平成14(わ)1091 業務上過失致死傷

裁判年月日・裁判所
平成16年7月30日 名古屋地方裁判所
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判決文本文44,162 文字)

主文 被告人は無罪 理由 第1 公訴事実の要旨被告人は,甲航空株式会社に勤務し,ダグラス式MD-11型機の機長として同型機の操縦業務に従事していたものであるが,平成9年6月8日,香港啓徳国際空港発名古屋空港行同社定期航空706便(上記ダグラス式MD-11型機,乗客169名及び乗務員11名搭乗)に機長として乗り組み,同日午後4時38分ころ,上記香港啓徳国際空港を離陸し,航路[G581]を名古屋空港に向けて航行し,対気速度を350ノットに設定して同空港に向け自動操縦装置で降下中の同日午後7時48分ころ,三重県志摩半島付近上空において,対気速度が上記設定対気速度を超過し,さらに,同機の最大運用限界速度(365ノット)を超過したため,減速措置を講じようとしたが,このような場合,操縦輪に過大な力を加えれば,自動操縦装置が自動的に解除されて急激な機首上げが生じ,引き続きその機体姿勢の修正に伴う機首の上下動が繰り返し発生し,その衝撃によって乗客等の生命,身体等に危害を及ぼす危険があったのであるから,機長としては,自動操縦装置の解除ボタンを押して自動操縦装置を解除した後,手動で機首上げ操作を行って減速するなど操縦輪に過大な力を加えることなく減速して,事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があったのに,これを怠り,そのころ,上記志摩半島上空約1万6700フィート付近において,操縦輪を強く引いて,これに過大な力を加えた過失により,自動操縦装置を自動的に解除させて急激な機首上げを生じさせ,その機体姿勢の修正操作に伴う数回の機首の上下動を発生させ,その衝撃により,客室乗務員A1ほか6名及び乗客B1ほか5名の合計13名に対し傷害を負わせるとともに,同乗務員C(当時33歳)に対し,脳挫傷,びまん性脳軸索損傷,急性硬膜下出血等の傷害を負わせ,平成11年2 より,客室乗務員A1ほか6名及び乗客B1ほか5名の合計13名に対し傷害を負わせるとともに,同乗務員C(当時33歳)に対し,脳挫傷,びまん性脳軸索損傷,急性硬膜下出血等の傷害を負わせ,平成11年2月16日午後11時25分ころ,東京都大田区ab丁目c番d号所在の乙病院において,同人を多臓器不全により死亡させた。 第2 弁護人の主張 1 本件公訴事実について,弁護人は,次のとおり被告人は無罪であると主張し,被告人もこれに沿う供述をする。 (1) 被告人は,減速のために操縦輪を機首上げ方向に操作するといった行為は行っておらず,自動操縦装置が解除されたのは,被告人の行為が原因ではない。しかも,最初の機首上げは,自動操縦装置が解除される以前に発生しており,自動操縦装置の解除が原因で起こったのではない。さらに,被告人は,公訴事実に記載されているような最初の機首上げに続く機体姿勢の修正操作も行っていない。 (2) 被告人には,公訴事実に掲げられるような結果予見義務及び結果回避義務は無かった。 (3) 本件公訴事実に係る事故(以下,「本件事故」ともいう。)による負傷者は,被告人のシートベルト着用の指示に従わなかったシートベルト未着用者又は適正にシートベルトを着用していなかった者であり,負傷の最終原因は,シートベルトの未着用又は適正にシートベルトを着用していなかったことである。 2 さらに,弁護人は,航空事故調査報告書(甲57[以下,甲,乙の番号は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号である。])につき,国際民間航空条約第13付属書5.12条により,事故又はインシデント調査以外の目的に利用してはならないとされる情報が含まれており,当該情報が開示済みであるか否かにかかわらず,この制限が及ぶのであって,これを刑事裁判の証拠として利用するためには,同条によ インシデント調査以外の目的に利用してはならないとされる情報が含まれており,当該情報が開示済みであるか否かにかかわらず,この制限が及ぶのであって,これを刑事裁判の証拠として利用するためには,同条によって定められるとおり,裁判所が,その利用が,当該調査又は将来の調査に及ぼす国内的及び国際的悪影響よりも重要であると判断しなければならず,そのような判断を経ていない航空事故調査報告書は証拠から排除されなければならず,また,航空事故調査報告書は鑑定に準ずる書面としての要件を欠いている旨を主張する。 第3 航空事故調査報告書の証拠能力について 1 航空事故調査報告書と国際民間航空条約第13付属書(1) 愛知県名古屋空港警察署の警察官は,平成9年6月10日付けで,当時の運輸省航空事故調査委員会に対し,フライト・データ・レコーダー及びコックピット・ボイス・レコーダーを鑑定資料として,飛行状態,それぞれの機器の作動状況,操縦室録音装置及び飛行記録装置の解析,その他本件事故の参考事項につき鑑定嘱託し(甲52),同年10月31日付けで,運輸省航空事故調査委員会委員長Dに対し,クイック・アクセス・レコーダーを鑑定資料として,事故原因の解明,飛行状態及びそれぞれの機器の作動状況の解析,その他参考事項につき鑑定嘱託した(甲55)。 これに対し,平成11年12月14日付けで,運輸省航空事故調査委員会事務局総務課長名で,愛知県名古屋空港警察署長あてに,「鑑定嘱託について(回答)」と題する書面により,航空事故調査報告書をもって,前記鑑定嘱託に回答するとの連絡がなされ(甲56),甲57号証の航空事故調査報告書(以下,「本件航空事故調査報告書」ともいう。)が送付された。 本件航空事故調査報告書は,航空事故調査委員会が平成11年12月17日付けで作成し,公表した航空事故調 57号証の航空事故調査報告書(以下,「本件航空事故調査報告書」ともいう。)が送付された。 本件航空事故調査報告書は,航空事故調査委員会が平成11年12月17日付けで作成し,公表した航空事故調査報告書と同一の内容のものであり,当時の航空事故調査委員会設置法及び国際民間航空条約第13付属書(以下,「第13付属書」ともいう。)に基づき,調査の経過,認定した事実,事実を認定した理由,原因,勧告等が記載されている。 (2) 第13付属書は,同条約が定める航空事故の調査に関する標準(物理的特性,形態,施設,性能,人員及び手順に関する細則であって,その統一的適用が国際航空の安全又は正確のため必要と認められ,締約国が条約に従って遵守しなければならず,遵守不可能の場合には,同条約38条により理事会への通告が義務づけられているもの)及び勧告方式(物理的特性,形態,施設,性能,人員及び手順に関する細則であって,その統一的適用が国際航空の安全,正確及び能率上望ましいと認められ,締約国が条約に従って努力すべきもの)を定めている。 その3.1条には,「事故又はインシデント調査の唯一の目的は,将来の事故又はインシデントの防止である。罪や責任を課するのが調査活動の目的ではない。」と規定され,5.12条には,「事故又はインシデントがいかなる場所で発生しても,国の適切な司法当局が,記録の開示が当該調査又は将来の調査に及ぼす国内的及び国際的悪影響よりも重要であると決定した場合でなければ,調査実施国は,次の記録を事故又は重大インシデント調査以外の目的に利用してはならない。 a) 調査当局が調査の過程で入手したすべての口述b) 航空機の運航に関与した者のすべての交信c) 事故又は重大インシデントに関係ある人の医学的又は個人的情報 してはならない。 a) 調査当局が調査の過程で入手したすべての口述b) 航空機の運航に関与した者のすべての交信c) 事故又は重大インシデントに関係ある人の医学的又は個人的情報d) コックピット・ボイス・レコーダに記録された音声及びその読み取り記録e) フライト・レコーダの情報を含めて情報の解析において述べられた意見これらの記録を最終報告書又はその付録に含めるのは,事故又はインシデントの解析に関係あるときのみでなければならない。解析に関係ない部分の記録は,これを開示してはならない。 注事故又は重大インシデント調査の間に面接した者から自発的に提供されたものを含む上記の記録に含まれる情報は,その後の懲戒,民事,行政及び刑事上の処分に不適切に利用される可能性がある。もしこのような情報が流布されると,それは将来,調査官に対し包み隠さず明らかにされるということがなくなるかもしれない。このような情報を入手できなくなると,調査の過程に支障を来たし,航空の安全に著しく影響を及ぼすことになる。」と規定されている。 2 第13付属書の効力(1) 第13付属書は,航空機事故についての標準及び勧告方式を内容とするものであり,国際民間航空条約37条に基づき,国際民間航空機関の理事会の三分の二の多数決によって,必要に応じて随時採択され,改正されてきた。そして,同条約38条は,自国の規制若しくは方式を標準に一致させることがすべての点で不可能であると認め,又は特定の点で標準と異なる規制又は方式を採用することが必要と認める国は,自国の方式と国際標準によって設定された方式との相違を直ちに国際民間航空機関に通告しなければならず,国際標準の改正があった場合に自国の規制又は方式に適当な改正を加えない国は,国際標準の改正の採択の日から の方式と国際標準によって設定された方式との相違を直ちに国際民間航空機関に通告しなければならず,国際標準の改正があった場合に自国の規制又は方式に適当な改正を加えない国は,国際標準の改正の採択の日から60日以内に理事会に通告し,又は自国が執ろうとする措置を明示しなければならない旨を規定し,相違通告という制度によって,標準として定められた内容の遵守を確保している。 (2) 日本国は,第13付属書第7版までは,相違通告をしていたところ,平成6年11月に発効した同第8版及び平成13年11月に発効した同第9版のいずれの5.12条についても相違通告をしていない。 (3) 付属書は,条約自体ではなく,また,国際民間航空条約加盟国の合意により採択されるものでも,直接に同条約加盟国を拘束するものでもないが,同条約が,統一された手続等の実現に向けて,付属書により標準等を採択し,相違通告制度によって,付属書の定める標準に従わない別個の方式を採用する国は,その旨を明らかにすべきことを義務づけていることからすると,相違通告をしない国は,採択された付属書の定める標準に従うことを表明したものと解するのが相当である。すると,刑事手続においても,裁判所は,証拠調べをするに当たり,第13付属書5.12条の制限を考慮する必要がある。 3 第13付属書5.12条の趣旨(1) 第13付属書5.12条は,その注記にあるとおり,懲戒,民事,行政及び刑事上の処分に不適切に利用される可能性がある情報が流布されると,将来,調査官に対し包み隠さず明らかにされるということがなくなるかもしれず,将来の事故又はインシデントの防止を目的とする航空事故調査の過程に支障を来すという理由から設けられたものである。その趣旨からすれば,航空事故調査の過程で得られた同条に掲げられている情報を,原則として 来の事故又はインシデントの防止を目的とする航空事故調査の過程に支障を来すという理由から設けられたものである。その趣旨からすれば,航空事故調査の過程で得られた同条に掲げられている情報を,原則として航空事故調査の目的以外に使用してはならないとすることに理由があることは弁護人の主張するとおりである。 (2) しかしながら,同条の第1段落の内容は,記録の開示を司法当局の決定に委ねることにより,情報が航空事故調査以外の目的に利用されることを規制するという内容であり,その第2段落では,最終報告書における記録の開示を必要最小限にすべきことを規定しており,前記のとおり注記においては,情報が他の目的に利用されることを問題としつつも,情報が流布されることは情報の入手の困難につながると記載されている。すると,同条は,その文言上,同条に掲げられた記録の開示を制限する規定であると解される。また,航空事故調査委員会による航空事故調査の目的が事故の再発防止にあるとはいえ,航空事故に関する刑事手続において,すでに一般に流布している記録を利用する場合にも,当該調査又は将来の調査に及ぼす国内的及び国際的悪影響を考慮しなければならないとするのは,刑事裁判の審理に過大な制限を課すものである。したがって,同条は,その文言どおり,記録の開示の制限を定めたものであると解するのが相当である。 本件事故調査報告書中に記載された第13付属書5.12条に規定する前記aないしeに該当する記録のうち本件事故調査報告書中に記載された部分は,同調査報告書が公表されたことにより,第13付属書5.12条の制限の対象にはならない。 (3) 弁護人は,航空事故調査報告書を刑事手続における証拠として使用することになれば,事故調査に協力すべき義務を負う乗員が,自己に有利不利を問わず供述を求められ,そ 条の制限の対象にはならない。 (3) 弁護人は,航空事故調査報告書を刑事手続における証拠として使用することになれば,事故調査に協力すべき義務を負う乗員が,自己に有利不利を問わず供述を求められ,その結果を自己の有罪認定に使われる可能性があるという結果になり,事故調査は,乗員等関係者を被疑者とする犯罪捜査と同じものとなるから,黙秘権の告知を含む適正手続を踏まなければならず,そのような適正手続を踏むことなく行われた結果としての事故原因の分析等は,刑事訴訟手続における証拠から排除されるべきであると指摘する。 しかしながら,航空事故調査の過程で乗員に供述を求める手続は,航空事故の原因を究明して航空事故の防止に寄与することを目的とするものであって,公益上の必要性と合理性がある上,実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般に有するものではないから,憲法38条1項の「自己に不利益な供述を強要」するものということはできない。すると,黙秘権の告知の手続が踏まれていないことをもって,航空事故調査報告書の全部が証拠から排除されるべきであるということにはならない。 4 鑑定書としての適格性(1) 証人Eの供述及び本件事故当時の航空事故調査委員会設置法によれば,本件航空事故調査報告書は,科学的かつ公正な判断を行うことができると認められる者のうちから,両議院の同意を得て,運輸大臣が任命する委員長及び委員4名によって作成され,委員長及び各委員が専門的な知識を基に,調査官の補助を受け,事故の調査を行い,その調査の経過,認定した事実,認定した理由,事故の原因を記載したものであり,専門的知識を有する者が,共同で,その科学的な経験則及びその適用による事実の認定についての意見を記載したものであって,刑事訴訟法321条4項の鑑定書に準ずるものとし 事故の原因を記載したものであり,専門的知識を有する者が,共同で,その科学的な経験則及びその適用による事実の認定についての意見を記載したものであって,刑事訴訟法321条4項の鑑定書に準ずるものとして,同条項が準用されるものである。 (2) 弁護人は,本件事故調査報告書が捜査機関に送付された経過において,鑑定依頼と鑑定書の作成者とが対応していないこと,鑑定人は自然人でなければならず,航空事故調査委員会は鑑定受託者たりえないこと,鑑定書であることを示す文言や署名,押印が全くないこと,委員,調査官の中に専門パイロットが不在であり,厳格な証明の要求される刑事事件の鑑定を施行できるような態勢にはなかったこと,事故調査は,事故の再発防止のためのものであるという観点からなされており,確信に基づく鑑定意見ではなく,正確性の担保を欠くこと,重要な論点について結論に対する根拠が示されていないことから,本件事故調査報告書は鑑定書に準ずるものとはいえないと主張する。 しかしながら,前記のとおり本件事故調査報告書は事故調査委員会を構成する委員長及び委員による共同鑑定と評価でき,鑑定受託者としての適格を有しており,その作成の真正が明らかである以上,その文書の体裁や捜査機関による鑑定嘱託との対応関係の齟齬をもって準鑑定書としての性質を欠くことにはならない。専門パイロットが不在であることや,推論の過程での心証の程度の違いの存在は,信用性の程度として検討すれば足りるものであって,これをもって,本件事故調査報告書に示された専門的知識に基づく意見がすべて準鑑定書としての証拠価値を失うとはいえない。 また,弁護人は,第13付属書5.12条及び航空事故調査委員会設置法15条1項を根拠にして,証人となった航空事故調査委員会の委員が,航空事故調査報告書に記載がない点に 値を失うとはいえない。 また,弁護人は,第13付属書5.12条及び航空事故調査委員会設置法15条1項を根拠にして,証人となった航空事故調査委員会の委員が,航空事故調査報告書に記載がない点について,そのことを理由に証言を拒絶し,実質的に被告人の反対尋問権が奪われているとして,証拠能力を付与するための定型的な信頼性を備えているとはいえないと主張する。 しかしながら,証人となった委員が証言を拒絶することと,その委員が専門家としての定型的な信頼性を有しているか否かの問題とは,直接関連するものではない。 (3) よって,本件事故調査報告書は準鑑定書として証拠能力を有する。 第4 本件事故の経過関係証拠(被告人の公判供述,被告人の検察官調書(乙15)及び警察官調書(乙9ないし13),証人F,同A1,同G,同H,同I,同Jの公判供述,Hの検察官調書(甲182)及び警察官調書(甲174,176ないし179,甲181[不同意部分を除く。]),A5(甲108),A4(甲109),K(甲111),L(甲112),M(甲113),N(甲160)の検察官調書,G(甲22[不同意部分を除く。]),O(甲26),A2(甲119),A3(甲121),A6(甲126),A7(甲128),B1(甲131),B2(甲133),B3(甲135),B4(甲137),B5(甲139),B6(甲141),P(甲142),Q(甲143)の警察官調書,捜査報告書(甲21,24,25,27,114,150,153,155,158),捜査関係事項照会書謄本(甲129),捜査関係事項照会回答書(甲130),「捜査関係事項照会書の件について」と題する書面(甲234),航空事故調査報告書(甲57),診断書(甲115ないし118,120,122ないし125,127,132,134,1 会回答書(甲130),「捜査関係事項照会書の件について」と題する書面(甲234),航空事故調査報告書(甲57),診断書(甲115ないし118,120,122ないし125,127,132,134,136,138,140,148,151),死亡診断書(甲156))によれば,以下の事実が認められ,これらの事実について概ね争いがない。 1 被告人は,甲航空株式会社(以下,「甲航空」ともいう。)に勤務し,平成6年3月28日,ダグラス式MD-11型機(以下,「MD-11型機」ともいう。)の機長の資格を取得した。 2 被告人は,平成9年6月8日,香港啓徳国際空港発名古屋空港行きの甲706便に機長として乗り組んだ。同便に使用された機体は,MD-11型のJA8580であった(以下,「本件旅客機」ともいう。)。同機は,日本時間(以下同じ。)同日午後4時25分香港啓徳国際空港を出発し,G581の飛行経路を通り,同日午後8時に名古屋空港に到着する飛行計画であった。乗員は,運航乗務員が,機長である被告人と副操縦士であるH(以下,「H副操縦士」ともいう。)の2名であり,客室乗務員が,キャビンスーパーバイザーであるFほか8名であった。 3 出発前の客室乗務員との打ち合わせの際,H副操縦士から,気象情報や飛行経路等の情報が伝えられ,シートベルトサインが点灯したときは例外なく着席するようにとの指示がなされ,被告人からも,重ねて,ベルトサインが点灯した場合には,例外なしに直ちに着席すること,ベルトサイン点灯中に,やむを得ず離席しなければいけないような状況が発生した場合には,必ず機長の許可を得ること,状況によっては,しばらく離席することを我慢してもらうことがあるかもしれず,その際には,機長から乗客に説明することが指示された。飛行中の揺れについては,香港を離陸した後,沖縄上空 の許可を得ること,状況によっては,しばらく離席することを我慢してもらうことがあるかもしれず,その際には,機長から乗客に説明することが指示された。飛行中の揺れについては,香港を離陸した後,沖縄上空通過時及び名古屋に向かっての着陸降下中の3か所において揺れが予想される旨が伝えられた。 4 本件旅客機は,被告人が操縦を担当し,ほぼ定刻である午後4時38分に香港啓徳国際空港を出発し,順調に飛行を続けた。 同日午後7時15分ころ,被告人は,着陸の際の情報であるアライバル・インフォメーションを聞きに操縦室に来た客室乗務員A5に対し,名古屋空港到着時間が午後8時10分ころになりそうであることなどを告げ,その際に,着陸の際の降下中に機体が揺れるので,早めに片付けを終えて着席するようにとの指示を行った。同指示は,客室乗務員等に伝達された。同日午後7時20分ころ,2万2000フィートから1万5000フィート付近に風速変化による軽い乱気流がある模様であるとの気象情報が操縦室にもたらされた。同日午後7時30分ころ,被告人は,客室の状況を報告に来た前記Fに対して,やはり揺れが予想されるので,着陸準備を早めに終えておくようにと告げ,その指示も他の客室乗務員に伝達された。 被告人は,串本の手前約40キロメートルで,東京航空交通管制所から,高度2万9000フィートまで降下せよとの指示を受け,ヴァーティカル・スピード・モードを使用して高度2万9000フィートまで降下し,更に降下することの許可を求めたが,東京航空交通管制所から,高度2万9000フィートを維持せよとの指示を受け,同高度を維持し,速度260ノットで飛行し,二,三分経過した同日午後7時44分47秒ころ,東京航空交通管制所から,河和を9000フィートで通過するよう指示を受け,降下を開始した。この降下開始地 け,同高度を維持し,速度260ノットで飛行し,二,三分経過した同日午後7時44分47秒ころ,東京航空交通管制所から,河和を9000フィートで通過するよう指示を受け,降下を開始した。この降下開始地点は,最適な降下開始地点を過ぎており,深めの降下角度となるものであったが,本件旅客機の降下性能上,問題のない降下角度であった。被告人は,速度を350ノットに設定したフライト・レベル・チェンジ・モードとヴァーティカル・スピード・モードを切り替えながら,オート・スロットル・システムを解除し,エンジンの出力をアイドルに固定して降下した。 5 被告人は,客室内のシートベルト着用サインを点灯させ,客室乗務員がシートベルトを装着するようアナウンスをした。 6 本件旅客機は,同日午後7時48分ころ,三重県志摩半島上空の高度1万7000フィート付近において,追い風成分の減少により著しい速度増加の傾向を示した。被告人は,スポイラーを展開してスピードブレーキをかけたが,操縦士が故意に超えてはならない速度である最大運用限界速度365ノットを超過した。その後,本件旅客機は,大きく機首を上げて下げる縦方向の揺れを5回繰り返した。 客室前部の6-Dの席の乗客Kは,突然,機体全体が急激に上昇したかと思うと「ドン」という衝撃と音とともに,機体の後方が跳ね上がるようにして上昇が止まり,今度は機体の急激な下降が始まるという,機体の後方が跳ねるような激しい揺れを感じた。 客室前方のギャレーに立っていた前記Fは,最初に,自分の体を非常に強い力で床に押し付ける動きを感じた後,今度は逆に天井に向かって,体を吹き上げるような動き,それから,もう一度床に押し付けるような動きが,三,四度繰り返されたと感じた。 同ギャレー内で作業をしていた前記A5は,最初に上の方から強い力で体全体が押さえ付 に向かって,体を吹き上げるような動き,それから,もう一度床に押し付けるような動きが,三,四度繰り返されたと感じた。 同ギャレー内で作業をしていた前記A5は,最初に上の方から強い力で体全体が押さえ付けられた後,体が浮き上がり,この上下の動きが繰り返されたと感じた。同ギャレー内で作業をしていた客室乗務員A7は,機体が急降下したように感じた。同人の近くにいた客室乗務員A6は,突然大きな力で下に押さえ付けられたと感じた。客室前方のギャレーの隣の中央のギャレーにいた客室乗務員A4は,いきなり足をつかまれて真下に引っ張られ,同時に肩をつかまれて下に押されるような激しい衝撃を感じた。 その隣にいた客室乗務員A2は,頭の上から空気でものすごく押さえ付けられるような圧迫感を感じ,立っていられなくなった。 客室中央部の31-Gの席の乗客Lは,突然機体が垂直に下に落ちるようにして降下したと感じた。後部客室の前方にあるトイレに入っていた乗客B3は,突然激しい揺れを感じ,手すりにつかまる余裕がなく,体がかなり上に浮き,浮いたかと思うと床に落とされた。客室後部のうち前方の通路を歩いていた乗客B1は,突然体が持ち上げられ,頭をかばった左腕を天井に打ち付けた。客室後部の後方の客席である59-Aに座ろうとした乗客B4は,突然体を天井に叩き付けられた。客室後部の後方の61-Dの席に座ってシートベルをゆるめに締めていた乗客B5は,体が大きく上に飛び上がった。61-Aの席で背もたれを倒して眠っていた乗客B6は,ドドーンというダンプカーのタイヤが溝を越えるような音を聞いた後,体が宙に浮き上がり,顔面を荷物入れにぶつけた。客室後部の後方の62-Dの席の乗客Mは,突然「ドンドンドンドン」という,車ででこぼこ道を走行しているような音を機体の下の方から聞くと同時に,機体が急降下したと き上がり,顔面を荷物入れにぶつけた。客室後部の後方の62-Dの席の乗客Mは,突然「ドンドンドンドン」という,車ででこぼこ道を走行しているような音を機体の下の方から聞くと同時に,機体が急降下したと感じた。64-Eの席で背もたれを倒してシートベルトを締めていたB2は,機体が急降下したと感じた。 後部ギャレーで作業をしていた客室乗務員A3は,突然機体が降下したと感じた。同じく後部ギャレー内に立っていた客室乗務員A1は,「ガクン」という前後方向の揺れを感じ,手すりにつかまったが,次の瞬間に手がするっと抜けて,天井に向かって下半身のほうから体が浮いた。 この揺れにより,客室乗務員C(当時33歳)が脳挫傷,びまん性脳軸索損傷,急性硬膜下出血等の傷害を負ったほか,A1,A3ら客室乗務員7名とB1ら乗客6名が別紙1負傷者一覧表のとおりの傷害を負った。 7 本件旅客機が同日午後8時14分に名古屋空港に着陸した後,負傷者は,丙病院に搬送され,手当を受けた。前記Cは,翌9日,昏睡状態で丁病院に転院し,開頭血腫除去手術を受けるなどしたが,意識が回復することはなく,平成10年6月10日,東京都大田区ab丁目c番d号乙病院に転院し,平成11年2月16日午後11時25分ころ,同病院において,肺炎を主な原因とする播種性血管内凝固による多臓器不全により死亡した。 第5 MD-11型機の縦方向の姿勢に関する特徴証拠(証人R,同Sの公判供述,S(甲74),R(甲75),T(甲100),U(甲101),V(甲102)の検察官調書,捜査報告書(甲9,12ないし15,77),航空事故調査報告書(甲57),MD-11 AIRCRAFTOPERATINGMANUAL(1)ないし(3)合計3冊(平成15年押第14号の2ないし4))によれば,MD-11型機の縦方向の姿勢に 航空事故調査報告書(甲57),MD-11 AIRCRAFTOPERATINGMANUAL(1)ないし(3)合計3冊(平成15年押第14号の2ないし4))によれば,MD-11型機の縦方向の姿勢に関する特徴につき,以下の事実が認められる。 1 MD-11型機は,甲航空が平成6年4月1日から就航させた旅客機である。同型機は,いわゆる第4世代の旅客機であり,乗務員2名で運航できるようになっており,オート・パイロット(AP),オート・スロットルによる自動化が進んでいる。同型機は,燃料を後部に移動させ,極限まで重心を後ろに持ってゆくこと,水平尾翼を小さくすること等により,抵抗を減らし,燃費の向上を図っている。そのために,同型機は,縦方向の安定性が低く,これを補うため,フライト・コントロール・コンピューター(FCC)による制御をしている。 2 FCCは2系統が装備され,1系統が飛行を制御していると,他方はこれを監視する関係にある。 機体の縦方向の姿勢(ピッチ)を制御する昇降舵(エレベーター)は,水平尾翼後部に左右各2枚が装備され,油圧による駆動装置によって動く構造となっている。昇降舵は,機長及び副操縦士の各操縦席の前にある操縦輪を前後することによって操作される。FCC1は左内側の昇降舵(LeftInboardElevator)を,FCC2は右内側の昇降舵(RightInboardElevator)をそれぞれ制御する。自動操縦時には,FCCの制御する昇降舵に他の3枚の昇降舵が機械的なつながりにより追従する。 3 MD-11型機の操縦は基本的には自動操縦によって行うことにより,前記の縦方向の安定性の低さが問題となることはないが,手動操縦時に安定性を確保する機能として,LSAS(縦安定増強システムLongitudinalStabilityA 操縦によって行うことにより,前記の縦方向の安定性の低さが問題となることはないが,手動操縦時に安定性を確保する機能として,LSAS(縦安定増強システムLongitudinalStabilityAugumentationSystem)が組み込まれている。これには,操縦輪に約2ポンド以上の力が加えられないときには,その時点の縦方向の機体姿勢を維持する機能(ピッチ・アティチュード・ホールド),ある程度以上の姿勢にならないように保つ機能(ピッチ・アティチュード・リミット)などがある。また,甲航空に就航後,LSASに,機体姿勢の変化により過度の垂直加速度を機体に与えないようにするため,ピッチ・レート・ダンパーという機能が付加され,本件旅客機にも装備されていた。この機能は,高度1万5000フィートから効き始め,高度2万フィートで100パーセントのダンピング機能が入るものである。 また,自動操縦時には,Gコントロールという機能が働き,一定以上の垂直加速度が機体にかからないような仕組みになっている。 4 縦方向のトリム(バランスの調整)は,水平尾翼前部を構成するスタビライザーによって行われる。自動操縦時は,平均的な昇降舵の位置測定に基づきスタビライザーが動く。手動操縦時,操縦輪への入力が約2ポンド以下でLSASが作用している場合は,昇降舵に定常的な入力を無くすようにFCCによってスタビライザーが動く。操縦輪にあるマニュアル・トリム・スイッチを使用すると,操作した方向にスタビライザーが動き,オート・パイロットが解除される。 オート・トリムは,対気速度が250ノットを超える場合,1秒間に0.1度の割合でスタビライザーを動かす。 5 自動操縦から手動操縦に自動的に切り替わる仕組みとして,オートマチック・カット・オフ(ACO)とコマンド・レスポンス・モ 50ノットを超える場合,1秒間に0.1度の割合でスタビライザーを動かす。 5 自動操縦から手動操縦に自動的に切り替わる仕組みとして,オートマチック・カット・オフ(ACO)とコマンド・レスポンス・モニター(CRM)という機能がある。 オートマチック・カット・オフは,自動操縦で制御できないような外気の擾乱を機体が受けた際に,自動操縦を解除する機能であり,垂直方向のGが1±0.6ないし1±1.4を超過した場合,ROLLRATEが1秒間に10度を超過した場合,バンク角が60度を超過した場合に作動する。 コマンド・レスポンス・モニターは,FCCが指示した舵面と実際の舵面との間に乖離が生じた場合に自動操縦を解除する機能であり,昇降舵に係るコマンド・レスポンス・モニター(ECRM)は,FCCの指示した昇降舵の舵面とFCCが制御する昇降舵の実際の舵面の差が4度の場合には,それが1秒間続くときに作動する。 自動操縦時,操縦輪に手動で入力する(オーバーライド)と,FCCによって直接制御されている昇降舵以外の3枚の昇降舵は,操縦輪の入力に従って動こうとする。これに対して,FCCによって直接制御される昇降舵は,他の3枚の昇降舵の動きによる機体姿勢の変化を抑えるように動こうとするが,他の3枚と機械的につながっているため,他の3枚の動きに引きずられ,FCCが制御しようとする舵面と実際の舵面に差が生じる。操縦輪への入力が50ポンド以上になると,ECRMが作動し,自動操縦が解除される。 6 自動操縦時の高度の変更に関するモードには,プロファイル・モード,フライト・レベル・チェンジ・モード,ヴァーティカル・スピード・モードがある。 プロファイル・モードは,3次元のある地点とある地点を決めて,その2点を結ぶパスを飛ぶように,コンピューターが計算して飛行するモー ル・チェンジ・モード,ヴァーティカル・スピード・モードがある。 プロファイル・モードは,3次元のある地点とある地点を決めて,その2点を結ぶパスを飛ぶように,コンピューターが計算して飛行するモードであり,フライトレベル・チェンジ・モードは,ピッチ角の上下によって速度を一定に保つモードであり,ヴァーティカル・スピード・モードは,降下率を一定に保つモードである。 降下時には,エンジンの推力を絞ること,降下率を減少させること,スポイラーを立て空気抵抗を生じさせること(スピードブレーキ)によって,速度を減少させることができる。自動操縦時には,フライト・レベル・チェンジ・モードにより設定速度を減少させるか又はヴァーティカル・スピード・モードにより降下率を減少させることにより速度を減少させ,それにより十分な速度減少が得られない場合は,スピードブレーキを使用することになる。 7 自動操縦時には,オーバー・スピード・プロテクションが働き,操縦士が故意に超えてはならない速度である最大運用限界速度(Vmo)を超えると,自動的に機体姿勢を制御して,速度を低下させるようになる。 第6 MD-11型機の飛行記録関係証拠(証人W,同X,同J,同Eの公判供述,Wの検察官調書(甲82),航空事故調査報告書(甲57))によれば,MD-11型機の飛行記録につき,以下の事実が認められる。 1 MD-11型機の飛行記録には,装着が法的に義務づけられているデジタル・フライト・データ・レコーダー(DFDR)とコックピット・ボイス・レコーダー(CVR)による記録のほか,ADASという飛行記録装置による記録がある。さらに,整備に利用するため,各コンピューターの中に記録されている不具合を見る機能を有する集中故障報告装置(セントラライズド・フォールト・ディスプレイ・システム,CF う飛行記録装置による記録がある。さらに,整備に利用するため,各コンピューターの中に記録されている不具合を見る機能を有する集中故障報告装置(セントラライズド・フォールト・ディスプレイ・システム,CFDS)があり,飛行後にその記録を確認することができる。 2 本件事故前後の本件旅客機の飛行記録としては,DFDR及びADASの記録がある。これらの記録は,デジタル化した記録であり,各データごとに間隔を置いた時点の数値を記録するものである。そして,MD-11型機では,各センサーから送られた信号が,大半はエア・データ・コンピューター等のデータを集める機械に集められ,DFDR及びADASに記録するデータを収集するデジタル・フライト・データ・アクイジション・ユニット(DFDAU)に送られる。これらの信号の大半は,デジタル・バスという方法で,1つの電線の中に時間的に分けて様々なデータのデジタル信号をDFDAUに送る方法が採用されている。このようにしてDFDAUに集められた情報が,一定の時間毎にDFDR及びADASに送られ,記録される。したがって,記録されたデータは,デジタル・バスによるデータの伝送の遅れ及び記録の順序により,実際にセンサーが感知した時間より遅れた時間に記録され,また,各データの遅れの時間も同一ではない。 航空事故調査委員会は,本件事故の発生した飛行に係るDFDR及びADASの記録を解析し,本件事故発生時前後の本件旅客機の縦方向の挙動に関するデータを,記録の時間的遅れによる修正を加えず,記録された時間的順序によって別紙2「DFDR&ADASPARAMETERSNEARTHETIMEOFTHEACCIDENT」のとおりグラフ化した。 第7 DFDR及びADASの飛行記録並びにCFDSの記録から推定される経緯 1 ECRMの作動と RAMETERSNEARTHETIMEOFTHEACCIDENT」のとおりグラフ化した。 第7 DFDR及びADASの飛行記録並びにCFDSの記録から推定される経緯 1 ECRMの作動と操縦輪への入力との因果関係(1) 本件旅客機が事故後,名古屋空港に着陸した後のCFDSには,FCC2の不具合として,午後7時48分,高度1万6768フィートで,右内側の昇降舵のコマンド・レスポンスにより自動操縦が解除されたこと,すなわちECRMが作動したとの記録が残されていた。自動操縦がACOによって解除された場合には,そのことを示す故障表示がなされる。(証人W,同Xの公判供述,捜査報告書(甲79,80))ECRMの作動する原因としては,一般に①昇降舵の駆動装置(アクチュエーター)の不具合,②操縦輪の操作によるオーバーライド,③LVDTという昇降舵の動きを検知してその情報をFCCに送るセンサーの不具合,④FCC自体の不具合が想定される(証人W,同X,同Yの公判供述)。 ①,③,④の原因に関して,本件旅客機は,着陸後,FCC,エレベーターシステムにつき,リターン・トゥ・サービス・テストがなされ,故障や異常が見付からなかった。 また,本件事故後,本件旅客機のFCC及び右内側昇降舵の駆動装置を取り降ろして機能試験を行ったが,異常は発見されなかった。もっとも,被告人は,名古屋空港着陸前に,LSASとヨー・ダンパーに不具合が生じた旨をログ・ブックに記載しており,CFDSにも午後8時10分にFCC1の不具合として,LSASの故障が記録されているが,その点に関する故障や異常も発見されていない。飛行中と地上の条件の違いから,すべての故障や不具合が地上で再現できるものでもない。また,FCCの一瞬の不具合であれば記録に残らない。(証人Wの公判供述)する 点に関する故障や異常も発見されていない。飛行中と地上の条件の違いから,すべての故障や不具合が地上で再現できるものでもない。また,FCCの一瞬の不具合であれば記録に残らない。(証人Wの公判供述)すると,地上において不具合が発見されなかったことだけでは,①,③,④の原因が存在した可能性がないと断定することはできない。 (2) DFDR及びADASの記録の解析結果によれば,本件旅客機のピッチは,午後7時48分15秒(以下,秒のみの記載は午後7時48分台の時間を示す。)の手前でマイナス4.6度から増加し始め,23秒ころまで徐々に増加し,23秒を過ぎたあたりから増加の割合が増え,25秒を過ぎたあたりから更に増加の割合が増え,27秒手前まで増加を続けてプラス7度くらいまで達し,その後,減少に転じている(以下,23秒を過ぎたあたりから27秒手前までの機首上げの動きを「最初の機首上げ」ともいう。)。 昇降舵のうち右外側,左内側及び左外側の3枚は,25秒以降の時点でそれまでの位置よりも機首上げ方向への変位が記録され,26秒前後で頂点の値が記録され,27秒以降にそれまでの位置より減少した値が記録されている。FCC2による自動操縦時にFCC2によって制御される右内側の昇降舵は,24.5秒あたりで機首下げ方向に変位し,他の3枚の位置との差がその前の時点における差より広がり,次の25.5秒あたりでは機首上げ方向に変位し,他の3枚に追随するような変化を見せ,26.5秒あたりではさらに機首上げ方向に変位し,27.5秒あたりでは再び機首下げ方向に変位している。 操縦輪の位置は,24秒を過ぎたあたりで機首上げ方向へ変位し,25秒を過ぎたあたりで4度くらいの頂点を記録し,26秒前後ではその前より若干機首下げ方向に変位し,27秒前後で最も機首下げ方向の値を記録 操縦輪の位置は,24秒を過ぎたあたりで機首上げ方向へ変位し,25秒を過ぎたあたりで4度くらいの頂点を記録し,26秒前後ではその前より若干機首下げ方向に変位し,27秒前後で最も機首下げ方向の値を記録している。 機長側の操縦輪に加えられた力は,24秒あたりでA及びBの2つのセンサーは7ポンド前後の値を示し,25秒あたりでAセンサーは15ポンドくらいを,Bセンサーは25ポンドに近い値を示し,26秒あたりではA及びBのセンサーはいずれも記録の飽和点である25ポンドを示し,27秒あたりではAセンサーは25ポンドを,Bセンサーはマイナス1ポンド付近の値を示し,28秒あたりではA及びBのセンサーはいずれもマイナス25ポンドを示している。 (3) DFDR及びADASに記録される時間は,前記のとおり実際に測定された時間から遅れ,その遅れの時間はデータのサンプリングの間隔等の違いにより,データごとに,また各時間の記録ごとに異なり,そのことによりデータの種類相互の間に厳密な時間的対応関係を認めることはできないものの,24秒くらいから27秒くらいまでの各データの変化は対応した動きを示しているものといえる。このことは,航空事故調査報告書において示されているピッチ変動の数値解析の結果,操縦輪の位置に対応してピッチ変動が生じたものと推定されていることによっても裏付けられる(航空事故調査報告書(甲57)67頁)。 そして,最初の機首上げ以降,機首下げと機首上げの繰り返しがほぼ1.5秒の間隔で発生しており,操縦輪の位置(CCP)のマイナス側の谷がほぼ3秒間隔で並び昇降舵も同様の動きを示していることから,これらの間に対応関係を認めることができる。昇降舵の位置は,即座に機体の縦方向の姿勢に対応するものではないが,遅れを伴いながら姿勢を支配しており,対応関係を想 昇降舵も同様の動きを示していることから,これらの間に対応関係を認めることができる。昇降舵の位置は,即座に機体の縦方向の姿勢に対応するものではないが,遅れを伴いながら姿勢を支配しており,対応関係を想定しうる。すると,その前の最初の機首上げが始まった23秒過ぎから頂点に達した27秒ころまでの約3.5秒間のピッチの変化に対応する昇降舵の動きは,23秒あたりから26.5秒あたりの動きであり,この昇降舵の動きに対応する操縦輪の動きは,22秒あたりから25秒過ぎあたりの約3.5秒間の動きであると認められる。 最初の機首上げが始まった23秒過ぎから25秒過ぎまでの約2秒間の機首上げ方向の機体姿勢の変化に対応する23秒あたりから25秒あたりの昇降舵の動きを見ると,24.5秒ころ,FCC2によって直接制御されている右内側昇降舵は,機首下げ方向に動き,他の3枚の昇降舵はほとんど動いていない。その間,機首上げが続いているのであるから,FCC2は,機首上げに抵抗して機首下げを指示していたものと推認される。これに対して,本来これに追従するはずの他の3枚の昇降舵が動かず,これに対応する操縦輪の位置は,22秒から24秒にかけて動いていない。すると,この間,自動操縦によって制御される昇降舵の位置に対応して機首下げ方向に動こうとする操縦輪の動きを抑える入力がなされたこと,すなわち機首上げ方向への入力(被告人によるオーバーライド)がなされ,これによって操縦輪の位置が動かず,右内側以外の3枚の昇降舵も右内側昇降舵の動きに追従しなかったものと推認される。 25秒過ぎから機首上げが最初の頂点に達する27秒ころまでの機体姿勢に対応する25秒あたりから26.5秒あたりの昇降舵の動きを見ると,右内側昇降舵は他の3枚の昇降舵と離れる動きを止め,機首上げ方向に動き始め,他の3 首上げが最初の頂点に達する27秒ころまでの機体姿勢に対応する25秒あたりから26.5秒あたりの昇降舵の動きを見ると,右内側昇降舵は他の3枚の昇降舵と離れる動きを止め,機首上げ方向に動き始め,他の3枚も機首上げ方向に動いている。また,これに対応する操縦輪の位置も機首上げ方向に移動している。これらに対応する,操縦輪に加えられた力を示すグラフの位置がどの時間帯であるかを推認することは困難であるものの,26秒ないし27秒の間に機首上げ方向の力が飽和点を示し,この間に力の頂点があったと考えられ,これが機首上げ方向に操縦輪が動くことに関係しているとみるのが相当である。すると,操縦輪の位置の変化は,オーバーライドによって生じたものであり,これによって,右内側昇降舵以外の3枚の昇降舵が機首上げ方向に動き,その動きに従って右内側昇降舵が動いたものと推認される。そして,その間の操縦輪に加えられた力は,記録上の飽和点に達しており,25ポンドを超える力が操縦輪に加えられたことが認められる。 (4) 自動操縦は,26秒手前にFCC2による自動操縦が接続された状態であり,27秒手前に自動操縦が切断された状態であったことが記録されている。自動操縦に関するデータのサンプリングが最大1秒であることから,記録の遅れも最大1秒あることとなる(証人Jの公判供述)。機体姿勢の値のデータの時間を基準に考えると,機体姿勢の値の記録の遅れがなければ,25秒くらいから27秒手前までの間のいずれかの時点で自動操縦が切れたこととなる。機体姿勢の値の遅れがあれば,その分だけ自動操縦に関するデータの相対的な遅れは短くなることから,自動操縦が切れた時間は,25秒より早まることはない。 (5) 以上(3)及び(4)の事実と(1)の故障記録の状況を併せ考えると,他に特別の事情が無い限り,25秒 の相対的な遅れは短くなることから,自動操縦が切れた時間は,25秒より早まることはない。 (5) 以上(3)及び(4)の事実と(1)の故障記録の状況を併せ考えると,他に特別の事情が無い限り,25秒ころから27秒手前までの間に,操縦輪に50ポンド以上の力が加えられ,ECRMが作動して自動操縦が解除されたと認められる。 2 上記認定を妨げる事情について(1) 本件旅客機は,本件事故後である平成10年3月8日及び同月18日の2度にわたり,ECRMが作動して自動操縦が解除された。その際には,操縦輪のオーバーライドはなく,FCCの不具合又は昇降舵の駆動装置の不具合が疑われた。そこで,本件事故の際にも,これらの一時的な不具合によってECRMが作動した可能性が問題となる。電磁干渉波によってFCCやこれに送られるセンサーからの信号に一時的な不具合が発生することもあり得る。(証人X,同Z1,同Z2,同Z3の公判供述,Z1の検察官調書[不同意部分を除く。](甲88),捜査報告書(甲43),「電磁干渉障害報告書 OSZ記入(No.9912-1)」と題する書面(甲232))しかしながら,本件事故時に客室において電子機器が使用されていたことは確認されていない。また,FCC2に支配される右内側昇降舵は,自動操縦が切れる直前まで動いている上,他の3枚の昇降舵の変化と反する動きを示していること,それまでも右内側昇降舵はFCC2からの指示に反する動きを示していないことから,FCC2又は右内側昇降舵の駆動装置の不具合によりECRMが作動した可能性を想定することは困難である。 (2) DFDR及びADASによると,被告人は,20秒ころからスポイラーを展開し始め,25秒ころまでに全開したことが記録されている。弁護人は,機長席のスポイラーレバーは右手で操作するものであ 。 (2) DFDR及びADASによると,被告人は,20秒ころからスポイラーを展開し始め,25秒ころまでに全開したことが記録されている。弁護人は,機長席のスポイラーレバーは右手で操作するものであり,24秒ころからの操縦輪への入力は片手で行われたこととなり,50ポンドもの力を掛けるのは不可能であると主張し,被告人も,スポイラーを全開まで操作した後,右手をスポイラーレバーから離さなかったと供述する。 DFDR及びADAS記録の分析結果によれば,スポイラーレバーの操作の時期と操縦輪に大きな力を加え始めた時期とが重なるようになっている。しかしながら,同記録については前記のとおり記録の遅れがあり,実際の時間との関係は異なることがあり得ること,スポイラーの位置に関する情報が2秒に1回の記録であることから,スポイラー展開の操作と操縦輪への大きな力の入力とが重なるとは必ずしもいえない。 (3) 証人Z4の供述によると,同証人が,平成14年12月19日,甲航空のMD-11型機のシミュレーターに,本件事故時の状況をできるだけ忠実に再現した上で,スポイラーを展開した後,両手で操縦輪を引くということを何回も行ったところ,二,三秒で自動操縦が切れるが,その場合,急激な機首変動により機体に一気に垂直加速度が掛かることにより,オートマチック・カット・オフが機能して自動操縦が切れるのであり,ECRMが働くように,機体に垂直加速度を掛けないように操縦輪を操作すると,操縦輪をゆっくりと操作しなければならず,だいたい10秒くらい掛かったとのことである。 しかしながら,本件航空事故調査報告書によれば,本件事故後,戊社及び甲航空において,フライト・シミュレーターを使用して,事故発生前の対気速度の増加及び急激な機首上げ後の機体のピッチ変動の繰り返しの再現を試みた際 ,本件航空事故調査報告書によれば,本件事故後,戊社及び甲航空において,フライト・シミュレーターを使用して,事故発生前の対気速度の増加及び急激な機首上げ後の機体のピッチ変動の繰り返しの再現を試みた際には,完全に再現することまではできなかったものの,その後,戊社において,風のデータを概略事故当時の状況に近似させたソフトウェアの変更を行い,エンジニアリング・フライト・シミュレーターによる再現試験を行った際には,ECRM機能が作動し,DFDRに記録されたような垂直加速度を再現することができたというのであり,証人Z4において,ECRMの作動を再現できなかったのは,フライト・シミュレーターのソフトウェアの違いによる可能性がある。 (4) 証人Z5は,操縦輪に加えられた力の値のうちBセンサーによる値につき,記録上の飽和点の前後それぞれ2点を結んだ直線の交点から,操縦輪に加えられた力は最大で34ポンドくらいであると考えられ,ECRMが作動する50ポンドの力が加わったと考えるのは相当無理がある旨を供述する。 しかしながら,記録はデジタルのデータであるから2点を結んだ直線の延長上に次の点があるとは限らず,また,各点の時間の間隔も一定しないものであるから,上記のような推定は無理があり,50ポンドの力が加わったことがあり得ないとはいえない。 (5) 以上のとおり,ECRM作動の原因がオーバーライドであるとの認定を妨げるに足りる事情は認められない。 3 意図的な操縦輪への入力(1) DFDR及びADASの記録によると,前記のとおり24秒ころから25秒ころにかけて,操縦輪に,7ポンドから15ポンドないし25ポンド近くの力が加えられ,さらに,26秒ころから27秒ころまでの間には,25ポンドを超える力が加えられ,その間に操縦輪の位置は機首上げ方向に約2度変 て,操縦輪に,7ポンドから15ポンドないし25ポンド近くの力が加えられ,さらに,26秒ころから27秒ころまでの間には,25ポンドを超える力が加えられ,その間に操縦輪の位置は機首上げ方向に約2度変位している。このことは,ECRM作動の原因と認められる操縦輪への入力(オーバーライド)が,被告人の意図的な操作によるものであることを示すものといえる。 (2) 証人Z5は,甲航空内でADASによる記録を基に作成されたデータ上,24秒の手前で操縦輪の位置が機首下げ方向に少し動いているところ,これは,スポイラーの展開による機首の立ち上げに対して,自動操縦の側が機首下げの指示を出したことにより,右内側昇降舵が機首下げ側に動き,その動きに追従して操縦輪の位置も機首下げ方向に移動したことを示しており,そのような操縦輪の動きに対して,被告人が反射的に支えたのではないかと供述する。スポイラーの展開により機首上げが生じることから,証人Z5のデータの読み方は,合理的なものといえるが,24秒の手前で被告人が反射的に操縦輪を押さえたとしても,その後,被告人が大きな力を加えて操縦輪の位置を変えたことまでも,反射的な行為であったとはいえない。 (3) DFDR及びADASの記録によると,15秒から24秒にかけて操縦輪に力が加えられ,19秒で約20ポンドに達し,その後減少して約7ポンドの力となっている。その間,機体姿勢は徐々に機首上げ方向に変位している。 被告人は,公判廷において,飛行モードをフライト・レベル・チェンジ・モードからヴァーティカル・スピード・モードに切り替えるためにピッチ・ホイールを操作する際に,操縦輪に添えていた左手を支えにして上体を起こしたことから,操縦輪に力が加わったものであり,意図的なものでない旨を供述する。 確かに,証人Hは,被告人が るためにピッチ・ホイールを操作する際に,操縦輪に添えていた左手を支えにして上体を起こしたことから,操縦輪に力が加わったものであり,意図的なものでない旨を供述する。 確かに,証人Hは,被告人がピッチ・ホイールを操作し,ディスプレイ上にヴァーティカル・スピード・モードを示す表示が出たのを見た旨を供述しており,ピッチ・ホイールが被告人の座席から前方右側の右手を伸ばした位置にあること(甲6)から,被告人がそのような操作をする際に,操縦輪に力が加わった可能性はある。また,証人Z5によれば,自動操縦時に20ポンド以下の力を操縦輪に加えても,FCCがこれを打ち消す動きを指示するので,ピッチが変化しないとのことであり,この間のピッチの変化は,自動操縦によって速度の変化に対応した結果であるとも考えられる。 したがって,この時点から被告人が意図的に機首上げを図って操縦輪に力を加えたものと認めることはできない。 しかしながら,このことが,その後の意図的なオーバーライドを否定する根拠になるわけではない。 (4) 以上のとおり,24秒ころ以降,被告人が意図的に操縦輪に力を加えたという認定を妨げるに足りる事情は認められない。 4 オーバーライドによる自動操縦の解除と最初の機首上げとの因果関係(1) オーバーライドによりECRMが作動して自動操縦が解除されると,FCCによって制御されていた昇降舵の舵面が,操縦輪の入力により動いていた他の3枚の昇降舵に急に追従するため,結果として機体に大きな垂直加速度を掛けることとなる。 このことは,平成6年6月15日に戊社が開催した「MD-11 HighAltitudeHandlingCharacteristicMeeting」という会議において,その機序が説明されている(証人Yの公判供述,「Operati が開催した「MD-11 HighAltitudeHandlingCharacteristicMeeting」という会議において,その機序が説明されている(証人Yの公判供述,「OperationEngineeringSummary」と題する文書2枚(平成15年押第14号の6)。また,平成8年10月1日付けの戊社からのオール・オペレーターズ・レター(AOL-11-131)(同押号の17)では,操縦輪に機首上げ方向に力が加わった状態で自動操縦を解除した直後,急にピッチ・アップし,客室乗務員及び乗客が負傷した事例が紹介されている。 (2) 前記のとおり,本件航空事故調査報告書は,ピッチ変動の数値解析の結果,操縦輪の位置に対応してピッチ変動が生じたものと推定している。また,前記のとおり,戊社のシミュレーターにより垂直加速度が再現された。 (3) また,前記のとおり,自動操縦の解除の時期は,25秒ころから27秒手前までのいずれかの時間であると考えられるが,その時間帯は最初の機首上げの時間帯と重なる。そして,その最初の機首上げの後半部分のピッチの増加の程度は大きくなっており,これに対応すると考えられる操縦輪の位置も機首上げ方向に変位している。 (4) 以上によれば,最初の機首上げの途中で,オーバーライドによりECRMが作動し,自動操縦が解除され,その過程で更に機首上げが生じたものと認められる。 (5) 証人Z6は,本件事故当時,志摩半島上空には前線面上に逆転層があり,本件旅客機は1万7400フィートから1万6700フィートまで逆転層の中を降下し,大きな揺れとともに不安定層の中を上昇したものであり,本件旅客機が受けた水平方向の風の変化から計算される垂直方向のウインド・シャーは相当大きなものであったと考えられる旨を供述する。 また, ,大きな揺れとともに不安定層の中を上昇したものであり,本件旅客機が受けた水平方向の風の変化から計算される垂直方向のウインド・シャーは相当大きなものであったと考えられる旨を供述する。 また,本件事故時の前後に志摩半島上空付近を飛行した航空機から,軽から中程度の乱気流があったことが報告されている。本件事故当日午後7時46分ころ,尾鷲上空から河和に向かって降下中の甲航空828便は,河和の南西約20マイル付近の高度約1万7000フィートにおいて,機体が上下に振動し,立っていると転倒する危険がある程度の弱から並のタービュランスに遭遇した。同日午後8時5分ころ,串本から北寄りの進路をとった後,河和に向けて降下中の甲航空498便は,高度約1万8000フィートから1万7000フィート付近において,機体が細かく上下する弱いタービュランスに遭遇した。同日午後8時10分ころ,尾鷲から河和に向けて降下中の壬航空284便は,高度約2万フィートで,車がでこぼこ道を走っているときのような上下動を繰り返す弱から並のタービュランスに遭遇した(T(甲34),U(甲35),V(甲36)の検察官調書)。 しかしながら,本件航空事故調査報告書(67頁)によれば,上記ピッチ変動の数値解析の結果,本件旅客機のピッチ変動に縦方向の風の影響は少ないと認められる。また,本件旅客機の前後に同じ空域を飛行した航空機がタービュランスによって受けた動きは,本件旅客機の大きな機首上げの動きと明らかに異なる。したがって,垂直方向のウインド・シャーが存在した可能性があることは,前記のオーバーライドによる機体姿勢の変化の認定を妨げるものではない。 5 自動操縦解除後の操縦輪への入力(1) DFDR及びADASの記録の解析結果によれば,本件旅客機は,27秒ころ最初の機首上げが頂点に達して機 ドによる機体姿勢の変化の認定を妨げるものではない。 5 自動操縦解除後の操縦輪への入力(1) DFDR及びADASの記録の解析結果によれば,本件旅客機は,27秒ころ最初の機首上げが頂点に達して機首下げ方向にピッチが変わり始め,28秒過ぎに再び機首上げ方向にピッチが変わり始め,その後30秒手前,約33秒,約36秒,約39.5秒の4回の機首上げの頂点からなる4回の機首上げと機首下げのピッチの変動を繰り返したことが認められる。 操縦輪の位置は,前記のとおり,25秒を過ぎたあたりで機首上げ方向の頂点を記録し,その後,機首下げ方向に変位し,27秒前後で最も機首下げ方向の値を記録し,その後機首上げ方向に変位し,38秒あたりまでに4回の機首上げ方向の頂点を示していると認められ,前記ピッチの変動と対応した動きを示している。 そして,本件航空事故調査報告書において,ピッチ変動の数値解析の結果,操縦輪の位置に対応してピッチ変動が生じたものと推定されていることは,前記の対応関係を裏付けている。 (2) 弁護人は,最初の機首上げ後の上下動がほぼ1.5秒間隔で最大約7度,最小約4.2度変位する動きであり,人為的な操作によってこのような規則的な上下動を生じさせることが不可能であると主張する。 確かに,本件航空事故調査報告書によれば,戊社において,風のデータを概略事故当時の状況に近似させたソフトウェアの変更を行い,エンジニアリング・フライト・シミュレーターによる再現試験を行ったところ,「急激な機首上げ後,ピッチ変動の繰り返しを発生させることもできたが,DFDRに記録されているような規則的なピッチ変動の繰り返しは,完全には再現できなかった。」とされ,甲航空のシミュレーターによる機体のピッチ変動の繰り返しの再現性についても,「事故当時の飛行状況を再現 DRに記録されているような規則的なピッチ変動の繰り返しは,完全には再現できなかった。」とされ,甲航空のシミュレーターによる機体のピッチ変動の繰り返しの再現性についても,「事故当時の飛行状況を再現するという視点からの試験では,再現できなかった。」とされているが,他方で,「ピッチ変化を操縦操作で追いかけるという方法により,同社(甲航空)のシミュレーターでの試験を行ったところ,機体の周期的なピッチ変動の繰り返しを再現することができた。」ともされている。ピッチ変化を操縦操作で追いかけるという試験は,機体のピッチ姿勢を把握して,これに追従して操縦輪を押し引きするというものであり(証人E),人為的な入力によって周期的なピッチの変動の繰り返しを生じさせることが可能であることを示すものといえる。 しかしながら,本件航空事故調査報告書によると,操縦士が機首下げの必要性を認識してから,機首下げ操作を行い,結果が現れるまで約1.9秒を要するとのことである。これを前提とすると,ピッチ角が減少から増加に転換する動きに対応する操縦輪の動き,すなわち機首上げ方向への操縦輪の移動が,操縦士の意図的な操作によるとすれば,操縦士は,ピッチ角が減少から増加に転換する約1.9秒前,すなわちその前の機首上げの機体姿勢にある段階で,機首上げの操作の必要性を認識したことになり,不自然である。ピッチ角の変化の方向の転換自体は,被告人の意図的な操縦輪への入力とは別の原因によるものと考えられる。 もっとも,この間,操縦輪に繰り返し入力がなされており,前記の操縦輪操作の結果の発現の遅れから,被告人による操縦輪への入力がピッチ変動の振幅を大きくしたものと認められる。 6 被告人の供述(1) 被告人は,本件事故時,操縦輪を引いていない旨を一貫して供述し,オート・パイロットをオー から,被告人による操縦輪への入力がピッチ変動の振幅を大きくしたものと認められる。 6 被告人の供述(1) 被告人は,本件事故時,操縦輪を引いていない旨を一貫して供述し,オート・パイロットをオーバーライドすることは無意味であると認識しており,オーバーライドして減速するという操作は思い浮かばない旨を述べる。 そして,本件旅客機が著しい増速傾向を示した後の状況につき,被告人は,「10秒後の予想速度を表示するトレンド・ベクターが,運用限界速度である365ノットの目盛りを突き抜け,二十四,五ノットの増加を示す状態となり,H副操縦士が,『コーション・スピード』と言った後,減速のため,ヴァーティカル・スピード・モードに変更するために,ピッチ・ホイールを機首上げ側に回したが,ヴァーティカル・スピードの値が表示されるはずであるのに,フライト・レベル・チェンジ・モードで降下中の表示のまま変わらず,3回くらいピッチ・ホイールを回したが,同様であった。こういう速度増加があるというのは,外の気流が相当乱れているのではないかと思った。このような場合には,オート・パイロットを使うのが常套手段であるから,手動で機首上げをすることは考えなかった。抵抗を増やそうと思い,スピード・ブレーキを操作した。様子を見るようなつもりで,まずスポイラーを三分の一引いて,ちょっと止めて様子を見たが,減速の効果が全く現れなかった。そこで,スポイラーをフルに展開した。」旨を供述する。 (2) 被告人がピッチ・ホイールを操作して,ヴァーティカル・スピード・モードに切り替えようとしたことは,前記のとおり証人Hの供述や操縦輪への入力状況と符合するものであり,スポイラーの展開状況も飛行記録と一致する。そして,それらの操作は,前記のとおり減速のための操作として適切なものである。しかしながら, 記のとおり証人Hの供述や操縦輪への入力状況と符合するものであり,スポイラーの展開状況も飛行記録と一致する。そして,それらの操作は,前記のとおり減速のための操作として適切なものである。しかしながら,それらの操作がいずれも減速の効果を示さず,運用限界速度を超過し,さらに増速する傾向を示す状況は,操縦士にとって,相当の緊張感を与えるものである。このことは,被告人が冷静な判断ができない状況にあった可能性があることを示している。自動操縦が解除された場合には,警報音と表示によりそのことが示されるところ,被告人は,名古屋空港到着後,自動操縦の解除された時点が揺れの始まる前か後か分からなかったと述べており,このことは,本件事故時の被告人の冷静とはいえない心理状態を示すものである。 (3) また,被告人は,大きな揺れが繰り返されている中で,マニュアル操作によると考えられるスタビライザーの動き及びエンジンの推力の増加が記録されていることにつき,スロットル・レバーを操作したことも操縦輪のマニュアル・トリム・スイッチを操作したこともない旨を供述する。 そして,被告人は,スポイラーを三分の一からフルに展開した直後の揺れの状況につき,「機体がどのように変化したかということは,認識できないぐらいの衝撃を体に受けたと,急に体がいすに押さえつけられたり,いすからほうり出されるような機体の動きがあったり,どういうふうに動いてるのか,どうなってるのか,分からないような状態になったという記憶がございます。」「こういった状況になった場合には,飛行機を安定させなくちゃいけないと考えるのが,通常ですんで,恐らくPFDを見ようとしたんだと思いますけれども,とても計器が読めるような状態ではなかったです。 目線が定まらないというんですか,計器を読めない状態でした。」と供述する。 えるのが,通常ですんで,恐らくPFDを見ようとしたんだと思いますけれども,とても計器が読めるような状態ではなかったです。 目線が定まらないというんですか,計器を読めない状態でした。」と供述する。 (4) この間の揺れの状況につき,証人Hも,同様に,頭を振り回されるような感じで揺れ,プライマリー・フライト・ディスプレー(PFD)の画面を読みとることができない状態であった旨を供述している。しかしながら,被告人の体は5点式のシートベルトで座席に固定されており,操縦輪に手をかけているのであるから,操縦装置の位置を知覚することは可能であった。操縦輪を押し引きし,トリム・スイッチ及びスロットル・レバーを操作することが不可能であったとはいえない。 7 以上によれば,被告人が,スポイラーを全開にした際,何らかの理由で機首上げの動きが生じたが,自動操縦によりFCCが機首下げの指示をし,これに伴う操縦輪の動きを,被告人が引いて抑え,更に強く引いて機首上げ方向に操縦輪を動かすオーバーライドをすることにより,ECRMを作動させ,その過程で大きな機首上げの動きを生じさせ,その後の機首の上下の動きの繰り返しにつながったものと認められる。 第8 注意義務と予見可能性 1 証拠により認定できる客観的事実関係証拠(証人Z7,同Z8,同Yの公判供述,Z7(甲71),S(甲74)の検察官調書,捜査報告書(甲89,94ないし96),OPERATIONSMANUAL1冊(平成15年押第14号の1),MD-11 AIRCRAFTOPERATINGMANUAL(1)ないし(3)合計3冊(同押号の2ないし4),MD-11 PILOTFLIGHTTRAININGGUIDE1冊(同押号の5),「OperationEngineeringSummary」と題する文書2枚(同押 冊(同押号の2ないし4),MD-11 PILOTFLIGHTTRAININGGUIDE1冊(同押号の5),「OperationEngineeringSummary」と題する文書2枚(同押号の6),「MD-11 HighAltitudeHandlingQuality-解説」と題する文書4枚(同押号の7),「ダグラス発行マニュアル・情報類」と題する文書1枚(同押号の9),「OPERATIONSINFORMATION」と題する文書1枚(同押号の11),「AOL」と題する文書4通(同押号の12ないし14,16))によれば,以下の事実が認められる。 (1) 甲航空内の規程類等MD-11型機に関して,製造会社である戊社は,製造国の承認の下に航空機の型式特有の限界事項,緊急操作,性能の諸元等が記載されたエアープレイン・フライト・マニュアル(AFM),型式ごとの運用限界,緊急時の操作,故障時の操作,通常時の操作,性能の諸元,システムの説明等が記載され,定期的に改訂されるフライト・クルー・オペレーティング・マニュアル(FCOM)等の規程類,運用上有効な情報,特定の航空機システムに関する運用上の影響を生じるような問題点の情報が記載されたオール・オペレーターズ・レター(AOL)を発行していた。 甲航空は,MD-11型機の運航技術に関する基幹規程として,航空機の運用限界,故障時・緊急操作,通常操作,性能,特殊運航,運用許容基準等が記載されている航空機運用規程(エアークラフト・オペレーティング・マニュアル(AOM))を制定し,各運行乗務員等に配布するほか,運行技術に関する補足情報として,運航関係業務を遂行する上で,読んで理解する必要のある一時的な情報を内容とするオペレーションズ・インフォメーション(OI),日常運航上知っておいた方が に配布するほか,運行技術に関する補足情報として,運航関係業務を遂行する上で,読んで理解する必要のある一時的な情報を内容とするオペレーションズ・インフォメーション(OI),日常運航上知っておいた方が好ましい知識・事例・記事等の紹介を内容とするオペレーションズ・ニューズ(ON)を随時発行して,運航乗務員に提供していた。 甲航空の運航技術部は,戊社から提供されるマニュアルや情報を受け入れ,AOM,OI,ON等の形で運行乗務員等へ情報を提供していた。AOMは,基本的にFCOMを日本語に直して分かりやすい形にしたものである。戊社から提供されるAOLなどの情報は,その内容により,AOM中の付属書であるAOMSupplement,OI又はONに記載されていた。 (2) 操縦輪のオーバーライドに関する規程等甲航空においてMD-11型機が就航した平成6年4月1日当時から,AOMの4-2-7「SEVERETURBULENCE中の飛行」には,自動操縦に関する操作につき,タービュランスにおいては,自動操縦を使用し,自動操縦の作動状況を注意深く監視し,機が所望の姿勢を維持できない場合のみ自動操縦を解除できるよう準備すること,自動操縦が解除した場合には滑らかにコントロールを引き継ぎ,ピッチ姿勢を安定させること,回復後,可能であれば自動操縦を再接続することを記載した部分の後に,「CAUTION」(遵守しないと,機器の損傷をもたらす作用,テクニック等)として,「(1) ControlForceによってAutopilotをOverrideしようとしてはならない。この場合,過大なControlInputによりAutopilotがDisengageしRecoveryの過程でOvercontrolとなる。 Overcontrolとならな ならない。この場合,過大なControlInputによりAutopilotがDisengageしRecoveryの過程でOvercontrolとなる。 Overcontrolとならないよう細心の注意が成されなければならない。 (2) 高高度におけるPitchのControlForceは高度による影響,およびAft.CGにより,低高度でのそれと比較し,かなり軽い。 (3) AutopilotがOffの時には,AttitudeをControlするためのInputをMinimumとし,可能な限りControlColumnへのInputを抜きLSASによりAttitudeを維持させる。」という内容の記載があった(上記の文言は平成6年10月1日付けの第2回改訂版による。以下,「AOM4-2-7のコーション」ともいう。)。 また,平成6年7月1日付け改訂のAOMSUPPLEMENTのS2-3-4「SEVERETURBULENCE中の飛行」の「3.HighAltitudeでのManualControlの注意点」には,「一般に,高高度での安定性の減少によりManualControlは難しいが,PitchのControlForceは高度による影響,およびAftCGにより低高度でのそれと比較し,かなり軽くなっており,Overcontrolとなりやすい。従ってAttitudeをControlするためのInputをMinimumとし,可能な限りControlColumnへのInputを緩めLSASによりAttitudeを維持させると良い。 結論として,もしSevereTurbulenceに遭遇したら以下の点を考慮する。 (1) 可能な限りAutopilotはEngageのままとし,Overr itudeを維持させると良い。 結論として,もしSevereTurbulenceに遭遇したら以下の点を考慮する。 (1) 可能な限りAutopilotはEngageのままとし,Overrideしない。 (2) もしAutopilotがDisengageしたら所望のAttitudeにSetしControlInputを抜く。 (3) 速やかにAutopilotをRe-engageする。 (4) 可能であれば,高度を下げる。」との記載があった(以下,「AOMサプリメントS2-3-4の注意点」ともいう。)。 (3) 戊社からの情報と甲航空の対応戊社は,MD-11型機につき,平成4年12月に己航空機が高高度での乱気流の中を飛行中に自動操縦が解除し,その回復の過程で機体が大きく動いた事故,平成5年4月に庚航空機が高高度を飛行中,突然スラットが出て発生した事故等を受け,FCOMを改定し,これに基づいて,甲航空のAOM4-2-7のコーションが定められた。 さらに,戊社は,平成6年6月15日,「MD-11 HighAltitudeHandlingCharacteristicMeeting」という会議を開催し,甲航空からは,運航技術部試験飛行室のY機長ら3名が出席した。 同会議において,平成4年から平成5年にかけて発生した高高度における3件の事故事例の報告がなされ,MD-11型機の高高度での飛行特性について説明がなされた。その際,自動操縦を接続したまま手動で操縦輪に入力すると,自動操縦装置はその指示する昇降舵の位置を維持しようとするが,操縦輪への入力がある値以上になると自動操縦は切断し,昇降舵の位置が突然パイロットの指示する位置まで動き,急激なピッチ,Gの変化が生じることになるとして,自動操縦を接続したま を維持しようとするが,操縦輪への入力がある値以上になると自動操縦は切断し,昇降舵の位置が突然パイロットの指示する位置まで動き,急激なピッチ,Gの変化が生じることになるとして,自動操縦を接続したまま手動で操縦輪に入力してはならない旨の説明がなされた。 Y機長らは,「OperationEngineeringSummary」を作成して,運航技術部長ら運航技術部内等に配布し,同会議についての報告を行った。 同会議の内容は,事前に甲航空に知らされており,その情報に基づき同年7月1日付けでAOMが改定され,AOMサプリメントS2-3-4の注意点が記載された。 (4) 自動操縦のオーバーライドに関する情報Y機長は,同会議において高高度における操縦特性に関する講義を収録したビデオテープが配布されたことから,訓練にこれを使うにあたり,その内容を解説した平成6年8月15日付けの「MD-11 HighAltitudeHandlingQuality-解説」と題する文書(以下,「Y解説」ともいう。)を作成し,乗員訓練部に渡した。 同文書には,高高度における縦方向の安定性が低いこと,巡航中に自動操縦が切れる原因の一つとして自動操縦接続中にオーバーライドすることによりコマンド・レスポンス・モニターが作動する機序等が解説され,「Disengageしたとたん,4枚のElevatorが同一方向に動き,突然の大きなGを伴うPitch変化が発生します。前章でのHighAltitudeでの飛行特性を思いだして下さい。AutopilotのOverrideは大きなRiskを伴います。又,MD-11では何のMeritもありません。絶対にAutopilotをOverrideしないで下さい。」と記載されていた。 運航乗員訓練部は,パイロット・フライト 大きなRiskを伴います。又,MD-11では何のMeritもありません。絶対にAutopilotをOverrideしないで下さい。」と記載されていた。 運航乗員訓練部は,パイロット・フライト・トレーニング・ガイド(PFTG)の「(9)激しいTurbulenceに遭遇した時」の「NOTE4 HighAltitudeでのManualControlの注意点」として,AOMサプリメントS2-3-4の注意点と同じ内容を記載し,「NOTE5AutopilotをOverrideしてはいけない理由」として,Y解説中のコマンド・レスポンス・モニターが作動する機序の説明に基づき,「Elevatorの場合,通常AutopilotはLeftInboardElevatorのみ(A/P1の場合)をControlし,他の3枚はFollowupCableを介して作動する。しかしAutopilotをOverrideするとその3枚はFollowupCableによらずManualControlによって動き,AutopilotのCommandと違うInputをした場合,機はCommandに従わないため,AutopilotによってControlされている舵面は更に大きくDeflectすることとなる。ここで上記Note3の条件によりAutopilotがDisengageすると,その舵面も急にManualControlに追従するため結果として機体に大きなGをかけることとなる。」と記載し,訓練を受ける操縦士に配布した。また,Y解説をMD-11型機の操縦士に配布した。 (5) 乗員訓練の内容戊社からの前記一連の情報に基づき,乗員訓練部は,平成7年10月,ハイ・アルティチュード・キャラクタリスティック訓練をシミュレーターを使った定期訓練に取り入れた。この訓 (5) 乗員訓練の内容戊社からの前記一連の情報に基づき,乗員訓練部は,平成7年10月,ハイ・アルティチュード・キャラクタリスティック訓練をシミュレーターを使った定期訓練に取り入れた。この訓練は,3万9000フィートを飛行中に,突風を受けてACOが作動して突然自動操縦が外れたときに,機体を立て直して,自動操縦をつなぎ直すという訓練であり,オーバーライドによって自動操縦が解除されるという内容ではなかった。 2 甲航空内におけるオーバーライドについての認識(1) 本件事故当時,甲航空の運航技術部長であった証人Z8は,「AOM4-2-7のコーションは高高度に適用されるものであり,自動操縦をオーバーライドによって切断した場合,どのような危険が生ずるかは,コントロール・コラムに力を入れた状態で,いつオート・パイロットが切れるかという状況,外部の状況によって変わり,一概に言えない。『大きなGがかかる』ということが必ずそうなるか,あるいはどの程度なのかは,余りはっきり分からないのではないかと思う。コーションが想定する事態には,人身事故を含まれないと解釈するのが正しい。オーバーコントロールは,操縦士が必要以上の力を加える結果,飛行機が所望以上の動きをすることであり,人身事故にすぐつながると考えることは極めて危険である。いろんな可能性を考え,すべて最悪のところにつなげれば,人身事故の可能性がないとはいえない。」旨を供述する。 本件事故当時,甲航空の運航技術部試験飛行室長であった証人Yは,「AOM4-2-7のコーションは,高高度におけるシビアー・タービュランス中の操縦を前提としたものである。シビアー・タービュランスに入ったら,やはり,オーバーライドしてはいけないという認識は,高度にかかわらず,あるかと思う。」旨供述する一方,「一般的にオーバー ュランス中の操縦を前提としたものである。シビアー・タービュランスに入ったら,やはり,オーバーライドしてはいけないという認識は,高度にかかわらず,あるかと思う。」旨供述する一方,「一般的にオーバーライドをしてはならないというよりは,オーバーライドそのものを想定していないというほうが,操縦士の感覚として近い。」とも供述する。そして,「オーバーライドして外れた後の結果というのは,高々度,それから,Aft.CGという大変に大きな要因がありますが,オートパイロットをオーバーライドして,外れる,又は,そのときに,姿勢の変化が発生するということは,どの高度でも起こり得るということです。」「オーバーライドによって(オートパイロットが)外れるということに関しては,高度には関係ありません。(パイロット全員の共通の認識ということで)結構だと思います。」「(オーバーライドして)オーバーコントロールになるかどうかということは,また,別の要素がありますので,因果関係としては非常に薄いかと思います。」と供述する。 本件事故当時,運航乗員訓練部副部長であった証人Rは,「オート・パイロットをオーバーライドして解除することは,一般的には必要がないのでしない。AOM4-2-7のコーションの(1)は,高高度のシビアー・タービュランス中でオートパイロットをオーバーライドしてはならないという規定である。MD-11型機は,ファイナル・パイロット・オーソリティーという設計思想によって作られており,オーバーライドによってオート・パイロットが解除されるのは,その設計思想によるものである。オーバーライド自体,通常の運航では必要ないので,しないということである。オーバーコントロール自体が危険という理解はしていない。」旨を供述する。 本件事故当時,運航乗員訓練部MD11操縦教官室長 ーバーライド自体,通常の運航では必要ないので,しないということである。オーバーコントロール自体が危険という理解はしていない。」旨を供述する。 本件事故当時,運航乗員訓練部MD11操縦教官室長であった証人Sも,「AOM4-2-7のコーションの(1)は,高高度のシビアー・タービュランス中に限定される。 オーバーライド自体を安全運航上問題があるものとして禁止しているものではない。高高度という前提において,オートパイロットをオーバーライドして外れた結果,オーバーコントロールの可能性があるから注意しなさいという規定である。オーバーコントロールそのものが危険であるとは解釈していない。オーバーコントロールになるケースで,乗客や乗務員が転倒して怪我をするということは全く想定していない。」旨を供述する。 副操縦士であった証人Hは,「AOM4-2-7のコーションについて,シビアー・タービュランス中に,高高度において,オートパイロットをオーバーライドしてはならないという注意点として理解していた。事故当時,大きな力でオーバーライドすれば,ディスエンゲージすることもあるだろうなというぐらいの認識で,具体的な理解はしておらず,特に危険性があるというような認識はなかった。AOM4-2-7のコーションが常時適用されるというのは,オーバーライドする必要はどんな状況でも全くないという趣旨である。オーバーライドは,メリットがないからやらないのであって,リスクを伴うからやらないのではない。オーバーコントロールとは,修正がちょっと大きくなりすぎて,なかなか収束しないようなコントロールと認識しており,オーバーコントロール自体が,人の死傷の危険性があるとの認識はなかった。」旨を供述する。 以上のとおり,いずれの証人も,AOM4-2-7のコーションの(1)は,高高度の トロールと認識しており,オーバーコントロール自体が,人の死傷の危険性があるとの認識はなかった。」旨を供述する。 以上のとおり,いずれの証人も,AOM4-2-7のコーションの(1)は,高高度のシビアー・タービュランス中における注意であるとするが,オーバーライドをしてはならない範囲について,証人Z8においては,高高度であればシビアー・タービュランス中に限られないと供述し,証人Yにおいては,シビアー・タービュランス中であれば高度にかかわらないと供述する。また,AOM4-2-7のコーションの(1)が想定する状況について,証人Z8及び同Yは,操縦輪に力が加わった状態で自動操縦が解除になること自体による機体姿勢の変化を想定し,そこからの回復の過程でオーバーコントロールになるという理解を示し,証人S及び同Hは,オーバーライド自体による機体姿勢の変化よりも,オーバーライドの結果,自動操縦が解除され手動操縦となった際にオーバーコントロールになることについての注意としての理解を示す。そして,オーバーライドによって自動操縦が解除された後に生じるオーバーコントロールの状態の危険性について,証人Yは,状況によって客室内に怪我人が出る危険があることを肯定するが,証人Z8は,人身事故の可能性が限定される旨を供述し,その余の前記証人らは,オーバーコントロールそれ自体が人身事故につながる危険なものではなく,また,オーバーライド自体につき,危険であるからしてはならないものとは理解していなかった旨を供述する。 (2) R,S及びHの検察官に対する供述内容他方,Rは,検察官に対し,「オーバーライドは,常時してはならないことです。」「オーバーライドが禁止されているということは,本件事故以前であっても,MD-11のパイロットであれば誰でも知っている『常識』に属する 検察官に対し,「オーバーライドは,常時してはならないことです。」「オーバーライドが禁止されているということは,本件事故以前であっても,MD-11のパイロットであれば誰でも知っている『常識』に属する事項であり,機長(被告人)も当然そのことは分かっていたはずです。」「これはAOM等にも記載があることです。」「大きな力によるオーバーライドによりオートパイロットが解除することも事故当時,周知の事柄です。」「そして,オーバーライドによりオートパイロットが解除された場合には,機体の姿勢の変化が生じ,その回復操作過程でオーバーコントロールになるということもAOMにも記載があり,MD-11のパイロットであれば知っている事項です。」「その機体の姿勢変化やオーバーコントロールの程度については,その禁止がウォーニングではなく,コーションとなっていたこともあって,私は,人の死亡の結果が出るほどひどい状況になるということは,今回の事故以前には認識していませんでした。」と供述する(甲75)。 Sは,検察官に対し,オーバーライドは,「事故以前にも禁止事項となっていました。」「私もオーバーライドしてはならないことは常識として知っていましたし,機長(被告人)も当然そのことは分かっていたはずです。」「私は,どのような場合であってもオーバーライドはしないとして操縦していました。」「オーバーライドの禁止については,PILOTFLIGHTTRAININGGUIDEにも記載されています。」「Gの程度は別として,今回の事故のような大きなGの発生という事態については,予め書面となってパイロットに周知徹底されていたのでした。」「このようなAOM,PFTG等の各記載等を前提にすれば,オーバーライドをすれば,オートパイロットがディスコネクトすることがあり,その際,大きなGが発生 ってパイロットに周知徹底されていたのでした。」「このようなAOM,PFTG等の各記載等を前提にすれば,オーバーライドをすれば,オートパイロットがディスコネクトすることがあり,その際,大きなGが発生し,しかも,その回復過程で,オーバーコントロールとなるということですから,必ずしも,そのような全てのケースで,乗客や乗務員が転倒等をして怪我をするということはないと思いますが,可能性としては,そのような事態が全く起こらないということは言えないのでした。」「オーバーライドの禁止は,機会がある度にパイロットに周知されていたのでした。」と供述する(甲74)。 Hは,検察官に対し,運行規程でオーバーライドを禁止しているのは,「オーバーライドしてAPが切れるような事態になれば,これらの機体の特質が悪く影響してしまい,機体損傷,乗員乗客の人身事故などの危険につながる可能性が高いためだと理解していました。」,AOM4-2-7のコーションについて,「これは特にシビアー・タービュランス時だからということではなく,どのような気象条件であっても,常時適用されるものだと認識していました。」,Y解説について,「急激なピッチ変動も,客室内の状況によっては,人身事故となりかねない危険なことだと言えます。また,ピッチ変動が起きれば,少なくともウイングレベルに戻すために,機体の姿勢をマニュアルでコントロールしなくてはならないわけですが,高高度では特に慎重な操縦が必要になる上,MD-11に搭載されている各種の機能の働きを念頭に置きながら,微妙な操縦をしなければならないので,勢いオーバーコントロール,つまり過剰制御に陥りがちだと言うこともありうることだと思っています。そのようなリスクしかない操縦方法なら,最初からやらないことにしよう,というのが,特にMD-11においてオーバ バーコントロール,つまり過剰制御に陥りがちだと言うこともありうることだと思っています。そのようなリスクしかない操縦方法なら,最初からやらないことにしよう,というのが,特にMD-11においてオーバーライドを明確に禁止している趣旨だと認識しています。」と供述する(甲182)。 (3) 供述の信用性Z8は,警察官から本件事故の被疑者として取調べを受けた際,オート・パイロットがオーバーライドによって解除されたとき,急激なピッチ方向への動きが生じる結果,オーバーコントロールになることが,AOMの規定により,運航乗務員に対して周知徹底されていた旨を供述する。Yは,警察官から事情聴取を受けた際,AOM4-2-7のコーションがシビアー・タービュランスの場合だけでなく,通常の運航時にも適用されるものと認識している旨を供述する。Rは,警察官から事情聴取を受けた際,「オーバーライドの禁止については,AOMコーションに記載がある。AOM4-2-7のコーションの記述は,シビアー・タービュランスの場合だけでなく,通常の運航時にも適用されるものであると類推される。PFTGの前記NOTE5の記載により,座学でオーバーライドの禁止が教育されている。」旨を供述する。Sは,警察官から事情聴取を受けた際,AOM4-2-7のコーションにつき,PFTG等の記述により,シビアー・タービュランス中の飛行の場合に限らず通常の運航時にも適用される旨を供述する。Hは,警察官から本件事故の被疑者として取調べを受けた際,AOM,PFTG等でAPオーバーライドが禁止事項とされ,シビアー・タービュランス中の飛行に限定されず,いかなる状況においても行ってはならず,Y解説によって,APオーバーライドによりAPが解除した場合,突然大きなGを伴うピッチ変化が発生し,機体が上下に大きく動くことを ュランス中の飛行に限定されず,いかなる状況においても行ってはならず,Y解説によって,APオーバーライドによりAPが解除した場合,突然大きなGを伴うピッチ変化が発生し,機体が上下に大きく動くことを,本件事故当時,認識していた旨を供述する。 前記各証人の公判供述は,AOM4-2-7のコーションが高高度かつシビアー・タービュランス中以外に適用されるかという点につき,警察官調書の内容と相反している。いずれの警察官調書も,無理な誘導がなされた様子は窺えず,Z8,Y及びSにおいては警察官調書の内容を詳細に確認した上で署名しているのであり,各公判供述のうち,これらの警察官調書の内容と相反する供述部分の信用性を高く評価することはできない。証人Sは,前記のとおり本件事故当時に操縦教官室長の地位にありながら,PFTGの前記NOTE5の記載の理解につき明らかに不合理な供述をしている。 他方,R,S及びHの検察官に対する各供述は,その事情聴取の過程で,検察官との間で,表現方法や内容につき修正を求めるやり取りがなされたとのことであるが,最終的には妥協できる内容になったとして署名押印がなされている。すると,その内容は,前記公判供述と比較して信用性が高いと言える。 また,証人Yの供述内容は,AOM4-2-7のコーションの適用がシビアー・タービュランスの場合に限定されるか否かについては供述が変遷しているものの,その余の供述は,Y解説で述べられている内容や自動操縦が解除される場合を説明したAOMの内容に照らして信用できる。そして,同証人の供述とY解説及びPFTGの前記NOTE5におけるオーバーライドによりコマンド・レスポンス・モニターが作動する機序の説明からは,自動操縦解除後にオーバーコントロールになるという問題のほかに,オーバーライドによりコマンド Gの前記NOTE5におけるオーバーライドによりコマンド・レスポンス・モニターが作動する機序の説明からは,自動操縦解除後にオーバーコントロールになるという問題のほかに,オーバーライドによりコマンド・レスポンス・モニターが作動することにより,大きなGを伴う縦方向の姿勢の変化の問題が意識されていたものと認められる。 (4) しかしながら,他方で,前記1で認定した事実によれば,AOM4-2-7のコーション,AOMサプリメントS2-3-4の注意点は,いずれも,平成4年から平成5年にかけて発生した高高度における手動操縦時の事故又は出来事を背景としたものである。そして,AOMサプリメントS2-3-4の注意点は,MD-11型機が高高度において縦方向の安定性が低いことから手動操縦の際にオーバーコントロールになる可能性があることとの関連で記述されている。したがって,AOM4-2-7のコーションも,全体としては,MD-11型機の高高度における縦方向の安定性が低いことから,高高度すなわち高度2万5000フィートないし3万フィート以上の高度及び激しい乱気流中を飛行中の操縦操作の注意として規定されていると認められる。 (5) 前記のとおり,平成8年10月1日付けの戊社からのオール・オペレーターズ・レター(AOL-11-131)では,操縦輪に機首上げ方向に力が加わった状態で自動操縦を解除した直後,急にピッチ・アップし,客室乗務員及び乗客が負傷した辛航空の事故事例が紹介されている。この事故は,高度3万5000フィートから2万4000フィートに降下中に発生したものであるが,このAOLに対し,甲航空では,その内容が既にAOMの中に盛り込まれているという判断と,規定類の改訂としてFCOMという正式な形のものが戊社から出される可能性があるという判断から緊急性を要する情 ,このAOLに対し,甲航空では,その内容が既にAOMの中に盛り込まれているという判断と,規定類の改訂としてFCOMという正式な形のものが戊社から出される可能性があるという判断から緊急性を要する情報であると判断せず,オペレーションズ・インフォメーションとして情報を提供することが検討され,さらに,オペレーションズ・ニューズという形で発行する方針が決められ,その後,本件事故が発生したことから,平成9年6月19日付けのオペレーションズ・インフォメーションに,オート・パイロットが自動的に解除する条件を「Review」するとして,オートマチック・カット・オフ機能とともにコマンド・レスポンス・モニター機能を説明し,「AutopilotをOverrideしてはなりません。」と記載し,辛航空の事故を紹介した(証人Z8,捜査報告書(甲225),「AOL」と題する書面3枚(平成15年押第14号の17),「EVALUATIONSHEET」と題する書面1枚(同押号の18),「Operationsnews-案-」と題する書面1枚(同押号の19))。 (6) 以上の関係者の供述内容,中でも信用性の高いR,S及びHの検察官調書によれば,自動操縦時にオーバーライドしてはならないということが,MD-11型機の運航乗務員の間で,広く共通の認識としてあったことが認められる。また,信用性の高い証人Yの供述によれば,オーバーライドによって機体姿勢の変化が生じ,大きなGが発生するという認識もあったと認められる。 しかし,AOMやPFTGがオーバーライドそれ自体による機体の動きだけでなく,その後に生じるオーバーコントロールも問題としていること,オーバーコントロールの発生がMD-11型機の高高度における飛行特性に由来していること,前記辛航空の事故も高高度で発生したものであるこ なく,その後に生じるオーバーコントロールも問題としていること,オーバーコントロールの発生がMD-11型機の高高度における飛行特性に由来していること,前記辛航空の事故も高高度で発生したものであることを併せ考えると,高高度以外でのオーバーライドは,直ちにオーバーコントロールに結び付くものではなく,AOM4-2-7のコーションが適用になるものではないと理解されていたと認められる。 この点に関し,前記のとおりZ8,S及びHは,検察官に対し,オーバーライドがいかなる場合も禁止される理由として,自動操縦が解除された後にオーバーコントロールの状態になると説明している。しかしながら,他方で,オーバーコントロールとなる理由として,MD-11型機の高高度における飛行特性を説明してもいる。すると,これらの供述内容から,MD-11型機の運航乗務員の間において,高高度以外でのオーバーライドによってオーバーコントロールになるという認識があったとは認められない。 3 被告人の具体的予見可能性,回避可能性について(1) 関係証拠(被告人の公判供述,被告人の警察官調書(乙3ないし6),Z7の警察官調書(甲209),捜査報告書(甲76))によれば,被告人は,航空大学校在学中に事業用操縦士の資格を取得し,昭和48年4月,甲航空に操縦士として入社し,同社の訓練を受けて,昭和50年10月からDC-8型機の航空機関士として勤務し,昭和56年6月から同型機の副操縦士として勤務し,昭和60年8月からボーイング747型機の副操縦士として勤務し,平成4年2月からボーイング747型機の機長として勤務したこと,平成5年12月1日からMD-11型機への移行訓練を受け,平成6年3月28日MD-11型機の機長の資格を取得し,本件事故の起きた飛行までMD-11型機の機長として乗務していたこ 長として勤務したこと,平成5年12月1日からMD-11型機への移行訓練を受け,平成6年3月28日MD-11型機の機長の資格を取得し,本件事故の起きた飛行までMD-11型機の機長として乗務していたこと,その間,定期訓練を受けていたこと,本件事故の発生した飛行の際に健康状態及び体調に何ら問題がなかったことが認められる。したがって,被告人は,本件事故当時,MD-11型機の運航乗務員として必要な知識,技量及び経験を十分に備えており,身体的にも問題がなかったものといえる。 (2) 被告人は,MD-11型機の運航乗務員としてAOMの内容を理解し,PFTGに目を通しており,また,Y解説についても配布を受け,内容を読んでいた。したがって,他のMD-11型機の運航乗務員と同様,自動操縦をオーバーライドしてはならないことを理解していたものと認められる。被告人も,警察官及び検察官の取調べの際,オーバーライドしてはならないことを認識していた旨供述している。 そして,本件事故直前に急激に速度が増加し,さらにVmoを超過した場合の対処についても,被告人は,Vmoを超過した場合にオーバー・スピード・プロテクション機能により自動的に減速が行われること,自動操縦により減速ができないと判断した場合には,操縦輪についている自動操縦解除のボタンを操作して自動操縦を解除して手動操縦に切り替え,機首上げの入力をすることを知っていたものと認められる(S(甲74),R(甲75)の検察官調書)。したがって,オーバーライドによる更なる機首上げと自動操縦の解除後の機首の大きな上下の動きを回避し得たものと認められる。 (3) しかしながら,オーバーライドにより自動操縦が解除された後の機体の動きについて,被告人は,Y解説やPFTGに目を通して,大きなGが掛かるという情報を得ていたとは し得たものと認められる。 (3) しかしながら,オーバーライドにより自動操縦が解除された後の機体の動きについて,被告人は,Y解説やPFTGに目を通して,大きなGが掛かるという情報を得ていたとはいえ,関係者の供述により,様々な状況が重なれば,そのことによって人身事故が発生することもあり得るという認識があったと認められるにとどまり,直ちに人身事故を発生させる危険性を有するという認識まであったとは認められない。 また,オーバーライドにより自動操縦が解除された後にオーバーコントロールの状態になるのは,前記のとおり,MD-11型機の高高度での不安定性に由来するものであり,1万7000フィートの高度でオーバーコントロールの状態になることまで予見し得たとはいえない。 実際,前記のとおり,最初の機首上げは,被告人によるオーバーライドによって自動操縦が解除される前から始まっていた可能性が高く,被告人のオーバーライドによって最初の機首上げの程度が大きくなったことは認められるものの,その程度は不明である。また,自動操縦解除後の機首の上下の繰り返しは,被告人の操縦輪への入力以外の原因が作用した可能性がある。 すると,被告人が自動操縦をオーバーライドしたことにより,手動操縦に切り替わり,その過程で機首上げが生じることの予見は可能であったとはいえ,その機首上げが直ちに人身事故に結び付く可能性があるとまで認識し得たとはいえず,また,手動操縦に切り替わったことにより,本件において見られた機首の大きな上下動の繰り返しが生じることの予見が可能であったとはいえない。 第9 結論以上によれば,本件事故の発生に,被告人の操縦操作が関与していたことは認められるが,公訴事実に掲げられるような結果予見義務及び結果回避義務の違反を認めることができず,結局本件公 。 第9 結論以上によれば,本件事故の発生に,被告人の操縦操作が関与していたことは認められるが,公訴事実に掲げられるような結果予見義務及び結果回避義務の違反を認めることができず,結局本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 (検察官蛯名太郎,同伊藤文規,主任弁護人伊佐次啓二,弁護人藤井成俊,同大林研二,同山下淳各出席)(求刑禁錮1年6月)平成16年10月28日名古屋地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官石山容示裁判官鈴木芳胤裁判官村松教隆別紙1負傷者一覧表 1 客室乗務員番号氏名(年齢)傷病名加療期間 A1(当時43歳)右骨盤環骨折,第1腰椎破裂骨折,右橈骨頭骨折入院加療約2か月間 A2(当時33歳)外傷性頭頚部症候群,左眼視力低下,頭部・左肩・骨盤打撲,頚椎・腰椎捻挫加療約5週間 A3(当時30歳)左恥骨骨折,右母指末節骨開放性骨折,頭部挫創加療約1か月間 A4(当時43歳)左足関節打撲・捻挫加療約4週間 A5腰部打撲加療約5日間(当時26歳) A6(当時34歳)腰部打撲加療約5日間 A7(当時29歳)右Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ趾打撲加療約5日間 2 乗客番号氏名(年齢)傷病名加療期間 B1(当時48歳)左第1・2・3・4腰椎横突起骨折加療約1か月間 B2(当時26歳)頚部・胸背部・腰部挫傷加療約1か月間 (年齢)傷病名加療期間 B1(当時48歳)左第1・2・3・4腰椎横突起骨折加療約1か月間 B2(当時26歳)頚部・胸背部・腰部挫傷加療約1か月間 B3(当時42歳)左下腿部・左足関節部挫傷加療約3週間 B4(当時48歳)頭部・胸部打撲,耳介切創加療約2週間 B5(当時36歳)胸椎・腰椎捻挫加療約2週間 B6(当時52歳)頭部・右肩・右肋骨打撲,頚部捻挫加療約1週間

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