主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中320日を原判決の本刑に算入する。 理由 第1 本件控訴の趣意は弁護人渡辺勝志名義の控訴趣意書に,これに対する答弁は検察官饒平名正也名義の答弁書に,それぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。 控訴の趣意は要するに,被告人が被害者に暴行を加えて死に至らしめたと認定するには合理的な疑いが残り,本件公訴事実につき,被告人は無罪であるのに,有罪認定をした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。 そこで記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。 第2 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,被告人が,平成11年8月中旬ころ,勤務先の建設会社を辞め,岡山市内の株式会社A波止場に係留中のB所有に係るプレジャーモーターボート内で,元同僚のCと一緒に寝泊まりしていたが,同年9月16日の午前ころ,Cが当日知り合ったD(当時43歳)を連れ帰ったことから,ボート内において,3人で飲酒するなどしていたところ,同日午後3時前ころ,Dが被告人に対して横柄な態度をとったとして立腹し,「おどりゃあ。えらそうにしやがって。」とDを怒鳴りつけるなどして口論となった末,右手でその胸ぐらをつかみ,左手でその頭髪をつかんで,ボートの甲板床面にほぼ俯せの姿勢に引き倒した上,左手で頭髪を引っ張り上げてDの頭部をいったん起こした後,Dの右前額部をボートの甲板床面に1回たたきつけ,さらに,上半身を起こして膝立ちの状態になったDの頭部を背後から右手で押して,その左側頭部をボートの壁面に1回たたきつけるなどの暴行を加え,同月17日午後8時20分ころ,搬送先のG病院において,Dを頭部 に,上半身を起こして膝立ちの状態になったDの頭部を背後から右手で押して,その左側頭部をボートの壁面に1回たたきつけるなどの暴行を加え,同月17日午後8時20分ころ,搬送先のG病院において,Dを頭部打撲に基づく左椎骨動脈破裂によるくも膜下出血により死亡させたというものである。 第3 当裁判所も,原判決挙示の証拠により,原判示の事実を優に認定し得ると判断するものであり,上記事実を認定した理由として,原判決が「事実認定の補足説明」の項で説示するところは,首肯し得るものとして是認でき,当審における事実取調べの結果によっても,原判示事実の認定に合理的な疑いを差し挟むことはできないと判断するものであるが,所論にかんがみ,さらに吟味する。 1 関係証拠によれば,次の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成11年8月中旬ころから,原判示の場所に係留中のボート内で,元同僚のCと一緒に寝泊まりしていた。 (2) 本件ボートは,全長約802センチメートル,全幅約260センチメートルであって,本件当時,船首を岸壁に向けて係留されており,その右舷側には浮き桟橋があった。本件ボートは,前から順に,船室,操縦室,甲板となっているところ,操縦室内には,右側に運転席が,左側に助手席が,それぞれ床面より一段高くなった台の上に設けられており,それぞれの台の大きさは,運転席の台が前後約64センチメートル,左右約50センチメートル,高さ約35センチメートル,助手席の台が前後約63センチメートル,左右約50センチメートル,高さ約28センチメートルで,2つの台の間の距離は約60センチメートルである。操縦室と後部甲板との間には,左右両側からカーテン様シートが取り付けられ,左右両側シートの間には上から別のシートがつり下げられて,同シートと左右両側シートをファスナーで閉じることに チメートルである。操縦室と後部甲板との間には,左右両側からカーテン様シートが取り付けられ,左右両側シートの間には上から別のシートがつり下げられて,同シートと左右両側シートをファスナーで閉じることにより,操縦室と後部甲板とが区切られる構造となっている。左右両側シートの外側は,上部においては操縦室の外壁に,下端においては左右両側の内壁に設けられた金属棒にそれぞれ固定されているが,上記ファスナーが閉じられていないときには,左右両側シートの内側はある程度,操縦室内にも移動し得る構造となっている。 本件当時,上記中央のシートは上部に巻き上げられており,後部甲板上には,後ろから順に,左右方向に向けた簡易ベッド(全長約186センチメートル,全幅約58.5センチメートル),これに接して,右側は壁面の取っ手と,左側は甲板上の屋根と,それぞれひもで結ばれたテーブル(全長約90センチメートル,全幅約61センチメートル)が置かれており,上記ベッドの右側にはクーラーボックスが置かれ,その前部は一部,上記テーブルの右側部分にもかかっていた。 そして,当審検証期日に,原審検6,34,35等に基づき,本件当時の上記簡易ベッド及びテーブルの配置状況をほぼ再現したところ,テーブル前方の空間の左右の幅は約162センチメートル,テーブル前端と運転席の台との距離は約55.5センチメートル,テーブル前端と助手席の台との距離は約49.5センチメートル,テーブル右端と右内壁面との距離は約56センチメートル,テーブル左端と左内壁面との距離は約45センチメートルであった。 (3) 被告人は同年9月16日,朝から本件ボート内で寝ていたところ,Cが,岡山市a所在の中央図書館付近の公園で見かけた浮浪者風のDに,「ボートまで来れば,飯も食えるし酒も飲める。」と声をかけて,Dを本 ) 被告人は同年9月16日,朝から本件ボート内で寝ていたところ,Cが,岡山市a所在の中央図書館付近の公園で見かけた浮浪者風のDに,「ボートまで来れば,飯も食えるし酒も飲める。」と声をかけて,Dを本件ボートに連れてきたことから,被告人は当初,船室内でDと缶ビールを飲んだりしていた。そのうち,CがDに現金を渡して缶ビールを買いに行かせ,Dが缶ビール等を買ってきたので,被告人とDは,やがて船室から後部甲板上に出て,被告人は前記簡易ベッド上に,Dは右側シートの後部にあるステップ上にそれぞれ座って缶ビールを飲み,Cは操縦室内でうつらうつらまどろんでいた。 (4) 午後2時ころ,被告人は,Dに現金を渡して素麺かうどんを買いに行かせたところ,約30分後に帰ってきたDが,間違えて焼きそばの玉を買ってきたことから,被告人は,Dに文句を言ったが,Dが言うようにこれを茹でて焼き肉のたれをつけて食べ,簡易ベッド上に戻ってウイスキーを飲んでいた。 (5) その後,被告人は,前記浮き桟橋上で,Dの身体をつかんで後ろ向きにさせ,その背中を押して川中に突き落としたので,これを見たCがDを助け上げた。 (6) さらに,その後,Dが前記浮き桟橋上にいる時,被告人がDに近づいて腕を伸ばしたところ,Dはふらふらしながら後ずさりし,再び川中に落ちたが,すぐにCに助け上げられた。被告人は,Cが川中に落ちたDを助け上げるのを傍観しながら,Cから現金を渡されて買ってくるように言われていた酒を買いに出かけ,途中ガスボンベやウイスキー等を買い,午後3時38分ころ,岡山市b2丁目所在の「E商店」でブランデーを買って,本件ボートに戻った。被告人が戻るのと入れ違いに,Cが買い物に出かけ,午後3時58分ころ,同市a内の「F商店」でキャベツ1個,ソース1個,缶詰1個を買って,本件ボートに戻 店」でブランデーを買って,本件ボートに戻った。被告人が戻るのと入れ違いに,Cが買い物に出かけ,午後3時58分ころ,同市a内の「F商店」でキャベツ1個,ソース1個,缶詰1個を買って,本件ボートに戻り,その後,Cは,焼きそばを調理して食べたり,被告人と共に飲酒するなどしていた。 (7) 午後5時30分ころ,被告人は,Dの異状に気づき,b交番に赴いて通報し,岡山東警察署宿直から連絡を受けたc交番の警察官が午後5時37分,現場に到着した。また,救急隊は,午後5時44分ころ出動要請を覚知し,午後5時50分ころ現場に到着したが,救急隊の到着時,すでにDは心肺停止の状態であり,本件ボートの後部甲板右側の床に,濡れた緑色防寒服の上下を着て,口からよだれ様の血液を流し,鼻からわずかに血液様の鼻汁を出して,うずくまるようにして横たわっていた。 (8) 同日午後7時10分から午後9時15分までの間,本件ボート及びその付近一帯について行われた実況見分の結果,本件ボートの船室ないし操縦室の右側外部から数本の毛髪が発見されたほか,前記クーラーボックス上を中心に,後部甲板右側の壁や床の上,さらには運転席の台上などから多数の毛髪が発見され,また,上記クーラーボックス上からはA型の人血血痕が採取され,同クーラーボックス前方の床上には割れたグラスの破片が散乱していた。 一方,浮き桟橋上からは,その東端に置かれた青色ビニールシートの南端(本件ボート側)付近から,多数の毛髪のほか,ピンク色バスタオル1枚,緑色靴下1足,紺色Tシャツ1枚,青の縦縞カッターシャツ1枚,緑色ジャージズボン1本,黒色スラックス1本,黒色革靴1足等が,上記ビニールシートの東端付近に置かれたカゴの上から,緑色ジャージの上着1枚がそれぞれ発見され,浮き桟橋の西端付近に置かれた黄色ポリタンク上 ャージズボン1本,黒色スラックス1本,黒色革靴1足等が,上記ビニールシートの東端付近に置かれたカゴの上から,緑色ジャージの上着1枚がそれぞれ発見され,浮き桟橋の西端付近に置かれた黄色ポリタンク上からは,紺色靴下1足が発見された。 浮き桟橋上から発見された上記物品のうち,バスタオル,縦縞カッターシャツ,黒色スラックス,黒色革靴及び紺色靴下は水に濡れていたが,その後の捜査により,バスタオル以外の濡れていた物品はすべてDの所有物であり,バスタオルを含む,その余の物品及び救急隊到着時にDが着ていた緑色防寒服の上下はいずれも,Cの所有物であることが確認された。この点,原審検34の実況見分調書添付の写真53,54では,上記紺色Tシャツもその一部が濡れているようであるが,同調書添付の写真41,42からすると,これは,同Tシャツの上に濡れた縦縞カッターシャツが乗っていたことから,その水がしみ込んだものと推認される。 そして,上記のとおり,濡れていたのが,バスタオルを除くと,いずれもDの所有する縦縞カッターシャツ,黒色スラックス,黒色革靴及び紺色靴下であり,救急隊到着時にDが着ていた防寒服の上下も同様に濡れていたことからすると,Dは,1回目の転落後には,Cが用意したバスタオルで身体を拭き,防寒服上下に着替えたものの,2回目の転落後には,着替えをしていなかったものと認められる。 (9) Dは,同月17日午後8時20分ころ,搬送先のG病院において,くも膜下出血により死亡した。同日,同病院で行われた検死の結果によると,Dの右前額部には,網目状に赤く変色したL字型皮膚変色部3個,左耳後部には,線状と点状の皮膚変色部,左側頸部には,粟粒大ないし大米粒大の皮膚変色部4個がそれぞれ認められ,左前頸部,右前大腿部,左足内果部下方,右側胸部及び右臀部には 色したL字型皮膚変色部3個,左耳後部には,線状と点状の皮膚変色部,左側頸部には,粟粒大ないし大米粒大の皮膚変色部4個がそれぞれ認められ,左前頸部,右前大腿部,左足内果部下方,右側胸部及び右臀部には,表皮剥脱が認められた。 (10) 同月18日,鑑定人医師Hが死体解剖を行って鑑定した結果,Dの左側頭上部には,7.0センチメートル×6.0センチメートルの皮下出血が,左側頭筋内には,5.0センチメートル×3.0センチメートルの筋肉内出血が,右前額部には,6.0センチメートル×4.0センチメートルの皮下出血がそれぞれ認められ,頭蓋内において,脳底部に厚層のくも膜下出血があり,更にそれが左右大脳の前頭葉外側,側頭葉前面に及んでいて,左椎骨動脈には,脳底動脈との分岐部の下方1.8センチメートルの所から下方へ0.5センチメートルの血管破裂があることが認められ,Dの死因は,頭部打撲に基づく左椎骨動脈破裂によるくも膜下出血であると判定された。 そして,同鑑定の結果によると,死亡前のDの健康状態については,脳底部の左椎骨動脈の中膜がやや粗ぞうであったものの,外膜は特に壁が薄いということはなく,特に血圧の上昇のみで病的に破裂したり,水面に落ちた程度の衝撃で破裂するほどの血管の脆弱性はなく,上記くも膜下出血は,頭部への鈍体の作用に基づき生じたものと判定された。 2 所論は,D自身の過失による受傷の可能性を否定できない旨主張する。 しかしながら,原判決も説示するとおり,Dの頭部の損傷は,左側頭上部,左側頭筋内,右前額部と複数の別々の箇所に生じており,かつ,その脳底部の左椎骨動脈は,その中膜がやや粗ぞうであったとはいえ,血圧の上昇のみで病的に破裂したり,水面に落ちた程度の衝撃で破裂するほどの脆弱性はなかったものであって,水中に落ちたり引き上げら つ,その脳底部の左椎骨動脈は,その中膜がやや粗ぞうであったとはいえ,血圧の上昇のみで病的に破裂したり,水面に落ちた程度の衝撃で破裂するほどの脆弱性はなかったものであって,水中に落ちたり引き上げられたりした時に,Dが浮き桟橋等に頭部を打ち付けたことも認められないから,上記各損傷がD自身の過失によって生じたとするならば,Dが複数回にわたってボート内や桟橋上で転倒等を繰り返し,その都度頭部を強打していなければならないはずである。しかるに,Dが本件ボートに来てからは終始,Cか被告人のいずれかが本件ボート付近にいたにもかかわらず,Cも被告人も,Dが川中へ転落したことは2回あるが,ボート内や桟橋上で自ら転倒するなどしたことはない旨の供述をしている。仮に,Dがボート内や桟橋上で自ら転倒するなどし,これをCや被告人が目撃するなどしていれば,それは,C及び被告人にとって,Dの死亡について自己らに対する嫌疑を晴らすことのできる重要な事情であって,当然に供述するはずのものであるから,Dが自ら転倒するなどしたことの認識を否定するC及び被告人の上記供述は信用でき,Dの前記各損傷がD自身の過失によって生じたことは,想定し難いところである。 3 所論は,Cによる暴行の可能性を否定できない旨主張する。 なるほど,関係証拠によれば,Cについては,昭和52年5月,暴行罪で罰金2万円に,平成7年9月,傷害致死罪で懲役2年10月に各処せられた前科があること,現場に駆けつけたc交番の警察官による事情聴取に対し,非協力的態度をとっていたこと,被告人とDがつかみ合いをしていた事実について,平成11年9月21日に供述した後,所在不明となったこと,原判決後に所在が判明し,当審において証人尋問が行われた平成13年3月7日当時,Cは,酒を飲んで他人にけがをさせたような内容で勾留されて いて,平成11年9月21日に供述した後,所在不明となったこと,原判決後に所在が判明し,当審において証人尋問が行われた平成13年3月7日当時,Cは,酒を飲んで他人にけがをさせたような内容で勾留されていたことなどの事実が認められる。 そこでまず,Dが本件ボートに来てから被告人が買い物に出かけるまでの時間帯に,CがDに対して暴行を加えた可能性について検討するに,そもそもCは,浮浪者風のDに,「ボートまで来れば,飯も食えるし酒も飲める。」と声をかけて,Dを本件ボートに連れてきたものであること,被告人の供述によっても,被告人が買い物に出かけるまでの間に,主にDと話をしていたのは被告人であり,Cが,缶ビール等を買いに行かせたほかには,Dと何か具体的な話をした形跡は認められないこと,Cは,被告人の行為によりDが2回にわたって川中へ転落した際,その都度Dを助け上げており,その後まもなく,被告人が買い物に出かけていることなどの事実経過に照らすと,上記時間帯に,CがDに対して暴行に及ぶ動機が生じる機会はないし,被告人も,捜査段階においては,Cによる暴行の事実について言及しておらず,原審及び当審公判廷においても,上記時間帯に,CがDに暴行を加えたのは見ていない旨供述しているから,上記時間帯に,CがDに暴行を加えたことは考え難い。 次に,被告人が買い物に出かけてから戻ってくるまでの時間帯に,CがDに対して暴行を加えた可能性について検討するに,Cの供述によっても,上記時間帯には,本件ボート付近にはCとDの2人しかいなかったことが認められるから,上記時間帯に,CとDとの間で諍いを生じ得べき事情があったり,被告人が買い物に出かけた時点と,買い物から戻ってきた時点で,Dの様子に変わったところがあれば,Cによる暴行が行われた可能性を否定することはできない。 とDとの間で諍いを生じ得べき事情があったり,被告人が買い物に出かけた時点と,買い物から戻ってきた時点で,Dの様子に変わったところがあれば,Cによる暴行が行われた可能性を否定することはできない。 この点,被告人の平成11年10月7日付け検察官調書(原審検44)には,「Cが2回目に引き上げようとしていた時,Dは防寒服を着ており,力なく,Cに助けられるままの状態で」あって,被告人が買い物から戻った時も,「Dはボートの右側の床に寝かされた状態で,防寒服の上下を着てじっとしていた。」旨の供述記載があるのに対し,被告人は,当審公判廷において,買い物から戻った時,「Dは,最初に来た時と同じ縦縞のカッターシャツと黒色スラックスを着て,ボートの桟橋側に下を向いて座っており,酔って寝ている感じであった。」,その後,「Dが歯の間から血を流し,首を触ったらガクッとなる感じであったので,おかしいと思い,警察に通報して帰ってきたら,Dの服が防寒服に変わっており,変な感じがした。」旨供述する。 しかしながら,すでに「歯の間から血を流し,首を触ったらガクッとなる状態」にあったDの着衣を,被告人がb交番へ行って戻ってくるまでの間に,Cが1人で着替えさせることは著しく困難であるのみならず,当該時点でCが,Dの着衣を変える理由も必要性も見出すことはできないから,被告人の上記公判供述は,到底信用することができない。 これに対し,被告人の前記供述記載は,Dが,1回目の転落後には,防寒服上下に着替えたものの,2回目の転落後には,着替えをしていなかったという客観的状況に符合するだけでなく,2回とも着替えた旨のCの供述にもかかわらず,前記供述調書においては,2回目に引き上げられた時のDの服装が防寒服であったことにつき,問答体形式で,「間違いありません。はっきりと記憶に残って けでなく,2回とも着替えた旨のCの供述にもかかわらず,前記供述調書においては,2回目に引き上げられた時のDの服装が防寒服であったことにつき,問答体形式で,「間違いありません。はっきりと記憶に残っています。」と被告人の回答が記載されているのであって,被告人の前記供述記載は,十分に信用できる。そして,2回目に転落する際,Dが,その身体を直接被告人から押されたわけでもないのに,ふらふらしながら後ずさりして,川中へ転落したことも,Cが2回目に引き上げようとした時,Dは力なく,Cに助けられるままの状態であった旨の前記供述記載の信用性を支えるものである。 そうすると,Dは,すでに2回目の転落当時からかなり弱っており,被告人が買い物に出かけてから,Cとの間で諍いを生じ得べき状態にあったことは窺えないし,被告人が買い物から戻った時にも,Dは,ボートの右側の床に寝かされた状態でじっとしており,買い物に出かける前と比較して,Dの状態に顕著な変化があったとも認め難いから,被告人が買い物に出かけてから戻ってくるまでの時間帯についても,CがDに暴行を加えたことは,容易には想定し難いところである。 被告人は,原審及び当審公判廷において,自分は,Cが買い物から戻ってきた後,飲酒をし,しばらくして眠ったが,途中で目が覚めた時,Dの近くにCがいるのが見えた旨供述し,被告人が眠っている間に,Cによる暴行が加えられた可能性があるかのような口吻を示すが,前記のとおり,Dは,すでに2回目の転落当時からかなり弱っており,被告人が買い物から戻った時にも,床に寝かされた状態でじっとしていたものであって,その後,Dがだれかと話したり,飲食したりした形跡は見出せないから,被告人の上記公判供述は,信用することができない。 なお,関係者の血液型は,DがA型,CがB型,被告人は していたものであって,その後,Dがだれかと話したり,飲食したりした形跡は見出せないから,被告人の上記公判供述は,信用することができない。 なお,関係者の血液型は,DがA型,CがB型,被告人はO型であるところ,本件当日,岡山東警察署でCの右手小指から採取された血痕様のものについて,解離試験法による検査を行った結果,AB型の判定がなされているが,同試験法では,血液に限らず,体液を含むA型物質とB型物質の両者が混合すれば,AB型の判定がなされるものであり,Cが2回にわたってDを助け上げ,左前頸部,右前大腿部,左足内果部下方,右側胸部及び右臀部に表皮剥脱のある可能性があったDの身体に触れていたことからすると,上記判定結果をもって,Cによる暴行の可能性を疑わせるものとはいえない。 4 所論は,Cの捜査段階における供述は信用できない旨主張する。 なるほど,Cの捜査段階における供述は,Dが川中へ転落した時期や着替えをした回数等の点で,その余の関係証拠により認められる前記事実と矛盾していたり,曖昧な部分があって,所論指摘のように,その信用性を全面的に肯認することはできない。 しかしながら,Cは,本件当日の取調べにおいて,被告人が,Dの背中を押して川中へ落とし,もう1回落とそうとしたところ,今度はDが自分から落ちた旨供述している状況の下でも,「被告人はDと口論をしましたが,手は出していないと思います。」「Dが落ちたのは,水上スキーが走って船が揺れていたので,酔って落ちたと思います。」などと,被告人を庇う趣旨の供述をしていたものであって,後に所在不明になったとはいえ,殊更に,自己に対する嫌疑を晴らし,被告人に罪をかぶせようとする態度をとっていたものではない。 そして,Dが本件ボートに来てからは,主に被告人がDと話をしており,その後,被 明になったとはいえ,殊更に,自己に対する嫌疑を晴らし,被告人に罪をかぶせようとする態度をとっていたものではない。 そして,Dが本件ボートに来てからは,主に被告人がDと話をしており,その後,被告人が買い物に出かける前に,Dを川中に落としたという事実経過の下においては,Cの捜査段階における供述(原審検27,28)のうち,少なくとも,被告人とDとの間で口論となり,つかみ合い等があったとする部分は,事態の自然な流れに沿うものとして信用でき,その信用性に合理的な疑いを差し挟むべき事情は見出せない。 5 所論は,被告人の自白は検察官の誘導によってなされたもので,暴行の態様が現場の状況に合致せず,また被告人の自白を前提とすると,Dは被告人に頭を打ち付けられた後も歩き回っていたことになって不自然であるから,被告人の自白に信用性はない旨主張する。 なるほど,当審検証期日に本件当時の簡易ベッド及びテーブルの配置状況をほぼ再現したところによると,上記テーブルの右側及び前方の空間は,被告人が,身長約171センチメートル,体重約64キログラムのDとつかみあった末,Dをほぼ俯せの姿勢に倒すには,やや狭い感は否めないが,原審検6に添付された写真によると,Dが上記テーブルの右側に横たわっても,なお同テーブルの前方には,成人男子が移動し得るだけの空間のあることが見てとれるから,本件ボート内において,被告人が自白した態様の暴行を加えることは,必ずしも困難であるとはいえない。 また,当審における鑑定の結果によれば,Dの死体解剖所見を文献や鑑定人の自験例と合わせて医学的に考察すると,受傷後短時間で発症した可能性が大きいが,Cが2回目にDを引き上げようとした時に,Dが力なく,Cに助けられるままの状態であったとすれば,受傷後,傷を受けた血管から徐々に出血し始め, 学的に考察すると,受傷後短時間で発症した可能性が大きいが,Cが2回目にDを引き上げようとした時に,Dが力なく,Cに助けられるままの状態であったとすれば,受傷後,傷を受けた血管から徐々に出血し始め,少し時間を置いて完全に破裂し昏倒する遅発例であった可能性もあり得ると判定されており,Dが前記のとおり,すでに2回目の転落当時から,かなり弱っていたことからすると,Dについては,外傷性くも膜下出血の遅発例であった可能性も十分に認められる。 しかして,自白を含む被告人の捜査段階の供述は,Cの供述とは相反する部分があるにもかかわらず,D,被告人及びCが買い物に出かけた順序,被告人がDを川中へ落とした時期,Dが川中へ転落した際の状況といった枢要部分では,捜査の初期のころからほぼ一貫しており,上記枢要部分では,被告人の原審及び当審における公判供述とも一致していること,主にDと話をしていた者として,Cが言及していない細かなことについてまで,具体的に供述しており,Dの態度や言葉に立腹し,つかみかかった経緯に関する供述も自然で,不合理な点は窺えないこと,Dにつかみかかった後,本件暴行に及んだ際の状況を自白した平成11年10月7日付け検察官調書2通で述べられた暴行の態様は,Dの頭部の損傷状況と符合しており,同調書の供述記載は,前記のとおり,2回目に引き上げられた時のDの服装が防寒服であったという点でも,客観的状況に符合していること,前記調書のうち,原審検44の検察官調書では,2回目に引き上げられた時のDの服装のほか,Dを川中に落とした回数及びその間隔,Dが着替えたことについての記憶の有無,ガラスコップや手足などでDの頭を殴ったり蹴ったりしたことの有無,買い物から戻った後,Dに対して乱暴を加えたことの有無についても,問答体形式で供述が録取され,それぞれの問い とについての記憶の有無,ガラスコップや手足などでDの頭を殴ったり蹴ったりしたことの有無,買い物から戻った後,Dに対して乱暴を加えたことの有無についても,問答体形式で供述が録取され,それぞれの問いにより,記憶のないもの,間違いのないもの,断定できるもの,否定するものと,それぞれ区別されて異なった回答が記載されていること,原審検45の検察官調書には,暴行の状況の再現に当たり,検察官らから押しつけはなされなかったし,自己の記憶を頼りに再現した旨の供述記載があるところ,実際上も,検察官らが被告人に対し,記憶のない動作の再現を押しつけることは,著しく困難であると考えられること,当審証人Iの証言によれば,その犯行状況の再現をするに当たり,検察官らは指示や示唆をせず,その動作は被告人の自発的な意思に基づいて記憶を頼りになされたことが認められること,本件起訴時の勾留質問においても,被告人は,「事実関係はそのとおり間違いありません。」と陳述していたことなど,本件暴行を認める前記自白の信用性を肯定する諸事情が認められる。 被告人は,当審公判廷で,前記自白調書の作成経緯につき,「自分はやってない,手を出したこともないとずっと言っていたが,顔を合わすたびに検事から,お前がやったんだろうと言われて,もうええわと思った。」「詳しい暴行の様子について,自分では一言も言っておらず,検事が頭の傷に合わせて,辻褄が合うように傷の出来方をうまいこと説明した。」「再現の時は被害者役の人が自らポーズを作ってくれた。」などと供述する一方,Dを川中へ落とした理由につき,「Dとの間では口論もなく,腹が立ったこともないけれど,落としてやれというのか,冗談で川へ落とした。そういうことを仲間内でしたことはないが,そういう言い方しかできない。」旨供述する。 しかしながら,自白調書 口論もなく,腹が立ったこともないけれど,落としてやれというのか,冗談で川へ落とした。そういうことを仲間内でしたことはないが,そういう言い方しかできない。」旨供述する。 しかしながら,自白調書の作成経緯に関する被告人の上記供述は,先に指摘した諸点に照らして,容易には信用できないし,Dとの間で口論はなく,川中へ落としたのは冗談であった旨の供述も,事態の推移として極めて不自然かつ不合理であって,到底信用することができない。 論旨は理由がない。 第4 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中320日を原判決の本刑に算入し,刑訴法181条1項ただし書を適用して,当審における訴訟費用は被告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。 平成14年1月23日広島高等裁判所岡山支部第一部裁判長裁判官片岡安夫裁判官金馬健二裁判官石原稚也
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