平成14(行コ)158 処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成13年(行ウ)第303号)

裁判年月日・裁判所
平成14年10月31日 東京高等裁判所 その他
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判決文本文10,576 文字)

主文 1 原判決主文第1項を取り消す。 2 被控訴人の主位的請求を棄却する。 3 被控訴人の予備的請求に係る訴えを却下する。 4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人本件控訴を棄却する。 第2 事案の概要等 1 事案の概要被控訴人は,控訴人宛に,自己の住所及び「a」と記載した「請願書」と題する書面(甲1)を送付した。これに対し,台東区の担当職員は,被控訴人との電話で,戸籍上の氏名を明らかにするよう繰り返し求めたが,被控訴人がこれに応じなかったため,控訴人は,「正しい氏名で書類を再度提出していただくよう通知する」などと記載した書面とともに,上記「請願書」と題する書面を「a」宛に返送した。 本件は,被控訴人が,控訴人に対し,主位的に,上記返送行為が請願書の不受理という行政処分に当たるとして,その取消しを求め,予備的に,被控訴人が請願書を受理しないことにつき不作為の違法があることの確認を求めるとともに,中間確認の訴えとして,「a」が被控訴人の通称であることの確認を求めた事案である。 原審は,上記返送行為が行政処分に当たるとした上,控訴人には,「a」との名称が被控訴人の通称として請願法2条にいう「氏名」の記載として有効となるよう補正を促す義務に違反した違法があるとして,被控訴人の主位的請求を認容してこれを取り消すとともに,被控訴人の中間確認の訴えを不適法として却下する判決をした。 これに対し,控訴人がこれを不服として控訴をした。したがって,中間確認の訴えの適否は,当審の審理判断の対象外である。 2 関係法令の定 ,被控訴人の中間確認の訴えを不適法として却下する判決をした。 これに対し,控訴人がこれを不服として控訴をした。したがって,中間確認の訴えの適否は,当審の審理判断の対象外である。 2 関係法令の定め(1) 憲法は,16条において請願権を保障しており,これを受け,一般の官公署に対する請願の方式・手続等について定める請願法(以下「法」という。)が制定されている。 (2) 法2条は,「請願は,請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載し,文書でこれをしなければならない。」として,請願の様式について規定している。 また,法3条1項は,「請願書は,請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならない。」などとして,請願書の堤出先を規定し,法5条は,「この法律に適合する請願は,官公署において,これを受理し誠実に処理しなければならない。」と規定している。 3 前提となる事実(括弧内に認定根拠を掲げた事実のほかは当事者間に争いのない事実である。)(1) 被控訴人は,平成13年7月11日付けで,控訴人に対し,その右上部分に「〒×××-×××× 東京都西多摩郡α183番地3」「a」と記載した請願書(甲1・原判決別紙のとおり。以下「本件請願書」という。)を封書で送付した。 (2) 控訴人は,本件請願書の上記「a」との記載が,法2条にいう「氏名」の記載に該当しないと考え,本件請願書の受理を留保していたところ,被控訴人は,控訴人に対し,平成13年8月22日付けで,本件請願書が受理されていないことを不服として,「a」名で異議申立書(甲2。以下「本件異議申立書」という。)を送付した。その後,被控訴人は,控訴人に対し,平成13年10月3日付けで,「a」名で審査請求書(甲3。以下「本件審査請求書」という。)を送付した。 (4) 控 甲2。以下「本件異議申立書」という。)を送付した。その後,被控訴人は,控訴人に対し,平成13年10月3日付けで,「a」名で審査請求書(甲3。以下「本件審査請求書」という。)を送付した。 (4) 控訴人は,平成13年10月11日付けで,本件請願書に記載された住所地に「a」という氏名による住民票が存在しない旨の証明を得た上,同月23日付けで,被控訴人に対し,本件請願書,本件異議申立書及び本件審査請求書を返送するとともに,法2条にいう氏名とは戸籍上の氏名をいうとして,正しい氏名を記載の上,書類を再提出するよう求める旨の文書を送付して,本件請願書自体については,確定的かつ最終的な判断として,これを不受理とした(以下「本件不受理行為」という。)。 4 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 訴状記載事項に不備があるかこの争点に関する当事者の主張は,原判決事実及び理由の第2の3(2)の「ア争点1(訴状記載事項の具備)について」欄(原判決書4頁4行目から25行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。 (2) 本件不受理行為は行政処分といえるかア控訴人の主張法に定める請願とは,国又は地方公共団体に対しその職務に関する事項について希望を陳述することをいうと解されるところ,本件請願書の内容は,単なる行政庁への問い合わせであり,法にいう請願にそもそも当たらない。 仮にこれが法にいう請願に当たるとしても,請願は,これを受理した官公署に対し特別法律上の拘束を課するものではなく,請願者の権利義務その他の法律関係に何ら影響を及ぼすものではない。 まして,本件不受理行為は,「氏名」の補正を求め再提出を促したもので,単なる事実行為にすぎず公権力の行使に当たるものとはいえない。 したがって,本件不受理行為は,行政処分とはいえない。 イ被控訴人の主張 ,本件不受理行為は,「氏名」の補正を求め再提出を促したもので,単なる事実行為にすぎず公権力の行使に当たるものとはいえない。 したがって,本件不受理行為は,行政処分とはいえない。 イ被控訴人の主張争う。 本件不受理行為により,被控訴人は,本件請願書による請願を誠実に処理される利益を享受することができなくなるという法律上の効果があるから,本件不受理行為は,行政処分に当たる。 (3) 本件について訴えの利益があるかこの争点に関する当事者の主張は,原判決事実及び理由の第2の3(2)の「イ争点2(訴えの利益の有無)について」欄(原判決書5頁1行目から11行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。 (4) 本件不受理行為は適法であるかこの争点に関する当事者の主張は,原判決事実及び理由の第2の3(2)の「ウ争点3(本件処分の適法性)について」欄(原判決書5頁13行目から8頁7行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決書7頁13行目及び22行目から23行目にかけての各「本件処分」をいずれも「本件不受理行為」に改める。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(訴状記載事項の不備の有無)について本件訴訟の経緯に照らせば,現時点において,本件訴えの原告(被控訴人)が本判決書冒頭に被控訴人として表示されたとおり特定されていることは明らかであり,この点において本件訴えが不適法であるとはいえない。 したがって,仮に訴状自体の記載に不備があったとしても,現時点においてはこれが補正されたといえ,現時点で訴状の記載事項が不備であることを理由に本件訴えを却下すべき理由はない。 2 争点(2)(本件不受理行為の行政処分性)について(1) 控訴人は,法に定める請願とは,国又は地方公共団体に対しその職務に関する事項について希望を陳 とを理由に本件訴えを却下すべき理由はない。 2 争点(2)(本件不受理行為の行政処分性)について(1) 控訴人は,法に定める請願とは,国又は地方公共団体に対しその職務に関する事項について希望を陳述することをいうと解されるところ,本件請願書の内容は,単なる行政庁への問い合わせであり,法にいう請願にそもそも当たらないと主張する。 しかし,憲法16条は,請願の対象となる事項について,「損害の救済,公務員の罷免,法律,命令又は規則の制定,廃止又は改正その他の事項」に関するものと極めて広汎に規定しているほか,法においては,請願の対象となる事項を何ら限定してはいないばかりか,天皇に対する請願及び請願の事項を所管する官公署が明らかでない請願の存在を前提とした規定を置いている(法3条1項後段,2項)ことなどに照らせば,単なる行政庁への問い合わせに類するものであっても,「請願」であることが明示されている以上,これを法に定める請願と認めることは妨げられないというべきである。 そして,本件請願書の記載を考慮すれば,本件請願書の提出は,法に定める請願と認めるのが相当である。 したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。 (2) 控訴人は,請願は,これを受理した官公署に対し特別法律上の拘束を課するものではなく,請願者の権利義務その他の法律関係に何ら影響を及ぼすものではない上,本件不受理行為は,「氏名」の補正を求め再提出を促したもので,単なる事実行為にすぎず公権力の行使に当たるものとはいえないから,本件不受理行為は行政処分とはいえないと主張する。 しかし,請願は憲法上認められた権利であり,法は,法に適合する請願は官公署においてこれを受理しなければならないと定めている(法5条)のであるから,請願を受けた官公署が確定的にその受理自体を拒むことは,憲 し,請願は憲法上認められた権利であり,法は,法に適合する請願は官公署においてこれを受理しなければならないと定めている(法5条)のであるから,請願を受けた官公署が確定的にその受理自体を拒むことは,憲法及び法により認められた請願権を侵害するものとして,行政処分性を有すると解するのが相当である。 そして,上記第2の3(4)のとおり,本件不受理行為は,控訴人が確定的かつ最終的な判断として本件請願書を不受理としたものであるから,これをもって行政処分と認めるのが相当である。 したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。 3 争点(3)(本件訴えの利益の存否)について控訴人は,平成13年11月15日に控訴人が被控訴人に対し「請願書について(お知らせ)」と題する書面(乙1)を送付し,同書面で,本件請願書記載の要請事項に対する回答をしたことにより,被控訴人は本件請願の目的を達したのであるから,本件訴えはその利益を失った旨主張する。 しかし,上記2のとおり,控訴人は,本件請願に対し,行政処分として本件不受理行為を行ったものであるところ,本件請願書を改めて受理することなく上記書面を被控訴人に送付したことによって,控訴人が上記処分を自ら取り消したと認めることはできず,他に控訴人が上記処分を自ら取り消したことを認めるに足りる証拠はない。したがって,上記書面の送付は事実上の措置にすぎず,行政処分である本件不受理行為が残存する以上,本件訴えの利益はあるというべきであって,控訴人の上記主張は,採用することができない。 4 争点(4)(本件不受理行為の適法性)について(1) 上記第2の3の事実に加え,証拠(甲1から4まで,9から62まで,68,71から73まで,88から92まで,105から107まで,110,114,乙2,6)及び弁論の全趣旨によれば, ついて(1) 上記第2の3の事実に加え,証拠(甲1から4まで,9から62まで,68,71から73まで,88から92まで,105から107まで,110,114,乙2,6)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ア本件不受理行為に至る経緯(ア) 本件請願書を入れた封書は,平成13年7月17日ころに投函され,そのころ,台東区役所に到達した。 台東区役所においては,上記封書の宛名が台東区長とされているだけで部課名の記載がなく,差出人名の記載もなかったことから,総務課文書係の係員が開封して内容を確認したところ,原判決別紙のとおりの本件請願書が入っていた。 本件請願書には,差出人と思われるものの住所及びその直下に「a」という記載はあるものの,連絡先電話番号の記載はなく,個人の氏名と解されるものの記載もなかったことから,台東区役所においては,本件請願書を差出人を特定することができない文書として扱うこととして,特に対応をしなかった。 (イ) 平成13年8月20日ころ,被控訴人は,台東区役所に対し,本件請願書の扱いを電話で問い合わせた。この電話に総務部法務担当課長であるbが応対したところ,被控訴人は,本件請願書に回答がないことの説明及び法で請願を誠実に処理しなければならないと定められていることの認識の有無を質した。これに対し,bは,① 本件請願書の差出人が「a」となっており,氏名と判断することができなかったこと,② 法では住所及び氏名を記載することが要件とされており,単なる肩書や商号では受理することができないこと,及び③ 氏名を教えてもらえば区で補正して受理することを被控訴人に伝えたが,被控訴人は,一貫して「a」を氏名として扱って本件請願書を受理するよう求めるのみで,本名を名乗ることはなかった。 (ウ) その後まもなく,本件異議申 ば区で補正して受理することを被控訴人に伝えたが,被控訴人は,一貫して「a」を氏名として扱って本件請願書を受理するよう求めるのみで,本名を名乗ることはなかった。 (ウ) その後まもなく,本件異議申立書が台東区役所に郵送された。本件異議申立書には,異議申立人の氏名,年齢及び住所として,「a 52歳東京都西多摩郡β183番地3」と記載されている。なお,平成13年10月3日付けの本件審査請求書の審査請求人の氏名,年齢及び住所としても同一の記載がある。 さらに,平成13年8月27日ころ,被控訴人は,再び台東区役所に電話をかけ,bに対し,本件異議申立書を送付したこと,他の自治体では「a」名で請願を受理したところがある旨の話をした。これに対しbは,改めて,本名を教えるよう要請したが,被控訴人は,「a」名での受理を要求するのみで,事態は進展しなかった。 その後も,被控訴人は,2回ほど台東区役所に電話をかけたが,内容は,過去2回のものと同様であった。 (エ) bは,他の自治体の扱い及び本件請願書記載の住所地に「a」名での住民票が存在しないことを確認の上,平成13年10月23日付けで,台東区長名で本件請願書等を返送するなどの本件不受理行為の事務を担当したが,その際同封した書面(甲4)には,宛名欄に「氏名不詳「a」殿」と記載されているほか,「台東区長宛てに送付された下記書類につき、正しい氏名を記載のうえ、提出していただくようお願いいたします。」と記載された上,「下記書類」として本件請願書,本件異議申立書及び本件審査請求書が,また,本件不受理行為の理由として,法2条の条文を掲記し,「氏名とは、行政事務において戸籍上の氏名をいいます。」,「(本件請願書は)単に「a」との記載がなされているのみで、一般的には肩書きの記載あるいは通称名の記載と考えられたため、 2条の条文を掲記し,「氏名とは、行政事務において戸籍上の氏名をいいます。」,「(本件請願書は)単に「a」との記載がなされているのみで、一般的には肩書きの記載あるいは通称名の記載と考えられたため、受理せずに保留扱いとしていました。」,「従いまして、正しい氏名で書類を再度提出していただくよう通知するものでございます。」と記載されている。 イ被控訴人による「a」の呼称の使用状況(ア) 被控訴人は,平成5年3月3日付けで,自治大臣(当時)宛てに政治団体「a会」の設立届を提出した。この届出書(甲105)の中で,被控訴人は,同政治団体の住所を被控訴人の肩書住所地とし,代表者及び会計責任者の氏名を「c」と記載した。この政治団体の会則では,「本会の会長は,会を代表し,aと称する。」とされている。 (イ) 被控訴人は,平成5年2月までに,営業の種類として印刷物の製造及び自動車の販売,営業所を被控訴人の肩書住所地,商号使用者を「c」とする商号「a」を登記した。 (ウ) 平成6年の6月号として発行された雑誌「Old-timer 1994年6月号」(甲73)には,「取り扱い車種は書類なしのクルマ達」「旧車党にはなんともうれしい」との紹介で「a」について紹介する記事が掲載された。この記事には,「a」の住所地として被控訴人の肩書住所地が記載されているほか,電話番号,営業時間,休業日等の記載があり,本文中には,「aは,実はつのだ自動車の生まれ変わりなのだ。そのあたりの経緯を社長のcさん(45歳)に聞くと,「小さい会社なんで,名前だけでも大きくしようとおもっただけ」と笑いながら話してくれた。」との記載がある。また,この本文中では,営業内容に関する部分には「a」の記載が,営業内容に関する説明をする主体については「cさん」の記載がされている。なお,この雑誌の平成13 ながら話してくれた。」との記載がある。また,この本文中では,営業内容に関する部分には「a」の記載が,営業内容に関する説明をする主体については「cさん」の記載がされている。なお,この雑誌の平成13年の12月号(甲71)には「書無車登録」を行うという「a」の広告が掲載されている。 (エ) 平成9年の4月号別冊として発行された雑誌「MOTORCYCLIST」(甲72)には,「書なしバイク復活大作戦書類のないバイク登録いたします!」との見出しの記事が掲載された。この本文中には,「東京都西多摩郡の「a」代表,cさん(48歳)」「aは書類のない4輪のオールドカーにナンバーを付けるのが主な業務。これを遂行するのが代表のcさんである。」との記載があり,被控訴人がこの業務を行うようになった経緯が「cさん」の呼称で紹介されている。また,この記事中には,被控訴人の写真も掲載されており、その説明文にも「aの代表 cさん」との記載がある。 (オ) 中央大学通信教育部が発行する雑誌「白門」には,平成13年の5月号以降,被控訴人が「a」名で投稿した文章が掲載されるようになったが,文章末尾に,被控訴人名も併記されている(甲88から92まで)。 また,被控訴人は,平成13年8月,東日本電信電話株式会社に対し,「a」名での電話帳記載等をする旨の依頼をしたが,同社との電話加入契約自体は被控訴人名でしており,上記依頼を確認する同社からの文書(甲114)の宛名も,被控訴人名となっている。 (カ) 被控訴人の肩書住所地に掲げられている表札には,横書きで,住所,その下に書き出し部分を右側に寄せて被控訴人名の「c」の記載がされているほか,被控訴人名の下に,いずれも住所の書き出し部分と同じ位置からの書き出しで,「a」「(有)プラトン」「沖縄芸能愛好会」「(有)あや」との記載がある 右側に寄せて被控訴人名の「c」の記載がされているほか,被控訴人名の下に,いずれも住所の書き出し部分と同じ位置からの書き出しで,「a」「(有)プラトン」「沖縄芸能愛好会」「(有)あや」との記載がある。 (キ) 被控訴人は,本件請願書記載のものと同一の事項に係る請願,又は,公営住宅の入居者を債務者とする共益費債権の帰属を確認する趣旨の請願を,「a」名義で,平成13年7月11日ころ以降,東京都23区のほか,東京都,神奈川県,千葉県,大阪府等の都府県等多数の自治体首長宛てに集中的に送付した。これらの送付を受けた自治体の中には,「a」宛てに,上記請願に対する回答書を返送したものがあったが,上記請願には氏名の記載がないとして,対応を留保する自治体も多数あった。 (2)ア法令上文書作成者の氏名の記載が要件とされている場合において,戸籍上の氏名(日本国籍を有する者の場合。以下同じ。)以外の通称のみの記載によって上記要件を満たしていると認め得る場合があるとしても,そのように認められ得る通称は,少なくとも,戸籍上の氏名と同程度にその使用者を特定・識別するものとして社会的に定着しているものであることを要すると解すべきである。 本件についてこれを見ると,上記(1)イ認定の事実によれば,少なくとも平成9年までは,「a」という呼称が被控訴人の商号又は営業の表示として使用されていたことは認められるが,被控訴人個人を指すものとして使用され社会的に定着していたと認める余地はなく,また,平成13年に入って被控訴人が自己の通称として「a」という呼称を使用し始めたことが窺えるものの,「a」という呼称のみによって被控訴人個人を指すものとの認識が社会的に定着していたとは到底いえない。 したがって,本件請願書は,法2条で記載することが要件とされている氏名の記載を欠くものという ,「a」という呼称のみによって被控訴人個人を指すものとの認識が社会的に定着していたとは到底いえない。 したがって,本件請願書は,法2条で記載することが要件とされている氏名の記載を欠くものというべきであり,法5条にいう「この法律に適合する請願」には当たらない。 イ被控訴人は,これまで「a」を被控訴人本人を示す名称として用いており,「a」名で複数回にわたり雑誌に掲載されているのみならず,「a」名で他の自治体に対する請願書を受理され,また,「a」名での異議申立てについて,「a」を名宛人とする決定の送達を受けているとして,このような事実に照らせば,「a」は被控訴人の通称であることが明らかであると主張する。 しかし,「a」名で雑誌に掲載されたということの実態は,上記(1)イ認定のとおり,「a」という商号又は営業の表示を使用して「c」が営業をしているというものであったり,「a」という呼称と併記して「c」の記載がされているというものであり,「a」という呼称が被控訴人個人の氏名のように扱われているものとはいえない。また,「a」名での請願に対し回答書を返送した自治体があることは上記(1)イ(キ)のとおりであるが,これらの自治体が,上記請願を法5条にいう「この法律に適合する請願」として扱ったことを認めるに足りる証拠はなく,自治体の行政に関心を有する者に対する事実上の好意的措置として回答書を返送したとも十分考えられるところである。さらに,証拠(甲7,8,63)によれば,「a」を名宛人とする異議申立却下決定又は審査請求却下決定がされたことは認められるが,これは,そもそも,異議申立書又は審査請求書において異議申立人又は審査請求人として「a」との記載があったことから,これに対応した表記をしただけにすぎないといえ,行政機関が積極的に被控訴人の名称が「a」であ ,そもそも,異議申立書又は審査請求書において異議申立人又は審査請求人として「a」との記載があったことから,これに対応した表記をしただけにすぎないといえ,行政機関が積極的に被控訴人の名称が「a」であることを認めたものということはできない。被控訴人が書証として提出している「a」を名宛人とする公文書は,すべてこれと同様の理由によって名宛人が「a」とされているにすぎず,このようなものがどれだけ大量に存在しても,「a」が被控訴人個人を示す名称であると認める根拠になるものとはいえない。被控訴人は,その肩書住所地に「a」宛てに送付された葉書及び封筒の表書等も証拠として提出しているが,上記(1)イ認定のとおり,被控訴人は,肩書住所地で「a」名で営業活動を行っているのであるから,これらの証拠も,被控訴人の上記主張を裏付けるものとはいえない。 結局,本件全証拠によっても,「a」が被控訴人を示す通称として社会的に定着していることを認めることはできない。 ウそして,「a」という呼称が個人の通称として社会的に定着している場合というのは極めて考え難いこと,被控訴人は,本件不受理行為がされるまで,「a」が被控訴人個人を示す通称であることを窺わせる資料を控訴人に何ら送付していないこと,日本国籍を有する者の氏名とは戸籍上の氏名であるのが一般的であることといった事情のほか,台東区役所のb法務担当課長は,被控訴人に対し,氏名を明らかにしてもらえれば区において本件請願書を補正して受理する旨を繰り返し述べていることなど上記(1)ア認定の本件不受理行為に至る経緯を考慮すれば,本件不受理行為には何らの瑕疵も認められず,適法というべきである。 5 被控訴人の予備的請求について被控訴人は,予備的請求として,控訴人が本件請願書を受理しないことについて,不作為の違法確認を求めている 受理行為には何らの瑕疵も認められず,適法というべきである。 5 被控訴人の予備的請求について被控訴人は,予備的請求として,控訴人が本件請願書を受理しないことについて,不作為の違法確認を求めている。 しかし,控訴人は,平成13年10月23日付けで,本件請願書について,確定的かつ最終的な判断として不受理とするという行政処分(本件不受理行為)をしたのであるから,被控訴人の予備的請求に係る訴えは既にその利益を失っているというべきである。 したがって,被控訴人の予備的請求に係る訴えは不適法であり,却下を免れない。 6 以上によれば,被控訴人の本件不受理行為の取消し請求は理由がなく,これを棄却すべきであるところ,これと異なる原判決は失当である。 よって,本件控訴は理由があり,原判決中上記請求に関する部分である主文第1項を取り消し,被控訴人の上記請求を棄却するとともに,被控訴人の予備的請求に係る訴えを却下することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部裁判長裁判官西田美昭裁判官森高重久裁判官伊藤正晴

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