- 1 - 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載1の土地(別紙物件目録は省略)について,平成28年3月6日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。 2 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載2の建物について,平成28年3月6日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。 3 被告は,原告に対し,700万円及びこれに対する平成28年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,原告が,同性パートナーであった A (以下「 A 」という。)との間で,先に死亡した者の全財産を生存する相手方に譲渡するとの死因贈与契約を締結していたところ, A が死亡したと主張して, A の遺産を相続した被告に対し,同契約に基づき, A の遺産である別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)について贈与を原因とする所有権移転登記手続を求めるとともに,被告が① A の葬儀の喪主を務めたいとの原告の申出を拒否するなどして,同性パートナーとして A をねんごろに弔う機会を奪い,②原告の意に反して原告と A の住居の賃貸借契約を解約し,同住居から Aの荷物を持ち出し,③ A が使用していた原告所有のスマートフォンの返還を正当な理由なく拒否するなどして,原告と A の同性パートナー関係を否定したとの不法行為及び④ A 名義で賃借していた事業用事務所の賃貸借契約を無断で解約するなどして原告の事業を廃業に追い込んだとの不法行為を行ったことにより,精神的苦痛を受けたと主張して,各不法行為に基づく損害賠償として,上記①の不法行為について200 務所の賃貸借契約を無断で解約するなどして原告の事業を廃業に追い込んだとの不法行為を行ったことにより,精神的苦痛を受けたと主張して,各不法行為に基づく損害賠償として,上記①の不法行為について200万円,上記②の不法行為について150万円, - 2 -上記③の不法行為について150万円,上記④の不法行為について200万円の慰謝料合計700万円及びこれに対する各不法行為日の後の日である平成28年5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 なお,原告は,上記④の不法行為に基づく損害賠償請求(一次請求)と選択的に, A の事業の資金や A が負担すべき原告と A の共同生活の費用として合計2276万4706円を立て替えたと主張して, A の相続人である被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記金額の一部である200万円及びこれに対する訴え提起日である平成30年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(二次請求)を求めている。 2 前提事実(証拠を付記しない事実は,当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる。)(1) 当事者ア原告は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性である(甲1)。 イ被告(昭和△年生まれ)は, A (昭和●年●月●日生まれ)の妹である。 (2) A は,遅くとも昭和49年頃から,大阪府 g 市 h 町所在の一戸建建物(以下「本件住居」という。)を賃借し,同建物において原告と同居していた(以下,本件住居に係る A を賃借人とする賃貸借契約を「本件住居賃貸借契約」という。)。 (3) 昭和50年頃, A を代表者とし,屋号を「 E 」とするデザイン事務所(以下「本件事務所」という。)が設立され,原告は同事 を賃借人とする賃貸借契約を「本件住居賃貸借契約」という。)。 (3) 昭和50年頃, A を代表者とし,屋号を「 E 」とするデザイン事務所(以下「本件事務所」という。)が設立され,原告は同事務所のデザイナーとして稼働し始めた。 なお,本件事務所は,平成28年3月当時, i 所在のビルの一室を A 名義で賃借して使用していた(以下, A 名義の同賃貸借契約を「本件事務所賃貸借契約」という。)。 - 3 -(4) A は,平成28年3月6日に急死し,その遺体は,翌7日に a 警察署に移された。 (5) A の葬儀は,平成28年3月9日,被告を喪主として行なわれ,原告は,同葬儀に一般参列者として参列した。なお,原告は,被告から火葬場の場所を教えられず,火葬には同席できなかった。 (6) 被告訴訟代理人弁護士 C (以下「 C 弁護士」という。)及び弁護士 D (以下「 D 弁護士」といい, C 弁護士と併せて「被告代理人ら」という。)は,被告の依頼を受け,平成28年3月中旬,本件事務所の取引先に対し, A の死亡の通知及び A との取引内容の照会を内容とする文書を送付したほか,同月下旬以降,本件事務所の経営,本件事務所及び本件住居内の A の荷物の処理等を協議するため,原告と面談した。 (7) 被告は,平成28年3月27日,本件事務所の取引先に対し, A の死亡により本件事務所の事業を廃業する旨,被告が行う事務処理を C 弁護士に依頼した旨通知した(以下「本件廃業通知」という。)。また,被告は,同年4月27日,本件事務所賃貸借契約を解約し, A の荷物を搬出した。 (8) 被告は,本件住居賃貸借契約を解約し,平成28年4月26日,本件住居から A の荷物を搬出した。 (9) 原告所有のスマートフォンの 本件事務所賃貸借契約を解約し, A の荷物を搬出した。 (8) 被告は,本件住居賃貸借契約を解約し,平成28年4月26日,本件住居から A の荷物を搬出した。 (9) 原告所有のスマートフォンの返還要求と被告による返還ア原告は,平成28年3月下旬頃, D 弁護士に対し, A が生前使用し,死亡当時に所持していた原告所有のスマートフォン(以下「本件スマートフォン」という。)を返還するよう求めた(乙3)。 イ被告は,平成28年6月30日,原告に本件スマートフォンを返還した。 (10) A の相続に関する遺産分割協議ア A の法定相続人は,被告, A の姉である F (以下「 F 」という。)の子である G (以下「 G 」といい, H と併せて「 G ら」 - 4 -という。)及び H の3名であったところ,同人らは,平成28年5月26日付けで,本件各不動産を含む A の全財産を被告が取得するとの内容の遺産分割協議(甲5)を成立させた。 イ平成28年5月18日,本件各不動産について,同年3月6日相続を原因とする被告への所有権移転登記がされた(甲13,14)。 3 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 原告と A が相互に全財産を死因贈与するとの合意をしたか(争点1)(原告の主張)原告と A は,昭和46年頃から長年,同性パートナーとして同居し,同一の家計を営んでいたところ,互いに高齢となり,がんに罹患するなどしたことから,余生の過ごし方ついて話合いを持つようになり,遅くとも平成28年1月17日までに,従来どおり原告と A の財産を共有して生活すること,原告と Aのどちらかが先に死亡した場合には,死亡した者の全財産を生存している相手方に全て譲渡するとの相互の死因贈与を口頭で合意した。 なお,原告と おり原告と A の財産を共有して生活すること,原告と Aのどちらかが先に死亡した場合には,死亡した者の全財産を生存している相手方に全て譲渡するとの相互の死因贈与を口頭で合意した。 なお,原告と A は,医療に関する同意を可能とし,相続に関し紛争が起きないよう同年3月には養子縁組をする予定をしていたのであり,上記死因贈与の合意をしていたことは明らかである。 (被告の主張)A は,生前,姪の G らに対し,遺産は全て被告に相続させると述べていたのであり,同発言と矛盾する原告への死因贈与の合意をしたことはない。 原告は,平成27年当時,自らが希望する A との養子縁組について A に話しておらず, A は原告との養子縁組の意思を否定していたし, A の死後に被告代理人らと協議する中では, A の遺産は相続人が相続すればよいなどと述べ,自らの遺産取得の要望は述べておらず,死因贈与についても言及していなかった。これらの事実は,原告主張の死因贈与合意がないことを示すもので - 5 -ある。 (2) A の葬儀等に関する被告の原告への対応が不法行為を構成するか(争点2)(原告の主張)ア死者の近親者は,死者に対して,敬愛追慕の念を抱き,死者を懇ろに弔い,偲びたいという宗教的感情を有しており,この感情を実現する機会を奪う行為は,近親者の死者に対する敬愛追慕の念を侵害し,精神的苦痛を与える行為であり,社会通念上許容できない行為として不法行為に該当する。そして,このことは,死者と長年にわたって共に生活していた同性パートナーの場合も同様である。 イ被告は, A の生前から,原告と A が同性パートナーシップ関係にあり,夫婦と同視すべき関係であることを認識していたにもかかわらず,①a 警察署の遺体安置室に安置されていた である。 イ被告は, A の生前から,原告と A が同性パートナーシップ関係にあり,夫婦と同視すべき関係であることを認識していたにもかかわらず,①a 警察署の遺体安置室に安置されていた A の遺体と面会したいとの原告の申出を拒否し,② A の葬儀の喪主を務めたいとの原告の申出も拒否した上,③原告が近親者として A の葬儀に参列することを認めず一般参列者として参列させ,④原告に火葬場の場所を教えず, A の火葬に立ち会う機会を与えなかった。被告の上記各行為は,原告が A を同性パートナーとして見送る機会を奪うものであり,原告の A に対する敬愛追慕の念を侵害する違法な行為である。 ウ被告は A 死亡後の原告との交渉過程において,原告と A が同性パートナーである旨記載した文書の作成を拒むなど,同性愛嫌悪の姿勢をあらわにしていたのであり,このことは,被告が,原告と A が同性愛者であり,両者が同性パートナーとして夫婦類似の関係にあったことを認識していたことを示している。 (被告の主張)ア被告を含む A の親族は, A の生前,同人から同性愛者である - 6 -と聞かされたことはなく, A が女性と交際していた事実を認識していた。被告は, A から原告が本件事務所の従業員であり,本件住居の居候であると聞かされており,原告からも A の同性パートナーであると聞かされたことはなかった。そのため,被告は, A が死亡し葬儀を行った当時,原告と A が同性パートナーであるとの認識を一切持っていなかった。 なお,被告が A 死亡後の原告との交渉過程において,文書に原告と A とが同性パートナーである旨の表記をすることを拒んだのは,原告が A の弟であると名乗る等したことに恐怖感を覚えていたためであり,同性愛嫌悪に基づくも の原告との交渉過程において,文書に原告と A とが同性パートナーである旨の表記をすることを拒んだのは,原告が A の弟であると名乗る等したことに恐怖感を覚えていたためであり,同性愛嫌悪に基づくものではない。 イ被告が a 警察署の遺体安置室に向かったのは身元確認のためであったところ,これに同行しようとした原告を制止したのは警察官であり,被告ではない。 ウ被告が喪主を務めたいとの原告の申出を断ったのは,生前の A が葬儀は親族だけで行い,絶対に原告を参加させないよう述べていたことから, Aの遺志を尊重し,親族ではない原告を喪主にできないと考えたからである。原告を親族として参列させなかったのも, A の上記遺志を踏まえたものである。 なお,葬儀の打合せ段階から火葬場には親族のみが行くことになっていたものであり,当日同行しようとした原告を制止したのは,葬儀場の担当者であり,被告ではない。 エ以上のとおり,原告主張のいずれの行為についても,被告に不法行為は成立しない。 (3) 被告が本件住居賃貸借契約を解約し, A の荷物を搬出したことが原告に対する不法行為を構成するか(争点3)(原告の主張)被告は,原告の承諾を得ずに本件住居賃貸借契約を解約した上,平成28年4月26日, D 弁護士などを伴って本件住居を訪れ,原告の意に反して本件住 - 7 -居にあった A の荷物を運び出して処分することにより原告を本件住居から追い出そうとした。被告のこれらの行為は原告に精神的苦痛を被らせるものであり不法行為を構成する。なお,原告が被告代理人らに対し,本件住居賃貸借契約の解約を要望したことはない。 (被告の主張)原告は, A の死後,被告代理人らと面談した際,本件住居賃貸借契約の解約や賃借人名義の変更を希望していたこ が被告代理人らに対し,本件住居賃貸借契約の解約を要望したことはない。 (被告の主張)原告は, A の死後,被告代理人らと面談した際,本件住居賃貸借契約の解約や賃借人名義の変更を希望していたことから,被告代理人らは,原告と協議しながら,本件住居賃貸借契約を解約するのみでなく,本件住居の賃貸人に対し解約後も原告が本件住居に居住することを望んでいること等を説明し,原告が居住を継続できるよう協力した。これにより,原告は,本件住居について,新たな賃貸借契約を締結している。 また,本件住居から A の私物を運び出すことも原告の意思に沿うものであり,被告は,原告の指示どおりに A の私物と原告の私物を区別した上,原告立会いの下, A の私物を運び出したものである。 したがって,本件住居賃貸借契約の解約や A の荷物の搬出が原告に対する不法行為を構成することはない。 (4) 被告が本件スマートフォンの返還を拒んだことが原告に対する不法行為を構成するか(争点4)(原告の主張)原告は, A に対し,緊急連絡等のため,原告所有の本件スマートフォンを渡して,使用させていた。原告は, A の死後,被告代理人らに本件スマートフォンの返還を求めたが, D 弁護士はデータの所有権は被告にある等と述べて,正当な理由なく返還を拒否した。 さらに, D 弁護士は,本件スマートフォンの全てのコンテンツ及び設定の消去並びに本件スマートフォン以外の原告所有の全ての電子機器からの A の写真ほか一切の記録の削除を求めた。 - 8 -これらにより,原告は本件スマートフォンの所有権を侵害され,本件スマートフォンの所有者としても A の特別な家族としても尊重されず, A と同性パートナーであることを理由に差別的取扱いをされるという人格的利益の侵害を受けた マートフォンの所有権を侵害され,本件スマートフォンの所有者としても A の特別な家族としても尊重されず, A と同性パートナーであることを理由に差別的取扱いをされるという人格的利益の侵害を受けた。したがって,被告が被告代理人らを通じて行った上記行為は原告に対する不法行為を構成する。 (被告の主張)被告は,警察官から本件スマートフォン内のデータが A のものかもしれないと伝えられたこと及び A の死後の処理に必要となるかもしれないと考えたことから,本件スマートフォンのデータのバックアップを取りたいと考え,他方で原告が A の弟と名乗っていると聞くなどしたことにより原告に対する恐怖や不信感を抱いていたため,原告に対し,被告において本件スマートフォンの全データのバックアップを取り,全データを削除して本件スマートフォンを原告に返還する案や,本件スマートフォンを現状のまま原告に返還するが,原告において連絡先のデータだけバックアップを取り,そのデータを被告に提供してもらう案等の提案をした。しかし,原告から了承を得られなかったため,最終的に原告に本件スマートフォンをそのまま返還した。被告の上記のような対応は,当時の状況下では適法・妥当な交渉の範囲内のものであり不法行為を構成することはない。 (5) 被告が本件事務所賃貸借契約を解約し,同事務所の事業を廃業したことが原告に対する不法行為を構成するか(争点5)【一次請求関係】(原告の主張)本件事務所は,テキスタイルデザイナーとしての原告の技術により取引先から注文を受けており,受注があった場合の作業も原告のみが行えるものであった。 A は,本件事務所の形式上の代表者として,会計管理を行っていたものの,原告との共同の家計管理の延長にすぎなかった。このように,本件事務所の事業は原告が行っており も原告のみが行えるものであった。 A は,本件事務所の形式上の代表者として,会計管理を行っていたものの,原告との共同の家計管理の延長にすぎなかった。このように,本件事務所の事業は原告が行っており,その経営権は原告が有していた。 - 9 -そして,被告は,本件事務所の経営権を原告が単独で有していることを知っていた,あるいは原告も同性パートナーである A とともに経営主体であると認識していたにもかかわらず, A の死後,原告の承諾を得ることなく,①本件事務所及び本件住居から本件事務所の事業に関する書類や通帳を持ち去り,②本件廃業通知を取引先に送付し,③本件事務所賃貸借契約を解約して原告を退去させた。被告のこれらの行為により,原告は本件事務所における事業の廃業を余儀なくされたのであり,当該行為は,原告の本件事務所の経営権を侵害するものとして不法行為が成立する。 なお,原告が,被告代理人らに対し,本件事務所の事業を早急に廃止することや本件事務所賃貸借契約の早期解約を希望したことはないし,未払給与の支払や失業保険の受給を希望したこともない。 (被告の主張)被告は,本件事務所の起業経緯や事業内容等の詳細は知らなかったが,生前のA から, A の資金で本件事務所を立ち上げ,同人が代表者として経営し,原告を含む従業員を雇用し, A の営業により取引先を獲得していると聞かされていた。そのため,被告は,原告主張の①から③までの行為当時,本件事務所の事業主は A であると認識しており,原告が事業主であるとは認識していなかった。 また,原告は,早期に廃業して本件事務所を明け渡すことや失業保険を受給することを希望していたのであり,被告は原告の了承を得,あるいはその希望に沿って行動していた。したがって,被告の上記各行為が不法行為を構成すること 期に廃業して本件事務所を明け渡すことや失業保険を受給することを希望していたのであり,被告は原告の了承を得,あるいはその希望に沿って行動していた。したがって,被告の上記各行為が不法行為を構成することはない。 (6) 被告の不法行為による原告の損害(争点6)(原告の主張)原告は,被告の同性愛嫌悪を背景とする各不法行為により精神的苦痛を被った。 この苦痛に対する慰謝料額は,上記(2)の不法行為について200万円,上記(3) - 10 -の不法行為について150万円,上記(4)の不法行為について150万円,上記(5)の不法行為について200万円を下らない。 (7) A の負担すべき本件事務所の事業資金あるいは原告と A の生活費を原告が立て替えたか(争点7)【二次請求関係】(原告の主張)本件事務所の事業主体が A である場合,その事業資金は A が負担すべきものであるところ,原告は, A の求めに応じて,赤字を補てんするため,原告の固有財産から本件事務所の運転資金を立て替えて拠出した。 また,原告と A は,2人の同居生活に係る費用は, A が全て負担することを合意していたが,原告は, A の求めに応じて,原告の固有財産から2人の同居生活に係る費用も立て替えて支払った。 原告が上記各立替えにより支出した金額は,平成21年2月4日時点の原告の預金残高から A が死亡した直後である平成28年4月8日の預金残高の差額2276万4706円であり,原告は, A に対し同額の不当利得返還請求権を有している。 (被告の主張)A は自分の力と資金で本件事務所を経営しており,原告は A の従業員であったから,原告が本件事務所の経費を負担し,運転資金を立て替えていたことはない。また,原告は, A から給料を得ていたのであるから,原 分の力と資金で本件事務所を経営しており,原告は A の従業員であったから,原告が本件事務所の経費を負担し,運転資金を立て替えていたことはない。また,原告は, A から給料を得ていたのであるから,原告と A との間で生活費を A が全て負担する旨の合意があったとは考えられず,原告がA の負担すべき生活費を立て替えて支出したとの事実もない。したがって,原告の A に対する不当利得返還請求権は存在しない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実証拠(事実ごとに記載したもののほか,甲44~46,48,乙23,24,証人 I ,証人 J ,証人 K ,原告本人,被告本人。なお,枝番のある - 11 -証拠について枝番を全て含む場合には,その記載を省略する。)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる(第2の2の前提事実を含む。)。 (1) A の死亡までの状況ア原告は,大学在学中の昭和45年頃, A と知り合い,昭和46年に大学を卒業して,大阪市内の広告会社に入社した。原告と知り合った当時,大阪市内の企業に勤務していた A は, j に転勤した後,大阪に戻って大阪府 k 市内の社宅に居住するようになり,同性愛者同士として交際していた原告と同社宅で同居し始めた。その後, A は,大阪府 g 市 h 町所在の本件住居に転居し,同住居を自ら賃借して,原告と居住していた。 イ原告は,昭和49年頃,大学の同級生であった I が設立したデザイン事務所に転職し,テキスタイルデザイナーとして稼働していたが,昭和50年頃, A を代表者とする本件事務所が立ち上がってからは,同事務所においてテキスタイルデザイナーとして稼働するようになった。なお, A は,本件事務所が立ち上がる前に勤務先を退職していた。 また,昭和49年には,原告 る本件事務所が立ち上がってからは,同事務所においてテキスタイルデザイナーとして稼働するようになった。なお, A は,本件事務所が立ち上がる前に勤務先を退職していた。 また,昭和49年には,原告を使用者として自動車(×××××××××)が購入されたが,原告は運転免許を有しておらず,自動車は A が使用していた(甲17,18,乙12)。 ウ A は,昭和50年頃, O により約1週間入院し,昭和62年頃には P に罹患し, b センターにおいて Q 術を受け,約1か月間入院した。さらに, A は,昭和63年頃,原因不明の R 症に罹患し, bセンターにおいて S 手術を受けて,約2か月間入院した。これらの入院の際,被告を含む A の親族が A の見舞いに訪れており,原告も A のもとを訪れていた。 エ被告は,昭和62年頃, A に対して近況報告の手紙を送り,同手紙の末尾に,原告のことを指して「 X によろしくね」と記載した(甲23)。 オ A は,平成元年2月12日, A と被告の母である L (以 - 12 -下「 L 」という。)が一人暮らしをしていた本件各不動産の所在地に住民票上の住所を移した(甲3)。 カ L は,平成4年○月○日死亡し, A は L の遺産である株式等を相続した(甲11)。 キ A は,平成5年□月□日, G の結婚披露宴に出席したが,原告も出席し, A とともに親族席に座った。同披露宴には,被告も出席していた(甲24~27)。 G は,平成8年正月に原告に年賀状を送り,平成9年正月に A に送った年賀状では,原告が G 夫婦の長男にプレゼントした手作りの積み木に言及した(甲28,29)。 ク A は,平成12年4月, T 検査のために入院した。原告は見舞いに訪 月に A に送った年賀状では,原告が G 夫婦の長男にプレゼントした手作りの積み木に言及した(甲28,29)。 ク A は,平成12年4月, T 検査のために入院した。原告は見舞いに訪れたり,退院に備えて不要な荷物を持ち帰るなどし,他方,被告と Fも見舞に訪れ,家族として A とともに医師の説明を受けるなどした。 Aは,同月21日に退院し,本件事務所に立ち寄ったが,原告から帰宅するように促され帰宅した(甲20)。 ケ A は,平成16年頃,救急搬送されて約1週間入院した結果, Uがんに罹患していることが判明した。他方,原告は,平成17年頃, V がんに罹患して入院した。 コ A と原告は,平成18年■月頃, F の夫の葬儀に参列した。 同葬儀には,被告も参列していた。 サ原告は, W がんと診断され,平成19年6月2日, c 病院において, W がんの切除手術や同手術の際の輸血及び血漿分画製剤使用について説明を受けた。この時, A が,原告の同席者として,共に説明を聞いた(甲21)。また,原告は,平成23年頃には, U がんに罹患し,平成24年頃まで放射線治療を受けた。 他方, A は,平成24年頃, α 症を発症し,平成25年頃に b - 13 -センターで手術を受け約2週間入院した。また, A は,同年頃,昭和63年頃に受けた S 手術の後遺症により,救急搬送後に8時間に及ぶ手術を受け約2か月入院した。原告は同手術に立ち会い,手術後,被告及び被告の息子であるM 及び K (以下「 K 」という。)とともに,医師から説明を受けた。 なお, A の上記各入院の際,被告は見舞いに訪れていた。 シ A と原告は,平成26年×月×日に死亡した F の葬儀に参列し,同年◎月◎日の四十九日 う。)とともに,医師から説明を受けた。 なお, A の上記各入院の際,被告は見舞いに訪れていた。 シ A と原告は,平成26年×月×日に死亡した F の葬儀に参列し,同年◎月◎日の四十九日の法要にも参列した。なお,これらには被告も参列していた。 ス G は, F から本件各不動産を相続したが,平成27年▽月▽日, A に対して本件各不動産を贈与し, A は本件各不動産について所有権移転登記を経た(甲13,14)。 セ原告は,平成27年4月30日頃には精神科に通院しており,焦燥感,イライラ感,自責の念や将来の不安を訴え,家族や A との関係について話し,同年8月20日には,金銭的な問題として, A 名義の財産を A が妹である被告に渡す旨, A は仕事をしていないが,本件事務所の管理をしている旨,「任せる必要はないと言われた」ことがあり, A との間で上下関係がはっきりしている旨などを述べた。 この頃,原告は, A に対し,被告に遺産を渡しても被告の息子らが相続することになる,原告が本件事務所の仕事をして A を支えてきたのに原告よりも被告を優先するのかと述べたが, A との間で話合いはまとまらず,原告は,同年9月17日に精神科を受診した際も,心配事が続いているとして,被告に養子縁組の話をすることに言及した(甲31,34)。 ソ A は,平成27年9月頃,がんが腰の骨に転移していることが判明するとともに, β により b センターに2度の入院をした。 タ原告は,平成27年9月23日,大阪府 k 市内の喫茶店に被告を呼出し,被告に対し, A と養子縁組をしたい旨等を伝えるとともに,緊急時 - 14 -に連絡が取れるよう携帯電話を持ってほしいと依頼した。 原告は,上記面談後,被告から連絡がないこ に被告を呼出し,被告に対し, A と養子縁組をしたい旨等を伝えるとともに,緊急時 - 14 -に連絡が取れるよう携帯電話を持ってほしいと依頼した。 原告は,上記面談後,被告から連絡がないことを気に掛けており,同年12月末頃にも,上記喫茶店に被告を呼び出し,被告に対し, A と養子縁組をしたい旨の話をした。これに対し,被告は,養子縁組は被告が決めることではない旨述べた。なお,原告は,同年12月中に,養子縁組届の用紙を入手していた(甲31,34)。 被告は,原告との上記面談後, A に対し,原告が A と養子縁組したいと話していると連絡したが,この時点で,原告は, A との間で養子縁組の話をしていなかった。 チ原告は, A 及び友人である J (以下「 J 」という。)と共に,平成28年1月17日頃, γ へ旅行した。同旅行の宿泊先において,原告と A は,養子縁組を含め今後の生活等に関する話合いをし, J は Aに対し,原告のためにちゃんと考えておかないといけない等と助言をした。なお,この際, A は,原告との養子縁組については,血縁のある者に話して納得させなければ話は進まないだろうと発言していた。 ツ A は,平成28年3月6日,大阪府 a 市内の δ で倒れ,d 病院に救急搬送される途中で死亡した。 テ A は,生前,被告を含む親族に対し,同性愛者であることを隠しており,常連客であった飲食店の関係者を含め,知人や友人には原告を弟であると紹介し,原告もこれに従っていた。 (2) 本件事務所の運営状況等ア本件事務所の事業は,顧客の依頼に応じて服地等のデザイン原画を作成し,販売するものであり,他にも従業員が在籍していたが,主としてテキスタイルデザイナーである原告がデザイン画等の作成をし ア本件事務所の事業は,顧客の依頼に応じて服地等のデザイン原画を作成し,販売するものであり,他にも従業員が在籍していたが,主としてテキスタイルデザイナーである原告がデザイン画等の作成をしていた。 イ A は,本件事務所の代表者として,口座管理や帳簿の作成,従業員や外注先への支払を含む本件事務所の経理を行っていたほか,確定申告事務等 - 15 -を行っていた。本件事務所の売上げが入金される預金口座の名義は, A あるいは「 E 代表者 A 」であり,本件事務所の賃貸借契約も A が締結していた(甲19,乙15~17)。 ウ本件事務所の収支は平成18年頃から赤字が続いており,平成26年頃以降,本件事務所においてデザイン業務を行っていたのは,原告と N (以下「 N 」という。)のみであった(乙3,22)。 エ A は,原告や N に対し, A を支払者とし,給与を支払った旨の支払報告や源泉徴収票等を作成していた(乙18~22)。 (3) A の葬儀の経緯等(日付は全て平成28年である。)ア原告は, A が死亡した3月6日, G に対し, A が死亡した旨を伝えた。原告は, d 病院において G 夫妻と会ったが, a 警察署の警察官から A の遺体を a 警察署に運ぶと告げられた。 他方,被告は,同日, G から A が死亡したとの連絡を受け,翌7日,K とともに,居住する ε から大阪に向かい,その途上で a 警察署に連絡したところ, A の所持していた本件スマートフォンが原告名義になっているが,内部のデータは A のものかもしれないとして原告と連絡を取るよう依頼された。そこで,被告が原告と電話で連絡を取ったところ,原告は A の葬儀の喪主を務めたい旨を申し出たが,被告は同申出を断った。 内部のデータは A のものかもしれないとして原告と連絡を取るよう依頼された。そこで,被告が原告と電話で連絡を取ったところ,原告は A の葬儀の喪主を務めたい旨を申し出たが,被告は同申出を断った。 イ原告は,3月7日午後3時頃,被告及び K は同日午後4時過ぎ頃,それぞれ a 警察署に到着し,被告及び K は同署2階の遺体安置室に安置されていた A の遺体の身元確認を行ったが,原告は遺体安置室に赴くことが認められなかった。なお,被告は,この際,警察から本件スマートフォンを受領した。 ウ被告は,3月7日,原告には相談することなく, G が手配していた e ホールにおいて同月9日に葬儀をすることに決め, A の遺体を同ホールに移し,自らも K とともに同日中に同葬儀場に赴いたところ,原告も - 16 -同葬儀場に現れた。原告は,被告に対し,原告自身や A と原告の友人らも葬儀に参加できるようにすることを求めたことから,被告は,これに応じ,家族葬の予定を親族以外の者も参列できる葬儀とすることに変更し,原告に対し,葬儀に参加することを希望する A の友人らや従業員である N などの氏名及び電話番号を教えるように求めた。これに対し,原告は, N が参列することを拒むなどし,原告と被告との間では,原告の連絡で同葬儀場に来た原告の知人を含め,葬儀場の閉館後もやりとりが続いた。 エ被告は,3月8日,事前に原告に連絡を入れた上で本件事務所を訪れた。被告は, N に挨拶をした後,原告に対し,確定申告をするために必要な書類を持ち出すこと告げたが,原告は「そんな事務的な話はしたくない」と発言し,被告の要求を拒否した。そこで,被告は, A の友人らで葬儀に参加予定の者の氏名を記載した原告作成のメモを受領して辞去することとしたが,原告は たが,原告は「そんな事務的な話はしたくない」と発言し,被告の要求を拒否した。そこで,被告は, A の友人らで葬儀に参加予定の者の氏名を記載した原告作成のメモを受領して辞去することとしたが,原告は被告に最寄り駅まで同行し,その際,自らが精神科に通院している旨の発言等をした。 オ原告は,3月9日の葬儀当日,開場時刻前の午前10時頃に葬儀場に到着し,親族待合所に入ろうとしたため, K が親族待合所には親族しか入れない旨述べて制止した。原告は, A との共通の友人らとともに一般参列者として葬儀に参列した。また,被告は,原告に火葬場の場所を教えなかったため,火葬場の場所を知らなかった原告は火葬に同席できなかった。 (4) A の葬儀後の経緯(日付は全て平成28年である。)ア被告は,原告と事前に日程を調整した上,3月11日,本件事務所を訪れ,原告及び N の立会いの下,本件事務所にある書類から確定申告等に必要な書類を選別して段ボールに入れ(この選別は原告が行った。),そのうち1箱をコンビニエンスストアから送付した。この際,原告は,被告が段ボール箱をコンビニエンスストアに運ぶのを手伝った(乙10,11)。 イ K は,3月11日夜,本件事務所に赴いた被告の帰宅が遅く,連 - 17 -絡も取れないことから,本件スマートフォンを操作して原告の連絡先を探し, Kの携帯電話を用いて同日午後11時38分から約12分間,原告と通話した。なお,本件スマートフォンには,原告の連絡先が「 X 」と登録され,その振り仮名が「かわいい X 」と登録されていたところ, K はこの登録内容を認識した(乙8,11)。 ウ被告は,3月12日にも本件事務所を訪れ,原告と N の立会いの下,前日に段ボールに入れておいた書類を持ち帰った。なお,原 いたところ, K はこの登録内容を認識した(乙8,11)。 ウ被告は,3月12日にも本件事務所を訪れ,原告と N の立会いの下,前日に段ボールに入れておいた書類を持ち帰った。なお,原告は,被告が持ち帰る前に段ボールから一部の書類を抜き出した。 エ被告は, A の死後の処理を被告代理人らに委任し,被告代理人らは,3月16日頃,「 E こと A 氏」の相続人代表である被告の代理人として,原告に対し, A の生前の事業の内容や原告が A と同居している本件住居の賃貸借契約の内容を把握してない旨, A の相続にかかる様々な問題を解決する必要があるが,これらの点について最も認識しており,利害関係もある原告と面談し, A の生前の状況を確認するとともに,今後の事業等についての原告の考えを聞きたい旨を記載した文書を送付した(甲6,乙1)。 また,被告代理人らは,同日頃,本件事務所の取引先6社に対し, A が死亡し相続人代表の被告から事業の整理の依頼を受けたとして,取引内容について回答を求める文書を送付した(乙2,3)。 オ原告は,3月23日頃,被告代理人らが所属する法律事務所においてD 弁護士と面談した。原告は, D 弁護士に対し,本件事務所の事業内容について,原告がデザイナーとして稼働することが主たる業務であり, N に対する指示も原告がしていたこと,本件事務所は約10年前から赤字が続いており,A が相続した株式や原告が購入した宝くじの当選金等から補てんしていたこと, N に関する未払賃金や被告と N の失業保険の手続を進めてほしいこと, A に使用させていた本件スマートフォンを返還してほしいこと等の要望を伝えた(乙3,12,25)。 - 18 -カ D 弁護士は,3月24日, C 弁護士に対し,原告との面談に いこと, A に使用させていた本件スマートフォンを返還してほしいこと等の要望を伝えた(乙3,12,25)。 - 18 -カ D 弁護士は,3月24日, C 弁護士に対し,原告との面談について,上記オの内容とともに以下の内容を報告するメールを送信した(乙12)。 (ア) 原告は,本件事務所の事業を早急に廃業したいとの意思を有している。原告は,廃業後も個人的に取引を続けていくつもりであるが,本件事務所の口座が凍結されていることから,取引先との信頼関係が崩れてしまうのではないかとの懸念を有している。 (イ) 本件事務所賃貸借契約は A 名義となっているが,原告は解約すればよいと考えており,既に家主から解約通知書をもらっている。原告は,事務所内の残置物のうち,原告が使用していたパソコン1台以外は不要であり,その他の残置物の処理は今後協議していきたいとの意向を有している。 (ウ) 原告は,原告と N の2月分の給料(支給日は3月5日)が未払であるから支払ってほしいと要望しており,未払額は原告が約25万円, N が約19万円とのことである。 (エ) 原告は, A の遺産について何らの要望も意見もなく,単純に相続人が相続すればよいと考えている。 (オ) 本件住居賃貸借契約の賃借人は A になっているが,原告は今後も本件住居に住み続けることを希望しており,契約名義を原告に変更するために本件住居賃貸借契約を一旦解除することを求めている。原告は貸主からも原告が住み続けることについて了解を得ており,本件住居にある自動車や荷物等の処分については今後協議したいが, A の私物は運び出してほしいと要望している。 (カ) 原告は, A に使用させていた原告名義の本件スマートフォンを返還してほしいと要望している。 キ被告は,予め原告と日程を調整し 議したいが, A の私物は運び出してほしいと要望している。 (カ) 原告は, A に使用させていた原告名義の本件スマートフォンを返還してほしいと要望している。 キ被告は,予め原告と日程を調整した上で,被告の息子ら及び D 弁護士とともに,本件住居を訪れ,原告から A 名義の通帳の所在を聞いて,保管場所である箪笥から,本件事務所の売上金が入金される口座のものを含む A名義の通帳及び A の私物を持ち帰った。 - 19 -ク被告は,3月27日頃,本件事務所の取引先6社に対し, A が同月6日に死亡したため A の個人事業である本件事務所が廃業となる旨,法定相続人である被告が処理を行うことになったが,当該処理を C 弁護士に依頼したとして,同弁護士の連絡先を通知した(本件廃業通知。甲7,乙25)。 ケ D 弁護士は, N 及び原告に対し,失業保険に関する金員を交付した。また,同弁護士は,原告に対し,未払賃金の支払のため,原告が出勤した日数を教えるよう依頼した。 コ 4月1日, A の友人らにより, A を偲ぶ会が開催され,原告も出席した。原告は,この場で被告に対し電話をかけ,被告代理人らの対応に迷惑しているので,考慮してほしい旨発言した。これを受けて,被告は,同月2日,被告代理人らに対し,原告から電話があったことを報告するとともに,本件各不動産に滞在している被告を原告が尋ねてきたり,再度電話がかかったりするのではないかと不安を感じ,電話等があったときにどのように対応すればよいかに困っているとして助言を求める連絡をした(乙4)。 サ被告代理人らは,4月4日,弁護士事務所において原告と面談し,本件事務所及び本件住居の明渡し等について協議し, C 弁護士は,同月6日,被告に対し,上記面談の結果について,①本件事務所及び本件 サ被告代理人らは,4月4日,弁護士事務所において原告と面談し,本件事務所及び本件住居の明渡し等について協議し, C 弁護士は,同月6日,被告に対し,上記面談の結果について,①本件事務所及び本件住居の明渡しに関し,現物を確認した上,原告の所有物と A の所有物を区別して, A の所有物については処理業者と共に運搬すること,②賃貸人との間の協議を進め,被告の署名捺印が必要であれば連絡すること,③原告に対し,被告に直接連絡を取らないよう重ねて要望をしたこと等を報告した(乙5)。 シ被告は,4月8日,上記コの A を偲ぶ会に原告が A の弟として参加したとの情報を得,翌9日,被告代理人らに対し, A と血縁や法的親族関係がない原告が A の弟であると名乗ることが「 A 家として」問題となりそうで怖い旨,原告が公私ともに A の弟と発言したり,弟であるとの立場をとると困ったことになりそうで怖いとして,助言を求めた(乙6)。 - 20 -ス 4月8日,原告立会いの下で, D 弁護士が同行した株式会社 fにより,本件事務所の明渡費用の見積りが行われた。また,同月15日,原告立会いの下で, D 弁護士が同行した同業者により,本件住居の明渡費用の見積りが行われた。 セ D 弁護士は,4月14日,原告と面談し,原告に対し,本件スマートフォンの返還に関し,両者合意の下,本件スマートフォン内の全てのコンテンツと設定を消去する旨,本件スマートフォン内あるいはその他の電子機器内にデータ(連絡先,写真その他一切のデータを含む。)が残存していた場合には原告が直ちに被告に通知した上,当該データを全て消去し,当該データを利用しないものとする旨,原告がこれに違反した場合には,原告は当該違反により被告に生じた一切の損害を賠償する旨を含む「合意書」(以下 告が直ちに被告に通知した上,当該データを全て消去し,当該データを利用しないものとする旨,原告がこれに違反した場合には,原告は当該違反により被告に生じた一切の損害を賠償する旨を含む「合意書」(以下「本件合意書1」という。)を提示し,この内容の合意を求めたが,同日,合意書は作成されなかった(甲42)。 ソ原告は,上記セの打合せ後の4月14日,原告訴訟代理人(以下「原告代理人」という。)に被告代理人らとの交渉を委任した。原告代理人は,同月21日頃,被告代理人らに対し,原告が A と「二人三脚でしてきた仕事を一人でする」準備を進めている旨及び被告代理人との交渉を受任した旨とともに,本件合意書1の送付及びデータの改変やバックアップ等を取得せずに本件スマートフォンを返還することを求める旨,同月26日及び同月27日に予定されている荷物の搬出には原告のみが立ち会う旨を連絡した(甲41)。 タ被告は,4月26日,原告立会いの下,被告の息子ら及び D 弁護士とともに,原告と A の私物を区別し,本件住居からおよそトラック2台分の A の私物を搬出した。なお,同時点では本件住居賃貸借契約は解約されており,原告は,自らを賃借人とする賃貸借契約を新たに締結し,引き続き本件住居に居住し続けた。 また, D 弁護士は,本件事務所賃貸借契約を解約し,同月27日,原告立 - 21 -会いの下,本件事務所の明渡作業を実施した。 チ D 弁護士は,4月27日頃,原告代理人に対し,被告との協議の結果,本件スマートフォンを現状のままで原告に返還するが,今後連絡を取る必要が生じる場合に備えて把握しておくため,連絡先のバックアップを取った上でデータを提供してほしい旨要望するとともに,2月21日から同年3月5日までの未払給料の支払に関し所得税及び住民税の扱 を取る必要が生じる場合に備えて把握しておくため,連絡先のバックアップを取った上でデータを提供してほしい旨要望するとともに,2月21日から同年3月5日までの未払給料の支払に関し所得税及び住民税の扱いについて意見を求めた(乙7の1)。 ツ原告代理人は,5月4日, D 弁護士に対し,本件事務所及び本件住居から搬出した動産に関し,以下の内容を含む合意書(以下「本件合意書2」という。)を送付するとともに,本件スマートフォンの返還方法を提案した(乙7の2)。 (ア) 原告は,被告が本件事務所から搬出した動産について一切の権利を放棄し,被告及び G らが動産を任意に処分することに異議を述べない。 (イ) 原告は,被告が本件住居から搬出した動産について,原告が何らの処分権も有さないことを相互に確認する。 テ本件合意書2には,原告が A の同性パートナーである旨の記載があったところ,被告は, A の生前,原告が同性パートナーであると聞いていなかったため,当該記載のある合意書は作成できないと返答していた。 原告代理人と D 弁護士との間では,原告への給与支払に際しての所得税等の処理,本件スマートフォンに関する合意内容(バックアップをとることが前提となっていた。)の修正のほか,合意書に原告を A の同性パートナーと記載するか否かについてやり取りがされた。この過程で,原告代理人は,5月25日,合意書締結前に本件スマートフォンを返還するよう求めた(乙7の2~6)。 D 弁護士は,翌26日,原告代理人に対し,合意書に同性パートナーとの記載をすることを了承する旨, A の相続人の間で協議し,被告が単独相続する旨の遺産分割協議をすることとなったため,手続に1週間から2週間を要する見 - 22 -込みであり,その後に一括で合意や清算をしたい とを了承する旨, A の相続人の間で協議し,被告が単独相続する旨の遺産分割協議をすることとなったため,手続に1週間から2週間を要する見 - 22 -込みであり,その後に一括で合意や清算をしたい旨,そのため,本件スマートフォンの返還についてもう少し時間を与えてほしい旨連絡した(乙7の7)。 ト D 弁護士は,6月13日頃,遺産分割協議書,原告への給与支払明細書とともに,本件事務所及び本件住居の各動産,未払給料及び本件スマートフォンに関する合意書として,原告と被告との間には同合意書に定めるほかに債権債務関係がないことを相互に確認するとの清算条項(以下「本件清算条項」という。)を含む文案を作成し,原告代理人に送付した(乙7の8)。 これに対し,原告代理人は,同月15日,本件清算条項を含む合意をすることは難しい旨返答をしたが,本件住居及び本件事務所からの荷物等の引き上げ,給与の支払,本件スマートフォンの引渡しに関する条項については異議や要望を示さなかった(乙7の9)。 D 弁護士は,同月16日,本件清算条項を含めた合意をすることを再度提案したが,原告代理人は,代理人間で包括的な清算をするか否かについて協議していないとしてこれに応じず,本件スマートフォンの返還を再度求めた(乙7の10・11)。 ナ D 弁護士は,6月29日,原告代理人に本件スマートフォンの返還を伝え,翌30日,原告代理人に対し,これを返還した(甲39,乙7の12)。 ニ原告代理人は,7月21日頃,被告代理人らに対し,原告と A との間の40年以上の家族としての生活がありながらその関係を否定されること,原告の経験と技術に基づいて本件事務所の事業をしていたにもかかわらず, Aの相続財産への寄与を一切認められないことについて納得ができないとして,死別に の生活がありながらその関係を否定されること,原告の経験と技術に基づいて本件事務所の事業をしていたにもかかわらず, Aの相続財産への寄与を一切認められないことについて納得ができないとして,死別による財産分与あるいは事業の清算として相続財産の一部を支払うよう求める旨の文書を送付した(乙7の13)。 2 争点1(原告と A が相互に全財産を死因贈与するとの合意をしたか)について(1) 原告は,遅くとも平成28年1月17日までに, A との間で,原告 - 23 -と A との財産を共有して生活し,いずれかが先に死亡した場合には,死亡した者の全財産を生存している相手方に全て譲渡するとの相互の死因贈与の合意をしたと主張し,原告本人は,同日頃, A との話合いで, A が養子縁組をすることを了承し,原告が稼いだ資産であり,原告の将来が不安であるから, Aの財産として残っている株等の財産は全て原告に譲渡する旨, A が述べたと供述する。 この点,上記認定事実によれば,原告と A が昭和40年代後半から同性愛者同士として交際し,継続して同居生活を送っており,昭和50年頃に本件事務所が設立されてからは,原告と A との収入は, A を代表者とし,主として原告がテキスタイルデザイナーとして作成するデザイン画等を販売していた本件事務所の売上から生ずるものであり,かつ原告はその管理を A に委ねていたと認められること,原告と A は年齢を重ね,共にがんに罹患するなどし,平成27年9月には A に骨転移が発見される状況となっており, A に相続等により得た本件不動産や株式等の資産があったのに対し(甲11),原告名義では特段の資産が存在しなかったことから,原告は経済的に将来に不安を覚えるなどし,被告に A との養子縁組について話しに行くなど により得た本件不動産や株式等の資産があったのに対し(甲11),原告名義では特段の資産が存在しなかったことから,原告は経済的に将来に不安を覚えるなどし,被告に A との養子縁組について話しに行くなどしていたこと,平成28年1月の γ 旅行の際,原告と A が養子縁組を含めて今後の生活等について話合いをしていたこと等の事実に,同性パートナーである原告と Aの間では相手方が死亡した場合にその財産を取得するためには死因贈与や養子縁組などの手立てが必要であることを併せ考えると,原告と A との間に原告主張の合意がなされたと推認できるようにも思われる。 しかしながら,上記認定事実によれば, A は自らが同性愛者であり,原告がパートナーであることを被告を含む親族にも隠すとともに, L から相続した財産があることに感謝の気持ちを抱いており,原告と長年生活を共にしてきた後の平成27年8月頃にも, A 名義の財産は妹である被告に渡すと原告に話していたこと,原告は同年12月末に被告に対し二度目に A との養子縁組の - 24 -話をした際にも A 自身には養子縁組の話を切り出していなかったこと,平成28年1月の γ 旅行の時点でも, A は原告との養子縁組について血縁のある者に話して納得させなければ話は進まない旨の発言をしていたこと等に照らすと, A が平成28年1月17日頃の原告との話合いにおいて,相続等により取得した株式や本件各不動産を含め, A の全財産を原告に死因贈与するとの明確な意思表示をしたと認めるには疑念がある。 また,上記認定事実によると,原告は, A の死後,被告代理人と面談を重ね,本件住居や本件事務所から A の財産である動産を搬出するための作業が進められていた際, A の財産が全て原告のものであるとの主張をしておらず,か と,原告は, A の死後,被告代理人と面談を重ね,本件住居や本件事務所から A の財産である動産を搬出するための作業が進められていた際, A の財産が全て原告のものであるとの主張をしておらず,かえって, A の遺産は相続人が取得すればよい旨の発言をしていたと認められる。そして,原告が原告代理人を依頼した後にも, A の動産の搬出を伴う本件住居や本件事務所の明渡しについては何ら異議が述べられず,本件清算条項を契機に当事者間で金銭給付が問題となった後の平成28年7月においても,原告代理人を通じて原告が主張したのは,死別による財産分与あるいは事業の清算としての金銭給付であり死因贈与合意の存在は一切主張されていなかった。このように,原告が原告主張の死因贈与合意の存在と矛盾した行動をとっていたとの事実に,当該合意の存在については原告の供述等以外にこれを証する証拠がないことを併せ考えれば,本件において,原告主張の死因贈与合意の成立を認めることはできないというべきである。 (2) なお,原告は,被告代理人らに対し,本件住居や本件事務所の明渡し等について,何ら異議を述べなかったのは,被告代理人らが原告に何ら断り無く本件事務所の取引先に A の死亡等の通知をしたことから,被告代理人らに抵抗すると仕事に支障が出るようなことをされると懸念したからであると主張する。 しかしながら,上記認定事実によれば,原告は,被告代理人らとの面談の当初から, A 名義の事業が廃業されても,原告個人で同様の事業を行う意思を有しており,本件事務所の廃業に同意していたと認められること,原告が原告代理 - 25 -人に依頼した時点では本件事務所の明渡しは行われていなかったが,代理人を依頼した後にも事業廃止の一環である明渡しに異議が述べられていないことに照らすと,原告の こと,原告が原告代理 - 25 -人に依頼した時点では本件事務所の明渡しは行われていなかったが,代理人を依頼した後にも事業廃止の一環である明渡しに異議が述べられていないことに照らすと,原告の上記主張は採用できない。 (3) 以上によれば,原告と A との間に死因贈与合意が成立したとは認められないから,本件各不動産の所有権は原告に帰属しておらず,本件各不動産に関する所有権移転登記手続請求は理由がない。 3 争点2( A の葬儀等に関する被告の原告への対応が不法行為を構成するか)について(1) 上記認定事実によれば,①被告が a 警察署に安置されていた Aの遺体と面会した際,原告は同警察署にいたのに面会できなかったこと,②被告は A の葬儀の喪主を務めたいとの原告の申出を拒否したこと,③原告は Aの葬儀の際,被告の息子である K から親族待合所に入ることを断られ,一般参列者として葬儀に参列したこと,④被告は原告に火葬場の場所を教えず,原告は A の火葬に立ち会えなかったことが認められる。 原告は,上記①から④までがいずれも,同性パートナーである A に対する原告の敬愛思慕の念を侵害する不法行為であると主張するところ,上記各行為が被告の不法行為となるためには,被告が当該行為の時点で,原告と A が同性パートナーシップ関係にあり,近親者同士,すなわち夫婦と同視すべき関係であることを認識していたことが必要である(なお,原告は過失による不法行為を主張していない。)。以下,この点について検討する。 (2) 上記認定事実のとおり, A は自らが同性愛者であることを親族や周囲に隠しており,常連客となった飲食店の関係者を含め,知人や友人に対しては,原告を弟であると紹介していたと認められる。また,原告が被告に対し, A の り, A は自らが同性愛者であることを親族や周囲に隠しており,常連客となった飲食店の関係者を含め,知人や友人に対しては,原告を弟であると紹介していたと認められる。また,原告が被告に対し, A の生前, A と同性パートナーシップの関係にある旨を話したこともない(原告本人)。 被告は,原告が A を代表者とする本件事務所で働いていることを認識して - 26 -おり,遅くとも昭和62年頃には A と原告が同居していたことも認識していたが(認定事実(1)エ), A から原告は本件事務所の従業員であり,居候である旨聞かされていたとの供述等をする。上記のとおり, A が周囲に対し原告との関係について事実と異なる説明をしていたことからすると,親族である被告に対しても,原告との関係が同性パートナーシップであると悟られないような説明をしていたと推認されるから,被告の上記供述は信用できる。そして,被告にとって,兄である A の説明を疑うべき事情があったとはうかがえないから,被告は A の上記説明を信じ,原告は A が雇用している従業員であり, Aと同居している居候であると認識していたと認めるのが相当である。 (3) この点,原告は,被告が原告と A が長年同居していたことを認識していたこと,原告が A とともに A の親族の結婚披露宴・葬儀等に列席していたこと,被告が A に宛てた手紙に「 X によろしくね」と記載したこと, A の入院の際,頻繁に見舞いに訪れており親族と一緒に説明を受けたこともあること等から,被告は原告が単なる従業員や居候ではなく,同性パートナーであると認識していた旨主張する。 しかしながら, A が被告に対し,長年同居している原告について,本件事務所の従業員であり居候であると説明していたと認められることは上記認定のと ,同性パートナーであると認識していた旨主張する。 しかしながら, A が被告に対し,長年同居している原告について,本件事務所の従業員であり居候であると説明していたと認められることは上記認定のとおりであるし,被告が A に宛てた手紙の記載から,被告が原告を A の説明以上の存在であると認識していたと認めることもできない。また,原告が Aの親族の冠婚葬祭等に列席していたことについて,被告は, A から自らの親族に縁の薄い原告が参加したいというのでやむを得ず出席させたとの説明を受けていたとの供述等をし,原告が入院中の A を訪問していたことについては従業員が報告に来る旨の説明を受けていたとの供述等をするところ, A が原告を冠婚葬祭等に同行したり,入院中に原告の見舞いを受けながら,被告ら親族には同性愛者であることを隠し続けたことからすれば,被告らに対し,その都度,原告が同性パートナーであると悟られないような説明をしていたと推認されるの - 27 -であり,被告の上記供述等は信用できる。そして,被告にとって,兄である Aの同説明を疑うべき事情があったとはうかがえないから,被告は A の同説明を信じていたと認められる。したがって,原告主張の上記事実から,原告と Aが同性パートナーであるとの認識を被告が有していたとは認められない。 また,原告は,被告が原告と A が長年にわたり社会的かつ経済的に一体となった家族として暮らしているという客観的事実を認識していたこと, A と養子縁組したい旨や A を看取りたい旨を伝えていたことから,原告と Aがかけがえのない親密な家族であり,夫婦と同様の関係であると認識していた旨の主張をする。しかしながら,上記のとおり,被告が原告と A が本件事務所で共同して働いていたこと,長年同居していたことを がかけがえのない親密な家族であり,夫婦と同様の関係であると認識していた旨の主張をする。しかしながら,上記のとおり,被告が原告と A が本件事務所で共同して働いていたこと,長年同居していたことを認識していたとは認められるが,それにより,原告と A が長年にわたり社会的かつ経済的に一体となった家族として暮らしていると認識していたとは直ちには評価できない。また,被告は,原告からのみ A との養子縁組の話を聞かされており,かつその時点で原告は A と養子縁組の話をしていないと認識していたのであるから,原告の意向を聞かされたことにより,原告と A が原告主張の上記関係にあると認識したとは認められない。本件において他に,被告が A の葬儀の時点で,原告と A が同性パートナーシップ関係にあり,近親者同士,すなわち夫婦と同視すべき関係であることを認識していたと認めるに足りる証拠はない。 (4) したがって,その余の点を検討するまでもなく,上記(1)の①から④までについて,被告の原告に対する不法行為が成立することはないから,同不法行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。 4 争点3(被告が本件住居賃貸借契約を解約し, A の荷物を搬出したことが原告に対する不法行為を構成するか)について(1) 原告は,被告が原告の承諾を得ずに本件住居賃貸借契約を解約し,原告の意に反して本件住居にあった A の荷物を運び出して処分することにより原告を本件住居から追い出そうとした旨主張する。 - 28 -しかしながら,上記認定事実によれば,原告は,被告代理人らとの面談の当初から, A 名義の本件住居賃貸借契約の解約と原告名義の賃貸借契約の締結を希望し, A の荷物の搬出も希望していたこと,その後の原告の私物と A の私物の区別や明渡作業のため 代理人らとの面談の当初から, A 名義の本件住居賃貸借契約の解約と原告名義の賃貸借契約の締結を希望し, A の荷物の搬出も希望していたこと,その後の原告の私物と A の私物の区別や明渡作業のための見積りなどは,全て原告立会いの下で行われたこと,本件住居から A の荷物の搬出が行われたのは原告が原告代理人を依頼した後であるところ,搬出までに同代理人から本件住居賃貸借契約の解約等について異議が述べられたことはなく,その後も異議は述べられていないこと,原告は本件住居賃貸借契約の解約後に賃貸人との間で新たな賃貸借契約を締結し,本件住居に居住し続けていたこと等が認められ,これらによれば,本件住居賃貸借契約の解約や本件住居からの A の荷物の搬出が原告の意に反していたとは認められない。 (2) なお,原告は,被告が原告と A とが同性パートナーであったことを認識しながら,両者の同居生活があったことを否定しようとしたと主張するが,A の葬儀の時点において被告が同認識を有していたとは認められないことは,上記3において認定説示したとおりである。 その後,平成28年3月11日, K が本件スマートフォンの連絡先に原告の登録名の振り仮名として「かわいい X 」との登録があるのを認識しているところ(認定事実(4)イ),原告は,同日, K が原告に対し,原告と A が同性パートナーの関係であったにもかかわらず葬儀で失礼な態度をとっていたとして謝罪したと主張して,この頃には,被告も原告が単なる居候の従業員ではないことを認識していた旨主張する。 この点,原告は, K が上記謝罪をしたのは本件スマートフォンを用いて原告に電話を架けたときであったと主張するが,証拠(甲32の3,乙11,証人K )及び弁論の全趣旨によると, K は自らの携帯電話を用 原告は, K が上記謝罪をしたのは本件スマートフォンを用いて原告に電話を架けたときであったと主張するが,証拠(甲32の3,乙11,証人K )及び弁論の全趣旨によると, K は自らの携帯電話を用いて原告に電話を架けたと認められる。このように,原告の記憶に基づく主張が事実と異なることからすると, K の電話の内容に関する原告の供述等の信用性には疑問があ - 29 -り, K が原告主張の謝罪をしたことを否定する供述をしていることを勘案すると,同供述を根拠に K が謝罪したと認めることはできないというべきである。本件において,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。 さらに,原告は,①平成28年3月16日頃に被告代理人らが原告に送付した書面に本件事務所の事業や本件住居賃貸借契約について原告が最も認識しており,利害関係もあると記載されていたこと,②被告及び被告代理人らが,本件事務所の赤字が原告の宝くじの当選金によっても補填されていたと認識しながら,その精算に言及したことがないこと,③被告及び被告代理人らが,原告が A 所有の株式の処分や残高について言及したことに疑問を示していないこと,④被告が作成した文書において,何ら断定しうる情報がないにもかかわらず,原告を元従業員,同居人と記載したこと等を指摘して,原告と A とが同性パートナーであるとの認識を被告が有していたと主張する。しかしながら,被告は原告が長年本件事務所に勤務し,本件住居に居住していることを認識していたのであるから,本件事務所の事業の整理や本件住居の明渡しに関する依頼を受けた被告代理人らがこれを知らされた場合に,上記①の記載をすることは自然であり,それ以上に原告と A との関係を認識して記載したとまでは解されない。また,原告は赤字補填について口頭説明したのみで精算を求めて 理人らがこれを知らされた場合に,上記①の記載をすることは自然であり,それ以上に原告と A との関係を認識して記載したとまでは解されない。また,原告は赤字補填について口頭説明したのみで精算を求めてはいなかったこと,原告が本件事務所で長年稼働し,主たる業務担当者であったと説明していたことからすれば,赤字補填の財源について A から聞かされていたとしても不自然ではないことからすると,原告主張の上記②及び③も,被告が原告と A との関係を認識していた根拠になるとは認められない。さらに,上記④の内容は,被告が生前の A から聞かされていた説明のとおりであり,被告がこれを信じていたことは上記認定のとおりであるから,上記④も上記根拠となるとは認められない。 したがって,本件自宅明渡しまでの間に,被告が原告と A とが同性パートナーであるとの認識を有するに至り,これを否定しようとしたとも認められない。 (3) 以上によれば,被告が本件住居賃貸借契約を解約し, A の荷物を搬 - 30 -出したことが原告に対する不法行為を構成するとは認められず,同不法行為を原因とする損害賠償請求は理由がない。 5 争点4(被告が本件スマートフォンの返還を拒んだことが不法行為を構成するか)について(1) 原告は,被告が本件スマートフォンの返還を正当な理由なく拒否したこと,本件スマートフォン及び原告所有の全ての電子機器からの A の写真を含む記録の削除を求めたことが,本件スマートフォンの所有権及び A の同性パートナーとして尊重されるとの人格的利益を侵害するものであり,不法行為を構成すると主張する。 そこで検討するに,本件スマートフォンは原告が契約し, A に使用を認めていたものであり,その所有権は原告に帰属すると認められるが,内部には Aが作成 であり,不法行為を構成すると主張する。 そこで検討するに,本件スマートフォンは原告が契約し, A に使用を認めていたものであり,その所有権は原告に帰属すると認められるが,内部には Aが作成したデータや A の使用に伴う情報が存在したと推認される。そして当該データや情報の内容によっては, A の個人情報や A に帰属する何らかの権利が問題となり得たものと解される。そうすると, A の遺族である被告が,本件スマートフォンの返還にあたり,本件スマートフォン内の全てのコンテンツ及び設定を消去することを要望したことには合理性があるというべきであり,交渉の過程で当該要望をしたこと自体が原告に対する不法行為を構成するとは認められない。 また,被告側が原告に提示した本件合意書1には,本件スマートフォン以外の原告所有の全ての電子機器からの A の写真ほか一切の記録の削除の要望及び違反した場合の損害賠償が提案されているところ,本件スマートフォン以外の原告所有の全ての電子機器内の一切の記録が A に帰属するものであるとは推認できないことから,被告の上記要望はやや過大であるとは思われるが,その要望を受け入れるか否かは原告の判断によるのであり(実際,原告は,本件合意書1に署名押印せず,原告代理人に依頼している。),要望すること自体が,本件スマートフォンの所有権や原告の人格的利益を侵害する不法行為を構成するとまで - 31 -は認められない。なお,上記3及び4において認定説示したように,被告は原告と A が同性パートナーであるとの認識を有していなかったのであるから,上記要望をして原告と A の関係を否定し,原告の人格的利益を侵害する意図があったとも認められない。 (2) 原告の A に対する本件スマートフォンの使用貸借は A の死亡により終 あるから,上記要望をして原告と A の関係を否定し,原告の人格的利益を侵害する意図があったとも認められない。 (2) 原告の A に対する本件スマートフォンの使用貸借は A の死亡により終了しているから, a 警察署から被告に返還された本件スマートフォンを,原告の返還請求に抗して被告が保持する権原はなかったと解されるところ,原告が最初に本件スマートフォンの返還を請求したのは平成28年3月23日であり,返還が実現したのは同年6月30日である。 もっとも,上記認定事実によれば,原告は,最初に返還請求した後,同年4月14日に本件スマートフォンの返還に関する本件合意書1を提示されるまでは再度の請求をしておらず,同合意書を提示された後の同月21日に原告代理人を通じてデータの改変やバックアップを取得せずに返還するよう求め, D 弁護士は同27日頃,本件スマートフォンを現状のままで原告に返還する旨伝えたこと,その後,合意書における原告と A との関係の記載, A の法定相続人の遺産分割協議を理由として合意書の締結が遅れ,合意書の締結と同時に本件スマートフォンを返還したいとの被告の要望を原告が容認していたと認められること,本件清算条項に関し合意に至ることが困難となった後には,被告は短期間で原告に返還を行っていることが認められる。これに,原告が本件スマートフォンの使用を予定していなかったと推認されることを併せ考慮すると,本件スマートフォンが原告に返還されたのが同年6月30日であることをもって,本件スマートフォンについての原告の所有権が違法に侵害されたとまでは認められないというべきである。 (3) したがって,本件スマートフォンの返還に関する不法行為も成立せず,これを理由とする損害賠償請求は理由がない。 6 争点5(被告が本件事務所賃貸借契約 までは認められないというべきである。 (3) したがって,本件スマートフォンの返還に関する不法行為も成立せず,これを理由とする損害賠償請求は理由がない。 6 争点5(被告が本件事務所賃貸借契約を解約し,同事務所の事業を廃業し - 32 -たことが原告に対する不法行為を構成するか)について(1) 原告は,本件事務所の経営権が原告に単独で,あるいは A と共同して帰属していたことを前提に,被告が原告の承諾を得ることなく,①本件事務所及び本件住居から本件事務所の事業に関する書類や通帳を持ち去り,②本件廃業通知を取引先に送付し,③本件事務所賃貸借契約を解約して原告を退去させたことが,原告の本件事務所の経営権を侵害する不法行為を構成すると主張する。 (2) そこで,まず,本件事務所の経営権の所在,すなわち本件事務所における事業の主体について検討する。 上記認定事実によれば,本件事務所の代表者は A であり,本件事務所の売上金は取引先から A 名義あるいは「 E 代表者 A 」名義の口座に入金されていたこと,原告や N に対し, A を支払者として給与が支払われた旨の源泉徴収票や給与支払報告書が作成されていること,本件事務所賃貸借契約は A 名義で締結されていたこと,本件事務所の事業に関する税務申告は Aを事業主として行われていることが認められる。これらによれば,本件事務所の事業から生じる債権債務の法的主体となる事業主体は A であったと認められ,同事務所の経営権は A に帰属していたと認めるのが相当である。 本件事務所における主たる業務であるデザイン業務を原告が行っていたとの事実は,法的な事業主体や経営権の所在に影響を与えるものではない。また,原告は,源泉徴収票等が作成されていたとしても,形式的なものであり定期的に定まっ る業務であるデザイン業務を原告が行っていたとの事実は,法的な事業主体や経営権の所在に影響を与えるものではない。また,原告は,源泉徴収票等が作成されていたとしても,形式的なものであり定期的に定まった額の給与は支払われておらず, A から原告に対しては不定期に金員が交付されていたのみであると主張するが,これらの事実によっても,上記認定は左右されないというべきである。 (3) なお,上記認定事実によれば,本件事務所賃貸借契約の解約及び事務所の明渡し等による廃業についても,本件住居賃貸借契約の解約等に関し上記4において認定説示したと同様の事情から,原告の意に反していたとは認められない。 (4) したがって,本件事務所の廃業に関する被告の行為が原告に対する不法 - 33 -行為を構成することはなく,同不法行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。 7 争点7( A の負担すべき本件事務所の事業資金あるいは原告と Aの生活費を原告が立て替えたか)について(1) 上記6で認定説示したように,本件事務所の事業主体は A であったと認められるから,本件事務所の事業資金は A が負担すべきものであることになる。 他方,原告と A との共同生活の費用は,特段の合意がなければ両者が共同して負担すべきものと解されるところ,原告は,本件事務所の売上げは全て Aが管理しており,原告は A から一定額の給与の支払は受けていなかったから,共同生活の費用は全て A が賄う旨合意していたと主張する。 この点,上記認定事実によれば,本件事務所の売上げを全て A が管理していたとは認められる。また,原告と A が同性パートナーシップ関係にあり,両者の共同生活の家計管理も A が管理していたとすれば,原告に対しては一定額の給与が支払われず,必要なときに A が管理していたとは認められる。また,原告と A が同性パートナーシップ関係にあり,両者の共同生活の家計管理も A が管理していたとすれば,原告に対しては一定額の給与が支払われず,必要なときに不定期に金員が交付されていたとの原告の供述等には信用性があるというべきである。しかしながら,これらの事実は,原告と A が本件事務所の売上げから本件事務所の運転資金のほか,両者の共同生活の費用を支出していたことをうかがわせるものであるが, A がその固有財産を用いることも含め,原告との共同生活の費用を全て負担すると合意していたことまでうかがわせるものではない。そもそも原告は,一次的に共同生活の費用の原資となっていた本件事務所の売上げについて,同事務所の事業主である原告のものであると主張しているのであり,そうであれば,原告自身の収入で共同生活の費用を賄っていると認識していたはずであり,このような認識を有する原告が A との間で上記合意をするとは思われない。本件において他に,同合意の成立を認めるに足りる証拠はない。 したがって,仮に原告の固有財産から原告と A との共同生活の費用が支出されていたとしても,それにより,原告が A の行うべき支出を代わって行っ - 34 -たものとは認められない。 (2) 上記(1)で検討したところから,原告の固有財産からの支出について立替えが問題となるのは本件事務所の経費のみである。そして,証拠(甲43,46,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,原告は宝くじの当選金により,みずほ銀行の預金口座(以下「本件預金口座」という。)に平成21年2月4日時点で2510万円の預金を有していたところ,同口座からは,原告名義の別口座に1140万円が送金されたり,クレジットカードの利用料が引き落とされたほか,現金の出金 座」という。)に平成21年2月4日時点で2510万円の預金を有していたところ,同口座からは,原告名義の別口座に1140万円が送金されたり,クレジットカードの利用料が引き落とされたほか,現金の出金が行われ, A が死亡した後である平成28年4月8日時点の預金残高は233万5294円であったことが認められる。 原告は,2510万円と233万5294円の差額に相当する金額について,本件事務所の運転資金あるいは A との共同生活の費用として立て替えて支払った旨主張するが,原告が固有財産から共同生活の費用を支出したとしても, Aの支払うべきものを立て替えたと認められないことは,上記(1)で認定説示したとおりである。 そして,原告は本件預金口座から引き落とされたクレジットカード代金が本件事務所の備品を購入したものであると主張するが,同事実を認めるに足りる証拠はない。原告は,本件預金口座から平成24年9月25日に引き出された300万円は, A から金員が必要であると依頼されて現金で交付したものであると主張するが,同事実も認めるに足りる証拠がない。また,原告の主張によっても,原告の固有財産は A との共同生活の費用としても費消されているが,上記差額に相当する金員のどれだけが本件事務所の資金に充てられたかを明らかにする資料はない。加えて,上記認定事実によると,原告と A は同性パートナーとして共同生活を送りながら,本件事務所を,代表者と業務の中核者の立場で協力して運営していたと認められることからすれば,原告の固有財産が本件事務所の資金に充てられていたとしても,原告が A に対し贈与した可能性がうかがわれ,直ちに立替金であるとは認められない。本件において他に,原告が A に - 35 -対し, A の負担すべき本件事務所の資金を立て替え たとしても,原告がAに対し贈与した可能性がうかがわれ,直ちに立替金であるとは認められない。本件において他に,原告がAに対し,Aの負担すべき本件事務所の資金を立て替えて負担したと認めるに足りる証拠はない。 (3) 以上によれば,原告のAに対する不当利得返還請求権が発生したと認めることはできず,同請求権に基づく請求は理由がない。 第4 結論 よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第9民事部 裁判長裁判官倉真寿美 裁判官竹村昭彦 裁判官安藤諒
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