平成27(ネ)695

裁判年月日・裁判所
平成31年4月25日 福岡高等裁判所 福岡地方裁判所 平成24(ワ)1814
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判決文本文22,567 文字)

- 1 - 主文 1 一審原告らの控訴提起事件について原判決中,一審原告Aに関する部分を次のとおり変更する。 一審被告大学,一審被告I,一審被告J及び一審被告Kは,連帯して,一審原告Aに対し,1億6115万1593円及びこれに対する平成21年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 一審原告Aの一審被告大学,一審被告I,一審被告J及び一審被告Kに対するその余の請求並びに一審被告H及び一審被告Lに対する請求をいずれも棄却する。 その余の一審原告らの控訴をいずれも棄却する。 2 一審被告大学,一審被告I,一審被告J及び一審被告Kの控訴提起事件について一審被告大学,一審被告I,一審被告J及び一審被告Kの控訴をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも,一審被告H及び一審被告Lに生じた費用は一審原告らの負担とし,その余の費用は各自の負担とする。 4 この判決の第1項は,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 一審原告ら 原判決を次のとおり変更する。 一審被告らは,連帯して,一審原告Aに対し,5億4995万6797円及びこれに対する平成21年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 一審被告らは,連帯して,一審原告D及び同Eのそれぞれに対し,110- 2 - 0万円及びこれに対する平成21年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 一審被告らは,連帯して,一審原告B及び同Cのそれぞれに対し,880万円及びこれに対する平成21年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 一審被告らは,連帯して,一審原告F及び同Gのそれぞれに対し,550万円及びこ のそれぞれに対し,880万円及びこれに対する平成21年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 一審被告らは,連帯して,一審原告F及び同Gのそれぞれに対し,550万円及びこれに対する平成21年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 一審被告大学,一審被告I,一審被告J及び一審被告K 原判決中,一審被告大学,一審被告I,一審被告J及び一審被告Kの各敗訴部分を取り消す。 ⑵ 上記取消部分に係る一審原告らの請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要等(略称等は,特段の断りのない限り,原判決記載の例による。) 1 事案の概要本件は,一審被告大学の運営するM大学N病院(一審被告病院)においてクローン病の治療のために回腸結腸吻合部切除術等の手術(本件手術)を受けた一審原告Aとその親族であるその余の一審原告らが,一審原告Aに術後の出血,出血性ショックが生じ,それに伴う低血圧によって脳に障害が残ったのは,執刀医であった一審被告H,主治医であった一審被告I,一審被告J及び一審被告K並びに担当看護師であった一審被告Lの術後管理等に過失があったことによるものであると主張して,一審被告らに対し,不法行為(一審被告大学につき民法715条及び719条,その余の一審被告らにつき同法709条,711条及び719条)に基づき,連帯して,一審原告Aにつき5億4995万6797円,一審原告D及び一審原告Eにつき各1100万円,一審原告B及び一審原告Cにつき各880万円,一審原告F及び一審原告Gにつき各550万円の損害賠償金並びにこれらに対する不法行為日(本件手術日)である平成2- 3 - 1年5月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め,一審原告Aが,選択 0万円の損害賠償金並びにこれらに対する不法行為日(本件手術日)である平成2- 3 - 1年5月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め,一審原告Aが,選択的に,診療契約上の債務不履行に基づき,一審被告大学に対し,同様の金員の支払を求める事案である。 2 前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」の2及び3(原判決5頁8行目から28頁24行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決5頁22行目の「被告医師ら」を「一審被告医師ら」に,23行目の「被告Iら」を「一審被告Iら」にそれぞれ改める。 原判決7頁11行目の「上回り」を「上回る」に改める。 原判決8頁17行目冒頭から19行目末尾までを次のとおり改める。 「 また,一審被告Hは,執刀医ではあるが,主治医と協働して術後管理に関与すべき立場にあるから,①医師の待機の必要性や②術後の指示内容等を協議し検討すべき義務を負っていた。そして,一審原告Aにおける生命に関わる術後リスクに照らせば,容態の急変に適切に対応できるようにするべく,①執刀医又は主治医のうち少なくとも1人の医師が残る体制を採るべきであり,仮に医師が残る体制を採らないのであれば,当直医や看護師に一審原告Aの状態を告げ,②適切な術後指示をすべきであった。 しかるに,一審被告Hは,①医師の待機の必要性や②術後指示の内容等について,主治医である一審被告Iらと協議・検討することなく,漫然と医師としての経験年数の最も少ない一審被告Kにその判断を任せた結果,適切な術後管理を怠った過失がある。」原判決9頁8行目末尾を改行の上,次を加える。 「 すなわち,まず,①クローン病が他 然と医師としての経験年数の最も少ない一審被告Kにその判断を任せた結果,適切な術後管理を怠った過失がある。」原判決9頁8行目末尾を改行の上,次を加える。 「 すなわち,まず,①クローン病が他の疾患と比較して特に術後出血の発生する確率が高いわけではない。また,②術中の出血量と術後出血の発生頻度との間に相関関係があることを示す客観的な医学的知見やデータは何ら存在- 4 - しない。加えて,③クローン病患者は,手術とは無関係に原因不明の出血が事前に何の徴候も無く生じることがあり得る。現に,本件手術後に一審原告Aに生じた出血部位は,本件手術時の出血部位とは異なる部位であった。したがって,一審被告医師らにおいて一審原告Aに本件手術時の出血部位と異なる部位から出血が生じることを予測することは極めて困難であったから,本件において,一般的な術後合併症としての域を超えて,術後出血を念頭に置いた術後管理を行う必要はなかった。」⑸ 原判決9頁13行目の「また,」から14行目末尾までを次のとおり改め,19行目の「本件において殊更に,」の後に「脈拍数などの」を加える。 「 そもそも,本件において,術後出血を念頭に置いた術後管理を行う必要がなかったことは前記のとおりである。 仮に,そのような術後管理を行う必要があったとしても,医療現場での実際の患者の病態の評価,判断に際しては,抽象的な数字や理論を機械的に当てはめることが求められるのではなく,患者の現実の個別具体的な症状の経過等を前提とした判断が必要となる。 本件手術後の一審原告Aの症状の推移や,医療現場の実情,一審原告Aが入室していた2階南病棟の特性といった具体的事情を前提とすれば,必ずしも収縮期血圧が80を下回った場合に直ちに医師に報告するよう指示すべき必要はない。 したがっ ,医療現場の実情,一審原告Aが入室していた2階南病棟の特性といった具体的事情を前提とすれば,必ずしも収縮期血圧が80を下回った場合に直ちに医師に報告するよう指示すべき必要はない。 したがって,一審被告Kが行った血圧についての本件指示は,適切なものである。」⑹ 原判決15頁16行目から17行目にかけての「本件手術において想定外の大出血が発生したことを」を「①本件手術中に6000mLを超える大量出血を来したこと,②出血性ショック等の術後リスクがあること,③出血性ショック等の特徴的な前駆症状等を具体的,かつ,分かり易く」に改める。 同頁21行目の「出血性ショック」の前に「血圧低下が相当時間継続した- 5 - こと,及び」を加える。 原判決19頁9行目の「違いがあったのは」を「違いがあったのかは」に改める。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,一審原告らの請求が主文第1項及び原判決主文第2項ないし第7項の限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。 その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第 3 当裁判所の判断」の1ないし10(原判決28頁末行から68頁18行目まで及びそこで引用されている別紙)に記載のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決29頁1行目の「29」の次に「,45」を,4行目の「循環不全」の次に「(循環血液量減少性ショックともいい,循環系異常により組織の酸素需要に酸素供給が満たない病態)」をそれぞれ加える。 ⑵ 原判決30頁10行目から11行目にかけての「「スコア5」以上」を「スコア5点以上」に改める。 ⑶ 原判決32頁17行目の「バイタルサイン」の次に「(脈拍数(心拍数),血圧,呼吸数,体温など)」を,同頁末行の「283頁」の次に「,甲B4 の「「スコア5」以上」を「スコア5点以上」に改める。 ⑶ 原判決32頁17行目の「バイタルサイン」の次に「(脈拍数(心拍数),血圧,呼吸数,体温など)」を,同頁末行の「283頁」の次に「,甲B48・55頁」をそれぞれ加える。 原判決33頁12行目の「治療」の後に「(原則として入院,絶食の上での栄養療法や薬物療法)」を加え,「患者のQOL」を「患者の日常生活の質(QualityOfLife。以下「QOL」という。)」に改める。 原判決34頁20行目の「本件手術における原告Aの出血量」を「本件手術中の一審原告Aの出血は,腹部大動脈から剥離した上腸間膜の動脈分枝の細い動脈数本からのものであった。また,その量は,」に改め,22行目の「3頁」の次に「及び5頁」を加える。 原判決35頁25行目の「ドレーン」を「ドレーン(ペンローズドレーン- 6 - とデュープルドレーン)」にそれぞれ改める。 原判決39頁17行目の「同出血部位は」から18行目末尾までを「同出血は,本件手術時に止血措置がされた腸間膜上の部位とは異なる部位の腸間膜上の剥離面からのものであった。」に改め,21行目の「(」の次に「甲A1・4頁,」を加える。 原判決41頁20行目の「同年9月14日」を「平成23年9月14日」に改める。 原判決45頁15行目冒頭から49頁17行目末尾までを次のとおり改める。 「⑴ 本件指示が医療水準に照らして適切であったか。 ア本件手術後の出血,出血性ショックの予見可能性 の術中における一審原告Aの出血量は,その循環血液量を超える6046mLに上っているところ,証拠(甲A1・10頁,A25・文献1,甲B39,44,50)によれば,手術中に大量出血や大量輸血がされた後には凝固因子の減少により出 血量は,その循環血液量を超える6046mLに上っているところ,証拠(甲A1・10頁,A25・文献1,甲B39,44,50)によれば,手術中に大量出血や大量輸血がされた後には凝固因子の減少により出血傾向にあること,一審被告病院が作成した事故調査報告書(甲A1・10頁)によっても,体内から,6000mLもの血液が失われると,その後の循環動態は不安定な状態であり,改善するためには数日を要するとされていることが認められる。 また生じた場合の術後30日までの転帰については,58.6%の症例が後遺症の残存を認めなかったものの,15.6%の症例が死亡し(9. 3%が術後7日以内,3.6%が術後8ないし30日以内の死亡),12.7%の症例が何らかの後遺症(植物状態移行や中枢神経障害(3. 5%)を含む。)の残存を認めたとの報告がある。 さらに,一審被告病院が作成した事故調査報告書(甲A1・6頁)- 7 - においても,本件手術の術後リスクとして,一般的な出血,循環器障害,呼吸器障害のみではなく,大量出血による循環の不安定,肝機能障害,腎機能障害,DIC,低アルブミン血症と大量輸液による心不全,肺水腫,大量輸血による肝機能障害など,重篤な状態になる可能性が考えられたことが認められる。 しかも,一審原告Aは,クローン病に罹患しているところ,証拠(乙B2の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,クローン病の特徴の一つとして突然の大量腸管出血があり,ときには致死的出血に至る場合もあること,多くの場合,出血の徴候を把握することは極めて困難であり,出血源の同定すら困難な場合が少なくないことが認められるほか,前記1⑹ウのとおり,クローン病の既手術例においては術後1%以上の割合で再出血が発生するとの報告もあることが認められる。 これらの事情を総合すると,過去 困難な場合が少なくないことが認められるほか,前記1⑹ウのとおり,クローン病の既手術例においては術後1%以上の割合で再出血が発生するとの報告もあることが認められる。 これらの事情を総合すると,過去2回に及ぶクローン病の手術歴のある一審原告Aにおいて本件手術の術中に6046mLもの出血があった以上,一審被告医師らにおいて,本件手術後の急性期に一審原告Aが出血を来すことを予見することは可能であったというべきであり,本件手術後の急性期においては,術後出血を念頭に置いた術後管理が求められていたというべきである。 そして,術後の出血により比較的急速に血液が失われると,前記1謝が障害される出血性ショックに陥るおそれがあることからすれば,術後の出血に対する処置が遅れれば出血性ショックが生じる可能性を予見することもできたといえるから,本件手術後の急性期においては,術後出血によってショックが生ずる可能性を念頭に置いた術後管理を行う必要があったということができる。 これに対し,一審被告らは,一審被告医師らにおいて本件手術時の- 8 - 出血部位と異なる部位から本件手術後に出血が生じることを予見することは極めて困難であったから,一般的な術後合併症としての域を超えて,とりわけ術後出血を念頭に置いた術後管理を行う必要はなかったなどと主張する。 しかしながら,前記認定の事実,証拠(甲A1,甲B81,乙A1の1・164頁,乙A1の3・666頁・670頁,乙A2,一審被告H)及び弁論の全趣旨によれば,本件手術中の出血は,腸間膜との剥離中に生じたものであり,出血部位は,腸間膜剥離面の上腸間膜根部近傍の10か所前後の動脈性の小血管であること,一審被告Hは,貫通結紮する手法でこれらを止血したところ,その際針穴からも出血を生じ得るような状態にあったこと,他 血部位は,腸間膜剥離面の上腸間膜根部近傍の10か所前後の動脈性の小血管であること,一審被告Hは,貫通結紮する手法でこれらを止血したところ,その際針穴からも出血を生じ得るような状態にあったこと,他方,本件手術後の出血部位も,腸間膜の剥離面であり,上腸間膜根部付近にある上腸間膜動脈根部近傍からの分枝であり,出血の態様は,ある一点から噴出するような出血ではなく,主に面としての出血であったことが認められる。 かかる事実に鑑みれば,上記各出血部位は,むしろ,互いに近接しており,本件手術中に腸間膜の剥離によって同様の侵襲を受けた可能性が高いというべきであって,本件手術の執刀医又はこれを補佐した主治医である一審被告医師らにとって,本件手術後の出血の可能性を予見することが困難であったとはいい難い。 また,一審被告らは,出血傾向にある場合には減少や低値を示すヘモグロビン値(Hb)や血小板値(PLT)について,5月25日午後10時38分に出された血液検査の結果が本件手術終了直後の結果よりも上昇していたとして,一審原告Aの循環動態が出血傾向にあったことを争うが,証拠(乙B1の2・387ないし395頁)によれば,これらの数値は,本件手術終了直後の結果から上昇が見られたとはいえ,いずれも未だ本件手術前における血液検査の結果を大きく下- 9 - 回る値であって,ヘモグロビン値は下限値の半分にも満たず,血小板値も下限値をわずかに上回るに過ぎなかったのであり,かかる血液検査の結果をもって,その当時一審原告Aの循環動態が出血傾向にあったことが否定されるものとはいえない。 以上のとおり,本件手術後の急性期においては,一審原告Aについて,術後出血によって出血性ショックが生ずる可能性を念頭に置いた術後管理を行う必要があったというこ れるものとはいえない。 以上のとおり,本件手術後の急性期においては,一審原告Aについて,術後出血によって出血性ショックが生ずる可能性を念頭に置いた術後管理を行う必要があったということができる。 イ本件指示の適否 前記1⑴アに加え,証拠(甲B70)によれば,一般的に,出血に対して迅速かつ綿密な観察による病態診断,適切な処置・治療がされずに遷延すれば,重要臓器への血流量,酸素運搬が減少する結果,重おいては,術後出血をあらかじめ起こり得る合併症として念頭に置き,早期発見,早期治療に努めるべきであるとされていることからすると,出血性ショックの診断と治療が速やかにされるような管理が求められるというべきであるから,医師が看護師に対して術後管理のための指示を行うに当たって,出血性ショックか否かを医師において迅速に判断できるような内容の指示を行う必要があるということができる。 医がおらず,入院患者の急変時においては,心肺停止等の緊急時を除き,当直医ではなく主治医に連絡するという体制であったところ,看護師が主治医への連絡の要否を逐一判断していたのでは,重篤な事態に陥る恐れがあるから,少なくとも出血性ショックを疑わせる重要なバイタルサインについては,主治医に連絡をすべき場合を具体的数値で示すなどした上で明確に指示することが求められていたというべきである。 - 10 - 加えて,本件においては,術後管理に係る医師である一審被告Iらがいずれも自宅に帰宅するとの判断をしたのであるから,医師が看護師からの連絡を受けて患者の下に到着するまでの時間も考慮して,より早期の徴候が生じた時点での連絡を指示することも求められていたというべきである。 期血圧と脈拍数(心拍数)が,出血量推定の最も良い指標とされていることを踏まえると 着するまでの時間も考慮して,より早期の徴候が生じた時点での連絡を指示することも求められていたというべきである。 期血圧と脈拍数(心拍数)が,出血量推定の最も良い指標とされていることを踏まえると,医師としては,収縮期血圧と脈拍数に主に着目した術後指示を行うべきであったということができる。したがって,医師としては,少なくとも,収縮期血圧と脈拍数(心拍数)につき具体的数値を示した上で明確に指示すべきであったというべきである。 )によれば,初期の出血性ショックでは血圧低下がみられず,血圧低下がみられる場合には既に出血性ショックがある程度進行した状態であり,これを放置し,出血量が全血液量の30%(中等度ショックに相当するものであり,中等度ショックを示す収縮期血圧の所見は,60から90とされている。ただし,成人を前提とする。)を超えると,大抵の場合,輸液のみでは対応困難となり輸血が必要となること,出血量が全血液量の40%以上(重症ショックに相当する。)になると致命的となり,速やかな急速輸血と止血術を要することが認められる。 また,一審原告Gは,勤務する国家公務員共済組合連合会O病院における最重症患者のフォーマットでは血圧は90から140を維持し,90以下になればドクターコールをすることとされている旨供述するところ(一審原告G・64ないし67項),証拠(甲B20,45 )によれば,一般的に収縮期血圧が90以下の場合をショックの指標とすることが多く,収縮期血圧80以下では組織灌流が低下する可能性- 11 - があるとされており,医師への連絡から直接患者の身体所見を得るまでの間に相応の時間を要し,その間も出血性ショックが遷延することに鑑みれば,合理性を有するものということができる。 したがって,収縮期血圧が90 か,少なくとも8 連絡から直接患者の身体所見を得るまでの間に相応の時間を要し,その間も出血性ショックが遷延することに鑑みれば,合理性を有するものということができる。 したがって,収縮期血圧が90 か,少なくとも80を下回る所見が認められることは,中等度の出血性ショックを疑うべき一つの指標になるというべきである。 これに対し,一審被告Jは,ウージング(しみ出しのような出血)が続く可能性があることを考慮すると血圧は低めでよい旨供述するが(226項),仮にウージングを回避するために血圧の上限を低く維持する措置をとるのが相当であるとしても,そのことと,そのような措置をとっていないにもかかわらず収縮期血圧が90を下回ることが出血性ショックを疑う一つの指標になることとは,別個の事柄であるから,一審被告Jの上記供述は,採用の限りでない。 脈拍数(心拍数)についても,収縮期血圧と同様,出血性ショックを示す所見となり得るところ,特に持続する頻脈は出血性ショックの重要な早期サインであるとされている。脈拍数(心拍数)120回以上の所見が持続して認められることは,中等度の出血性ショックを疑う一つの指標になるというべきである。 そして,収縮期血圧と脈拍数(心拍数)は,それぞれに出血量の推定の指標ではあるものの,出血性ショックの場合には,本来,脈拍数(心拍数)は上昇し,収縮期血圧は低下するはずであるから,脈拍数(心拍数)が120回以上の所見が持続し,収縮期血圧が90か,少なくとも80を下回った場合に,中等度の出血性ショックが一層強く疑われ,そのような場合には,直ちに医師に報告がされるよう指示を行うべきものといえる。 もっとも,証拠(甲B45)によれば,初期の出血性ショックでは- 12 - 収縮期血圧の低下が見られない場合があることが認められるから,脈拍数( 告がされるよう指示を行うべきものといえる。 もっとも,証拠(甲B45)によれば,初期の出血性ショックでは- 12 - 収縮期血圧の低下が見られない場合があることが認められるから,脈拍数(心拍数)が120回を超える一方で,収縮期血圧が90以上の場合には,脈拍数(心拍数)や収縮期血圧の経時的変化をより綿密に確認し,中等度ショックを示す収縮期血圧の低下が見られた場合には,直ちに医師に連絡されるように併せて指示を行うべきである。 本件指示の適否について以上の点を踏まえて,一審被告Kの行った本件指示の適否を検討すから140の間で維持し,80以下となった場合には,いったん昇圧剤であるイノバンを増量し,それでも70台を継続する場合には,主治医に連絡をするという内容であった。 本件指示は,脈拍数(心拍数)については何ら触れておらず,前記それ以外に口頭での指示もされておらず,初期の出血性ショックでは収縮期血圧の低下を認めない場合もあることからすると,この点において,まず,不適切なものであったといえる。また,90を下回り,さらに80を下回った場合においてですら,看護師において直ちに医師に連絡することを要さず,昇圧剤の増量のみで対応し(昇圧剤の増量が,出血性ショックの根本的な治療改善には功を奏0台を継続するに至って初めて医師に連絡をするという内容であり,「継続する」ことの意味も曖昧であるから,この点でも医療水準に反した不適切なものであったというべきである。 一審被告らの主張についてこれに対し,一審被告らは,看護師の判断においてバイタルサインの異常を覚知し,医師に報告することが期待できるのであって,術後- 13 - 指示において事細かに指示を行うことまで要求するのは不合理であると主張する。 しかし,そもそも,本件は,医師 インの異常を覚知し,医師に報告することが期待できるのであって,術後- 13 - 指示において事細かに指示を行うことまで要求するのは不合理であると主張する。 しかし,そもそも,本件は,医師が看護師に対して何らの術後指示も与えなかったという事案ではなく,積極的に不適切な内容の術後指示を与えたという事案であるから,一審被告らの主張は,その前提において失当である。 また,確かに,可能性の低い合併症も含めて,全てのバイタルサインについて具体的な指示を行うことは困難であるとしても,前記のとおり,一審原告Aについては,少なくとも出血性ショックについては具体的にこれを念頭に置いた術後指示を行うことが求められていたところ,脈拍数(心拍数)に着目した術後指示を行うことが現実的に困難であったといえるような事情はうかがわれない。現に,収縮期血圧に関しては,本件指示において事細かな指示をしているということができることにも照らすと,前記認定の指示義務が一審被告医師らに過度の負担を強いるものとはいえない。 よって,一審被告らの主張を採用することはできない。 以上のとおり,本件指示は,医療水準に反した不適切なものであったと認められる。」⑽ 原判決49頁24行目の「被告K」の次に「(医師経験年数が研修医としての期間も含めて5年程度であった。)」を,「最も医師経験年数が長く」の次に「(医師としての臨床研修医の期間も含めると24年余りの経験を有する。)」を加える。 ⑾ 同頁25行目の「被告I・9,10項」を「乙A3,一審被告I・9,10項」に,26行目から原判決50頁1行目の「長い者である。」を「長い者である(乙A4,5)。」にそれぞれ改める。 ⑿ 原判決50頁18行目の「医師に報告をすべき基準」から20行目の「報- 14 - 行目から原判決50頁1行目の「長い者である。」を「長い者である(乙A4,5)。」にそれぞれ改める。 ⑿ 原判決50頁18行目の「医師に報告をすべき基準」から20行目の「報- 14 - 告をする旨」までを「脈拍数(心拍数)が120回以上の所見が持続し,収縮期血圧が90か,少なくとも80を下回った場合には医師に報告をする旨」に改める。 ⒀ 原判決51頁5行目から6行目にかけての「委ねていたところ」を「委ねており,一審被告病院の医療体制として,執刀医において術後管理に係る指示内容を最終的に決定するものとされてはいなかったところ」に改める。 ⒁ 原判決51頁21行目冒頭から53頁12行目末尾までを次のとおり改める。 「5 争点3(一審被告Lの経過観察上の過失)について一般的に,病院においては,患者の病状が急変するおそれがない場合を除き,常に患者の容態を正確に把握し,その変化に即応して必要に応じて適切な処置をとる必要があるから,看護師には,直接又はモニター機器等により患者の容態を適切に看視し,患者の愁訴をよく聞き,その容態を冷静に観察して,その状態を判断した上,必要に応じて医師に報告すべき義務がある。 もっとも,術後の看護師による患者の経過観察は,医師による患者の診療を有効ならしめるために,医師に代わって患者を観察し,情報を収集するものでもあるから,「診療の補助」(保健師助産師看護法5条)の要素をも有し,術後の経過観察や医師への連絡の在り方について医師の具体的な指示があり,看護師がこれに従った場合には,原則として,それによって生ずる結果についての第一義的責任は,医師が負うべきである。 しかし,そのような医師の具体的指示が存在する場合でも,看護師がその当時一般的に有すべき専門的知識・経験等に照らし,患者に重大な後遺障 ずる結果についての第一義的責任は,医師が負うべきである。 しかし,そのような医師の具体的指示が存在する場合でも,看護師がその当時一般的に有すべき専門的知識・経験等に照らし,患者に重大な後遺障害が残存し又は生命に危険を及ぼすような異常が生じていると認識することが可能であった場合には,看護師には,直ちに患者の容態を- 15 - 医師に報告し,治療についての指示を仰ぐべき義務があるというべきであって,医師の指示が不適切である場合に漫然とこれに従ったというのみでは,看護師としての注意義務を尽くしたことにはならず,不適切な指示をした医師自身とは別に,看護師自身もまた過失責任を負うというべきである。 これを本件について見ると,日午前2時14分以降,一審原告Aの脈拍数が120台を超えて上昇し続け,午前3時54分頃には心拍数が145回に至るほか,収縮期血圧が80を下回るなど,明らかに一審原告Aのバイタルサインには,出血性ショックを疑わせる異常が生じていたといえる。しかも,同日午前4時00分には,一審原告Aの心拍数は150回にまで上昇する一方,その血中酸素飽和度は87%にまで低下し,一審原告Aからも被控訴人Lに対して息苦しさの訴えがあり,一審被告L自身も出血を疑っていたものである(乙A6,一審被告L)。 もっとも,本件においては,一審被告Kにより,収縮期血圧が80以下になってもイノバンを増量し,70台を継続した場合に医師に連絡をするという不適切な指示(本件指示)がされていたものである。 しかし,証拠(甲B68)によれば,出血に対する処置がされずに出血性ショックが遷延すれば重篤な臓器障害が発生し,最終的には死に至る危険性があることや前記1⑴イの出血性ショックの重症度についての所見に係る知識は,当時,一般的に看護師も当然有 る処置がされずに出血性ショックが遷延すれば重篤な臓器障害が発生し,最終的には死に至る危険性があることや前記1⑴イの出血性ショックの重症度についての所見に係る知識は,当時,一般的に看護師も当然有する専門的知識であったことが認められるから,前記のような一審原告Aのバイタルサインや愁訴に接した一審被告Lとしては,同日午前4時頃には,一審原告Aに重大な後遺障害が残存し又は生命に危険を及ぼすような異常が生じていると認識することが可能であったといえる。 したがって,一審被告Lには,遅くとも同日午前4時頃までには,一- 16 - 審被告医師ら又は当直医に連絡して一審原告Aの容態を報告し,原因探索や治療に係る処置についての指示を仰ぐべき義務があったというべきである。 しかるに,一審被告Lは,その後も漫然と一審被告Kの本件指示に従い,上記医師らに連絡しなかったのであるから,過失があるというべきである。」⒂ 原判決54頁1行目から2行目にかけての「想定外の大量出血であった旨」を「,①本件手術中に6000mLを超える想定外の大量出血を来したこと,②出血性ショック等の術後リスクがあること,③出血性ショック等の特徴的な前駆症状等を具体的,かつ分かり易く」に改める。 ⒃ 原判決54頁7行目の「しかし」から13行目の「できない。」までを次のとおり改める。 「 しかし,証拠(甲A1,13,乙A2,4,一審被告H)によれば,一審被告Hは,本件手術の術後説明として,腸管の癒着のため,術中出血量が多くなり,手術時間も長くなったこと,当初4階北病棟で術後管理をする予定であったが,2階南病棟で術後管理を行うこととなったことなどを説明したこと,当時,本件手術中の最終的な出血量の計測が未了であったことが認められる。 上記認定事実によれば,一審被告Hが出血量 る予定であったが,2階南病棟で術後管理を行うこととなったことなどを説明したこと,当時,本件手術中の最終的な出血量の計測が未了であったことが認められる。 上記認定事実によれば,一審被告Hが出血量につき具体的な数値を告げて説明することは困難であったといえるから,本件手術後の結果説明として具体的な出血量を告げるべき義務があったとはいい難い。また,本件手術後の説明は,退院後等の療養方法の指導の場合のように医師が自ら治療や観察をする代わりに,患者やその家族に治療や観察をさせるための指示説明とも異なるから,一審被告Hの上記説明内容が当時の医療水準に照らし不適切であって法的な説明義務に違反するものであったと認めることはできない。 そして,一審原告Aが収容された2階南病棟が重症患者を収容する病棟で- 17 - あって家族の付き添いが認められていなかったことや,一審原告Bが原審における本人尋問において,「術後管理の態勢等について主治医らに具体的に申し出ることができなかった」という趣旨の供述をしていること等に照らせば,仮に,一審被告Hが想定を超えた大量出血の発生を告知していたとしても,本件手術後の指示内容につき具体的な協議等がされた蓋然性が高いと認めることはできない。」⒄ 原判決54頁15行目の「出血性ショックにより」を「,血圧低下が相当時間持続したこと,及び,出血性ショックにより」に,19行目の「認められないから」を「認められない。また,一審被告Hの説明義務違反に関する一審原告らの主張は,緊急止血手術終了直後における一審被告Hの説明の内容及び程度を問題にするものであるところ,証拠(一審被告H)によれば,一審被告Hは,まずは,一審原告Aの本件手術後の出血によるショック状態を改善するべく止血を最優先事項として治療に当たっていたため,当時,一 度を問題にするものであるところ,証拠(一審被告H)によれば,一審被告Hは,まずは,一審原告Aの本件手術後の出血によるショック状態を改善するべく止血を最優先事項として治療に当たっていたため,当時,一審原告Aの血圧が低下していた具体的な時間を正確に把握していなかったことが認められるところ,一審被告Aに出血による死亡の危険性もあった当時の状況に鑑みれば,かかる一審被告Hの医師としての裁量的判断が,社会通念上,不合理であるとはいい難いし,そのような状況下で,一審原告Aの血圧が低下していた時間を具体的かつ正確に把握する義務を一審被告Hに課すことは,過度の負担を強いるものであり相当でない。加えて,一審原告Aは,5月26日午前5時08分以降,午前5時40分頃までの間における重度の循環障害及び低血圧により低酸素性虚血性脳症及び出血性脳梗塞となり,不可逆的な後遺障害に至ったことを踏まえると,仮に,一審原告Aの血圧が低下した時間が相当時間あったことを説明したとしても,本件において,かかる結果を回避又は軽減することが具体的に可能であったとはいい難い。したがって」にそれぞれ改める。 ⒅ 原判決55頁冒頭から同57頁16頁末尾までを次のとおり改める。 - 18 - 「9 争点8及び争点9(因果関係及び損害)について本件障害に至る機序についてア本件手術後の出血時期一審原告Aの脈拍数は,5月26日午前2時14分の段階で122回に上昇しているところ,この数値は,前記のとおり,出血量が全体の血液量の25から35%に至った中等度のショックの際に見られる所見の一つとされている。そして,この脈拍の上昇傾向は,その後も継続し,同日午前3時05分には136回,同日午前3時54分には145回,同日午前4時には150回,同日午前4時30分には155回と る所見の一つとされている。そして,この脈拍の上昇傾向は,その後も継続し,同日午前3時05分には136回,同日午前3時54分には145回,同日午前4時には150回,同日午前4時30分には155回と急激に上昇している。 また,ドレーンからの排液については,証拠(甲B61 ,71 . 乙A1の2)によれば,同日午前2時45分には,右ドレーンにおいて,出血を示すコアグラ(凝血塊)の混じった排液が確認されている。 そして,一審原告Aについて,術後の出血以外に脈拍が上昇する原因となるべき事情があることはうかがわれず,一審被告病院が作成した事故調査報告書(甲A1・9頁)にも,一審原告Aの心拍数が同日午前2時14分に120回,同日午前3時05分に創痛がないのに136回と増加しており,この頃に術後出血を起こした可能性があると推測する旨の記載がある。 これらの事実に鑑みれば,同日午前2時14分頃,又は,同日午前3時05分頃には,一審原告Aに術後の出血が生じていた可能性が高いといえる。 そして,同日午前3時54分頃には,初めて脈拍数(心拍数)の上昇に加えて収縮期血圧の急速な低下が認められ,脈拍数(心拍数)が145回,収縮期血圧が79と,いずれの値も出血量が全体の血- 19 - 液量の25から35%に及ぶ中等度の出血性ショックの場合に見られるものとなったものである。 加えて,証拠(甲B66)によれば,出血性ショックの場合のショック指数(脈拍数を収縮期血圧で除した商にリットルを付した量を出血量とするもの)に基づく出血量の推計は,精度が高いとされているところ,同時刻における一審原告Aのショック指数から推測される出血量は,1800mL程度であって,全体の血液量の30%を超える量に相当する(一審被告らが援用するP医師の意見書〔乙B16〕においてす ところ,同時刻における一審原告Aのショック指数から推測される出血量は,1800mL程度であって,全体の血液量の30%を超える量に相当する(一審被告らが援用するP医師の意見書〔乙B16〕においてすら,同時点から出血量の増加が始まった可能性も推察されるとしているところである。)。 以上の事情を総合考慮すると,遅くとも,同日午前3時54分頃までには術後の出血が生じてから相当の時間が経過していたものと認めるのが相当であり,かつ,本件手術後の出血及び出血性ショックの可能性を疑うことができたというべきである。 一審被告らの反論についてa 一審被告らは,一審原告Aに留置されていたドレーンからの出血を示す排液所見が認められるのは,左ドレーンから大量の血性の排液が確認された同日午前4時40分頃であり,ドレーン全てが完全に閉塞していてドレーンから排出されないということはあり得ないと考えられる以上,術後出血を来したのは同時刻頃であり,仮にその前に術後出血が始まっていたとしても,その可能性を疑うことはできなかったなどと主張し,これに沿う鑑定の結果等を援用する。 しかし,そもそも,一審被告Lは,おおむね2時間置きに各ドレーンからの排液状況を確認していたに過ぎず,同日午前2時54分から同日午前3時54分までの間に各ドレーンからの排液状況を確認した形跡はうかがわれない(一審被告Lは,同日午前4時頃に各ド- 20 - レーンからの排液を確認した旨供述するが,証拠〔甲A3 ,乙A1の2 〕によれば,同時刻のものとして記入した左ドレーンからの排液に係る記載を,後日,同日午前4時40分の所見として記入し直す一方,同日午前4時の所見として何らの所見も残していないことに鑑みれば,同日午前4時頃に各ドレーンからの排液を確認した旨の一審被告Lの供述は る記載を,後日,同日午前4時40分の所見として記入し直す一方,同日午前4時の所見として何らの所見も残していないことに鑑みれば,同日午前4時頃に各ドレーンからの排液を確認した旨の一審被告Lの供述は,信用することはできない。)。したがって,同日午前4時40分頃より前に各ドレーンから血液が排出されていた可能性も否定できない。 ドレーンの閉塞等が原因で,見かけ上排液の増加が認められない場合が存するのであるから(証拠〔甲B71〕及び弁論の全趣旨によれば,左右ともに設置されていたペンローズドレーンは液状の貯留物の排出に適しており,コアグラのような柔らかい固形物の排出には不適であり,他方,デュープルドレーンは,コアグラのような柔らかい固形物でもドレーンの内腔を通して排出できる利点があるが,ドレーンの管の内腔がコアグラによって閉塞する場合もあることが認められる。医学文献〔甲B49,62 ,65 〕においても,ドレーンからの出血が急に減少した場合も,コアグラなどでドレーンが閉塞している可能性がある為,ドレーンが閉塞していないか常に注意を要する旨の記載があり,現に,一審原告Aに設置された右ドレーンからはコアグラ混じりの血性排液が認められ,他方,左ドレーンから認められた排液量は,同日午前2時45分の時点で極端に減少している。),出血開始当初には,それらの原因によって,左ドレーンから血液が適切に排出されていなかったと考えても不合理ではない。 一審被告らが援用する鑑定意見等は,ドレーンからの出血の不存- 21 - 在をその主たる根拠とするものである以上,上記説示に鑑み,採用の限りでない。 b 一審被告らは,ドレーンからの血液の排液が確認された午前4時40分より前に一審原告Aの体内で出血していたとすれば,腹部の膨満感といった腹部症 ,上記説示に鑑み,採用の限りでない。 b 一審被告らは,ドレーンからの血液の排液が確認された午前4時40分より前に一審原告Aの体内で出血していたとすれば,腹部の膨満感といった腹部症状が観察されるはずであるのに,同日午前2時14分頃はもちろんのこと,同日午前3時54分頃の時点においても,一審原告Aにおいて腹部の痛みや張り等の腹部症状が観察されていないのは不自然であるとも主張する。 しかし,前記認定のとおり,一審被告Lが同日午前2時54分から同日午前3時54分までの間に各ドレーンからの排液状況を確認した形跡はうかがわれないのであるから,同時刻より前に各ドレーンからの排液がなかったことを前提とする一審被告らの主張は,その点でまず失当である。 しかも,証拠(甲B66) によれば,腹部が膨満するには1ないし3Lの貯留を要するとあるところ,前記のとおり,同日午前2時14分頃には上記のような大量の血液の貯留があったわけではない。また,証拠(甲A1 ,甲A6)によれば,一審被告Lは,同日午前3時54分頃に,腹痛や腹部の膨満感の存否を一審原告Aに問うことによって確認したに過ぎず,腹部の視診や触診をしたことをうかがわせる客観的な証拠はない。 したがって,一審被告らの上記主張は,採用できない。 c 一審被告らは,脈拍数(心拍数)が上昇する要因は出血に限られず,手術という外科的侵襲が加わったことに対する神経内分泌代謝反応,免疫炎症反応,疼痛の影響,発熱,感染,イレウス(腸閉塞),低栄養状態といった原因によっても脈拍数(心拍数)は上昇するなどとも主張する。 - 22 - しかし,一審被告らの主張は,抽象的可能性をいうものにすぎず,本件においてそれらが真の原因であることをうかがわせる証拠はない ても脈拍数(心拍数)は上昇するなどとも主張する。 - 22 - しかし,一審被告らの主張は,抽象的可能性をいうものにすぎず,本件においてそれらが真の原因であることをうかがわせる証拠はない。むしろ,証拠(乙B9)によれば,外科的侵襲に対する神経内分泌代謝反応や疼痛に対する反応においては,心拍数増加とともに血管収縮や血圧上昇が生じるとあり,同日午前2時14分以降心拍数の増加に遅れて血圧低下の所見が見られた本件の経時的な変化と異なる上,同日午前0時22分頃に自制内の創痛があったこと以外に一審原告Aが疼痛を訴えていた形跡はない(甲A3 ,乙A1の 2 )こととも整合性を欠く。しかも,証拠(甲B42 ,乙A1の2・330頁)によれば,術後の感染がある場合には38度以上の体温上昇の所見が認められるのが通常であることが認められるところ,一審被告Iらが本件手術後に帰宅する前の同月25日午後7時45分頃における一審原告Aの体温(37.3度)を何らかの感染を疑わせるものとして問題視していた形跡もうかがわれず,その後も,一審原告Aの体温が感染を疑わせるようなものであったことを認めるに足りる証拠はない。 したがって,一審被告らの上記主張は,採用できない。 イ本件障害の原因Aは,5月26日午前5時08分に血圧測定不能(動脈圧モニターで血圧20から30)となり,同日午前5時30分の血液ガスの検査結果,pH:6.84,塩基過剰(BE)-25.8(mmol/L)と,重篤な血流障害の持続を推認させる数値を示したことからすると,同日午前5時08分以降,午前5時40分頃(一審被告Kが来院後に行った輸液の全開,酸素投与等によりバイタルサインの改善が見られた時点)までの間における重度の循環障害が,低酸素性虚血性脳症の原因となり,また,同じく,同時刻間にお 時40分頃(一審被告Kが来院後に行った輸液の全開,酸素投与等によりバイタルサインの改善が見られた時点)までの間における重度の循環障害が,低酸素性虚血性脳症の原因となり,また,同じく,同時刻間におけ- 23 - る低血圧によって,脳に虚血性病変が生じ,これが出血性梗塞を引き起こし,その出血が脳室内に穿破し,このような経過により生じた低酸素性虚血性脳症,出血性脳梗塞を原因として,高次脳機能障害を中心とする本件障害が発生したものと認められる。 一審被告Iらの過失と本件障害との因果関係仮に,一審被告Iらが帰宅する際に,術後指示として脈拍数(心拍数)120回以上の所見が持続して認められる場合には,出血性ショックを疑い,脈拍数(心拍数)や収縮期血圧の経時的変化をより短い間隔で確認し,収縮期血圧が少なくとも80を下回った場合には直ちに医師に連絡すべき旨の指示をしていれば,一審被告Lは,遅くとも,5月26日午前3時54分頃の心拍数145回,収縮期血圧79となった段階において,直ちに一審被告Kに連絡したものと推認し得る。 そして,一審被告Kが,一審被告Lから連絡を受けた後,25分以内には一審被告病院に到着したこと,一審被告Kが一審被告病院に到着した同日午前5時30分以降に輸液を全開とし,昇圧剤の増量,酸素も増量したことによって,同日午前5時45分頃には,血圧や酸素飽和度が回復傾向を示していたことに鑑みると,上記一審被告Lの連絡を受けた一審被告Kは,直ちに一審原告Aに対する酸素の増量や採血のほか血液製剤の発注を指示するなどした上で,遅くとも同日午前4時20分頃には一審被告病院に来院し,一審原告Aに対し,輸液の全開の処理,昇圧剤の増量,酸素の投与等の処置を行ったものと考えられ,これによって,一審原告Aに発生した同日午前5時08分頃からの 午前4時20分頃には一審被告病院に来院し,一審原告Aに対し,輸液の全開の処理,昇圧剤の増量,酸素の投与等の処置を行ったものと考えられ,これによって,一審原告Aに発生した同日午前5時08分頃からの低酸素性虚血性脳症の原因となる極度の血圧の低下を回避することができ,一審原告Aの脳に不可逆的な損傷を与えるような状況は回避されていたと推認し得る。 したがって,一審被告Iらの不適切な術後指示と本件障害との間には,相当因果関係があるといえる。 - 24 - 一審被告Lの過失と本件障害との因果関係仮に,一審被告Lが,遅くとも5月26日午前4時頃までに一審被告Kに連絡し,一審被告Kが直ちに一審原告Aに対する酸素の増量や採血のほか血液製剤の発注を指示するなどした上で,一審被告病院に向かったとすれば,遅くとも同日午前4時25分頃には一審被告病院に到着し,一審原告Aに対し,輸液の全開の処理,昇圧剤の増量,酸素の投与等の処置を行ったものと考えられ,これによって,一審原告Aに発生した同日午前5時08分頃からの,低酸素性虚血性脳症の原因となる極度な血圧の低下を回避することができたとはいえる。 しかし,前記認定の事実によれば,一審被告Kは,一審被告Lに対して,前記認定のような不適切な本件指示を行い,一審被告Lが同日午前4時35分にバイタルサインを含む一審原告Aの状況を報告した際にも,一審原告Aが術後出血又は出血性ショックではなく,不穏状態にあるものと判断して,一審被告Lに鎮静剤の投与を指示したのであって,このような一審被告Kによる本件指示や上記判断からうかがわれる一審被告Kの一審原告Aの体調に関する認識や術後出血ないし出血性ショックの診断基準に対する理解からすれば,仮に一審被告Lが同日午前4時頃に一審被告Kに連絡をしたとしても,一審被告Kが前記 かがわれる一審被告Kの一審原告Aの体調に関する認識や術後出血ないし出血性ショックの診断基準に対する理解からすれば,仮に一審被告Lが同日午前4時頃に一審被告Kに連絡をしたとしても,一審被告Kが前記のような対応をした高度の蓋然性があると直ちに認めることは困難というべきである。 そうすると,一審被告Lの過失と本件障害との間に相当因果関係があるとはいえないというべきである。」⒆ 原判決59頁20行目冒頭から60頁2行目末尾までを次のとおり改める。 将来の介護費用 3534万5742円前記のとおり,一審原告Aが本件障害によって,食事・排泄・入浴介助の介護のほか,常時の見守りが必要とされていることを踏まえると,一審原告Aの親族による将来の介護の必要性は否定できない。 - 25 - もっとも,証拠(甲C32,33,35,乙B13の2,14)によれば,クローン病患者における癌の発生率はやや高く,また,クローン病患者の生命予後は,正常集団に比してわずかに低下するとされており,これに一審原告Aの病勢をも併せ考慮すると,一審原告Aがその症状固定時における42歳男性の平均余命(39年)まで生存する高度の蓋然性があったとまで認めることはできず,他方で,その生存可能年数が上記平均余命から大幅に低下する蓋然性が高いものともいい難い。そこで,一審原告Aの余命を70歳までの28年として,その損害を算定するのが相当である。 そうすると,症状固定時からの将来の介護費用については,28年分を相当因果関係のある損害と認めるのが相当であるから,年額237万2500円(日額6500円)に28年のライプニッツ係数である14.8981を乗じた額である3534万5742円を一審原告Aの将来介護費の損害と認める。 他方,」原判決6 37万2500円(日額6500円)に28年のライプニッツ係数である14.8981を乗じた額である3534万5742円を一審原告Aの将来介護費の損害と認める。 他方,」原判決60頁25行目冒頭から61頁6行目末尾までを次のとおり改める。 将来雑費 905万0595円上記の一審原告Aの状態に照らすと,一審原告Aの前記ストーマ用具代を除く部分(日額1500円の365日分とおむつ代月額5000円の12か月分を合わせ,年額合計60万7500円)は,将来も継続して発生するものと認められるところ,その28年分は相当因果関係のある損害と認めるのが相当であるから,年額60万7500円に28年のライプニッツ係数である14.8981を乗じた905万0595円が,一審原告Aの将来の雑費に係る損害と認められる。」原判決62頁冒頭から7行目末尾までを次のとおり改める。 将来の交通費 143万0217円証拠(甲C7)及び弁論の全趣旨によれば,一審原告Aは今後も介護タ- 26 - クシー料が1か月分8000円必要となるものと認められ,その28年分を相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。 そうすると,年額9万6000円(8000円に12か月を乗じた額)に,28年のライプニッツ係数である14.8981を乗じた額である143万0217円が,一審原告Aの将来の交通費に係る損害と認められる。」 原判決65頁16行目の「相当である」の次に「(なお,一審原告らは,一審原告Aの平成19年度及び平成20年度の所得は,クローン病の症状が最も重く出ていた状態における収入である旨主張する。しかし,前記認定事実によれば,一審原告Aは,平成14年に2回の手術を受けた後,平成15年に消化管出血を原因とする入院をし 得は,クローン病の症状が最も重く出ていた状態における収入である旨主張する。しかし,前記認定事実によれば,一審原告Aは,平成14年に2回の手術を受けた後,平成15年に消化管出血を原因とする入院をしたほかは,通院による治療の継続にとどまり,腹痛などの手術を要する症状が出始めたのは平成20年12月頃からであることに鑑みれば,上記の各年度に係る一審原告Aの所得がクローン病に係る最も重い症状の出現していた時期における収入であるとの一審原告らの主張は採用できない。)」を加える。 原判決66頁3行目から4行目にかけての「原告Aがクローン病の既往症を有していることや」を「一審原告Aがクローン病,しかも予後不良因子とされている小腸大腸型の既往症を有していることに加え,証拠(甲C33,乙B4)によれば,クローン病患者の7割が15年の長期経過例において社会生活が保たれない経過不良であり,海外では診断後5ないし10年の時点で15%が就労不能になり,我が国の横断研究でも1年を通じて完全に就労できる例は30%未満に過ぎないとされていること」に改める。 原判決66頁12行目の「前記のとおり,」の次に「本件においては,一審被告Iらの過失がなかったとしても,術後出血が生じたことによる本件緊急手術と同様の手術が実施されたものと推認されることからすれば,」を加える。 原判決67頁14行目の「1390万円」を「1465万円」に,15行目の「1億3900万8765円」を「1億4650万1593円」に,1- 27 - 7行目の「1390万円」を「1465万円」に,19行目の「1億5290万8765円」を「1億6115万1593円」にそれぞれ改める。 2 結論以上によれば,一審原告らの請求は,一審被告大学,一審被告I,一審被告J及 5万円」に,19行目の「1億5290万8765円」を「1億6115万1593円」にそれぞれ改める。 2 結論以上によれば,一審原告らの請求は,一審被告大学,一審被告I,一審被告J及び一審被告Kに対し,一審原告Aにおいて1億6115万1593円及びこれに対する平成21年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の,その余の一審原告らにおいて原判決主文第2項ないし第7項のとおりの金員の連帯支払を求める限度で理由があるというべきである。 よって,原判決中,一審原告Aに関する部分を上記のとおり変更し,その余の一審原告らの控訴並びに一審被告大学,一審被告I,一審被告J及び一審被告Kの控訴をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第1民事部 裁判長裁判官矢尾渉 裁判官村上典子 裁判官佐藤康平は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官矢尾渉

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