平成22(行ケ)10235 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年10月4日 知的財産高等裁判所 2部 判決 審決取消
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- 1 -平成23年10月4日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官平成22年(行ケ)第10235号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年7月19日判決原告日東電工株式会社訴訟代理人弁理士辻 丸 光一郎 中山ゆみ 吉田玲子 伊佐治 創被告特許庁長官指定代理人村田尚英 北川清伸 田部元史 田村正明 主文 特許庁が不服2008-8709号事件について平成22年6月16日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告が求めた判決主文同旨 第2 事案の概要本件訴訟は,特許出願拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした審決 - 2 -の取消訴訟である。争点は,補正後の独立特許要件の存否(進歩性(容易想到性)の有無)である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成16年7月23日,名称を「偏光フィルム,重畳フィルム及び液晶表示装置」とする発明(平成21年10月23日付け手続補正書で,「液晶表示装置用重畳フィルムの製造方法,液晶表示装置用重畳フィルム及び液晶表示装置」に補正)につき,優先日を平成15年8月8日,優先権主張国を日本として特許出願をした(特願2004-215159号)。 原告は,平成20年2月29日,本件出願につき拒絶査定を受けたので,同年4月9日,特許庁に対して不服審判請求をし(不服2008-8709号事件),平成22年3月18日,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を一部改める本件補正をしたが,特許庁 定を受けたので,同年4月9日,特許庁に対して不服審判請求をし(不服2008-8709号事件),平成22年3月18日,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を一部改める本件補正をしたが,特許庁は,同年6月16日,本件補正を却下するとの決定とともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,この謄本は同年6月28日に原告に送達された。 2 本願発明(補正後の発明)の要旨本願発明は,液晶表示装置に用いられる重畳フィルム及びこれらを使用した液晶表示装置に関する発明で,本件手続補正書(甲17)に記載の請求項1に係る発明(補正発明)の特許請求の範囲は以下のとおりである。 【請求項1】「長尺のポリマーフィルムからなり,かつ幅方向に吸収軸を有する偏光フィルムを製造する工程と,長尺のポリマーフィルムからなり,長さ方向に遅相軸を有する縦一軸延伸位相差フィルムを準備する工程と,前記偏光フィルムと前記位相差フィルムとを積層させる工程とを含み,前記偏光フィルムを製造する工程において,前記長尺のポリマーフィルムに幅方向の延伸処理及び二色性物質の染色処理を施し,前記偏光フィルムと前記位相差フィルムとを積層させる工程において,前記偏光 - 3 -フィルムと前記位相差フィルムとを,それら長尺のポリマーフィルムの長さ方向を対応させ,接着層または粘着層により直接接着または粘着して積層させる液晶表示装置用重畳フィルムの製造方法。」 3 審決の理由の要点(1) 補正発明は,引用文献1に記載された引用発明に引用文献2ないし6に記載された事項を組み合わせることで,当業者において容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠く。本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするもので,独立特許要件を欠くから,却下すべきものである。 【引用文献1 せることで,当業者において容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠く。本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするもので,独立特許要件を欠くから,却下すべきものである。 【引用文献1】特開2002-22942号公報(甲19の1)【引用文献2】特開2001-166134号公報(甲19の2)【引用文献3】特開2002-62430号公報(甲19の3)【引用文献4】特開2002-71957号公報(甲19の4)【引用文献5】特開2002-127245号公報(甲19の5)【引用文献6】特開2003-43257号公報(甲19の6)(2) 本件補正前の請求項1の発明は,補正発明の「位相差フィルム」についての特定事項である「縦一軸延伸」という事項を削除したものに相当するところ,引用文献1に記載された発明に引用文献2ないし6に記載された事項を組み合わせることで,当業者において容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠く。 (3) 審決が認定した引用発明,補正発明と引用発明の一致点及び相違点はそれぞれ下記のとおりである。 【引用発明】「延伸したポリビニルアルコールフイルムにヨウ素もしくは二色性染料を配向吸着させて偏光膜を作製し,ポリマーフィルムを搬送方向に対して横方向に延伸して光学補償シート(位相差フィルム)を製造し, - 4 -前記偏光膜と前記光学補償シート(位相差フィルム)とを貼り合わせて液晶表示装置用偏光板を製造する方法であって,前記光学補償シート(位相差フィルム)の面内の遅相軸と,前記偏光膜の透過軸が実質的に平行になるように,前記光学補償シート(位相差フィルム)と前記偏光膜とを接着剤を用いてロールtoロールで貼り合わせる,液晶表示装置用偏光板の製造方法。」【一致点】「長尺のポリマーフ が実質的に平行になるように,前記光学補償シート(位相差フィルム)と前記偏光膜とを接着剤を用いてロールtoロールで貼り合わせる,液晶表示装置用偏光板の製造方法。」【一致点】「長尺のポリマーフィルムからなり,かつ吸収軸を有する偏光フィルムを製造する工程と,長尺のポリマーフィルムからなり,遅相軸を有する位相差フィルムを準備する工程と,前記偏光フィルムと前記位相差フィルムとを積層させる工程とを含み,前記偏光フィルムを製造する工程において,前記長尺のポリマーフィルムに延伸処理及び二色性物質の染色処理を施し,前記偏光フィルムと前記位相差フィルムとを積層させる工程において,前記偏光フィルムと前記位相差フィルムとを,それら長尺のポリマーフィルムの長さ方向を対応させ,接着層または粘着層により直接接着または粘着して積層させる液晶表示装置用重畳フィルムの製造方法」である点。 【相違点1】「『偏光フィルム』が,補正発明は『幅方向の延伸処理』によって『幅方向に吸収軸を有する』ものであるのに対し,引用発明は長手方向に延伸されて長さ方向に吸収軸を有する点。」【相違点2】「『位相差フィルム』が,補正発明は『(長尺ポリマーフィルムの)長さ方向に遅相軸を有する縦一軸延伸位相差フィルム』であるのに対し,引用発明は横方向に延伸されたものであって,(長尺ポリマーフィルムの)幅方向に遅相軸を有する点。」(4) 審決は,補正発明と引用発明の相違点に係る構成の容易想到性につき,次 - 5 -のとおり判断する。 「相違点1と相違点2とは,補正発明の『長尺のポリマーフィルムの長さ方向を対応させ』『積層させる』という発明特定事項に関し,互いに関連する事項であるので,併せて検討する。 最初に位相差フィルムについて検討する。 引用文献2~4には,偏光板(偏 マーフィルムの長さ方向を対応させ』『積層させる』という発明特定事項に関し,互いに関連する事項であるので,併せて検討する。 最初に位相差フィルムについて検討する。 引用文献2~4には,偏光板(偏光子)に貼り合わせて用いられる位相差フィルム(位相差板)について記載があり・・・,引用文献2には,縦方向よりも横方向の延伸倍率が大きくなるように二軸延伸加工する方式では,大きいボーイング歪みの発生で光軸がバラツキやすく,遅相軸が幅方向に現れて,位相差板の遅相軸のバラツキを小さく制御して小さいズレとすることが困難である・・・という課題を解決するため,長尺フィルムの長手(縦)方向と幅(横)方向の延伸倍率比を制御して横/縦の延伸倍率比を小さくし,縦方向に遅相軸が現れるようにして光軸のズレを小さくすることで液晶表示装置の表示品位を向上せしめることが記載されている・・・。また,引用文献3には,いわゆるボーイング現象はテンター法を用いた場合にみられ,巾方向に延伸したことでフィルム中央部に収縮力が発生し,端部は固定されていることにより生じる現象と考えられ,この場合でも,流延方向に延伸,好ましくは幅手方向の延伸倍率<製膜方向(長尺方向)の延伸倍率の関係で延伸することでボーイング現象を抑制でき,巾手の位相差の分布を少なく改善できることが記載されている・・・。そして,引用文献4には,長尺フィルムの長手方向に延伸することで,長尺フィルムの長手方向に遅相軸を有する位相差フィルムを得ることが記載されている・・・。 なお,引用文献3の実施例3,6には,延伸倍率の関係が幅手方向<製膜方向(長尺方向)の場合について,遅相軸の方向が『フィルムの巾方向に対し±2度の範囲』,『フィルムの巾方向に対し±1度』であると記載されている(段落【0225】~【0231】,【0271】参照 製膜方向(長尺方向)の場合について,遅相軸の方向が『フィルムの巾方向に対し±2度の範囲』,『フィルムの巾方向に対し±1度』であると記載されている(段落【0225】~【0231】,【0271】参照)が,引用文献3のその他の記載事項(例えば,請求項12には『フィルム面内の遅相軸方向が,長尺方向に対して±5度の範囲また - 6 -は幅手方向に対して±5度の範囲のいずれかである』との記載がある),ならびに,セルロースエステルフィルムの遅相軸は延伸方向に現れるという当業者の技術常識,引用文献2,4に記載されている事項に照らすと,引用文献3の実施例3,6の前記遅相軸の方向についての記載は,それぞれ『フィルムの長尺方向に対し±2度の範囲』,『フィルムの長尺方向に対し±1度』の誤記と認められる。 また,光学的特性に優れる位相差フィルムを得るため,ポリマーフィルムを縦一軸延伸することは,例えば特開平2-191904号公報(第2頁右上欄第6~9行,同右下欄第11行~第3頁左上欄第17行参照),特開平10-142421号公報(【0010】,【0024】~【0029】参照),特開2000-206332号公報(【0001】,【0015】~【0017】参照),特開2002-258045号公報(【0003】,【0030】参照),特開2003-96207号公報(【0006】,【0031】参照),特開2003-131033号公報(【特許請求の範囲】,【0006】参照)にも見られるように,本件優先日当時,当業者に周知の技術的事項にすぎない。 そうすると,偏光フィルムに貼り合わせて用いられる位相差フィルムの光学的特性の均一性を向上させるため,長尺ポリマーフィルムに縦一軸延伸処理を施し,長尺ポリマーフィルムの長さ方向に遅相軸を有する位相差フィルムとすることは,本件優 合わせて用いられる位相差フィルムの光学的特性の均一性を向上させるため,長尺ポリマーフィルムに縦一軸延伸処理を施し,長尺ポリマーフィルムの長さ方向に遅相軸を有する位相差フィルムとすることは,本件優先日前公知の事項であるといえる。 次いで,偏光フィルムについて検討すると,偏光フィルムであって,位相差膜(位相差板)に接着一体化して液晶表示装置に適用される偏光フィルムを,テンター延伸機等を用いて幅方向に延伸し,長手方向に透過軸(幅方向に吸収軸)を有する偏光フィルムとすることは,引用文献5,6に記載されている・・・ように,本件優先日前当業者によく知られた事項であり,特に,引用文献6には,『得られる偏光フィルムの吸収軸を広い範囲で等しくするために,延伸方向はフィルムの走行方向に対して直交させるのが好ましい』ことも記載されている・・・。 ここで,引用発明の『前記光学補償シート(位相差フィルム)の面内の遅相軸と, - 7 -前記偏光膜の透過軸が実質的に平行になるように,前記光学補償シート(位相差フィルム)と前記偏光膜とを接着剤を用いてロールtoロールで貼り合わせる』という構成を得るには,『光学補償シート(位相差フィルム)』と『偏光膜』の延伸方向が互いに直交している必要があり,そのためには,光学補償シート(位相差フィルム)と偏光膜のいずれか一方を長尺フィルムの縦方向に延伸し,他の一方を長尺フィルムの幅方向に延伸することが最も合理的であることは,当業者の技術常識からして明らかである。 してみると,引用発明の『光学補償シート(位相差フィルム)の面内の遅相軸と,』『偏光膜の透過軸が実質的に平行になるように,』『光学補償シート(位相差フィルム)と』『偏光膜とを接着剤を用いてロールtoロールで貼り合わせる』に際し,偏光フィルムに貼り合わせて用いられる位相 ,』『偏光膜の透過軸が実質的に平行になるように,』『光学補償シート(位相差フィルム)と』『偏光膜とを接着剤を用いてロールtoロールで貼り合わせる』に際し,偏光フィルムに貼り合わせて用いられる位相差フィルムの光学的特性の均一性を向上させるとともに,偏光フィルムの吸収軸を広い範囲で等しくすることを期して,長尺ポリマーフィルムの長さ方向に遅相軸を有する縦一軸延伸位相差フィルムと,長手方向に透過軸(幅方向に吸収軸)を有する偏光フィルムとを貼り合わせるよう構成すること,すなわち,偏光フィルムを,『幅方向の延伸処理』によって『幅方向に吸収軸を有する』『偏光フィルム』とし,位相差フィルムを,『(長尺ポリマーフィルムの)長さ方向に遅相軸を有する縦一軸延伸位相差フィルム』として前記相違点1,2の事項を得ることは,引用発明ならびに引用文献2ないし6に接した当業者であれば容易に想到し得る事項である。 そして,補正発明が具備する構成によってもたらされる作用効果は,引用発明ならびに引用文献2ないし引用文献6に記載された技術的事項から当業者が予測できる域をでるものでもない。 以上のとおりであるので,補正発明は,引用発明ならびに引用文献2ないし引用文献6に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものである。」 - 8 -第3 原告主張の審決取消事由 1 引用発明の認定の誤り並びに一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由1)(1) ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを延伸し,染色して得る偏光膜(偏光フィルム)は延伸方向に吸収軸を有し,延伸方向と直交する方向に透過軸を有することは,本件出願当時の技術常識であったから,引用文献1の段落【0019】,【0074】,【0099】の記載から,引用発明の偏光膜は縦方向(長手方向)に延伸して 伸方向と直交する方向に透過軸を有することは,本件出願当時の技術常識であったから,引用文献1の段落【0019】,【0074】,【0099】の記載から,引用発明の偏光膜は縦方向(長手方向)に延伸して作製されたものであることが明らかである。 そうすると,引用文献1に記載された引用発明は,「縦方向に延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素若しくは二色性染料を配向吸着させて配向膜を作製し,ポリマーフィルムを搬送方向に対して横方向に延伸して光学補償シート(位相差フィルム)を製造し,前記偏光膜と前記光学補償シート(位相差フィルム)とを貼り合わせて液晶表示装置偏光板を製造する方法であって,前記光学補償シート(位相差フィルム)の面内の遅相軸と,前記偏光膜の透過軸が実質的に平行になるように,前記光学補償シート(位相差フィルム)と前記偏光膜とを接着剤を用いてロールtoロールで貼り合わせる,液晶表示装置用偏光板の製造方法。」であると認定すべきところ,審決は偏光膜の延伸方向を示すことなく引用発明を認定しており誤りである。 (2) 前記(1)のとおり審決の引用発明の認定には誤りがあるから,これを前提とする補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定も誤りである。 また,下記図のとおり,補正発明の特徴的な構成は,「幅方向に吸収軸を有する長尺の偏光フィルムと,長さ方向に遅相軸を有する長尺の縦一軸延伸位相差フィルムを,それらの長さ方向を対応させて積層する」ことにあるところ,この特徴的な構成は一体不可分なものであり,これを分解して上記の一致点及び相違点を認定することは許されない。しかるに,審決は,上記の一体不可分な関係を無視し,偏光フィルムに係る構成と位相差フィルムに係る構成とに分けて,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点を認定しており誤りであるし,また吸 されない。しかるに,審決は,上記の一体不可分な関係を無視し,偏光フィルムに係る構成と位相差フィルムに係る構成とに分けて,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点を認定しており誤りであるし,また吸収軸及び遅相軸の方 - 9 -向を示さずに上記一致点を認定しており技術的に誤っている。 本件補正発明の特徴的構成と引用発明の相違引用文献1(甲19の1)本件補正発明位相差位相差位相差位相差フィルムフィルムフィルムフィルム・・・・・・・・・・・・横方向横方向横方向横方向(TDTDTDTD)に遅相軸遅相軸遅相軸遅相軸位相差位相差位相差位相差フィルムフィルムフィルムフィルム・・・・・・・・・・・・縦方向縦方向縦方向縦方向(MDMDMDMD)に遅相軸遅相軸遅相軸遅相軸偏光フィルム・・・縦方向に遅相軸偏光偏光偏光偏光フィルムフィルムフィルムフィルム・・・・・・・・・・・・縦方向縦方向縦方向縦方向(MDMDMDMD)に吸収軸吸収軸吸収軸吸収軸偏光偏光偏光偏光フィルムフィルムフィルムフィルム・・・・・・・・・・・・横方向横方向横方向横方向(TDTDTDTD)に吸収軸吸収軸吸収軸吸収軸長さ方向方向方向方向を揃えてえてえてえて積層積層積層積層 2 補正発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)(1) 引用文献1の実施例に記載された液晶表示装置はせいぜい15インチ程度のもの(実施例6,7,10)にすぎず,補正発明が対象とする液晶表示装置とは画面の大きさ(パネルサイズ)が桁違いに異なるところ,パネルサイズが小さい引用発明では,横方向に延伸して作製した位相差フィルムのうち,中央に近い比較的 にすぎず,補正発明が対象とする液晶表示装置とは画面の大きさ(パネルサイズ)が桁違いに異なるところ,パネルサイズが小さい引用発明では,横方向に延伸して作製した位相差フィルムのうち,中央に近い比較的狭い範囲の,軸ズレが小さい領域を選択して使用することが可能である。しかし,パネルサイズが大きくなる補正発明では,上記のように小さい領域のみを使用することでは足りないため,横方向に延伸して作製した位相差フィルムでは軸ズレの影響が箇所によって顕著に生じてしまう。ここで,フィルムの延伸倍率を大きくすると,フィルムの軸精度が向上するところ,延伸倍率を大きくできる縦方向の延伸方法を用いて(横延伸が1.05ないし1.3倍程度であるのに対して5倍程度)位相差フィルムを作製することとした場合,一気に軸精度が向上し,軸ズレの問題を解決することができる。 (縦一軸延伸縦一軸延伸縦一軸延伸縦一軸延伸) - 10 -補正発明は上記のような事柄を背景にしてなされたものであるところ,引用文献1には横方向に延伸した位相差フィルムに熱処理(冷却及び加熱)を加えてボーイング歪みを除去することや,位相差フィルムを横方向に延伸して作製することが好ましいことが記載されているのみで,位相差フィルムを縦方向に延伸して作製することについては記載も示唆もされていない。 そうすると,引用文献1中には,引用発明に縦方向に延伸して位相差フィルムを作製することを組み合わせる動機付けは存しないし,かかる組合せは技術的な前提条件を破綻させるものというべきである。 (2) 本件優先日当時,位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸を直交させて(位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの透過軸を平行にして)ロールtoロールで貼り合わせて重畳フィルムを作製する場合には,横方向に延伸して作製した ィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸を直交させて(位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの透過軸を平行にして)ロールtoロールで貼り合わせて重畳フィルムを作製する場合には,横方向に延伸して作製した位相差フィルムを使用することが技術常識であった。 また,本件優先日当時,縦一軸延伸の位相差フィルムを用いて重畳フィルムを作製するには,位相差フィルムを所定の大きさに切断し,偏光フィルムと貼り合わせなければならないと考えられており,フィルムのロールから切り離さない状態(ロールtoロール)で縦一軸延伸の位相差フィルムを貼り合わせることに想到することは当業者において容易でなかった。 そうすると,本件優先日当時,ロールtoロールで重畳フィルムを作製する引用発明に縦方向に延伸して位相差フィルムを作製することを組み合わせること,とりわけ縦一軸延伸の位相差フィルムを組み合わせることは,当業者において困難であったというべきである。 (3) 引用文献2は二軸延伸の位相差フィルムに関する文献であって,縦一軸延伸フィルムについては関係がなく記載されていないから,当然に縦一軸延伸を行った場合のボーイング歪みの抑制については記載も示唆もされていないし,位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸とを直交させることについても記載されていない。そうすると,引用発明に引用文献2に記載された事項を組み合わせても, - 11 -当業者において容易に補正発明に想到することはできない。 (4) 位相差フィルムの光学的均一性の向上及び偏光フィルムの吸収軸の均一性という効果は,引用文献2ないし6に記載されておらず,審決が恣意的に認定した効果にすぎない。 また,長尺のポリマーフィルムの長さ方向に対する角度の変更に関しては,偏光フィルムの吸収軸がなす角度と位相差フィルムの遅相軸がな ないし6に記載されておらず,審決が恣意的に認定した効果にすぎない。 また,長尺のポリマーフィルムの長さ方向に対する角度の変更に関しては,偏光フィルムの吸収軸がなす角度と位相差フィルムの遅相軸がなす角度との間で,光学的均一性に与える影響が全然異なる。 ボーイング歪みは方向性があるため,偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とがなす角度によって,光学的特性に影響が生じる。液晶セルの光学補償を目的とする場合,正面方向(フィルムの法線方向)で偏光状態を変化させない必要があるが,両軸がなす角度が90度となるように(偏光フィルムの透過軸と位相差フィルムの遅相軸が平行になるように)偏光フィルムと位相差フィルムを積層する場合,ボーイング歪みによって軸ずれが生じると,正面方向に位相差が発生することにより偏光状態が変化するため,黒表示において正面方向の光が漏れてコントラストが著しく低下する。例えば,視野角が比較的広いという特徴があるVA(バーティカルアライメント)モードの液晶表示装置においては,正面方向から見た場合には液晶分子の異方性が生じず,黒色表示が可能であるが,斜めから見た場合には,液晶分子が視線方向に遅相軸を有する位相差層として働くことになって,光漏れが生じ,グレーに表示されてしまう。使用者が斜めから見ることが多くなる大型の液晶表示装置において,斜め方向から見た場合でも正面から見た場合と同様に黒色の表示ができるようにすることは非常に重要であるところ,上記の光漏れの問題は解決すべき大きな技術的課題である。 他方,両軸がなす角度が45度となるように偏光フィルムと位相差フィルムを積層する場合,もともと正面方向で偏光変換することが目的なので,多少軸ずれが生じたとしても,例えば,円偏光板の場合,直線偏光をほぼ円偏光に変換することができ(軸角度付 偏光フィルムと位相差フィルムを積層する場合,もともと正面方向で偏光変換することが目的なので,多少軸ずれが生じたとしても,例えば,円偏光板の場合,直線偏光をほぼ円偏光に変換することができ(軸角度付近の漏れ光量が小さい),問題は生じない。 - 12 -このとおり,偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とがなす角度が異なると,ボーイング歪みがもたらす影響も異なるのであって,両軸のなす角度が45度である引用文献3,4に記載された事項を,両軸のなす角度が90度である引用発明に適用できるものではなく,引用文献3,4(さらに5,6)を根拠にして偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とを90度回転させることは当業者にとって容易ではない。 したがって,引用文献3及び4に記載されている円偏光板における,位相差フィルムと偏光フィルムの貼り合わせ角度(45度)と,補正発明の重畳フィルムにおける位相差フィルムと偏光フィルムの貼り合わせ角度(90度,直交)の相違は,補正発明の容易想到性の阻害要因となるものである。 加えて,引用文献3には縦一軸延伸で位相差フィルムを作製することは記載されていない。 そうすると,引用文献3,4に記載された事項は,補正発明の目的が高精度の光学補償及び視野角の拡大等であるのに対して異なる目的・効果を有するものにすぎず,上記のとおり阻害要因があるから,当業者において,引用発明に引用文献3,4に記載された事項を組み合わせることができないか,又は組み合わせたとしても補正発明に容易に想到することができない。 (5) 引用文献5には,位相差フィルムを縦一軸延伸で作製すること自体が記載されていない上,長尺フィルムの長さ方向(縦方向)に対して偏光フィルムの吸収軸がなす角度が45度になることが必要とされており,またパネルサイズを は,位相差フィルムを縦一軸延伸で作製すること自体が記載されていない上,長尺フィルムの長さ方向(縦方向)に対して偏光フィルムの吸収軸がなす角度が45度になることが必要とされており,またパネルサイズを大きくすることについて記載されていない。 引用文献6も,製膜したPVAフィルムを用いず,樹脂フィルムにPVAを塗布したフィルムを用いるという独自の方法を開示するものであって,所望の光学的特性を得るための偏光フィルムに関する特別の条件を教示するものにすぎないところ,引用文献6には位相差フィルムを縦一軸延伸で作製すること自体が記載されていないし,偏光フィルムを位相差フィルムと貼り合わせることも記載されていない。ま - 13 -た,引用文献6はそもそもパネルサイズの大型化を意図したものではない。 したがって,当業者において,引用文献5,6に記載された事項を製膜したPVAフィルムに係る引用発明に組み合わせることはできないし,組み合わせたとしても補正発明に容易に想到できるものではない。 (6) 引用発明の目的・効果は,熱による偏光特性の問題の解決にあり,補正発明が位相差フィルムの光学的均一性及び偏光フィルムの吸収軸の均一性をその目的・効果とするのとは異なる。 また,引用文献2ないし6に記載された事項も,前記のとおり,補正発明と目的・効果が異なる。 したがって,当業者が,位相差フィルムの光学的均一性及び偏光フィルムの吸収軸の均一性を期して,相違点1及び2に係る構成に容易に想到できたとする審決の判断は誤りである。 (7) 以上のとおり,幅方向にフィルムを延伸することと横方向にフィルムを延伸することとは異なる技術であって,引用発明の位相差フィルムは横方向(幅方向)に延伸して作製することが前提とされており,縦方向(長手方向)に延伸して位相差フィルム 延伸することと横方向にフィルムを延伸することとは異なる技術であって,引用発明の位相差フィルムは横方向(幅方向)に延伸して作製することが前提とされており,縦方向(長手方向)に延伸して位相差フィルムを作製する補正発明や引用文献2等とは技術的思想が異なる。 そうすると,本件優先日当時,当業者において,引用発明に引用文献2ないし6に記載された事項を組み合わせることができないか,又は組み合わせたとしても補正発明に容易に想到することができない。 (8) 偏光フィルムと位相差フィルムを貼り合わせて作製する液晶表示装置用の重畳フィルムにおいて,偏光フィルムの透過軸と位相差フィルムの遅相軸とがなす角度は,これを用いる液晶表示装置の性格に応じて適宜決定されるものであり,45度とすることもあるから,必ずしも両軸が平行になる(偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸が直交する)ものではない。 そうすると,位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの透過軸とを実質的に平行になるようにすることを当業者が選択するはずであるとする審決の判断の前提は誤 - 14 -りであるし,この前提に基づいて,両軸が実質的に平行になる(偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸がほぼ直交する)ようにするべく,「光学補償シート(位相差フィルム)と偏光膜のいずれか一方を長尺フィルムの縦方向に延伸し,他の一方を長尺フィルムの幅方向に延伸することが最も合理的であることは,当業者の技術常識からして明らかである」とする審決の判断も誤りである。 (9) 原告は,90インチ以上の大型液晶表示装置用の偏光板で100%のシェアを有しているところ,かかる商業的成功は本件出願に係る発明のとおり偏光フィルムを横方向に延伸し,位相差フィルムを縦方向に延伸して作製する方法を採用したことによって初めてもた 偏光板で100%のシェアを有しているところ,かかる商業的成功は本件出願に係る発明のとおり偏光フィルムを横方向に延伸し,位相差フィルムを縦方向に延伸して作製する方法を採用したことによって初めてもたらされたものである。このことは本件の進歩性判断において参酌されるべきである。 (10) 結局,補正発明の容易想到性に係る審決の判断には誤りがある。 第4 取消事由に関する被告の反論 1 取消事由1に対し審決は,引用発明の認定においては偏光フィルム(偏光膜)の延伸方向を明示してはいないが,補正発明と引用発明との対比の項目で,上記延伸方向を認定しているし,構成要素の一つである偏光フィルムと他の構成要素である位相差フィルムとに分けて相違点を認定したとしても,容易想到性の判断には何ら影響しない。原告が主張するとおり,偏光フィルムに関する構成と位相差フィルムに関する構成とを合わせて一つの相違点としたとしても,単に審決がいう相違点1及び2を合わせたものにすぎず,差異はない。したがって,審決の引用発明の認定並びに一致点及び相違点の認定に誤りがあるとはいえない。 2 取消事由2に対し(1) 引用文献1では,位相差フィルムの延伸につき,フィルムの搬送方向(長さ方向)に対して横方向に延伸されることが好ましいとされているのみで,横方向に延伸しなければならないとしているわけではないし,単に位相差フィルムを横方 - 15 -向に延伸する場合に,フィルムの幅方向の光学特性を均一化する観点から,熱処理を施すことが好ましい旨の記載があるにすぎない。そうすると,引用文献1をもってしても,位相差フィルムの延伸方向が横方向に限られるものではなく,偏光フィルムが縦方向に透過軸を有する場合には,位相差フィルムの作製につき縦延伸を用いることができることは明らかである。 献1をもってしても,位相差フィルムの延伸方向が横方向に限られるものではなく,偏光フィルムが縦方向に透過軸を有する場合には,位相差フィルムの作製につき縦延伸を用いることができることは明らかである。なお,補正発明においては,パネルサイズが大型であるとの特定はされていない。 (2) 審決は,当該文献に記載された具体的なフィルムの構造を組み合わせるという趣旨で引用文献2ないし4を引用したものではなく,単に本件優先日当時の技術的知見を示すためにこれらを引用したにすぎない。すなわち,審決は,本件優先日当時,横方向(幅方向)に延伸して作製する横一軸延伸位相差フィルムはボーイング歪みが生じやすい一方,縦方向(長手方向)に延伸して作製する周知の縦一軸延伸位相差フィルムはボーイング歪みが生じないから,上記縦一軸延伸位相差フィルムを用いれば光学的に均一な位相差フィルムを得ることができるとの技術的知見が当業者に存したことを示すために,引用文献2ないし4を引用したものである。 また,審決は,本件優先日当時,横方向(幅方向)に延伸して作製する,縦方向(長手方向)に透過軸がある(横方向(幅方向)に吸収軸がある)周知の偏光フィルムにつき,上記吸収軸が広い範囲で等しい(均一である)という技術的知見が当業者に存したことを示すために,引用文献5及び6を引用したものである。 ここで,位相差フィルムのボーイング現象は,横方向(幅方向)にフィルムを延伸した場合,フィルムの端部は固定されているが中央部は収縮力が発生するため,横方向に屈折率が不均一となる(分布が生じる)現象であって,縦方向(長手方向)にフィルムを延伸して作製する場合には生じない。したがって,偏光フィルムを位相差フィルムに貼り合わせるかどうか及び貼り合わせ角度のいかんは,ボーイング現象の発生の抑制とは無関係であって (長手方向)にフィルムを延伸して作製する場合には生じない。したがって,偏光フィルムを位相差フィルムに貼り合わせるかどうか及び貼り合わせ角度のいかんは,ボーイング現象の発生の抑制とは無関係であって,補正発明の効果であるボーイング現象の発生の抑止は,単に縦方向(長手方向)に延伸して作製した位相差フィルムを用いたことで奏される効果にすぎず,縦一軸延伸位相差フィルムに横一軸延伸偏光フィル - 16 -ムを積層したことによる効果ではない。 ところで,偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸のなす角度が同等であれば,両フィルムを貼り合わせた重畳フィルムの光学的作用は同等であるから,上記角度を維持しつつ,偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸がフィルムの長さ方向に対してなす各角度を変更しても,光学的均一性の精度以外の点では光学的に同等の作用効果を奏することができる。審決は,位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの透過軸が実質的に平行になる関係を維持しつつ,位相差フィルムにつき縦一軸延伸により作製することとし,したがって偏光フィルムの透過軸と位相差フィルムの遅相軸がフィルムの長さ方向に対してなす角度を90度回転させて,縦一軸延伸位相差フィルムと横方向延伸偏光フィルムとを貼り合わせることに改めることは,当業者において容易であると判断したものである。 そうすると,当業者において引用発明に引用文献2ないし6に記載された事項を組み合わせることに困難はなく,技術的な前提条件に欠けることになるものでもない。 (3) 引用文献2の段落【0006】には,位相差フィルムを二軸延伸によって作製したときに,縦方向(長手方向)よりも横方向(幅方向)の延伸倍率を大きくすると,ボーイング歪みの発生で光軸がばらつきやすい旨が記載されているから,引用文献2に,横一 差フィルムを二軸延伸によって作製したときに,縦方向(長手方向)よりも横方向(幅方向)の延伸倍率を大きくすると,ボーイング歪みの発生で光軸がばらつきやすい旨が記載されているから,引用文献2に,横一軸延伸位相差フィルムがボーイング歪みを生じやすい一方,周知の縦一軸延伸位相差フィルムではボーイング歪みが生じず,光学的に均一な位相差フィルムを得ることができるとの技術的知見が記載されていることは明らかである。したがって,引用文献2に二軸延伸位相差フィルムが記載されているからといって,引用発明に組み合わせることができなくなるものではない。 (4) 引用文献3及び4の円偏光板が,位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸がなす角度を45度として貼り合わせたものであるとしても,貼り合わせ角度はボーイング歪みの発生とは無関係であり,周知の縦一軸延伸位相差フィルムではボーイング歪みが生じないとの当業者の技術的知見の認識を妨げるものではな - 17 -い。のみならず,引用文献3の段落【0063】の記載及び引用文献4の段落【0033】の記載から明らかなとおり,引用文献3及び4に記載された技術的事項は円偏光板の場合のみに限られるものではない。したがって,位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸がなす角度ゆえに,引用文献3及び4に記載された事項を引用発明に組み合わせることができなくなるものではなく,補正発明の容易想到性の阻害要因となるものでもない。 (5) 引用文献5の段落【0002】の記載に照らせば,本件優先日当時,横方向(幅方向)に延伸された,縦方向(長手方向)に透過軸のある偏光フィルムが当業者に周知であることは明らかであるところ,審決はかかる周知技術を示すために引用文献5を引用したものである。本件優先日当時,かかる偏光フィルムが市場において必 手方向)に透過軸のある偏光フィルムが当業者に周知であることは明らかであるところ,審決はかかる周知技術を示すために引用文献5を引用したものである。本件優先日当時,かかる偏光フィルムが市場において必ずしも一般的でなかったとしても,当業者に周知の技術事項であったことには変わりがない。 引用文献6の段落【0006】の記載に照らせば,引用文献6には縦方向(長手方向)に透過軸を有する偏光フィルムが記載されていることは明らかであって,かかる偏光フィルムが当業者に周知であることを示すために審決が引用文献6を引用したことに誤りはない。 したがって,引用発明に引用文献5及び6に記載された事項を組み合わせることができないものではない。 (6) 市場における占有率は,当該製品を実際に製造するノウハウ等の蓄積や,市場規模,利益率等によっても決されるのであって,仮に原告製品のシェアが100%であったとしても,補正発明に進歩性があることになるものではない。 (7) 引用文献2ないし6の記載及び本件優先日当時の当業者の技術常識に照らせば,重畳フィルムの位相差フィルムが光学的に均一であり,かつ偏光フィルムの吸収軸が均一であることが望ましいことは明らかである。引用文献1の段落【0074】には,TNモード等のモードの液晶表示装置に用いられる位相差フィルムであるポリマーフィルムについて,光学補償の観点から,ポリマーフィルムの遅相 - 18 -軸と偏光フィルム(偏光膜)の透過軸とを実質的に平行になるようにすることが記載されているし,乙第1号証においても,他のモードであるMVA(Multi-domainVerticalAlignment,垂直配向)モードにつき,広視野角特性を得るために,位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸とを直交させることが記載されている。 (Multi-domainVerticalAlignment,垂直配向)モードにつき,広視野角特性を得るために,位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸とを直交させることが記載されている。 そうすると,本件優先日当時,重畳フィルムの位相差フィルムを光学的に均一にし,かつ偏光フィルムの吸収軸を均一にするという技術的課題は当業者に自明であったところ,かかる技術的課題を解決するために,縦一軸延伸により位相差フィルムを作製して光学的に均一な同フィルムを得,かつ位相差フィルムの遅相軸と偏光フィルムの透過軸とを平行にすることを選択することは当業者において容易になし得る事柄にすぎない。 第5 当裁判所の判断取消事由2(本願補正発明の容易想到性の判断の誤り)について判断する。 1 補正発明について本願明細書(甲1,17)には,次のとおりの記載がある。 (1) 本願発明の技術背景として,「本発明は,液晶表示の大型画面化に好適な偏光フィルムを用いた液晶表示装置用重畳フィルムの製造方法,及び液晶セルによる位相差の光学補償等に好適な液晶表示装置用重畳フィルム並びにそれらを配置した液晶表示装置に関する。」(段落【0001】)との記載(2) 従来技術とその問題点として,「一方,液晶セルによる位相差の光学補償,特に視野角の補償には,偏光フィルムの吸収軸に対して位相差フィルムをその遅相軸(面内における最大屈折率方向)が直交するように配置することが求められる。 その場合にロール形態に巻回した長尺フィルム同士で偏光フィルムと位相差フィルムを積層できることが,その積層体よりなる重畳フィルムの製造効率等の点より有利である。」(段落【0005】)との記載及び「前記は,長尺フィルムを幅方向に延伸し,その幅方向に遅相軸を有する位相差フィルムを形成することで達 ,その積層体よりなる重畳フィルムの製造効率等の点より有利である。」(段落【0005】)との記載及び「前記は,長尺フィルムを幅方向に延伸し,その幅方向に遅相軸を有する位相差フィルムを形成することで達成される。 - 19 -しかしその場合,長尺フィルムを長さ方向に延伸してその長さ方向に遅相軸を有する位相差フィルムとしたものに比べてフィルム中央部が進行するボーイング現象で遅相軸の方向がバラツキやすい難点があった。」(段落【0006】)との記載(3) 補正発明の目的(技術的課題)として,「本発明は,横サイズを任意に設定して液晶セル表裏での吸収軸の直交関係を形成できて,液晶表示の大型画面化,特に任意な横サイズの画面を達成でき,また位相差フィルムと長尺フィルム同士で積層できて,その積層体よりなる液晶表示装置用重畳フィルムを効率よく製造できる偏光フィルムを得て,液晶セルの位相差を高度に光学補償でき視野角の拡大等を図りうる液晶表示装置用重畳フィルムの開発を目的とする。」(段落【0007】)との記載(4) 技術的課題を解決するための手段として,「本発明は,長尺のポリマーフィルムからなり,かつ幅方向に吸収軸を有する偏光フィルムを製造する工程と,長尺のポリマーフィルムからなり,長さ方向に遅相軸を有する縦一軸延伸位相差フィルムを準備する工程と,前記偏光フィルムと前記位相差フィルムとを積層させる工程とを含み,前記偏光フィルムを製造する工程において,前記長尺のポリマーフィルムに幅方向の延伸処理及び二色性物質の染色処理を施し,前記偏光フィルムと前記位相差フィルムとを積層させる工程において,前記偏光フィルムと前記位相差フィルムとを,それら長尺のポリマーフィルムの長さ方向を対応させ,接着層または粘着層により直接接着または粘着して積層させる液晶表示装置用重畳フ とを積層させる工程において,前記偏光フィルムと前記位相差フィルムとを,それら長尺のポリマーフィルムの長さ方向を対応させ,接着層または粘着層により直接接着または粘着して積層させる液晶表示装置用重畳フィルムの製造方法と,その製造方法にて得た液晶表示装置用重畳フィルム,並びに前記の液晶表示装置用重畳フィルムから形成される所定サイズの液晶表示装置用重畳フィルムを液晶セルの外側に配置して形成される液晶表示装置を提供するものである。」(段落【0008】)との記載 2 引用発明からの容易想到性(1) 審決は,縦方向(長手方向)に延伸して偏光フィルムを作製し,横方向(幅方向)に延伸して位相差フィルムを作製し,両フィルムを積層させて重畳フィルム - 20 -となす発明である引用発明に,引用文献2等に記載された事項を組み合わせて,偏光フィルムの延伸方向が横方向,位相差フィルムの延伸方向が縦方向である補正発明の容易想到性を肯定した。 引用発明は相違点1,2のとおり,偏光フィルム,位相差フィルムの双方において補正発明と相違するフィルム延伸の構成を採用しているものであるところ,特開2002-22942号公報(引用文献1,甲19の1)中には,偏光フィルムの延伸方向に関し,「このポリマーフィルムの面内の遅相軸と偏光板の透過軸が平行になるようにロールtoロールで貼り合わせられるようにポリマーフィルムが延伸されることが好ましく,具体的には搬送方向に対して横方向に延伸されることが好ましい。」(段落【0019】)との記載があるほか,かかる偏光フィルムと位相差フィルムとを貼り合わせて重畳フィルムを作製するメリットにつき,「このように,通常の偏光板と液晶セルとの間に,本発明の光学補償シートを挿入して,従来と同様に液晶セルを光学的に補償し,さらに黒表示での光漏れを少 を貼り合わせて重畳フィルムを作製するメリットにつき,「このように,通常の偏光板と液晶セルとの間に,本発明の光学補償シートを挿入して,従来と同様に液晶セルを光学的に補償し,さらに黒表示での光漏れを少なくすることができる。・・・本発明の偏光板を用いることで,優れた視野角特性が得られ,・・・液晶パネルサイズの大型化にも十分対応できる。」(段落【0076】),「本発明においては,光学補償シートの弾性率を調整することにより,従来使用されていた光学補償シートの優れた光学特性を維持したまま,さらに,熱による複屈折の発現(液晶表示装置においては,黒表示状態での光漏れ)が少ない特性を付加できる。従って,本発明の光学補償シート,あるいはそれを用いた偏光板を液晶表示装置に用いることで,従来の厚みを保ったまま,表示品位が高く,そしてパネルサイズの大きい液晶表示装置を作成することができる。」(段落【0079】,【発明の効果】)との記載があるのみであって,これらのほかに偏光フィルム及び位相差フィルムの延伸方向の選択に関する記載は存しない。そうすると,引用文献1中には,長尺のフィルムを横方向(幅方向)に延伸して偏光フィルムを作製する一方,位相差フィルムは縦方向(長手方向)に延伸して作製する構成(相違点1,2に係る補正発明の構成)についても記載されているとみるのは困難である。また上記段落【0019】等の - 21 -記載から偏光フィルムの延伸方向として横方向以外の方向を選択する構成を積極的に排除までしていないとしても,横方向に延伸して偏光フィルムを作製する一方,位相差フィルムは縦方向に延伸して作製するという相違点1,2に係る補正発明の構成まで採用し得るか否かや採用した場合の作用効果は引用文献1からは明らかでない。 補正発明は,前記1の本願明細書記載のとおり,相 ィルムは縦方向に延伸して作製するという相違点1,2に係る補正発明の構成まで採用し得るか否かや採用した場合の作用効果は引用文献1からは明らかでない。 補正発明は,前記1の本願明細書記載のとおり,相違点1,2に係る引用発明の構成を従来技術として認識し,そこにおける技術的課題を設定し,その解決手段としてその構成を採用し,それに伴う作用効果を見出したものであって,引用発明が想定していない偏光フィルムと位相差フィルムの貼り合わせの位置関係を前提にして,両フィルムを積層させる液晶表示装置用重畳フィルムの製造方法の完成に至ったものである。 このような補正発明が意図した技術的課題とその解決手段にかんがみ,引用文献1の上記記載をみると,相違点1,2に係る補正発明の構成が引用文献1で許容されているとみるのは相当でない。 (2) 特開2001-166134号公報(引用文献2,甲19の2)の段落【0006】には,位相差フィルムを縦方向(長手方向)及び横方向(幅方向)に延伸して作製する二軸延伸において,拡幅を目的として縦方向の延伸倍率よりも横方向の延伸倍率を大きくする従来の方法では,大きなボーイング歪みが発生して光軸がばらつきやすく,遅相軸が横方向に現れて不都合であった旨が記載されており,段落【0005】,【0006】には,上記技術的課題の解決のため,横/縦の延伸倍率比を小さくするなどして縦方向に遅相軸が現れるようにし,斜視方向における位相差を高度に補償して液晶表示装置の表示品位を達成した(高いコントラスト及び表示の均質性)旨が記載されているから,位相差フィルムの光学的特性の向上には縦方向(長手方向)の延伸倍率を大きくすることが効果的であることが理解できるが,引用文献2はあくまで縦方向と横方向に同時に延伸して位相差フィルムを作製する技術的事項に関するもの 光学的特性の向上には縦方向(長手方向)の延伸倍率を大きくすることが効果的であることが理解できるが,引用文献2はあくまで縦方向と横方向に同時に延伸して位相差フィルムを作製する技術的事項に関するものにすぎない(なお,実施例のうちには,縦方向にいっ - 22 -たん延伸し,その後横方向に延伸する逐次二軸延伸の方法が採用されているものもあるが(段落【0028】,【0029】),格別に縦方向にのみ延伸して位相差フィルムを作製する方法(縦一軸延伸)が取り上げられているわけではなく,同時二軸延伸の方法と事情がさほど異なるものではない。)。加えて,引用文献2には偏光フィルムと位相差フィルムをロールから切り離さない状態で貼り合わせるロールtoロールに関して記載も示唆もされておらず,ロールtoロールの方法で両フィルムを貼り合わせる発明に対して引用文献2に記載された事項を当業者が適用する可能性及びその効果について,引用文献2は教示するものではない。 特開2002-62430号公報(引用文献3,甲19の3)の段落【0040】には,「本発明のセルロースエステルフィルムは,・・・剥離後のフィルムを長尺方向及び/または幅手方向に延伸することによって,所望のR0を有するセルロースエステルフィルムを製造することが特徴である。・・・延伸方向は,テンターを用いて主に幅手方向に延伸しても,周速の異なるロールを用いてフィルムの製膜方向(長尺方向)に延伸しても,あるいはその他の手段によってもよいが,好ましくはテンターで幅手方向に・・・延伸し,製膜方向(長尺方向)に・・・延伸し,幅手方向の延伸倍率<製膜方向(長尺方向)の延伸倍率の関係にあることが特に好ましい。」との記載があり,段落【0176】にも,横方向(幅方向)に延伸するとボーイング現象が生じるが,縦方向(長手方向,長尺 方向の延伸倍率<製膜方向(長尺方向)の延伸倍率の関係にあることが特に好ましい。」との記載があり,段落【0176】にも,横方向(幅方向)に延伸するとボーイング現象が生じるが,縦方向(長手方向,長尺方向)にも延伸するとボーイング現象を抑制し,幅方向(幅手方向)の位相差の分布を改善できることが記載されているほか,実施例に係る段落【0199】,【0218】,【0229】及び【0238】にも逐次二軸延伸又は同時二軸延伸の方法によって位相差フィルムを作製することが記載されている。引用文献3は,主として二軸延伸の方法で位相差フィルムを作製し,偏光板(偏光フィルム)と貼り合わせて,均一な光学的特性を有する重畳フィルムを作製することを開示しており,上記段落【0040】で縦方向のみに延伸して位相差フィルムを作製する方法(縦一軸延伸)も採用し得ることが示されているものであるが,引用文献3には偏光フィルムと位相差フィルムをロールから切り - 23 -離さない状態で貼り合わせるロールtoロールの方法に関して記載も示唆もされておらず,引用文献2と同様に,ロールtoロールの方法で両フィルムを貼り合わせる発明に対して引用文献3に記載された事項を当業者が適用する可能性及びその効果について,引用文献3は教示するものではない。 位相差フィルムを偏光板(偏光フィルム)に貼り合わせる重畳フィルムに関する文献である特開2002-71957号公報(引用文献4,甲19の4)の段落【0076】には,引用文献3と同様に,横方向(幅方向)にフィルムを延伸すると,ボーイング現象が生じ,横方向(幅方向)に屈折率の分布が生じるが,縦方向(流延方向)に延伸することでボーイング現象を抑制し,横方向(幅方向)の位相差の分布を改善できることが記載され,段落【0079】には,実施例3及び7に関し, (幅方向)に屈折率の分布が生じるが,縦方向(流延方向)に延伸することでボーイング現象を抑制し,横方向(幅方向)の位相差の分布を改善できることが記載され,段落【0079】には,実施例3及び7に関し,縦方向(流延方向,長手方向)に延伸して位相差フィルムを作製する方法が記載されている(他の実施例は二軸延伸)。しかしながら,引用文献4には偏光フィルムと位相差フィルムをロールから切り離さない状態で貼り合わせるロールtoロールの方法に関して記載も示唆もされておらず,引用文献2と同様に,ロールtoロールの方法で両フィルムを貼り合わせる発明に対して引用文献4に記載された事項を当業者が適用する可能性及びその効果について,引用文献4は教示するものではない。 特開2002-127245号公報(引用文献5,甲19の5)の段落【0002】には,「テンター延伸機等を用い,フィルムの両端を把持手段で把持しつつ張力を付与し,フィルム幅方向に延伸してもよい。この場合透過軸は長手方向に平行となる。」と,横方向(幅方向)に延伸して偏光フィルム(偏光膜)を作製することが記載されている。しかしながら,引用文献5は偏光フィルム(あるいは偏光フィルムと保護フィルムを貼り合わせたフィルム)に関する文献にすぎず,また従前の偏光フィルムではロールの長手方向(縦方向)に対して45°傾けて打ち抜かなければならず,フィルムの無駄が多かったのを,初めから長手方向に対して45°傾いた透過軸を有する偏光フィルムを,フィルム破断が起こりにくい方法で作製するという発明を開示するもの(段落【0003】~【0007】)にすぎない。したがっ - 24 -て,引用文献5には,偏光フィルムと位相差フィルムを貼り合わせる構成について開示がないのはもちろん,偏光フィルムと位相差フィルムをロールから切り離さない 7】)にすぎない。したがっ - 24 -て,引用文献5には,偏光フィルムと位相差フィルムを貼り合わせる構成について開示がないのはもちろん,偏光フィルムと位相差フィルムをロールから切り離さない状態で貼り合わせるロールtoロールの方法に関して記載も示唆もされていない。 そうすると,引用文献5は,引用文献2と同様に,ロールtoロールの方法で偏光フィルムと位相差フィルムを貼り合わせる発明に対して引用文献5に記載された事項を当業者が適用する可能性及びその効果について教示するものではない。 特開2003-43257号公報(引用文献6,甲19の6)の段落【0013】には,最終的に得られるフィルムの吸収軸を広い範囲で等しくするために縦方向(長尺方向)に直交する方向すなわち横方向(幅方向)に横一軸延伸して偏光フィルムを作製する旨が,請求項1の特許請求の範囲や段落【0005】,【0006】等には,横一軸延伸中ないし延伸後に,縦方向の長さを特定量収縮させることによって,光学特性が良好な偏光フィルムを作製する旨が記載されているが,偏光フィルムと位相差フィルムを貼り合わせる構成について開示がないのはもちろん,偏光フィルムと位相差フィルムをロールから切り離さない状態で貼り合わせるロールtoロールの方法に関して記載も示唆もされていない。そうすると,引用文献6も,引用文献2と同様に,ロールtoロールの方法で偏光フィルムと位相差フィルムを貼り合わせる発明に対して引用文献6に記載された事項を当業者が適用する可能性及びその効果について教示するものではない。 (3) ここで,特開2002-296422号公報(平成13年4月2日出願,甲24)中には「位相差フィルムを偏光フィルムに貼り合わせる場合,遅相軸方向を偏光フィルムの横方向(偏光フィルムの一軸延伸方向に対してフィルム 開2002-296422号公報(平成13年4月2日出願,甲24)中には「位相差フィルムを偏光フィルムに貼り合わせる場合,遅相軸方向を偏光フィルムの横方向(偏光フィルムの一軸延伸方向に対してフィルム面内の直角方向)とすることが必要であるが,縦方向に遅相軸を有する位相差フィルムでは偏光フィルムと長尺ロール形態で貼り合わすことが出来ず,フィルムをカットしシート状で方向を合わせ貼り合わせなければならず,生産性が著しく劣る。」(段落【0005】)との記載があるし(なお,同段落中には,縦一軸延伸のポリカーボネート系位相差フィルムでは,波長が長いほど位相差が大きくなる正の波長分散特性を得 - 25 -ることができず,不都合である旨の記載もある。),「VA型液晶TV用視野角拡大フィルムVA-TACの開発」(KONICAMINOLTATECHNOLOGYREPORTVOL.3,甲23)中にも,従前位相差フィルム(クロスニコル下の偏光軸直交性の視野角依存性を抑制するためのAプレート)をロールから切り出し,ロールに巻かれた偏光フィルムと貼り合わせていた旨が記載されている(134頁,図2のExisting)。そうすると,本件優先日当時(平成15年8月8日),VA型(垂直配向型)液晶表示装置等に用いる重畳フィルムを作製するために,偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とが直交(偏光フィルムの透過軸と位相差フィルムの遅相軸が平行)するように両フィルムを貼り合わせるという条件の下で,ロールtoロールの方法で両フィルムを貼り合わせるためには,引用発明のように,横方向に延伸して遅相軸が横方向に現れる位相差フィルムを作製し,他方でフィルムを縦方向に延伸し,吸収軸が縦方向に現れる偏光フィルムを作製して,両フィルムを貼り合わせる方法を採用するか,又は縦 うに,横方向に延伸して遅相軸が横方向に現れる位相差フィルムを作製し,他方でフィルムを縦方向に延伸し,吸収軸が縦方向に現れる偏光フィルムを作製して,両フィルムを貼り合わせる方法を採用するか,又は縦方向に遅相軸を有する位相差フィルムをロールから切り離して,縦方向に吸収軸を有する偏光フィルムのロールと貼り合わせる方法を採用するのが当業者の一般的な技術常識であったと認められる。だとすると,本件優先日当時,縦方向に延伸して位相差フィルムを作製する方法や横方向に延伸して偏光フィルムを作製する方法が存在したとしても,これらの方法をすべて採用し,引用発明に適用して相違点を解消するには,当業者の上記の技術常識を超越して新たな発想に至る必要があるのであって,当業者にとってかかる創意工夫が容易であったかは極めて疑問である。 そうすると,前記のとおり,引用文献2ないし6にはロールtoロールの方法で偏光フィルムと位相差フィルムを貼り合わせる発明に対して各文献に記載された事項を当業者が適用する可能性及びその効果が教示されていない点を併せ考えてみると,本件優先日当時,当業者が引用発明に引用文献2ないし6に記載された事項を適用して,補正発明と引用発明の相違点1,2に係る構成に想到することが容易であったと認めることはできない。 - 26 -(4) 審決が周知の技術的事項の裏付けとして挙げる文献についてみるに,特開平2-191904号公報(甲20の1),特開平10-142421号公報(甲20の2),特開2000-206332号公報(甲20の3),特開2003-131033号公報(甲20の6)は,光学的均一性の高い(位相差補償性能のばらつきが小さい)位相差フィルムを縦一軸延伸の方法で作製する方法を開示するものであるが,これらも位相差フィルムを偏光フィルムと貼り合 33号公報(甲20の6)は,光学的均一性の高い(位相差補償性能のばらつきが小さい)位相差フィルムを縦一軸延伸の方法で作製する方法を開示するものであるが,これらも位相差フィルムを偏光フィルムと貼り合わせて重畳フィルムとすることすら記載されておらず,単に位相差フィルムの作製方法の1つを開示するものにすぎない。特開2002-258045号公報(甲20の4),特開2003-96207号公報(甲20の5)も,少なくとも縦方向に延伸して位相差フィルムを作製し(甲20の4の段落【0004】,【0052】,甲20の5の段落【0031】,【0061】~【0063】),偏光フィルムと貼り合わせて偏光板(重畳フィルム)を作製する方法を開示するものであるが,両フィルムをロールtoロールの方法で貼り合わせることは記載も示唆もされていない。 他方,特開平6-148427号公報(甲21の1)は偏光フィルムを横方向に延伸して作製する方法を開示するものにすぎず,位相差フィルムと貼り合わせて重畳フィルムとすることは記載されていない。特開2003-131034号公報(甲21の2)にも,横方向にも延伸して偏光フィルムを作製することが記載されているが,偏光フィルムと位相差フィルムをロールtoロールの方法で貼り合わせることは記載も示唆もされていない。特開2003-185838号公報(甲21の3),特開2003-207625号公報(甲21の4),特開2002-311239号公報(甲21の5),特開2000-190385号公報(甲21の6),特開2002-98830号公報(甲21の7)にも,偏光フィルムと位相差フィルムをロールtoロールの方法で貼り合わせることにつき記載も示唆もされていない。 そうすると,引用文献2等と同様,本件優先日当時,引用発明に甲第20,21号証に記載された ,偏光フィルムと位相差フィルムをロールtoロールの方法で貼り合わせることにつき記載も示唆もされていない。 そうすると,引用文献2等と同様,本件優先日当時,引用発明に甲第20,21号証に記載された事項ないし周知技術を適用したとしても,当業者が補正発明と引用発明の相違点に係る構成に容易に想到できたということはできない。 - 27 -(5) 以上のとおり,本件優先日当時,当業者において引用文献2等に記載された事項や周知技術を適用して相違点1,2を解消することは容易ではないから,「位相差フィルムの光学的特性の均一性を向上させるため,長尺ポリマーフィルムに縦一軸延伸処理を施し,長尺ポリマーフィルムの長さ方向に遅相軸を有する位相差フィルムとすること」が本件優先日当時に当業者において公知の事項ないし周知技術であったとしても,また「引用発明の『前記光学補償シート(位相差フィルム)の面内の遅相軸と,前記偏光膜の透過軸が実質的に平行になるように,前記光学補償シート(位相差フィルム)と前記偏光膜とを接着剤を用いてロールtoロールで貼り合わせる』という構成を得るには,『光学補償シート(位相差フィルム)』と『偏光膜』の延伸方向が互いに直交している必要があ」るとしても,本件優先日当時の当業者にとって,「光学補償シート(位相差フィルム)と偏光膜のいずれか一方を長尺フィルムの縦方向に延伸し,他の一方を長尺フィルムの幅方向に延伸することが最も合理的である」ことが自明であり,したがって「偏光フィルムに貼り合わせて用いられる位相差フィルムの光学的特性の均一性を向上させるとともに,偏光フィルムの吸収軸を広い範囲で等しくすることを期して,長尺ポリマーフィルムの長さ方向に遅相軸を有する縦一軸延伸位相差フィルムと,長手方向に透過軸(幅方向に吸収軸)を有する偏光フィルムとを もに,偏光フィルムの吸収軸を広い範囲で等しくすることを期して,長尺ポリマーフィルムの長さ方向に遅相軸を有する縦一軸延伸位相差フィルムと,長手方向に透過軸(幅方向に吸収軸)を有する偏光フィルムとを貼り合わせるよう構成すること,すなわち,偏光フィルムを,『幅方向の延伸処理』によって『幅方向に吸収軸を有する』『偏光フィルム』とし,位相差フィルムを,『(長尺ポリマーフィルムの)長さ方向に遅相軸を有する縦一軸延伸位相差フィルム』として前記相違点1,2の事項を得ることは,引用発明ならびに引用文献2ないし6に接した当業者であれば容易に想到し得る事項である」とする審決の判断には誤りがあるというべきである。 (6) 被告は,補正発明の容易想到性に関し,位相差フィルムのボーイング現象は,横方向(幅方向)にフィルムを延伸する場合の現象であって,縦方向(長手方向)にフィルムを延伸して作製する場合には生じず,補正発明の効果であるボーイング現象の発生の抑止は,単に縦方向(長手方向)に延伸して作製した位相差フィ - 28 -ルムを用いたことで奏される効果にすぎないし,偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸のなす角度が同等であれば,両フィルムを貼り合わせた重畳フィルムの光学的作用は同等であるから,上記角度を維持しつつ,偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸がフィルムの長さ方向に対してなす各角度を変更しても,光学的均一性の精度以外の点では光学的に同等の作用効果を奏することができるのであって,偏光フィルムの透過軸と位相差フィルムの遅相軸がフィルムの長さ方向に対してなす角度を90度回転させて,縦一軸延伸位相差フィルムと横方向延伸偏光フィルムとを貼り合わせることに改めることは,当業者において容易である等と主張する。 しかしながら,補正発明において,位相差 してなす角度を90度回転させて,縦一軸延伸位相差フィルムと横方向延伸偏光フィルムとを貼り合わせることに改めることは,当業者において容易である等と主張する。 しかしながら,補正発明において,位相差フィルムのボーイング現象の発生の抑止や光学的均一性の向上といった効果が,専ら位相差フィルムの延伸方向として縦方向を採用したことによるものだとしても,前記のとおりの本件優先日当時における当業者の技術常識や引用文献2等や被告が指摘する周知技術において,ロールtoロールの方法で偏光フィルムと位相差フィルムを貼り合わせることが考慮されていない点にかんがみると,引用発明において偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸が直交する構成が採用されているとしても,わざわざ位相差フィルムの延伸方向を横方向から縦方向にし,それに伴って偏光フィルムの延伸方向を横方向として,上記吸収軸と上記遅相軸がなす角度を保ったまま,ロールtoロールで両フィルムを貼り合わせる構成に想到することが本件優先日当時の当業者にとって容易であったとはいい難い。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 第6 結論以上の次第で,原告が主張する取消事由2は理由があり,その余の争点について判断するまでもなく,審決は補正発明の独立特許要件の判断を誤ったものであって,取消しを免れない。したがって,主文のとおり判決する。 - 29 -知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官真辺朋子 裁判官 塩月秀平 裁判官真辺朋子 裁判官田邉 主文 理由 事実 争点 判断

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