有しないものというべきである。 ケ本件発明10について本件発明10は,本件発明1ないし7の従属項であり,「ガラスカッターホイールに挿通される軸と一体的に形成される」構成を有するものである。 特開平3-138105号公報(甲12)には,カッターホイールのホイールチップ部と軸部とが同一の部材でかつ一体的に形成されている構成が開示されており,本件発明10は,本件発明1ないし7に甲12を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得るものということができる。 したがって,本件発明10は,進歩性を有しないものというべきである。 (3) 小括以上からすると,本件 7に甲12を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得るものということができる。 したがって,本件発明10は,進歩性を有しないものというべきである。 (3) 小括以上からすると,本件発明3ないし10は,いずれも進歩性を有しないものとい うべきである。 〔被告の主張〕(1) 本件発明1についてア引用発明1に基づく容易想到性(ア) 取消事由1について先に指摘したとおり,相違点1-1が実質的な相違点ということはできないとする原告の主張は,その前提自体が誤りである。 (イ) 「打点衝撃」という用語は,ガラスカッターホイールの分野で普通に使用されている用語ではないから,引用例1及び2において,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当する構成が少なくとも示唆されているとする原告の主張はいわゆる後知恵にすぎない。 「打点衝撃」の有用性や可能性がガラスカッターホイールの分野で全く認識も期待もされていなかった以上,ガラスカッターホイールに「打点衝撃」を与えるための「突起」を形成することは,当業者であっても容易に想到することはできない。 したがって,本件発明1は,少なくとも当業者が引用発明1に引用発明2を組み合わせることにより,容易に想到し得るものであるということはできない。 イ引用発明2に基づく容易想到性(ア) 取消事由1について先に指摘したとおり,相違点1-2が実質的な相違点ということはできないとする原告の主張は,その前提自体が誤りである。 (イ) 「打点衝撃」の有用性や可能性が当業者に認識されておらず,引用例1及び2において,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当する構成が少なくとも示唆されているということができない以上,「打点衝撃」を与えるための「突起」を形成することは,当業者であっても ,引用例1及び2において,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当する構成が少なくとも示唆されているということができない以上,「打点衝撃」を与えるための「突起」を形成することは,当業者であっても容易に想到することはできない。 したがって,本件発明1は,少なくとも当業者が引用発明2に引用発明1を組み合わせることにより,容易に想到し得るものであるということはできない。 ウ引用発明3に基づく容易想到性(ア) 相違点1-3-1について 本件審決は,通常の瓦は,粘土において結合されている微細な粒子間に亀裂が生じるが,ガラスは,ガラス分子の結合を分断するような亀裂が生じることから,瓦とガラスとでは,同じ亀裂であっても意味合いが異なることを前提とする。 しかも,通常,瓦といえば粘土瓦を想起するのが自然であり,強度の低下等を避けるために,ガラス瓦は切断することを避けるものとされているから,ガラス瓦を切断加工できること自体はともかくとして,瓦カッターをガラス瓦の切断に転用することは容易に想到し得るという原告主張は,ガラス瓦の安全性に対する配慮を無視するものである(甲19,21,乙4,5,6)。 したがって,本件優先日当時,ガラス瓦が周知であったとしても,瓦カッターはガラス瓦の切断用に使用することは予定されていないと解するのが相当である。 (イ) 相違点1-3-2について引用例3には,下部刃車のみで瓦を切断できることを示唆する記載はないから,当該構成のみに専ら着目してガラスカッターホイールとすることは当業者が容易になし得るものではなく,しかも,ガラスカッターホイールの刃先に「打点衝撃を与える所定形状の突起」を形成することの技術的有用性や可能性は,本件優先日前に認識されていたわけではないから,原告の主張は後知恵にすぎな のではなく,しかも,ガラスカッターホイールの刃先に「打点衝撃を与える所定形状の突起」を形成することの技術的有用性や可能性は,本件優先日前に認識されていたわけではないから,原告の主張は後知恵にすぎない。 (ウ) 小括以上からすると,本件発明1は,引用発明3及びガラス瓦に係る技術知見に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (2) 本件発明2ないし10についてア本件発明2について本件発明2は,本件発明1の数値限定発明ではない。 そして,本件発明1は,引用発明1及び2と同一の発明ではなく,また,引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 しかも,引用例1及び2には,「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成」する点については,何ら開示していない。 したがって,本件発明2が,本件発明1の数値限定発明であることを前提とする原告の主張は,その前提自体が誤りであるというべきである。 イ本件発明3ないし10について本件発明3ないし10は,それぞれ本件発明1又2を引用する発明であって,本件発明1又は2の構成を全て包含するものである。 本件発明1及び2は,いずれも新規性及び進歩性を有するものであるから,本件発明1及び2が,いずれも新規性及び進歩性を有しないことを前提に,本件発明3ないし10についても進歩性を否定する原告の主張は,失当である。 3 取消事由3(本件発明3ないし5の実施可能要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件明細書の記載について明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて,当業者が発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかが理解できないときには,い 本件明細書の記載について明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて,当業者が発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかが理解できないときには,いわゆる実施可能要件を欠くものというべきである。 本件明細書【0011】には,特定のホイール径,突起の高さ,ピッチの組合せの例や好ましい使用について,いわゆるベストモードというべき具体例が示され,そのほか,【0024】に,好ましい使用及び推奨加工データが示されているものの,当該数値範囲から,いかなる理由で【0011】に記載されている数値に至ったのかに係る指針が何ら示されていないため,同明細書には,ホイール径,突起の高さ,ピッチの関係を一義的に定める記載は存在しないというほかない。 しかも,甲42によると,本件明細書【0011】に記載されているベストモードの数値を用いてガラス板を切断した場合でも,水平クラックが生じるものであり,本件発明3ないし5のガラスカッターホイールを用いれば,本件明細書図9のように,常に水平クラックが生じないガラス断面となるのかは,明らかではない。 したがって,本件発明3ないし5の効果を発揮するようなガラスカッターホイー ルを当業者が製造するためには,本件明細書記載の様々な組合せの中から1つの値を抽出し,その値に基づいてホイールを製造した上で,当該ホイールが,本件発明3ないし5の作用効果を発揮するか否かを確認せざるを得ない。 そこで,当業者は,本件明細書の記載を参酌しても,本件発明3ないし5の実施に当たり,過度の試行錯誤を強いられるものというべきである。 (2) 小括以上からすると,本件発明3ないし5について,実施可能要件を充足するとした本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕(1) 本件明細書の記載 強いられるものというべきである。 (2) 小括以上からすると,本件発明3ないし5について,実施可能要件を充足するとした本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕(1) 本件明細書の記載について本件明細書【0011】には,いわゆるベストモードともいうべき具体例が明示されており,また,特許法上,ホイール径,突起の高さ,ピッチ等のそれぞれの組合せについて一義的に定めることができるように開示することまでは要求されていないから,当業者であれば,同明細書段落【0024】に開示されているホイール径等の好ましい範囲から適宜の数値を選択して実施することが可能である。 甲42における実験条件と,本件明細書【0011】記載の条件とは,刃先荷重及びホイール厚と刃先角度については近似しているが,他の物理量は異なるのみならず,原告の主張する刃先荷重は,その概念自体に大きな誤りがあるから,甲42の刃先荷重と本件明細書における刃先荷重を直接比較することはできない。ガラスの切断において,ホイール径,刃先角度が大きく影響することは当業者に周知であり,本件発明における所定形状の突起形成にはピッチと高さが重要な要素となることも考慮すると,甲42によっては本件発明3ないし5の作用・効果を奏しない,とすることはできない。 そこで,本件審決が,本件発明3ないし5の実施に当たり,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を必要とするというまでの不備が本件明細書に存するとはいえないとしたことに誤りはない。 (2) 小括以上からすると,本件発明3ないし5について,実施可能要件を充足するとした本件審決の判断に誤りはない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について(1) 本件発明1についてア本件明細 て,実施可能要件を充足するとした本件審決の判断に誤りはない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について(1) 本件発明1についてア本件明細書(甲37)の記載本件発明1の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書(甲37)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (ア) 本件発明は,ガラス板上に圧接状態にして転動させることでスクライブライン(切り筋)を刻むガラスカッターホイールに関する発明である。 このガラスカッターホイールは,超硬合金製等の円盤に対して両側の円周エッジ部を互いに斜めに削り込み,円周面にV字形の刃を形成したものであり,自動ガラススクライバーのカッターヘッド等に回転自在に軸着して用いられる。 このガラスカッターホイールでは,ホイールとガラス板との摩擦力を高めてホイールのスリップを防止するために,刃先の稜線部を平坦にし,その平坦部を粗面仕上げにするなどして,途切れのないスクライブラインの形成と刃先の摩耗防止を図っていた。 しかしながら,尖った刃先を平坦に削り取る方法では,本来のスクライブ性能を発揮することができないため,刃を形成している両傾斜面に対し,グラインダ等を用いて条痕を形成する工夫もされた(【0001】~【0005】)。 (イ) 従来技術では,ホイールに要求されるスクライブ性能,すなわち,スクライブ後のブレイクの際,小さな力を加えるだけで,スクライブラインに沿ってガラス板を正確にブレイクでき,ガラスを分断した箇所で商品価値を低下させる水平方向の欠けが少ないという性能を充足することはできなかった。 本件発明は,ホイールのスリップを防止するとともに,スクライブ性能を向上さ せるために,ディスク状ホイールの円周部に沿っ る水平方向の欠けが少ないという性能を充足することはできなかった。 本件発明は,ホイールのスリップを防止するとともに,スクライブ性能を向上さ せるために,ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,刃先に所定形状の突起を形成したことを特徴とするものである(【0006】~【0008】)。 (ウ) 本件発明のガラスカッターホイールでスクライブすると,ガラス板に,板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることができる。これは,ガラスカッターホイールの転動時,ホイールに設けた突起により,ガラス板に打点衝撃を与えることに加え,突起がガラス板に深く食い込むためである。 また,ガラス板に対する食い込みは,突起による点接触が中心となるため,スクライブ時に,ガラス板の表面方向に発生する応力が従来と比べて少なくなり,不要な水平クラックが発生しない。 さらに,ガラス板に突起が食い込むことにより,ガラスカッターホイールのスリップが皆無となり,スリップに伴う摩耗などの不都合も生じない(【0009】)。 (エ) 本件発明1のガラスカッターホイールは,ホイールの刃先の頂点である稜線部に,U字形状の溝を切り欠くことで,高さhの突起をピッチpの間隔で形成している。例えば,ホイール径(φ):2.5㎜,ホイール厚(w):0.65㎜,刃先角度(2θ):125°,突起数 :125個,突起の高さ(h):5μm,ピッチ(p):63μmのホイールを用い,刃先荷重 :3.6Kgf,スクライブ速度:300㎜/secの条件で,1.1㎜厚のガラス板をスクライブすると,ガラス断面はラインからガラス板を板厚方向にほぼ貫通するような直下方向に延びる長いクラック(垂直クラック)が発生する。 他方,上記ホイールと同一サイズで で,1.1㎜厚のガラス板をスクライブすると,ガラス断面はラインからガラス板を板厚方向にほぼ貫通するような直下方向に延びる長いクラック(垂直クラック)が発生する。 他方,上記ホイールと同一サイズで,突起を有しない従来のホイールを用い,同一条件でスクライブした場合,垂直クラックは短く,しかも,ガラス板の面方向の欠け(水平クラック)が生じる。垂直クラックが短いと,次のブレイク工程において,ガラス板をスクライブラインに沿ってブレイク(分断)する際,大きい力を必要とし,また,垂直クラックの成長が不安定となり,垂直方向のクラックが期待できない。更に,水平クラックが生じると,ガラス板表面に欠けが生じ,繊維状くず やフレーキングを生起することから商品価値も失われる。 従来のガラスカッターホイールにおいては,刃先荷重を推奨値より大きくしても,垂直クラックは長くはならず,不都合な水平クラックが大きく発生するだけであるが,本件発明のガラスカッターホイールは,刃先荷重を大きくしても,水平クラックは発生せず,その荷重の大きさに比例するように長い垂直クラックが得られる。 そのため,スクライブラインに沿った正確なブレイクを行うことができ,歩留りが向上する。また,ブレイク作業が容易なことから,ブレイク工程の内容を簡素化あるいは省略することが可能となる(【0010】~【0016】)。 (オ) 一般的に使用される外径1ないし20㎜のガラスカッターホイールにおいて,本件発明に基づく好ましい仕様及び推奨加工データとしては,ホイール外径(φ):1ないし20㎜,ホイール厚(w): 0.6ないし5㎜,刃先角度(2θ):90ないし160°,ピッチ(p):外径に応じて20ないし200μm,突起の高さ(h):外径に応じて2ないし20μm,溝の半径(R):0.02ないし 厚(w): 0.6ないし5㎜,刃先角度(2θ):90ないし160°,ピッチ(p):外径に応じて20ないし200μm,突起の高さ(h):外径に応じて2ないし20μm,溝の半径(R):0.02ないし1.0㎜(ただし,溝がU字形状の場合),刃先荷重:外径に応じて1.0ないし60Kgf,スクライブ速度:50ないし1000㎜/sec である。なお,刃先荷重は外径に比例するが,ガラス板が薄い時や刃先角度が小さい時(100°前後)には,荷重は小さめとなる(【0024】)。 (カ) 本件発明は,ガラスカッターホイールの刃先の稜線部に形成した突起の作用により,水平クラックを生じることなく長い垂直クラックを発生させることができ,突起がない従来のものと比べ,スクライブ性能が飛躍的に向上するものである。 また,ホイールのスリップが皆無となり,スクライブラインが途切れたり,ホイールが局所的に摩耗するという不都合も解消される(【0031】)。 イ本件発明1の技術内容以上の本件明細書の記載によると,本件発明1は,ガラスカッターホイールの刃先に形成した所定形状の突起により,ガラスカッターホイールの転動時,ガラス板に打点衝撃を与え,更に突起がガラス板に深く食い込むために,ガラス板を,不要 な水平クラックが発生しないまま,板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させて,ガラス面をスクライブすることをその技術内容とするものである。 ウ 「打点衝撃を与える所定形状の突起」の意義について前記イの本件発明1の技術内容によると,特許請求の範囲における「打点衝撃を与える所定形状の突起」の技術的意義は,不要な水平クラックを発生させずに,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることを可能とする形状の突起を意味するものと理解するこ 衝撃を与える所定形状の突起」の技術的意義は,不要な水平クラックを発生させずに,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることを可能とする形状の突起を意味するものと理解することができる。 この点について,原告は,本件発明1の「打点衝撃を与える」という文言自体は,一義的に明確に理解されるべきものであるから,本件明細書を参酌することは許されないなどと主張する。 しかしながら,「打点衝撃を与える」という用語自体が明確であったとしても,本件発明1と引用発明1ないし3との対比の際,「打点衝撃を与える所定形状の突起」という一連の記載の技術的意義を明らかにするために,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された技術的事項を参照して認定することに問題はなく,原告の主張は採用できない。 本件審決は,本件明細書において,刃先ではなく,両傾斜面に条痕を形成した従来技術の刃先によっては,本件発明の作用効果を奏しないとされている(【0005】)から,上記対比の際,【0009】の記載を参酌して,「打点衝撃を与える所定形状の突起」の技術的意義を明らかにしたものにすぎない。 (2) 引用発明1についてア引用例1の記載引用例1(甲1)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (ア) 引用発明1の特許請求の範囲は,以下のとおりである。 【請求項1】鋼製の円盤に対して両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成した,ホイールを回転自在に軸支してなるガラスカッターにおいて,該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よ りの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にしたことを特徴とするガラスカッター(イ) 引用発明1は,ガラス板に切断用のスクライブラ 対し,軸支部よ りの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にしたことを特徴とするガラスカッター(イ) 引用発明1は,ガラス板に切断用のスクライブラインを刻むホイール型のガラスカッターに関するものである。 この種のガラスカッターは,鋼製の円盤に対して両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成したホイールを回転自在に軸支したもので,ガラス板上に圧接した状態でホイールを転動させることにより,ガラス板にスクライブラインを刻む。 刃先は,一般に研磨仕上げしているために,曲線に沿ってガラス板をスクライブするような場合,ホイールがガラス板に対してスリップすることから,従来は,刃先の表面を粗面としてスリップ防止を図っている。 しかしながら,刃先を無造作に粗面にしただけでは,ガラス板とのかみ合いは十分には改善されないため,スリップを完全に防止することはできず,ガラスを切断した場合の切口に不良が生じるのみならず,スリップによる摩耗が生じ,ガラスカッターの寿命が短くなるという課題が生じた。 (ウ) 引用発明1は,ガラスカッターホイールにおいて,ホイールを一方の正面から見た場合に,刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成し,刃先を粗面にしたことにより,ホイールをガラス板に圧接させた時,ホイールとガラス板との摩擦が増えるのみならず,ホイールを所定の一方向へ転動させた時,ホイールのガラス板へのかみ合いが確実となり,ホイールのスリップがなくなるという効果を奏するものである。 (エ) 引用発明1のガラスカッターホイールの刃先には,ホイールの回転中心よりの放射方向に対して常に一定の角度θの方向に条跡を形成し,刃先の面を粗面にしている。 ホイールをガラ するものである。 (エ) 引用発明1のガラスカッターホイールの刃先には,ホイールの回転中心よりの放射方向に対して常に一定の角度θの方向に条跡を形成し,刃先の面を粗面にしている。 ホイールをガラス板に圧接させ,刃先の先端部がガラス板に食い込んだ際,刃先に形成した条痕により,ホイールとガラス板とのかみ合いが確実となる。この状態 で,ホイールをガラス板上で回転方向に転動させると,それとは逆方向に転動させる場合と比較してより大きなかみ合い得ることができ,ホイールのスリップを防止することができる。すなわち,当該ホイールは,ホイールに鋸の刃先を形成した場合と同等の効果が得られるものである。 (オ) 引用発明1は,刃先のガラス板へのかみ合いが確実となり,ホイールのスリップがなくなるので,ガラスカッターホイールとガラス面とのスリップを防止できるとともに,ガラス板へのかみ合いが確実なため,ガラス面上からスクライブスタートする切断方法の場合でも,いわゆる筋トビがなくなり,半径の小さな曲線スクライブの場合でも,従来必要としたスクライブ速度の変更調節を必要とせずに容易に正確な筋入れができるものである。 イ引用発明1の技術内容以上の引用例1の記載によると,引用発明1は,ガラスカッターホイールにおいて,両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成し,刃先の面を粗面にすることにより,刃先の先端部がガラス板に食い込んだ際,刃先に形成した条痕により,ホイールとガラス板とのかみ合いが確実となるのみならず,ホイールをガラス板上で転動させた際,より大きなかみ合い得ることができ,ホイールのスリップを防止することができることをその技術内容とするものである。 (3) 相違点1-1についてア前記(1)及び(2)の本件発明1及び せた際,より大きなかみ合い得ることができ,ホイールのスリップを防止することができることをその技術内容とするものである。 (3) 相違点1-1についてア前記(1)及び(2)の本件発明1及び引用発明1の技術内容からすると,引用発明1において,刃の両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成し,刃先の面を粗面に構成していることから,引用発明1の刃の稜線部においても,粗面に構成されていることにより,微細な凹凸が形成されているものということができる。 イもっとも,引用発明1の刃先に形成した条痕は,ホイールとガラス板とのかみ合いを確保するため,刃先両側の円周エッジ部を一定の角度で斜めに削り取ったものであり,刃の稜線部に形成された微細な凹凸は,その結果として,稜線部に生 じたものというべきであるのみならず,当該構成は,ガラス表面とかみ合うことによりホイールのスリップを防止する効果を奏するにすぎないものである。 したがって,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸は,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」,すなわち,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させつつ,ガラスをスクライブすることができる突起に相当するものということはできない。 この点について,原告は,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸をガラス板に当接させれば,凸の先端部分に応力が集中することによって,ガラス板表面に「打点」が生じることは,凸の形状を考慮すれば自明であるし,ガラス板表面に「打点」を生じさせようとすれば,一定の「衝撃」力をもって,「打点」を生じさせていることは,ガラスの材質を考慮すれば自明の理である,引用例1に示された図2には,刃の稜線部に鋸刃が形成されることが明示さ 打点」を生じさせようとすれば,一定の「衝撃」力をもって,「打点」を生じさせていることは,ガラスの材質を考慮すれば自明の理である,引用例1に示された図2には,刃の稜線部に鋸刃が形成されることが明示されているなどと主張する。 しかしながら,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸は,あくまでもホイールとガラス面とのスリップを防止する目的のために設けられたものである以上,微細な山と谷とからなる凹凸にすぎないことについては,原告も争うものではない。 したがって,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸によっては,ガラス表面にスリップを防止することができる程度の打点が加えられることはあっても,ガラス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃を与えるものではないことは,引用例1の記載からも明らかである。原告の主張は,引用発明1の突起の形状や大きさ,作用効果を無視したもので,相当ではない。 また,引用例1に示された図2は,引用発明1の刃先に形成された条痕によって生じる,ホイールのスリップを防止するという効果は,ホイールにあたかも鋸の刃先を形成した場合と同等の効果を有することを模式的に説明するために作成された図にすぎず,引用発明1のホイールの刃先に,同図のような刃先が実際に形成されているわけでもない。 したがって,当業者は,図2をもって,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に 係る示唆を与えられるものということはできない。原告の主張は,採用できない。 ウ以上からすると,相違点1―1は,実質的な相違点であるというべきである。 (4) 引用発明2についてア引用例2の記載引用例2(甲2)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (ア) 引用発明2の特許請求の範囲は,以下のとおりである。 【請求項1】直径 る。 (4) 引用発明2についてア引用例2の記載引用例2(甲2)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (ア) 引用発明2の特許請求の範囲は,以下のとおりである。 【請求項1】直径をその円周が付けようとする傷の長さより短くなるような大きさとし,かつ刃先の斜面の研削筋に0ないし180°の角度を付け,刃の先端を微小の鋸歯状とすることを特徴とするガラス材カッター刃(イ) 引用発明2は,厚さが比較的薄いガラス材を切断する際,ガラス表面に微細な傷を付けるために用いられるガラスカッター刃に関する発明である。 ガラス材の一方の表面に微細な傷を付け,他方から生じた傷に高温でシャープな炎を当てて切断する方法に用いるカッター刃は,従来,刃先に角度を付けるためだけに,水平方向の研削筋が付いていたことから,刃を強く押し付けないと傷が付き難く,摩耗が早かった。また,径が大きいと,回転しても部分的な摩耗を生じ,一定の幅,深さの傷を付けることができず,切れ具合や切り口形状に悪影響を及ぼした。 (ウ) 引用発明2においては,刃先が摩耗する過程で,部分的に異常な幅,深さの傷が生じることを考慮し,ガラス表面にできる限り細い線を長時間形成することを可能とするため,カッター刃がガラス表面に傷を付け終わるまでの間に1回以上回転するように,カッター刃の径を円周が付けようとする傷の長さより小さくなるよう設定している。 また,カッター刃をガラス表面に強く押し付けないようにする必要があるところ,刃の先端が平らな場合,逆に切れ具合が悪くなるため,刃先の斜面の研削筋に0ないし180°の角度を付け,先端を微小の鋸歯状として,軽く触れるだけで微細な傷が付くようにしている。 (エ) 引用発明2によると,カッター刃の先端が一様な摩耗となり,切れ具合や切り ないし180°の角度を付け,先端を微小の鋸歯状として,軽く触れるだけで微細な傷が付くようにしている。 (エ) 引用発明2によると,カッター刃の先端が一様な摩耗となり,切れ具合や切り口形状に異常が生じないのみならず,ガラス表面に対し,軽い押し付け力を用いるだけで,長時間微細な傷を付けることが可能となる。 イ引用発明2の技術内容以上の引用例2の記載によると,引用発明2は,あらかじめガラス表面に微細な傷を付けた上で,他方から高温の炎を当てることにより,厚さが比較的薄いガラス材を切断する際に用いられるガラスカッターにおいて,カッター刃がガラス表面に傷を付け終わるまでの間に1回以上回転するようにし,切れ具合や切り口形状に異常が生じないようにするのみならず,軽い押し付け力によってもガラス表面に微細な傷が生じるようにするために,刃先の斜面の研削筋に0ないし180°の角度を付け,先端を微小の鋸歯状とすることをその技術内容とするものである。 (5) 相違点1-2についてア前記(1)の本件発明1及び前記(4)イの引用発明2の技術内容からすると,引用発明2において,ガラスカッターの刃先は,先端が微小の鋸歯状とされていることから,刃先に突起が形成されているものということはできる。 イガラスカッターホイールは,ホイールをガラス表面に押し当てて引いた際に刃先によって削り取られて生じる切り筋(スクライブライン)を形成するところ,当該切り筋に生じた縦方向に伸びた割れ目(垂直クラック)に引っ張り力が働くことによって,ガラスが切断しやすくなるものである(甲21)。 そして,本件明細書によると,ガラスに生じた垂直クラックが板厚方向に貫通するほど深い場合には,切断工程を省力化あるいは省略することが可能となるものである。 もっとも, ものである(甲21)。 そして,本件明細書によると,ガラスに生じた垂直クラックが板厚方向に貫通するほど深い場合には,切断工程を省力化あるいは省略することが可能となるものである。 もっとも,引用発明2の刃先に形成した微小の鋸歯状の突起は,後に高温の炎を用いてガラスを切断することを前提として,ガラス表面に微細な傷を付けるために設けられた構成であり,当該突起は,ガラス表面に微細な傷を生じさせる効果を奏するにすぎないものである。 したがって,引用発明2の刃先における先端が微小の鋸歯状の突起は,ガラス表面に微細なスクライブラインを形成することはあるとしても,水平クラックが発生しないが,極めて深い垂直クラックが生じるという高精度のスクライブラインを形成することまでは想定しているものではないから,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」,すなわち,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて深い垂直クラックを発生させつつ,ガラスをスクライブすることができる構成に相当するものということはできない。 この点について,原告は,引用発明2は,一定の幅,深さの傷を付けることができず,切れ具合や切り口形状に悪影響を及ぼすという従来技術の課題を解決するための発明であり,そのためには,一定の衝撃力を加える必要があることは明らかであって,引用例2には,ガラス表面に微細な傷が付くことから,少なくとも打点衝撃を与えることについての示唆は存在する,引用発明2の刃によって,打点衝撃が与えられることは,原告実験結果からも明らかであるなどと主張する。 しかしながら,引用発明2のガラスカッターは,カッター刃をガラス表面に傷を付け終わるまでの間に1回以上回転させるとともに,刃先斜面の研削筋に一定の角度を設けて,刃の先端を微小の鋸 どと主張する。 しかしながら,引用発明2のガラスカッターは,カッター刃をガラス表面に傷を付け終わるまでの間に1回以上回転させるとともに,刃先斜面の研削筋に一定の角度を設けて,刃の先端を微小の鋸歯状としたものであるが,その目的は,刃先の摩耗の過程において生じる不均一の防止と,ガラス表面に強く押しつけなくても微細な傷を形成することにあり,しかも,傷を付けた後に,高温でシャープな炎を当てて切断する工程が前提とされているものである。 したがって,引用発明2が前提とする切れ具合や切り口形状に生じる悪影響とは,このような微細な傷において,刃の摩耗などに伴う微細な変化を前提とするものというべきであり,同発明における刃の先端を微小の鋸歯状とした突起は,垂直クラックを深く形成し,水平クラックを抑制することにより,切断工程の容易化あるいは省略を目的とする本件発明1と同様の突起ということはできない。そして,引用発明2の技術思想からすると,一定の角度により形成された微小の鋸歯状の突起を設ければ足りるものであるから,引用例2によって,当業者が,深い垂直クラック を生じるような打点衝撃を与える所定形状の突起に関する示唆を受けるものということはできない。 また,原告実験結果と被告実験結果は,刃先角度,刃先荷重,ガラスの種別等,実験条件が異なるものもあり,互いに相反する内容を含んでいるところ,ガラスカッターホイールの直径,刃先角度,刃先荷重,ガラスの種別,計測箇所(ガラス端部か,中心部か)等によって,垂直クラック及び水平クラックの形成に差異が生じることは十分推測できるものである。例えば,刃先荷重が過度に高い場合,本件発明1のガラスカッターホイールにおいても水平クラックが生じることは不可避であるということができるし,微細な傷を前提とする引用発明2のガ 分推測できるものである。例えば,刃先荷重が過度に高い場合,本件発明1のガラスカッターホイールにおいても水平クラックが生じることは不可避であるということができるし,微細な傷を前提とする引用発明2のガラスカッターにおいても,水平クラックの発生を度外視すれば,深い垂直クラックを形成することは可能であるといえる。 そして,引用発明2は,微細な傷をガラス表面に形成することを技術思想とするものであり,深い垂直クラックが生じること前提としていないものであるところ,原告実験結果のうち,刃先の凹凸により打点衝撃が生じることを少なくとも示唆するために提出された甲40の写真(21-1等)によっては,水平クラックの発生の有無が明確ではなく,本件明細書【0011】と同等の刃先加重により実験した結果に係る甲42の写真(11-3等)は,倍率が大きく,ピントが適切ではないため,クラック発生の有無が明確ではなく,甲44の写真(22―1A等)も,同様に,倍率が大きく,ピントが適切ではないので,クラックの発生の有無は不明確である。そのほか,甲35は,垂直クラックを撮影したものであるが,水平クラックの発生の有無は,ピントが適切ではないこともあり,確認することができないし,甲36は,和歌山県工業技術センターによる試験分析等成績書であるが,ガラスクラック量を示す写真2枚では,水平クラックの有無は明確ではなく,甲39は,大阪市立工業研究所の報告書であるが,垂直クラックが形成されていることしか示されていないのであるから,原告実験結果を精査しても,引用発明2において,水平クラックを抑制するとともに,垂直クラックをガラス全体に形成することが可能で あったものと認めることはできない。原告の主張は採用できない。 ウ以上からすると,相違点1―2は,実質的な相違点であるというべき とともに,垂直クラックをガラス全体に形成することが可能で あったものと認めることはできない。原告の主張は採用できない。 ウ以上からすると,相違点1―2は,実質的な相違点であるというべきである。 (6) 小括したがって,本件発明1は,引用発明1又は2と同一の発明であるということはできず,本件発明1の新規性を認めた本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(本件発明の進歩性に係る判断の誤り)について(1) 本件発明1についてア引用発明1に基づく容易想到性(ア) 取消事由1について指摘したとおり,相違点1-1は,原告の主張するように,実質的な相違点ではないということはできない。 (イ) また,前記1(2)のとおり,引用発明1は,あくまでもホイールとガラス面とのスリップを防止する目的のために,刃の稜線部に微細な凹凸を形成するものであり,当該構成によって,ガラス表面にスリップを防止することができる程度の衝撃が加えられることはあっても,ガラス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃を与えるものではない。 したがって,引用例1により開示された技術思想からすると,引用例1には,ガラス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃を与えるという技術思想について,打点衝撃を与える所定形状の突起に係る構成やその作用効果に関し,いずれもこれを示唆する記載はないものといわなければならない。 (ウ) また,前記1(4)のとおり,引用発明2におけるホイールの刃先に形成した微小の鋸歯状の突起は,後に高温の炎を用いてガラスを切断することを前提として,ガラス表面に微細な傷を生じるために設けられた構成であり,ガラス表面にスクライブラインを形成するものの,水平クラックの発生 微小の鋸歯状の突起は,後に高温の炎を用いてガラスを切断することを前提として,ガラス表面に微細な傷を生じるために設けられた構成であり,ガラス表面にスクライブラインを形成するものの,水平クラックの発生を防止しつつ,極めて深い垂直クラックを生じさせるという高精度のスクライブラインを形成することまでは想定しているものではない。 したがって,引用例2により開示された技術思想からすると,引用例2にも,ガラス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃を与えるという技術思想について,打点衝撃を与える所定形状の突起に係る構成やその作用効果に関し,いずれもこれを示唆する記載はないものといわなければならない。 (エ) 以上からすると,本件発明1は,当業者が引用発明1に引用発明2を組み合わせることにより,容易に想到し得るものであるということはできない。 イ引用発明2に基づく容易想到性(ア) 取消事由1について指摘したとおり,相違点1-2は,原告の主張するように,実質的な相違点ではないということはできない。 (イ) また,前記2(1)アのとおり,引用例1及び2には,ガラス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃を与えるという技術思想について,打点衝撃を与える所定形状の突起に係る構成やその作用効果に関し,いずれもこれを示唆する記載はないものといわなければならない。 (ウ) 以上からすると,本件発明1は,当業者が引用発明2に引用発明1を組み合わせることにより,容易に想到し得るものであるということはできない。 ウ引用発明3に基づく容易想到性(ア) 引用発明3についてa 引用例3の記載引用例3(甲3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (a) 引用発明3の あるということはできない。 ウ引用発明3に基づく容易想到性(ア) 引用発明3についてa 引用例3の記載引用例3(甲3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (a) 引用発明3の実用新案登録請求の範囲は,以下のとおりである。 【請求項1】固定板の両端に固着した基台上に,該固定板を挟持するごとく2枚1組よりなる支柱をそれぞれ立設し,一方の支柱の上部には押圧ハンドルの一端部をピンによって枢着するとともに,この押圧ハンドルには,セットボルトによって固定可能とした重錘を摺動自在に嵌挿し,更にこの押圧ハンドルの下方に設けた押圧杆の一端を,他方の支柱の上部にピンによって枢着し,かつその他端は支柱に固設 した受金によって支承せしめるとともに,この押圧杆と押圧ハンドルとは,支柱寄りの付近において,連結板とピンとにより回動自在に連結し,この押圧杆に下向きに固設した支持金具には上部刃車を軸支せしめ,更に前記固定版に上向きに固設した軸受によって支持されたシャフトの一端部には,前記上部刃車と対向して刃先に等間隔をおいて複数の切欠部を形成した下部刃車を固着するとともに,その他端部は,支柱に固着した軸受によって軸支せしめ,このシャフトに固設した大歯車には,適宜の回転機構によって回転される小歯車を噛合せしめてなる瓦カッター(b) 引用発明3は,屋根瓦を任意の方向に切断するために使用する瓦カッターに関するものである。 瓦を切断する際,従来行われていた瓦を金槌で割る方法は,点在的に力を加えるため,切断の方向が不確実であり,ダイヤモンド刃車等を用いる方法は,動力源を必要とするとともに,切断の際に飛散する粉じんにより衛生上有害であった。 引用発明3は,持ち運びが容易で,瓦の表裏両面に同時に指向性を有する亀裂を刻み付けることにより,湾曲 用いる方法は,動力源を必要とするとともに,切断の際に飛散する粉じんにより衛生上有害であった。 引用発明3は,持ち運びが容易で,瓦の表裏両面に同時に指向性を有する亀裂を刻み付けることにより,湾曲した瓦をいかなる方向でも正確容易に切断し得るものである。 (c) 引用発明3の瓦カッターにより瓦を切断するためには,まず,瓦の硬軟に応じて刃車に適当な押圧力が加わるように重錘を移動させ,セットボルトにより押圧ハンドルに固定し,瓦の一端部を上下の刃車の間に挿入することにより,重錘,押圧ハンドル,押圧杆等の重量により押圧する。 次に,回転ハンドルによって下部刃車を回転させながら瓦を移動させると,瓦には表裏両面に刃車によってV字状の溝が形成されるとともに,更にV字から下向きの亀裂を切り込むので,切り込み終了後,瓦を取り外すことなく,そのままV字溝の任意の1箇所を押圧ハンドルにより刃車を介して強く押圧することにより,正確に切断することができる。 (d) 引用発明3の瓦カッターによると,瓦の切断作業は極めて能率的である。 しかも,重錘により,瓦の硬軟に応じて押圧力の調整が可能である。特に,下部刃 車の外周に複数の切欠部を形成したので,瓦の裏面に多少の凹凸があっても刃先はよく瓦に食い込んでこれを円滑に前進させるとともに,切欠部を通過する際,上部刃車が上下動し,この振動が重錘等に伝わって一種の衝撃力となり,瓦に対してより深い切り込みと亀裂を生じさせる。 b 引用発明3の技術内容以上の引用例3の記載によると,引用発明3は,瓦カッターにおいて,瓦の表裏両面に同時に指向性を有する亀裂を刻み付け,湾曲した瓦を効率的に切断するために,下部刃車の外周に複数の切欠部を形成することにより,瓦の裏面の凹凸にかかわらず刃先をよく瓦に食い込ませて円滑に前進さ 裏両面に同時に指向性を有する亀裂を刻み付け,湾曲した瓦を効率的に切断するために,下部刃車の外周に複数の切欠部を形成することにより,瓦の裏面の凹凸にかかわらず刃先をよく瓦に食い込ませて円滑に前進させるとともに,切欠部を通過する際に,上部刃車が上下動することによって,振動を重錘等に伝達させて衝撃力とし,瓦に対してより深い切り込みと亀裂を生じさせることをその技術内容とするものである。 (イ) 相違点1-3―1について引用発明3は,瓦カッターに関する発明であるところ,通常,「瓦」とは,粘土瓦が一般的である(乙4,5)。引用例3には,瓦の材質に関する記載はなく,ガラス瓦を積極的に排除するものではないが,従来技術の課題として,切断した際の粉じんの飛散を指摘していることからすると,粘土瓦を前提とするものと解される。 また,引用発明3の瓦カッターは,上下の刃により瓦を挟み込み,押圧力を加えながら瓦の表裏両面に深い切り込みと亀裂を生じさせて,瓦を切断するものであり,打点衝撃を与えることによりガラス板に深い垂直クラックを生じさせる本件発明1のガラスカッターホイールと,切断機序が明らかに異なるものである。 そして,ガラス瓦は,ガラスの厚さ,形状,用途が,ガラス板とは相当異なるものであるから,切断に係る機序がガラスカッターホイールとは異なる瓦カッターに係る知見を,ガラス板を切断する用途に用いられるガラスカッターホイールに転用することについて,引用例3にはその動機付けや示唆を与える記載は認め難いものである。 この点について,原告は,引用例3は,粘土瓦のみを前提とするものではない,本件優先日当時,ガラス瓦が存在することは周知であったから,引用発明3の瓦カッターは,ガラス瓦を切断することができるものであり,ガラス瓦を切断加工した例もあ は,粘土瓦のみを前提とするものではない,本件優先日当時,ガラス瓦が存在することは周知であったから,引用発明3の瓦カッターは,ガラス瓦を切断することができるものであり,ガラス瓦を切断加工した例もある(甲43)などと主張する。 しかしながら,ガラス瓦が本件優先日以前から存在し,切断の上,用いられることが周知であったとしても,そのことをもって,引用発明3の瓦カッターにおいて,ガラス瓦を切断することが可能か否か自体,不明であるというほかない。 しかも,ガラス瓦製品においては,穴開けや削りなどの加工を行うことは,強度が極端に低下し,危険であることを理由に禁止されているものもある(乙6)。そのほか,甲5にも,ガラス瓦に取付孔を設けると,当該部分から割れやすいという欠点があることが指摘されているところである。 したがって,引用発明3の瓦カッターにおいて,ガラス瓦を切断することが可能であったとしても,そのことをもって,直ちに瓦カッターに関する知見をガラスカッターホイールに転用することについて動機付けや示唆が与えられるものではない。 原告の主張は採用できない。 (ウ) 相違点1-3-2について引用発明3の瓦カッターの下部刃車の外周には,複数の切欠部が形成されていることから,当該外周には,突起が形成されているものということができる。 また,当該切欠部が存在することにより,瓦に一種の衝撃力を加え,深い切り込みと亀裂を生じさせる旨の記載があるものの,当該構成は,瓦の裏面の凹凸にかかわらず刃先をよく瓦に食い込ませて円滑に前進させること,切欠部を通過する際に,上部刃車が上下動することによって,振動を重錘等に伝達させて衝撃力とするものとされているのであるから,当該突起が衝撃力を生じさせるというよりは,上下刃車の上下動と重錘や押圧ハンドルにより加えられる押 上部刃車が上下動することによって,振動を重錘等に伝達させて衝撃力とするものとされているのであるから,当該突起が衝撃力を生じさせるというよりは,上下刃車の上下動と重錘や押圧ハンドルにより加えられる押圧力が上部刃車によって伝達されることにより衝撃力が生じているものということができる。 したがって,当該突起によっては,本件発明1の「打点衝撃」と同様の衝撃力を 得ることができるということはできない。 (エ) 小括以上からすると,本件発明1は,引用発明3にガラス瓦に係る技術知見を適用することによって,容易に想到し得るものということはできない。 エ本件発明1の進歩性についてしたがって,本件発明1は,引用発明1ないし3に基づいて,当業者が容易に想到し得るものということはできない。 (2) 本件発明2について前記1(2)及び(4)並びに前記(1)ウ(ア)の引用例1ないし3に係る技術思想によれば,引用例1ないし3には,ガラスカッターホイールの刃先において,水平クラックを生じることなく,長い垂直クラックを発生させる「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」との構成が開示されていないことは明らかである。 また,引用例4(甲8)には,丸刃カッターとその製造装置及び製造方法に係る発明において,切断材への切り込みを良好にするため,切刃に,丸刃カッターの半径方向に10ないし100μm,望ましくは20ないし50μmの平均凹凸量の多数の微小鋸刃が形成される構成が開示されているが,これは,リード線,ワラ,各種シート材用カッター等の丸刃カッターを前提とするものであり,ガラス板の切断に用いられるガラスカッターホイールとは,明らかに異なるものである。しかも,引用発明4は,切刃が滑らかで,凹凸が少ないと,刃先が鋭利であってもリード線 刃カッターを前提とするものであり,ガラス板の切断に用いられるガラスカッターホイールとは,明らかに異なるものである。しかも,引用発明4は,切刃が滑らかで,凹凸が少ないと,刃先が鋭利であってもリード線に対する切り込み性が悪く,切れ味が比較的悪いため,プリント基板に固定した素子の脚を切断する際,素子に与える衝撃が比較的大きく,悪影響が生じるおそれがあることを従来技術の課題としており,切り込みを良好にすることを目的とするも,衝撃を与えることはむしろ避けるべき課題とするものである。 したがって,本件発明2も,本件発明1と同様に,引用例1ないし4に基づいて,当業者が容易に想到し得るものということはできない。 (3) 本件発明3ないし10について本件発明3ないし10は,いずれも本件発明1又は2を引用するものであって,本件発明1又は2の構成を全て包含するものである。 したがって,本件発明1及び2が,いずれも進歩性を有する以上,本件発明3ないし10も,同様に,進歩性を有するものというべきである。 (4) 小括以上からすると,本件発明について,いずれも当業者が引用発明1ないし4等に基づいて容易に想到し得るものではないとした本件審決の判断に,誤りはない。 3 取消事由3(本件発明3ないし5の実施可能要件に係る判断の誤り)について(1) 本件明細書の記載について本件明細書には,本件発明1に係るガラスカッターホイールの好ましい数値例として,【0011】に,例えば,ホイール径(φ):2.5mm,ホイール厚(w):0.65mm,刃先角度(2θ):125°,突起数 :125個,突起の高さ(h):5μm,ピッチ(p):63μmのホイールを用い,刃先荷重 :3.6Kgf,スクライブ速度:300㎜/secの条件で,1.1㎜厚のガラス板をスクライ :125°,突起数 :125個,突起の高さ(h):5μm,ピッチ(p):63μmのホイールを用い,刃先荷重 :3.6Kgf,スクライブ速度:300㎜/secの条件で,1.1㎜厚のガラス板をスクライブすることが記載されている。 また,【0024】には,一般的に使用される外径1ないし20㎜のガラスカッターホイールにおける本件発明に基づく好ましい仕様及び推奨加工データとして,ホイール外径(φ):1ないし20㎜,ホイール厚(w): 0.6ないし5㎜,刃先角度(2θ):90ないし160°,ピッチ(p):外径に応じて20ないし200μm,突起の高さ(h):外径に応じて2ないし20μm,溝の半径(R):0.02ないし1.0㎜(ただし,溝がU字形状の場合),刃先荷重:外径に応じて1.0ないし60Kgf,スクライブ速度:50ないし1000㎜/sec が明示されているのみならず,刃先荷重は外径に比例するが,ガラス板が薄い時や刃先角度が小さい時(100°前後)には,荷重は小さめとなるとも記載されている。 (2) 上記記載に基づく実施可能性について本件明細書の上記記載にいう「外径に応じ」とは,ホイール外径が大きい場合は大きく,ホイール外径が小さい場合は小さくという程度の意味であることは明らかである。 また,突起の形状を定める各要素であるピッチ,突起の高さ,刃先荷重について,ホイール外径に比例することを前提に各数値範囲が設定されており,ガラス板が薄く,刃先角度が小さい時は,刃先荷重は小さくなる旨も記載されていることから,数値範囲内での設定方針も開示されているものということができる。 さらに,本件明細書図3ないし図6,図16には,本件発明のガラスカッターホイールの実施形態がそれぞれ図示されているということができる。 そして,当該突起を設け されているものということができる。 さらに,本件明細書図3ないし図6,図16には,本件発明のガラスカッターホイールの実施形態がそれぞれ図示されているということができる。 そして,当該突起を設けることによる作用効果は,水平クラックを発生することなく極めて深い垂直クラックを形成することにあるから,上記推奨例等を参考に,当業者が上記数値範囲内において刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成することについて,当業者に過度の試行錯誤を強いるものということはできない。 (3) 原告の主張についてこの点について,原告は,本件明細書【0011】に記載されているベストモードの数値を用いてガラス板を切断した場合でも,水平クラックが生じることがある(甲42)などと主張するが,仮に,上記数値範囲内で水平クラックが生じることがあったとしても,当業者としては,刃先加重を低下させる等,適宜設計変更することにより,水平クラックの発生を防止しつつ,極めて深い垂直クラックが発生するよう設計上の試行錯誤を行うことが通常であり,それにより,本件発明3ないし5の効果を奏する突起を形成することが困難であるとまで,いうことはできない。 原告の主張は採用できない。 (4) 小括以上からすると,本件発明3ないし5について,実施可能要件を充足するとした本件審決の判断に誤りはない。 4 結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官滝澤孝臣 裁判官本多知成 裁判長 裁判官 滝澤孝臣 裁判官 本多知成 裁判官 荒井章光
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