平成12(あ)451 不動産侵奪、恐喝被告事件

裁判年月日・裁判所
平成12年12月15日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所 平成11(う)892
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判決文本文4,172 文字)

主文 原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 検察官の上告趣意第二の一、二は、判例違反をいうが、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、同第二の三、四は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、同第三は、判例違反をいう点を含め、実質は事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。 しかし、所論にかんがみ職権により調査すると、原判決は、以下の理由により、結局、破棄を免れない。 一本件公訴事実のうち、不動産侵奪の事実は、「被告人は、Aと共謀の上、中古家庭電器製品等の売場として利用する目的で、東京都が所有する東京都葛飾区a町b丁目c番d、同番e、同番f及び同番b所在の土地の一部合計約一一〇・七五平方メートルの空き地を侵奪することを企て、平成八年一二月中旬ころ、同所において、東京都に無断で右空き地中央東寄り部分に木造ビニールシート葺平屋建簡易建物(建築面積約三七平方メートル)を建築し、更に引き続いて、そのころ、同所において、右簡易建物の西端に接続して右同様の簡易建物(建築面積約二七・三平方メートル)を増築し、もって右都有地約一一〇・七五平方メートルを侵奪した。」というものである。 二第一審判決は、右公訴事実と同旨の事実を認定して、被告人を有罪とした。 三これに対し、被告人が控訴の申立てをしたところ、原判決は、次のような事実認定及び法律判断をして、第一審判決を破棄し、右公訴事実について被告人を無罪とした。 1 本件土地は、東京都立C公園の予定地の一部であり、本件当時、有事の際の緊- 1 -急用務等のほか、日常的には南側に隣接する区道の通行車両等のすれ違い等の利用に供されていた。 2 被告人は、何ら権原がないのに、平成八年一〇月ころから、本件土地 り、本件当時、有事の際の緊- 1 -急用務等のほか、日常的には南側に隣接する区道の通行車両等のすれ違い等の利用に供されていた。 2 被告人は、何ら権原がないのに、平成八年一〇月ころから、本件土地上に中古電器製品等を置いてリサイクルショップを営み、さらに、同年一二月中旬ころ、材料として廃材を調達して本件簡易建物の建築に着手し、その後、これを完成させた。 3 捜査段階において本件簡易建物等の検証が行われた平成九年八月一日時点における同建物の性状は、次のようなものであった。 (一) 本件簡易建物は、建築面積約六四・三平方メートルで、本件土地の中央部を占め、その内部は、木製ドア及びシートによって、東側部分(約三七平方メートル)と西側部分(約二七・三平方メートル)に区分けされていた。 (二) 本件簡易建物は、土台として角材がそのまま地面の上に置かれ、その隅及び要所に長さ約三メートルの角材が柱として立てられ、屋根部分のけた及びもやに接合されていた。土台、柱、屋根部分等の組立てには、ほぞをほぞ穴に差し込んで固定する方法は採られておらず、土台の角材同士、土台の角材と柱、柱と柱を、平板等を当ててくぎ付けするなどしてつないでいた。屋根部分は、多数の角材等をけた、もやとし、その上にビニールシートを掛け、さらに、その上に平板を当てて柱等に固定するなどしていた。周囲は、ビニールシート、廃材の戸板、アコーディオンカーテン等で覆い、要所に板を当ててくぎ打ちしていた。また、公園の金網フェンスに接する部分は、針金、電器コード等で右フェンスに結び付けられていた。 (三) 本件簡易建物の内部には、居住設備はなく、中古の家庭電器製品等が山積みされ、区道を隔てて向かい側にある建物から電線を引いて蛍光灯が設置されていた。 4 本件簡易建物は、平成九年九月一一日、東京都が依頼し 簡易建物の内部には、居住設備はなく、中古の家庭電器製品等が山積みされ、区道を隔てて向かい側にある建物から電線を引いて蛍光灯が設置されていた。 4 本件簡易建物は、平成九年九月一一日、東京都が依頼した解体業者によって、六名の人員で大き目のハンマー等を用いて約一時間で解体撤去された。その費用は、- 2 -二六万円余りであった。 5 本件で起訴の対象となっているのは平成八年一二月中旬ころの時点における被告人らの行為であるが、右時点における本件簡易建物の性状を示す的確な証拠はなく、右時点の同建物は、前記検証時のそれより更に規模が小さく、構造が強度でなかった可能性がある。 6 不動産侵奪罪にいう「侵奪」があったか否かについては、具体的事案に応じて、不動産の種類、占有侵奪の方法、態様、占有期間の長短、原状回復の難易、占有排除及び占有設定の意思の強弱、相手方に与えた損害の有無などを総合的に判断し、社会通念に従って決定すべきであるところ、前認定の事実によれば、本件簡易建物は、本格建築とはほど遠く、解体も容易なものであったから、占有侵害の態様は必ずしも高度のものとはいえない。東京都の本件土地の管理状況は比較的緩やかなものであり、その職員らは、平成八年一〇月ころ被告人らが本件土地を不法占有するようになって以降、時折警告を与えていたが、その内容は、本件簡易建物建築の前後を通じて、本件土地を明け渡すようにとの趣旨にとどまり、不動産侵奪をいうものではなかった。また、本件簡易建物は居住目的のものでなかったから、占有排除及び占有設定の意思、相手方に与えた損害、原状回復の困難性も、さほど大きいものとはいえない。そうすると、前記検証時の本件簡易建物の性状を前提にしても、同建物の建築をもって不動産侵奪罪にいう侵奪行為があったとするには、重大な疑問が残る。本件公訴事実の 難性も、さほど大きいものとはいえない。そうすると、前記検証時の本件簡易建物の性状を前提にしても、同建物の建築をもって不動産侵奪罪にいう侵奪行為があったとするには、重大な疑問が残る。本件公訴事実のいう平成八年一二月当時の本件簡易建物の形状は、右検証時のそれよりも更に規模が小さく、あるいは構造が強固でないものであった可能性があるから、不動産侵奪罪の成立を認めるには合理的疑いが残り、犯罪の証明がない。 7 したがって、第一審判決が不動産侵奪罪の成立を肯定したのは、事実を誤認したものといわざるを得ない。 - 3 -四そこで、原判決の当否について検討する。 1 刑法二三五条の二の不動産侵奪罪にいう「侵奪」とは、不法領得の意思をもって、不動産に対する他人の占有を排除し、これを自己又は第三者の占有に移すことをいうものである。そして、当該行為が侵奪行為に当たるかどうかは、具体的事案に応じて、不動産の種類、占有侵害の方法、態様、占有期間の長短、原状回復の難易、占有排除及び占有設定の意思の強弱、相手方に与えた損害の有無などを総合的に判断し、社会通念に従って決定すべきものであることは、原判決の摘示するとおりである。 2 本件で起訴の対象となっている平成八年一二月中旬ころの時点あるいはそれに引き続いて西側に増築された時点における本件簡易建物の性状を示す的確な証拠がないことも、原判決の指摘するとおりである。 しかし、【要旨】捜査段階において検証が行われた平成九年八月一日当時の本件土地の状況について見ると、本件簡易建物は、約一一〇・七五平方メートルの本件土地の中心部に、建築面積約六四・三平方メートルを占めて構築されたものであって、原判決の認定した前記構造等からすると、容易に倒壊しない骨組みを有するものとなっており、そのため、本件簡易建物により本件土地の有効利 に、建築面積約六四・三平方メートルを占めて構築されたものであって、原判決の認定した前記構造等からすると、容易に倒壊しない骨組みを有するものとなっており、そのため、本件簡易建物により本件土地の有効利用は阻害され、その回復も決して容易なものではなかったということができる。加えて、被告人らは、本件土地の所有者である東京都の職員の警告を無視して、本件簡易建物を構築し、相当期間退去要求にも応じなかったというのであるから、占有侵害の態様は高度で、占有排除及び占有設定の意思も強固であり、相手方に与えた損害も小さくなかったと認められる。そして、被告人らは、本件土地につき何ら権原がないのに、右行為を行ったのであるから、本件土地は、遅くとも、右検証時までには、被告人らによって侵奪されていたものというべきである。 3 前記一の事実については、殊にその特定する時期における不動産侵奪罪の成立- 4 -を認めることができないとしても、前記一の事実と、その後遅くとも前記検証時である平成九年八月一日までの間に本件簡易建物によって本件土地を侵奪したという事実とは、基本的事実関係を同じくし、公訴事実の同一性があるというべきである。 そうだとすると、原審裁判所は、右検証時までの右罪の成立の可能性について、必要であれば訴因変更の手続を経るなどして、更に審理を遂げる義務があった。ところが、原審裁判所は、刑法二三五条の二の侵奪の成否についての判断を誤り、右検証時における本件土地の占有状態によってもなお侵奪があったとはいえないと解した結果、右時点までの同罪の成立の可能性について何ら審理をすることなく、直ちに犯罪の証明がないとして被告人を無罪としたものであって、原審には判決に影響を及ぼすべき法解釈の誤り及び審理不尽の違法があるといわざるを得ず、原判決を破棄しなければ著しく正義に反す ることなく、直ちに犯罪の証明がないとして被告人を無罪としたものであって、原審には判決に影響を及ぼすべき法解釈の誤り及び審理不尽の違法があるといわざるを得ず、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 よって、刑訴法四一一条一号、四一三条本文により、恐喝罪の成立を認めた第一審判決判示第二の所為とともに更に審理を尽くさせるため、原判決を破棄した上、本件を原審である東京高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 検察官小田攻公判出席(裁判長裁判官河合伸一裁判官福田博裁判官北川弘治裁判官亀山継夫裁判官梶谷玄)- 5 -

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