令和6(わ)505 殺人未遂、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年7月2日 札幌地方裁判所
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判決文本文6,673 文字)

- 1 - 主文 被告人を懲役30年に処する。 未決勾留日数中260日をその刑に算入する。 札幌地方検察庁で保管中の包丁1本(令和7年領第86号符号3-1)、刃物の柄1点(同号符号4)及びペティナイフ1本(同号符号2-1)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は、遅くとも令和4年11月頃には妄想型統合失調症を発症して、他人の声が聞こえるようになり、自動車内に盗聴器が仕掛けられているとか、他人の声が働き掛けて周囲がこれに応じることで、スーパー等で店員が目を合わせてくれない、女性店員が対応してくれないとか、視聴しているテレビの撮り方が変わる、画面がぶれるなどといった異常を感じるようになった。そして、コンビニ等では女性店員が対応しないことについて怒鳴って苦情を述べることがあったほか、テレビ局を訪ねてカメラの撮り方等についての苦情を述べ、このテレビ局の襲撃を計画したこともあった。 被告人は、令和6年2月24日、函館で友人と会ってフードフェスタや花火を楽しんだ後、友人と別れて札幌に向かう深夜バスに乗車していた際、バス内で騒ぐ幻聴と思われる声が聞こえて寝付けず、その声により周囲の乗客も眠れなかったであろうと考えていた。被告人は、翌25日午前5時過ぎに札幌駅でバスから下車し、当時の自宅に向かって歩いていたところ、「これから嫌な思いさせてやるからな。」と話す声が聞こえ、確認すると、コンビニ内に女性店員の姿が見えない、女性に道を聞こうとしても避けられるなどしたため、何かある、声が介入してきたと感じるようになった。そして、被告人は、カップラーメンを買うため、札幌市a区b条c丁目d番e号甲店(以下「本件コンビニ」という。)に入ったが、バックヤードで男女の声がするにもかかわら 介入してきたと感じるようになった。そして、被告人は、カップラーメンを買うため、札幌市a区b条c丁目d番e号甲店(以下「本件コンビニ」という。)に入ったが、バックヤードで男女の声がするにもかかわらず、女性店員が自分の対応をしなかったことなどから、 - 2 -やはり異常が生じていると考えていたところ、退店してまもなく「ざまあみろ。」と話す声が聞こえた。 被告人は、帰宅して着替えていると、「俺らの思うように行くの分かっただろう。」と話す声が聞こえたことから、再度本件コンビニに行って異常が解消されているか確認するとともに、これまでのように自身の苦情が聞き流されないよう今回は厳しく対応しなければならないと考えた。そこで、被告人は、刃物を持っていけば声の主がそのことを店員に伝えるので、刃物を示さずとも被告人の本気が伝わると考え、部屋にあった包丁等3本の刃物をバッグに入れ、自宅を出て本件コンビニに向かった。 被告人は、本件コンビニに再度入店して店内を確認したところ、やはり女性店員が出てこなかったため、異常は解消されていないと考えた。そこで、被告人は、今後も声による嫌がらせがエスカレートすることで、生活保護が打ち切られるなどして自分が餓死するとの絶望を覚えるとともに、声の指示に従って自分に嫌がらせをする本件コンビニの店員に怒りを覚えたことから、自分が餓死するくらいなら店員を殺そう、店内には5人の店員がいると思うがどうせなら1人より3人を殺そうと考えた。このとき、被告人は、バッグから刃物を出せば誰かが亡くなるだろうし、自分も臨場した警察官に射殺されて人生が終わると思い、店員殺害をためらう気持ちもあったが、あきらめや絶望の気持ちから「まあ、いいや。」と言って店員殺害を決意し、バッグからまず包丁を取り出した。 (罪となるべき事実)被告 れて人生が終わると思い、店員殺害をためらう気持ちもあったが、あきらめや絶望の気持ちから「まあ、いいや。」と言って店員殺害を決意し、バッグからまず包丁を取り出した。 (罪となるべき事実)被告人は、第1 令和6年2月25日午前6時47分頃から同日午前6時49分頃までの間、本件コンビニにおいて、A(当時60歳)に対し、殺意をもって、包丁(刃体の長さ約16.8センチメートル、令和7年領第86号符号3-1及び4は本件犯行により刃と柄に分かれたもの)でその胸部等を突き刺し、同包丁の刃がAの胸部に刺さったまま柄が折れたものの、後記第2及び第3の犯行後に再び - 3 -Aの元に歩み寄り、ペティナイフ(刃体の長さ約12.3センチメートル、同号符号2-1)でAの左背部等を突き刺すなどしたが、①全治まで32日間を要する両側開放性血気胸及び左横隔膜損傷、②下口唇に瘢痕拘縮を来す顔面切創、③伸展不全等の後遺障害を伴う右示指伸筋腱断裂、右中指手指神経断裂の傷害(①~③のいずれも入院加療14日間を要する。)を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げず、第2 同日午前6時47分頃、本件コンビニにおいて、B(当時58歳)に対し、殺意をもって、その左側頭部及び頭頂部を前記ペティナイフで突き刺すなどしたが、入院加療44日間を要し、軽度右片麻痺等の後遺障害を伴う左側頭部切創及び脳挫傷等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げず、第3 同日午前6時48分頃、本件コンビニにおいて、C(当時40歳)に対し、殺意をもって、その左頸部及び背部等を前記ペティナイフで複数回突き刺すなどし、よって、同日午前8時6分頃、札幌市f区g条h丁目i番地乙病院において、Cを頸部刺創による出血性ショックにより死亡させて殺害し、第4 業務その他正当な理由による場合でないのに、前 突き刺すなどし、よって、同日午前8時6分頃、札幌市f区g条h丁目i番地乙病院において、Cを頸部刺創による出血性ショックにより死亡させて殺害し、第4 業務その他正当な理由による場合でないのに、前記第1の日時場所において、前記包丁1本及び前記ペティナイフ1本を携帯したもので、各犯行当時、妄想型統合失調症のため心神耗弱の状態にあった。 (証拠の標目)省略(争点についての判断) 1 争点本件の争点は、本件犯行当時、被告人が心神耗弱であったか、心神喪失であったかである。すなわち、検察官は、被告人の正常な部分(自分のすることが悪いことかそうでないかを識別し、悪いことをしないように踏みとどまる能力)はなお作用していたとして心神耗弱を主張するのに対し、弁護人は、被告人の正常な部分はほとんど作用していなかったとして心神喪失を主張する。 2 丙医師の証言の要旨 - 4 -起訴前に被告人の精神鑑定を行った丙医師の証言の要旨は次のとおりである(なお、丙医師の証言の信用性に疑義はないものの、その鑑定内容は本件審理の約1年前になされた被告人の供述をもとになされたもので、当公判廷における被告人の供述とやや異なると見受けられる部分があるほか、プレゼンテーションに記載された「妄想に支配」とある部分を「妄想に影響された」と言い換えるなどしているため、丙医師の証言を文字どおりに受け取るのではなく、反対尋問も踏まえてその真意とするところを慎重に検討した。)。 ○ 被告人は、犯行当時、妄想型統合失調症に罹患していた。 ○ 被告人が日常生活に支障をきたしていなかったことからすると、妄想型統合失調症の症状自体は中等度くらいであるが、本件のような重大な犯罪を行ったことを考慮すると、犯行当時の妄想型統合失調症は重度であった。 ○ 被告人は、妄想型統合失 いなかったことからすると、妄想型統合失調症の症状自体は中等度くらいであるが、本件のような重大な犯罪を行ったことを考慮すると、犯行当時の妄想型統合失調症は重度であった。 ○ 被告人は、妄想型統合失調症による妄想が考えのベースとなって本件犯行を行ったのであり、幻聴に命令されたわけではない。 ○ 被告人は、犯行当時、現実を理解する力が低下し、客観的に判断できない状態に陥っていたが、現実を正確に認知できなかったわけではない。 ○ 犯行当時の被告人は、自己の行為が悪いことだと分かってはいたが、行為の意味を完全には理解できていなかった。 ○ 犯行当時の被告人には、自己の行為を踏みとどまる力はあったが、妄想の力の方が強かったため、本件犯行に及んだ(その意味で、妄想が踏みとどまる力を凌駕した。)。 3 当裁判所の判断本件犯行のベースには、被告人の妄想型統合失調症による妄想があることは明らかである。しかし、被告人の妄想は、全く現実との接点がないものではなく、むしろ現実に根差したものであり、また、被告人に指示・命令をするような類のものではなかった。 犯行に至る経緯をみても、被告人は、帰宅した際に声を聞いて妄想を抱いたも - 5 -のの、その妄想に取り憑かれていきなり店員を切りつけたのではなく、まずは刃物をバッグに入れるだけで自己の本気を店員に伝えようと考え、本件コンビニに再度入店後いったん店内を確認した結果、絶望と怒りを覚えるに至り、ためらいながらも自分が餓死するくらいなら店員を3人殺そうと考えるなど、要所要所で自分なりの判断をして行動に移している。そして、その判断は、たしかに妄想に端を発するものではあるが、全てが妄想に由来するものとは言い切れず、むしろ自己の怒りが優先して怒りを相手に直接ぶつけてしまう被告人のパーソナリティ、あるい ている。そして、その判断は、たしかに妄想に端を発するものではあるが、全てが妄想に由来するものとは言い切れず、むしろ自己の怒りが優先して怒りを相手に直接ぶつけてしまう被告人のパーソナリティ、あるいは、仮にいじめに遭った場合には自殺するタイプではなく報復するタイプであると自認する被告人のパーソナリティが少なからず影響している(それ故、弁護人が主張するように、本件犯行を妄想に貫かれた一連の行為とみることはできない。)。 また、丙医師の証言を前提に本件犯行をみると、本件犯行直前に被告人は犯行をためらう気持ちを持っていたというのであるから、当時の被告人には、行為を踏みとどまる力はあったものの、妄想の力の方が強かったために本件犯行に及んだと評価でき、踏みとどまる力が妄想に圧倒されて抑え込まれていたわけではない(それ故、弁護人が主張するような妄想型統合失調症の影響が圧倒的であったとする見方は採用できない。)。もとより、被告人は、人を刺すことが悪いということは分かっていたのであって、このことは、本件犯行によって自身が警察官に射殺される旨を想定したり発言したりしていることからもうかがわれる。 以上より、本件犯行は、妄想型統合失調症による妄想の影響によってなされたものとはいえ、なお被告人の正常な部分(自分のすることが悪いことかそうでないかを識別し、悪いことをしないように踏みとどまる能力)は作用していたと認められるので、本件犯行当時、被告人は心神耗弱の状態にあったと判断した。 (法令の適用)罰条判示第1及び第2の各所為いずれも刑法203条、令和4年法律第68号(以下 - 6 -「整理法」という。)441条1項により同年法律第67号2条による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)199条判示第3の所為 も刑法203条、令和4年法律第68号(以下 - 6 -「整理法」という。)441条1項により同年法律第67号2条による改正前の刑法(以下「旧刑法」という。)199条判示第3の所為整理法441条1項により旧刑法199条判示第4の所為整理法441条1項により同法による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第2項2号、銃砲刀剣類所持等取締法22条刑種の選択判示第1から第3までの各罪につきいずれも無期懲役刑を、判示第4の罪につき懲役刑を選択法律上の減軽判示第1から第3までの各罪につきいずれも刑法39条2項、旧刑法68条2号、14条1項、判示第4の罪につき刑法39条2項、旧刑法68条3号併合罪の処理旧刑法45条前段、47条本文、刑法10条(ただし、同条1項は旧刑法)(刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に旧刑法14条2項の制限内で法定の加重をする。)未決勾留日数算入刑法21条(260日を算入)没収刑法19条1項2号、2項本文(札幌地方検察庁で保管中の包丁1本(令和7年領第86号符号3-1)及び刃物の柄1点(同号符号4)はいずれも判示第1の殺人未遂の用に供した物、同ペティナイフ1本(同号符号2-1)は、判示第1及び第2の殺人未遂並びに第3の殺人の用に供した物で、いずれも被告人以外の者に属しない)訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 1 本件は、早朝にコンビニで勤務する店員3名を刃物で襲った無差別的な犯行である。すなわち、被告人は、本件コンビニに再来店して本件犯行を決意するや、 - 7 -突然包丁を取り出してAに襲いかかり、更には売り場に出てきた で勤務する店員3名を刃物で襲った無差別的な犯行である。すなわち、被告人は、本件コンビニに再来店して本件犯行を決意するや、 - 7 -突然包丁を取り出してAに襲いかかり、更には売り場に出てきたB、バックヤードにいたCを立て続けに襲った後、再びAに襲いかかったのであり、その際には、包丁が折れてもなおペティナイフを取り出して犯行を続け、逃げ惑う店員らを執拗に追いかけた挙げ句、首、胸、頭といった身体の枢要部を強い力で何度も突き刺しており、残忍な犯行である。 被害者らのうちCは本件犯行により命を奪われた。Cは、たまたま応援要員として本件コンビニで稼働していたところ、見ず知らずの被告人に襲われた結果、家族と共に過ごすはずの将来を奪われたのであり、襲われている際の恐怖や無念は察するに余りある。残された家族は、Cの死を乗り越えようと懸命に支え合いながらも、未だ乗り越えることができずにいる。また、一命を取り留めたAも、入院加療期間こそ短くて済んだものの、被害直後は生命が危機にさらされるほどの重傷を負っており、肺や手に後遺障害が残っていることも考慮すれば、重大な被害が生じている。同じく一命を取り留めたBも、重篤な傷害を負い、現在も失語症などの後遺障害に苦しめられている。このように本件犯行による被害は甚大である。 2 ところで、本件犯行は、被告人の妄想型統合失調症による妄想の影響によって行われたもので、被告人は当時心神耗弱の状態にあった。したがって、被告人に本件の責任全てを負わせることはできないが、それでも、自分が餓死するくらいなら店員3人を殺そうと考えたという点は、妄想型統合失調症に由来するものではなく、人命を軽視する被告人自身の考えが表れているというべきであって、このような人命軽視の考えの下に残忍な犯行に及んだ被告人に対しては、なお厳し 考えたという点は、妄想型統合失調症に由来するものではなく、人命を軽視する被告人自身の考えが表れているというべきであって、このような人命軽視の考えの下に残忍な犯行に及んだ被告人に対しては、なお厳しい非難が妥当する。 3 このほか一般情状についてみると、本件は、コンビニエンスストアという身近な場所での凄惨な事件であって、社会に与えた衝撃は大きい。被害者や遺族は被告人に対して厳しい処罰感情を有しているところ、被告人は、当公判廷においても、自らの言葉で被害者らに謝罪することはなかったのであって、こうした被告 - 8 -人の態度からは、本件に対する反省はうかがわれず、再犯の恐れも懸念される。 4 以上からすると、被告人が心神耗弱の状態にあった点を考慮しなければ、本件は、同種事案(殺人、単独犯、凶器として刃物類を使用、処断罪と同一又は同種の罪が2~4件ある事案)における量刑傾向の中で無期懲役が相当と思われるほど特に重い部類に位置づけられるところ、心神耗弱の状態にあったことを考慮して有期懲役に減ずることとするが、刑期についてはその上限から減らす事情は見当たらないといわざるを得ない。 そこで、被告人に対しては、主文のとおり、懲役30年に処するのが相当であると判断した。 (求刑-懲役30年、主文同旨の没収)令和7年7月2日札幌地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官井戸俊一 裁判官織本もなみ 裁判官斎藤由里阿 なみ 裁判官斎藤由里阿

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