平成21(ワ)44954 特許権に基づく工事差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年9月29日 東京地方裁判所
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判決文本文20,954 文字)

平成23年9月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成21年(ワ)第44954号特許権に基づく工事差止等請求事件口頭弁論終結日平成23年6月21日判決千葉県長生郡<以下略>原告大昌建設株式会社訴訟代理人弁護士大津卓滋同原田活也同黒崎 祥訴訟復代理人弁護士佐藤一誠札幌市白石区<以下略>被告ノーベル技研工業株式会社北海道紋別郡<以下略>被告丹野工業株式会社被告ら訴訟代理人弁護士高橋敬一郎被告ら訴訟復代理人弁護士勝又祐一主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告らは,原告に対し,連帯して405万4050円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告ノーベル技研工業株式会社は,原告に対し,872万円及びこれに対する平成22年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,後記2(1)記載の特許権の専用実施権者であった原告が,被告らが施工した工事において用いた法面の加工方法が上記専用実施権の侵害に当たる旨主張して,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。 2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 原告の専用実施権原告は,発明の名称を「法面の加工方法および法面の加工機械」とする特許第2008978号(平成2年9月12日出願(特願平2-241 趣旨により認められる事実である。)(1) 原告の専用実施権原告は,発明の名称を「法面の加工方法および法面の加工機械」とする特許第2008978号(平成2年9月12日出願(特願平2-241805号),平成8年1月11日設定登録)の特許権について,特許権者であるXから専用実施権の設定を受け,平成21年5月1日にその設定登録を受けた(甲2。以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」,原告の専用実施権を「本件専用実施権」という。)。 その後,本件特許権は,平成22年9月12日に存続期間満了により消滅し,これに伴い,本件専用実施権も消滅した。 (2) 特許発明の内容ア本件特許の特許出願(以下「本件出願」という。)に係る明細書(以下,当該明細書と図面を併せて,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲は,請求項1ないし9から成り,請求項1及び2の記載は,それぞれ次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」といい,これらを総称して「本件各発明」という。)。 「【請求項1】土砂等の切取り,掘削等の作業を行ない法面を形成する部位の上部の地面に所定間隔離間させて左右のアンカーを固定する左右のアンカー固定工程と,土砂等の切取り,掘削等の作業を行なうバックホウ等の油圧で走行したり作動される法面の加工機械本体に前記左右のアン カーにワイヤーがそれぞれ取付けられた左右のウインチあるいは前記左右のアンカーに固定された左右のウインチのワイヤーを前記法面の加工機械本体に取付ける左右のウインチ取付け工程と,前記法面の加工機械本体および前記左右のウインチを作動させて法面を形成する部位の土砂の切取り,掘削等の作業を行なう法面形成工程とを含むことを特徴とする法面の加工方法。」「【 インチ取付け工程と,前記法面の加工機械本体および前記左右のウインチを作動させて法面を形成する部位の土砂の切取り,掘削等の作業を行なう法面形成工程とを含むことを特徴とする法面の加工方法。」「【請求項2】土砂等の切取り,掘削等の作業を行ない法面を形成する部位の上部の地面に所定間隔離間させて左右のアンカーを固定する左右のアンカー固定工程と,土砂等の切取り,掘削等の作業を行なう遠隔操作で作動するバックホウ等の油圧で走行したり作動する法面の加工機械本体に前記左右のアンカーにワイヤーがそれぞれ取付けられた遠隔操作で作動する左右のウインチあるいは前記左右のアンカーに固定された左右のウインチのワイヤーを法面の加工機械本体に取付ける左右のウインチ取付け工程と,前記法面の加工機械本体を遠隔操作で作動させるとともに,前記左右のウインチを遠隔操作あるいは手動操作で作動させて法面を形成する部位の土砂の切取り,掘削等の作業を行なう法面形成工程とを含むことを特徴とする法面の加工方法。」イ本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。 (ア) 本件発明1A 土砂等の切取り,掘削等の作業を行ない法面を形成する部位の上部の地面に所定間隔離間させて左右のアンカーを固定する左右のアンカー固定工程と,B 土砂等の切取り,掘削等の作業を行なうバックホウ等の油圧で走行したり作動される法面の加工機械本体に前記左右のアンカーにワイヤーがそれぞれ取付けられた左右のウインチあるいは前記左右のア ンカーに固定された左右のウインチのワイヤーを前記法面の加工機械本体に取付ける左右のウインチ取付け工程と,C 前記法面の加工機械本体および前記左右のウインチを作動させて法面を形成する部位の土砂の切取 ーに固定された左右のウインチのワイヤーを前記法面の加工機械本体に取付ける左右のウインチ取付け工程と,C 前記法面の加工機械本体および前記左右のウインチを作動させて法面を形成する部位の土砂の切取り,掘削等の作業を行なう法面形成工程とを含むD ことを特徴とする法面の加工方法。 (イ) 本件発明2E 土砂等の切取り,掘削等の作業を行ない法面を形成する部位の上部の地面に所定間隔離間させて左右のアンカーを固定する左右のアンカー固定工程と,F 土砂等の切取り,掘削等の作業を行なう遠隔操作で作動するバックホウ等の油圧で走行したり作動する法面の加工機械本体に前記左右のアンカーにワイヤーがそれぞれ取付けられた遠隔操作で作動する左右のウインチあるいは前記左右のアンカーに固定された左右のウインチのワイヤーを法面の加工機械本体に取付ける左右のウインチ取付け工程と,G 前記法面の加工機械本体を遠隔操作で作動させるとともに,前記左右のウインチを遠隔操作あるいは手動操作で作動させて法面を形成する部位の土砂の切取り,掘削等の作業を行なう法面形成工程とを含むH ことを特徴とする法面の加工方法。 (3) 被告らの行為等ア被告らは,共同して,別紙工事目録1記載の工事(以下「本件工事1」という。)を施工し,被告ノーベル技研工業株式会社(以下「被告ノーベル技研工業」という。)は,同目録2記載の工事(以下「本件工事2」といい,これと本件工事1とを併せて「本件各工事」という。)を施工した。 イ被告ノーベル技研工業は,本件発明1等についての本件特許に対し,本件訴訟係属中の平成22年1月19日に無効審判請求をし,特許庁は,これを無効2010-800012号事件として審理し,同年7月5日,「特許第2008978号の請求項1,4及び5に係る発明 に対し,本件訴訟係属中の平成22年1月19日に無効審判請求をし,特許庁は,これを無効2010-800012号事件として審理し,同年7月5日,「特許第2008978号の請求項1,4及び5に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をした(乙8)。 本件審決に対しXが知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起したが(平成22年(行ケ)第10244号事件),同裁判所は,平成23年3月24日,Xの請求を棄却する旨の判決(以下「別件判決」という。)を言い渡した(乙9)。更に,Xは,別件判決を不服として上告及び上告受理の申立てをし,現在,同上告及び上告受理申立事件(平成23年(行ツ)第238号,同年(行ヒ)第257号事件)が最高裁判所に係属中である。 3 争点本件の争点は,次のとおりである。 (1) 本件各工事における本件各発明の実施の有無(争点1)。 (2) 本件発明1に係る本件特許に無効理由があり,原告の本件専用実施権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるか(争点2)。 (3) 被告らが賠償すべき原告の損害額(争点3)。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件各工事における本件各発明の実施の有無)について(1) 原告の主張ア被告らは,次のとおりの構成からなる加工方法(以下「イ号方法」という。)を用いて本件各工事を行った(甲3)。 (構成)「(1) アンカー固定工程は以下からなる。 ① 土砂面の切取り,掘削等の作業を行う斜面の上部に存する同等の2本の生立木の根株をアンカーとして選定する。 ② 前記①の2本の生立木にそれぞれワイヤーロープ固定器具を設置。 (2) ウインチ取付け工程は以下からなる。 ① バックホウの後部の左側と右側に,それぞれ各1個のワイヤ ンカーとして選定する。 ② 前記①の2本の生立木にそれぞれワイヤーロープ固定器具を設置。 (2) ウインチ取付け工程は以下からなる。 ① バックホウの後部の左側と右側に,それぞれ各1個のワイヤーロープが巻かれたウインチの取り付け。 ② 前記①のワイヤーロープを前記(1)②のワイヤーロープ固定器具に接続。 (3) 法面形成工程は以下からなる。 ① バックホウにオペレータが乗車してマニュアル操作し,又はバックホウを遠隔地からリモコン操作することにより,バックホウを登坂走行させ,かつ,前記(2)①の2個のウインチの一方を巻き上げて一方を巻き下げ,又は双方を巻き上げ若しくは巻き下げることにより,バックホウを土砂の切取り又は掘削をしようとする位置に移動させる。 ② 前記①によりバックホウを移動させた場所において土砂の切取り又は掘削の作業をバックホウにより行うこと(4) を特徴とする土砂斜面の加工方法。」イイ号方法の構成(1)は構成要件A,Eを,構成(2)は構成要件B,Fを,構成(3)はマニュアル操作の場合は構成要件Cを,リモコン操作の場合は構成要件Gを,構成(4)は構成要件D,Hをそれぞれ充足する。 以上のとおり,イ号方法は,本件各発明の技術的範囲に属するから,被告らによる本件各工事におけるイ号方法の使用は,本件各発明の実施に該当する。 したがって,被告らによる本件各工事におけるイ号方法の使用は,本件 各発明に係る本件専用実施権の侵害行為に当たるというべきである。 (2) 被告らの主張ア本件各工事において,本件発明1を実施したことは否認する。本件各工事は,外部ウインチに取り付けられたワイヤーを2個のアンカー及び法面加工機械本体(バックホウ)の左右にそれぞれ取り付け,外部ウインチを操作することによって法面加 1を実施したことは否認する。本件各工事は,外部ウインチに取り付けられたワイヤーを2個のアンカー及び法面加工機械本体(バックホウ)の左右にそれぞれ取り付け,外部ウインチを操作することによって法面加工機械本体を移動させるものであり(乙6参照),本件各工事では,各アンカー及び法面加工機械本体のいずれにもウインチが取り付けられていないから,このような法面加工機械本体を使用した工事方法は,構成要件B,Cを充足せず,本件発明1の技術的範囲に属さない。 イ本件各工事において,本件発明2を実施したことは否認する。本件各工事では,法面加工機械本体の遠隔操作が行われておらず,本件各工事における工事方法は,構成要件F,Gを充足しないから,本件発明2の技術的範囲に属さない。 2 争点2(本件発明1に係る本件専用実施権に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 被告らの主張本件発明1は,以下のとおり,本件出願前に頒布された刊行物である乙1(特開平2-144415号公報)及び乙2(特開昭61-176703号公報)に記載された各発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるから,本件発明1に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項の規定により,原告は,被告らに対し,本件発明1に係る本件専用実施権を行使することはできない。 ア乙1の記載事項 乙1には,①既存の地山補強面4の粉砕作業を行い法面を形成する部位の上部の地面にアンカーにより左・中・右の基台13b,13a,13cを固定する左・中・右の基台固定過程と,左・中・右の基台13b,13a,13cに固定された左・中・右のウインチ18b,18a,18cのワ の地面にアンカーにより左・中・右の基台13b,13a,13cを固定する左・中・右の基台固定過程と,左・中・右の基台13b,13a,13cに固定された左・中・右のウインチ18b,18a,18cのワイヤー12b,12a,12cを地山補強面の粉砕作業を行う粉砕機10とそれを取り付けた台車1からなる法面の加工機械に取り付ける左・中・右のウインチ取り付け工程と,前記法面の加工機械および前記左・中・右のウインチを作動させて既存の地山補強面の破砕作業を行なう法面形成工程とを含むことを特徴とする法面の加工方法,②破砕機10とそれを取り付けた台車1からなる法面の加工機械と,法面が形成される部位の上部の地面に所定間隔離間されてアンカーおよび基台13b,13a,13cで固定された左・中・右のウインチ18b,18a,18cと,この左・中・右のウインチ18b,18a,18cから伸縮されるワイヤー12b,12a,12cを前記法面の加工機械に取付ける取付け金具9とからなることを特徴とする法面の加工機械が記載されている。 イ乙2の記載事項乙2には,①法面1を舗装する部位の上部の地面に巻上機4を置く巻上機固定工程と,舗装に使用するアスファルトフィニッシャのような油圧で走行したり作動される作業車8に前記巻上機4上の左右に固定された2台の同型のウインチ9A,9Bのワイヤー19A,19Bを前記作業車8に取付ける左右のウインチ取付け工程と,前記作業車8および前記左右のウインチ9A,9Bを作動させて法面を形成する部位の舗装作業を行なう法面舗装工程とを含むことを特徴とする法面の加工方法,②舗装に使用するアスファルトフィニッシャのような油圧で走行したり作動される作業車8と,法面1が形成される部位の上部の地面に所定間隔離間されて巻上機4で固定された左右のウインチ9A,9 の加工方法,②舗装に使用するアスファルトフィニッシャのような油圧で走行したり作動される作業車8と,法面1が形成される部位の上部の地面に所定間隔離間されて巻上機4で固定された左右のウインチ9A,9Bと,この左右のウインチ9A, 9Bから伸縮されるワイヤー19A,19Bを前記法面1の作業車8に取付ける取付け金具20とからなることを特徴とする法面の加工機械が記載されている。 ウ本件発明1の容易想到性(ア) 本件発明1と乙1記載の加工方法(前記ア①)とを対比すると,次のとおりの相違点が存在する以外には,構成が一致する。 (相違点1)本件発明1における加工機械が土砂等の切取り,掘削等の作業を行うバックホウ等の油圧で走行したり作動されるものであるのに対し,乙1記載の加工方法における加工機械が地山補強面の破砕作業を行う破砕機とそれを取り付けた台車からなるものである点。 (相違点2)本件発明1においては加工機械を牽引するウインチ及びワイヤーは左右2本であるのに対し,乙1記載の加工方法においては左・中・右の3本である点。 (イ) まず,乙1記載の加工機械(前記ア②)は,地山補強面の破砕作業を行う破砕機とそれを取り付けた台車であり,乙2記載の加工機械(前記イ②)は舗装に使用するアスファルトフィニッシャのような油圧で走行したり,作動する作業車に関するものであるところ,これらの加工機械は同じ建設機械の範疇に属するものであるから,当業者が乙1記載の加工方法において乙1記載の加工機械に代え,乙2記載の油圧で走行したり作動するもの(相違点1に係る本件発明1の構成のもの)を適用することを容易に想到することができたものである。 次に,乙2記載の加工機械は,油圧回路の弁操作によりウインチの回転を作動させ左右のワイヤーの伸縮量を変えるこ に係る本件発明1の構成のもの)を適用することを容易に想到することができたものである。 次に,乙2記載の加工機械は,油圧回路の弁操作によりウインチの回転を作動させ左右のワイヤーの伸縮量を変えることにより,加工機械(作業車)を左右に移動させるものであるところ,本件発明1は,左 右のワイヤーの伸縮量を変えることにより加工機械を左右に移動させる場合も,ワイヤーの伸縮量に追従して加工機械を左右に舵取りする必要があることは自明であるから,いずれにおいても,左右のウインチ及びワイヤーの果たす作用は同じである。 そして,乙1記載の加工方法は,左・中・右の3本のウインチ及びワイヤーを使用しているものの,左右の方向への方向転換は左右2本のワイヤーの張力バランスで行っているのであるから,当業者は乙1記載の加工方法において左・中・右の3本のウインチ及びワイヤーに代え,乙2記載の左右2本のウインチ及びワイヤー(相違点2に係る本件発明1の構成のもの)を適用することを容易に想到することができたものである。 したがって,本件発明1は,当業者が乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて容易に想到することができたものであるから,進歩性がない。 (2) 原告の主張ア本件明細書(甲1)の「作用」欄(2頁4欄49行~3頁5欄1行)に,「法面の加工機械本体を左右のアンカーの幅寸法間にわたって左右に移動できるとともに,上下方向に移動させて作業を行なうことができる」との記載があることからすると,本件発明1は,法面での土砂等の切取り,掘削等の作業を土砂等の切取り,掘削等の作業を行うバックホウ等の油圧で走行したり作動される法面の加工機械本体を該法面の加工機械本体の走行および左右のウインチで,左右のアンカーの幅寸法間にわたって,上下左右に移動させて,その作業 掘削等の作業を行うバックホウ等の油圧で走行したり作動される法面の加工機械本体を該法面の加工機械本体の走行および左右のウインチで,左右のアンカーの幅寸法間にわたって,上下左右に移動させて,その作業を行うものといえる。 しかるところ,乙1は,モルタル吹付等による補強工事が施工された平坦な法面で使用され,また,乙2は,法面を舗装する場合に使用されるものであるので,法面を平坦に加工した後でしか作業ができないものであ る。 したがって,乙1と乙2を単に結合したとしても,本件発明1のように法面で土砂等の切取り,掘削等の作業ができるものではない。 イ次に,乙1は,台車が自走できず,主ワイヤー(12a)の牽引力で傾斜面を移動させ,左右両ワイヤー(12b,12c)は車輪(3)の軸を水平面内で回動させる舵取り機構(17)に取り付けられた可動連結具(9b)の先端部に取付けられているので,左右ワイヤー(12b,12c)を左右に引っ張っても台車(1)を左右方向に移動させる張力が働くものではない。 このため急傾斜地や主ワイヤー(12a)に台車(1)の自重が加わる所では,台車(1)の自重で,台車(1)が垂直状態になるように移動するため,車輪(3)の方向をいくら変えても方向は変わらず,左右方向への移動は不可能である。 また,乙2は,巻上機(4)にアスファルトフィニッシャ(8)やバギ車(10)を上下方向にだけ吊り上げ,吊り下げできるように左右のウインチ(9A,9B)やバギ車用ウインチ(11)を搭載したものであるので,巻上機(4)を法面の上部に配置できるような整備された場所でしか使用することができないものである。 したがって,乙1と乙2を単に結合したとしても,本件発明1のように急勾配の地形部分でも左右のアンカーの幅寸法間にわたって,法面の きるような整備された場所でしか使用することができないものである。 したがって,乙1と乙2を単に結合したとしても,本件発明1のように急勾配の地形部分でも左右のアンカーの幅寸法間にわたって,法面の加工機械本体を上下左右に移動させて作業を行うということはできず,本件発明1は,乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて容易に想到することができたものではない。 3 争点3(原告の損害額)について(1) 原告の主張ア前記1(1)アのとおり,被告らが本件各工事においてイ号方法を用いた ことは,本件各発明に係る本件専用実施権の侵害行為に該当する。 イ(ア) 被告らが本件工事1により受けた利益の額は405万4050円を下らないから,特許法102条2項により,原告の受けた損害の額は同額を下らないものと推定される。 (イ) 被告ノーベル技研工業が本件工事2により受けた利益の額は872万円を下らないから,特許法102条2項により,原告の受けた損害の額は同額を下らないものと推定される。 ウ以上によれば,原告は,被告らに対し,本件専用実施権侵害の共同不法行為に基づく損害賠償として405万4050円及びこれに対する不法行為の後である平成22年1月13日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,被告ノーベル技研工業に対し,本件専用実施権侵害の不法行為に基づく損害賠償として872万円及びこれに対する不法行為の後である同日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,求めることができる。 (2) 被告らの主張原告の主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件の事案に鑑み,争点2(本件発明1に係る本件専用実施権に基づく権利行使の制限の成否)から判断するこ ることができる。 (2) 被告らの主張原告の主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件の事案に鑑み,争点2(本件発明1に係る本件専用実施権に基づく権利行使の制限の成否)から判断することとする。 被告らは,本件発明1は,本件出願前に頒布された刊行物である乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであって,本件発明1に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する進歩性欠如の無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法104条の3第1項の規定により,原告は,被告らに対し,本件発明1に係る本件専用実施権を行使することはできない旨主張する。 (1) 乙1の記載事項ア乙1(特開平2-144415号公報)には,次のような記載がある。 (ア)「特許請求の範囲」として,「1.傾斜した補強面上を走行可能な台車と,この台車に取付けられ所定の振幅で駆動するハンマーで上記補強面を打撃することにより上記補強面を破砕する破砕機と,この破砕機と上記台車との間に設けられ上記破砕機の姿勢を調整する姿勢調整装置と,上記補強面の上方に設置された基台と上記台車とをワイヤーで連結し,このワイヤーの巻取機を駆動することにより上記台車を補強面上で移動させる台車移動装置とを備えた地山補強面破砕装置。」(1頁左欄3行~13行)(イ)「〔産業上の利用分野〕 この発明は,地山補強面の改修工事において,その新しい補強面の施工に先立ち,既存の補強面を破砕する場合に使用する地山補強面破砕装置に関するものである。」(1頁右欄6行~10行)(ウ)「〔従来の技術〕 道路の安全確保の観点から,例えば,山間地の道路沿いの法面は,その土砂の崩壊を防止するためモルタル吹付等による補強工事が施工される。 である。」(1頁右欄6行~10行)(ウ)「〔従来の技術〕 道路の安全確保の観点から,例えば,山間地の道路沿いの法面は,その土砂の崩壊を防止するためモルタル吹付等による補強工事が施工される。…従来,この補強面の破砕は,作業者が直接破砕機を操作して行っていた。この破砕機は通称コンクリートブレーカー等といわれているもので,所定の振幅で振動駆動するハンマーの先端でモルタルの補強面を繰り返し打撃し,その姿勢を作業者が適当に調整しながら順次補強面を破砕していくものである。」(1頁右欄11行~2頁左上欄5行)(エ)「〔発明が解決しようする課題〕 従来の地山補強面の破砕は,…作業者が傾斜する補強面上に立ち,破砕機を直接その手で支持して操作する方法によっていたので,作業上危険が伴うとともに,多くの人手を要し,人件費や工事期間が増大するという問題点があった。…この発明は 以上のような問題点を解消するためになされたもので,安全でかつ大幅な省力化と工期の短縮とが可能となる地山補強面破砕装置を得ることを目的とする。」(2頁左上欄6行~右上欄1行)(オ)「〔課題を解決するための手段〕 この発明に係る補強面破砕装置は,補強面上を走行可能な台車と,この台車に姿勢調整装置を介して取付けられた破砕機と,上記補強面の上方に設置された基台と上記台車とをワイヤーで連結し,このワイヤーの巻取機を駆動することにより上記台車を補強面上で移動させる台車移動装置とを備えたものである。」(2頁右上欄2行~9行)(カ)「〔作用〕 先ず,台車移動装置の巻取機を駆動してそのワイヤーの長さを調整し,台車を工事の対象位置にまで移動させそこで停止させる。次に,台車上の破砕機を駆動してそのハンマーによりこの部分の補強面を破砕する。同時に,姿勢調整装置を駆動して破砕機の姿 のワイヤーの長さを調整し,台車を工事の対象位置にまで移動させそこで停止させる。次に,台車上の破砕機を駆動してそのハンマーによりこの部分の補強面を破砕する。同時に,姿勢調整装置を駆動して破砕機の姿勢を適宜変化させ,破砕能力の維持を図る。その位置における破砕が完了すると再び台車移動装置を駆動して台車を移動させ,新たな作業位置で停止させた後,破砕作業に入る。以上の動作を順次繰り返す。なお,台車の移動と破砕機および姿勢調整装置との駆動は併行して行うようにしてもよい。」(2頁右上欄17行~左下欄9行)(キ)「先ず,台車(1)について説明する。(2)はこの台車(1)のベース,(3)は補強面(4)上を走行するための車輪,(5)はベース(2)上に組立てられたフレーム,(6)はフレーム(5)に取付けられた金網で,台車(1)の全面を覆うことにより,補強面の破片が周囲に飛散するのを防止する。…(9)はベース(2)の前方端に設けられた連結具で,後述する台車移動装置のワイヤーが係止される。」(2頁左下欄17行~右下欄11行),「次に(10)は破砕機で,圧縮空気によりそのハンマー(10a)を駆動して補強面(4)を破砕する。この実施 例では,4台の破砕機を搭載している。(11)は破砕機(10)の姿勢を調整するための姿勢調整装置で,…複数の回動アーム,摺動アームおよび油圧シリンダを使用して,ハンマー(10a)による打撃動作の進行にあわせて,各破砕機(10)の前後,左右,上下の各方向位置および垂直線からの傾斜角度を調整し,破砕動作の効率を常に高い値に維持する。」(2頁右下欄12行~3頁左上欄1行)(ク)「第5図および第6図は破砕装置を現場で動作させている場合の状況を説明するそれぞれ側面図および正面図である。図において,(12a)(12b)(12 る。」(2頁右下欄12行~3頁左上欄1行)(ク)「第5図および第6図は破砕装置を現場で動作させている場合の状況を説明するそれぞれ側面図および正面図である。図において,(12a)(12b)(12c)は台車(1)を補強面(4)上で移動させるためのワイヤーで,補強面(4)の上方にそれぞれアンカーにより地面に固着された基台(13a)(13b)(13c)に取付けられたウインチに巻回されている。… 第7図は上記のワイヤー(12a)(12b)(12c)により台車(1)を牽引する場合の各ワイヤー(12)と台車(1)との連結構造を示す説明図である。図において,主ワイヤー(12a)は台車(1)のベース(2)に設けられた固定連結具(9a)に係止されており主として台車(1)の重量を支え,台車(1)の昇降移動を受持つ。左ワイヤー(12b)および右ワイヤー(12c)は台車(1)のベース(2)に軸(16)を介して回動自在に取付けられた可動連結具(9b)の先端に係止されており,台車(1)の左右方向への移動を受持つとともに,事故等により主ワイヤー(12a)が緩んだり切れたような場合に台車(1)の落下を防止する。(17)は可動連結具(9b)の回動に応じて車輪(3)の軸を水平面内で回動させる舵取り機構である。」(3頁右上欄1行~左下欄3行)(ケ)「次に動作について説明する。先ず,搬送されてきた台車(1)を道路面(15)上に降ろし,この位置で各基台(13)とのワイヤー(12)の係止,および各信号線(21)等の接続を行う。この準備作業が 終了すると,操作盤(14)の操作ボタンを操作して,先ず台車(1)を補強面(4)の所定位置にまで移動させる。この場合,傾斜面の登坂は主ワイヤー(12a)の牽引力により行い,左右方向への方向転換は左右両ワイヤー(12b)(1 の操作ボタンを操作して,先ず台車(1)を補強面(4)の所定位置にまで移動させる。この場合,傾斜面の登坂は主ワイヤー(12a)の牽引力により行い,左右方向への方向転換は左右両ワイヤー(12b)(12c)の張力バランスで行う。即ち,例えば右ワイヤー(12c)に比較して左ワイヤー(12b)の張力が大きくなるようウインチモータ(18b)による巻取量をより大きくすると,第7図に示すように,可動連結具(9b)が反時計方向に回動し,舵取り機構(17)がこれに従動して車輪(3)を左へ傾動させる。 台車(1)が補強面(4)の所定位置に停止すると,破砕作業を開始する。 即ち,操作盤(14)の操作ボタンを操作してエア一端末部(24)の電磁弁を開き,コンプレッサー(26)からの高圧エアーを各破砕機(10)へ供給する。このエアーの圧力に応じてハンマー(10a)が補強面(4)を所定の周波数で打撃する。操作員はこの打撃による補強面(4)の破砕の進行具合を目視し,必要に応じて油圧端末部(22)の電磁弁を開閉操作して各油圧シリンダを駆動し,姿勢調整装置(11)を動作させることにより,ハンマー(10a)を更に下降させたり,横へ移動させたり,また傾動させ,効率のよい破砕作業を追求する。…最初の位置における破砕作業が終了すると,再びウインチモータ(18a)等の操作スイッチを操作することにより,台車(1)を隣接位置にまで移動させ,その停止位置で破砕動作を再開する。以上の操作を繰り返すことにより,広大な補強面(4)の破砕を,わずかの操作員により高能率に短期間に行うことが可能となる。」(3頁右下欄9行~4頁右上欄15行)(コ)「〔発明の効果〕 以上のように,この発明では,補強面上を走行可能な台車と,この台車に姿勢調整装置を介して取付けられた破砕機と,上記補強面の上方に 」(3頁右下欄9行~4頁右上欄15行)(コ)「〔発明の効果〕 以上のように,この発明では,補強面上を走行可能な台車と,この台車に姿勢調整装置を介して取付けられた破砕機と,上記補強面の上方に設置された基台と上記台車とをワイヤーで連結し, このワイヤーの巻取機を駆動して上記台車を移動させる台車移動装置とを備えたので,作業の安定が確保されるとともに,大容量の破砕機を使用することができ,大幅な省力化と工事期間の短縮が可能となる。」(5頁左上欄14行~右上欄3行)イ上記アの記載事項及び第5図ないし第7図(別紙乙1の図面参照)を総合すれば,乙1には,破砕作業を行う対象となる傾斜した補強面の上方の地面において所定間隔離間した「左」,「中」,「右」の3箇所に,それぞれ,巻取機が取り付けられた基台をアンカーにより固定する工程と,油圧で作動して破砕作業を行う破砕機を搭載した台車に,固定連結具を介して前記「中」に設置した巻取機の主ワイヤーを係止するとともに,前記台車に回動自在に取り付けられた可動連結具に,前記「左」に設置した巻取機の左ワイヤー及び前記「右」に設置した巻取機の右ワイヤーを係止する工程と,「中」に設置した巻取機を駆動させて前記台車を昇降移動させるとともに,「左」及び「右」に設置した巻取機を駆動させて可動連結具及び舵取り機構を介して前記台車の車輪の軸を水平面内で回動させることにより,前記台車を所望の位置まで移動させて,破砕機で破砕作業を行う工程とを含む傾斜した補強面の改修方法(以下「乙1記載の方法」又は「乙1記載の方法発明」という場合がある。)が記載されていることが認められる。 (2) 本件発明1の容易想到性ア本件発明1と乙1記載の方法との対比乙1記載の方法(前記(1)イ)の「傾斜した補強面」,「巻取機」,「 う場合がある。)が記載されていることが認められる。 (2) 本件発明1の容易想到性ア本件発明1と乙1記載の方法との対比乙1記載の方法(前記(1)イ)の「傾斜した補強面」,「巻取機」,「破砕作業」,「油圧で作動して破砕作業を行う破砕機を搭載した台車」,「傾斜した補強面の改修方法」は,本件発明1の「法面」,「ウインチ」,「土砂等の切取り,掘削等の作業」,「土砂等の切取り,掘削等の作業を行うバックホウ等の油圧で走行したり作動される法面の加工機械本体」(な お,本件発明1中の「油圧で走行したり作動される」とは,「油圧で走行し又は作動される」と解する。),「法面の加工方法」にそれぞれ相当するものと認められる。 そうすると,本件発明1と乙1記載の方法との間には,次のとおりの一致点と相違点があることが認められる。 (一致点)「土砂等の切取り,掘削等の作業を行ない法面を形成する部位の上部の地面に所定間隔離間させて複数のアンカーを固定するアンカー固定工程と,土砂等の切取り,掘削等の作業を行なう油圧で走行したり作動される法面の加工機械本体に前記複数のアンカーに固定された複数のウインチのワイヤーを取付けるウインチ取付け工程と,前記法面の加工機械本体および前記複数のウインチを作動させて法面を形成する部位の土砂の切取り,掘削等の作業を行なう法面形成工程とを含む法面の加工方法」である点。 (相違点)本件発明1では,アンカー及びウインチが法面上部の「左右」に各一つ(合計二つ)設けられているのに対し,乙1記載の方法では,アンカー及びウインチが法面上部(傾斜した補強面の上方の地面)の「左,中,右」に各一つ(合計三つ)設けられている点。 イ乙2の記載事項(ア) 乙2(特開昭61-176703号公報)には,次のような記載が ウインチが法面上部(傾斜した補強面の上方の地面)の「左,中,右」に各一つ(合計三つ)設けられている点。 イ乙2の記載事項(ア) 乙2(特開昭61-176703号公報)には,次のような記載がある。 a「特許請求の範囲」として,「1.舵取り手段を有する処理用作業車を法面に沿って巻上げ巻下げする2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭載し,各ウインチに巻かれるワイヤロープを前記作業車の前部の牽引フレームの左右の端部にそれぞれ接続し,前記各ウインチ の駆動用油圧モータの油圧回路には,両油圧モータに供給する作動油の流量を等流量とする分流装置を設けると共に,該分流装置と前記油圧モータとの間の各油圧モータ対応の回路間に,両回路間を連通,遮断する2位置切換弁を設けたことを特徴とする法面処理用作業車の巻上装置。」,「2.前記油圧モータは可変容量形モータでなり,かつ該油圧モータの油圧源となる油圧ポンプを複数台並列に設置してその駆動台数が選択できるように構構成したことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の法面処理用作業車の巻上装置。」(以上,1頁左欄3行~末行)b「(従来の技術) 例えば法面舗装によりダムを建設する場合,法面にこれを横切るように設けた通路に自走式巻上機を置き,巻上機に搭載したウインチによりアスファルトフィニッシャ等の作業車を巻上げつつ法面を舗装し,一列の舗装が終ったら巻上機を移動させて舗装すべき法面の最低位置まで作業車を巻下げ,再び巻上げつつ舗装するという作業を繰返すことによって舗装を行なう必要がある。この場合,既舗装面と未舗装面との間の境界線は直線であるとは限らず,曲線をなす場合があるので,特公昭49-21932号公報に記載のように,単にウインチによって巻上げ巻下げるだけでは境界線に沿って作業車を巻上げることが 未舗装面との間の境界線は直線であるとは限らず,曲線をなす場合があるので,特公昭49-21932号公報に記載のように,単にウインチによって巻上げ巻下げるだけでは境界線に沿って作業車を巻上げることが困難で,舗装面が重なったり舗装材を舗装できない部分が生じたりする。」(1頁右欄8行~2頁左上欄3行)c「(発明が解決しようとする問題点) 本発明は,前記作業車を巻上機上のウインチによって巻上げ巻下げする場合,既処理面と未処理面の境界線に沿って作業車を巻上げ,巻下げすることが可能となり,かつ作業車を処理開始点にまで巻下げる際に,真直に目的値にまで巻下げることのできる構成の法面処理用作業車の巻上装置を提供しようとするものである。」(2頁左上欄4行~11行) d「(問題点を解決するための手段)…すなわち本発明の巻上装置においては,左右のウインチを巻上げ方向に作動させる場合には,前記2位置切換弁を左右のウインチモータへの回路が連通する位置にすることにより,作業車上のオペレータのハンドル操作によって,作業車の向きが変えられるようにすることにより,前記境界線に沿って作業車が移動できるようにし,一方巻下げ時には,前記2位置切換弁を遮断位置とすることによって2台の同型のウインチモータに対して等流量の作動油が供給されて左右のウインチに巻かれたワイヤーロープが等長ずつ繰出されて作業車が直線的に走行しながら巻下げられるようにしたものである。」(2頁左上欄12行~右上欄15行)e「第2図および第3図は本発明の巻上装置を搭載した巻上機を使用して法面舗装を行なっている状態を示しており,1は舗装される法面,2は法面の一部に形成された巻上機の通路で,…4は法面処理用巻上機であり,該巻上機4は,クローラ式走行体5の上に旋回装置6を介して巻上機本体7を旋回 なっている状態を示しており,1は舗装される法面,2は法面の一部に形成された巻上機の通路で,…4は法面処理用巻上機であり,該巻上機4は,クローラ式走行体5の上に旋回装置6を介して巻上機本体7を旋回自在に搭載してなる。本体7上には舵取り手段を有するアスファルトフィニッシャ8を法面1に沿ってロープ19a,19bを介して巻上げ巻下げするウインチ9A,9Bと,…を搭載してなる。」(2頁右上欄18行~左下欄13行),「本発明の特徴となる部分は,アスファルトフィニッシャ8の巻上装置であり,本体7上の左右に搭載されるウインチ9A,9Bは同型の油圧モータ9a,9bとドラム9c,9dをそれぞれ有するもので,各ウインチ9A,9Bにそれぞれ巻取り繰出しされるワイヤロープ19a,19bを,アスファルトフィニッシャ8の前部に設けた牽引フレーム20の左右の端部にそれぞれ接続する。」(2頁右下欄4行~11行)f「この装置において,法面1の舗装を行なう場合は,運転室18内のオペレータがウインチ9A,9B,11を運転することにより,アス ファルトフィニッシャ8をゆっくりと巻上げて舗装すると共に,バギ車10をアスファルト供給車(図示せず)とアスファルトフィニッシャ8との間で往復させてアスファルトフィニッシャ8にアスファルトを供給しながら作業を行なう。この場合,運転室18のオペレータは,油圧ポンプ22A,22Bのうちの1台を作動させると同時に,油圧モータ9a,9bの制御部を低速側に切換え,方向切換弁25を右位置に切換え,かつ2位置切換弁33をa位置(連通位置)に切換える。これにより,油圧ポンプ22A,22Bのいずれかより吐出した圧油は管路31,管路31A,31Bおよびカウンタバランス弁32A,32Bのチェック弁34A,34Bをそれぞれ通って油圧モータ9 換える。これにより,油圧ポンプ22A,22Bのいずれかより吐出した圧油は管路31,管路31A,31Bおよびカウンタバランス弁32A,32Bのチェック弁34A,34Bをそれぞれ通って油圧モータ9a,9bに供給され,これらの油圧モータ9a,9bを出た作動油は管路30A,30Bを通り,油流量の多い方の管路30A(または30B)の油が2位置切換弁33を通して他方の管路30B(または30A)に流れ込み,その後,分流装置26,管路30,方向切換弁25を通ってタンク29に戻る。従って,油圧モータ9a,9bに流れる流量を変えることができ,アスファルトフィニッシャ8上のオペレータはアスファルトフィニッシャ8の向きを変えることができ,アスファルトの舗装ずみの領域と,未舗装領域との間の境界線に沿って上昇方向に移動させることができる。」(3頁左上欄18行~左下欄7行)g「なお,上記実施例においては,作業車がアスファルトフィニッシャである場合について示したが,舗装材料がコンクリートである場合,あるいは法面にて列ごとに処理する他の処理用作業車についても本発明を適用することができる。」(4頁左欄8行~12行)h「(本発明の効果)本発明によれば,作業車を巻上機上のウインチによって巻上げ巻下げする場合,既処理面と未処理面の境界線に沿って 作業車を巻上げ,巻下げすることが可能となり,かつ作業車を処理開始点にまで巻下げる際に,真直に目的値(判決注・「目的地」の誤り)にまで巻下げることのできる。従って処理残しや重複処理を避け,法面処理を能率良く,かつ正確に行なうことができる。」(4頁左欄13行~右欄1行)(イ) 上記(ア)の記載事項と第2図及び第3図(別紙乙2の図面参照)を総合すれば,乙2には,アスファルトフィニッシャである処理用作業車を法面 行なうことができる。」(4頁左欄13行~右欄1行)(イ) 上記(ア)の記載事項と第2図及び第3図(別紙乙2の図面参照)を総合すれば,乙2には,アスファルトフィニッシャである処理用作業車を法面に沿って巻上げ,巻下げする2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭載し,各ウインチに巻かれるワイヤロープを処理用作業車の前部に設けた牽引フレームの左右の端部にそれぞれ接続させ,巻上機本体上のオペレータの操作によって,左右のウインチの巻上げ量を変え,その牽引力を異ならせることにより,処理用作業車を曲線をなす境界線に沿って移動させながら上昇することができるようにした法面処理用作業車の巻上装置(以下「乙2記載の巻上装置」又は「乙2記載の発明」という場合がある。)が記載されていることが認められる。 ウ容易想到性(ア) 前記(1)及び上記イを前提に検討するに,①乙1記載の方法と乙2記載の巻上装置を使用した法面処理作業の方法は,法面に対する作業内容が,法面の破砕であるのか,法面に対するアスファルト舗装であるのかという違いはあるものの,ウインチとワイヤーとを用いて傾斜面上の「加工機械本体」(台車あるいは処理用作業車)を移動させて作業を行う「法面の加工方法」という同一の技術分野に属するものであり,また,傾斜面上の所望の位置に加工機械本体を移動させ,効率よく法面作業を行うことを目的とする点で課題も共通すること,②上記課題を解決するための手段として,乙1では,アンカー及び巻取機(ウインチ)を法面上部の「左,中,右」の位置に合計三つ設け,「中」の位置のウイ ンチを駆動させて加工機械本体を昇降移動させるとともに,「左」及び「右」の位置の各ウインチを駆動させ,左右2本のワイヤーの巻上げ量を調整することにより可動連結具及び舵取り機構を介して加工機械本 ンチを駆動させて加工機械本体を昇降移動させるとともに,「左」及び「右」の位置の各ウインチを駆動させ,左右2本のワイヤーの巻上げ量を調整することにより可動連結具及び舵取り機構を介して加工機械本体の車輪の軸を水平面内で回動させる構成としたのに対し,乙2では,2台のウインチを左右に設け,左右2本のワイヤーの巻上げ量を変え,その牽引力を異ならせることにより,加工機械本体を曲線をなす境界線に沿って移動させながら上昇させる構成とした点に違いはあるものの,上記課題を解決するために左右のウインチを駆動させて左右2本のワイヤーの巻上げ量を変化させる構成を採用している点では両者は共通していることに照らすならば,乙1及び乙2に接した当業者であれば,乙1記載の方法において,アンカー及びウインチを法面上部の「左,中,右」の位置に合計三つ設けた上記構成に代えて,乙2記載の上記構成のように「左右」の位置に合計二つ設ける構成(相違点に係る本件発明1の構成)とし,これらのウインチの駆動量を別個に制御することによって左右2本のワイヤーの巻上げ量を変え,加工機械本体を所望の位置に移動させることができるようになることを格別の困難なく想到することができたものと認められるから,本件発明1は,乙1記載の方法発明及び乙2記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものというべきである。 (イ) これに対し原告は,①乙1は,モルタル吹付等による補強工事が施工された平坦な法面で使用され,また,乙2は,法面を舗装する場合に使用されるものであるので,法面を平坦に加工した後でしか作業ができないものであるから,乙1と乙2を単に結合したとしても,本件発明1のように法面で土砂等の切取り,掘削等の作業ができるものではない,②乙1は,台車が自走できず,急傾斜地や主ワイヤー(12a 作業ができないものであるから,乙1と乙2を単に結合したとしても,本件発明1のように法面で土砂等の切取り,掘削等の作業ができるものではない,②乙1は,台車が自走できず,急傾斜地や主ワイヤー(12a)に台車(1)の自重が加わる所では,台車(1)の自重で,台車(1)が垂 直状態になるように移動するため,車輪(3)の方向をいくら変えても方向は変わらず,左右方向への移動は不可能であり,また,乙2は,巻上機(4)にアスファルトフィニッシャ(8)やバギ車(10)を上下方向にだけ吊り上げ,吊り下げできるように左右のウインチ(9A,9B)やバギ車用ウインチ(11)を搭載したものであって,巻上機(4)を法面の上部に配置できるような整備された場所でしか使用することができないものであるので,乙1と乙2を単に結合したとしても,本件発明1のように急勾配の地形部分でも左右のアンカーの幅寸法間にわたって,法面の加工機械本体を上下左右に移動させて作業を行うということはできず,本件発明1は,乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて容易に想到することができたものではない旨主張する。 しかしながら,乙1記載の方法は,「地山補強面の改修工事において,その新しい補強面の施工に先立ち,既存の補強面を破砕する場合に使用」されるものであり(前記(1)ア(イ)),乙1記載の加工機械本体に搭載された破砕機が行う破砕作業は,法面で土砂等の切取り,掘削等の作業を伴うものであるというべきであるから,原告主張の上記①の点は,採用することができない。 また,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,加工機械本体の左右方向への移動範囲を規定する記載は存在せず,本件発明1において「急勾配の地形部分でも左右のアンカーの幅寸法間にわたって,法面の加工機械本体を上下左右に移動させて作 請求項1)には,加工機械本体の左右方向への移動範囲を規定する記載は存在せず,本件発明1において「急勾配の地形部分でも左右のアンカーの幅寸法間にわたって,法面の加工機械本体を上下左右に移動させて作業を行う」ことが必須の要件とされているものとはいえないから,原告主張の上記②の点は,本件発明1の特許請求の範囲の記載に基づかないものとして,その前提において,採用することができない。 したがって,本件発明1は乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて容易に想到することができたものではないとの原告の主張は,理由が ない。 (3) まとめ以上のとおり,本件発明1は,乙1及び乙2に記載された各発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであって,進歩性を欠くものというべきであるから,本件発明1に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。 したがって,原告は,特許法104条の3第1項の規定により,被告らに対し,本件発明1に係る本件専用実施権等を行使することができない。 2 次に,争点1のうち,本件各工事における本件発明2の実施の有無について判断するに,本件全証拠によっても,被告らが本件各工事において用いたバックホウが遠隔操作で作動させる構成を備えていることを認めるに足りない。 そうすると,本件各工事における法面の加工方法が構成要件Gを充足することが認められないから,被告らが本件各工事において本件発明2を実施した事実は認められない。 3 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官大鷹 主文 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 理由 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官大鷹一郎 裁判官大西勝滋 裁判官上田真史 (別紙)工事目録 1 工事名 旭川紋別自動車道遠軽町白滝改良外一連工事 工事場所 北海道紋別郡遠軽町白滝 工期 平成21年8月12日から平成22年1月25日まで 2 工事名 平成20年度春日置戸線特改1種工事 工事場所 北海道網走市札幌~置戸町現場 工期 平成20年11月1日から平成21年2月28日まで (別紙)乙1の図面 【第5図】 【第6図】 【第7図】 (別紙)乙2の図面 【第2図】 【第3図】

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