平成11(ネ)2867 損害賠償請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成13年10月23日 東京高等裁判所
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判決文本文47,880 文字)

(原審・さいたま地方裁判所熊谷支部平成4年(ワ)第371号損害賠償請求事件(原審言渡日平成11年4月27日))以下、控訴人兼被控訴人Aほか16名を「一審原告」、被控訴人兼控訴人株式会社Jを「一審被告J」、被控訴人兼控訴人K株式会社を「一審被告K」という。 主文 1 (一審原告らの一審被告Jに対する請求)原判決中、一審原告らの一審被告Jに対する請求に係る部分を次のとおり変更する。 (一) 一審被告Jは、一審原告Aに対し、2310万円及び内2100万円に対する平成5年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (二) 一審被告Jは、一審原告b1に対し、1265万円及び内1150万円に対する平成5年4月3日から、同b2及び同b3に対し、各632万円及び内575万円に対する同日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (三) 一審被告Jは、一審原告cに対し、1320万円及び内1200万円に対する平成5年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (四) 一審被告Jは、一審原告Dに対し、1320万円及び内1200万円に対する平成5年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (五) 一審被告Jは、一審原告Eに対し、2310万円及び内2100万円に対する平成5年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (六) 一審被告Jは、一審原告Fに対し、2310万円及び内2100万円に対する平成5年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (七) 一審被告Jは、一審原告g1、同g3及び同g3に対し、各770万円及び内700万円に対する平成5年4月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (八) 一審被告Jは、一審原告h1、同h2及び同h は、一審原告g1、同g3及び同g3に対し、各770万円及び内700万円に対する平成5年4月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (八) 一審被告Jは、一審原告h1、同h2及び同h3に対し、各733万3332円及び内666万6666円に対する平成5年4月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (九) 一審被告Jは、一審原告i1に対し、1100万円及び内1000万円に対する平成5年4月3日から、同i2及び同i3に対し、各550万円及び内500万円に対する同日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (一〇) 一審原告らの一審被告Jに対するその余の各請求をいずれも棄却する。 2 (一審原告g1、同g3及び同g3の一審被告Kに対する請求)(一) 原判決中、一審被告Kの敗訴部分を取り消す。 (二) 前項の取消しに係る部分の一審原告g1、同g3及び同g3の一審被告Kに対する各請求をいずれも棄却する。 (三) 一審原告g1、同g3及び同g3の一審被告Kに対する控訴をいずれも棄却する。 3 (訴訟費用)訴訟費用は、一審原告らと一審被告Jとの間においては、第1、2審を通じてこれを5分し、その2を一審原告らの、その余を一審被告Jの各負担とし、一審原告g1、同g3及び同g3と一審被告Kとの間においては、第1、2審とも、一審原告g1、同g3及び同g3の負担とする。 4 (仮執行の宣言)この判決は、一審原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第一申立て一一審原告らの控訴の趣旨 1 原判決を次のとおり変更する。 2 一審被告Jは、一審原告A、同c、同D、同E、同Fに対し、各3300万円及び内3000万円に対する平成5年4月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を 1 原判決を次のとおり変更する。 2 一審被告Jは、一審原告A、同c、同D、同E、同Fに対し、各3300万円及び内3000万円に対する平成5年4月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 一審被告Jは、一審原告b1に対し、1650万円及び内1500万円に対する平成5年4月3日から、同b2及び同b3に対し、各825万円及び内750万円に対する同日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 一審被告J及び同Kは、各自、一審原告g1、同g3及び同g3に対し、各1100万円及び内1000万円に対する平成5年4月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 一審被告Jは、一審原告h1、同h2及び同h3に対し、各1100万円及び内1000万円に対する平成5年4月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 一審被告Jは、一審原告i1に対し、1650万円及び内1500万円に対する平成5年4月3日から、同i2及び同i3に対し、各825万円及び内750万円に対する同日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 訴訟費用は、第1、2審とも一審被告らの負担とする。 との判決及び仮執行宣言を求める。 二同控訴の趣旨に対する一審被告らの答弁「本件控訴をいずれも棄却する。」との判決を求める。 三一審被告らの控訴の趣旨 1 原判決中一審被告らの敗訴部分を取り消す。 2 前項の取消しに係る部分の一審原告らの一審被告らに対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審とも一審原告らの負担とする。 との判決を求める。 四同控訴の趣旨に対する一審原告らの答弁「本件控訴をいずれも棄却する。」との判決を求める。 第二当事者の主張本件における当事者の主張は も一審原告らの負担とする。 との判決を求める。 四同控訴の趣旨に対する一審原告らの答弁「本件控訴をいずれも棄却する。」との判決を求める。 第二当事者の主張本件における当事者の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」第二章に記載のとおりであるから、これを引用する。 一一審原告らの請求原因に関する付加的主張 1 最終じん肺管理区分認定及び最終合併症認定(原判決第二章第一の一2(二))労働大臣(当時)は、平成11年5月28日、一審原告Fに対し、先にされたじん肺管理区分の決定を取り消し、じん肺管理区分管理4とする裁決をした。 2 遺族原告ら(原判決第二章第一の一2(三)、一審原告b1、同b2、同b3、同c、同g1、同g3、同g3、同h1、同h2、同h3、同i1、同i2及び同i3を「遺族原告」ともいい、一審原告A、亡B、亡C、一審原告D、同E、同F、亡G、亡H及び亡Iをそれぞれ「患者原告A」、「同B」、「同C」、「同D」、「同E」、「同F」、「同G」、「同H」、「同I」ともいう。)(一) 遺族原告b1、同b2及び同b3は、患者原告Bの相続人である。 (二) 遺族原告cは、患者原告Cの相続人である。 3 患者原告らの損害(原判決第二章第一の一一)(一) 患者原告Bの死亡患者原告Bは、昭和58年12月12日、じん肺管理区分管理4の決定を受けたが、その後、呼吸困難等のじん肺の症状は進行し、平成13年2月21日、肺炎を併発し、死亡した。患者原告Bの遺族は、患者原告Bの死亡が業務上の事由に基づくものとして、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を受けている。したがって、患者原告Bは、じん肺により死亡したというべきである。 (二) 患者原告Gの死亡患者原告Gは、平成2年5月23日、じん肺管理区分管理4の決 保険法に基づく遺族補償給付を受けている。したがって、患者原告Bは、じん肺により死亡したというべきである。 (二) 患者原告Gの死亡患者原告Gは、平成2年5月23日、じん肺管理区分管理4の決定を受けたが、その後、呼吸困難等のじん肺の症状は進行し、平成6年9月7日、肺癌を合併していることが判明して、治療を継続していたが、同年11月26日、じん肺に合併した肺癌により死亡した。 患者原告Gの遺族は、患者原告Gの死亡が業務上の事由に基づくものとして、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を受けている。したがって、患者原告Gは、じん肺により死亡したというべきである。 (三) 患者原告Hの死亡患者原告Hは、昭和52年5月16日、じん肺管理区分管理4の決定を受けたが、その後、呼吸困難等のじん肺の症状は進行し、平成3年4月ころからは鼻から管を入れて酸素吸入を行っていたところ、同年5月4日、死亡した。患者原告Hの遺族は、患者原告Hの死亡が業務上の事由に基づくものとして、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を受けている。したがって、患者原告Hは、じん肺により死亡したというべきである。 (四) 患者原告Iの死亡患者原告Iは、昭和57年4月23日、じん肺管理区分管理4の決定を受けたが、その後、呼吸困難等のじん肺の症状は進行し、昭和60年3月1日、じん肺の進展と低心肺機能状態により死亡した。患者原告Iの遺族は、患者原告Iの死亡が業務上の事由に基づくものとして、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を受けている。したがって、患者原告Iは、じん肺により死亡したというべきである。 (五) 患者原告らの損害額一審被告らの患者原告らに対する安全配慮義務違反により、患者原告らは、いずれもじん肺に罹患したものであり、患者原告C及び同Dは、じ により死亡したというべきである。 (五) 患者原告らの損害額一審被告らの患者原告らに対する安全配慮義務違反により、患者原告らは、いずれもじん肺に罹患したものであり、患者原告C及び同Dは、じん肺管理区分管理2の決定を受けるとともに、合併症として続発性気管支炎に罹患していると診断され、その余の患者原告らは、じん肺管理区分管理4の決定を受け、さらに、患者原告B、同G、同H及び同Iは、じん肺により死亡するに至った。 本訴においては、生存している患者原告らは、じん肺発症から現在に至るまで継続しているあらゆる精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料の支払を請求するものであり、じん肺により死亡した患者原告らの相続人らは、生前の精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料の支払の請求に加えて、じん肺によって死亡したことに対する慰謝料の支払も併せて請求するものであり、患者原告らの慰謝料額は、いずれの患者原告らについても3000万円を下ることはない。 4 相続及び訴訟承継(原判決第二章第一の一二)(一) 患者原告Bは、平成13年2月21日に死亡し、遺族原告b1が2分の1、同b2及び同b3が各4分の1の割合で、患者原告Bの権利義務を相続するとともに、本件訴訟を承継した。 (二) 患者原告Cは、平成11年2月12日に死亡し、遺族原告cがその権利義務を相続するとともに、本件訴訟を承継した。 二請求原因に対する反論に関する一審被告Jの付加的主張 1 一審被告Jと直接雇用関係になかった患者原告C、同F、同G及び同Iに対する安全配慮義務の不存在(原判決第二章第三の四)一審被告Jとは、直接雇用関係になく、その請負業者であるK組又はT組の従業員であった患者原告C、同F、同G及び同Iと同一審被告との間において、雇用関係に準ずる法律関係があったと認められるためには、一審被 被告Jとは、直接雇用関係になく、その請負業者であるK組又はT組の従業員であった患者原告C、同F、同G及び同Iと同一審被告との間において、雇用関係に準ずる法律関係があったと認められるためには、一審被告Jが同患者原告らの人事権を事実上掌握し、同患者原告らが一審被告Jから事実上の指揮命令・監督を受けていることが必要とされるところ、一審被告Jと同患者原告らとの間には、そのような関係はなかった。 すなわち、一審被告JとK組及びT組との間の各請負契約中には、K組及びT組の従業員が一審被告Jの定めた規則秩序に違反するなど一審被告Jが不都合と認めて解雇を勧告した場合には、K組及びT組は、これに従わなければならない旨の条項があったが、解雇の勧告は、解雇権限そのものではなく、また、現実に一審被告Jの解雇勧告によって解雇されたという事例もなかったのであるから、一審被告Jが同患者原告らの人事権を事実上掌握していたとはいえない。また、一審被告Jは、鉱山保安法等に基づいて鉱山全体の巡視をするとともに、請負業者の従業員に対しても安全衛生に係る指導や教育をしていたが、請負契約の本質である作業内容そのものについて指示していたわけではないから、同患者原告らが一審被告Jから事実上の指揮命令・監督を受けていたことにはならない。 一審被告Jとその請負業者であるK組及びT組との関係は、後者が前者に従属する関係にあって、対等な関係にはなかったとしても、そうであるからといって民法716条の注文者免責の原則が適用されないものとする理由はなく、本件において注文者である一審被告JにK組及びT組の従業員であった上記患者原告らに対する安全配慮義務違反を認めることは、同条に反するものである。 2 一審被告Jの安全配慮義務の遵守(原判決第二章第三の一ないし三)(一) そもそも、鉱山作業にお T組の従業員であった上記患者原告らに対する安全配慮義務違反を認めることは、同条に反するものである。 2 一審被告Jの安全配慮義務の遵守(原判決第二章第三の一ないし三)(一) そもそも、鉱山作業における粉じんの発生をゼロにすることは不可能であるから、作業員に対するじん肺罹患防止対策としては、粉じんの発生や吸入を極力少なくする以外にはないところ、その具体的方法としては、湿式削岩機の使用、散水、通気、防じんマスクの着用に尽きるというべきである。 (1) 一審被告Jは、原判決第二章第三に記載のとおり、昭和25年8月の設立以来、削岩員に対して湿式削岩機を使用させ、削岩機に水を送る配水管も整備していたものであって、その破損事故も例外的なものにすぎなかった。湿式削岩機を水を使わないで使用したた場合には、削岩機が孔から抜けなくなったり、故障の原因となって作業効率が悪くなるため、削岩員が水を使用しないで湿式削岩機を使用するということはあり得ない。 また、散水作業自体はごく単純な作業であって、技術や経験、教育を必要とするものではなく、散水をすべき場所や散水量は個々の作業現場の状況によって左右されるため、具体的な散水の要否や散水量等は、現場の鉱山労働者の判断に委ねられていたが、一審被告Jも規則で散水を義務づけ、散水について注意を促していたのであるから、鉱山労働者には粉じん作業現場における散水の重要性、必要性についての十分な認識があったし、実際にも十分な散水が行われていた。 したがって、粉じんの発生及び飛散に対する一審被告Jの抑制措置に不十分な点があったものとはいえない。 (2) 一審被告Jは、T鉱山の坑道を入気坑道と排気坑道とに分け、坑道内に高低差を設けたほか、風門、分流門、主要扇風機を設置し、自然通気が望めないいわゆるめくら坑道においては、風管を設置す えない。 (2) 一審被告Jは、T鉱山の坑道を入気坑道と排気坑道とに分け、坑道内に高低差を設けたほか、風門、分流門、主要扇風機を設置し、自然通気が望めないいわゆるめくら坑道においては、風管を設置するなどの通気対策を施してきたのであり、一審被告Jの通気対策にも不十分な点はなかった。 (3) 粉じん作業者が防じんマスクを着用しなければならない理由は明らかであり、着用方法もごく単純であるから、そのためにじん肺罹患の危険性を説くなどといった高度の教育を必要とするものではない。そして、一審被告Jは、作業員に防じんマスクを支給するとともに、使用説明書も配布しており、その内容については、患者原告らも十分に了解していた。 一審被告Jは、粉じん暴露の機会の多い職種の鉱山労働者には、原則として防じん効果のより高い1級のマスクを支給し、粉じん暴露の少ない鉱山労働者には、2級のマスクを支給していたが、これらはいずれも国家検定に合格したものであり、これを半年から1年の周期で定期的に交換していたものであって、同期間内にマスク本体が破損することは通常なかったし、不具合が発生したときには直ちに交換していた。また、防じんマスクのフィルターは、鉱山労働者の申告に応じて直ちに支給していたものである。したがって、一審被告Jとしてはなすべきことをすべて行っていたのであり、防じんマスクの支給及び管理に不十分な点はなかった。 (二) また、T鉱山においては、鉱山労働に従事する従業員に残業を行わせる場合には、本人の同意が必要とされていたものであって、残業を行わなかった者もおり、残業をした作業員についても、残業時間は月15ないし16時間程度であって、長時間の残業が常態化していたということはない。また、一審被告Jは、昭和44年6月ころ、作業量に応じて給料を支給する業績給制度を導入したが、これ ついても、残業時間は月15ないし16時間程度であって、長時間の残業が常態化していたということはない。また、一審被告Jは、昭和44年6月ころ、作業量に応じて給料を支給する業績給制度を導入したが、これによって効率よく業務が遂行され、粉じん暴露時間の短縮が図られたものであって、労働時間の長時間化を招くものではなかった。したがって、一審被告Jの労働時間の管理にも、不十分な点はなかった。 3 損害額(原判決第二章第三の六)個々の患者原告らについての慰謝料額は、その具体的症状や労働能力喪失の有無、年齢、受給した労災給付金額等に基づいて個別的に算定されるべきである。じん肺法上の管理区分は、単なる行政上の基準区分であり、健康管理のための指標にすぎないから、このような個別的な事情を考慮することなく、専ら管理区分に基づいて慰謝料額を算定することは許されない。 三請求原因に対する反論に関する一審被告Kの付加的主張 1 一審被告Kの不法行為法上の安全配慮義務の不存在(原判決第二章第二の二の八)患者原告Gは、K組に採用された鉱山労働者であり、K組は、一審被告Kの請負会社であるM建設株式会社の下請業者であったから、一審被告Kと患者原告Gとの間には、雇用関係に準じた法律関係すら認められないのであり、不法行為法上も、一審被告Kに患者原告Gに対する安全配慮義務があるということはできない。また、仮に一審被告Kに不法行為法上の安全配慮義務があるとしても、患者原告Gと直接の雇用関係を有するK組やこれを請負業者とするM建設が負うべき安全配慮義務とは、質的にも量的にも異なるものであるはずであって、両者を同一視することはできず、いずれにしても、一審被告菱光に患者原告Gに対する不法行為責任があるということはできない。 2 一審被告Kの安全配慮義務の遵守(原判決第二章第二の二の あるはずであって、両者を同一視することはできず、いずれにしても、一審被告菱光に患者原告Gに対する不法行為責任があるということはできない。 2 一審被告Kの安全配慮義務の遵守(原判決第二章第二の二の七)(一) 一審被告Kは、U鉱山の坑道の断面積と長さ、使用する扇風機の換気能力を十分に計算した上で、坑道内に通気設備を設置していたものであり、その設備は、当時の技術水準からみて十分なものであった。 (二) 一審被告Kは、作業員に対し、国家検定2級合格品であったサカヰ式117型防じんマスクを支給していたが、その捕集効率、吸気抵抗、排気抵抗等の水準は、優に1級以上の規格を満たすものであって、呼吸抵抗も低く、作業に適したものであったから、当時として最高水準の防じんマスクを支給していたものである。 四一審被告Jの抗弁に関する付加的主張 1 消滅時効について(原判決第二章第五の四)(一) 最高裁平成元年(オ)第1667号平成6年2月22日第3小法廷判決・民集48巻2号441頁は、雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点につき、「重い決定に相当する病状に基づく損害はその決定を受けたときに発生し」、「損害賠償請求権の消滅時効は最終の行政上の決定を受けたときから進行する」と判示した。そして、同判決の事案では、死亡した患者の遺族による請求も含まれていたにもかかわらず、明示的に「最終の行政上の決定時」を消滅時効の起算点とし、死亡時を起算点とすれば損害賠償請求が認容される可能性のある当事者の請求をも消滅時効を理由として棄却した原審の判断を是認しているのであるから、同判決は、じん肺管理区分管理4の決定を受けた者は、生存しているか死亡しているかを問わず、その時点において同一の精神的損害が発生していると評価して として棄却した原審の判断を是認しているのであるから、同判決は、じん肺管理区分管理4の決定を受けた者は、生存しているか死亡しているかを問わず、その時点において同一の精神的損害が発生していると評価しているのであり、本件の患者原告H及び同Iに係る損害賠償請求権の消滅時効も、両名の死亡時からではなく、最終の行政上の決定時から起算されるべきである。 (二) 一審原告らの本訴請求は、じん肺管理区分に係る決定内容のいかんを問わず、じん肺罹患によるすべての被害に対する慰謝料として一律3000万円の損害賠償を求めるいわゆる包括一律請求であり、このような請求を前提とする限り、一審原告らの請求は、じん肺に罹患した時点において権利の行使が可能であったのであるから、同時点をもって消滅時効の起算点とすべきである。 2 過失相殺について(原判決第二章第五の一)過失相殺制度は、損害の公平な分担を図る制度であり、弾力的に運用すべきであって、被害者の単なる不注意、あるいは賠償額を減額することを妥当とするような事情があれば足り、過失相殺をするに当たって被害者の責任能力は不要である。湿式削岩機において水を使用すること、粉じん現場において散水すること、防じんマスクを使用することなどは、極めて単純なことであり、高度な教育は必要なかったものであって、粉じんを吸入すれば体に悪いという事実さえ認識していれば足りるところ、患者原告らにその程度の認識があったことはいうまでもなく、患者原告らに湿式削岩機における水の不使用、散水実施義務違反、防じんマスク不使用という過失があったことも明らかであるから、一審被告Jの教育が不十分であったとして過失相殺を認めないのは相当ではない。 また、患者原告らの中には、じん肺患者でありながら、医師の注意にもかかわらず喫煙を続けていた者がいるところ、喫煙が から、一審被告Jの教育が不十分であったとして過失相殺を認めないのは相当ではない。 また、患者原告らの中には、じん肺患者でありながら、医師の注意にもかかわらず喫煙を続けていた者がいるところ、喫煙がじん肺のみならず肺の疾病の症状を増悪させることは明らかであり、喫煙を理由とする過失相殺は、当然に認められるべきである。 五抗弁に対する反論に関する一審原告らの付加的主張(消滅時効の起算点、原判決第二章第六の四)じん肺の症状は日々蓄積、拡大し、死に至るまで被害の進行は止まないものであり、このようなじん肺被害の特質を考えた場合、死亡によってその進行が止んだときに初めてその患者の生存中の被害の全貌が確定し、その者についての生存中の慰謝料請求が可能となるのであるというべきであるから、じん肺により死亡した患者については、死亡に対する慰謝料はもちろんのこと、生存中の精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料についても、その請求権の消滅時効の起算点は、その損害が確定する死亡時とされるべきである。 六再抗弁(消滅時効援用の権利濫用性)に関する一審原告らの付加的主張(原判決第二章第七)そもそも、雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求に対する雇用者側の消滅時効の援用は、請求者側が自己に権利不行使についての非難可能性がないこと、すなわち、権利の上に眠る者ではなかったことが立証されれば、権利濫用ないし信義則の法理によって制限されるというべきであり、そのためには請求者側に権利行使が著しく困難であったという事情が存することまで必要とするものではない。 患者原告Hは、昭和52年5月16日に、同Iは、昭和57年4月23日にそれぞれ管理区分管理4の決定を受けたものの、その後は、いずれも過酷な闘病生活を余儀なくされていた上に、じん肺についての正確な 。 患者原告Hは、昭和52年5月16日に、同Iは、昭和57年4月23日にそれぞれ管理区分管理4の決定を受けたものの、その後は、いずれも過酷な闘病生活を余儀なくされていた上に、じん肺についての正確な知識もなく、まして雇用者に対する損害賠償請求権が存することを認識することは極めて困難で、しかも、患者原告H及び同Iは、T鉱山麓にある一審被告Jが提供した鉱山住宅で生活し、日常生活に必要な様々な施設も一審被告Jによって用意されるなど、一審被告Jと同患者原告らは、狭い地域社会の中において、密接な関係を築き上げていたのであるから、損害賠償請求を提起することなどは到底不可能な状況にあった。加えて、患者原告H及び同Iの権利意識が阻害されたのは、何よりも一審被告Jのじん肺教育の欠如にその原因があったもので、しかも、一審被告Jは、鉱山における生産性を維持し高めるために、意図的にじん肺教育を怠ったものである。 以上のような事情に鑑みれば、患者原告H及びI並びにその遺族原告らは、決して権利の上に眠っていたわけではないから、一審被告Jによる消滅時効の援用は、信義則に反し、権利の濫用に当たるから、許されないというべきである。 第三当裁判所の判断一患者原告らの鉱山労働における粉じん作業と同人らの健康被害との因果関係 1 本件の当事者及び本件各鉱山の概要患者原告らの本件各鉱山における職歴の概要(原判決別紙一認定職歴一覧表)、最終じん肺管理区分認定及び最終合併症認定の内容(原判決別紙二管理区分等一覧表)並びに本件各鉱山の概要は、次のとおり訂正するほかは、原判決第三章第一及び第二のとおりである。 (一) 原判決別紙一認定職歴一覧表(二)「原告B」のM鉱山における雇用主に「J開発」とあるのを「J肥料株式会社」と改める。 (二) 原判決別紙一認定職歴一覧表( び第二のとおりである。 (一) 原判決別紙一認定職歴一覧表(二)「原告B」のM鉱山における雇用主に「J開発」とあるのを「J肥料株式会社」と改める。 (二) 原判決別紙一認定職歴一覧表(六)「原告F」のK坑における就労期間に「昭和48年4月~昭和57年」とあるのを「昭和48年4月~昭和55年3月」と改める。 (三) 原判決別紙二管理区分等一覧表六「原告F」の管理区分に「平成4年8月31日管理区分三ロ」とあるのを「平成11年5月28日管理区分4」と改める。 (四) 原判決148頁6行目の「10月末」を「10月以降」と改める。 2 じん肺の病像並びに発症及び増悪の構造じん肺法2条1項1号は、じん肺を「粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」と定め、じん肺法施行規則1条は、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸をじん肺の合併症としているところ、証拠(甲第1、第2、第4ないし第6号証、第12号証の1ないし7、第13号証、第14号証の1ないし7、第125、第156及び第200号証、乙第4号証、第5号証の1ないし4、第8、第16、第18及び第25号証、丙第200及び第201号証、第248号証の1、2、第252、第254及び第256号証並びに証人Tの証言)によれば、以下の事実を認めることができる。 (一) 人体に侵入した粉じんのうち、血液等の体液に溶けやすい成分のものは、体液に溶け込んで身体の各部に運ばれ、気道や肺胞内に沈着する可能性は少ないが、体液に溶け難い成分のものは、気道表面の線毛による線毛運動によって気道外に排出され、あるいは、肺胞内のマクロファージ(大食細胞)等の作用によって肺胞外に除去されるものの、こうした除去機能による処理能力を超えて粉じんが肺胞内に侵入し 表面の線毛による線毛運動によって気道外に排出され、あるいは、肺胞内のマクロファージ(大食細胞)等の作用によって肺胞外に除去されるものの、こうした除去機能による処理能力を超えて粉じんが肺胞内に侵入した場合には、除去されなかった粉じんが肺内に広く沈着し、貯留することになる。 (二) 粉じんが肺内に貯留すると、防御反応によってコラーゲン線維が過剰に増殖して粉じんを取り込む生体反応(線維増殖性変化)を起こし、やがて肺胞内の線維が固い結節となり、さらに、これらが融合して手拳大の塊となり(塊状巣、胸部レントゲン写真上、「大陰影」と呼ばれるもの)、肺胞壁を閉塞させる。 一方で、細気管支と肺胞を繋ぐ呼吸細気管支の気道壁が粉じんによって破壊されると、息を吐く際に気道壁が破壊されて呼気が困難になるといった症状が現れ、やがて溜まり過ぎた空気によって肺胞が過膨張となり、あるいは、その結果肺胞が破壊されて肺気腫の症状を呈することがある。 (三) じん肺は、吸い込む粉じんの種類によって分類され、遊離珪酸の吸入による珪肺、炭素吸入による炭素じん肺、アルミニウム等の金属の吸入による金属じん肺、石綿吸入による石綿肺等がある。石英等の珪酸鉱物や長石等の珪酸塩鉱物は地殻の主成分であり、岩石や土を掘ると珪酸ないし珪酸塩主体の粉じんが大量に放出されるため、珪肺は、鉱山労働者等に見られる代表的なじん肺であるとされている。また、石英の成分である無水珪酸(二酸化珪素)は、特に線維組織の増殖性の度合いが強いといわれている。 (四) じん肺に見られる線維増殖性変化や気腫性変化の進行の程度、速度は多様であるが、粉じんを発散する職場を離れた後も同変化は継続し、増悪を続けるため、その後にじん肺の症状が発現することも少なくない。じん肺による病変は、不可逆的であり、現在の医学では治療は不可能であって であるが、粉じんを発散する職場を離れた後も同変化は継続し、増悪を続けるため、その後にじん肺の症状が発現することも少なくない。じん肺による病変は、不可逆的であり、現在の医学では治療は不可能であって、症状が進行した場合の予後は不良であり、肺性心と呼ばれる心不全や、肺感染症を合併して死に至ることもある。 (五) じん肺による線維増殖性変化によって、細気管支が細菌の感染を受けやすい状態になり、続発性気管支炎という合併症が引き起こされることもあり、そのほか、じん肺法施行規則1条のとおり、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸といった合併症が発症することもある。 (六) どの程度の粉じん作業歴によって、じん肺の症状が発現するかについては、作業現場における粉じんの濃度、粉じんの性質、個人差によって大きく左右され、一概にはいえない問題ではあるが、終戦後シベリアに抑留され鉱山で強制労働に従事させられた経験のある者の中に、2年半程度鉱山労働に従事して復員し、その後20年から30年経過後に珪肺を発症した例があるとの報告がある一方、高濃度の粉じんでは平均して10年程度の鉱山作業歴で発症し、低濃度では30年ないし40年程度の鉱山作業歴で発症すると報告されたこともある。 (七) 労働省(当時)に設置された「じん肺と肺がんとの関連に関する専門家会議」は、昭和53年10月、検討結果報告書を発表したが、その中で「じん肺と肺がんの因果関係の存在を医学的に確認できるような材料が得られなかったものの、我が国ではじん肺患者に肺がんが合併する頻度が一般人口における場合よりも高いことのほか、じん肺患者に肺がんが合併した場合には、高度に進展したじん肺病変の存在が、①肺がんの早期発見の困難性、②肺がんの治療方法の制限、③予後不良という医療実践上の不利益を招く」と指摘した。 いことのほか、じん肺患者に肺がんが合併した場合には、高度に進展したじん肺病変の存在が、①肺がんの早期発見の困難性、②肺がんの治療方法の制限、③予後不良という医療実践上の不利益を招く」と指摘した。労働省は、同年11月2日、同報告を受けて、じん肺管理区分が管理4と決定された者であって、現に療養中の者に発生した原発性の肺がんについては、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱うとの通達を発した(基発第608号)。 3 石灰石粉じんとじん肺との一般的因果関係(一) 証拠(甲第159、第161、第166、第167、第171及び第240号証、丙第1、第202、第203及び第217号証、第218号証の1、2、第219、第222及び第243号証、第235号証の各1、2並びに第257号証)によれば、以下の事実を認めることができる。 (1) 石灰岩とは、炭酸カルシウムからなる動物の殻や骨格等が水底に積もって生じた堆積岩の一つであり、大理石として建築用材に使用されたり、石灰及びセメント製造の原料として利用されている。日本で発掘される石灰岩は、一般的に塊状で堆積しており、純度が高いとされている。 (2) 金属鉱山や石炭鉱山とは異なり、石灰石鉱山では、元来、珪肺の発症が問題とされることがなかったところ、早稲田大学理工学部鉱山学科の助教授であった房村信雄は、昭和30年9月、石灰石鉱山における粉じんの中に含まれる遊離珪酸の割合を調査した論文(甲第167号証)を発表するなどして問題提起をした。 また、九州大学医学部衛生学教室の高城靖夫は、家兎を使って石灰石粉じんの吸入実験を行い、昭和33年11月、実験結果(甲第159号証)を発表したが、その中で、高城は、1立方メートル当たり約30グラムの石灰石粉じん(K鉱山)を1 教室の高城靖夫は、家兎を使って石灰石粉じんの吸入実験を行い、昭和33年11月、実験結果(甲第159号証)を発表したが、その中で、高城は、1立方メートル当たり約30グラムの石灰石粉じん(K鉱山)を1日2時間15か月吸入させたところ、軽症じん肺の比較的初期の所見を認めることができたとし、このような実際上遭遇し得ないような超高濃度の石灰石粉じんを長期にわたって吸入してもなおこの程度の僅少の変化にとどまったということは、一面、先人のいうように石灰石粉じんは、生体にとって比較的無害であるように考えられるが、反面、これをさらに長期にわたって吸入し続ければ、肺組織の線維化に結びつく高度の変化も当然起こり得ると考えられ、また、上記所見は、当該石灰石粉じんに2.68パーセントの割合で含まれていた珪酸に起因するものと考えられると論じた。 (3) 早稲田大学理工学部の岩崎孝助教授は、昭和60年1月、石灰石鉱業協会が発行している雑誌に、「粉じんと、その対策入門(その1)基礎編・測定編」と題する論文(甲第171号証)を寄稿し、その中で、日本産の石灰石は、遊離珪酸量が極めて少なく、石灰石粉じんの吸入による珪肺はあり得ないと考えられてきたが、指摘されてきた遊離珪酸の分析値は、あくまで試料としての石灰石であり、実際には、石灰石鉱床中に散見されるチャートや粘板岩あるいは表土中に遊離珪酸が大量に含まれているとして、石灰石粉じんは、無害ではないと論じた。 (4) 産業医科大学の大藪貴子らは、ラットを実験材料として1立方メートル当たり2.3ミリグラムの濃度の不純物含有の少ない石灰石粉末(無水珪酸の割合は、0.25パーセント)を6か月間(1日6時間、週5日)暴露する吸入実験を行い、平成8年6月、日本災害医学会が発行している会誌に「石灰石粉末の吸入暴露による肺線維化につ い石灰石粉末(無水珪酸の割合は、0.25パーセント)を6か月間(1日6時間、週5日)暴露する吸入実験を行い、平成8年6月、日本災害医学会が発行している会誌に「石灰石粉末の吸入暴露による肺線維化について」と題する論文(丙第202号証)を発表し、肺臓の病理組織学的変化について暴露群と非暴露群とで有意差は認められなかったと論じた。 また、大藪貴子らは、同じ石灰石粉末100ミリグラムを10ミリリットルの生理食塩水に懸濁させた溶液0.25ミリリットルをラットの気管内に注入し、肺内残留石灰石粉末量を測定する実験を行い、平成8年8月、同会誌において、その結果を発表し(丙第203号証)、肺内残留石灰石粉末は、急激に減少し、その半減期は1日であり、7日後にはほとんどが消滅していること、不純物の少ない石灰石粉末の肺内での溶解速度は速く、肺の線維化を惹起し難いことを論じた。 (5) 北里大学医学部の岡田充史らは、無水珪酸の割合が0.29パーセントの石灰石粉末30ミリグラムないし300ミリグラムをリン酸緩衝液2ミリリットルに懸濁させた溶液を家兎の気管内に注入し、肺に及ぼす障害作用を肺磁界測定法及び形態学的観察によって評価する実験を行い、平成8年10月、日本災害医学会会誌に、その結果を発表し(丙第217号証)、肺組織の障害は認められず、石灰石粉じんが基本的には無害であるとする従来の報告を支持すると論じた。 (6) 日本産業衛生学会は、労働者の健康障害を予防するための手引きとして、各種有害物質の許容濃度に係る勧告を行っているが、その中で、石灰石は、遊離珪酸の割合が10パーセント未満の鉱物性粉じん等と並んで、より有害度の低いとされる第2種粉じんに分類され、総粉じんの許容濃度は、1立方メートル当たり4ミリグラムであると勧告している。 離珪酸の割合が10パーセント未満の鉱物性粉じん等と並んで、より有害度の低いとされる第2種粉じんに分類され、総粉じんの許容濃度は、1立方メートル当たり4ミリグラムであると勧告している。 一方、米国の産業衛生専門家会議は、石灰石粉じんは、過度の量を吸い込めば、肺組織内の傷痕の原因となるものの、組織反応は復活可能であるとし、肺機能範囲にはコラーゲン組織傷痕が形成されない不快粒子状物質の一つとして石灰石粉じんを位置付け、総粉じんの許容濃度は、1立方メートル当たり10ミリグラムであると勧告している。 (二) 以上によれば、現時点における科学的知見に基づく限り、純粋な石灰石粉じんは、肺内で溶解し、長く滞留することがないため、じん肺の症状を発症又は増悪させることは考え難いというべきであるが、一方で、現実の石灰石鉱山においては、石灰石の中にも少量ながら珪肺の原因となる無水珪酸が含まれ、また、鉱山を覆う表土や石灰石鉱石中のチャートや粘板岩は、大量の無水珪酸を含有しているため、採掘する石灰石中に含まれている無水珪酸等のじん肺発症の原因となり得る物質の割合、当該石灰石鉱山における表土、チャート及び粘板岩の状況、鉱山労働者の個々の作業内容によっては、当該鉱山作業が露天で行われていたとしても、珪肺に罹患する可能性がないとはいえないというべきである。 4 一審被告Jが鉱山権を有する各鉱山抗における労働実態一審被告Jが鉱山権を有する各鉱山抗における労働実態は、次のとおり訂正又は削除するほかは、原判決第三章第五のとおりであるからこれを引用する。 (一) 原判決188頁12行目及び13行目を「昭和48年4月以降は、原則として一の方のみの勤務となった。」と改める。 (二) 原判決189頁9行目の「削岩員」から同10行目の末尾までを「削岩員に助手が不要とな 決188頁12行目及び13行目を「昭和48年4月以降は、原則として一の方のみの勤務となった。」と改める。 (二) 原判決189頁9行目の「削岩員」から同10行目の末尾までを「削岩員に助手が不要となり、また、掘進作業に運鉱員は不要となった。」と改める。 (三) 原判決193頁3行目の「その場合」から同9行目の「できない。)」までを削る。 (四) 原判決194頁11行目から同195頁2行目までを「しかしながら、岩盤の硬い場所では、削孔作業終了後、まず中心部(芯)のみを発破し、次に周辺部(払い)を発破する2回発破が行われることもあった。」と改める。 (五) 原判決199頁9行目の「大体二人」を「原則として一人」と改める。 (六) 原判決200頁7行目を削る。 (七) 原判決202頁6行目及び7行目を「採鉱場所が袋状になっており、通気が悪いため、発破の際に発生した粉じんが坑内に充満していることもあった。」と改める。 (八) 原判決204頁4行目の「内燃機関、」を削る。 (九) 原判決208頁2行目から同9行目までを削る。 (一〇) 原判決211頁11行目及び12行目を削り、同14行目から212頁3行目までを「坑内の様々な場所で粉じんが浮遊していたため、坑内に入る作業員は、坑内巡視をする保安係員であっても、粉じんを吸入することもあった。」と改める。 5 患者原告らの粉じん作業及び健康被害の概要と因果関係(一) 患者原告A(1) 前記1の事実、証拠(甲第32、第68、第91、第200、第209及び第219号証並びに患者原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告A(昭和4年3月23日生まれ)は、昭和18年3月に旧制小学校を卒業して同年4月、J開発株式会社(以下「J開発」という。)に入社し、昭和21年1月まで採鉱課調査係に 認めることができる。 ア患者原告A(昭和4年3月23日生まれ)は、昭和18年3月に旧制小学校を卒業して同年4月、J開発株式会社(以下「J開発」という。)に入社し、昭和21年1月まで採鉱課調査係に配属され、亜鉛鉱、硫化鉱、鉄鉱及びマンガン鉱を主に採掘するT鉱山D坑等の坑内における測量作業に従事し、同年2月からは運鉱員に配置換えとなり、D坑及び鉄鉱を主に採掘するT鉱山N坑において、鉱石、土砂等の運搬作業に従事し、昭和25年2月からは削岩員としてD坑において削岩作業に従事した。 イ昭和25年8月1日、J開発がその所有していた鉱山権、土地及び建物の所有権を現物出資して一審被告J(当時の商号は、j株式会社。)が設立されると、患者原告Aは、一審被告Jの社員となり、削岩員として、坑内における削岩作業を続け、昭和33年からは亜鉛鉱、鉛鉱、鉄鉱及び硫化鉱を主に採掘するT鉱山A坑において削岩作業に従事した後、昭和41年4月から坑内保安係員となって坑内巡視等に従事し、昭和42年10月に一審被告Jを退職した。 削岩作業をする際には、防じんマスクが支給されていたが、粉じんで目詰まりを起こし、そのまま使用していると息苦しくなるため、患者原告Aは、防じんマスクのひもを緩めて作業をすることもあった。 ウ患者原告Aは、その後、4年間、造園会社に勤務したほか、O村のダム工事現場等において資材の運搬作業に従事し、昭和56年4月ころからは伐採やコンクリート作業に従事していたが、昭和59年ころから平坦な道を歩いていても息切れを感ずるようになったため、同年、健康診断を受けたところ、じん肺であると診断され、S労働基準局長は、同年8月9日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が多数あり、著しい肺機能障害があるとして、じん肺管理区分管理4の決定をした。 エ患者原告Aは、昭和 じん肺であると診断され、S労働基準局長は、同年8月9日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が多数あり、著しい肺機能障害があるとして、じん肺管理区分管理4の決定をした。 エ患者原告Aは、昭和63年8月ころ、肺結核を患って5か月間入院したことがあり、治療は、平成4年まで続けられた。 オ現在、咳及び痰が深夜早朝に頻繁に出るため、患者原告Aは、毎日、吸引機(ネブライザー)を使用し、月に1回は通院している。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Aは、じん肺管理区分管理4のじん肺に罹患し、著しい肺機能障害を発症させていることが認められるが、これは、J開発や一審被告Jの従業員としてT鉱山において、24年以上にわたり坑内における削岩作業等を行ったことに起因するものと推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。 (二) 患者原告B(1) 前記1の事実、証拠(甲第69、第77、第210、第221及び第238号証並びに患者原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告B(昭和2年7月25日生まれ)は、昭和17年3月、旧制小学校を卒業してJ肥料株式会社に入社し、同年12月から宮崎県内の銅鉱を主に採掘するM鉱山において、掘削員として坑内掘削作業に従事するなどし、昭和25年8月1日、一審被告Jが設立されると、同社の社員となり、M鉱山における削岩作業を続け、昭和28年6月からはT鉱山D坑に配置換えとなり、同様の作業を続け、昭和39年9月に退職した。 削岩作業をする際には、一審被告Jから防じんマスクが支給されていたが、作業中に目詰まりを起こすと、患者原告Bは、防じんマスクを使用しないで、布を手拭いで押さえて削岩作業に従事したこともあった。 イ患者原告Bは、昭和39年10月から昭和54年まで電話敷設作業に従事した。 ウ 目詰まりを起こすと、患者原告Bは、防じんマスクを使用しないで、布を手拭いで押さえて削岩作業に従事したこともあった。 イ患者原告Bは、昭和39年10月から昭和54年まで電話敷設作業に従事した。 ウ患者原告Bは、昭和50年ころから息切れや咳や痰が出る症状が現れるようになり、昭和58年に健康診断を受けたところ、じん肺であると診断され、S労働基準局長は、同年12月12日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が多数あり、著しい肺機能障害があるとして、じん肺管理区分管理4の決定をした。 エ患者原告Bは、その後、肺癌に罹患していることが分かり、平成10年12月ころ、右上肺の約3分の1を摘出する手術を受け、平成11年3月に退院した。 オ患者原告Bは、平成12年1月28日、息切れ発作を起こして入院し、その後、肺炎を併発して同年5月ころまで入院を続け、その後自宅で酸素療法を受けていたが、平成13年1月に再び息切れ発作を起こし、入院して治療を受けたが、同年2月に肺炎を併発し、同月21日、死亡した。 カ患者原告Bの死亡診断書を作成したT生協病院のA医師は、患者原告Bの直接の死因は、肺炎であり、その原因は、じん肺であると診断した。 キ患者原告Bの遺族は、患者原告Bの死亡が業務上の事由に基づくものとして、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を受けている。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Bは、じん肺管理区分管理4のじん肺に罹患し、著しい肺機能障害を発症させていたもので、その後、肺癌が発見され、右上肺の約3分の1を摘出する手術を受けているものの、その後の経過や、上記死亡診断書の内容に加え、前記2のとおり、じん肺は、その症状が進行すると、肺感染症を合併して死に至ることがあることを考え併せると、同人は、肺癌を原因としてではなく、じん肺に起因する肺炎 の経過や、上記死亡診断書の内容に加え、前記2のとおり、じん肺は、その症状が進行すると、肺感染症を合併して死に至ることがあることを考え併せると、同人は、肺癌を原因としてではなく、じん肺に起因する肺炎によって死亡したものと推認され、同人のじん肺と死亡との間には因果関係があるものと認められる。そして、患者原告Bのこのようなじん肺の発症は、21年以上にわたり、J肥料株式会社や一審被告J等の従業員としてM鉱山やT鉱山において、坑内における削岩作業を行ったことに起因するものと考えられ、以上の認定を覆すに足りる証拠はない。 一方、患者原告Bは、上記のとおり、肺癌にも罹患していたことが認められるが、じん肺と肺癌との因果関係については、上記2(七)のとおり、医学的には立証されていないというべきであり、また、仮に関連性が認められるとしても、肺癌自体は、じん肺患者以外にも広く発症するものであって、患者原告Bの肺癌が同人のじん肺によって発症したとは直ちにはいえず、これを認めるに足りる証拠はないというほかない。 (三) 患者原告C(1) 前記1の事実、証拠(甲第60、第70、第93及び第215号証)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告C(昭和2年4月19日生まれ)は、旧制小学校を卒業して、昭和18年2月17日、J開発に入社し、T鉱山N坑の坑内において、削岩員として削岩作業に従事したほか、昭和20年8月からT鉱山R坑において機械類の運搬作業に、昭和21年5月からT鉱山D坑において鉱石の運搬作業や坑内における削岩作業に従事した。 イ昭和25年10月、一審被告Jの下請業者であったK組に雇用され、昭和35年2月まで削岩員として、D坑やA坑の坑内における削岩作業を続けた。 削岩作業をする際には、防じんマスクが支給され、患者原告Cは 和25年10月、一審被告Jの下請業者であったK組に雇用され、昭和35年2月まで削岩員として、D坑やA坑の坑内における削岩作業を続けた。 削岩作業をする際には、防じんマスクが支給され、患者原告Cは、なるべくマスクをするように心がけていたが、マスクの隙間から粉じんが入ってくることがあった。 ウ患者原告Cは、昭和58年ころから咳や痰が出る症状が現れるようになり、S労働基準局長は、昭和61年9月30日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が少数認められものの、著しい肺機能障害はないとして、じん肺管理区分管理2の決定をし、また、その際、同人は、合併症として続発性気管支炎に罹患していると認定された。 エ患者原告Cは、平成3年8月25日、高血圧症に起因する脳内出血を起こし、療養していたが、平成11年2月12日、死亡した。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Cは、じん肺管理区分管理2のじん肺とその合併症である続発性気管支炎に罹患したことが認められるが、これは、17年にわたり、J開発やK組の従業員としてT鉱山において、坑内における削岩作業を行ったことに起因するものと考えられ、同認定を覆すに足りる証拠はない。 一方、患者原告Cは、上記のとおり、平成11年2月12日に死亡しているが、平成3年8月25日に高血圧症による脳内出血を起こして療養していたものであり、じん肺及びその合併症によって死亡したと認めるに足りる証拠はない。 (四) 患者原告D(1) 前記1の事実、証拠(甲第30、第71、第92、第211及び第222号証並びに患者原告D本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告D(昭和6年2月1日生まれ)は、昭和20年3月、旧制小学校を卒業して、同年4月、J開発に入社し、T鉱山A坑やD坑の坑内において、削岩員とし 趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告D(昭和6年2月1日生まれ)は、昭和20年3月、旧制小学校を卒業して、同年4月、J開発に入社し、T鉱山A坑やD坑の坑内において、削岩員として削岩作業に従事した。 イ昭和25年8月1日、一審被告Jが設立されると、患者原告Dは、同社の社員となり、D坑の坑内における削岩作業を続け、昭和36年10月からは鉄鉱を主に採掘するT鉱山B坑に配置換えとなり、同様の作業を続け、昭和43年からは坑内保安係員となって坑内巡視等に従事し、昭和49年3月に退職した。 削岩作業をする際には、防じんマスクが支給され、患者原告Dは、削岩作業中にマスクをするように心がけていたが、マスクの隙間から粉じんが入ってくることがあったほか、息苦しさのため、マスクのひもを緩めて使用することもあった。 ウ患者原告Dは、昭和49年7月23日から昭和51年2月までS土木の従業員として、W鉱山等において坑道を掘り進める掘削作業や坑内巡視等に従事した後、昭和51年2月から昭和61年2月まで陶器の卸問屋において商品管理の仕事に従事した。 エ患者原告Dは、昭和35年ころから咳や痰が出る症状が現れるようになり、昭和59年4月、じん肺と診断され、S労働基準局長は、同年11月21日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が少数認められるものの、著しい肺機能障害はないとして、じん肺管理区分管理2の決定をした。また、同人は、平成9年10月8日、合併症として続発性気管支炎に罹患していると認定された。 オ現在、患者原告Dは、月に1回は通院して咳や痰を押さえる薬の処方を受けている。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Dは、じん肺管理区分管理2のじん肺とその合併症である続発性気管支炎に罹患したことが認められるが、これは、31年にわたり、J開 さえる薬の処方を受けている。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Dは、じん肺管理区分管理2のじん肺とその合併症である続発性気管支炎に罹患したことが認められるが、これは、31年にわたり、J開発や一審被告J、S土木の従業員としてT鉱山等において、坑内における削岩作業等を行ったことに起因するものと推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。 (五) 患者原告E(1) 前記1の事実、証拠(甲第72、第94、第200、第212及び第220号証)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告E(大正14年10月4日生まれ)は、昭和12年3月、旧制小学校を卒業して、昭和17年4月、J開発に入社し、T鉱山D坑、A坑及びN坑の坑内において、削岩員として削岩作業に従事した。 イ昭和25年8月1日、一審被告Jが設立されると、患者原告Eは、同社の社員となり、昭和46年11月までD坑の坑内における削岩作業を続け、その後、一時休職し、昭和47年5月から坑外作業に従事して昭和56年3月に退職した。 ウ患者原告Eは、昭和38年ころから息切れの症状が現れるようになり、昭和56年4月、じん肺と診断され、同年、じん肺管理区分管理3の決定を受けた。しかしながら、同人の息切れの症状は悪化し、患者原告Eは、管理区分の再認定の申請を行ったところ、S労働基準局長は、昭和59年9月18日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が多数あり、著しい肺機能障害があるとして、じん肺管理区分管理4の決定をした。 エ患者原告Eは、夜間に痰が詰まることがよくあり、呼吸困難を理由に入退院を繰り返している。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Eは、じん肺管理区分管理4のじん肺に罹患し、著しい肺機能障害を発症させていることが認められるが、これは、30年近くにわたり、 由に入退院を繰り返している。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Eは、じん肺管理区分管理4のじん肺に罹患し、著しい肺機能障害を発症させていることが認められるが、これは、30年近くにわたり、J開発や一審被告Jの従業員としてT鉱山において、坑内における削岩作業等を行ったことに起因するものと推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。 (六) 患者原告F(1) 前記1の事実、証拠(甲第62、第73、第96、第200、第213及び第218号証並びに患者原告F本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告F(昭和7年9月14日生まれ)は、昭和21年3月に旧制小学校を卒業し、昭和22年4月から自動車解体業を営む会社の従業員として、解体作業や部品の販売を行い、昭和32年ころから護岸工事やトンネル工事における作業員として、各地を転々とした。 イ患者原告Fは、昭和44年に一審被告Jの下請業者であったT組に雇用され、昭和48年3月までT鉱山B坑の坑内において削岩作業を行い、その後、昭和55年3月までT鉱山K坑において、珪石を露天掘りする削岩作業を続けた。K坑における露天掘り作業は、山の斜面において行うため、粉じんを押さえる散水ができず、相当の粉じんが発生した。 削岩作業をする際には、防じんマスクが支給され、患者原告Fは、削岩作業中、これを使用していたが、マスクの隙間から粉じんが入ってくることがあった。 ウ患者原告Fは、昭和52年から息苦しさや咳、痰が出る症状がみられ、風邪を引きやすく直り難いという症状を感ずるようになったところ、昭和55年3月末ころ、結核に罹患していることが判明して入院し、T組を退職した。患者原告Fは、その後も療養を続ける生活をしていたところ、平成4年初めころ、じん肺の診断を受け、S労働基準局長は、同 ろ、昭和55年3月末ころ、結核に罹患していることが判明して入院し、T組を退職した。患者原告Fは、その後も療養を続ける生活をしていたところ、平成4年初めころ、じん肺の診断を受け、S労働基準局長は、同年8月31日、X線写真上、一側の肺野の3分の1以下に大陰影が見られ、肺機能の障害もあるとして、じん肺管理区分管理3ロの決定をした。 エ労働大臣は、平成11年5月28日、患者原告Fにつき、X線写真上、一側の肺野の3分の1以下に大陰影があり、著しい肺機能障害があるとして、先にされたじん肺管理区分の決定を取り消し、じん肺管理区分管理4とする裁決をした。 オ患者原告Fには、息切れや、夜間における咳、痰、呼吸困難等の症状が顕著にみられる。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Fは、じん肺管理区分管理4のじん肺に罹患し、著しい肺機能障害を発症させていることが認められるが、これは、もっぱらT組の従業員としてT鉱山において、11年にわたり削岩作業を行ったことに起因するものと推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。 (七) 患者原告G(1) 前記1の事実、証拠(甲第34、第74、第95及び第200号証、丙第1、第5、第6、第8、第9号及び第12号証、第15ないし第21号証、第30号証並びに患者原告G本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告G(昭和7年7月30日生まれ)は、旧制小学校を卒業後、約12年間、鍛冶屋の仕事に従事していたが、昭和35年4月10日、一審被告Jの下請業者であったT組に雇用され、一審被告Jが鉱業権を有するT鉱山B坑の坑内において削岩作業及び運搬作業等に従事し、昭和44年、T組を退職した。 削岩作業をする際には、防じんマスクが支給されていたが、粉じんで目詰まりを起こして息苦しくなるため、患者原告 T鉱山B坑の坑内において削岩作業及び運搬作業等に従事し、昭和44年、T組を退職した。 削岩作業をする際には、防じんマスクが支給されていたが、粉じんで目詰まりを起こして息苦しくなるため、患者原告Gは、マスクのひもを緩めて使用していた。 イ患者原告Gは、昭和44年、一審被告Kの下請会社であったM建設株式会社のさらに下請をしていたK組に雇用され、B山の北斜面中央に位置し、一審被告Kが鉱山権を有するU鉱山に配置された。 ウ B山はS県T郡Y町にあり、周辺の地層は、中生代三畳紀に堆積したB山層は、概ね下位より輝緑凝灰岩、石灰岩、粘板岩、珪質石灰岩、チャートの順に堆積し、地殻変動の結果横倒しの状態となって、B山山頂から北側に輝緑凝灰岩、石灰岩、粘板岩、珪質石灰岩、チャートの順で各地層が概ね地表面に現れており、B山の北側に位置する石灰岩の塊状堆積物は、平均傾斜度が45度の斜面に南北に700ないし800メートル幅で地表面から地中深く存在しており、B山の北側半分の大半が巨大な石灰岩の塊によって構成されている(丙第8、第9号証)。 B山の石灰岩は、一つの大きな緻密な塊として堆積しており、U鉱山から採掘された石灰石における炭酸カルシウムの割合は98パーセントと高く、一方、無水珪酸の割合は、0.1パーセント程度と僅少である。 B山では、まれに粘土層等の表土が石灰岩の上部を覆っていることもあったが、その場合には、表土を除去した上で採掘作業が行われた。 エ U鉱山は、昭和42年9月、B山の石灰石を露天で採掘する開発が着手され、昭和44年6月、第1グローリーホールが完成した。そこでは、石灰岩が山の斜面に露出していることを利用し、山麓近くに採掘された石灰石を搬出するための水平坑道を設け、さらにその先端から山の斜面に向かって立抗を設けて貫通させ、採掘員が同貫通抗 完成した。そこでは、石灰岩が山の斜面に露出していることを利用し、山麓近くに採掘された石灰石を搬出するための水平坑道を設け、さらにその先端から山の斜面に向かって立抗を設けて貫通させ、採掘員が同貫通抗の上端から石灰岩からなる山の斜面を掘削機と発破を使って上部に向かって漏斗状に削り取り、砕かれた石灰石を立抗に落下させ、水平抗を通じて搬出するというグローリーホール採掘法と呼ばれる作業が行われた。U鉱山では、昭和45年3月には第2グローリーホールが完成し、石灰石の露天採掘が行われた。 採掘作業員は、午前9時半ころグローリーホールに到着して、削岩機を用いる穿孔作業のほか、1日1回正午に行われる発破作業等を行い、午後4時ころ下山していた。患者原告Gは、昭和44年から昭和48年まで上記グローリーホールにおいて露天での掘削作業に従事したほか、昭和47年ころ約8か月間輝緑凝灰岩と石灰岩の境界を確認するなどの目的のために石灰岩鉱床の中を掘り進める探鉱坑道掘進作業に従事したこともあった。 オ U鉱山は、昭和47年5月から採掘された石灰石を落下させるための斜抗を石灰岩鉱床の中に貫通させた上、自走式削孔機(クローラドリル)や、その後導入された運転席のある大型自走式削孔機(ロータリードリル)を用いて石灰岩鉱床を階段状に掘削し、採掘された石灰石を大型ホイールローダや大型ダンプで斜抗まで運搬して落下させ、鉱床内に設けられたベルトコンベアで搬出するというベンチカット採掘法に移行するための準備が始められ、昭和48年10月から同法による採掘作業開始された。 U鉱山では、ベンチカット採掘法による採掘作業が始まったころから、集塵機が導入されるようになり、採掘現場において使用された。 カ患者原告Gは、昭和48年から昭和55年までU鉱山のベンチカット切羽における採掘作業に従事 ット採掘法による採掘作業が始まったころから、集塵機が導入されるようになり、採掘現場において使用された。 カ患者原告Gは、昭和48年から昭和55年までU鉱山のベンチカット切羽における採掘作業に従事し、昭和55年から昭和61年まで鉱床内に設けられた運搬坑道内において、主にベルトコンベアの運転に従事し、昭和61年から昭和63年11月までの間、坑外における苗場整備、苗木採取、草刈り等の緑化作業に従事した。 キ患者原告Gは、平成2年ころ、T生協病院において、じん肺であると診断され、S労働基準局長は、同年5月23日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が多数あり、著しい肺機能障害があるとして、じん肺管理区分管理4の決定をした。 患者原告Gは、肺癌に罹患しているものと診断され、平成6年9月12日、S医科大学において、背部の腫瘍除去手術を受けるとともに、肺癌に対する化学療法や放射線療法を受けていたが、同年11月26日、死亡した。患者原告Gの死亡診断書を作成したS医科大学附属病院のS医師は、患者原告Gの直接の死因は、原発性肺癌であると診断した。 カ患者原告Gの遺族は、患者原告Gの死亡が業務上の事由に基づくものとして、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付の支給を受けている。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Gは、じん肺管理区分管理4のじん肺に罹患し、著しい肺機能障害を発症させたことが認められたが、同人は、その後、肺癌に罹患しているものと診断され、肺癌により死亡したものであるところ、前記のとおり、じん肺と肺癌との因果関係については、医学的には立証されていない上に、肺癌自体は、じん肺患者以外にも広く発症するものであるから、患者原告Gの肺癌が同人のじん肺によって発症したものと直ちにはいえず、これを認めるに足りる証拠はないといわざるを得 には立証されていない上に、肺癌自体は、じん肺患者以外にも広く発症するものであるから、患者原告Gの肺癌が同人のじん肺によって発症したものと直ちにはいえず、これを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。そうすると、同人のじん肺と死亡との因果関係についても、これを認めることができないというほかない。上記のとおり、患者原告Gの遺族は、患者原告Gの死亡が業務上の事由に基づくものとして、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を受けていることが認められるが、前記2(七)のとおり、労働省は、じん肺管理区分が管理4と決定された者であって、現に療養中の者に発生した原発性の肺がんについては、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱うものとする旨の通達を発しており、患者原告Gの遺族に対する上記遺族補償給付は、同通達に基づいて一律に実施されたものであるから、同給付を受けているからといって、患者原告Gの肺癌が同人のじん肺に起因するものであるとは直ちにはいえない。 一方、患者原告Gの上記のようなじん肺発症の原因について検討するに、同人は、T組の従業員としてT鉱山において、9年にわたり坑内での削岩作業等に従事した後、昭和44年から昭和55年まで、石灰石鉱山であるU鉱山において、露天での石灰石の掘削作業に従事したほか、昭和47年ころ約8か月間、石灰岩鉱床の中を掘り進める探鉱坑道掘進作業に、昭和55年から昭和61年まで鉱床内に設けられた運搬坑道内において、主にベルトコンベアの運転に従事したものであり、このうち、T鉱山において削岩作業等を行ったことが患者原告Gの上記のようなじん肺の発症及び増悪の原因となったことは明らかというべきである。しかしながら、前記3のとおり、現時点における科学的知見に基づく限り、純粋な石灰石粉じんがじん肺を発 たことが患者原告Gの上記のようなじん肺の発症及び増悪の原因となったことは明らかというべきである。しかしながら、前記3のとおり、現時点における科学的知見に基づく限り、純粋な石灰石粉じんがじん肺を発症させ又はその症状を増悪させるとは考え難いため、U鉱山における石灰石の掘削作業等が患者原告Gのじん肺の発症やその症状の増悪の原因となったか否かは、結局、U鉱山で採掘される石灰石の中に含まれる無水珪酸の量や、U鉱山を覆う表土、石灰石鉱石中のチャート及び粘板岩の量とそれらに含まれている無水珪酸の量、患者原告Gがこれらの暴露を受けた状況の如何によるものと解される。そして、前記認定のとおり、U鉱山から採掘された石灰石における無水珪酸の割合は、0.1パーセント程度と極めて僅少であって、石灰石の純度は高く、また、U鉱山の石灰岩鉱床は、一つの大きな緻密な塊として堆積していたのであるから、石灰岩鉱床の中を掘り進めた約8か月間の探鉱坑道掘進作業や、石灰石鉱床内の運搬坑道(掘削された石灰石が上部から落下してくるものの、坑道内において削岩作業が行われたわけではない。)内における約6年間のベルトコンベア運転作業等によって、患者原告Gが無水珪酸等のじん肺発症の原因となる物質を吸入した量は限られていたものと推認される。また、U鉱山においては、まれに粘土層等の表土が石灰岩の上部を覆っていることもあったが、その場合には表土を除去した上で採掘作業が行われたというのであり、しかも、採掘作業は露天で行われたのであるから、坑内での削岩作業等と比較すれば、発生した石灰石粉じんが拡散し希釈される度合は高く、作業者が同粉じんを吸入する量も限られ、露天での石灰石の掘削作業において、患者原告Gが吸入した無水珪酸等のじん肺発症の原因となる物質の量も限られていたものというべきである。そして、前記2 度合は高く、作業者が同粉じんを吸入する量も限られ、露天での石灰石の掘削作業において、患者原告Gが吸入した無水珪酸等のじん肺発症の原因となる物質の量も限られていたものというべきである。そして、前記2のとおり、じん肺は、粉じんを発散する職場を離れた後も、線維増殖性変化や気腫性変化が継続し、増悪を続けるため、その後にじん肺の症状が発現することも少なくなく、終戦後シベリアに抑留され鉱山で強制労働に従事させられた経験のある者の中に、2年半程度鉱山労働に従事して復員し、その後20年から30年経過後に珪肺を発症した者がいるとの報告があることなども考え併せると、患者原告Gの上記のようなじん肺の発症やその増悪は、9年間のT鉱山における削岩作業等のみに起因するものとしても不合理ではなく、これに、U鉱山における粉じんの暴露が寄与していると認めるにはなお証拠が不十分というほかない。 そうすると、その余について判断するまでもなく、一審被告Kに患者原告Gに対する損害賠償責任を認めることができないことは、明らかである。 (八) 患者原告H(1) 前記1の事実、証拠(甲第75号証、第88ないし第90号証、第226号証及び遺族原告h2本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告H(大正10年1月2日生まれ)は、昭和30年7月に一審被告Jに入社し、同月から昭和34年まではA県にあるS鉱山において、昭和34年から昭和37年まではG県にあるD鉱山において、昭和38年から昭和48年3月まではT鉱山において、いずれも崩落を防ぐために岩盤に支柱を設置する支保作業に従事した。 イ患者原告Hは、昭和50年に一審被告Jを退職したが、まもなくじん肺と診断されて入院し、S労働基準局長は、昭和52年5月16日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が極め 支保作業に従事した。 イ患者原告Hは、昭和50年に一審被告Jを退職したが、まもなくじん肺と診断されて入院し、S労働基準局長は、昭和52年5月16日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、高度の心肺機能障害があるとして、じん肺健康管理区分管理4の決定をした。 ウ患者原告Hは、その後も入院を続けたが、咳及び痰と呼吸困難の症状は悪化し続け、平成3年4月からは呼吸困難が更に悪化し、酸素吸入の措置を受けたものの、同年5月4日、死亡した。患者原告Hの死亡診断書を作成したK病院のH医師は、患者原告Hの直接の死因は、じん肺であると診断した。 エ患者原告Hの遺族は、患者原告Hの死亡が業務上の事由に基づくものとして、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を受けている。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Hは、じん肺健康管理区分管理4のじん肺に罹患し、高度の心肺機能障害を発症させたことが認められ、その後の経過や上記死亡診断書の内容に加え、前記2のとおり、じん肺は、その症状が進行すると、肺性心と呼ばれる心不全を合併して死に至ることもあるとされていることを考え併せると、同人はじん肺を原因として死亡したものというべきであり、同人のじん肺と死亡との間には因果関係があるものと認められる。そして、患者原告Hのこのようなじん肺の発症及びその症状の増悪は、18年近くにわたり、一審被告Jの従業員として坑内における支保作業を行ったことに起因するものと考えられ、同認定を覆すに足りる証拠はない。 (九) 患者原告I(1) 前記1の事実、証拠(甲第62、第78号、第227、第232、第233号証及び遺族原告i1本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告I(大正14年8月24日生まれ)は、昭和34年4月にT組に雇用され、 号、第227、第232、第233号証及び遺族原告i1本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア患者原告I(大正14年8月24日生まれ)は、昭和34年4月にT組に雇用され、昭和36年まではT鉱山D坑において、同年から昭和46年まではT鉱山B坑において、同年から昭和50年までは再びD坑において、いずれも崩落を防ぐために岩盤に支柱を設置する支保作業に従事し、昭和50年から昭和54年まではT鉱山K坑において珪石の小割作業に、同年から昭和55年7月までは同抗の坑外において、珪石の露天掘作業にそれぞれ従事した。 イ患者原告Iは、昭和50年以降、咳及び痰と呼吸困難の症状が見られて、珪肺と診断され、S労働基準局長は、昭和57年4月23日、じん肺管理区分管理4の決定をした。 ウ患者原告Iは、昭和57年5月からK病院に入院し、療養していたが、肺炎に感染したのを契機として咳及び痰と呼吸困難の症状が悪化し、昭和60年3月1日早朝、突然著しい呼吸困難の状態が発現し死亡した。 エ患者原告Iの死亡診断書を作成したK病院のY医師が死因の確認のために、患者原告Iを解剖したところ、左肺の上葉及び下葉に塊状巣が、両肺に多数の珪肺結節が見られ、右心室壁に高度な心肺機能低下による肺性心の所見が認められたことから、患者原告Hの直接の死因は、珪肺症であると診断した。 (2) 以上認定した事実によれば、患者原告Iは、じん肺管理区分管理4のじん肺に罹患し、著しい肺機能障害を発症させたことが認められ、その後の経過や上記死亡診断書の内容、解剖所見に加え、前記2のとおり、じん肺は、その症状が進行すると、肺性心と呼ばれる心不全を合併して死に至ることもあるとされていることを考え併せると、同人は、じん肺を原因として死亡したものというべきであり、同人とじん肺と死亡との間に じん肺は、その症状が進行すると、肺性心と呼ばれる心不全を合併して死に至ることもあるとされていることを考え併せると、同人は、じん肺を原因として死亡したものというべきであり、同人とじん肺と死亡との間には因果関係があるものと認められる。そして、患者原告Iのこのようなじん肺の発症、増悪は、21年にわたり、T組の従業員として坑内における支保作業等を行ったことに起因するものと考えられ、同認定を覆すに足りる証拠はない。 二一審被告Jの責任上記のとおり、患者原告らは、いずれも一審被告J若しくは一審被告Jの請負業者であるK組又はT組の鉱山労働者として粉じん作業に従事したためにじん肺に罹患し、その症状を悪化させたものと認められるから、以下、一審被告Jの責任について検討する。 1 一審被告Jの患者原告らに対する安全配慮義務(一) 一審被告Jと患者原告A、同B、同D、同E及び同Hとの間には、前記一5認定のとおり、直接の雇用契約が存在していたから、雇用契約上の付随義務として、一審被告Jは、同患者原告らに対して生命及び健康を危険から保護するように配慮すべき安全配慮義務があることは明らかであるが、特定の法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間においても、当該法律関係の付随義務として、当事者の一方又は双方が信義則上の安全配慮義務を負うことがあると解されるところ、患者原告C、同F、同G及び同Iは、一審被告Jの請負業者であるK組又はT組の従業員として粉じん作業に従事したものであるから、そこに一審被告Jと同一審原告らとの間に雇用契約に準ずるような法律関係が存在したかどうかが問題となる。 (二) 証拠(甲第60、第62及び第66号証、乙第68及び第72号証、証人Kの証言並びに患者原告Fの本人尋問の結果)によれば、以下の事実を認めることができる。 ( 存在したかどうかが問題となる。 (二) 証拠(甲第60、第62及び第66号証、乙第68及び第72号証、証人Kの証言並びに患者原告Fの本人尋問の結果)によれば、以下の事実を認めることができる。 (1) T鉱山周辺は、他にも石灰石鉱山や採石鉱山があり、鉱山労働者の確保が困難であるという事情があったため、一審被告Jは、昭和25年8月の設立以来、一審被告Jが直接雇用してT鉱山の鉱山労働に従事させる従業員(いわゆる本工)のみでは足りず、鉱山労働を請け負う周辺の複数の業者との間において請負契約を締結して、これらに鉱山労働を請け負わせていた。患者原告Cが所属していたK組並びに同F、同G及び同Iが所属していたT組もその中の一つであって、いずれも当時は個人が経営する小規模な請負業者であった。 (2) 上記の請負契約においては、一審被告Jが毎月作業出来高に応じた請負代金を請負業者に支払うこと、作業に必要な器材は、保安と密接な関係を有する機器及び資材については、一審被告Jが支給し又は払い下げ、その余の器材については、請負業者が提供すること、請負業者は、各種法令を遵守するほか、一審被告Jの保安上の指揮命令に従わなければならないこと、請負業者は、その請負作業を他人に請け負わせることはできないこと、請負業者は、その労働者に関する労働者災害補償保険、健康保険、失業保険及び厚生年金保険について一切の責任を負い、その費用を負担すること、請負業者は、全労働者の名簿を毎月提出するとともに、新たに雇用又は解雇したときは、その都度、一審被告Jにその旨を報告すること、請負業者の従業員で、一審被告Jの定めた規則秩序に違反するなど、一審被告Jが不都合と認めた者について解雇を勧告した場合には、請負業者はこれに従わなければならないこと、一審被告Jは、請負業者に対し、その従業員のための住 一審被告Jの定めた規則秩序に違反するなど、一審被告Jが不都合と認めた者について解雇を勧告した場合には、請負業者はこれに従わなければならないこと、一審被告Jは、請負業者に対し、その従業員のための住宅を無償で貸与すること、一審被告Jは、請負業者の従業員のために、供給所、病院その他できる限りの便宜を供与すること、請負業者は、全労働者の保安教育を定期的に行うとともに、一審被告Jが行う保安教育を受けなければならないことなどが合意された。 (3) 一審被告Jは、上記患者原告らが所属するK組やT組に対しても、その所有する積込機、運搬機、圧縮機、ポンプ等の大型機械等を無償で使用させて、契約で定められた作業現場(切羽)における採掘、掘進等の鉱山労働に従事させていたが、作業員の労働時間、休憩時間については、一審被告Jに直接雇用されていた本工と全く同じであった。K組やT組の担当者は、毎朝、一審被告Jの担当係員に対し、各組の従業員の出勤状況、就業場所を報告し、同担当係員から指示事項や注意事項の説明を受けて、これを各組の従業員に伝達し、各作業現場において作業が開始された。 (4) 一審被告Jの担当係員は、K組やT組が請け負った作業現場についても、一審被告Jの本工が担当している作業現場と同様に巡回して、K組やT組の従業員に対しても、安全衛生上の問題があれば直接注意して改善を求めるなどしたほか、本工と同様に、安全衛生教育を施し、勤務成績のよい者に対しては表彰状や賞金を授与するなどしていた。 (三) 上記認定事実に前記一で認定した事実を総合すると、一審被告Jは、T鉱山を開発するに当たって必要な数の鉱山労働者を雇用することが困難であったため、T鉱山周辺の鉱山労働を請け負う周辺の複数の業者との間において継続的かつ長期にわたって請負契約を締結して、鉱山労働者を補充していたもの に当たって必要な数の鉱山労働者を雇用することが困難であったため、T鉱山周辺の鉱山労働を請け負う周辺の複数の業者との間において継続的かつ長期にわたって請負契約を締結して、鉱山労働者を補充していたものであり、一審被告Jの請負業者であるK組やT組の従業員であった患者原告C、同F、同G及び同Iは、一審被告Jの組織的な支配下にあるT鉱山において、患者原告Cは、K組に就職した昭和25年10月から昭和35年2月まで、同Fは、T組に就職した昭和44年から昭和55年3月まで、同Gは、同じく昭和35年から昭和44年まで、同Iは、同じく昭和34年4月から昭和55年7月まで、一貫して鉱山労働に従事し、この間に、T鉱山以外で稼働したことはなかったものである。そして、一審被告JとK組やT組との各請負契約によれば、請負業者は、一審被告Jの保安上の指揮命令に従うこと、請負業者は、一審被告Jに常に従業員の氏名を明らかにし、請負業者の従業員が一審被告Jの定めた規則秩序に違反し、一審被告Jが不都合と認めて解雇を勧告した場合には、これに従うこと、請負業者の従業員も、一審被告Jが行う保安教育を受けることなどを求められていたのであり、現に、一審被告Jの担当係員は、毎朝、K組やT組の担当者に対し、各組の従業員の出勤状況等を報告させ、指示事項や注意事項を説明したほか、K組やT組が請け負った作業現場にも、一審被告Jの本工が担当している作業現場と同様に巡回して、安全衛生上の問題があれば、K組やT組の従業員に対しても直接注意して改善を求め、本工と同様に安全衛生に係る指導や教育を施すなどし、また、K組やT組の従業員は、一審被告Jが無償で提供した大型機械を使用するなどして、一審被告Jに直接雇用された本工となんら変わることのない仕事をしていたものである。以上のような事情に鑑みれば、一審被告JとK やT組の従業員は、一審被告Jが無償で提供した大型機械を使用するなどして、一審被告Jに直接雇用された本工となんら変わることのない仕事をしていたものである。以上のような事情に鑑みれば、一審被告JとK組やT組の従業員であった患者原告C、同F、同G及び同Iとの間には、雇用契約に準ずる特別な社会的接触の関係があったことは明らかであり、したがって、一審被告Jは、同患者原告らに対し、当該法律関係の付随義務として、信義則上の安全配慮義務を負っていたものというべきである。 これに対し、一審被告Jは、注文主が請負業者の個々の被用者に対して直接に業務命令(指揮監督)を行っていない場合にも、注文者に安全配慮義務を認めるとすれば、民法716条が定める注文者免責の原則に反することになるところ、一審被告Jは、K組やT組の従業員に対してこのような直接の業務命令をしていなかった旨を主張する。しかしながら、上記認定のとおり、一審被告Jの担当係員は、毎日、請負業者の担当者に指示事項や注意事項を説明し、K組やT組が請け負った作業現場を巡回し、安全衛生上の問題があれば、K組やT組の従業員に直接注意して改善を求め、本工と同様に、安全衛生に係る指導や教育を施していたものであり、そもそも、本件では、安全衛生に関わらない作業上の指示が不適正であったために、患者原告らがじん肺に罹患したかどうかではなく、一審被告Jがじん肺罹患防止のために行うべき十分な措置を講じなかったが故に、患者原告らがじん肺に罹患したかどうかが問題であることに鑑みると、本件において、一審被告JがK組やT組の従業員に対して安全衛生に関わらない作業上の指示をしていなかったからといって、信義則上の安全配慮義務が生ずべき特別な社会的接触の関係が生じないとはいえないし、もともと安全衛生上の指示とそうでない作業上の指示とを明 安全衛生に関わらない作業上の指示をしていなかったからといって、信義則上の安全配慮義務が生ずべき特別な社会的接触の関係が生じないとはいえないし、もともと安全衛生上の指示とそうでない作業上の指示とを明確に分けることができるものでもない。 また、一審被告Jは、直接雇用関係になかった患者原告らとの間において、雇用関係に準ずる法律関係があったと認められるには、一審被告Jが同患者原告らの人事権を事実上掌握していたことが必要であるところ、本件においては、そのような事情は認められない旨を主張するが、雇用契約に準ずる特別な社会的接触の関係があるというために、必ずしも人事権を事実上掌握していたことが必要となるものではない上に、本件では、一審被告JとK組及びT組との間の各請負契約上、K組及びT組の従業員が一審被告Jの定めた規則秩序に違反するなど一審被告Jが不都合と認めて解雇を勧告した場合には、K組及びT組はこれに従わなければならない旨の条項があったもので、実際にこれによって解雇された従業員が存在したか否かは別としても、同契約の条項を前提として、一審被告Jは、K組及びT組の従業員に対して指揮命令することができる立場を有していたのであるから、一審被告Jの上記主張は、採用することができない。 2 一審被告Jの安全配慮義務違反(一) じん肺の歴史、社会的知見及び法制度の概要については、原判決第三章第四のとおりであって、これによれば、じん肺の原因は、粉じんを吸入することであり、鉱山労働者がじん肺に罹患するのを防止するためには、通気をよくし、削岩機を湿式化すること、散水をして粉じんの飛散を防ぐこと、防じんマスクを使用すること、集じん装置を使用すること、鉱山労働者に対し、じん肺及び粉じんに対する知識を得させ、粉じんの発生及び吸入防止を徹底させること、特に、防じん をして粉じんの飛散を防ぐこと、防じんマスクを使用すること、集じん装置を使用すること、鉱山労働者に対し、じん肺及び粉じんに対する知識を得させ、粉じんの発生及び吸入防止を徹底させること、特に、防じんマスクを好まない抗夫への着用指導が重要であることなどが戦前から広く指摘されていたということができるから、一審被告Jとしては、雇用する鉱山労働者及び雇用に準ずる関係にある請負業者の鉱山労働者に対し、鉱山労働による粉じんの吸入が将来死に至る可能性のあるじん肺罹患の原因となることを十分に認識されるように繰り返し指導、教育するとともに、可能な限り粉じんの発生を防止できるように作業現場の環境を整え、有効な防じんマスクを準備してその着用を徹底し、労働時間が過度に多くならないように留意するほか、健康診断を通じて自らの健康状態に対する関心を高めさせるなど、じん肺罹患を防止するために必要な措置を講じるべき安全配慮義務を負っていたものと解される。 そして、一審被告Jは、個別の作業現場における粉じん濃度の把握並びにそれに基づいた粉じんの発生及び飛散に対する抑制措置を十分には行っておらず、防じんマスク着用に関する指導、管理も不十分であったばかりか、粉じんの暴露時間を短縮するための配慮や、鉱山労働者に対するじん肺に関する安全衛生上の指導や教育も不十分であったこと、したがって、一審被告Jは、その操業する鉱山抗における粉じん作業での過剰な粉じん暴露によってじん肺に罹患したと認められる患者原告らについて、安全配慮義務を怠ったというほかないことは、原判決第三章第八の五のとおりであるから(一審被告Jに患者原告らに対する故意責任までは認められないことは、原判決第三章第八の七のとおりである。)、一審被告Jは、患者原告ら又はその相続人である遺族原告らに対し、患者原告らのじん肺罹患によ (一審被告Jに患者原告らに対する故意責任までは認められないことは、原判決第三章第八の七のとおりである。)、一審被告Jは、患者原告ら又はその相続人である遺族原告らに対し、患者原告らのじん肺罹患によって生じた損害を賠償する責任(債務不履行責任)があるほかない。 (二) これに対し、一審被告Jは、粉じんの発生及び飛散に対する抑制措置として、湿式削岩機や散水のための給水設備を整備していたものであり、湿式削岩機については、水を使用しないで空繰りと呼ばれる作業を行えば、削岩機が孔から抜けなくなったり故障の原因となるなどして、作業効率が悪くなるために、削岩員が水を使用しないで湿式削岩機を使用したことはあり得ないし、規則で散水を義務づけ、散水について注意も促していたのであるから、鉱山労働者には粉じん作業現場における散水の重要性や必要性についての十分な認識があり、実際にも必要な散水は行われていたのであるから、一審被告Jの採ってきた粉じんの発生及び飛散に対する抑制措置に不十分な点があったとはいえない旨を主張する。 確かに、一審被告Jが昭和25年8月の設立以来、削岩機には先端付近から水が噴出して粉じんを押さえる湿式のものを使用し、湿式削岩機や散水のための配水管等の給水設備を順次整備するなど粉じんの発生及び飛散に対する一定の抑制措置を講じてきたものであることは、前記一4で引用した原判決第三章第五のとおりであるけれども、他方、給水が不十分であったり、給水ホースの破損等の事情から空繰りをせざるを得ない事態もみられ、また、鉱山労働者に散水の重要性や必要性についての十分な認識がなく、散水が十分に行われないことがあったことも、原判決第三章第八の五のとおりであって、これらの方の実施につき一審被告Jにはおよそ足らざるところがなかったとは到底いえない。 (三) 一審被告Jは、 がなく、散水が十分に行われないことがあったことも、原判決第三章第八の五のとおりであって、これらの方の実施につき一審被告Jにはおよそ足らざるところがなかったとは到底いえない。 (三) 一審被告Jは、T鉱山の坑道を入気坑道と排気坑道を分け、坑道内に高低差を設けたほか、風門、分流門、主要扇風機を設置し、自然通気が望めないいわゆるめくら坑道においては、風管を設置するなどしていたのであるから、一審被告Jの通気対策に不十分な点があったとはいえない旨を主張する。 しかしながら、T鉱山における通気対策は、坑道内の自然の空気の流れを利用する自然通気を基本とするものであったが、季節や坑道内の場所によっては、十分に換気されないことがあったこと、T鉱山において主要扇風機は昭和42年3月ころ1台設置されただけであり、局部扇風機の設置もごく限られていたことは、原判決第三章第八の五のとおりであるから、一審被告Jの上記主張は、採用することができない。 (四) また、一審被告Jは、国家検定に合格した防じんマスクを支給し、半年から1年でこれを定期的に交換し、防じんマスクのフィルターについても作業員の申告に応じて直ちに支給していたものであって、一審被告Jの防じんマスクの支給、管理に不十分な点があったとはいえない旨を主張する。 確かに、一審被告Jは、坑内作業をする従業員に防じんマスクを支給し、また、請負企業の従業員に対しては、一審被告Jが同種の防じんマスクを請負企業に売却し、請負企業がその従業員らにこれを支給していたこと、破損した場合にはこれを交換したほか、半年から1年の周期で定期的にこれを交換し、防じんマスクのフィルターについても鉱山労働者からの申告に応じて支給していたことは、原判決第三章第八の五のとおりであるけれども、粉じんを吸い込んだからといって、直ちに人体に害が生ずる にこれを交換し、防じんマスクのフィルターについても鉱山労働者からの申告に応じて支給していたことは、原判決第三章第八の五のとおりであるけれども、粉じんを吸い込んだからといって、直ちに人体に害が生ずるというものではないために、鉱山労働者は、ともするとその暴露を防止する意識が緩みがちとなるものと推認されるところ、実際、患者原告らは、削岩、発破等の大量の粉じんが発生する作業においては、概ね防じんマスクを使用していたものの、作業中にフィルターが詰まって息苦しくなるなどから、防じんマスクのひもを緩めたり、防じんマスクを着用しないで粉じん作業をすることもしばしばあったこと、鉱山労働者の申告を待つことなく、フィルターの状況を作業現場で確認し交換させるなど、防じんマスクの着用を組織的に管理する体制が一審被告Jになかったこと、粉じんの暴露によって罹患するじん肺の症状は深刻であり、場合によっては死に至る病であるとの危機意識を鉱山労働者に植え付けるための安全衛生上の指導教育も十分でなかったことも、原判決第三章第八の五のとおりであるから、一審被告Jの上記主張は、採用することができない。 (五) 一審被告Jは、鉱山労働者の間に、長時間の残業が常態化していたということはなく、また、昭和44年6月ころから作業量に応じて給料を支給する業績給制度を導入したが、かえってこれによって効率よく業務が遂行され、粉じん暴露時間の短縮も図られたものであって、労働時間の管理に不十分な点があったとはいえない旨を主張する。 しかしながら、長時間の残業が常態化していたかどうかは別として、A坑以外の各抗においては、1日平均2時間程度の残業が行われていたことは、原判決第三章第八の五のとおりであり、また、業績給制度の導入によって、効率的に業務が遂行されたことはあっても、それによってむしろ作業量自 抗においては、1日平均2時間程度の残業が行われていたことは、原判決第三章第八の五のとおりであり、また、業績給制度の導入によって、効率的に業務が遂行されたことはあっても、それによってむしろ作業量自体は増加したとも考えられるのであって、いずれにしても、一審被告Jには、労働時間を短縮し作業量自体を減らして、粉じんへの暴露を可及的に少なくさせるという配慮において欠けるところがあったものといわざるを得ず、一審被告Jの上記主張は、採用することができない。 三一審被告Jの患者原告H及び同Iに対する消滅時効の抗弁雇用契約ないしこれに準ずる法律関係上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、民法167条1項により10年と解され、同10年の消滅時効は、同法166条1項により、同損害賠償請求権を行使し得る時から進行するところ、雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹ったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、じん肺法所定管理区分に係る最終の行政上の決定を受けた時から進行するものと解されるところである(最高裁平成元年(オ)第1667号平成6年2月22日第3小法廷判決・民集48巻2号441頁)。 そして、一審被告Jは、患者原告H及び同Iが最終の行政上の決定である管理4の決定を受けたのは、それぞれ昭和52年5月16日、昭和57年4月23日であるところ、本訴提起日である平成4年10月12日までに10年が経過しているとして、両名に係る損害賠償請求権につき消滅時効の援用をし、他方、同患者原告らに係る一審原告らは、じん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、じん肺患者の死亡時であると解すべきであるとも主張する。 ところで、本件においては、一審原告らは、じん肺の発症以降その症状に伴って日々継続的 ことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、じん肺患者の死亡時であると解すべきであるとも主張する。 ところで、本件においては、一審原告らは、じん肺の発症以降その症状に伴って日々継続的に発生する精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料を損害として請求するほか、じん肺を原因として死亡した患者原告らに係る一審原告らは、これに加えて、患者原告らの死亡により新たに生じた死亡に対する慰謝料をも請求しているものであり、両者は、その発生時期や原因を異にするものであるから、これを同一に論じることはできない。すなわち、患者原告H及び同Iが最終の行政上の決定である管理4の決定を受けたのは、それぞれ昭和52年5月16日、昭和57年4月23日であることは前記一5のとおりであるところ、同患者原告らは、これにより、じん肺罹患に伴う既往の精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料のみならず、同決定後の管理4のじん肺に相当する病状に伴って予想される将来の精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料をも訴求することができたのであるから、これらの生前の損害についての賠償請求権の消滅時効は、じん肺法所定の管理区分に係る最終の行政上の決定を受けた時を起算点として進行するものと解するのが相当である。他方、同患者原告らは、前記じん肺患者がじん肺法所定の管理区分に係る行政上の決定を受けたからといって、もとより必然的にじん肺を原因として死亡するというものではないのであるから、その生前において未だ発生していないじん肺を原因とする死亡に基づく損害の賠償を求めることができないことはいうまでもなく、したがって、これらの死亡に基づく損害についての賠償請求権の消滅時効は、同患者原告らの死亡時を起算点として進行するものと解すべきことは明らかなところである。 そうすると、患者原告H及び同Iに対する管理4の各決定から本訴 死亡に基づく損害についての賠償請求権の消滅時効は、同患者原告らの死亡時を起算点として進行するものと解すべきことは明らかなところである。 そうすると、患者原告H及び同Iに対する管理4の各決定から本訴提起までに10年を経過したことは明らかであるから、両患者原告らの生存中の精神的、肉体的苦痛に対する各慰謝料については、消滅時効によって消滅したものというほかないが、他方、前記一5のとおり、患者原告Hは平成3年5月4日に、同Iは昭和60年3月1日にいずれもじん肺を原因として死亡したものであって、それによる損害の賠償請求権については、未だ時効により消滅したものということはできない。 これに対し、一審被告Jは、上記最高裁判決は、じん肺管理区分管理4の決定を受けた者について、同人らが生存しているか死亡しているかを問わず、その時点において同一の精神的損害が発生していると評価し、その損害賠償請求権の消滅時効は、一律にじん肺法所定の管理区分に係る最終の行政上の決定の時から進行するものとしているのであるから、本件の患者原告H及び同Iに係る死亡による損害賠償請求権をも含めた一切の損害賠償請求権の消滅時効も、両患者原告らの死亡時からではなく、最終の行政上の各決定時から起算されるべきである旨を主張する。しかしながら、同判決に係る事案においては、当該じん肺患者の死亡がじん肺を原因とするものであるか否か、その相続人である原告らがじん肺を原因とする死亡によって生じた損害をも訴求する趣旨であるか否かを明らかにしないまま、包括一律的に一定額の損害の賠償が求められたものであり、この点において、患者原告H及び同Iの各死亡がじん肺を原因とするものであり、その遺族原告らも、両名の死亡によって生じた損害の賠償を明示的に訴求している本件とは、およそ事案を異にするものであって、本件には妥 おいて、患者原告H及び同Iの各死亡がじん肺を原因とするものであり、その遺族原告らも、両名の死亡によって生じた損害の賠償を明示的に訴求している本件とは、およそ事案を異にするものであって、本件には妥当しない。 四消滅時効の抗弁に対する再抗弁(消滅時効援用の権利濫用性)患者原告H及び同Iの生存中の精神的、肉体的苦痛に対する各慰謝料は、上記四のとおり、時効により消滅したというほかないが、一審原告らは、一審被告Jの消滅時効の援用が権利濫用である旨を主張する。 しかしながら、そもそも消滅時効の援用が権利濫用に当たるというためには、債務者において債権者が訴えの提起その他時効中断の挙に出ることを妨害したり、その他債権者において時効中断の挙に出ることを期待することが酷であると考えられるような特段の事情がある場合など、信義則上、債務者が消滅時効を援用するのが社会的に許容されないような場合でなければならないものと解すべきところ、患者原告H及び同I、同Iの遺族原告らが訴えの提起その他時効中断の挙に出ることを一審被告Jが妨害したことを窺わせるような事情を認めるに足りる証拠はないし、また、患者原告H及び同I、同Iの遺族原告らが一審被告Jを相手方に時効中断の挙に出ることを期待することが酷であったというに足りる事情は認められず、一審原告らの上記主張は、採用することができない。 五損害額 1 患者原告A患者原告Aは、昭和59年にじん肺と診断され、同年8月9日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が多数あり、著しい肺機能障害があるとして、じん肺管理区分管理4の決定を受けたもので、現在も、深夜早朝に咳や痰の症状がみられることは、前記一5(一)のとおりであり、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺罹患による精神的、肉体的苦痛に対す の決定を受けたもので、現在も、深夜早朝に咳や痰の症状がみられることは、前記一5(一)のとおりであり、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺罹患による精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料としては、2100万円が相当である。 2 患者原告B患者原告Bは、昭和58年にじん肺と診断され、同年12月12日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が多数あり、著しい肺機能障害があるとして、じん肺管理区分管理4の決定を受け、呼吸困難や咳、痰の症状がみられていたところ、平成13年2月21日、じん肺に起因する肺炎によって死亡したことは、前記一5(二)のとおりであり、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺罹患及びじん肺を原因とする死亡による精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料としては、2300万円が相当である。 3 患者原告C患者原告Cは、昭和58年ころ、咳や痰の症状がみられるようになり、昭和61年9月30日、両肺野に粒状影又は不整形陰影が少数認められたものの、著しい肺機能障害はないとして、じん肺管理区分管理2の決定を受け、さらに、その際、合併症である続発性気管支炎に罹患していると診断されたこと、平成3年8月25日に高血圧症による脳内出血を起こし、平成11年2月12日死亡したものの、じん肺と同死亡との間には因果関係が認められないことは、前記一5(三)のとおりであり、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺罹患による精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料としては、1200万円が相当である。 4 患者原告D患者原告Dは、昭和35年ころから咳や痰の症状がみられるようになったところ、昭和59年4月にじん肺と診断され、同年11月21日、両肺野に粒状影又は不整形陰影が少数認められたものの、著しい 告D患者原告Dは、昭和35年ころから咳や痰の症状がみられるようになったところ、昭和59年4月にじん肺と診断され、同年11月21日、両肺野に粒状影又は不整形陰影が少数認められたものの、著しい肺機能障害はないとして、じん肺管理区分管理2の決定を受け、さらに、その後、合併症である続発性気管支炎に罹患していると診断されたことは、前記一5(四)のとおりであり、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺罹患による精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料としては、1200万円が相当である。 5 患者原告E患者原告Eは、昭和38年ころから息切れの症状が現れるようになり、昭和56年4月にじん肺と診断され、同年、じん肺管理区分管理3の決定を受け、さらに、昭和59年9月18日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が多数あり、著しい肺機能障害があるとして、管理4の決定を受け、深夜に痰が詰まり、呼吸困難のため入院を繰り返していることは、前記一5(五)のとおりであり、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺罹患による精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料としては、2100万円が相当である。 6 患者原告F患者原告Fは、昭和52年ころから息苦しさや咳、痰の症状がみられるようになっていたところ、平成4年ころじん肺と診断され、同年8月31日、X線写真上、一側の肺野の3分の1以下に大陰影が見られ、肺機能の障害もあるとして、じん肺管理区分管理3ロの決定を受け、さらに、平成11年5月28日、著しい肺機能障害があるとして、管理4とする裁決を受けたもので、現在は、夜間における咳、痰、呼吸困難等の症状が顕著にみられることは、前記一5(六)のとおりであり、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺罹患による精神 裁決を受けたもので、現在は、夜間における咳、痰、呼吸困難等の症状が顕著にみられることは、前記一5(六)のとおりであり、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺罹患による精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料としては、2100万円が相当である。 7 患者原告G患者原告Gは、平成2年ころ、じん肺と診断され、同年5月23日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が多数あり、著しい肺機能障害があるとして、じん肺管理区分管理4の決定を受けたこと、肺癌が発見され、平成6年9月12日、背部の腫瘍除去手術を受けたが、同年11月26日、肺癌により死亡したこと、じん肺と同死亡との間には因果関係が認められないことは、前記一5(七)のとおりであり、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺罹患による精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料としては、2100万円が相当である。 8 患者原告H患者原告Hは、昭和50年ころじん肺と診断され、昭和52年5月16日、X線写真上、両肺野に粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、高度の心肺機能障害があるとして、じん肺健康管理区分管理4の決定を受けたこと、同患者原告は、入院して治療を受けていたが、呼吸困難の症状が悪化し、平成3年5月4日、死亡したこと、同死亡は、じん肺を原因とするものと考えられることは、前記一5(八)のとおりであるが、同患者原告のじん肺罹患後、生存中の精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料部分については、前記三のとおり、一審被告Jの消滅時効の援用によって時効により消滅しており、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺を原因とする死亡に対する慰謝料としては、2000万円が相当である。 9 患者原告I患者原告Iは、昭和50年ころから咳、痰及び呼吸困難 、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺を原因とする死亡に対する慰謝料としては、2000万円が相当である。 9 患者原告I患者原告Iは、昭和50年ころから咳、痰及び呼吸困難の症状がみられるようになり、昭和57年4月23日、じん肺管理区分管理4の決定を受けたこと、その後、肺炎に感染したことを契機として、上記症状が悪化し、昭和60年3月1日、突然激しい呼吸困難の症状がみられて死亡したこと、同患者原告の左肺の上葉及び下葉に塊状巣が、両肺に多数の珪肺結節がみられ、右心室壁に高度な心肺機能低下による肺性心の所見が認められたこと、同死亡は、じん肺を原因とするものと考えられることは、前記一5(九)のとおりであるが、同患者原告のじん肺罹患後、生存中の精神的、肉体的苦痛に対する慰謝料部分については、前記三のとおり、一審被告Jの消滅時効の援用によって時効により消滅しており、その他、同患者原告の一切の事情を考慮すると、同患者原告のじん肺を原因とする死亡に対する慰謝料としては、2000万円が相当である。 六一審被告Jの責任の範囲患者原告A、同B、同C、同D及び同Eは、昭和25年8月に一審被告Jが設立される以前からJ開発又はJ肥料株式会社に雇用されて鉱山労働に従事したこと、同Dは、一審被告Jを退職した後も、昭和49年7月から昭和51年2月までS土木の従業員として鉱山労働に従事したことは、前記一5で認定したとおりであるところ、一審被告Jは、一審被告JとJ開発は全くの別会社であり、J開発の損害賠償債務を一審被告Jが承継することはないし、これら他の会社との間において、共同不法行為が成立することもないから、寄与度に応じて賠償額が減額されるべきである旨を主張する。 患者原告A、同B、同C、同D及び同Eのじん肺の罹患及びその症状の増悪は、一審 の会社との間において、共同不法行為が成立することもないから、寄与度に応じて賠償額が減額されるべきである旨を主張する。 患者原告A、同B、同C、同D及び同Eのじん肺の罹患及びその症状の増悪は、一審被告Jの従業員又は一審被告Jの請負業者の従業員として鉱山労働に従事したほか、J開発、J肥料株式会社又はS土木の従業員としてその前後に鉱山労働に従事したことが相まって生じた損害であるといえることは、前記一5のとおりであるから、民法719条1項後段が類推適用すべきものと解されるところ、一審被告Jの安全配慮義務違反が上記患者原告らの損害発生にどの程度寄与しているかについては確定することができないから、一審被告Jは、上記患者原告らに生じた損害の全部について賠償責任を負うべきものというほかない。 七過失相殺一審被告Jは、患者原告らに湿式削岩機における水の不使用、散水実施義務違反、防じんマスク不使用という過失があったことは明らかであり、また、患者原告らは、じん肺患者でありながら、医師の注意にもかかわらず喫煙を続けていたとして、過失相殺を適用すべき旨を主張するが、同主張に理由がないことは、原判決第三章第一二の二のとおりである。 一審被告Jは、湿式削岩機において水を使用すること、粉じん現場において散水すること、防じんマスクを使用することなどは、極めて単純なことであり、高度な教育は必要なかったもので、粉じんを吸入すれば体に悪いという事実さえ認識していれば足りるところ、患者原告らにその程度の認識があったことは明らかであるから、一審被告Jの教育が不十分であったことを理由に過失相殺を認めないのは誤りである旨を主張する。 しかしながら、じん肺の危険性に係る認識について、一審被告Jの管理者に欠けるところがあり、患者原告ら鉱山労働者に対する安全衛生上の指導や教 とを理由に過失相殺を認めないのは誤りである旨を主張する。 しかしながら、じん肺の危険性に係る認識について、一審被告Jの管理者に欠けるところがあり、患者原告ら鉱山労働者に対する安全衛生上の指導や教育も必ずしも十分ではなかったこと、一審被告Jには、防じんマスクの着用やフィルターの交換等について組織的に管理する十分な体制がなかったこと、水を使わないで湿式削岩機を使用したり、散水を怠ったことがあったのも、給水設備が不十分であったという事情があったことは、前記二2のとおりであり、これらの事情に照らすと、本件において過失相殺を適用するのは相当ではないというべきである。 また、一審被告Jは、喫煙がじん肺のみならず肺の疾病の症状を増悪させることは明らかであり、喫煙を理由とする過失相殺は当然に認められるべきである旨を主張するが、一般的に喫煙には肺機能に対する何らかの悪影響があるとしても、患者原告らが暴露を受けた高濃度のじん肺と比較した上で、患者原告らのじん肺罹患による上記認定に係る症状にどの程度の寄与をしたものかは何ら明らかではないから、一審被告Jの上記主張も、採用することはできない。 八損益相殺一審被告Jは、患者原告らが労働者災害補償保険法に基づく休業補償給付金若しくは傷病補償金又は厚生年金保険法に基づく障害年金を受給しているから、患者原告らの受けた損害からこれを控除すべきである旨を主張する。 しかしながら、労働者災害補償保険法に基づく休業補償給付金若しくは傷病補償金又は厚生年金保険法に基づく障害年金は、患者原告らが被った消極損害(逸失利益)を填補し得るものとしても、積極損害や精神的損害である慰謝料を填補するものではないところ、一審原告らが本訴において求めている損害の賠償は、精神的損害である慰謝料についてのみであり、上記認定に係る患者原 補し得るものとしても、積極損害や精神的損害である慰謝料を填補するものではないところ、一審原告らが本訴において求めている損害の賠償は、精神的損害である慰謝料についてのみであり、上記認定に係る患者原告らの損害も慰謝料であるから、仮に患者原告らが受領した保険給付が同人らの消極損害を上回ることになるとしても、超過部分を上記認定に係る慰謝料額から控除することは相当ではない。 九相続前記一5で認定した事実及び弁論の全趣旨によれば、患者原告Bは、平成13年2月21日死亡し、遺族原告b1が2分の1(1150万円)、同b2及び同b3が各4分の1(各575万円)の割合でその権利義務を相続したこと、患者原告Cは、平成11年2月12日死亡し、遺族原告cがその権利義務を相続したこと、患者原告Gは、平成6年11月26日死亡し、遺族原告g1、同g3、同g3が各3分の1(各700万円)の割合で、その権利義務を相続したこと、患者原告Hは、平成3年5月4日死亡し、遺族原告h1、同h2、同h3が各3分の1(各666万6666円、円未満切り捨て)の割合で、その権利義務を相続したこと、患者原告Iは、昭和60年3月1日死亡し、遺族原告同i1が2分の1(1000万円)、同i2、同i3が各4分の1(各500万円)の割合でその権利義務を相続したことが認められる。 一〇 弁護士費用弁論の全趣旨によれば、請求原因一一3記載の各事実が認められるところ、本件訴訟の審理経過、認容された慰謝料額等諸般の事情を考慮すると、一審被告Jの安全配慮義務違反と相当因果関係の認められる弁護士費用は、患者原告Aが210万円、遺族原告b1が115万円、同b2及び同b3が各57万円、遺族原告cが120万円、患者原告Dが120万円、患者原告Eが210万円、患者原告Fが210万円、遺族原告g1、同g3、同g 告Aが210万円、遺族原告b1が115万円、同b2及び同b3が各57万円、遺族原告cが120万円、患者原告Dが120万円、患者原告Eが210万円、患者原告Fが210万円、遺族原告g1、同g3、同g3が各70万円、遺族原告h1同h2及び同h3が各66万6666円、遺族原告同i1が100万円、同i2及び同i3が各50万円と認めるのが相当である。 一一結論以上の次第で、一審原告らの一審被告Jに対する請求は、患者原告Aが2310万円及び内2100万円に対する平成5年4月3日から支払済みまで年5分の割合による金員、遺族原告b1が1265万円及び内1150万円に対する同日から、同b2及び同b3が各632万円及び内575万円に対する同日から各支払済みまで同割合による金員、同cが1320万円及び内1200万円に対する同日から支払済みまで同割合による金員、患者原告Dが1320万円及び内1200万円に対する同日から支払済みまで同割合による金員、同Eが2310万円及び内2100万円に対する同日から支払済みまで同割合による金員、同Fが2310万円及び内2100万円に対する同日から支払済みまで同割合による金員、遺族原告g1、同g3及び同g3が各770万円及び内700万円に対する同日から各支払済みまで同割合による金員、同h1、同h2及び同h3が各733万3332円及び内666万6666円に対する同日から各支払済みまで同割合による金員、同i1が1100万円及び内1000万円に対する同日から、同i2及び同i3が各550万円及び内500万円に対する同日から各支払済みまで同割合による金員の各支払を求める限度で理由があるから、これを認容するべく、一審原告らの一審被告Jに対するその余の各請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきであるから、原判決中、一審原告らの一審被 合による金員の各支払を求める限度で理由があるから、これを認容するべく、一審原告らの一審被告Jに対するその余の各請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきであるから、原判決中、一審原告らの一審被告Jに対する請求に係る部分を上記のとおり変更することとし、また、遺族原告g1、同g3及び同g3の一審被告Kに対する各請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきであるから、原判決中、一審被告Kの敗訴部分を取り消して、その取消しに係る部分の遺族原告g1、同g3及び同g3の一審被告Kに対する各請求をいずれも棄却することとし、遺族原告g1、同g3及び同g3の一審被告Kに対する控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法67条2項、61条、64条本文、65条1項本文を、仮執行の宣言について同法310条、297条、259条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第8民事部裁判長裁判官村上敬一裁判官澤田英雄裁判官永谷典雄

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