令和6年7月17日判決言渡令和6年(行コ)第10001号行政処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和4年(行ウ)第5001号)口頭弁論終結日令和6年6月3日判決 控訴人(第1審原告) エムシーシーアイコーポレイション 同訴訟代理人弁護士葛和百合絵 同補佐人弁理士葛和清司 被控訴人(第1審被告) 国 処分行政庁兼裁決行政庁特許庁長官 同指定代理人安實涼子同藤原美咲同鈴木啓生同坂本千鶴子同大谷恵菜 同中島あんず主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 3 控訴人のため、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間 を30日と定める。 事実及び理由 第1 事案の要旨(本判決の略語は、特記のない限り、原判決の例による。また、「特許法」という場合、原判決と同様、令和3年法律第42号による改正前のものをいう。)控訴人は、本件特許権に係る第6年分の特許料を納付期限内に納付せず、特 許料及び割増特許料を追納期間内に納付しなかった(これを「本件期間徒過」という。なお、原判決が第7年分の特許料等の不納付を含め 訴人は、本件特許権に係る第6年分の特許料を納付期限内に納付せず、特 許料及び割増特許料を追納期間内に納付しなかった(これを「本件期間徒過」という。なお、原判決が第7年分の特許料等の不納付を含めて「本件期間徒過」を定義しているのは適切でないので、上記のとおり定義を改める。)。控訴人は、本件期間徒過については特許法112条の2第1項所定の「正当な理由」があると主張して、特許料納付書(第6年分~第10年分)を順次提出したが、 処分行政庁は、上記主張を認めず、本件各却下処分及び本件裁決をした。 第2 当事者の求めた裁判 1 控訴人の請求(1) 特許庁長官が特許第5281402号について令和3年4月8日付けで控訴人に対してした令和元年7月25日付け提出の特許料納付書(本件納付書 1)に係る手続の却下の処分(本件却下処分1)を取り消す。 (2) 特許庁長官が令和4年5月31日付けで控訴人に対してした控訴人の令和3年7月27日付け審査請求(令和3年行服第14号)を棄却する旨の裁決(本件裁決)を取り消す。 (3) 特許庁長官が特許第5281402号について令和4年8月3日付けで控 訴人に対してした令和2年6月1日付け提出の特許料納付書(本件納付書2)に係る手続の却下の処分(本件却下処分2)を取り消す。 (4) 特許庁長官が特許第5281402号について令和4年8月3日付けで控訴人に対してした令和3年5月20日付け提出の特許料納付書(本件納付書3)に係る手続の却下の処分(本件却下処分3)を取り消す。 (5) 特許庁長官が特許第5281402号について令和5年4月25日付けで 控訴人に対してした令和4年5月20日付け提出の特許料納付書(本件納付書4)に係る手続の却下の処分(本件却下処分4)を取り ) 特許庁長官が特許第5281402号について令和5年4月25日付けで 控訴人に対してした令和4年5月20日付け提出の特許料納付書(本件納付書4)に係る手続の却下の処分(本件却下処分4)を取り消す。 2 原審の判断及び控訴の提起原審は控訴人の請求をいずれも棄却する判決をしたところ、これを不服とする控訴人が下記のとおり控訴を提起した。 【控訴の趣旨】(1) 原判決を取り消す。 (2) 上記1と同旨。 第3 事案の概要等 1 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、後記2のとおり当審にお ける控訴人の補充的主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」第2の2(3頁~)、3及び第3に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 当審における控訴人の補充的主張(1) 争点1(本件期間徒過についての「正当な理由」の有無)についてア原判決は、特許法112条の2第1項の「正当な理由」があるというた めには、原特許権者(代理人を含む。)として相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったことを要すると判断している。 しかし、このような判断基準は平成23年改正の背景や、同改正後の国際的時流を一切無視した厳格すぎる基準であり、国際調和の観点からは、 期間徒過が例外的な状況又は通常は有効に機能している期間管理システムにおける孤立したミス(isolatedmistake)であれば、正当な理由があるとき」と認められるべきであり、それまで有効に機能していた期間管理システムにおいて初めて生じたミスによって発生した期間徒過については、救済されるべきである。 本件紙リストには、印刷の関係で本件特許権の記載が分断されていたこ と(甲 していた期間管理システムにおいて初めて生じたミスによって発生した期間徒過については、救済されるべきである。 本件紙リストには、印刷の関係で本件特許権の記載が分断されていたこ と(甲37)、「発明の名称」や「特許権者」の項目について不正確な記載がされていた(「特許権者」の項目については、合併があったことによる。)ことから、本件担当弁理士らは、本件紙リストの4ページ及び5ページの記載を一体的に把握して本件特許権に関するものと認識することができなかったのであり、過去に一度も同様の事象が発生したことはなく、 通常は有効に機能している期間管理システムにおいて初めての予期せぬ見落としをしたのであるから、「正当な理由」がある。 イ原判決は、米国年金管理会社の担当者及び本件担当弁理士らは、遅くとも本件電子メール送付の時点で、本件特許料納付リストの内容が不正確なものであることを認識しており、かつ、米国年金管理会社は、本件担当弁 理士らに対して、本件特許料納付リストに記載されていない特許権等の料金を支払済みであることを確認するように求めたとしている。 しかし、平成30年10月10日から同年11月7日までの本件担当弁理士らと米国年金管理会社との電子メールのやり取りは、一貫して、同年10月10日の電子メールに日本国代理納付者が列挙した案件が同年5 月16日付の本件年金納付リストに記載されていなかったことの原因を探るために行われていたものである。 本件担当弁理士らが本件電子メールに記載されている「貴所が該インデックスファイルから漏れていた料金を現在は支払い済みであることをご確認ください。」というメッセージを受け取っても、同年10月10日に 報告済みの案件について支払済みであるか否かの確認をすれば、何ら問題なく から漏れていた料金を現在は支払い済みであることをご確認ください。」というメッセージを受け取っても、同年10月10日に 報告済みの案件について支払済みであるか否かの確認をすれば、何ら問題なく必要な納付を完了できるはずであった。 ウ原判決は、米国年金管理会社の担当者が本件担当弁理士らから送付された受領書等の内容と本件支払確認リストの内容の整合性を確認するなどの作業が行われていれば、本件期間徒過を認識できた旨判示する。 しかし、米国年金管理会社は世界中の特許権等の年金を管理していると ころ、その期間管理システムは、本件期間徒過までの間有効に機能していたのであって、米国年金管理会社が平成30年10月31日及び同年11月7日の電子メールを受けてさらなる調査をせずとも、通常どおりであれば正常に本件特許権の第6年分の特許料は納付されているはずであった。 本件においてはたまたま本件紙リストで、印刷の関係で本件特許権の記載 が分断されるという事象が発生してしまったがために、本件期間徒過が起きたのである。 (2) 争点3(本件裁決の違法性)についてア審理不尽について本件裁決においては、本件電子メールに記載されていた「GoingForward」 という文言に関する審理と、原告が本件審査請求及び本件審査請求反論書において主張した「国際的に一般的な判断基準や特許法112条の2の改正に係る経緯」についての審理が十分にされていなかった。 イ理由不備について本件裁決では、控訴人が具体的に主張した「国際的に一般的な判断基準 や特許法112条の2の改正に係る経緯」について判断されておらず、理由不備がある。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の請求はい 人が具体的に主張した「国際的に一般的な判断基準 や特許法112条の2の改正に係る経緯」について判断されておらず、理由不備がある。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。 その理由は、下記のとおり原判決を補正し、当審における控訴人の補充的主 張に対する判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」第4(15頁~)の説示のとおりであるから、これを引用する。 【原判決の補正】(1) 第4の1(1)中の「DueCure」(16頁8行目)は誤記であるから、「DueCare」に改める。 (2) 第4の2(1)中の「本件期間徒過に『正当な理由がある』(特許法112条 の2第1項)とは認められないから」(20頁12~13行目)を、「第6年分の特許料等に係る本件期間徒過については『正当な理由がある』(特許法112条の2第1項)とは認められず、かつ、第7年分の特許料については下記(2)と同様の理由(特許権の消滅)により」に改める。 【当審における控訴人の補充的主張に対する判断】 (1) 争点1(本件期間徒過についての「正当な理由」の有無)についてア控訴人は、国際調和の観点からは、期間徒過が例外的な状況又は通常は有効に機能している期間管理システムにおける孤立したミス(isolatedmistake)であれば、「正当な理由があるとき」と認められるべきである旨主張する。 しかし、平成23年改正は、国際的調和の観点から権利救済の要件を緩和する必要がある一方で、第三者の監視負担等の観点も考慮して、追納期間経過後に特許料等を追納することができる場合について「納付することができなかったことについて正当な理由があるとき」としたの 件を緩和する必要がある一方で、第三者の監視負担等の観点も考慮して、追納期間経過後に特許料等を追納することができる場合について「納付することができなかったことについて正当な理由があるとき」としたのであり、「正当な理由」があるといえるためには、その文言に照らしても、原特許権者 (代理人を含む。)として相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったことを要するものというべきである。 控訴人は、本件紙リストが、印刷の関係で本件特許権の記載が分断されていたので本件特許権に関するものと認識することができなかった旨主 張するが、甲37をみても、5頁目冒頭には各頁に共通する出願番号、特許番号、登録日等の項目が記載されているので、4頁目と5頁目を分断して理解する理由とはならず、少なくとも、本件担当弁理士らは、本件特許権の特許番号で特定される、特許料が未納である特許権があることを認識しながらこれを放置したものといわざるを得ず、そのことは、本件紙リス トで「発明の名称」や「特許権者」の項目について不正確な記載がされて いたとしても左右されるものではない。 イ控訴人は、平成30年10月10日から同年11月7日までの本件担当弁理士らと米国年金管理会社との電子メールのやり取りは、一貫して、同年10月10日の電子メールに日本国代理納付者が列挙した案件が同年5月16日付の本件年金納付リストに記載されていなかったことの原因 を探るために行われていたものであるから、その点だけ調査をすれば足りる旨主張する。 しかし、同年11月1日付けの本件電子メールは、本件特許料納付リストそのものが不正確であったことを示すものであり、同年10月10日の電子メールに日本国代理納付者が列挙し すれば足りる旨主張する。 しかし、同年11月1日付けの本件電子メールは、本件特許料納付リストそのものが不正確であったことを示すものであり、同年10月10日の電子メールに日本国代理納付者が列挙した案件に限定されているものと はいえず、本件電子メールを前提に調査がされるのが当然であって、控訴人の主張は採用できない。 ウ控訴人は、米国年金管理会社の期間管理システムは、本件期間徒過までの間有効に機能していたのであって、本件においてはたまたま本件紙リストで、印刷の関係で本件特許権の記載が分断されるという事象が発生して しまったがために、本件期間徒過が起きた旨主張するが、同主張は、「正当な理由」についての誤った理解を前提とするもので採用できない。 (2) 争点3(本件裁決の違法性)についてア審理不尽について控訴人は、本件裁決においては、本件電子メールに記載されていた「Going Forward」という文言に関する審理と、原告が本件審査請求及び本件審査請求反論書において主張した「国際的に一般的な判断基準や特許法112条の2の改正に係る経緯」についての審理が十分にされていなかった旨主張するが、これは本件却下処分1の実体的判断を問題とするもので、裁決固有の瑕疵に関するものではないから、採用できない。 イ理由不備について 控訴人は、本件裁決では、控訴人が具体的に主張した「国際的に一般的な判断基準や特許法112条の2の改正に係る経緯」について判断されておらず、理由不備がある旨主張するが、裁決において理由を付記するのは、判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申立人に知らせ不服申立ての機会を担保することにその趣旨があり、申 立人の法的主 主張するが、裁決において理由を付記するのは、判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申立人に知らせ不服申立ての機会を担保することにその趣旨があり、申 立人の法的主張に逐一対応しなければならないものではない。 本件裁決が審理意見書を一部引用する形で理由が記載され、同引用個所において「正当な理由」の有無等についての具体的な判断が記載されていることは、原判決第4の3が正当に説示するとおりである。 2 以上によれば、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきところ、これと同 旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 宮坂昌利 裁判官本吉弘行 裁判官岩井直幸
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