平成16(わ)52 強要未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年6月8日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,145 文字)

主文 被告人を懲役1年に処する。 未決勾留日数中30日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,指定暴力団A会組員であるが,B特定建設共同企業体(代表者C建設株式会社代表取締役D)が日本下水道事業団から受注した「M・N広域下水道組合M・N浄化センター建設工事その6」の工事(以下「本件工事」という。)について,前記共同企業体L作業所所長E(当時40歳)を脅迫して,被告人らの希望する地元業者を前記共同企業体の下請けとして参入させようと企て,前記A会組員のFと共謀の上,平成15年5月20日,兵庫県津名郡a町bc番地のd所在の前記L作業所現場事務所(以下「本件事務所」という。)において,Eに対し,Fが,「地元のことどう考えとるんや。地元対策ええ加減なことしたらあかんぞ。」「わしは下っ端やからわからん。」「Gさんに電話してくれ。」などと申し向け,Eをして被告人に電話をかけさせた上,Eに対し,被告人が,「A会のGです。会って話をしよう。」などと申し向け,さらに,同月21日,本件事務所において,Eに対し,Fが,「Gさんと会う約束をなんで破るんや。わしの顔が潰れる。」「ガードマン使ってくれれば顔が立つ。」「枝がいろいろ来るけど,自分らと話をしてれば収まる。Gの名前を出したら,ほかは皆来なくなる。」などと申し向け,引き続き,同月29日,本件事務所において,Eに対し,被告人が,「地元のうちの顔だけ立てんと,よその明石の業者にポンプの仕事,やってください言われて。わしが他の来とって止めとけ言うたメンバーに,もし耳に入ったら,どない返事したらよろしいのん。」「H,Iだけ使うてもろたら具合悪いんですわ。」「Fがもの言うとるさかい,月曜日返事します言うさかい,皆顔が立 他の来とって止めとけ言うたメンバーに,もし耳に入ったら,どない返事したらよろしいのん。」「H,Iだけ使うてもろたら具合悪いんですわ。」「Fがもの言うとるさかい,月曜日返事します言うさかい,皆顔が立つようにしてもろたるさかい,行くの止めとけということを言うたんですよ。」「島内だけでも枝の枝入れよったら100何人かくらいおるねんから・・,やっぱりそれだけは顔立ててもらわな,わしも顔ないしね。」「それだけしたら後は責任持って止めるし,もし来てもこっちで対処させてもらうし。けど,それすらでけへんいうんやったら,わしも知らんし。それやったら,全員来るたんび,来る人間中止命令出してもろてええですわ。」「仮に30人来ても,これ本家本元の仕事できまへんわね,所長が・・困りますわ。」「顔立てへんかったら,そればっかり労力使わなあかんようになりますもんね。」「ガードマンだけ変えてもろたら皆の顔が立ちますさかい。」「上のもんは極道みたいなもん放っとけ言うけど,現場対策,所長が困りまっしゃろ。」などと執拗に申し向けて脅迫し,Eをして,もしその要求に応じなければ,同人の身体,自由及び名誉等にどのような危害を加えられるかもしれないと畏怖させて,人に義務のないことを行わせようとしたが,同人がその要求に応じなかったため,その目的を遂げなかったものである。 (証拠)省略(補足説明)第1 弁護人は,Eに対し本件工事への下請参入を働きかけるなどしたFの行動は,同人が被告人に相談することなく独自に敢行したものであるところ,被告人は,Eが本件事務所を訪れた他の組員に対して「その件については被告人と交渉中である。」旨,被告人の名前を勝手に使っていることを知って,これをEに問いただそうと本件事務所に赴いたものであり,その際,同人に対し判示の発言をしたことは事実であるが,これ については被告人と交渉中である。」旨,被告人の名前を勝手に使っていることを知って,これをEに問いただそうと本件事務所に赴いたものであり,その際,同人に対し判示の発言をしたことは事実であるが,これは脅迫行為と評価すべきものではなく,したがって,判示のFとの共謀も脅迫行為も存在しないから被告人は無罪である旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするが,前掲関係各証拠によれば,弁護人が主張する点を含め,判示犯罪事実は優に認められる。以下その理由を若干補足する(以下,甲,乙に続く数字は,当審の検察官請求証拠番号をいい,日付はいずれも平成15年をいう。)。 第2 Fとの共謀について 1 Fは,捜査段階において,検察官に対し,被告人の指示を受けてEらに対して自分らの望む業者を本件工事に下請参入させるべく交渉を開始し,その後,被告人と連絡を取りつつEらに働きかけていたことを具体的に供述している(甲25,26)ところ,この検察官調書中の供述記載は,5月20日にFがEと面談した際,「地元対策」の具体的内容は被告人に電話をして聞くように告げていること(当審第2回公判調書中のE,J及びFの各供述部分),その面談後,Fの指示に基づいてEから被告人の携帯電話に連絡がなされるまでの間においてもFが被告人と連絡を取っていること(甲39),そのEから被告人への電話連絡の際,Eが被告人に対し,Fから被告人に連絡しろと言われたと告げただけで,被告人は,話がわかった様子であり,翌日,「地元対策」の具体的内容を説明するためにEと会う約束をしたこと(当審第2回公判調書中のEの供述部分),翌21日,Eが被告人と会う約束をキャンセルするやFが本件事務所を訪れこれを難詰したこと,被告人が同月29日にEに会った際に,「Fがもの言うとるさかい,月曜日返事します言うさかい,皆顔が立つように 翌21日,Eが被告人と会う約束をキャンセルするやFが本件事務所を訪れこれを難詰したこと,被告人が同月29日にEに会った際に,「Fがもの言うとるさかい,月曜日返事します言うさかい,皆顔が立つようにしてもろたるさかい,行くの止めとけということを言うたんですよ。」などと述べ,Fが同月26日(月曜日)に要求を断られたことを前提に発言していること(甲29,38)などとも合致する自然なものであること,Fにとって被告人は暴力団組織における兄貴分に当たるのであるから,よほどのことがない限り虚偽の事実をねつ造してまで被告人を犯罪の共犯者として巻き込むような内容の供述をするとは考えがたいことなどに照らすと,Fの前記の検察官に対する供述内容は十分に信用できるというべきである。 2 これに対して,Fは,当公判廷(当審第2回公判調書中の供述部分)において,自らの判断で被告人とは無関係にEとの交渉を開始したのであって,前記検察官調書中の供述は,Eの携帯電話番号を教えてくれたKなる人物に迷惑がかかることを恐れ,あるいは,被告人との共謀を認めても二人とも不起訴になるだろうと警察官から利益誘導を受けたため承認した虚偽内容のものである旨を供述する。 しかしながら,Fの供述によれば,年に何回か飲食を共にする程度の知人に過ぎないKなる人物に対し,Eの電話番号を教えたことに関し警察官から事情聴取されるという程度の迷惑を掛けたくないがために,暴力団組織における自らの兄貴分に当たる被告人を強要事件の共犯者として逮捕・勾留されるような事態に巻き込んだということになるが,その供述内容自体,極めて不自然であり,加えて,Fは,自らが起訴された強要未遂被告事件の第1審において,被告人が起訴されたことを知りながら公訴事実を争っておらず,被告人は起訴されないと思って被告人の関与を認めた 体,極めて不自然であり,加えて,Fは,自らが起訴された強要未遂被告事件の第1審において,被告人が起訴されたことを知りながら公訴事実を争っておらず,被告人は起訴されないと思って被告人の関与を認めた旨のFの前記供述と矛盾した行動をしていることなどに照らすと,Fの当審第2回公判調書中の前記供述部分は明らかに信用性がない。 3 そして,本件犯行はFの独断であり,被告人とFとの間に共謀はなかった旨の被告人の弁解も,信用性の十分な前記Fの捜査段階の供述に照らし,信用することができず,被告人とFの間には,本件犯行についての事前の共謀があり,共謀に基づきFはEに働きかけていたものと優に認められる。 第3 被告人による脅迫行為について前記被告人との共謀に基づくFの行為を引き継いで被告人が行ったEとの面談における発言であることを前提に,被告人が5月29日にEらと面談した際の被告人の発言内容につき検討するに,Eがその際の会話内容を録音した内容(甲29,38)によれば,被告人がEに対し判示文言を申し向けたことは明らかであるところ,その内容は,発言全体を踏まえ検討しても,A会という暴力団組織の一員である被告人が,自らの要求を聞き入れなければ,暴力団組織の威力を背景に,自己の影響力が及ぶ組織の人間等により本件工事が妨害されることになる旨を告げているものと見るほかはなく,現に暴力団員風の者が入れ替わり立ち替わり事務所に来訪して下請参入等を要求したり,Eがこれらの者の一部に対しGと交渉中である旨伝えたところ相手方が引き下がったこともあったのであるから,Eにとっては,被告人の判示発言は,たとえその際に談笑を伴うようなことがあり,あるいは,あからさまな脅迫文言が含まれていないとしても,極めて現実味を帯びた害悪の告知であることは明らかである。弁護人は,事前に警察に 被告人の判示発言は,たとえその際に談笑を伴うようなことがあり,あるいは,あからさまな脅迫文言が含まれていないとしても,極めて現実味を帯びた害悪の告知であることは明らかである。弁護人は,事前に警察に相談していたEが被告人から脅迫文言を引き出してこれを録音しようとしたと主張するが,その発言の前後の状況を検討しても,Eらの誘導によってかかる発言がなされたものとはいえず,むしろ被告人から積極的に害悪の告知を行ったものと認められるのであって,被告人の前記発言が自己の要求を受け入れさせるための脅迫行為に当たるものと優に認めることができる。 第4 以上のとおり,被告人は本件工事に自らの希望する下請業者を参入させることを企て,その旨Fと共謀し,まず,Fがかかる共謀に基づきEに対して本件工事への下請参入を認めさせようと図り,これに引き続き被告人自らが暴力団組織の威力を背景にしてEに対して脅迫を加えて自らの要求を受け入れさせようとしたものと優に認められる。弁護人の主張は理由がない。 (適用法令)被告人の判示所為は刑法60条,223条3項,1項に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数(被疑者勾留を含む差戻前第一審の未決勾留)中30日をその刑に算入することとする。 (量刑事情)本件は,暴力団員である被告人が,弟分である共犯者と共謀の上,工事業者に脅迫を加えて,自らの望む業者を公共工事に下請参入させようとしたが,未遂に終わったという強要未遂の事案である。 自己の影響下にある業者を公共工事の下請けに参入させ暴力団組織の影響力を誇示するとともに利益を得ようとした本件犯行の動機及びその経緯に酌量の余地はなく,その犯行態様は,暴力団組織の威力を背景に,共犯者を通じて,あるいは被告人自ら工事事務所に乗り込んで 団組織の影響力を誇示するとともに利益を得ようとした本件犯行の動機及びその経緯に酌量の余地はなく,その犯行態様は,暴力団組織の威力を背景に,共犯者を通じて,あるいは被告人自ら工事事務所に乗り込んで,その責任者を執拗に脅迫したもので,暴力団特有の陰湿かつ悪質な計画的犯行というべきである。それにもかかわらず,被告人は,本件の責任を弟分であるFに押しつけ,前記のとおり不自然不合理な弁解に終始しており,真摯な反省の態度はみられず,その規範意識の歪みや乏しさも軽視しがたい。 そうすると,被告人の刑事責任は重いというべきであり,被害者である業者側の毅然とした対応によるものとはいえ,幸いにして本件が未遂に止まったこと,被告人には平成元年に傷害及び業務上過失傷害の各罪により執行猶予付きの懲役刑に処せられた以外には前科がないこと,被告人の内妻が差戻前の第一審において,被告人の更生のために尽力する旨を述べていることなどの事情を十分に考慮しても,主文掲記の実刑に処するのはやむを得ないものと思料し,主文のとおり量刑した。 (求刑―懲役1年6か月)平成16年6月8日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官杉森研二裁判官小倉哲浩裁判官沖敦子

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