主文 1 被告Aは,原告に対し,880万円及びこれに対する平成27年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告Aに対するその余の請求並びに被告医療法人B及び被告Cに対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告と被告Aとの間においては,これを5分し,その3を原告の負担とし,その余を被告Aの負担とし,原告と被告医療法人B及び被告Cとの間においては,いずれも原告の負担とする。 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して,2000万円及びこれに対する平成27年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,原告が,被告Aは,原告の同意を得ることなく,同意書を偽造して被告医療法人Bが開設する診療所において融解胚移植の方法により妊娠して原告の嫡出子となる子を出産し,また,被告医療法人B及び被告Cは原告の意思を確認することのないまま融解胚移植を行ったと主張し,被告らに対し,共同不法行為に基づき,2000万円及びこれに対する融解胚移植の実施日である平成27年4月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者ア原告(昭和■年■月■日生まれ)と被告A(昭和●年●月●日生まれ) は,平成22年7月7日に婚姻し,東京都内の居宅(以下「本件居宅」という。)で同居していたが,平成26年4月12日に別居するに至り,平成29年11月30日に協議離婚した元夫婦である(甲1)。 イ被告医 年7月7日に婚姻し,東京都内の居宅(以下「本件居宅」という。)で同居していたが,平成26年4月12日に別居するに至り,平成29年11月30日に協議離婚した元夫婦である(甲1)。 イ被告医療法人Bは,診療所を経営し,科学的でかつ適正な医療を普及することを目的として平成7年2月16日に設立された医療法人であり,主たる事務所所在地のビル内で,不妊治療を専門とする「D」という名称の診療所(以下「本件クリニック」という。)を開設している。 ウ被告Cは,被告医療法人Bの理事長かつ本件クリニックの院長であり,体外受精の手続を定め,同手続によって被告Aを妊娠させたものである(以下,被告医療法人Bと被告Cを併せて「被告医療法人Bら」という。)。 (2) 体外受精の概要体外受精とは,Ⅰ精子と卵子をそれぞれ個別に体外に採取し,Ⅱ卵子を採取してから数時間以内に精子と卵子を1つのシャーレ内に入れ,自然に受精するのを待ち,Ⅲ受精卵を培養し,Ⅳ5日目の胚盤胞まで育ったところで凍結保存し,その後,Ⅴ凍結しておいた胚盤胞を融解して移植し,Ⅵ妊娠を目指すというものである。 (3) 被告Aの妊娠・出産に至る経緯ア被告Aは,平成25年9月23日,本件クリニックを初めて受診した。 イ原告及び被告Aは,平成26年4月10日,同日に手続に着手する体外受精について,①「体外受精・顕微授精に関する同意書」,②「卵子,受精卵(胚)の凍結保存に関する同意書」及び③「凍結保存受精卵(胚)を用いる胚移植に関する同意書」に各自,署名押印し,被告Aはこれを本件クリニックに提出した。 当該書面は,上記①~③等が一体となった1枚紙であり,それぞれの同意文言の下に夫婦それぞれのイニシャルを記載する欄があり,書面末尾に,本件クリニック院長(被 Aはこれを本件クリニックに提出した。 当該書面は,上記①~③等が一体となった1枚紙であり,それぞれの同意文言の下に夫婦それぞれのイニシャルを記載する欄があり,書面末尾に,本件クリニック院長(被告C)宛てで,日付及び夫婦それぞれの氏名を署 名押印する欄が設けられている。(以上につき,乙1,25。以下,上記①~③が一体となった1枚紙を「本件同意書1」という。)なお,原告及び被告Aは,平成25年11月6日及び平成26年2月4日にも同様の書面を作成し,被告Aは,本件クリニックにおいて,平成25年11月11日,同年12月7日及び平成26年2月4日にそれぞれ採卵している。したがって,平成26年4月10日に着手される体外受精は,原告及び被告Aにとって,4件目の体外受精であった。 ウ原告は,平成26年4月10日,精子を採取し,新鮮精子として体外受精に使用することに同意の上,これを提供した(前記(2)Ⅰ)(乙39〔4頁〕,丙1)。 エ被告Aは,平成26年4月10日,本件クリニックにおいて,採卵した(前記(2)Ⅰ)。本件クリニックでは,同日,採取された被告Aの卵子と前記ウの原告の精子と受精させた上,当該受精卵(胚)の培養が行われた(前記(2)ⅡⅢ)。(以上につき,乙26,38)オ原告は,平成26年4月12日,被告Aと別居を開始した。 カ本件クリニックにおいて,平成26年4月15日,前記エの受精卵が冷凍保存された(前記(2)Ⅳ)(乙12〔35頁〕)。 キ被告Aは,平成27年4月22日,「融解胚移植に関する同意書」(以下「本件同意書2」という。)を本件クリニックに提出し,同所において,融解胚移植を受けた(前記(2)Ⅴ)(甲2。以下「本件移植」という。)。 同書面には,「私たち夫婦は,現在凍結 意書」(以下「本件同意書2」という。)を本件クリニックに提出し,同所において,融解胚移植を受けた(前記(2)Ⅴ)(甲2。以下「本件移植」という。)。 同書面には,「私たち夫婦は,現在凍結保存中の胚を貴院にて融解し胚移植を受けることに同意します」との記載があり,夫氏名及び妻氏名をそれぞれ記載する欄が設けられているところ,被告Aは,妻氏名欄に自署するとともに,夫氏名欄に自署と筆跡を変えて原告氏名を記載した(以下「本件署名」という。)。 ク被告Aは,平成27年5月2日,本件クリニックにおいて,妊娠判定採 血を受け,陽性判定を受けた(前記(2)Ⅵ)(乙6〔9,27,48頁〕)。 ケ被告Aは,平成27年6月6日,原告に対し,「妊娠した。私の想いも考えも手紙に書いた事が全てです」などとするLINEメッセージを送信し,妊娠を告げた(丙8〔1頁〕)。 コ被告Aは,平成▲年▲月▲日,子(以下「本件子」という。)を出産した。 (4) 被告Aによる本件子の出産後の経過ア原告は,平成28年8月8日,被告Aを相手取って,離婚調停を申し立てたが,同調停は不調に終わった。 原告は,平成29年5月19日頃,離婚,本件子の親権者を被告Aと定めること及び財産分与を求める離婚等請求訴訟を提起したが,訴訟係属中の同年11月30日,被告Aとの間で,本件子の親権者を被告Aと定めて協議離婚した。 大阪家庭裁判所は,平成31年3月13日,被告Aに対して,財産分与として374万1849円及び遅延損害金を原告に支払うよう命じる判決を言い渡した。同判決では,原告及び被告Aの合意に基づき,被告Aの原告に対する財産分与額から,婚姻費用分担審判において確定した本件子の養育費を含む婚姻費用124万円(①平成28年11月 う命じる判決を言い渡した。同判決では,原告及び被告Aの合意に基づき,被告Aの原告に対する財産分与額から,婚姻費用分担審判において確定した本件子の養育費を含む婚姻費用124万円(①平成28年11月から平成29年10月までの婚姻費用118万円と②平成29年11月の婚姻費用6万円の合計額)が控除されていた。(以上につき,甲34)イ原告は,本件子を相手取り,平成28年12月21日に嫡出否認請求訴訟を,平成29年6月21日に親子関係不存在確認訴訟をそれぞれ提起したが,大阪家庭裁判所は,令和元年11月28日,嫡出否認請求を棄却し,親子関係不存在確認請求に係る訴えを却下する判決を言い渡し,その後,同判決は確定した。 3 争点 (1) 被告Aの責任原因(争点1)(原告の主張)ア被告Aは,融解胚移植のための同意書が,原告の真意に基づく自署でなければならないことを知りながら,原告の署名を記入し(本件署名),権限なく押印して本件同意書2を偽造した上,本件クリニックに提出して行使し,同所において,本件移植を受け,原告の嫡出子となる本件子を出産し,原告の自己決定権を侵害するなどした。 原告は,被告Aに対し,離婚を切り出し別居に至った上,別居中の平成26年12月20日及び平成27年2月にも,離婚に関する話をしているのであるから,被告Aは,原告が体外受精に同意していないことを知りながら,あえて本件同意書2を偽造した。 イ被告Aは,本件同意書2の本件署名は,原告の同意の下で代筆したと主張するが,原告は,被告Aに対し,離婚を切り出して別居したのであり,別居後は,夫婦らしい交流もなく,婚姻関係は完全に破綻し,体外受精にも一切協力していないのであるから,別居後に不妊治療及び融解胚移植について関係書類に代筆署 対し,離婚を切り出して別居したのであり,別居後は,夫婦らしい交流もなく,婚姻関係は完全に破綻し,体外受精にも一切協力していないのであるから,別居後に不妊治療及び融解胚移植について関係書類に代筆署名することに関する代理権の授与など黙示にもしていない。そもそも子を持つという重大な決定は,一身専属的なものであり,代理によってはなし得ないし,被告Aがあえて字体を変えて本件署名をしていることからも,原告本人が署名したと本件クリニックに思わせるために偽造したものといえる。 (被告Aの主張)原告の主張は否認又は争う。 ア被告Aは,本件署名を偽造したものではなく,原告の自己決定権を侵害したものではない。 イ本件同意書2は,被告Aが原告の同意のある状況下で代筆したものであるから,原告の自己決定権の侵害には当たらない。すなわち,原告は,一 貫して不妊治療に同意していたし,不妊治療及び融解胚移植に関する書類に何度も署名押印をしており,別居後も同種の書類が必要となることを熟知していたものであるから,別居後については,被告Aが,不妊治療及び融解胚移植に関する関係書類に代筆して本件署名をすることについて黙示に同意していた。 (2) 被告医療法人Bらの責任原因(争点2)(原告の主張)被告医療法人Bらは,本件移植を実施する際,凍結から長期間経過していることや,その事柄の重大性に鑑みれば,原告が本件移植に真に同意しているか否かの意思確認を慎重に行うべきであったのに,次のとおりこれを怠り,被告Aによる本件同意書2の偽造及びそれに基づく妊娠,出産に加担した。 ア本件同意書1により原告の同意を得たとはいえないこと被告医療法人Bらは,本件同意書1により本件移植に関する原告の同意を得たと主張するが,本件同意書1は 及びそれに基づく妊娠,出産に加担した。 ア本件同意書1により原告の同意を得たとはいえないこと被告医療法人Bらは,本件同意書1により本件移植に関する原告の同意を得たと主張するが,本件同意書1は,異なる医療行為につき,それぞれ個別の同意を取る体裁のものではないし,その意思確認も署名ではなくイニシャルで足りるとされているといった欠陥があるから,これにより原告の同意を得たとはいえない。 仮にこれが同意に当たるとしても,同書面は,平成26年4月10日時点の冷凍保存済である受精卵(胚)の胚移植に関する同意であって,同日以降に採卵し,その後に冷凍保存した受精卵(胚)は対象外であるし,本件移植の実施より1年以上前のものであるから,本件移植に関して有効であったとはいえない。 そうすると,本件移植は,本件同意書1ではなく,被告Aにより偽造された本件同意書2によってなされたこととなり,原告の同意に基づかずに実施されたものである。 イ原告に直接の意思確認をする契機があったこと 本件移植に際し提出された本件同意書2における原告名の本件署名は,本件同意書1における原告の署名と対比すればその相違は明らかである。 被告医療法人Bらは,原告本人から同意書を直接取得していないし,被告Aが予定していた移植を自己都合で取りやめたり,凍結保存期間継続依頼書を保存期間経過の直前に提出するといった原告から同意が得られていることを疑うべき事情を認識していたのであるから,通常以上に注意して,筆跡の同一性を確認するなどして偽造に気付き,原告本人に直接意思確認をすべきであったのに,これを怠った。 (被告医療法人Bらの主張)原告の主張は否認又は争う。 ア本件同意書1により原告の同意を得たといえること(ア) 被告医療法人B 意思確認をすべきであったのに,これを怠った。 (被告医療法人Bらの主張)原告の主張は否認又は争う。 ア本件同意書1により原告の同意を得たといえること(ア) 被告医療法人Bらは,本件同意書1による原告及び被告Aの真摯な同意に基づき,採卵され受精し,平成26年4月15日に冷凍保存されていた受精卵について,平成27年4月22日に本件移植を実施した。 すなわち,被告医療法人Bらは,口頭及び書面で十分に説明した上で,本件同意書1により,原告と被告Aに双方から本件移植等にかかる同意を得ているところ,当該同意について,事後的に撤回したり変更したりする意思表示は,被告医療法人Bらに対してなされていないから,少なくとも,被告医療法人Bらとの関係では,本件移植等にかかる原告と被告Aの同意が有効に存続していた。 (イ) 本件同意書1は,本件クリニックにおいて体外受精を希望する患者向けに開催される「体外受精説明会」で説明される体外受精の一連の流れに沿って施術ごとにまとめて同意を得ることにより,体外受精の流れを理解した上で各施術に対する同意を得ることができるようにしたものであるし,本件同意書1の形式は,公益社団法人日本産科婦人科学会(以下「学会」という。)の見解にも準拠するものであるから,本件同意書1 に不備はない。 (ウ) 本件同意書2は,既に本件同意書1で同意を得ている本件移植を実施することに対する同意を得るためではなく,今一度,融解のリスク等を確認してもらい,万が一,そのリスクが顕在化した場合であっても被告医療法人Bらが損害賠償責任を負わないようにするために取得する書面であって,本件同意書2の本件署名が被告Aによるものであったとしても,少なくとも移植を受ける被告Aの同意を得ることで本件同 っても被告医療法人Bらが損害賠償責任を負わないようにするために取得する書面であって,本件同意書2の本件署名が被告Aによるものであったとしても,少なくとも移植を受ける被告Aの同意を得ることで本件同意書2の目的は果たせているため,原告の同意との関係で問題はない。 イ原告に直接の意思確認をする契機があったとはいえないこと本件同意書2の本件署名は,原告自身による他の署名と対比しても特に不自然な点もなく,被告医療法人Bらは,原告及び被告Aから本件同意書1により胚移植にかかる同意を明確に得ており,原告からこれを撤回したり中止を求めたりする連絡を一切受けていないといった経緯からして,被告Aに詳細を尋ねる経緯すら見いだせなかったのであるから,被告医療法人Bらによる意思確認が不十分であったとはいえない。 また,凍結保存期間継続依頼書は,その期間経過が迫ってきたことに伴い継続を依頼する書面であるから,提出が期間経過の直前になされても不自然ではなく,被告医療法人Bらが,本件同意書2の本件署名の筆跡が偽造であることを疑い,原告に確認すべき契機とはなり得ない。 (3) 原告の損害(争点3)(原告の主張)下記ア~キの損害合計の内金として,2000万円を請求する。 ア被告Aの得べかりし収入 1012万円原告と被告Aとは,共働き家庭であり,主として原告の収入で生活し,被告Aの収入を共有財産として貯蓄してきたところ,被告Aが懐胎したことにより正社員として勤務できなくなり退職したため,被告Aが本来得る はずの収入が得られなかった。当該被告Aの収入は,夫婦の共有財産として貯蓄されるはずであったことから,財産分与がなされれば原告が得ることのできる原告の財産となり,これが減少したといえるから原告の損害に当 収入が得られなかった。当該被告Aの収入は,夫婦の共有財産として貯蓄されるはずであったことから,財産分与がなされれば原告が得ることのできる原告の財産となり,これが減少したといえるから原告の損害に当たる。 具体的には,被告Aの年収相当額(月額30万円×15か月分)の2年3か月分(被告Aの退職日である平成27年7月31日から平成29年10月末までの期間)である約1012万円が損害である。 イ妊娠出産費用 100万円本来不要である妊娠出産費用が,夫婦の共有財産から被告医療法人Bに対して支払われており,原告の損害に当たる。 ウ婚姻費用中の生活費 242万円被告Aの退職により,原告は生活費の分担において支出を余儀なくされ,損害を被った。 その額は平成27年8月(被告A退職後)から平成29年7月(不貞発覚)までの期間について,月額14万円×14か月+月額6万円×5か月+月額4万円×4か月である。 エ別訴裁判費用 100万円オ慰謝料 1000万円原告は,無断で本件移植を行われ,本件子を強引に出産されたことにより,自己の人格を否定されて多大な精神的苦痛を被った。 カ養育費 1386万円(ア) 支払済みの養育費 78万円原告と被告Aとの間の財産分与請求事件において控除された婚姻費用合計124万円(118万円+平成29年11月分6万円)から,養育費月6万円以外の金額46万円を控除した額である78万円は,被告らの不法行為によって生じ,かつ支払を余儀なくされた養育費合計であり, 損害に当たる。 (イ) 将来分の養育費平成29年12月から令和18年1月まで 1308万円キ弁護士費用総額の1割(被告Aの 計であり, 損害に当たる。 (イ) 将来分の養育費平成29年12月から令和18年1月まで 1308万円キ弁護士費用総額の1割(被告Aの主張)被告Aが,婚姻中に月額30万円の収入を得ていたことは認め,その余は否認又は争う。 (被告医療法人Bらの主張)不知又は争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実,後掲証拠,証拠(甲35,乙42,丙14,原告本人,被告A本人,被告医療法人B代表者兼被告C本人〔ただし,いずれも後記認定に反する部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨によれば,本件に関し,以下の事実が認められる(なお,事実認定に関する補足説明を括弧書きで記載した。)。 (1) 別居に至るまでの受診経過についてア原告と被告Aは,平成22年7月7日に婚姻し,本件居宅で同居していた(前提事実(1)ア)。 イ被告Aは,平成25年1月19日,Eクリニックを初めて受診し,同院において,人工授精を四,五回実施するも妊娠するに至らなかった(乙13の1)。 ウ被告Aは,平成25年9月23日,本件クリニックを初めて受診し,被告医療法人Bらより,体外受精の流れ,方法,リスク,注意事項等が記載された説明資料一式であるIVFファイルを受領した(乙6〔39頁〕,11〔4頁〕)。 初診に際し,原告及び被告Aは,それぞれ問診票を記入した(乙11〔6 ~9頁〕)。 エ原告と被告Aは,平成25年10月26日,本件クリニックの実施する体外受精説明会に出席した(乙6〔39頁〕)。 オ被告A及び原告は,平成25年11月6日,「凍結胚・卵子・精子の凍結保存継続に関する説明と同意書」,同月11日及び同年12月7日実 の実施する体外受精説明会に出席した(乙6〔39頁〕)。 オ被告A及び原告は,平成25年11月6日,「凍結胚・卵子・精子の凍結保存継続に関する説明と同意書」,同月11日及び同年12月7日実施の体外受精に関する「体外受精・顕微授精に関する同意書」に署名押印した(乙19~21。これらの書面の記載内容は後記カ(ア)と同様である。)。 「凍結胚・卵子・精子の凍結保存継続に関する説明と同意書」には,「胚・卵子の凍結保存,破棄については,婚姻関係のある夫婦において双方の同意がある場合にのみ実施されます。ご夫婦双方の定期的な凍結保存継続の意思確認が必要であり,意思確認が出来ない場合(中略)には破棄となります」,「凍結保存期間満了前に当院から凍結保存継続意思確認書を送付致します。『凍結継続希望依頼書A(黄色)』または,『破棄処分希望依頼書B(青色)』のどちらかをご返送下さい。返送期限を過ぎてもご連絡がない場合は10日間の猶予の中で当院から何度か電話による連絡を試みます。10日間中に意思確認が出来なかった場合は破棄処分となります」との記載がある(乙19)。 なお,IVFファイルには,「胚(受精卵)の保管期間は凍結日から1年後の月末までです」との記載がある(乙5〔30頁〕)。 カ(ア) 被告A及び原告は,平成26年4月10日,同日に実施する体外受精について,以下の内容を含む本件同意書1に各自,署名押印し,被告Aはこれを本件クリニックに提出した。 なお,本件同意書1は,下記①~③等が一体となった1枚紙であり,それぞれの同意文言の下に夫婦それぞれのイニシャルを記載する欄があり,書面末尾に,本件クリニック院長(被告C)宛てで,日付及び夫婦それぞれの氏名を署名押印する欄が設けられている。(以上につき,乙 に夫婦それぞれのイニシャルを記載する欄があり,書面末尾に,本件クリニック院長(被告C)宛てで,日付及び夫婦それぞれの氏名を署名押印する欄が設けられている。(以上につき,乙 1,25,前提事実(3)イ)①「体外受精・顕微授精に関する同意書」a 体外受精・顕微授精における採卵手術を受ける事は,夫婦それぞれの自由な意思の下に一致した意見であり,強要されたものではありません。手術前に取りやめたくなった場合には,同意書を取り下げることができます。 b 体外受精・顕微授精にかかる費用等についてその内容を理解したうえで私達夫婦それぞれ自由な意思の下に夫婦一致で体外受精・顕微授精を行うことに同意いたします。 ②「卵子,受精卵(胚)の凍結保存に関する同意書」私達夫婦は体外受精・顕微授精で採取した卵子,受精卵(胚)の凍結保存に同意します。(中略)受精卵(胚)の凍結期間は1年であり,それ以降の継続に,毎年,継続意思確認書類の手続きと費用の支払いが必要であることを理解しています。 ③「凍結保存受精卵(胚)を用いる胚移植に関する同意書私達夫婦は凍結保存してあった受精卵(胚)を用いての胚移植に同意します。 (イ) 学会によれば,体外受精・顕微授精について文書にて同意することを求めており,書式は定めていないものの,5年ごとの会告の更新時に,各施設で作成された同意書について様式を確認の上,施設認定を行っているため,本件同意書1は,学会の見解(会告)に準拠したものである。 また,学会によれば,同意は署名のみで足り,押印は求めておらず,医師の面前で署名をすることも必要とされないし,直接電話等で意思確認を行うことを推奨してはいない。(以 (会告)に準拠したものである。 また,学会によれば,同意は署名のみで足り,押印は求めておらず,医師の面前で署名をすることも必要とされないし,直接電話等で意思確認を行うことを推奨してはいない。(以上につき,学会に対する調査嘱託の結果)キ原告は,平成26年4月10日,精子を採取し,新鮮精子として使用す ることに同意の上,これを提供した(前提事実(3)ウ)。 上記採取は,被告Aが,同月8日,原告に対し,「あさっての木曜日(注・4月10日)に採卵することになったので朝に採精だけお願いします。せっかくまだ○○○(原告)がいるので新鮮精子で処置して欲しいから」とLINEメッセージを送信して依頼したものである(丙3〔1頁〕)。 ク被告Aは,平成26年4月10日,本件クリニックにおいて,4度目の採卵を実施した。本件クリニックでは,これを前記キの原告の精子と受精させた上,当該受精卵(胚)の培養を行った(前提事実(3)エ)。 ケ原告は,平成26年4月12日,本件居宅を出て,東京都内の他の居宅に引っ越し,被告Aと別居を開始した(前提事実(3)オ)。 原告は,被告Aが別居の条件として不妊治療に協力することを提示していたため,別居開始時点において,不妊治療に反対であることを被告Aに伝えてはいなかった(甲42〔21頁〕)。 (なお,原告は,上記別居は,離婚のための別居であったと主張するが,上記別居は,不妊治療に協力することを条件としており,不妊治療に反対することを伝えていないばかりか,別居の直前に本件同意書1に自署して自ら採取した精子と共に渡していること,後記(2)エのやり取り等に照らして,採用できない。)(2) 別居から本件移植に至るまでの経緯ア本件クリニックにおいて,平成2 書1に自署して自ら採取した精子と共に渡していること,後記(2)エのやり取り等に照らして,採用できない。)(2) 別居から本件移植に至るまでの経緯ア本件クリニックにおいて,平成26年4月15日,前記(1)クの受精卵は凍結保存された(前提事実(3)カ)。 イ被告Aは,平成26年6月2日,原告に対し,後記ウの手術に関連し,「手術することが決まりました。6月17日~22日まで入院します。入院は一人でするけど17日の夕方に手術内容説明があるのでご主人様同席と言われてます。」とのLINEメッセージを送信した(丙3〔4,5頁〕)。 原告は,これに対し,「17日の18:30以降ならその日は行けるかも知れんけど…」,「来週連絡します」,「来週病院どこ? 行けるとしたら18日の午前中。」,「会社行ってから病院に向かう!」と返信した(丙3〔5~7頁〕)。 ウ被告Aは,平成26年6月18日,F病院において,腹腔鏡併用子宮鏡下中隔切除の手術(以下「別件手術」という。)を受けた(甲30,乙6〔57頁〕)。原告は同日,同病院を訪れ,被告Aが,同月21日に退院する際には,病院まで被告Aを迎えに行った(丙3〔8,9頁〕)。 エ原告は,平成26年9月13日頃,勤務先から,同年10月16日から大阪勤務となるとの内示を受けた。 原告は,同日,被告Aに対し,「急やし,そっちの仕事の都合もあるやろうからとりあえず単身で行こうと思います」とのLINEメッセージを送信し,単身赴任の場合及び家族社宅の場合の家賃補助金額や,家族が本人と異なるタイミングで引っ越す場合の費用負担等に関する情報を伝えた(丙3〔10,15~17頁〕)。 原告は,同月31日,被告Aから,被告Aが退職する際に,配偶者の転勤に伴 や,家族が本人と異なるタイミングで引っ越す場合の費用負担等に関する情報を伝えた(丙3〔10,15~17頁〕)。 原告は,同月31日,被告Aから,被告Aが退職する際に,配偶者の転勤に伴う理由で退職する場合には失業保険において特定受給者にできる可能性があるため,転勤辞令を残しておくように頼まれ,確認しておくと返信した(丙3〔21,22頁〕)。 オ被告Aは,平成26年9月22日,F病院より,別件手術後の経過は良好であり,胚移植を実施できる旨の診断を受けた。 そのため,被告Aは,同年10月17日,本件クリニックを受診し,別件手術が終了したので移植を行う意向であることを伝えた。 被告Aは,同日,被告Cから,甲状腺検査の結果に基づき,一度専門病院を受診した方がよいとの指摘を受け,専門病院の紹介状を渡され,同月18日に受診したところ,無痛性甲状腺炎が疑われ,移植は甲状腺機能改 善後にされたいとの診断を受けた。(以上につき,乙6〔49,57~59頁〕)カ原告は,平成26年10月16日頃,転勤のため,単身で大阪へ引っ越した。 キ原告と被告Aは,平成26年12月20日,原告が単身赴任する大阪で会った。 被告Aが,原告に対し,前記オの甲状腺機能の関係で,移植が早くても平成27年の2月又は3月頃になりそうであることを伝えたところ,原告は,被告Aに対し,「こんな状況でよくそんな話するな」などと言い,不妊治療に積極的ではない様子を示したが,この日に夫婦間で今後の不妊治療に関する結論を出すには至らなかった(甲12,19〔4頁〕,42〔44頁〕)。 (原告は,この日に離婚について話し合い,被告Aに対して,はっきりと融解胚移植を拒否したと主張し,被告Aは,原告は移植に了承していたと主張 た(甲12,19〔4頁〕,42〔44頁〕)。 (原告は,この日に離婚について話し合い,被告Aに対して,はっきりと融解胚移植を拒否したと主張し,被告Aは,原告は移植に了承していたと主張するが,いずれもこれを裏付ける的確な証拠はなく,上記証拠に照らして,上記の限度での認定となる。)ク原告と被告Aは,平成27年1月1日及び同月2日,それぞれの実家を訪れ,新年の挨拶をした。 ケ原告と被告Aは,平成27年2月11日,東京で会い,同日,原告は,本件居宅に泊まった。 (原告は,この時,被告Aが,スーツケースを手渡し,これに荷物を詰めて出て行ってくれと述べたため,同日,原告と被告Aとの間で離婚について同意があったと理解したと主張し,これに沿った供述をするが,それ以降,離婚調停申立てに至るまで,原告において,離婚に向けた行動は何らとっておらず,この日に被告Aとの間で離婚することが合意されたとは認められない。) コ本件クリニックは,被告Aが単身居住する本件居宅に,原告及び被告A宛てで,平成27年3月19日付け「胚・未受精卵凍結をされている患者様」と題する書面を送付したところ,同書面には,平成26年4月15日に凍結した胚盤胞について,平成27年4月末日をもって保存期限が満了となるため,期限までに保存の継続又は胚盤胞の廃棄処分のいずれかを選択し所定の手続を行うよう求める記載がなされていた(乙34〔2枚目〕)。 サ被告Aは,平成27年3月4日,同月に予定されていた融解胚移植を自己都合により次周期に延期するとして取りやめた(乙6〔21,28頁〕)。 シ被告Aは,平成27年4月20日,本件同意書2を記入し,胚盤胞の凍結保存期間内である同月22日,本件クリニックにこれを提出して行使 周期に延期するとして取りやめた(乙6〔21,28頁〕)。 シ被告Aは,平成27年4月20日,本件同意書2を記入し,胚盤胞の凍結保存期間内である同月22日,本件クリニックにこれを提出して行使し,本件クリニックにおいて,本件移植を受けた(甲2)。 本件同意書2には,「私たち夫婦は,現在凍結保存中の胚を貴院にて融解し胚移植を受けることに同意します」との記載があり,夫氏名及び妻氏名をそれぞれ記載する欄が設けられているところ,被告Aは,妻氏名欄に自署するとともに,原告の意向を事前に連絡するなどして明示的に確認しないまま,夫氏名欄に自署と筆跡を変え一般的に男性が書きそうな字体で夫氏名を記載して原告の自署であるように装った(前提事実(3)キ)。 (3) 本件移植から本件子の出産までの経過ア被告Aは,平成27年5月2日,本件クリニックにおいて,妊娠判定採血を受け,陽性判定を受けた(前提事実(3)ク)。 被告Aは,同月3日,原告に対し,「ゴールデンウィークこれないの?」,「出来れば来て欲しい。無理ならもう手紙着いてると思うからそれだけはちゃんと読んで下さいね」とLINEメッセージを送信した(丙3〔34,35頁〕)。 (なお,被告Aは,本件移植の前に,原告に対し,これから改めて同居するに当たっての被告Aの想い,心構え,移植実施が迫っていることを記 載した手紙を送ったと主張するところ,上記メッセージは,被告Aの主張と整合するものの,証拠上,その記載内容や投函日は明らかでない上,原告がこれを読んだかどうかも明らかでないことから,被告A主張の手紙をもって,原告が,本件移植の前にこれが行われることを認識していたとは認られない。)イ被告Aは,平成27年5月13日,本件クリ これを読んだかどうかも明らかでないことから,被告A主張の手紙をもって,原告が,本件移植の前にこれが行われることを認識していたとは認られない。)イ被告Aは,平成27年5月13日,本件クリニックを受診し,妊娠超音波検査を受け,胎児の胎嚢が確認され,同月23日には,胎児の心拍が確認された(乙6〔9,48頁〕)。 ウ被告Aは,妊娠9週1日目である平成27年6月6日,本件クリニックを最終受診した(乙6〔9,48頁〕)。 被告Aは,同日,原告に対し,「妊娠した。私の想いも考えも手紙に書いた事が全てです。(中略)一緒にやり直したいけどこれがキッカケでも仲良く楽しくしかあり得ないと思ってる。6月22日から末までは大阪に居る予定なので会って話したい。」とLINEメッセージを送信した(丙8〔1頁〕,前提事実(3)ケ)。 しかし,原告は,同日,被告Aに対して返信しなかった。 エ被告Aは,平成27年6月7日,原告に対し,「読んで一言だけでも返事して」,「大丈夫なん?」とLINEメッセージを送信し,原告からの「月末空けるようにします!」との返信を受け,「共有しておきたいから送るね既読にしてな」と記して,胎児のエコー写真を送信した(丙8〔2頁〕)。 オ原告は,平成27年6月28日,原告が単身で居住する大阪の社宅で被告Aと会い,その妊娠について拒否するような反応を見せたが,堕胎を求めることまではしなかった。 カ原告と被告Aは,平成27年8月9日及び同年9月27日,原告が単身で居住する大阪の社宅で会い,話合いをした。 キ被告Aは,原告の母に対し,平成27年12月頃,原告との関係について記載した手紙を送ったところ,「○○○(原告)とはその年(注・平成26年)の年末に会い, した。 キ被告Aは,原告の母に対し,平成27年12月頃,原告との関係について記載した手紙を送ったところ,「○○○(原告)とはその年(注・平成26年)の年末に会い,バセドウ病の事,移植は数値が正常になるまで出来ず,早くても翌年2月か3月くらいになりそうな事を話しました。こんな状況でよく出来るなというような事を言われましたが,私にとってそれは譲れない事だとずっと説明してきたし,逐一経過も報告してきたし,○○○(原告)も協力した事だろうと返答しました。○○○(原告)は勝手にすればとの気持ちだったのかそれ以上は何も言いませんでした。(中略)ずっとずっと悩んできました。何度もこんなまま移植すべきでない事も考えました。でも移植しないという事は全てゴミ箱に捨てるという事です」などと記載した(甲7)。 ク被告Aは,平成▲年▲月▲日,本件子を出産した(前提事実(3)コ)。 (4) 本件子の出産以降の経過ア被告Aは,平成×年×月×日,原告に対し,本件子を出産したことを伝え,顔を見に来てあげてほしいとのLINEメッセージを送信したところ,原告は,「行けない」とのみ返信した(丙8〔23~26頁〕)。 イ原告は,平成28年2月1日,本件クリニックに対し,被告Aの妊娠を知って以降初めて,融解胚移植の同意書に関する問合せを行った(甲42〔30~31頁〕)。 被告医療法人Bらは,同日,被告Aに対し,原告から胚移植の同意書に署名した記憶がないなどとの問合せが来ていることについて確認したところ,被告Aは,原告名の署名(本件署名)につき被告Aが書いたと回答した(乙6〔47頁〕)。 ウ被告Aは,平成28年4月20日,原告に対し,「同意書の事は遠方でも○○○(原告)にして貰うべきやったのは分かって 名の署名(本件署名)につき被告Aが書いたと回答した(乙6〔47頁〕)。 ウ被告Aは,平成28年4月20日,原告に対し,「同意書の事は遠方でも○○○(原告)にして貰うべきやったのは分かってる。LINEしても既読になるのに3日かかり返事もくれず連絡もつかずの状態で一刻のタ イミングを争う移植に対してそんなことしてられなかった。それに対して罰せられるなら甘んじて受けます。(中略)目的分かってて別居決まっても協力してたし,手紙も送って私が移植に向けて進めてたこと知ってたのに放置して最後は全く同意してないと言えるの?」,「どうすればよかったの? 移植はやっぱり嫌になりましたと言われてそれまで必死で身体にメス入れて頑張ってきてるのに○○○(原告)がそう言うからと生涯子供を持つ事も諦め,したくない離婚も納得もできないまま受け入れろと?」等のLINEメッセージを送信した(丙8〔40~42頁〕)。 エ原告は,平成28年8月8日,被告Aを相手取って,離婚調停を申し立てたが,同調停は不調に終わった。 原告は,平成29年5月19日頃,離婚,本件子の親権者を被告Aと定めること及び財産分与を求める離婚等請求事件を提起したが,訴訟係属中の同年11月30日,被告Aとの間で,本件子の親権者を被告Aと定めて協議離婚した。 大阪家庭裁判所は,平成31年3月13日,被告Aに対して,財産分与として374万1849円及び遅延損害金を原告に支払うよう命じる判決を言い渡した。同判決では,原告及び被告Aの合意に基づき,被告Aの原告に対する財産分与額から,婚姻費用分担審判において確定した本件子の養育費を含む婚姻費用124万円(①平成28年11月から平成29年10月までの婚姻費用118万円と②平成29年11月の婚姻費用6万円の合計額)が控 与額から,婚姻費用分担審判において確定した本件子の養育費を含む婚姻費用124万円(①平成28年11月から平成29年10月までの婚姻費用118万円と②平成29年11月の婚姻費用6万円の合計額)が控除されていた。(以上につき,甲34,前提事実(4)ア)オ原告は,本件子を相手取り,平成28年12月21日に嫡出否認請求訴訟を,平成29年6月21日に親子関係不存在確認訴訟をそれぞれ提起したが,大阪家庭裁判所は,令和元年11月28日,嫡出否認請求を棄却し,親子関係不存在確認請求に係る訴えを却下する判決を言い渡し,その後,同判決は確定した(前提事実(4)イ)。 2 争点1(被告Aの責任原因)について(1) 認定事実(1),(2)のとおりの原告と被告Aとが取り組んだ別居に至るまでの体外受精の状況,別居後の体外受精の状況,別居後本件移植に至るまでの夫婦関係の状況に照らせば,原告は,別居直前まで,各同意書に自ら署名し,被告Aの求めに応じて精子を提供するなど体外受精に積極的に協力していたところ,被告Aに対し,別居開始時点において,離婚前提の別居であるとして不妊治療は中止してほしいと伝えておらず,別居後も,再度の同居の可能性を留保したやり取りをしていること,原告は,被告Aが別件手術後の不妊治療を前提として同手術を受けることを認識した上で,病院を訪問するなどしていることからすると,原告は,別居後少なくとも一定期間は,原告との子を懐胎することを前提とした被告Aの不妊治療の継続を認識しつつこれを中止するよう求めていなかったものであり,被告Aにおいても,原告が不妊治療の継続に反対していると認識していたとはいえない。 しかしながら,本件移植を行うに際しては原告の同意を要するものであったことは事柄の性質上明らかであると り,被告Aにおいても,原告が不妊治療の継続に反対していると認識していたとはいえない。 しかしながら,本件移植を行うに際しては原告の同意を要するものであったことは事柄の性質上明らかであるところ,原告と被告Aとは,そもそも夫婦関係が良好ではなかったために別居するに至っており,その後,両者の関係が改善に向かっていたとはいえないこと,原告が,被告Aに対し,遅くとも平成26年12月20日の時点において,不妊治療について積極的ではない態度を示していたことに加えて,認定事実(3),(4)のとおり,原告が,被告Aからの本件子の懐胎の連絡に対して拒否的な反応を示したこと,被告Aが,原告の母親に対する手紙において「何度もこんなまま移植すべきでない事も考えました」と記載しており,原告に対するLINEメッセージにおいても「同意書は遠方であっても原告に署名してもらうべきであったことは分かっていたが,一刻を争う移植に際してそこまではできなかった」旨記載していることを指摘できることからすると,原告は,被告Aが本件同意書2に原告名の署名をした平成27年4月20日時点において,本件移植に同意し ていなかったものと認められ,被告Aも,同時点において,原告が本件移植に同意していないことを認識していたか容易に認識し得たものであったと認められる。 (2) したがって,被告Aは,原告に対し,被告Aとの間で本件子をもうけるかどうかという自己決定権を侵害するなどした不法行為責任を負うものである。 3 被告医療法人Bらの責任原因(争点2)について(1) 認定事実(1)カのとおり,原告が本件同意書1に自署しているところ,同書面には,手術前に取りやめたくなった場合には同意書を取り下げることができると明確に記載されていることを指摘できるところ,原告が, 認定事実(1)カのとおり,原告が本件同意書1に自署しているところ,同書面には,手術前に取りやめたくなった場合には同意書を取り下げることができると明確に記載されていることを指摘できるところ,原告が,本件移植以前に,被告医療法人Bらに対して,同意を撤回するとの意思表示をしていないことに照らせば,被告医療法人Bらは,胚移植の同意を含む本件同意書1に顕れた原告の同意に基づき,本件移植を実施したと認められる。 そして,本件同意書2の原告の署名は,その体裁に照らして,原告の従前の署名と対比して異なることが容易に判明するものであるとはいえない上,学会の見解(会告)においても,本件各同意書の書式及び作成方法はこれに沿ったものであり,同意書への署名以外に,本人に直接電話をかけるなどしてその同意を確認することまでを推奨してはいないから(認定事実(1)カ),このような取り扱いが不妊治療についての医療水準として不相当なものとはいえないことに照らすと,原告が主張するその他の事情を考慮しても,被告医療法人Bらが,本件移植に際して,原告に対し,直接の意思確認をすべきであったのにこれを怠ったとは認められない。 (2) 以上によれば,被告医療法人Bらが,原告に対し,不法行為責任を負うとの原告の主張は採用できない。 4 争点3(原告の損害)について(1) 被告Aの得べかりし収入,妊娠出産費用,婚姻費用中の生活費,別訴裁判費用(原告の主張ア~エ) 前記2のとおり,原告は,別居直前まで不妊治療に積極的に協力しており,別居後少なくとも一定期間は,原告との子を懐胎することを前提とした被告Aの不妊治療の継続を認識しつつこれを中止するよう求めていなかったものであり,本件移植を行うことに同意していなかったものであっても,本件移植を行わないことを 原告との子を懐胎することを前提とした被告Aの不妊治療の継続を認識しつつこれを中止するよう求めていなかったものであり,本件移植を行うことに同意していなかったものであっても,本件移植を行わないことを被告Aとの間で明確にしたものでないことに照らせば,妊娠・出産に伴う就労状況の変化や妊娠出産費用,生活費の支出増加の可能性は,被告Aの不妊治療に当然に内在していたものである上,被告Aが得られた収入の額及び得られる蓋然性,妊娠出産費用の額,別訴裁判費用の額の具体的な立証はないから,被告Aの不法行為と相当因果関係のある原告の損害とは認められず,原告の主張する事情は後記(3)の慰謝料額を算定する際に必要な範囲で考慮することとする。 (2) 養育費(原告の主張カ)家庭裁判所において,本件子の出生に至る経過や事情も考慮した上で,相当額を養育費として算出し,原告の債務として確定しているのであるから,これに基づき既に支払われ,今後支払われることになる養育費は,被告Aの不法行為と相当因果関係のある原告の損害とは認められず,原告の主張する事情は後記(3)の慰謝料額を算定する際に必要な範囲で考慮することとする。 (3) 慰謝料(原告の主張オ)前記2で認定したとおり,原告は,被告Aとの間で本件子をもうけるかどうかという自己決定権を侵害されるなどしたものであって,これにより多大な精神的苦痛を被ったというべきところ,前記(1),(2)を含め本件に顕れた一切の事情に照らせば,慰謝料は800万円が相当である。 (4) 弁護士費用(原告の主張キ)本件の事情に照らせば,弁護士費用は前記(3)の1割である80万円が相当である。 (5) 合計880万円 5 結論よって,原告の被告Aに対する請求は,主文1項 件の事情に照らせば,弁護士費用は前記(3)の1割である80万円が相当である。合計880万円 結論 よって,原告の被告Aに対する請求は,主文1項掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,原告の被告医療法人Bらに対する請求は,全部理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第11民事部 裁判長裁判官 菊地浩明 裁判官 後藤誠 裁判官 足立瑞貴
▼ クリックして全文を表示