平成19(ワ)6473 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年5月23日 大阪地方裁判所
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判決文本文8,096 文字)

主文 被告は,原告に対し,55万円及びこれに対する平成18年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを4分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成18年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告が,被告が管理運営するインターネット上の掲示板に,原告を誹謗中傷する内容が書き込まれ,これに気付いた原告の関係者が被告に対して削除を求めたにもかかわらず,被告が迅速に削除するなどの適切な対処をする義務を怠ったことにより,精神的苦痛を被ったとして,被告に対して,民法709条に基づいて220万円(慰謝料200万円及び弁護士費用20万円の合計)及びこれに対する平成18年8月20日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(争いのない事実を除き,認定に用いた証拠は括弧内に示す。)(1)当事者ア原告は,平成18年8月当時,A中学校1年に在籍する女子生徒であった者である。 イ被告は,平成18年8月当時,インターネット上の「Bレンタル掲示板:C」において,「Aちゃんねる」,「Dちゃんねる」,「Eちゃんねる」等の名称でインターネット上の掲示板(以下「Aちゃんねる」を「本 件掲示板」という。)を設置し,管理運営していた者である。 (2)本件掲示板は,不特定多数の者が,自由に,匿名で書き込むことができるものであるが,被告は,本件掲示板への書き込み及びその削除についてのルールを定め,「お約束」の表題の下に,① いた者である。 (2)本件掲示板は,不特定多数の者が,自由に,匿名で書き込むことができるものであるが,被告は,本件掲示板への書き込み及びその削除についてのルールを定め,「お約束」の表題の下に,①実名の書き込みはいけない,②一般常識から外れたことは書き込まない,③削除依頼時はスレッドのアドレスとレス番号を明記する,④第三者から見て特定可能な情報でない場合は削除対象外とする,などのルールを掲記している。また,本件掲示板には,管理人への連絡手段が表示されており,書き込みの削除は,利用者からの削除依頼により,管理人が対象の削除基準該当性を判断した上で,管理人により削除される形態となっている。 (乙1,2)(3)本件スレッドの作成及びその削除の経緯ア平成18年8月20日,本件掲示板に,「中1のF(原告の氏名)について」とのタイトルのスレッド(以下「本件スレッド」という。)が立ち上げられた。冒頭の書き込みは,「中1のF死ぬ程うざい。マジ,しね!!バリ,ブスやし。あいつの顔見たらはきそうななる!!誰か,Fをしめて~!!」という内容であり,これに対し,実名を挙げて悪口を言うことを非難する書き込みや,冒頭の書き込みに同調する書き込みなど,同年10月18日にかけて,同スレッドに88回の書き込みがなされた。 (甲1)イ平成18年9月7日,原告が通う中学校の教頭であるGは,被告に対し,本件スレッドのタイトルを特定して,原告の個人名が出ている内容についての削除をメールで依頼した。被告は,Gからの削除依頼に対し,削除の対象となるスレッド及び書き込みのアドレスを正確に引用するよう指摘し,今回は削除依頼が正しく行われていないので,判断できないため処理できない旨メールで応答し,本件スレッドの削除は行わなかった。 (乙3,4) ウGは,平成18年9月1 を正確に引用するよう指摘し,今回は削除依頼が正しく行われていないので,判断できないため処理できない旨メールで応答し,本件スレッドの削除は行わなかった。 (乙3,4) ウGは,平成18年9月11日,再度,被告の指摘に従いアドレスを特定して削除依頼を行ったところ,被告は,依頼対象が第三者が客観的に個人を特定できる内容ではなく,削除事由に該当しないとして削除を行わなかった。 (乙5,6)エ原告の両親は,平成18年10月17日ころ,本件スレッドのことを知り,警察に相談した上,同月19日,被告に対し,本件スレッドに記載されている者の保護者であることを示した上で,削除依頼の意思を伝えるとともに,本件スレッドの接続記録の保存を依頼し,被告はこれに応じて本件スレッドの接続記録保存のために,本件スレッドを凍結した。また,原告の両親は,警察が接続記録を確保した後の同月31日,被告に対し,改めて本件スレッドの削除依頼を行い,被告はこれに応じて,同日,本件スレッドを削除した。 (乙7ないし10)(4)プロバイダ責任法3条1項による特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任法」という。)3条1項は,特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者は,当該権利侵害によって生じた損害について,以下の要件を全て充たす場合にしか賠償責任を負わないと規定している。 ア権利を侵害した情報の不特定多数の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能であること(同項本文)イ特定電気通信役務提供者が,当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていた 害した情報の不特定多数の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能であること(同項本文)イ特定電気通信役務提供者が,当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたこと又は当該情報の流通を知っていた場合で,それにより他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があること(同項1号,2号) 争点及び当事者の主張(1)プロバイダ責任法3条1項の要件の存否(原告の主張)ア被告は,本件掲示板の管理人であり,実際に本件スレッドを削除していることからも,情報の送信を防止することは技術的に可能である。 イ本件スレッドの内容は,一般に公開されたインターネット上で原告個人を特定して誹謗中傷するものであり,表現として保護されるような内容でなく,これによって原告の権利が侵害されていることは,その内容自体から明らかである。 ウ被告は,本件掲示板の管理人として,本件スレッドに最初の書き込みがなされた段階で,これを知り又は知り得べき立場にあったし,遅くともGから一度目の削除依頼を受けた際に,その内容から本件スレッドの存在を知ったのであり,その内容を容易に確認することが可能であったのだから,権利侵害の事実を知り又は知ることができたと認められる。 (被告の主張)被告の本件掲示板における管理権限は限定的であるし,本件スレッド全体を見ると,原告を擁護する発言が大半であるのだから,本件スレッドは表現として保護されるべきものであり,原告の権利を侵害するものであるとは認められない。また,Gからの削除依頼によっても,本件スレッドが実在する特定個人についての内容であることが確認できなかったのであるから,被告が本件スレッドの内容を確認したからといって,権利侵害の事実を知り又は知ることができたとはいえな よっても,本件スレッドが実在する特定個人についての内容であることが確認できなかったのであるから,被告が本件スレッドの内容を確認したからといって,権利侵害の事実を知り又は知ることができたとはいえない。 (2)不法行為の成否(原告の主張)本件スレッドの内容は,原告を侮辱し,名誉を毀損するものであり,被告は掲示板の管理人として,平成18年8月20日に最初の書き込みが行われ た段階でこれを削除すべき義務があったのに,同年10月31日までこれを放置したのであり,被告の行為は,掲示板の管理人としての管理義務に違反するものである。そして,原告は,本件スレッドが削除されることなく公開され続けたことにより精神的損害を被ったのであるから,被告の行為は,原告に対する不法行為を構成する。 (被告の主張)被告は,平成18年9月7日のGからの削除依頼を受けて初めて本件スレッドの存在を知ったのであり,その後のG及び原告の両親とのやりとりにおいて,削除対象の特定依頼,削除対象該当性の判断,接続記録保存後の迅速な削除等適切な対応をしており,被告の対応に管理義務違反はない。 (3)原告の損害について(原告の主張)原告は,本件スレッドの書き込みにより,不特定多数の者の好奇の目に晒されることになり,その不安と恐怖から,通っていた学校からの転校や塾をやめることを余儀なくされるなどして,大きな精神的損害を被った。原告の精神的損害に対する慰謝料として200万円が相当であり,また,原告が負担した弁護士費用のうち20万円は被告が賠償すべきである。 (被告の主張)原告の主張は争う。 第3 判断 プロバイダ責任法3条1項の要件の存否(1)前提事実(1)イ,(2)によれば,本件掲示板が「特定電気通信」(プロバイダ責任法2条1号)に該当し,被告が「特定電気通信役務提供者」 。 第3 判断 プロバイダ責任法3条1項の要件の存否(1)前提事実(1)イ,(2)によれば,本件掲示板が「特定電気通信」(プロバイダ責任法2条1号)に該当し,被告が「特定電気通信役務提供者」(同条3号)に該当すると認められる。 (2)権利侵害性前提事実(3)ア及び甲1によれば,本件スレッドについて,タイトルで原告 の氏名及び学年が特定されていること,本件スレッドを立ち上げた冒頭の書き込みが原告の容ぼう等を誹謗中傷する内容であり,その後の書き込みの内容をみると,スレッド全体としては,冒頭の書き込みを非難し,原告を擁護する書き込みが多いものの,冒頭の書き込みに同調する内容の書き込みもあることが認められる。 原告にとっては,不特定多数の者が閲覧可能なインターネット上で,冒頭の書き込みのように実名を明らかにした上で誹謗中傷する内容の書き込みがされていること自体が,重大な権利侵害というべきであり,本件スレッドが全体としては原告を擁護する傾向であったとしても,そのことは権利侵害を否定する理由にはならない。 したがって,本件スレッドが不特定多数の閲覧可能状態にあることは,原告に対する権利侵害に該当するというべきであり,この点についての被告の主張は失当である。 (3)技術的可能性前提事実(3)エによれば,被告は,原告の両親からの削除依頼等のメールを受け取った直後に,本件スレッドを凍結,削除しており,被告がスレッドの削除による情報の送信を防止する措置を講じることは,技術的に可能であったと認められる。 (4)プロバイダ責任法3条1項各号要件ア情報の流通に関する認識被告は,平成18年9月7日,Gから,本件掲示板内に,タイトルで原告の氏名が出てくるスレッドが存在し,同スレッドの内容にも原告の個人名が書き込まれていることを指摘した削除依頼 情報の流通に関する認識被告は,平成18年9月7日,Gから,本件掲示板内に,タイトルで原告の氏名が出てくるスレッドが存在し,同スレッドの内容にも原告の個人名が書き込まれていることを指摘した削除依頼のメールを受信しており,遅くとも同日には,本件スレッドの存在を認識したと認められる(乙4)。 原告は,被告が平成18年8月20日に最初の書き込みが行われた段階から責任を負うと主張するが,被告が同日に本件スレッドの存在を認識し たと認めるに足りる的確な証拠はなく,原告の主張は失当である。 イ権利侵害に関する認識被告は,Gの削除依頼について,一回目のメールでは削除対象のアドレスが正確に引用されておらず,二回目のメールでもGの立場が不明であったこと,また,「中1のF」との内容のみでは,住所や電話番号等の個人情報が明らかになっていないことから,本件スレッドの内容が実在する特定個人についての書き込みとは判断できなかったと主張する。 しかしながら,Gの一回目のメールには,本件スレッドのタイトルが正確に記載されていたのであるから,本件掲示板の管理人であった被告としては,タイトルからスレッドを検索するなどして,本件スレッドの存在及びその内容を確認することができたというべきであり,削除依頼対象のアドレスの記載がなかったからといって,被告に認識可能性がなかったとはいえない。 また,被告は,原告の保護者からのメールに対しては,原告の保護者との記載のみをもって依頼に対応しており,削除依頼の主体の確認を厳格に行っておらず,Gの立場が不明であったことは,削除の判断にとっては重要であったとはいえない。なお,Gの削除依頼のメールアドレスが「@H. ac.jp」であること(乙3,5)からすれば,むしろ,同人がAの学校関係者であることが推認できたというべきである。 そして,本 要であったとはいえない。なお,Gの削除依頼のメールアドレスが「@H. ac.jp」であること(乙3,5)からすれば,むしろ,同人がAの学校関係者であることが推認できたというべきである。 そして,本件掲示板は,「Aちゃんねる」とのタイトルのとおり,Aの生徒等の関係者が書き込みをすることを想定した掲示板であり,この点は,被告も認めるところである。そして,このことは,本件掲示板を閲覧する第三者にとっても,そのタイトルから明らかであったというべきである。 以上の事実に加え,Gからの一回目の削除依頼の時点での本件スレッドの内容が,原告が実在の生徒であることを前提とした書き込みがほとんどであること(甲1)をも考慮すれば,本件掲示板内の,「中1のF」との タイトルのスレッド及びその書き込みの内容を見た者としては,A中学1年生にFという氏名の生徒が在籍し,本件スレッドは同人についての内容であると判断できると認められる。したがって,被告の主張は失当である。 以上によれば,被告は,平成18年9月7日のGからの一回目の削除依頼の時点で,本件スレッドを確認することにより,本件スレッドのタイトル及び内容が原告の実名を挙げた上での誹謗中傷であり,原告の権利を侵害するものであることを知ることができたというべきである。 不法行為の成否(1)管理義務違反の有無本件掲示板は,前記1(4)イのとおり,被告が,特定の学校の生徒が書き込むことを予定して作成し,運営していた掲示板であり,学校が公式に運営していたものではない。そうすると,本件掲示板の匿名性も考慮すると,掲示板内において,当該学校の生徒同士が,他の生徒の実名を挙げて誹謗中傷を行う等のトラブルが起こりうることは容易に想定でき,これは,被告自身が実名での書き込みを禁止していること(乙2)からも明らかである。 ま おいて,当該学校の生徒同士が,他の生徒の実名を挙げて誹謗中傷を行う等のトラブルが起こりうることは容易に想定でき,これは,被告自身が実名での書き込みを禁止していること(乙2)からも明らかである。 また,そのようなトラブルが生じた場合,掲示板の閲覧者も当該学校の関係者が多いと考えられるから,実名等を公表された人物の被害が,インターネット上にとどまらず,現実の学校生活にも及ぶこともまた容易に予想することができるというべきである。 したがって,本件掲示板を設置し,これを管理運営していた被告としては,前記のような被害の発生を防止するよう慎重に管理し,トラブルが発生した場合には,被害が拡大しないよう迅速に対処する管理義務を負っていたと解するのが相当である。 そして,被告は,平成18年9月7日の段階で,本件スレッドによる原告に対する権利侵害を認識できたにもかかわらず,削除等の処置を講ずることなく,これを放置したのであるから,被告には,本件掲示板について,管理 義務違反が認められる。 これに対し,被告は,本件掲示板には,削除の基準,削除依頼窓口も表示されており,管理人としては,全体の流れ等から削除基準に該当しない本件スレッドまで,むやみに削除を行うことは,不適切な管理となりうると主張する。 しかしながら,本件スレッドが,原告に対する権利侵害となることは前記1(2)のとおりであり,削除の基準や削除依頼の方法を定めているからといって,掲示板管理者の管理義務の程度,内容が限定されることにはならない。 また,プロバイダ責任法3条2項の規定に照らせば,特定の個人に対する権利侵害と信ずべき相当の理由がある本件スレッドを削除したことについて,被告が書き込みを行った者に対する関係で責任を負うことはないというべきである。したがって,被告の主張は失当である。 (2)以 権利侵害と信ずべき相当の理由がある本件スレッドを削除したことについて,被告が書き込みを行った者に対する関係で責任を負うことはないというべきである。したがって,被告の主張は失当である。 (2)以上によれば,被告の管理義務違反により,本件スレッドによる原告に対する権利侵害の状態が継続したと認められ,被告の行為は,原告に対する不法行為を構成する。 なお,前記1(4)アのとおり,被告が,平成18年9月7日以前に本件スレッドの存在を認識していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,同日以前の被告の義務違反に関する原告の主張は失当である。 損害証拠(甲7,9)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件当時,中学一年生であり,本件スレッドの影響で,通学する学校の他の生徒から,本件スレッドに書かれている人物として,好奇の目に晒されるなどした結果,精神的なショックを受けて,中学校を転校し,通っていた塾もやめ,相当の精神的苦痛を被ったことが認められる。 前記1(4)イのとおり,本件掲示板は,原告の在籍する学校の生徒が閲覧,書き込みすることが想定される掲示板であったこと,本件スレッドには,平成1 8年9月7日以降にも約30回の書き込みがあること(甲1)からすると,被告の前記管理義務違反により,本件スレッドが,より多数の学校関係者の目に触れることとなったと推認される。他方,被告は本件掲示板の管理人であり,原告の権利を侵害する書き込みを行った者と比べれば,その責任は,間接的・限定的なものといえる。その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,被告が本件スレッドの削除を迅速に行わなかったことによって生じた原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては,50万円が相当であると認められる。 また,認容額等に照らすと,被告の前記不法行為と相当因果関係がある弁護士費用は の削除を迅速に行わなかったことによって生じた原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては,50万円が相当であると認められる。 また,認容額等に照らすと,被告の前記不法行為と相当因果関係がある弁護士費用は5万円が相当であると認められる。 結論 以上によれば,原告の請求は,55万円及びこれに対する不法行為の日である平成18年9月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第11民事部裁判長裁判官山下郁夫裁判官藤本ちあき裁判官植田類

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