- 1 -主文 被告甲は,原告に対し,別紙物件目録記載2の建物を収去して,同目録記載1の土地を明け渡せ。 被告乙は,原告に対し,別紙物件目録記載2の建物から退去して,同目録記載1の土地を明け渡せ。 被告らは,原告に対し,各自平成21年4月24日から上記土地明渡済みまで1か月8108円の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告らの負担とする。 この判決の主文第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求の趣旨主文同旨第2事案の概要,(「」。), 本件は別紙物件目録1記載の土地以下本件土地というを所有しこれを被告甲に賃貸した原告が,本件土地上に同目録2記載の建物(以下「本件建物」という)を所有し,これを被告乙に暴力団事務所として使用させた。 被告甲に対し用法遵守義務善管注意義務及び信義則上の義務違反以下用,,(「法遵守義務違反等」という)を理由に賃貸借契約を解除したとして,被告甲。 に対し,賃貸借契約の終了に基づき,建物収去土地明渡しを求めるとともに,被告乙に対し,所有権に基づき,建物退去土地明渡しを求め,加えて,被告らに対し,債務不履行又は不法行為に基づき,各自月額8108円の賃料相当損害金の支払を求めた事案である。 前提となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない)。 (1)当事者ア原告は,地方自治法上の普通地方公共団体である。 ,(,)。 イ被告乙は指定暴力団A組B組C組の組長である甲1の244の2- 2 -ウ被告甲は,被告乙の妻である。 (2)原告の土地所有及び被告甲の建物所有,,,ア本件土地の所有者である原告は被告甲との間で平成2年2月20日本件土地につき,次の約定で賃貸借契約を締結し 被告甲は,被告乙の妻である。 (2)原告の土地所有及び被告甲の建物所有,,,ア本件土地の所有者である原告は被告甲との間で平成2年2月20日本件土地につき,次の約定で賃貸借契約を締結した(以下「本件賃貸借契約」という(甲4。 。))賃料1か月6993円期間平成2年2月20日から30年間善管注意義務賃借人は,本件土地を善良な管理者の注意義務をもって使用しなければならない。 特約事項賃借人は,あらかじめ書面による賃貸人の承諾を得なければ,本件土地上の物件の増改築をすることができない。 なお,現在の賃料は,1か月8108円である。 イ原告は,被告甲に対し,同日,本件賃貸借契約に基づき,本件土地を引き渡した。 ウ被告甲は,平成3年4月6日,本件土地上に本件建物を建築して所有している(甲5。 )(3)被告乙による本件建物の使用ア被告甲は,平成4年から,被告乙に,本件建物を暴力団事務所として使。 ,,。 用させている被告乙は本件建物を使用して本件土地を占有している(4)原告による解除の意思表示ア原告は,平成21年4月23日,被告甲に対し,本件賃貸借契約上の用法遵守義務違反等を理由として,本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした(甲31。 )イ本件賃貸借契約終了日の翌日以降に発生する本件土地の賃料相当損害金は,1か月当たり8108円である。 - 3 - 主な争点本件賃貸借契約は有効に解除されたか【原告の主張】(1)被告甲は,被告乙に本件建物を暴力団事務所として使用させている。暴,,。 力団事務所はひとたび暴力団抗争が発生した場合には攻撃対象とされる特に,近年,暴力団がけん銃による武装化を進めていることによれば,本件建物の近隣住民等が暴力団抗争に巻き込まれ,生命,身体 ,。 力団事務所はひとたび暴力団抗争が発生した場合には攻撃対象とされる特に,近年,暴力団がけん銃による武装化を進めていることによれば,本件建物の近隣住民等が暴力団抗争に巻き込まれ,生命,身体等に甚大な被害を受ける危険性が高い。 (2)原告は,本件土地が暴力団事務所の敷地として使用されることにより,近隣の土地所有者から土地価格の下落による損害賠償を請求されたり,抗争等の巻き添えになった被害者から損害賠償を請求されるなどの法的責任を追及される可能性がある。 また,原告は,本件土地の周辺にも土地を所有しており,本件建物が暴力団事務所として使用されていることにより,周辺土地についても換価価値や利用価値が損なわれるという損害を被っている。 (3)社会的に見ても,平成14年に,社団法人D連合会が「企業行動憲章」,を定めて暴力団排除を宣言した後,平成19年には,政府の犯罪対策閣僚会議幹事会が「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表し,民間企業が暴力団をはじめとする反社会的勢力との関係を一切断つよう求めるなど,暴力団排除の趨勢が高まってきている。平成20年には,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」という)が。 改正され,国及び地方公共団体において,暴力団排除活動推進に関する一般的責務が規定されるなど,暴力団排除は社会的要請から法的要請に深化しつつある。 このような中,地方公共団体である原告は,本件土地上に暴力団事務所が存在していることについて,一般社会から強い非難を受けている。 - 4 -(4)以上のような事情に照らすならば,被告甲の本件建物使用行為は,本件賃貸借契約上の用法遵守義務等に違反する。そして,被告甲が,原告に秘して,長年に渡り,本件建物を被告乙に暴力団事務所として使用させていること うな事情に照らすならば,被告甲の本件建物使用行為は,本件賃貸借契約上の用法遵守義務等に違反する。そして,被告甲が,原告に秘して,長年に渡り,本件建物を被告乙に暴力団事務所として使用させていることが,本件賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめる不信行為であることは明らかである。 【被告らの主張】(1)原告の主張は,被告乙が本件建物を暴力団事務所として使用していたことについて,すべて抽象的,一般的な危険性の指摘にとどまっている。被告乙が主宰するC組は,A組に属してはいるが,わずか11人の博徒集団であり,対立抗争とは無縁の存在である。また,C組は,被告乙が町内会費を支払うなど,近隣との友誼を旨としており,近隣といさかいを起したこともない。 (2)被告乙が本件建物を暴力団事務所として使用し始めたのは,建築後数年経った平成4年からであり,当初は無線愛好家の寄合所としても使用されていた。また,同被告は,本件建物を住居としても使用している。もとより,被告甲に賃料支払の遅滞はない。 (3)原告は,本件建物が暴力団事務所として使用されていることを知ったな,。 ,,らばまずその是正を求めて催告をすべきであった原告が被告らに対し暴力団事務所としての本件建物の使用停止を申し入れていれば,被告らは容。 ,(),易にこれに応じていた現に被告乙は本訴提起後平成21年5月22日本件建物に設置されていた看板,監視カメラ及びライト等を撤去し,暴力団事務所としての外見を除去している。 第3当裁判所の判断 乙7,被告乙の本人尋問の結果,掲記の証拠と弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる(当事者間に争いがない事実を含む。 。)(1)C組の位置づけ及び被告乙の地位- 5 -ア暴対法によれば,暴力団とは「その団体の構成員(その団体の構成団 全趣旨によれば,次のとおり認められる(当事者間に争いがない事実を含む。 。)(1)C組の位置づけ及び被告乙の地位- 5 -ア暴対法によれば,暴力団とは「その団体の構成員(その団体の構成団,体の構成員を含む)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うこ。 とを助長するおそれがある団体」をいう(暴対法2条2号。都道府県公)安委員会は,一定の要件に該当する暴力団を特に上記のおそれが大きい暴力団として指定することとなっている(同法3条。 )イA組は,同法3条の指定を受けた,全国で最大の勢力範囲(1都1道2)()()。 府41県及び構成員数約2万人を有する指定暴力団である甲19C組は,その中の有力組織であるB組の傘下組織であって,A組の第3次団体に位置する(甲1の2,44の2。C組に属する組員は10名程度)であるが,過去には50名から60名程度の組員が在籍していたこともある。 ウ被告乙は,A組E組F会C組組長,A組F会本部長,A組G会若頭を経て,現在はA組B組副組長及びC組組長の地位にある(甲44の2。被)告乙は,昭和51年ころ,覚せい剤取締法違反及び火薬類取締法違反の犯罪を犯し,6年間ほど服役したことがある。 (2)暴力団事務所の危険性ア暴力団事務所は,暴力団の活動の拠点となっている施設又は区画された部分をいう(暴対法15条1項。暴力団事務所は,外部的には,他の暴)力団や一般市民に対して組織の勢力を誇示するものであるが,ひとたび対立抗争事件が発生すると,反目する暴力団からの攻撃の対象ともなる。 イ平成13年1月31日,A組系の暴力団員により,神戸市内の民家に銃弾6発が撃ち込まれる事件が発生した。これは,同民家が,被告乙が所属したA組G会の暴力団事務所と誤認されたことによるものであった(甲1 13年1月31日,A組系の暴力団員により,神戸市内の民家に銃弾6発が撃ち込まれる事件が発生した。これは,同民家が,被告乙が所属したA組G会の暴力団事務所と誤認されたことによるものであった(甲18。 )ウ本件建物では,毎月,C組組員が集合する定例会が開催されていた。また,本件建物内には,常時,1,2名の組員が待機していた。 - 6 -エ本件建物の近隣住民は,本件建物に組員と思われる者が出入りし,本件建物の前には黒塗りの車が並ぶこともあって,付近を通行する人は,道路の端を通ってびくびくしていたなどと述べている(甲55。 )オ大阪府警察は,かねてから,A組と他団体との対立抗争や,A組内の内部抗争を警戒している。本件建物についても,暴力団事務所としての使用期間,所有者,被告乙の地位等に照らし,本件建物の外観の変化や住居として使用されるかどうかに関わらず,警戒対象とされている(甲44の2。 )(3)被告乙による本件建物の改造等ア被告甲の夫である被告乙は,平成4年以降,原告に無断で,本件建物に次のような改造を加えた(甲6。 ),「」。 (ア)本件建物の正面出入口上部にCと書かれた金看板を設置した(イ)上記出入口の左壁面及び右側壁面には窓があったが,これに外部から鉄板を打ち付けた。 (,(ウ)本件建物の正面壁面に監視カメラ2台本件建物の玄関右上に1台正面左側に1台,サーチライト1台を設置した。 )イ本件建物の正面壁面は,その全面がれんがによって覆われ,出入口ドアは,黒色フィルムによって目隠しがされている(甲6。また,本件建物)の2階窓付近には,鎧兜が外に向けて置かれていた。 ウ本件建物の内部には,建物奥にある応接間を防御する目的で,厚さ2センチメートル程度の鉄板が装備されていた。本件建物内部の右手には,A 件建物)の2階窓付近には,鎧兜が外に向けて置かれていた。 ウ本件建物の内部には,建物奥にある応接間を防御する目的で,厚さ2センチメートル程度の鉄板が装備されていた。本件建物内部の右手には,A組の代紋の入ったカレンダーとともに,監視カメラ用のモニター2台が設置され,2台の監視カメラの映像を同時に確認できるようになっていた。 (4)被告甲による秘匿ア被告甲は,平成4年ころから,被告乙に本件建物を暴力団事務所として使用させながら,原告に対し,その旨を申告したことはなかった。 - 7 -イまた,被告甲は,被告乙による本件建物の上記改造を認識していたが,原告に対し,何らの申告をすることもなかった。 (5)本訴に至る経緯ア原告は,平成21年2月2日,本件土地が暴力団事務所の敷地として利用されていることが判明したため,同年3月27日,本訴を本案として,本件建物の処分禁止・占有移転禁止仮処分命令の申立てを行った。 イ原告は,同年4月17日,本訴を提起するとともに,同月23日,被告甲に対し,本件賃貸借契約上の用法遵守義務違反等を理由として,本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。 ウなお,被告甲も,被告乙も,遅くとも平成7年ころから,本件建物とは別の場所で居住している。 以上のとおり認められる。この認定を動かすに足りる確たる証拠はない。 以上の事実(前記の「前提事実」を含む)と弁論の全趣旨によれば,次の。 とおり判断できる。 (1)土地の使用態様ア原告は,地方自治法上の普通地方公共団体であるから,事務処理をするに当たり,住民の福祉の増進に努めなければならない(地方自治法2条14項。したがって,原告には,公有財産である市有地を第三者に賃貸す)るに際し,住民の福祉の増進という目的に適う内容の契約を締結すべき行政上の責務が存す 増進に努めなければならない(地方自治法2条14項。したがって,原告には,公有財産である市有地を第三者に賃貸す)るに際し,住民の福祉の増進という目的に適う内容の契約を締結すべき行政上の責務が存する。そうすると,本件土地の賃借人が,上記目的を阻害する態様で本件土地を使用することは,賃貸人である原告との信頼関係を大きく裏切る行為であるといえる。 イところが,被告甲は,平成4年から,約17年間もの長きに渡り,被告乙をして,本件建物を全国最大の勢力範囲を有する指定暴力団であるA組傘下組織の暴力団事務所として使用させてきた。 ウ暴力団事務所は,暴力団活動の拠点である。特に,暴力団事務所が他の- 8 -暴力団組織からの攻撃目標,とりわけ銃器による攻撃目標となるときは,近隣住民に極めて大きな不安を与えることになる。このような土地の使用方法は,住民の福祉の増進に努める責務を負う原告にとって到底容認できない。 (2)地上物件の無断増改築等禁止ア本件賃貸借契約においては,地上物件の無断増改築が禁止されている。 その趣旨は,賃借人による目的物の使用収益権を保護するとともに,賃貸借が信頼関係を基礎とする継続的契約であることに鑑み,賃貸人の意図しない土地利用を防止する点にある。 イところが,被告乙は,本件建物の窓に鉄板を打ち付け,監視カメラ,サーチライト等を設置した。これらの改造行為は,外敵からの襲撃に対する防御等を主要な目的とし,暴力団同士の抗争等の事態を念頭に,暴力団事務所としての防御的機能を果たすことを意図したものである。 ウ被告乙のこのような行為は,違法活動の機能的中枢としての役割を有する暴力団事務所の用途に合わせたもので,本件建物の本来的機能を減殺する。賃借人による土地の使用収益権として保護すべき性質の行為とはいえない。また,地方公共団 ,違法活動の機能的中枢としての役割を有する暴力団事務所の用途に合わせたもので,本件建物の本来的機能を減殺する。賃借人による土地の使用収益権として保護すべき性質の行為とはいえない。また,地方公共団体である原告が,本件土地上の建物が暴力団事務所としての用途に合わせて改造されることを容認していたとはおよそ考えられない。 エそうすると,被告甲が,被告乙による本件建物の改造行為を認識しながら,これを原告に申告しなかったことが,本件賃貸借契約における地上建物の無断増改築禁止条項の趣旨に反することは明らかである。 (3)被告らの主張ア被告らは,C組は対立抗争とは無縁の存在であるとして,C組の組事務所が他の暴力団組織からの攻撃目標とされる危険性は存しない旨主張する。 - 9 -しかし,被告乙は,我が国最大の暴力団組織を構成する有力団体の長である。もとより,暴力団同士の抗争と無縁の存在ではない。実際,被告乙が所属していたA組G会組事務所に隣接する民家に,暴力団事務所と誤認されて銃弾が撃ち込まれる事件が発生している。また,被告乙自身,本件建物が他の暴力団組織の攻撃目標とされるような事態を想定し,そのための防御の砦とすべく,本件建物に改造を加えたことを自認している。被告らの上記主張は採用できない。 イ被告らは,C組は近隣との友誼を旨にしており,近隣といさかいを起したこともない旨の主張をし,当該主張に沿う証拠として,平成17年分の町内会費の支払を証する領収書(乙1)を提出する。 しかし,近隣住民の中には,本件建物に組員と思われる者が出入りし,本件建物の前には黒塗りの車が並ぶこともあって,付近を通行する人は,道路の端を通ってびくびくしていたなどと述べる者も存在する。町内会費を支払ったからといって,被告と近隣住民との関係が良好であったと認めることは には黒塗りの車が並ぶこともあって,付近を通行する人は,道路の端を通ってびくびくしていたなどと述べる者も存在する。町内会費を支払ったからといって,被告と近隣住民との関係が良好であったと認めることはできない。 ウ被告らは,被告乙が,平成21年5月22日,本件建物に設置されていた看板,監視カメラ及びサーチライト等を撤去し,暴力団事務所としての外見を除去した旨主張するが,これらの事情は,本件賃貸借契約解除後の事情であって,原告による解除の有効性に影響を与えるものではない。 (4)まとめ以上を総合すると,被告甲が被告乙に本件建物を暴力団事務所として使用させた行為は,本件賃貸借契約上の用法遵守義務等に違反することは明らかである。そして,その行為は,賃貸借契約当事者相互の信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為であるといえる。 したがって,原告による本件賃貸借契約の解除は有効であり,これにより,同契約は,平成21年4月23日をもって終了したというべきである。 - 10 -第4 結論 以上によれば,原告の請求は理由がある。よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第18民事部松田亨裁判長裁判官土屋毅裁判官久田淳一裁判官
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