令和1(ワ)35314 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年11月13日 東京地方裁判所
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判決文本文12,756 文字)

令和2年11月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官第35314号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和2年9月18日判決 主文 1 被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する令和元年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを20分し,その19を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する令和元年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 第2 事案の概要本件は,原告が,東京地方検察庁特別捜査部(以下「東京地検特捜部」という。)において任意で取調べを受けていた被疑者について,その妻の依頼により被疑者の弁護人となろうとする者として被疑者との面会を求めたところ,対応した検察官が,上記依頼につき確認ができないとして,被疑者に対し,原告の 来訪を伝えず,原告と被疑者との面会を実現するための措置をとらなかったことが違法であると主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料200万円及びこれに対する不法行為の日である令和元年11月27日から支払済みまで平成29年法第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事件である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認めら れる事実) 原告は,弁護士である。 Aは,衣料品の製造,販売等を業とする有限会社B(以下「B」という。 実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認めら れる事実) 原告は,弁護士である。 Aは,衣料品の製造,販売等を業とする有限会社B(以下「B」という。)の共同代表取締役であった者であり,同社の従業員らと共謀の上,同社の売上金を着服横領していたとの被疑事実により,令和元年10月中旬から,東 京地検特捜部による捜査の対象となっていた(以下「本件被疑事件」という。)。 東京地検特捜部は,同年11月26日,本件被疑事件について,Aの居宅及びBの事務所のうちAが私的に使用する居室などの捜索差押えを実施したところ,同居室内において2億円を超える現金を発見押収したほか,A及びAの妻が使用する各携帯電話等を押収した(以下「本件捜索差押え」という。)。 Aは,上記捜索差押えに立ち会い,同日午後8時頃から午後11時頃までの間,東京地方検察庁において,C検察官による取調べを受けた。 Aは,令和元年11月27日午前11時10分頃(以下,同日の場合は年月日を省略することがある。),東京地方検察庁に出頭し,C検察官の取調べを受けた(以下「本件取調べ」という。)。この際,C検察官は,本件被疑事 件の主任検察官であったD検察官から,できるだけ短時間でAを退庁させるよう指示を受けていた。 ア Aは,本件捜索差押えの後,本件取調べの開始に先立ち,Aの妹から,その娘の使用する携帯電話(以下「本件携帯電話」という。)を借り受け,同日の午前中(出頭前)に,原告の所属する弁護士事務所に架電して,弁 護士に相談したい旨を申し入れた。 イ原告は,午後0時前後に本件携帯電話に折り返し架電したところ,対応したAの妻からAの弁護につき依頼を受けた。 原告は,午後3時10分頃,東京地方検察庁 護士に相談したい旨を申し入れた。 イ原告は,午後0時前後に本件携帯電話に折り返し架電したところ,対応したAの妻からAの弁護につき依頼を受けた。 原告は,午後3時10分頃,東京地方検察庁を訪れ,Aの妻から依頼を受けた弁護士であり,Aの弁護人になろうとする者であるとしてAとの面会を 求めたところ,D検察官が電話で対応した。D検察官は,原告に対し,Aを 取調べ中であるが取調べは短時間で終了する予定であることを説明した上,取調べ終了後に改めて連絡することを提案して原告の意向を確認したところ,原告は,取調べ終了までの時間をD検察官に尋ねたので,D検察官は,取調べ終了までの時間は明確には答えられない旨回答した。原告は,D検察官に対し,Aとの面会を要求し,Aが原告と面会する意思があるか否かを確認す るよう求めたが,D検察官は,任意の取調べを実施中であり,単に弁護人になろうとする者であると自称する弁護士が被疑者との面会を求めたからといって,検察官がその資格等を確認することなく直ちに面会させることはできない旨を述べ,原告に再考を促して一度電話を切った。 D検察官は,午後3時40分頃,原告に対し,電話で,同日午前にも原告 と同様に,Aの妻から依頼を受けた弁護士を名乗る者からAとの面会を申し入れる連絡があったことから,原告がAの妻から依頼を受けた弁護士であるかを確認する必要があり,そのためには一定の時間が必要である旨説明したところ,原告はこれを了承した。 原告は,この際に,D検察官に対し,Aが原告の事務所に電話番号を伝え, 原告がこの電話番号に架電したところ,Aの妻から弁護人選任の依頼を受けた旨説明し,上記電話番号(以下「本件電話番号」という。)を,Aの妻の携帯電話番号であるとしてD検察官に伝えた。 を伝え, 原告がこの電話番号に架電したところ,Aの妻から弁護人選任の依頼を受けた旨説明し,上記電話番号(以下「本件電話番号」という。)を,Aの妻の携帯電話番号であるとしてD検察官に伝えた。 原告は,午後4時15分頃,D検察官に対し電話をし,確認作業の進捗状況を尋ねた。D検察官は,原告から伝えられていた本件電話番号の使用者を 確認できておらず,原告がAの妻から弁護を依頼された事実が確認できないとして,原告に対し,Aが原告と面会する意思があるか確認することは適切ではない旨を説明した。これに対し,原告は,本件電話番号に直接電話を掛け,妻からの依頼事実を確認すべきである,Aが原告と面会する意思があるかを直ちにAに確認すべきであるなどと主張したが,D検察官は,必要な資 格等の確認は行わざるを得ない旨を伝え,電話を終了した。 D検察官は,A,Aの妻,長女,長男,両親,妹がそれぞれ使用する携帯電話番号を確認したが,いずれも本件電話番号と異なるものであった。また,D検察官は,本件捜索差押えに従事した検察事務官らが,Aの妻から連絡先等として本件電話番号を教示された可能性を考え,上記検察事務官らに確認を行ったが,本件取調 べ終了までに確認できた検察事務官らは,いずれも本件電話番号の教示を受けていなかった。さらに,D検察官は,本件捜索差押えで押収したA及びAの妻の携帯電話内に保存されているアドレス帳データに本件電話番号が登録されているかを問い合わせたが,保存されているデータを保全する作業が未了であったことから,アドレス帳データを閲覧し確認することはできなかっ た。 D検察官は,午後4時30分頃,C検察官から,Aの取調べを終えたのでAを退出させたい旨の連絡を受け,本件電話番号を示して から,アドレス帳データを閲覧し確認することはできなかっ た。 D検察官は,午後4時30分頃,C検察官から,Aの取調べを終えたのでAを退出させたい旨の連絡を受け,本件電話番号を示してAに確認するよう指示し,その後,C検察官から,Aへの聴取結果として,本件携帯電話の借用及び弁護士事務所への架電)と併せて,原告と面会する意 思がある旨の報告を受けた。D検察官は,午後5時前頃,原告に対し,取調べを終了すること,Aが原告と面会する意思があることを伝えた。Aは,午後5時頃,東京地方検察庁を退出した。 C検察官は,本件取調べ中,Aが本件被疑事件について自白する内容の供述調書1通を録取した。 2 争点本件の争点は,原告がAとの面会を要求したことに対し,D検察官が,直ちに原告とAとの面会を実現させなかったことの違法性及び損害である。 第3 当事者の主張 1 原告の主張 刑事訴訟法39条1項は,身体の拘束を受けている被告人又は被疑者に関 し,弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)との接見交通権について規定しているが,被疑者として任意の取調べを受けているにもかかわらず弁護人となろうとする者の来訪も告げられない状態は,身体の拘束を受けているに等しい状態であって,同条が適用されるべきである。仮に,同条が身体拘束されて いる被告人又は被疑者にのみ適用される規定であるとしても,同条は,身体拘束されていない者はいつでも自由に弁護人を選任できることを前提としているのであるから,同条の勿論解釈として,身体拘束を受けていない被疑者についても,弁護人等との面会が認められるべきである。 原告は,Aの弁護人になろうとする者として東京 選任できることを前提としているのであるから,同条の勿論解釈として,身体拘束を受けていない被疑者についても,弁護人等との面会が認められるべきである。 原告は,Aの弁護人になろうとする者として東京地方検察庁を訪れ,Aの 面会を求めたのであるから,これに対応したD検察官には,Aに対して原告の来訪を告げ,原告との面会の意思があるかどうかを確認するとともに,原告とAとの面会実現のための措置をとるべきであった。 にもかかわらず,D検察官は,原告の来訪をAに告げることなく,2時間近くにわたって原告とAとの面会を妨害し,原告の接見交通権を侵害したも のであるから,このような行為は,刑事訴訟法30条1項,39条1項及び憲法31条に反する違法なものである。 原告が弁護人選任の依頼を受けたのは,原告が所属する弁護士事務所へのAの電話がきっかけなのであるから,原告がAの妻から依頼を受けたかどうかは,Aに確認すればすぐに分かることである。また,原告は,本件電話番 号をD検察官に伝えているのであるから,本件電話番号に架電すれば,Aの妻による依頼の事実は容易に確認できる。これらの確認をあえて行わず,殊更に迂遠な方法で本件電話番号の確認に長時間を費やすことは,時間稼ぎによる接見妨害の意図によるものであることを物語っている。 原告は,D検察官の上記行為により,Aとの速やかな面会を果たせず,A に対してなすべき助言を行うことができなかったのであり,十全な職責を果 たすことができなかった。これによって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,200万円が相当である。 2 被告の主張身体拘束を受けていない任意取調べ中の被疑者に対する,弁護人等の面会権については,憲法及び刑事訴訟法に何らの規定もなく,身体拘束を受けて 謝料は,200万円が相当である。 2 被告の主張身体拘束を受けていない任意取調べ中の被疑者に対する,弁護人等の面会権については,憲法及び刑事訴訟法に何らの規定もなく,身体拘束を受けて いない被疑者は,いつでも取調べを拒否して退出することにより弁護人の援助を受けるための手段を自らとることができるから,現行法上,上記権利が認められているとはいえない。 接見を申し出た者が弁護人となろうとする者に該当するといえるためには,弁護士資格を有すること(刑事訴訟法31条1項)のほか,弁護人選任権者 の依頼があることが必要である(同法39条1項)。捜査機関(検察官,検察事務官又は司法警察職員をいう。以下同じ。)にとっては,弁護人選任権者からの依頼により弁護人となろうとする者であるかどうかは明らかではないので,このような者から接見の申出を受けた捜査機関は,合理的な時間の範囲内で,接見を申し出た者に対し,弁護人選任権者からの依頼の存在につき説 明及び資料の提示を求め,確認することができる。捜査機関が,弁護人選任権者からの依頼の存在を確認することができない間は,弁護人となろうとする者と被疑者を面会させる根拠がないのであるから,捜査機関が被疑者と面会させなかったとしても,何ら違法となるものではない。 本件被疑事件については,Aが2億円を超える多額の現金を保管していた 目的や事件の背後関係が明らかになっていなかったのであり,上記現金に利害関係を有する未把握の者による捜査妨害や,Aに対する不当な働きかけの可能性が具体的に想定される事態が生じていた。また,本件取調べ当日の午前10時頃,Aの妻から依頼を受けた弁護士であると自称する者がAとの面会を求めるとともに,Aの居所を尋ねるという不審な電話があった。このよ うな事実経過 が生じていた。また,本件取調べ当日の午前10時頃,Aの妻から依頼を受けた弁護士であると自称する者がAとの面会を求めるとともに,Aの居所を尋ねるという不審な電話があった。このよ うな事実経過からすれば,本件事件に利害関係を有する周辺者等が,弁護士 を介してAに不当な働きかけを行うことなどを懸念すべき状況であったといえるから,D検察官は,Aの妻が弁護士に依頼したという事実について,特に慎重に確認を行うべき事情があった。 D検察官は,Aの妻やその他の親族の電話番号と本件電話番号の照合を行ったものの,本件電話番号と一致するものは見当たらず,前日に押収した携 帯電話に保存されている電話番号データについては,データ処理が未了であったこともあり,確認することができなかった。また,Aの居室への捜索差押えに臨場していた検察事務官らへの確認作業を行ったが,直ちに連絡をとって確認することが困難であったこともあり,一定の時間を要することはやむを得ないことであった。本件電話番号に架電したとしても,対応した者が Aの妻であるかを確認することはできず,捜査妨害やAへの不当な働きかけを図る周辺者やその関係者がAの妻になりすますなどした場合,それを識別することは困難であるから,本件電話番号に架電せず,上記方法によって確認を行うことは合理的な判断であった。 捜査機関にとっては,Aの妻から依頼を受けたことを確認できなかった原 告は,捜査妨害やAへの不当な働きかけを目的とする周辺者等から依頼を受けた者である可能性もあったのであり,原告が面会を希望していることをAに伝えることは,いたずらにAを畏怖又は萎縮させるなどすることになりかねず,適切とはいえない。 D検察官は,原告がAの妻から依頼を受けた事実について,合理的な時間 の範 望していることをAに伝えることは,いたずらにAを畏怖又は萎縮させるなどすることになりかねず,適切とはいえない。 D検察官は,原告がAの妻から依頼を受けた事実について,合理的な時間 の範囲内で必要な確認作業を行っていたものであり,本件取調べが終了するまでの間,上記事実を確認できなかったのであるから,D検察官が,本件取調べの間,Aに原告からの面会申入れがあったことを伝えず,原告をAと面会させなかったことは違法とは言えない。 第4 当裁判所の判断 1 身体拘束を受けていない被疑者に対する弁護人等の面会権 ア捜査機関は,弁護人等から身体の拘束を受けている被疑者との接見の申出があったときは,原則としていつでも接見等の機会を与えなければなら判決民集54巻5号1635号)。 イこの理は,身体の拘束を受けていない被疑者について,捜査機関により任意の取調べが行われている場合についても同様に解すべきである。すなわち,弁護人等は,その弁護活動の一環としていつでも自由に被疑者と面会することができると解されるが,取調べ中の被疑者と直接に連絡を取ることはできない。一方で,被疑者は,身体の拘束を受けていない場合であ っても,弁護人等との面会予定を事前に把握しているなどの特段の事情がある場合を除き,取調べの継続中に自由に退去して弁護人の援助を受けるための手段を自らとることは困難であり,弁護人等の来訪につき告知を受け,接見の機会を得て初めて,弁護人による実質的な弁護を受ける権利(刑事訴訟法30条1項)を保障されるものと解される。 ウ一方で,任意の取調べを行う捜査機関は,当該時点においては,被疑事件の捜査のために被疑者の身柄を拘束する権限を有していないから,取調べが継続中であること又はその予定を理由とし される。 ウ一方で,任意の取調べを行う捜査機関は,当該時点においては,被疑事件の捜査のために被疑者の身柄を拘束する権限を有していないから,取調べが継続中であること又はその予定を理由として接見を拒み,又はその日時等を指定すること(刑事訴訟法39条3項)はできないものと解される。 エ以上の事情を総合すると,身体拘束を受けていない被疑者に対する弁護 人等から面会の申出があった場合には,捜査機関としては,取調べを中断した上で,速やかに弁護人等の来訪を被疑者に伝え,被疑者が面会を希望するときは,その実現のための措置をとらなければならないというべきであり,取調べの性格上,特定の事項に係る質疑等のため一定の時間を要し,即時の中断が困難な場合があること等を考慮しても,社会通念上相当と認 められる範囲を超えて弁護人等の来訪を被疑者に伝えず,その結果,速や かに弁護人等との面会が実現されなかった場合には,当該捜査機関の行為は,弁護人等の弁護活動を阻害するものとして違法と評価され,国家賠償法1条1項の規定による損害賠償の対象となるものと解される。 ア以上の判示に関し,被告は,身体拘束を受けていない被疑者に対する弁護人等の面会権については,刑事訴訟法39条とは異なり何らの規定もな いし,身体拘束を受けていない被疑者は,いつでも弁護人の援助を受けるための手段を自らとることができるから,弁護人等には,身体拘束を受けていない被疑者に対する面会権は認められているとはいえないと主張する。 イしかしながら,身体拘束中の被疑者につき刑事訴訟法39条1項の規定がある以上,任意の取調べ中の被疑者について,弁護人等との接見につき, 少なくとも同等の権利を保障すべき必要があることは,捜査機関にとって6日第5民事部判決)が き刑事訴訟法39条1項の規定がある以上,任意の取調べ中の被疑者について,弁護人等との接見につき, 少なくとも同等の権利を保障すべき必要があることは,捜査機関にとって6日第5民事部判決)が存在することも併せ考えると,被告の主張は,検察官の行為規範(職務 行為基準説)に関する主張としても採用し難い(なお,前記前提事実のとおり,D検察官は,本件電話番号につき原告から伝達を受けて,直ちにその確認作業に着手しているのであって,この点は,接見の機会付与に係る職務上の義務を前提とした行動と解される。)。 2 D検察官の職務上の義務 ア前記1の義務は,被疑者との面会を求めた者が弁護人等であることが前提になると解されるから,捜査機関は,面会を求めた者が弁護人等であるかどうかを確認することができるというべきであり,具体的には,捜査機関は,「弁護人選任権者からの依頼」により弁護人になろうとする者であるかどうかの確認のため,選任権者の氏名やその者による依頼の有無につい て,選任権者による書面の提出などの疎明を求めることができる。そして, 上記のような確認ができるまでの間,捜査機関が被疑者との面会の機会を設けなかったとしても,直ちに違法とはいい難い。 イただし,前記1のとおり,捜査機関は,弁護人選任権者からの依頼が確認できた場合には,速やかに被疑者と弁護人等との面会のための措置をとらなければならないのであるから,その前提として,適切な方法により, 合理的な時間内に上記確認を行うべき義務を負うものと解すべきである。 また,上記確認が,被疑者の弁護人選任権の実質的な保障のため弁護人等が被疑者に対し面会を求める権利の実現のための重要な前提となっている以上,どのような確認方法を採るかについても,捜査機関には, 。 また,上記確認が,被疑者の弁護人選任権の実質的な保障のため弁護人等が被疑者に対し面会を求める権利の実現のための重要な前提となっている以上,どのような確認方法を採るかについても,捜査機関には,上記の保障への配慮が求められるものと解すべきである。 すなわち,「弁護人選任権者からの依頼」は,①「弁護人選任権者」の実在(本人確認)と,②当該者からの依頼の事実の確認により構成されるところ,上記②の依頼は口頭によるものを含み,また,書面による場合にも,弁護人等において,上記①②を兼ね備えた疎明をすることは困難な場合も多いと考えられる。一方で,上記の依頼が被疑者本人による場合はもちろ ん,他の選任権者による場合であっても,当該依頼の存在を裏付ける情報は,被疑者本人が有している場合も多いと考えられ,また,接見の機会の付与は,最終的には被疑者本人の意思に委ねられるものである。 以上の事情を考慮すれば,捜査機関は,弁護人選任権者からの依頼の存否について,被疑者との接見を申し出た者(弁護士等)による疎明が不完 全な場合であっても,当該申出を裏付ける事情の存否につき,被疑者本人への確認を含めて検討すべき義務を負うものと解するのが相当である。 以上を前提として,D検察官の職務上の義務の存否について検討する。 アこの点,前記前提事実のとおり,D検察官は,午後4時30分頃に本件取調べの終了の報告を受けた時点で,C検察官に対し本件電話番号に ついてA本人への確認を指示し,その結果,Aによる本件携帯電話の使用 (借用)や,弁護士事務所への架電の事実につき確認したものである。 イ一方で,原告は,前記前提事実のとおり,午後3時40分頃の時点で,Aの妻からの依頼の事実の確認の必要性を主張するD検察官に対し, 借用)や,弁護士事務所への架電の事実につき確認したものである。 イ一方で,原告は,前記前提事実のとおり,午後3時40分頃の時点で,Aの妻からの依頼の事実の確認の必要性を主張するD検察官に対し,自らに対する依頼の経緯(弁護士事務所へのAの架電の事実等)と併せて,本件電話番号を伝達しており,当該伝達は,自らの資格を裏付ける事実を補 充的に主張する趣旨であることが明らかである。D検察官としては,当該伝達の時点で,C検察官に対し前記アと同様の指示をすることにより,原告の申出を裏付ける事情を確認することは容易であったものというほかない。 ウ他方,前記前提事実のとおり,本件捜索差押えにより,A及びその妻 が使用する携帯電話は押収されており,同人らが弁護士に対する依頼のため電話連絡を試みるに当たり,親族又は知人等から携帯電話を借用する可能性は当然に想定されるところである。この観点からは,本件携帯電話(本件電話番号)の本来の使用者を調査し,その結果,A又はその妻の親族であることが判明したとしても,当該事実のみにより,A又はその妻が本件 携帯電話を借用した事実が裏付けられるものではなく,逆に,本来の使用者が本件被疑事件の関係者等であることが判明したとしても,当該事実のみにより,上記借用の可能性を排除することはできない。さらに,本件電話番号に架電したとしても,対応した者の本人確認が困難であり,Aの妻による依頼の事実を的確に確認できない点は,被告自身も主張するところ である。 これらの事情に照らせば,本件携帯電話の本来の使用者の特定は,弁護人選任権者による依頼の存否を確認するに足りず,結局のところ,当該依頼の存否の確認のためには,前記アと同様に,本件携帯電話(本件電話番号)に関して,現に庁内に所在するA本人への確認を要 特定は,弁護人選任権者による依頼の存否を確認するに足りず,結局のところ,当該依頼の存否の確認のためには,前記アと同様に,本件携帯電話(本件電話番号)に関して,現に庁内に所在するA本人への確認を要するものであり, この点は,D検察官においても認識可能な事情であったというほかない (現に,D検察官は,本来の使用者の特定作業が未了のまま,前記アの確認作業を行っている。)。 エ以上の事情を総合すれば,D検察官は,前記イのとおり,午後3時40分頃に原告から本件電話番号等の伝達を受けた時点において,前記アと同様に,本件電話番号につきA本人に確認し,その結果を前提として,原告 の来訪をAに伝えるべき職務上の義務を負っていたものと解するのが相当である。 ア以上の判示に関し,被告は,本件電話番号についてAに確認した場合,本件被疑事件の関係者等による不当な働きかけをAが察知し,畏怖ないし萎縮するおそれを生じさせるから,Aの妻の弁護人選任依頼の有無を確認 するためにA本人に本件電話番号について確認することは適切ではなく,本件電話番号自体についての確認作業(前記前提事実)を行ったことは適切である旨を主張し,関連する事情として,本件被疑事件の特質(背後関係の可能性等)や,本件取調べの当日午前中に,自称弁護士による不審な電話があった事実を主張する。 イしかしながら,前記⑴のとおり,捜査機関は合理的な時間内に原告がAの妻から正式に依頼を受け弁護人となろうとする者であるかの確認を行う義務を負っていたというべきところ,本件の事情の下では,当該依頼の有無については,現に庁内に所在するA本人への確認が直截かつ簡便な方法であり,D検察官の立場に照らしても, 他の合理的な方法は想定し難いものというほかな ところ,本件の事情の下では,当該依頼の有無については,現に庁内に所在するA本人への確認が直截かつ簡便な方法であり,D検察官の立場に照らしても, 他の合理的な方法は想定し難いものというほかない。 ウまた,前記前提事実⑸のとおり,原告は,D検察官に対し,本件電話番号の伝達と併せて,Aによる弁護士事務所への架電と,これに対する原告の返電の事実を含めて選任依頼に至る経緯を説明していたことに照らせば,D検察官としては,①本件電話番号自体に関するAの認識の有無を確認し, 又は,②当日午前中のAによる架電の有無及び架電先を確認することによ り,弁護士(原告)の来訪の事実を伝えることなく,選任依頼に関する事実を確認することは可能であり,関係者の介入に係るAの畏怖等を通じて捜査に支障を生ずる具体的なおそれが生ずるものとは考え難い。これらの確認方法の採用によりAが認識する可能性のある事実は,捜査機関において本件携帯電話の存在や,Aによる当日午前中の架電につき把握している 事実にとどまり,仮に,本件携帯電話と事件関係者との関連性が存在すると仮定しても,上記確認方法の採用により,Aにおいて,第三者の介入可能性につき認識する端緒となるものとは考え難いからである。 エ現実に,D検察官は,本件取調べの終了後に,前記①の確認作業を行ったものであり,この点は,当該確認方法により具 体的な捜査上の支障を生じないことを端的に裏付けるものというほかない。 この点,被告の主張中には,上記の確認作業につき,Aと原告との接触の当否の判断のため行った旨をいう部分があるが,本件取調べが任意捜査として行われたことに照らせば,捜査機関において,その終了後に上記接触の可否ないし当否を判断する権限自体が存在しないものであり,上記主張 は採 行った旨をいう部分があるが,本件取調べが任意捜査として行われたことに照らせば,捜査機関において,その終了後に上記接触の可否ないし当否を判断する権限自体が存在しないものであり,上記主張 は採用し難い。 オ以上によれば,被告の前記アの主張は採用できない。 3 違法性の有無以上述べたところによれば,D検察官は,午後3時40分頃,原告から,自らへの依頼の経緯と併せて,本件電話番号につき伝達を受けた時点から, 前記①(本件電話番号自体についてのAの認識)又は②(当日午前中の架電の有無及び架電先)につきA本人に確認し,これを前提として,Aに対し,原告の来訪につき伝達すべき職務上の義務を負っていたところ,午後4時30分頃までの間,上記の確認を行っていない。以下においては,当該D検察 られる範囲を超え,違法と評価されるか否かについて検討する。 アこの点,上記の不作為に係る時間は約50分前後である。特に,前記2において,弁護人選任権者による依頼の存否の確認のために,本件携帯電話の本来の使用者の調査のみでは足りず,A本人への確認を要するものと解されるが,D検察官としては,そのような認識に至るためには一定の検討時間を要するものと解されること に照らして,上記の時間(50分)が長時間にわたるものとは評価できない。 イしかしながら,本件においては,D検察官は,C検察官から,本件取調べの終了につき連絡を受けて初めてA本人への確認を行ったものであり,確認までの時間が短時間にとどまったのは,取調べの終了に伴う結果に過 ぎないものともいえる。 むしろ,原告において,A本人に対する即時の確認を主張していたこと確認に先立ち,C検察官において取り調原告の立場からすれば,取調べの終了前の接 う結果に過 ぎないものともいえる。 むしろ,原告において,A本人に対する即時の確認を主張していたこと確認に先立ち,C検察官において取り調原告の立場からすれば,取調べの終了前の接見等の機会を奪われたものに 等しいものと評価するほかない。また,客観的な観点に照らしても,前記調べの継続を理由として接見を拒むことはできないと解されるところ,選任依頼の確認に係る捜査機関の検討(時間)につき配慮することは,任意捜査に係る捜査機関の権限の制約を,実質的に没却する結果ともなりかねな い。 ウ以上を考慮すれば,D検察官の前記不作為は,社会通念上相当と認められる範囲を超え,国家賠償法1条1項の適用上違法と評価するのが相当である。 4 原告に生じた損害額 上記2のとおり,原告は,D検察官の行為により,弁護人等であることの適 切な確認方法がとられないまま,弁護人等であることが確認できないとしてAとの面会を制限され,弁護権を違法に侵害されたものと認められる。そして,本件の一切の事情を考慮すると,原告が被った精神的損害に対する慰謝料は,10万円が相当であると認められる。 第5 結論 以上によれば,原告の請求は,損害賠償金10万円及びこれに対する不法行為の日である令和元年11月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官前澤達朗 裁判官中畑章 東京地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官 前澤達朗 裁判官 中畑章生 裁判官 加藤邦太

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