平成13(わ)94 背任被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年1月29日 佐賀地方裁判所 佐賀地方裁判所
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判決文本文31,157 文字)

平成16年1月29日宣告平成13年・第94号背任被告事件判決被告人A主文被告人は無罪。 理由 第1公訴事実本件公訴事実は「被告人は,佐賀市農業協同組合代表理事組合長として部,下職員を指揮し,同組合における資金の貸付等に関する業務を統括掌理するものであるが,資金の貸付業務を行うに当たっては,関係法令並びに同組合の定款,信用業務規程及び担保評価基準等を遵守するとともに,貸付金の回収を確実にするため十分な物的担保を徴するなど誠実に貸付業務を処理すべき任務を有していたのに,同組合金融部長B,同組合巨勢支所長C及び同組合の組合員Dと共謀の上,同人ら及び自己の利益を図る目的で,上記各任務に背き,平成8年8月29日,佐賀市成章町6番1号所在の同組合本所において,上記Dから1億800万円の貸付を求められた際,同人が返済資力に乏しく,かつ,同組合の担保評価基準によれば同人から担保として提供された土地及び建物は総額約6,000万円相当の価値しか有しないものと評価すべきであるのに,これを著しく過大に評価して同土地及び建物に極度額1億5,000万円の根抵当権の設定を受けた上,同人に対して,1億800万円を同組合の資金から同組合名義で貸し付けてその回収を困難ならしめ,もって,同組合に上記貸付額相当の財産上の損害を加えたものである」というものである。 。 以下,佐賀市農業協同組合を「佐賀市農協」と,同組合金融部長Bを「B金融部長」と,同組合巨勢支所長Cを「C支所長」と,同組合組合員Dを「D」と,同組合本所を「本所」と,上記公訴事実記載の佐賀市農協からDに対して なされた1億800万円の貸付を「本件貸付」とそれぞれいう。 第2当事者双方の主張及び本件の主たる争点 検察官の主張の概要被告人,B金融部長及びC支所長は,本件貸付について 協からDに対して なされた1億800万円の貸付を「本件貸付」とそれぞれいう。 第2当事者双方の主張及び本件の主たる争点 検察官の主張の概要被告人,B金融部長及びC支所長は,本件貸付について,Dから担保として徴求する予定であった土地,建物のうち,一部,固定資産評価額が突出して高い1筆の土地の評価額を基準としてその土地に隣接する土地の担保評価を行うことによって,担保に徴求する予定の土地等全体の担保評価額を正規の3倍以上に過大評価して本件貸付を実行したのであるが,かかる担保評価方法は,佐賀市農協で採用されていた担保評価方法に違反している上,そのような過大評価をすべき合理的な理由は存しなかったから,被告人らの行為は背任罪を構成する任務違背行為に該当する。被告人は,Dが返済資力に乏しく担保余力がないことを認識しながら,平成8年5月ころにB金融部長から本件貸付の申込みについて報告を受けた際に「また何とかできんかのう。何とかいい方法はないか」などと述べて,本件貸付を進めるように指示した上,次いで,平成8年。 7月10日ころ,金融部長席の側のソファーにおいて,B金融部長からDの担保物件を過大評価した融資計画の説明を受け,さらに,同日夕方の事前打合せにおいて,B金融部長から再びその旨の説明を受けており,これら一連の経過の中で被告人はB金融部長らとの共謀を遂げるとともに,本件貸付が任務違背行為であることの認識を有するに至った。被告人は,本来であれば認められなかった本件貸付を実行することによって財産的利益を与える,というDの利益を図る目的を有するとともに,従前のDに対する貸付金が回収できなくなれば,組合長としての責任を追及されることになるので,本件貸付を実行することによりそれを先送りするという被告人自身の自己保身を図る目的を有していた。 弁護 ,従前のDに対する貸付金が回収できなくなれば,組合長としての責任を追及されることになるので,本件貸付を実行することによりそれを先送りするという被告人自身の自己保身を図る目的を有していた。 弁護人らの主張の概要貸付の当否の判断にあたっては,償還計画の適否こそが主体であって,担保の徴求は補完的なものにすぎない。本件貸付にあたっては,Dの事業改善を図 り,合理的な償還計画が作成されており,従前の貸付についても回収が可能になるとの判断に基づいて貸付が実行されたのであり,その判断に合理性,妥当性がなかったとは認められない。その上,本件貸付で問題となっている担保評価方法は,担保に徴求される土地,建物のうち,一部,養殖池を構成する一体の土地について,その利用実態を重視し,これを雑種地またはこれに準ずるものとして評価すべく雑種地の固定資産評価額をその土地に隣接する土地にも当てはめるという方法をとったものであり,その評価方法が直ちに違法であるとはいえず,本件貸付は任務違背行為には当たらない。さらに,被告人は,B金融部長に対し,不正な貸付をするように指示したことはなく,B金融部長から担保評価方法について特別な説明を受けたこともないから,被告人には任務違背行為の認識はなく,B金融部長らとの共謀も認められない。本件貸付は,従前のDに対する貸付を含めた貸付金の回収を図る目的,すなわち本人たる佐賀市農協の利益を図る目的でなされたものであり,図利加害目的は認められない。 本件の主たる争点以上によれば,本件においては,・本件貸付が任務違背行為に該当するか否か(客観的な任務違背行為の有無,より具体的には,①本件貸付における償)還計画に確実性が認められる否か,②本件貸付における担保評価方法が適正かつ妥当なものであったか否か,・被告人は,B金融部長から本件貸 観的な任務違背行為の有無,より具体的には,①本件貸付における償)還計画に確実性が認められる否か,②本件貸付における担保評価方法が適正かつ妥当なものであったか否か,・被告人は,B金融部長から本件貸付の担保評価方法について説明を受け,上記担保評価方法について認識していたか否か(任務違背行為についての認識の有無,B金融部長らとの共謀の有無,・本)件貸付を実行することにより被告人にD又は自己の利益を図る目的があったか否か(図利加害目的の有無)が主たる争点となる。 第3前提事実関係各証拠によれば,本件貸付に至る経緯等について,概ね以下の事実が認められる。 被告人の佐賀市農協における地位・職務権限 被告人は大学卒業後,昭和31年11月に本庄農業協同組合に就職し,同40年8月,同農協を含めて10か所の農協が合併して佐賀市農協となった際に同農協の本庄支所長となり,各職を歴任にした後,同55年5月30日,同農協を退職,同日付けで同農協の常務理事となった。さらに,同62年6月1日,同農協の組合長に就任し,5期にわたりこれを務めたが,平成13年3月5日,同職を辞任した。 本件貸付当時の佐賀市農業協同組合職制規程(甲70,72。以下「職制規程」という)によれば,佐賀市農協の組合長の具体的任務は「総会及び理。 ,事会で決定された方針に基づき経営執行方針を立て経営組織・人事・財務及び業務活動について経営の全体を統括し,その執行に当たる」とともに「理事,会に対して組合運営上,基本となる事項を提案し,基本方針及び事業計画をいかに解釈適用し遂行しているかを説明報告する」こととされていた(職制規程第20条。 ) 佐賀市農協における大口の貸付手続の概要佐賀市農協では,本件貸付当時,職制規程上,正組合員に対して5000万円を超える貸付を行う場合,担当 明報告する」こととされていた(職制規程第20条。 ) 佐賀市農協における大口の貸付手続の概要佐賀市農協では,本件貸付当時,職制規程上,正組合員に対して5000万円を超える貸付を行う場合,担当者の立案の後,支所長,本所融資課長,総務部長,金融部長,参事,常務理事,組合長の各検証を経た上で,理事会による決定が必要とされていたところ,ここでいう検証とは「下位者より提示された事項についてその内容を審査し,承認したうえ上位者にこれを提示すること」をいい,決定とは「当該役付の固有権限に属する事項であって業務を最終的に決裁すること」をいうとされていた(職制規程第13条。また,貸出審査委)員会設置要領(甲70,72)によると,正組合員等に対する1億円以上の貸付で担保評価・保証人等の調査審議を要するもの等については,組合長,常務,理事11名,参事をもって構成する貸出審査委員会による審査を経る必要があった。 本件貸付当時の佐賀市農協における不動産担保の評価基準によれば,担保に 供される不動産の担保評価額は,当該不動産の時価額の64パーセント以内の範囲とし,時価額の算定が困難な場合は,市町村の固定資産評価額の1.5倍を担保評価額とするが,山林原野等で評価,処分の困難なものは担保とすることができないとされていた。また,実際の運用としては,担保評価額の80パーセントを貸付限度額とする取扱いがなされていた。 Dのスッポン生産・販売の実績Dは,佐賀市農協久保泉支所(以下「久保泉支所」という)の正組合員で。 あるが,減反政策によって農業だけで生計を立てるのが困難になったため,昭和53年10月ころからスッポン養殖業を営むようになった。当初は,スッポンの卵と稚亀の生産・販売のみを行っていたが,これらを購入したスッポン業者が自らの手で卵や稚亀の生産を行うよ 難になったため,昭和53年10月ころからスッポン養殖業を営むようになった。当初は,スッポンの卵と稚亀の生産・販売のみを行っていたが,これらを購入したスッポン業者が自らの手で卵や稚亀の生産を行うようになり,販売先が先細りになっていくことから,昭和54年ころ,佐賀市農協の貸付を受けて新しい養殖池を作り,食用となる肉亀の生産・販売にも取り組むようになった。ところが,肉亀の生産には時間と費用を要する上,成長する前に病死したり,肉亀の販売先を見つけることが困難であったことなどから,昭和57年ころからは,肉亀を養殖する規模を縮小し,再び卵と稚亀の生産・販売を主に行うようになった。昭和63年ころには,スッポンが多量に病死して売上げが伸びず,経営状態は苦しいものとなっていったため,佐賀市農協からの借入金や購買未収金の返済が滞る状況にあった。 Dに対する佐賀市農協の従前の貸付状況佐賀市農協のDに対する主な貸付としては,平成元年2月,負債整理及びふ化場資金の名目で4000万円(うち約3460万円は従前の貸付の元金及び利息,営農未収金,購買未収金の借換,平成4年7月には負債整理の名目で)5300万円(平成元年2月の貸付の元金及び利息,購買未収金の借換,平)成7年5月には負債整理の名目で5690万円(平成4年7月の貸付の元金及び利息の借換)の各貸付が実行されていた(甲102,103。 ) なお,平成7年5月の貸付は,平成4年7月の貸付の返済が延滞していたため,追加担保を徴求した上で借換を行ったものであるが,平成7年5月の貸付の際の追加担保の徴求によっても,担保に供された不動産の担保評価額の総額は7113万2000円に過ぎなかったことから,貸付限度額はその80パーセントにあたる5690万5000円にとどまり,平成4年7月の貸付の際に陥っていた担 も,担保に供された不動産の担保評価額の総額は7113万2000円に過ぎなかったことから,貸付限度額はその80パーセントにあたる5690万5000円にとどまり,平成4年7月の貸付の際に陥っていた担保不足の状態は解消されたものの,貸付限度額にほとんど余裕がない状態であった。 また,平成3年11月13日には,本所において,参事以下の関係職員によって負債整理対策会議が開かれ,Dに対する貸付金が回収できていないことも議題に取り上げられ,Dのスッポン養殖業について経営計画どおりの生産・販売ができていないこと,佐賀市農協において経営内容の把握ができていないこと等の問題点が指摘され,同会議の代表者がDと面談した。その後,同月27日,同年12月13日,平成4年1月31日にもDに対する貸付について負債)。 整理対策会議が開かれ,貸付金の回収についての検討がなされた(甲102 本件貸付に至る経緯・営農計画の策定等Dは,平成7年末ころ,全国農業協同組合連合会福岡支所の職員から有限会社X水産の社長であるE社長の紹介を受け,Dが肉亀を生産してX水産に販売し,X水産がこれを中国に輸出するという話を持ち掛けられた。X水産に販売するのに十分な数の肉亀を生産するためには養殖池の規模拡大が必要であると考えたDは,平成8年初めころ,従前の養殖池の隣接地所有者に対し,当該土地の購入の申込みをするとともに,当時久保泉支所の支所長であったC支所長に規模拡大のための融資の相談を持ち掛けた。C支所長は,Dから相談を受けて,Dを本所営農部に連れて行き,同部においてD,E社長らを交えて協議の場を持ち,さらに,平成8年4月17日には,本所において,D,E社長,F営農部長,G畜産課長,B金融部長,C支所長が出席し て,Dの販売拡大のための話し合いが行われた。 その後,本所営農部で 協議の場を持ち,さらに,平成8年4月17日には,本所において,D,E社長,F営農部長,G畜産課長,B金融部長,C支所長が出席し て,Dの販売拡大のための話し合いが行われた。 その後,本所営農部では,佐賀市農協がDとX水産との間に立って取引をすることの当否を検討するために,X水産の信用調査等を行うとともに,同年4月ないし5月ころには,F営農部長,C支所長,B金融部長,ときにはDを交えて貸付についての協議を行った。本所営農部では,理事会や貸出審査委員会における貸付案件の審議の際に添付する資料を作成する必要があると考え,同年6月ころ,F営農部長がC支所長に今後のスッポンの出荷予定等をDから聴き取り調査するように依頼した。C支所長は,Dから聴き取り調査を行うとともに,規模拡大のための工事の見積書の提出を受け,これをもとに「収入計算書」及び「支出計算書」を作成してF営農部長に渡し,本所営農部ではこれらの内容をDに確認するとともに,X水産との取引量については,それだけの量の引取りが可能であるかをX水産に確認した上で営農計画書(営農計画」と題する書面)を作成した。 「・担保評価方法の考案C支所長は,同年6月10日付けで佐賀市農協巨勢支所長に異動になり,同月18日から同支所長として勤務し始めたが,その後まもなく本所に赴いた際,B金融部長からDの件は最後まで頼むと声をかけられたことから,Dに対する貸付の稟議書の下書きを作成するための資料を収集した。同月末ころ,C支所長は,上記資料を基に後記の担保評価方法を記した担保物件メモ(担保物件」と題する書面,固定資産評価証明書等を持参して本所のB「)金融部長のもとを訪ね,B金融部長と相談の上,Dから担保として提供される不動産(以下「本件担保不動産」という)の評価にあたり,そのうち既。 に完成しスッポ 資産評価証明書等を持参して本所のB「)金融部長のもとを訪ね,B金融部長と相談の上,Dから担保として提供される不動産(以下「本件担保不動産」という)の評価にあたり,そのうち既。 に完成しスッポンの生産を行っていた養殖池及びその周辺を構成する20筆(登記簿上の地目は雑種地7筆,田12筆,山林1筆)の土地(合計9903平方メートル(2995.6坪。以下「本件土地」という)について)。 は,これを一体として評価し,その中で固定資産評価額が突出して高額であ った雑種地1筆(佐賀市久保泉町大字下和泉字古村2728番所在の固定資産評価額534万1000円のもの。以下「本件雑種地」という)の1坪。 当たりの固定資産評価額に全体の坪数を乗じて本件土地の担保評価額(1億4404万8000円)を算出することにした(以下「本件担保評価方法」という。もっとも,このとき,作成された担保物件メモは,上記方法によ)って算出した本件土地の評価額に0.64を乗じて計算していたため,本件土地を含む本件担保不動産の担保評価額は合計1億2730万9363円となっていた。C支所長は,この担保物件メモに基づいて本件貸付についての貸付稟議書の下書きの起案に取りかかった。 ・久保泉支所における貸付禀議書の作成及びその後の決裁状況同年7月8日午前11時ころ,本所2階の和室において,B金融部長,F営農部長,G畜産課長,C支所長,H久保泉支所長(以下「H支所長」という,I久保泉支所庶務金融共済課長(以下「I金融課長」という)が集。)。 まって本件貸付について打合せが行われ,本件貸付については久保泉支所から本所に禀議を上げること,本件貸付については同月16日に開催される理事会に諮ることなどが決まった。I金融課長は,C支所長から受け取った担保物件メモ及び貸付禀議書の下書きを 付については久保泉支所から本所に禀議を上げること,本件貸付については同月16日に開催される理事会に諮ることなどが決まった。I金融課長は,C支所長から受け取った担保物件メモ及び貸付禀議書の下書きを参考に正式な貸付禀議書(以下「本件禀議書」という)及び「担保物件評価額」と題する書面(以下「担保物件。 評価書」という)の作成にあたったが,本来,不動産担保評価額を算定す。 るには,固定資産評価額を基準に算出された金額に1.5を乗ずべきところ,C支所長から受け取った担保物件メモでは0.64を乗じていたことから,C支所長に電話で連絡し,その承認を得た上で,同金額に1.5を乗ずるように変更したほか,面積,建物の評価等について数か所変更した。同月9日,I金融課長は,金融主任会議で本所を訪れた際に,自らが起案した本件禀議書及び担保物件評価書をB金融部長に見せて上記変更について報告した後,これらの書類を久保泉支所に持ち帰った。上記変更の結果,本件担保不動産 の担保評価額は合計2億3465万2344円となった。 また,そのころ,B金融部長は,I金融課長に対し,本件貸付について久保泉地区選出の理事に説明しておくように指示した。そこで,同年7月10日,久保泉支所にH支所長,I金融課長,D,久保泉地区選出理事であるJ(以下「J理事」という,K,L,Mが集まり,I金融課長が本件貸付。)について説明をするとともに,J理事らがDから返済の見込みなどについて聴き取り調査を行ったが,その際,I金融課長からJ理事らに対し本件担保評価方法についての説明はなかった。 I金融課長は,同月10日の午前中,本件禀議書にH支所長から決裁印をもらった上で,本所を訪れ,金融部のN融資課長に本件禀議書等の関係書類を手渡した。その後,本件禀議書は,同日付にて本所金融部の係で受け付けら は,同月10日の午前中,本件禀議書にH支所長から決裁印をもらった上で,本所を訪れ,金融部のN融資課長に本件禀議書等の関係書類を手渡した。その後,本件禀議書は,同日付にて本所金融部の係で受け付けられた後,翌11日にN融資課長の決裁がなされ,さらに,翌12日にB金融部長,O参事,P常務及び組合長である被告人の決裁がなされた。 ・貸出審査委員会及び理事会における審議状況本所では同月11日の午後1時30分から,本件貸付とは別の貸付案件について貸出審査委員会が開催されることが予定されていたが,本件貸付もあわせて審査することとなった。同委員会では,本件貸付について,B金融部長から「貸出金審議」と題する書面(甲3)等の資料を基に説明がなされたが,本件土地のうちで現況が池沼である土地も担保物件とされていることや,池沼,田畑を雑種地として評価していることが問題視され,現地視察を提案する委員もいたことから,議長である被告人が「見に行くと誰も借りる者がいなくなる」などと言って宥める場面もあった。また,被告人は,池沼が。 担保として入っていることを聞いて「沼のあっか。困ったなあ」と言い,,。 久保泉地区選出のL委員に対し「しっかりせんといかんじゃないか」など。 と言っていた。結局,この日には採決されず,理事会が開かれる同月16日の午前中に再び本件貸付についての貸出審査委員会が開催されることとなっ た。 同月16日午前中に開催された2度目の貸出審査委員会では,F営農部長が営農計画について説明したが,池沼を雑種地として担保評価することはできない旨の意見が数人の理事から出されたため,結局,同委員会での意見の一致を見ないまま理事会に諮られることとなった。 さらに,本所で同日午後1時30分から開催された理事会における本件貸付の審議では,貸出金額,担保物件等( 理事から出されたため,結局,同委員会での意見の一致を見ないまま理事会に諮られることとなった。 さらに,本所で同日午後1時30分から開催された理事会における本件貸付の審議では,貸出金額,担保物件等(この時点では,いくつかの修正を経ていたため,本件土地を含む本件担保不動産の担保評価額は合計1億9665万5000円となっていた(甲4)についてはO参事から,営農計画)。 についてはF営農部長からそれぞれ説明がなされた。それに対して,Q監事らが本件土地について担保評価が高すぎる旨の意見を述べたが,B金融部長は固定資産評価額から算出するとこのようになるといった大まかな説明に終始した。このように本件貸付に関する疑問が数人の理事から出されていたところ,久保泉地区選出のJ理事は,同地区のDの案件を何とかして通してやらなければと考え,本件土地に隣接する久保泉工業団地の買収価格を引き合いに出すとともに,本件貸付を強く後押しする発言をしたことなどから,結局,理事会において全員一致で本件貸付を実行することが決定された。 なお,貸出審査委員会及び理事会においては,本件貸付における担保物件の評価について,固定資産評価額が高額評価されていた本件雑種地の1坪当たりの評価額を隣接する他の土地(本件土地)にも当てはめた旨(本件担保評価方法)の説明は全くなされなかった。 本件貸付の実行及びその後の事情理事会で本件貸付の実行が決定がされた結果,同年8月21日,購入予定であった土地を除く担保不動産について既存の根抵当権を一括抹消した上で,極度額1億5000万円の共同根抵当権が設定され,同月29日には佐賀市農協とDとの間で貸付金額1億800万円,平成10年3月20日から年1回返済, 返済回数14回,最終回返済日平成23年3月20日の金銭消費貸借契約が締結され,同日,佐 され,同月29日には佐賀市農協とDとの間で貸付金額1億800万円,平成10年3月20日から年1回返済, 返済回数14回,最終回返済日平成23年3月20日の金銭消費貸借契約が締結され,同日,佐賀市農協のDの口座に土地購入のための貸付分700万円を除く1億100万円が振り込まれ,同日,従前の貸付の返済金や購買未収金の返済として6751万4325円が同口座から引き落とされた。平成9年2月21日には貸付留保金として713万4932円が同口座に振り込まれ,同年4月2日には購入予定であった3筆の土地のうち2筆の土地について,Dが購入の上,根抵当権が追加設定されたが,残りの1筆については結局Dが購入することはなかった。 本件貸付により,従前の貸付金等に充当された分を除いて佐賀市農協のDの口座に残った約3000万円のうち500万円は貸付の翌日に引き出され,同じく1000万円は平成8年11月1日に設立したDスッポン株式会社の資本金に充当されるなど,本来工事代金として支出されるべき金員が他の用途に費消され,平成9年夏ころには同口座にはほとんど残額がない状態となった。また,Dスッポン株式会社の資本金に充当された資金も平成9年4月には底をつく状態となった。 他方,養殖池の規模拡大工事については,Dは専門の業者に依頼することなく自分で工事することにこだわり,その結果,新たな養殖池は完成するには至らず,佐賀市農協を通じてのX水産との取引もほとんど行われなかった。 本件貸付に対する返済は第1回の返済日(平成10年3月20日)から全く支払われることはなく,平成13年1月31日時点でも利息,延滞損害金を含めて全く支払われていない。 第4当裁判所の判断 客観的な任務違背行為の有無・前説上記前提事実のとおり,佐賀市農協の職制規程によれば「組合長は総会, 31日時点でも利息,延滞損害金を含めて全く支払われていない。 第4当裁判所の判断 客観的な任務違背行為の有無・前説上記前提事実のとおり,佐賀市農協の職制規程によれば「組合長は総会,及び理事会で決定された方針に基づき経営執行方針を立て経営組織・人事・ 財務及び業務活動について経営の全体を統括し,その執行に当たる(職。」制規程第20条)とされていることなどから,被告人が,本件貸付当時,佐賀市農協の組合長として,部下職員を指揮し,同組合における資金の貸付等に関する業務を統括掌理し,資金の貸付業務を行うに当たっては,関係法令並びに同組合の定款,規程及び担保評価基準等を遵守するとともに,貸付金の回収を確実にするための措置を講じて誠実に貸付業務を処理すべき任務を有していたことに争いはない。本件貸付に即してより具体的に考察すれば,正組合員に対する5000万円を超える貸付の決定権限は理事会にあり,組合長はその検証に当たるとされていたのであるから,被告人は,佐賀市農協の組合長として,下位者である参事らより提示された本件貸付に関する事項についてその内容を審査し,承認したうえ上位者である理事会にこれを付議する任務を負っていたと認められる。 ところで,金融機関においては,貸付先の経営状態が思わしくなく既存の債務の返済が滞っている場合に,経営再建を促し既存の債務の返済をも図るために追加の貸付を行うことが許されないわけではないが,当該貸付先の経営再建計画やそれに基づく債務の償還計画実現の確実性に不安が残るような場合には,追加の貸付自体についても回収不能となるおそれが一段と大きいのであるから,その貸付を実行するに際しては,少なくとも追加の貸付分について確実に回収できるだけの十分な担保を徴求するなど債権回収のための確実な措置を取ることが必要 収不能となるおそれが一段と大きいのであるから,その貸付を実行するに際しては,少なくとも追加の貸付分について確実に回収できるだけの十分な担保を徴求するなど債権回収のための確実な措置を取ることが必要であり,かかる措置を取るべき責務がある。そして,このことは,佐賀市農協が広く組合員から資金を集め,それを一部の者に対し貸し付ける金融機関である以上,本件貸付にも当然に当てはまるというべきである。 したがって,被告人は,佐賀市農協の組合長として本件貸付を理事会に付議するに当たり,Dの営農計画の確実性,それに基づく債務の償還計画の確実性を審査し,それらに問題があったとすれば,十分な担保が徴求されてい るか否か,すなわち本件貸付に当たって徴求される担保の評価が適正かつ妥当なものであるか否かについて審査し,適正・妥当なものでないと判断した場合には,これを承認せずに拒絶すべき義務があったといえる。 そこで,本件貸付が任務違背行為に当たる否かを論ずる上で,まず,被告人の認識の有無を問わず客観的に,本件貸付における営農・償還計画に確実性が認められるか否か,次いで,本件担保評価方法が佐賀市農協の規程等に合致し,その担保評価が現況を反映した妥当なものであったか否かについて検討する。 ・本件貸付における営農・償還計画に確実性が認められるか否か本件貸付にあたって前提となった営農・償還計画の内容は,Dが本件貸付を受けてスッポンの養殖場を拡張し,従前の稚亀のみの生産から肉亀の生産も行うとともに,新たに生産する肉亀を佐賀市農協を通じてX水産に販売し,その中から佐賀市農協が債権の回収を図るというものであった。Dからの聴き取りを基に本所営農部で作成した営農計画(以下「本件営農計画」という)によれば,X水産に対するスッポンの販売数としては,1匹500グ。 ラムの肉亀を 債権の回収を図るというものであった。Dからの聴き取りを基に本所営農部で作成した営農計画(以下「本件営農計画」という)によれば,X水産に対するスッポンの販売数としては,1匹500グ。 ラムの肉亀を1キログラムあたり2200円で年間4万匹,稚亀を1匹あたり230円で2万匹を見込んでおり,これによりDのX水産に対する年間の売上げが肉亀4400万円及び稚亀460万円の合計4860万円となり,他の業者への販売分もあわせたスッポンの売上げは全体で5665万円となるとされていた。また,債務の償還については,本件貸付実行後の平成8年11月27日に,佐賀市農協とX水産との間で,肉亀4万匹を1キログラムあたり2200円で,稚亀2万匹を1匹あたり230円で販売する旨の売買基本契約が締結され,同日,佐賀市農協とDとの間でも,Dが生産する肉亀,稚亀の販売を佐賀市農協に委託し,その販売代金の50パーセントを本件貸付の返済に充当するという内容のスッポン出荷販売契約が締結された。 上記のとおり,本件営農計画における肉亀の販売先としてX水産が現実に 確保され,本所営農部においても,X水産の信用調査をし,X水産に対し本件営農計画どおりのスッポンの引取りが可能であるか確認するなどしてその実現可能性の検討を行っていたことからすると,本件営農計画が体裁を装うためのものにすぎないとまではいえない。 しかしながら,本件営農計画は,Dからの聴き取りによるもので具体的な根拠に基づくものではなく,内容自体も非常に簡潔なものにすぎなかった。 また,本件営農計画の履行は,Dが計画どおりの質及び量のスッポン,特に肉亀を生産することが前提となっているところ,上記前提事実のとおり,Dが以前に肉亀の生産に取り組んだことがあったものの,失敗に終わっていたことからすれば,佐賀市農協としては,計画ど のスッポン,特に肉亀を生産することが前提となっているところ,上記前提事実のとおり,Dが以前に肉亀の生産に取り組んだことがあったものの,失敗に終わっていたことからすれば,佐賀市農協としては,計画どおりに肉亀等の生産が行われるようにDに対する営農指導を強化する必要があったといえる。それにもかかわらず,そのような指導体制をとることの検討が本件貸付時になされた形跡は全く認められず,本件貸付時における本件営農計画の成否は,Dの自主的な経営努力次第であって,その確実性については疑問があったといわざるを得ない。実際,本件営農計画は,養殖池の拡張がなかなか進まなかったこと,Dが生産する肉亀の品質が劣っていたこと,X水産が輸出先として予定していた中国への販売がうまくいかなかったことなどから,当初からほとんど履行されず,X水産とDとの取引は平成13年3月までで合計約300万円にとどまっているほか,本件貸付後のDと佐賀市農協との間の取引によって佐賀市農協が得た収入も平成8年が0円,同9年が1万9826円,同10年が223万2615円,同11年が400万5807円,同12年が98万5219円であって上記償還計画には遠く及ばないものであった。 以上の検討からすると,本件貸付における営農・償還計画には十分な確実性があったとは認められない。 ・本件担保評価方法が適正かつ妥当なものであったか否か本件担保評価方法の内容は,上記第3の5・のとおりであるところ,佐賀 市農協において固定資産評価額を利用して土地の担保評価をする場合,1筆毎に担保評価をしていくことが通例であったと認められ,本件担保評価方法はこの点で佐賀市農協の担保評価方法に従っていないというべきである。 また,担保として徴求する土地を評価するにあたって,当該土地を不動産登記簿上の地目にしたがって評価す たと認められ,本件担保評価方法はこの点で佐賀市農協の担保評価方法に従っていないというべきである。 また,担保として徴求する土地を評価するにあたって,当該土地を不動産登記簿上の地目にしたがって評価すべきか,それとも現況にしたがって評価すべきか問題となるが,本件土地のように市街化調整区域内の農地については,雑種地等として利用していても,開発許可等を受けていなければ,原状回復の指導があるはずであるから,不動産登記簿上の地目によって評価すべきである。そして,本件土地のうち不動産登記簿上の地目が田である土地は12筆あり,そのうち本件貸付当時の現況も田であった土地は9筆,池沼であった土地は3筆であり,現況が雑種地であった土地はなかったが,これらの土地について本件貸付当時に開発許可等がなされていたという形跡はうかがわれない。そうすると,本件土地のうち地目が田であった12筆の土地については,雑種地として評価し得なかったというべきである。 仮に,雑種地として評価することが許されるとしても,本件土地のうち登記簿上の地目が雑種地である土地は7筆(下和泉2704番3,2723番3,2728番,2731番2,2731番6,2721番1,2721番2)あるが,このなかで下和泉2728番(本件雑種地)と同2731番6の土地の評価額が1坪あたり3万円以上で他と比較して異常に突出している一方,現況が宅地である2721番1の土地の一部ですら1坪あたり約2628円にとどまり,その他の雑種地はそれよりも更に低廉で,その価格間には10倍以上の開きがあることからすると,本件雑種地の1坪当たりの評価額を他の雑種地の評価基準として利用することは妥当ではなく,ましてや同評価額を本件土地全体の評価に利用することは許されない。実際,1筆毎に固定資産評価額に1.5を乗じた額を加算する方法 当たりの評価額を他の雑種地の評価基準として利用することは妥当ではなく,ましてや同評価額を本件土地全体の評価に利用することは許されない。実際,1筆毎に固定資産評価額に1.5を乗じた額を加算する方法によると本件土地の担保評価額は1093万4000円にすぎないにもかかわらず,本件担保評価方 法による本件土地の担保評価額は1億4404万8000円にもなっていることからすれば,本件担保評価方法は担保評価額を水増しするための方便というほかない。 弁護人は,養殖池を構成する一体の土地については,その利用実態を重視してこれを雑種地として評価することが直ちに違法であるとはいえない旨主張するが,養殖池として一体利用する予定があるという一事をもって10倍以上もの評価額の差を説明しうるのか甚だ疑問である。むしろ,養殖池として一体利用されていることを根拠に雑種地として評価するというのであれば,登記簿上の地目が雑種地で現況が池沼である土地(2721番1の一部,2721番2)の固定資産評価額を全体に適用すべきである。 なお,本件土地の近隣には久保泉工業団地が存在し,その用地買収の際に最高1平方メートルあたり1万2000円(1坪あたり約3万9672円)の価格で買収されたという事実が認められるが,同工業団地の土地の買収価格は,佐賀市と地元地権者との交渉の末に時価よりもかなり高額で決定されたもので,時価をそのまま反映したものではない上,同工業団地が拡張される予定はなかったこと,佐賀市久保泉町は全域が市街化調整区域に指定されており,農地については原則として開発行為が許されていないことからすれば,同工業団地の買収価格が周辺の土地の時価に影響を与えたとは認められない。そうすると,久保泉工業団地の買収価格が高額であることをもって,本件担保評価方法が実勢価格を反映する正当 いないことからすれば,同工業団地の買収価格が周辺の土地の時価に影響を与えたとは認められない。そうすると,久保泉工業団地の買収価格が高額であることをもって,本件担保評価方法が実勢価格を反映する正当なものであるということもできない。 以上のとおり,本件担保評価方法は,佐賀市農協の担保評価方法に従わずに,担保評価としてあまりにも過大なものとなっており,金融機関が行う担保評価方法として不当であることは明らかである。 ・小括以上の検討の結果から明らかなように,本件営農・償還計画は不確実な要 素を基礎とするもので,その確実性には疑問があったにもかかわらず,不当な本件担保評価方法により過大な担保評価がなされ,担保が不足した状態で本件貸付が実行されたのであるから,被告人は,佐賀市農協の組合長として,本件貸付の検証の際に,その内容を審査し,これを承認すべきではなかったといえる。それにもかかわらず,これを承認して理事会に付議し,その結果,本件貸付が実行され,佐賀市農協に財産上の損害を与えたのであるから,客観的には組合長として法的に期待されている任務に違背したものと認められる。 本件背任についての故意及び共謀の有無・前説上記1のとおり,本件貸付の実行が客観的には組合長としての任務に違背するとして,被告人に任務違背行為についての認識があったか否かが次に問題となる。 この点について,検察官は,被告人は,平成8年7月10日ころ,本所金融部長席の側のソファーにおいて,B金融部長からDの担保物件を過大評価し融資計画を立てた旨の説明を受け,さらに,同日夕方の貸出審査委員会前の事前打合せにおいて,O参事,P常務とともに,B金融部長から再びその旨の説明を受けたことから,本件貸付を実行することが組合長としての任務に違背するとの認識を被告人が有していた 方の貸出審査委員会前の事前打合せにおいて,O参事,P常務とともに,B金融部長から再びその旨の説明を受けたことから,本件貸付を実行することが組合長としての任務に違背するとの認識を被告人が有していたといえる上,B金融部長との共謀も認められる旨主張するのに対し,弁護人は,被告人がB金融部長から担保評価方法について特別な説明を受けたことはなく,被告人には任務違背の認識はないし,B金融部長との共謀も認められない旨主張するので,以下,被告人に対し本件担保評価方法の内容を説明したとするB金融部長の供述(以。 ,下「B供述」という)の信用性等について検討する(なお,B金融部長が「X水産との話し合いの後の平成8年5月ころ,被告人に対し,Dから貸付の申込みが来ていることを報告し,担保が厳しい,貸付も厳しい,回収は一 向に進んでいない旨告げたところ,被告人から『また,何とかできんかのう,何とかいい方法はないか』と言われ,別の機会にも『Dの件はどうなって。 るんだ,よろしく頼んどくのう』と言われた」旨の証言をしていること。 。 を前提に,検察官は,被告人からB金融部長へ本件貸付に関する指示がなされていた旨主張しているが,仮に検察官の主張どおりの言葉を被告人が発したとしても,その文言自体があいまいなもので,被告人の意図を一義的に明示するもとはいえず,むしろ文言どおりに受け取れば,Dに対する貸付についてB金融部長らの検討を促したものにすぎないのであって,これをもって本件担保評価方法のような手段を講じてまで貸付を行う旨の指示があったとはいえず,この点をとらえて任務違背行為の認識やB金融部長らとの共謀があったとは言い難い。 。)・B供述の概要B金融部長は,第5回,第6回及び第8回公判において,証人として供述し(以下,第5回,第6回及び第8回公判調書 務違背行為の認識やB金融部長らとの共謀があったとは言い難い。 。)・B供述の概要B金融部長は,第5回,第6回及び第8回公判において,証人として供述し(以下,第5回,第6回及び第8回公判調書中の各供述を一括して「当初の供述」という,その後,後述の被告人のアリバイが争点として顕在化。)した後の第40回公判において,再び証人として供述している(以下,第40回公判調書中の供述を「再尋問の供述」という)ところ,その間に変遷。 も見られるので,B供述を当初の供述と再尋問の供述とに分けて以下検討する。 ア当初の供述の要旨平成8年7月10日に久保泉支所から正式な禀議書が本所に上がってきた。本所金融部融資課で受付をし,担当者に貸出審査委員会の議案書(貸出金審議」と題する書面)を作成させた。その後,被告人に対し,「部長席の横のソファーにおいて,テーブルの上に資料を広げて本件貸付の内容について説明した。担保評価額の算出方法については「雑種地の一,番高い物件に合わせて評価しております」と説明したと思う。被告人の。 反応は「そんならこれでいこうかのう」というものであったと思う。 ,。 このときの時間は5分ないし10分以内だと思う(以下,B金融部長から被告人になされたとされる上記説明を「個別説明」ともいう。 。)さらに,個別説明の三,四時間後に詳しく説明した。同日午後4時以降に貸出審査委員会の事前打合せ(以下「本件事前打合せ」という)が開。 かれ,その席上でも,被告人,P常務,O参事に対して,議案の内容を順を追って説明し,担保評価の内容についても,高い物件に合わせたなど本件担保評価方法について,時間をかけて議案書や営農計画書を使って詳しく説明したと思う。この会議では被告人が議事を進行させ,P常務,O参事もうなずいたようにして自分の いても,高い物件に合わせたなど本件担保評価方法について,時間をかけて議案書や営農計画書を使って詳しく説明したと思う。この会議では被告人が議事を進行させ,P常務,O参事もうなずいたようにして自分の説明を聞いていたと思う。 貸出審査委員会の事前打合せは佐賀市農協の規程上のものではなく非公式なものではあるが,貸出審査委員会における議案の内容を詳しく知ってもらうために,従来からも組合長,常務,参事,金融部長によって貸出審査委員会の事前打合せは行われていた。 貸出審査委員会では,議案書のとおり順を追って説明した。出席した理事らから担保が足りないという意見が出たが,固定資産評価額のとおりである旨の説明をした。本件担保評価方法については説明していない。自分の記憶としては,結局,理事会に本件貸付を提案することができたことからして,貸出審査委員会はスムーズに通ったものと思っており,2回目の貸出審査委員会の記憶は乏しい。 貸出審査委員会が終わった後で,被告人から理事会で地元理事に意見を述べてもらえるようにと言われたような気がする。 理事会においても議案書を用いて説明したが,本件担保評価方法については説明していない。 イ再尋問の供述の要旨平成8年7月9日に本所で金融主任会議があり,その際,I金融課長か ら資料を見せてもらっているので,同月10日の午前9時前後に,被告人に対して,口頭で,債務者は誰で,金額は幾ら,評価の金額はどの程度という内容のことを説明したと思う。I金融課長が禀議書を本所に持参したのが午前9時過ぎと思う。それから,議案書を作成するには,草案ができているので30分もすればできると思う。あるいは,同月9日の午後5時前後に説明した可能性もある。9日の夕方かもしれないと言ったのは,被告人が日頃,夕方ころに各部長のところに話に来ていたからであ できているので30分もすればできると思う。あるいは,同月9日の午後5時前後に説明した可能性もある。9日の夕方かもしれないと言ったのは,被告人が日頃,夕方ころに各部長のところに話に来ていたからである。 (弁護人から個別説明に関する従前の供述と矛盾していないか尋ねられて)本所での受付が完了した後,被告人に本件貸付について説明したというのは事実である。 (弁護人から,従前の供述では本件事前打合せの三,四時間前に被告人に対して個別説明した旨供述しているが,その際に被告人が本所にいたのかと尋ねられて)本件事前打合せの三,四時間前となると昼になるが,被告人は本所にいたから個別説明している(さらに弁護人の追及を受け。 て)結局,同月10日の何時ころに被告人に個別説明をしたかは正確には覚えていない。 貸出審査委員会の事前打合せは必ず行われていた。平成5年4月から金融部長をしているが,その当時から貸出審査委員会は行われており,事前打合せも実施されていた。後任者に事前打合せについての引継ぎは行っていないが,事務の流れとして当然引き継がれているはずだ。事前打合せは,組合長,常務,参事,金融部長が出席して,通常は午後4時以降に行っており,組合長の行事予定に合わせて日時の設定はなされていた。事前打合せの招集は組合長が行うので,組合長は必ず出席していた。遅いときは午後5時半ころになったこともある。説明に要する時間は5分か10分くらいで,案件によって長くなることもあるが,長くても15分とか20分である。事前打合せを経ずに直接貸出審査委員会に提出した案件は1件もな い。 本件事前打合せは,午後4時以降に実施されたものと思うが時間はずれているかも知れない。午後4時以降に実施されたという根拠は,かねてからそういう時間帯で実施されていたからである。 被告人が,平成 い。 本件事前打合せは,午後4時以降に実施されたものと思うが時間はずれているかも知れない。午後4時以降に実施されたという根拠は,かねてからそういう時間帯で実施されていたからである。 被告人が,平成8年7月10日に佐賀県共済農業協同組合連合会(以下「共済連」という)の巡回に行っていたかどうかは知らない。その日も。 含めて,事前打合せのために被告人の帰りを待っていたという記憶はある。 同日も被告人の帰りをP常務,O参事とともに待っていたと思う。 本件事前打合せにおいては,貸出審査委員会の資料(甲136)を使って,住所氏名からずうっと順を追って説明した。まず,別件のR牧場の案件から説明し,これについては5分か10分くらいで終わった。Dの案件でも同資料を使って,順に説明した。具体的には,債務者,連帯債務者,貸出金の種類,過去の貸付額,返済計画,担保物件などについて説明した。 担保物件の評価についても,上記資料に記載された・,・群の本件土地については固定資産評価額によっており,トータルでいくらになり,その1. 5倍が評価額となること,その他についても時価相場を基準にして評価算出していることなどを説明した。この資料には固定資産評価証明書が添付されていたので,これを見ながら固定資産評価額が高い1筆に合わせて評価した旨の説明をした。なぜ一番高いものに合わせたかという理由を説明をしたかどうかははっきりしない。 (弁護人から本件事前打合せの段階で各筆ごとの固定資産評価証明書は付いていたか尋ねられて)固定資産評価証明書は上記資料に入っていなかったが,自分が手元に持っていたのでそれを見せて説明した。同資料の内容以上に詳しい説明をした。固定資産評価証明書を示して,雑種地に固定資産評価が一部高いものがあり,その評価額に面積を吹っかけたと説明している。 (弁護人 たのでそれを見せて説明した。同資料の内容以上に詳しい説明をした。固定資産評価証明書を示して,雑種地に固定資産評価が一部高いものがあり,その評価額に面積を吹っかけたと説明している。 (弁護人から説明の状況について追及を受けて)事前に説明をしなくて貸出審査委員会に出せるわけがないので,必ず詳しく説明している。自分の説明に対して,被告人,常務,参事からはほとんど意見は出なかったと思う。打合せだから,被告人らが理解しているか確認したと思う。常務,参事には被告人が根回しをしていたので何の反応もなかったのだと思う。 (弁護人から被告人が根回しをすることは時間的にあり得ないのではないかと尋ねられて)被告人がいつ常務,参事に話したかは私には分からない。 本件事前打合せはR牧場の案件とDの案件を合わせても30分以内に終わっていると思う。 ・B供述と他の証拠との整合性ア貸出審査委員会前に事前打合せを行う慣行の存否について被告人は,一般に貸出審査委員会の事前打合せが行われたことはなく,本件事前打合せを持ったこともないと供述する一方,B金融部長は,上記のとおり,本件貸付当時,貸出審査委員会前に事前打合せが行われており,本件事前打合せも行った旨供述していることから,本件貸付当時,佐賀市農協において,貸出審査委員会前に事前打合せを行う慣行が存在していたか否かがまず問題となる。 この点に関し,本件事前打合せに被告人とともに出席したとされるP常務及びO参事は,いずれも,本件事前打合せはなかったし,一般的に貸出審査委員会の事前打合せは存在しなかった旨供述し,本件貸付当時,B金融部長の部下であったN融資課長は,貸出審査委員会の事前打合せというものは聞いたことがない旨供述している(甲15。他方,本件貸付の翌)年である平成9年6月から参事を務めていたSは,自 付当時,B金融部長の部下であったN融資課長は,貸出審査委員会の事前打合せというものは聞いたことがない旨供述している(甲15。他方,本件貸付の翌)年である平成9年6月から参事を務めていたSは,自らかが参事であった当時は事前打合せが行われていたと供述している。 貸出審査委員会での審査は,通常は,参事,常務,組合長の決裁を経た 上で行われるものであり,同委員会での質疑応答に備えて,幹部の間で共通認識を持つために事前に打合せを行うということは合理的である。さらに,上記Sは裁判所が職権により採用の上取り調べた証人であって,その供述の信用性は基本的に高いと思われるところ,同人は参事に就任していた間は当然の事務の流れとして事前打合せが実施されていたことを明確に供述している(なお,弁護人は,Sが貸出審査委員会の事前打合せと理事会前の打合せを混同している可能性があると主張するが,Sは理事会前の打合せも別個存在した旨供述しているし,参加メンバーも異なるので,混同している可能性は認められない。他方で,P常務及びO参事は,事。)前打合せの存在を認めると本件貸付について自らが深く関与したことになり,被告人と同様に本件貸付について責任を追及されかねない立場にあることから,その供述は一般的に信用性が低いといえる上,P常務については,同人とSの在任期間は重なっているにもかかわらず,Sの上記供述と相反しており信用できない。また,N融資課長については,事前打合せのメンバーでもないことから,その存在を知らなかったとしてもさほど不合理ではない。 以上の事情を総合すると,本件貸付当時,佐賀市農協において,貸出審査委員会前に事前打合せを行う慣行が存在していたと認定するのが相当である。 イ被告人のアリバイについて被告人は,本件貸付当時,共済連の会長をも務めており ,本件貸付当時,佐賀市農協において,貸出審査委員会前に事前打合せを行う慣行が存在していたと認定するのが相当である。 イ被告人のアリバイについて被告人は,本件貸付当時,共済連の会長をも務めており,その職務の一環として,年に2回,県内の各単位農協を巡回して,共済業務の督励を行っていたところ,本件事前打合せが行われたとされる平成8年7月10日にも共済連の巡回に行っており,また,その日は午後6時30分からU建設との会合もあり,午後6時にはP常務,O参事とともに会合場所に着いていたから,個別説明及び本件事前打合せを行う時間的な余裕はなかっ た旨供述しているので,以下検討する。 ・共済連の巡回について被告人の手帳(弁9)には,平成8年7月10日に共済連の巡回が行われたことをうかがわせる記載があり,また,当時,共済連の運転手をしていたTも,公判廷において「共済連の巡回は2日間で全部を回る,ことはまずあり得ないから,平成8年7月10日も共済連の巡回に出ている。巡回には午前8時50分ころ出発し,決裁が残っているので共済連に午後5時を目標に帰ってくるようにしていたが,午後5時前に帰って来たことは全くないと断言できる。同日の巡回については,竹崎で長居したこと,午後5時すぎに共済連に寄らずに直接本所に戻ったこと,本所に到着後,P常務から『もうちょっと遅れたらね,あなたがどっか送っていかないかんやったよ』と言われたことを覚えている」など。 。 と供述している。 検察官は,T供述について,運転日報等の客観的資料に基づくものではなく,単なる記憶に基づくものであるにもかかわらず,竹崎での長居やP常務との会話など当日の状況について詳細な供述になりすぎているきらいがあること,被告人の上記手帳では同年12月5日も共済連の巡回に出ていることになっているが, であるにもかかわらず,竹崎での長居やP常務との会話など当日の状況について詳細な供述になりすぎているきらいがあること,被告人の上記手帳では同年12月5日も共済連の巡回に出ていることになっているが,同日午後3時から被告人が記者会見を行っている事実が認められる(甲137)のに,被告人は記者会見には出ずに共済連の巡回に出ていたと述べていることなどから,被告人の利益に沿う偏った供述態度が認められるとして,その信用性は乏しい旨主張する。しかしながら,上記のような供述態度が認められるからといって,T供述全体の信用性が否定されるわけではなく,少なくとも共済連の巡回の時間に関する供述の信用性についてはこれを否定する事情を見出し得ない。被告人の上記手帳に共済連の巡回についての記載があったにもかかわらず,検察官において被告人の当日の行動について裏付け 捜査を行った形跡がうかがわれず,上記の反論以外にさしたる反証ができない以上,疑わしきは被告人の利益に解し,平成8年7月10日,被告人は,午前8時50分ころから共済連の巡回に出かけ,本所に戻ったのが午後5時過ぎであったと認定するほかない。 ・U建設との会合について被告人の上記手帳には,平成8年7月10日の欄に「U建設V荘PM6.30」と,同日午後6時30分から古湯温泉にあるV荘において,佐賀市農協とU建設との間で懇親会が開催されていたことをうかがわせる記載が認められるところ,当時,U建設の常務であったWは,当公判廷において,被告人らは午後6時ちょっと過ぎにV荘に到着した旨の供述をしているほか,上記Tは,本所からV荘まで自動車で45分から50分はかかる旨供述している。 検察官は,W供述について,同人が保管していた業務日誌(弁12)には佐賀市農協との懇親会があった旨の記載しかなく時間等の記載がないこ 所からV荘まで自動車で45分から50分はかかる旨供述している。 検察官は,W供述について,同人が保管していた業務日誌(弁12)には佐賀市農協との懇親会があった旨の記載しかなく時間等の記載がないこと,懇親会の席での話題については記憶がないとしながら,被告人が到着した時間については記憶しているとする根拠がないことから,Tと同様に被告人の利益に沿う偏った供述態度がうかがわれるとして,その信用性を弾劾するが,被告人とWとの間に何ら利害関係が認められないことからすると,検察官主張の事情のみからW供述が虚偽であるとして排斥することはできない。結局,上記のT供述について述べたのと同様に,疑わしきは被告人の利益に解し,被告人らがV荘に午後6時過ぎころに到着し,所要時間から逆算すると,被告人らが佐賀市農協を出発したのは遅くとも午後5時30分であったと認定するほかない。 ウ上記認定事実とB供述との整合性について以上によれば,上記アのとおり,本件貸付当時,佐賀市農協において,貸出審査委員会前に事前打合せを行う慣行が存在した事実が認められるの で,B供述は,この点に関して上記認定と整合している。 また,上記イによれば,被告人は,平成8年7月10日午前8時50分ころから午後5時すぎころまで共済連の巡回に出て,遅くとも午後5時30分ころ本所を出発した事実が認められる。 B金融部長は,被告人に対する個別説明を行った時間帯について,同月9日の夕方に行った可能性もあるなどと述べて,正確な時間は覚えていないとしながら,なお本所での禀議書の受付終了後に被告人に個別説明をしたとの供述は維持しているが,上記のとおり,受付完了後の時間には,被告人は本所にいなかったのであり,この点でB供述は上記認定と相反している。 他方,本件事前打合せについては,上記認定のとおり,これに たとの供述は維持しているが,上記のとおり,受付完了後の時間には,被告人は本所にいなかったのであり,この点でB供述は上記認定と相反している。 他方,本件事前打合せについては,上記認定のとおり,これに当てることのできた時間が20分程度はあった可能性があり,これを行う時間的余裕がなかったとまでは言えないから,この点に関してB供述は整合している。 ・B供述の信用性についての検討ア被告人に対する個別説明についてB金融部長は,当初の供述では,平成8年7月10日に本件禀議書を本所金融部融資課で受け付けし,担当に議案書を作成させて受付を完了した後,被告人に対し,部長席の横のソファーにおいて,テーブルに資料を広げて「雑種地の一番高い物件に合わせて評価しております」と説明し,。 た旨供述していたところ,再尋問になって,平成8年7月9日に金融主任会議で本所に来たI金融課長から資料を見せてもらっており,同日午後5時前後か受付完了前となる翌10日午前9時前後に被告人に個別説明をした可能性もあると従前供述していなかった具体的な日時等を供述する一方で,本所の受付完了後に被告人に個別説明したのは事実であるとの供述も維持しており,再尋問の中ですら矛盾を生じている。 さらに,B供述は,被告人に個別に説明をしたとの点では一貫しているものの,説明の内容や被告人とのやりとりについては漠然としている感が否めず,説明をした時間帯,資料を示して説明をしたか否かといった具体的な状況について,あいまいな供述に終始している上,反対尋問などを受けて場当たり的に変遷しており,最終的には,同月10日の何時ころに被告人に個別説明をしたかは正確には覚えていないと述べるに至っており,B金融部長が具体的な記憶に基づいて供述しているのか疑わしいといわざるを得ない。 加えて,B金融部長が は,同月10日の何時ころに被告人に個別説明をしたかは正確には覚えていないと述べるに至っており,B金融部長が具体的な記憶に基づいて供述しているのか疑わしいといわざるを得ない。 加えて,B金融部長が,直接の上司である参事や常務を通さずに,直接,組合長である被告人に説明をしたとする点についても,職制規程上は参事を通じて報告すべきであり,理事会などでは参事が説明役を担うのであるから参事や常務に対しても一定の説明がなされてしかるべきであるのに,あえて直接被告人に報告する一方で,事前打合せ以外に参事や常務に対してDの貸付に関する詳しい説明をしていないというのであるが,この点についてB金融部長は合理的な説明ができておらず,その供述内容はあまりにも不自然というほかない。 イ本件事前打合せにおける説明について上記・で認定した事実に加え,本件貸付についての貸出審査委員会は,被告人,P常務,O参事の決裁の前に開催されており,通常以上に事前に貸付案件の説明を受ける必要性が高かったと認められること,1億円を超える貸付案件についての貸出審査委員会の前に被告人らとの間で全く何らの事前協議がなかったというのは不自然であることから,本件貸付についても事前打合せがなされたと認定するのが相当である。そうすると,本件事前打合せにおいて,B金融部長から出席者である被告人らに対し,本件貸付を可能とした本件担保評価方法について何らかの言及がなされたものと考えるのが自然である。しかしながら,この点,当のB供述の内容を仔 細に検討すると,以下に詳述するとおり,多くの疑問があり,被告人が本件担保評価方法の仕組みなりを理解しうる程度の説明がなされたか,甚だ心許ないものとなっている。 すなわち,B金融部長は,当初の供述では,本件事前打合せが行われた時間帯について「午後4時から, 人が本件担保評価方法の仕組みなりを理解しうる程度の説明がなされたか,甚だ心許ないものとなっている。 すなわち,B金融部長は,当初の供述では,本件事前打合せが行われた時間帯について「午後4時から,午後4時以降だったと思います」と,。 供述し,再尋問でも,一旦,午後4時以降に行われたとする根拠について,かねてそういう時間帯ばかりで実施されていたからであると供述していたが,その直後に,本件事前打合せについて,被告人が帰って来ずに開催時間が遅くなった記憶があると述べ,被告人の帰りを待っていた具体的な記憶がある旨それまで全く供述されていない内容の供述をするに至り,この点,明らかに変遷しているが,記憶が鮮明になった理由について合理的な説明はなされていない上,被告人の帰りを待っていたとしながら,被告人がどこに出かけていたのかは知らなかったということであり,内容をみても不自然な感は否めない。 また,被告人らに説明した内容,方法について,当初の供述では「議,案の中身を順を追って説明し,評価の中身についても,高い物件に合わせて,詳しく説明したと思う。貸出審査委員会の資料を使って説明した」。 と供述していたが,再尋問において,その具体的な説明内容について検察官からの質問を受けて,本件土地について「ここ(議案書)に書いてお,りますように,固定資産の評価証明によりトータルで幾らになると。ですから,この固定資産評価証明の場合には1.5倍ということで説明を致しております」と供述するにとどまり,更に検察官からの質問を受けて,。 本件担保評価方法について「それは固定資産評価証明が添付書類にごさいますから,そういう固定資産評価証明を見せながら,これに合わせて評価額をこう算出しておりますよということで説明したと覚えております」。 と供述していた。ところが,弁護 資産評価証明が添付書類にごさいますから,そういう固定資産評価証明を見せながら,これに合わせて評価額をこう算出しておりますよということで説明したと覚えております」。 と供述していた。ところが,弁護人からの質問に対して,貸出審査委員会 の資料として固定資産評価証明書がないことを追及されるや,自分の手持ちの固定資産評価証明書で説明したと述べ,さらに,具体的にどのような説明をしたか追及されると「固定資産の評価証明が一部高いものがある,と「そういうことを含んで説明をしております「面積に固定資産。」,。」,の評価証明を吹っかけたということを説明しています」と述べ,最終的。 には「説明しなくて貸出審査委員会に出せるわけがございませんから,必ずしております」と供述するに至っている。 。 このように,B金融部長は,本件事前打合せにおいて行った説明の内容について,当初の供述は抽象的であいまいなものであったのが,再尋問の供述ではある程度具体的なものに変わったものの,本件担保評価方法については「固定資産の評価証明が一部高いものがあると「面積に固定,。」,資産の評価証明を吹っかけたということを説明しています」という程度。 のものにとどまっている。また,説明の方法についても,固定資産評価証明書を示したか否かについて,再尋問において初めて言及しているばかりか,弁護人の追及を受けてその供述内容が変遷しており,場当たり的な供述をしている感が否めない。さらに,弁護人の追及を受け,最終的に本件事前打合せにおける説明内容について具体的な供述をすることなく「説,明しなくて貸出審査委員会に出せるわけがございませんから,必ずしております」などと,理屈の上では説明したはずだとの趣旨の供述に至って。 いることからすると,B金融部長が具体的な記憶に基づいて本件 ,明しなくて貸出審査委員会に出せるわけがございませんから,必ずしております」などと,理屈の上では説明したはずだとの趣旨の供述に至って。 いることからすると,B金融部長が具体的な記憶に基づいて本件事前打合せの状況について供述しているかは甚だ疑わしいといわざるを得ない。 ウB供述の信用性について(まとめ)B金融部長は,佐賀市農協の金融部門の責任者として本件貸付に関与し,本件担保評価方法をC支所長とともに考案したもので,その認識に欠けるところがないことから,本件背任被告事件において相応の責任を負うべきところ,本件貸付が佐賀市農協の最高責任者である被告人の指示を受けた 上で行ったものであったとするならば,その地位に照らして,本件における主犯格は被告人であることとなり,B金融部長の責任は相対的に軽減されることになる。したがって,B金融部長が,自らの刑責の軽減を図るために被告人について殊更不利な供述をする可能性(引き込みの危険性)が一般的に肯定できるから,その供述内容については慎重に吟味する必要がある。 この点,検察官は,B供述は捜査段階から一貫しているほか,B金融部長は自ら罪を認めて執行猶予付きの有罪判決を受けており,その供述の信用性は高い旨主張するが,検察官主張の点は,上記の事情といささかも矛盾するものではなく,B供述の信用性を高める事情とは言い難い。 そこで,検討するに,被告人に個別説明を行ったとするB供述は,上記・ウのとおり,関係証拠と齟齬するほか,上記アで認定したとおり,自身の供述間で変遷が見られ,その内容があいまいで不自然なものであることから信用できず,被告人に対し本件貸付について個別説明がなされたとの事実は認定できない。 また,本件事前打合せにおける説明についても,それが実施されたこと自体は首肯できるものの,上記イで認定し ことから信用できず,被告人に対し本件貸付について個別説明がなされたとの事実は認定できない。 また,本件事前打合せにおける説明についても,それが実施されたこと自体は首肯できるものの,上記イで認定したとおり,その供述内容の変遷やあいまいさからは,B金融部長が具体的な記憶に基づいて供述しているかは疑問というほかない。また,上記・ウで認定したとおり,本件貸付についての事前打合せに当てることのできた時間は最長でも20分程度であるところ,B金融部長が供述するように本件担保評価方法について詳しく説明するだけの時間的余裕があったのかも疑問なしとしない。そうすると,B金融部長が,再尋問で供述したような本件担保評価方法に関する具体的な説明を被告人に対して行ったとは認められず,認められるとしても,せいぜい,当初の供述で述べていた程度の説明(雑種地の一番高い物件に「合わせて評価しております)しかなされなかったとの認定にとどまる。」 といわざるを得ない。 ・被告人の任務違背行為についての認識及びB金融部長らとの共謀の有無本件貸付においては架空の担保を設定したわけではなく,実際に提供されている担保の評価を操作して不当な貸付を行ったのであるから,被告人に任務違背行為の認識があったというためには,本件担保評価方法の内容についての認識が不可欠であるところ,被告人は,公判廷において,かかる認識はなかった旨一貫して述べている。 そして,上記・までに認定した事実を総合すると,被告人が本件担保評価方法について知り得たのは,同月10日の本件事前打合せの機会しかないことになり,その際の説明内容も「雑種地の一番高い物件に合わせて評価している」程度のものであったこととなる。 。 この点,上記前提事実のとおり,Dに対する平成7年5月の貸付において,追加担保を徴求しても, なり,その際の説明内容も「雑種地の一番高い物件に合わせて評価している」程度のものであったこととなる。 。 この点,上記前提事実のとおり,Dに対する平成7年5月の貸付において,追加担保を徴求しても,貸付限度額に余裕がほとんどない状態であった上,平成7年5月の貸付の際に,Dが提供した担保物件の担保評価額が7113万2000円に過ぎなかったにもかかわらず,本件貸付では担保評価額が1億9665万5000円に跳ね上がっているのに,何らそれに異議を呈していない被告人においては,上記程度の説明を受けただけでも,あるいは,本件貸付にあたって担保評価が過大となっていることを了解し,本件担保評価方法の内容を認識していたのではないかとも考えられる。 しかしながら,被告人は,佐賀市農協の組合長として業務全般を統括掌理していたところ,貸付業務はその一部に過ぎない上,佐賀市農協の組合長のみならず共済連の会長等の多数の役職を兼務していたことからすれば,被告人が本件貸付当時,平成7年5月の貸付の担保評価額や貸付限度額等について記憶していなかったとしても格別不自然とはいえない。その上,平成7年5月の貸付の担保物件の具体的内容を示す資料が本件貸付の資料として添付されていたとの事実は認められず,また,本件事前打合せや貸出審査委員会 等においても平成7年5月の貸付に関する説明等がなされた形跡もうかがえないことから,被告人において,本件貸付にあたっての担保評価が過大となっているか否かを判断するための前提事実を認識していたとは認められない。 また,B金融部長からの一番高い物件に合わせて評価するとの説明だけでは,本件担保評価方法が佐賀市農協の担保評価方法に従っておらず,本件土地の担保評価額が通例の方法による場合の10倍以上になっているとの事情までは被告人は知り得なかったという て評価するとの説明だけでは,本件担保評価方法が佐賀市農協の担保評価方法に従っておらず,本件土地の担保評価額が通例の方法による場合の10倍以上になっているとの事情までは被告人は知り得なかったというべきである。そうすると,被告人において本件貸付を承認すべきでないと判断できる程には本件担保評価方法の不当性についての認識を持っていなかった可能性も否定できない。 さらに,被告人が,貸出審査委員会等に提出された営農計画書等の資料やF営農部長等の説明によって,本件貸付の償還計画には十分合理性があり,全体としては特段問題はないとの認識を持った可能性も認められ,それ故に貸出審査委員会で担保評価について問題となったにもかかわらず,被告人がB金融部長らに本件貸付について問いただすことをしなかったともいえるのである。 以上の検討の結果からすれば,被告人が,B金融部長から本件貸付における担保評価方法につき「雑種地の一番高い物件に合わせて評価している」。 といった程度の説明を聞いたところで,本件担保評価方法の問題点を認識し得たかは甚だ疑問であり,被告人については,本件任務違背行為についての認識及びB金融部長との共謀のいずれも認められないというべきである。 なお,被告人の供述は,貸出審査委員会前に行われる事前打合せの慣行の存在や本件事前打合せの存在について当裁判所の認定に反することになるが,本件事前打合せも被告人が組合長在任中に長年にわたり繰り返し行われた業務の一環であって,被告人に具体的な記憶が残っていないとしてもさして不自然なことではない。ただ,事前打合せの慣行は,高額貸付の際の手続の流れであり,そのこと自体を被告人が失念しているとは考えられず,被告人が 敢えて虚偽の供述をして,かかる慣行の存在を否認している可能性が高いが,これをもって,実際に行われた本 額貸付の際の手続の流れであり,そのこと自体を被告人が失念しているとは考えられず,被告人が 敢えて虚偽の供述をして,かかる慣行の存在を否認している可能性が高いが,これをもって,実際に行われた本件事前打合せにおいて,被告人が本件担保評価方法の詳しい説明を受けたと認定するには飛躍があり,証拠となし得るものではない。 図利加害目的の有無について検察官は,本件における図利加害目的について,・本件貸付を行わずにDが経営破綻を起こして従前の貸付金が回収不能となれば,組合長として自己の責任を追及されるおそれがあったから,被告人には本件貸付を行うことにより自己らに対する責任追及を先送り・回避するという自己の利益を図る目的があった,また,・Dの返済資力等からみて本来であれば認められなかった1億800万円の本件貸付の実行を受けるという財産的利益をDが得ていることから,Dの利益を図る目的があった旨主張する。 しかしながら,平成7年5月にDに対して貸付を行った際に追加担保を徴求して担保力を強化し,少なくとも計算上は従前の貸付金に見合う担保を徴求していたのであるから,本件貸付を行わなければ従前のDに対する貸付金の回収が不能となる蓋然性が高かったとは認められない。また,本件貸付当時,佐賀市農協内部でDの貸付に関して関係者の責任問題が生じていたとの事情も認められない。そうすると,本件貸付当時,Dの返済が滞っていたからといって,そのことが直ちに被告人らの責任問題に発展する現実的・具体的な可能性があったとは認めがたいから,本件貸付が責任追及を先送り,回避するために実行されたとは認められない。なお,B金融部長自身は責任問題の先送りという目的を有していた旨供述しているが,同人が被告人ら本件貸付の関係者との間で上記責任問題について話し合ったとの事情はうかがわれない されたとは認められない。なお,B金融部長自身は責任問題の先送りという目的を有していた旨供述しているが,同人が被告人ら本件貸付の関係者との間で上記責任問題について話し合ったとの事情はうかがわれないことからすると,B金融部長自身が責任回避の意図を持っていたとしても,そのことから被告人も同様の意図を有していたとは言い難い。 次に,上記2で検討したとおり,被告人において,本件貸付が担保不足であ ったことの認識を欠いていたという合理的な疑いが認められ,さらに,前述のとおり本件営農計画は不確実なものではあったものの,全く実現可能性がないとまでは認められず,仮に本件営農計画が計画どおり実行されれば債務が返済される可能性があったことからすると,被告人において,本件貸付によりDの債務が返済可能になるとの認識を有し,本件貸付は本人たる佐賀市農協の利益を図る目的で行った可能性も否定できない。また,証拠上,被告人が組合長の任務に違背してまでDに本件貸付を行わなければならないような個人的な関係が被告人とDとの間にあったとは認められないことからすると,本件貸付の主たる目的がDの利益を図るためのものであったとまでは言えない。 以上の検討によれば,本件貸付を実行するにあたって,被告人に,責任追及を回避するという被告人らの利益を図る目的があったとは認められないし,Dの利益を図る目的があったとも認められない。 第5結論以上のとおり,本件において,被告人が本件貸付が任務違背行為に当たる旨の認識があったと認めるには合理的な疑いが存し,本件貸付に関し自己又はDらの利益を図る目的を有していたとも認定できないので,結局,被告人に対する本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。 よって,主文のと 目的を有していたとも認定できないので,結局,被告人に対する本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。 よって,主文のとおり判決する。

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