1 令和3年6月18日 東京地方裁判所刑事第4部宣告 第1573号 公職選挙法違反被告事件 主 文 被告人Aを懲役3年に処する。 被告人Aから金130万円を追徴する。 訴訟費用は,証人C1(第3回及び第4回公判期日分),同C2 (第5回及び第6回公判期日分),同C3(第7回公判期日分)及 び同C4(第8回公判期日分)に支給した分の2分の1並びに同 C5に令和2年12月23日付け及び令和3年2月17日付け各 支給決定により支給した分,同C6に令和2年12月23日付け 支給決定により支給した分及び同C7に令和3年1月24日付け 支給決定により支給した分を除き,被告人Aの負担とする。 理 由 (罪となるべき事実) 分離前の相被告人であるB(以下,単に「B」という。)は,令和元年7 月4日公示,同月21日施行の第○○回参議院議員通常選挙(以下「本件 選挙」という。)に際し,立候補を表明した平成31年3月20日頃まで には広島県選挙区から立候補する決意を有し,かつ,令和元年7月4日に 立候補者として届け出た者,被告人A(以下,単に「被告人」という。) は,Bの夫であり,同届出後は,同選挙におけるBの選挙運動を総括主宰 した者であるが, 第1 被告人は,Bと共謀の上,Bに当選を得しめる目的をもって,別表 1記載のとおり,いまだ立候補の届出前である平成31年3月30日 から令和元年5月25日までの間,広島県府中市(住所省略)C8選 挙事務所ほか3か所において,C8ほか3名に対し,Bへの投票及び 投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として,前後4回に 2 わたり,現金合計160万円を供与するとともに,各々それにより立 候補届出前の選挙運動をし, 第2 被告人は,Bに当選を得しめる目的をもって, 1 別表2-1記載のとおり て,前後4回に 2 わたり,現金合計160万円を供与するとともに,各々それにより立 候補届出前の選挙運動をし, 第2 被告人は,Bに当選を得しめる目的をもって, 1 別表2-1記載のとおり,いまだ立候補の届出前である平成31年 3月下旬から令和元年7月3日までの間,広島市(住所省略)C9選 挙事務所ほか94か所において,C9ほか95名に対し,Bへの投票 及び投票取りまとめなどの選挙運動をすること,又はBへの投票取り まとめなどの選挙運動をすることの報酬として,前後113回にわた り,金員合計2416万6980円を供与するとともに,各々それに より立候補届出前の選挙運動をし, 2 別表2-2記載のとおり,立候補の届出後である令和元年7月4日 から同年8月1日までの間,広島県福山市(住所省略)Fホテルほか 6か所において,C10ほか7名に対し,Bへの投票及び投票取りま とめなどの選挙運動をすること,又はBへの投票取りまとめなどの選 挙運動をすることの報酬として,前後11回にわたり,金員合計29 5万470円を供与した。 (事実認定の補足説明) 第1 当裁判所の判断 当裁判所が判断した内容の骨子を説明する。 1 まず,現金授受の客観的事実(交付した現金の額)について,被告人 が,①C11(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号24)に 渡した現金の額は50万円であると起訴されているところ,30万円で あると認定し,②C12(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番 号59)に渡した現金の額は20万円であると起訴されているところ, 10万円であると認定し,③C13(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号60,112)に渡した現金の額は1度目が100万円, 3 2度目が200万円であるとして起訴され,その後,1度目が200万 円,2度目が10 ③C13(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号60,112)に渡した現金の額は1度目が100万円, 3 2度目が200万円であるとして起訴され,その後,1度目が200万 円,2度目が100万円であるとの予備的訴因が追加されているところ, 予備的訴因の公訴事実を認定した。その余の客観的事実については,公 訴事実のとおり認定した。 2 次に,現金授受の趣旨及び事前運動該当性については,被告人らが選 挙買収の意図があったことを争っているもの(C12〔罪となるべき事 実第2の1・別表2-1の番号59〕,C14〔罪となるべき事実第2の 1・別表2-1の番号30,113〕,C15〔罪となるべき事実第2の 1・別表2-1の番号80,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の 番号4〕,C16〔罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号81, 108,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の番号8,11〕,C1 7〔罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号87〕,C18〔罪と なるべき事実第2の1・別表2-1の番号92,106,罪となるべき 事実第2の2・別表2-2の番号7,10〕)も含め,各現金授受は,す べて選挙買収の意図でなされたものであり,いずれも事前運動に該当す ると認定した。被告人らが,買収の相手方が異なり,無罪であると主張 するC19(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の11)及びC2 0(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の23)に対する現金授受 についても,各人に対する選挙買収を認定した。 また,罪となるべき事実第2の2の関係では,被告人が総括主宰者に 該当すると認定した。 3 次に,Bとの共謀によるものとして起訴されている事実のうち,C8, C21,C22及びC23に対する現金供与(罪となるべき事実第1・ 別表1の番号1ないし4)は,被告人とBと 該当すると認定した。 3 次に,Bとの共謀によるものとして起訴されている事実のうち,C8, C21,C22及びC23に対する現金供与(罪となるべき事実第1・ 別表1の番号1ないし4)は,被告人とBとの共謀によるものと認定し たが,C24に対する現金供与(罪となるべき事実第2の1・別表2― 1の番号93)については,Bとの共謀は認められず,被告人による単 4 独行為であると認定した。 4 なお,弁護人の,公訴権の濫用による公訴棄却を求める主張は採用で きないと判断した。 5 以上の判断をした理由について,以下,補足して説明する。 第2 罪となるべき事実第2について 1 現金授受の客観的事実について ⑴ 関係各証拠によれば,罪となるべき事実第2記載のとおりの現金授受 の事実が認められる。 ⑵ なお,被告人がC11及びC12に渡した現金の額については,公訴 事実と異なる認定をし,C13に渡した現金の額については,予備的訴 因の公訴事実を認定したため,以下,その理由を説明する。 ア C11に渡した現金の額について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号24) 検察官は,被告人がC11に渡した現金の額は50万円であるとして 起訴しているところ,被告人は,C11に渡した現金の額は,2,30 万円であったなどと供述している。 この点,C11は,現金が入った封筒の端のほうを少し開けて,中身を 一部確認した際の中の様子や,封筒の厚み・重みから,30万円をはるか に超え,50万円程度の現金が入っていると感じた,被告人に現金を返 すため,現金が入った封筒を被告人の事務所スタッフのC25に渡した ところ,C25は,その場で,現金を数え始めた,その際の数えている様 子や数えている時間の長さからして,現金は,30万円をはるかに超え, 50万円であったなどと証言して の事務所スタッフのC25に渡した ところ,C25は,その場で,現金を数え始めた,その際の数えている様 子や数えている時間の長さからして,現金は,30万円をはるかに超え, 50万円であったなどと証言している。また,C25は,その供述調書 (甲386)において,「封筒の中に入っていた現金の枚数を数えまし た。」,「具体的な枚数については,はっきり思い出せませんが,白色の封 筒が分厚かったことや,1万円札の枚数を数えるのに時間がかかったと 5 いう記憶があるので,白色の封筒の中に入っていた現金は,数十万円は あったという記憶です。」と述べている。 これらのC11証言及びC25供述によれば,C11もC25も,紙 幣の枚数をきちんと数えるなどした記憶に基づいて現金の額を特定して いるのではなく,封筒の厚さや重さ,札束を数えている時間の長さなど から,あくまで感覚的に,その金額を述べているに過ぎず,C25に至 っては,「数十万円はあった」としか述べておらず,およそ現金の額を特 定できていない。これらの証拠から,被告人がC11に渡した現金の額 が50万円であったと認定するには,その根拠が薄弱といわざるを得な い。これらの証拠以外に,被告人がC11に50万円を渡したことを具 体的に裏付ける証拠はない。C11の立場や経歴,被告人との関係,被 告人の供述内容等を踏まえれば,被告人がC11に渡した現金の額は, 30万円であったと認めるのが相当である。 イ C12に渡した現金の額について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号59) 検察官は,被告人がC12に渡した現金の額は20万円であるとして 起訴している。他方,被告人は,記憶ははっきりしないが,C12に渡 した現金の額は10万円か20万円だったと思うと供述している。 この点,C12は,被告人から10万円を渡されたと 20万円であるとして 起訴している。他方,被告人は,記憶ははっきりしないが,C12に渡 した現金の額は10万円か20万円だったと思うと供述している。 この点,C12は,被告人から10万円を渡されたと証言している。同 証言のほかに,被告人がC12に渡した現金の額を具体的に裏付ける証 拠はない。 検察官は,被告人が現金供与の実績を正確に記載したものと考えられ るリスト(甲334等。以下「リスト」という。)に「安佐北区 C12 30+20」との記載があることや他の広島県議会議員が受領した金額 (少なくとも20万円)との比較を基に,被告人がC12に渡した現金 の額は20万円であると主張するが,リストは,後述のとおり,被告人が 6 自身やBが現金を渡した相手の名前やその金額を取りまとめたものと認 められるものの,その記載のみで上記公訴事実の金額を特定するには不 十分であり,他の広島県議会議員の受領額との比較を加味したところで, 各人の立場や被告人との関係等それぞれ固有の事情があるのであって, 被告人がC12に渡した現金の額の具体的な特定に足るものではなく, C12の証言を覆すものとはいえない。 よって,C12の証言に基づいて,被告人がC12に渡した現金の額 を10万円と認定した。 ウ C13に渡した現金の額について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号60,112) 検察官は,被告人がC13に渡した現金は,令和元年5月31日,つ まり,1度目が100万円であり,同年7月3日,つまり,2度目が2 00万円であるとして起訴し,その後,1度目が200万円で,2度目 が100万円であるとの予備的訴因を追加しているところ,被告人は, 1度目に200万円を渡し,2度目に100万円を渡したなどと供述し, 予備的訴因の方の公訴事実を認めている。 この点,C13は,被告 が100万円であるとの予備的訴因を追加しているところ,被告人は, 1度目に200万円を渡し,2度目に100万円を渡したなどと供述し, 予備的訴因の方の公訴事実を認めている。 この点,C13は,被告人から,令和元年5月31日,A4サイズの封 筒に入った現金をもらった,封筒の中身は確認していないが,手に伝わ る感触からして,100万円の束が1つ入っているのがわかった,同年 7月3日にも,同様の封筒に入った現金をもらった,封筒の中身は確認 していないが,手に伝わる感触から,100万円の束が2つ,横並びで入 っているのがわかり,異常だと感じた,その後,現金は同じ場所に保管 し,まとめて知人に渡すなどしたと証言している。 C13が被告人から合計で300万円の現金を渡されたことは,C1 3の証言やC13が上記知人から返還を受けて検察官に証拠品として3 00万円を提出していること(甲501)などからして明らかである。 7 また,C13の証言は,被告人から渡された現金について,いずれも, 手の感触からその金額を推察するものに過ぎないが,100万円の束が 1つであったか2つであったかは,その重さや感触等からして,大きな 違いがあり,被告人から渡された現金が,100万円と200万円であ ったことは認められる。しかし,渡された現金の先後関係について,つ まり,1度目に100万円を渡され,2度目に200万円を渡されたと いう部分については,C13が直接現金を確認するなどしていないこと や各現金は同じような封筒に入れられた状態で渡されており,現金授受 後,各現金が個別に扱われた形跡がないこと,各現金授受の時間的間隔 がさほどないこと等の事情に照らせば,証言時においてC13が記憶違 いをしている可能性は一定程度存するのであり,C13の証言をみても, その可能性を払拭できるほど明確な証言 こと,各現金授受の時間的間隔 がさほどないこと等の事情に照らせば,証言時においてC13が記憶違 いをしている可能性は一定程度存するのであり,C13の証言をみても, その可能性を払拭できるほど明確な証言をしているとはいい難い。他方, 被告人は,1度目に200万円を,2度目に100万円を渡したと供述 しており,リストにおいても,「C13 200+100」との順で記載 されていることを踏まえれば,被告人は,予備的訴因のとおり,C13 に対して,1度目に200万円を,2度目に100万円を渡したと認め られる。 2 現金供与の趣旨 次に,被告人が各人に現金を交付した趣旨について説明する。 ⑴ まず,当時の選挙情勢についてみる。 本件選挙における広島県選挙区は定数2名であったところ,現職の参 議院議員が2名(C26,C27)いるところに,Bが立候補を表明し た。特にC26は,当選回数5回で,前回の選挙においても,次点で当選 したC27が約19万票を獲得したのに対し,約52万票を獲得してト ップ当選を果たしたという実績を有しており,本件選挙に向けても,平 成30年7月の時点で既にD1党の公認を受け,広島県選出の国会議員 8 等で構成されるD1党広島県支部連合会(以下「県連」という。)の支援 を受けていた。他方,Bは,広島県議会議員を4期務め,広島県知事選挙 に立候補したこともあったが,その支持地盤は,県議会議員の選挙区で ある広島市安佐南区に限られており,衆議院議員であった被告人の支持 地盤も,後援会組織(名称「E1会」)が存在する,衆議院議員総選挙の 選挙区の広島県第三選挙区(広島市安佐北区,同市安佐南区,安芸高田 市,山県郡(安芸太田町及び北広島町))内にとどまっていた。Bは,平 成31年3月になって,D1党の公認を受けたが,県連は,C26のみを 支援するという方針 挙区(広島市安佐北区,同市安佐南区,安芸高田 市,山県郡(安芸太田町及び北広島町))内にとどまっていた。Bは,平 成31年3月になって,D1党の公認を受けたが,県連は,C26のみを 支援するという方針を固めていたため,県連所属の県議会議員や市議会 議員らからの支援をほとんど期待できない状況にあった。本件選挙は結 果として,BとC27が当選し,C26が落選したが,本件当時,B陣営 にとっては厳しい選挙情勢にあったことが認められる。 ⑵ 被告人が現金を交付した時期は,平成31年3月下旬から令和元年8 月1日までである。これは,BがD1党の公認を得た約2週間後の,本 件選挙の公示まで約3か月という時期から,本件選挙の投開票日の約1 0日後までという時期である。 ⑶ そして,被告人は,罪となるべき事実第2に記載のとおり,この約4 か月の間に,本件選挙の選挙区となる広島県全域において,広島県内の 地方議員ら合計98名に対し,合計124回にわたって,総額約270 0万円の現金を交付している。 ⑷ 被告人が現金を交付した相手方をみると,まず,被告人は,①広島県 議会議員や広島市議会議員らの現職の地方議員のほか,元広島県議会議 員,元広島市議会議員,元東広島市議会議員,元国会議員の秘書ら(以 下,まとめて,「地方議員ら」という。),広島県全域の政治家等合計42 名に現金を交付している。彼らの中には,各選挙において,複数回の当 選を重ねている者やトップ当選を果たしている者,各地方議会において 9 要職を歴任している者もおり,いずれも,各選挙区において,後援会組 織等支持基盤を有していたり,各地域における企業や団体等に多くの知 り合いがいるような者らである。被告人からすれば,彼らの協力があれ ば,各地域におけるBへの支援,そして多くの集票が期待できると見込 める人物であった。 ま たり,各地域における企業や団体等に多くの知 り合いがいるような者らである。被告人からすれば,彼らの協力があれ ば,各地域におけるBへの支援,そして多くの集票が期待できると見込 める人物であった。 また,被告人は,②広島県内の被告人の後援会員やその家族,Bの支援 を約束してくれた支援者ら(以下,まとめて「後援会員ら」という。)合 計50名に現金を交付している。彼らは,各職能団体における役員やD 1党地域支部の支部長を務める者のほか,各地域におけるいわば取りま とめ役を担っていた者が多く,また,いずれも,普段から,被告人の政治 活動を支えていた者である。被告人からすれば,被告人らの依頼に応じ て,本件選挙におけるBへの支援活動をしてもらうことが十分に期待で きるし,かつ,その活動において,地域住民に対し大きな影響力を発揮し てもらえることが見込める人物であったといえる。 さらに,被告人は,③広島県内の被告人らの事務所において活動して いた人員(以下,「スタッフら」という。)合計6名に現金を交付してい る。彼らは,選挙運動の経験を有し,平成31年4月22日から本件選挙 の投開票日直後の令和元年7月23日頃までの間,被告人らの事務所等 で活動していた,まさに本件選挙のために集められた人材であった。実 際の活動内容も,被告人らの指示のもと,本件選挙に向けて,Bへの支援 を広げる活動等に専念していた。 ⑸ そして,被告人が交付した現金の額をみると,①地方議員らには,1 回あたり10万円から200万円,②後援会員らには,その多くが5万 円か10万円で,最大30万円,③スタッフらは,5万円から50万円 である。相手方の立場や各地域における影響力,本件選挙において期待 された役割,被告人との関係性等に照らせば,それぞれBへの投票や投 10 票取りまとめなどの選挙運動をすることの報 円から50万円 である。相手方の立場や各地域における影響力,本件選挙において期待 された役割,被告人との関係性等に照らせば,それぞれBへの投票や投 10 票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として相応に見合うだけ の額といえる。 ⑹ 以上みたような選挙情勢,現金授受の時期,現金授受の規模や場所的 範囲,現金授受の相手方の属性や立場,金額等を総合して考えれば,特 段の固有の事情がない限り,いずれの者に対する現金交付も本件選挙に おいてBに当選を得しめる目的をもって,Bへの投票や有権者にBへの 投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめの報酬としてなされたもの と認められ,すなわち,これらの現金授受はいずれも選挙買収であった と認められる。 ⑺ この点,被告人及び弁護人は,後記3及び4の8名を除いて,各人に 対する選挙買収の目的があったことを認めつつも,この目的は主たる目 的ではなく,それ以外の様々な目的もあったとして,地方議員らとの関 係性の強化,後援会組織の組織固めの目的等縷々主張するが,たとえそ のような目的を有していたとしても,上記認定を覆すものではない。 3 C12ら6名に対する現金交付について 被告人及び弁護人は,以下の人物(C12,C14,C15,C16, C17,C18)に対する現金授受について,選挙買収の意図があったこ とを争っているため,これらの者についても,被告人に選挙買収の意図 があったと認められることを説明する。 ⑴ C12に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号59) ア C12の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認めら れる。 C12は,Bから,平成25年の広島県議会議員補欠選挙への立候補 を打診され,広島市安佐北区より,同選挙に立候補して当選した。その 際,Bは,C12のD1 各証拠によれば,以下の事実が認めら れる。 C12は,Bから,平成25年の広島県議会議員補欠選挙への立候補 を打診され,広島市安佐北区より,同選挙に立候補して当選した。その 際,Bは,C12のD1党公認のための窓口になったり,後援者への挨 11 拶回りにC12を連れていったりするなど,C12を全面的に支援した。 そして,C12は,当選後,Bと同じ会派に所属した。その後も,C12 は,連続して広島県議会議員選挙に当選し,平成31年4月施行の同選 挙にも当選した。 また,C12は,被告人の選挙において,応援演説や集会への動員を行 うなど被告人を支援し,被告人も,C12の選挙において,応援演説を行 うなどC12を支援した。被告人は,自身が代表を務めるD1党の広島 県第三選挙区支部からC12の後援会に対し,大体1年に2度,夏と冬 の時期に,10万円ずつ寄附をしていた。 C12は,平成31年3月頃,県連からの通達により,Bが本件選挙 に立候補することを知った。 被告人は,令和元年5月中旬,秘書のC1を通じ,C12に対し,C 12の支援者である安佐北区内の会社役員との面会を取り付けた上,そ の面会に同行してほしいなどと依頼した。C12は,その依頼に基づき, 同社の会長との面会を取り付け,同月29日に面会することとなった。 被告人とC12は,同日,同社で会長と面会した。そこで,被告人は, 会長に対し,Bの後援会入会申込書への記入やポスターの掲示等を頼み, 会長は,「できる限りのことはいたしましょう。」と答えた。被告人とC1 2は,会長との面会を終え,同社の建物を出ると,被告人がC12を呼び 止め,駐車場にある被告人の自動車に乗るよう指示した。被告人とC1 2が自動車の後部座席に乗り込むと,被告人は,運転手に対し,外へ出る よう指示し,被告人とC12は,自動車内におい 被告人がC12を呼び 止め,駐車場にある被告人の自動車に乗るよう指示した。被告人とC1 2が自動車の後部座席に乗り込むと,被告人は,運転手に対し,外へ出る よう指示し,被告人とC12は,自動車内において2人きりになった。そ こで,C12が,Bのポスターの掲示が増えてきているなどと話すと,被 告人は,まだまだ支援が足りない,C12の後援会会長等に対し,支援を 働きかけてほしいなどと話した。その後,被告人は,「これ。」と言って, 現金10万円が入った封筒をC12の方に差し出した。C12は,「いえ 12 いえ,私はやって当然の立場ですから。」と言って,封筒の受取を拒もう としたところ,被告人は, 「大丈夫,大丈夫,いつものだから。」と言って, 封筒の受取を促し,C12は,封筒を受け取って,自動車から出た。 C12は,Bの家族とともに,上記会社やC12の父が経営する企業 の店舗等を回り,Bのポスターや後援会入会申込書,名刺等を配布した り,Bの遊説の際のウグイス嬢を紹介したりしたほか,出陣式への参加, 個人演説会での応援演説,スタッフの紹介等を行った。また,前記会長 も,Bのポスターの掲示等を行った。 イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC12に現金を渡した趣旨について 説明する。 まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとお りであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。 そして,現金の交付時期は,本件選挙の公示日まで約1か月の時期で あった。 C12は,広島県議会議員選挙に複数回当選する実績を有し,父が経 営する企業も含め,地元においてC12を支援する企業が複数存在して おり,被告人らからすれば,C12の協力があれば,C12の支援者を中 心に,Bへの支援,そして集票を期待できるものであった。また,C12 は,Bの打診を受け, においてC12を支援する企業が複数存在して おり,被告人らからすれば,C12の協力があれば,C12の支援者を中 心に,Bへの支援,そして集票を期待できるものであった。また,C12 は,Bの打診を受け,広島県議会議員補欠選挙に立候補するなど,B及び 被告人と親しくしており,被告人にとって,本件選挙におけるBへの支 援を強く期待でき,また,その支援の依頼をしやすい関係にあった。実 際,被告人は,C12に依頼し,C12の支援者の会長との面会を取り付 けてもらい,そこで,同会長にBへの支援をお願いしており,同会長は, Bのポスターの掲示等を行っているし,C12自身も,企業回り等を行 っている。 現金授受の状況についてみると,被告人は,C12と2人きりになる 13 状況を作り出した上で,現金を渡しており,被告人において,この現金授 受が第三者に知られたくないものと考えていたと認められる。また,被 告人がC12に現金を渡したのは,C12から紹介を受けた会社の会長 に対して,Bへの支援を呼び掛けた直後のことであって,現金授受の際 にも,本件選挙におけるBへの支援が足りず,後援会長に働きかけてほ しいなどと頼んでいることからすれば,当該現金は,C12に対し,本件 選挙におけるBへの支援を期待する趣旨のものであったと強くうかがわ せる。 被告人がC12に渡した現金は10万円であり,C12の立場や被告 人とC12との関係性等に照らせば,Bへの投票及び投票取りまとめな どの選挙運動をすることの報酬として相応に見合うだけの額と言える。 以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C12の立場や被告人 との関係,現金授受の状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本 件選挙においてBに当選を得しめる目的をもって,C12に対し,C1 2自身のBへの投票及び有権者にBへの投票の働きかけ 2の立場や被告人 との関係,現金授受の状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本 件選挙においてBに当選を得しめる目的をもって,C12に対し,C1 2自身のBへの投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投 票取りまとめの報酬として現金10万円を供与したものと認められ,当 該現金授受は選挙買収であったと認められる。 ウ この点,被告人は,C12の政治活動を経済的に支援するなどの趣旨 で,寄附として,現金を渡したと供述する。しかし,既に検討したとお り,その実質をみれば,被告人がC12に渡した現金は,買収目的の金 員と評価せざるを得ないし,過去に,被告人がC12に対し,C12の 政治活動を支援するなどの趣旨で現金を渡したことがあったとしても, その評価が左右されることはない。 ⑵ C14に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号30,113) ア C14の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認めら 14 れる。 C14は,C28広島県議会議員と40年来の知り合いであり,同人 に頼まれ,平成27年4月及び平成31年4月の広島県議会議員選挙に おいて,それぞれ候補者の選挙運動を手伝うなどした。 C14は,平成31年4月初め頃,C28からBの選挙を手伝ってほ しいなどと頼まれ,同月22日から,Bの事務所において,その活動を開 始した。当初,被告人から事務長の肩書を与えられ,Bの遊説の運行表作 りや事務所内の事務の取りまとめ等を行っていたが,スタッフの間から, C14の仕事ぶりについて不満が出るなどし,令和元年6月中旬以降, これらの業務は他の者が行うようになり,C14は,選挙ポスターの掲 示の取りまとめや,知人らに頼み,Bの後援会入会申込書に知人らの名 前を書いてもらったり,知人らに出陣式等への参加を呼び掛けたりする , これらの業務は他の者が行うようになり,C14は,選挙ポスターの掲 示の取りまとめや,知人らに頼み,Bの後援会入会申込書に知人らの名 前を書いてもらったり,知人らに出陣式等への参加を呼び掛けたりする ほか,事務所における来客対応を行うなどするようになり,こうした活 動を同年7月21日頃まで行った。 被告人は,C14に対し,①平成31年4月22日に50万円を,②令 和元年7月3日に10万円をそれぞれ渡した。 イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC14に現金を渡した趣旨について 説明する。 まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとお りであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。 そして,現金はそれぞれ,本件選挙の公示日まで約2か月半の時期及 び公示日直前の時期に渡されている。 C14は,広島県議会議員のC28と長年の知り合いで,同人の依頼 により,選挙運動に携わった経験を有する者であって,本件選挙におい ても,C28の依頼により,被告人らの事務所で活動するようになった。 被告人も当初,事務長の肩書を与えているとおり,被告人にとって,C1 15 4は,本件選挙におけるBへの支援を広げるに当たり,精力的かつ実効 的に動いてくれることを期待できる人物であったといえる。実際に,C 14は,本件選挙の前の平成31年4月22日から,本件選挙の投開票 日である令和元年7月21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙に おけるBへの支援を広める活動に従事している。 そして,被告人がC14に渡した現金は50万円と10万円である。 50万円を渡したのは,C14が事務長として,事務所内の取りまとめ 等の活動を期待されていた時期であって,10万円を渡したのは,事務 長としての仕事を外された後の時期であることなど,C14の立場や, C14に期 を渡したのは,C14が事務長として,事務所内の取りまとめ 等の活動を期待されていた時期であって,10万円を渡したのは,事務 長としての仕事を外された後の時期であることなど,C14の立場や, C14に期待された活動,実際の活動状況等に照らせば,これらの金額 が,Bへの投票やBへの支援を広めるための選挙運動をすることの報酬 として相応に見合うだけの額と言える。 以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C14の立場や活動時 期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙におい てBに当選を得しめる目的をもって,C14に対し,C14自身のBへ の投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめ の報酬として,各現金を供与したものと認められ,いずれの現金授受も 選挙買収であったと認められる。 ウ 被告人は,①平成31年4月22日に渡した50万円は,Bが代表を 務めるD1党広島県参議院選挙区第七支部の職員の給与として渡した, ②令和元年7月3日に渡した10万円は,他の職員に対して,日頃の業 務への労いの気持ちで現金を渡していた手前,C14にも同様の趣旨で 渡したなどと供述する。 しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が渡したい ずれの現金についても,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬 であったと認めるほかない。 16 ⑶ C15に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号80,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の番号4) ア C15の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認めら れる。 C15は,福山市内の建設会社の代表取締役を務めており,過去には, 国会議員の私設秘書を3年間務めたことがあった。 C15は,平成31年4月中旬,同国会議員から,Bの選挙を手伝って あげ れる。 C15は,福山市内の建設会社の代表取締役を務めており,過去には, 国会議員の私設秘書を3年間務めたことがあった。 C15は,平成31年4月中旬,同国会議員から,Bの選挙を手伝って あげなさいと言われ,また,同月後半頃,Bから,本件選挙の手伝いを頼 まれて,令和元年5月後半頃から,福山市内におけるBの事務所となる 場所を探し始め,同事務所設立後は,同事務所の責任者となった。C15 は,そこで,広島市内のBの事務所との連絡調整,元広島県議会議員のC 29やC10に対して外回りの場所の指示をしたり,当時の内閣総理大 臣秘書が来県し,企業等に挨拶し,Bのポスターや名刺,後援会入会申込 書を配布する際の計画の立案やその際の運転手の手配をしたり,Bの演 説会の準備や知人らに対する参加の呼び掛け,D1党の政策や本件選挙 について広報するための自動車(広報車)の運行ルートの策定,選挙期間 中,有権者にBへの投票を呼び掛けるための選挙はがきの配布,選挙期 間中,有権者に対し電話で投票を呼び掛ける電話作戦の実施,D2党支 援者カードの収集をするなどし,こうした活動を同年7月21日頃まで 行った。 被告人は,C15に対し,①同年6月8日,30万円を,②同年7月1 5日,30万円をそれぞれ渡した。 イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC15に現金を渡した趣旨について 説明する。 まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとお りであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。 17 そして,現金はそれぞれ,本件選挙の公示日まで約1か月の時期及び 本件選挙の選挙期間中に渡されている。 C15は,国会議員の秘書を務めた経歴を有するほか,福山市内の企 業の代表取締役を務めるなどしており,選挙に精通し,福山市内におい て,影響力を有する人物で 及び 本件選挙の選挙期間中に渡されている。 C15は,国会議員の秘書を務めた経歴を有するほか,福山市内の企 業の代表取締役を務めるなどしており,選挙に精通し,福山市内におい て,影響力を有する人物であった。Bらが直接,事務所の手伝いを依頼す るなど,被告人らにとって,C15は,本件選挙におけるBへの支援を広 げるに当たり,精力的かつ実効的に動き,同地域において,その影響力を 発揮してもらうことが見込める人物であったといえる。実際に,C15 は,本件選挙の前の令和元年5月後半頃から,本件選挙の投開票日であ る同年7月21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙におけるBへ の支援を広める活動に従事している。 そして,被告人がC15に渡した現金は合計60万円と,前記のとお りの,C15の立場,C15に期待された活動や実際の活動状況等に照 らせば,Bへの投票やBへの支援を広めるための選挙運動をすることの 報酬として相応に見合うだけの額といえる。 以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C15の立場や活動時 期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙におい てBに当選を得しめる目的をもって,C15に対し,C15自身のBへ の投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめ の報酬として,各現金を供与したものと認められ,いずれの現金授受も 選挙買収であったと認められる。 ウ 被告人は,C15が支出したBの党勢拡大活動や地盤培養行為に関わ る費用の補てんやこれらの活動への謝礼の趣旨で現金を渡したなどと供 述する。 しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が渡したい ずれの現金についても,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬 18 であったと認めるほかない。 ⑷ C16に対する現金授受について(罪となるべき事実 り,その実質をみれば,被告人が渡したい ずれの現金についても,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬 18 であったと認めるほかない。 ⑷ C16に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号81,108,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の 番号8,11) ア C16の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認めら れる。 C16は,広島県選出の国会議員の私設秘書を務めたほか,広島県内 の各級選挙の選挙運動に携わった経験を有していた。被告人とは,平成 8年頃,知り合い,平成15年頃には半年ほど,被告人の事務所で働いて いた。 C16は,令和元年6月7日,被告人から,本件選挙が大変なので,B の選挙を手伝ってほしい,事務長のC14が使えないので,事務局長を してほしいなどと頼まれ,同月8日から,Bの事務所において,その活動 を開始した。C16は,広島市西区及び佐伯区,尾道市,東広島市並びに 廿日市市等の地方議員や企業等のもとに行き,Bのポスターや後援会入 会申込書,名刺,選挙はがき,Bを特集したD1党の機関紙等を配布し て,Bへの支援を呼び掛けたり,Bの演説会への参加を呼び掛けたりす るなどしており,こうした活動を同年7月21日頃まで続けた。 被告人は,C16に対し,直接又は振込により,①同年6月8日,10 万円を,②同月28日,38万3490円を,③同年7月31日,38万 3490円を,④同年8月1日,10万円をそれぞれ交付した。 イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC16に現金を交付した趣旨につい て説明する。 まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとお りであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。 そして,現金は,本件選挙の公示日まで約1か月の時期から本件選挙 19 まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとお りであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。 そして,現金は,本件選挙の公示日まで約1か月の時期から本件選挙 19 の投開票日の約10日後までの間に交付されている。 C16は,国会議員の秘書を務めたことがあり,広島県内の選挙運動 を数多く経験するなど,広島県内の選挙に精通している人物であった。 被告人が直接,C16に対し,手伝いを依頼するなど,被告人にとって, C16は,本件選挙におけるBへの支援を広げるに当たり,実効的に動 いてくれることを期待できる人物であったといえる。実際に,C16は, 本件選挙が差し迫った令和元年6月8日から,本件選挙の投開票日であ る同年7月21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙におけるBへ の支援を広める活動に従事している。 そして,被告人がC16に交付した現金は,合計約100万円と,前 記のとおりの,C16の経歴や立場,C16に期待された活動や実際の 活動状況等に照らせば,Bへの投票やBへの支援を広めるための選挙運 動をすることの報酬として相応に見合うだけの額といえる。 以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C16の立場や活動時 期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙におい てBに当選を得しめる目的をもって,C16に対し,C16自身のBへ の投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめ の報酬として,各現金を供与したものと認められ,いずれの現金授受も 選挙買収であったと認められる。 ウ 被告人は,いずれの現金も,D1党広島県参議院選挙区第七支部の職 員の給与として渡したなどと供述する。 しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が交付した いずれの現金についても,Bのために選挙 いずれの現金も,D1党広島県参議院選挙区第七支部の職 員の給与として渡したなどと供述する。 しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が交付した いずれの現金についても,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報 酬であったと認めるほかない。 ⑸ C17に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号87) 20 ア C17の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認めら れる。 C17は,呉市内の会社の役員を務め,また,同社の先代の社長でもあ る呉市議会議員の秘書を平成10年から約20年間務めていた。 C17は,平成31年4月中旬頃から,Bらから,呉市内におけるBの 事務所(連絡所)の手伝いをしてほしいなどと頼まれ,令和元年6月中旬 頃から,呉市内の事務所で手伝いをするようになった。C17は,そこ で,有権者らに配布するBのポスターや後援会入会申込書,選挙はがき 等を1セットずつにまとめる作業や,被告人らの事務所スタッフのC2 が本件選挙におけるBへの支援をお願いして回る企業の紹介,Bの後援 会入会申込書や選挙はがきの配布及び回収,事務所における来客対応, 電話作戦の実施,Bの個人演説会に来援した国会議員の案内等を行い, こうした活動を同年7月21日頃まで続けた。 被告人は,同年6月中旬,C17に対し,5万円を渡した。 イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC17に現金を渡した趣旨について 説明する。 まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとお りであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。 そして,現金の交付時期は,本件選挙の公示日まで1か月以内の頃で ある。 C17は,地方議員の秘書を長年務めるほか,呉市内の企業の役員を 務めるなど,広島県内の選挙に精通し,また, とが認められる。 そして,現金の交付時期は,本件選挙の公示日まで1か月以内の頃で ある。 C17は,地方議員の秘書を長年務めるほか,呉市内の企業の役員を 務めるなど,広島県内の選挙に精通し,また,呉市内において,大きな影 響力を有する人物であった。被告人もそのことを十分に認識しており, 被告人らにとって,C17は,本件選挙におけるBへの支援を広げるに 当たり,実効的に動き,そして,地域において,その影響力を発揮しても らうことが見込める人物であったといえる。実際に,C17は,本件選挙 21 の直前の令和元年6月中旬頃から,本件選挙の投開票日である同年7月 21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙におけるBへの支援を広 める活動に従事している。 そして,被告人がC17に渡した現金は5万円と,前記のとおりの, C17の立場,C17に期待された活動や実際の活動状況等に照らせば, Bへの投票やBへの支援を広めるための選挙運動をすることの報酬とし て相応に見合うだけの額と言える。 以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C17の立場や活動時 期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙におい てBに当選を得しめる目的をもって,C17に対し,C17自身のBへ の投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめ の報酬として,現金を供与したものと認められ,現金授受は選挙買収で あったと認められる。 ウ 被告人は,被告人の政治活動との関係で,呉市地域において人脈のあ るC17とお近づきになりたいと思い,また,事務所のスタッフが食べ る茶菓子代にしてもらいたいとの趣旨で5万円を渡したなどと供述する。 しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が渡した現 金は,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬であったと認める ほ 子代にしてもらいたいとの趣旨で5万円を渡したなどと供述する。 しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が渡した現 金は,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬であったと認める ほかない。 ⑹ C18に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の番号92,106,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の 番号7,10) ア C18の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認めら れる。 C18は,平成7年から,愛知県の稲沢市議会議員を合計6期務め,平 成29年には,衆議院議員総選挙に立候補したものの,落選し,本件当時 22 は,議員の立場から離れていた。 C18は,令和元年6月初旬頃,友人であるC1から,選挙の経験があ るスタッフが少なく,手が回らないので,事務所に来て助けてほしいな どと頼まれた。そして,同月10日には,被告人から,事務所にすぐにで も来てほしいなどと頼まれ,同月15日から,Bの事務所において,その 活動を開始した。C18は,被告人から,事務局長の肩書を与えられ,被 告人からの指示を各スタッフに伝え,各スタッフからの報告事項を取り まとめ,被告人に報告するほか,D2党支援者カードの集計やD2党の 応援弁士をBの講演会に呼ぶ際の調整などのD2党との窓口を務めたり, Bの選挙はがきの宛て名書きや三次市長へのBの応援依頼等を行ったり し,こうした活動を同年7月21日頃まで続けた。 被告人は,C18に対し,直接又は振込により,①同年6月16日,1 0万円を,②同月28日,38万3490円を,③同年7月31日,38 万3490円を,④同年8月1日,10万円をそれぞれ交付した。 イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC18に現金を交付した趣旨につい て説明する。 まず,Bらが置かれていた選挙情勢につ 1日,38 万3490円を,④同年8月1日,10万円をそれぞれ交付した。 イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC18に現金を交付した趣旨につい て説明する。 まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとお りであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。 そして,現金は,本件選挙の公示日まで約1か月の時期から本件選挙 の投開票日の約10日後までの間に交付されている。 C18は,地方議員を長年務め,国政選挙への立候補歴もあるなど,各 級選挙に詳しい人物であった。被告人も直接,C18に対し,事務所に来 てほしいと依頼し,事務局長としての肩書を与えるなど,被告人にとっ て,C18は,本件選挙におけるBへの支援を広げるに当たり,実効的に 動いてくれることを大いに期待できる人物であったといえる。実際に, C18は,本件選挙が差し迫った令和元年6月15日から,本件選挙の 23 投開票日である同年7月21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙 におけるBへの支援を広める活動に従事している。 そして,被告人がC18に渡した現金は合計約100万円と,前記の とおりの,C18の経歴や立場,C18に期待された活動や実際の活動 状況等に照らせば,Bへの支援を広めるための選挙運動をすることの報 酬として相応に見合うだけの額といえる。 以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C18の立場や活動時 期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙におい てBに当選を得しめる目的をもって,C18に対し,有権者にBへの投 票の働きかけを行うなどの投票取りまとめの報酬として,各現金を供与 したものと認められ,いずれの現金授受も選挙買収であったと認められ る。 ウ 被告人は,いずれの現金も,D1党広島県参議院選挙区第七支部の職 員の給与とし どの投票取りまとめの報酬として,各現金を供与 したものと認められ,いずれの現金授受も選挙買収であったと認められ る。 ウ 被告人は,いずれの現金も,D1党広島県参議院選挙区第七支部の職 員の給与として渡したなどと供述する。 しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が交付した いずれの現金についても,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報 酬であったと認めるほかない。 4 C19及びC20に対する現金授受について 被告人は,C19に係る買収について,同人に現金を供与したのでは なく,同人が後援会幹事長を務めていたC30広島県議会議員に現金を 渡してほしいと言ってC19に預けた,C20に係る買収について,同 人に現金を供与したのではなく,同人が後援会会長を務めていたC31 広島市議会議員に現金を渡してほしいと言ってC20に預けたなどと供 述し,弁護人は,いずれも,買収の相手方はC19やC20ではなく, これらを相手方とする現金供与の事実については無罪であると主張する ので,この点についての判断を説明する。 24 ⑴ C19に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の11) ア C19の供述(甲4)の要旨は以下のとおりである。 C19は,E1会E2支部役員であるとともに,平成15年頃から,C 30広島県議会議員の後援会幹事長も務めていた。 被告人は,平成31年3月29日,C30の選挙事務所を訪れ,C19 に対し,C30の所在を確認すると,C19は,C30は不在である旨答 えた。そうすると,被告人は, 「ちょっと,こっち来いや。」などと言って, C19を事務所の壁際まで連れていき,「これを。」と言って,現金30万 円が入った封筒をC19のジャケットのポケットに差し込んだ。C19 は,「これ,いけんよ。」などと言っ っち来いや。」などと言って, C19を事務所の壁際まで連れていき,「これを。」と言って,現金30万 円が入った封筒をC19のジャケットのポケットに差し込んだ。C19 は,「これ,いけんよ。」などと言って,封筒を手に取り,被告人の手に握 らせたが,被告人は,「まあ,ええけ,ええけ。」,「色々かかるじゃろ。」, 「とっとけや。」などと言って,再び,封筒をC19のジャケットのポケ ットに差し込んだ。 その後,C19は,この現金を自宅で保管していたが,令和元年5月上 旬,被告人に返そうと思い,被告人と会った際,「これ,もらうわけには, いかんけえ。」,「お返しします。」などと言って,現金入りの封筒を被告人 の方に差し出したが,被告人は,「ええ,ええ。」,「ええわいの。」,「一旦 出したものは引っ込める訳にはいかんよのぉ。」,「とっとけや。」などと 言って,これを受け取らなかった 被告人は,令和元年5月中旬,C19と会った際に,E3地域に住んで いる女性で,誰かBの選挙運動をしてくれる人はいないだろうかと言っ て,C19と親交の深かったC32の名を挙げ,C19からC32に電 話をかけさせ,被告人とC32の面会をセットさせた。また,被告人は, 同月中旬頃から6月初め頃,C19宅を訪れ,C19に対し,Bのポスタ ーや名刺を複数枚渡し,これらを貼ったり,周囲に配ったりするよう依 25 頼した。 C19は,現金を自宅で保管していたが,令和元年8月下旬以降,その 一部を,自動車の整備費用や修理代等の支払に充てるなどした。その後, 使用した現金分について,自分の口座から現金を引き出して,充当し,現 金30万円が封筒に入っている状態にした後,検察官に提出した。 イ C19の立場からすれば,被告人から現金をC30に渡してほしいと 言われれば,そのように行動するのが自然であるところ, て,充当し,現 金30万円が封筒に入っている状態にした後,検察官に提出した。 イ C19の立場からすれば,被告人から現金をC30に渡してほしいと 言われれば,そのように行動するのが自然であるところ,そうした行動 を取った様子はうかがわれない上,被告人から渡された現金を自ら費消 したと述べるところは客観的な資料から裏付けられており(甲4・資料 4,5),また,充当した現金30万円を自宅に保管していたことも客観 的な資料(甲4・資料6,7)の裏付けにより認められる。これらからす ると,C19は被告人から渡された現金が自分宛てのものであったと認 識していたものと認められる。 そして,これを前提にC19の供述の信用性を検討してみると,現金 をC19のジャケットのポケットに差し込んだ際の状況や,その後,C 19が被告人に封筒を返そうとした状況についてC19が述べるところ は具体的で違和感を抱かせるものはない。C19は,C30の後援会幹 事長というC30の支持基盤において相応の影響力を有し,被告人の後 援会員でもあること,また,被告人は,C19に現金を渡した後,C19 に対して,Bの選挙運動について,C32との仲介を依頼していること (この点は,C32の供述調書(甲64)からも裏付けられる。)やBの ポスターの貼付(甲4・資料2,3)等の依頼をしていることなどからす ると,被告人は,当初は,C30に現金30万円を渡そうと思って,C3 0の選挙事務所に行ったが,C30が不在であったため,C19に対し, 買収の現金を渡すこととしたのだとしても何ら不自然ではない。 以上によれば,自身が現金の供与を受けたとするC19の供述は信用 26 できるものであり,被告人は,C30ではなく,C19を買収する意図で 同人に現金30万円を供与したものと認められる。 ⑵ C20に対する現金授受につ の供与を受けたとするC19の供述は信用 26 できるものであり,被告人は,C30ではなく,C19を買収する意図で 同人に現金30万円を供与したものと認められる。 ⑵ C20に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表 2-1の23) ア C20の供述(甲6,7)の要旨は以下のとおりである。 C20は,E1会E4支部の支部長を務めるとともに,C31広島市 議会議員の後援会会長も務めていた。 被告人は,平成31年4月8日,C20の自宅を訪れ,C20に対し, C31の当選を祝う言葉をかけるなどした後,ジャケットの内ポケット から現金30万円が入った封筒を取り出し,「これは気持ちじゃけえ。」, 「色々と経費がかかったと思いますから。」などと言って,封筒をテーブ ルの上に置いた。C20は,「経費はかかっていますけど,自分持ちじゃ けえ。」,「あなたからもらうべきものじゃないけえ。」,「選挙は無事に済 みました。」などと言って,封筒を被告人に返そうとしたところ,被告人 は,「いや,経費がかかったじゃろ。」,「わしの気持ちじゃけえ。」などと 言って,封筒をC20の方に押し戻した。C20は,「私はそういうこと をしてもらう必要はないけえ。」などと言って,再度,封筒を被告人の方 に移動させたが,被告人は,「いや,わしの気持ちじゃ。」,「受け取ってく れ。」などと言って,封筒をC20の方に押し戻し,すぐに,「お邪魔しま した。」などと言い,その場を立ち去ろうとした。C20は,封筒を手に 取り,立ち去ろうとする被告人の肩に手を置いて,「これは持って帰って ください。」などと言って,封筒を差し出したが,被告人は,封筒を受け 取ることなく,そのまま,C20の自宅を出ていった。 その後,C20は,被告人から渡された現金をどうするか悩み,同月中 旬,C31に相談したとこ どと言って,封筒を差し出したが,被告人は,封筒を受け 取ることなく,そのまま,C20の自宅を出ていった。 その後,C20は,被告人から渡された現金をどうするか悩み,同月中 旬,C31に相談したところ,C31は,「被告人は,わしのところにも 持ってきたんで返した。」,「こりゃ,選挙違反だ。」,「返せ,返せ。」,「お 27 そらく,わしのところに持ってきたものと同じものだろう。」,「わしが受 け取らんかったから,会長さんのところに持ってきたんじゃろ。」などと 言い,C20は,現金を被告人に返すべきだと考えた。 そして,C20は,現金を返すに当たり,「先日申受けました封筒の件 C31議員と相談結果封筒は返戻することが最善であると後援会長の立 場として決断しました。」等と記載した被告人宛ての手紙を作成した。 C20は,令和元年6月7日,「B後援会結成のつどい」の終了後,被 告人が乗っていた自動車に乗り込み,現金が入った封筒と上記の手紙を 封入した封筒を被告人に差し出し,「先般いただいたものは,この中に入 れてあります。」,「これはどうにもならんけえ,C31先生と相談して受 け取ることができないということですので,お返しします。」などと言っ た。すると,被告人が「いやいや,もう渡したもんじゃけえ。」などと言 ったため,C20は, 「いやいや,お返しします。」と言ったが,被告人は, 「いやいや。」などと言った。そこで,C20は,封筒を座席上に置き, 「お返しします。」などと言って,自動車から出ようとしたところ,被告 人は,C20が肩に掛けていたショルダーバッグのひもに手をかけ,引 っ張り,自動車内の座席に座らせた。そして,被告人は,封筒を差し出し ながら,「C20さん,あなたE1会の支部長でしょ。」,「そしたら,私の 話を一つ聞いてくれんかいの。」,「是非ともあな 手をかけ,引 っ張り,自動車内の座席に座らせた。そして,被告人は,封筒を差し出し ながら,「C20さん,あなたE1会の支部長でしょ。」,「そしたら,私の 話を一つ聞いてくれんかいの。」,「是非ともあなたに受け取ってもらわな きゃ困るんじゃ。」などと言った。C20は,「C31先生と話して,返せ という指示を受けております。」,などと言ったが,被告人は,「私の顔を 潰さんでくれ。」などと言った。その後,C20は,「そうは言われても, 私は,これと関係なくBさんを応援していますし,受け取れません。」な どと言ったが,被告人は,「とにかく持って帰ってくれ。」などと言った。 そして,C20は,「それは,一応渡しましたよ。」,「その上で,先生がも う一度『持って行ってくれ』と言うから,今日のところは預かります。」 28 などと言って,封筒を受け取り,自動車を出た。 その後,C20は,現金を自宅で保管し,そのまま,検察官に提出し た。 イ C20の立場からすれば,被告人から現金をC31に渡してほしいと 言われれば,そのように行動するのが自然であるが,C20はC31に 現金を渡していないこと,C20が作成した手紙も,「C31議員と相談 結果封筒は返戻することが最善であると後援会長の立場として決断しま した。」と,C20自身が現金の返却を決断したという記載ぶりになって いること(甲6・資料1)からすると,C20は被告人から渡された現 金が自分宛てのものであったと認識していたものと認められる。 そして,これを前提にC20の供述の信用性を検討してみると,被告 人がC20に封筒を渡した状況やC20が被告人に封筒を返そうとした 状況についてC20が述べるところは,具体的で違和感を抱かせるもの はない。C20が,C31の後援会長というC31の支持基盤において 相応の影響力を有し,また,被 況やC20が被告人に封筒を返そうとした 状況についてC20が述べるところは,具体的で違和感を抱かせるもの はない。C20が,C31の後援会長というC31の支持基盤において 相応の影響力を有し,また,被告人の後援会員でもあり,実際にBのポス ターの貼付をしたり,Bの名刺をE4地域の全ての家のポストに入れた り,Bのために選挙はがきに記入をしたりするなど(甲6・資料4ないし 7),積極的にBの選挙応援の活動をしていることなどからすれば,被告 人がC20に買収の現金を渡したとしても何ら不自然ではない。 以上によれば,自身が現金の供与を受けたとするC20の供述は信用 できるものであり,被告人は,C31ではなく,C20を買収する意図で 同人に現金30万円を供与したものと認められる。 5 事前運動の該当性について 前記のとおり,Bの立候補届出前における,被告人による各人に対す る現金の授受は,いずれも,Bの当選を得しめる目的をもって,Bへの投 票,投票取りまとめなどをすることの報酬としてなされたものであるこ 29 とからすると,これらの被告人の行為が事前運動に該当することは明ら かである。 6 総括主宰者について 関係各証拠によれば,被告人は,本件選挙に向けて,事務所スタッフの 担当業務を割り振り,具体的な活動内容について指示して実施させ,そ の結果の報告を受けていたことが認められる。また,会計担当者に対し ては,詳細に会計報告をさせ,業者への支払いについて指示をするなど し,他にも,スタッフの働きぶりを見て,配置転換を行ったりするなどし ており,経理や人事も掌握していたことが認められ,本件選挙の公示後 もその立場は変わらないものであったと認められる。 以上によれば,被告人は本件選挙におけるBの当選に向けた活動全般 を取り仕切る立場にあったことは明らかであり,Bの立候 とが認められ,本件選挙の公示後 もその立場は変わらないものであったと認められる。 以上によれば,被告人は本件選挙におけるBの当選に向けた活動全般 を取り仕切る立場にあったことは明らかであり,Bの立候補届出後にお いては,選挙運動を総括主宰した者と認められる。 第3 罪となるべき事実第1について 1 C8,C21,C22及びC23に対する現金授受について(罪とな るべき事実第1・別表1の番号1ないし4) ⑴ 現金授受の客観的事実について 関係各証拠によれば,Bが,罪となるべき事実第1記載のとおり,C8 ら4名に現金を渡した事実が認められる。 ⑵ 各現金授受の趣旨等について BがC8ら4名に現金を交付した趣旨についてみると,当時の選挙情 勢や現金授受の時期,C8らの立場,金額等を踏まえれば,選挙買収の 趣旨であると認められ,かつ,これらの現金供与は,本件選挙の立候補 届出前に行われた事前運動に該当すると認められる。 ⑶ 被告人との共謀について 次に,これらが被告人とBとの共謀によるものかについて説明する。 30 ア 関係各証拠によれば,被告人は,「広島県議会議員(定数64人)」と 題し,広島県議会議員の選挙区や会派,氏名等が記載された書面及び「会 派別一覧(平成31年3月6日現在)」と題し,広島市議会議員の選挙区 や会派,氏名等が記載された書面(甲334等。以下,この2つの書面 を併せて「名簿」という。)を所持し,手書きで文字や数字等を記入して いたことが認められる。 また,被告人は,「安佐南区 C33 50」の記載で始まり,同様に 広島県内の地名・人名・数字が2頁・46行にわたって記載された書面 (甲334等。この判決で「リスト」と呼ぶもの)を作成,所持していた ことが認められる。 まず,リストの内容についてみると,その記載内容のうち,当 ・人名・数字が2頁・46行にわたって記載された書面 (甲334等。この判決で「リスト」と呼ぶもの)を作成,所持していた ことが認められる。 まず,リストの内容についてみると,その記載内容のうち,当公判廷 で証言したり,供述調書が取り調べられて,現金の授受について証拠上 明らかになっている者を抜き出してみると, 安佐南区 C33 50 C9 30+20 C34 30 安佐北区 C35 30+20 C36 30+20 C37 30 安芸高田市 C38 30+20 C39 20 C40 10 北広島町 C41 30+20 C7 20 安芸太田町 C43 20 C44 20 31 中区 C45 30 西区 C46 30+20 C47 30+20 佐伯区 C48 50+20 C49 30 C50 20 廿日市市 C51 10 江田島市 C24 10 中区 C52 30 南区 C53 30+20 安芸区 C6 30+20 C54 30+20 呉市 C23 50+50+100 C55 30 三原市 C5 50+100 C56 30 尾道市 C57 30 C58 30 福山市 C10 30+30 C29 30+30 安佐北区 C12 30+20 安芸郡 C21 30 C59 30 東広島市 C22 50 府中市 C8 30+20 C13 200+100 9 30+30 安佐北区 C12 30+20 安芸郡 C21 30 C59 30 東広島市 C22 50 府中市 C8 30+20 C13 200+100 32 と記載されている。 これらの人名は,広島県議会議員や広島市議会議員らと認められ,こ れらの数字に万円の単位を付すと,C12を除き,当裁判所が認定した 各人への現金交付とほぼ一致する。数字が複数記載されている者につい てはその順序も同じである(なお,C38については,2回目に受け取っ た30万円のうち,10万円を被告人の陣営に返却しているので,これ を差し引いた数字と一致している。C46については,数字の順序が当 裁判所の認定した順序と逆である。)。そして,このリストの電子データ は,被告人による現金供与が開始された後の平成31年3月30日に作 成が開始され,その後令和元年7月29日まで40回近く改訂されてい ること,C38への現金供与のように,現金の一部を返却した結果の金 額が記載されていたり,C60やC61,C11,C62のように,被告 人に現金全額を返却した者についてはリストに記載がないことなども加 味して考えると,このリストの内容は,被告人が,自身やBが現金を渡し た相手の名前やその金額を取りまとめたものと認められる。 次に名簿について,その記載内容をみてみると,名簿には,氏名等が 記載された列の欄の横などに,「A’」や「B’」,「50」等,被告人によ る文字や数字等の書き込みが複数存在する。なお,「A’」は夫婦間にお ける被告人の呼称であり,「B’」は夫婦間におけるBの呼称と認められ る。 そして,被告人が現金を渡した者のうち,C61,C46,C37,C 9,C35,C49,C33,C36,C48の欄の横には,「A’」とい う記載がある。また,名簿の 間におけるBの呼称と認められ る。 そして,被告人が現金を渡した者のうち,C61,C46,C37,C 9,C35,C49,C33,C36,C48の欄の横には,「A’」とい う記載がある。また,名簿の余白部分には,「C44 20 A’」,「C7 20 A’」,「C39 20 A’」,「C40 10 A’」との記載があ るが,これらの者には,被告人が実際に,これらの数字に万円を付した額 の現金を渡している。 33 Bが現金を渡した者についてみると,C8,C21,C22の欄の横に は「B’」という記載があり,C23の欄の横には「50 A’ 祝」と いう記載がある。C23には,Bも現金を渡しているが,それに先立っ て,被告人が現金50万円を渡している。 C63のように,名簿の同人の欄の横には「50 B’」との記載があ るが,Bや被告人からの現金供与の申出があったもののこれを拒絶した 者や,C62のように,名簿の余白には「C62 20 B’」との記載 があるが,被告人から現金を受け取ったものの返還した者もいる。 一方,被告人が現金を渡した者でも,C12やC57,C47,C6の 欄の横には「B’」との記載があるなど,名簿の記載と実際に現金を渡し た者に違いがあるものも存在する。 このような名簿の内容や実際の現金授受の状況に照らせば,名簿は, 被告人が,実際の現金交付に先立って,誰に対して,被告人とBのうち どちらが現金を交付するか,また,その額をいくらにするかなど検討し た過程が記載されたものと認められる。 イ 以上の認定事実を踏まえ,Bが現金を交付したC8ら4名についてみ ると,まず,被告人が作成・所持していたリストに,Bが交付した金額 どおりの記載があるのであるから,被告人がBからそれらの交付につい て事後に報告を受けていたことは明らかである。 そして, についてみ ると,まず,被告人が作成・所持していたリストに,Bが交付した金額 どおりの記載があるのであるから,被告人がBからそれらの交付につい て事後に報告を受けていたことは明らかである。 そして,名簿の記載からも分かるように,被告人は,広島県議会議員 や広島市議会議員への現金交付について,Bとの役割分担を含めた全体 の構想を練っていたこと,また,Bが実行した現金交付について,その 結果の報告を受け,自身による現金交付を取りまとめていたリストにB による現金交付の分も記入して,現金交付の結果をBの分も含めて把握 していたことからすれば,C8ら4名に対する現金交付について,被告 人はBと意を通じていたと推認するのがごく自然である。特に,C8, 34 C21及びC22は,名簿には「B’」とBの呼称を示す文字が記載され ているところ,そのとおりBによって実行されているのであって,上記 推認を強く裏付ける。C23については,名簿には「A’」と被告人の呼 称を示す文字が記載されているが,C23に1回目に現金を渡したのは 被告人であり(罪となるべき事実第2・別表2-1の番号16),また, そもそも,前記のとおり,名簿の記載どおりにすべて事を運んだわけで もなく,上記推認を覆すようなものでもない。 そして,罪となるべき事実第2の項で説明した諸事情に照らせば,C 8ら4名への現金交付について,被告人において,選挙買収の意図があ ったことは明らかである。 以上によれば,BによるC8ら4名に対する現金供与は,被告人との 共謀によるものと認められ,被告人には,C8ら4名に対する選挙買収 及び事前運動の罪が成立する。 2 C24に対する現金供与におけるBとの共謀について(罪となるべき 事実第2の1・別表2― 1の番号93) ⑴ 関係各証拠によれば,被告人が,被告人の指示を受けたC2 及び事前運動の罪が成立する。 2 C24に対する現金供与におけるBとの共謀について(罪となるべき 事実第2の1・別表2― 1の番号93) ⑴ 関係各証拠によれば,被告人が,被告人の指示を受けたC2を介して, C24に対して現金10万円を交付した事実が認められる。 そして,既に検討した当時の選挙情勢や現金授受の時期,C24の立 場,金額等を踏まえれば,被告人によるC24に対する現金の交付は, 選挙買収の趣旨であり,かつ,Bの本件選挙の立候補届出前に行われた 事前運動に該当すると認められる。 ⑵ 検察官は,被告人によるC24に対する現金供与はBとの共謀に基づ いて行われたものであるとして起訴をしているが,そのような共謀は認 められないと判断した理由について説明する。 C2の証言によれば,C2は,被告人の指示に基づいて,G市民センタ ーで行われたカラオケ大会の会場でC24に現金10万円入りの封筒を 35 渡したこと,それに先立ち,Bに対し,被告人から預かっている封筒をカ ラオケ大会の日に渡すことになったと伝えたことや,カラオケ大会の会 場で,Bに対し,現金の入った封筒を示しながら,被告人から預かってい るものをC24に渡さないといけないと伝えたことが認められる。 これらの事実に加え,Bが,被告人と共謀の上,既にC8らに対して選 挙買収の趣旨で現金を供与していたことなどからすれば,Bは,被告人 の指示を受けたC2がC24に対して選挙買収の趣旨で現金を供与する かもしれないと推知していた可能性はあるが,被告人のC2に対する指 示の具体的な内容や封筒の中身を了知していなかったことからすると, C24への現金供与を確定的に認識していたものとは認められない。 そして,C2は,被告人の指示に従って,C24に現金入りの封筒を渡 したのであり,Bは,C2がC24に現金を渡 なかったことからすると, C24への現金供与を確定的に認識していたものとは認められない。 そして,C2は,被告人の指示に従って,C24に現金入りの封筒を渡 したのであり,Bは,C2がC24に現金を渡したカラオケ大会の会場 内にいただけであって,その現金授受に関し,積極的に関与したり,強い 影響を及ぼしたりしたような事情も証拠上認められない。 C24への現金供与について,被告人とBとの間に共謀を認めるに足 りる立証はなされていない。 よって,被告人によるC24に対する現金供与について,Bとの共謀 は認められない。 第4 公訴権濫用の主張について 1 弁護人は,①本件起訴は,被告人らと対向犯の関係にある受供与者に ついて1人も起訴されていない著しく均衡を欠くもので,憲法14条に 反する差別的な訴追である,②本件起訴までの受供与者に対する検察官 の取調べには,検察官が受供与者の起訴・不起訴の処分をあえて決めな い状態にして,受供与者に検察官の意に沿うような供述をさせるなど極 めて重大な職務違反が認められるといった理由を挙げて,本件起訴は, 検察官の訴追裁量を大きく逸脱したもので,公訴権の濫用として公訴棄 36 却されるべきであると主張する。 2 しかし,①現時点で受供与者が1人も起訴されていないとしても,被 告人が行った本件犯行の性質及び内容,その規模等からすれば,被告人 に対する本件起訴が不公平で検察官の訴追裁量権を逸脱するものとは到 底いえない。また,②関係各証拠をみても,本件起訴に至る捜査の過程 に,公訴提起の効力に影響を及ぼすような職務違反があったと見受けら れる事情は存在せず,弁護人の主張はその前提を欠いている。 よって,弁護人の主張は採用できない。 (量刑の理由) 本件は,参議院議員通常選挙において,現職の衆議院議員であって,同 選挙 けら れる事情は存在せず,弁護人の主張はその前提を欠いている。 よって,弁護人の主張は採用できない。 (量刑の理由) 本件は,参議院議員通常選挙において,現職の衆議院議員であって,同 選挙の候補者である妻・Bの当選に向けた活動全般を取り仕切っていた被 告人が,Bに当選を得しめる目的で,①Bと共謀の上,広島県内の政治家 ら4名に対し,Bへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの 報酬として,現金を供与するとともに,それにより事前運動をし,単独で, ②広島県内の政治家ら96名に対し,同様の趣旨で,現金を供与するとと もに,それにより事前運動をし,③同選挙におけるBの選挙運動を総括主 宰した者として,広島県内の政治家ら8名に対し,同様の趣旨で,現金を 供与したという事案である。 被告人は,受供与者との関係性や受供与者の立場,地域における影響力 の大きさ等を踏まえて,誰が誰にいくら渡すのか検討するなど,本件犯行 全体を差配した。犯行の一部はBが実行したものの,大半は自らが実行し ている。供与の相手方は,選挙区となる広島県全域にわたっており,その 実人数は合計100名と極めて多く,供与した金額も,それぞれ1回当た り5万円から200万円,合計2871万7450円と多額であり,極め て大規模な選挙買収といえる。供与に当たっては,現金の受領を拒む者に 対して,何度も受領を迫ったり,無理やり受け取らせたりするなど,悪質 37 な態様に及んでいるものも少なくない。 弁護人は,被告人が犯行を認めている大半の事件について,被告人に, Bの当選を得たいという目的があったことは否定しないが,その目的は主 たるものではなく,各受供与者に応じ,それぞれ別の正当な目的もあった ことを量刑上重視すべきであると主張するが,弁護人の主張を前提にして も,Bの当選を得たいという目的が とは否定しないが,その目的は主 たるものではなく,各受供与者に応じ,それぞれ別の正当な目的もあった ことを量刑上重視すべきであると主張するが,弁護人の主張を前提にして も,Bの当選を得たいという目的が被告人にあったことは紛れもない事実 であり,厳しい非難が向けられることに変わりはない。 以上によれば,本件は,民主主義の根幹である選挙の公正を著しく害す る極めて悪質な犯行といえ,被告人が負うべき刑事責任は重く,同種の選 挙買収の事案の中でも,際立って重い部類に属する事案といえる。 また,被告人は,本件犯行後,証拠を隠滅する行為に及んでおり,犯行 後の情状もよくない。 被告人が,被告人質問の段階に至り,犯行の大半を認めるなど,被告人 なりに反省の態度を示していることを考慮しても,被告人には,相当期間 の実刑に処するのが相当である。 なお,被告人は,身柄拘束期間中に受領した議員歳費相当額(700万 円)について,国庫への返納ができない代わりにH養護施設財団に寄附を しているが,上記のような寄附に至る経緯などに鑑みれば,本件犯行につ いての刑を減ずべき事情とはしない。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑 懲役4年,追徴150万円 弁護人の科刑意見 刑の執行猶予) 令和3年6月18日 東京地方裁判所刑事第4部 裁判長裁判官 髙 橋 康 明 38 裁判官 品 川 し の ぶ 裁判官 渋 谷 俊 介 39 (各別表省略)
▼ クリックして全文を表示