平成17(ワ)771 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成19年1月31日 名古屋地方裁判所 その他
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判決文本文33,253 文字)

平成19年1月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成17年(ワ)第771号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年11月2日判決主文 被告は,原告Aに対し,1671万0096円及びこれに対する平成15年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,2002万0129円及びこれに対する平成15年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,被告に生じた費用の8分の1と原告Aに生じた費用の4分の1を同原告の,被告に生じた費用の16分の1と原告Bに生じた費用の8分の1を同原告の,その余を被告の各負担とする。 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告らに対し,それぞれ2310万円及びこれらに対する平成15年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,C(昭和6年11月24日生。)の相続人である原告らが,Cが死亡した(平成15年11月11日)のは,①被告病院の医師,看護師及び准看護師が,術後に適切な経過観察をしなかった,②被告病院の医師が,Cの呼吸困難の際に迅速に気道確保をしなかった,③同医師が,術後に適切なドレーンを選択しなかったなどの過誤によるものであると主張して,被告病院を開設・運営する被告に対し,主位的には不法行為(使用者責任)に基づき,予備的に は診療契約上の債務不履行基づき,損害賠償及び上記死亡日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(当事者間で争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により明らかな事実。以下,平成15年の び上記死亡日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(当事者間で争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により明らかな事実。以下,平成15年の出来事については,原則として月日のみで表示する。)(1) 当事者等ア原告Aは,Cの妻であり,原告Bは,C及び原告Aの間の子である。 原告らは,Cの死亡に伴い,それぞれ2分の1の割合でCの権利義務一切を承継した。 イ被告は,被告病院を開設・運営している。 (2) 被告病院における手術に至るまでの診療経過アCの症状Cは,平成5年ころ,声帯の手術を受けた際,合併症として左反回神経麻痺を発症し(甲A3,乙A3の37頁),平成7年ころ,声帯にシリコンを注入する処置を受け,そのころから呼吸苦を訴えていた(乙A1の3頁,3の37頁)。 Cは,8月8日,声が出にくいとしてDクリニックを受診し(乙A1の7,8頁),同月11日には,頸部前屈の制限,前屈時の呼吸苦の増強及びフラフラする感覚などの症状を訴えて,被告病院耳鼻科を受診し,同月29日,造影CT検査などを受けた(同2ないし4頁)。 イ被告病院の受診被告病院耳鼻科E医師は,Cの症状として,左反回神経麻痺による左声帯の固定を確認するとともに,椎体の骨性病変及び咽頭後壁に突出の所見を認めたため,9月3日,被告病院整形外科F医師に相談した。F医師は,9月10日,E医師に対し,Cにはエックス線写真及びCT画像上,著明な頸椎骨棘形成があり,それにより気管を圧排していると回答した(乙A 1の10頁)。そして,F医師は,Cを強直性脊椎骨増殖症(ASH)と診断し,頸椎骨切除手術を実施することにした。 ウ被告病院入院から手術前日まで(本項においては,乙A3について頁数のみで表記する。)(ア) Cは,11月7日 は,Cを強直性脊椎骨増殖症(ASH)と診断し,頸椎骨切除手術を実施することにした。 ウ被告病院入院から手術前日まで(本項においては,乙A3について頁数のみで表記する。)(ア) Cは,11月7日,被告病院に入院し(1頁),被告との間で,ASHの治療に関する診療契約を締結した。 Cは,同日,胸部エックス線検査,安静時心電図検査,血液検査を受けた(11頁)。血液検査の結果は,総タンパクが6.2(以下,単位はアルファベットで表記することがある。g/dl),アルブミンが3. 8(前同),ALPが341(U/l),ASTが96(前同),ALTが47(前同)であった。このうち,AST及びALTの数値は基準値より高く,アルブミンの数値は基準値より低かった(23頁)。また,Cの血圧は右側が132/60(収縮期/拡張期の順。mmHg),左側が138/66(前同),脈拍は84回/分,体温は36.6度であり,Cから痛みがあるとの訴えはなかった(46頁)。 さらに,Cは,11月1日,Dクリニックで肝機能検査を受けたところ,その検査数値は,総タンパクが6.1(g/dl),アルブミンが3.8(前同),ASTが44(U/l),ALTが30(前同),γ-GTPが234(前同)であった。このうち,総タンパクの数値は基準値と比べて低値であり,AST及びγ-GTPの数値は高値であった(5頁)。 (イ) Cは,同月9日,F医師から手術についての説明を受け,同医師に対し,手術同意書を交付した(30頁)。 (ウ) Cは,同月10日,呼吸困難及び水分も含めた嚥下困難の症状を訴えていた(12頁)。 同日には,Cに対する動脈血ガス分析検査(ルームエアーの条件下) が実施され,Phが7.350,PCO(二酸化炭素分圧)が44. 1(mmHg),PO(酸素分圧)が102.5(前同), 2頁)。 同日には,Cに対する動脈血ガス分析検査(ルームエアーの条件下) が実施され,Phが7.350,PCO(二酸化炭素分圧)が44. 1(mmHg),PO(酸素分圧)が102.5(前同),BE(B aseExcessの略。)が-1.9(mmol/l),SaO(動脈血酸素飽和度)が97.6パーセントであった。なお,上記検査項目の被告病院における基準値は,Phが7.42±0.04,PCOが39±7(mmHg),POが91±17(前同),BEが0±2 (mmol/l),SaOが94±2パーセントである(28頁)。 また,肺機能検査が実施されたところ,特段の異常は見られなかった(22頁)。 (3) 医学的知見ア強直性脊椎骨増殖症(ASH)前縦靱帯を中心に傍脊柱靱帯に広範な骨化を生ずる疾患であり,50歳以上の男性に発症することが多い。頸椎椎体前縁に骨棘が形成され,続いて前縦靱帯へ骨化が伸展し,椎体間に前方へ突出した骨性架橋が発生するという形で病態が進行する。そして,著しく前方へ突出した前縦靱帯の骨化により,嚥下障害,嗄声等の症状が生ずるとされている(甲B1)。 イ反回神経麻痺反回神経は,迷走神経が胸腔内に入ってから出る枝で,右側は鎖骨下動脈を,左側は大動脈弓を下から後ろに廻り,次に両側とも気管と食道との間の溝を上行し,下咽頭収縮筋の下縁で下喉頭神経となって多くの枝に分かれ,輪状甲状筋を除くすべての喉頭筋及び喉頭下半の粘膜に分布し,また上喉頭神経の内枝と結合する(甲B11)。 反回神経麻痺は,声帯麻痺,喉頭麻痺とも呼ばれ,迷走神経の分枝としての内喉頭筋を支配する反回神経の麻痺を指し,臨床的には主として声帯運動障害とそれに起因する諸症状を含む病態である。症状としては,声門閉鎖不全による嗄声と誤嚥が主であり,まれに両側 走神経の分枝としての内喉頭筋を支配する反回神経の麻痺を指し,臨床的には主として声帯運動障害とそれに起因する諸症状を含む病態である。症状としては,声門閉鎖不全による嗄声と誤嚥が主であり,まれに両側性の場合には呼吸困難 を呈することもある。 本件の争点及び争点に関する当事者の主張(なお,本項以下において,平成15年11月11日の出来事については,原則として時間のみで表記する。)(1) 争点1(Cの死因とその予見可能性の有無について)(原告らの主張)アCの死因Cは,頸椎骨切除術後の出血により,①反回神経の圧迫及び麻痺に起因する声帯閉塞,②咽喉頭部の術後出血に由来する血腫を原因とする軟部組織の腫脹による上気道閉塞(器質的な上気道閉塞),③迷走神経圧迫に起因する神経性ショックのいずれかを原因として,呼吸不全となり死亡したものである。その際,呼吸抑制という重大な副作用を有するセルシンが看護師によって投与されたことが,死亡という結果に影響を与えた可能性も否定できない。なお,反回神経の圧迫部位は,術創付近であり,被告が主張するような肺門付近ではない。 また,午後9時ころに見られたCの体動についても,上記原因に基づくものである。術後出血が原因となり,何らかの機序で声門狭窄等の異常事態が発生したからこそ,Cが不穏状態に陥り,激しく体動したと理解するのが当然である。仮に,頸部への衝撃を伴うほどの激しい体動・不穏があったというのであれば,そのこと自体で,重篤な術後合併症としての異常出血が発生したと推認する方がはるかに合理的である。 イ予見可能性の存在頸椎前方アプローチの術後合併症には,種々の疾患が指摘されているが,特に本件で問題となる呼吸障害については,多くの医学文献が指摘するところであり,とりわけ血腫や浮腫による上気道狭窄に注目する必要が 頸椎前方アプローチの術後合併症には,種々の疾患が指摘されているが,特に本件で問題となる呼吸障害については,多くの医学文献が指摘するところであり,とりわけ血腫や浮腫による上気道狭窄に注目する必要があるとされている。 また,Cの剖検所見によれば,血塊が確認された気管周囲の上縁は,声 門のレベルに相当する部位であり,それ故,喉仏周辺を上縁として肺門に及ぶ長大な血腫,血塊が形成されなかったなどということはあり得ない。 そして,剖検所見で血腫,血塊が確認された長さ15センチの気管周囲は,反回神経の分布領域と完全に一致しているから,被告病院の医療従事者が,Cの頸部の手術創の経過観察を慎重に行い,その腫脹形成に気付けば,当然,反回神経麻痺の危険性に想到したはずである。 (被告の主張)アCの死因Cの死因としては,血液が反回神経を圧迫したことによる反回神経麻痺あるいは気管内挿管に伴う反回神経麻痺のいずれかに確定できないとしても,肺門付近に及んだ凝血に起因する反回神経麻痺により健側の声帯が閉鎖したことによる呼吸不全の可能性が高い(ただし,断定はできない。)。 気管はガラス質の気管軟骨によって保護されているため,血腫によって局所的に気管が閉鎖するに至る事態は考え難い(現に,病理解剖によっても解明できていない。)上,凝血による気道閉塞であれば,徐々に進行し,SpO(経皮的酸素飽和度)が95ないし96パーセントを維持しつつ, 突然に心肺停止に至ることはまれである。なお,セルシンの投与は,静脈注射ではなく,筋肉注射であるため,即効性はなく,その作用により15分後の呼吸抑制が起こったものではない。 本件では,頸部前方アプローチによる手術に伴う合併症として発症した呼吸不全ではあるものの,通常の気道の浮腫や血腫による気道狭窄ではなく,通常では予見し得ないよう 後の呼吸抑制が起こったものではない。 本件では,頸部前方アプローチによる手術に伴う合併症として発症した呼吸不全ではあるものの,通常の気道の浮腫や血腫による気道狭窄ではなく,通常では予見し得ないような極めてまれな機序によって発生したものと評価される。 また,午後9時ころのCの不穏の原因については,①全身麻酔剤の影響の残存,②呼吸障害による低酸素,③痰の喀出不良,④体温低下と疼痛によるシバリング,⑤ICU症候群などが考えられ,SpOの推移やCの 発声の事実に照らせば,原告主張のように,声門狭窄等の異常事態によるものと一義的に確定できるものではない。そして,これらの原因による体動に伴う頸部への衝撃や急激な血圧上昇により,再出血が惹起され,これが縦隔に流入したことによって,反回神経麻痺に至ったと考えるのが合理的である。 イ予見可能性の不存在凝血による反回神経麻痺による声門閉鎖は,理論的には起こり得ることであったとしても,臨床医が現実にそれを経験することはなく,本件で具体的に予見することは不可能である。Cに認められた頸部の腫脹も,気道圧迫を来すほど高度なものではなく,直ちに反回神経麻痺を想到すべきとの原告の主張は理由がない。 また,挿管チューブによる反回神経麻痺についても,1000例ないし2000例に1例と報告されている上,その発生時期を具体的に予見することは困難である。 もっとも,頸部前方アプローチの手術において,気道トラブルから呼吸障害が起こりやすいという一般的な予見可能性はあるが,本件では,それを踏まえて,Cの血圧やSpOを経時的に測定していたところ,午後9 時20分ころまでは,後者は95ないし96パーセントを維持しており,呼吸障害を直ちに疑う所見はなかった。 (2) 争点2(呼吸管理に関する経過観察義務懈怠の有無)(原 測定していたところ,午後9 時20分ころまでは,後者は95ないし96パーセントを維持しており,呼吸障害を直ちに疑う所見はなかった。 (2) 争点2(呼吸管理に関する経過観察義務懈怠の有無)(原告らの主張)ア呼吸管理に関する一般的注意義務(ア) 本件手術を含め,頸部の中枢部に前方からアプローチする手術を実施した際は,術後出血に伴う凝血,浮腫,分泌物等の生成により,咽頭腔の圧迫や,気道狭窄により呼吸困難を来す一般的可能性及び危険性があることは,経験則上明らかである。 特に,Cの場合,術前から見られた反回神経麻痺のために片側声帯に可動性がなく,声門の半分が閉塞状態にあったので,呼吸困難から呼吸停止に進行する危険性が極めて高い症例である。他方,呼吸困難が急速に進行する場合は,気道確保が救命の唯一の道である。 したがって,被告病院の医療従事者としては,Cが気道狭窄又は気道閉塞を原因とする呼吸困難から呼吸停止に進行することを未然に防止するとともに,低酸素血症による心機能及び脳機能の悪化・障害を未然に防止するために,気道確保の時期を失しないよう,Cの呼吸状態を厳重に観察すべき注意義務があったというべきである。 (イ) 頸椎前方アプローチ手術の術後呼吸困難の観察ポイントは,発声の状態及び嗄声の有無である。患者に声をかけて深呼吸を促し,息苦しくないかなどを尋ね,呼吸音,胸郭の動き,呼吸数,チアノーゼの有無,頸部の異常(胸鎖乳突筋の緊張,鎖骨上窩陥凹,頸静脈の怒張の有無)等を観察・観測し,聴診を行うことが基本である。吸気時に鳥の鳴くような呼吸音や喘鳴が聞こえるときは,声門の狭窄が考えられる。低酸素血症の徴候としては,頻脈,高血圧,不整脈,興奮,朦朧,呼吸困難及びチアノーゼ等が挙げられるが,これらの徴候が認められた場合は,聴診器で呼吸音を聴取 が聞こえるときは,声門の狭窄が考えられる。低酸素血症の徴候としては,頻脈,高血圧,不整脈,興奮,朦朧,呼吸困難及びチアノーゼ等が挙げられるが,これらの徴候が認められた場合は,聴診器で呼吸音を聴取することで,咽頭部の分泌物の存在や,上気道狭窄を覚知できる。 また,頸部は血流量が多い部位であることから,術後出血には最も注意深い観察が必要になる。具体的には,両耳下腺部から前頸部にかけての腫脹・圧痛の有無,創部ガーゼの出血汚染の程度,呼吸状態,創部ドレーンの排液量・性状等を注意深く観察する。 そして,呼吸困難の症状の多様性及び専門性に鑑みるならば,看護師が患者の呼吸状態を観察した際,少しでも不穏な呼吸困難の状態を確認したのであれば,直ちに担当医師に上申し,気管内挿管や気管切開の準 備をすべきであるとともに,医師は自らその診察に当たり,患者の呼吸状態を具体的に把握すべきである。 イ看護師等による注意義務懈怠しかるに,被告病院の看護師及び准看護師(以下「看護師等」という。)は,午後7時15分から午後9時ころの間,Cの容態を全く観察しなかった。午後9時以降も,看護記録には,「体動」,「不穏」といった表現が記録されているにすぎず,かかる記載は,呼吸状態を直接叙述するものではなく,その間の症状の推移は全く不明であるから,看護師等は,経過観察を怠っていたといわざるを得ない。 なお,仮に午後7時15分から午後9時ころまで,G准看護師が経過観察をしていたとしても,Cがリカバリールームに戻ってから約4時間もの間,単独で観察していたことになる。G准看護師は,麻酔科看護師補助の経験もなく,頸椎の前方アプローチの術後患者の観察をした経験もほとんどない。しかも,本件事故当時,Cに反回神経麻痺の現病歴があるがゆえに気道閉塞の合併症の危険性が高いことについて全く知 看護師補助の経験もなく,頸椎の前方アプローチの術後患者の観察をした経験もほとんどない。しかも,本件事故当時,Cに反回神経麻痺の現病歴があるがゆえに気道閉塞の合併症の危険性が高いことについて全く知らされていなかった。このような准看護師1人に,Cの術後管理を任せ,術後の不穏の原因等を独自に判断させる状態に置いたこと自体がそもそも間違っており,病院の術後管理体制の在り方として,旧保健婦助産婦看護婦法に違背する。 また,看護師等は,午後9時以降についても,Cの吸痰が困難な状況となり,徐々に体動が激化し,収縮期血圧が117から166mmHgへと急上昇することで,Cに呼吸困難・上気道閉塞・低酸素血症の徴候が認められたにもかかわらず,上記アのような対応を採っていない。 ウ医師による注意義務懈怠他方,被告病院の医師は,午後5時45分の時点でCに発声困難をうかがわせる異常が認められ,その約30分後には,Cが自力で痰を喀出することが困難な状態であったにもかかわらず,午後9時25分ころに至るま で,Cの術後経過を全く観察していない。 特に,F医師は,午後9時10分ころ,G准看護師からCが不穏状態であることの連絡を受けた際も,自らCの呼吸状態を確認することがなく,もとより頸部正面及び側面レントゲン撮影の実施も指示していない。 また,午後9時の時点で,Cに血圧の急上昇が確認されているにもかかわらず,直ちに血液ガス分析が行われていない上,SpOが約95パー セントに急落した段階でも血液ガス分析が実施されていない。しかも,午後9時20分まで心電図モニターすら行われていないのである。 さらに,本件の場合,第3頸椎から第7頸椎までを手術しているので,術後出血による凝血,浮腫及び分泌物等によって気管(下気道)狭窄に至っている可能性を否定できない。したがって,気 れていないのである。 さらに,本件の場合,第3頸椎から第7頸椎までを手術しているので,術後出血による凝血,浮腫及び分泌物等によって気管(下気道)狭窄に至っている可能性を否定できない。したがって,気道確保の要否,その手技の選択,方法等を判断するためには,頸部正面及び側面のレントゲン撮影により,声門下及び下気道の浮腫の有無及び程度並びに各部位の変形及び奇形の有無を確認する必要があったというべきである。 特に本件では,看護師等が,F医師の指示の下,Cにセルシンを投与しているところ,呼吸障害のある患者に対してセルシンを投与する場合には,呼吸抑制の副作用を念頭において,セルシンの投与後しばらくの間は医師が患者の呼吸状態を厳重に観察すべき注意義務があるとともに,万一,呼吸抑制を生じた場合には,速やかに気管内挿管等の気道確保の処置ができるよう待機するなどの厳戒態勢を採るべきであったにもかかわらず,これらが全くなされていない。 (被告の主張)ア呼吸管理に関する一般的注意義務一般論として,術後患者の容体が安定するまでの間,厳重なドレーン管理を行い,患者の容体経過を厳重に観察する義務があることは認めるが,後記のとおり,被告病院の医師らは厳重な観察を実施していた。 なお,午後5時45分の時点でのCの発声困難は,抜管による一時的な影響によるものである可能性が高い。気管内挿管の場合には,挿管チューブによる声帯圧迫等が生じ,抜管後に一時的に発声しづらいことがあるのは珍しいことではない。また,頸部の手術後は,痛みのため痰の喀出に困難を伴うのも珍しいことではなく,痰の喀出困難が呼吸障害を意味するものではないから,直ちに気道確保の措置が必要というわけではない。 イ被告病院の看護師等による経過観察Cが手術後に収容されたリカバリールームは,ナースステーションに 痰の喀出困難が呼吸障害を意味するものではないから,直ちに気道確保の措置が必要というわけではない。 イ被告病院の看護師等による経過観察Cが手術後に収容されたリカバリールームは,ナースステーションに隣接し,両者を隔てる壁はガラス張りになっており,患者の容体変化はナースステーションから常に監視できる状況にある。看護師等は,午後7時15分から午後9時までの時間帯でも,ナースステーションからガラス越しにCの容体を観察しており,かつ,時々リカバリールームを訪室しては,Cに声を掛けるなどして経過を観察している。また,被告病院では,全身麻酔下での手術を受けた患者については,帰室後15分後,1時間後,2時間後に容体を観察し,その後は3時間ごとに容体を観察し,記録することになっている。この術後の観察頻度は多くの病院で共通するものである。 看護記録に記載がないのは,午後7時15分以降,容体が安定しており,特に記載すべき事項がなかったからにすぎない。 午後9時以降も,G准看護師は,Cの呼吸状態の変化を速やかに把握し,モニターの装着を行っている。また,頸部の腫脹を観察するために,あえて当てガーゼを外す必要はない。もっとも,G准看護師が,Cの声帯の片方が固定されていることを知らなかったとすれば,カルテの検討が不十分であったといわざるを得ないが,声帯の片方が固定されている場合でも,観察すべき内容は同じである。 なお,G准看護師は,Cの帰室後のインスピロンによる酸素投与,自動血圧計の装着,サチュレーションモニターの装着,帰室後30分,同60 分,同120分の経過観察(観察項目は,バイタルサイン,SpO,尿 量,経鼻チューブからの排液,疼痛,出血等)について医師から包括的な指示を受け,「診療の補助」としてこれを実践していたものであり,旧保健婦助産婦看護婦法に 観察項目は,バイタルサイン,SpO,尿 量,経鼻チューブからの排液,疼痛,出血等)について医師から包括的な指示を受け,「診療の補助」としてこれを実践していたものであり,旧保健婦助産婦看護婦法には違反しない。 ウ医師による経過観察反回神経麻痺による気道閉塞は,具体的に予見することが困難であり,また急激に起こるため,あらかじめこれに備えていつまでも院内に待機することは現実的とはいえないところ,Cの主治医のF医師及び執刀医のH医師は,術後3時間程度の間,被告病院内において急変に備えていた。 すなわち,F医師が午後8時ころにリカバリールームを訪れた際,Cは「大丈夫です。」と話していた。F医師は,Cを診察した後,原告Aとナースステーションで,Cの頸部から切除した標本を病理に提出すること,学会発表用に標本を写真撮影してよいか,標本を翌朝にCに見せましょうかと話している。H医師も,午後8時20分ころに,リカバリールームに寄ってCと話をしており,その際,Cは「呼吸が楽になりました。」と述べ,この時点でもCの容体は安定していた。 また,F医師は,午後9時10分ころ,G准看護師からCの不穏状態について報告を受けるや,ギャッジアップ及びセルシンの投与を指示しており,また,看護師等3名が対処していることから問題ない。 さらに,セルシンについて呼吸抑制の副作用があることは認めるが,そのような副作用は,静脈注射をする際に起こりやすいとされている。本件では,上記のとおり,筋肉注射をしており,セルシンの呼吸抑制が15分後の心肺停止に影響したとは認め難く,経過観察義務に影響はない。 (3) 争点3(気道確保のための処置の適否)(原告らの主張)ア患者の気道閉塞の危険が差し迫っており,直ちに気道確保をしなければ, 生死に関わると判断される場合,気管内挿管や気管 響はない。 (3) 争点3(気道確保のための処置の適否)(原告らの主張)ア患者の気道閉塞の危険が差し迫っており,直ちに気道確保をしなければ, 生死に関わると判断される場合,気管内挿管や気管切開等により直ちに気道確保をすべきは当然であり,特に,Cのごとく,反回神経麻痺の既往等により自ら気道確保が十分にできず,気道の吸引・吸痰や洗浄が必要である患者については,安全性を重視して,なるべく早期に気道を確保すべきである。 イCは同日午後9時ころ,血圧が上昇するとともに,体動が徐々に激しくなって不穏状態に陥っていたのであるから,被告病院の医師としては,この時点で,Cが気道狭窄を来して呼吸困難の状態にあることを認識し,気道閉塞を来して呼吸停止又は心停止に至ることも予見して,即時に,気管挿管又は気管切開などの処置を執るべき注意義務があったというべきである。 また,F医師は,午後9時10分ころには,CのSpOが95ないし 96パーセントに低下して(なお,このことから,医療従事者としては,酸素分圧(PaO)も約15パーセント程度低落したものと推認すべき である。)不穏状態が常態化し,気道閉塞の徴候を確認することができたのであるから,遅くとも上記時点では,上記の認識・予見をもって上記処置を採るべき注意義務があったというべきである。 さらに,午後9時15分以降の血圧がモニタリングされていないので,いつの時点でショックの診断基準を満たしたかは不明確であるが,遅くとも心拍数が毎分100台から30ないし40台に低落した午後9時20分の時点では,ショック状態に陥っていたことは自明である。 ウしかるに,本件では,被告病院の看護師等がほとんど無意味な経鼻エアーウェイをやみくもに挿入しているにすぎず(これにより,かえってCの気道閉塞を助長した可能性を 状態に陥っていたことは自明である。 ウしかるに,本件では,被告病院の看護師等がほとんど無意味な経鼻エアーウェイをやみくもに挿入しているにすぎず(これにより,かえってCの気道閉塞を助長した可能性を否定できない。),医師も,午後9時25分に至るまで気道確保の処置をとらず,上記注意義務を怠ったものである。 当然のことながら,喉頭鏡や喉頭ファイバースコープ等による上気道の観 察も行われていない。また,呼吸停止が認められた午後9時25分の時点でさえも,直ちに気管内挿管されず,その約10分後にようやく挿管されていることなどから,挿管準備の懈怠も自明である。 (被告の主張)ア本件のように,声帯閉塞による気道閉鎖とは予見していない状況において,気道狭窄であれば,最初にマスク・アンド・バッグ(アンビュー)によ人工呼吸で呼吸不全の改善を試みるのは当然の発想である。 確かに,回顧的な立場からの検討では,速やかに気管内挿管を試みれば良かったということは可能であるが,臨床現場では,呼吸不全に対して,マスク・アンド・バッグを行い,これでも改善しない場合に気管内挿管を試み,これが困難な場合に気管切開を行うのが通常である。 イ気管内挿管は,必ずしも1分かそこらでできる処置ではない。本件でも,8.5フレンチのチューブでの挿管が困難であったため,6フレンチのチューブに取り替えて挿管を行っている。そして,挿管を繰り返すと,出血,分泌物,浮腫が新たに生じて,気道がより塞がってしまうことがあると指摘されているように,誰でもが成功するとは限らない。 ウそもそも,反回神経麻痺による声帯閉塞が生じた直後には,声帯を超えてチューブを挿入することができず,気管内挿管を行うことは不可能である。したがって,仮に当直医師が直ちに気管内挿管を試みたとしても,声帯の弾性が残っている時点 る声帯閉塞が生じた直後には,声帯を超えてチューブを挿入することができず,気管内挿管を行うことは不可能である。したがって,仮に当直医師が直ちに気管内挿管を試みたとしても,声帯の弾性が残っている時点では,これは奏功せず,気管切開を行わざるを得なかった可能性が高いところ,ここまで行って呼吸を確保するためには,3分ないし5分の時間では不可能である。 (4) 争点4(頸部ドレナージの適否について)(原告らの主張)ア頸部ドレーンの選択上の誤り一般に,頸部の筋肉は血管網が発達しているため,頸椎骨切除手術の術 後には,頸部筋肉からの後出血や滲出液の貯留が当然に予想されるところ,ペンローズタイプの開放型ドレーンは,凝血により閉塞しやすく,かつ,毛細管作用によって貯留液を排出するだけなので,内腔から貯留液を排出するには内腔圧がドレーン内の抵抗より強くなければならず,その意味で排液吸引力が弱い等,多くの欠点があるため,頸椎骨切除手術の頸部ドレーン方法として不適当である。 したがって,本件頸椎骨切除手術後,頸部筋肉からの術後出血や滲出液を確実に排出するための頸部ドレーン方法として,原則として,陰圧をかけることで持続吸引が可能な閉鎖型ドレーン(J-VACドレーンなど)を選択・使用すべき注意義務があったというべきである。 しかるに,被告は,Cの骨除去部からの術後出血に対するドレナージとして,持続吸引可能な閉鎖型のものを選択せず,不適当なペンローズドレーンを選択し,頸部ドレーン選択に関し最善の措置を尽くすべき注意義務を怠ったものである。 イドレーン管理の不適切本件においては,頸椎骨切除手術後に予防的ドレナージが行われているところ,ドレーンからの排液量,性状を術後2,3日目まで頻回に監視することが重要であり,ドレーンを定期的にミルキング(術後など腹腔内 本件においては,頸椎骨切除手術後に予防的ドレナージが行われているところ,ドレーンからの排液量,性状を術後2,3日目まで頻回に監視することが重要であり,ドレーンを定期的にミルキング(術後など腹腔内にドレーンが留置されている場合,浮遊物がドレーンを詰まらせてしまう可能性があるところ,その場合にドレーンが詰まらないようにローラーや手で抜く作業)してドレナージが効いていることを確認すべきである。 また,ドレーンは,ドレーン自体の屈曲や凝血塊などにより閉塞するので,術創に異常所見がないことを視診,触診で確認すべきである。 特に,本件の場合,上記のとおり,術後に出血が予想されるにもかかわらず,陰圧で吸引する能動的ドレーンではなく,排液効果が乏しく,ドレーン閉塞を起こしやすい,受動的なペンローズドレーンが採用されていた のだから,仮に当該ドレーンの採用が過失でないとしても,ドレーンからの出血が確認できない場合には,その原因としてドレナージ不奏功を直ちに疑い,術創に異常所見がないか否か確認するなど,ドレナージ不奏功の原因を検索すべきであるにもかかわらず,これらの措置が講じられていない。 (被告の主張)ア頸部ドレーンの選択上の誤りの不存在原告は,比較的広い術創か,術後に出血,滲出液,リンパ液等の貯留が予想される場合は,閉鎖吸引式のドレーンを使用すべき旨主張するが,これは,手術部位,ドレーン留置部位,出血状況等を全く考慮しない抽象論にすぎず,頸部前方アプローチの手術におけるドレーン留置に関しては,現在のところ,ガイドラインも科学的根拠も存在しない。 現に,アメリカでは頸部前方アプローチの手術におけるドレーン留置について,多数の臨床試験が実施されている。その臨床試験の結果,ドレーン留置群と非留置群とで血腫形成について有意な差は認められず,また, に,アメリカでは頸部前方アプローチの手術におけるドレーン留置について,多数の臨床試験が実施されている。その臨床試験の結果,ドレーン留置群と非留置群とで血腫形成について有意な差は認められず,また,ドレーン留置群でも,ペンローズドレーンと閉鎖吸引式ドレーンの間にも血腫形成について有意な差は認められないとの結果が報告されている。 同じ頸部の手術でも,後方アプローチによる手術の場合には,頸部後方は死腔が多く,そこに血液が貯留するため,閉鎖吸引式のドレーンを留置することでドレナージが期待できる。一方,前方アプローチで頸部の手術を行う場合,ドレーン留置部位である頸部前方周辺には,様々な筋繊維が縦横に走行し,結合織も多い反面,死腔は乏しい。出血した血液は,筋繊維や結合織中に入り込む。また,閉鎖吸引式ドレーンを留置しても,ドレーンの孔に筋繊維や結合織が張り付いてしまうことで,十分な吸引効果が得られない。 イドレーン管理の適切さ 本件においては,ドレーンからの血性排液が認められたが,このような場合でも,直ちに処置が必要というわけではない。出血が凝血を形成し,気道狭窄での換気不全を起こすような状況に至ることが予測される場合に,縫合部の開放,気管内挿管の実施,あるいは再手術による止血や凝血塊の除去等の処置が必要となる。 気道周辺に気道狭窄による換気不全をもたらすような血腫が形成された場合,頸部が著明に腫脹する。このため,ドレーン排液の観察のみならず,頸部の腫脹や呼吸状態についても併せて観察すべきところ,本件では,医師及び看護師等は,これらの点についても十分な観察を行っていた。 (5) 争点5(因果関係の存否)(原告らの主張)ア経過観察義務違反と結果との間の因果関係被告病院の医師及び看護師等が適切な経過観察をしていれば,Cの呼吸状態を適切に把握 な観察を行っていた。 (5) 争点5(因果関係の存否)(原告らの主張)ア経過観察義務違反と結果との間の因果関係被告病院の医師及び看護師等が適切な経過観察をしていれば,Cの呼吸状態を適切に把握し,適時に気管内挿管等を行うことにより気道を確保し,Cを救命することができた蓋然性が高い。 イ気管内挿管ないし気管切開の懈怠と結果との間の因果関係本件において,気管内挿管は,呼吸停止,心停止の後で開始されており,その遅れは致命的であったというべきである。上気道閉塞の場合,酸素不足によるショック状態が起きた時点で気道確保しても手遅れとなる場合が多く,ショック状態が起こる前に,気管内挿管・気管切開により気道確保すべきであった。そして,適時に気管内挿管ないし気管切開による気道確保ができていれば,Cを救命することができた蓋然性が高い。 ウドレーン選択と結果との間の因果関係本件で,仮に適正な閉鎖吸引式ドレーンを使用していれば,陰圧を利用した持続的吸引による強度の排液効果が機能し,術後気管内に発生した大量の凝血塊の発生を回避できた蓋然性は高いと推認される。 (被告の主張)ア経過観察義務違反と結果との間の因果関係の不存在反回神経麻痺による声帯閉塞の場合には,声帯によってほぼ完全に気道が閉塞される。しかも,神経麻痺による症状であるため,閉塞は急激に生じると考えられる。 Cの場合,呼吸状態が変化するまでは発声が認められており,この時点では,声帯閉塞は起こっていない。また,呼吸状態が変化する直前まで,SpOが95ないし96パーセントを示していたこともこれを裏付ける。 加えて,本件では,反回神経麻痺から心停止に至るまでの症状の悪化が急激であったという点に留意しなければならない。この点が,Cの救命を困難にした最大の理由と考えられる。 イ気管内挿管 裏付ける。 加えて,本件では,反回神経麻痺から心停止に至るまでの症状の悪化が急激であったという点に留意しなければならない。この点が,Cの救命を困難にした最大の理由と考えられる。 イ気管内挿管ないし気管切開の懈怠と結果との間の因果関係の不存在夜勤体制の下では,患者の容体急変に対し,当直医に報告するのが通常の手順であり,当直医が病棟に到着して気管内挿管を行うのに一定の時間を要することはやむを得ない。本件では,当直医に連絡し,当直医が駆けつけるまで2,3分程度であり,通常,心肺停止から3ないし5分以内に心拍を再開して酸素を送らないと,脳細胞が不可逆的なダメージを受けるといわれていることからすれば,当直医がCの病室に到着した段階で,脳はすでに不可逆的なダメージを受けてしまっている。 したがって,本件において,より早期に気管内挿管ないし気管切開が行われたとしても,Cの救命については,高度の蓋然性はもとより,相当程度の可能性を認めることも困難である。 ウドレーン選択と結果との間の因果関係の不存在前記のとおり,ペンローズドレーンと閉鎖吸引式ドレーンに有意差がないとされている以上,後者を使用していたとしても,結果発生を回避できた高度の蓋然性があるとはいえない。 術後比較的短時間で血腫が形成され,気道圧迫が生じるような症例では,ペンローズドレーンでも閉鎖吸引式ドレーンでも排液は到底間に合わない。 この場合には,頸部の縫合部を開放して減圧したり,気管内挿管等の処置が必要である。本件の場合にも,午後9時ころから体動が激しくなり,血圧の上昇や患部への衝撃等により再出血を来したと考えられる。その出血が縦隔に及び,反回神経麻痺に至ったとすれば,かような急激な出血に対しては,ペンローズドレーンであっても閉鎖吸引式ドレーンであっても,縦隔への流入を防ぐ 等により再出血を来したと考えられる。その出血が縦隔に及び,反回神経麻痺に至ったとすれば,かような急激な出血に対しては,ペンローズドレーンであっても閉鎖吸引式ドレーンであっても,縦隔への流入を防ぐことは困難であった。 したがって,仮にドレーン選択に過失があるとしても,死の結果との因果関係は存在しない。 (6) 争点6(損害額)(原告らの主張)アCは,被告の行為により,以下のとおり,合計4620万円の損害を被った。 (ア) 逸失利益1900万円337万2600円(Cの厚生年金受給年額)×0.6(生活費控除40パーセント)×9.3935(平均余命13年のライプニッツ係数)=1900万円(1万円以下切捨て)(イ) 慰謝料2200万円(ウ) 葬儀費用120万円(エ) 弁護士費用400万円イ原告らは,Cの死亡により,Cの権利義務をそれぞれ2分の1の割合で相続した。 ウなお,原告Aの遺族年金受給額については,平成15年12月から平成16年3月までが48万6650円,同年4月から平成18年3月までが年額194万0700円,同年4月以降は年額193万4800円である。 (被告の主張)Cの死亡後に遺族年金として原告らに支給されたものがあれば,逸失利益から控除されるべきである。また,Cの生活費控除割合については,少なくとも5割を下回るものではないと考える。さらに,名古屋弁護士会報酬基準規定は,弁護士法改正に伴い廃止されている。 その余の主張(原告Aの遺族年金受給の事実を除く。)についても争う。 第3当裁判所の判断 争点1(Cの死因と予見可能性の有無)について(1) 剖検の所見本件では,Cの剖検が行われているところ,これを担当した被告病院のI医師作成の剖検診断書(甲A3)によれば,以下の所見が認められる。 剖検時,Cの左側頸 予見可能性の有無)について(1) 剖検の所見本件では,Cの剖検が行われているところ,これを担当した被告病院のI医師作成の剖検診断書(甲A3)によれば,以下の所見が認められる。 剖検時,Cの左側頸部に9センチの手術痕があり,ドレナージチューブが挿入されていた。術創を切開すると,頸椎切除部から肺門の高さまで(長さ約15センチ)気管を囲むように厚さ約1センチの凝血が見られた(量としては200ないし300ml程度)。気管周囲の筋は散在性に変性していた。 気道の閉塞は剖検時には見られなかった。心臓はTTC(染色法の一種)を用いた結果,梗塞は否定できた。心室拡大はなく,肝臓の所見から不整脈などの心臓性突然死の可能性はない。声帯には肉眼的に明らかな異常はなかった。 (2) 医師による意見書アT大学法医学教室J医師作成の意見書(甲B8)には,Cの死因として,①骨の除去部からの出血による反回神経の圧迫,麻痺による声帯の不完全閉塞部に痰が詰まったことによる窒息,②反回神経の圧迫,麻痺による声帯の不完全閉塞部に,手術操作・気管挿管・循環障害により粘膜浮腫が生じていたために完全閉塞してしまったための窒息(解剖時には心停止しているため声帯浮腫は顕著な所見として認められないことも十分に考えられ る。),③迷走神経反射による心停止,の可能性を挙げ,これらについてそのうちの1つを断定はしないが,上記のいずれにしても直接的な原因は頸椎骨切除手術後の頸部後出血に起因する旨の記載がある。 イI医師の陳述書(乙A7の1)には,「肺門部まで及んだ凝血が,声帯の動きを司る反回神経を圧迫するなどして麻痺させ,健側の声帯を麻痺させた可能性が高いと考えるようになりました。反回神経が麻痺されると,声帯が動かなくなり,声門が閉鎖するなどして,換気が急激に悪化します。 反回神経は 神経を圧迫するなどして麻痺させ,健側の声帯を麻痺させた可能性が高いと考えるようになりました。反回神経が麻痺されると,声帯が動かなくなり,声門が閉鎖するなどして,換気が急激に悪化します。 反回神経は,気管の後方,縦隔を走行していますので,障害を受けやすいとされています。縦隔の腫瘍,あるいはリンパ節腫大などでも,反回神経が圧迫され麻痺が起こることは文献上も記載されていますので,頸部から肺門部に至る凝血が反回神経を圧迫し,麻痺を起こすことが考えられます。」との記載がある。 ウU大学病理病態学講座生体反応病理学K教授の意見書(乙B8)には,Cの死因は凝血塊によって生じた呼吸不全と考えるのが妥当とし,機序としては,①気管周囲性の凝血塊による反回神経圧迫による麻痺とそれに続く声帯の閉鎖,②気管周囲性の凝血塊による静脈圧迫に基づく咽頭浮腫,③凝血塊による気道の直接の圧迫,が考えられ,そのうち①の可能性が最も高い旨の記載がある。 エU大学整形外科学教室L講師の意見書(乙B9)には,①頸椎前方部の手術を300例行ってきたが,今まで本件のような血腫で気管が圧迫狭窄を受け,換気障害を起こした経験はなく,1センチほどの血腫で圧迫狭窄を受けるほど気管は弱くない,②咽頭浮腫については,死後すぐに行われた解剖所見で浮腫を認めなかったことから今回の原因としては否定的である,③迷走神経反射での心停止は起こり得る,④反回神経が凝血によって麻痺し,右声帯を麻痺させることによって換気不全を生じたという仮説が考えやすいが,実際の経験はなく,また,1センチ程度の後縦隔へ広がっ た血腫が反回神経麻痺を起こすかどうかの可能性については言及できない旨の記載がある。 オU大学医学部法医学教室M教授の意見書(乙B16)には,本件は,比較的少量のコントロールされた出血であったが た血腫が反回神経麻痺を起こすかどうかの可能性については言及できない旨の記載がある。 オU大学医学部法医学教室M教授の意見書(乙B16)には,本件は,比較的少量のコントロールされた出血であったが,たまたま凝血が反回神経を圧迫したために神経障害によって死亡した公算が大きい旨の記載がある。 (3) 死因の推論この点,県立V病院院長N医師の意見書(乙B17)には,上記のような経過をたどり呼吸困難となって死亡することは理解し難い旨の記載があるが,他方では,理論上可能性があるともしている。 そこで,次に,それ以外の死因の可能性について検討するに,まず,凝血塊による気道圧迫については,剖検記録(甲A3),剖検時の気道周辺の写真(甲B8に添付)からすると,確かに気道周辺に1センチ程度の血腫が見られるものの,上記意見書等の中でも,この程度の血腫では気道は圧迫されないとされていることから,気道自体を血腫が圧迫したことによる気道閉塞の可能性は低いと判断できる。粘膜浮腫についても,剖検時において浮腫の所見はなかったことが認められることから(乙A7の1),死因に寄与したとは認め難い。さらに,反回神経麻痺に加えて痰が詰まったことも複合的な原因と考えられるという見解については,午後9時以降,あまりCの痰を吸引できなかった一方で,解剖所見でも痰が体内に認められなかったことから,Cの声帯及び気道には気道閉塞させるほどの痰が詰まっていたとは認められない。 以上を総合すると,Cの死因としては,複数の医師が本件で最も可能性が高いと判断しているとおり,手術部位の出血が凝血塊となり,これがその周辺の反回神経を圧迫・麻痺させ,声帯が閉塞したことにより呼吸困難が生じたと認めるのが相当である。 (4) 気道閉塞が生じた時点 次に,反回神経麻痺に起因する気道閉塞が生じた時点に ,これがその周辺の反回神経を圧迫・麻痺させ,声帯が閉塞したことにより呼吸困難が生じたと認めるのが相当である。 (4) 気道閉塞が生じた時点 次に,反回神経麻痺に起因する気道閉塞が生じた時点について検討するに,原告Bは,病室に到着した午後8時45分ころ,Cが息苦しいと訴えていたのを聞いたと述べていること(乙A3の57頁,原告B本人),G准看護師も,午後9時以降,Cの体動が徐々に激しくなったと述べていること(乙A3の61頁,証人G)からすれば,反回神経麻痺による呼吸困難が生じたのは,遅くとも午後9時ころであったと認められる。 被告は,このころのCの体動について,全身麻酔の残存,体温低下,疼痛によるシバリング及びICU症候群といった他の原因による不穏であった可能性を主張するが,それらの可能性が相当程度存在することを示すような証拠はないから,被告の上記主張は採用できない。 また,被告は,反回神経麻痺は急激に進行するところ,午後9時ころにおいては,いまだそのような状態にはなかったと主張するが,甲B8には,反回神経麻痺でも即座に呼吸困難を来すものではないとの記述がある上,午後9時25分には心停止に至っている(乙A3の62頁)ことに照らすと,遅くとも午後9時ころに反回神経の麻痺が生じたとの上記認定を妨げるものではない。 (5) 予見可能性の有無進んで,上記の死因,機序の予見可能性の有無について判断するに,証拠(甲B2,7,8,16ないし19)には,食道癌手術,甲状腺手術,胸腔内手術,頸椎前方固定術等の際,合併症として反回神経麻痺を生ずる可能性があること,特に両側性麻痺は重篤な呼吸困難を来すことがあるから,嗄声の有無や呼吸状態の観察を定期的に行い,致命的な結果を招く前に,気管内挿管や気管切開の措置が必要となることがあることなどと記載されている こと,特に両側性麻痺は重篤な呼吸困難を来すことがあるから,嗄声の有無や呼吸状態の観察を定期的に行い,致命的な結果を招く前に,気管内挿管や気管切開の措置が必要となることがあることなどと記載されていることが認められる。 そうすると,反回神経麻痺による声帯閉鎖に起因する呼吸不全が急激に生ずることが知られており(乙B8),反回神経がこのような形で換気不全を 起こした経験はなく(乙B9),比較的少量の出血においても時に発生する反回神経麻痺を予見して的確に対処することはそれほど容易なことではなく(乙B16),凝血で反回神経が麻痺することは,これまでの数百例の甲状腺癌の手術において実際に経験したことがない(乙B17)としても,少なくとも相当規模,施設を有する総合病院(甲A1)の医療従事者にとって,上記の予見可能性が存在したと判断するのが相当である。 争点2(呼吸管理に関する経過観察義務懈怠の有無)について(1) 11月11日(手術当日)の経過について判断の基礎となる事実前記前提事実に,証拠(甲A4,5,6,乙A1,2,3,証人G,原告A本人。ただし,認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる(乙A3については,原則として頁数のみで表記する。)。 アCは,被告病院において,手術前に頸部CT検査,肝機能検査を受けたところ,肝機能検査の結果は,ALPが314,ASTが44,ALTが41,γ-GTPが234であった(24頁)。 イCは,午前11時においては,血圧132/74(mmHg),脈拍78回/分,体温36.4度であり,午後1時においては,血圧160/84(前同)であった(53頁)。 ウCは,午後1時30分に手術室に入室し,モニターを装着した。そして,同39分,気管内挿管が行われた後全身麻酔が施され,午 であり,午後1時においては,血圧160/84(前同)であった(53頁)。 ウCは,午後1時30分に手術室に入室し,モニターを装着した。そして,同39分,気管内挿管が行われた後全身麻酔が施され,午後2時29分から午後4時20分までの間,頸椎骨切除手術(気管及び食道を圧排していた第3頸椎から第7頸椎の隆起した巨大骨塊をノミで削り落とし,出血部位をボーンワックス(骨蝋)で可及的に止血した後,ペンローズドレーンを創部に留置するというもの。)を受けた(16,18頁)。術者はH医師,助手はF医師,麻酔医はO医師であった。 Cの血圧は,麻酔導入時にいったん低下したが,その後,収縮期血圧は 86から114で推移した(20頁)。手術による出血量は127gであり,また,Cが手術室を退室する時点での臨床症状は,血圧が116/65(mmHg),脈拍が57回/分,体温が35.2度,SpOが99 パーセントで,術後,気管内挿管については抜管された(18,19頁)。 エCは,午後5時15分,手術を終えてリカバリールームに戻った。リカバリールームは,ナースステーションの隣にあり,ナースステーションとはガラスで隔てられている(乙B2,3)ので,そこに待機している看護師等は,容易に患者の様子を把握することができた。 この時点で,Cの意識は覚醒していた。Cには自動血圧計が装着され,この時点での血圧は111/59であり,SpOは100パーセント, 体温は35.7度であった。Cには,疼痛や外部から認識できるような出血は見られなかったが,起き上がろうとすることがあった。また,Cに対し,インスピロンを使用して,毎分4リットル,濃度40パーセントの酸素が流入された。この時点では,創部に留置されたドレーンからの排液はなく,バルーンカテーテルからの排液が200mlあった た,Cに対し,インスピロンを使用して,毎分4リットル,濃度40パーセントの酸素が流入された。この時点では,創部に留置されたドレーンからの排液はなく,バルーンカテーテルからの排液が200mlあった(61頁)。 オCは,午後5時25分,動脈血を採取され,動脈血ガス分析が行われた(28頁)。 カ午後5時30分ころ,F医師が,原告Aに対し,予定どおり頸椎の増殖骨を切除したこと及び術後に喉頭違和感,疼痛出現の可能性があることを説明するとともに,術前術後のレントゲン及び切除した骨を見せ,学会に紹介してもいいかどうか尋ねた(なお,この点について,被告は午後8時過ぎころの事実であると主張するが,下記のとおり,原告Aはその時刻ころには被告病院にいなかったと認められるので,上記のとおり,認定した)。 キ午後5時45分ころ,上記(オ)の動脈血ガス分析結果が判明し,Phが7.386,PCOが48.9,POが162.1,BEが3,SaO が99.3であった(28頁)。 また,同時刻でのCの血圧は119/58(mmHg),SpOは9 9パーセント,体温は35.4度で,疼痛はなく,創部からの軽度の出血が見られた。そして,G准看護師が,Cに対し,苦しさや痛みはないか尋ねると,苦しくないという意味でうなずいた上,大丈夫,楽になったと話した。その際のCの声は,聞き取りづらさはあったものの,G准看護師には通じた。G准看護師は,カルテに「出血軽度あり。注意し,観察必要」,「術後に嗄声↑」と記載し,観察を続行することとした。(13,63頁,証人G)クCは,午後6時15分の時点で,血圧が118/58(mmHg),SpOが98パーセント,体温が35.1度で,疼痛はないものの,創部 からの出血が見られた。Cから,痰が絡んで自力で喀出できないとの訴 は,午後6時15分の時点で,血圧が118/58(mmHg),SpOが98パーセント,体温が35.1度で,疼痛はないものの,創部 からの出血が見られた。Cから,痰が絡んで自力で喀出できないとの訴えがあったため,G准看護師が痰を吸引し,白色痰を少量吸引した。なお,喘鳴及び疼痛は見られなかった(61頁)。 ケ午後7時15分のCの血圧は117/67,SpOは99パーセント, 体温は35.3度であり,疼痛はなく,創部に当てていたガーゼに出血が認められた。Cは,咳漱とともに自力で痰を喀出でき,落ち着いた様子であり,「痰が出た,大丈夫。」と述べた。G看護師は,症状の観察を続行することとした(61頁)。 コ原告Aは,午後6時ころ,被告病院を出ていったん自宅へ戻っていたところ,午後7時7分に会社を出て,地下鉄伏見駅を同27分に発車した電車に乗った原告Bから電話を受け,豊田市駅まで迎えに来てもらうように頼まれた。 原告Bは,午後8時12分に豊田市駅に到着し,同25分ころ,迎えに来ていた原告Aの運転する自動車に乗って被告病院に向かい,同45分ころ,到着した(甲A4,5,6の1・2,原告B本人)。 サG准看護師は,午後9時前ころ,原告Bと共にリカバリールームを訪れ,Cに対して「また痰が出ますか。」と尋ねた。 Cは,「起きる,起きる。」と繰り返し述べ,ベッド上で起き上がろうとした。G准看護師は,Cが自力で痰を喀出できていないと考えて,痰を吸引しようと試みたが,少量しか吸引できなかった。そこで,G准看護師は,「もっと奥の方に痰があるかもしれないですね。」と述べ,また,Cがインスピロンを外そうとしたため,蒸留水吸入を行った。このころのCの血圧は166/68(mmHg),SpOが98パーセント,体温が 36.9度であった。(甲A4,乙A3の6 」と述べ,また,Cがインスピロンを外そうとしたため,蒸留水吸入を行った。このころのCの血圧は166/68(mmHg),SpOが98パーセント,体温が 36.9度であった。(甲A4,乙A3の61頁,8)しかし,Cは,苦しい,苦しいと述べていた(甲A4,乙A3の57頁,原告B本人)。 シCは,午後9時10分ころ,「水が飲みたい,起きる。」と述べた。それに対し,G准看護師は,ガーゼを濡らし,Cの口唇と舌を拭いた。Cは,その後も,「起きる,横になる。」と言って起き上がろうとした(甲A4,乙A3の61頁,8)。 G准看護師は,Cの発言を聞き,病棟巡回中のP看護師のところに行って,Cを側臥位にしてよいか確認したところ,P看護師は,側臥位にすることは可能である旨返答した(乙A8)。 G准看護師は,P看護師と共にリカバリールームに戻った。さらに,Q看護師も処置に加わった。P看護師は,原告Bに対し,「横を向けると痰が出やすくなると思うので横を向けますね。」と説明した。それに対し,原告Bは,「お願いします。」と答えた。G准看護師ら3名は,Cの患部を支えながら,Cを右下側臥位に体位変換したが,Cは,起き上がったり,仰臥位に戻ろうとし,また,「死ぬ,死ぬ。」と述べたりしていた。その間,原告Bは,Cの右手を持ち,「起き上がっちゃ駄目よ。」と説得した。 しかし,結局,P看護師,Q看護師及びG准看護師の3名は,Cの言動か ら側臥位にしておくことは適切ではないと判断し,Cを仰臥位に戻した。 その後もCは,起き上がろうとしたが,G准看護師ら及び原告Bによって制止された(乙A8)。 Cの様子を心配した原告Bが,看護師等に対し,酸素が本当にCに入っているのか尋ねると,P看護師は,インスピロンマスクから細かい霧が出ているのを見せながら,「ここに酸素が通って,水蒸気 た(乙A8)。 Cの様子を心配した原告Bが,看護師等に対し,酸素が本当にCに入っているのか尋ねると,P看護師は,インスピロンマスクから細かい霧が出ているのを見せながら,「ここに酸素が通って,水蒸気と一緒に出ています。ほら,霧が見えるでしょう。」と説明した(乙A8)。 Cの血圧は,170ないし180(mmHg)で推移するようになり,時には190台(前同)まで上昇した。原告Bが,血圧計のモニターの数値を見て,「これは何ですか。」と質問したところ,P看護師は,「血圧です。腕に力が入ると高く出てしまう,血圧が高くなると,余計に出血しやすくなる。」旨説明した。さらに,原告Bが「大丈夫ですか。」と問うと,P看護師は,SpOが95ないし96パーセントであることを確認 し,原告Bに対し,「手も温かいでしょ,触ってみて,これは手の先まで酸素がいっている証拠だから,大丈夫ですよ。」と述べるとともにSpOについて説明した(甲A4,乙A3の61頁,8)。 G准看護師は,この間にも口腔,鼻腔から痰の吸引を試みたが奏功せず,喉の奥に痰があって喀出できないのではと考えた。Cは,痰を吸引する際は体動が治まっていたが,吸引後は再度起き上がろうとしていた。また,Cに経鼻エアウエイを挿入し,痰を吸引しようとしたが,これも奏功しなかった(61頁)。 看護師ら3名は,相談の上,医師へ上申することとし,G准看護師が,電話で,F医師に対し,Cの血圧が150ないし160台(mmHg)であること,SpOが96ないし95パーセントであること,痰があり, 起き上がろうとする動作があって不穏状態であること,側臥位への体位変換,蒸留水吸入を実施しても痰は少量しか引けないことなどを説明し,ギ ャッジアップしてもよいか尋ねた。それを聞いたF医師は,ギャッジアップを20度すること て不穏状態であること,側臥位への体位変換,蒸留水吸入を実施しても痰は少量しか引けないことなどを説明し,ギ ャッジアップしてもよいか尋ねた。それを聞いたF医師は,ギャッジアップを20度することを許可し,それでも不穏が続く場合にはセルシン10mgを1A筋肉注射することを指示した(乙A3の61頁,8,証人G)。 そして,P看護師は,原告Bに「ベッドを20度上げる許可をもらいました,その方が痰が出やすいと思いますよ。」と述べ,G准看護師は,他の看護師と共にベッドを20度ギャッジアップし,痰の喀出を促した。Cは,咳を軽く2回したが,痰がらみの咳が出るだけで,喀出できなかった。 その後もCの体動は続き,インスピロンを外そうとする動作をしていた。 スそこで,看護師ら3名は,セルシンの投与の準備を始めたところ,原告Bが「何の注射ですか?」と尋ねたので,P看護師は,「本人が興奮されているので,それを抑える薬です。」と答えた(乙A8)。 G准看護師は,午後9時13分,Cに対し,「ちょっと痛いですよ。」と声をかけ,セルシン1A(10mg)を左腕に筋肉注射した(乙A3の62頁,8)。 セ午後9時15分ころ,Cの血圧は158/62であり,SpOが95 ないし96パーセントであった。Cは,この時点でも起き上がろうとする動作を続けていたため,看護師等は,Cの手足をさすったり,痰を吸引しようとしたが,少量吸引できただけであり,吸引カテーテルは途中で止まって入らなかった(62頁)。このころ,P看護師は,病室を巡回するため,いったん退室した。 ソCの呼吸状態は,セルシンの投与後数分したところで,深い吸気と短い呼気というように変化した(乙A8,証人G)。それを見たG准看護師は,ナースステーションに心電図モニターを取りに行き,午後9時20分ころ,Cにこれを装着し ンの投与後数分したところで,深い吸気と短い呼気というように変化した(乙A8,証人G)。それを見たG准看護師は,ナースステーションに心電図モニターを取りに行き,午後9時20分ころ,Cにこれを装着した。すると,当初は毎分100回台であった心拍数が徐々に毎分30ないし40回台に低下していった(乙A3の62頁,乙A8)。 タCは,午後9時25分ころ,深い吸気のまま呼吸停止した。Q看護師は,それを見て,ナースステーションでモニターを見ていたG准看護師を呼んだ。G准看護師は,ギャッジアップしていたベッドを下げ,Q看護師に心臓マッサージを指示し,Q看護師は心臓マッサージを開始した。G准看護師は,リカバリールームを出て,病棟巡回中のP看護師に応援を依頼し,かつ当直医及びF医師に連絡した(乙A8)。 P看護師は,リカバリールームに戻ってアンビューバックを開始した。 そのころ,当日の当直医であったR医師もリカバリールームに駆けつけた。 また,原告Bは,廊下を歩いていた被告病院のS医師と出会い,父親の急変を告げたところ,S医師も,リカバリールームへ駆けつけた。そして,アンビューバックと心臓マッサージを続ける間に,気管内挿管の準備を進めた(乙A3の62頁,乙A8)。 チ医師らは,午後9時35分ころ,気管内挿管を試みたところ,最初に使用した8.5フレンチのチューブでは通過しなかったため,6フレンチのチューブに取り替えて,ようやく通過した。このころのCのSpOは6 7パーセントであり,心電図は平坦であった(62頁)。 Cは,午後9時40分ころ,人工呼吸器を装着され(62頁),同42分にはボスミン3Aを静脈注射された。この時点でのCのSpOは63 ないし66パーセントであり,同47分には心拍数が毎分120台(mmHg)となって,鼠径動脈に触れること され(62頁),同42分にはボスミン3Aを静脈注射された。この時点でのCのSpOは63 ないし66パーセントであり,同47分には心拍数が毎分120台(mmHg)となって,鼠径動脈に触れることができた。ただ,対光反射及び腱反射はなく,瞳孔は散大していた。この時点で一度,心臓マッサージを中止した(64頁)。 同52分,Cの心電図は平坦であったが,蘇生術が再開された。同53分にはボスミン1Aが静脈注射され,同55分には更に1Aが静脈注射された。その結果,同58分には,SpOが56パーセント,心拍が毎分 100回台となり,鼠経動脈に触れることができた(64頁)。 ツCは,午後10時05分ころ,右大腿部付近でアンギオ18Gを静脈内に留置され,また,ヴィーンF500mlを投与された。さらに,同8分には,ボスミン2Aが静脈注射され,カコージン3パーセント液を20ml/H投与された。同10分には右鼠径部で大腿静脈と中心静脈が確保され,ヴィーンF500mlを投与された。同13分には,ボスミン2Aが静脈注射され,同25分にもボスミン3Aが静脈注射され,頸部X線検査(ポータブル)が実施された(66頁)。 テF医師は,午後10時40分ころ,Cにボスミン3Aを静脈注射するとともに,原告らに対し,午後9時20分ころCの呼吸が停止したこと,現在気管内挿管の上心肺蘇生術を行っていること,呼吸停止の原因は分からないが,可能性として血腫による気管の圧排が考えられることを説明した。 F医師は,午後11時35分,原告らに対し,2時間近くCの心肺蘇生を試みているが,非常に厳しい状態であること,心臓マッサージと薬剤で辛うじて心臓が動いている状態であり,心肺回復の可能性は厳しいことを説明した(57,66頁)。 トCは,午後11時50分,死亡が確認され,その後病 非常に厳しい状態であること,心臓マッサージと薬剤で辛うじて心臓が動いている状態であり,心肺回復の可能性は厳しいことを説明した(57,66頁)。 トCは,午後11時50分,死亡が確認され,その後病理解剖が行われた(甲A3,乙A3の66頁)。 (2) 呼吸管理に関する経過観察の適否ア甲B16の26頁によれば,甲状腺腫瘍全身麻酔手術患者の看護について,手術当日の術後観察においては,バイタルサインのチェック,全身状態の観察(出血・腫脹の有無,リリアバックの排液量・性状の観察,呼吸状態の観察,悪心・嘔吐の観察,疼痛の有無,手指のしびれの有無),頸部の安静保持,安楽な体位の工夫,輸液管理が必要とされている。この文献は甲状腺腫瘍におけるものではあるが,頸部手術として本件と共通の性質を有している上,同25頁には,甲状腺疾患は手術侵襲は少ないが,術後の生体の急激に変化しやすい時期は他の疾病と変わらず,一般状態の観 察はもちろん,術後起こり得る合併症として,術後出血,呼吸困難,低カルシウム血症などの観察にポイントを置き,援助しなければならない旨の記載があることから,本件における経過観察についても一般的に妥当すると考えられる。 そして,同27頁によれば,①血圧・脈拍については,術後全覚醒までは15分ごとのチェックを行い,変動がなければ30分ないし1時間ごとに観察し,術前の血圧のレベルを確認して,変動の有無をチェックする,②呼吸管理については,インスピロンによる酸素吸入を行い,深呼吸の助言やセミファウラー位にするなど,呼吸筋の緊張を和らげ,十分な換気ができるようにすることが大切であり,術後においては,特に反回神経麻痺による喘鳴や狭窄音の有無を観察して異常の早期発見に努める,③術後の急激な出血は気道を圧迫し,呼吸困難を起こすことがあるため,呼吸と出 きるようにすることが大切であり,術後においては,特に反回神経麻痺による喘鳴や狭窄音の有無を観察して異常の早期発見に努める,③術後の急激な出血は気道を圧迫し,呼吸困難を起こすことがあるため,呼吸と出血状態の観察を併せて行うことが大切である,④呼吸困難については,発声の状態・嗄声に注意し,吸気音が強い,あるいは鼻翼呼吸を伴ったチアノーゼが見られる場合は,両側反回神経麻痺が考えられるので医師に連絡をする,⑤枕の高低によって,また創部ガーゼの圧迫が強すぎる場合にも呼吸困難を訴えるので,必要に応じて調節する,などの観察をすべきとされている。 上記の知見を基に,被告病院の医師及び看護師等による経過観察の適否について検討する。その際,Cの体動が激しくなったことが明らかな午後9時ころ以降とそれ以前とに分けて検討する。 イ午後9時ころまで(ア) 前記認定事実(1)エのとおり,ナースステーションとリカバリールームとは隣り合わせでかつガラスで隔てられており,看護師等は,ナースステーションにいながらCの状態を容易に観察し得る状況にあったことが認められる。 そうすると,G准看護師による午後7時15分までの経過観察は,上記アの知見に照らしても,特に問題がないといえる。 (イ) それ以降については,G准看護師が,カルテには記載がないものの,観察は続けていたと証言しているところ,同人が午後7時15分以降もCの症状観察を続行するとカルテに記載していること,ナースステーションとリカバリールームの位置関係及び構造からCの状態をナースステーションからでも容易に観察できる状況にあったこと,被告病院での術後対応として,看護師等は,手術直後,15分後,1時間後,2時間後に患者の状態を観察するように指示されており,その後は2時間ごとに観察することとされていた(証人G)こ 況にあったこと,被告病院での術後対応として,看護師等は,手術直後,15分後,1時間後,2時間後に患者の状態を観察するように指示されており,その後は2時間ごとに観察することとされていた(証人G)ことからすれば,その間の観察内容については,特に問題のある症状などが見られなければ必ずしもカルテに記載しなかったとしても不自然ではないと考えられることなどに照らせば,同証言は信用できるといえる。とすれば,G准看護師は,午後7時15分から午後9時ころまでの間も,Cの状態を継続して観察していたと認められる。 そして,G准看護師は,経過観察に際して,呼吸状態,出血,頸部の腫脹,痰,麻酔からの覚醒状況及びバイタルサインといった点を見なければならないと認識していたと認められる(証人G)ことからして,実際の経過観察に際しても,これらの点を意識していたことが推認される。 (ウ) このようにG准看護師が経過観察を続けていた以上,その時点でのCの状態を併せ考慮すれば,医師による直接観察の有無にかかわらず,被告病院における経過観察義務懈怠の点が存在したと判断することはできない。 ウ午後9時ころ以降(ア) 前記認定のとおり,午後9時ころにおけるCの体動の原因は,反回神経麻痺に起因する呼吸困難であったと認められるところ,午後9時以降 のCの症状及びそれに対する被告病院医師及び看護師等の対応は上記(1)で認定したとおりであり,午後9時10分の段階で,SpOが9 5ないし96パーセントまで低下している上,午後9時ころからCの血圧が上昇し,体動が激しくなっており,看護師等が痰を吸引したり体位変換をしてもその状態が改善しなかったといった状況も見られている。 しかるところ,乙A9によれば,F医師は術前,呼吸困難の可能性をも考えていたことが認められ,特にCには,術前か 等が痰を吸引したり体位変換をしてもその状態が改善しなかったといった状況も見られている。 しかるところ,乙A9によれば,F医師は術前,呼吸困難の可能性をも考えていたことが認められ,特にCには,術前から片側反回神経麻痺が認められており,両側反回神経麻痺による呼吸困難の可能性は通常より高いことが予見し得る状況であった。 これらの事情を併せて考えれば,被告病院の医療従事者としては,遅くとも午後9時10分ころにおいては,Cの呼吸困難の可能性を考えた対応措置を速やかに講ずる必要があったと判断できる。 (イ) しかるところ,本件においては,F医師がG准看護師から上申を受けた際に聞いた内容は前記(1)シのとおりであるところ,脈拍数や呼吸数については具体的な数値は明らかでなく,そのような情報量では,Cの体動が呼吸困難によるものか別の原因によるものか,確定的な判断ができるだけの情報が得られたとはいい難い。そうだとすれば,F医師としては,指示を与える前提として,まず,体動の原因を判断し得るだけの症状を確認するよう看護師等に指示すべきであった。加えて,呼吸困難かどうかを判断する際には,呼吸状態を視認したり聴診によって確認したりするなど,看護師等のみによっても把握できるものだけでなく,創部や気道の状態を確認する際に場合によってはCTなどの使用も考えられることから,看護師だけでは対応できないものもある。特に,看護師等は,Cの創部に留置されていたドレーンの当てガーゼを開けてはいけないと指示されていた(証人G)のであるから,看護師等のみでは創部の状態を十分確認できない。また,反回神経麻痺に起因する呼吸困難の 結果呼吸停止となった場合などでは,医師による気管内挿管又は気管切開が必要となる可能性が高い。 とすれば,F医師としては,呼吸困難の可能性を踏まえて,その後 た,反回神経麻痺に起因する呼吸困難の 結果呼吸停止となった場合などでは,医師による気管内挿管又は気管切開が必要となる可能性が高い。 とすれば,F医師としては,呼吸困難の可能性を踏まえて,その後の急変に対応できるよう同医師自らがCの下へ向かうか,とりあえずは当直医にリカバリールームへ来てもらうよう指示するなどして,医師が直接観察し,必要な措置を採れる状態にしておくべきであったというべきである。 (ウ) この点,被告は,乙A10によればSpOが90パーセント未満と なった場合にはサチュレーションモニターのアラームが鳴るとされていることなどから,SpOが95ないし96パーセントの段階での対応 としてはF医師及び看護師等に問題はないと主張する。しかし,直ちに気管内挿管をすべきかどうかは別として,もともと98ないし99パーセントであったものが95パーセント程度に下がってきていることからすれば,換気状態が悪化している可能性を否定できるものではない。 また,被告は,Cの体動について呼吸困難以外の原因による可能性もあると主張する。確かに実際に対応に当たっていた時点に立ってみれば,そのような可能性を考えること自体問題というわけではない。しかし,呼吸困難である可能性を否定するほどの事情は認められないのであり,実際に呼吸困難に陥っていた場合の緊急性,結果の重大性にかんがみると,呼吸困難の可能性を上位に考えた対応をしておくべきであったというべきである。 (3) 担当医の注意義務懈怠以上のとおり,F医師には,G准看護師から連絡を受けた午後9時10分ころ,看護師等に対して体動の原因を明らかにするための更なる指示を与え,同時に同医師自らあるいは当直医をしてCの呼吸状態等とともに術創の腫脹などを確認すべきであったといえる。特に,看護師等は,前記のとお ,看護師等に対して体動の原因を明らかにするための更なる指示を与え,同時に同医師自らあるいは当直医をしてCの呼吸状態等とともに術創の腫脹などを確認すべきであったといえる。特に,看護師等は,前記のとおりCの 創部に留置されていたドレーンの当てガーゼを開けてはいけないと指示されていたのであるから,医師が直接創部の状態を確認すべきであったといえる。 その結果,Cが呼吸困難な状態に陥っていることを知ったのであれば,これが反回神経麻痺に起因する可能性をも視野に入れ,不慮の事態が生じた時には即時に気管内挿管や気管切開の措置を講ずることができるよう準備を進めるべき注意義務があったといわざるを得ない。 しかるに,F医師は,G准看護師からの連絡を受けても,Cの体動が痰詰まりと術後の通常の不穏と速断し,ギャッジアップとセルシンの筋肉注射を許可ないし指示するにとどまったものであるから,Cに対する経過観察において,注意義務を懈怠する点があったと判断するのが相当である。 争点5(経過観察義務懈怠と結果との間の因果関係の存否)について午後9時10分ころにF医師がG准看護師から連絡を受けた際,Cの呼吸困難の可能性を考え,体動の原因究明のための更なる指示を看護師等に与え,かつ,いつでも気管内挿管や気管切開ができるよう準備するなどの適切な対応をとっていれば,実際よりも早期にCの呼吸困難が判明し,気道確保に対する適切な措置を執ることができたと考えられる。また,たとえその後にCが呼吸停止に陥ったとしても,気管内挿管の実施は1分もあれば可能であること(証人G)からすれば,即座に気管内挿管を実施することができたといえる(チューブが適合しないことから,これを取り替えたとしても,致命的にならない短時間内に実施できたと考えられる。また,声帯閉塞の場合に,気管内挿管が一定の困難 気管内挿管を実施することができたといえる(チューブが適合しないことから,これを取り替えたとしても,致命的にならない短時間内に実施できたと考えられる。また,声帯閉塞の場合に,気管内挿管が一定の困難を伴うことは理解できるが,本件において,9時35分ころ,これが行われていることに照らせば,被告主張のように,不可能であったとまでは認められない。)。 そして,そのような対応ができていたならば,Cの呼吸困難の原因が反回神経麻痺による声門閉塞であって,気道さえ確保できれば心肺機能も回復した可能性が高く,呼吸停止から脳の不可逆的損傷までに3分ないし5分要すること (甲B22)も併せ考えれば,救命できた蓋然性が高いと認められる。 したがって,上記の経過観察義務懈怠と死亡との間に,因果関係の存在を肯認するのが相当である。 争点6(損害額)について上記のとおり,F医師に経過観察に関する注意義務懈怠が認められるところ,F医師は被告病院の医師であり,上記懈怠は被告の職務執行上のものであることが明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,被告は使用者としての責任を免れない。 そこで,これによる損害額について検討する。 (1) 逸失利益損害算定の基礎となるCの年収(平成14年分)は,老齢(基礎及び厚生)年金337万2600円と認められる(甲C1,2)。また,死亡当時,Cは71歳であったことから,平均余命は13年であり,ライプニッツ係数は9.3935である。さらに,生活費控除率については,Cが年金生活であったこと,原告Bは当時既に就職し,自らの生活費を捻出していたことが認められることから,その割合としては50パーセントが相当である。 したがって,Cの逸失利益の額は,以下の計算式のとおり,1584万0259円となる。 3,372,600円×9.39 出していたことが認められることから,その割合としては50パーセントが相当である。 したがって,Cの逸失利益の額は,以下の計算式のとおり,1584万0259円となる。 3,372,600円×9.3935×0.5=15,840,259円(2) 慰謝料Cが死亡したこと,本件における過失の内容,Cの家庭における立場及びその他本件に顕れた一切の事情を総合的に考慮すると,慰謝料としては2000万円が相当と判断する。 (3) 葬儀費用本件と相当因果関係を有する葬儀費用として,120万円が認められる(甲C3)。 (4) 相続及び損益相殺原告らがCを2分の1の割合で相続したことは明らかであるところ,上記(1)ないし(3)を合計すると3704万0259円であるから,原告らはそれぞれその半額である1852万0129円を取得したことになる。 ただし,原告Aについては,Cの死亡により遺族(厚生)年金を受給したと認められるところ(甲C5ないし8),年金の受給者が不法行為によって死亡した場合,その相続人が被害者の死亡を原因として遺族年金の受給権を取得したときは,支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で,これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである(平成5年3月24日最高裁大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)。 しかるに,本件において原告Aが現在受領した額及び受領することが確実であるとされる額(平成15年12月から最終口頭弁論期日の属する平成18年11月までの支給額。ただし,併給調整前の老齢年金を超える金額に限る。)は,下記のとおり,合計301万0033円となる。したがって,これについては,原告Aの損害額から控除されるべきものである。 ア平成15年12月から平成16年3月まで(1,946,600円-936,700円)÷12×4=336,6 033円となる。したがって,これについては,原告Aの損害額から控除されるべきものである。 ア平成15年12月から平成16年3月まで(1,946,600円-936,700円)÷12×4=336,633円イ平成16年4月から平成18年3月まで(なお,老齢年金についても改定されていると考えられるが,資料を欠くことから,アと同額とした。)(1,940,700円-936,700円)÷12×24=2,008,000円ウ平成18年4月から同年11月まで(前同)(1,934,800円-936,700円)÷12×8=665,400円(5) 弁護士費用 原告らが,本件訴訟の提起,遂行のために弁護士である原告ら代理人に訴訟委任したことは記録上明らかであるところ,本件事案の内容,本訴の経緯,認容額等を総合すると,本件と相当因果関係を有する弁護士費用としては,原告Aにつき120万円,原告Bにつき150万円をもって相当と判断する。 (6) 賠償額よって,被告が賠償すべき原告らの損害額は,原告Aにつき1671万0096円,原告Bにつき2002万0129円となる。 結論 以上の次第で,原告らの本訴各請求は,主文1,2項掲記の限度で理由があるからこれらを認容し,その余は失当として棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官倉澤守春裁判官奥田大助

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