主文 被告は,原告に対し,30万円及びこれに対する平成16年7月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用はこれを50分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。ただし,被告が原告に対し25万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 原告の請求被告は,原告に対し,1700万円及びこれに対する平成16年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告の答弁⑴本案前の答弁本件訴えを却下する。 ⑵本案の答弁原告の請求を棄却する。 第2事案の概要 本件は,原告が被告の開設する病院において受けた診療について,被告が診療録等の一部を改ざん,隠匿したなどと主張して,原告が,被告に対し,①診療契約上の付随義務である診療録等の開示(及び開示のための保管)義務違反,②診療契約上のてん末報告義務違反を理由に,診療契約の債務不履行,又は,人格権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金1700万円及びこれに対する平 成16年3月23日(原告が提起していた別件の医療過誤に基づく損害賠償請求訴訟の控訴審口頭弁論終結日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,これに対し,被告が,本件訴えは訴権の濫用又は信義則違反に当たるなどとして訴えの却下を求めるとともに,原告主張の義務違反はないし,原告に損害もないなどとして請求棄却を求めて争った事案である。 前提事実(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いのない事実である。)(1)当事者原告は昭和yy年mm月dd日生まれの男性である。 被告は大学等を開設する独立 求棄却を求めて争った事案である。 前提事実(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いのない事実である。)(1)当事者原告は昭和yy年mm月dd日生まれの男性である。 被告は大学等を開設する独立行政法人であり,歯学部付属病院(以下「被告病院」という。)を設置している。被告は,平成16年4月1日,国立大学法人法及び国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律に基づいて成立し,国が有する権利及び義務のうち,被告が行う業務に関するものを承継した(以下,被承継人である国と承継人である被告とを区別することなく「被告」という。)。 (2)被告病院における原告の診療(以下「本件診療」という。)ア原告は,舌白板症と診断され,平成3年4月22日から定期的に被告病院に通院していたが,平成4年1月30日,転移癌の疑いがあるとして被告病院に入院した。原告は,同年2月4日に左全頸部郭清術及び左下額骨部分切除の手術を受け,この際,扁平上皮癌との診断を受け,同月24日から同年4月20日までの間,切除部位付近の癌根絶及び再発防止の目的から,放射線照射の治療を受け,また,これとともに化学療法を受けた。 イ原告は,上記手術及びその後の治療により経口摂取ができなくなり,また,同年秋ころから放射線障害による組織の壊死等が生じたために口腔内出血を繰り返し,放射線性骨髄炎を合併し,下顎骨壊死が進行した。 このため,原告は,同年9月から同年11月までの間,合計4回にわた って被告病院に入院し治療を受けた。 ウその後,原告は,平成6年4月から平成7年8月までの間,下顎部の再建等を目的として9回にわたり下顎骨区域切除術及び下顎骨再建術等の手術を受けたものの,所期の効果が得られず,顔面が潰れ,気管孔となり,舌根沈下とともに舌が収縮し,神経損傷も加わって嗅覚及び味覚 の再建等を目的として9回にわたり下顎骨区域切除術及び下顎骨再建術等の手術を受けたものの,所期の効果が得られず,顔面が潰れ,気管孔となり,舌根沈下とともに舌が収縮し,神経損傷も加わって嗅覚及び味覚を喪失するなどした。 エ原告は,平成8年11月27日,被告病院での受診を終了した。そして,原告は,平成9年7月ころ,音声・言語機能障害,咀嚼機能障害,肩関節機能,股関節機能障害,呼吸器機能障害により身体障害1級と認定されるに至った。 (3)証拠保全手続原告は,平成9年,大阪地方裁判所に対し本件診療に際して作成された医療記録等について証拠保全の申立てを行い,同年2月12日,被告病院において証拠保全手続が行われ,被告は,本件診療に関する医療記録等を裁判所に提示した(以下「本件証拠保全手続」という。)。 (4)別件損害賠償請求訴訟原告は,平成10年9月11日,本件診療に関して被告に過失があったとして,大阪地方裁判所に対し,被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起したが(大阪地方裁判所平成10年(ワ)9698号事件),同裁判所は,平成14年4月19日,原告の請求を棄却する判決をした。これに対して原告は控訴を提起したが(大阪高等裁判所平成14年(ネ)第1674号事件),大阪高等裁判所は,平成16年9月7日,原告の控訴を棄却する判決をした(以下,これらを総称して「別件医療過誤訴訟」という。)。 (乙2,3)(5)原告は,別件医療過誤訴訟の控訴審の口頭弁論終結後判決言渡前の同年7月22日,本件訴訟を提起した(乙3,弁論の全趣旨)。 原告は,本件訴訟を提起するまでに,被告に対し,再三にわたり,診療録等を開示して本件診療のてん末を明らかにするよう求めていた。 (6)その後,別件医療過誤訴訟については原告敗訴の判決が確定した。 争点及 本件訴訟を提起するまでに,被告に対し,再三にわたり,診療録等を開示して本件診療のてん末を明らかにするよう求めていた。 (6)その後,別件医療過誤訴訟については原告敗訴の判決が確定した。 争点及びこれに対する当事者の主張(1)原告の本訴請求が前訴の別件医療過誤訴訟の判決の既判力に抵触したり,訴権濫用ないし信義則違反に当たるか否か。 (被告の主張)ア不法行為に基づく請求について(ア)本訴請求のうちの不法行為に基づく損害賠償請求は,別件医療過誤訴訟において審理判断されたものと同一の診療契約に基づく本件診療について,歯科医師の不法行為を理由に損害賠償を求めるものであるところ,別件医療過誤訴訟の確定判決の既判力によって,本件診療について原告が不法行為による損害賠償請求権を有しないことが確定しているから,上記損害賠償請求は前訴の既判力に抵触するものであり許されない。 (イ)また,仮に上記損害賠償請求と別件医療過誤訴訟における請求とが直ちに同一の請求であるといえなくとも,確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する請求を行うことは訴権の濫用となり許されない。 これを本件についてみると,既に,原告は,別件医療過誤訴訟において,入院カルテが被告から開示されていないことや腫瘍カルテ等が改ざんされている旨を主張しており,これに対し裁判所が,腫瘍カルテの記載を信用できるものと判断した上,腫瘍カルテ及びその他の医療記録に基づいて事実を認定し,被告に過失がないものと判断しているのであるから,本訴における上記損害賠償請求は,別件医療過誤訴訟の確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾するものに当たり,訴権の濫用となり許されない。 イ債務不履行に基づく請求について 後訴の請求の訴訟物と前訴の請求の訴訟物とが異なる場合であっても,後訴の請求が,実質的には る判断と実質的に矛盾するものに当たり,訴権の濫用となり許されない。 イ債務不履行に基づく請求について 後訴の請求の訴訟物と前訴の請求の訴訟物とが異なる場合であっても,後訴の請求が,実質的には敗訴に終わった前訴の請求及び主張の蒸し返しに当たる場合には,信義則違反として却下されるべきである(最高裁判所第二小法廷平成10年6月12日判決・民集52巻4号1147頁参照)。 これを本件についてみると,上記のとおり,別件医療過誤訴訟において,入院カルテが不提出であることや,腫瘍カルテが信用できないとの主張について,既に確定判決による判断がなされているのであるから,本件請求のうちの債務不履行に基づく請求も,実質的に蒸し返しに当たり,信義則に違反するものとして却下されるべきである。 (原告の反論)ア不法行為に基づく請求について不法行為の請求の基礎となる社会的事実が同一である場合には,同一当事者間で,当該不法行為に基づく損害賠償請求は1回限りとなるが,別件医療過誤訴訟の請求は,被告病院歯科医師らの本件診療についての過失を理由とするものであったのに対し,本訴請求は,本件診療終了後の診療録等の開示(及び開示のための保管)義務やてん末報告義務違反を理由とするものであるから,両請求の基礎となる社会的事実が同一であるとはいえない。また,本訴請求では,診療録等の改ざん・不開示による人格的利益の侵害の有無やその違法性が問題とされているのに対し,別件医療過誤訴訟の請求では,これらの点については争点化されていない。さらに,原告が別件医療過誤訴訟において主張した損害は,休業損害,後遺症に基づく逸失利益及び入通院慰謝料等であったのに対し,本件訴訟では,人格的利益の侵害による慰謝料と事案解明に要した実費を請求している。 以上のような事情からすれば,本訴における不法行 休業損害,後遺症に基づく逸失利益及び入通院慰謝料等であったのに対し,本件訴訟では,人格的利益の侵害による慰謝料と事案解明に要した実費を請求している。 以上のような事情からすれば,本訴における不法行為に基づく損害賠償請求は,別件医療過誤訴訟の確定判決の既判力に抵触したり,訴権濫用となるものではない。 イ債務不履行に基づく請求について後訴の請求が紛争の蒸し返しであるか否かは,請求権の発生原因として原告が主張する事実関係がほぼ同一であって,前訴及び後訴の訴訟経過に照らして蒸し返しといえるか否かによって判断すべきであるところ,別件医療過誤訴訟の請求と本訴請求とは,上記のとおり,義務違反及び損害ともに異なるのであるから,本訴請求は紛争の蒸し返しには当たらない。 ⑵被告が原告に対し,診療契約上の付随義務として診療録等を開示(及び開示のために保管)すべき義務を負っていたか。負っていた場合には,被告がその義務に違反したか。 (原告の主張)ア医療法は,医師や歯科医師らが,生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨として良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならないとした上で,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない旨を定めている(医療法1条の2,1条の4第1,2項)。そして,医療を受ける者の理解が得られるよう適切な説明を行うためには,医師や歯科医師の思考を示す一連の医療の経過を記録した医療記録の作成と保管が不可欠となる。 さらに,医師法24条,歯科医師法23条は,医師や歯科医師は,診療したときは遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならず,病院又は診療所の管理者はこれを5年間保管しなければならないと定めている。また,個人情報の保護に関する法律3条は,個人情報の適正な取扱いを定め,独立行 療に関する事項を診療録に記載しなければならず,病院又は診療所の管理者はこれを5年間保管しなければならないと定めている。また,個人情報の保護に関する法律3条は,個人情報の適正な取扱いを定め,独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律は,保有個人情報の漏えい,滅失又は毀損の防止その他保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じるべきことを定め,個人情報の本人について,個人情報の開示請求権,情報の内容が真実でないときの訂正請求権及び利用停止請求権を定めている(同法7,12,27,36条)。 これらの定めからは,医療機関は,患者に対し,診療契約に付随する義務として診療録等の開示(及び開示のための保管)義務を負うというべきであり,医療機関が同義務に違反した場合,診療契約の債務不履行に基づく責任を負うとともに,患者の人格権を侵害するものとして不法行為に基づく責任を負う。 イ診療録等の改ざんについて被告は,以下のとおり,原告との間の別件医療過誤訴訟の訴訟対策用に虚偽の診療経過を記載して編集した診療録を提示し,また,診療録等の改ざん(当該患者の診療に関し,虚偽の事実を記入したり,事実を隠蔽する目的で医療記録を改変する行為)をし,上記義務に違反した。 (ア)腫瘍カルテについて被告は,本件証拠保全手続において,裁判所に対し,外来カルテのほか,腫瘍患者の腫瘍に関する経緯を記載したものとする腫瘍カルテ(以下「本件腫瘍カルテ」という。)を提示し,これを別件医療過誤訴訟においても証拠として提出した。しかし,本件腫瘍カルテは,被告病院において研究目的のために本来作成されている腫瘍カルテとは異なり,原告との間の訴訟対策用に,虚偽の診療経過を記載して編集された改ざん文書である。 (イ)その他の診療録等について被告は,本件診療に関する看護記録 的のために本来作成されている腫瘍カルテとは異なり,原告との間の訴訟対策用に,虚偽の診療経過を記載して編集された改ざん文書である。 (イ)その他の診療録等について被告は,本件診療に関する看護記録を本件証拠保全手続において裁判所に提示したが,この看護記録は,他人の看護記録が数頁にわたり混入し,未記入の白紙が数枚挿入され,禁止されている鉛筆書きによる記載が放置されていることなどから,被告に何らかの改変意図があったとしか考えられない。また,本件放射線カルテ,外来カルテ及び平成6年以降の入院について作成された入院カルテにも改ざんが行われた。 ウ診療録等の不開示について (ア)診療録等の隠匿について被告は,以下のとおり,本件診療に係る診療録等の一部を隠匿して開示しなかった。 a入院カルテ及び手術関連記録の隠匿被告は,平成9年2月の本件証拠保全手続において,裁判所に対し平成4年の6回の入院に際して作成された診療録,並びに平成4年及び平成6年に行われた合計3回の手術に際して作成された手術関連記録を提示せず,原告に対しこれらを隠匿し,現在に至るまで開示しない。 (a)入院カルテ①平成4年1月30日から2月27日まで②同年3月18日から4月20日まで③同年10月2日から同月12日まで④同月20日から同月30日まで⑤同年11月5日から同月10日まで⑥同月15日から同月19日まで(以下,①ないし⑥の各期間に対応する入院カルテを「本件入院カルテ①」などといい,これらを併せて「本件入院カルテ①ないし⑥」という。)(b)手術関連記録①平成4年2月4日の左側全頸部郭清術及び左下顎骨部分切除術②平成6年4月12日の下顎骨亜全摘及び下顎再建術③同年6月28日の下顎再建術(以下,①ないし③の各手術に対応する手術関連記録を 録①平成4年2月4日の左側全頸部郭清術及び左下顎骨部分切除術②平成6年4月12日の下顎骨亜全摘及び下顎再建術③同年6月28日の下顎再建術(以下,①ないし③の各手術に対応する手術関連記録を「本件手術関連記録①」などといい,これらを併せて「本件手術関連記録①ないし③」という。) b本件証拠保全手続における不提示被告は本件証拠保全手続において,以下の診療録等を裁判所に提示せず,これらを隠匿した。 ①平成4年の放射線治療について記載されているカルテ(以下「本件放射線カルテ」という。)②平成4年から平成8年までの原告のCT,MRI,レントゲン検査等に際して作成された画像検査報告書等31通(以下「本件画像検査報告書等」という。)③診断書,証明書及び傷病手当金請求書等22通(以下「本件診断書等」という。)その後,被告は,平成10年12月,別件医療過誤訴訟において,立証上の必要から,本件放射線カルテを裁判所に証拠として提出し,また,原告が平成17年2月に情報開示請求を行った際,原告に対し本件画像検査報告書等及び本件診断書等を初めて開示した。 (イ)診療録等の紛失について仮に,被告に診療録等の隠匿が認められないとしても,被告は,診療契約上の付随義務として診療録等の開示(及び開示のための保管)義務を負っているのであるから,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①ないし③を保管していないこと自体が義務違反,過失に当たる。 (被告の反論)ア診療録等の改ざんについて被告が診療録等を改ざんしたとの主張は否認する。 本件腫瘍カルテは,被告病院において原告の診療時に作成されたものであって,訴訟対策用に編集されたものではない。同カルテは,腫瘍についての治療方針の立案,経過観察及び研究に用いる目的で作成されるものであり,診療の都 ,被告病院において原告の診療時に作成されたものであって,訴訟対策用に編集されたものではない。同カルテは,腫瘍についての治療方針の立案,経過観察及び研究に用いる目的で作成されるものであり,診療の都度記載されることもあれば,資料を基に後に記載したり, あるいは期間ごとにまとめて記載することもある。また,外来と入院のいずれの記録も記載するものであるから,外来カルテ用紙と入院カルテ用紙を区別せずに用いて作成される。腫瘍カルテを作成する際に,入院カルテの一部をコピーして腫瘍カルテに貼ることは,腫瘍に特化したカルテを作成するために同一趣旨の記載の援用として行われることであり,カルテの記載行為そのものであり,また,種々の文書が混在していることはその性格上当然のことである。 その他,原告の主張はいずれも誤解に基づくものであり,又はごく微細な点を極大に非難するものにすぎない。 イ診療録等の不開示について(ア)診療録等の隠匿についてa本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術記録①は,本件証拠保全手続以前に既に見当たらず,同手続後被告において捜索を行ったが発見できなかった。本件入院カルテ①ないし⑥は,1冊にまとめられ,被告病院事務局の保管庫にまとめて保管されていたものと考えられるが,平成9年当時,被告病院では,主治医のほか歯科医師の資格を有する者は,研究等のため任意に診療録の借り出しを行うことが可能であったことから,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術記録①は,特定人が自己の研究目的で借り出した後返還されないまま,所在不明となっている可能性が考えられる。なお,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①の記載の一部の写しは,本件腫瘍カルテの中に存在している。 他方,本件手術関連記録②及び③は,被告が本件証拠保全手続に際して提示した本件腫瘍カ 。なお,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①の記載の一部の写しは,本件腫瘍カルテの中に存在している。 他方,本件手術関連記録②及び③は,被告が本件証拠保全手続に際して提示した本件腫瘍カルテの内部にその原本が存在し,原告に開示されており,被告がこれらを隠匿したことはない。 b被告は,本件証拠保全手続において本件放射線カルテを提示しなか ったが,同手続は突然の手続であり,放射線科の医師は立ち会っていなかったため,被告側において幾種類ものカルテについて十分把握できず,本件放射線カルテにまで注意が行き届かったことから,結果として裁判所に提示されなかったにすぎない。被告には本件放射線カルテを隠匿すべき理由はなく,被告が同カルテを隠匿したことはない。 c本件画像検査報告書等は,本件証拠保全手続に際しても,レントゲンの袋の中にレントゲン写真と一緒に入れられていたものと考えられ,本件証拠保全手続において何らかの事情により写しが作成されなかった可能性も考えられるから,同手続において提示されなかったとは断言できない。また,本件画像検査報告書等に対応するレントゲン写真等自体は原告に交付されていること,同報告書等は別件医療過誤訴訟の争点とは何ら関連しないことから,被告がこれらを隠匿することはない。また,本件診断書等は,原告に対し既に交付済みのものであり,原告が別件医療過誤訴訟以前に既に所持していたのであるから,被告が隠匿を行ったことはない。 (イ)診療録等の紛失について被告は,本件診療に係る診療録のうち本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を紛失し,これらを原告に開示できない。 しかしながら,診療録を紛失したため,これを患者に開示できない場合であっても,このことが直ちに診療契約に基づく義務の不履行又は不法行為に当たるとはいえず 記録①を紛失し,これらを原告に開示できない。 しかしながら,診療録を紛失したため,これを患者に開示できない場合であっても,このことが直ちに診療契約に基づく義務の不履行又は不法行為に当たるとはいえず,①患者が実質的不利益を受ける可能性,②カルテを出せない医師側の事情(特に故意による破棄等の事実の有無や医師の誠意の有無),③代替カルテの有無及びその他一切の事情を総合考慮して,実質的な不当性の有無を判断すべきである。 これを本件についてみると,本件腫瘍カルテ,本件放射線カルテ及びその他の医療記録により,原告の病状,治療内容,治療後の経過等の全 てが客観的に明確になっており,原告に実質的な不利益はない。また,被告側は故意に上記診療録を破棄したのではなく,熱心にカルテの捜索を行っている。さらに,別件医療過誤訴訟判決が医師の過失や説明義務違反を否定しているにもかかわらず,原告は模索的,感情的に本件訴訟を提起しており,本件訴訟は実質的に別件医療過誤訴訟の蒸し返しに当たる。これらの事情からは,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①の不開示が診療契約上の債務不履行又は不法行為に当たるとはいえない。 ⑶被告が,診療録等に基づいててん末を報告すべき義務を負っており,同義務に違反したか。 (原告の主張)ア医療機関,医師ないし歯科医師は,患者に対し,準委任契約のひとつである診療契約に基づき,患者に対して行った診療内容についててん末報告義務(民法645条)を負う。特に,診療の結果,患者の身体に患者が予期せぬ重大な後遺症を来した場合には,患者がその経緯や原因を知りたいと思い,医師らにてん末の報告を求めるのは当然であり,医師らは診療の経過を最もよく知っているのであるから,医療機関,医師ないし歯科医師は,患者が重大な障害を残すに至った経過や原因につ 原因を知りたいと思い,医師らにてん末の報告を求めるのは当然であり,医師らは診療の経過を最もよく知っているのであるから,医療機関,医師ないし歯科医師は,患者が重大な障害を残すに至った経過や原因について,専門知識をもとに誠実に説明すべき義務を負う。 本件では原告の身体に重大な後遺症が生じているところであるから,被告が上記(2)のとおり診療録等を改ざん,隠匿した行為や,下記イのとおり別件医療過誤訴訟において被告側証人に偽証させた行為は,原告に対するてん末報告義務に違反するものであり,債務不履行又は人格権を侵害する不法行為に当たる。 また,診療録等の不提出が紛失によるものであったとしても,被告はてん末報告義務の債務不履行ないし不法行為に基づく責任を負う。 イ別件医療過誤訴訟における被告側証人の偽証原告の診療を担当した甲歯科医師は,別件医療過誤訴訟の第一審における証人尋問において,①平成4年2月4日の手術終了後に,原告及びその妻に対して,リンパ節に腫瘍があると考えていたが実際には唾液腺にあった旨の説明を行ったにもかかわらず,同事実を否定する旨,②本件腫瘍カルテ内に含まれる手術記録について,被告病院において保存されている手術記録はタイプ打ちの定型書式であるのが一般であり,本件腫瘍カルテに含まれる手術記録は手書きの形式であって正式な記録ではないにもかかわらず,これを正式の手術記録である旨,また,③外来カルテに含まれる「病理組織学的検査(一般)依頼・報告書」の既往標本番号欄右下の「⑨迅速標本」の記載は,実際に手術を執刀した臨床医により記載されたものであるにもかかわらず,病理医により記載された旨の各偽証を行った。 これらの虚偽の証言は,いずれも被告がその指示により証人に虚偽の事実を証言させたことによるものであり,原告に対する本件診療契約に基づ であるにもかかわらず,病理医により記載された旨の各偽証を行った。 これらの虚偽の証言は,いずれも被告がその指示により証人に虚偽の事実を証言させたことによるものであり,原告に対する本件診療契約に基づくてん末報告義務に違反するものである。 (被告の反論)ア民法645条の趣旨から,医療機関,医師ないし歯科医師は,診療契約に基づき,少なくとも患者本人の請求があるときは,その時期に説明・報告を行うことが相当でない特段の事情がない限り,患者に対し診断の結果,治療の方法,その結果等について説明・報告をすべき義務(てん末報告義務)を負う。しかし,この説明・報告に当たっては,診療録の記載内容の全てを告知する義務があるものではなく,その方法としても,診療録を示して行わなければならないものではなく,患者が実質的に理解できるために必要な範囲で,事案に応じて適切と思料される方法で説明・報告を行えば足りる。 本件診療については,診療録の改ざん,隠匿はなく,外来カルテ,本件 腫瘍カルテ,本件放射線カルテ及びその他の医療記録により,原告の病状,治療内容及び治療後の経過等の全てが客観的に明確になっており,「カルテに依拠した説明・報告」としても,てん末の報告は十分に行われている。 イ甲歯科医師が別件医療過誤訴訟で偽証を行ったとの主張は否認する。同歯科医師は事実に即して証言しており,証言内容に虚偽は含まれていない。 (4)被告の債務不履行ないし不法行為によって原告が被った損害及びその額(原告の主張)ア原告は,予期に反して重大な後遺症が残ったにもかかわらず,当然に開示されるべき診療録等の開示を受けられず,また,医師から診療録等に基づくてん末報告を受けることもできなかったため,自己の身体的不調の経過や原因を知ることができず,人格の尊厳を傷つけられ,多大な精神的苦 されるべき診療録等の開示を受けられず,また,医師から診療録等に基づくてん末報告を受けることもできなかったため,自己の身体的不調の経過や原因を知ることができず,人格の尊厳を傷つけられ,多大な精神的苦痛を被った。このような苦痛に対する慰謝料としては,1250万円が相当である。 イ原告は,本件診療の経過が診療録等の改ざん,隠匿により明らかにされなかったことから,医療過誤訴訟を提起するため,独自に医療文献を購入して真相の究明に役立てたほか,別件医療過誤訴訟における立証のため専門家である医師ら5名に私的鑑定書の作成を依頼したり,原告申請によって裁判所による鑑定を行わなければならず,医学文献の購入費として60万円,私的鑑定書の作成費用として120万円,裁判所による鑑定の費用として70万円の合計250万円を要した。 ウ被告は,上記損害額を任意に支払わないため,原告は本件訴訟の遂行を原告代理人に委任せざるを得ず,その報酬として200万円を要する。 (被告の反論)争う。 (5)不法行為に基づく損害賠償債権について消滅時効の成否(被告の主張) 本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①は,平成9年2月12日の証拠保全手続時点において既に不存在であり,原告はこのことを知っていた。よって,仮に原告の被告に対する損害賠償請求権が発生するとしても,原告の請求のうち不法行為に基づくものは,同日から3年の時効期間が経過しており,被告は同時効を援用する。 (原告の反論)否認ないし争う。 被告は,別件医療過誤訴訟の審理中,一貫して本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①は捜索中であると主張していたのであり,平成9年の証拠保全手続時点においてこれらの診療録が不存在であり,原告がこのことを知ったとはいえない。また,被告の不法行為は,平成9年の証拠保全 件手術関連記録①は捜索中であると主張していたのであり,平成9年の証拠保全手続時点においてこれらの診療録が不存在であり,原告がこのことを知ったとはいえない。また,被告の不法行為は,平成9年の証拠保全以前から順次行われており,平成10年9月の別件医療過誤訴訟提起後も,同訴訟の証人歯科医師の尋問における偽証証言も含め,平成17年2月の別件医療過誤訴訟判決の確定に至るまで継続していた。さらに,原告が主張する損害は,人格権侵害による慰謝料及び真相解明に要した費用であるから,原告がその損害を知った時点は,別件医療過誤訴訟の判決が確定し,本件診療についての真相解明の手段が尽きた平成17年2月である。よって,時効期間は経過していない。 第3当裁判所の判断 本訴請求が前訴の既判力に抵触したり,訴権濫用ないし信義則違反に当たるか(争点(1))。 (1)アまず,被告は,本訴請求のうちの不法行為に基づく損害賠償請求は,別件医療過誤訴訟において審理判断されたものと同一の診療契約に基づく本件診療について,歯科医師の不法行為を理由に損害賠償を求めるものであるところ,別件医療過誤訴訟の確定判決の既判力によって,本件診療について原告が不法行為による損害賠償請求権を有しないことが確定してい るから,上記損害賠償請求は前訴の既判力に抵触するものであり許されない旨を主張する。 しかしながら,乙2,3によれば,別件医療過誤訴訟は被告病院歯科医師の診療行為の過誤を理由として損害賠償を求めたものであったことが認められるところ,本訴請求の上記損害賠償請求は,診療録等の開示(及び開示のための保管)義務又はてん末報告義務の違反という診療行為以外の過誤を理由として損害賠償を求めるものであり,同一の診療契約に基づく社会的に一連のものであるからといって,訴訟物が同一であるという 開示のための保管)義務又はてん末報告義務の違反という診療行為以外の過誤を理由として損害賠償を求めるものであり,同一の診療契約に基づく社会的に一連のものであるからといって,訴訟物が同一であるということはできない。 そうすると,本訴請求の上記損害賠償請求が別件医療過誤訴訟の確定判決の既判力に抵触するとは解されず,この点に関する被告の主張には理由がない。 イ次に,被告は,本訴請求における上記損害賠償請求と別件医療過誤訴訟における請求とが直ちに同一の請求であるといえなくとも,上記損害賠償請求は確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求を行うことに当たり,訴権濫用となり許されない旨主張するところ,前訴と後訴とが訴訟物を異にする場合であっても,後訴が実質的には前訴の蒸し返しと評価される場合には,後訴の請求自体が信義則に照らして許されない場合もあると考えられる。 そこで本件についてみるに,乙2,3によれば,原告は,既に,別件医療過誤訴訟においても,入院カルテが開示されていないことを主張したり,被告から開示された腫瘍カルテが改ざんされたものであるとして,その信用性を争ったりしており,これに対し,別件医療過誤訴訟の裁判所が,腫瘍カルテの記載を信用できるものと判断した上,腫瘍カルテ及びその他の医療記録に基づいて事実を認定し,被告に過失がないものと判断していることが認められる。しかしながら,別件医療過誤訴訟の確定判決の既判力 は,その訴訟物からみて,被告に診療行為の過誤を理由とする不法行為による損害賠償義務がないことに及ぶにすぎず,腫瘍カルテの信用性に関する判断に及ぶものではない上,入院カルテが開示されていないことについては何らの判断もされていないのであるから,上記損害賠償請求を確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する請求を行うも の信用性に関する判断に及ぶものではない上,入院カルテが開示されていないことについては何らの判断もされていないのであるから,上記損害賠償請求を確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する請求を行うものとはいえない。また,本訴請求と同様の請求を別件医療過誤訴訟において行うべきであったとまではいえず,その他原告が被告を不当に不安定な地位に置いたような事情を認めるべき証拠もない。 したがって,本件請求が訴権濫用に当たり許されないものと解することはできない。 (2)また,被告は,本件請求のうちの債務不履行に基づく損害賠償請求は,訴訟物は異なるものの,実質的には敗訴に終わった別件医療過誤訴訟の請求及び主張の蒸し返しに当たり,信義則違反として却下されるべきであると主張する。 しかしながら,上記(1)に説示判断したところと同様,上記損害賠償請求も確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する請求を行うものとはいえないし,また,本訴請求と同様の請求を別件医療過誤訴訟において行うべきであったとまではいえず,その他原告が被告を不当に不安定な地位に置いたような事情を認めるべき証拠もない。 したがって,上記損害賠償請求は,実質的に別件医療過誤訴訟の蒸し返しに当たるとはいえず,信義則違反となるものではない。 (3)よって,被告の本案前の主張はいずれも理由がない。 被告が原告に対し,診療契約上の付随義務として診療録等を開示(及び開示のために保管)すべき義務を負っていたか。負っていた場合には,被告がその義務に違反したか(争点(2))。 (1)まず,原告は,医療機関が,患者に対し,診療契約に付随する義務とし て診療録等の開示(及び開示のための保管)を行うべき義務を負い,医療機関が同義務に違反した場合には診療契約の債務不履行に基づく責任を負うとともに,患者の人格 に対し,診療契約に付随する義務とし て診療録等の開示(及び開示のための保管)を行うべき義務を負い,医療機関が同義務に違反した場合には診療契約の債務不履行に基づく責任を負うとともに,患者の人格権を侵害するものとして不法行為に基づく責任を負うと主張するので,以下検討する。 (2)医師ないし歯科医師(以下「医師ら」という。)の診療行為は,診察,検査,診断及び治療等の行為を含む継続的な過程であり,患者の症状の経過を観察しつつ互いに関連性を有する個々の行為が合目的的に積み重ねられてゆくものであることから,医師らは患者の経過を把握していなければ適切な診療を行うことができない上,医師らは通常は多数の患者を同時並行的に診療しているのであるから,医師らが診療契約に基づいて適切な診療を行うためには,個々の患者ごとに診療経過を明らかにした記録を作成する必要が生じると考えられる。そうすると,患者としても,医師らに対し,上記のような記録を作成してこれに基づいて適切な診療が行われることを求めているはずであるから,医師らは,診療契約上も,患者に対し,上記の診療経過を明らかにした記録を作成し保存すべき義務を負っているものと解するのが相当である。 しかしながら,上記の作成・保存義務は,前記のとおり,適正診療の確保の手段としてのものにすぎないから,患者側から医師らに対し,診療契約上,説明義務等の一環として診療録等を示しながら説明するよう求めることができる場合は別として,説明義務等とは別個独立の一般的な権利として,診療録等の開示(及び開示のための保管)を求めることはできないというべきである。 もっとも,医師法及び歯科医師法には,作成した医師らないしその医師らの勤務する病院の管理者が診療録を5年間保存すべき義務を負うことが定められているが(以上につき医師法24条, いというべきである。 もっとも,医師法及び歯科医師法には,作成した医師らないしその医師らの勤務する病院の管理者が診療録を5年間保存すべき義務を負うことが定められているが(以上につき医師法24条,同法施行規則23条,歯科医師法23条,同法施行規則22条参照),その趣旨は,医師らに診療録を作成・ 保管させることによって,患者に適正な診療が行われるようにするとともに,診療録を通じて医務を行政的に取り締まるという行政目的を主とするものと解されるから,これを根拠に,患者側に,説明義務等とは別個独立の一般的な権利として,診療録等の開示(及び開示のための保管)を求める権利があるということはできない。 また,独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律は,当該個人情報の本人に個人情報の開示請求権,訂正請求権及び利用停止請求権等を認めているが,同法によって定められた手続によって個人情報の公開を請求することができるからといって,直ちに患者が診療契約に基づいて診療録等の開示を求める権利を有するものとはいえないし,同法は平成16年4月1日に施行されたものであるところ,同法施行の時点で医療機関が保管していない診療録等の開示請求権を認めるものでもない(なお,上記法律に基づく開示請求に対してなされた決定に不服がある場合には,同法所定の不服申立ての方法による救済を求めるべきである。)。 (3)以上によれば,医療機関が,患者に対し,診療契約に付随する義務として診療録等の開示(及び開示のための保管)を行うべき義務を負うものとはいえないから,被告の診療録等の開示(及び開示のための保管)義務違反をいう原告の主張は,その前提を欠き,その余について判断するまでもなく理由がないこととなる。 被告が,診療録等に基づいててん末を報告すべき義務を負っており,同義務に び開示のための保管)義務違反をいう原告の主張は,その前提を欠き,その余について判断するまでもなく理由がないこととなる。 被告が,診療録等に基づいててん末を報告すべき義務を負っており,同義務に違反したか(争点(3))。 (1)ア診療契約とは,患者等が医師ら又は医療機関等に対し,医師らの有する専門知識と技術により,疾病の診断と適切な治療をなすように求め,これを医師らが承諾することによって成立する準委任契約であると解され,医師らは民法645条により,少なくとも患者の請求があるときは,その時期に説明・報告することが相当でない特段の事情がない限り,本人に対 し診療の結果,治療の方法,その結果などについて説明及び報告すべき義務(てん末報告義務)を負うといえる。 もっとも,医師らの患者に対する説明,報告の内容,方法等自体が委任者である患者の生命,身体等に重大な影響を与える可能性もあることから,患者に対する説明,報告の内容,方法等に際しては医師等の専門的な判断も尊重されるべきであり,医師らに一定の裁量が認められ,てん末の報告も,事案に応じて適切な方法で行われれば足りるというべきである。そして,医師らが適切な方法でてん末の報告を行う場合に,診療録等を示して行う必要があるか否かは,当該診療の内容,医師らが行った説明,当該診療録等の記載内容の重要性,医師らが当該診療録等を示すことができない事情,患者がてん末報告のために診療録等を示すよう求める理由や必要性,報告時の患者の症状等の具体的事情を考慮して決すべきものと解される。 イそこで,本件診療について被告が診療録等を示しててん末の報告を行うべき義務を負うかを検討するに,前記前提事実に,甲18の1,2,甲19,乙1の1ないし3,乙2ないし5,21,23,証人甲及び同乙を総合すれば,以下の事実が認め が診療録等を示しててん末の報告を行うべき義務を負うかを検討するに,前記前提事実に,甲18の1,2,甲19,乙1の1ないし3,乙2ないし5,21,23,証人甲及び同乙を総合すれば,以下の事実が認められる。 (ア)本件診療の経過a原告は,A病院で舌左縁部分の舌白板症の治療を受けていたが,転勤を契機として,平成3年4月22日以降,被告病院の第二口腔外科に通院していた。原告は,平成4年1月16日の診察において,左側顎下リンパ節について転移癌の疑いとの診断を受けたため,同月30日に被告病院に入院し,同年2月4日,患部の手術が行われた。同手術の冒頭において病変部分の術中病理組織検査が行われ,左オトガイ下のリンパ節に転移性の扁平上皮癌があることが判明し,そのまま左全頸部郭清術(頸部のリンパ網等の組織をまとめて切除する手術)及び左下顎骨部分切除術を受け,同月27日に退院した(「本件入院カ ルテ①」に対応する入院及び「本件手術関連記録①」に対応する手術)。 (乙1の1ないし3,乙4,甲19)b原告は,同月24日から同年4月20日までの間,下顎部及び頸部等に対する放射線治療を受け,またこれと並行して化学療法も受けた。 この間,同年3月18日,放射線性の口内炎により食事の経口摂取が困難であったために入院し,同年4月20日に退院した(「本件入院カルテ②」に対応する入院)。 (乙1の1ないし3)c原告は,同年8月ころから舌部の硬結及び疼痛を訴え,同年9月24日,歯肉の欠損と下顎骨の口腔内露出等が認められ,放射線性骨髄炎の診断を受けた後,同年10月2日,舌部疼痛と口腔内出血があり,治療のため同日入院し,同月12日に退院した(「本件入院カルテ③」に対応する入院)。 以後,原告は,放射線性骨髄炎による口腔内出血等の治療のため,同年10月20日から ,舌部疼痛と口腔内出血があり,治療のため同日入院し,同月12日に退院した(「本件入院カルテ③」に対応する入院)。 以後,原告は,放射線性骨髄炎による口腔内出血等の治療のため,同年10月20日から同月30日,同年11月5日から同月10日,及び同月15日から同月19日の間,それぞれ入院した(「本件入院カルテ④」ないし「本件入院カルテ⑥」に対応する入院)。 (乙1の1ないし3)d原告は,平成4年11月19日の退院以降も被告病院に通院し,放射線性骨髄炎の治療のために高圧酸素療法等の治療を受けた。平成6年3月ころになり,腸骨皮弁等を下顎部に移植し,またチタンプレートを埋め込み,インプラントにより歯を形成するなどの下顎骨の再建術を行うことが検討され,原告は,同年4月6日に入院し,同月12日,下顎骨区域切除術,右側上頸部郭清術,血管柄付き腸骨皮弁による再建及び植皮の手術を受けた(「本件手術関連記録②」に対応する 手術)。 しかし,上記手術後,移植を試みた皮弁が壊死し,移植した骨が計画どおりに下顎部に生着しなかったなどのため,同年6月28日にプレート再固定,腐骨除去及び血管柄付き腸骨皮弁・前腕皮弁による再建の手術(「本件手術関連記録③」に対応する手術)を受けた上,さらに,以後平成7年8月14日までの間,合計7回の再建術等の手術を受けた。 (乙1の1,2,弁論の全趣旨)(イ)原告の症状原告の症状は,上記(ア)dの下顎再建術等によっても大きく改善せず,原告の下顎は,現在,わずかに薄い骨が残存するのみの強度の小顎の状態であり,上下の顎は咬合できず,開口が不十分である一方,閉口は不能な状態である。また,下歯を喪失し,舌はほぼ動かない状態であり,咀嚼機能を喪失し,舌の味覚及び知覚は麻痺している。気管は閉塞状態であり,口及び鼻から呼吸することが 開口が不十分である一方,閉口は不能な状態である。また,下歯を喪失し,舌はほぼ動かない状態であり,咀嚼機能を喪失し,舌の味覚及び知覚は麻痺している。気管は閉塞状態であり,口及び鼻から呼吸することができないため,喉に穴をあけて呼吸を行っている。 原告は,顔貌を覆い,唾液が垂れるのを防ぐなどのために日常的にマスクを着用している。食事は液体状のものを特殊なほ乳瓶を使って摂取するものの,誤飲が多く,また,痰が詰まるためにこれを除去する必要がある。会話では,構音不良のため明瞭に発話することが困難である。 下顎への骨の移植により,下肢の運動にも障害が生じ,歩行には杖が必要であり,また長時間の外出は困難である。 原告は,これらの障害により,平成9年7月に身体障害1級の認定を受けている。 (甲42,原告本人)ウ以上によれば,転移癌の摘出及びその後の癌の再発防止のための放射線 治療により一定の後遺症が残ることは,被告に治療上の過失がなかったとしても生じうることであると考えられるものの,原告にとっては予期しない身体障害1級という重篤な後遺症を有するに至っているのであるから,原告が,診療の経過について,診療録等に基づいて具体的な詳細を知りたいと考えることには十分な理由がある。また,診療録を示しててん末の報告を行うことに支障があったとはいえない。そうすると,被告は,原告に対し,診療録等に基づいててん末報告を行うべき義務を負っていたものと解すべきである。 (2)そこで次に,本件において,被告がてん末報告義務に違反したと認められるか否かについて判断する。 アまず,原告は,開示された本件腫瘍カルテ等が被告において改ざんされたものであるから,本件腫瘍カルテ等について,診療契約上のてん末報告義務が果たされたとはいえない旨主張するので,以下検討する(なお,乙 ず,原告は,開示された本件腫瘍カルテ等が被告において改ざんされたものであるから,本件腫瘍カルテ等について,診療契約上のてん末報告義務が果たされたとはいえない旨主張するので,以下検討する(なお,乙1の1及び2には,本件証拠保全手続に際して作成された検証調書別紙丁数1ないし313が付されており,以下において必要がある場合は,これらの証拠については丁数も示す。)。 (ア)本件腫瘍カルテについてa原告は,本件腫瘍カルテについて,乙歯科医師が,平成7年末ころになって,平成6年4月ないし7月の腫瘍カルテの記載について,原告に対する十分な説明と真摯な承諾があったことをカルテ上に記載するため,メモ(以下「本件指示メモ」という。)によって,「4/6~7/12まで概略でなくKrへの説明を入れて書く」,「再建は100%成功するものでないことを言っていますので記入してほしい」などの原告への説明に関する加筆を他の医師に指示したと主張するほか,以下のような事情を主張して,本件腫瘍カルテ自体が訴訟対策用に編集されて作成された改ざん文書である旨を主張する。 ①被告病院で用いられる腫瘍カルテは書込み式定型書式で作成されるところ,本件腫瘍カルテは雑多な文書の合成であり,外来カルテ用の用紙や入院カルテ用の用紙が混在して用いられており,時系列に綴られているわけでもない。また,冒頭の書込み定型書式部分には腫瘍の経過,腫瘍の部位,病理学的所見など原告の基本的な情報等が記載されるべきであるところ,記入のない頁が多く,本来の腫瘍カルテとしての用をなさない。 ②175丁に放射線の照射量を確認する付せんが挿入されており,また「計○Gy」のように放射線量等の記入を指示する記載があるが,その一部に記入がなされないままである。また,上記付せんが本件証拠保全の後平成17年 放射線の照射量を確認する付せんが挿入されており,また「計○Gy」のように放射線量等の記入を指示する記載があるが,その一部に記入がなされないままである。また,上記付せんが本件証拠保全の後平成17年の情報開示までの間に隠匿された。 ③227丁には,「戊Drより今後の予定説明(9/○)…別紙」の○印に矢印が付され,「checkお願いします」と日付を確認して記入するよう指示が付されており,また,同丁には原告への説明につき「別紙」などと記載があり,欄外に「参考乙」との記載があるが,これらのような記載は,本来のカルテには考えられない不自然・不要なものである。 ④平成9年の本件証拠保全手続において提示された本件腫瘍カルテ中の病理組織学的検査(一般)依頼・報告書(乙1の2の310丁,甲8)では,「020205」の年月日の記載が「040205」に訂正されている一方,平成12年の証拠保全手続では年月日の訂正はされておらず,平成17年の情報開示では「頸部ソシキ」という加筆がなされていることから,同依頼・報告書は三通り存在する。 ⑤平成17年の情報開示によって,241丁と242丁の間に9枚の白紙用紙があるなど,未記入の用紙があったことが初めて判明したが,これらは本件証拠保全手続の後にさらに記入する予定のもの であったが,本件証拠保全手続では何らかの理由で複写されなかったものと考えられる。 ⑥本件腫瘍カルテには,原告に対する説明が不自然に長く記載されている。 ⑦本件腫瘍カルテと入院ないし外来カルテとの間には記載内容に齟齬があり,本件腫瘍カルテでは,入院ないし外来カルテの不都合な部分を削除するなどしている。 bそこで検討するに,腫瘍カルテの体裁及び記載内容について,甲8,13,17及び18の各の1,2,甲34,乙1の2及び弁論の全趣旨によれ 院ないし外来カルテの不都合な部分を削除するなどしている。 bそこで検討するに,腫瘍カルテの体裁及び記載内容について,甲8,13,17及び18の各の1,2,甲34,乙1の2及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (a)乙1の2の142ないし156丁には,患者の氏名住所,主訴,来院までの経過及び既往歴等の基本的記載,並びに現症状,初診時X線検査,CT所見,組織学的所見,治療及び組織学的評価等,初診時に記入されることを想定された腫瘍カルテの定型書式が使用されているが,本件腫瘍カルテでは,口腔内図,頭部図,現症状についての記入,TNM分類,頸部リンパ節の図とその状態,X線検査,CT所見,組織学的所見,組織学的評価等の部分には何も記載がなかった。 (b)157丁以降は,統一された用紙ではなく,被告病院で使用されている外来カルテ用紙や入院カルテ用紙等が混在して使用され,また,241丁までは左綴じであるのに対し,242丁以降は上綴じであり,紹介状,投薬治療の臨床成績経過,病院ないし各科医師間でやりとりされた経過報告書,原告が歯科医師に宛てた書面,患部や平成4年2月の手術における摘出部位の写真,紹介状,レントゲン検査報告書,CT検査報告書等が必ずしも時系列でなく綴じられていた。 (c)175丁には,放射線の照射量を確認する付せんが挿入されており,また「計○Gy」のように放射線量等の記入を指示する記載があるが,その一部に記入がなされないままであった。その後,上記付せんは,平成17年に原告が本件腫瘍カルテの開示を受けた際には挿入されていなかった。 (d)227丁には,「戊Drより今後の予定説明(9/○)…別紙」の○印に矢印が付され,「checkお願いします」と日付を確認して記入するよう指示が付されており,また,同丁には原 れていなかった。 (d)227丁には,「戊Drより今後の予定説明(9/○)…別紙」の○印に矢印が付され,「checkお願いします」と日付を確認して記入するよう指示が付されており,また,同丁には原告への説明につき「別紙」などと記載があり,欄外に「参考乙」との記載があった。 (e)平成9年の本件証拠保全手続において提示された本件腫瘍カルテ中の病理組織学的検査依頼書・報告書(乙1の2の310丁,甲8)には,「020205」の年月日の記載が「040205」に訂正されている一方,平成12年の証拠保全手続では年月日の訂正はされておらず,平成17年の情報開示では「頸部ソシキ」という加筆がなされている。 (f)原告が平成17年に開示を受けた際には,本件証拠保全手続の検証調書別紙には含まれていない白紙用紙がまとめて9枚挿入されていたほか,同別紙に含まれない白紙部分用紙が相当数あった。 (g)本件証拠保全手続の検証調書別紙のうち,本件腫瘍カルテ(乙1の2)の162丁ないし234丁のうちには,平成4年ないし6年の入院又は外来カルテの記載の一部をコピーしたものや,同一の事項について要約を記載したものが含まれている。 cまた,甲3,乙1の2,乙21,23及び弁論の全趣旨によれば,被告病院では,一般に,外来カルテ及び入院カルテは診察を終えた患者が会計や他の科で受診するためなどで自ら持ち歩くこともあるとこ ろ,腫瘍カルテは,外来カルテ及び入院カルテのほかに,悪性腫瘍患者について,その情報,腫瘍の所見,治療方法及び経過観察などの事項について整理して記載し,患者の治療方針の立案,経過観察及び研究に用いる目的で被告病院において作成しているものであり,冒頭の書込み式の定型書式の後,時系列の記載及び書簡類,画像・病理の検査結果等を綴じ込むなどして作成され 患者の治療方針の立案,経過観察及び研究に用いる目的で被告病院において作成しているものであり,冒頭の書込み式の定型書式の後,時系列の記載及び書簡類,画像・病理の検査結果等を綴じ込むなどして作成されるものであることが認められる。 d上記cのような腫瘍カルテの性格に照らすと,本件腫瘍カルテが,定型書式部分を除いて用紙が不統一であり,また必ずしも時系列に綴じられていないことも,本件腫瘍カルテが本来の腫瘍カルテとして不自然であるとまでいえるものではない。また,原告については,先に認定したところによれば,平成3年に他の病院から転院して被告病院に通院するようになり,また,被告病院における初診時の原告の症状は舌部の白板症であって悪性腫瘍自体ではなかったところ,継続して通院した後の平成4年1月になって転移癌の疑いが生じたという事情があるから,定型書式部分について,初診時のレントゲン検査結果や組織学的所見等の記載がなかったとしても,このことをもって本件腫瘍カルテが本来の腫瘍カルテとして不自然であるともいえない。 もっとも,甲8,甲18の1の965丁,乙23及び証人乙によれば,乙歯科医師が,平成7年ころ,原告に対し下顎再建術に先立って説明を行った際の説明内容を記載した平成6年4月ころの入院カルテないし腫瘍カルテの記載について,「4/6~7/12まで概略でなくKr(患者)への説明を入れて書く<<特にOpe前の説明>>6/21の説明コピーを入れておきましたが再建は100%成功するものでないことを言ってますので記入してほしい)」という記載のあるメモを,入院カルテの平成6年6月21日の記載に続く部分に挿入して,上記記載を行った後輩の丁歯科医師に対し,腫瘍カルテに加筆 を依頼したことが認められる。しかし,先に認定したところによれば,同指示は原告の下顎 テの平成6年6月21日の記載に続く部分に挿入して,上記記載を行った後輩の丁歯科医師に対し,腫瘍カルテに加筆 を依頼したことが認められる。しかし,先に認定したところによれば,同指示は原告の下顎再建術に関する診療の継続中であり,また,本件診療について紛争が生じる以前であり,ことさらに事実に反する記載をしようとした事情はうかがわれないから,本件指示メモが改ざん指示行為であると認めることはできない。 また,原告は,本件腫瘍カルテには同時期に対応する入院・外来カルテと異なる記載があり,被告が入院・外来カルテの記載内容を一部削除して本件腫瘍カルテを作成したと主張するが,通院・入院カルテと腫瘍カルテとではその性格が異なるから記載の要否にも差異があり,その内容が細部まで同一でなければならないとはいえないところ,原告が指摘する差異(甲34)はいずれもその内容が矛盾するようなものではない。また,本件証拠保全手続においては,原告が記載内容の差異を指摘するところの入院・外来カルテも本件腫瘍カルテと同時に提示されていた上,原告が指摘する上記の記載内容の差異が,特に被告にとって隠さなければならない不利な事柄であったとは認められない。これらの事情に照らせば,被告が腫瘍カルテを訴訟対策用の編集物として作成したものであるとは考え難い。 原告はその他上記aの事情等を挙げて本件腫瘍カルテが訴訟対策用文書であると主張するところ,上記bの事実が認められるが,これらの事実によっても,本件腫瘍カルテが訴訟対策用の文書であるとはいえない。また,本件証拠保全手続においては,本件腫瘍カルテのほか,本件外来カルテ,平成6年以降の入院カルテ等の本件診療に関して作成された医療記録が提示され,別件医療過誤訴訟において本件放射線カルテも提出されており,これらの医療記録と本件腫瘍カルテと ルテのほか,本件外来カルテ,平成6年以降の入院カルテ等の本件診療に関して作成された医療記録が提示され,別件医療過誤訴訟において本件放射線カルテも提出されており,これらの医療記録と本件腫瘍カルテとの間には,内容上大きな齟齬があるものとは認められない。 eしたがって,本件腫瘍カルテが被告において改ざんされたものとは 認められず,この点に関する原告の主張は採用できない。 (イ)本件放射線カルテについて原告は,被告が放射線の過剰照射がもたらした下顎部の重篤な合併症の実体を隠すために本件放射線カルテを改ざんしたと主張する。 確かに,甲10及び乙1の3によれば,本件放射線カルテについて,本件証拠保全手続の検証調書別紙には,写真フィルムの枠が添付されている頁(甲10の10枚目)が含まれていなかったことが認められる。 しかし,原告が指摘する頁が,本件証拠保全手続においてそもそも被告から提示されなかったのかどうかは明らかではない。また,本件証拠保全手続においては本件通院カルテ及び本件腫瘍カルテ,本件画像検査報告書に対応するCT画像等は提示されており,これらのカルテ等には,各入院の前後の通院や緊急入院に至るまでの口腔内出血等に関する記載があるし,本件腫瘍カルテ内にも合併症についての記載がある上,CT画像等により原告に対する放射線治療の経過も把握できる。このような中で,被告が本件放射線カルテを改ざんする必要性は認められず,この点に関する原告の主張は採用できない。 (ウ)看護記録等について原告は,本件証拠保全手続の検証調書別紙(本件外来カルテ,平成6年以降の入院カルテ及び看護記録等)と,平成17年に原告が情報開示を受けた本件放射線カルテ,本件入院カルテ等の該当部分とを比較して,これらについても改ざんがあった旨を主張している。 原告が指摘するとおり 降の入院カルテ及び看護記録等)と,平成17年に原告が情報開示を受けた本件放射線カルテ,本件入院カルテ等の該当部分とを比較して,これらについても改ざんがあった旨を主張している。 原告が指摘するとおり,甲11の12,甲17の1,2,甲18の1,2及び乙1の3によれば,①看護記録が鉛筆書きであり,またその一部には看護目標の記載がないこと,未記入の白紙が綴じられていること,他の患者のものが3頁にわたり混入していること(以上につき甲11の1,2),②平成6年以降の入院カルテについて,本件証拠保全手続の 検証調書別紙に「検査報告貼付台紙」1頁(甲17の1の左上に「98」の記載のある頁)が含まれていないこと,白紙が綴じられていること(以上につき甲17の1,2)などが認められるが,本件証拠保全手続の検証調書別紙に含まれていない頁が,本件証拠保全手続において提示されなかったものか,白紙であったなどのために複写されなかったにすぎないものかは不明であり,また,白紙の挿入や鉛筆書き等があったからといって直ちに改ざん行為が予定されていたと推認することもできない。さらに,平成17年の情報開示で明らかになった事項が,被告において隠匿ないし改ざんを行うような被告に不利益な事項であるとも認められない。 そうすると,これらの事情によっても,被告が故意に改ざんを行ったことを認めることはできない。 (エ)以上によれば,開示された本件腫瘍カルテ等が被告において改ざんされたものであることを前提とする診療契約上のてん末報告義務違反の主張は理由がない。 イ次に,原告は,被告が別件医療過誤訴訟において甲歯科医師に偽証をさせたとして,これが診療契約上のてん末報告義務違反となる旨主張するが,証人として証言することは民事訴訟法上の証拠調べであり,原告が被告にてん末報告を求めてい 医療過誤訴訟において甲歯科医師に偽証をさせたとして,これが診療契約上のてん末報告義務違反となる旨主張するが,証人として証言することは民事訴訟法上の証拠調べであり,原告が被告にてん末報告を求めているものではないから,仮に原告主張の偽証があったとしても,これをてん末報告義務に違反するものということはできない。 ウさらに,原告は,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①ないし③が開示されていないことにより,これらに基づくてん末報告義務が履行されていない旨主張するので,以下検討する。 (ア)a原告は,i.診療録等の管理・保管が行われているはずの被告病院において,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①ないし③が紛失したとは考えがたい,ii.本件入院カルテ①ないし⑥及び 本件手術関連記録①ないし③には,原告の担当歯科医師がオトガイ下リンパ節の転移癌を認識した経緯,同転移癌摘出後における同担当歯科医師の理解,その後放射線治療が行われた経緯,原告が放射線性骨髄炎と診断された後,口腔内壊死,剥離脱落,口腔底の瘻孔等の重篤な合併症が発生した経緯及び下顎再建術の内容等が記載されており,被告の医療過誤の成否を解明するために不可欠の医療記録であった,iii.平成9年の本件証拠保全手続には被告の担当歯科医師らが立ち会っており,本件診療に係る診療録の一部を提出しないよう指示等を行ったと考えられるなどとして,被告が本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①ないし③を隠匿したと主張する。 bそこで,被告病院における診療録の保管状況,本件証拠保全手続及び別件医療過誤訴訟の経緯並びに本件腫瘍カルテの記載について検討するに,甲7の2,甲18の1,2,乙1の2,乙2,3,5,6,21ないし23,証人甲,同乙,同丙及び弁論の全趣旨によれば,以下の 及び別件医療過誤訴訟の経緯並びに本件腫瘍カルテの記載について検討するに,甲7の2,甲18の1,2,乙1の2,乙2,3,5,6,21ないし23,証人甲,同乙,同丙及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (a)被告においては,平成9年当時,退院した患者の入院カルテは,外来カルテとは別に業務課が管理・保管しており,患者毎に番号を付してファイルにしていたこと,主治医のほか歯科医師の資格を有する者は,研究等のために任意に入院カルテを借り出すことが可能であり,具体的症例を研究するために主治医以外の歯科医師が入院カルテを借り出すこともあったこと,カルテを借り出す際にはカルテ貸出簿に氏名等を記入することになっていた。 (甲7の2,乙21,22,証人丙及び弁論の全趣旨)(b)本件証拠保全手続について平成9年2月12日,被告病院で原告が受けた診療に関して作成・保管されている医療記録,及び被告大学医学部付属病院で原告が 受けた診療に関して作成・保管されている医療記録を対象として本件証拠保全手続が行われた。甲歯科医師及び乙歯科医師は,平成9年2月12日午後1時30分の本件証拠保全開始時は被告病院から外出していたが,上司から本件証拠保全手続の開始を知らされて被告病院に戻るよう指示を受け,手続開始後に被告病院に戻り,途中から手続に立ち会った。 被告は,被告病院における本件診療について作成された医療記録として本件外来カルテ(乙1の1)及び本件腫瘍カルテ(乙1の2)等を裁判所に提示し,これらが複写され,番号1ないし1514までの丁数が付されて検証調書に添付された。しかし,本件入院カルテ①ないし⑥,本件手術関連記録①及び本件放射線カルテは提示されなかった。 なお,本件証拠保全手続に立ち会った被告の担当者は,裁判所に対し,検証の目的物で被告 調書に添付された。しかし,本件入院カルテ①ないし⑥,本件手術関連記録①及び本件放射線カルテは提示されなかった。 なお,本件証拠保全手続に立ち会った被告の担当者は,裁判所に対し,検証の目的物で被告病院にあるものは提示したもので全てである旨を説明した。 本件証拠保全は,同日午後8時30分ころ,被告病院から裁判所に提示された診療録等の複写を終えて終了した。 (甲18の1,2,乙1の1,2,乙5,乙21,乙23,証人甲,同乙)(c)別件医療過誤訴訟について原告は,平成10年9月11日に訴訟提起した別件医療過誤訴訟の訴状において,平成3年から平成4年にかけて癌の発見が遅れた過失,平成4年の放射線治療における放射線の過剰照射,平成6年に下顎再建術を行うに際しての説明義務違反を主張しており,その後同事件では,主張の整理を経て,①リンパ節の転移癌及び節外浸潤が存在せず,左全頸部郭清術,左下顎骨部分切除術とその後の放 射線治療を行う必要がなかったにもかかわらずこれを行った過失,②リンパ節への転移癌の発見が遅れた過失,③放射線の過剰照射を行った過失,④抗癌剤の大量投与により放射線性骨髄炎を生じさせた過失,放射線治療を行うに際しての説明義務違反,⑤下顎再建術を行うに際しての説明義務違反等が争点となった。 なお,原告代理人は,平成12年12月5日,被告代理人に対し,本件入院カルテ①及び⑥及び本件手術関連記録①ないし③などを証拠として提出することを求めたが,被告代理人は,同月6日,別件医療過誤訴訟の口頭弁論期日において,診療録は不存在であり探している旨の回答をした。 被告は,別件医療過誤訴訟において,証拠として本件放射線カルテ(乙1の3)を提出し,原告は,これにより初めて本件放射線カルテの開示を受けた。 (乙1の3,乙2,3,6,弁論の全趣旨) 回答をした。 被告は,別件医療過誤訴訟において,証拠として本件放射線カルテ(乙1の3)を提出し,原告は,これにより初めて本件放射線カルテの開示を受けた。 (乙1の3,乙2,3,6,弁論の全趣旨)(d)本件腫瘍カルテの記載についてi本件腫瘍カルテのうち166ないし169丁には,平成4年2月4日の左全頸部郭清術及び左下顎骨部分切除術の手術(本件手術関連記録①に対応する手術)についての手術記録が記載された用紙が貼付されている。同用紙には,冒頭に術式,術者,所要時間が記載され,下顎部を切開し,腫瘍部分を切除して術中病理組織検査を行い,扁平上皮癌との検査結果が出たために切開を拡大して郭清を行い,腫瘍部分に接した下顎骨を一部切除するなどして創部を縫合し,手術を終了したことなどの手術経緯が記載されている。 ii本件腫瘍カルテのうち165丁及び169丁の下部ないし174丁には,本件入院カルテ①に対応する入院期間中の診療に関し, 摘出部位に関する検査所見,投薬治療,放射線の照射部位と照射量,手術後の舌部及び下顎部の所見等が記載されている。 iii本件腫瘍カルテのうち175丁の下部ないし177丁,179丁ないし180丁には,本件入院カルテ②に対応する入院期間中の診療に関し,放射線性口内炎による経口摂取不可のために管理入院したこと,放射線の照射部位や照射量,舌,口腔内,頸部の所見,全身状態の所見等が記載されている。 iv本件腫瘍カルテのうち183丁ないし189丁には,本件入院カルテ③ないし④及び⑥の各入院期間に対応する診療に関し,口腔内出血により緊急入院したなどの経緯,いったん経口摂取可能となり退院したこと,口腔内出血により再度入院したこと,骨露出,潰瘍,硬結及び瘻孔形成などの口腔及び頸部の所見,全身所見,胸部X線検査により癌の転移が り緊急入院したなどの経緯,いったん経口摂取可能となり退院したこと,口腔内出血により再度入院したこと,骨露出,潰瘍,硬結及び瘻孔形成などの口腔及び頸部の所見,全身所見,胸部X線検査により癌の転移が認められなかったこと,疼痛軽減等のための投薬治療の経過などについて記載されている。 v本件腫瘍カルテのうち193丁ないし195丁(なお,194丁と195丁の間には,丁数が付されていないが診療経過が記載されている頁が1枚ある。)には,本件手術関連記録②に対応する手術記録が含まれており,冒頭に術式及び術者が記載され,右側下顎部郭清を行い,下顎部にチタンプレートを埋め込んでビス固定し,腸骨皮弁を採取して患部に移植したこと,移植した皮弁を口腔に縫合して創部を縫合し,手術を終了したことなどが記載されている。 vi本件腫瘍カルテのうち196丁ないし198丁には,本件手術関連記録③に対応する手術記録が含まれており,現在の状況,予定している下顎部の再建のための術式,術後に発生する可能性のある後遺症等に関する原告に対する説明内容が記載され,それに 続き手術記録が記載されており,術式及び術者が記載され,下顎部を切開して埋め込まれているチタンプレートの再固定を行ったこと,腸骨皮弁等を採取して患部に移植したことなどが記載されている。 (以上について乙1の2,乙9)c上記認定によれば,本件手術関連記録②及び③は原告に開示されている本件腫瘍カルテの中に存在していたことが認められるから,本件手術関連記録②及び③に基づくてん末報告義務は履行されたものと認められる。 なお,原告は,本件放射線カルテ,本件画像検査報告書及び本件診断書等が本件証拠保全手続において提示されなかったことがてん末報告義務違反に当たるとも主張するところ,上記認定のとおり,被告は,本件証拠 なお,原告は,本件放射線カルテ,本件画像検査報告書及び本件診断書等が本件証拠保全手続において提示されなかったことがてん末報告義務違反に当たるとも主張するところ,上記認定のとおり,被告は,本件証拠保全手続において本件放射線カルテを提示しておらず,また,本件画像検査報告書等及び本件診断書等を提示したか否かは明らかでない。しかし,仮にこれらが提示されていなくても,証拠保全手続は民事訴訟法上の証拠調べであり,原告が被告にてん末報告を求めているものではないから,上記の不提示をもって,てん末報告義務に違反するものということはできない。 dそこで,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①についてさらに検討するに,上記認定によれば,被告病院では,平成9年当時,診療録を管理・保管する一応の体制が整えられていたのであるから,被告がこれらの診療録を簡単に紛失するとは考え難い。 しかしながら,他方,上記認定によれば,被告は本件証拠保全手続において本件腫瘍カルテを提示し,原告に対してこれを開示しているところ,本件腫瘍カルテには,本件入院カルテ①ないし④及び⑥に対応する入院期間の診療経過の記載や,本件手術関連記録①に対応する 手術記録の記載が含まれていること(なお,本件入院カルテ⑤については,本件腫瘍カルテ中にこれに対応する記載は含まれていないものの,上記(イ)のほか乙1の1の31ないし33丁によれば,本件入院カルテ⑤に対応する入院の期間は6日間であり,その間の診療内容は口腔内出血等の治療であったことが認められる。),本件入院カルテ②ないし⑥に対応する入院期間の診療内容は,転移癌の発見と摘出,それに続く放射線治療及び化学療法が終了した後の,放射線治療の結果発生した口腔内出血ないし放射性骨髄炎等の診療ないし治療であって,放射線の過剰照射や抗癌剤の 院期間の診療内容は,転移癌の発見と摘出,それに続く放射線治療及び化学療法が終了した後の,放射線治療の結果発生した口腔内出血ないし放射性骨髄炎等の診療ないし治療であって,放射線の過剰照射や抗癌剤の過剰投与など,別件医療過誤訴訟での争点(被告の過失の有無)にかかわるものではないこと,本件入院カルテ①に対応する入院期間の診療内容は,既に原告に転移癌の疑いが生じた後の診療ないし治療であり,転移癌の発見の遅れがあったか否かにかかわるものではないこと,本件手術関連記録①は,転移癌の摘出,左全頸部の郭清及び左下顎骨の部分切除の手術記録であるが,被告が本件証拠保全手続において提示した本件腫瘍カルテ等には,原告に癌があったことが明確に記載されているし,これも別件医療過誤訴訟での争点にかかわるものではないことが認められる。 これらの事情にかんがみると,被告に本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を隠匿しなければならないような事情はうかがえないから,被告がこれらを隠匿したものとまで認めることはできない。 これに対し,原告は,甲歯科医師及び乙歯科医師が被告病院に呼び戻されて本件証拠保全手続に立ち会ったこと,本件証拠保全手続に午後1時30分ころから午後8時ころまで要したことなどから,両医師が提示すべきカルテを指示するなどして本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を隠匿したなどと主張する。しかし,患者の担 当であった歯科医師が診療録について指示説明を行うなどのために証拠保全手続に立ち会うことは不自然とはいえないし,また,原告のように入通院が長期間にわたった患者の場合には診療録等が複数に分かれていることも考えられ,本件証拠保全手続において少なくとも1500枚を超える用紙が複写されたことからは,本件証拠保全手続に時間を要することも十分に考 間にわたった患者の場合には診療録等が複数に分かれていることも考えられ,本件証拠保全手続において少なくとも1500枚を超える用紙が複写されたことからは,本件証拠保全手続に時間を要することも十分に考えられ,原告が主張する事情から,甲歯科医師及び乙歯科医師が,本件証拠保全手続に際して提示すべきカルテを指示するなどして,一部のカルテを隠匿したものと認めることはできない。 (イ)もっとも,被告において,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を隠匿して原告に開示しないのではなく,被告主張のとおり,被告において本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を紛失したために原告に開示できなかったとしても,被告は,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を原告に開示できなかったのであるから,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を免れない。 これに対し,被告は,紛失した診療録等を開示することはできなくても,本件腫瘍カルテやその他のカルテ等の記載によって,平成4年2月の手術及び同年3月から11月までの6回の入院の経過等は明らかであるから,てん末報告義務違反はないなどと主張する。確かに,本件では,前記認定のとおり,本件証拠保全手続において本件腫瘍カルテが提示されており,その他の原告に開示された診療録等により,原告が受けた診療,病名及び主要症状や治療方法は把握でき,原告の平成4年の6回にわたる入院の経過や同年2月の手術(本件手術関連記録①に対応する手術)の内容はおおよそ明らかになっていることが認められる。しかし,本件腫瘍カルテによって,診療録が存在しない入院期間及び手術の内容 がおおよそ明らかになっているとはいっても,本来の入院カルテ及び手術関連記録の一部は開示されないままであり,原告が予期しない重篤な後遺症を有し,医 て,診療録が存在しない入院期間及び手術の内容 がおおよそ明らかになっているとはいっても,本来の入院カルテ及び手術関連記録の一部は開示されないままであり,原告が予期しない重篤な後遺症を有し,医療過誤訴訟を提起するに至った事情の下では,原告が,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①には記載があったものの,本件腫瘍カルテには記載がない事項があったのではないかと疑念を有し,これらの記載部分を確認しててん末の報告を受けたいと考えるのはもっともなことであり,そのような心情は法的な保護に値するものというべきである。そうすると,本件では,平成4年の入院及び手術に際して作成された本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①の内容を知ることによって初めて,原告が同年の診療及び治療の経緯について適切なてん末報告を受けたものと評価するべきであるから,被告の主張は採用できない。 (ウ)次に,上記のてん末報告義務違反が不法行為となるか否かについて検討するに,上記のとおり,被告において本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を開示できない理由が紛失したことにある点や,開示された本件腫瘍カルテなどによって,原告が受けた診療,病名及び主要症状や治療方法は把握でき,原告の平成4年の6回にわたる入院の経過や同年2月の手術(本件手術関連記録①に対応する手術)の内容はおおよそ明らかになっていることに照らせば,被告において本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を紛失したために原告に開示できなかったことは,不法行為法上の違法とまでは言い難い。 (3)以上によれば,被告には,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を原告に開示できなかった限度で,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を負うこととなる。 被告の債務不履行によっ 上によれば,被告には,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を原告に開示できなかった限度で,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を負うこととなる。 被告の債務不履行によって原告が被った損害及びその額(争点(4))(1)原告は,前記のとおり,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記 録①に基づくてん末報告を受けることができなかったものの,原告に対しては外来カルテ,本件放射線カルテ,平成6年以降の入院カルテ,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①の一部の写しを含む本件腫瘍カルテその他の医療記録が開示されており,原告の診療の全体については相当程度把握することが可能であったことが認められるから,被告の債務不履行によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては30万円が相当である。 (2)原告は,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①が開示されなかったことから,医療過誤訴訟を提起するため,独自に医療文献を購入して真相の究明に役立てたり,別件医療過誤訴訟における立証のため専門家である医師ら5名に私的鑑定書の作成を依頼したり,裁判所による鑑定を行わなければならなかったとして,その費用の賠償を求めているが,てん末報告義務は,医療過誤訴訟の立証の材料を提供するために認められるものではないから,原告主張の上記損害と被告の債務不履行との間には相当因果関係がない。 (3)前記のとおり,被告には不法行為法上の違法までは認められず,債務不履行としてのてん末報告義務違反が認められるにすぎないから,弁護士費用の賠償を求めることもできない。 (4)なお,債務不履行に基づく損害賠償債務は,期限の定めのない債務であり,債権者から履行の請求を受けた時に履行遅滞となるから,本件における遅延損害金の起算日は訴状送達の日 求めることもできない。 (4)なお,債務不履行に基づく損害賠償債務は,期限の定めのない債務であり,債権者から履行の請求を受けた時に履行遅滞となるから,本件における遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日である平成16年7月28日となる。 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第23民事部 裁判長裁判官大西忠重裁判官眞鍋美穂子裁判官齊藤恒久
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