平成14年8月9日判決言渡平成8年(ワ)第344号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成14年6月7日判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告らに対し,それぞれ2797万7723円及びこれに対する平成8年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,転倒事故を起こして右腓骨骨折等の傷害の治療のために被告の経営する病院に入院していた患者の相続人である原告らが,患者には肺塞栓症を発症させる危険因子があり,かつ,肺塞栓症を窺わせる症状が出現していたのであるから,同人の診療を担当していた整形外科医師は,患者が肺塞栓症を発症していることを疑って,適切な検査,治療,内科医師への相談ないし転科を行う義務があったにもかかわらず,これを怠り,患者を死亡させたとして,被告に対し,患者の死亡により生じた患者自身の財産的及び精神的損害で原告らが相続した分並びに原告ら固有の財産的損害の合計額を,医師の不法行為の使用者責任もしくは債務不履行責任に基づき,それぞれ請求する事案である。 1 前提となる事実(末尾に証拠の記載がない事実は,当事者間に争いのない事実である。)(1) 被告は,肩書地において,W病院を経営する医療法人であり,医師A(以下「A医師」という。)は,同病院に勤務する整形外科医である。 (2) B(昭和45年4月19日生)は,平成7年8月16日,海水浴中に転倒し,右腓骨骨折,けい腓靱帯断裂の傷害を負い,一旦,他の医院で患部を固定して帰宅後の同日午後5時45分ころ,W病院を受診した(甲第5号証の11,乙第2号証)。 (3) Bは,同月17日,被告との間で診療契約を締結して同病院に入院し 傷害を負い,一旦,他の医院で患部を固定して帰宅後の同日午後5時45分ころ,W病院を受診した(甲第5号証の11,乙第2号証)。 (3) Bは,同月17日,被告との間で診療契約を締結して同病院に入院し,Bの担当医師となったA医師は,同日,Bに対し,右足の踵に穴を開けて牽引を開始したが,同月22日,牽引を外し,Bの右膝下をギプスで固定した。 (4) Bは,同月23日午前6時すぎころ,呼吸困難等に陥ったため,酸素を投与され,同月24日にも再度酸素を投与されたが,同月25日午前3時46分ころ,容態が急変し,同日午前4時38分死亡した(甲第2号証,同第3号証,乙第2号証)。Bの直接の死亡原因は,心不全とされた。 (5) 原告らは,Bの父母である。 2 争点(1) Bに平成7年8月23日午前6時以降発症していた疾患は何か。 ( 原告らは,肥満,ベッド上の安静,高齢や重病による衰弱,下肢骨折,下肢外傷及び心疾患は,肺塞栓症を発症させる危険因子であるが,Bは,身長171センチメートル,体重115キログラム,肥満係数BM115パーセントの肥満体格で,平成7年8月16日に右腓骨骨折・足関節脱臼という下肢骨折の傷害を負い,W病院に入院して鋼線牽引,ギプス装着によるベッド上での臥床状態にあったものであり,上記危険因子を保有する者であったこと,上記傷害の治療のため,右足鋼線牽引を行っており,術部の脂肪が塞栓子になり得る状況であったこと,Bは,同月23日午前6時以降,チアノーゼ(顔面蒼白,口唇色不良),多量の発汗,呼吸困難,胸部絞扼感,低血圧,頻拍等のいずれも肺塞栓症患者に現れる症状を出現させていたこと等によれば,Bが肺塞栓症を発症していた蓋然性は極めて高く,それ以外であったとは考え難いと主張し,被告は,Bに対して解剖がされていないため,同日当時,Bがいかなる疾 現れる症状を出現させていたこと等によれば,Bが肺塞栓症を発症していた蓋然性は極めて高く,それ以外であったとは考え難いと主張し,被告は,Bに対して解剖がされていないため,同日当時,Bがいかなる疾患を発症させていたかは不明であり,Bが肥満体型であり,中学3年時から脂肪肝の診断を受け,喫煙歴1日70本,飲酒歴多量であったことからすれば,突然の容態の急変は,不整脈を含む心疾患等の他疾患に起因するものと考えられると主張する。)(2) A医師の過失の有無( 原告らは,次のとおり主張する。 A医師は,平成7年8月23日午前6時すぎころ,Bに呼吸困難や胸痛等が生じた際,同人が肺塞栓症を含む循環器系及び呼吸器系の疾患を発症していることを疑い,直ちに,動脈血ガス分析又はオキシメトリー検査を行うとともに,肺胞気動脈血間酸素分圧較差等を測定するなどの諸検査を行い,Bに現れた症状の原因を真摯に究明し,必要な治療を行う義務があったのに,これを怠り,心電図と胸部レントゲン検査を行ったのみで,漫然と経過観察をしていた過失がある。 仮に,A医師が上記検査や治療を実施することができなかったとしても,同じ病院内の内科医に相談し,あるいは,転科させる義務があったのに,これを怠った。)( 被告は,次のとおり主張する。 整形外科医としては,当時,大腿骨骨折や人工股関節置換術施行等といった重大な下肢の骨折や手術等における肺塞栓症の発現を考慮することは可能ではあったが,Bが負った軽微な腓骨骨折で肺塞栓症を発現するとの認識は,一般的に極めて乏しかったこと,呼吸困難を発症する疾患は多種多様であり,肺血栓塞栓症は診断の困難な疾患とされていたこと,当時の検査の手順は,まず,病歴,自覚症状の問診,胸部レントゲン撮影,心電図検査を行い,胸部レントゲン撮影や心電図検査で異常があった場 種多様であり,肺血栓塞栓症は診断の困難な疾患とされていたこと,当時の検査の手順は,まず,病歴,自覚症状の問診,胸部レントゲン撮影,心電図検査を行い,胸部レントゲン撮影や心電図検査で異常があった場合は,動脈血ガス分析検査を行い,低CO2血症を伴う低・血症が見られた場合は,超音波心エコー法を行い,異常があれば,肺血流スキャン法で肺血流の欠損を調べ,その欠損状態があった場合に,肺血管造影法・右心カテーテル法の検査へ進むというものであったところ,本件では,自覚症状の問診を行い,胸部レントゲン検査と心電図検査を施行するとともに,酸素療法を行ったが,胸部レントゲン検査でも心電図検査でも異常がなく,酸素の投与により症状が軽快したことなどからすると,この段階で,整形外科医であるA医師に,Bに肺塞栓症が発症していることを疑って,さらに検査を進め,治療を施し,内科医へ相談し,あるいは転科させる義務を課すことは困難であり,A医師は,当時の医療レベルに従ってBの診療を行っていたのであるから,過失はない。)(3) A医師の過失とBの死亡との間の因果関係の有無( 原告らは,Bは,平成7年8月23日に肺塞栓症を発症した後,A医師による適切な検査や治療,もしくは内科医へ相談し,あるいは転科させられた上での検査治療を受けられなかった結果,同月25日,死亡したものであり,A医師の前記過失とBの死亡との間には因果関係が存すると主張する。)( 被告は,次のとおり主張する。 仮にA医師が,内科医に相談し,あるいは内科に転科させたとしても,当時の医療水準では,未だ,症状に対応した具体的な検査方法が明確に確立していたわけではなく,内科医であっても,検査の手順としては,(2)と同様の手順で検査を行うことが一般的基準であり,本件では,胸部レントゲン撮影と心電図検査において異常 具体的な検査方法が明確に確立していたわけではなく,内科医であっても,検査の手順としては,(2)と同様の手順で検査を行うことが一般的基準であり,本件では,胸部レントゲン撮影と心電図検査において異常が見られず,酸素の投与により症状が軽快していたのであるから,内科医であっても,Bに対し,さらに検査を施行し,同人の症状の原因を突き止めて治療を施し,救命することはできず,A医師の過失とBの死亡との間には因果関係がない。)(4) 原告らの損害はいくらか。 ( 原告らは,Bの損害については,Bは,死亡当時25歳で,失業中ではあったが,全年齢平均給与月額の31万7600円は得ることができたので,これに12を乗じた年収額381万1200円を基礎に,生活費の控除割合を50パーセントとし,稼働可能年数41年のライプニッツ係数17.294を乗じて逸失利益を算定すると,3295万5446円となり,慰謝料は,2000万円であり,原告らは,弁護士費用として,それぞれ150万円の損害を被ったと主張する。)第3 当裁判所の判断 1 まず,争点(1)について検討する。 (1) 甲第3号証,同第4号証,同第5号証の1ないし32,同第19号証,乙第1号証,同第2号証,同第4号証並びに証人Aの証言及び原告C本人尋問の結果によれば,次の事実が認められる。 Bは,平成7年8月16日,海水浴の最中に右足をひねって転倒し,近くの医院で診察を受け,骨折であると告げられ,シーネで固定されたが,自宅近くの病院での受診を勧められたことから,同日午後5時45分,W病院を訪れ,整形外科において,医師D(以下「D医師」という。)の診察を受けた。レントゲン撮影の結果,Bに右腓骨骨折が認められたため,D医師が,A医師の診察を求めたところ,A医師が,Bには足関節脱臼の症状もあると診断したため,D医師は (以下「D医師」という。)の診察を受けた。レントゲン撮影の結果,Bに右腓骨骨折が認められたため,D医師が,A医師の診察を求めたところ,A医師が,Bには足関節脱臼の症状もあると診断したため,D医師は,Bに対し,患部のクーリング,湿布,当て木固定を行い,翌日,外来を受診するよう指示した。 Bは,同月17日,同病院整形外科の外来を訪れ,A医師の診察を受けた。A医師は,Bのけい骨及び腓骨間に離開が認められたため,観血的整復固定術を施すことを考えたが,その前に牽引による整復を試みることにした。Bは,同日午前11時20分に同病院整形外科病棟へ入院して,足の踵に針金様の鋼線を刺して牽引する鋼線牽引を実施された。その荷重は,当初3キログラムであったが,次第に増量し,Bが身長171センチメートル,体重115キログラムの肥満体であるため,同日午後9時前には,10キログラムへ増量された。Bは,鋼線牽引されていたため,ベッド上から動くことができず,同日の夕食は原告Cが介助した。同日,Bは,看護婦に対して腰痛を頻繁に訴えていた。 同月18日も,鋼線牽引が続けられたが,Bは,ベッド上で足を動かすなどしており,循環障害等も見られなかった。 A医師が同月19日にBを診察したところ,けい骨と腓骨の間の離開はかなり修復されており,同月21日には,両足における程度の差がなくなっていたが,同医師は,あと2週間牽引を続けたいと考え,牽引の荷重を5キログラムとし,同日,原告CがBを見舞ったところ,Bは,元気な状態で,早く自分でトイレに行って動きたいと言っていた。 同月22日,BがA医師に対して牽引安静を我慢できない旨申し出たため,A医師は,Bの鋼線牽引を外して膝下をギプスで固定し,Bは,車椅子での移動が可能になった。原告Cが,同日,Bを見舞ったところ,Bは,元気であり BがA医師に対して牽引安静を我慢できない旨申し出たため,A医師は,Bの鋼線牽引を外して膝下をギプスで固定し,Bは,車椅子での移動が可能になった。原告Cが,同日,Bを見舞ったところ,Bは,元気であり,「まだ動いちゃいけないよね。」などと言っていた。 同月23日深夜,看護婦が病棟を見回ったところ,Bは浅い睡眠中であったが,同日午前3時ころ,Bから,眠れないので睡眠薬が欲しい旨の申し出があり,看護婦は,朝方なので睡眠剤は渡せないと回答した。 同日午前6時ころ,身障者用トイレから車椅子で出て来た際のBの状態は,顔面が蒼白気味で,口唇の色は悪く,多量に冷汗を流していて,Bが,居合わせた看護婦に,息が苦しくてできず,前胸部が締め付けられる感じがあると訴えたため,看護婦がBを病室へ運び,ベッドに座らせたが,Bは呼吸をすることができなかったため,看護婦は,過換気症候群を疑って,ビニール袋をBの口にかぶせて呼吸をさせたが,Bは苦しいと言ってこれを外した。Bの当時の血圧は,収縮期血圧が90mmHg(以下,単に数値のみを示し,単位は省略する。)で,拡張期血圧は触診できる程度にすぎず,心拍数は1分当たり142回(以下,単に数値のみを示し,単位は省略する。)で微弱であり,ショック状態であった。 同日午前6時20分,A医師は,12誘導で心電図検査を実施したが,心電図の波形に異常はなく,Bに深呼吸をするように促したが,Bはできないと答えた。Bの収縮期血圧は90で,拡張期血圧は触診できる程度であり,心拍数は119から120で,顔色はすぐれなかった。 Bの同日午前6時30分の状態は,収縮期血圧が90で,拡張期血圧は,前と同様であり,心拍数は113であったが,心電図モニターに変化はなく,冷汗は少し落ち着き,顔色も,前よりは少しずつ良くなってはいたものの,依然として 0分の状態は,収縮期血圧が90で,拡張期血圧は,前と同様であり,心拍数は113であったが,心電図モニターに変化はなく,冷汗は少し落ち着き,顔色も,前よりは少しずつ良くなってはいたものの,依然として良くない状態であり,Bは,看護婦に対して,口の渇きを訴え,看護婦は,Bに深呼吸を続けるよう指示した。心電図モニターに変化はなかった。 同日午前6時40分当時のBの収縮期血圧は82で,拡張期血圧は前と変わらず,血圧の上昇が見られなかったし,心拍数も110台で弱く,呼吸苦があったため,鼻腔からの2リットルの酸素の投与を受け始めた。 同日午前6時55分当時,Bは,収縮期血圧が92であり,顔色はやや良くなりつつあったが,左前胸部に圧迫感や締め付けられる感じがある,最初の時より状態は良くなったが,まだ変な感じがあり,吐き気もあると看護婦に訴えた。 同日午前7時30分当時,Bは,収縮期血圧が104,拡張期血圧が96であり,心拍数が120で,呼吸数が1分当たり28回(以下,単に数値を示し,単位は省略する。)であって,脈拍の触れも少しずつ強くなっていたものの,口が渇く,左前胸部に重苦感がある,締め付けられている,深呼吸をすると,ぐーっとくる感じがあるとの症状を訴えた。 同日午前8時当時,Bは,収縮期血圧が94,拡張期血圧が60で,心拍数が118,体温が35.8度,呼吸数が22であり,深呼吸すると左前胸部に圧迫感がある,口が渇く,少し前に1回嘔吐したと訴えたが,心電図のモニター上では異常波形は見られなかった。 同日午前10時当時,Bは,収縮期血圧が102,拡張期血圧が68,心拍数が110台で洞調律,体温が35.6度であり,顔色は良くなくて口唇色も悪かったが,吐き気や嘔吐はなく,前胸部が締め付けられる感じがあり,軽度の息苦しさもあると訴えて,浅い呼吸をして 圧が68,心拍数が110台で洞調律,体温が35.6度であり,顔色は良くなくて口唇色も悪かったが,吐き気や嘔吐はなく,前胸部が締め付けられる感じがあり,軽度の息苦しさもあると訴えて,浅い呼吸をしていた。 同日午後1時30分当時,Bは,収縮期血圧が106,拡張期血圧が64,心拍数が100から110台で洞調律であって,車椅子に乗ってレントゲン写真の撮影に行く際,気分の不快はないと言っていたが,冷汗は多量に出ていて,顔色も良くなかった。Bが,介助があればトイレでの排尿等は自力で可能だというので,看護婦は,モニターを外した。Bの自覚では,呼吸苦は消失する傾向にあり,左前胸部の圧迫感も軽減した。Bは,朝,昼の食事を摂取しなかったが,吐き気や嘔吐はなかった。 A医師は,酸素の吸入によりBの症状が同日午後になって落ち着いてきており,胸部レントゲン撮影でも正常範囲内であったが,再び呼吸器や循環器に関する症状が生じたら,内科に心エコーを依頼することを考えていた。 原告Cが同日午後2時30分ころにBを見舞った際,Bは鼻腔から酸素を投与されている状態であり,Bから,朝方トイレへ行って呼吸困難を起こし,もう自分は終わりかと思ったことや,欠伸をしようとしても欠伸をすることができないことなどを聞かされた。 同日午後4時ころのBの症状に,特に変化はなかった。 その後の回診の際のA医師の判断では,Bの胸部痛は落ち着き,呼吸苦も治まっているように見えた。原告Cが,A医師に対し,呼吸困難の原因を尋ねると,A医師は,「原因と言っても・・・。心電図,肺のレントゲンも異常はないので,内科に送ってもこのまま返されるし,本人も酸素で楽になったと言っているし。過換気かも。」などと言って,病室から立ち去った。 看護婦が,同日午後5時40分にBの病室を訪れたところ,Bは,面会 ので,内科に送ってもこのまま返されるし,本人も酸素で楽になったと言っているし。過換気かも。」などと言って,病室から立ち去った。 看護婦が,同日午後5時40分にBの病室を訪れたところ,Bは,面会人と座って会話をしていて,当時のBの体温は36.1度であり,自覚症状は,深呼吸はできないが,胸部の不快はないとのことであり,酸素の吸入装置も自ら外していた。 しかし,Bは,同日午後5時45分から同日午後6時05分までの間,見舞いに来た友人E及び同Fに対しては,「車椅子でトイレに行くだけで汗が止まらずすぐ疲れてしまう。」,「食欲もなく,ほとんど食事をとっていない。」,「血圧がなかなか上がらない。」,「明日,検査をする。」などと話しており,面会の間も顔色は悪く,終始汗を拭きながら会話をしている状態であった。Bは,友人との会話の途中で軽く胸を叩いたり,長く話していると苦しくなると言って,酸素投与装置を付けたり,外したりしていたので,原告Cが,同日午後6時30分,ナースステーションを訪れ,Bの顔色が悪いと訴え,看護婦がBの血圧,脈拍,呼吸数を測定したところ,収縮期血圧が90,拡張期血圧が60,脈拍は112,呼吸数は20であった。Bは,胸部に圧迫感がある,深呼吸ができない,呼吸苦が少しあると訴えたが,看護婦が見たところ,Bの顔色は悪くなく,チアノーゼもなく,爪床色も良好であり,看護婦との会話もスムーズであり,その間,呼吸困難も見られなかったし,酸素投与装置も装着中であったことから,安静臥床を促して,様子を見ることにした。 同日午後8時当時,Bは,収縮期血圧が118,拡張期血圧が70,脈拍は120であり,漫画を読んでいて,胸部に違和感があること,先ほどまで友人が来て話をしていたが,話をしていると苦しくなることを看護婦に訴えたが,これらの会話はスムーズに 18,拡張期血圧が70,脈拍は120であり,漫画を読んでいて,胸部に違和感があること,先ほどまで友人が来て話をしていたが,話をしていると苦しくなることを看護婦に訴えたが,これらの会話はスムーズに行われていて,患部痛は全くなく,ギプス障害も見られなかった。 Bは,同月24日深夜帯に,看護婦に対し,不眠を訴え睡眠剤の処方を希望したが,看護婦が普段の就寝時間を尋ねると,Bは午前3時か4時ころだと答えたため,看護婦は,Bに対し,様子を見るよう話した。当時,Bに呼吸苦はなく,Bは,酸素投与装置を外していた。同日の昼間帯のBの血圧は,収縮期血圧が112,拡張期血圧が60,脈拍が96であり,まだ,少し息苦しさがあるとBが訴えたため,看護婦は,2リットルの酸素投与を施行した。原告Cが,同日午後4時20分ころ,Bを見舞うと,Bは,咽せるような咳をしており,顔が紅潮するくらい咳が続いていた。同日準夜間帯のBの体温は36.1度で,Bは,看護婦に対し,咳,咽頭痛,痰のからみがあると訴え,「風邪かな。それで少し息苦しい感じあるけど,昨日の苦しさとは違う。」,「腰痛,肩こりがある。」,「でも入院前からあったから。」などと話していた。 同月25日午前1時と同午前3時に看護婦が病棟の巡視をした際,Bは眠っていた。同日午前3時40分,Bからナースコールがあり,排尿したので尿器の尿を捨ててほしいと頼まれたため,看護婦は,尿器から尿を捨て,尿器をBの部屋に戻した。そのとき,看護婦は,Bから時間を尋ねられ,3時43分であると答えると,Bから眠れないので睡眠剤を下さいと言われたが,今睡眠剤を飲むと,翌朝起きられなくなるので,様子を見るよう言って,ナースステーションに戻った。すると,突然病棟から大声で唸る声が聞こえたので,看護婦が声のする方へ行くと,Bの眼球は上転しており ,今睡眠剤を飲むと,翌朝起きられなくなるので,様子を見るよう言って,ナースステーションに戻った。すると,突然病棟から大声で唸る声が聞こえたので,看護婦が声のする方へ行くと,Bの眼球は上転しており,脈拍は触れない状況であったので,看護婦は,直ちに3リットルの酸素の投与を開始し,血圧測定をしたが,血圧の測定は不能な状態であった。 Bは,ウーウーと唸り声をあげて,両手を動かし,ベッドの上の方へ行こうとしていたので,看護婦は,直ちにBを個室へ移動させ,Bの名前を呼ぶなどしたが,Bの返答はなく,唸り声も聞かれなくなり,呼吸が停止したため,看護婦は,心臓マッサージを施行し,当直医に連絡した。Bの口唇はチアノーゼ状態であり,看護婦は,心電図モニターを開始し,自動血圧計を装着した。当直医が直ちに駆けつけ,気道挿管を施行し,ベンチレーターを開始し,ボスミンの心臓への注射を行ったが,同日午前4時15分に救急車で救急患者が到着したため,当直医は,一旦その場を離れ,看護婦が心臓マッサージを続けたが,同日午前4時38分,当直医により,Bの死亡が確認された。 A医師は,Bの死亡後,Bの家族に対し,死亡までの経過を説明し,死因を特定するため,病理解剖が必要と考えたので,一旦家族の同意を得て,千葉大学法医学教室へ連絡をとり,同日午後,車で向かう手はずとなったが,向かう間際に,家族から同意の撤回があったため,解剖は実施されなかった。 (2) ところで,甲第21号証ないし同第27号証によれば,口頭弁論終結時における肺塞栓症に関する認識として,肺塞栓症とは,肺の機能血管である肺動脈が塞栓子により閉塞する疾患であり,遠隔塞栓源でできた塞栓子が,静脈血流に乗って運ばれて肺動脈に流入し,肺動脈を閉塞することによって発症するものであること,塞栓子としては,多くは血栓性塞栓子であ 脈が塞栓子により閉塞する疾患であり,遠隔塞栓源でできた塞栓子が,静脈血流に乗って運ばれて肺動脈に流入し,肺動脈を閉塞することによって発症するものであること,塞栓子としては,多くは血栓性塞栓子であるが,まれに腫瘍塞栓,脂肪塞栓,空気塞栓のこともあること,塞栓子が血栓性塞栓子である場合,下肢・骨盤の深部静脈を血栓源としていることが多いこと,血栓性塞栓子による肺塞栓症の誘発因子としては,血液凝固能亢進(手術,外傷,妊娠,多血症,脱水等),血流停滞(長期臥床,うっ血性心不全,急性心筋梗塞,心房細動,妊娠,肥満,長時間の飛行機旅行等),静脈壁異常(静脈炎,外傷・手術による血管損傷,各種カテーテル検査等)が挙げられること,静脈血栓は小さいうちは,そのまま溶解してしまうこともあるが,血栓が大きくなっていたところに,例えば,術後患者がベッドから起きあがることによって,筋肉が活性化し,長期臥床によるうっ血のためにできた血栓が下肢から外れて肺に達して肺動脈を閉塞すると,ショック状態を引き起こし,数分以内に死亡することがあること(急性肺血栓塞栓症),急性肺血栓塞栓症の臨床症状としては,呼吸困難・息切れ,胸痛・胸膜痛,咳嗽,血痰,冷汗が見られ,臨床所見のうち呼吸器系の所見では,頻呼吸,肺野ラ音,チアノーゼが,循環器系の所見では,頻脈,血圧低下・ショック・冷汗等が見られること,胸部レントゲン写真上,肺炎,慢性閉塞性肺疾患,気胸,肺ガン,肋骨骨折,心疾患の疾患を示す所見がなくて異常が軽微な場合には,急性肺血栓塞栓症が疑われること,心電図所見上では,V1からV3にかけての陰性T波の出現,次いでV5の深いS波の出現,不整脈が見られることがあるが,すべての症例で心電図変化が現れるわけではないこと,血液ガス分析において,低CO2血症を伴う低O2血症が特徴的に見られ ての陰性T波の出現,次いでV5の深いS波の出現,不整脈が見られることがあるが,すべての症例で心電図変化が現れるわけではないこと,血液ガス分析において,低CO2血症を伴う低O2血症が特徴的に見られ,動脈血ガス分析によれば,過換気症候群との鑑別が可能であること,肺シンチグラムや肺動脈造影法を実施すれば,肺血栓塞栓症の発症をほぼ突き止めることができること,また,脂肪塞栓症は,脂肪を含む組織,とりわけ骨折のような重症な外傷から障害血管内へ放出された脂肪髄塞栓が,肺動脈を閉塞することをいい,受傷後1日目から3日目の間に発症すること,重症の症例では,致死的だが,呼吸不全,知的障害,血小板減少症,広範な点状出血等が見られ,胸部レントゲン写真では瀰漫性に不透明となり,典型的な急性呼吸促迫症候群になることが認められる。 (3) 前提となる事実及び以上認定の事実によれば,Bに対しては,死亡後解剖がされておらず,かつ,血液ガス分析,肺シンチグラム,肺動脈造影等,肺塞栓症の確定診断のための検査が実施されていないが,Bは,相当の肥満体であって,平成7年8月17日に入院してから同月22日まで右足を牽引された状態であり,同日,牽引が外されたが,その後も右膝下をギプスで固定された状態であったから,Bは,血栓性肺塞栓症の誘発因子である血流停滞を生じさせる状況にあったということができる。急性血栓性肺塞栓症発症の例として,長期臥床にあった患者がベッドから起き上がった際に,下肢にあった血栓が肺に達して肺動脈を閉塞して,ショック状態を引き起こすことが挙げられているところ,Bは,ギプス固定された翌日である同月23日午前6時ころに介助を受けずに自力でトイレへ行った際,突然呼吸困難等の症状が出現したのであるから,急性血栓性肺塞栓症の発症の契機として上記の例と合致する。さらに, ス固定された翌日である同月23日午前6時ころに介助を受けずに自力でトイレへ行った際,突然呼吸困難等の症状が出現したのであるから,急性血栓性肺塞栓症の発症の契機として上記の例と合致する。さらに,Bには,同日午前6時ころ,呼吸困難,顔面蒼白,口唇色不良,冷汗多量,低血圧,頻脈,脈微弱の症状が現れ,同日午前6時40分ころ酸素の投与が始められてから,次第に顔色が良くなり,呼吸困難も治まり,午後に友人が面会に来た際には会話をし,酸素投与装置も自ら付けたり外したりしていたものの,依然として深呼吸ができない,胸部に圧迫感がある,長く話していると苦しくなる,呼吸苦がある,血圧が上昇しない,頻脈が続くといった症状は残っており,翌24日にも息苦しさはあり,新たに咳や痰が出るとの症状が出現したのであるが,これらの症状のうち,呼吸困難,息切れ,冷汗,咳は,急性血栓性肺塞栓症の臨床症状に見られる症状であり,頻脈,血圧低下は,急性血栓性肺塞栓症の循環器系の臨床所見として見られる所見である。また,そのような症状があるにもかかわらず,胸部レントゲン写真上に,肺炎,慢性閉塞性肺疾患,気胸,肺ガン,肋骨骨折,心疾患の疾患を示す所見がなく,かつ,異常が軽微な場合には,急性肺血栓塞栓症が疑われるところ,Bに対して同月23日に施行した胸部レントゲン写真上は,肺炎,慢性閉塞性肺疾患,気胸,肺ガン,肋骨骨折,心疾患を示す所見がなく,正常の範囲内であったのであるから,胸部レントゲン写真からも,Bに急性肺血栓塞栓症が発症していることが疑われる状況であったということができる。急性血栓性肺塞栓症を発症している場合には,心電図の所見上に,特異な波形が見られることがあるのに対し,Bのそれに異常は認められないが,急性血栓性肺塞栓症のすべての症例で心電図変化が現れるわけではないから,Bの 栓症を発症している場合には,心電図の所見上に,特異な波形が見られることがあるのに対し,Bのそれに異常は認められないが,急性血栓性肺塞栓症のすべての症例で心電図変化が現れるわけではないから,Bの心電図所見は,急性血栓性肺塞栓症の発症を否定するものではない。そうすると,Bに対しては,肺塞栓症の確定診断を可能とする検査等は実施されていないものの,Bが保有していた誘発因子の存在,発症契機,出現した症状は,血栓性肺塞栓症のそれといずれも合致しており,しかも,血栓性肺塞栓症の発症を否定し,あるいは,それと矛盾する所見,検査結果も存在しないのであるから,Bは,平成7年8月23日午前6時以降,血栓性肺塞栓症を発症していた可能性が高いというべきである。 なお,原告らは,Bには,脂肪を塞栓子とする肺塞栓症が発症していたとも主張するが,脂肪を塞栓子とする肺塞栓症は,受傷後1日目から3日目までの間に発症するとされているところ,Bに呼吸困難が出現したのは,Bが骨折受傷した日の7日後であるから,脂肪を塞栓子とする肺塞栓症の発症時期とは異なるし,胸部レントゲン写真上も瀰漫的に不透明な状態にはなっていなかったから,Bに脂肪を塞栓子とする肺塞栓症が発症していたとは認められない。 2 次いで,争点(2)について検討する。 原告らは,Bには肺塞栓症を発症させる危険因子があり,かつ,肺塞栓症を疑うべき症状が現れていたのであるから,A医師は,Bに肺塞栓症が発症していることを疑って,適切な検査,治療を行い,あるいは,それができなければ,同じ病院内の内科医に相談し,転科させるべきであったのにこれを怠ったと主張し,一方,被告は,当時の医療水準によれば,整形外科医であるA医師がBに肺塞栓症が発症していることを疑って,それに対応した処置を施すことは困難であったと主張するので,平 あったのにこれを怠ったと主張し,一方,被告は,当時の医療水準によれば,整形外科医であるA医師がBに肺塞栓症が発症していることを疑って,それに対応した処置を施すことは困難であったと主張するので,平成7年当時の整形外科医の肺塞栓症に関する認識について検討する。 甲第14号証,同第48号証,同第52号証,乙第5号証及び証人Aの証言によれば,平成2年4月発行の「標準整形外科学(第4版)」には,骨折ないしその治療の合併症として,脂肪塞栓症に関する記載はあるが,血栓性肺塞栓症の記載はなく,脂肪塞栓症は,多発外傷,特に骨盤,下肢骨折を伴う症例に発症しやすく,受傷後12時間から48時間までの間に,多くは,発熱,頻脈の症状を伴って発症し,症例の約半数に前胸部等に点状出血の所見が見られ,胸部レントゲン写真の所見上,両肺野に特有の吹雪様の陰影が出ると記載されていること,平成4年5月発行の「医師国家試験出題基準平成五年版」には,選択科目の区別なく,医師の基本的知識として,肺循環障害のうち肺塞栓症の定義,病因,症状,検査,鑑別診断等に関する標準的な知識を要求する旨記載されていること,平成7年8月発行の「臨床研修マニュアル」には,肺塞栓は,原因不明の胸痛と呼吸困難が目立つ場合が疑わしく,採血データ所見,胸部レントゲン写真及び心電図の所見上,いずれも異常がないことが殆どであり,肺血流シンチグラム,造影CT,MRI,肺動脈造影,下肢静脈造影等を行って確定診断を行う旨記載されていること,A医師が,過去に在職した主だった病院の整形外科医長に対し,整形外科病棟における,重篤なあるいは死亡の転帰をとった肺梗塞例の発症数について確認を行ったところ,X総合病院では,過去約15年の間,人工股関節置換術を施行後の症例が1例(平成10年ころ),Y病院では,過去約12年の間,発症例 るいは死亡の転帰をとった肺梗塞例の発症数について確認を行ったところ,X総合病院では,過去約15年の間,人工股関節置換術を施行後の症例が1例(平成10年ころ),Y病院では,過去約12年の間,発症例がなく,Z協同病院でも,過去4年の間,発症例がないとのことであったことがそれぞれ認められる。 以上によれば,平成7年当時,「医師国家試験出題基準平成五年版」において,肺塞栓症について留意し,基本的な知識は身に付けておくよう指摘する記載はあるものの,その基本的知識の具体的な内容に関する証拠はなく,基本的知識として,どの程度のものが要求されているのか不明であり,また,「臨床研修マニュアル」においては肺塞栓症を疑うべき臨床症状が示されているが,塞栓子の違い,危険因子,発症経緯等,詳細な点については触れられていないので,「医師国家試験出題基準平成五年版」や「臨床研修マニュアル」から,医師一般が,肺塞栓症,とりわけ血栓性肺塞栓症について,原因,臨床症状,臨床所見,検査手順,鑑別法,治療法について,一般的な認識を有していたとまで認めることはできない。 整形外科専門の文献である前記「標準整形外科学(第4版)」では,肺塞栓症として脂肪塞栓症が掲げられているのみで,血栓性肺塞栓症の記載はなく,しかも,脂肪塞栓症が発症しやすい傷病として,多発外傷,骨盤骨折に次いで下肢骨折と記載されていることによれば,その下肢骨折とは,骨盤骨折と同程度に重篤な下肢の骨折を意味すると解されるところ,Bが負った骨折は軽微な右腓骨骨折であったこと,Bに頻脈等の症状が出現したのは受傷の7日後であったこと,胸部レントゲン写真上も両肺野に特有の吹雪様の陰影が認められなかったことによれば,Bの骨折の程度,発症時期,検査所見は,いずれも脂肪塞栓症のそれとは異なっており,整形外科病棟で肺梗塞を あったこと,胸部レントゲン写真上も両肺野に特有の吹雪様の陰影が認められなかったことによれば,Bの骨折の程度,発症時期,検査所見は,いずれも脂肪塞栓症のそれとは異なっており,整形外科病棟で肺梗塞を発症した例がほとんどないことをも考慮すると,整形外科医であるA医師が,平成7年8月23日午前6時以降のBの症状等から,Bが肺塞栓症を発症させていたとの疑いを抱かなかったのも無理からぬことであったといわざるを得ない。したがって,当時の医療水準に照らすと,A医師が,Bに肺塞栓症が発症していることを疑って,適切な検査や治療を実施しなかったとしても,それを同医師の過失と認めることはできない。 もっとも,医師は,患者に自らの専門外の症状が現れた場合,同患者に対して適切な診療を受けさせるべく,専門と考えられる医師から助言を得たり,あるいは,専門と考えられる科へ転科させる義務を負うところ,前記1(1)で認定した事実によれば,A医師は,原告Cから,Bの呼吸困難の原因を尋ねられた際,原因について,過換気症候群の可能性を指摘したのみで,明確な回答はしておらず,胸部レントゲン写真や心電図の所見に異常がなく,Bの症状が酸素の投与により落ち着いたことから,Bの経過観察をするのみで,Bの症状の原因を突き止めるための行動に出ていないこと,一方で,Bには,平成7年8月23日午後になって,呼吸困難等の症状は落ち着いてきたものの,深呼吸ができず,胸部の圧迫感や呼吸苦があり,血圧が上昇せず,頻脈が続くという症状が残り,翌24日にも息苦しさのため酸素投与装置を装着し,新たに咳や痰が出るといった症状が出現していたのであるから,Bの主治医であるA医師は,自らの専門知識では説明のつかない内科的な症状がBに現れ,かつ,その症状が残存していた以上,その原因を突き止め,適切な診療を受けさせ といった症状が出現していたのであるから,Bの主治医であるA医師は,自らの専門知識では説明のつかない内科的な症状がBに現れ,かつ,その症状が残存していた以上,その原因を突き止め,適切な診療を受けさせるために,内科医から助言を受けたり,内科に転科させる義務を負っていたというべきである。しかるに,A医師は,症状が軽減し,胸部レントゲン写真や心電図所見に異常がなかったとして,経過観察をしていたのみで,内科医からの助言を受けたり,内科に転科させるなどの行動には出ていないのであり,A医師には前記義務に違反した過失があるというべきである。 被告は,当時の医療水準に照らし,整形外科医であるA医師に,内科医に相談したり内科へ転科させる義務を課すことは困難である旨主張する。しかし,当時の医療水準を考慮しても,A医師は,Bに出現し,残存した症状が,内科的な原因,特に呼吸器系あるいは循環器系の疾患に起因する可能性があることを,Bの症状から十分認識することができたのであるから,自らの専門外の原因不明の症状について原因を究明するため,内科医から助言を得,あるいは内科に転科させるなどの措置を講じる義務を負っていたというべきである。したがって,被告の前記主張は,採用できない。 3 さらに,争点(3)について検討する。 原告らは,A医師が,同じ病院内の内科医に相談し,あるいは,内科へ転科させていれば,Bは死亡しなかったと主張し,一方,被告は,A医師が,内科医に相談し,転科させたとしても,当時の医療水準に照らし,内科医が,Bの症状の原因を究明し,適切な検査治療を施してBを救命することは困難であったから,A医師とBの死亡との間に因果関係はないと主張するので,平成7年当時の内科医の肺塞栓症についての認識について検討する。 (1) 甲第13号証,同第15号証,同第16号 命することは困難であったから,A医師とBの死亡との間に因果関係はないと主張するので,平成7年当時の内科医の肺塞栓症についての認識について検討する。 (1) 甲第13号証,同第15号証,同第16号証,同第35号証ないし第37号証,同第39号証,同第41号証ないし同第45号証,同第47号証,同第49号証,同第50号証,同第53号証,同第54号証,同第57号証及び乙第6号証によれば,次の事実が認められる。 血栓性肺塞栓症を発症しやすい状況として,昭和43年8月発行の「現代の家庭医学」では,長時間座業する人,慢性病で長く寝ている人,手術後,産褥等が,昭和56年6月発行の「循環器病学」では,血液のうっ滞(長期臥床,肥満,妊娠,うっ血性心不全),静脈壁の異常(外傷,術後,静脈炎),血液凝固能の異常が,昭和57年2月発行の「内科学書」では,心疾患,長期間の安静療養,老年者,悪性腫瘍,肥満,静脈瘤,骨盤内蔵器手術,出産が,昭和59年12月発行の「内科学」では,各種手術後,下肢の外傷,特に骨折,産褥,慢性の下肢深在静脈炎,うっ血性心不全,悪性腫瘍,長期臥床が,昭和62年1月に序文が書かれた「新臨床内科学」では,静脈炎や心疾患によるうっ血,癌・手術が主なものであるが,その他,妊娠・出産・産褥,骨折及び外傷,長期臥床,肥満が,昭和62年9月に序文が書かれた「循環器疾患マニュアル」では,ベッド上の安静,航空機,バス及び自動車の長時間乗車,下肢の整形外科手術や婦人科手術,下肢外傷が,昭和63年6月発行の「当直医マニュアル」では,臥位を強制された期間後の運動,外科手術が,平成元年10月に序文が書かれた「医学各論「内科・外科・小児科」Ⅱ呼吸器・胸壁・縦隔疾患」では,各種の手術後状態,妊娠特に産褥期,心不全状態,長期臥床状態,悪性腫瘍が,平成3年4月発行の「 手術が,平成元年10月に序文が書かれた「医学各論「内科・外科・小児科」Ⅱ呼吸器・胸壁・縦隔疾患」では,各種の手術後状態,妊娠特に産褥期,心不全状態,長期臥床状態,悪性腫瘍が,平成3年4月発行の「呼吸器疾患」では,肥満,高齢,静脈瘤,脱水,臥床,妊娠,外科手術,うっ血性心不全等が,平成3年5月発行の「内科レジデント実践マニュアル」では,心疾患,骨折,長期臥床,骨盤手術後が,平成4年2月に序文が書かれた「医師国試臨床実地問題,鑑別点と診断法・内科学Part1」では,手術後や心不全による臥床中が,平成4年5月発行の「今日の診断指針」では,肥満,高齢,静脈瘤,脱水,臥床,妊娠,外科手術等が,平成6年10月発行の「呼吸器疾患5全身性疾患と肺病変」では,肥満,高齢,静脈瘤,脱水,臥床,妊娠,外科手術等が,平成7年3月発行の「心疾患の手術適応と至適時期」では,外傷,手術後その他の疾患による長期臥床状態が,平成7年発行の「今日の治療指針」では,長期臥床,高齢,肥満,慢性心不全,真性多血症,血栓症の既往,外科手術後,妊娠,悪性腫瘍等がそれぞれ記載されている。 臨床症状としては,上記各文献において,ほぼ共通して,呼吸困難,胸痛,胸部圧迫感,不快感,頻脈,咳,体温上昇等が記載されている。 検査所見として,胸部レントゲン写真の所見については,「新臨床内科学」では,肺血管の閉塞による所属領域の透過性亢進,反対側の肺血管増強,肺高血圧による左右肺動脈の張出し,直径の増加があり,約半数に胸水が見られると記載され,「今日の診断指針」では,心胸隔比の上昇,心陰影の拡大,肺門部肺動脈の拡大が見られることがあると記載されているが,「現代の家庭医学」,「循環器疾患マニュアル」,「循環器病学」,「内科学」,「ハリソン内科書下巻」,「当直医マニュアル」,「医学各論「内科・ 門部肺動脈の拡大が見られることがあると記載されているが,「現代の家庭医学」,「循環器疾患マニュアル」,「循環器病学」,「内科学」,「ハリソン内科書下巻」,「当直医マニュアル」,「医学各論「内科・外科・小児科」Ⅱ呼吸器・胸壁・縦隔疾患」,「内科レジデント実践マニュアル」では,非特異的である,あるいは,非特異的な場合がある旨が記載されている。 心電図所見については,「内科学書」には,梗塞直後から,S1Q3型,T波の逆転等が見られると記載され,「新臨床内科学」には,洞性頻脈,右軸偏位,肺性P・右室負荷の所見が見られると記載され,「循環器疾患マニュアル」には,広範囲の場合は常に,亜広範の塞栓でも通常,心電図異常があり,広範な塞栓において,S1Q3T3型,R波減高,不完全右脚ブロック,右軸偏位の所見が見られると記載されているが,「循環器病学」では,心電図所見上変化があるのは10パーセントである,「内科学」では,頻脈があり,閉塞が高度になれば右軸偏位,肺性P,右室負荷が見られるが出現率は比較的低い,昭和63年11月発行の「肺血栓塞栓症ーわが国における診断と治療の現状」では,約50パーセントに,肺性P波,右軸偏位,右室肥大など右心負荷の所見が見られた,「医学各論「内科・外科・小児科」Ⅱ呼吸器・胸壁・縦隔疾患」では,頻脈に伴い右軸偏位,肺性P,右室負荷,心筋虚血所見が見られることがあるが,一過性である,「内科レジデント実践マニュアル」では,非特異的なことが多い,「今日の診断指針」では,不整脈はあるものの心電図変化は一般に軽微であり,慢性の場合,陰性T波の出現が起こりやすいとそれぞれ記載され,「ハリソン内科書下巻」では,特記する心電図所見はなく,広汎に発生した場合の右軸偏位,STーTの変化等はあっても一過性であると記載されている。 確定診断のた 出現が起こりやすいとそれぞれ記載され,「ハリソン内科書下巻」では,特記する心電図所見はなく,広汎に発生した場合の右軸偏位,STーTの変化等はあっても一過性であると記載されている。 確定診断のためには,上記各文献において,動脈血ガス分析,肺シンチグラム,肺スキャンニング,肺血管造影法等が有用である旨記載されている。 鑑別,検査手順としては,まず,病歴,自覚症状,胸部レントゲン,心電図検査を実施し,異常があれば,動脈血ガス分析を実施し,そして異常があれば,超音波心エコーを実施し,さらに異常があれば,肺血流スキャン,肺血管造影法,右心カテーテル法の実施という手順に従えば,比較的容易に急性広範性肺塞栓症を鑑別できるとするもの(平成4年2月発行の「今日の循環器疾患治療指針」,「呼吸器疾患5全身性疾患と肺病変」,「呼吸器疾患」),・労作時呼吸困難,胸痛,失神,発熱,・血液検査,・胸部レントゲン写真,・心電図異常,・動脈血ガス分析,・断層心エコー所見のうち,・と・を重視し,・から・のうち半数がそろえば,肺塞栓症が疑われるとするもの(「今日の循環器疾患治療指針」,「呼吸器疾患5全身性疾患と肺病変」,平成2年6月発行の「臨床雑誌内科」),胸部レントゲン,心電図検査の結果,肺塞栓症が疑われる場合は,ヘパリンを直ちに静脈注射し,血液ガス分析,肺血流スキャンを施行し,外科的治療の選択が考慮される場合には,心臓カテーテル,肺動脈造影を実施するとするもの(「循環器病学」),・呼吸困難,・動脈血ガス分析,・胸部レントゲン写真,・心電図,・心エコー,・肺換気及び肺血流シンチグラム,・心臓カテーテルの手順を踏み,・から・の検査で肺塞栓症の可能性を除外できない場合は,・及び・の検査まで施行すれば,診断は可能とするもの(「心疾患の手術適応と至適時期」),・病歴,自 シンチグラム,・心臓カテーテルの手順を踏み,・から・の検査で肺塞栓症の可能性を除外できない場合は,・及び・の検査まで施行すれば,診断は可能とするもの(「心疾患の手術適応と至適時期」),・病歴,自覚症状,胸部レントゲン写真,心電図,・動脈血ガス分析,・超音波心エコー,・肺血流スキャン,・肺血管造影法,右心カテーテル法を実施し,・ないし・で陽性所見がそろえば肺塞栓症が疑われ,・及び・がそろえば肺塞栓症の確定診断ができるとするもの(平成4年5月発行の「今日の診断指針」),血液ガス分析,胸部レントゲン写真,心電図をとるべきとするもの(「循環器疾患マニュアル」),病歴,身体所見,自覚症状,危険因子から肺塞栓症を疑い,次に,胸部レントゲン写真,心電図,心エコー,動脈血ガス分析,凝固線溶系検査を施行し,次いで肺血流シンチグラム,肺血管造影を施行するとするもの(「肺血栓塞栓症ーわが国における診断と治療の現状」),肺塞栓症が疑われるすべての症状に対して肺スキャンニングを実施するとするもの(「内科学」),動脈血ガス分析で特徴的な面も見られるが,肺スキャンニングや肺血管造影の検査を施行することが一般的に必要であるとするもの(「ハリソン内科書下巻」),できるだけ早期に肺動脈造影と肺血流シンチグラムを実施するとするもの(「医師国試臨床実地問題,鑑別点と診断法・内科学Part1」),直ちに血液ガス分析を行い,肺動脈造影や肺血流シンチグラムを実施するとするもの(「当直医マニュアル」)がある。 治療方法としては,上記各文献において,酸素の投与を施行した上で,血栓の溶解や再発防止のため,出血の危険に注意して抗凝固療法や血栓溶解療法を実施する旨記載されている。 (2) 以上に認定した事実によると,平成7年8月23日午前6時以降にBに生じた呼吸困難,胸部の圧迫感, 解や再発防止のため,出血の危険に注意して抗凝固療法や血栓溶解療法を実施する旨記載されている。 (2) 以上に認定した事実によると,平成7年8月23日午前6時以降にBに生じた呼吸困難,胸部の圧迫感,呼吸苦,頻脈等の症状は,平成7年当時の内科医の認識においても,肺塞栓症を疑わせる症状と一致していたことが認められ,危険因子についても,いくつかの文献で,長期臥床,外科手術,肥満等が共通して記載されているところ,Bについては,肥満の項目に該当し,血栓性肺塞栓症を発症しやすい状態として,乗り物への長時間の乗車や長時間の坐業など,比較的短期間同じ姿勢をとり続けることが危険因子であると指摘する文献もあり,Bは,7日間の入院期間中安静状態であったから,この要件にも一応は該当する。 しかしながら,長期臥床とは,慢性疾患患者や手術後の患者等,臥床期間が相当長期にわたっている場合を想定しているものと解され,Bの7日間の安静状態を直ちに長期臥床であるとはいい難い。また,Bには,骨折治療のための外科手術は実施されていなかったから,外科手術の項目にも該当しない。危険因子として,骨折を挙げている文献もあるが,骨折と共に列挙されている危険因子は,外科的外傷,産褥,骨盤手術等,いずれも多量の出血や血管の損傷を伴うものであり,そこに掲げられた骨折とは,それと同等の重篤な骨折を意味するものと解されるが,Bの骨折は,腓骨骨折といった軽微なものであり,肺塞栓症の危険因子となり得る程度の骨折であるとはいえないというべきである。さらに,Bの胸部レントゲン写真や心電図所見には特異な点が認められないが,前記文献の中には,特徴的な所見を示すと記載されているものもあり,当時の医療水準では,その判断基準は極めて不明確なものであったといわざるを得ない。加えて,検査手順や鑑別方法についても,平 られないが,前記文献の中には,特徴的な所見を示すと記載されているものもあり,当時の医療水準では,その判断基準は極めて不明確なものであったといわざるを得ない。加えて,検査手順や鑑別方法についても,平成7年当時であっても,肺スキャンニング,肺シンチグラム,肺血管造影を実施していれば,Bの疾患の確定診断が可能であったことは認められるものの,胸部レントゲンや心電図で異常がなかった場合,さらに,動脈血ガス分析や,肺シンチグラムや肺スキャンニングにまで進んで検査を実施すべきか否かについては,見解が様々に分かれている。 そうすると,発症例としては,全剖検例の中で約0.5パーセントが報告されているのみ(甲第54号証)の稀な疾患について,平成7年当時,高度の研究機関に属しない一般の総合病院の内科医が,胸部レントゲン写真や心電図所見上異常がなく,危険因子として明確に該当するものが肥満及び数日間の安静のみである場合において,肺塞栓症を疑って,さらに,動脈血ガス分析,肺スキャンニング,肺シンチグラム,肺血管造影等の検査を行い,肺塞栓症の発症を突き止めることを通常なし得たとまではいい難く,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,A医師が,同じ病院内の内科医から助言を得たり,内科に転科させなかったことに過失はあるものの,当時の医療水準に照らすと,その内科医が,Bに,他の検査を実施して,その症状の原因を突き止めることができたといえない以上,その内科医が,更に,Bに対し,適切な治療を施して救命することができた蓋然性は極めて低いので,A医師の過失とBの死亡との間に相当因果関係は認められず,原告らの主張は,理由がない。 4 結論よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,65条を適用して, 当因果関係は認められず,原告らの主張は,理由がない。 4 結論よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所松戸支部民事部裁判長裁判官小野聡子裁判官飯塚宏裁判官檜山麻子・
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