平成18(ワ)26196 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成20年9月1日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文26,204 文字)

平成20年9月1日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成18年(ワ)第26196号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成20年6月16日判決主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,5240万1417円及び内金4770万1417円に対する平成18年1月29日から,内金470万円に対する平成18年12月8日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,平成13年5月2日,急激な腹痛を訴えて被告の開設するA病院(以下「被告病院」という。)消化器内科に入院し,同月9日,開腹手術を受けた原告が,被告病院の担当医師には,単純性イレウスと絞扼性イレウスの鑑別を行わず,開腹手術を遅延した注意義務違反があり,これにより原告は小腸切除,人工肛門造設を余儀なくされ,これに伴う脱水により腎機能障害が生じたと主張して,被告に対し,診療契約の債務不履行に基づき,損害賠償を請求する事案である。 前提事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告は,昭和10年3月26日生まれの男性である。 イ被告は,被告病院を開設する学校法人である。 (2)診療経過 ア原告は,平成13年5月1日午後10時ないし午後10時30分ころ,激しい腹痛と嘔気を覚え,同月2日午前0時30分ころ,被告病院の救急外来を受診した(以下,特に年を記載しない限り,すべて平成13年のことである。)。これにより,原告と被告との間に,原告の症状に対し,適切な診療を行う旨の診療契約が締結された。 診察時,原告は,体温35.0℃,脈拍66,血圧(右)250/110,(左)240/128であり,意識レベルは正常で,腹部は,腫瘤が に,原告の症状に対し,適切な診療を行う旨の診療契約が締結された。 診察時,原告は,体温35.0℃,脈拍66,血圧(右)250/110,(左)240/128であり,意識レベルは正常で,腹部は,腫瘤が触知され,圧痛が認められたが,筋性防御及び反跳痛(Blumberg徴候)はなかった。 救急外来の担当医師は,原告に対し,腹部レントゲン検査,腹部CT検査等を施行の上,急性腹症との病名で,原告を被告病院消化器内科に入院させた(以下「第1回入院」という。)。入院後は,原告に対して,経過を観察しながら保存的治療が続けられた。 イ5月7日,原告に対して,保存的治療の効果判定のために腹部CT検査が施行された。その読影の結果,回腸ヘルニアなどが疑われる所見があり,開腹手術の必要性があると判断されたため(乙A1・22頁),被告病院の消化器内科担当医師は,消化器外科に処置を依頼した(乙A1・12,18頁)。 ウ5月8日,被告病院の消化器外科担当医師は,原告の診察を行い,CT所見及び身体所見等から開腹手術の適応ありと判断し,翌日に同手術を施行することとした(乙A2・5,6頁)。 エ5月9日,原告に対して,開腹手術が施行された(以下「本件開腹手術」という。)。原告には小腸内ヘルニアによる絞扼性イレウスが生じており,すでに小腸壊死が進行していたため,壊死した小腸及び結腸の一部を切除し,小腸人工肛門が造設された。 オ6月2日,原告は,被告病院を退院し,以後,被告病院の消化器外科外 来での経過観察が続けられた。 カ11月26日から12月15日まで,原告は,急性腎不全のために被告病院に入院した(以下「第2回入院」という。)。 キ平成14年1月27日から同年2月14日まで,原告は,急性腎不全のために再び被告病院に入院した(以下「第3回入院」という。)。 ク平 のために被告病院に入院した(以下「第2回入院」という。)。 キ平成14年1月27日から同年2月14日まで,原告は,急性腎不全のために再び被告病院に入院した(以下「第3回入院」という。)。 ク平成14年3月18日から同年4月3日まで,原告は,人工肛門閉鎖を目的として被告病院に入院した。同年3月20日,原告に対して,人工肛門閉鎖術が施行された。 ケその後,原告は,財団法人B病院(以下「B病院」という。)及びC病院において加療を受け,平成19年9月28日,慢性腎不全と診断された(甲A9)。 コ被告病院におけるその余の診療経過は,別紙診療経過一覧表のとおりである(ただし,当事者間に争いがある部分を除く。)。 また,被告病院,B病院,C病院における各種検査数値は,別紙検査結果一覧表のとおりである(当事者間に争いがない。)。 (3)イレウス(甲B1,2,4ないし9,12,13)イレウスとは,腸管内容の肛門側への通過障害によって生ずる腹痛,腹部膨満,嘔吐,排便・排ガスの停止などの病状を呈する病態の総称である。 腫瘍や癒着などの器質的な原因があるものを機械的イレウスといい,腸管内腔の器質的閉塞はないが,運動機能が障害されて腸内容が肛門側に運ばれない状態を機能的イレウスという。 機械的イレウスは,腸管の通過障害が原因で起こる閉塞性イレウス(単純性イレウス)と腸管の通過障害とともに血行障害を伴う絞扼性イレウス(複雑性イレウス)とに分けられる。絞扼性イレウスは緊急開腹手術の適応となる。 機能的イレウスは,腸管運動の減少した麻痺性イレウスと腸管の筋肉の痙 攣による痙攣性イレウスとに分けられる。 争点 (1)注意義務違反の有無ア経過観察により単純性イレウスと絞扼性イレウスとを鑑別して,5月6日までに絞扼解除術を行うべき注意義務違反の有無(原告 による痙攣性イレウスとに分けられる。 争点 (1)注意義務違反の有無ア経過観察により単純性イレウスと絞扼性イレウスとを鑑別して,5月6日までに絞扼解除術を行うべき注意義務違反の有無(原告の主張)(ア)注意義務以下の点からすれば,被告病院の担当医師には,5月3日以降,厳重な経過観察を行うことにより単純性イレウスと絞扼性イレウスとを鑑別し,遅くとも5月6日までに絞扼解除術を行うべき注意義務があった。 a5月2日の画像所見(a)5月2日撮影の立位X線写真(乙A6の1,6の3)及び臥位X線写真(乙A6の2)では,胃ガスや小腸ガスの存在,胃拡張が認められ,特に,同日午前1時15分撮影の立位X線写真(乙A6の1)では,小腸ガスの底面がニボー像(鏡面形成像)を示している(甲A7の1ないし7の3)。 (b)また,同日撮影の腹部CT(乙A7の3,7の4)では,上腹部から中腹部にかけての小腸の拡張が顕著であり,小腸ガスとともに食物残渣も確認できる。胃についても異常に拡張し,多量の食物残渣が認められる。また小腸の腸管がくびれて狭窄しており,絞扼が疑われる状態であった(甲A7の4,7の5)。 (c)ニボー像を伴う小腸ガスはイレウスを疑う典型的な所見であり(甲B6・20頁),そして,イレウスを診療する上でもっとも重要な点は,緊急手術が必要な絞扼性イレウスなどと,緊急手術を要さない単純性イレウスなどとを鑑別することである(甲B8・1523頁)。 b血液検査結果5月2日には3回にわたって採血が行われている。1回目は午前1時であり,2回目は午前7時50分であり,3回目は救急から消化器内科に移った後の採血であるが,時刻は不明である。 3回の採血を通じて,白血球数は基準値4500~8500を超えて15000→17300→17600と増加し 前7時50分であり,3回目は救急から消化器内科に移った後の採血であるが,時刻は不明である。 3回の採血を通じて,白血球数は基準値4500~8500を超えて15000→17300→17600と増加しており,CRPも基準値0.3以下のところ0.3→0.4→1.6と増加する傾向にあった。 cバイタルサイン体温は5月2日から3日にかけて37℃台と高く,看護記録上は,その後も36℃台後半からおおむね37℃台前半の発熱が続いていた(乙A5・6,7頁)。血圧も5月3日から4日にかけて収縮期血圧が170~180と高く,バイタルサインは安定していなかった。 dその他の理学所見入院当初の上腹部痛については5月2日の診察を終えた時点でも原因が分からない状態であった(乙A1・10頁)。その後,上腹部痛自体は減少しつつも,5月3日には心窩部に圧痛を認め,腹満が断続的に続いていた。 経鼻胃管チューブからの排液量も,5月2日から4日までの間は比較的少なかったものの,5日は680ml,6日は460mlと多かった。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師は,上記鑑別を行わず,5月6日までに絞扼解除術を施行しなかった。 (被告の主張)(ア)注意義務の有無について 以下のとおり,原告には5月6日までの時点で絞扼性イレウスを積極的に疑わせるような所見がなかったものであるから,直ちに単純性イレウスと絞扼性イレウスとを鑑別し,同時点までに絞扼解除術を行うべき注意義務はなかった。 a5月2日の画像所見について5月2日の腹部単純X線所見及び腹部CT所見は,イレウスを疑わせはするが,絞扼性イレウスを疑わせるものではない。 そして,イレウスを疑っていたとしても,絞扼性イレウスの可能性を疑わせる症状もない段階で,あらゆる諸検査を尽くして絞扼性イレウスの可 イレウスを疑わせはするが,絞扼性イレウスを疑わせるものではない。 そして,イレウスを疑っていたとしても,絞扼性イレウスの可能性を疑わせる症状もない段階で,あらゆる諸検査を尽くして絞扼性イレウスの可能性を否定することが要求されるわけではない。 bバイタルサインについて原告は,5月3日に37℃台程度の発熱が認められたものの,5月4日以降はほぼ36℃台で経過しており,ショックや重篤感もなかった。 c腹部所見,その他の理学所見について(a)原告は,5月2日以降一貫して腹痛が軽減しており,著明な圧痛は認められず,筋性防御,Blumberg徴候も認められなかった。また,5月5日,6日には排便もあった。 (b)さらに,経鼻胃管チューブからの排液量は,食物残渣の量の変化,チューブ先端の位置変化等によっても増減するし,身体症状の改善により胃腸の動きもよくなって消化液の分泌が増え,排液量が増えるということも考えられるから,実際の症状経過を無視して,排液量の増減と病態の変化とを関連づけることはできない。原告の腹部症状や全身症状は改善傾向にあり,決して悪化はしていなかったのであるから,5月5日及び6日の排液量の増加は,イレウスの増悪を疑って問題視すべきようなものではない。 d検査所見について 5月2日以降,原告の白血球数に特段の増加はなく,5月8日の血液ガスの検査結果によってもアシドーシスは見られず,LDH,CKの上昇も見られなかった。 (イ)注意義務違反の有無について被告病院の担当医師は,5月2日の時点で,イレウスも可能性の一つとしては検討し,イレウス状態に対する治療として,絶飲食,抗生剤を含む補液の開始,経鼻胃管チューブの挿入などを行った。 また,5月3日以降も,5月2日の診察,各種検査結果を踏まえて,原告のバイタルサインや腹部症状を十 レウス状態に対する治療として,絶飲食,抗生剤を含む補液の開始,経鼻胃管チューブの挿入などを行った。 また,5月3日以降も,5月2日の診察,各種検査結果を踏まえて,原告のバイタルサインや腹部症状を十分に経過観察していた。 よって,5月6日までの対応に不適切な点はなく,診療上の注意義務違反はない。 イ5月7日時点で直ちに緊急開腹手術を行うべき注意義務に違反した過失の有無(原告の主張)(ア)注意義務以下の点からすれば,被告病院の担当医師には,5月7日施行のCT検査の結果を得た時点で直ちに緊急開腹手術を実施すべき注意義務があった。 a5月7日撮影の腹部CT画像(乙A8の1ないし8の6)では,脾臓周囲,肝臓後面に腹水が多量に見られ,イレウスが相当程度進展していることが明らかであるほか,右中腹部から上腹部に径10cm以上に及ぶ拡張した腸管が認められ,強い狭窄や狭窄部位に向けて腸間膜が集中する像を確認できる(甲A7の6ないし7の8)。これは,絞扼性イレウスを強く疑わせる所見である。 b絞扼性イレウスの初期では,一般検査,画像診断において決め手となる所見はなく,病態は短期間のうちに進行するため,常に患者の状態を把握し,その変化を見逃さないことが重要となる(甲B5・127頁)。また, その状態把握においては,高齢者では所見が比較的弱い(甲B4・57頁,甲B5・126頁)ことも考慮に入れなければならない。 原告は当時66歳の高齢であり,しかも,腸管が大網などとともに絞扼されている場合,絞扼が緩衝されて所見が出にくいことがあり,腸内容のうっ滞とともに絞扼が高度になることを懸念する必要があった(甲B1・106,108頁)。また,ブスコパン,ソセゴン,プリンペランなどが投薬されており,身体症状が抑制されて現れにくくなっていることも考慮する必要があ 扼が高度になることを懸念する必要があった(甲B1・106,108頁)。また,ブスコパン,ソセゴン,プリンペランなどが投薬されており,身体症状が抑制されて現れにくくなっていることも考慮する必要があった。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の担当医師が開腹手術を施行したのは5月9日のことであり,同手術の施行を遅延した。 (被告の主張)(ア)注意義務の有無について以下のとおり,被告病院の担当医師において,5月7日のCT検査の結果を得た時点で直ちに緊急開腹手術を実施すべき注意義務はなかった。 a5月7日時点における原告の全身状態は落ち着いており,腹膜炎のような症状もなく,直ちに手術を行うべき緊急性はなかった。この点は,5月9日の本件開腹手術当日でさえ,「おいの方と昔話したり,手術の話したりして,穏やかに過ごされる。昼前ぐらいから,『入院して初めて,頭がすっきりした。胃のもたれ感もとれ気分がいい』といい,座位にて新聞読んでいる姿みられる。」(乙A5・9頁)といった状態であり,腹満はあるものの,腹痛なし,圧痛なし,嘔気なしという落ち着いた状態であった。 そして,本件手術は,そもそも手技的に決して易しい部類に属するものではなく,糖尿病を患っていることもあって合併症発生の危険性も高く,相当程度のリスクを伴うものであった。 したがって,上記のように全身状態が落ち着いた状況下で,手術成績も不良なことが多い緊急手術を敢えてその日のうちに行わなければならない必要性はなかった。 bまた,被告病院といえども,開腹手術の必要性が生じた時点で直ちに十分なスタッフによる安全性の高い手術が常にできるわけではない。絞扼性イレウスが疑われる場合であっても,腸管壊死に至る経緯は症例ごとに異なる。文献上,「症状の強いものは腸管壊死の可能性が強いので緊急手 分なスタッフによる安全性の高い手術が常にできるわけではない。絞扼性イレウスが疑われる場合であっても,腸管壊死に至る経緯は症例ごとに異なる。文献上,「症状の強いものは腸管壊死の可能性が強いので緊急手術を急ぐ」(甲B1・106頁)といった記載もあるとおり,実際には,十分な準備のできない即日緊急手術のリスクと全身症状・腹部所見の強さ等を総合的に判断して,手術時期を決定するほかないのである。 原告の年齢(なお,66歳は決して高齢ではない。)や投薬による症状抑制の可能性を考慮しても,前記aのとおり,原告の症状は増悪傾向にはなく,リスクを冒して即日の緊急開腹手術を行わなければならないような状態ではなかった。 (2)因果関係の有無(原告の主張)ア腎機能障害の原因以下の点が示すとおり,原告は,人工肛門造設に伴う脱水を原因として腎機能が低下し,その後2回の急性腎不全を経た結果として,慢性腎不全に至った。 (ア)5月2日の初診時の検査データでは,クレアチニン0.7で標準値内であり,Na138,K4.1,Cl97と電解質も全く正常である。 また,同日2回目に採血したデータでは,尿酸6.0であり,5月7日のデータですら,尿素窒素16,クレアチニン0.8,尿酸4.9である。 このように,初診時から本件開腹手術直前までの時点では腎機能異常 が認められていない。 (イ)回腸人工肛門においては,腸管内での水分の再吸収が行われないため,水分を多量に摂取しても,脱水になる可能性が極めて高い。本件では,それに加えた下痢により,脱水が一段と悪化したと考えられる。原告は点滴の施行により腎機能,電解質が改善したが,この事実は脱水によって腎機能低下が生じていたことを裏付けるものである。 (ウ)原告は,第2回入院時において,尿素窒素76,クレアチニン2. 7であり, は点滴の施行により腎機能,電解質が改善したが,この事実は脱水によって腎機能低下が生じていたことを裏付けるものである。 (ウ)原告は,第2回入院時において,尿素窒素76,クレアチニン2. 7であり,「腎結石による腎後性よりは脱水が原因の様」(乙A4・12頁),「脱水による腎前性急性腎不全」(乙A4・17頁),「脱水の原因としてストーマからの水分漏出も考えられます」(乙A3・50頁)と指摘されていた。 また,第3回入院時にも,「下痢の原因としてウイルス性腸炎に人工肛門による吸収不全が加わったと考えられ,今後の再発予防のためストーマ落としが必要と思われ」た(乙A4・18頁),「イレオストミーにより容易に脱水になることを考えると,人工肛門閉鎖術を早期に施行することが必要と思われた」(乙A4・22頁)などと,下痢による脱水から腎前性急性腎不全になった旨を指摘されていた。 (エ)なお,原告には,高尿酸値症,糖尿病等の既往があったが,HbA1c値は5月2日の初診時5.1,12月18日5.2といずれも標準値内であった。 よって,それらが治療を必要とするほどのものであったとは考えにくく,原告の腎機能悪化が痛風腎あるいは糖尿病性腎症であった可能性は低い。 イ被告病院担当医師の注意義務違反との因果関係5月7日撮影の造影CT画像によれば,一塊となった部分の腸管の周囲が造影剤で濃染されていて完全な虚血に至っていないことが明らかであり, 同日時点で小腸の壊死は認められなかった。 よって,5月6日までに絞扼解除術が行われていれば,あるいは,遅くとも5月7日施行のCT検査の結果を得た時点で直ちに緊急開腹手術が行われていれば,小腸切除は不要だったものであり,小腸人工肛門が造設されることもなく,これに伴う腎機能の低下も起こらなかった。 したがって,前記(1)の各 T検査の結果を得た時点で直ちに緊急開腹手術が行われていれば,小腸切除は不要だったものであり,小腸人工肛門が造設されることもなく,これに伴う腎機能の低下も起こらなかった。 したがって,前記(1)の各注意義務違反と原告の腎機能障害との間には因果関係がある。 (被告の主張)ア腎機能障害の原因以下のとおり,原告には,本件開腹手術前から腎不全を引き起す多数の素因があったこと,腎機能の悪化が認められ始めたのは人工肛門造設後2か月程度経ってからであること,人工肛門閉鎖後も腎機能が改善しないどころかむしろ悪化していることなどからすれば,原告の腎機能障害は,人工肛門造設による脱水を原因とするものであるとは考えがたい。むしろ,原告が本件開腹手術前から罹患していた慢性疾患,さらには原告の生活習慣によるものであると考えるのが合理的である。 (ア)クレアチニン値,尿素窒素値の推移について仮に,人工肛門造設による脱水傾向が腎機能悪化の原因であれば,人工肛門造設後の入院中から腎機能に異常が生じ,人工肛門閉鎖後には回復するはずである。 しかしながら,被告病院入院中における原告のクレアチニン値はすべて標準値内であり,尿素窒素値も入院当初より改善していた。そして,被告病院退院(平成13年6月2日)1か月後から急激に増悪し,本件人工肛門閉鎖術施行後も回復していない。 また,後記のとおり,B病院においてはむしろ悪化している。 (イ)人工肛門造設による腎機能不全は極めて稀であること 人工肛門造設による脱水によって腎機能不全が起こることは極めて稀である。人工肛門からの排液量が異常に多い場合には,飲水等による水分補給が追いつかず,脱水となり,腎機能が悪化することも考えられるが,原告の人工肛門からの排液量は,通常800ml/日,多いときでも1500ml/日であった(乙 が異常に多い場合には,飲水等による水分補給が追いつかず,脱水となり,腎機能が悪化することも考えられるが,原告の人工肛門からの排液量は,通常800ml/日,多いときでも1500ml/日であった(乙A3・50頁)。 被告病院の腎臓内科担当医は,原告に対し,脱水を避けるために1日1リットル程度の飲水を心掛けるよう指導していたが,上記程度の排液量であれば,この指導にしたがって水分補給を行っている限り脱水傾向が生じるとは考えにくい。 (ウ)糖尿病等の慢性疾患,NSAIDsなどの薬剤使用について原告は,第1回入院前から,糖尿病,腎結石,高尿酸血症に由来する痛風腎などの既往症を有しており(乙A1・5頁,乙A4・11頁),現在も同様であると考えられる(甲C2)。糖尿病,腎結石,痛風腎などはいずれも腎機能を低下させる疾患である。 また,原告には,その年齢(当時66歳)や高血圧傾向があることなどから腎硬化症も疑われるが(乙A4・11頁),腎硬化症も腎機能障害を引き起す要因となる。 さらに,NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)や抗生物質の服用によっても,腎障害が生じることがある。 (エ)急性腎不全による入院についてa原告は,急性腎不全による第2回入院時について,「脱水によるARF(急性腎不全)で入院。脱水の原因としてストーマからの水分漏出も考えられます」(乙A3・50頁)との記載を指摘しているが,この意見は,同号証同頁の下欄で,「脱水の原因としてのイレオストミー排泄は考えにくいと思います」として否定されている。 仮に,第2回入院時の急性腎不全に人工肛門造設が関与していたと すれば,それは,前記(イ)の飲水指導を遵守していなかったことが原因と解される。 b急性腎不全による第3回入院の主たる原因は,原告がカルテを引用しているとおり,ウイルス性腸 が関与していたと すれば,それは,前記(イ)の飲水指導を遵守していなかったことが原因と解される。 b急性腎不全による第3回入院の主たる原因は,原告がカルテを引用しているとおり,ウイルス性腸炎に基づく下痢による急性的な脱水であり,人工肛門の造設とは関係がない。 (オ)B病院通院中におけるクレアチニン値悪化について原告は,被告病院への通院終了後,B病院通院中にクレアチニン値が悪化しているが,その原因は,以下のような,B病院通院中における原告の血圧,体重等の管理不十分,原告の既往症,原告の生活習慣等にあると考えられる。これらは,いずれも人工肛門造設とは何ら関係のないものである。 a高血圧高血圧は腎機能障害が悪化させるところ,日本高血圧学会作成の「高血圧治療ガイドライン2004」によれば,腎障害患者の血圧は130/80mmHg未満とすべきとされている(乙B3・43頁)。 原告は,被告病院通院中,循環器内科や腎臓・高血圧内科の管理のもと,血圧が良好に推移していたが,B病院通院中においては,130/80mmHgを上回る高血圧状態が継続している。 b蛋白尿(肥満)蛋白尿は単に糸球体障害のマーカーではなく,尿細管間質障害の重要なメディエーターであるとされ,腎機能障害の改善・進行防止を図るには蛋白尿を減らすことも必要である(乙B1・188頁)。そして,蛋白尿の発症には肥満が関与し,減量により尿蛋白が減少すると報告されている(乙B3・42頁)。 原告は,被告病院に通院していた平成14年3月1日の時点で蛋白尿は検出されておらず(乙A4・42頁),体重も58㎏とほぼ適正体重に近い状態であったが(乙A4・14頁),原告が被告病院へ通院しなくなっ てからは,体重が持続的に増加して肥満となっており,蛋白尿も持続的に出ている(乙A10・26,33 も58㎏とほぼ適正体重に近い状態であったが(乙A4・14頁),原告が被告病院へ通院しなくなっ てからは,体重が持続的に増加して肥満となっており,蛋白尿も持続的に出ている(乙A10・26,33,36,42頁)。 c高脂血症(脂質異常症)腎障害の進展防止のためには,高脂血症の治療・管理も重要であるが(乙B1・188頁),原告の総コレステロール(TC)及び中性脂肪(TG)は,基準値を大幅に超過する状態が継続していた。 d生活習慣被告病院への通院終了後の原告の生活習慣は必ずしも明らかではないが,体重が増加し,総コレステロール,中性脂肪,尿酸値が高値であることなどからすれば,規則正しい生活やバランスの取れた食生活を送っていたとは考えがたい。 e心疾患原告には,大動脈弁閉鎖不全症(AR)もあり,左室駆出率(EF)が49%と低いことから(乙A4・9頁),腎臓への血液供給量も低下していたと考えられる。腎臓への血液供給量の低下は,腎機能に影響を与えるため,上記の原告の心疾患(循環動態異常)が原告の腎機能低下に影響を与えた可能性も否定できない。 イ原告の主張する注意義務違反と腎機能障害との因果関係本件開腹手術の際,小腸は回腸末端約10㎝から口側約40㎝が胃の小湾側から大網に包まれた状態で,一部横行結腸を引き込むように入り込んでおり,そのために胃は120度の捻転状態になっていた。このように小腸内ヘルニアが生じていたことからすれば,仮に5月7日の造影CT所見を得た時点で直ちに緊急開腹手術を行っていたとしても,すでにその時点で,少なくとも折れ曲がった腸管のところどころに虚血,壊死が生じており,本件と同様の腸管切除,人工肛門造設は免れなかった可能性が高い。 よって,原告の主張する注意義務違反と原告の腎機能障害との間に因果関係 は認められない 腸管のところどころに虚血,壊死が生じており,本件と同様の腸管切除,人工肛門造設は免れなかった可能性が高い。 よって,原告の主張する注意義務違反と原告の腎機能障害との間に因果関係 は認められない。 (3)損害(原告の主張)ア原告は,被告病院において適切な診療を受けていれば,最大1か月程度の入院加療で治癒したものと推定されるところ,被告病院の担当医師の前記注意義務違反により,本来は回避されるはずであった小腸切除,小腸人工肛門造設の手術を受け,これに起因して腎機能障害を負い,以下の損害を被った。 (ア)治療関係費95万4430円(イ)入院雑費8万4000円原告は,被告病院に4度の入院をしているが,第1回入院を除く3度の入院期間は通算56日である。そして,1日当たり1500円の雑費を要するものとすると,入院雑費は合計8万4000円となる。 (ウ)休業損害746万2205円a原告は,個人タクシーの運転手を営んでいたものであるが,人工肛門を留置した状態ではストーマの処理や衛生面への配慮,脱水傾向による疲労などのため,乗務は休業せざるを得ない状態であった。 b原告が被告病院に入院して本件開腹手術を受け,人工肛門を造設した平成13年の前年である平成12年の輸送日報によれば,同年の売上は年間1029万7690円である(甲C4)。そして,休業損害及び逸失利益算定の基礎となる所得を計算するに当たり,現実に支出していない減価償却費を売上から差し引くのは不相当であり,すでに減価償却を終えた平成16年の経費134万3044円(甲C5)を売上から差し引いて算出するのが相当である。 よって,休業損害及び逸失利益算定の基礎となる平成12年の所得は,上記売上と経費の差額である895万4646円となる。 cそして,原告がタクシー乗務を休業せざる 差し引いて算出するのが相当である。 よって,休業損害及び逸失利益算定の基礎となる平成12年の所得は,上記売上と経費の差額である895万4646円となる。 cそして,原告がタクシー乗務を休業せざるを得なかった期間は平成13 年5月から平成14年3月までの約10か月間であるから,休業損害は,前記所得895万4646円の12分の10に当たる746万2205円とみるのが相当である。 (エ)逸失利益2420万0782円原告は,平成19年4月27日付けでB病院において慢性腎不全の診断を受けており(甲A6),透析回避を目的とした治療を行う状態にまで至っているのである。また,腎性貧血も出ており,慢性腎障害の病期Ⅱ期(腎不全期)に該当する。このように現在も残っている原告の腎機能障害は,後遺障害等級では9級11号(胸腹部臓器の機能に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの,労働能力喪失率35%)に相当すると考えられる。 また,個人タクシーの事実上の定年が満75歳と考えられることから(甲C7),平成13年当時66歳であった原告は,少なくとも10年間は個人タクシー業務を継続することが可能であったといえる。 よって,原告の逸失利益は,前記所得額895万4646円を基礎に,労働能力喪失率を35%,労働能力喪失期間を10年とし,ライプニッツ方式(10年に対応するライプニッツ係数7.7217)により中間利息を控除して算出するのが相当である。 これによれば,原告の逸失利益は,次のとおり2420万0782円である。 〔計算式〕895万4646円×0.35×7.7217=2420万0782円(オ)後遺障害慰謝料700万円後遺障害等級9級に相当する後遺障害を負ったことに対する慰謝料としては,700万円が相当である。 (カ)慰謝料(後 ×0.35×7.7217=2420万0782円(オ)後遺障害慰謝料700万円後遺障害等級9級に相当する後遺障害を負ったことに対する慰謝料としては,700万円が相当である。 (カ)慰謝料(後遺障害慰謝料を除く。)800万円 原告は,小腸人工肛門の造設からその閉鎖までの間,通算56日の入院を含む約10か月間の入通院を余儀なくされ,ストーマやパウチの衛生管理の負担や日常生活上の不具合はもちろん,小腸人工肛門を造設されたこと自体についての精神的負担も極めて大きなものであった。 また,仮に小腸人工肛門造設を免れなかったとしても,原告は,被告病院の不十分な診療によって,最善の治療を受ける権利を著しく侵害された。 以上に対する慰謝料としては800万円が相当である。 (キ)弁護士費用470万円イそして,原告は,被告に対し,平成18年1月13日付け内容証明郵便により,前記ア(ア)ないし(カ)の損害について賠償請求をし,通知書到達後14日以内に支払うよう求め,同通知書は同月14日に被告に到達した(甲C3の1,甲C3の2)。 ウよって,原告は,被告に対し,診療契約の債務不履行に基づき,損害賠償金5240万1417円及び内金4770万1417円に対する前記損害賠償請求通知書による支払期限の翌日である平成18年1月29日から,内金470万円に対する訴状送達の日の翌日である平成18年12月8日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)原告の主張は争う。 なお,原告が主張する慢性腎不全Ⅱ期の定義や慢性腎不全Ⅱ期と後遺障害等級との関係は不明である。慢性腎不全の病期は,クレアチニン値等によって分類されることが多く(乙B1・181頁),原告のクレアチニン値からすると,慢性腎不全の病期はⅠ期とⅡ期の境目辺 Ⅱ期と後遺障害等級との関係は不明である。慢性腎不全の病期は,クレアチニン値等によって分類されることが多く(乙B1・181頁),原告のクレアチニン値からすると,慢性腎不全の病期はⅠ期とⅡ期の境目辺りではないかと考えられるが,仮に慢性腎不全のⅡ期に該当するからといって,直ちに労働能力喪失が認められるわけではない。本件においては,後遺障害等級についての診断書は提出されておらず, 労働能力喪失が生じたと認めるに足りる証拠は存しない。 また,平成18年から平成19年にかけてのB病院のカルテの記載によれば,原告は明らかな貧血なしという状態が持続しており(乙A10・45ないし65頁),現在腎性貧血が生じていることを認めるに足りる証拠もない。 しかも,原告は,平成15年2月に脳梗塞を起こし,その後これに関連する入退院をB病院で繰り返している(乙A13ないし17)。仮に原告に労働能力の喪失があるとしても,それは,腎機能障害によるものではなく,脳梗塞の後遺症に起因するものである。 第3当裁判所の判断 診療経過について前記前提事実に加え,証拠(各認定事実の後に掲記する)及び弁論の全趣旨によれば,原告の第1回入院時における診療経過について,以下の事実を認めることができる。 (1)5月2日ア救急外来の受診原告は,5月1日午後10時30分ころ,腹痛と嘔気を覚え,同月2日午前0時30分ころ,被告病院の救急外来を受診した。診察時,原告は,体温35.0℃,脈拍66,血圧(右)250/110,(左)240/128であり,意識レベルは正常であった。腹部所見は,腫瘤が触知され,圧痛が認められたが,腹壁は平坦かつ軟で,反跳痛はなかった。原告は,被告病院の担当医師に対し,5月1日午後4時ころにアジの刺身を食べたこと,糖尿病の既往があることを告げた(乙A1・4, が触知され,圧痛が認められたが,腹壁は平坦かつ軟で,反跳痛はなかった。原告は,被告病院の担当医師に対し,5月1日午後4時ころにアジの刺身を食べたこと,糖尿病の既往があることを告げた(乙A1・4,5頁,乙A5・3頁)。 午前1時ころ,血液検査が行われ,検査結果は,白血球数15000,CRP0.3,CK119,LDH251であった(乙A1・28,29,40頁)。 腹部レントゲンの所見では,胃ガス,上腹部と右下腹部に小腸ガスが存在し,胃の顕著な拡張が認められ,胃ガス及び上腹部の小腸ガスは,ニボー像を伴っていた(甲A7の1ないし7の3,乙A6の1ないし6の3,証人D・11,12頁)。 腹部CTの所見では,胃内腔の拡張が著明で,幽門部の壁に肥厚が認められ,上腹部から中腹部にかけて小腸の拡張が顕著で,小腸の腸管は狭窄していた(甲A7の4,7の5,乙A1・20頁,乙A7の1ないし7の4)。 担当医師は,幽門部壁肥厚を伴う急性腹症と診断し,原因としては胃癌,胃潰瘍,アニキサス等を疑って,原告に対し,経鼻胃管チューブを挿入し,点滴,ホスミシン(抗生剤)を投与した(乙A1・5頁)。 午前7時50分ころ,2回目の血液検査が行われた。検査結果は,白血球数17300,CRP0.4,LDH245であった(乙A1・28,29,41頁)。 イ消化器内科への入院原告は,被告病院救急外来から,消化器内科へ入院した(乙A1・10頁)。3回目の血液検査が行われたが,検査結果は,白血球数17600,CRP1.6,CK89,LDH217であった(乙A1・28,29,37,38頁)。胃内視鏡検査の所見では,胃体部下部前壁に可動性のない壁外性圧排が認められた(乙A1・10,21頁)。 担当医師は,原告に対し,症状が一段落するまで絶飲食とし,抗生剤をホスミシンからブロアク 8頁)。胃内視鏡検査の所見では,胃体部下部前壁に可動性のない壁外性圧排が認められた(乙A1・10,21頁)。 担当医師は,原告に対し,症状が一段落するまで絶飲食とし,抗生剤をホスミシンからブロアクトへ変更して,5月7日に腹部CTを再検査することとした。この時点において,担当医師は,原告について粘膜下腫瘍の疑いを持った(乙A1・10頁)。 なお,担当医師は,原告に対し,ブスコパン,ソセゴン,プリンペランを投与し(乙A1・23頁,証人D・16頁),ソセゴン,プリンペランは 5月3日以降も投与された(乙A1・24頁)。 午後7時ころ,原告は,痛みが軽減し,大分楽になったと述べた(乙A5・6頁)。 (2)5月3日原告の体温は37℃台で微熱があり,血圧は朝176/98,昼180/90,夕148/98であって,腹部所見は,圧痛があり腸音は弱いものの,上腹部痛は減少し,疼痛は軽快傾向にあった(乙A1・10,11,32頁,乙A5・6頁)。 担当医師は,絶飲食,抗生剤の投与,経鼻胃管チューブの処置により経過観察をすることとした(乙A1・11頁)。 (3)5月4日原告の体温は,36~37℃台を保っており,血圧は朝142/92,昼172/80,夕132/86であった(乙A1・32頁,乙A5・7頁)。 腹満は継続していたものの,胃管からの排液後はやや軽減し,腹部痛は減少して嘔気はなかった(乙A1・11頁,乙A5・6,7頁)。 (4)5月5日原告の体温は36℃台であり,血圧は朝132/76,昼130/76,夕148/82で,嘔気はなかった。排便があり,腹満は軽減し,「腹満ほぼ消失と表情良い」(乙A5・7頁)という状態であった(乙A1・32頁,乙A5・7頁)。経鼻胃管チューブから,680mlの排液があった(乙A5・7頁)。 (5)5月6日原告の体温 減し,「腹満ほぼ消失と表情良い」(乙A5・7頁)という状態であった(乙A1・32頁,乙A5・7頁)。経鼻胃管チューブから,680mlの排液があった(乙A5・7頁)。 (5)5月6日原告の体温は,昼37℃台,夕36℃台であり,血圧は朝170/88,昼140/72,夕148/76であった(乙A1・32頁)。吐き気及び嘔吐はなく,腹部所見は,腫瘤様のものが確認され,緊満・圧痛があり,腸音はないものの,疼痛は減少し,反跳痛はなかった(乙A1・11頁)。排便が あり,午後,原告は,面会に来院した者と和やかに過ごすなどした(乙A5・7,8頁)。経鼻胃管チューブから,460mlの排液があった(乙A5・8頁)。 (6)5月7日原告の体温は,昼36.8℃,夕38℃台で,血圧は朝150/72,昼150/76,夕160/78であった(乙A1・32頁)。腹部所見は,腫瘤が触知され,ほぼ同一の部位に圧痛があり,腸音は弱く,腹部に緊満が見られたが,金属音はなく,原告が「大分楽になりました」(乙A1・12頁)と述べるなど,腹痛は軽減していた。入眠がちであったが,午後には面会の人と話をしていた(乙A1・12頁,乙A5・8頁)。 血液検査が行われたが,検査結果は,白血球数11900,CRP27. 9,LDH262であった(乙A1・28,29,43,44頁)。 午後2時ころ,保存的治療の効果判定のため,腹部CT検査が施行された。 被告病院放射線科医師は,午後8時ころ,この腹部CT検査結果を読影したところ,脾臓周囲,肝臓後面に腹水が見られ,イレウスが進展しており,右中腹部から上腹部に拡張した腸管が見られ,回腸のヘルニアが疑われた。このころ,被告病院放射線科医師よりCT結果を早めに見た方がよい旨の連絡を受けた消化器内科担当医師は,腹部CT検査結果を読影し,手術適応が から上腹部に拡張した腸管が見られ,回腸のヘルニアが疑われた。このころ,被告病院放射線科医師よりCT結果を早めに見た方がよい旨の連絡を受けた消化器内科担当医師は,腹部CT検査結果を読影し,手術適応があると考えたものの,原告には現在のところ症状がないので,その晩は当面様子を見て,翌8日に消化器外科に原告の診察を依頼することとした(乙A1・22頁,乙A5・8頁,証人D・5頁)。 (7)5月8日原告の体温は,朝昼37℃台,夕38.3℃であり,血圧は朝158/72,昼152/102,夕134/82であった(乙A1・32頁)。腹部所見は,腹満があるものの,腹部痛の訴えはなかった(乙A5・8頁)。 消化器外科の診察では,原告の腹部には,弾性の硬い小児頭大の腫瘤があ り,軽度の圧痛,著明な膨満が認められた。腸音は消失していたが,腹部は軟で反跳痛は認められず,症状としては落ち着いていた(乙A2・5,6頁)。 消化器外科担当医師は,内ヘルニア,絞扼にしては腹部所見が軽すぎると考えて,身体所見,CT所見から腸重積を疑ったが,症状は落ち着いているものの,明らかにイレウスであり,開腹手術の適応があると判断して,翌日の9日に手術を行うこととした(乙A2・5頁,乙A5・8頁)。 (8)5月9日原告には,腹満はあったものの,腹痛,圧痛及び嘔気は認められなかった(乙A5・9頁)。また,原告は,「おいの方と昔話したり,手術の話したりして,穏やかに過ごされる。昼前ぐらいから,『入院して初めて,頭がすっきりした。胃のもたれ感もとれ気分がいい』といい,座位にて新聞読んでいる姿みられる。」(乙A5・9頁)という状態であった。 午後1時45分ころから,原告に対し,手術が行われた。開腹の結果,胃の裏側に大網に包まれる状態で膿瘍が存在し,その膿瘍内部に嵌頓壊死した小腸内ヘルニ られる。」(乙A5・9頁)という状態であった。 午後1時45分ころから,原告に対し,手術が行われた。開腹の結果,胃の裏側に大網に包まれる状態で膿瘍が存在し,その膿瘍内部に嵌頓壊死した小腸内ヘルニアが確認された。回腸末端約10センチメートルから口側に約40センチメートルが,胃の小湾側から一部横行結腸を引き込むように入り込んでおり,そのため,回腸の末端から約50センチメートルと,横行結腸の一部が,絞扼され,壊死していた。担当医師は,原告に対し,回腸部分切除術,右半結腸部分切除術,大網切除術,ドレナージを行うと共に,術中全身状態が不良となり,基礎疾患として糖尿病もあったため,腸管の吻合は行わず,人工肛門造設術を施行した(乙A2・6,7,18,21頁)。臨床診断は,内ヘルニア絞扼性イレウスであった(乙A2・21頁)。 (9)被告病院の退院5月10日以降,原告は,若干脱水気味となったものの,腎機能の指標となるクレアチニン(基準値0.5~1.1)は0.6ないし0.8で手術前と変わりなく推移し,全身状態は順調に回復して,6月2日,被告病院を退 院した(乙A2・3,8ないし14頁,証人E・2頁)。 なお,原告は,上記事実経過に関し,5月7日に腹部CT検査をしたことはなく,5月8日には医師の診察を受けていない旨述べる(原告本人・10,15頁)。しかしながら,上記供述は,前掲診療録等の記載に照らし,採用することができない。 単純性イレウスと絞扼性イレウスの鑑別に関する医学的知見について前記前提事実及び証拠(各認定事実の後に掲記する)によれば,単純性イレウスと絞扼性イレウスの鑑別に関する医学的知見について,以下の事実を認めることができる。 (1)イレウスを含めた腹部急性疾患の鑑別診断においては,緊急手術が必要となる絞扼性イレウス等と,緊急手術 ウスと絞扼性イレウスの鑑別に関する医学的知見について,以下の事実を認めることができる。 (1)イレウスを含めた腹部急性疾患の鑑別診断においては,緊急手術が必要となる絞扼性イレウス等と,緊急手術を要さない単純性イレウス等とを鑑別することが重要であり,具体的には,画像検査所見のほか,臨床症状のうち全身所見(発熱,ショック,重篤感),腹部所見(腹痛,圧痛,筋性防御,Blumberg徴候,腸雑音),臨床検査所見(白血球数増多,アシドーシス,LDHやCK(CPK)の上昇)などを総合判断して鑑別診断を行うこととされている(甲B7,8,11)。 (2)単純性イレウスと絞扼性イレウスとの鑑別診断には,以下の点が考慮される(甲B8・1524ないし1527頁)。 ア全身所見絞扼性イレウスでは,発熱,頻脈,苦痛顔貌,腹痛を耐えて動かない姿勢で示される重篤感,ショックなどが見られるが,単純性イレウスでは,通常見られない。 イ腹部所見絞扼性イレウスでは,持続的な激痛が特徴とされており,圧痛も著明で,筋性防御や反跳痛などの腹膜刺激症状を伴い,腸雑音は減弱ないし消失する。これに対し,単純性イレウスでは,腹痛は周期的に繰り返す疝痛で, 腸雑音は亢進し,腹部膨満や悪心,嘔吐を伴うが,腹膜刺激症状は認めないことが多い。 ウ検査所見絞扼性イレウスでは,白血球数の中等度から高度の増多,LDHやCPKの上昇などが報告されているが,単純性イレウスでは,白血球数の増多は軽度であり,LDHやCPKの上昇も通常見られない。 エ画像検査所見単純X線検査でニボー像が認められればイレウスと診断されるが,絞扼性イレウスと単純性イレウスとの鑑別は通常困難である。 また,絞扼性イレウスでは,単純CTで腸管壁の肥厚,腹水貯留,造影CTで腸管壁の造影性の低下等が見られる。 ればイレウスと診断されるが,絞扼性イレウスと単純性イレウスとの鑑別は通常困難である。 また,絞扼性イレウスでは,単純CTで腸管壁の肥厚,腹水貯留,造影CTで腸管壁の造影性の低下等が見られる。 争点(1)ア(経過観察により単純性イレウスと絞扼性イレウスとを鑑別して,5月6日までに絞扼解除術を行うべき注意義務違反の有無)について(1)原告は,被告病院の担当医師には,5月3日以降,厳重な経過観察を行うことにより単純性イレウスと絞扼性イレウスとを鑑別し,遅くとも5月6日までに絞扼解除術を行うべき注意義務があるところ,鑑別を行わず,同日までに絞扼解除術を施行しなかった注意義務違反があると主張する。 (2)そこで検討すると,原告の経過観察の必要性を基礎付ける事情として,以下の点を挙げることができる。 ア画像検査所見(ア)ニボー像を伴う小腸ガスはイレウスの診断を裏付ける所見であるところ(甲B6・20頁,甲B8・1525頁),5月2日に撮影された原告の腹部レントゲンの所見では,胃ガス,上腹部と右下腹部に小腸ガスが存在し,胃ガス及び上腹部の小腸ガスは,ニボー像を伴っていた(前記1(1)ア)。 (イ)また,イレウスの場合にはCT所見で拡張した腸管像が認められると ころ(甲B7・300頁),5月2日撮影の腹部CTの所見では,胃内腔の拡張が著明で,上腹部から中腹部にかけて小腸の拡張が顕著であり,小腸の腸管は狭窄していた(前記1(1)ア)。 (ウ)したがって,5月2日の時点で,原告にはイレウスの発症が考えられた。 イ臨床検査所見白血球数の増多はイレウスを疑わせる所見であるところ(前記2(2)ウ),5月2日に行われた3回の血液検査では,原告の白血球数は15000→17300→17600と基準値を超えて増加しており(基準値4500~8500 レウスを疑わせる所見であるところ(前記2(2)ウ),5月2日に行われた3回の血液検査では,原告の白血球数は15000→17300→17600と基準値を超えて増加しており(基準値4500~8500。乙A1・37頁参照),炎症所見を示すCRPも0.3→0. 4→1.6と基準値を超えて増加していた(基準値0.3以下。乙A1・38頁参照)(前記1(1)ア,イ)。 ウ全身所見原告の体温は5月3日から同月6日まで37℃前後の発熱が続いており,収縮期血圧も5月3日から4日にかけては,収縮期血圧が170ないし180となお高かった。また,5月2日から4日までは経鼻胃管チューブからの排液量も比較的少なかったが,同月5日は680ml,同月6日は460mlと多かった(前記1(2)ないし(5))。 エ腹部所見5月6日,原告の腸音は確認されず,圧痛も継続していた(前記1(2),(5))。 そして,F医師は,アのとおり5月2日の画像検査所見でイレウスが疑われる以上,手術の緊急度の違う単純性イレウスと絞扼性イレウスの鑑別は大きな課題であり,症状や身体所見を観察するだけでなく,遅くとも5月6日までには腹部レントゲン検査,血液検査,腹部CT検査などを実施し,それらの検査結果を総合して絞扼性イレウスを診断すべきであるとの意見を述べ るところである(甲B11)。 (3)しかしながら,これに対しては,以下の点を指摘することができる。 ア画像検査所見5月2日の腹部レントゲン所見及び腹部CT所見については,前記(2)アのとおり,イレウスを疑わせるものではあるが,嵌頓,虚血,組織破壊が起こっている所見は認められず,絞扼性イレウスが疑われるものではなかった(甲B8・1525頁,証人D・4,11,12頁)。 イ臨床検査所見5月2日に行われた3回の血液検査では,前記(2) 織破壊が起こっている所見は認められず,絞扼性イレウスが疑われるものではなかった(甲B8・1525頁,証人D・4,11,12頁)。 イ臨床検査所見5月2日に行われた3回の血液検査では,前記(2)イのとおり,白血球数及びCRPは共に増加する傾向にあったが,いずれも軽度の数値上昇にとどまっており,絞扼性イレウスを疑わせるような重度の炎症を示す所見とまではいえなかった(証人D・3,30,31,39頁)。 また,絞扼性イレウスの場合,LDHやCK(CPK)の上昇がしばしば見られるとされるところ(甲B4・56頁,甲B7・300頁,甲B8・1525頁),5月2日に行われた3回の血液検査では,LDHは251→245→217(基準値130~235。乙A1・38頁参照),CKは119→(検査せず)→89(基準値55~200。乙A1・38頁参照)であり,むしろ下降傾向にあった(前記1(1)ア,イ)。 ウ全身所見定型的な絞扼性イレウスでは,全身症状の侵され方が急激で早く,重篤感,ショックなどが見られるとされるが(甲B1・106頁,前記2(2)ア),5月2日から6日までの全身状態は,発熱は36~37℃台の微熱にとどまり,血圧は当初5月2日に250/110,240/128であったものが,同月3日には176/98,180/90,148/98,同月5日には132/76,130/76,148/82と下降し,面会に来院した者と和やかに過ごすなど,全身所見は,経鼻胃管チューブの挿 入と絶飲食,抗生剤の投与によって,改善傾向を示した。また,原告の嘔気は改善し,5月5日と同月6日には腸の活動が改善傾向にあることを示す排便も確認された(前記1(1)ないし(5))。 エ腹部所見絞扼性イレウスでは,腹部所見として,持続的な激痛が特徴的であり,圧痛が著明で,筋性防御及 同月6日には腸の活動が改善傾向にあることを示す排便も確認された(前記1(1)ないし(5))。 エ腹部所見絞扼性イレウスでは,腹部所見として,持続的な激痛が特徴的であり,圧痛が著明で,筋性防御及び反跳痛が認められるとされているところ(甲B4・56頁,甲B8・1524,1525頁),5月2日から6日にかけて,原告に筋性防御及び反跳痛は認められず,圧痛はあるものの,腹部痛は軽減し,疼痛は軽快する傾向にあった(証人D・3頁,前記1(1)ないし(5))。 また,原告の腸雑音は微弱であったが(前記1(2),(5)),5月5日及び同月6日には,腸の活動が改善傾向にあることを示す排便があった(前記1(4),(5))。 以上によれば,原告には,5月2日の諸検査によりイレウスが考えられたものの,絞扼性イレウスを直ちに疑わせるものではなかったし,その後5月2日から同月6日にかけての経過も,原告の腹部痛,全身状態は改善する傾向にあり,重篤感が見られないところからも,絞扼性イレウスを疑わせる状況とは認められない。 そして,被告病院の担当医師は,単純性イレウスに対する通常の対応である胃管チューブの挿入と絶飲食,抗生剤投与という治療を行いつつ,バイタルサイン及び身体所見による経過観察は行っていたものであるところ,単純性イレウスでは,イレウス管による消化管内容の吸引によって腹痛は消失し,膨満腸管減圧の結果,腸管通過性が回復し,イレウスが解除されることから(甲B1・108頁),通常,1週間程度,腸管を休息させて様子を見ることとされている(証人D・3,14,15頁)。したがって,被告病院担当医師において,原告の全身状態が改善傾向にあることなどをも総合考慮して, 原告につき5月6日までバイタルサイン及び身体所見による経過観察を継続したことには相応の合理性があると って,被告病院担当医師において,原告の全身状態が改善傾向にあることなどをも総合考慮して, 原告につき5月6日までバイタルサイン及び身体所見による経過観察を継続したことには相応の合理性があるというべきであり,遅くとも5月6日までに,さらに腹部レントゲン検査,血液検査,腹部CT検査などを実施して,絞扼性イレウスを鑑別すべきであったとの前記F医師の意見は直ちに採用することができない。 (4)アなお,絞扼性イレウスには腹膜刺激症状を伴わない例があり(甲B9),高齢者が罹患した場合,腹膜刺激症状,腹部理学的所見,血液生化学所見の反応が顕著でないこともある(甲B4・57頁,甲B6・23頁)ことが指摘されている。 しかしながら,上記の点を考慮したとしても,前記認定の診療経過に照らせば,被告病院の担当医師が原告の症状が胃管チューブの挿入等によって改善傾向にあると判断したことが不合理とはいえず,5月6日までの間にさらに腹部レントゲン検査,血液検査等を実施すべき義務があったとは認められない。 イまた,原告に対しては,ソセゴン,プリンペランなどが投与されており,疼痛が現れにくい状態にあった可能性は否定できない(前記1(1)イ)。 しかしながら,原告は,疼痛のみでなく,他の全身状態も安定していたと認められるから,担当医師らにさらなる検査を実施すべき義務があったとは認められない。 ウさらに,原告の経鼻胃管チューブからは,5月5日に680ml,同月6日に460mlの排液が見られたことは前記認定のとおりであるけれども(前記1(4),(5)),このことが,絞扼性イレウスを疑わせる所見であったとも認められない。 (5)したがって,被告病院の担当医師らに,5月3日から同月6日までの間,バイタルサイン及び身体所見による経過観察の他に,さらに血液検査,腹部レン レウスを疑わせる所見であったとも認められない。 (5)したがって,被告病院の担当医師らに,5月3日から同月6日までの間,バイタルサイン及び身体所見による経過観察の他に,さらに血液検査,腹部レントゲン検査及び腹部CT検査などによる厳重な経過観察を行い,単純性 イレウスと絞扼性イレウスとを鑑別し,絞扼解除術を行うべき注意義務があったとは認められないから,かかる注意義務の存在を前提とした注意義務違反の事実を認めることもできない。 争点(1)イ(5月7日時点で直ちに緊急開腹手術を行うべき注意義務に違反した過失の有無)について(1)原告は,被告病院の担当医師には,5月7日施行のCT検査の結果を得た時点で直ちに緊急開腹手術を実施すべき注意義務があるところ,開腹手術を実施したのは5月9日のことであり,同手術の実施を遅延した注意義務違反があると主張する。 (2)そこで検討すると,5月7日における原告の所見として,以下の事実が認められる。 ア画像検査所見5月7日に撮影されたCT画像の所見では,脾臓周囲,肝臓後面に腹水が見られ,イレウスが進展しており,右中腹部から上腹部に拡張した腸管が見られた。診断の結果,回腸のヘルニアが疑われ,開腹手術の適応があるかもしれないと画像診断報告書に記載された(乙A1・22頁,前記1(6))。 イ臨床検査所見5月7日に行われた血液検査の結果は,白血球数11900,CRP27.9,LDH262であり,5月2日の検査結果と比較して炎症の所見が強くなっていた(前記1(6))。 ウ全身所見5月7日の夕方には,原告の体温は38℃台となっていた。 エ腹部所見5月7日の原告の腹部所見は,腫瘤が触知され,ほぼ同一の部位に圧痛があり,腸音は弱く,腹部に緊満が見られた(前記1(6))。 そして,F医師は,アの画 体温は38℃台となっていた。 エ腹部所見5月7日の原告の腹部所見は,腫瘤が触知され,ほぼ同一の部位に圧痛があり,腸音は弱く,腹部に緊満が見られた(前記1(6))。 そして,F医師は,アの画像検査所見は絞扼性イレウスの一形態であるヘルニア嵌頓の状態を示しており,イの臨床検査所見も大きな異常値を示しているから,この5月7日の時点で急性腹膜炎となっていることは間違いなく,原告の身体レベルはもはや経過観察をしている状況ではないのであって,速やかに緊急手術をすべきであったとの意見を述べる(甲B11)。 (3)しかしながら,これに対しては,以下の点を指摘することができる。 ア画像検査所見5月7日のCT画像所見は,浮腫及び腹水が生じ,イレウスが進展していることははっきりしているものの,造影の結果,なお血流が認められており,完全な絞扼にはなっておらず,絞扼性イレウスと確実に診断できるものではなかった(証人D・5,37頁)。 イ腹部所見5月7日,原告は「大分楽になりました」(乙A1・12頁)と述べるなど,腹痛は軽減しており,重篤な炎症をうかがわせる所見はなかった(証人D・23,33,36頁,前記1(6))。 なお,5月8日にも,原告の腹部は軟で,反跳痛は認められず,症状としては落ち着いており(前記1(7)),5月9日にも,原告には腹満はあったものの,腹痛,圧痛は認められなかった(前記1(8))。 ウ全身所見原告は,5月7日午後には面会の人と話をすることができる状態にあった(前記1(6))。 なお,原告は,5月9日においても,親族と穏やかに過ごしたり,座位で新聞を読んだりすることができる状態にあり,全身状態は落ち着いていた(前記1(8))。 以上によれば,原告は,5月7日撮影のCT画像の所見で絞扼性イレウスが疑われ,血液検査の所見も5月2 り,座位で新聞を読んだりすることができる状態にあり,全身状態は落ち着いていた(前記1(8))。 以上によれば,原告は,5月7日撮影のCT画像の所見で絞扼性イレウスが疑われ,血液検査の所見も5月2日と比較して悪化していたものの,なおCT上 血流も認められた上,その後も5月9日の手術時まで,腹部所見は一貫して軽減しており,重篤な全身所見も特に認められなかったということができる(振り返って考察すると,本件では,腸管が大網に覆われており,腹部所見が現れにくい特殊な状況にあったと考えられる(甲B11でF医師も同旨の意見を述べる。))。 そして,急性腹症の手術のタイミングとして,緊急手術では,円滑な手術の支障になる因子が多いため,緊急手術の成績は待機手術の成績に比して不良なことが多く,救命のためにやむを得ない場合を除き,後日十分な準備の下で待機手術を行うべきである旨の指摘も存する(甲B1・107頁)一方,待機手術の際は,麻酔科医師による手術を前提とした全身状態のチェックが行えた上,麻酔科医や看護師の人員も確保でき,インフォームドコンセントなどを十分に行うことができる利点の存することが認められる(証人D・7,8,27頁)。 そうすると,被告病院(消化器内科)担当医師において,5月7日午後8時ころ,原告の腹部CT所見を読影した時点において,原告の腹部所見が軽減しており,全身状態も引き続き安定していることなどを総合考慮して,直ちに緊急開腹手術の実施を検討するまでの緊急性はないと判断し,被告病院消化器外科への原告の診察依頼を翌8日に行うこととした点には,相応の合理性があるということができ,前記のF医師の意見は直ちに採用することはできない。また,同月8日も原告の全身状態が安定していた点に照らせば,同日,原告の診察をした被告病院消化器外科医師において 応の合理性があるということができ,前記のF医師の意見は直ちに採用することはできない。また,同月8日も原告の全身状態が安定していた点に照らせば,同日,原告の診察をした被告病院消化器外科医師において,原告につき明らかにイレウスであり開腹手術の適応があるとしつつも,緊急手術ではなく翌9日に待機手術を行うこととした判断にも,相応の合理性があるということができ,手術の実施時期の判断が遅延したとは認めることができない。 (4)アなお,絞扼性イレウスにおいては,腹膜刺激症状を伴わない例もあること,高齢者の場合,生体防御反応低下のため,腹膜刺激症状等の反応が顕 著でない場合もあり得ること,原告に対しては,ソセゴン,プリンペランなどが投与されており,疼痛が現れにくい状態にあった可能性が否定できないことは前記説示のとおりである。 しかしながら,上記のとおり,被告病院(消化器内科)担当医師,あるいは同消化器外科医師においては,原告の腹部所見のみならず,原告の全身状態等をも総合考慮して緊急性はないと判断したものと認められるところ,前記認定の原告の臨床経過に照らせば,その判断が不合理とはいえないから,前記認定を左右するものとまではいえない。 イまた,F医師は,CT所見から,腸管が嵌頓状態と考えられるので,数時間単位で虚血壊死は進行することがあるから,手術は一刻も早く行うべきであり,糖尿病があれば,自発痛や筋性防御といった腹部所見が出にくいことから,糖尿病がない場合より早めの治療開始が行われるべきである旨の意見を述べる(甲B11)。 しかしながら,原告に軽度の糖尿病があったことを考慮すれば,その合併症に配慮するためにも,麻酔医の事前の診察等慎重な対応が望ましく,全身状態の急激な悪化や,重篤感が認められない以上,待機手術がより安全であると判断したことが不 尿病があったことを考慮すれば,その合併症に配慮するためにも,麻酔医の事前の診察等慎重な対応が望ましく,全身状態の急激な悪化や,重篤感が認められない以上,待機手術がより安全であると判断したことが不合理とはいえないから(証人D・26頁),F医師の意見は直ちに採用することができない。 ウなお,診療録には「familyの到着まって(富山より)明日ope」(乙A2・6頁),看護記録には「外科受診の結果,腸重積の可能性高く早急opeが必要とのこと。ベット,ope室の都合つかず,明日ope予定となる」(乙A5・8頁)との記載があることが認められる。しかしながら,D医師が,本当に緊急性があれば,緊急手術をする旨述べていること(証人D・7ないし9頁),診療録には「症状的にはおちついている」との記載があること(前記1(7))に照らせば,原告の手術が5月9日とされたのは,原告の全身所見が落ち着いていたことが主な理由であったと認められ,親族の到 着や手術室の都合が主たる理由であったとは認められない。 (5)したがって,被告病院の担当医師に,5月7日施行のCT検査の結果を得た時点で直ちに緊急開腹手術を実施すべき注意義務があったと認めることはできず,開腹手術の実施を遅延した注意義務違反があったと認めることもできない。 以上によれば,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美裁判官大嶺崇裁判官黒田吉人

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